説明

リチウムガス電池

【課題】放電開始電圧を高くすることが可能なリチウムガス電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を有する負極1、酸化還元可能な気体を正極活物質として用いる正極2、及び、負極と正極との間に配設された非水系のイオン伝導体3を備え、正極に、担体に担持させた金属フタロシアニン錯体を焼成することによって作製した酸化還元触媒が含有されている、リチウムガス電池10とする。焼成により、担体と金属フタロシアニン錯体との接合が強まり放電開始電圧を高くすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極を備え、酸化還元可能な気体を正極活物質として用いるリチウムガス電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムを活物質として用いる電池は、エネルギー密度が高く、高電圧で作動させることができる。そのため、小型軽量化を図りやすい電池として携帯電話等の情報機器に使用されており、近年、ハイブリッド自動車用等、大型の動力用としての需要も高まっている。
【0003】
このような電池のうち、リチウムイオン二次電池には、正極及び負極と、これらの間に充填される電解質とが備えられ、電解質は、非水系の液体や固体等によって構成される。製造されたリチウムイオン二次電池は、充電した後に放電され、放電後に充電することにより、再生される。リチウムイオン二次電池の充放電時には、正極と負極との間をリチウムイオンが移動する。
【0004】
一方、酸素や窒素、空気等に代表される、酸化還元可能な気体を正極活物質として用いる電池(以下において、「ガス電池」という。)は、放電時に、気体を外部から取り込んで用いる。そのため、正極活物質及び負極活物質を電池内に有する他の電池に比べ、電池容器内に占める負極活物質の割合を大きくすることが可能になる。したがって、放電できる電気容量を増大させやすく、小型化や軽量化が容易という特徴を有している。また、例えば、気体に酸素を用いる場合、酸素の酸化力は強力であるため、電池の起電力が比較的高い。さらに、酸素や窒素、空気等の気体は資源的な制約がなくクリーンな材料であるという特徴も有する。そのため、ガス電池は環境負荷が小さい。このように、多くの利点を有するガス電池は、ハイブリッド車用電池や携帯機器用電池等への利用が期待されており、近年、ガス電池の高性能化が求められている。
【0005】
このようなガス電池に関する技術として、例えば特許文献1には、容器と、容器内に収納され、活物質材料を含む正極と、容器内に収納される負極と、正極と負極の間に配置される非水電解質層と、容器に形成され、正極に酸素を取り込む空気孔とを具備する非水電解質空気電池であって、活物質材料は、20重量%以上がアモルファス構造を有するフタロシアニン誘導体及び20重量%以上がアモルファス構造を有するナフトシアニン誘導体のうち少なくとも一方の誘導体を3〜50重量%含有し、活物質材料中に含まれるアモルファス構造を有する誘導体の総量は、3重量%以上であることを特徴とする非水電解質空気電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−63262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている技術では、炭素材料と該炭素材料に担持される酸素活性化触媒との接合が不十分になりやすく、放電開始電圧が低下しやすいという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、放電開始電圧を高くすることが可能なリチウムガス電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を有する負極、酸化還元可能な気体を正極活物質として用いる正極、及び、負極と正極との間に配設された非水系のイオン伝導体を備え、正極に、担体に担持させた金属フタロシアニン錯体を焼成することによって作製した酸化還元触媒が含有されていることを特徴とする、リチウムガス電池である。
【0010】
ここに、「酸化還元可能な気体」とは、例えば、酸素、窒素、二酸化炭素、水素のほか、これらの2以上が混合した気体(例えば、空気等)をいう。また、「リチウムガス電池」とは、酸化還元可能な気体を正極活物質とし、且つ、リチウムイオンを吸蔵放出可能な物質を負極活物質として用いる電池をいう。すなわち、例えば、空気を正極活物質とし、金属リチウムを負極活物質として用いるリチウム空気電池は、本発明のリチウムガス電池に含まれる。
【0011】
また、上記本発明において、金属フタロシアニン錯体の中心金属が、Fe又はCoであることが好ましい。
【0012】
また、上記本発明において、金属フタロシアニン錯体の中心金属がFeであり、且つ、該金属フタロシアニン錯体に硫黄が添加されていることが好ましい。
【0013】
また、上記本発明において、焼成された金属フタロシアニン錯体を構成する窒素及び炭素のモル比N/Cが、0.005<N/C<0.013であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリチウムガス電池には、正極に、担体に担持させた金属フタロシアニン錯体を焼成することによって作製した酸化還元触媒が含有されており、この焼成された金属フタロシアニン錯体は、気体の酸化還元触媒として機能する。焼成することにより、担体と金属フタロシアニン錯体との接合を強くして2電子還元反応の発生割合を高くすることが可能になるので、放電開始電圧を高くすることが可能になる。したがって、本発明によれば、放電開始電圧を高くすることが可能なリチウムガス電池を提供することができる。
【0015】
また、本発明において、金属フタロシアニン錯体の中心金属が、Fe又はCoであることにより、放電開始電圧を高めることが容易になる。
【0016】
また、本発明において、金属フタロシアニン錯体の中心金属がFeであり、且つ、該金属フタロシアニン錯体に硫黄が添加されていることにより、上記効果に加えて、リチウムガス電池のクーロン効率(=充電容量/放電容量)を大きくすることが可能になる。
【0017】
