説明

リチウムイオン二次電池用の正極活物質およびその製造方法

【課題】放電容量およびサイクル特性に優れ、電池内でのガスの発生を抑制できるリチウムイオン二次電池用の正極活物質、正極、リチウムイオン二次電池、正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】Li元素と、Ni、Co、およびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物と、式MOで表わされる金属酸化物(ただし、Mは前記遷移金属元素に対応する遷移金属元素である。)とを含み、X線回折図における、2θ=42〜43.8°の最大ピーク高さ(H1)と2θ=44〜46°の最大ピーク高さ(H2)との比(H1/H2)が0.03〜0.5であり、2θ=14〜16°の最大ピーク高さ(H3)と2θ=18〜20°の最大ピーク高さ(H4)との比(H3/H4)が0〜0.1であるリチウムイオン二次電池用の正極活物質とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用の正極活物質およびその製造方法に関する。また本発明は、該正極活物質を用いた正極および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の携帯型電子機器に広く用いられている。リチウムイオン二次電池用の正極活物質には、LiCoO、LiNiO、LiNi0.8Co0.2、LiMnO等のリチウムと遷移金属等との複合酸化物が用いられている。
【0003】
近年、携帯型電子機器や車載用のリチウムイオン二次電池として小型化・軽量化が求められ、単位質量あたりの放電容量、サイクル特性、電池としての安定性等の更なる性能向上が望まれている。
【0004】
該性能向上を目的としてNi、Co、およびMn等の遷移金属元素に対するLi元素の比率を高くした複合酸化物(以下、「Li−rich系正極材料」という場合がある。)が提案されている。
Li−rich系正極材料の例として、LiMO(MはNi、Co、およびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素。)とLiMnOとの固溶体が提案されている。該固溶体を正極活物質とするリチウムイオン二次電池を、高容量で用いるには、初回充電時に4.5V以上の高電圧で充電する必要がある。
【0005】
初回充電時の正極活物質においては、下式(1)に示す反応が進んでいると考えられる。すなわち、LiMnOからLiOが脱離し、さらにLiOが負極上でLiを析出され、正極上でO(酸素ガス)を発生させる。負極上で析出したLiは、放電によっても正極側へ戻ることができず不可逆容量の要因となり、酸素ガスの発生は、電池を破裂させる原因となりうる。
LiMnO→MnO+Li
→LiMnO+Li(不可逆容量)+0.5O (1)
【0006】
非特許文献1には、0.5LiMnO−0.5LiNi0.4Co0.2Mn0.4を含む正極材料の充電時におけるガス発生を抑制するために、VOxで表面処理する技術が記載されている。
特許文献1の図1には、250℃、350℃のNHで処理されたLiCo1/3Mn1/3Ni1/3等の正極活物質が記載されている。該NHで処理した正極活物質のX線回折のピークに変化は認められない。
【0007】
特許文献2には、LiMnOからなる原料リチウム複合金属酸化物をCaH等の水素化物の存在化において、300℃または310℃で熱処理する正極活物質の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7314682号明細書
【特許文献2】特開2010−198989号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Chemical Communications, 2010, 46, 4090−4092
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
VOxを用いた表面処理では、VOxのLi化によりLiVが生成する。しかしLiV平均放電電圧は3V以下と低電圧であるため、平均放電電圧が低下する。
初回充電時に発生する酸素ガスを低減させる方法としては、アンモニアを含む雰囲気においてLi−rich系正極材料を加熱処理することが考えられる。しかし、NHの処理では、NHのLi−rich系正極材料に対する還元力が低い。
CaH等の水素化物における処理も、還元力が低く、X線回折図において2θ=42〜44でのピークは観測されない。
【0011】
本発明は、放電容量およびサイクル特性に優れ、これを正極として用いた電池内でのガスの発生を抑制できるリチウムイオン二次電池用の正極活物質、正極、リチウムイオン二次電池、およびリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の発明に関する。
[1]Li元素と、Ni、Co、およびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物と、式MOで表わされる金属酸化物(ただし、Mは前記遷移金属元素に対応する遷移金属元素である。)とを含み、X線回折図における、2θ=42〜43.8°の最大ピーク高さ(H1)と2θ=44〜46°の最大ピーク高さ(H2)との比(H1/H2)が0.03〜0.5であり、2θ=14〜16°の最大ピーク高さ(H3)と2θ=18〜20°の最大ピーク高さ(H4)との比(H3/H4)が0〜0.1であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用の正極活物質。
