説明

リチウムイオン電池用負極物質

本発明は、再充電可能なリチウム電池の負極物質を提供する。これらの物質は、リチウム複合合金を含む。各リチウム複合合金は、コア−シェル構造を有し、1つ以上のリチウム合金顆粒をそのコアとして、炭素材料をそのシェルとして有する。上記リチウム合金顆粒の平均顆粒径は5μm〜40μmである。シェル層の平均厚さは5nm〜100nm(50Å〜1,000Å)である。上記リチウム複合合金の平均径は10μm〜50μmである。上記物質の製造方法は、以下の工程、すなわち、リチウム合金顆粒を有機系溶液中で、コーティング物質とともに攪拌する工程、固体生成物を上記有機系溶液中で、コーティング物質とともに乾燥させる工程、リチウム複合合金を有する負極物質を得るために、乾燥させた生成物をか焼する工程を含む。このようにして製造されるリチウム複合合金は、炭素材料のシェルでコーティングされたコアとしてのリチウム合金顆粒を有する。本発明の負極を有する再充電可能なリチウムイオン電池、又は本発明の方法によって製造される再充電可能なリチウムイオン電池は、優れた初期充放電効率、電池容量及びサイクル寿命を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[相互参照]
本出願は、2004年8月17日付けで出願された「リチウム複合合金の材料、その製造方法、負極物質、負極物質の物理的構造及びリチウム二次電池」と題する中国特許出願第200410051183.6号の優先権を主張する。この中国特許出願は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、再充電可能なリチウム電池の負極物質及び当該物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、比較的新しく、環境に優しい電気化学エネルギー源である。従来のニッケルカドミウム電池及びニッケル水素電池と比べると、リチウムイオン電池は、高電圧、長寿命及び大きなエネルギー密度を有するという利点がある。また、軽量であり、メモリ効果を有さず、環境に対する有害性が低い。これらの優れた特性により、リチウムイオン電池は急速に開発されており、今では携帯用機器に広く使用されている。
【0004】
従来のリチウムイオン電池の負極には、例えば、天然黒鉛、人工黒鉛等の黒鉛化炭素材料、並びに、例えば、非黒鉛化木炭、高分子炭化水素から成る高分子材料の高温での酸化により得られる木炭、熱分解炭素、コークス、有機系高分子か焼体及び活性炭等の非黒鉛化炭素材料が使用されている。しかしながら、これらの炭素材料は、初期充電プロセス中、炭素材料の表面層上に、SEI(表面電解質界面;surface electrolyte interface)を形成する。SEIの形成及び電解質における他の反応は、初期充放電の電気効率を低下させ、電池の容量の性能に影響する。
【0005】
或る量のリチウム合金を負極物質に添加すると、初期充放電の電気効率の低下に起因する電池容量の減少の問題が効果的に解決され得る。しかしながら、添加されるリチウム合金の体積は、電池の連続的充放電プロセスとともに膨張する。このことは、電極内で物質の遊離を引き起こし、電極物質の脱離を引き起こすことさえあり得る。また、このプロセスは、内部抵抗を増加させ、電池のサイクル特性に影響する。
【0006】
したがって、先行技術の制限のために、電池の負極に使用したときに、優れた初期充放電効率、大電池容量及び長期サイクル寿命を有する電池をもたらすような、新規な物質及び新規な負極物質の製造方法が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、負極として有すると電池が優れた初期充放電効率、大電池容量及び長期サイクル寿命を有するような負極物質を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、体膨張を効果的に制限し得る、リチウム合金を含有する負極物質を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、再充電可能なリチウム電池のサイクル特性を改善する負極物質を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、得られる電池が優れた初期充放電効率、大電池容量及び長期サイクル寿命を有するような負極物質の製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、リチウム合金を含有するが、リチウム合金の体膨張を効果的に制限し得る負極物質の製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、再充電可能なリチウム電池のサイクル特性を改善する負極物質の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