また、本発明において、焼成された金属フタロシアニン錯体を構成する窒素及び炭素のモル比N/Cが、0.005<N/C<0.013であることにより、上記効果に加えて、焼成された金属フタロシアニン錯体の酸化還元活性を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のリチウムガス電池10を説明する図である。
【図2】活性炭に担持させた中心金属がFeである金属フタロシアニン錯体の焼成前後の様子を示す図である。
【図3】活性炭に担持させた中心金属がCoである金属フタロシアニン錯体の焼成前後の様子を示す図である。
【図4】作製した評価用セル40の断面図である。
【図5】放電試験の結果を示す図である。
【図6】放電試験の結果を示す図である。
【図7】放電試験の結果を示す図である。
【図8】放電試験の結果を示す図である。
【図9】充電試験の結果を示す図である。
【図10】充電試験の結果を示す図である。
【図11】充電試験の結果を示す図である。
【図12】充電試験の結果を示す図である。
【図13】放電試験の結果を示す図である。
【図14】モル比N/Cと放電容量との関係を示す図である。
【図15】モル比N/Cと充電容量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者は、鋭意研究の結果、炭素担体に担持させた中心金属がFeである金属フタロシアニン錯体(以下において、「Feフタロシアニン」という。)や、中心金属がCoである金属フタロシアニン錯体(以下において、「Coフタロシアニン」という。)を酸化還元触媒として正極に含むリチウムガス電池は、これらを正極に含有させずに炭素を正極に含むリチウムガス電池よりも放電開始電圧が高く、炭素担体に担持させたFeフタロシアニンやCoフタロシアニンを焼成して作製した酸化還元触媒を正極に含むリチウムガス電池は、放電開始電圧がさらに高くなることを知見した。また、本発明者は、鋭意研究の結果、硫黄を添加したFeフタロシアニンを炭素担体に担持させて焼成することにより作製した酸化還元触媒を正極に含むリチウムガス電池は、クーロン効率が大きいことを知見した。焼成することにより、担体と金属フタロシアニン錯体との接合を強くすることが可能になり、2電子還元反応の発生頻度を高くすることが可能になるので、中心金属がFeやCo以外の金属である金属フタロシアニン錯体を酸化還元触媒として用いても、リチウムガス電池の放電開始電圧を高くすることが可能になると考えられる。
【0020】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。本発明は、放電開始電圧を高くすることが可能なリチウムガス電池を提供することを趣旨とする。
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。なお、以下に示す、酸化還元可能な気体として空気を用いる形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
【0022】
図1は、本発明のリチウムガス電池10を説明する概念図である。図1に示すように、リチウムガス電池10は、負極1と、正極2と、負極1及び正極2の間に配設された電解質層3と、を有している。負極1は金属リチウムによって構成されており、正極2には、Feフタロシアニンに硫黄を添加した後に炭素担体へと担持させて焼成することにより作製した酸化還元触媒が含有されている。また、電解質層3は、リチウムイオン伝導性を有する非水電解液とこれを保持する多孔質セパレータとを有している。炭素担体に担持させた、硫黄を添加されたFeフタロシアニン(以下において、「硫黄添加Feフタロシアニン」という。)を焼成する過程を経て作製された酸化還元触媒が、正極2に含有されていることにより、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンが含有されていない場合と比較して、リチウムガス電池10の放電開始電圧を高くすることが可能になる。なお、図1では、負極1の集電を行う負極集電体及びこの負極集電体に接続された負極リード、正極2の集電を行う正極集電体及びこの正極集電体に接続された正極リード、並びに、負極1と正極2と電解質層3とを収容する外装材の記載を省略している。
【0023】
正極2に含有されている酸化還元触媒は、焼成する過程を経て作製されている。そのため、焼成する過程を経ていない場合と比較して、硫黄添加Feフタロシアニンとこれを担持する炭素担体とを強く接合させることが可能になる。焼成する過程を経ていない従来の酸化還元触媒は、炭素担体と強く接合されないため、電極の電子伝導において、炭素担体成分が主成分になると考えられる。炭素担体の放電開始電圧は2.7Vであり、かかる電圧下において正極内の炭素担体表面では以下に示す反応(式(1)〜式(4))が生じると考えられる。
+ e → O 式(1)
+ Li → LiO 式(2)
+ 2e →O2− 式(3)
2− +2Li → Li 式(4)
式(1)及び式(2)は、ラジカルを介して酸化リチウムが生じる反応であり、式(3)及び式(4)は、ラジカルを介して過酸化リチウムが生じる反応である。
【0024】
これに対し、後述するように、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンの放電開始電圧は3V弱であり、炭素担体の放電開始電圧よりも高い。焼成することにより、硫黄添加Feフタロシアニンと炭素担体とを強く接合させることが可能になるので、電子は硫黄添加Feフタロシアニンまで達することができ、2電子還元反応の発生割合を高めることができる。それゆえ、3V弱の電圧下において正極2内の硫黄添加Feフタロシアニン表面では、以下に示す反応(式(5))が生じると考えられる。
+ 2Li + 2e → Li 式(5)
式(5)は、ラジカルを介することなく過酸化リチウムが生じる反応である。このように、正極2では、ラジカルを介さない反応を生じさせることができるので、正極2の耐久性を向上させることも可能になる。
【0025】