【0013】
[2][1]に記載のリチウムイオン二次電池用の正極活物質と導電材とバインダーとを含むリチウムイオン二次電池用の正極。
[3]正極と負極と非水電解質とを含み、前記正極が、[2]に記載の正極であるリチウムイオン二次電池。
【0014】
[4]Li元素と、Ni、Co、およびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物を、水素を含む雰囲気で400〜470℃で加熱処理することで、前記リチウム含有複合酸化物および式MOで表わされる金属酸化物(ただし、前記遷移金属酸化物に対応する遷移金属元素である。)を含むリチウムイオン二次電池用の正極活物質を得ることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法。
[5]前記正極活物質のX線回折図における2θ=42〜43.8°の最大ピーク高さ(H1)と2θ=44〜46°の最大ピーク高さ(H2)との比(H1/H2)が0.03〜0.5であり、2θ=14〜16°の最大ピーク高さ(H3)と2θ=18〜20°の最大ピーク高さ(H4)との比(H3/H4)が0〜0.1である[4]に記載のリチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法。
[6]前記加熱処理を行った後に、正極活物質を水または極性有機溶媒で洗浄する、[4]または[5]に記載の正極活物質の製造方法。
[7]水素を含む雰囲気における水素濃度が、0.3〜20質量%である[4]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の正極活物質正極を備えるリチウムイオン二次電池は、優れた放電容量を発揮する。
【0016】
しかも、本発明の正極活物質は、X線回折測定における分析結果から金属酸化物(MO)を含み、かつ、層状の結晶構造が崩れていないか、結晶構造が崩れていても、わずかであるものである。したがって、本発明の正極活物質は、これを用いた正極を備えるリチウムイオン二次電池を初回充電することにより、LiMOが生成されるものとなり、放電容量に優れ、初回充電時において、不可逆容量であるLiと酸素ガスの生成が抑制されるものとなる。
【0017】
また、本発明の正極活物質の製造方法によれば、均一に還元されたリチウム含有複合酸化物が得られ、かつ充分な量の金属酸化物(MO)を生成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例のリチウム含有複合酸化物のHガスを3質量%含むNガス雰囲気でのTG−DTA測定の結果を示したグラフである。
【図2】図2は、実施例および比較例1、比較例2、比較例4の正極活物質のXRD測定の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<正極活物質>
本発明の正極活物質は、Li元素と、Ni、Co、およびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物と、金属酸化物(MO)(ただし、Mは前記遷移金属元素に対応する遷移金属元素である。)とを含む。該元素の比率は、後述する初回充電(活性化ともいう)前のリチウム含有複合酸化物における値である。
【0020】
リチウム含有複合酸化物のLi元素のモル量が遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超であると、該リチウム含有複合酸化物を用いた正極を備えるリチウムイオン二次電池において、活性化(初回充電)後の単位質量あたりの放電容量を向上させることができる。Li元素の遷移金属元素の総モル量に対するモル量の比率は、リチウムイオン二次電池の単位質量あたりの放電容量をより一層増加させるために1.25〜1.75であることが好ましく、1.25〜1.65であることがより好ましい。
【0021】
遷移金属元素は、Ni、Co、およびMnから選ばれる少なくとも一種の元素を含み、Mnを必須とすることが好ましく、Ni、Co、およびMnを含んでいることが特に好ましい。遷移金属元素は、Ni、Co、およびMnのみからなっていてもよく、必要に応じてNi、Co、およびMn以外の遷移金属元素(以下、他の遷移金属元素という。)を含んでいてもよい。他の遷移金属元素としては、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、およびMg等から選ばれる遷移金属元素が好ましい。他の遷移金属元素を含む場合には、遷移金属の総量(モル量)に対して0.001〜0.50倍モルが好ましく、0.003〜0.10倍モルがより好ましく、0.005〜0.05倍モルが特に好ましい。
リチウム含有複合酸化物の好ましい組成については、後述する。
【0022】
本発明の正極活物質は、X線源としてCuKα線を用いるX線回折(XRD)測定において、2θ=42〜43.8°の最大ピーク高さ(H1)と2θ=44〜46°の最大ピーク高さ(H2)との比(H1/H2)が0.03〜0.5であり、2θ=14〜16°の最大ピーク高さ(H3)と2θ=18〜20°の最大ピーク高さ(H4)との比(H3/H4)が0〜0.1である。H1/H2は、0.04〜0.4がより好ましく、0.05〜0.3が特に好ましい。H3/H4は、0〜0.05が好ましく、0〜0.03が特に好ましい。
【0023】