簡潔に言えば、現時点で好ましい本発明の実施の形態は、リチウム複合合金を含有する負極物質を提供する。各リチウム複合合金はコア−シェル構造を有し、ここで、上記コアは1つ以上のリチウム合金顆粒を含み、上記シェルは炭素材料炭素を含む。上記リチウム合金顆粒の平均顆粒径は5μm〜40μmである。上記シェルの平均厚さは5nm〜100nm(50Å〜1,000Å)である。上記リチウム複合合金の平均径は10μm〜50μmである。上記リチウム合金中のリチウム濃度は合金の10重量%〜40重量%である。上記物質の製造方法は、コーティングされた固体生成物を形成するために、複数のリチウム合金顆粒を有機系溶液中でコーティング物質とともに攪拌する工程、固体生成物を乾燥させる工程、複数のリチウム複合合金を負極物質内に得るために、該乾燥させた生成物をか焼する工程を含む。上記方法によって製造されるリチウム複合合金は、炭素材料のシェルでコーティングされたコアとして、リチウム合金顆粒を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の利点は、本発明の負極物質を用いた電池、又は本発明の方法によって製造された電池が、優れた初期充放電効率、大電池容量及び長期サイクル寿命を有することである。
【0015】
本発明の他の利点は、本発明のリチウム合金含有負極物質、又は本発明の方法によって製造されたリチウム合金含有負極物質が、リチウム合金の体膨張を効果的に制限し得ることである。
【0016】
本発明の他の利点は、本発明の負極物質を用いた電池、又は本発明の方法によって製造された電池が、改善されたサイクル特性を有することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の上記及び他の目的、態様及び利点は、本発明の好ましい実施の形態の以下の詳細な説明から、添付の図面と関連させると、より十分に理解されよう。
【0018】
現時点で好ましい本発明の実施形態は、リチウム複合合金を含む負極物質に関する。各リチウム複合合金はコア−シェル構造を有し、ここで、当該コアは1つ以上のリチウム合金顆粒を含み、当該シェルは炭素材料(第1の炭素材料)を含む。好ましい実施形態では、シェルはアモルファスカーボンを含む。上記リチウム合金顆粒の平均顆粒径は5μm〜40μmである。シェルの平均厚さは5nm〜100nm(50Å〜1,000Å)である。上記リチウム複合合金の平均径は10μm〜50μmである。
【0019】
好ましい実施形態において、上記リチウム合金は、リチウムと、以下の、Be、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Cu、Alから選ばれる少なくとも一種の金属とによって形成される合金である。該リチウム合金中のリチウムの濃度は10重量%〜40重量%である。
【0020】
リチウム複合合金の実施形態は、1つ以上のリチウム合金顆粒を有する。好ましい実施形態では、顆粒径は5μm〜40μmであり、上記リチウム複合合金の平均径は10μm〜50μmである。再充電可能なリチウム電池の負極用炭素材料の顆粒径は、通常、数十マイクロメートルの範囲である。リチウム合金顆粒の顆粒径が大きすぎると、コーティングされた顆粒の体積がディップコーティングするには大きくなりすぎる。顆粒径が小さすぎると、多すぎる炭素材料でコーティングされることとなるので、リチウム合金中のリチウムを十分に活用することができない。
【0021】
シェルの平均厚さは、炭素材料でのコーティングの前後における顆粒の平均顆粒径の差によって測定される。すなわち、炭素シェルの平均厚さ=(リチウム複合合金の平均顆粒径−炭素材料でのコーティング前のリチウム合金顆粒の平均顆粒径)/2である。好ましい実施形態において、炭素材料のシェルの平均厚さは5nm〜100nm(50Å〜1,000Å)である。シェルの厚さが薄すぎると、効果的なコーティングがリチウム合金顆粒上に形成され得ない。シェルの厚さが厚すぎると、リチウム合金顆粒中のリチウムの脱離に影響する。
【0022】
