説明

リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池

【課題】負極活物質と負極集電体との密着性を高めることが可能であり、電極のハンドリング性、電池の信頼性、および、電池寿命が向上するリチウムイオン二次電池用負極を提供する。
【解決手段】銅箔からなる負極集電体表面に、リチウムを吸蔵および放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層を有するリチウムイオン二次電池用負極であって、前記負極集電体表面は凹凸を有し、前記負極集電体の前記凹凸を有する面の最大高さRy(JIS B0601−1994に規定される)が0.5μm〜5.0μmであり、かつ、前記負極集電体の前記凹凸を有する面の局部山頂の平均間隔S(JIS B0601−1994に規定される)が、前記負極活物質の平均粒子径の50〜500%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質層と負極集電体との密着性に優れたリチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有するため、他の二次電池、例えばニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池と比較して、小型化、軽量化に有利である。そのため、携帯機器を中心に使用されており、更には、自動車や産業機器への広がりが期待されている。
一般にリチウムイオン二次電池の負極用集電体としては、電池内で安定であり、且つ、高い導電性を有する銅箔が使用されており、炭素粉末からなる活物質と、バインダー、導電材を溶媒に分散し、スラリー化したものを集電体である銅箔に塗布した後、乾燥させることによって負極活物質層が形成される。
電池内で負極は、セパレータを介して正極と対向した状態で積層、または、円形、楕円形、長円形等に巻回され、電池外装体に収納される。
負極活物質と集電体の密着性は、電池特性に大きく影響し、負極活物質が集電体から脱落すると、電池容量の低下、サイクル特性の低下、電極間の短絡などの問題が生じる。特に、巻回タイプの電池の場合は電極がカーブする箇所、積層タイプの電池の場合は電極の切断部で活物質の脱落が多い。
負極集電体と負極活物質の密着性を向上させる手段として、例えば、負極スラリー中の結着剤の割合を多くする方法などが提案されている。
【0003】
しかしながら、このような従来の対策によると、カーボン粒子間の密着性の向上には効果があるが、銅箔とカーボン層の密着性向上には影響が認められない。更に結着剤増量により、抵抗の上昇やエネルギー密度の低下など、電池特性の低下が生じる。
また、集電体とカーボン層との密着性向上を目的として、特定の平均表面粗さを有し、表面に特定の粒径の炭素質粒で構成される炭素質粒層が付着している負極集電体用銅材が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−294251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の構成においても十分とは言えず、更に、密着性に優れたリチウムイオン二次電池用負極の作製が求められていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、結着剤量を増加させることなく、活物質と集電体との密着性をより高めることが可能であるリチウムイオン二次電池用負極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の発明は、銅箔からなる負極集電体表面に、リチウムを吸蔵および放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層を有するリチウムイオン二次電池用負極であって、前記負極集電体表面は凹凸を有し、前記負極集電体の前記凹凸を有する面の最大高さRy(JIS B0601−1994に規定される)が0.5〜5.0μmであり、かつ、前記負極集電体の前記凹凸を有する面の局部山頂の平均間隔S(JIS B0601−1994に規定される)が、前記負極活物質の平均粒子径の50〜500%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極である。
【0008】
また第2の発明は、第1の発明の負極、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極、およびリチウムイオン伝導性を有する電解質を含むリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、負極集電体表面の凹凸の凹部に、負極活物質の一部、または、全体が取り込まれることにより、負極活物質と負極集電体との密着性を高めることが可能であり、電極のハンドリング性、電池の信頼性、および、電池寿命が向上するリチウムイオン二次電池用負極およびこれを用いたリチウムイオン二次電池を提供することができる。また本発明は、一般的に使用されている負極と同程度の結着剤量で、より高い密着性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】リチウムイオン二次電池の一例の説明断面図
【図2】実施例および比較例における評価結果
【図3】実施例および比較例における評価結果
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態を詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータおよび電解質を含む。本発明のリチウムイオン二次電池は負極に特徴がある。