X線回折測定において、前記H1は立方晶(空間群Fm−3m)のCoOまたはNiOの<200>面、H2は層状岩塩型結晶構造(空間群R−3m)の<104>面、H3は斜方晶(空間群Pm2m)のLiMnOの<010>面、H4は層状岩塩型結晶構造(空間群R−3m)の<003>面にそれぞれ帰属されるピークの高さである。
本発明の正極活物質が目的とする性能を発揮するためには、金属酸化物(MO)を十分量含むことを示す指標となるH1/H2は0.03〜0.5、さらに層状の結晶構造を保つことが指標となるH3/H4は0〜0.1とする。すなわち、本発明の正極活物質は、金属酸化物(MO)が含まれ、層状の結晶構造が崩れていないか、結晶構造が崩れていても、わずかであるものである。従来の正極活物質においては、H1/H2が0.00〜0.01であるため、X線回折図における該ピーク比率は本発明の範囲に入らない。
【0024】
<正極活物質の製造方法>
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、以下の製造方法によって製造できる。すなわち、Li元素と、Ni、Co、およびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物を、水素を含む雰囲気で400〜470℃で加熱処理することで、リチウム含有複合酸化物および金属酸化物(MO)(ただし、前記遷移金属酸化物に対応する遷移金属元素である。)を含むものとする方法である。
【0025】
リチウム含有複合酸化物としては、Li元素と、Ni、Co、およびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)ものであればよく、特に限定されないが、下式(3)で表される化合物が好ましい。
【0026】
Li(LiMnMe)O(3)
(ただし、Meは、Co、Ni、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、Mgから選ばれる少なくとも一種の元素である。xは0.09<x<0.3、yおよびzは正の整数であり、0.4≦y/(y+z)≦0.8、x+y+z=1、1.2<(1+x)/(y+z)、1.9<p<2.1、0≦q≦0.1である。)
Meとしては、Co、Ni、およびCrが好ましく、CoおよびNiが特に好ましい。xは、0.1<x<0.25が好ましく、0.11<x<0.22がより好ましい。yおよびzは、0.5≦y/(y+z)≦0.8が好ましく、0.55≦y/(y+z)≦0.75がより好ましい。
【0027】
上式(3)で表される化合物としては、Li(Li0.13Ni0.26Co0.09Mn0.52)O、Li(Li0.13Ni0.22Co0.09Mn0.56)O、Li(Li0.13Ni0.17Co0.17Mn0.53)O、Li(Li0.15Ni0.17Co0.13Mn0.55)O、Li(Li0.16Ni0.17Co0.08Mn0.59)O、Li(Li0.17Ni0.17Co0.17Mn0.49)O、Li(Li0.17Ni0.21Co0.08Mn0.54)O、Li(Li0.17Ni0.14Co0.14Mn0.55)O、Li(Li0.18Ni0.12Co0.12Mn0.58)O、Li(Li0.18Ni0.16Co0.12Mn0.54)O、Li(Li0.20Ni0.12Co0.08Mn0.60)O、Li(Li0.20Ni0.16Co0.08Mn0.56)O、Li(Li0.20Ni0.13Co0.13Mn0.54)O、Li(Li0.22Ni0.12Co0.12Mn0.54)O、Li(Li0.23Ni0.12Co0.08Mn0.57)O、が好ましい。
【0028】
さらに、式(3)で表される化合物としては、Li(Li0.16Ni0.17Co0.08Mn0.59)O、Li(Li0.17Ni0.17Co0.17Mn0.49)O、Li(Li0.17Ni0.21Co0.08Mn0.54)O、Li(Li0.17Ni0.14Co0.14Mn0.55)O、Li(Li0.18Ni0.12Co0.12Mn0.58)O、Li(Li0.18Ni0.16Co0.12Mn0.54)O、Li(Li0.20Ni0.12Co0.08Mn0.60)O、Li(Li0.20Ni0.16Co0.08Mn0.56)O、Li(Li0.20Ni0.13Co0.13Mn0.54)O、が特に好ましい。
【0029】
例えば、リチウム含有複合酸化物が式(3)で表される化合物である場合、遷移金属元素の総モル量に対するLi元素のモル量の比は、1.2<(1+x)/(y+z)であり、1.25≦(1+x)/(y+z)≦1.75が好ましく、1.25≦(1+x)/(y+z)≦1.65がより好ましい。該組成比が上記の範囲であれば、単位質量あたりの放電容量を増加させることができる。
【0030】
リチウム含有複合酸化物は、粒子状であることが好ましく、平均粒子径(D50)は3〜30μmが好ましく、4〜25μmがより好ましく、5〜20μmが特に好ましい。本発明において、平均粒子径(D50)とは、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積カーブにおいて、その累積カーブが50%となる点の粒子径である、体積基準累積50%径を意味する。
粒度分布は、レーザー散乱粒度分布測定装置で測定した頻度分布および累積体積分布曲線で求められる。粒子径の測定は、粉末を水媒体中に超音波処理などで充分に分散させて粒度分布を測定する(例えば、HORIBA社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置Partica LA−950VII、などを用いる)ことで行なわれる。
【0031】
