説明

リチウムイオンキャパシタ用電極材料およびリチウムイオンキャパシタ

【課題】高い静電容量を有し、サイクル特性に優れたリチウムイオンキャパシタを得ることができる電極材料およびそれを用いたリチウムイオンキャパシタの提供。
【解決手段】リチウムイオンキャパシタ用電極材料であって、
窒素原子を有する導電性高分子と多孔質炭素材料との複合体を活物質として含有し、
前記導電性高分子が、前記多孔質炭素材料の表面に結合しており、
BJH法で測定した0.5〜100.0nmの直径を有する全細孔の全細孔容積が、0.3〜3.0cm3/gであり、
BJH法で測定した2.0nm以上20.0nm未満の直径を有する細孔の細孔容積の比率が、前記全細孔容積に対して10%以上であるリチウムイオンキャパシタ用電極材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子/多孔質炭素材料複合体を用いたリチウムイオンキャパシタ用電極材料およびそれを用いたリチウムイオンキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電装置としてリチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタが知られている。
一般に、リチウムイオン二次電池は、電気二重層キャパシタと比べ、エネルギー密度が高く、また長時間の駆動が可能である。
一方、電気二重層キャパシタは、リチウムイオン二次電池と比べ、急速な充放電が可能であり、また繰り返し使用の寿命が長い。
【0003】
近年、このようなリチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタのそれぞれの利点を兼ね備えた蓄電装置として、リチウムイオンキャパシタが開発されている。
リチウムイオンキャパシタは、正極として電気二重層キャパシタ用の活性炭電極を使用し、負極としてリチウムイオン二次電池用の非分極性電極を使用するもので、リチウムイオン二次電池の高いエネルギー密度と電気二重層キャパシタの高い出力特性とを兼ね備えた蓄電装置として注目されている。
【0004】
例えば、本出願人により、特許文献1では、「(i)正極、(ii)リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出できる活物質を含む負極及び(iii)リチウム塩支持電解質を含む非プロトン性有機溶媒から構成される電解液を含んでなる電気二重層キャパシタにおいて、前記正極が非極性有機溶媒中にドープされた状態で分散した導電性ポリアニリン又はその誘導体を多孔性炭素材料と複合化させてなる導電性ポリアニリン/多孔性炭素複合体を活物質として用いた電極活物質、集電体並びに、必要に応じて、導電補助剤及び結着剤を含んでなる電気二重層キャパシタ。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−300639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、特許文献1に記載のキャパシタの正極活物質について検討した結果、ポリアニリンの分子量、複合体を調製するポリアニリン分散液の濃度、脱ドープの有無、脱ドープの手法およびこれらの組み合わせ等によっては、ポリアニリン/炭素複合体の比表面積が小さくなったり、細孔分布が変化したりすることがあり、その結果、静電容量やサイクル特性にばらつきが生じることを明らかとした。
【0007】
そこで、本発明は、高い静電容量を有し、サイクル特性に優れたリチウムイオンキャパシタを得ることができる電極材料およびそれを用いたリチウムイオンキャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、所定の導電性高分子が表面に結合し、かつ、所定の直径を有する細孔の細孔容積が特定の比率となる多孔質炭素材料を電極材料として用いることにより、高い静電容量を有し、サイクル特性に優れたリチウムイオンキャパシタが得られることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記(1)〜(5)を提供する。
【0009】
(1)リチウムイオンキャパシタ用電極材料であって、
窒素原子を有する導電性高分子と多孔質炭素材料との複合体を活物質として含有し、
上記導電性高分子が、上記多孔質炭素材料の表面に結合しており、
BJH法で測定した0.5〜100.0nmの直径を有する全細孔の全細孔容積が、0.3〜3.0cm3/gであり、
BJH法で測定した2.0nm以上20.0nm未満の直径を有する細孔の細孔容積の比率が、上記全細孔容積に対して10%以上であるリチウムイオンキャパシタ用電極材料。
【0010】
(2)BJH法で測定した0.5nm以上2.0nm未満の直径を有する細孔の細孔容積の比率が、上記全細孔容積に対して70%未満である上記(1)に記載のリチウムイオンキャパシタ用電極材料。
