説明

リチウムイオン電池用正極活物質とその製造方法及びリチウムイオン電池用電極並びにリチウムイオン電池

【課題】Li拡散に好適な結晶構造のLiMnPO粒子の結晶形状を制御、さらには平均一次粒子径を制御することにより、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性、長期のサイクル特性の安定性及び安全性を実現することが可能なリチウムイオン電池用正極活物質とその製造方法及びリチウムイオン電池用電極並びにリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、LiMnPOからなるリチウムイオン電池用正極活物質であり、X線回折図形から算出した格子定数a、b及びcの値が、10.41Å<a≦10.43Å、6.070Å<b≦6.095Å、4.730Å<c≦4.745Åを満たしており、平均粒子径は10nm以上かつ100nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極活物質とその製造方法及びリチウムイオン電池用電極並びにリチウムイオン電池に関し、特に詳しくは、Li拡散に好適な結晶構造のLiMnPO粒子の結晶形状を制御、さらには平均一次粒子径を制御することにより、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性、長期のサイクル特性の安定性及び安全性が期待できるリチウムイオン電池用正極活物質とその製造方法、及びこのリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用電極並びにリチウムイオン電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化、軽量化、高容量化が期待される電池として、リチウムイオン電池等の非水電解液系の二次電池が提案され、実用に供されている。このリチウムイオン電池は、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有する正極及び負極と、非水系の電解質とにより構成されている。
リチウムイオン電池は、従来の鉛電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等の二次電池と比べて、軽量かつ小型で高エネルギーを有しており、携帯用電話機、ノート型パーソナルコンピュータ等の携帯用電子機器の電源として用いられているが、近年、電気自動車、ハイブリッド自動車、電動工具等の高出力電源としても検討されている。これらの高出力電源として用いられる電池の電極活物質には、高速の充放電特性が求められている。
【0003】
そこで、上記のような二次電池の高機能化、高容量化、低コスト化、レアメタルフリー等の観点から、正極活物質として様々な材料が検討されている。これらの中でもLiFePOに代表されるオリビン系リン酸塩系電極活物質は、安全性はもちろんのこと、高資源量及び低コストの電極活物質として注目されている。
このようなリン酸塩系電極活物質のうちでも、アルカリ金属がLiであり、遷移金属がMnであるリン酸マンガンリチウム(LiMnPO)は、LiFePOとほぼ同じ約170mAh/gの理論容量を持ちながら、低レート放電条件下にあってもLiFePOと比べて材料の利用率が非常に悪いという問題点が多くの文献で指摘されてきた(非特許文献1等参照)。
【0004】
材料の利用率が悪くなる問題点の1つとして、LiMnPOのようなリン酸塩系電極活物質の構造に由来する、活物質内部のLi拡散の遅さが挙げられる。
このリン酸塩系電極活物質では、活物質内部のLi拡散は、LiMnPOとMnPOの二相の変換を伴いながら結晶格子のb軸方向のみに起こることが知られており(非特許文献2)、リン酸塩系電極活物質は高速の充放電には不利だとされている。
これらの問題点を解決する有効な方法としては、LiMnPO粒子におけるLi拡散距離を短縮する目的で、この粒子のb軸方向の結晶格子長さを短縮すること、Li拡散スペースを広く確保する目的で、結晶格子のa軸の長さ及びc軸の長さを拡大すること、LiとLiMnPO粒子の反応面積を増大させる目的で、LiMnPO粒子を微粒子化すること、等が挙げられる。
【0005】
このLiMnPO粒子を微粒子化する方法としては、このLiMnPO粒子を機械的な粉砕により微粒子化する方法が一般的である(特許文献1等参照)。
また、他の方法としては、グリコールやポリオール等の高沸点の多価アルコールを用いた微粒子化方法が提案されている(特許文献2等参照)。
この方法は、十分な量の前駆体をグリコールやポリオール等の高沸点の多価アルコール中で加熱しながら、LiMPO粒子を沈澱させる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再公表WO2007/034823号公報
【特許文献2】特表2009−532323号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.K.Padhi,K.S.Nanjundaswamy and J.B.Goodenough,J.Electbrochem.Soc.,Vol.144,No.4,1 30 pp188−1193(1997)
【非特許文献2】A.Yamada,H.Koizumi,S.Nishimura,N.Sonoyama,R.Kanno,M.Yonemura,T.Nakamura and Y.Kobayashi,Nature Materials 5,pp357−360(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の機械的な粉砕により微粒子化する方法では、粒子のb軸方向の結晶格子長さを短縮することは難しく、また、機械的な粉砕では微粒子化に限度があり、目的とする粒子径にまで十分に微粒子化することが難しいという問題点があった。
