説明

リチウムイオンキャパシタ用正極材およびリチウムイオンキャパシタ

【課題】リチウムイオンキャパシタに適した正極材を提供すること。
【解決手段】正極活物質として活性炭を含むリチウムイオンキャパシタ用正極材であって、該活性炭は、リチウムイオンおよび/または当該対アニオンを可逆的に担持可能であり、窒素吸着等温線からαs−プロット法により算出される比表面積が2500m/g以上であり、かつ、アルカリ水溶液を含浸した有機質材料をマイクロ波加熱により炭化・賦活処理して得られた活性炭であることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ用正極材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオンキャパシタ用正極材およびそれを含むリチウムイオンキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電装置としてリチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタが知られている。一般に、リチウムイオン二次電池は、電気二重層キャパシタと比べ、エネルギー密度が高く、また長時間の駆動が可能である。一方、電気二重層キャパシタは、リチウムイオン二次電池と比べ、急速な充放電が可能であり、また繰り返し使用の寿命が長い。
【0003】
近年、このようなリチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタのそれぞれの利点を兼ね備えた蓄電装置として、リチウムイオンキャパシタが開発されている。リチウムイオンキャパシタは、正極として電気二重層キャパシタ用の活性炭電極を使用し、負極としてリチウムイオン二次電池用の非分極性電極を使用する。リチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン二次電池の高いエネルギー密度と電気二重層キャパシタの高い出力特性とを兼ね備えた蓄電装置として注目されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
特許文献1に記載されているリチウムイオンキャパシタは、正極活物質として、アルカリ賦活処理され、かつ、比表面積600m/g以上を有する活性炭粒子を使用する。特許文献2に記載されているリチウムイオンキャパシタは、正極活物質として、細孔半径1〜40Åの細孔容積が全細孔容積の80%以上であり、かつ、全細孔容積が0.4〜1.5cc/gを有する活性炭粒子を使用する。
【0005】
活性炭の製造方法として、マイクロ波吸収性物質を含有する原材料を装填するための外部加熱式反応炉であって、該反応炉内にマイクロ波を導入し、原材料の内部及び外部を同時に均一に加熱して、均一反応させる手段を具備することを特徴とするハイブリッド反応炉を利用する方法が知られている(特許文献3)。この方法によると、比表面積が3000m/g以上と高く、均一な品質の炭化物及び活性炭を、短時間で、かつ、エネルギー効率よく製造することができる。しかし、特許文献3には、このようにして得られた活性炭をリチウムイオンキャパシタ用の正極材に使用することを示唆する記載は一切ない。
【0006】
【特許文献1】特開2006−286921号公報
【特許文献2】特開2006−286923号公報
【特許文献3】特開2006−89344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、リチウムイオンキャパシタには、正極として電気二重層キャパシタ用の活性炭電極を使用する。活性炭電極は容量密度が50mAh/g程度である。一方、負極として用いられるリチウムイオン二次電池用の非分極性電極は、例えばグラファイト負極の場合、容量密度が約370mAh/gである。このように、従来のリチウムイオンキャパシタでは、正極と負極の容量密度に大きな差があるので、正負極の容量バランスを取るために正極の厚さを負極の厚さの約10倍にしなければならない。しかし、正極を厚くすると、内部抵抗が高くなり、蓄電装置の充放電効率が損なわれる。
【0008】
そこで本発明は、リチウムイオンキャパシタにおける正極と負極の静電特性の不均一さに起因する上記課題を解決すべく、容量密度が高く、かつ、内部抵抗が低い、そのような正極材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、