【0012】
(リチウムイオン二次電池用負極)
本発明におけるリチウムイオン二次電池用負極は、負極集電体表面の片面または両面に負極活物質層を有する。負極活物質層は、負極活物質、結着剤および溶媒、必要により更に導電助剤、増粘剤を混合、混練して、負極スラリーを作製した後、負極スラリーを負極集電体表面に塗布し、乾燥する方法により形成される。負極スラリーの塗布は、スラリーを集電体に塗布可能な一般的な塗工装置を用いることができ、例えばロールコーターやドクターブレードによるコーター、コンマコーター、ダイコーターである。また乾燥温度は、例えば50〜150℃程度である。
【0013】
また、負極活物質層は、スパッタリング、めっき、蒸着等の薄膜形成法により、負極集電体表面に形成することも可能である。
【0014】
本発明の負極集電体としては、銅、銅合金、ニッケル、ステンレスからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属からなる箔が使用できる。それぞれを単独で用いてもよいし、それぞれの合金でもよい。特に銅や銅合金が、高導電率であり、安定性が高いことから好ましい。厚さは5〜35μmが好ましく、さらに8〜18μmがより好ましい。
【0015】
本発明の負極集電体は、表面(負極活物質層を形成する面)に凹凸を有する。凹凸を有する面において、最大高さRy(厚み方向に対する凹凸の最大高低差)は、0.5〜5.0μmである。これにより、負極集電体と負極活物質層との密着性を向上させると共に、応力を緩和することが可能となる。最大高さRyが、0.5μm未満では、負極活物質を支持することが困難であり、最大高さRyが、5.0μmを越える場合、負極集電体の強度が弱くなる。また負極集電体の強度を確保するために厚みを大きくすれば、負極活物質の充填量が減少し、電池の体積エネルギー密度の低下を招く。
【0016】
また負極集電体表面の凹凸の局部山頂の平均間隔S(凸部間ピッチの平均値)は、負極活物質の平均粒子径の50〜500%であることが好ましい。50%未満の場合、負極活物質の一部または全部が凹凸の凹部に入ることが難しく負極活物質を十分に支持できないため、負極活物質層と負極集電体との密着性が劣る。また500%を越える場、凹部、凸部におけるアンカー効果が不足するため、密着性を十分に得ることができない。ここでいう平均粒子径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における体積基準のメディアン径(D50)を意味する。
【0017】
尚、本発明の最大高さRyおよび局部山頂の平均間隔Sは、日本工業規格(JIS B0601−1994)に規定されているものであり、表面粗さ計等により測定することができる。
【0018】
負極集電体の表面に凹凸を形成する方法は、例えば、電解処理によって表面を粗化する方法がある。この場合形成される凹凸は非常に微細であり、従来リチウムイオン二次電池の負極で使用されているような、平均粒子径10〜30μmサイズの負極活物質を支持するには適さない場合がある。
【0019】
また、負極集電体に用いる箔の圧延時に凹凸を形成することもできる。砥石による研磨加工またはショットダル加工によって圧延ロールに所定の表面性状を加工し、加工したロールを使用して圧延することで箔にロールの表面性状を転写させる。さらに、圧延条件として圧延油粘度を7〜12cSt、圧延速度を100〜800m/分とすることにより、圧延時のオイルピットと呼ばれる凹凸の発生量を増加させることができる。
【0020】
圧延時に形成される凹凸は、電解処理法で形成される凹凸よりも粗大であるため、従来リチウムイオン二次電池の負極で使用されているような、平均粒子径10〜30μmサイズの負極活物質を使用する場合には、圧延時に凹凸を形成する方法がより好ましい。
【0021】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出できる材料であればよく、電池容量や電池電圧を考慮すると、炭素材料や、珪素、スズ、ゲルマニウム等の単体、酸化物または合金、チタン酸リチウム等を種々選択可能である。
【0022】
結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、水溶性アクリル系バインダー、スチレンブタジエンラバー等が挙げられる。溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、水などを用いることができる。
【0023】
導電助剤としては、例えばカーボンブラック、人造黒鉛、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、および炭素繊維等を用いることができる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の多糖類等を1種または2種以上の混合物として用いることが適している。
【0024】
本発明における、負極活物質、結着剤、溶媒、導電助剤および増粘剤それぞれの含有量は、リチウムイオン二次電池の作製において一般的に使用する範囲とすることが好ましい。
【0025】
(リチウムイオン二次電池用正極)
リチウムイオン二次電池用正極は、正極活物質、導電助剤、結着剤および溶媒を混合した正極活物質含有組成物をアルミ箔などの金属集電体上に塗布・乾燥することにより作製できる。
【0026】
正極活物質としては、一般的に使われるものであればいずれも使用可能であり、例えばLiCoO、LiMn、LiMnO、LiNiO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiFePOなどの化合物である。
