説明

リチウムイオン二次電池

【課題】大容量を有し、かつ、高温保存時の劣化を抑制し、かつ、充電時の熱安定性を確保する安全性の高い正極活物質を提供する。
【解決手段】組成式LiNiMnCo(ただし、Mは、Al、Ti及びMgからなる群から選択される少なくとも一種類以上の元素であり、Mは、Mo、W及びNbからなる群から選択される少なくとも一種類以上の元素であり、0.2≦x≦1.2、0.6≦a≦0.8、0.05≦b≦0.3、0.05≦c≦0.3、0.02≦d≦0.04、0.02≦e≦0.06、a+b+c+d+e=1.0である。)で表される正極活物質を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
プラグインハイブリッド自動車用電池としてリチウムイオン二次電池が採用されるためには、高い安全性を維持しながら、コストを低くし、体積を小さくし、軽量化し、高出力化することが必要とされているため、正極材料には、容量が大きく、かつ、安全性が高いことが要求される。
【0003】
正極材料としては、例えば、特許文献1に、二次粒子の一部はクラックを有し、クラックの断面に比べ表面部にMn、Al、Mg、Ca、Zr、B、W、Nb、Ta、In、Mo及びSnよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を有する活物質粒子が開示されている。しかし、特許文献1の正極材料の場合、短絡時、過充電時の安全性を向上させているが、安全性に寄与する添加元素の含有量が低いため、プラグインハイブリッド自動車のような大型用途の電池が要求する安全性を満たすことができない。
【0004】
また、特許文献2及び3においては、層状構造の正極活物質の表面にMoを含む化合物を被覆することによりサイクル特性を改善している。しかし、特許文献2及び3の正極活物質では活物質に占める希少金属であるCoの含有量が高く、プラグインハイブリッド自動車のような大容量のリチウムイオン二次電池を必要とする場合、コストが上がるため、大型用途への展開は困難である。
【0005】
特許文献4には、高容量で、熱安定性が高い電気化学素子用電極を提供することを目的として、Li、Ni、Mn及びCo、並びに、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、Al、Ge、Sn、Mg、Ag、Ta、Nb、B、P、Zr、W及びGaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む電気化学素子用電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−018985号公報
【特許文献2】特開2008−140747号公報
【特許文献3】特開2007−273441号公報
【特許文献4】特開2010−73686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、大容量を有し、かつ、高温保存時の劣化を抑制し、かつ、充電時の熱安定性を確保する安全性の高い正極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の正極活物質は、組成式LiNiMnCo(ただし、Mは、Al、Ti及びMgからなる群から選択される少なくとも一種類以上の元素であり、Mは、Mo、W及びNbからなる群から選択される少なくとも一種類以上の元素であり、0.2≦x≦1.2、0.6≦a≦0.8、0.05≦b≦0.3、0.05≦c≦0.3、0.02≦d≦0.04、0.02≦e≦0.06、a+b+c+d+e=1.0である。)で表されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プラグインハイブリッド自動車用電池に用いる大容量を有し、かつ、高温保存時の劣化を抑制し、かつ、充電時の熱安定性を確保する安全性の高い正極活物質、この正極活物質を含むリチウムイオン二次電池用正極材料及びこのリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】充電状態の正極材料と電解液とを混合して昇温した際のDSC測定結果を示すグラフである。
【図2】リチウムイオン二次電池の全体構成を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、容量が大きく、出力が高く、かつ、安全性が高い正極活物質、この正極活物質を含むリチウムイオン二次電池用正極材料及びこのリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【0012】
組成式LiMO(Mは遷移金属である。)で表される層状系の正極材料において大容量を得るためには、遷移金属層中のNi含有量を増やす必要がある。
【0013】
しかし、高Ni含有量の正極材料は、Mnなどの他の遷移金属に比べて充電時の構造安定性が低く、内部短絡などにより電池の温度が上昇した際に比較的低温でも、正極材料中から放出された酸素と電解液とが反応し、大きな発熱反応が起こるため、電池が発火および破裂に至る危険性がある。ここで、高Ni含有量は、遷移金属並びに添加元素M及びMの総量におけるNi含有量が高いことを意味する。
