説明

リチウムイオン用途のための安定化リチウム金属粉末、組成物および製造方法

本発明は、実質的に連続なポリマー層によって保護されたリチウム金属粉末を提供する。このような実質的に連続なポリマー層では、典型的なCO不動態化などよりも改善された保護が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年8月31日に出願された米国仮出願第60/969,267号の利益を主張し、その内容全体が引用することにより本明細書に組み入れられる:。
【0002】
本発明は、改善された空気安定性および溶媒安定性を有し、より長い貯蔵寿命を有する安定化リチウム金属粉末(「SLMP」)に関する。このような改善されたSLMPは、有機金属およびポリマーの合成、一次リチウム電池、充電式リチウム電池、および充電式リチウムイオン電池などの多種多様な用途に使用することができる。
【背景技術】
【0003】
リチウムおよびリチウムイオンの二次電池または充電式電池は、近年、携帯電話、カムコーダー、およびラップトップコンピュータなどのある種の用途、さらにより最近では、電気自動車およびハイブリッド電気自動車などのより高出力の用途における使用が見出されている。二次電池は実現可能な最高比容量を有するが、安全な運転条件および良好なサイクル性が得られるように、高い比容量が後の再充電および放電のサイクル中に維持されることが、これらの用途では好ましい。
【0004】
二次電池には種々の構造が存在するが、それぞれの構造は、正極(またはカソード)、負極(またはアノード)、カソードとアノードとを分離するセパレータ、およびカソードとアノードとを電気化学的に連絡する電解質を含む。二次リチウム電池の場合、二次電池が放電するとき、すなわち、その個別の用途に使用されるときに、リチウムイオンが電解質を介してアノードからカソードに移動する。この過程の間に、電子がアノードから集められて、外部回路を通ってカソードまで移動する。二次電池が充電または再充電されるとき、リチウムイオンは電解質を介してカソードからアノードに移動する。
【0005】
歴史的には、二次リチウム電池はTiS、MoS、MnO、およびVなどの高い比容量を有する非リチオ化(non-lithiated)化合物をカソード活物質として使用して製造されていた。これらのカソード活物質はリチウム金属アノードとともに使用されることが多かった。この二次電池を放電させると、リチウムイオンは電解質を介してリチウム金属アノードからカソードに移動した。残念ながら、サイクル中、リチウム金属から樹枝状結晶が成長し、最終的にはそれによって電池の条件が安全でなくなった。その結果、リチウムイオン電池の方を好み、1990年代初期には、これらの種類の二次電池の製造は停止した。
【0006】
リチウムイオン電池は、典型的には、LiCoOおよびLiNiOなどのリチウム金属酸化物をカソード活物質として、炭素系アノードとともに使用する。これらの電池では、アノード上でのリチウム樹枝状結晶の形成は回避され、そのため電池はより安全となっている。しかし、その量が電池容量を決定するリチウムは、すべてカソードから供給される。これは、活物質が移動可能なリチウムを含有する必要があるため、カソード活物質の選択を限定する。さらに、LiCoOおよびLiNiOに対応する、充電中に形成される脱リチオ化(delithiated)生成物(たとえばLiCoOおよびLiNiO、式中0.4<x<1.0)および過充電中に形成される脱リチオ化生成物(すなわちLiCoOおよびLiNiO、式中x<0.4)は安定ではない。特に、これらの脱リチオ化生成物は、電解質と反応して熱を発生しやすく、このために安全上の問題が発生する。
【0007】
もう1つの選択はリチウム金属である。しかし、リチウム金属、特にリチウム金属粉末は表面積が大きいために、自然発火性であるために種々の用途での使用が妨げられ得る。米国特許第5,567,474号、米国特許第5,776,369号、および米国特許第5,976,403号(これらの開示全体が引用することにより本明細書に組み入れられる)などに記載されるように、金属粉末表面をCOで不動態化してリチウム金属粉末を安定させることが公知となっている。しかし、COで不動態化されたリチウム金属粉末は、リチウム金属と空気との反応のためにリチウム金属含有率が減少するまでの限られた時間で低水分の空気中でのみ使用することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、改善された安定性および貯蔵寿命を有する安定化リチウム金属粉末が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、実質的に連続なポリマー層で保護されたリチウム金属粉末を提供する。このような実質的に連続なポリマー層によって、典型的なCO不動態化などと比較して改善された保護が得られる。結果として得られるリチウム金属粉末は、改善された空気安定性および溶媒安定性、ならびに改善された貯蔵寿命を有する。さらに、電極製造プロセス中にスラリー溶媒として一般に使用され、保護されていないリチウムと反応するN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に対して、ポリマーで保護されたリチウム金属粉末ははるかに優れた安定性を示す。