リチウム含有複合酸化物の比表面積は、0.3〜10m/gであることが好ましく、0.5〜5m/gが特に好ましい。該比表面積が、0.3〜10m/gであると容量が高く、緻密な正極電極層が形成できる。
【0032】
リチウム含有複合酸化物を製造する方法としては、共沈法により得られたリチウム含有複合酸化物の前躯体とリチウム化合物を混合して焼成する方法、水熱合成法、ゾルゲル法、乾式混合法、イオン交換法などが挙げられる。なお、リチウム含有複合酸化物中に遷移金属元素が均一に含有されると放電容量が向上するため、共沈法により得られたリチウム含有複合酸化物の前躯体(共沈組成物)とリチウム化合物とを混合して焼成する方法を用いることが好ましい。
【0033】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法においては、上記のリチウム含有複合酸化物を、水素を含む雰囲気で400〜470℃で加熱処理する。
水素を含む雰囲気とは、水素ガスの存在下であることをいい、水素ガスはそのままを用いる、または、不活性ガスで希釈して用いることができ、後者が好ましい。不活性ガスで希釈した水素ガス雰囲気の例としては、Hガスを含むNガス雰囲気や、Hガスを含むArガス雰囲気などが挙げられ、コストの面からHガスを含むNガス雰囲気が好ましい。水素濃度としては、好ましくは0.3〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5.5質量%、特に好ましくは1〜3.5質量%である。水素濃度を0.3〜20質量%とすることにより、充分な還元反応を実施できる。
【0034】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法において、上記のリチウム含有複合酸化物を用いる場合には水素を含む雰囲気での加熱処理により、下式(4)および(5)に示す反応が起こると考えられる。
2LiMnO+H→2LiMnO+2LiOH (4)
2LiMO+H→2MO+2LiOH (5)
【0035】
リチウム含有複合酸化物としてLiMnOとLiMOとで表わされる化合物を用いた場合には、加熱処理によりLiMnOとLiMOとで表わされる化合物と水素との間で上式(4)および(5)に示す反応が進行し、リチウム含有複合酸化物の表面に式MOで表わされる金属酸化物を生成させることができる。ここでHガス量が少なすぎると、金属酸化物(MO)の生成量が少なくなる。また、水素を含む雰囲気に含まれるHガスが上記範囲を超えると、金属酸化物(MO)がさらに水素によって還元されてM(金属)になってしまい、容量低下など電池特性が低下するおそれがある。
【0036】
なお、リチウム含有複合酸化物を金属水素化物などの固体の還元剤の存在下で熱処理した場合には均一な還元反応を行うことは困難であり、生成物において本発明の効果と同等の効果を得ることはできない。一方、本発明の製造方法では、水素を用い、かつ、特定の温度条件で反応を行うことにより、均一に表面が還元されたリチウム含有複合酸化物が得られ、なおかつ均一に充分な量の金属酸化物(MO)を生成させることができると考えられる。
【0037】
本発明の正極活物質は、X線回折図において特定のパターンを示すものである。すなわち、X線回折測定における2θ=42〜43.8°の最大ピーク高さ(H1)は、金属酸化物(MO)であるNiOやCoOの生成量を示し、2θ=14〜16°の最大ピーク高さ(H3)は、層状の結晶構造が崩れて生成された斜方晶のLiMnOの生成量を示している。
したがって、ピーク高さの比(H1/H2)が0.03〜0.5であり、かつピーク高さの比(H3/H4)が0〜0.1であるリチウム金属複合酸化物は、金属酸化物(MO)が含まれ、かつ、リチウム金属複合酸化物の結晶構造は、層状であるか、層状構造の一部が崩れていても、わずかである構造であることを示す。すなわち、本発明におけるリチウム含有複合酸化物は層状の結晶構造を保っていることから、高い放電容量を維持できる。
【0038】
水素を含む雰囲気での加熱処理温度は400〜470℃であり、430〜465℃が好ましく、450〜460℃がより好ましい。加熱処理温度を400〜470℃とすることで、充分な量の金属酸化物(MO)を生成させることができる。加熱処理温度が400℃未満である場合、金属酸化物(MO)を生成できず、加熱処理を行うことによる効果が得られない。また、加熱処理温度が470℃を超えると、金属酸化物(MO)が水素によって還元されて、M(金属)になってしまい、充分な量の金属酸化物(MO)が得られないおそれや、層状の結晶構造が崩れるおそれがある。
【0039】
加熱処理時間は、好ましくは0.1〜10時間であり、より好ましくは、0.5〜5時間、特に好ましくは、1〜3時間である。加熱処理時間を0.1〜10時間の範囲とすることで、効率よく、充分な量の金属酸化物(MO)を生成させることができる。
【0040】
本発明の製造方法においては、加熱処理後の生成物を水または極性有機溶媒で洗浄することが好ましい。該極性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどが挙げられる。正極活物質の洗浄は水のみで行うのが好ましい。水での洗浄は、安全面、環境面、取扱い性、コストの点で優れる。
【0041】
正極活物質を水または極性有機溶媒で洗浄した場合には、生成物中のLiOHを除去できる。
洗浄に用いる水または極性有機溶媒の量は、LiOHを除去できればよく、具体的には、正極活物質の質量に対して0.5〜1000倍が好ましく、5〜100倍がより好ましい。
【0042】