【0027】
導電助剤としては、例えばカーボンブラックを使用し、結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、水溶性アクリル系バインダーを使用し、溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、水などを使用する。このとき、正極活物質、導電助剤、結着剤および溶媒の含量は、リチウムイオン二次電池で通常的に使用するレベルである。
【0028】
(セパレータ)
セパレータとしては、正極と負極の電子伝導を絶縁する機能を有し、リチウムイオン二次電池で通常的に使われるものであればいずれも使用可能である。例えば、微多孔性のポリオレフィンフィルムを使用できる。
【0029】
(電解液・電解質)
電解液および電解質には、有機電解液(非水系電解液)、無機固体電解質、高分子固体電解質等が使用できる。
有機電解液の溶媒の具体例として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル;ベンゾニトリル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ―ブチロラクトン、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の非プロトン性溶媒、あるいはこれらの溶媒のうちの2種以上を混合した混合溶媒が挙げられる。
【0030】
有機電解液の電解質には、LiPF、LiClO、LiBF、LiAlO、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCFSO、LiCFCO、LiCSO、LiN(CFSO等のリチウム塩からなる電解質の1種または2種以上を混合させたものを用いることができる。
【0031】
有機電解液の添加材として、負極活物質の表面に有効な固体電解質界面被膜を形成できる化合物を添加することが望ましい。例えば、分子内に不飽和結合を有し、充電時に還元重合できる物質、例えばビニレンカーボネート(VC)などを添加する。
【0032】
また、上記の有機電解液に代えて高分子固体電解質を用いる場合には、リチウムイオンに対するイオン導電性の高い高分子である、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミン等からなるポリマーに電解液を含ませてゲル化したポリマーを用いることができる。
【0033】
さらに、リチウム窒化物、リチウムハロゲン化物、リチウム酸素酸塩、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH、LiPO−LiSiO、LiSiS、LiPO−LiS−SiS、硫化リン化合物などの無機材料を無機固体電解質として用いてもよい。
【0034】
(リチウムイオン二次電池の組立て)
前述したような正極と負極との間にセパレータを配置して、電池素子を形成する。このような電池素子を巻回、または積層して円筒形の電池ケースや角形の電池ケースに入れた後、電解液を注入して、リチウムイオン二次電池とする。
【0035】
本発明のリチウムイオン二次電池の一例(断面図)を図1に示す。リチウムイオン二次電池1は、正極3、負極5を、セパレータ7を介して、セパレータ−負極−セパレータ−正極の順に積層配置し、正極3が内側になるように巻回して極板群を構成し、これを電池缶9内に挿入する。そして正極3は正極リード11を介して正極端子13に、負極5は負極リード15を介して電池缶9にそれぞれ接続し、リチウムイオン二次電池1内部で生じた化学エネルギーを電気エネルギーとして外部に取り出し得るようにする。次いで、電池缶9内に非水系電解液17を極板群を覆うように充填した後、電池缶9の上端(開口部)に、円形蓋板とその上部の正極端子13からなり、封口体19を、環状の絶縁ガスケットを介して取り付けて、本発明のリチウムイオン二次電池1を製造することができる。
【0036】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明し、比較例と共に性能試験例を示し、本発明の優れた効果を明示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(凹凸部を有する集電体の作製)
実施例および比較例において負極集電体として使用する表面に凹凸を有する厚さ10μmの銅箔は、次の方法で作製した。
・最大高さRy0.3μmの銅箔
砥石番手♯220の砥石で研磨加工したロールを用いて圧延して、銅箔を作製した。その際、局部山頂の平均間隔Sを50μm以下にするときは、圧延油粘度を12cSt、圧延速度を100〜800m/分とし、局部山頂の平均間隔Sを50μmより大きくするときは、圧延油粘度を4cSt、圧延速度を100〜800m/分として調整した。
・最大高さRy0.5μmの銅箔
砥石番手♯150の砥石で研磨加工したロールを用いた以外は、最大高さRy0.3μmの集電体と同様にして、作製した。
・最大高さRy2.5μmの銅箔
投射グリッド粒径を調整して、十点平均粗さRz(JIS B0601−1994)が8μmとなるようにショットダル加工したロールを用いて圧延して、銅箔を作製した。局部山頂の平均間隔Sは、ショットダル加工時のグリッド投射時間によって変化させた。
・最大高さRy5.0μmの銅箔
投射グリッド粒径を調整して、十点平均粗さRz(JIS B0601−1994)が15μmとなるようにショットダル加工したロールを用いて圧延して、銅箔を作製した。局部山頂の平均間隔Sは、ショットダル加工時のグリッド投射時間によって変化させた。