【0010】
本発明の目的および利点は、添付の図面を参照しながら本発明の種々の実施形態を説明することによってより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】入手した状態のNMP(水分 <100ppm)および0.6%の水を添加したNMPに対するCOがコーティングされたSLMP(比較例2)のARSST安定性試験である。
【図2】0.6%の水を添加したNMPに対するPEOがコーティングされたSLMP(実施例2)のARSST安定性試験である。
【図3】0.6%の水を添加したNMPに対するEVAがコーティングされたSLMPのARSST安定性試験である(実施例10)。
【図4】0.6%の水を添加したNMPに対するSBRがコーティングされたSLMPのARSST安定性試験である(実施例7)。
【図5】0.6%の水を添加したNMPに対するBYK P 104がコーティングされた(低分子量ポリカルボン酸ポリマー)SLMPのARSST安定性試験である(実施例3)。
【図6】ポリマーがコーティングされたリチウムの電気化学的性能に対する影響を示している。
【図7】COがコーティングされたSLMPおよび実施例11のARSST安定性試験である。
【図8A】あるプロセスパラメータを使用して調製したサンプルのSEM画像である。
【図8B】あるプロセスパラメータを使用して調製したサンプルのSEM画像である。
【図8C】あるプロセスパラメータを使用して調製したサンプルのSEM画像である。
【図9A】時間の関数としての無水NMP中の金属リチウム濃度の比較である。
【図9B】時間の関数としての0.6%の水を添加したNMP中の金属リチウム濃度の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面中および以下の詳細な説明中で、本発明の実施を可能にするために、種々の実施形態を詳細に説明する。本発明はこれらの特定の実施形態を参照しながら説明されるが、本発明がこれらの実施形態に限定されるものではないことを理解されたい。逆に、本発明は、以下の詳細な説明および添付の図面を考慮すれば明らかとなるような多数の代案、修正、および同等物を含んでいる。
【0013】
本明細書において使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明の限定を意図するものではない。本明細書において使用される場合、用語「および/または」は、関連して列挙された項目の1つ以上の任意および全ての組み合わせを含む。本明細書において使用される場合、単数形「1つの(a、an)」および「その(the」」は、文脈が明らかに他の意味を示さない限り、複数形も含むことを意図している。用語「含む」(comprises)および/または「含むこと」(comprising)は、本明細書で使用される場合、記載の特徴、整数、ステップ、操作、要素、および/または成分の存在を明示しているが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、成分、および/またはそれらの群の存在または追加を除外するものではないことをさらに理解されたい。さらに、本発明の化合物または物質の量、線量、時間、温度などの測定可能な値に言及する場合に本明細書において使用される場合の用語「約」は、明記される量の20%、10%、5%、1%、0.5%、またはさらには0.1%のばらつきを含むことを意味している。
【0014】
特に定義しない限り、本明細書において使用されるすべての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般に理解されているものと同じ意味を有する。一般に使用されている辞書で定義されているような用語は、関連分野の文脈におけるそれらの意味と矛盾のない意味を有するものと解釈すべきであり、本明細書において明示的に定義されていない限り、理想化された意味や過度に形式的な意味では解釈されないことをさらに理解されたい。
【0015】
本明細書において言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、それらの記載内容全体が引用することにより本明細書に組み入れられる。しかし、本明細書における参考文献の引用は、そのような参考文献が本明細書に記載の本発明に対する先行技術となることを認めるものであると解釈すべきではない。
【0016】