LiOHは、電解液を分解して放電容量を低下させる原因となる。例えば、電解液としてLiPFを溶質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との質量比(EC:DEC=1:1)の混合溶液を用いた場合などに、電解液を分解して放電容量を低下させる原因となる。
また、LiOHは、正極を製造する工程において、正極活物質を含むスラリーを形成する際に、スラリーを凝集しやすくし、正極を製造しにくくする。このため、LiOHは、正極活物質から除去することが好ましい。
【0043】
本発明の製造方法により得られた正極活物質は、リチウム含有複合酸化物の表面に金属酸化物(MO)が生成し、初回充電時時に発生するLiおよび酸素ガスの生成を抑制することができると考えられる。また、リチウム比率の高いリチウム含有複合酸化物を含むことから、これを用いた正極を備えるリチウムイオン二次電池において、高い放電容量を維持できると考えられる。
【0044】
<正極>
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、上記の正極活物質、導電材、およびバインダーを含む。
リチウムイオン二次電池用正極は、正極集電体上(正極表面)に、本発明の正極活物質を含有する正極活物質層が形成されてなる。リチウムイオン二次電池用正極は、例えば、本発明の正極活物質、導電材およびバインダーを、溶媒に溶解させるか、分散媒に分散させるか、又は溶媒と混練することによって、スラリー又は混錬物を調製し、調製したスラリー又は混錬物を正極集電板に塗布等により担持させることによって、製造できる。
【0045】
導電材としては、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック等が挙げられる。
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等の不飽和結合を有する重合体およびその共重合体、アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体等のアクリル酸系重合体およびその共重合体等が挙げられる。
【0046】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と負極と非水電解質とを含み、活性化前の正極に用いられる正極材料が、上記のリチウム複合金属化合物を含むものである。
負極は、負極集電体上に、負極活物質を含有する負極活物質層が形成されてなる。例えば、負極活物質を有機溶媒と混錬することによってスラリーを調製し、調製したスラリーを負極集電体に塗布、乾燥、プレスすることによって、製造することができる。
【0047】
負極集電板としては、例えばニッケル箔、銅箔等の金属箔を用いることができる。
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料であればよく、例えば、リチウム金属、リチウム合金、リチウム化合物、炭素材料、周期表14、15族の金属を主体とする酸化物、炭素化合物、炭化ケイ素化合物、酸化ケイ素化合物、硫化チタンおよび炭化ホウ素化合物等を用いることができる。
【0048】
リチウム合金およびリチウム化合物としては、リチウムと、リチウムと合金あるいは化合物を形成可能な金属とにより構成されるリチウム合金およびリチウム化合物を用いることができる。
炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素類、ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等のコークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、フェノール樹脂やフラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化した有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭、カーボンブラック類等を用いることができる。
周期表14族の金属としては、例えば、ケイ素あるいはスズであり、最も好ましくはケイ素である。また、比較的低い電位でリチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料であれば、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズ等の酸化物およびその他の窒化物等も同様に用いることができる。
【0049】
非水電解質としては、非水溶媒に電解質塩を溶解させた非水電解液を用いることが好ましい。
非水電解液としては、有機溶媒と電解質とを適宜組み合わせて調製されたものを用いることができる。有機溶媒としては、この種の電池に用いられるものであればいずれも使用可能であり、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステル等を用いることができる。特に、電圧安定性の点からは、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類を使用することが好ましい。また、このような有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0050】
また、その他、非水電解質として、電解質塩を含有させた固体電解質、高分子電解質、高分子化合物などに電解質を混合または溶解させた固体状もしくはゲル状電解質等を用いることができる。
固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有する材料であればよく、例えば、無機固体電解質および高分子固体電解質のいずれをも用いることができる。