・最大高さRy6.0μmの銅箔
投射グリッド粒径を調整して、十点平均粗さRz(JIS B0601−1994)が20μmとなるようにショットダル加工したロールを用いて圧延して、銅箔を作製した。局部山頂の平均間隔Sは、ショットダル加工時のグリッド投射時間によって変化させた。
【0039】
(負極スラリーAの調製)
負極活物質として平均粒子径10μmの人造黒鉛粉末、結着剤としてスチレンブタジエンラバー、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース、溶媒としてイオン交換水を使用し、活物質:結着剤:増粘剤=97:1.5:1.5の混合比率(重量比)で、適量のイオン交換水中で混合し、負極スラリーAを調製した。
【0040】
(負極スラリーBの調製)
負極活物質として平均粒子径30μmの人造黒鉛粉末、結着剤としてスチレンブタジエンラバー、増粘剤としてカルボキシルメチルセルロース、溶媒としてイオン交換水を使用し、活物質:結着剤:増粘剤=97:1.5:1.5の混合比率(重量比)で、適量のイオン交換水中で混合し、負極スラリーBを調製した。
【0041】
(実施例1)
集電体として、表面に凹凸を有する厚さ10μmの銅箔(最大高さRyは0.5μm、局部山頂の平均間隔Sは5μm)の片面に、負極スラリーAを塗布し、100℃で10分間乾燥することにより負極活物質層を形成し、負極を作製した。このようにして得られた負極を、幅20mm、長さ100mmのサイズに切り出し、90度剥離試験を行った。また別途、得られた負極を直径20mmの円盤状に加工し、3極式セルによる電気化学特性試験を行った。結果を図2および表1に示す。
【0042】
(実施例2〜9)
集電体として、表1に示す厚さ、最大高さRyおよび局部山頂の平均間隔Sの銅箔をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして負極を作製し、90度剥離試験および電気化学特性試験を行った。結果を図2および表1に示す。
【0043】
(実施例10〜18)
集電体として、表2に示す厚さ、最大高さRyおよび局部山頂の平均間隔Sの銅箔をそれぞれ用い、負極スラリーAに代えて負極スラリーBを用いた以外は、実施例1と同様にして負極を作製し、90度剥離試験および電気化学特性試験を行った。結果を図3および表2に示す。
【0044】
(比較例1〜12)
集電体として、表1に示す厚さ、最大高さRyおよび局部山頂の平均間隔Sの銅箔をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして負極を作製し、90度剥離試験および電気化学特性試験を行った。結果を図2および表1に示す。
【0045】
(比較例13〜24)
集電体として、表2に示す厚さ、最大高さRyおよび局部山頂の平均間隔Sの銅箔をそれぞれ用い、負極スラリーAに代えて負極スラリーBを用いた以外は、実施例1と同様にして負極を作製し、90度剥離試験および電気化学特性試験を行った。結果を図3および表2に示す。
【0046】
(90度剥離試験)
実施例、比較例で得られた幅20mm、長さ100mmの負極の、負極スラリーを塗布した面を両面テープで剥離試験用治具に貼り付けて、負極を貼り付けた面に対して垂直に、長さ方向の片端をつまんで電極を引っ張り、負極活物質層が剥がれるときの強度を測定した。結果を図2および図3に示す。
【0047】
(電気化学特性試験)
・試験用セルの作製
作用極として、実施例、比較例で得られた直径20mmの円盤状の負極、対極と参照極としてリチウム金属を使用し、電解液として1molのLiPFを溶解したエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(混合体積比1:1)を使用したビーカーセルを作製した。
・電気化学特性試験
前記試験用セルを用いて、負極の充放電性能を評価する試験を行った。
作用極の電位を卑な方向(還元側)に走査する過程を充電と称し、作用極の電位を貴な方向(酸化側)に走査する過程を放電と称するものとする。
まず、初回充放電は0.1CAで、充電は0.0Vまで(定電位で0.05CAに到達するまで)、放電は1.5Vまで行った。2サイクル目以降の充放電は、充電は0.2CAで0.0Vまで(定電位で0.05CAに到達するまで)、放電は0.2CAで1.5Vまで行った。充放電は50サイクル繰り返した。評価温度は25℃とした。
初回充放電サイクルの放電容量と50サイクル目の放電容量から容量維持率を求めた。尚、容量維持率の定義は次のようにした。容量維持率(%)=(50サイクル目の放電容量/初回サイクルの放電容量)×100。結果を表1および表2に示す。尚、表1、表2に示す容量維持率は、負極活物質の重量あたりで算出した容量である。
50サイクル実施後に、試験用セルを解体して負極を取り出し、負極活物質層の状態観察を行った。負極活物質層が集電体に完全に残っている状態を「○」、一部剥がれ落ちているが半分以上残っている状態を「△」、半分以上剥がれ落ちている状態を「×」とした。結果を表1および表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示すように、本発明の負極(実施例1〜9)は、充放電サイクルを繰り返しても容量の低下がほとんど見られず、高い容量維持率を示した。また、負極活物質層の剥がれも見られなかった。一方、比較例1〜9の負極は、50サイクル後の容量の低下が大きかった。これは、比較例1〜9の負極は50サイクル後に負極活物質層が剥がれていることが確認されていることから、負極活物質の剥離により容量維持率が低下したものと考えられる。尚、比較例10〜12の負極は、容量維持率および50サイクル後の状態は良好であったが、解体調査の結果銅箔にしわが寄っており、負極活物質にクラックが生じていた。そのため、長期使用を行った場合、サイクル寿命は低下するものと考えられる。