さらに、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを有する正極2では、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを構成する窒素と炭素とのモル比(N/C)を、0.005<N/C<0.013の範囲にすることができる。N/Cの値をこの範囲にすることにより、リチウムイオンが反応する酸化還元触媒の活性サイト(三配位窒素)を多くすることが可能になるので、酸化還元触媒の分子認識、変化、移動の基本性能を向上させることができる。したがって、このような正極2を有する形態とすることにより、リチウムガス電池10の性能を向上させることが可能になる。
【0026】
負極1は、金属リチウムによって構成されている。それゆえ、リチウムイオンを吸蔵放出することができる。上記説明では、金属リチウムによって構成される負極1が備えられる形態のリチウムガス電池10を例示したが、本発明のリチウムガス電池における負極は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を有していれば良く、負極は、金属リチウム以外の形態とすることも可能である。リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質の具体例としては、金属リチウムのほか、リチウムを含有する合金、リチウムを含有する金属酸化物、及び、リチウムを含有する金属窒化物等を挙げることができる。リチウムを含有する合金としては、例えば、リチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。また、リチウムを含有する金属酸化物としては、例えば、リチウムチタン酸化物等を挙げることができる。また、リチウムを含有する金属窒化物としては、例えば、リチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。
【0027】
また、本発明のリチウムガス電池における負極は、負極活物質のみを含有する形態のほか、負極活物質に加えて導電性材料及び結着材の少なくとも一方を含有する形態とすることも可能である。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみを含有する形態とすることができる。これに対し、負極活物質が粉末状である場合は、例えば、負極活物質と導電性材料と結着材とを含有する形態とすることができる。負極に導電性材料を含有させる場合、導電性材料は、負極の使用時(負極を備えるリチウムガス電池の使用時)における環境に耐えることができ、且つ、導電性を有するものであれば、特に限定されるものではない。このような導電性材料としては、カーボンブラックやメソポーラスカーボン等の炭素材料等を例示することができる。反応場の減少及び容量の低下を抑制する等の観点から、負極における導電性材料の含有量は、10質量%以上とすることが好ましい。また、負極に結着材を含有させる場合、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の結着材を含有させることができる。負極における結着材の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば10質量%以下とすることが好ましく、1質量%以上5質量%以下とすることがより好ましい。
【0028】
また、負極1の集電を行う負極集電体は、公知の導電性材料によって形成することができる。負極集電体を構成し得る導電性材料としては、銅、ステンレス鋼、ニッケル、カーボン等を例示することができる。また、負極集電体の形状としては、箔状、板状、メッシュ(グリッド)状等を例示することができる。本発明においては、負極1、正極2、及び、電解質層3を収容する不図示の外装材(電池ケース)が、負極集電体の機能を兼ね備えていても良い。
【0029】
正極2は、導電性材料及び酸化還元触媒を含有し、さらに、必要に応じて結着材を含有していても良い。正極2に用いられる導電性材料は、正極の使用時(正極を備えるリチウムガス電池の使用時)における環境に耐えることができ、且つ、導電性を有するものであれば、特に限定されるものではない。このような導電性材料としては、炭素材料、ペロブスカイト型導電性材料、多孔質導電性ポリマー、及び、金属多孔体等を例示することができる。特に、炭素材料は、多孔質構造を有しないものであっても良いが、多くの反応場を提供可能な形態にする等の観点からは、比表面積が大きい多孔質構造を有するものであることが好ましい。多孔質構造を有する炭素材料としては、メソポーラスカーボン等を例示することができ、多孔質構造を有しない炭素材料としては、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、及び、カーボンファイバー等を例示することができる。このような炭素材料は、正極2のように、酸化還元触媒を担持する担体として含有させることができる。正極2における導電性材料の含有量は、反応場が減少して電池容量の低下が生じないようにする等の観点から、例えば65質量%以上とし、75質量%以上とすることが好ましい。また、相対的に触媒の含有量が減って充分な触媒機能を発揮できない事態を回避する等の観点から、正極2における導電性材料の含有量は99質量%以下とし、95質量%以下とすることが好ましい。
【0030】
正極2には、上述したように、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンが、炭素担体に担持された形態で含有されている。酸化還元触媒として、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンが含有される形態とすることにより、放電開始電圧を高くすること、正極2の耐久性を向上させること、及び、酸化還元触媒の分子認識、変化、移動の基本性能を向上させてリチウムガス電池10の性能を向上させることが可能になる。リチウムガス電池10に関する説明では、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンが、炭素担体に担持された形態で含有されている正極2を例示したが、本発明のリチウムガス電池の正極に含有される酸化還元触媒は、当該形態に限定されるものではない。本発明にかかるリチウムガス電池の正極に含有させる酸化還元触媒は、担体に担持させた金属フタロシアニン錯体を焼成することによって作製した酸化還元触媒であれば良い。