【0014】
以下、本実施形態の特徴について記載する。
【0015】
本実施形態のリチウムイオン正極活物質は、組成式LiNiMnCoで表される。式中、Mは、Al、Ti及びMgからなる群から選択される少なくとも一種類以上の元素であり、Mは、Mo、W及びNbからなる群から選択される少なくとも一種類以上の元素である。また、0.2≦x≦1.2、0.6≦a≦0.8、0.05≦b≦0.3、0.05≦c≦0.3、0.02≦d≦0.04、0.02≦e≦0.06、a+b+c+d+e=1.0である。
【0016】
高Ni含有量の正極活物質は、大容量が得られるが、充電時の保存特性および熱安定性が低いという欠点がある。
【0017】
そこで、高Ni含有量の正極活物質にAl、Ti及びMgからなる群から選択される少なくとも一種類以上の元素を添加し、抵抗上昇を抑制することにより、充電状態の保存特性を改善した。また、Mo、W及びNbからなる群から選択される少なくとも一種類以上の元素を添加し、発熱量を小さく抑えることにより、充電状態の熱安定性を改善した。
【0018】
実施例の正極活物質は、添加元素なしの高Ni含有の正極活物質と比較し、電解液と共に昇温した際の発熱量を大幅に低減できる。このため、電池が昇温した際に発火および破裂に至る可能性を低減することができる。
【0019】
したがって、実施例の正極活物質を用いることにより、昇温した際に発火などに至る可能性を低減させたリチウムイオン二次電池用正極材料及びリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0020】
ここで、正極活物質のLiの量は、0.2≦x≦1.2である。x<0.2の場合、充電状態においてLi層に含まれるLiの量が少なく、層状の結晶構造を維持できない。また、1.2<xの場合、複合酸化物における遷移金属の量が減少し、容量が低下する。
【0021】
Niの量は、0.6≦a≦0.8である。a<0.6の場合、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。また、a>0.8の場合、Ni以外の他の元素の相対的な含有量が減少し、熱安定性が低下する。
【0022】
Mnの量は、0.05≦b≦0.3である。b<0.05の場合、充電状態における構造が不安定になり、正極からの酸素放出温度が低下する。また、b>0.3の場合、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。
【0023】
Coの量は、0.05≦c≦0.3である。c<0.05の場合、充電状態における構造が不安定になり、充放電における正極活物質の体積変化が大きくなる。また、c>0.3の場合、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。
【0024】
の量は、0.02≦d≦0.04である。d<0.02の場合、高温保存時の劣化を抑制することができない。また、d>0.04の場合、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。
【0025】
の量は、0.02≦e≦0.06である。e<0.02の場合、充電時の熱安定性を確保することができない。また、e>0.06の場合、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。
【0026】
すなわち、上記の所定量のM及びMを含む正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、高温保存時の劣化を抑制することができ、かつ、充電時の熱安定性を確保することができる。
【0027】
(正極活物質の作製)
原料として、Ni、Mn、Co、M及びMのうち、いずれか一種類以上の元素を含む酸化物を使用し、所定の原子比となるように秤量した後、純水を加えスラリーとした。ただし、Mのみ目的の組成の含有量の半分の量を用いた。
【0028】
このスラリーを平均粒径が0.2μmとなるまでジルコニアのビーズミルで粉砕した。このスラリーにポリビニルアルコール(PVA)溶液を固形分比に換算して1wt.%添加し、更に1時間混合し、スプレードライヤ−により造粒および乾燥させた。その後、600℃で20時間焼成することにより、各元素が均一に分布した粒子を得た。その後、この粒子に、目的の組成の含有量の半分の量に相当するMの酸化物をビーズミルで平均粒径が0.2μmとなるまで粉砕したものを加えた。ここで、wt.%は、重量基準の割合を表す単位である。
【0029】
次に、この粒子に対し、Li:(Ni、Mn、Co、M及びM)比(すなわち、LiとNi、Mn、Co、M及びMとの比)が1.05:1となるように水酸化リチウムおよび炭酸リチウムを加え、850℃で20時間焼成することにより層状構造の結晶を有する正極活物質1を得た。
【0030】
正極活物質の作製方法は、上記の方法に限定されず、共沈法など、他の方法を用いてもよい。
【0031】