【0011】
(3)上記導電性高分子が、ポリアニリン、ポリピロールおよびこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である上記(1)または(2)に記載のリチウムイオンキャパシタ用電極材料。
【0012】
(4)上記多孔質炭素材料が、活性炭である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のリチウムイオンキャパシタ用電極材料。
【0013】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のリチウムイオンキャパシタ用電極材料を用いた正極を有するリチウムイオンキャパシタ。
【発明の効果】
【0014】
以下に説明するように、本発明によれば、高い静電容量を有し、サイクル特性に優れたリチウムイオンキャパシタを得ることができる電極材料およびそれを用いたリチウムイオンキャパシタを提供することができる。
また、通常、リチウムイオンキャパシタは、負極材料の静電容量が正極材料の静電容量に比べて非常に大きいため、正極材料の静電容量を向上させることができる本発明のリチウムイオンキャパシタ用電極材料は、デバイス全体の容量を増加させ、また正極材料の質量を少なくすることもできるため、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔リチウムイオンキャパシタ用電極材料〕
本発明のリチウムイオンキャパシタ用電極材料(以下、「本発明の電極材料」ともいう。)は、窒素原子を有する導電性高分子と多孔質炭素材料との複合体を活物質として含有し、上記導電性高分子が上記多孔質炭素材料の表面に結合しており、BJH法で測定した0.5〜100.0nmの直径を有する全細孔の全細孔容積が、0.3〜3.0cm3/gであり、BJH法で測定した2.0nm以上20.0nm未満の直径を有する細孔(以下、「所定直径細孔」ともいう。)の細孔容積の比率(以下、「細孔容積比率」ともいう。)が、上記全細孔容積に対して10%以上であるリチウムイオンキャパシタ用の電極材料である。
【0016】
ここで、「導電性高分子が多孔質炭素材料の表面に結合している」とは、導電性高分子が有する窒素原子(アミノ基またはイミノ基)と、多孔質炭素材料の表面が有する水酸基やカルボキシ基等の酸性官能基とが反応(酸塩基反応)し、化学結合が形成されている状態をいう。
また、「BJH法」とは、Barrett-Joyner-Halendaの標準モデルに従って円筒状の細孔径に対する細孔容積の分布を決定する方法である(J.Amer.Chem.Soc.,1951年,73巻,p.373−377)。
また、「全細孔」とは、0.5〜100.0nmの直径を有する全ての細孔をいい、「全細孔容積」とは、全細孔の細孔容積の合計値をいう。
【0017】
本発明においては、上記導電性高分子が上記多孔質炭素材料の表面に結合し、かつ、全細孔容積および所定直径細孔の細孔容積比率が上述した範囲を満たす複合体を活物質として用いることにより、高い静電容量を有し、サイクル特性に優れたリチウムイオンキャパシタを得ることができる電極材料となる。
これは、所定直径細孔が、溶媒和したイオンが立体的に阻害されることなく拡散可能なサイズであり、また、細孔に吸着できる部位としても有用であり、更に、多孔質炭素材料の表面に存在するフリーの酸性官能基を起点とした劣化を抑制することができたためと考えられる。
【0018】
また、本発明においては、所定直径細孔の細孔容積比率は、リチウムイオンキャパシタの静電容量がより高くなる理由から全細孔容積に対して15%以上であるのが好ましく、単位体積あたりの静電容量を維持する観点から全細孔容積に対して30%以下であるのが好ましい。
【0019】
更に、本発明においては、リチウムイオンキャパシタの静電容量がより高くなる理由から、BJH法で測定した0.5nm以上2.0nm未満の直径を有する細孔の細孔容積の比率が全細孔容積に対して70%未満であるのが好ましく、60%未満であるのがより好ましい。
【0020】
次に、上記複合体の製造に用いられる導電性高分子および多孔質炭素材料ならびにこれらを用いた上記複合体の製造方法等について詳述する。
【0021】
<導電性高分子>
上記複合体の製造に用いられる導電性高分子は、ドーパントを導入することで導電性を発現する窒素原子を有する高分子であれば特に限定されず、ドーパントによりドープされた高分子であってもよく、それを脱ドープした高分子であってもよく、例えば、電導度が10-9Scm-1以上のP型導電性高分子が挙げられる。