さらに好ましくないことには、機械的な粉砕がLiMnPO粒子に歪みや割れ等のダメージを与えてしまうことにより、充放電に不活性なLiMnPOを生成してしまい、その結果、十分な充放電特性が得られないという問題点があった。
【0009】
一方、高沸点の多価アルコールを用いた微粒子化方法では、機械的な粉砕と比べて微粒子化がなされているものの、得られた粒子は、結晶格子の格子定数bが6.101Åと大きく、したがって、粒子のb軸方向の結晶格子長さの短縮化を行うことが難しく、十分な充放電特性を得ることができないという問題点があった。
さらに、リン酸塩系電極活物質の低コスト化の観点から、大量に効率良く生産可能なリン酸塩系電極活物質の製造方法が望まれている。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、Li拡散に好適な結晶構造のLiMnPO粒子の結晶形状を制御、さらには平均一次粒子径を制御することにより、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性、長期のサイクル特性の安定性及び安全性を実現することが可能なリチウムイオン電池用正極活物質とその製造方法、及びこのリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用電極並びにリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、LiMnPOからなるリチウムイオン電池用正極活物質のX線回折図形から算出した格子定数a、b及びcの値が、10.41Å<a≦10.43Å、6.070Å<b≦6.095Å、4.730Å<c≦4.745Åを満たすこととすれば、結晶格子のa軸方向及びc軸方向の長さを大きく保ったままで、b軸方向の長さが特異的に短いLiMnPO粒子が実現可能であり、このLiMnPO粒子を用いることで、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性、長期のサイクル特性の安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池を実現することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
また、Li源、P源及びMn源を水を主成分とする溶媒と混合して得られた原料スラリーを100℃以上かつ150℃以下の範囲の温度に加熱することで、加圧下にて合成することとすれば、結晶格子のa軸方向及びc軸方向の長さを大きく保ったままで、b軸方向の長さが特異的に短いLiMnPO粒子を容易に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、LiMnPOからなるリチウムイオン電池用正極活物質であって、X線回折図形から算出した格子定数a、b及びcの値が、10.41Å<a≦10.43Å、6.070Å<b≦6.095Å、4.730Å<c≦4.745Åを満たすことを特徴とする。
【0014】
平均粒子径は10nm以上かつ100nm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、LiMnPOからなるリチウムイオン電池用正極活物質を水熱合成法にて製造する方法であって、Li源、P源及びMn源を水を主成分とする溶媒と混合して得られた原料スラリーを100℃以上かつ150℃以下の範囲の温度に加熱することで、加圧下にて合成することを特徴とする。
【0016】
本発明のリチウムイオン電池用電極は、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質を含有してなることを特徴とする。
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用電極を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質によれば、LiMnPOからなるリチウムイオン電池用正極活物質のX線回折図形から算出した格子定数a、b及びcの値を、10.41Å<a≦10.43Å、6.070Å<b≦6.095Å、4.730Å<c≦4.745Åを満たすこととしたので、LiMnPO粒子の結晶格子のa軸方向及びc軸方向の長さを大きく保ったままで、b軸方向の長さを特異的に短縮することができる。したがって、このLi拡散に好適なb軸方向の長さを特異的に短縮したLiMnPO粒子を用いることで、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性、長期のサイクル特性の安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池を実現することができる。
【0018】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法によれば、Li源、P源及びMn源を水を主成分とする溶媒と混合して得られた原料スラリーを100℃以上かつ150℃以下の範囲の温度に加熱することで、加圧下にて合成するので、結晶格子のa軸方向及びc軸方向の長さを大きく保ったままで、b軸方向の長さが特異的に短いLiMnPO粒子を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例2及び比較例1、2各々の粉体のX線回折図形を示す図である。
