説明

リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池

【課題】正極活物質としてLiCoPOFを用いて充電及び放電を迅速に行うことができ、蓄積されたエネルギーを有効に利用することができるリチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン電池用正極は、正極活物質と導電助剤としてのカーボンとが混合されているリチウムイオン電池用正極において、前記正極物質にはLiCoPOFが含まれており、前記カーボンにはPtが担持されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極及びそれを用いたリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリチウムイオン電池用正極としては、正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、これらの固溶体、マンガン酸リチウム(LiMn24)等が用いられている。そして、これら正極材料に導電助剤としてのカーボンを混合して正極に必要な電子伝導性を付与し、さらにはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂を結着剤として用いることにより正極が成形されている。
一方、リチウムイオン電池の負極としては、黒鉛等の炭素からなる負極材料が用いられている。
そして、これらの正極と負極とをセパレータで隔てつつ、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の液状の有機化合物を溶媒にリチウム塩を溶質として溶解させた電解液に接するようして、リチウムイオン電池が構成されている。
【0003】
こうしたリチウムイオン電池では、大出力及び高速充電が求められている。このため、電極を作製する時に原料を炭化したり、電極活物質と導電助剤と溶媒とを湿式法により混合粉砕した後、溶媒を除去したり(特許文献1)して、電子伝導性を向上させることが行なわれている。また、金属で表面を被覆した高分子材料を導電助剤として用いたり(特許文献2)、活物質層に導電助剤として金属粒子を含ませたり(特許文献3)して、電子伝導性を向上させることも提案されている。
【0004】
一方、リチウムイオン電池のエネルギー密度をさらに高めるべく、新たな正極活物質の探索も進められている。例えば、特許文献4や特許文献5にはLiCoPOFがエネルギー密度の高い正極活物質として提案されている。これらの大きなエネルギー密度を有する正極活物質をリチウムイオン電池に利用すれば、理論的には、大きな充電容量のリチウムイオン電池となるはずである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−147024号公報
【特許文献2】特開2007−311057号公報
【特許文献3】特開2006−164823号公報
【特許文献4】特許第3624205号
【特許文献5】特許第3631202号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らの試験結果によれば、正極活物質であるLiCoPOFは、導電助剤としてのカーボンを添加して正極としても充放電を円滑に行うことができず、このため大きなエネルギー密度を有するにもかかわらず、それを有効に活用することが困難であった。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、正極活物質としてLiCoPOFを用いて充電及び放電を迅速に行うことができ、蓄積されたエネルギーを有効に利用することができるリチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、導電助剤としてのカーボンを添加したLiCoPOFの充放電速度が小さい理由として、
(1)Liイオンが正極活物質であるLiCoPOFへの出入りする反応に大きなエネルギー障壁が存在している。
(2) 正極活物質−導電助剤間の電子的な接触抵抗が大きい。
という2つの原因を考えた。
【0009】
電解液中のLiイオンが正極活物質中に入る放電過程では、いくつかの行程があることが推測される。すなわち、まずa)溶媒和しているLiイオンの脱離し、b)Liイオンが電子と反応し、c)Liが正極活物質表面を移動して活物質内への入口まで達し、d)Liが正極活物質内に入り、拡散してLiが満杯になったところで放電が完了する。この過程の中で正極活物質表面および界面に関係する反応はa)〜d)までの行程であり、それらのどの行程においても何らかの活性化エネルギーが必要となり、それが大きければ放電反応の妨げになると推定される。充電過程においても同様の逆工程が考えられ、何らかの活性化エネルギーが必要となると推定される。