上記導電性高分子としては、具体的には、例えば、ポリアニリン、ポリピロールおよびこれらの誘導体等の含窒素導電性高分子が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ここで、ポリアニリンの誘導体としては、例えば、アニリンの4位以外の位置に、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基を置換基として少なくとも一つ有するアニリン誘導体(モノマー)を高分子量化したものが挙げられる。
また、ポリアニリンおよびその誘導体は、原料が安価であり、合成が容易であるという理由から好ましい。
【0022】
本発明においては、ポリアニリンまたはその誘導体(以下、これらをまとめて「ポリアニリン等」という。)は、対応するモノマー(アニリンまたはその誘導体(以下、これらをまとめて「アニリン等」という。))を非極性溶媒中で化学重合させることにより、ポリアニリン等の分散液として製造することができる。
また、ポリアニリン等の分散液は、例えば、ドーパントを加えた非極性溶媒中でアニリン等を酸化重合させることによって調製することができるが、得られる複合体における所定直径細孔の細孔容積比率を上述した範囲とする観点から、上記分散液におけるドープ状態のポリアニリン等の濃度と重量平均分子量の調整が重要である。
ここで、上記分散液中のドープ状態のポリアニリン等の濃度は、0.1〜3質量%であるのが好ましく、0.1〜1.0質量%であるのがより好ましく、0.1〜0.5質量%であるのが更に好ましい。濃度がこの範囲であると、後述する多孔質炭素材料の細孔を塞ぐことなく、ポリアニリン等の高い静電容量の効果を得ることができる。
また、上記分散液中のドープ状態のポリアニリン等の重量平均分子量の調整は、分子量調整剤(末端封止剤)の量によって調整することができ、具体的には、ポリアニリン等を重合する際に、分子量調整剤(末端封止剤)の量をアニリン等に対して0.1〜1当量加えることが好ましい。分子量調整剤の添加量がこの範囲であると、後述する多孔質炭素材料の細孔を塞ぐことなく、ポリアニリン等の高い静電容量の効果を得ることができる。
【0023】
同様に、ポリピロールまたはその誘導体(以下、これらをまとめて「ポリピロール等」という。)は、対応するモノマー(ピロールまたはその誘導体(以下、これらをまとめて「ピロール等」という。))を非極性溶媒中で化学重合させることにより、ポリアニリン等の分散液として製造することができる。
また、ポリピロール等の分散液は、例えば、ドーパントを加えた非極性溶媒中でピロール等を酸化重合させることによって調製することができるが、得られる複合体における所定直径細孔の細孔容積比率を上述した範囲とする観点から、上記分散液におけるドープ状態のポリピロール等の濃度と重量平均分子量の調整が重要である。
なお、分散液中のポリピロール等の濃度や重合する際の分子量調整剤の使用量は、ポリアニリン等の重合と同程度である。
【0024】
本発明においては、上記導電性高分子の使用量は、後述する多孔質炭素材料100質量部に対して1〜300質量部であるのが好ましい。
【0025】
また、本発明においては、上述したドーパントや、化学重合(酸化重合)のための酸化剤、分子量調整剤、相間移動触媒等については、いずれも特許文献1に記載されたものを用いることができる。
【0026】
<多孔質炭素材料>
上記複合体の製造に用いられる多孔質炭素材料は、その比表面積は特に限定されないが、上記複合体の全細孔容積を0.3〜3.0cm3/gとする観点から、比表面積が1500〜3000m2/gの炭素材料であるのが好ましい。
【0027】
上記多孔質炭素材料としては、具体的には、例えば、活性炭、ホウ素含有多孔質炭素材料、窒素含有多孔質炭素材料等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、入手が容易である理由から活性炭であるのが好ましい。
活性炭は、特に限定されず、公知の炭素電極等で用いられる活性炭粒子を使用することができ、その具体例としては、ヤシ殻、木粉、石油ピッチ、フェノール樹脂等を水蒸気、各種薬品、アルカリ等を用いて賦活した活性炭粒子が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
<複合体の製造方法>
上述した導電性高分子および多孔質炭素材料を用いた複合体の製造方法としては以下の方法が例示できる。
具体的には、導電性高分子および多孔質炭素材料を混合させた後、脱ドープによりドーパントを取り除くことで、導電性高分子と多孔質炭素材料とを複合化させることができる。
ここで、導電性高分子および多孔質炭素材料の混合方法は特に限定されず、具体的には、例えば、導電性高分子の分散液と多孔質炭素材料の全量とを混合させる方法;導電性高分子の分散液を多孔質炭素材料の一部と混合して予め複合体を調製した後、この複合体と残りの多孔質炭素材料とを混合させる方法;等が挙げられる。
【0029】
