説明

リチウムイオン伝導性複合膜、複合負極および電池

【課題】電池等の組付品への組み付け性を高め、更に、リチウムイオン伝導性および高い遮水性に優れたリチウムイオン伝導性複合膜、複合負極および電池が提供される。
【解決手段】リチウムイオン伝導性複合膜は、リチウムイオン伝導性を有する高分子電解質膜で形成され表面をもつベース膜と、ベースの表面に被覆されたリチウムイオン伝導性および遮水性を有する厚み2000ナノメートル以下のガラスセラミックス薄膜とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性を有するリチウムイオン伝導性複合膜、複合負極および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー問題や環境問題を背景にして、高いエネルギー密度を有する二次電池の開発が期待されている。特に、水溶液系電解液を用いたリチウム−空気二次電池の報告がなされている(特許文献1)。この水溶液系電解液を用いたリチウム−空気二次電池は、金属リチウムで形成された負極と水溶液系電解液との間に、高い遮水性をもつNASICON型の高リチウムイオン伝導性をもつガラスセラミック(以下、LATPと省略することもある)と、このガラスセラミックスと金属リチウム負極との反応を防止する為に、反応防止層からなるリチウム保護膜を備える。ガラスセラミックスは、Li1-x(M, Al, Ga)x(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3の組成式を有することが好ましい。
【0003】
リチウム−空気二次電池では、リチウムリン酸窒化物(LiPON)(特許文献1)や、PEO系高分子電解質(非特許文献1)を反応防止層として用いたセル構成によって、リチウムイオンの出入りを確保しつつ、金属リチウムで形成された負極と水とが反応することを防止している。この場合には、電解液として、水溶液系電解液の使用が可能となる。従って、非水系電解液を用いたリチウム−空気二次電池と比較して、正極での電極反応速度が大幅に向上し、過電圧の低下や正極触媒量の低減が期待できる。更には、放電生成物であるLiOHを電解液中に溶解して保存することが可能となる。更に、非水系電解液を使用する場合において問題となる不具合、即ち、放電生成物(Li2O and/or Li2O2)による正極ガス拡散電極の閉塞抑制が期待できる。
【0004】
このような水溶液系電解質を用いたリチウム−空気二次電池構成において、水不透過性、つまり遮水性と、リチウムイオン伝導性とを併有するガラスセラミックス(LATP)が、最も重要な材料であると考えられる。LATPは、NASICON型の結晶構造をもつLiおよびM(M=Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導性材料で形成されたガラスセラミックスを意味し、高いリチウムイオン伝導率、水に対する高い遮断性を有すると言う優れた特性を有する。
【0005】
そのガラスセラミックス(LATP)の作製方法として、ゾル−ゲル法を用いる方法(非特許文献2)、無機粉体原料混合物を高温で溶融し、LATP粉末を一旦作製した後、その粉末を用いてCIP成形法により成形体を作製し、高温で焼結する方法(特許文献2,3)が知られている。これらの従来技術の方法で作製されるガラスセラミックス(LATP)成形体は、ガラスセラミックスであるため、機械的強度が低く、物理強度・靭性不足からガラスセラミックス自体に割れが発生し易いと言う問題がある。
【0006】
更に、上記したガラスセラミックス成形体によれば、緻密な成形体、高い遮水性をもつ成形体が得られ難いと言う問題がある。更に、従来技術で作製されるガラスセラミックス(LATP)薄板は、薄板というものの、通常的には数百μmとかなり厚く、水溶液系リチウム−空気二次電池に用いる場合には、厚み方向のイオン抵抗が高い(リチウムイオン伝導性が低い)と言う問題があり、更に、遮水性、大面積化との両立が難しいと言う問題がある。
【0007】
更に説明を加える。
【0008】