本発明によると、リチウム分散体の調製が、リチウム金属粉末を炭化水素油中でその融点を超える温度に加熱するステップと、溶融したリチウムを分散させるのに十分な条件にさらすステップと、激しくかき混ぜるまたは撹拌するステップと、実質的に連続なポリマー層を得るために、この温度とリチウムの融点以上の温度との間の温度でリチウム金属粉末をポリマーと接触させるステップとによって行われる。実質的に連続なポリマー層は25〜200nmの厚さを有し、多くの場合80〜120nmの厚さを有する。ナトリウムおよびカリウムなどの他のアルカリ金属を本発明によりコーティングすることができる。
【0017】
好適なポリマーは、耐水性のポリマーであってよく、リチウムイオン伝導性であるか、またはたとえば一般的な電解質溶媒に対して可溶性である場合には非リチウムイオン伝導性であるポリマーであってよい。これらのポリマーはリチウムと反応する場合もあるし、リチウムと反応しない場合もある。以下は、ポリマー化合物の単なる例であり、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリホルムアルデヒド(デルリン(Delrin))、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックポリマー、エチレン酢酸ビニル、エチレンアクリル酸コポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリイミド、ポリチオフェン、ポリ(パラ−フェニレン)、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、シリカチタニアコポリマー、不飽和ポリカルボン酸ポリマー、およびポリシロキサンコポリマーなどが挙げられる。
【0018】
ポリマーは、分散中に導入してリチウム液滴と接触させることができるし、リチウム分散体が冷却された後のより低温で導入することもできる。異なる化学組成、分子量、融点、および硬度を有する異なる種類のポリマーの組み合わせが、特定の用途のための個別のコーティング特性を実現するために使用可能となっている。たとえば、ある程度の粘着性が要求される「転写剥離紙」の考え方を使用したSLMPの導入を可能にするために、粘着の程度を制御することができる。リチウム粒子の表面上にその場でポリマーコーティングを形成するために、モノマーも使用できる。
【0019】
さらに、空気安定性と極性溶媒安定性との両方を改善するために、ポリマーまたはポリマー混合物を一部の無機コーティング、たとえば、LiCO、LiF、LiPO、SiO、LiSiO、LiAlO、LiTiO、LiNbO、Al、SiO、SnO、ZrOなどと組み合わせると好都合であり、それによって、より安全な取り扱いと、一般的に使用されるポリマーバインダを溶解させる一般的に使用される極性溶媒の使用の可能性との両方が得られる。ほとんどのポリマーは高温の非極性溶媒に対して可溶であり、室温における溶解性が高い場合もあり(表2参照)、粒子から油を除去するために使用される洗浄溶媒は適切に選択すべきであることが認識されている。場合により、乾燥させた非安定化粉末または安定化粉末は、リチウムと適合性である非極性溶媒中に移すことができ、ポリマーコーティングは、たとえばロータバップ(rotovap)技術を使用して堆積することができ、これによって溶解性の問題を回避することができる。
【0020】
前述の好適なポリマーは、リチウム粒子上に2つの種類のコーティングを形成することができる。第1の種類は、物理型または付着型であり、第2の種類は、官能基を有するポリマーが使用される化学結合したコーティングである。たとえば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、およびポリスチレン(PS)は、Liとは反応しない炭素−水素基を有する。この種類のポリマーは、物理的なファンデルワールス相互作用によって炭素−水素分子をリチウム粒子の表面上に付着させることができるという点で、リチウム粒子のコーティング試薬として有用である。他方、たとえばポリ(アクリル酸)およびエチレン酢酸ビニルなどのポリマーは、酸官能基を含有するのでリチウムと反応し、そのため化学結合したコーティングを形成する。
【0021】
プロセスおよびプロセスパラメータ、ならびに試薬の添加順序を変化させることによって、異なる表面特性を有する、ポリマーがコートされたリチウム粒子を得ることができる。異なるプロセスパラメータによって、異なる表面特性を有するサンプルを得ることができる(図7参照)。反応界面を変化させることによって化学結合および保護層の均一性を向上させるために、他の分散剤(たとえばワックス)およびコーティング試薬の添加前または添加後にリチウムの融点より高温でポリマーまたはポリマー混合物を導入することができる。分散プロセス中にポリマーが導入される温度である冷却プロファイルを使用することで、結晶化度を制御することができ、あらかじめ決定された粘着の程度のサンプルを得ることができる。
【0022】
以下の実施例は、単に本発明の説明であって、本発明を限定するものではない。
【0023】
[比較例1]