このような酸化還元触媒としては、硫黄を添加して焼成する過程を経て作製した金属フタロシアニン錯体や、硫黄を添加せずに焼成する過程を経て作製した金属フタロシアニン錯体を例示することができる。本発明において、焼成される金属フタロシアニン錯体としては、FeフタロシアニンやCoフタロシアニンのほか、中心金属がMn、V、Cu、Mo、Niである金属フタロシアニン錯体等を例示することができる。ただし、リチウムガス電池の作動電位範囲において価数が+2で安定であること、及び、価数が+2と+3のレドックスが可能であることから、本発明ではFeフタロシアニンやCoフタロシアニンを用いることが好ましい。本発明において、正極における酸化還元触媒の含有量は、充分な触媒機能を発揮可能な形態にする等の観点から、1質量%以上とし、5質量%以上とすることが好ましい。また、相対的に導電性材料の含有量が減って反応場が減少し、電池容量が低下する事態を回避する等の観点から、正極における酸化還元触媒の含有量は、30質量%以下とし、20質量%以下とすることが好ましい。
【0031】
本発明のリチウムガス電池の正極に結着材を含有させる場合、負極1と同様の結着材を用いることができる。正極における結着材の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば10質量%以下とすることが好ましく、1質量%以上5質量%以下とすることがより好ましい。
【0032】
正極2の集電を行う正極集電体は、公知の導電性材料によって形成することができる。正極集電体を構成し得る導電性材料としては、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、カーボン等を例示することができる。また、正極集電体の形状としては、箔状、板状、メッシュ(グリッド)状等を例示することができる。これらの中でも、本発明においては、集電効率に優れるため、正極集電体の形状をメッシュ状とすることが好ましい。この場合、正極の内部にメッシュ状の正極集電体を配置することができる。さらに、本発明のリチウムガス電池は、メッシュ状の正極集電体により集電された電荷を集電する別の正極集電体(例えば箔状の集電体)を有していても良い。また、本発明においては、負極1、正極2、及び、電解質層3を収容する不図示の外装材(電池ケース)が、正極集電体の機能を兼ね備えていても良い。正極集電体の厚さは、例えば10μm以上1000μm以下とすることができ、20μm以上400μm以下であることが好ましい。
【0033】
電解質層3は、リチウムイオン伝導性を有する非水電解液とこれを保持する多孔質セパレータとを有している。リチウムイオン伝導性を有する非水電解液は、例えば、リチウム塩及び有機溶媒を含有している。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO及びLiAsF等の無機リチウム塩のほか、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO等の有機リチウム塩等を例示することができる。また、有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシメタン、1,3−ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン及びこれらの混合物等を例示することができる。また、溶存酸素が効率良く反応に用いられる形態にする等の観点から、有機溶媒は、酸素溶解性が高い溶媒であることが好ましい。非水電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.2mol/L以上3mol/L以下とする。また、本発明のリチウムガス電池においては、リチウム塩を溶かす溶媒として、例えばイオン性液体等の低揮発性液体を用いることができる。本発明において使用可能なイオン性液体としては、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(慣用名;PP13−TFSA)や、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(慣用名;P13−TFSA)等を例示することができる。このようなイオン液体に、上記リチウム塩を溶解させることにより、非水電解液を作製することができる。
【0034】
電解質層3に含有される多孔質セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜のほか、樹脂不織布やガラス繊維不織布等の不織布等を例示することができる。
【0035】
また、本発明のリチウムガス電池は、負極、正極、及び、電解質層等を収容する外装材(電池ケース)を有している。電池ケースの形状としては、コイン型、平板型、円筒型、ラミネート型等を例示することができる。電池ケースは、大気開放型の電池ケースであっても良く、密閉型の電池ケースであっても良い。大気開放型の電池ケースは、少なくとも正極が十分に大気と接触可能な構造を有する電池ケースである。これに対し、電池ケースが密閉型電池ケースである場合は、密閉型電池ケースに、酸化還元可能な気体(リチウムガス電池10では空気)の導入管及び排出管を設けることが好ましい。この場合、導入・排出される空気は、酸素濃度が高いことが好ましく、純酸素であることがより好ましい。また、放電時には酸素濃度を高くし、充電時には酸素濃度を低くすることが好ましい。
【0036】
本発明に関する上記説明では、酸化還元可能な気体として空気が用いられる形態を例示したが、本発明のリチウムガス電池は当該形態に限定されるものではない。酸化還元可能な気体としては、空気のほか、例えば、酸素、窒素、二酸化炭素、水素、及び、これらの2以上を混合した気体等を例示することができる。
【実施例】
【0037】
1.性能評価用セルの作製
<焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極の作製>