(1)正極活物質として活性炭を含むリチウムイオンキャパシタ用正極材であって、該活性炭は、リチウムイオンおよび/または当該対アニオンを可逆的に担持可能であり、窒素吸着等温線からαs−プロット法により算出される比表面積が2500m/g以上であり、かつ、アルカリ水溶液を含浸した有機質材料をマイクロ波加熱により炭化・賦活処理して得られた活性炭であることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ用正極材が提供される。
【0010】
さらに本発明によると、
(2)該活性炭の外部比表面積(窒素吸着等温線からαs−プロット法により算出される細孔直径2nm以下のミクロ孔を除いた比表面積)が300m/g以上である、(1)に記載のリチウムイオンキャパシタ用正極材が提供される。
【0011】
さらに本発明によると、
(3)該活性炭の窒素吸着等温線からBET法により算出される細孔容積が1.5cm/g以上である、(1)または(2)に記載のリチウムイオンキャパシタ用正極材が提供される。
【0012】
さらに本発明によると、
(4)該活性炭の細孔径分布(MP法による)における細孔径0.9nm〜2nmの範囲内に含まれる細孔容積の合計が2nm以下の全細孔径容積の50%以上を占める、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタ用正極材が提供される。
【0013】
さらに本発明によると、
(5)該有機質材料がポリエチレンテレフタレート(PET)を含む、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタ用正極材が提供される。
【0014】
さらに本発明によると、
(6)さらにバインダーとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含み、かつ、圧延成形された、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタ用正極材が提供される。
【0015】
さらに本発明によると、
(7)(1)〜(6)のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタ用正極材を含むリチウムイオンキャパシタが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、従来の活性炭と比べ容量密度が高く、かつ、内部抵抗が低いリチウムイオンキャパシタ用正極材が得られる。本発明による正極材は容量密度が高いため、リチウムイオンキャパシタにおいて比較的薄い正極を使用することができる。また本発明による正極材はそれ自体の内部抵抗が低いため、比較的薄い正極の使用と相まって、正極全体の内部抵抗を一段と低下させることができる。このため、本発明による正極材を含むリチウムイオンキャパシタは、充放電効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明によるリチウムイオンキャパシタ用正極材は、正極活物質として活性炭を含み、該活性炭は、リチウムイオンおよび/または当該対アニオンを可逆的に担持可能であり、窒素吸着等温線からαs−プロット法により算出される比表面積が2500m/g以上であり、かつ、アルカリ水溶液を含浸した有機質材料をマイクロ波加熱により炭化・賦活処理して得られた活性炭であることを特徴とする。
【0018】
以下、本発明による正極材である活性炭の製造について説明する。
本発明による正極材は、必要により有機質原料をアルカリ処理あるいは酸化処理などによる不融化処理を行い、耐アルカリ性材料の容器に所定の配合でKOHと混合した後、マイクロ波加熱装置に設置することにより製造することができる。マイクロ波加熱及び間接加熱を併用して、不活性ガス雰囲気の中で有機質原料の炭化・賦活を行い、得られた炭化物を酸洗い・水洗いで洗浄し、乾燥することで高比表面積活性炭が得られる。
【0019】
有機質原料とは、すべての天然・合成有機化合物を指している。一般に、リチウムイオンキャパシタの電極材料として用いるための活性炭は、高比表面積であるとともに、灰分量を0.5質量%以下に抑える必要がある。この点で、天然のバイオマス等では灰分除去の後処理が困難であるため、合成高分子の採用が望ましい。さらに、地球環境保全及び生産コスト低減の観点から、リサイクルされたポリエチレンテレフタレート(PET)またはPET繊維を使用することが望ましい。