【0050】
また、図2に示すように、本発明の負極(実施例1〜9)は、高い剥離強度が示された。一方、最大高さRyが0.5μm未満の銅箔を用いた比較例1〜3の負極や、局部山頂の平均間隔Sが負極活物質の平均粒子径の50〜500%の範囲外である比較例4〜9では、本発明の負極に比べ低い剥離強度となった。これは、負極活物質の一部または全部が凹凸の凹部に入ることが難しく、負極活物質を十分に支持できないことや、凹部凸部によるアンカー効果が不足するため、密着性を十分に得ることができなかったものと考えられる。尚、比較例10〜12は、最大高さRyを高く形成するため局所的な応力がかかり、90℃剥離試験の最中に銅箔が切断したため、剥離強度の測定はできなかった。
【0051】
【表2】

【0052】
表2に示すように、平均粒子径を30μmの負極活物質を用いた本発明の負極(実施例10〜18)は、平均粒子径10μmの負極活物質を用いた場合(実施例1〜9)と同様に、充放電サイクルを繰り返しても容量の低下がほとんど見られず、高い容量維持率を示した。また、負極活物質層の剥がれも見られなかった。比較例13〜21の負極は、50サイクル後の容量の低下が大きかった。これは、50サイクル後に負極活物質層が剥がれていることが確認されていることから、負極活物質の剥離により容量維持率が低下したものと考えられる。尚、比較例22〜24の負極は、容量維持率および50サイクル後の状態は良好であったが、解体調査の結果銅箔にしわが寄っており、負極活物質にクラックが生じていた。そのため、長期使用を行った場合、サイクル寿命は低下するものと考えられる。
【0053】
また、図3に示すように、平均粒子径を30μmの負極活物質を用いた本発明の負極(実施例10〜18)は、平均粒子径10μmの負極活物質を用いた場合(実施例1〜9)と同様に高い剥離強度が示された。一方、最大高さRyが0.5μm未満の銅箔を用いた比較例13〜15や、局部山頂の平均間隔Sが負極活物質の平均粒子径の50〜500%の範囲外である比較例16〜20では、本発明の負極に比べ低い剥離強度であった。これは、負極活物質の一部または全部が凹凸の凹部に入ることが難しく、負極活物質を十分に支持できないことや、凹部凸部によるアンカー効果が不足するため、密着性を十分に得ることができなかったものと考えられる。尚、比較例22〜24は、最大高さRyを高く形成するため局所的な応力がかかり、90℃剥離試験の最中に銅箔が切断したため、剥離強度の測定はできなかった。
以上のように、負極活物質の平均粒子径をそれぞれ変化(10μm、30μm)させた場合において同様の結果が得られ、更に、負極活物質の平均粒子径が10μm未満、30μm超過の場合においても、同様の結果を得ることが可能であった。
本発明のリチウムイオン二次電池負極は、ハンドリング性、充放電サイクル性に優れ、これを用いることにより優れた充放電サイクル特性を示すリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0054】
1………リチウムイオン二次電池
3………正極
5………負極
7………セパレータ
9………電池缶
11………正極リード
13………正極端子
15………負極リード
17………非水系電解液
19………封口体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔からなる負極集電体表面に、リチウムを吸蔵および放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層を有するリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記負極集電体表面は凹凸を有し、
前記負極集電体の前記凹凸を有する面の最大高さRy(JIS B0601−1994に規定される)が0.5〜5.0μmであり、
前記負極集電体の前記凹凸を有する面の局部山頂の平均間隔S(JIS B0601−1994に規定される)が、前記負極活物質の平均粒子径の50〜500%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
前記負極集電体の両表面に前記凹凸を有し、前記両表面に前記負極活物質層を有することを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
前記負極活物質が、炭素材料であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
前記請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の負極、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極、およびリチウムイオン伝導性を有する電解質を含むリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−258407(P2011−258407A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131715(P2010−131715)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【出願人】(000231626)日本製箔株式会社 (49)
【Fターム(参考)】