【図2】本発明の実施例2の粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図3】比較例1の粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図4】比較例2の粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図5】本発明の実施例2及び比較例1各々の0.1CAの充放電曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質とその製造方法及びリチウムイオン電池用電極並びにリチウムイオン電池を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0021】
[リチウムイオン電池用正極活物質]
本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質は、Li拡散に好適な結晶構造のLiMnPOからなるリチウムイオン電池用正極活物質のX線回折図形から算出した格子定数a、b及びcの値が、10.41Å<a≦10.43Å、6.070Å<b≦6.095Å、4.730Å<b≦4.745Åを満たす正極活物質である。
【0022】
ここで、LiMnPOの格子定数a、b及びcの値を、10.41Å<a≦10.43Å、6.070Å<b≦6.095Å、4.730Å<b≦4.745Åを満たすこととした理由は、この範囲が、LiMPO粒子の結晶格子のa軸方向及びc軸方向の長さが長く、かつb軸方向の長さが特異的に短いLiMnPO粒子を実現可能な範囲だからである。
【0023】
このLiMnPO粒子の平均粒子径は10nm以上かつ100nm以下であることが好ましく、より好ましくは15nm以上かつ60nm以下である。
ここで、平均粒子径を10nm以上かつ100nm以下とした理由は、平均粒子径が10nm未満では、微細になり過ぎて結晶性を良好に保つことが難しくなり、その結果、結晶格子のa軸方向及びc軸方向の長さを大きく保ったままで、b軸方向の長さを特異的に短縮したLiMnPO粒子が得られなくなり、一方、平均粒子径が100nmを超えると、このLiMPO粒子の微細化が不十分なものとなり、その結果、非常に微細かつ結晶性の良好なLiMPO粒子が得られないので、好ましくない。
【0024】
[リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、LiMnPOからなるリチウムイオン電池用正極活物質を水熱合成法にて製造する方法であり、Li源、P源及びMn源を水を主成分とする溶媒と混合して得られた原料スラリーを100℃以上かつ150℃以下の範囲の温度に加熱することで、加圧下にて合成する方法である。
【0025】
Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)等の水酸化物、炭酸リチウム(LiCO)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)、リン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリチウム無機酸塩、酢酸リチウム(LiCHCOO)、蓚酸リチウム((COOLi))等のリチウム有機酸塩、及びこれらの水和物が挙げられ、これらの中から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
【0026】
P源としては、オルトリン酸(HPO)、メタリン酸(HPO)等のリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸アンモニウム((NHPO)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸水素二リチウム(LiHPO)、リン酸二水素リチウム(LiHPO)等のリン酸塩、及びこれらの水和物の中から選択された1種または2種以上が好適に用いられる。
【0027】
Mn源としては、Mn塩が好ましく、例えば、塩化マンガン(II)(MnCl)、硫酸マンガン(II)(MnSO)、硝酸マンガン(II)(Mn(NO)、酢酸マンガン(II)(Mn(CHCOO))及びこれらの水和物の中から選択された1種または2種以上が好ましい。
【0028】
水を主成分とする溶媒とは、水単独、あるいは水を主成分とし必要に応じてアルコール等の水性溶媒を含む水系溶媒、のいずれかである。
水性溶媒としては、Li源、P源及びM源を溶解させることのできる溶媒であればよく、特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
これらLi源、P源及びMn源を、これらのモル比(Li源:P源:Mn源)が3:1:1となるように水を主成分とする溶媒に投入し、撹拌・混合して原料スラリーとする。
これらLi源、P源及びMn源は、均一に混合する点を考慮すると、Li源、P源及びMn源を一旦水溶液の状態とした後、混合することが好ましい。
この原料スラリーにおけるLi源、P源及びMn源のモル濃度は、高純度であり、結晶性が高くかつ非常に微細なLiMPO粒子を得る必要があることから、1.5mol/L以上かつ4mol/L以下が好ましい。
【0030】
次いで、この原料スラリーを耐圧容器に入れ、100℃以上かつ150℃以下、好ましくは120℃以上かつ145℃以下の範囲の温度に加熱し、1時間以上かつ48時間以下、水熱処理を行い、LiMnPO粒子を得る。
この100℃以上かつ150℃以下の範囲の温度に到達したときの耐圧容器内の圧力は、例えば0.1MPa以上かつ0.7MPa以下となる。
この場合、水熱処理時の温度及び時間を調整することにより、LiMnPO粒子の粒子径を所望の大きさに制御することが可能である。