【0020】
PETの融点は250〜265℃であるため、PETは炭化する前に融解が起きてしまう。したがって、PETを使用する場合、状態を保つため不融化処理を施してもよい。特にPET繊維の場合、繊維状の活性炭を製造するために不融化処理の工程が必要となる場合もある。不融化処理の一例として、その後の水酸化カリウム(KOH)による賦活処理を考慮し、PET繊維を所定濃度のKOH水溶液に浸漬する方法が挙げられる。例えば、原料であるPET繊維をKOH濃度30質量%以下のKOH水溶液に浸漬した後、PET繊維を十分に乾燥することができる。KOH濃度は5〜15質量%であることが好ましい。乾燥は、PETが加水分解を起こさないように120℃以下の温度で行うことが好ましい。なお、不融化処理は任意であり、これを実施する場合、上記方法に限定されるものではなく、薬剤を用いる表面酸化法なども可能である。
【0021】
上記の有機質原料としてのPETとKOHの配合モル比は、PET:KOH=1:2〜10であるが、後処理法及び製造コストを考慮すると、好ましくは1:3〜7である。
【0022】
KOHなどの強アルカリによる賦活処理の場合、容器の腐食を防ぐことが重要な課題である。高温、かつ、強アルカリ雰囲気に耐える材料を使用する必要があり、貴金属の使用が望ましいが、実用的ではなく、一般的にはニッケル容器が用いられている。しかし、金属容器はマイクロ波を反射し、内部に浸入できないため、マイクロ波加熱法に使用できない。本発明においては、耐アルカリ性とマイクロ波透過性を考慮して、ハイブリッド容器を使用すること、また、耐アルカリ性反応容器内にマイクロ波を直接導入することができる。
【0023】
通常のガス加熱法や電気炉による加熱法で活性炭を製造する場合、被加熱物質の外部から加熱されるため、外側が最も高温となり、外側から炭化・賦活されるため、内部の賦活が遅れ、内部の分解物質が外部に排出される前に高温の外壁部で炭化・沈積されるために、細孔がふさがれ、微細孔化し、外周辺部と内部では賦活度が異なるなど不均質化しやすい。一方、マイクロ波加熱法では内部から加熱され、外側から熱が拡散するため、内部温度が高く、内部から炭化・賦活される。このため分解物が外周辺部で炭化・沈積することがない。しかし、炭化するとマイクロ波吸収が大きくなるため、内部温度が著しく高温になることがある。このためにマイクロ波による直接加熱と通常の外部加熱法を組み合わせることにより、内部と外側を均一に加熱することが可能で、均質な活性炭が製造できる。
【0024】
以下、本発明による活性炭の製造に好適に用いられる製造装置について説明する。図1に、マイクロ波加熱とそれ以外の加熱を併用したハイブリッド反応炉を示す。このハイブリッド反応炉は二重の構造をとっており、外部は炉外壁、その間はLPGなどの燃料ガスの燃焼空間として使用する外部加熱炉と内部に炭化・賦活を行う内部反応炉からなる。外部加熱炉の燃料ガス導入部に反応炉内で原料の熱分解によって発生した分解ガスを導入して燃料として利用する。また、熱分解で発生したガスをマイクロガスタービンの燃料ガスとして用い、発電した電気をマイクロ波発生源として利用することも可能である。
【0025】
内部反応炉には耐アルカリ腐食性能をもつニッケル金属材を炉内壁5に使用し、なおかつ機械的強度を高く保つために、ニッケル材の外側6をステンレス材でサポートしている。外部7の炉材はステンレス材料を使用している。なお、炉材の内部に保温材を貼り付けることにより、熱効率をさらに向上させることが可能である。
【0026】
マイクロ波発生装置1からマイクロ波を導波管2により上部から内部反応炉内に導入される。被加熱物を均一加熱するため、または、マイクロ波を均一に照射させるため、内部反応炉底部に撹拌翼3が装備される。また、製品の品質及び生産効率を向上するため、製品を高温状態のままに排出しながら冷却する機能を有する。一方、外側の加熱炉は炉内導入ガスの切り替えにより、ガス置換炉として利用できるといったことを特徴としている。
【0027】
マイクロ波発生装置1は炉外に設置され、炉内の高温の影響を防ぐために、長い導波管2によってマイクロ波を内部反応炉内に導入する。導波管の出口に一部の雰囲気ガスの入口8を設置している。これにより導波管を冷却するとともに、発生ガスの進入を防止する。炉内にマイクロ波を均一に照射するとともに、原料をかき混ぜるために、炉の底部に撹拌翼3を設置する。