リチウム合金顆粒中のリチウム金属の濃度における最適な選択は、リチウム合金の10重量%〜40重量%である。非リチウム金属の濃度が高すぎると、脱離されるリチウムイオンが少なすぎ、負極に必要とされる物質の量を増加しなければならなくなる。非リチウム金属の濃度が低すぎると、リチウム合金の製造がより困難になる。リチウムの濃度が高すぎると、これらの物質を大気中で製造することは不可能である。このことが、製造プロセスに対して厳しい環境的要件を課し、電池のコストを増加させる。さらにまた、高濃度のリチウムによって、リチウム合金の融点が低くなりすぎ、リチウム合金顆粒のコーティングを困難にする。上記のリチウム金属濃度の最適範囲により、リチウム合金顆粒の乾燥大気中での取り扱いが可能となり、製造コストが低減される。
【0023】
リチウム複合合金のコアとして使用されるリチウム合金に対して特に制限はない。負極に使用されるリチウムを貯蔵し得る慣用のリチウム合金が選択され得る。例としては、リチウムと、Be、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Cu及びAlから選ばれる少なくとも一種の金属とから構成される合金が挙げられる。
【0024】
上記物質の製造方法の実施形態は、以下の工程、すなわち、
リチウム合金顆粒を、有機系溶液中に、コーティング物質とともに浸漬する工程、
コーティングされた固体生成物を液体中で形成するために、上記顆粒を上記有機系溶液中で上記コーティング物質とともに攪拌する工程、
上記コーティングされた固体生成物を乾燥させる工程、及び
リチウム複合合金を負極物質内に得るために、上記乾燥させた生成物をか焼する工程
を含む。
【0025】
製造方法の好ましい実施形態において、リチウム合金顆粒の平均顆粒径は5μm〜40μmである。上記リチウム合金は、リチウムと、Be、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Cu、Alから選ばれる少なくとも一種の金属とによって形成される合金である。上記リチウム合金中のリチウムの濃度は10重量%〜40重量%である。
【0026】
好ましい実施形態の製造プロセスにおいては、上記リチウム合金顆粒を1〜6時間、有機系溶液中でコーティング材料とともに攪拌する。固体生成物が、液体からの分離により得られ、熱により一種以上の不活性ガスのような不活性環境内で乾燥させる。乾燥させた被コーティング固体生成物のか焼を炉内で、一種以上の不活性ガスによる不活性環境にて500℃〜1,200℃で4時間〜10時間行なう。乾燥させる工程及びか焼する工程に使用される代表的な不活性ガスはアルゴンである。
【0027】
コーティング物質は、例えば、ピッチ、樹脂又は有機系ポリマー等の炭素材料(第3の炭素材料)である。有機系溶液は、テトラヒドロフラン等の溶媒であり得る。上記有機系溶液中のコーティング物質の好ましい濃度は3%〜20%である。代表的な一実施形態では、コーティング物質であるピッチの濃度は、有機系溶液であるテトラヒドロフラン中で、3%〜10%である。
【0028】
上記負極物質の好ましい実施形態は、所定量のリチウム複合合金を有する。各リチウム複合合金は、高温で製造された炭素材料のシェルでコーティングされた1つ以上のリチウム合金顆粒を含む。代表的な実施形態では、シェル構造は、以下の工程、すなわち、予備生成物である化合物の層をリチウム合金顆粒の表面上に析出させるために、析出反応法(deposition reaction method)を用いる工程、基材に沿って成長させた後、球体を形成するために、リチウム合金顆粒をコーティングする工程、シェル構造を得るために、固相炭化技術を所定の温度で用いる工程によって得られる。
【0029】
このリチウム複合合金は、リチウム合金の膨張を制限することができ、それにより、これらの実施形態をその負極物質として用いた電池のサイクル特性が改善される。リチウム複合合金は、負極活物質内に均一に混合されるLiを有するため、電池を充電した場合、負極活物質が、まず、リチウム合金と反応する。リチウム合金顆粒中のLiがまず脱離し、負極活物質内で混合される。その結果、不可逆反応において正極から脱離するリチウムイオンがずっと少なくなり、SEIが形成される。Liの比容量は4,000mAh/gである。リチウム合金中の脱離されるリチウムイオンが、黒鉛又は他の負極活物質のものよりもかなり多い場合であっても、天然黒鉛の理論比容量はわずか372mAh/gであるため、これらのリチウムイオンは、不可逆反応による正極活物質中のリチウムイオンの損失を効果的に補い得る。このことにより、正極活物質の使用の度合いが増加し、初期充放電電気効率が高まり、電池の容量もまた増加し得る。
【0030】
いくつかの実施形態において、上記リチウム複合合金に加え、上記物質は、負極活物質も含む。活物質に対して特に制限はない。現行の技術で使用されている、炭素含有物質等の慣用の負極活物質が使用され得る。