【0051】
無機固体電解質としては、窒化リチウム、ヨウ化リチウム等を用いることができる。
高分子固体電解質としては、電解質塩と該電解質塩を溶解する高分子化合物を用いることができる。そして、この高分子化合物としては、ポリ(エチレンオキサイド)や同架橋体などのエーテル系高分子、ポリ(メタクリレート)エステル系、アクリレート系等を、単独あるいは分子中に共重合、または混合して用いることができる。
【0052】
ゲル状電解質のマトリックスとしては、上記の非水電解液を吸収してゲル化するものであればよく、種々の高分子を用いることができる。また、ゲル状電解質に用いられる高分子材料としては、例えば、ポリ(ビニリデンフルオロライド)、ポリ(ビニリデンフルオロライド−co−ヘキサフルオロプロピレン)などのフッ素系高分子等を使用することができる。また、ゲル状電解質に用いられる高分子材料としては、例えば、ポリアクリロニトリルおよびポリアクリロニトリルの共重合体を使用することができる。また、ゲル状電解質に用いられる高分子材料としては、例えば、ポリエチレンオキサイドおよびポリエチレンオキサイドの共重合体、同架橋体などのエーテル系高分子を使用することができる。共重合モノマーとしては、例えば、ポリプロピレンオキサイド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等を挙げることができる。
また、酸化還元反応に対する安定性の観点により、上記した高分子のうち、特にフッ素系高分子を用いることが好ましい。
【0053】
電解質塩は、この種の電池に用いられるものであればいずれも使用可能である。電解質塩としては、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、CHSOLi、LiCl、LiBr等を用いることができる。
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、コイン型、シート状(フィルム状)、折り畳み状、巻回型有底円筒型、ボタン型等の形状を、用途に応じて適宜選択することができる。
【0054】
本発明のリチウムイオン二次電池は、活性化してから用いられる。本発明のリチウムイオン二次電池においては、活性化として初回充電を行うことにより、正極に含まれるLiMnOとMOとが、下式(2)に示す反応を起こして、LiMOを生成させる。生成したLiMOは、活性化前の正極に含まれるLiMOとともに、充電時にLiを放出し、放電時に吸収するため、正極材料として機能する。
LiMnO+MO→MnO+LiO+MO
→LiMnO+LiMO (2)
【0055】
本発明のリチウムイオン二次電池では、活性化により生成したLiMOを、活性化前の正極に含まれるLiMOとともに充放電して、正極と負極との間でLiを移動させる。このことにより、本発明のリチウムイオン二次電池は、放電容量およびサイクル特性に優れたものとなる。
【実施例】
【0056】
<リチウム含有複合酸化物の合成>
硫酸ニッケル(II)六水和物(140.6g)、硫酸コバルト(II)七水和物(131.4g)、硫酸マンガン(II)五水和物(482.2g)に蒸留水(1245.9g)を加えて均一に溶解させて原料溶液とした。硫酸アンモニウム(79.2g)に蒸留水(320.8g)を加えて均一に溶解させてアンモニア源溶液とした。硫酸アンモニウム(79.2g)に蒸留水(1920.8g)を加えて均一に溶解させて母液とした。水酸化ナトリウム(400g)に蒸留水(600g)を加えて均一に溶解させてpH調整液とした。
【0057】
2Lのバッフル付きガラス製反応槽に母液を入れてマントルヒーターで50℃に加熱し、pHが11.0となるようにpH調整液を加えた。反応槽内の溶液をアンカー型の撹拌翼で撹拌しながら原料溶液を5.0g/分、アンモニア源溶液を1.0g/分の速度で添加し、ニッケル、コバルト、マンガンの複合水酸化物を析出させた。原料溶液を添加している間、反応槽内のpHを11.0に保つようにpH調整溶液を添加した。また、析出した水酸化物が酸化しないように反応槽内に窒素ガスを流量0.5L/分で流した。また、反応槽内の液量が2Lを超えないように連続的に液の抜き出しを行った。
【0058】
得られたニッケル、コバルト、マンガンの複合水酸化物から不純物イオンを取り除くため、加圧ろ過と蒸留水への分散を繰返して洗浄した。ろ液の電気伝導度が25μS/cmとなった時点で洗浄を終了し、120℃で15時間乾燥させて前駆体とした。
ICP(高周波誘導結合プラズマ)で前駆体のニッケル、コバルト、マンガンの含有量を測定したところ、それぞれ11.6質量%、10.5質量%、42.3質量%であった(モル比でニッケル:コバルト:マンガン=0.172:0.156:0.672)。
【0059】
この前駆体(20g)とリチウム含有量が26.9mol/kgの炭酸リチウム(12.6g)とを混合して、酸素含有雰囲気下800℃で12時間焼成し、実施例のリチウム含有複合酸化物を得た。得られた実施例のリチウム含有複合酸化物の組成はLi(Li0.2Ni0.137Co0.125Mn0.538)Oとなる。実施例のリチウム含有複合酸化物の平均粒子径D50は5.3μmであり、BET(Brunauer,Emmett,Teller)法を用いて測定した比表面積は4.4m/gであった。
【0060】
<TG−DTA(熱重量−示差熱分析)測定>