【0010】
こうした工程における活性化エネルギーを低減するため、触媒作用を有する物質としてPtやAuやNiなどの金属を担持したカーボンが有効に作用すると思われる。そして、これらの金属のうちでもPtは酸化し難く、高い触媒活性を示すためa)〜d)のいずれの行程においても、何らかの活性化エネルギーを低減できるものと考えられた。
【0011】
また、正極活物質表面とカーボンとの電子的な接触抵抗が大きい場合でも、Ptのように耐食性の高い物質であれば、電子伝導性を阻害するような酸化皮膜等は形成され難く、接触抵抗の低減に寄与することとなる。
【0012】
以上の考察から、上記(1)及び(2)の原因を取り除く解決策として、触媒になる金属を担持したカーボンの適用を考え、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明のリチウムイオン電池用正極は、正極活物質と、導電助剤としてのカーボンと、が混合されているリチウムイオン電池用正極において、前記正極物質にはLiCoPOFが含まれており、前記カーボンには触媒になる金属が担持されていることを特徴とする。
【0014】
本発明のリチウムイオン電池用正極では、大きなエネルギー密度を有するLiCoPOFを正極活物質として用いており、さらには、導電助剤として触媒になる金属(例えばPt、Ni、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、Au等)が担持されたカーボンを用いている。このため、単なるカーボンを導電助剤とした場合には円滑な充放電が困難であったLiCoPOFが、Pt担持カーボンによる酸化還元反応の活性化エネルギー低減の効果、及び正極活物質表面とカーボンとの電子的な接触抵抗の低減効果の相乗効果により、円滑に充放電を行うことが可能となる。また、導電助剤として触媒になる金属が担持されたカーボンを用いることにより、カーボンを用いることなく触媒になる金属のみを導電助剤として用いた場合に比べ、触媒になる金属の使用量が少なくてすみ、製造コストが低廉となる。
【0015】
本発明のリチウムイオン電池用正極と負極とをリチウム塩を含む電解液に接するようにして本発明のリチウムイオン電池とすることができる。こうしたリチウム電池は、正極活物質としてLiCoPOFを用いて充電及び放電を迅速に行うことができ、大きなエネルギー密度を有するLiCoPOFを有効に利用することができる。このため、蓄電量が大きくて大電流を取り出すことの可能なリチウムイオン電池となる。
【0016】
本発明のリチウム電池に用いる電解液には、ニトリル化合物が含まれていることが好ましい。LiCoPOFの酸化還元電位は極めて高い電位を有するため、通常リチウムイオン電池に用いられているエチレンカーボネート等では、充電中に電解液が分解するおそれがある。発明者らの試験結果によれば、セバコニトリル等のニトリル化合物は広い電位窓を有し、LiCoPOFの充電時における電位においても安定であり、電解液の溶媒として好ましい。
【0017】
また、電解液にセバコニトリル等のニトリル化合物を含ませる場合には、ジメチルカーボネート及びエチレンカーボネートと混合して用いることが好ましい。セバコニトリル等のニトリル化合物は粘度が高いため、粘度の低いジメチルカーボネートと混合することにより、比電導度が低くなる。また、セバコニトリル等のニトリル化合物は、電位窓を広げる役割を果たす。さらに、エチレンカーボネートは、従来から知られているとおり、多くのリチウム塩を溶解する上、カーボン負極上にSEIといわれる保護皮膜を形成することで、耐還元性を向上させつつ、Liイオンを通過させることができる特性を付与することができる。そのため、負側および正側の電位窓拡大に効果を発揮することが可能となる。
【0018】
本発明のリチウムイオン電池の電解液に添加されるリチウム塩としては、LiPF6(六フッ化リン酸リチウム),LiBF(四フッ化ホウ酸リチウム)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド),LiTFS(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)及びLiBETI(リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド)等を用いることができる。これらのリチウム塩は、本発明のリチウムイオン電池にニトリル化合物が用いられた場合、高い電位でも分解しない十分な電位窓を有しているため、高い電位で充電される本発明のリチウムイオン電池用正極を用いた場合の電解液中に加えられるリチウム塩として好ましい。