【0031】
好ましい実施形態では、活物質は炭素材料であり得、このとき、上記負極活物質中の上記リチウム複合合金の濃度は0.5重量%〜20重量%である。このような炭素材料(第2の炭素材料)は、黒鉛化炭素、非黒鉛化炭素、黒鉛、高分子炭化水素から成る高分子材料の高温での酸化により得られる木炭、熱分解炭素、コークス、有機系高分子か焼体及び活性炭から選ばれる一種以上の材料であり得る。有機系高分子か焼体材料は、フェノールホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂等の適切な温度でのか焼及び炭化により得られる生成物であり得る。最適な選択は、黒鉛化炭素材料である。
【0032】
好ましくは、リチウム複合合金の濃度は負極活物質の0.5重量%〜20重量%である。リチウム複合合金の濃度が低すぎると、脱離されるリチウムイオンの量が少なくなり、電池の充放電効率に対する効果が制限される。リチウム複合合金の割合がより高いと、活物質の量が少なくなり、電池の実容量に影響する。
【0033】
好ましい実施形態では、電池の負極は、負極の集電板を、本発明の実施形態である負極物質を含むペーストでディップコーティングすることにより製造され得る。負極の集電板には、銅箔を使用することができる。負極は、以下の工程、すなわち、所定のリチウム複合合金、結合剤及び適切な溶媒を炭素材料(第2の炭素材料)に添加して均一に混合する工程、及び負極を形成するために、混合物を銅箔上にディップコーティングする工程を用いて製造される。上記結合剤及び溶媒に対して特に制限はない。通常、リチウムイオン電池の負極の製造において既知の結合剤及び溶媒が使用される。
【0034】
再充電可能なリチウム電池は、本発明の実施形態である負極物質を用いて製造することができる。この再充電可能なリチウム電池は、正極、負極及び非水系電解質を含む。
【0035】
一般的に、正極は、集電板、及び集電板上に正極活物質を含む。集電板には、アルミニウム箔又はニッケル箔を使用することができる。正極活物質に対して特に制限はない。正極活物質は、一般的に、リチウムイオンを包埋及び脱離する活物質を含む。正極活物質は、金属の硫化物又は金属の酸化物から選択され得る。例えば、正極活物質は、TiS2、MoS2、V25及び酸化リチウム材料である化合物から選ばれる一種以上の化合物であり得る。酸化リチウムである上記化合物は、その主要成分としてLiMx2を有し、式中、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Al、V及びTiから選ばれる少なくとも一種の元素である。xの範囲Iは0.05〜1.10である。上記正極活物質の最適な選択は、Li含有酸化物の積層化合物である。酸化リチウムのこのような化合物は、高電圧をもたらすことができ、優れたエネルギー密度を有する正極活物質であり得る。また、正極物質は、結合剤、溶媒及び導電剤をも含有し得る。正極の製造方法に対して特に制限はない。ディップコーティングは、使用可能な方法の一例である。
【0036】
非水系電解質に対して特別な要件はない。再充電可能なリチウム電池用の通常の電解質が使用され得る。例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiCH3SO3、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF33、LiAlCl4、LiSiF6、LiB(C654、LiCl及びLiBrから選ばれる一種以上の電解質の溶質を有する非水系電解質である。
【実施例】
【0037】
以下の実施形態及び実施形態により、本発明をさらに説明する。
【0038】
[比較例1]
負極の製造は、以下の工程、すなわち、
3単位のフッ化ポリビニリデン(PVDF)を結合剤として、及び所定量のテトラヒドロフランを、負極の活物質としての黒鉛(中国産)に添加する工程、
攪拌して均一に混合する工程、
上記混合物を銅箔(厚さ10μm)上にディップコーティングする工程、
乾燥させる工程、及び
負極用薄片を形成するために、加圧成形する工程工程
を含む。
【0039】
正極の製造は、以下の工程、すなわち、
100単位の酸化リチウムコバルト(LiCoO2)を正極の活物質として、3単位のフッ化ポリビニリデン(PVDF)粉末を結合剤として、及び15単位のアセチレンブラックを導電剤として添加する工程、
溶媒N−メチルピロリドン(NMP)中で均一に混合するために、添加した混合物を攪拌する工程、