同様に、上記の作製方法を用いて正極活物質2〜11及び14〜23を合成した。
【0032】
正極活物質12及び13については、リチウム以外の金属の組成比(原子比)は同じであるが、二段階に分けて加えるMの割合を変更した。ここで、表面部のMの含有量を粒子内部のMの含有量で除したものを(表面部のM)/(内部のM)と定義した。
【0033】
表1は、正極活物質1〜23についてリチウム以外の金属の組成比(原子比)を示したものである。
【0034】
表2は、一段階目に加えたMの含有量、二段階目に加えたMの含有量、及び(表面部のM)/(内部のM)を示したものである。
【0035】
ここで、粒子の表面部及び内部における元素の含有量は、オージェ電子分光を用いて測定した。電子銃は、熱放射型で加速電圧5.0kV、ビーム電流90nAの条件でNi、Mn、Co、Al、Mo及びOの原子濃度を測定した。イオン銃の条件は、加速電圧3.0kV、イオン種Ar、ラスターサイズ3mm×3mmであり、試料傾斜30degで深さ方向分析を行った。測定深度は、SiO換算で行い、深さ30nmにおける元素の含有量を表面部のM、深さ300nmにおける元素の含有量を内部のMと定義した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【実施例1】
【0038】
(試作電池)
正極活物質1と炭素系導電剤とを重量比で85:10.7になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。正極活物質1と炭素系導電剤との混合材料と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解した結着剤とを、混合材料と結着剤とが重量比で95.7:4.3になるように混合した。
【0039】
均一に混合されたスラリーを厚さ20μmの箔状アルミ集電体の表面に塗布した後、120℃で乾燥し、プレスにて電極密度が2.7×10kg/mになるように圧縮成形した。その後、直径15mmの円盤状に打ち抜き、正極を作製した。
【0040】
作製した正極、及び金属リチウムを負極、非水電解液(エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを体積比で1:2とした混合溶媒に1.0モル/リットルのLiPFを溶解させたもの)を用いて試作電池を作製した。
【0041】
次に、前述の試作電池を用いて以下の試験を行った。
【0042】
(充放電試験)
0.1Cで上限電圧を4.3Vとし、下限電圧を2.7Vとして充放電を3回繰り返して初期化した。さらに、0.1Cで上限電圧を4.3Vとし、下限電圧を2.7Vとして充放電を行い、放電容量を測定した。
【0043】
実施例1、2及び5〜13並びに比較例1、3及び5〜8においては、得られた放電容量を後述する比較例1の放電容量で除した値を容量比とした。
【0044】
また、実施例3及び4並びに比較例2及び4においては、得られた放電容量の値を後述する比較例2の放電容量の値で除した値を容量比とした。
【0045】
(示差走査熱量測定)
4.3Vまで定電流/定電圧で充電した後、電極を試験電池から取り出し、DMCで洗浄した。その後、直径3.5mmの円盤状に打ち抜き、サンプルパンに入れ、電解液を1μL(マイクロリットル)加えて密封した。
【0046】
この試料を室温から400℃まで5℃/minで昇温させた時の発熱挙動を調べた。
【0047】
実施例1、2及び5〜13並びに比較例1、3及び5〜8においては、得られた発熱量を後述する比較例1の発熱量で除した値を発熱量比とした。
【0048】
また、実施例3及び4並びに比較例2及び4においては、得られた発熱量を後述する比較例2の発熱量で除した値を発熱量比とした。
【0049】
(円筒型電池)
円筒型電池を作製するため、合成した正極活物質を用いた正極板1を塗布幅54mm、塗布長さ500mmとなるように切断し、電流を取り出すためにアルミニウム箔製のリード片を溶接して正極板を作製した。
【0050】
次に、この正極板と組み合わせる負極板を作製した。
【0051】
負極活物質の黒鉛系炭素材を結着剤のNMPに混合して溶解し、負極合材スラリーを作製した。このとき、非晶質炭素材と結着剤との乾燥重量比が92:8となるようにした。
【0052】
この負極合材スラリーを10μmの圧延銅箔に均一に塗布した。その後、ロールプレス機により圧縮成形し、塗布幅56mm、塗布長さ540mmとなるように切断し、銅箔製のリード片を溶接して負極板を作製した。
【0053】
図2は、リチウムイオン二次電池を示す断面図である。
【0054】
上述のようにして作製した正極板及び負極板を用いて、本図に示す円筒型電池を作製した。この手順について図2を用いて説明する。
【0055】
始めに、正極板3と負極板4とが直接接触しないように、正極板3と負極板4と間にセパレータ5を配置して捲回し、電極群を作製した。このとき、正極板のリード片6と負極板のリード片7とが電極群の互いに反対側の両端面に位置するようにした。さらに、正極板3と負極板4との配置で、正極の合材塗布部が負極の合材塗布部からはみ出すことがないようにした。また、ここで用いたセパレータ5は、厚さ25μm、幅58mmの微多孔性ポリプロピレンフィルムとした。