特許文献1は、金属リチウムで形成された負極と、正極と、負極と正極との間に設けられた電解液とを有すると共に、負極に隣接するようにリチウム保護膜を負極と電解液との間に備える電池を開示する。このリチウム保護膜は、Li1-x(M, Al, Ga)x(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3の組成よりなる遮水性を示すNASICON型の結晶構造をもつ高リチウムイオン伝導性ガラスセラミックと、そのガラスセラミックと負極の金属リチウムとの反応を防止する為に、リチウムリン酸窒化物(LiPON)等の反応防止層とからなる。この構成により、リチウムイオンの出入りを確保しつつ、負極の金属リチウムと水とを分離し、水溶液系電解液の利用を可能にしている。
【0009】
特許文献2には、無機粉体を溶融し、その粉体を含む成形体を焼成することからなる気孔率が10VOL%以下のリチウムイオン伝導性固体電解質が開示されている。このものによれば、リチウムイオン伝導度が25℃において1×10−4Scm−1以上とされている。
【0010】
特許文献3には、イオン導電性無機固体に形成されている空孔の一部または全部に、異なる組成物の材料が充填されているリチウムイオン導電性固体電解質が開示されている。
【0011】
非特許文献1には、水溶液系リチウム−空気二次電池の反応防止層として、PEO系高分子電解質膜を利用するものが開示されている。
【0012】
非特許文献2には、ゾル−ゲル法で形成されたNASICON型高リチウムイオン伝導性ガラスセラミックLi1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3の合成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2007-513464号公報
【特許文献2】特開2007-294429号公報
【特許文献3】特開2008-112661号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Tao Zhang et al., "Water-Stable Lithium Anode with the Three-Layer Construction forAqueous Lithium-Air Secondary Batteries", Electrochem. Solid-State Lett., vol. 12(7), P A132-A135,(2009) (三重大)
【非特許文献2】Xiaoxiong Xu et al., "Preparation and electrical properties of NASICON-type structured Li1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3galss-ceramics by the citric acid-assisted sol-gel ",Solid State Ionics, vol. 178, p29-34(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、電池等の組付品への組み付け性を高め、更に、リチウムイオン伝導性および高い遮水性に優れたリチウムイオン伝導性複合膜、複合負極および電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した水溶液系のリチウム−空気二次電池によれば、高い遮水性をもつリチウムイオン伝導性をもつガラスセラミックス(LATP)薄板を保護層として用いる。しかしながら、このようなガラスセラミックス(LATP)で形成された薄板は、前述したように、機械的強度が低く、靭性に乏しいため、電池の組み付け時に割れが発生しやすい。その割れ・亀裂によって、遮水性が損なわれることが考えられる。また、従来技術で作製されているガラスセラミックス(LATP)で形成されている薄板は、厚みが数百μmと厚く、水溶液系リチウム−空気二次電池に用いる場合、リチウムイオン伝導の抵抗が高く、電池性能を引き下げるという問題がある。
【0017】
それらの技術課題に対し、本発明者らは、リチウムイオン伝導性をもつ高分子電解質膜で形成されたベース膜の表面に、ガラスセラミックス(LATP)を薄膜化手段(例えばスパッタリング法)により、緻密で水遮蔽性を有するLATP薄膜を成膜することで、ベース膜に遮水性を付与し、水溶液系のリチウム−空気二次電池等の電池における電解質膜として用いる技術を発明した。
【0018】
(1)すなわち、本発明の様相1に係るリチウムイオン伝導性複合膜は、リチウムイオン伝導性を有する高分子電解質膜で形成され表面をもつベース膜と、ベースの表面に被覆されたリチウムイオン伝導性および遮水性を有する厚み2000ナノメートル以下のガラスセラミックス薄膜とを備える。