Feフタロシアニンと活性炭(Super P、以下において「SP」という。)とをアセトン中に分散させることにより、FeフタロシアニンをSPに担持させた。その後、SPに担持させたFeフタロシアニンをアセトンから取り出し、800℃のAr雰囲気中で2時間に亘って焼成した。そして、SPに担持させたFeフタロシアニンを焼成したものと結着材(PTFE)とを混合することによりペレット状の混合物とし、これを乾燥させることにより、焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極を作製した。この正極に含有させたSPとPTFEと酸化還元触媒(Feフタロシアニン)との質量比は、SP:PTFE:酸化還元触媒=8:1:1とした。SPに担持させたFeフタロシアニンの焼成前後の様子を、図2に示す。図2は、透過型電子顕微鏡(FEI company Tecnai G2 F30S-Twin)により観察した写真である。図2の上側が焼成前、下側が焼成後の写真である。図2に示すように、焼成により、ナノシェル構造を持つ炭素と直径5nmのFe粒子が生成した。
【0038】
<焼成されたCoフタロシアニンを含有する正極の作製>
Feフタロシアニンに代えてCoフタロシアニンを用いた他は、上記「焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極の作製」と同様の方法で、焼成されたCoフタロシアニンを含有する正極を作製した。SPに担持させたCoフタロシアニンの焼成前後の様子を、図3に示す。図3は、透過型電子顕微鏡(FEI company Tecnai G2 F30S-Twin)により観察した写真である。図3の上側が焼成前、下側が焼成後の写真である。図3に示すように、焼成により、ナノシェル構造を持つ炭素と直径20nmのCo粒子が生成した。
【0039】
<焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極の作製>
硫黄とFeフタロシアニンとのモル比が硫黄:Feフタロシアニン=2.7:1となる量の硫黄を、硫黄(又はチオ尿素)とアセトン溶液とを混合した後、分散し焼成することにより、Feフタロシアニンに添加した。焼成温度を550℃とし焼成時間を2時間とした他は、上記「焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極の作製」と同様の方法で、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極を作製した。なお、硫黄とFeフタロシアニンとのモル比(以下において、「S/Fe」ということがある。)を、硫黄:Feフタロシアニン=2.7:1としたのは、S/Fe≧2.7の時に酸化還元電位が高くなるためである。
【0040】
<焼成された硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極の作製>
Feフタロシアニンに代えてCoフタロシアニンを用いた他は、上記「焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極の作製」と同様の方法で、硫黄を添加して焼成されたCoフタロシアニンを含有する正極を作製した。
【0041】
<焼成された硫黄添加フタロシアニンを含有する正極の作製>
Feフタロシアニンに代えて、中心の水素がFeによって置換されていないフタロシアニンを用いた他は、上記「焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極の作製」と同様の方法で、焼成された硫黄添加フタロシアニンを含有する正極を作製した。
【0042】
<焼成されていないFeフタロシアニンを含有する正極の作製>
焼成しない他は、上記「焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極の作製」と同様の方法で、焼成されていないFeフタロシアニンを含有する正極を作製した。
【0043】
<焼成されていないCoフタロシアニンを含有する正極の作製>
焼成しない他は、上記「焼成されたCoフタロシアニンを含有する正極の作製」と同様の方法で、焼成されていないCoフタロシアニンを含有する正極を作製した。
【0044】
<焼成されていない硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極の作製>
焼成しない他は、上記「焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極の作製」と同様の方法で、焼成されていない硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極を作製した。
【0045】
<焼成されていない硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極の作製>
焼成しない他は、上記「焼成された硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極の作製」と同様の方法で、焼成されていない硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極を作製した。
【0046】
<焼成されていない硫黄添加フタロシアニンを含有する正極の作製>
焼成しない他は、上記「焼成された硫黄添加フタロシアニンを含有する正極の作製」と同様の方法で、焼成されていない硫黄添加フタロシアニンを含有する正極を作製した。
【0047】
<フタロシアニン錯体を含有しない正極の作製>
SPと結着材(PTFE)とを混合してペレット状の混合物を作製した後、これを乾燥させることにより、フタロシアニン錯体を含有しない正極を作製した。この正極に含有させたSPとPTFEとの質量比は、SP:PTFE=9:1とした。
【0048】
上記の方法で作製した何れかの正極と、以下に示す構成要素とを備える、性能評価用セルを作製した。作製した性能評価用セル40の断面図を図4に示す。
負極:金属リチウム(本城金属株式会社、厚さ200μm、直径15mm)
電解液:PP13−TFSA溶媒に0.32mol/kgのLi−TFSAを溶解させたもの
セパレータ:ポリプロピレン不織布(製品名「ペルヴィオ」、住友化学株式会社製)
セル:F型セル(北斗電工株式会社製)
容器:ガス置換コック付ガラスデシケータ(体積500mL)
ガス:酸素、アルゴン
【0049】