アルミニウム箔(厚さ20μm)上にディップコーティングする工程、
乾燥させる工程、及び
正極用薄片を形成するために、加圧成形する工程
を含む。
【0040】
電解質の製造は、以下の工程、すなわち、
炭酸エチル(EC)及び炭酸ジエチル(DEC)を炭酸エチル(EC):炭酸ジエチル(DEC)=1:1の比で添加することにより、電解質用の溶媒を調製する工程、及び
1mol/lのLiPF6濃度を有する電解質を形成するために、所定量のLiPF6を上記溶媒に添加する工程
を含む。
【0041】
この比較例の電池は、
負極、正極、及び分離膜を分離するとともに積層すること、
巻き回すこと、及び
電解質を注入することであって、それによって、LP053048型の再充電可能なリチウム電池を作製する、注入する
ことにより製造する。
【0042】
[実施形態1のサンプル#1]
実施形態1のサンプル#1のリチウム複合合金は、
以下の工程、すなわち、
30μmの平均顆粒径を有する所定量のアルミニウムリチウム合金顆粒を、5%濃度のピッチ含有テトラヒドロフラン溶液中に浸漬する工程、
液体中で固体生成物を形成するために、上記アルミニウムリチウム合金顆粒を上記ピッチ含有テトラヒドロフラン溶液中で2時間攪拌する工程、
液体から固体生成物を分離する工程、
固体生成物を、熱により、アルゴンガス中で乾燥させる工程、
アルミニウム複合合金を得るために、乾燥させた生成物を500℃のか焼炉内で4時間、アルゴン雰囲気中でか焼する工程(ここで各アルミニウム複合合金は、炭素材料でコーティングされた1つ以上のアルミニウムリチウム合金顆粒である)
を含む方法で製造する。
【0043】
実施形態1のサンプルにおける負極の製造において、100単位の黒鉛(中国産)を負極活物質として使用する。加えて、2単位のアルミニウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。他はすべて、比較例1の負極の製造と同じである。
【0044】
この実施形態のサンプル#1を得るための、正極、電解質及び電池の製造については、比較例1のものと同じである。負極物質のみ、上記のように変更する。
【0045】
[実施形態1のサンプル#2]
サンプル#2を得るために、4単位のアルミニウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。他はすべて、サンプル番号1と同じである。
【0046】
[実施形態1のサンプル#3]
サンプル#3を得るために、6単位のアルミニウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。他はすべて、サンプル番号1と同じである。
【0047】
[実施形態1のサンプル#4]
サンプル#4を得るために、8単位のアルミニウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。他はすべて、サンプル番号1と同じである。
【0048】
[実施形態1のサンプル#5]
サンプル#5を得るために、10単位のアルミニウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。他はすべて、サンプル番号1と同じである。
【0049】
[実施形態1のサンプル#6]
サンプル#6を得るために、12単位のアルミニウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。他はすべて、サンプル番号1と同じである。
【0050】
[実施形態1のサンプル#7]
サンプル#7を得るために、14単位のアルミニウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。他はすべて、サンプル番号1と同じである。
【0051】
[実施形態1のサンプル#8]
サンプル#8を得るために、16単位のアルミニウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。他はすべて、サンプル番号1と同じである。
【0052】
[実施形態1のサンプル#9]
サンプル#9を得るために、18単位のアルミニウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。他はすべて、サンプル番号1と同じである。
【0053】
[実施形態1のサンプル#10]
サンプル#10を得るため、20単位のアルミニウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。他はすべて、サンプル番号1と同じである。
【0054】