電池グレードのリチウム金属(405g)を2×2インチの断片に切断し、一定流量の乾燥アルゴン下、室温で、固定高速撹拌機モータに接続された撹拌シャフトが取り付けられた4インチの上部を有する3リットルのステンレス鋼フラスコ反応器に投入した。反応器に上部マントルヒーターおよび底部マントルヒーターを取り付けた。次に反応器を組み立て、1041.4gのペネテック(Penetek)(商標)油(ペンレコ(Penreco))、ペンゾイル・プロダクツ・カンパニー(Penzoil Products Company)の一部門)を加えた。次に反応器を約200℃まで加熱し、250rpm〜800rpmの範囲内の穏やかな撹拌を維持することですべての金属を溶融させ、アルゴン流を加熱ステップ全体にわたって維持した。次に混合物を高速(最高10,000rpm)で2分間撹拌した。オレイン酸8.1gを反応器中に投入し、さらに3分間高速撹拌した後、5.1gのCOを加えた。次に高速撹拌を停止し、マントルヒーターを取り外し、分散体を約50℃まで冷却し、貯蔵瓶に移した。さらに、アルゴン気流下、密閉した焼結ガラスフィルタ漏斗中で、リチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回洗浄し、n−ペンタンで1回洗浄して、炭化水素油媒体を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して微量の溶媒を除去し、得られた易流動性粉末を蓋がきつく閉まる貯蔵瓶に移した。
【0024】
[比較例2]
アルゴン雰囲気下、室温で、ペネテック(商標)鉱油(4449g)および1724gの電池グレードのリチウム金属を15リットルのジャケット付き分散反応器に加えた。次に、ジャケット内に高温の伝熱流体を圧送することによって、反応器を室温から200℃まで加熱した。加熱中、伝熱を促進するため、分散撹拌機を低速に維持した。反応器内部の温度が200℃に達した後、分散撹拌機速度を5000rpmまで増加させた。3.5分間の高速撹拌の後、36gのオレイン酸を反応器中に投入し、高速撹拌をさらに4.5分間続けた後、22gのCOガスを加えた。さらに4分間の高速撹拌の後、高速撹拌機を停止し、反応器の内容物を室温まで冷却した。この冷却プロセス中、低速撹拌を使用して懸濁液中での分散を維持した。アルゴン圧力下でリチウム分散体をバッチフィルタに移し、鉱油を流出させた。フィルタ中の分散体をヘキサンで4回洗浄し、続いて乾燥アルゴンをフィルタを通過するように吹き付けて、残留する揮発性有機物を除去した。乾燥した安定化ポリマーコーティングリチウム分散体を最終生成物としてフィルタから取り出した。
【実施例1】
【0025】
45ミクロンの中間粒子径(medium particle size)を有する13.01gのリチウムを含有する、油中(27.5%)のCOガスで不動態化したリチウム分散体(47.30g)を、1インチのテフロン(登録商標)コーティングした撹拌棒を備え付けた120mlのハステロイ缶中に投入した。1.3gのPEO(ポリオックス(Polyox)WSR N80)乾燥粉末もこの缶に加えた。溶液を5℃/分の速度で周囲温度から75℃まで加熱し、10分間維持した。サンプルを5℃/分で75℃から175℃までさらに加熱し、1時間維持した。この混合物は、加熱段階の間200rpmで連続して撹拌した。サンプルを室温まで冷却し、貯蔵瓶に移した。さらに、密閉した焼結ガラスフィルタ漏斗中で、リチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回およびn−ペンタンで2回洗浄して、炭化水素油媒体を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して微量の溶媒を除去し、得られた易流動性粉末を蓋がきつく閉まる貯蔵瓶に移した。
【実施例2】
【0026】
45ミクロンの中間粒子径を有する12.37gのリチウムを含有する、油中(27.5.%)のCOガスで不動態化したリチウム分散体(45.00g)を、1インチのテフロン(登録商標)コーティングした撹拌棒を備え付けた120mlのハステロイ缶中に投入した。1.2gのPEO(ポリオックスWSR N80)乾燥粉末もこの缶に加えた。溶液を5℃/分の速度で周囲温度から75℃まで加熱し、10分間維持した。サンプルを5℃/分で75℃から175℃までさらに加熱し、1時間維持した。最後に、サンプルを20℃/分で175℃から200℃まで加熱した。この混合物は、加熱段階の間、200rpmで連続して撹拌した。サンプルを室温まで冷却し、貯蔵瓶に移した。さらに、密閉した焼結ガラスフィルタ漏斗中で、リチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回およびn−ペンタンで2回洗浄して、炭化水素油媒体を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して微量の溶媒を除去し、得られた易流動性粉末を蓋がきつく閉まる貯蔵瓶に移した。