以上により、格子定数a、b及びcの値が、10.41Å<a≦10.43Å、6.070Å<b≦6.095Å、4.730Å<b≦4.745Åを満たすLiMnPO粒子を得ることができる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質によれば、LiMnPOからなるリチウムイオン電池用正極活物質のX線回折図形から算出した格子定数a、b及びcの値を、10.41Å<a≦10.43Å、6.070Å<b≦6.095Å、4.730Å<c≦4.745Åを満たすこととしたので、LiMnPO粒子の結晶格子のa軸方向及びc軸方向の長さを大きく保ったままで、b軸方向の長さを特異的に短縮することができる。したがって、このLi拡散に好適なb軸方向の長さを特異的に短縮し、しかも、非常に微細なLiMnPO粒子を用いることで、高電圧、高エネルギー密度、高負荷特性、長期のサイクル特性の安定性及び安全性に優れたリチウムイオン電池を実現することができる。
【0032】
本実施形態のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法によれば、Li源、P源及びMn源を水を主成分とする溶媒と混合して得られた原料スラリーを100℃以上かつ150℃以下の範囲の温度に加熱することで、加圧下にて合成するので、結晶格子のa軸方向及びc軸方向の長さを大きく保ったままで、b軸方向の長さが特異的に短く、しかも、非常に微細なLiMnPO粒子を容易に製造することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0034】
「粉体の作製」
(実施例1)
LiMnPOの合成は以下のようにして行った。
Li源及びP源としてLiPOを、Mn源としてMnSO水溶液を用い、これらをモル比でLi:Mn:P=3:1:1となるように混合して200mlの原料スラリーを作製した。
次いで、この原料スラリを耐圧容器に入れ、その後、100℃にて1時間、水熱合成を行った。このときの耐圧容器内の圧力は0.1MPaであった。
反応後、室温になるまで冷却し、ケーキ状態の反応生成物の沈殿物を得た。この沈殿物を蒸留水にて計5回十分に水洗し、乾燥しないように含水率30%に保持し、実施例1のケーキ状物質を得た。
【0035】
次いで、上記の沈殿物から試料を若干量採取し、この試料を70℃にて2時間真空乾燥させ、実施例1の粉体を得た。
この粉体の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−2100J(島津製作所社製)を用いて測定したところ、17nmであった。
この粉体をX線回折装置を用いて同定したところ、単相のLiMnPOが生成していることが確認された。また、この粉体のX線回折図形から算出した格子定数の値は、a=10.419Å、b=6.086Å、c=4.734Åであった。
また、この粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)像から観察されるLiMnPO粒子の形状は、特徴的な板状結晶であった。
さらに、X線回折図形に見られるX線強度のピークのうち、b軸の反射に由来するピークが大きく現れており、板状結晶の厚さ方向はb軸方向であることが分かった。
【0036】
(実施例2)
原料スラリの水熱合成の条件を130℃にて1時間とした他は、実施例1に準じて実施例2のケーキ状物質及び粉体を得た。
この粉体の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−2100J(島津製作所社製)を用いて測定したところ、39nmであった。
この粉体をX線回折装置を用いて同定したところ、単相のLiMnPOが生成していることが確認された。また、この粉体のX線回折図形から算出した格子定数の値は、a=10.429Å、b=6.085Å、c=4.735Åであった。
また、この粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)像から観察されるLiMnPO粒子の形状は、特徴的な板状結晶であった。
【0037】
さらに、X線回折図形に見られるX線強度のピークのうち、b軸の反射に由来するピークが大きく現れており、板状結晶の厚さ方向はb軸方向であることが分かった。
実施例2の粉体のX線回折図形を図1に、走査型電子顕微鏡(SEM)像を図2に、それぞれ示す。なお、図1の最下段に、JCPDSカードNo.33−0804に記載されているLiMnPOの回折線の位置を示している。
【0038】
(実施例3)
原料スラリの水熱合成の条件を150℃にて1時間とした他は、実施例1に準じて実施例3のケーキ状物質及び粉体を得た。
この粉体の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−2100J(島津製作所社製)を用いて測定したところ、78nmであった。
この粉体をX線回折装置を用いて同定したところ、単相のLiMnPOが生成していることが確認された。また、この粉体のX線回折図形から算出した格子定数の値は、a=10.424Å、b=6.088Å、c=4.739Åであった。
また、この粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)像から観察されるLiMnPO粒子の形状は、特徴的な板状結晶であった。
さらに、X線回折図形に見られるX線強度のピークのうち、b軸の反射に由来するピークが大きく現れており、板状結晶の厚さ方向はb軸方向であることが分かった。
【0039】
(比較例1)
原料スラリの水熱合成の条件を170℃にて1時間とした他は、実施例1に準じて比較例1のケーキ状物質及び粉体を得た。
この粉体の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−2100J(島津製作所社製)を用いて測定したところ、132nmであった。