[サンプル及び比較例の電気化学的特性の試験]
比較例1及び実施形態1のサンプルの電池を一定電圧で充電する。これらの電池内の電流を0.05C(30mA)に制限する。最終電圧は4.2Vである。充電後、電池を、一定電流で放電させる。放電電流は0.05C(30mA)である。終止電圧は3Vである。試験の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
試験の結果は、アルミニウムリチウム複合合金を負極活物質に添加することにより、電池の初期充放電率が増加することを示す。アルミニウムリチウム複合合金の濃度が高すぎると、第2のサイクルの容量は低下する。これは、負極の炭素材料の容量の低下を示す。
【0057】
[実施形態2のサンプル#11]
実施形態2のこのサンプルにおける負極の製造において、100単位の黒鉛(中国産)を負極活物質として使用する。加えて、8単位のベリリウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。各ベリリウムリチウム複合合金は、炭素材料でコーティングされた1つ以上のベリリウムリチウム合金顆粒であり、このときのベリリウムリチウム合金顆粒の平均顆粒径は16μmである。ベリリウム(Be)は、ベリリウムリチウム合金の70重量%である。他はすべて、比較例1の負極及び電池の製造と同じである。
【0058】
[実施形態2のサンプル#12]
サンプル#12を得るために、8単位のマグネシウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。各マグネシウムリチウム複合合金は、炭素材料でコーティングされた1つ以上のマグネシウムリチウム合金顆粒であり、このときのマグネシウムリチウム合金顆粒の平均顆粒径は20μmである。マグネシウム(Mg)は、マグネシウムリチウム合金の70重量%である。他はすべて、サンプル番号11と同じである。
【0059】
[実施形態2のサンプル#13]
サンプル#13を得るために、8単位のチタンリチウム複合合金を負極物質に添加する。各チタンリチウム複合合金は、炭素材料でコーティングされた1つ以上のチタンリチウム合金顆粒であり、このときのチタンリチウム合金顆粒の平均顆粒径は18μmである。チタン(Ti)は、チタンリチウム合金の70重量%である。他はすべて、サンプル番号11と同じである。
【0060】
[実施形態2のサンプル#14]
サンプル#14を得るために、8単位のジルコニウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。各ジルコニウムリチウム複合合金は、炭素材料でコーティングされた1つ以上のジルコニウムリチウム合金顆粒であり、このときのジルコニウムリチウム合金顆粒の平均顆粒径は14μmである。ジルコニウム(Zr)は、ジルコニウムリチウム合金の70重量%である。他はすべて、サンプル番号11と同じである。
【0061】
[実施形態2のサンプル#15]
サンプル#15を得るために、8単位のバナジウムリチウム複合合金を負極物質に添加する。各バナジウムリチウム複合合金は、炭素材料でコーティングされた1つ以上のバナジウムリチウム合金顆粒であり、このときのバナジウムリチウム合金顆粒の平均顆粒径は15μmである。バナジウム(V)は、バナジウムリチウム合金の70重量%である。他はすべて、サンプル番号11と同じである。
【0062】
[実施形態2のサンプル#16]
サンプル#16を得るために、8単位のニオブリチウム複合合金を負極物質に添加する。各ニオブリチウム複合合金は、炭素材料でコーティングされた1つ以上のニオブリチウム合金顆粒であり、このときのニオブリチウム合金顆粒の平均顆粒径は13μmである。ニオブ(Nb)は、ニオブリチウム合金の70重量%である。他はすべて、サンプル番号11と同じである。
【0063】
[実施形態2のサンプル#17]
サンプル#17を得るために、8単位のクロムリチウム複合合金を負極物質に添加する。各クロムリチウム複合合金は、炭素材料でコーティングされた1つ以上のクロムリチウム合金顆粒であり、このときのクロムリチウム合金顆粒の平均顆粒径は17μmである。クロム(Cr)は、クロムリチウム合金の70重量%である。他はすべて、サンプル番号11と同じである。
【0064】
[実施形態2のサンプル#18]
サンプル#18を得るために、8単位の銅リチウム複合合金を負極物質に添加する。各銅リチウム複合合金は、炭素材料でコーティングされた1つ以上の銅リチウム合金顆粒であり、このときの銅リチウム合金顆粒の平均顆粒径は19μmである。銅(Cu)は、銅リチウム合金の70重量%である。他はすべて、サンプル番号11と同じである。