【実施例3】
【0027】
45ミクロンの中間粒子径を有する12.10gのリチウムを含有する、油中(27.5%)のCOガスで不動態化したリチウム分散体(44.00g)を、1インチのテフロン(登録商標)コーティングした撹拌棒を備え付けた120mlのハステロイ缶中に投入した。溶液を75℃まで加熱し、1.2mlのBYK−P 104 S(BYKケミー(Chemie))をリチウム分散体に加えた。この混合物を200rpmで1時間連続して撹拌した。サンプルを室温まで冷却し貯蔵瓶に移した。さらに、密閉した焼結ガラスフィルタ漏斗中で、リチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回およびn−ペンタンで2回洗浄して、炭化水素油媒体を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して微量の溶媒を除去し、得られた易流動性粉末を蓋がきつく閉まる貯蔵瓶に移した。
【実施例4】
【0028】
58ミクロンの中間粒子径を有する6.20gのリチウムを含有する、油中(11.275%)の安定化リチウム分散体(54.99g)を、1インチのテフロン(登録商標)コーティングした撹拌棒を備え付けた120mlのハステロイ缶中に投入した。周囲温度において、0.62gのSBRを、p−キシレン(アルドリッチ(Aldrich))中の10%溶液の形態でリチウム分散体に加えた。この混合物を200rpmで19時間連続して撹拌した。サンプルを貯蔵瓶に移した。さらに、密閉した焼結ガラスフィルタ漏斗中で、リチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回およびn−ペンタンで2回洗浄して、炭化水素油媒体を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して微量の溶媒を除去し、得られた易流動性粉末を蓋がきつく閉まる貯蔵瓶に移した。
【実施例5】
【0029】
58ミクロンの中間粒子径を有する6.17gのリチウムを含有する、油中(11.275%)の安定化リチウム分散体(54.68g)を、1インチのテフロン(登録商標)コーティングした撹拌棒を備え付けた120mlのハステロイ缶中に投入した。周囲温度において、0.62gのEVA(アルドリッチ)を、p−キシレン(アルドリッチ)中にあらかじめ溶解させた5%溶液の形態でリチウム分散体に加えた。この混合物を200rpmで2.5時間連続して撹拌した。サンプルを貯蔵瓶に移した。さらに、密閉した焼結ガラスフィルタ漏斗中で、リチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回およびn−ペンタンで2回洗浄して、炭化水素油媒体を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して微量の溶媒を除去し、得られた易流動性粉末を蓋がきつく閉まる貯蔵瓶に移した。
【実施例6】
【0030】
58ミクロンの中間粒子径を有する6.09gのリチウムを含有する、油中(11.275%)の安定化リチウム分散体(54.00g)を、1インチのテフロン(登録商標)コーティングした撹拌棒を備え付けた120mlのハステロイ缶中に投入した。周囲温度において、0.5mlのブタジエン(アルドリッチ)および0.5mlのスチレン(アルドリッチ)をリチウム分散体に加えた。この混合物を200rpmで1時間連続して撹拌した。サンプルを貯蔵瓶に移した。さらに、密閉した焼結ガラスフィルタ漏斗中で、リチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回およびn−ペンタンで2回洗浄して、炭化水素油媒体を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して微量の溶媒を除去し、得られた易流動性粉末を蓋がきつく閉まる貯蔵瓶に移した。
【実施例7】
【0031】
10.0gのSLMP(安定化リチウム金属粉末)を1リットルの丸底フラスコ中に量り取った。32.1gのp−キシレン(アルドリッチ)と、p−キシレン(アルドリッチ)中にあらかじめ溶解させた10%溶液の形態での0.28gのSBRとをフラスコに加えた。混合物の入っているフラスコをロータバップ(rotavap)真空抽出機に取り付け、回転させながら70℃に加熱した。70℃の温度に15分間維持した後、真空に引いて溶媒を除去した。その後、サンプルを貯蔵瓶に移した。
【実施例8】
【0032】
58ミクロンの中間粒子径を有する4.0gの非安定化リチウム粉末と、36gのp−キシレン(アルドリッチ)とを、1インチのテフロン(登録商標)コーティングした撹拌棒を備え付けた120mlのハステロイ缶に投入した。この混合物を200rpmで混合しながら40℃まで加熱した。40℃において、0.40gのEVAを、p−キシレン(アルドリッチ)中にあらかじめ溶解させた10%溶液の形態で、リチウムとp−キシレンとの混合物に加えた。この混合物を200rpmで20時間連続して撹拌した。サンプルを200mlの丸底フラスコに移した。さらに、乾燥アルゴンをサンプル上に通すことによってp−キシレンを蒸発させた。得られた易流動性粉末を蓋がきつく閉まる貯蔵瓶に移した。