【0019】
ガラスセラミックス薄膜としては、NASICON型の結晶構造をもつLiおよびM(M=Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種)を主要成分として含むリチウムイオン伝導性材料で形成されたガラスセラミックス薄膜が好ましい。このようなガラスセラミックス薄膜では、イオン伝導率が高く、水に対する遮断性(遮水性)が高いと言う優れた特性を有する。代表的なガラスセラミックス薄膜としては、Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3の組成よりなるLATPが好ましい。
【0020】
ベース膜は、リチウムイオン伝導性を有する高分子材料で形成されているため、ガラスセラミックス薄膜を積層させたとしても、リチウムイオン伝導性複合膜は屈曲性に優れている。このためリチウムイオン伝導性複合膜を電池等の組付品に組み付けるにあたり、組み付け性が良い。ガラスセラミックス薄膜は厚み2000ナノメートル以下と薄いため、厚み方向において良好なリチウムイオン伝導性を有する。ガラスセラミックス薄膜は厚み方向において遮水性を有するため、負極となる金属リチウムと水とを分離でき、水溶液系電解液の利用を可能にする。高い屈曲性、高いイオン伝導性等を考慮すると、ガラスセラミックス薄膜の厚みとしては、1500ナノメートル以下、1000ナノメートル以下、更に900ナノメートル以下、800ナノメートル以下が好ましい。ベース膜の厚みは特に限定されるものではないが、約10〜1000μm、約20〜500μm、約50〜200μmとすることができる。但しこれに限定されるものではない。
【0021】
本発明によれば、以下の様な利点が生ずる。
【0022】
・ガラスセラミックス(LATP)薄膜の厚みを薄くしているので、ガラスセラミックス(LATP)薄膜自身の屈曲性が向上している。更に、ガラスセラミックス薄膜が高分子電解質膜であるベース膜と一体化されているので、屈曲性が高められ、電池等の組付品に対する組み付け性が向上する。また、屈曲性が高められているため、ロールtoロールによる生産を容易にすることも可能であり、生産性を高めるのに有利である。
【0023】
・ガラスセラミックス(LATP)を成膜手段により薄膜化するため、アモルファス構造を有したガラスセラミックス(LATP)薄膜が形成され易くなる。この場合、緻密で高い遮水性をもつガラスセラミックス薄膜が形成される。また、ガラスセラミックス薄膜の大面積化も比較的容易である。成膜手段としては、例えば、スパッタリング法、特に、常温でのスパッタリング法、イオンプレーティング法を採用できる。
【0024】
・ガラスセラミックス(LATP)を成膜手段により薄膜化させているので、ガラスセラミックス(LATP)薄膜のバルク抵抗(面積抵抗)を低減させることが出来る。また、高分子電解質膜のベース膜の表面に成膜手段(例えばスパッタリング法、蒸着法、イオンプレーテイング法)により、ガラスセラミックス(LATP)薄膜を形成することができる。スパッタリングでは、ガラスセラミックス(LATP)の粒子(例えばスパッタ粒子)が高分子電解質のベース膜の表面から内部へ一部侵入することがあるため、高分子電解質で形成されたベース膜とガラスセラミックス(LATP)薄膜との界面抵抗を低下させることが出来る。更に、ベース膜とガラスセラミックス(LATP)薄膜との一体接合性を高め得る。これらのバルク及び界面抵抗の低減により、電池性能の向上が期待できる。
【0025】
(2)本発明の様相2に係るリチウムイオン伝導性複合膜によれば、上記様相において、ガラスセラミックス薄膜の母材は、Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)で示される組成式で表され、x=0〜0.8であり、y=0〜1.0であり、M=Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種である。この場合、ガラスセラミックス薄膜のイオン伝導性が確保される。M=Al,Ga,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種を意味する。Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)が挙げられる。xは0〜0.8の範囲、特に0.1〜0.7の範囲が好ましい。yは0〜1.0の範囲、特に0.1〜0.9の範囲が好ましい。Li1.35Ti1.75Al0.25P0.9Si0.1O12が例示される。このガラスセラミックス薄膜では、ガラス相がセラミックス粒子の粒界を埋めていると考えられる。