【0065】
[サンプル及び比較例の電気化学的特性の試験]
実施形態2のこれらのサンプルにおける電気化学的特性の試験プロトコルは、実施形態1のサンプルのものと同じである。結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
試験の結果は、Be、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr及びCuの効果が同じであることを示す。これらが、Liと合金を形成した場合は、電池の初期充放電率及び容量が効果的に増加し得る。
【0068】
[比較例2]
100単位の黒鉛(中国産)を負極活物質として使用する。加えて、8単位のアルミニウムリチウム合金顆粒を、炭素材料でコーティングせずに添加する。他はすべて、比較例1と同じである。
【0069】
[実施形態3]
100単位の黒鉛(中国産)を負極活物質として使用する。加えて、8単位のアルミニウムリチウム複合合金を添加する。各アルミニウムリチウム複合合金は、炭素材料でコーティングされた1つ以上のアルミニウムリチウム合金顆粒であり、このときのアルミニウムリチウム合金顆粒の平均顆粒径は16μmである。他はすべて、比較例1と同じである。
【0070】
[サイクル特性の試験]
実施形態3及び比較例2に記載の物質を用いた電池のサイクル特性を、以下のようにして試験する。各電池を一定電圧で充電する。電流を1C(600mA)に制限する。最終電圧は4.2Vである。放電は一定電流でする。放電電流は1C(600mA)である。終止放電電圧は3Vである。各電池について500回充放電を繰返す。容量残留割合のパーセントは、初期放電容量に対する放電容量のパーセント率である。試験の結果を図1に示す。
【0071】
図1は、リチウム複合合金の添加により、電池のサイクル特性が改善されることを示す。
【0072】
本発明を、ある特定の好ましい実施形態に関して記載したが、本発明は、このような特定の実施形態に限定されないことを理解されたい。それどころか、本発明は、以下の特許請求の範囲に反映される広い意味において理解及び解釈されることが本発明者らの主張である。したがって、これらの特許請求の範囲は、本明細書に記載した好ましい実施形態だけでなく、当業者に自明であろう他のさらなる代替形態及び変更形態のすべてもまた組み込まれると理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】負極が本発明の一実施形態である再充電可能なリチウム電池の容量残留率を、負極が本発明のリチウム複合合金を含まない再充電可能なリチウム電池のものと比較した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリチウム複合合金を有する負極物質であって、該リチウム複合合金の各々が、
少なくとも1つのリチウム合金顆粒を有するコアと、
該コアをコーティングし、第1の炭素材料を含むシェル
とを含む負極物質。
【請求項2】
前記リチウム合金顆粒の平均顆粒径が5μm〜40μmである請求項1に記載の負極物質。
【請求項3】
前記リチウム複合合金の平均径が10μm〜50μmである請求項1に記載の負極物質。
【請求項4】
前記シェルの平均厚さが5nm〜100nm(50Å〜1,000Å)である請求項1に記載の負極物質。
【請求項5】
前記リチウム合金顆粒が、リチウムと、Be、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Cu及びAlからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属とを含む請求項1に記載の負極物質。
【請求項6】
前記リチウム合金顆粒中の前記リチウムの濃度が10重量%〜40重量%である請求項1に記載の負極物質。
【請求項7】
前記第1の炭素材料がアモルファスカーボンである請求項1に記載の負極物質。
【請求項8】
さらに、非黒鉛化炭素、黒鉛、熱分解炭素、コークス、有機系高分子か焼体及び活性炭から成る群より選ばれる第2の炭素材料を有する活物質を含む請求項1に記載の負極物質。
【請求項9】
前記リチウム複合合金の濃度が前記負極物質の前記活物質の0.5重量%〜20重量%である請求項1に記載の負極物質。
【請求項10】
前記リチウム複合合金の平均径が10μm〜50μmであり、且つ
前記シェルの平均厚さが5nm〜100nm(50Å〜1,000Å)である、
請求項2に記載の負極物質。
【請求項11】
複数のリチウム複合合金、及び