図4に示すように、セル40は、負極41、正極42、及び、これらの間に配置された電解質層43と、負極41に接続された導体44及び該導体44に接続されたアノードライン45と、正極42に接続された中空状の導体46及び該導体46に接続されたカソードライン47と、電解質層43と導体44との間に配設された部材48と、正極42及び電解質層43等の周囲に配設された部材49及び該部材49の上に配置された部材50と、これらを収容する容器51と、を有している。容器51の内側には酸素又はアルゴンが充填され、この酸素又はアルゴンは、導体46の内側を通って正極42へと達することができる。負極41は金属リチウムであり、正極42は上記の方法で作製した何れかの正極である。電解質層43は、上記電解液が上記セパレータに保持されることによって構成される層であり、導体44及び導体46はステンレス鋼製である。部材48はニッケル製、部材49及び部材50は樹脂製であり、容器51はガラス製である。
【0050】
2.充放電性能評価
作製した性能評価用電池セルの充放電性能を、以下の条件で評価した。放電試験結果を図5〜図8に、充電試験結果を図9〜図12に、それぞれ示す。図5〜図8の縦軸は電圧[V]、横軸は放電容量(電極重量あたりの比容量)[mAh/g]であり、図9〜図12の縦軸は電圧[V]、横軸は充電容量(電極重量あたりの比容量)[mAh/g]である。また、図5〜図8から得られた放電開始電圧の結果を図13に示す。図13の横軸は放電開始電圧[V]である。
充放電試験機:株式会社ナガノ製充放電試験装置(BTS2004H)
電流密度:0.05mA/cm
放電終止電圧:2.0V
充電終止電圧:3.8V
測定温度:60℃
【0051】
図5は、焼成されていないフタロシアニン錯体を含有する電池セル、及び、フタロシアニン錯体が含有されていない電池セルの放電試験結果(1サイクル目の放電の結果)を示す図である。図5には、焼成されていないCoフタロシアニンを含有する正極にアルゴンを供給しながら放電した場合の結果(Ar−Co)、焼成されていないFeフタロシアニンを含有する正極にアルゴンを供給しながら放電した場合の結果(Ar−Fe)、焼成されていないCoフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した場合の結果(O−Co)、焼成されていないFeフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した場合の結果(O−Fe)、及び、フタロシアニン錯体を含有していない正極に酸素を供給しながら放電した場合の結果(O−SP)が示されている。
【0052】
図5に示すように、焼成されていないCoフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−Co)は、フタロシアニン錯体を含有していない正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−SP)よりも比容量が大きかった。また、焼成されていないFeフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−Fe)は、フタロシアニン錯体を含有していない正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−SP)よりも比容量が小さかった。また、正極にアルゴンを供給しながら放電した電池(Ar−Co、Ar−Fe)は、正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−Co、O−Fe)よりも比容量が小さく、正極にアルゴンを供給しながら放電した電池(Ar−Co、Ar−Fe)の比容量は同程度であった。
【0053】
図6は、焼成されたフタロシアニン錯体を含有する電池セル、及び、フタロシアニン錯体が含有されていない電池セルの放電試験結果(1サイクル目の放電の結果)を示す図である。図6には、焼成されたCoフタロシアニンを含有する正極にアルゴンを供給しながら放電した場合の結果(Ar−焼Co)、焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極にアルゴンを供給しながら放電した場合の結果(Ar−焼Fe)、焼成されたCoフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した場合の結果(O−焼Co)、焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した場合の結果(O−焼Fe)、及び、フタロシアニン錯体を含有していない正極に酸素を供給しながら放電した場合の結果(O−SP)が示されている。
【0054】
図6に示すように、焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−焼Fe)は、フタロシアニン錯体を含有していない正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−SP)よりも比容量が大きかった。また、焼成されたCoフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−焼Co)は、フタロシアニン錯体を含有していない正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−SP)よりも比容量が小さかった。また、正極にアルゴンを供給しながら放電した電池(Ar−焼Co、Ar−焼Fe)は、正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−焼Co、O−焼Fe)よりも比容量が小さく、正極にアルゴンを供給しながら放電した電池(Ar−焼Co、Ar−焼Fe)の比容量は同程度であった。
【0055】
図5及び図6に示すように、焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−焼Fe)は、焼成されていないFeフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−Fe)よりも比容量が大きかった。これは、焼成することによって、FeフタロシアニンとSPとが強く接合された結果、Feフタロシアニンの表面で上記式(5)の反応が生じるようになったためであると考えられる。これに対し、図5及び図6に示すように、焼成されたCoフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−焼Co)は、焼成されていないCoフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(O−Co)よりも比容量が小さかった。これは、焼成することによって、CoフタロシアニンとSPとが強く接合されたものの、図3に示すように、焼成によってCoが凝集したためであると考えられる。