この中でもLiPF6(六フッ化リン酸リチウム),LiBF(四フッ化ホウ酸リチウム)及びLiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)の少なくとも1種が含まれていることが好ましい。LiPF6(六フッ化リン酸リチウム)やLiBF(四フッ化ホウ酸リチウム)はリチウムイオン電池の正極の電極基板としてよく用いられるアルミニウムの腐食が少ない。また、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)は特に分解温度が高く耐熱特性が向上する上、溶解度が高く、比電導度を大きくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のリチウムイオン電池用正極は、正極活物質としてLiCoPOFを用いるため、充電のための電位が5V(対Li/Li+)を超える領域となり、電池の起電力を極めて高くすることができる。また、LiCoPOFは正極活物質としてのエネルギー密度がLiCoOに対して理論値で2倍以上あることが予測されており、充電容量の大きなリチウムイオン電池を作ることができる。さらに、LiCoPOFは熱安定性に優れ、400°Cという高温になっても、発熱反応は示さないことが熱分析結果から分かっており、電池温度の上昇を防ぐことができる。
【0020】
本発明のリチウムイオン電池用正極に混合される、触媒になる金属が担持され担持カーボンには、カーボンブラックにPt微粉末が担持されたものを用いることができる。Ptの担持量については、酸化還元反応の活性化エネルギー低減の効果や電気抵抗の低減効果、並びに製造コストを勘案して適宜決めればよいが、Ptが10〜50wt%が好ましく、さらに好ましいのは20〜50wt%、最も好ましいのは40〜50wt%である。
【0021】
また、本発明のリチウムイオン電池に用いられる負極としては、グラファイト、ハードカーボン、チタン酸リチウム、チタン酸リチウム−カーボン複合体等を用いることができる。
【0022】
以下本発明のリチウムイオン電池用正極を具体化した実施例についてさらに詳細に述べる。
【0023】
<リチウムイオン電池用正極の作製>
(実施例1)
LiCoPOFとPt担持カーボン(CABOT社製:バルカンXC−72R Pt40wt%)とを乳鉢で混合した後、さらにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を加えて混合し、プレス成形により円盤状のペレットとした。これらの混合割合はLiCoPOF:Pt担持カーボン:PTFE=60:35:5(重量比)とした。
【0024】
こうして得られたペレットを2枚のPtメッシュに挟み、ホットプレス法(プレス条件:140℃、2分、500kg/cm2)によってホットプレスすることにより、実施例1のリチウムイオン電池用正極を得た。
【0025】
(比較例1)
比較例1では、Ptが担持されていないカーボン(CABOT社製:バルカンXC−72R)を用いた。その他については実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0026】
(参考例1)
参考例1では、正極活物質であるLiCoPOFを加えることなく、Pt担持カーボン(CABOT社製:バルカンXC−72R Pt40wt%)とPTFEとを90:10の割合でプレス成形し、円盤状のペレットを作製し、実施例1と同様のホットプレス法により参考例1の電極を得た。
【0027】
<リチウムイオン電池の作製およびサイクリックボルタモグラムによる充放電特性の測定>
上記実施例1及び比較例1のリチウムイオン電池用正極を用い、以下のようにしてリチウムイオン電池を作製し、サイクリックボルタモグラムによる放充電特性の測定を行なった。
すなわち、セバコニトリルとエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを容量比で50:25:25の割合で混合しい、これにリチウム塩としてLiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を1mol/Lとなるように溶解させて,リチウムイオン電池用電解液とした。また、負極にはチタン酸リチウム(LiTi12)を用いた。
【0028】
充放電特性の測定には3極式ガラスセルを用い、上記のようにして調製したリチウムイオン電池用電解液を入れ、作用極をリチウムイオン電池用正極とし、参照電極は(Ag/Ag+)を用い、参照電極の充填液の銀イオン源として過塩素酸銀を用いた。また、対極にはチタン酸リチウム(LiTi12)を用いた。