また、脱ドープする方法は、ドープされている導電性高分子を脱ドーピングし、ドーパントを中和できる塩基処理を施す方法や、ドーパントに対して導電性高分子が壊れない温度で熱処理を施す方法が好ましい。
これらのうち、熱処理による脱ドープが、化学薬品や有機溶媒を使用せず、また、塩化反応を必要としないため短時間で処理が終了し、更に、反応後の塩の洗浄過程が不要で残留塩がないという理由から好ましい。また、これらの理由から、工業的にも優れている。
【0030】
上記塩基処理としては、具体的には、例えば、導電性高分子および多孔質炭素材料を混合させた分散液(混合分散液)や複合体に塩基性物質を作用させる方法;上記混合分散液または上記複合体と上記塩基性物質を溶解させた水および/または有機溶媒とを混合する方法;上記混合分散液または複合体と上記塩基性物質の気体を接触させる方法;等が挙げられる。
また、上記塩基性物質としては、具体的には、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどの金属水酸化物;メチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミンなどのアミン;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムなどの水酸化アルキルアンモニウム;ヒドラジン、フェニルヒドラジンなどのヒドラジン化合物;ジエチルヒドロキシルアミン、ジベンジルヒドロキシルアミンなどのヒドロキシルアミン化合物;等が挙げられる。
また、上記有機溶媒としては、上記塩基性物質が溶解するものであれば特に限定されず、その具体例としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;クロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチルなどエステル類;メタノール、エタノールなどのアルコール類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルなどの炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどのラクトン類;アセトニトリル、プロピオノニトリルなどのニトリル類;N−メチル−2−ピロリドン;等が挙げられる。
【0031】
一方、熱処理としては、導電性高分子の特性を損なうことなくドーパントだけを分解し、除去する温度を適宜選択して行うが、例えば、熱重量分析で測定した導電性高分子の分解温度よりも20℃以上低い温度で熱処理を施すのが好ましく、具体的には、250℃以上400℃未満の温度で熱処理を施すのがより好ましい。
【0032】
上記複合体は、上記導電性高分子におけるドーパントを上記塩基処理で脱ドープすることにより形成されるのが好ましいが、上記導電性高分子中のドーパントが完全に脱ドープされていないものを用いてもよい。
塩基処理後の導電性高分子中に含有するドーパント量は、導電性高分子のモノマーユニットあたりモル比で0〜0.3であるのが好ましく、0〜0.1であるのがより好ましい。
【0033】
上述した導電性高分子および多孔質炭素材料の混合には、従来の混合機を用いて調製可能であるが、サンドミル、ビーズミル、ボールミル、遊星型ボールミル、3本ロールミル、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ヘンシェルミキサー、ジェットミル、プラネタリーミキサー等の混合分散機を用いてもよい。
【0034】
本発明の電極材料は、上記複合体を活物質として含有するものであるが、後述するように、必要に応じて結着剤や導電助剤を含有していてもよい。
【0035】
〔リチウムイオンキャパシタ〕
本発明のリチウムイオンキャパシタは、上述した本発明の電極材料を用いて形成した正極(分極性電極)を有するリチウムイオンキャパシタである。
上記分極性電極としては、例えば、上述した複合体(活物質)と集電体(例えば、白金、銅、ニッケル、アルミニウム等)とで構成することができる。
また、上記分極性電極は、上述した導電性高分子を含有しているため、結着剤や導電助剤は必ずしも必要ではないが、必要に応じて使用してもよい。なお、結着剤や導電助剤を使用する場合、上述した導電性高分子および多孔質炭素材料とともに結着剤や導電助剤を用いて本発明の電極材料としてもよい。
【0036】
上記結着剤としては、具体的には、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フルオロオレフィン共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリメチルメタクリレート等が挙げられる。
上記導電助剤としては、具体的には、例えば、カーボンブラック(特に、アセチレンブラックやケッチェンブラック)、天然黒鉛、熱膨張黒鉛、炭素繊維、ナノ炭素材料、酸化ルテニウム、金属ファイバー(例えば、アルミニウムやニッケルなど)等が挙げられる。