【0028】
上記の撹拌翼3は高強度、耐腐食性の高い材料が求められる。ステンレス材等が用いられるが、それに特定するものではない。撹拌翼3の形状の概略を図2に示す。本図の攪拌装置はモーターと3枚から5枚の翼で構成されており、本発明では翼の下部側に3ヶ所前後の溝17が切られており、被加熱物が固まらないように、また、より均一に混合できるように各翼の溝の位置を重ならない構造としている(図2)。回転軸4を冷却するために、軸の上下にガスの導入口18、19が設けられる(図3)。また、高温下に被加熱物が液体となった場合も、炉外に漏れないように下部のガス導入口が逆U字型の構造としている。
【0029】
また、内部反応炉内の被炭化物から発生した可燃ガスが排気管10によって、外部加熱炉の燃焼室に導入され、再燃焼をすることによって加熱効率を向上させる。なお、被炭化物から発生した可燃ガスをマイクロガスタービン発電機に導き、発電し、得られた電力をマイクロ波加熱源とすることもできる。
【0030】
マイクロ波を吸収しない出発原料を炭化する場合、初期炭化加熱ができるようにガスバーナー11を設置している。部分的に炭化が進行することにより、その炭化物がマイクロ波を効率よく吸収するので、マイクロ波による内部加熱ができるようになり、外部加熱と内部加熱の併用が可能となる。
【0031】
本発明の装置を炭化炉として利用する場合、有機質原料を原料装入口12から装入し、攪拌しながらガスバーナー11による外部から加熱する。部分的に炭化が始まると、マイクロ波照射を導入して、内部からの加熱と外部のガスバーナー加熱を併用して加熱炭化する。また、被炭化物から発生するガスを内部反応炉の排気口から外部加熱炉の燃焼室に導入し燃焼させて、所定の温度まで加熱して所定時間炭化・賦活し、自動排出口13から冷却槽14に炭化物を排出する。この冷却槽は、不活性ガス雰囲気としている。
【0032】
本発明の装置を高表面積活性炭製造の炭化・賦活炉として利用する場合、一般的にKOHを用いて賦活する。炭化物を原料として使用する場合、KOHの混合量は炭化物の量に対する2〜10倍であるが、後処理のこととコストを考慮すると、好ましくは、3〜7倍である。本発明の装置には攪拌機能を有するため、より均一に反応ができるので、KOHの混合量を4倍以下に減らすことが可能であり、更にマイクロ波加熱を利用しているため、KOHの混合量を3倍以下に減らすことが可能である。
【0033】
天然及び人工合成高分子ポリマーを原料とした活性炭の製造をする場合、炭化が必要となる。炭化過程は、炭化以後の賦活過程、収率及び特性に大きく影響する。また、ポリマー繊維を原料とした場合、繊維状態を保つために、原料の融点及び(実施する場合には)不融化処理の程度などを考慮しながら炭化条件を決める必要がある。一般に炭化温度250℃〜700℃、炭化時間4時間以内で炭化処理を行う。好ましくは、炭化温度350〜600℃、炭化時間2〜3時間の条件が望ましい。
【0034】
活性炭を炭化・賦活の連続処理で製造にする場合は、所定配合でKOHを最初から混合しておく。低温での炭化が不十分であると、高温での賦活にてKOH存在下で賦活に必要がない反応が起きてしまい、タール状物質が生成される。このため、後処理が繁雑になるとともに収率も低下する。したがって、炭化を十分に行うことが高品質の活性炭の製造において非常に重要となってくる。
【0035】
高表面積の活性炭を得るために、不活性ガス雰囲気においてアルカリ賦活過程を行う。本発明において、得られた活性炭の細孔径に応じて、賦活処理を1段階及び2段階によって行う。1段階賦活処理の場合、前記の炭化処理を終えて、素早く600℃〜900℃に昇温して、60分以内で保持する。一方、2段階賦活処理の場合は、まず450℃〜550℃、30分以内で処理し、次に600℃〜900℃、60分以内で保持することによって賦活処理を行う。本発明では、マイクロ波加熱を利用するため、昇温速度は電気炉などに比べて早く、エネルギーロスが少ない。また、炭化によって得られた炭化物自身が良い発熱体となり、入射したマイクロ波を吸収し直接試料を加熱するため、顕著な加熱効率に寄与し、省エネルギー効果をもたらす。マイクロ波の内部からの加熱という特徴から、外部・内部ともに加熱され、温度のムラが少ないため、均一な性質を有する活性炭を製造することができる。