非黒鉛化炭素、黒鉛、熱分解炭素、コークス、有機系高分子か焼体及び活性炭から成る群より選ばれる少なくとも第2の炭素材料
を含む負極物質であって、
前記リチウム複合合金の各々が、少なくとも1つのリチウム合金顆粒を有するコア、及び該コアをコーティングするシェルを含み、該シェルがアモルファスカーボンを含み、
前記リチウム合金顆粒の平均顆粒径が5μm〜40μmであり、
前記リチウム複合合金の平均径が10μm〜50μmであり、
前記シェルの平均厚さが5nm〜100nm(50Å〜1,000Å)であり、
前記リチウム合金顆粒が、リチウムと、Be、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Cu及びAlから成る群より選ばれる少なくとも一種の金属とを含み、
該リチウム合金顆粒中の前記リチウムの濃度が10重量%〜40重量%であり、且つ
前記リチウム複合合金の濃度が前記負極物質の活物質の0.5重量%〜20重量%である、
負極物質。
【請求項12】
コーティングされた固体生成物を形成するために、複数のリチウム合金顆粒を有機系溶液中でコーティング物質とともに攪拌する工程、
該コーティングされた固体生成物を乾燥させる工程、
複数のリチウム複合合金を負極物質内に得るために、該乾燥させた生成物をか焼する工程、
を含む、負極物質の製造方法。
【請求項13】
前記リチウム合金顆粒の平均顆粒径が5μm〜40μmである、請求項12に記載の負極物質の製造方法。
【請求項14】
前記リチウム合金顆粒が、リチウムと、Be、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Cu及びAlから成る群より選ばれる少なくとも一種の金属とを含む、請求項12に記載の負極物質の製造方法。
【請求項15】
前記リチウム合金顆粒中の前記リチウムの濃度が10重量%〜40重量%である、請求項12に記載の負極物質の製造方法。
【請求項16】
前記コーティング物質が、樹脂、ピッチ及び有機系ポリマーから成る群より選ばれる少なくとも第3の炭素材料である、請求項12に記載の負極物質の製造方法。
【請求項17】
前記有機系溶液中の前記コーティング物質の濃度が3%〜20%である、請求項12に記載の負極物質の製造方法。
【請求項18】
前記乾燥させる工程において、前記コーティングされた固体生成物を実質的に一種以上の不活性ガスを含む環境内で乾燥させ、前記か焼する工程において、前記乾燥させた生成物を実質的に一種以上の不活性ガスを含む環境内でか焼する、請求項12に記載の負極物質の製造方法。
【請求項19】
前記か焼する工程において、前記乾燥させた生成物を、500℃〜1,200℃で4時間〜10時間か焼する、請求項12に記載の負極物質の製造方法。
【請求項20】
前記リチウム合金顆粒の平均顆粒径が5μm〜40μmであり、
該リチウム合金顆粒が、リチウムと、Be、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Cu及びAlから成る群より選ばれる少なくとも一種の金属とを含み、
該リチウム合金顆粒中の前記リチウムの濃度が10重量%〜40重量%であり、
前記コーティング物質が、樹脂、ピッチ及び有機系ポリマーから成る群より選ばれる少なくとも第3の炭素材料であり、
前記有機系溶液中の該コーティング物質の濃度が3%〜20%であり、
前記乾燥させる工程において、前記コーティングされた固体生成物を実質的に一種以上の不活性ガスを含む環境内で乾燥させ、前記か焼する工程において、前記乾燥させた生成物を実質的に一種以上の不活性ガスを含む環境内でか焼し、且つ
前記か焼する工程において、前記乾燥させた生成物を、500℃〜1,200℃で4時間〜10時間か焼する、
請求項12に記載の負極物質の製造方法。


【図1】
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【公表番号】特表2007−526603(P2007−526603A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501100(P2007−501100)
【出願日】平成17年8月16日(2005.8.16)
【国際出願番号】PCT/CN2005/001275
【国際公開番号】WO2006/017986
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(506283031)ビーワイディー カンパニー リミテッド (16)
【氏名又は名称原語表記】BYD COMPANY LIMITED
【Fターム(参考)】