測定にあたっては、自然電位から正方向、あるいは負方向に1mV/秒の速度で電位の掃引を行い、充放電特性の測定を行なった。さらに、作用極に参考例1の電極を用いて同様の充放電特性の測定を行なった。
【0029】
その結果、図1に示すように、Pt担持カーボンを導電助剤として用いた実施例1のリチウムイオン電池用正極では、正方向への電位掃引及び負方向への電位掃引において、可逆的な正逆両方向への電流が流れたのに対し、Ptを担持していないカーボンを導電助剤として用いた比較例1のリチウムイオン電池用正極では、正方向への電位掃引においてのみ小さな電流が流れ、負方向への電位掃引ではほとんど電流が流れなかった。
【0030】
以上の結果から、実施例1のリチウムイオン電池用正極では、正極活物質としてLiCoPOFを用いて充電及び放電を迅速に行うことができ、蓄積されたエネルギーを有効に利用することができるのに対し、比較例1のリチウムイオン電池用正極では迅速に充電及び放電を行うことができず、速い充放電では2次電池としての機能を発揮できないことが分かった。
【0031】
また、図2に示すように、正極活物質であるLiCoPOFを加えることなくPt担持カーボンとPTFEとから作製した参考例1の電極では、正方向への電位掃引においてのみ電流が流れ、負方向への電位掃引ではほとんど電流が流れなかった。このことと、図1における実施例1の充放電特性との比較から、実施例1のリチウムイオン電池用正極では、正極活物質としてのLiCoPOFに起因する充放電電流が流れることが確認された。
【0032】
以上の結果から、実施例1の電極を正極として用いたリチウムイオン電池は、正極活物質としてLiCoPOFを用いて充電及び放電を迅速に行うことができ、蓄積されたエネルギーを有効に利用することができることが分かった。
【0033】
この発明はリチウムイオン電池に適用される。
ここに、リチウムイオン電池は電解液、正極、負極、セパレータ及びケースを備えてなる。
【0034】
(電解液)
電解液はLi塩(電解質)と有機溶媒とを含んでいる。
Li塩には、Liイオン電池用の一般的なLi塩を用いることができる。例えば、LiPF6(六フッ化リン酸リチウム)、LiBF(四フッ化ホウ酸リチウム)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiTFS(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、LiBETI(リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド)又はこれらの2種以上を用いることができる。
なかでも、正極の酸化還元電位が4.5V以上のものについては、LiPF、及び/又はLiBFを使用することが好ましい。また、LiTFSIやLiTFSやLiBETIを用いる場合、LiPF又はLiBFを添加することが好ましい。
【0035】
有機溶媒もLiイオン電池に用いられる一般的なものを採用できる。かかる有機溶媒としては環状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル及び鎖状炭酸エステルの中から選ばれる1種、又は2種以上が好ましい。更に好ましくは、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとを併用する。具体的には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを併用することが特に好ましい。両者の配合割合は特に限定されない。環状カルボン酸エステルとしてはγ−ブチロラクトンを用いることができる。
更にはニトリル化合物を有機溶媒として用いることができる。ここで、ニトリル化合物としては、鎖式飽和炭化水素化合物の両末端にニトリル基が結合した鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物、鎖式エーテル化合物の末端の少なくとも一つにニトリル基が結合した鎖式エーテルニトリル化合物及びシアノ酢酸エステルのうち少なくとも一つのニトリル化合物を挙げることができる。
【0036】
鎖式飽和炭化水素化合物の両末端にニトリル基が結合した鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物としては、例えば、スクシノニトリルNC(CHCN、グルタロニトリルNC(CHCN、アジポニトリルNC(CHCN、セバコニトリルNC(CHCN、ドデカンジニトリルNC(CH10CNなどのような直鎖状のジニトリル化合物の他、2−メチルグルタロニトリルNCCH(CH)CHCHCN等のように分枝を有していても良い。これらの鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物は、炭素数は特に限定されないが20以下であることが好ましい。更に好ましくは7〜12である。