【0036】
賦活で得られた生成物を冷却し、水・酸によって中性になるまで洗浄を行い、乾燥することで、活性炭を得ることができる。その後、必要に応じ、得られた活性炭に、その含酸素官能基量が1ミリモル/g以下になるように、10%〜50%水素/窒素雰囲気下、400℃〜900℃で10分〜90分の還元処理を施し、さらに平均粒径が10〜20μmとなるように適宜粉砕することができる。
【0037】
このようにして得られた高比表面積活性炭は、窒素吸着等温線からαs−プロット法により算出される比表面積が2500m/g以上である。この比表面積が2500m/g未満であると、静電容量密度が低くなるので好ましくない。この比表面積は3000m/g以上であることが好ましい。一方、この比表面積が4000m/g以上になると、活性炭の体積充填率が低下するので好ましくない。この比表面積は、通常、活性炭の比表面積、細孔分布を測定するのと同様に窒素吸着法で測定され、αs−プロット法により算出された値である。αs−プロット法による解析の詳細については、例えば、K.S.W. Singらの J. Chim. Phys., 81, 791 (1984)を参照されたい。
【0038】
さらに本発明による高比表面積活性炭は、外部比表面積(窒素吸着等温線からαs−プロット法により算出される細孔直径2nm以下のミクロ孔を除いた比表面積)が300m/g以上であることが好ましい。この外部比表面積が300m/g未満であると、「内部抵抗が高く」なるので好ましくない。この外部比表面積は350m/g以上であることがさらに好ましい。一方、この外部比表面積が800m/g以上になると、電極密度が低下することによる容量密度の低下が大きくなるので好ましくない。この外部比表面積は、通常、活性炭の比表面積、細孔分布を測定するのと同様に窒素吸着法で測定され、窒素吸着等温線からαs−プロット法により算出される細孔直径2nm以下のミクロ孔を除くことにより求められる。
【0039】
さらに本発明による高比表面積活性炭は、窒素吸着等温線からBET法により算出される細孔容積が1.5cm/g以上であることが好ましい。この細孔容積が1.5cm/g未満であると、静電容量密度が低くなるので好ましくない。細孔容積は1.8cm/g以上であることがさらに好ましい。一方、この細孔容積が2.5cm/g以上になると、電極の体積充填率が低下するので好ましくない。BET法による活性炭の細孔容積の算出は当該技術分野では一般的であり、当業者であれば十分に理解している。
【0040】
さらに本発明による高比表面積活性炭は、MP法による細孔径分布における細孔径0.9nm〜2nmの範囲内に含まれる細孔容積の合計が2nm以下の全細孔径容積の50%以上を占めることが好ましい。この細孔容積の合計が2nm以下の全細孔径容積の50%未満であると、静電容量密度が低くなるので好ましくない。この細孔容積の合計は2nm以下の全細孔径容積の75%以上を占めることがさらに好ましい。MP法による解析の詳細については、例えば、R.SH.Mikhailらの J. Colloid Interface Sci. 26, 45 (1968)を参照されたい。
【0041】
本発明による正極材は、上記の高比表面積活性炭をベースに、既知の方法で作製することができる。例えば、本発明による活性炭、バインダー、必要に応じて導電補助材及び増粘剤(例、カルボキシメチルセルロース)を、水系又は有機溶媒中に分散させてスラリーとし、該スラリーを必要に応じて使用されるアルミニウム箔等の集電体に塗布するか、又は上記スラリーを予めシート状に成形し、これを集電体に貼り付けてもよい。バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等を用いることができる。特に、バインダーとしてPTFEを用いると、耐熱性、耐電解液性の点で有利である。バインダーは、これに活性炭と導電補助材等のその他の構成材料とを合わせた正極材の合計質量に対して、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは3〜20質量%の量を添加すればよい。このバインダーの添加量が1質量%より少ないと活性炭を正極材に保持することが困難になる。反対に添加量が30質量%を超えるとリチウムイオンキャパシタのエネルギー密度が低くなり、また内部抵抗が高くなる。
【0042】