TG−DTA測定装置(商品名:TG−DTA2000SA、Bruker AXS 社製)を用いて、実施例のリチウム含有複合酸化物のTG−DTA測定を行った。なお、TG−DTA測定における雰囲気ガスとしてはHガスを3質量%含むNガスを用いた。また、TG−DTA測定においては、昇温速度5℃/分で室温〜600℃まで昇温して測定した。その結果を図1に示す。
【0061】
図1は、実施例のリチウム含有複合酸化物のTG−DTA測定の結果を示したグラフである。図1に示すように、実施例のリチウム含有複合酸化物では、室温〜350℃の範囲において、温度の上昇に伴ってTGがわずかずつ増加していることが分かる。
これは、リチウム含有複合酸化物がHを吸蔵することにより、あるいは下記式(4)(5)に示すように、金属酸化物(MO)が生成される反応が進むとともに、重量(固体重量)が増加したためと推定される。
2LiMnO+H→2LiMnO+2LiOH (4)
2LiMO+H→2MO+2LiOH (5)
【0062】
また、図1に示すように、450℃程度の温度から温度の上昇に伴って急激にTGが減少していることが分かる。
これは、下記式(6)(7)(8)に示すように、リチウム含有複合酸化物がHによって還元されて、金属と水が生成されるとともに、水が揮発して重量(固体重量)が減少したためと推定される。
LiMnO+2H→Mn+2LiOH+HO (6)
LiMO+1.5H→M+LiOH+HO (7)
MO+H→M+HO (8)
【0063】
また、図1に示すDTA測定の結果より、450℃程度の温度から温度の上昇に伴って急激に還元反応が進むことが確認できた。
以上のように、図1に示すTG−DTA測定の結果より、水素を含む雰囲気での加熱処理の温度範囲を400〜470℃とし、Hによる還元反応を制御することで、金属酸化物(MO)を含む正極活物質を生成できると推定される。
【0064】
<水素処理>
実施例のリチウム含有複合酸化物15gをセラミック製ボートに乗せて、内径φ10cmの環状炉に入れた。Hガスを3質量%含むNガスを流量0.3L/分で流しながら、表1に示す水素処理温度で3時間加熱し、実施例1〜実施例3および比較例2〜比較例4の正極活物質を得た。
また、実施例のリチウム含有複合酸化物に対して水素処理を行わず、比較例1の正極活物質とした。
【0065】
【表1】

【0066】
このようにして得られた実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例4の正極活物質について、X線源としてCuKα線を用いるXRD測定を行った。XRD測定には、リガク社製の製品名RINT−TTR−IIIを用いた。XRD測定は、電圧50kV、管電流300mA、走査軸2θ/θで、測定範囲2θ=10〜80°、サンプリング幅0.02°、スキャンスピード4°/分で行った。得られたXRDスペクトルから解析ソフトMDI−JADEを用いてバックグラウンド除去を行い、その結果から、2θ=42〜43.8°の最大ピーク高さH1と2θ=44〜46°の最大ピーク高さH2との比H1/H2と、2θ=14〜16°の最大ピーク高さH3と2θ=18〜20°の最大ピーク高さH4との比H3/H4とを算出した。その結果を表1に示す。
【0067】
表1に示すように、実施例1〜実施例3の正極活物質では、H1/H2が0.03〜0.5の範囲内となり、H3/H4が0〜0.1の範囲内となった。したがって、実施例の正極活物質は、金属酸化物(MO)が含まれ、リチウムイオン二次電池の放電容量を低下させる斜方晶のLiMnOの生成量が少なく、層状の結晶構造を多く含むものである。
【0068】
これに対し、水素処理を行わない比較例1および水素処理温度の低い比較例2では、H1/H2が小さいため、金属酸化物(MO)の生成量が不充分である。
また、水素処理温度の高い比較例3および比較例4では、H3/H4が大きいため、斜方晶のLiMOの生成量が多いものである。
【0069】
また、実施例1および比較例1、比較例2、比較例4の正極活物質のXRD測定の結果を図2に示す。
図2に示すように、実施例1の正極活物質では、2θ=44〜46°に金属酸化物(MO)であるNiOやCoOの生成量に起因するピークが見られる。
これに対し、水素処理を行わない比較例1および水素処理温度の低い比較例2では、2θ=44〜46°に充分な高さのピークは見られない。また、水素処理温度の高い比較例4では、図2に示すように、2θ=14〜16°に斜方晶のLiMnOの生成量に起因するピークが見られる。
【0070】
次いで、実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例4の正極活物質を蒸留水で洗浄し、正極活物質の表面のLiOHを除去した後に、300℃で乾燥させた。
【0071】
<正極体シートの作製>
正極活物質として、実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例4の正極活物質をそれぞれ用い、正極活物質とアセチレンブラック(導電材)とポリフッ化ビニリデン(バインダー)を12.1質量%含むポリフッ化ビニリデン溶液(溶媒N−メチルピロリドン)を混合し、さらにN−メチルピロリドンを添加してスラリーを作製した。正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンは質量比で80/12/8とした。スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔(正極集電体)にドクターブレードを用いて片面塗工した。120℃で乾燥し、ロールプレス圧延を2回行うことによりリチウム電池用の正極となる実施例および比較例1〜比較例4の正極体シートを作製した。
【0072】
<電池の組み立て>