この粉体をX線回折装置を用いて同定したところ、単相のLiMnPOが生成していることが確認された。また、この粉体のX線回折図形から算出した格子定数の値は、a=10.443Å、b=6.102Å、c=4.748Åであった。
また、この粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)像から観察されるLiMnPO粒子の形状は、柱状の結晶であった。
比較例1の粉体のX線回折図形を図1に、走査型電子顕微鏡(SEM)像を図3に、それぞれ示す。
【0040】
(比較例2)
原料スラリの水熱合成の条件を90℃にて1時間とした他は、実施例1に準じて比較例2のケーキ状物質及び粉体を得た。
この粉体の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−2100J(島津製作所社製)を用いて測定したところ、31nmであった。
この粉体をX線回折装置を用いて同定したところ、単相のLiMnPOは生成しておらず、LiPOとMn水和物との混合物が生成していることが確認された。
比較例2の粉体のX線回折図形を図1に、走査型電子顕微鏡(SEM)像を図4に、それぞれ示す。
【0041】
「リチウムイオン電池の作製」
実施例1〜3及び比較例1各々にて得られた各粉体、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)、溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を用い、これらを混合し、実施例1〜3及び比較例1各々の正極材料ペーストを作製した。なお、ペースト中の質量比、すなわち粉体:AB:PVdFは80:10:10であった。
次いで、これらの正極材料ペーストを厚み30μmのアルミニウム(Al)箔上に塗布し、乾燥した。その後、30MPaの圧力にて圧密し、正電極板とした。
【0042】
次いで、この正電極板を成形機を用いて直径16mmの円板状に打ち抜き、試験用正電極とした。
一方、負電極には、市販のLi金属板を、セパレーターには多孔質ボリプロピレン膜を、非水電解質溶液には1mol/LのLiPF溶液を、それぞれ用い、また、このLiPF溶液の溶媒としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの体積比が1:1の混合溶液を用い、2032コイン型セルを用いて、実施例1〜3及び比較例1各々のリチウムイオン電池を作製した。
【0043】
「電池特性試験」
実施例1〜3及び比較例1各々のリチウムイオン電池の電池特性試験を、環境温度25℃、充電電流0.1CAで、正電極の電位がLiの平衡電位に対して4.5Vになるまで充電し、1分間休止の後、0.1CAの放電電流で2.0Vになるまで放電させて行った。
実施例1〜3及び比較例1各々の環境温度25℃における0.1C放電容量及び1C放電容量を表1に示す。また、図5に実施例2及び比較例1各々の0.1CAの充放電曲線を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
なお、実施例1〜3では、導電助剤としてアセチレンブラックを用いているが、カーボンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料を用いてもよい。
また、負電極に市販のLi金属板を用いたが、このLi金属板の替わりに天然黒鉛、人造黒鉛、コークス等の炭素材料、リチウム合金、LiTi12等の負極材料を用いてもよい。
【0046】
また、非水電解質溶液にLiPF溶液を、このLiPF溶液の溶媒として炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの比が1:1のものを、それぞれ用いたが、LiPFの替わりにLiBFやLiClO溶液を用いてもよく、炭酸エチレンの代わりにプロピレンカーボネートやジエチルカーボネートを用いてもよい。
また、電解液とセパレーターの代わりに固体電解質を用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiMnPOからなるリチウムイオン電池用正極活物質であって、
X線回折図形から算出した格子定数a、b及びcの値が、10.41Å<a≦10.43Å、6.070Å<b≦6.095Å、4.730Å<c≦4.745Åを満たすことを特徴とするリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
平均粒子径は10nm以上かつ100nm以下であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
LiMnPOからなるリチウムイオン電池用正極活物質を水熱合成法にて製造する方法であって、
Li源、P源及びMn源を水を主成分とする溶媒と混合して得られた原料スラリーを100℃以上かつ150℃以下の範囲の温度に加熱することで、加圧下にて合成することを特徴とするリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のリチウムイオン電池用正極活物質を含有してなることを特徴とするリチウムイオン電池用電極。
【請求項5】
請求項4記載のリチウムイオン電池用電極を備えてなることを特徴とするリチウムイオン電池。

【図1】
image rotate

【図5】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−204015(P2012−204015A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64895(P2011−64895)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】