本発明による正極材は、一般に、活性炭に導電性を付与するための導電補助材を含有する。導電補助材としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、気相成長炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等のナノカーボン、粉状または粒状グラファイト等を用いることができる。本発明によると、導電補助材がカーボンブラックであり、かつ、これに活性炭とバインダー等のその他の構成材料とを合わせた正極材の合計質量に対して1〜40質量%の量で存在することが好ましい。
【0043】
本発明によるリチウムイオンキャパシタは、負極としてリチウムイオン二次電池用の一般的な非分極性電極を使用することができる。負極は、負極活物質として、リチウムイオンを可逆的に担持できる物質を含む。好ましい物質として、例えば、天然黒鉛、石油コークス、石炭ピッチコークス等から得られる易黒鉛化材料を2500℃以上の高温で熱処理したもの、メソフェーズカーボンもしくは非晶質炭素、炭素繊維、リチウムと合金化する金属、または炭素粒子表面に金属を担持した材料等を用いることができる。炭素粒子表面に担持される金属の例としては、リチウム、アルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム、マグネシウムより選ばれた金属またはこれらの合金もしくは酸化物が挙げられる。
【0044】
負極活物質の有する粒度特性は、50%体積累積径(D50ともいう)が0.5〜30μmである負極活物質粒子から形成され、好ましくは0.5〜15μmであり、特には0.5〜6μmが好適である。また、負極活物質粒子は、比表面積が好ましくは0.1〜2000m/gであるのが好適であり、好ましくは0.1〜1000m/gであり、特には0.1〜600m/gが好適である。
【0045】
負極は、上記の負極活物質粉末から形成されるが、その手段は、上記正極の場合と同様に、既存のものが使用できる。即ち、負極活物質粉末、バインダー、必要に応じて、導電補助材及び増粘剤(例、カルボキシメチルセルロース)を、水系又は有機溶媒中に分散させてスラリーとし、該スラリーを銅製メッシュ等からなる集電体に塗布するか、又は上記スラリーを予めシート状に成形し、これを集電体に貼り付けてもよい。ここで使用されるバインダーとしては、例えば、SBR等のゴム系バインダーやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、アクリル重合体などを用いることができる。バインダーの使用量は、負極活物質の電気伝導度、電極形状等により異なるが、負極活物質に対して2〜40重量%の割合で加えることが適当である。
【0046】
本発明のリチウムイオンキャパシタにおける、非プロトン性有機溶媒電解質溶液を形成する非プロトン性有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン、スルホラン等が挙げられる。さらに、これら非プロトン性有機溶媒の二種以上を混合した混合液を用いることもできる。
【0047】
また、上記の単一あるいは混合の溶媒に溶解させる電解質は、リチウムイオンを生成しうる電解質であれば、あらゆるものを用いることができる。このような電解質としては、例えば、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LiN(CSO、LiN(CFSO等が挙げられる。上記の電解質及び溶媒は、充分に脱水された状態で混合され、電解質溶液とするのであるが、電解液中の電解質の濃度は、電解液による内部抵抗を小さくするため少なくとも0.1モル/l以上とすることが好ましく、0.5〜1.5モル/lの範囲内とすることがさらに好ましい。
【0048】
また、本発明によるリチウムイオンキャパシタとしては、特に、帯状の正極と負極とをセパレータを介して捲回させる捲回型セル、板状の正極と負極とをセパレータを介して各3層以上積層された積層型セル、あるいは、板状の正極と負極とをセパレータを介した各3層以上積層物を外装フィルム内に封入したフィルム型セルなどの大容量のセルに適する。これらのセルの構造は、国際公開WO00/07255号公報、国際公開WO03/003395号公報、特開2004−266091号公報などにより既に知られており、本発明のキャパシタセルもかかる既存のセルと同様な構成とすることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0050】