【0026】
このようなイオン伝導性をもつガラスセラミックス薄膜は、酸化物無機固体電解質である。厚み方向のイオン伝導性としては1×10−5S/cm(25℃)以上、1×10−4S/cm(25℃)以上、1×10−3S/cm(25℃)以上が例示される。イオン伝導性をもつガラスセラミックス薄膜の厚みとしては、屈曲性の向上、リチウムイオン伝導性の向上を考慮すると、10〜2000ナノメートル、20〜1000ナノメートルが好ましい。
【0027】
(3)本発明の様相3に係るリチウムイオン伝導性複合膜によれば、上記様相において、ガラスセラミックス薄膜は、ベース膜にスパッタリングして形成されたスパッタリング層で形成されている。ガラスセラミックス薄膜がスパッタリング層であれば、肉厚が薄くできる。例えば1000ナノメートル以下と薄くできる。このため、高い屈曲性が得られると共に、ガラスセラミックス薄膜の厚み方向のイオン伝導性が良好に確保される。スパッタリング層であるガラスセラミックス薄膜はアモルファス化され易い。アモルファス化が進行すれば、ガラスセラミックス薄膜における結晶粒界が消失または減少しており、結晶粒界における水透過が抑制され、高い遮水性が得られる。
【0028】
(4)本発明の様相4に係るリチウムイオン伝導性複合膜によれば、上記様相において、ガラスセラミックス薄膜の厚みは40〜1000ナノメートルである。ガラスセラミックス薄膜の厚みがこのように薄ければ、複合膜の高い屈曲性が得られると共に、ガラスセラミックス薄膜の厚み方向のイオン伝導性が良好に確保される。ガラスセラミックス薄膜の厚みがこのように薄ければ、ガラスセラミックス薄膜はアモルファス化され易い。アモルファス化が進行すれば、ガラスセラミックス薄膜における結晶粒界が消失または減少しており、結晶粒界における水透過が抑制され、高い遮水性が得られる。屈曲性、遮水性等を考慮すると、ガラスセラミックス薄膜の厚みとしては、40〜900ナノメートル、50〜800ナノメートル、100〜700ナノメートル、200〜600ナノメートルが好ましい。
【0029】
(5)本発明の様相5に係るリチウムイオン伝導性複合膜によれば、上記様相において、ベース膜は吸湿性を有するリチウム塩を含む。これによりベース膜における厚み方向のリチウムイオン伝導性が得られる。リチウム塩としては、リチウム塩化物(LiCl)、リチウム硫化物(LiSO4)、Li硝酸物(LiNO3)、Liリンフッ化物(LiPF6)、Li過塩素酸物(LiClO4)、Liフッ化ホウ素(LiBF4)、リチウム臭化物(LiBr)、リチウムヨウ化物(LiI)等のうちの少なくとも1種が例示される。リチウム塩の含有量としては、5〜40、10〜30wt%が好ましい。ベース膜としては、PEO系(ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide)のポリマー固体電解質、ポリテトラメチレングリコール(polyoxytetramethylene glycol)のポリマー固体電解質、ポリプロピレンオキシド(polypropyleneoxide)のポリマー固体電解質が例示される。
【0030】
(6)本発明の様相6に係る複合負極は、金属リチウムを含む負極と、負極に被覆された上記様相のリチウムイオン伝導性複合膜とを備える。ベース膜は、リチウムイオン伝導性を有する高分子材料で形成されているため、ガラスセラミックス薄膜がベース膜に積層されているとしても、リチウムイオン伝導性複合膜は屈曲性に優れている。このためリチウムイオン伝導性複合膜を電池等の組付品に組み付けるにあたり、組み付け性が良い。ガラスセラミックス薄膜は厚み方向において高いリチウムイオン伝導性を有する。ガラスセラミックス薄膜は厚み方向に遮水性を有するため、負極となる金属リチウムと水とを分離でき、水溶液系電解液の利用を可能にする。負極は金属リチウムを含む。金属リチウムはリチウム単体でも良いし、リチウム合金でも良い。
【0031】