実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例4の正極体シートを打ち抜いたものを正極に用い、厚さ500μmの金属リチウム箔を負極に用い、負極集電体に厚さ1mmのステンレス板を使用し、セパレータには厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用い、さらに電解液には、濃度1(mol/dm)のLiPF/EC(エチレンカーボネート)+DEC(ジエチルカーボネート)(1:1)溶液(LiPFを溶質とするECとDECとの体積比(EC:DEC=1:1)の混合溶液を意味する。)を用いてステンレス製簡易密閉セル型の実施例および比較例1〜比較例4のリチウム電池をアルゴングローブボックス内で組み立てた。
【0073】
<初期容量の評価><初期効率の評価>
このようにして得られた実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例4のリチウム電池について、25℃にて電池評価を行った。
正極活物質1gにつき150mAの負荷電流で4.8Vまで充電し、正極活物質1gにつき37.5mAの負荷電流にて2.5Vまで放電した。4.8〜2.5Vにおける正極活物質の放電容量を初期容量とし、放電容量/充電容量を初期効率とする。
【0074】
実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例4のリチウム電池の初期容量および初期効率を表1に示す。
表1に示すように、実施例1〜実施例3のリチウム電池は、初期容量および初期効率に優れていることが確認できた。また、実施例1〜実施例3のリチウム電池は、初期効率が高いことから、酸素発生量も抑制されていると推測される。
これに対し、比較例1〜比較例4のリチウム電池は、初期容量が優れているものでは初期効率が不充分であり、初期効率が優れているものでは初期容量が不充分であり、初期容量と初期効率の両方が優れているものはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、小型・軽量、単位質量あたりの放電容量が高く、初期効率に優れ、電池内でのガスの発生を抑制できるリチウムイオン二次電池用の正極活物質、正極、およびリチウムイオン二次電池を得ることができ、携帯電話等の電子機器、車載用のバッテリー等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li元素と、Ni、Co、およびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物と、式MOで表わされる金属酸化物(ただし、Mは前記遷移金属元素に対応する遷移金属元素である。)とを含み、
X線回折図における、2θ=42〜43.8°の最大ピーク高さ(H1)と2θ=44〜46°の最大ピーク高さ(H2)との比(H1/H2)が0.03〜0.5であり、2θ=14〜16°の最大ピーク高さ(H3)と2θ=18〜20°の最大ピーク高さ(H4)との比(H3/H4)が0〜0.1であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用の正極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用の正極活物質と導電材とバインダーとを含むリチウムイオン二次電池用の正極。
【請求項3】
正極と負極と非水電解質とを含み、前記正極が、請求項2に記載の正極であるリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
Li元素と、Ni、Co、およびMnから選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素とを含む(ただし、Li元素のモル量が該遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である。)リチウム含有複合酸化物を、水素を含む雰囲気で400〜470℃で加熱処理することで、前記リチウム含有複合酸化物および式MOで表わされる金属酸化物(ただし、前記遷移金属酸化物に対応する遷移金属元素である。)を含むリチウムイオン二次電池用の正極活物質を得ることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記正極活物質のX線回折図における2θ=42〜43.8°の最大ピーク高さ(H1)と2θ=44〜46°の最大ピーク高さ(H2)との比(H1/H2)が0.03〜0.5であり、2θ=14〜16°の最大ピーク高さ(H3)と2θ=18〜20°の最大ピーク高さ(H4)との比(H3/H4)が0〜0.1である請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理を行った後に、正極活物質を水または極性有機溶媒で洗浄する、請求項4または請求項5に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項7】
水素を含む雰囲気における水素濃度が、0.3〜20質量%である請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−156046(P2012−156046A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15097(P2011−15097)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】