【実施例9】
【0033】
58ミクロンの中間粒子径を有する236.5gのリチウムを含有する、油中(11.0%)の安定化リチウム分散体(2149.8g)を、プロペラ型可変速度ミキサを取り付けた3リットルの丸底フラスコ中に投入した。周囲温度において、23.8gのEVA(アルドリッチ)を、p−キシレン(アルドリッチ)中の10%溶液の形態で、リチウム分散体に加えた。この混合物を500rpmで4時間連続して撹拌した。サンプルを貯蔵瓶に移した。さらに、密閉した焼結ガラスフィルタ漏斗中で、リチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回およびn−ペンタンで2回洗浄して、炭化水素油媒体を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して微量の溶媒を除去し、得られた易流動性粉末を蓋がきつく閉まる貯蔵瓶に移した。
【実施例10】
【0034】
63ミクロンの中間粒子径を有する126.6gのリチウムを含有する、油中(11.2%)の安定化リチウム分散体(1127.0g)を、プロペラ型可変速度ミキサを取り付けた5リットルの丸底フラスコ中に投入した。温度を41.3℃まで上昇させ、12.5gのEVA(アルドリッチ)を、p−キシレン(アルドリッチ)中の5%溶液の形態で、リチウム分散体に加えた。この混合物を40℃において500rpmで約6時間連続して撹拌し、続いて周囲温度でさらに〜18時間連続して撹拌した。サンプルを貯蔵瓶に移した。さらに、密閉した焼結ガラスフィルタ漏斗中で、リチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回およびn−ペンタンで2回洗浄して、炭化水素油媒体を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して微量の溶媒を除去し、得られた易流動性粉末を蓋がきつく閉まる貯蔵瓶に移した。
【実施例11】
【0035】
室温においてアルゴン雰囲気下で、ペネテック(商標)鉱油15390gと4415gの電池グレードのリチウム金属とを57リットルのジャケット付き分散反応器に加えた。次に、ジャケット内に高温の伝熱流体を圧送することによって、反応器を室温から190℃まで加熱した。加熱中、反応器内容物への伝熱を促進するため、分散撹拌機を低速に維持した。反応器内部の温度が190℃に達してから、分散撹拌機の速度を4800rpmまで増加させた。3分間の高速撹拌の後、90gのオレイン酸を反応器中に投入し、高速撹拌をさらに4分間続けた後、56gのCOガスを加えた。さらに6分間の高速撹拌の後、154gのポリエチレンオキシド(PEO)顆粒を反応器に加え、高速撹拌をさらに3分間続けた。次に、高速撹拌機を停止し、反応器の内容物を室温まで冷却した。この冷却プロセス中、低速撹拌を使用して懸濁液中での分散を維持した。アルゴン圧力下でリチウム分散体をバッチフィルタに移し、アルゴン圧力下で鉱油を流出させた。分散体をヘキサンで4回洗浄し、続いて乾燥アルゴンをフィルタを通過するように吹き付けて、残留する揮発性有機物を除去した。乾燥した安定化ポリマーコーティングリチウム分散体を最終生成物としてフィルタから取り出した。
【0036】
図1〜5および7は、ポリマーがコーティングされたサンプルのNMP中での安定性を示し、NMPは、充電式リチウムイオン電池産業において電極製造プロセスにおける溶媒として広く使用されている。この試験を行うために以下の手順を使用している:SLMPおよび溶媒をアルゴン下で試験セル中に充填し、次に試験セルを25℃まで上昇させ、等温保持を72時間続け、続いて温度を55℃まで上昇させ、等温保持を48時間続ける;混合物は連続的に撹拌する。サンプルの金属リチウム含有率を試験終了時に測定する:含有率が高いほど、コーティングの保護特性が良好である。以下の表1から分かるように、本発明の実施例のサンプルではリチウム濃度は17.3%以上である。黒鉛電極に対するポリマー添加剤の電気化学的性質に対する悪影響は観察されなかった(図6参照)。図8A、8B、および8Cは、プロセスパラメータの変化による実施例5、8、および9の異なる表面特性を示している。水を添加したNMPを使用して時間の関数としてのリチウム含有率を求めるための別の試験を行うと、顕著な完全が観察された(図9Aおよび9B参照)。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