【0037】
鎖式エーテル化合物の末端の少なくとも一つにニトリル基が結合した鎖式エーテルニトリル化合物としては、オキシジプロピオニトリルNCCHCH−O−CHCHCNや、3−メトキシプロピオニトリルCH−O−CHCHCN等が挙げられる。これらの鎖式エーテルニトリル化合物は、炭素数は特に限定されないが、20以下であることが好ましい。
シアノ酢酸エステルとしてはシアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチル、シアノ酢酸プロピル、シアノ酢酸ブチル等が挙げられる。これらのシアノ酢酸エステルは、炭素数は特に限定されないが、20以下であることが好ましい。
【0038】
これらニトリル化合物は電解液において電位窓を特に正方向に広げる作用を奏する。
電位窓を広げる作用の観点からジニトリル化合物が好ましい。中でも、セバコニトリルの採用が更に好ましい。
ただし、ニトリル化合物は粘度が高いので、上述の鎖状炭酸エステル、環状炭酸エステル及び/又は環状カルボン酸エステルと併用することが好ましい。更に好ましくはニトリル化合物と鎖状炭酸エステル及び環状炭酸エステルとを併用する。鎖状炭酸エステルとしてはジメチルカーボネートを採用することができ、環状炭酸エステルとしてはエチレンカーボネートを採用することができる。
この場合、有機溶媒全体に占めるニトリル化合物の配合割合は1〜90容量%とすることが好ましい。更に好ましくは5〜70容量%であり、更に更に好ましくは、10〜50容量%である。
【0039】
Li塩の濃度は0.01mol/L以上であって、飽和状態よりも低い濃度とする。Li塩の濃度が0.01mol/L未満であると、Liイオンによるイオン伝導が小さくなり、電解液の電気抵抗が高くなるので好ましくない。他方、飽和状態を超えると、温度等の環境変化によって溶解しているLi塩が析出するので好ましくない。
【0040】
(正極)
正極は正極活物質と集電体とを備える。
(正極活物質)
本発明において、正極活物質はLiCoPOFを用いる。これらのうちのCo原子を他の金属原子でドープしたものも含まれる。ドーパントとしては酸化還元反応において電気化学的な特性を変化させられるものであれば特に限定されるものではない。例えば、Mg、Al、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb及びMoの1種又はそれ以上を用いることができる。
このようにドープされたLiCoPOFをLiCoPOF系正極活物質とよぶことがある。
3−2 特性
LiCoPOFの酸化還元電位は300℃未満の分解では、発熱反応が小さい上、酸素発生がないため、正極活物質由来の電池発火の影響は小さいと考えられ安全性の面で注目されている。また、電池の電気容量密度(mAh/g)を上記リン酸塩系よりも高くできる(特開2003−229126号公報参照)。
【0041】
LiCoPOF粒子の平均粒径は、特に限定はされないが、10nm〜30μmであることが好ましい。
【0042】
(正極用集電体)
正極用集電体とは正極活物質を担持する導電性の基板である。
正極の集電体の成形材料は、充電時において安定であることが要求される。特に、酸化還元電位の高いLiCoPOFは、耐食性に優れた素材を使用することが好ましい。
例えば、電解質としてLiPF、LiBFを使用する場合、オーステナイト系ステンレス、Ni、Al、Ti等を用いることができるが、使用する正極活物質の動作電位を考慮し、適宜選択することが好ましい。例えば、電解質としてLiPFを用いる場合は、Li/Li+電極に対して6Vでも使用することができるが、電解質としてLiBFを用いる場合、SUS304はLi/Li+電極に対し5.8V以下で充放電可能な場合のみ用いることができる。また、電解質としてLiTFSIを使用する場合、正極集電体表面に耐食性皮膜を形成させるべく、LiPFを共存させることが好ましい。LiBETI及びLiTFSもLiTFSIの場合と同様である。
また、Al等の導電金属材料へ導電性DLC(ダイヤモンドライクカーボン)を周知の方法で被覆したものを集電体として用いることもできる。電解質がLiBFやLiPFなど、容易にフッ化物皮膜を形成するようなリチウム塩の場合は、アルミニウム上へ厚いフッ化皮膜が形成し、耐食性は向上するものの、電子伝導性が低下し、ひいてはオーミック過電圧増加に伴う、高出力化が阻害されることとなる。Al等の導電金属材料へ導電性DLCを被覆すれば、フッ化物皮膜は導電性DLCの欠陥部分の極わずかな面積でのみ発生するだけである。このため、高電圧化しても電子伝導性の低下は無視できる程度となり、懸念されている高電圧化による出力低下は防ぐことが可能となる。