実施例1
(活性炭の作製)
フレーク状リサイクルポリエチレンテレフタレート(PET)3kgを、図1に示したようなハイブリッド反応炉に装入し、次いで固体KOH9kgを同反応炉内に混入して炉内空気を窒素ガスで置換した。内容物を30rpmで撹拌しながら昇温速度20℃/分で500℃まで昇温し、その温度で1時間保持した。次いで昇温速度20℃/分で800℃まで昇温し、その温度で40分間保持することにより賦活を行った。その後、内容物を冷却槽に移して室温付近にまで冷却した。次いで内容物を冷却槽から取り出して、水と希塩酸を用いて十分に洗浄することで、活性炭以外の成分を除去した。得られた活性炭を乾燥機にて120℃で乾燥させた後、10%水素/窒素の雰囲気下、500℃で1時間の還元処理を施した。還元された活性炭を、平均粒径が10〜15μmとなるように粉砕した。得られた活性炭粉末のαs‐プロット法による比表面積は3300m/gであった。
【0051】
(分極性多孔質シート正極材の作製)
上記活性炭粉末:85質量部、ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製「EC600JD」):7質量部、PTFE粉末:8質量部からなる混合物に、エタノール:100質量部を加えて混練し、ロール圧延を施して、幅:100mm、厚み:0.15mm、空孔率:65%の分極性多孔質シート正極材を得た。
【0052】
(電極の作製)
幅:150mm、厚み:30μmのプレーンアルミニウム箔(日本製箔社製「A1N30H-H18」)を集電体とし、集電体の両面に導電性接着剤(日本黒鉛工業製「T−602」)を塗布ロールを用いて塗布した。塗布量は、片面当たり10g/m(乾燥後の量で2g/m)とした。塗布後、集電体の導電性接着剤塗布面(両面)に、分極性多孔質シート正極材を重ね、圧縮ロールを通して(クリアランス:70%)積層シートとした。この積層シートを、温度:150℃に設定した連続熱風乾燥機内を3分かけて通過させ、導電性接着剤から分散媒を除去して、正極シートを得た。
【0053】
(評価セルの作製)
上記正極シートから、電極接着部分が3cm角の方形状、集電体部が1cm×2cmになるよう電極を打ち抜き正極とした。負極には、正極と同サイズの金属リチウム箔を銅製メッシュに圧延したものを用いた。その後、これら正負極をセパレータを介して積層した。なお、セパレータには、延伸多孔質PTFE膜を親水化処理したセパレータ(ジャパンゴアテックス社製「BSP0102560−2」、厚み:25μm、空孔率:60%)を用いた。これら電極群を、200℃で72時間乾燥した後、評価用セルに収納した後、六フッ化リン酸リチウムの炭酸プロピレン溶液(濃度:1.2モル/L)を電解液としてセル内に注入し、セルを密封することにより評価セルを得た。
上記の評価セルを用いて、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0054】
<静電容量密度>
上記評価セルについて、5mA/cm、4.0Vの条件で300秒充電し、5mA/cmの条件で2.0Vになるまで放電を行う操作を1サイクルとし、これを5サイクル連続して行った際の、5サイクル目の放電開始から2.0Vになるまでの放電曲線を積分して、該5サイクル目の充電時における静電容量を求め、これを電極質量で除して静電容量密度を算出した。
<直流内部抵抗>
上記静電容量密度測定時に、式:V=I×Rを用いて算出することにより求めた。
【0055】
実施例2〜4
実施例1と同様の製法でKOHの配合量等の製造条件を変更して物性値が表1に示すように調整した活性炭を用いた以外は、実施例1と同様にして電極および評価セルを作製し、評価を行った。
【0056】
比較例1
活性炭にMSP−20(関西熱化学社製)を用いた以外は実施例1と同様にして電極および評価セルを作製し、評価を行った。
比較例2