以上のように本発明の特定の実施形態を説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明は、以下に請求される本発明の意図および範囲から逸脱することなく、本発明の多くの明らかな変形が可能であることから、本明細書で前述した特定の詳細に限定されるものではないことを理解されたい。以下の特許請求の範囲は、本出願が、すべての管轄権において優先権出願としてのすべての法的要件を確実に満たすために提供され、本発明の範囲全体を説明するものとして解釈すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に連続なポリマー層でコーティングされた安定化リチウム金属粉末であって、前記ポリマーが、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリホルムアルデヒド、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックポリマー、エチレン酢酸ビニル、エチレンアクリル酸コポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリイミド、ポリチオフェン、ポリ(パラ−フェニレン)、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、シリカチタニア系コポリマー、不飽和ポリカルボン酸、およびポリシロキサンからなる群より選択される、安定化リチウム金属粉末。
【請求項2】
前記実質的に連続なポリマー層が、25〜200nmの厚さを有する請求項1に記載の安定化リチウム金属粉末。
【請求項3】
無機コーティング層をさらに含む請求項2に記載の安定化リチウム金属粉末。
【請求項4】
電気化学系内でリチウム吸収または脱着が可能なホスト材料を含むアノードであって、請求項3に記載のポリマーがコーティングされ安定化されたリチウム金属粉末が前記ホスト材料中に分散しているアノード。
【請求項5】
前記ホスト材料が、炭素質材料、ケイ素、スズ、酸化スズ、複合スズ合金、遷移金属酸化物、リチウム金属窒化物、黒鉛、カーボンブラック、およびリチウム金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1種類の材料を含む請求項4に記載のアノード。
【請求項6】
前記実質的に連続なポリマー層が、25〜200nmの厚さを有する請求項5に記載のアノード。
【請求項7】
25〜200nmの厚さを有する実質的に連続なポリマー層がコーティングされた安定化リチウム金属粉末。
【請求項8】
電気化学系内でリチウムの吸収または脱着が可能なホスト材料を含むアノードであって、請求項7に記載のポリマーがコーティングされ安定化されたリチウム金属粉末が前記ホスト材料中に分散しているアノード。
【請求項9】
a)リチウム金属を炭化水素油と接触させるステップと、
b)前記リチウム金属および炭化水素油を前記リチウム金属の融点よりも高温に加熱するステップと、
c)前記加熱されたリチウム金属および炭化水素油を、前記リチウム金属を前記油中に分散させるのに十分な条件にさらすステップと、
d)前記リチウム金属上に実質的に連続なポリマー層を設けるために、前記リチウム金属を、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、(ポリホルムアルデヒド)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックポリマー、エチレン酢酸ビニル、エチレンアクリル酸コポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリイミド、ポリチオフェン、ポリ(パラ−フェニレン)、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、シリカチタニア系コポリマー、不飽和ポリカルボン酸、およびポリシロキサンからなる群より選択されるポリマーと、前記リチウム金属の融点と前記ポリマーの融点との間の温度で接触させるステップと
を含む、リチウム分散体の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A】
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【図9B】
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【公表番号】特表2010−538424(P2010−538424A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522937(P2010−522937)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【国際出願番号】PCT/US2008/010152
【国際公開番号】WO2009/029270
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(598076270)エフエムシー・コーポレイション (8)
【Fターム(参考)】