【0037】
また、本発明のリチウムイオンキャパシタは、正極に上述した本発明の電極材料(複合体)を用いる以外は、従来公知の構成を採用することができ、例えば、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出できる黒鉛などの活物質を含む負極およびリチウム塩支持電解質を含む非プロトン性有機溶媒から構成される電解液を具備することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
<ポリアニリントルエン分散液1の調製>
トルエン200gにアニリン1.2g、ドデシルベンスルホン酸2.6gおよび分子量調整剤(末端封止剤)として2,4,6−トリメチルアニリン0.26g(アニリンに対して0.15当量)を溶解させた後、6N塩酸2.2mLを溶解した蒸留水100gを加えた。
この混合溶液にテトラブチルアンモニウムブロマイド0.36gを添加し、5℃以下に冷却した後、過硫酸アンモニウム3.52gを溶解させた蒸留水80gを加えた。
5℃以下の状態で6時間酸化重合を行なった後、トルエン100g、ついでメタノール水混合溶媒(水/メタノール=2/3(質量比))を加え撹拌を行なった。
撹拌終了後、トルエン層を水層に分離した反応溶液のうち、水層のみを除去することによりポリアニリントルエン分散液1を得た。
ポリアニリントルエン分散液1を一部採取し、トルエンを真空留去したところ分散液中に固形分1.2質量%(ポリアニリン含有量0.4質量%)が含まれていた。また、この分散液を孔径1.0μmのフィルターでろ過したところ目詰まりすることはなかった。
分散液中のポリアニリン粒子の粒子径を超音波粒度分布測定器(APS−100、Matec Applied Sciences社製)で解析した結果、粒度分布は単分散(ピーク値:0.19μm、半値幅:0.10μm)であることが分かった。さらに、この分散液は室温1年間経過した後も凝集、沈殿することはなく安定であった。元素分析からドデシルベンゼンスルホン酸のアニリンモノマーユニット当りのモル比は0.45であった。得られたポリアニリンの収率は95%であった。
【0040】
<ポリアニリントルエン分散液2の調製>
特許文献1と同様の方法により、ポリアニリントルエン分散液2を調製した。
具体的には、まず、トルエン150gにアニリン3g、ドデシルベンゼンスルホン酸6.3gおよび分子量調整剤(末端封止剤)として2,4,6−トリメチルアニリン0.15gを溶解させた後、6N塩酸5.36mlを溶解した蒸留水75gを加えた。
この混合溶媒にテトラブチルアンモニウムブロマイド0.9gを添加し、5℃以下の状態で6時間酸化重合を行った後、トルエン100g、ついでメタノール/水混合溶媒(メタノール:水=2:3(重量比))を加え攪拌を行った。
攪拌終了後、トルエン層と水層に分離した反応溶液のうち、水層のみを除去することによりポリアニリントルエン分散液2を得た。
ポリアニリントルエン分散液2を一部採取し、トルエンを真空蒸留したところ分散液中に固形分3.1重量%(ポリアニリン含有量1.2重量%)が含まれていた。また、この分散液を孔径1.0μmのフィルターでろ過したところ目詰まりすることはなかった。更に、この分散液を室温で1年間経過した後も凝集、沈澱することはなく安定なままであった。元素分析からドデシルベンゼンスルホン酸のアニオンモノマーユニット当りモル比は0.45であった。得られたポリアニリンの収率は96%であった。
【0041】
<ポリピロールの分散液の調整>
トルエン150gにピロール3g、ドデシルベンゼンスルホン酸12.0gおよび分子量調整剤(末端封止剤)として2−メチルピロール0.15gを溶解させた後、6N塩酸5.36mLを溶解した蒸留水75gを加えた。
この混合溶媒にテトラブチルアンモニウムブロマイド0.9gを添加し、0℃以下の状態で6時間酸化重合を行った後、トルエン100g、ついでメタノール/水混合溶媒(メタノール:水=2:3(質量比))を加え撹拌を行った。
撹拌終了後、トルエン層と水層に分離した反応溶液のうち、水層のみを除去することによりポリピロールトルエン分散液を得た。
ポリピロールトルエン分散液を一部採取し、トルエンを真空蒸留したところ分散液中に固形分4.1質量%(ピロール含有量1.2質量%)が含まれていた。また、この分散液を孔径1.0μmのフィルターでろ過したところ目詰まりすることはなかった。更に、この分散液を室温で1年間経過した後も凝集、沈澱することはなく安定なままであった。元素分析からドデシルベンゼンスルホン酸のアニオンモノマーユニット当りモル比は0.95であった。得られたポリピロールの収率は94%であった。
【0042】
(複合体1の作製)