【0056】
図7は、焼成されていないフタロシアニン錯体を含有する電池セルの放電試験結果(1サイクル目の放電の結果)を示す図であり、図8は、焼成されたフタロシアニン錯体を含有する電池セルの放電試験結果(1サイクル目の放電の結果)を示す図である。具体的には、図7(a)は、焼成されていない硫黄添加フタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した場合の結果(硫黄添加フタロ)を示す図であり、図7(b)は、焼成されていない硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した場合の結果(硫黄添加Feフタロ)を示す図であり、図7(c)は、焼成されていない硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した場合の結果(硫黄添加Coフタロ)を示す図である。また、図8(a)は、焼成された硫黄添加フタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した場合の結果(硫黄添加焼成フタロ)を示す図であり、図8(b)は、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した場合の結果(硫黄添加焼成Feフタロ)を示す図であり、図8(c)は、焼成された硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した場合の結果(硫黄添加焼成Coフタロ)を示す図である。
【0057】
図7及び図8に示すように、焼成されていない硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(硫黄添加Coフタロ)の比容量が最も大きく、以下、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(硫黄添加焼成Feフタロ)、焼成された硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(硫黄添加焼成Coフタロ)、焼成された硫黄添加フタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(硫黄添加焼成フタロ)、焼成されていない硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(硫黄添加Feフタロ)、焼成されていない硫黄添加フタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら放電した電池(硫黄添加フタロ)の順に、比容量が小さくなった。
【0058】
図9は、焼成されていないフタロシアニン錯体を含有する電池セルの充電試験結果(1サイクル目の充電の結果)を示す図である。図9には、焼成されていないCoフタロシアニンを含有する正極にアルゴンを供給しながら充電した場合の結果(Ar−Co)、焼成されていないFeフタロシアニンを含有する正極にアルゴンを供給しながら充電した場合の結果(Ar−Fe)、焼成されていないCoフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した場合の結果(O−Co)、及び、焼成されていないFeフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した場合の結果(O−Fe)が示されている。
【0059】
図9に示すように、焼成されていないCoフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(O−Co)は、焼成されていないFeフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(O−Fe)よりも比容量が大きかった。また、正極にアルゴンを供給しながら充電した電池(Ar−Co、Ar−Fe)は、正極に酸素を供給しながら充電した電池(O−Co、O−Fe)よりも比容量が小さく、焼成されていないFeフタロシアニンを含有する正極にアルゴンを供給しながら充電した電池(Ar−Fe)は、焼成されていないCoフタロシアニンを含有する正極にアルゴンを供給しながら充電した電池(Ar−Co)よりも比容量が小さかった。
【0060】
図10は、焼成されたフタロシアニン錯体を含有する電池セルの充電試験結果(1サイクル目の充電の結果)を示す図である。図10には、焼成されたCoフタロシアニンを含有する正極にアルゴンを供給しながら充電した場合の結果(Ar−焼Co)、焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極にアルゴンを供給しながら充電した場合の結果(Ar−焼Fe)、焼成されたCoフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した場合の結果(O−焼Co)、及び、焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した場合の結果(O−焼Fe)が示されている。
【0061】
図10に示すように、焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(O−焼Fe)は、焼成されたCoフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(O−焼Co)よりも比容量が大きかった。また、正極にアルゴンを供給しながら充電した電池(Ar−焼Co、Ar−焼Fe)は、正極に酸素を供給しながら充電した電池(O−焼Co、O−焼Fe)よりも比容量が小さく、正極にアルゴンを供給しながら充電した電池(Ar−焼Co、Ar−焼Fe)の比容量は同程度であった。