ここで、導電性ダイヤモンドライクカーボンとは、ダイヤモンド結合(炭素同士のSP混成軌道結合)とグラファイト結合(炭素同士のSP混成軌道結合)の両方の結合が混在しているアモルファス構造をとるカーボンのうち、導電性が1000Ωcm以下のものをいう。ただし、アモルファス構造以外に、部分的にグラファイト構造からなる結晶構造(すなわちSP混成軌道結合からなる六方晶系結晶構造)からなる相を有し、これにより導電性が発揮されるものも含まれる。グラファイトとダイヤモンドの中間の性質を有するダイヤモンドライクカーボンは、成膜時にダイヤモンドライクカーボンを構成する炭素原子のSP混成軌道結合とSP混成軌道結合の比率を調整することで、導電性を調節することができる。
勿論、上記耐食性導電性金属材料を導電性DLCで被覆してもよい。
集電体の形状及び構造は、正極活物質や電池の構造に応じて、任意に設計可能である。
【0043】
(正極の前処理)
リチウムイオン電池用正極は、リチウムイオン電池に組み込む前に、ニトリル化合物を1容量%以上含む有機溶媒中にリチウム塩が溶解した前処理用電解液中に正電極を浸漬する浸漬処理工程を行い、さらに電極に正電圧を付与する正電圧処理工程を行なう。こうして前処理された電極は、ニトリル化合物を全く含まない電解液や、ニトリル化合物の添加量の少ない電解液を用いたリチウムイオン電池に用いても、電位窓が広く、高い電位においても電解液を分解し難くなる(特願2009−180007号参照)。このような広い電位窓の電極となる理由は、電極上に窒素を成分として含む耐食性の皮膜が形成されるためであると推測される。
【0044】
(負極)
負極は負極活物質と集電体とを備える。
(負極活物質)
負極活物質とは「正極よりも低い電位で結晶構造内にリチウムが挿入/離脱され、それに伴って酸化/還元が行われる物質」をいう。
負極活物質としては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン等の種々の炭素材料やチタン酸リチウム(LiTi12)、HTi1225、HTi13、Feなどが挙げられる。また、これらを適宜混合した複合体も挙げることができる。さらには、Si微粒子やSi薄膜、これらのSiがSi−Ni、Si−Cu、Si−Nb、Si−Zn、Si−Sn等のSi系合金となった微粒子や薄膜が挙げられる。さらには、SiO酸化物、Si−SiO複合体、Si−SiO−カーボンなどの複合体等を挙げることができる。
【0045】
(負極用集電体)
負極用の集電体は汎用的な導電性金属材料、Cu、Al、Ni、Ti、オーステナイト系ステンレス等で形成することができる。
但し、電解液にニトリル化合物を用いたとき(他の有機溶剤との併用を含む)には、電解液中のLi塩に応じて適宜選択する必要がある。すなわち、電解質としてLiPF、LiBFを使用する場合、オーステナイト系ステンレス、Ni、Al、Ti等の使用が可能となる。ただし、使用する負極活物質の動作電位に応じて、適宜選択する必要がある。負極活物質としてカーボン系やSi系を使用する場合において、電解質としてLiBFを使用した場合は、Cu以外のAl、Ni、Ti、オーステナイト系ステンレス等からなる集電体を使用することができる。負極活物質としてチタン酸リチウムやFe系の化合物を用いた場合は、Cuを含む上記材料の全てが適用可能である。一方、電解質としてLiPF使用時はAl、Ni及びTiが好ましく、オーステナイト系ステンレス及びCuは好ましくない。また、電解質としてLiTFSIや、LiBETI、やLiTFSを使用する場合、Ni、Ti、Al、Cu、オーステナイト系ステンレスの何れも使用することができる。
【0046】
(正極用電子伝導部材)
正極活物質には導電性の小さいものがある。従って、正極活物質と集電体との間に導電性の電子伝導部材を介在させて、両者の間に十分な電子伝導パスを確保することが好ましい。
導電助剤はこの電子伝導部材の役割を果たす。
ここで電子伝導部材はLiCoPOFと集電体との間に電子伝導パスを形成できればその形態は特に限定されるものではなく、例えばアセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト粉、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボン等の導電性粉体(導電助剤)を用いることができる。ダイヤモンドライクカーボン及びグラッシーカーボンは、カーボンブラックやグラファイトよりもはるかに広い電位窓を有しており、高電位を付与した場合の耐食性に優れているため、好適に用いることができる。また、これらの導電助剤に金属微粒子が担持されていることも好ましい。金属微粒子としては、例えばPt、Au、Ni等が挙げられる。これらは、単独で用いても良いし、これらの合金であっても良い。