ポリアニリントルエン分散液1(ポリアニリン含有量:0.4質量%)250gに、活性炭1(NK260、比表面積:2000m2/g、酸性官能基量:0.1mmol、クラレケミカル社製)8gを添加することにより混合分散液を得た。
この混合分散液に2モル/リットルのトリエチルアミンメタノール溶液5mLを添加した後、5時間撹拌混合行なった。
撹拌終了後、沈殿物を濾別回収し、メタノールで洗浄した。この時の濾液および洗浄液は、無色透明であった。
洗浄精製された沈殿物を真空乾燥することによりポリアニリン/活性炭複合体(以下、「複合体1」という。)を調製した。
得られた複合体1について、高速比表面積/細孔分布測定装置(型番:アサップ2020、島津マイクロメリティック社製)を用いて、BJH法による全細孔容積、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積および直径0.5nm以上2.0nm未満の細孔の細孔容積を測定し、これらの測定結果から各細孔容積の細孔容積比率を算出した。これらの結果を下記第1表に示す。
【0043】
(複合体2の作製)
ポリアニリントルエン分散液1(ポリアニリン含有量:0.4質量%)750gに、活性炭1(NK260、比表面積:2000m2/g、酸性官能基量:0.1mmol、クラレケミカル社製)8gを添加することにより混合分散液を得た。
この混合分散液に2モル/リットルのトリエチルアミンメタノール溶液5mLを添加した後、5時間撹拌混合行なった。
撹拌終了後、沈殿物を濾別回収し、メタノールで洗浄した。この時の濾液および洗浄液は、無色透明であった。
洗浄精製された沈殿物を真空乾燥することによりポリピリジン/活性炭複合体(以下、「複合体2」という。)を調製した。
得られた複合体2について、複合体1と同様の方法により、全細孔容積、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積および直径0.5nm以上2.0nm未満の細孔の細孔容積を測定し、これらの測定結果から各細孔容積の細孔容積比率を算出した。これらの結果を下記第1表に示す。
【0044】
(複合体3の作製)
複合体2と同様、ポリアニリントルエン分散液1(ポリアニリン含有量:0.4質量%)750gに、活性炭1(NK260、比表面積:2000m2/g、酸性官能基量:0.1mmol、クラレケミカル社製)8gを添加することにより混合分散液を得た。
次いで、この混合分散液を1時間撹拌した後、沈殿物を濾別回収した。
回収した沈殿物を窒素雰囲気下、350℃で3時間放置し、ドーパントを分解除去することにより、ポリアニリン/活性炭複合体(以下、「複合体3」という。)を調製した。
得られた複合体3について、複合体1と同様の方法により、全細孔容積、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積および直径0.5nm以上2.0nm未満の細孔の細孔容積を測定し、これらの測定結果から各細孔容積の細孔容積比率を算出した。これらの結果を下記第1表に示す。
【0045】
(複合体4の作製)
ポリアニリントルエン分散液1の替りにポリアニリントルエン分散液2(ポリアニリン含有量:1.2質量%)250g用いた以外は、複合体3と同様の方法で、ポリアニリン/活性炭複合体(以下、「複合体4」という。)を調製した。
得られた複合体4について、複合体1と同様の方法により、全細孔容積、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積および直径0.5nm以上2.0nm未満の細孔の細孔容積を測定し、これらの測定結果から各細孔容積の細孔容積比率を算出した。これらの結果を下記第1表に示す。
【0046】
(複合体5の作製)
複合体1と同様、ポリピロールトルエン分散液(ポリピロール含有量:1.2質量%)250gに、活性炭1(NK260、比表面積:2000m2/g、酸性官能基量:0.1mmol、クラレケミカル社製)8gを添加することにより混合分散液を得た。
次いで、この混合分散液を1時間撹拌した後、沈殿物を濾別回収した。
回収した沈殿物を窒素雰囲気下、350℃で3時間放置し、ドーパントを分解除去することにより、ポリピロール/活性炭複合体(以下、「複合体5」という。)を調製した。
得られた複合体5について、複合体1と同様の方法により、全細孔容積、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積および直径0.5nm以上2.0nm未満の細孔の細孔容積を測定し、これらの測定結果から各細孔容積の細孔容積比率を算出した。これらの結果を下記第1表に示す。
【0047】
(活性炭1)
活性炭1(NK260、比表面積:2000m2/g、酸性官能基量:0.1mmol、クラレケミカル社製)について、複合体1と同様の方法により、全細孔容積、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積および直径0.5nm以上2.0nm未満の細孔の細孔容積を測定し、これらの測定結果から各細孔容積の細孔容積比率を算出した。これらの結果を下記第1表に示す。