(7)本発明の様相7に係る電池は、負極と、正極と、負極および正極で挟まれた水溶液系電解質とを具備しており、負極は、上記した様相に記載されている複合負極で形成されている。ベース膜は、リチウムイオン伝導性を有する高分子材料で形成されているため、ガラスセラミックス薄膜がベース膜に積層されているとしても、リチウムイオン伝導性複合膜は屈曲性に優れている。このためリチウムイオン伝導性複合膜を電池等の組付品に組み付けるにあたり、組み付け性が良い。ガラスセラミックス薄膜は厚み方向においてリチウムイオン伝導性を有する。ガラスセラミックス薄膜は厚み方向に遮水性を有するため、負極となる金属リチウムと水とを分離でき、水溶液系電解液の利用を可能にする。従って、電解質は水溶液系電解液とすることができる。水溶液系電解質としては、公知のものを採用でき、LiOH,LiCl,LiBr,LiI,LiNO3,NaOH,NaCl,KOH,KClの水溶液系電解液が挙げられる。殊に、ガラスセラミックス薄膜の安静性を考慮すると、pH4〜12、pH6〜11の中性域を示す水溶液系電解液が好ましい。負極はリチウム単体、リチウム系合金が挙げられる。正極は、空気等の酸素含有ガスを透過できる多孔質であることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、屈曲性を高め、電池等の組付品への組み付け性を高め、更に、リチウムイオン伝導性および高い遮水性に優れたリチウムイオン伝導性複合膜が得られる。更に、このような作用効果を有するリチウムイオン伝導性複合膜を備える複合負極を提供することができる。更にこのような作用効果を有するリチウムイオン伝導性複合膜を備える複合負極を有する電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1に係り、リチウムイオン伝導性複合膜を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例1に係り、リチウムイオン伝導性複合膜をもつ複合負極を模式的に示す断面図である。
【図3】実施例1に係り、リチウム−空気二次電池を模式的に示す断面図である。
【図4】水素透過試験の原理を示す図である。
【図5】水素ガス透過量と水蒸気透過量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0035】
(1)リチウムイオン伝導性をもつ高分子電解質膜で形成されたベース膜(反応防止層)の作製
アセトニトリル(和光純薬製、特級試薬をそのまま使用)100mLに、ポリエチレンオキサイド(アルドリッチ社製、分子量60万)5.0g、およびビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム塩(アルドリッチ社製)0.25gを、均一の溶液になるまで一昼夜攪拌した。これによりリチウムイオン伝導性をもつ高分子電解質溶液を調整した。
【0036】
その溶液を、クリアランス1000μmのドクターブレードを用いて成形を行い、100℃×8時間真空乾燥することによって、リチウムイオン伝導性をもつ高分子電解質膜で形成されたベース膜101を形成した。ベース膜101の厚みは約100μmとした。ベース膜101は、リチウムイオン伝導性をもつガラスセラミックス薄膜を成膜するためのものである。
【0037】
(2)リチウムイオン伝導性複合膜の作製
元素のモル比がLi1.4Al0.4Ti1.6P3O12を示す焼結体(高純度化学研究所製)をスパッタ用ターゲットとした。ターゲットについて強磁場スパッタ装置を成膜装置として用いる。すなわち、強磁場スパッタリング処理(成膜手段)することにより、リチウムイオン伝導性をもつガラスセラミックス薄膜103をベース膜101の表面に成膜させ、リチウムイオン伝導性複合膜100を形成した(図1参照)。
【0038】
図1に示すように、リチウムイオン伝導性複合膜100は、高分子電解質膜で形成されたベース膜101(厚み100マイクロメートル)と、ベース膜101の表面に積層されたガラスセラミックス薄膜103(厚み200ナノメートル)とを有する。このように製造したリチウムイオン伝導性複合膜100を実施例1に係る試験片として、後述するように試験した。
【0039】