電子伝導材料として、正極活物質を被覆する導電性皮膜(DLC膜等)、正極活物質を埋入させた導電性薄膜(金の薄膜等)を用いることができる。
【0047】
(負極用電子伝導部材)
正極用電子伝導部材と同様な物を用いることができる。
【0048】
(セパレータ)
セパレータは電解液中へ浸漬され、正極と負極とを分離し両者の短絡を防ぐとともに、Liイオンの通過を許容する。
かかるセパレータには、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂から成る多孔質フィルムが挙げられる。
【0049】
(ケース)
ケースは電解液に対する耐食性を有する材質で形成される。その形状は、電池の目的用途に応じて任意に設計できる。
リチウム塩が溶解している電解液を使用する場合には、オーステナイト系ステンレスからなる基材、Ti、Ni及び/又はAlからなるケースを用いることができる。但し使用する正極、負極活物質の動作電位により適宜選択しなければならない場合もある。
ケースが集電体を兼ねる場合や集電体に電気的に結合される場合は、各電極の集電体形成材料と同一若しくは同種の材料で形成される。
【0050】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。例えば、本実施例においては、触媒になる金属としてPtを用いた場合について説明したが、活性化エネルギーを低下できるような触媒であれば、これに限定されず、一般に触媒金属として使用されるNi、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、Au等を用いても良いことは言うまでもない。また、本実施例において触媒金属の担体としてカーボン粒子を用いたが、グラファイト構造を有するカーボン繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー(VGCF)、ボロンなどの異種元素をドープしたり、グラファイトカーボンを添加したりして電子伝導性を付与したダイヤモンドライクカーボン粒子等、導電助剤に必要な電子伝導性を有し、原料が安価で、高電位への耐食性も期待できる材料を用いればよく、特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1及び比較例1のリチウムイオン電池用正極のサイクリックボルタモグラムである。
【図2】参考例1の電極のサイクリックボルタモグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、導電助剤としてのカーボンと、が混合されているリチウムイオン電池用正極において、
前記正極物質にはLiCoPOFが含まれており、前記カーボンには触媒になる金属が担持されていることを特徴とするリチウムイオン電池用正極。
【請求項2】
請求項1記載のリチウム電池用正極と、負極と、がリチウム塩を含む電解液に接していることを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記電解液にはニトリル化合物が含まれていることを特徴とする請求項2記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記ニトリル化合物はセバコニトリルであることを特徴とする請求項3記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記電解液にはさらにジメチルカーボネート及びエチレンカーボネートが含まれていることを特徴とする請求項3又は4記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記リチウム塩としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが含まれていることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項記載のリチウムイオン電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−97934(P2010−97934A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199078(P2009−199078)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】