【0048】
(複合体6の作製)
2モル/リットルのトリエチルアミンメタノール溶液5mLを添加した処理(塩基処理による脱ドープ)を施さなかった以外は、実施例1(複合体1)と同じ方法で、ポリアニリン/活性炭複合体(以下、「複合体6」という。)を調製した。
得られた複合体6について、複合体1と同様の方法により、全細孔容積、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積および直径0.5nm以上2.0nm未満の細孔の細孔容積を測定したところ、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積は値が小さ過ぎたため測定不能であったため、下記第1表においては、全細孔容積等についても「−」と表記している。
【0049】
(複合体7の作製)
市販品ポリアニリン粉末(アルドリッチ社製)0.04gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)9.96gに溶解させることによりポリアニリンNMP溶液(ポリアニリン重含有量0.4質量%)を調製した。
ポリアニリンNMP溶液250gに、活性炭1(NK260、比表面積:2000m2/g、酸性官能基量:0.1mmol、クラレケミカル社製)8gを添加することにより混合分散液を得た。
混合分散液からNMPを加熱、真空留去することにより、ポリアニリン/活性炭複合体(以下、「複合体7」という。)を調製した。
得られた複合体7について、複合体1と同様の方法により、全細孔容積、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積および直径0.5nm以上2.0nm未満の細孔の細孔容積を測定したところ、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積は値が小さ過ぎたため測定不能であったため、下記第1表においては、全細孔容積等についても「−」と表記している。
【0050】
(複合体8の作製)
複合体4と同様、ポリアニリントルエン分散液2(ポリアニリン含有量:1.2質量%)250gに、活性炭1(NK260、比表面積:2000m2/g、酸性官能基量:0.1mmol、クラレケミカル社製)6gを添加することにより混合分散液を得た。
次いで、この混合分散液を1時間撹拌した後、沈殿物を濾別回収した。
回収した沈殿物を窒素雰囲気下、120℃で10時間放置し、ドーパントの分解除去を行わずに、ポリアニリン/活性炭複合体(以下、「複合体8」という。)を調製した。
得られた複合体8について、複合体1と同様の方法により、全細孔容積、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積および直径0.5nm以上2.0nm未満の細孔の細孔容積を測定したところ、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積は値が小さ過ぎたため測定不能であったため、下記第1表においては、全細孔容積等についても「−」と表記している。
【0051】
【表1】

【0052】
<実施例1〜5、比較例1〜4>
(正極材料)
上記複合体1〜8、上記活性炭1、導電助剤(アセチレンブラック)および結着剤(カルボキシメチルセルロース)を下記第2表に示す組成比で、混合分散させた後、水を徐々に加えながら更に混合してペースト状の正極用スラリーを調製した。
次に、厚さ38μm(気孔率47%)のアルミニウム製エキスパンドメタルの両面に、非水系のカーボン系導電塗料をロールコーターにてコーティングし、乾燥させることにより、導電層が形成された正極用集電体を作製した。
その後、上記正極用集電体に、上記正極用スラリーを塗布し、150℃で24時間真空乾燥させることにより、正極材料を作製した。
【0053】
(負極材料)
黒鉛(平均粒子径:30μm、比表面積:5m2/g)100質量部と、濃度2質量%のポリフッ化ビニリデン(平均数分子量:534,000、シグマ・アルドリッチ社製)NMP溶液10質量部と、ケッチェンブラック(平均粒子径:40μm、比表面積:800m2/g)10質量部とを混合させた後、これを5時間撹拌し、次いで150℃で加熱することで、負極用スラリーを調製した。
次に、厚さ30μm(気孔率55%)の銅製エキスパンドメタルからなる負極集電体の両面に、上記負極用スラリーを塗布し、負極電極層を設けた。
その後、真空乾燥を施すことにより、全体の厚さが80μmの負極材料を作製した。
【0054】
(リチウムイオンキャパシタの作製)