【0056】
次に、電極群をSUS製の電池缶9に挿入し、負極リード片7を缶底部に溶接し、正極電流端子を兼ねる密閉蓋部8に正極リード片6を溶接した。この電極群を配置した電池缶9に非水電解液(エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを体積比で1:2とした混合溶媒に1.0モル/リットルのLiPFを溶解させたもの)を注入した後、パッキン10を取り付けた密閉蓋部8を電池缶9にかしめて密閉し、直径18mm、長さ65mmの円筒型電池とした。ここで、密閉蓋部8には電池内の圧力が上昇すると開裂して電池内部の圧力を逃がす開裂弁が設けてあり、密閉蓋部8と電極群との間、及び電池缶9の底部と電極群との間に絶縁板11を配してある。
【0057】
次に、前述の円筒型電池を用いて以下の試験を行った。
【0058】
(充放電試験)
0.3Cで上限電圧を4.2Vとし、下限電圧を2.7Vとして充放電を3回繰り返して初期化した。さらに、0.3Cで上限電圧を4.2Vとし、下限電圧を2.7Vとして充放電を行い、電池放電容量を測定した。
【0059】
(抵抗測定)
0.3Cで上限電圧4.2V、5時間の定電流定電圧充電を行った後、1C相当で下限電圧2.7Vまでの定電流放電を実施し、放電前の開回路電圧と放電10秒後の電圧とを測定し、両者の差である電圧降下(ΔV)を求めた。さらに、放電電流の条件を3C相当、6C相当に変え、同様の充放電を行って各放電電流(I)の電圧降下を測定した。
【0060】
これらの放電電流(I)及び電圧降下(ΔV)をプロットし、傾きから電池抵抗を算出した。次に、電池充電状態が50%の開回路電圧と電池抵抗とから電池出力を求めた。さらに、この電池をSOC90%の状態で50℃の恒温槽に3カ月保存した後、再び、電池抵抗を測定した。
【0061】
後述する実施例14及び15並びに比較例9〜11においては、得られた放電容量を比較例9の放電容量で除した値を容量比とした。
【0062】
また、実施例14及び15並びに比較例9〜11においては、得られた電池抵抗を比較例9の電池抵抗で除した値を抵抗比とした。
【0063】
また、本実施例における試験電池および円筒型電池において使用する導電剤、結着剤、負極、電解液及び電解質は、本実施例にて説明したものに限定されるものではなく、例えば、以下のものを用いても良い。
【0064】
導電剤としては、黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0065】
結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ゴム系バインダなどが挙げられる。
【0066】
負極としては、黒鉛系炭素材料、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。
【0067】
電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどが挙げられる。
【0068】
電解質としては、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiN(CFSOなどが挙げられる。
【実施例2】
【0069】
実施例2においては、作製した正極活物質2を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【実施例3】
【0070】
実施例3においては、作製した正極活物質3を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【実施例4】
【0071】
実施例4においては、作製した正極活物質4を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【実施例5】
【0072】
実施例5においては、作製した正極活物質5を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【実施例6】
【0073】
実施例6においては、作製した正極活物質6を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【実施例7】
【0074】
実施例7においては、作製した正極活物質7を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【実施例8】
【0075】
実施例8においては、作製した正極活物質8を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【実施例9】
【0076】
実施例9においては、作製した正極活物質9を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【実施例10】
【0077】
実施例10においては、作製した正極活物質10を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【実施例11】