活性炭にYP17(クラレケミカル社製)を用いた以外は実施例1と同様にして電極および評価セルを作製し、評価を行った。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表1および表2の結果から明らかなように、αs−プロット法により算出される比表面積が2500m/g以上である実施例1〜4は、同比表面積が2450m/gおよび1790m/gである比較例1、2と比べて、静電容量密度が有意に高く、内部抵抗は(実施例2を除き)有意に低く、しかも充放電効率も向上した。さらに、より好ましい態様として外部比表面積(窒素吸着等温線からαs−プロット法により算出される細孔直径2nm以下のミクロ孔を除いた比表面積)が300m/g以上である実施例1、3および4は、同外部比表面積が260m/gである実施例2よりも、静電容量密度が一層向上し、かつ、内部抵抗が一層低下した。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明による活性炭の製造に好適に用いられるマイクロ波併用型ハイブリッド反応炉の略構成図である。
【図2】図1の撹拌翼の略拡大平面図である。
【図3】図1の反応炉の略拡大断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 マイクロ波発信装置
2 マイクロ波導波管
3 撹拌翼
4 回転軸
5 ニッケル金属内壁
6 ステンレス金属
7 炉外壁
8 導波管部ガス導入口
9 炉内ガス導入口
10 ガス排気口
11 ガスバーナー
12 原料装入口
13 自動排出口
14 冷却槽
15 不活性ガス発生装置
16 活性ガス発生装置
17 翼上の溝
18 回転軸上雰囲気ガスの上部導入口
19 回転軸上雰囲気ガスの下部導入口
20 炉内への水蒸気導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質として活性炭を含むリチウムイオンキャパシタ用正極材であって、該活性炭は、リチウムイオンおよび/または当該対アニオンを可逆的に担持可能であり、窒素吸着等温線からαs−プロット法により算出される比表面積が2500m/g以上であり、かつ、アルカリ水溶液を含浸した有機質材料をマイクロ波加熱により炭化・賦活処理して得られた活性炭であることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ用正極材。
【請求項2】
該活性炭の外部比表面積(窒素吸着等温線からαs−プロット法により算出される細孔直径2nm以下のミクロ孔を除いた比表面積)が300m/g以上である、請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタ用正極材。
【請求項3】
該活性炭の窒素吸着等温線からBET法により算出される細孔容積が1.5cm/g以上である、請求項1または2に記載のリチウムイオンキャパシタ用正極材。
【請求項4】
該活性炭の細孔径分布(MP法による)における細孔径0.9nm〜2nmの範囲内に含まれる細孔容積の合計が2nm以下の全細孔径容積の50%以上を占める、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタ用正極材。
【請求項5】
該有機質材料がポリエチレンテレフタレート(PET)を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタ用正極材。
【請求項6】
さらにバインダーとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含み、かつ、圧延成形された、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタ用正極材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタ用正極材を含むリチウムイオンキャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−224391(P2009−224391A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64515(P2008−64515)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度 独立行政法人科学技術振興機構、独創的シーズ展開事業「マイクロ波を利用した高品位活性炭の工業的連続製造技術」にかかる委託開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【出願人】(503196592)株式会社カナック (4)
【Fターム(参考)】