作製した各電極材料からカットした負極および正極を、セパレータを介して積層し、150℃で12時間真空乾燥した。
その後、外側に1枚ずつセパレータを配置して4辺を密封し、リチウムイオンキャパシタ素子を作製した。
次いで、負極活物質質量に対してドープ量が350mAh/gのイオン供給になるような金属リチウムを、厚さ70μmの銅ラスに圧着し、負極と対向するように上記リチウムイオンキャパシタ素子の最外部に1枚配置した。
このように金属リチウムを配置したリチウムイオンキャパシタ素子を外装ラミネートフィルムへ挿入させた後、プロピレンカーボネートにLiPF6を1.2M溶解した電解液を真空条件下で含浸させた。
その後、外装ラミネートフィルムを熱融着し、真空条件下で封止し、リチウムイオンキャパシタセルを組立てた。
【0055】
(静電容量)
作製したリチウムイオンキャパシタセルを、20Cの定電流でセル電圧が3.8Vになるまで充電した後、3.8Vの定電圧を1時間印加して、定電流−定電圧充電を行った。
次いで、20Cの定電流でセル電圧が2.2Vになるまで放電した。
その後、セル電圧3.8V、60℃の条件下にて、1000時間の連続充電試験を行った。1000時間経過した後に電圧印加を止め、25℃で10時間放置した後、3.8V−2.2Vの充放電サイクルを行って静電容量(正極静電容量)を算出し、1回目の放電における正極材料あたりの静電容量を初期静電容量(正極の単位重量当たりの静電容量)とし、初期静電容量に対する静電容量維持率を求めた。試験機は、充放電試験機(HJ1001SM8A、北斗電工社製)を用いて行った。
ここで、正極静電容量とは、正極の放電カーブの傾きを示し、単位はFであり、正極の単位重量当たりの静電容量とは、正極静電容量をセル内に充填している正極活物質重量にて割った値であり、単位はF/gである。
この結果を下記第2表に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
上記第1表および第2表に示す結果から、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積比率が10%未満である複合体6〜8を用いると、複合化されていない活性炭を用いた比較例1よりも、かえって静電容量が低くなったり、静電容量が向上してもサイクル特性(静電容量維持率)が劣ったりすることが分かった(比較例2〜4)。
これに対し、全細孔容積が0.3〜3.0cm3/gの範囲であり、かつ、直径2.0nm以上20.0nm未満の細孔の細孔容積比率が10%以上である複合体1〜5を用いると、比較例1よりも、静電容量が高くなり、サイクル特性にも優れることが分かった(実施例1〜5)。
これらの結果から、上述したように、直径が2〜20nmの所定直径細孔が、溶媒和したイオンが拡散および吸着できる部位として有用であることが推測できる。
また、実施例2と実施例3との対比から、同じ分散液を用いても、熱処理による脱ドープが極めて有効であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンキャパシタ用電極材料であって、
窒素原子を有する導電性高分子と多孔質炭素材料との複合体を活物質として含有し、
前記導電性高分子が、前記多孔質炭素材料の表面に結合しており、
BJH法で測定した0.5〜100.0nmの直径を有する全細孔の全細孔容積が、0.3〜3.0cm3/gであり、
BJH法で測定した2.0nm以上20.0nm未満の直径を有する細孔の細孔容積の比率が、前記全細孔容積に対して10%以上であるリチウムイオンキャパシタ用電極材料。
【請求項2】
BJH法で測定した0.5nm以上2.0nm未満の直径を有する細孔の細孔容積の比率が、前記全細孔容積に対して70%未満である請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタ用電極材料。
【請求項3】
前記導電性高分子が、ポリアニリン、ポリピロールおよびこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載のリチウムイオンキャパシタ用電極材料。
【請求項4】
前記多孔質炭素材料が、活性炭である請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオンキャパシタ用電極材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオンキャパシタ用電極材料を用いた正極を有するリチウムイオンキャパシタ。

【公開番号】特開2012−138458(P2012−138458A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289422(P2010−289422)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】