【0078】
実施例11においては、作製した正極活物質11を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【実施例12】
【0079】
実施例12においては、作製した正極活物質12を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【実施例13】
【0080】
実施例13においては、作製した正極活物質13を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【実施例14】
【0081】
実施例14においては、作製した正極活物質1を正極に用いて円筒型電池を作製した。本電池を用いて、充放電試験、及び高温保存時の抵抗上昇を測定した。
【実施例15】
【0082】
実施例15においては、作製した正極活物質5を正極に用いて円筒型電池を作製した。本電池を用いて、充放電試験、及び高温保存時の抵抗上昇を測定した。
【0083】
〔比較例1〕
比較例1においては、作製した正極活物質14を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【0084】
〔比較例2〕
比較例2においては、作製した正極活物質15を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【0085】
〔比較例3〕
比較例3においては、作製した正極活物質16を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【0086】
〔比較例4〕
比較例4においては、作製した正極活物質17を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【0087】
〔比較例5〕
比較例5においては、作製した正極活物質18を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【0088】
〔比較例6〕
比較例6においては、作製した正極活物質19を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【0089】
〔比較例7〕
比較例7においては、作製した正極活物質20を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【0090】
〔比較例8〕
比較例8においては、作製した正極活物質21を用いた以外は、実施例1と同様の方法で試作電池を作製し、充放電試験及び示差走査熱量測定を行った。
【0091】
〔比較例9〕
比較例9においては、作製した正極活物質14を正極に用いて円筒型電池を作製した。本電池を用いて、充放電試験、及び高温保存時の抵抗上昇を測定した。
【0092】
〔比較例10〕
比較例10においては、作製した正極活物質22を正極に用いて円筒型電池を作製した。本電池を用いて、充放電試験、及び高温保存時の抵抗上昇を測定した。
【0093】
〔比較例11〕
比較例11においては、作製した正極活物質23を正極に用いて円筒型電池を作製した。本電池を用いて、充放電試験、及び高温保存時の抵抗上昇を測定した。
【0094】
表3は、実施例1〜11及び比較例1〜8の容量比及び発熱量比を示したものである。
【0095】
表4は、実施例3及び4並びに比較例2及び4の容量比及び発熱量比を示したものである。
【0096】
表5は、実施例1、12及び13の容量比及び発熱量比を示したものである。
【0097】
表6は、実施例1、12及び13の容量比及び発熱量比を示したものである。
【0098】
【表3】

【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【0101】
【表6】

【0102】
表3より、実施例1、2及び5〜11においては、比較例1と比べて、放電容量は大きく、発熱量は小さいという結果が得られた。
【0103】
放電容量が大きい値を示したのは、それぞれの実施例で選択した正極材料が、遷移金属層中にNiを多く含むためであると考えられる。また、発熱量が小さいのは、充電状態の熱安定性を向上するM(Mo、W及びNb)が2%以上含まれているためであると考えられる。
【0104】
一方、比較例3及び5〜8においては、放電容量の向上および発熱量の低減を両立することは出来なかった。比較例3においては、Niの含有量が85%と多いため、発熱量が増加した。比較例5においては、Alの含有量が6%と多いため、放電容量が低下した。比較例6及び8においては、Moの含有量が1%および0%と少ないため、熱安定性向上の効果が小さく、発熱量が増加した。比較例7においては、Moの含有量が6%と多いため、放電容量が低下した。
【0105】
表4より、実施例3及び4においては、比較例2と比べて、放電容量は大きく、発熱量は小さいという結果が得られた。
【0106】
放電容量が大きい値を示したのは、それぞれの実施例で選択した正極材料が、遷移金属層中にNiを多く含むためであると考えられる。また、発熱量が小さいのは、充電状態の熱安定性を向上するMoが2%以上存在していたためであると考えられる。