なお、ガラスセラミックス薄膜103の成膜条件としては、成膜距離(ターゲットとベース膜101との間の距離)を150mm、RF放電を200W、Ar分圧を0.3Pa、成膜時間を6Hrとした。強磁場スパッタ装置における成膜距離は100mm以上とすることが好ましい。高分子系のベース膜101の熱損傷を抑えるためである。ベース膜101は、リチウムイオン伝導性を有する高分子材料で形成されているため、更にガラスセラミックス薄膜103がベース膜101に積層されているとしても、ガラスセラミックス薄膜103はバルクではなく、ナノメートル単位で表される薄膜状であるため、リチウムイオン伝導性複合膜100は屈曲性に優れている。
【0040】
(3)図2は複合負極200の断面を模式的に示す。図2に示すように、複合負極200は、金属リチウムで形成された板状の負極層201(厚み200マイクロメートル)に、リチウムイオン伝導性複合膜100を接合により積層させている。この場合、加熱した状態で両者を加圧して接合させて形成されている。負極層201の厚みは特に限定されるものではない。負極層201はリチウム単体、リチウム系合金が挙げられる。
【0041】
図3はリチウム−空気電池(二次電池)の断面を模式的に示す。図3に示すように、リチウム−空気電池は、上記した複合負極200と、空気を厚み方向に透過できるガス拡散電極(材質:カーボンペーパー(TGP))で形成された正極300と、複合負極200および正極300で挟まれた水溶液系電解液400(電解質)とを有する。図3に示す厚み方向(t方向)では、負極層201,ベース膜101,ガラスセラミックス薄膜103,水溶液電解液400,正極300の順に配置されている。
【0042】
ベース膜101は、リチウムイオン伝導性を有する高分子材料で形成されているため、しかもガラスセラミックス薄膜103は薄膜であるため、ガラスセラミックス薄膜103がベース膜101に積層されているとしても、リチウムイオン伝導性複合膜100は屈曲性に優れている。このためリチウムイオン伝導性複合膜100を電池等の組付品に組み付けるにあたり、組み付け性が良い。ガラスセラミックス薄膜103は厚み方向においてリチウムイオン伝導性を有する。ガラスセラミックス薄膜103は緻密で厚み方向に遮水性を有するため、負極となる金属リチウムと水とを分離でき、水溶液系電解液400の利用を可能にする。従って、電解質は水系電解液とすることができる。水溶液系電解液400としては、公知のものを採用でき、LiOH,LiCl,LiBr,LiI,LiNO3,NaOH,NaCl,KOH,KCl等のうちの少なくとも1種からなる水溶液系電解液が挙げられる。殊に、ガラスセラミックス薄膜103の安定性を考慮すると、水溶液系電解液400のpH4〜12、pH6〜11の中性域の水溶液系電解液が好ましい。濃度は0.001〜10mol/Lの範囲が好ましい。正極300は、空気等の酸素含有ガスを透過できるものの、水溶液系電解液400を漏出させない多孔質であることが好ましい。
【0043】
(4)比較例の作製
比較例としては、比較例1として、リチウムイオン伝導性をもつ上記した高分子電解質膜単体で形成された試験片(上記した実施例1と同様の方法で調整,ガラスセラミックス薄膜が積層されていないベース膜101に相当するもの,厚み100マイクロメートル)を用いた。比較例2として、現在、市場で入手可能なリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスで形成されたバルクとして機能する薄板(オハラ製,上記した高分子電解質膜を有しないもの,厚み250マイクロメートル、実施例1のガラスセラミックス薄膜103と同じ組成)で形成された試験片を用いた。比較例3として、比較例1に係る高分子電解質膜(厚み100マイクロメートル)と比較例2に係るガラスセラミックス薄板(厚み250マイクロメートル)とを加熱させて接合した試験片を用いた。
【0044】
(5)試験片の物性評価
実施例1に係る試験片、比較例1〜3に係る試験片について、物性評価を実施した。
(5−1)試験片の緻密性の評価:ガスクロマトグラフィー分析
試験片についての緻密性の評価は、分子サイズの小さい水素ガスリーク分析にて行った。水蒸気の透過性は、水素の透過性と相関性を有すると考えられるためである。測定方法としては、図4に示すようにした。ここで、評価セル温度を25℃、Hガス/Nガス=400ccm /200ccmとした。そして、HガスとNガスとをそれぞれ試験片の表裏に独立させて流した。H側からN側へ透過してくる透過水素ガス量をガスクロマトグラフィーで定量分析することにより、試験片の水素遮蔽性を評価した。ここで、水素ガスの透過量と水(水蒸気)の透過量とは、基本的には、互いに比例関係にあると考えられる(図5参照)。このため水素ガスの透過量を、水(水蒸気)の遮断性の指標として用いた。