【0107】
一方、比較例4においては、放電容量の向上および発熱量の低減を両立することは出来なかった。放電容量が低下したのは、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が55%と低いためである。
【0108】
表5より、実施例12及び13においては、比較例1と比べて、放電容量は大きく、発熱量は小さいという結果が得られた。しかし、実施例1と比較すると発熱量比が増加した。これは、実施例12及び13においては、実施例1より表面部に存在するMoの含有量が低いためである。主に正極の表面部で起こる電解液と正極との発熱反応は、正極の熱安定性を向上するMoが表面部に多く含まれることにより、抑制されるためである。
【0109】
よって、(表面部のM含有量)/(内部のM含有量)が少なくとも1.09以上であれば好ましい。さらに、(表面部のM含有量)/(内部のM含有量)は、1.42以下であることが好ましい。
【0110】
表6より、実施例14及び15においては、比較例9と比べて、放電容量が高温保存時の抵抗の上昇を5%以上抑制することができることがわかる。
【0111】
一方、比較例10及び11においては、放電容量の向上および高温保存時の抵抗上昇抑制を両立することは出来なかった。これは、Alの含有量が2%未満と少なく、抵抗上昇の抑制は2%以下と非常に低い値であった。この結果から、抵抗上昇の抑制には、Alの含有量が2%以上であることが必要であることがわかる。
【0112】
図1は、実施例1および比較例1のDSC測定結果を示したものである。
【0113】
本図において、実施例1には顕著な発熱ピークがない。これに対して、比較例1には、280℃付近に発熱ピークがある。
【0114】
リチウムイオン二次電池の正極に本実施形態で示した活物質を用いることにより、プラグインハイブリッド自動車用電池に要求される高容量、かつ高安全を達成することができるリチウムイオン二次電池用正極材料を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極材料に利用可能であり、プラグインハイブリッド自動車用のリチウムイオン二次電池に利用可能である。
【符号の説明】
【0116】
3:正極板、4:負極板、5:セパレータ、6、7:リード片、8:密閉蓋部、9:電池缶、10:パッキン、11:絶縁板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式LiNiMnCo(ただし、Mは、Al、Ti及びMgからなる群から選択される少なくとも一種類以上の元素であり、Mは、Mo、W及びNbからなる群から選択される少なくとも一種類以上の元素であり、0.2≦x≦1.2、0.6≦a≦0.8、0.05≦b≦0.3、0.05≦c≦0.3、0.02≦d≦0.04、0.02≦e≦0.06、a+b+c+d+e=1.0である。)で表されることを特徴とする正極活物質。
【請求項2】
前記組成式のaの範囲が0.7≦a≦0.8であることを特徴とする請求項1記載の正極活物質。
【請求項3】
前記組成式のeの範囲が0.04≦e≦0.06であることを特徴とする請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の正極活物質を含む粒子で構成され、前記粒子に含まれるMの濃度は、前記粒子の内部に比べて前記粒子の表面部の方が高いことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項5】
前記粒子に含まれるMの濃度は、1.09≦(表面部のM含有量)/(内部のM含有量)を満たすことを特徴とする請求項4記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項6】
前記粒子に含まれるMの濃度は、さらに、(表面部のM含有量)/(内部のM含有量)≦1.42を満たすことを特徴とする請求項5記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項7】
リチウムを吸蔵放出可能な正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極と、が非水電解質及びセパレータを介して配置されるリチウムイオン二次電池において、前記正極は、請求項4記載のリチウムイオン二次電池用正極材料を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−14887(P2012−14887A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148424(P2010−148424)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発 要素技術開発 高出力可能な高エネルギー密度型リチウムイオン電池の研究開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】