(5−2)試験片のリチウムイオン伝導性の評価
比較例1に係る試験片、従来構造に相当する比較例3に係る試験片、実施例1に係る試験片を用い、集電体として機能する約3.5cm2の銅箔で試験片の裏表に配置した。更に、ガラス板で挟みこみ、クリップを用いて締結した。これを評価試料とした。また、リチウムイオン伝導性をもつガラスセラミックス薄板(オハラ製)に相当する比較例2に係る試験片を用い、集電体として機能するφ1.0cmの金箔を導電性ペーストで試験片に接着し、宝泉製HSセルを用いて締結し、評価試料とした。
【0045】
測定は、Solartron SI-1287,1260(製造元:ソーラトロン社製)を用い、評価温度を25℃、周波数範囲を1〜10×106Hzとし、四端子法交流インピーダンス測定を行い、得られた波形から各固体電解質膜の厚み方向のイオン抵抗を求めた。これを試験片のリチウムイオン伝導性の評価とした。
(5−3)屈曲性評価:
比較例1〜3に係る試験片、実施例1に係る試験片を、直径12cmの円筒管の外周面に巻きつけ、評価試料の割れおよび亀裂の有無を確認した。
(5−4)試験結果
試験結果を表1に示す。比較例1に係る試験片は、従来構成で使用しているリチウムイオン伝導性をもつ高分子電解質膜(t=100μm)で形成されている。比較例1に係る試験片では、抵抗が非常に小さく、リチウムイオン伝導性が優れており、更に、屈曲性の評価は◎であり、柔軟で屈曲性に優れた性能が得られ、組み付け性が優れている。しかしこの高分子電解質膜で形成された比較例1に係る試験片では、緻密性が無く、水素透過量が多く、遮水性に劣る電解質膜であった。
【0046】
【表1】

【0047】
一方、リチウムイオン伝導性をもつバルクとして機能するガラスセラミックス薄板(t=250μm)で形成されている比較例2に係る試験片では、水素透過量が低く、非常に高い緻密性を有しており、優れた水遮蔽性を有する。しかし比較例2に係る試験片では、その反面、抵抗が高くリチウムイオン伝導性が低く、しかもセラミックスであるため屈曲性の評価は×であり、柔軟性に乏しく、曲げられない電解質膜となっており、組み付け性が悪い。
【0048】
更に、従来構造に係る比較例3に係る試験片によれば、緻密性の高いバルクとして機能できるガラスセラミックス(LATP)薄板と、リチウムイオン導電性高分子電解質膜とで高緻密性のLi保護層を形成している。このため比較例3に係る試験片では、水素透過量が低く、ガス・水等に対して高い遮蔽性が得られているが、その背反事項として、負極全体の抵抗が非常に高くなっており、リチウムイオン伝導性が低下している。さらに比較例3に係る試験片では、屈曲性の評価は×であり、屈曲性の乏しい負極構成となり、組み付け性が低下している。これにより比較例3に係る試験片では、電池性能の低下、および組み付け性(安全性・大面積化)が大きな課題となっている。
【0049】
実施例1に係る試験片、即ち、ガラスセラミックス薄膜103(厚み:200ナノメートル程度)を、リチウムイオン伝導性をもつ高分子電解質膜で形成されたベース膜101(厚み:100マイクロメートル)の表面に、強磁場スパッタリング処理により成膜した複合膜で形成された試験片については、水素透過量が最も低く、高いガス・水遮蔽性を有する。実施例1に係る試験片では、緻密なガラスセラミックス薄膜103が厚み200ナノメートル程度として成膜されている構造となっている。このため比較例2とほぼ同等の水素ガス透過量(水素ガス遮蔽性,遮水性)が保持されたまま、高い屈曲性(柔軟性)を有する固体電解質膜が得られており、その特性から金属リチウム保護層として用いることが可能である。
【0050】
このような実施例1に係る複合膜100をリチウム保護層として用いた本発明の電池構造では、従来構造で課題となっていた高抵抗を示すLATP層を薄膜化をすることにより、負極全体の大幅な抵抗低減を可能としている。表1から理解できるように、実施例1では、比較例3に対して、抵抗を約1/5〜1/6に低減させており、リチウムイオン伝導性を高めている。
【0051】
また、実施例1に係る試験片では、水・ガス遮蔽性については、ガラスセラミックス(LATP)薄膜103としては厚みが200ナノメートル程度と非常に薄い層ではあるが、緻密であり、しかも、X線回折(XRD)で確認したところ、ガラスセラミックス薄膜103はアモルファス状とされていた。このため実施例1に係る試験片では、比較例3に係る従来構造とほぼ同等の水・ガス遮蔽性(水素遮蔽性)が維持されたまま、ガラスセラミックス(LATP)薄膜を薄膜化することによって、金属リチウムの保護層において柔軟性を付与することができ、高い屈曲性を得ることができる。
【0052】
以上説明したように本発明により、低抵抗(高電池性能)で、良好な組み付け性(安全性・大面積化)を有する水溶液系のリチウム−空気二次電池用の負極の構成が可能である。
【実施例2】
【0053】
上記した実施例1と同様に、強磁場スパッタリング処理で形成されたガラスセラミックス薄膜103をベース膜101に積層させて複合膜100(図1参照)を形成した。この場合、ガラスセラミックス薄膜103の厚みを200ナノメール(実施例A)、50ナノメートル(実施例B)、600ナノメートル(実施例C)、800ナノメートル(実施例D)と変更させた試験片を作成した。実施例A、実施例B、実施例C、実施例Dの試験片に対して、抵抗、水素透過量および屈曲性について前述同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
評価としては、実施例A〜Dについて、試験片の屈曲性の評価は全て◎であり、良好であった。実施例A〜Dの抵抗についても、40〜307Ωcmの範囲内であり、従来品に係る比較例3(572.64Ωcm)よりも小さく、良好であった。特に、実施例B,実施例A,実施例Cが良好であった。実施例A〜Dの水素透過量(遮水性に相当)についても、1.75〜4.53mL(H2)mm/seccm2cmHg)の範囲内であり、良好であった。水素透過量(遮水性に相当)については、特に、実施例A,実施例Cが良好であった。実施例Bでは、ガラスセラミックス薄膜が極めて薄いため、水素透過量は実施例A〜Dのうちで最も高かった。上記したように本発明によれば、電池等の組付品への組み付け性を高め、更に、リチウムイオン伝導性および遮水性に優れたリチウムイオン伝導性複合膜100、複合負極200および電池を提供することができる。
【0056】
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0057】
100は複合膜、101はベース膜、103はガラスセラミックス薄膜、200は複合負極、201は負極層、300は正極、400は水溶液電解液を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン伝導性を有する高分子電解質膜で形成され且つ表面をもつベース膜と、
前記ベースの表面に被覆されたリチウムイオン伝導性および遮水性を有する厚み2000ナノメートル以下のガラスセラミックス薄膜とを備えるリチウムイオン伝導性複合膜。
【請求項2】
請求項1において、前記ガラスセラミックス薄膜の母材は、Li1-xMx(Ge1-yTiy)2-x(PO4)で示される組成式で表され、x=0〜0.8であり、y=0〜1.0であり、M=Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybのうちの少なくとも1種であるリチウムイオン伝導性複合膜。
【請求項3】
請求項1または2において、前記ガラスセラミックス薄膜は、前記ベース膜にスパッタリングして形成されたスパッタリング層で形成されているリチウムイオン伝導性複合膜。
【請求項4】
請求項1〜3のうちの一項において、前記ガラスセラミックス薄膜の厚みは40〜1000ナノメートルであるリチウムイオン伝導性複合膜。
【請求項5】
請求項1〜4のうちの一項において、前記ベース膜は吸湿性を有するリチウム塩を含むリチウムイオン伝導性複合膜。
【請求項6】
金属リチウムを含む負極と、前記負極に被覆された請求項1〜3のうちの一項に記載されているリチウムイオン伝導性複合膜とを備える複合負極。
【請求項7】
負極と、正極と、前記負極および前記正極で挟まれた水溶液系電解質とを具備しており、前記負極は、請求項6に記載されている複合負極で形成されている電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−51127(P2013−51127A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188461(P2011−188461)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】