【0062】
図9及び図10に示すように、焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(O−焼Fe)は、焼成されていないFeフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(O−Fe)よりも比容量が大きかった。これは、焼成することによって、FeフタロシアニンとSPとが強く接合された結果、Feフタロシアニンの表面で反応が生じやすくなったためであると考えられる。これに対し、図9及び図10に示すように、焼成されたCoフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(O−焼Co)は、焼成されていないCoフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(O−Co)よりも比容量が小さかった。これは、焼成することによって、CoフタロシアニンとSPとが強く接合されたものの、図3に示すように、焼成によってCoが凝集したためであると考えられる。
【0063】
図11は、焼成されていないフタロシアニン錯体を含有する電池セルの充電試験結果(1サイクル目の放電の結果)を示す図であり、図12は、焼成されたフタロシアニン錯体を含有する電池セルの充電試験結果(1サイクル目の充電の結果)を示す図である。具体的には、図11(a)は、焼成されていない硫黄添加フタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した場合の結果(硫黄添加フタロ)を示す図であり、図11(b)は、焼成されていない硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した場合の結果(硫黄添加Feフタロ)を示す図であり、図11(c)は、焼成されていない硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した場合の結果(硫黄添加Coフタロ)を示す図である。また、図12(a)は、焼成された硫黄添加フタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した場合の結果(硫黄添加焼成フタロ)を示す図であり、図12(b)は、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した場合の結果(硫黄添加焼成Feフタロ)を示す図であり、図12(c)は、焼成された硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した場合の結果(硫黄添加焼成Coフタロ)を示す図である。
【0064】
図11及び図12に示すように、焼成されていない硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(硫黄添加Coフタロ)の比容量が最も大きく、以下、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(硫黄添加焼成Feフタロ)、焼成された硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(硫黄添加焼成Coフタロ)、焼成されていない硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(硫黄添加Feフタロ)、焼成されていない硫黄添加フタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(硫黄添加フタロ)、焼成された硫黄添加フタロシアニンを含有する正極に酸素を供給しながら充電した電池(硫黄添加焼成フタロ)の順に、比容量が小さくなった。
【0065】
図13は、図5〜図8から得られた放電開始電圧の結果をまとめた図である。図13に示すように、焼成されていない硫黄添加フタロシアニンを含有する正極を備えた電池、及び、焼成された硫黄添加フタロシアニンを含有する正極を備えた電池は、フタロシアニン錯体を含有しない正極を備えた電池(図13の「SP」に相当。以下において同じ。)と放電開始電圧が同程度であった。これに対し、Coフタロシアニンを含有する正極を備えた電池、Feフタロシアニンを含有する正極を備えた電池、硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極を備えた電池、及び、硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極を備えた電池は、フタロシアニン錯体を含有しない正極を備えた電池よりも放電開始電圧が高く、フタロシアニン錯体を含有しない正極を備えた電池よりも初期クーロン効率が大きくなった。そして、焼成されたCoフタロシアニンを含有する正極を備えた電池は、焼成されていないCoフタロシアニンを含有する正極を備えた電池よりも放電開始電圧が高く、焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極を備えた電池は、焼成されていないFeフタロシアニンを含有する正極を備えた電池よりも放電開始電圧が高かった。同様に、焼成された硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極を備えた電池は、焼成されていない硫黄添加Coフタロシアニンを含有する正極を備えた電池よりも放電開始電圧が高く、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極を備えた電池は、焼成されていない硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極を備えた電池よりも放電開始電圧が高かった。以上より、正極に、担体に担持させた金属フタロシアニン錯体を焼成することによって作製した酸化還元触媒が含有されている形態とすることにより、放電開始電圧を高くすることが可能であった。
【0066】
表1は、図5〜図12から得られた充放電試験の結果をまとめたものである。表1に示した初期クーロン効率は、初期クーロン効率=(1サイクル目の充電容量/1サイクル目の放電容量)×100によって算出した。
【0067】
【表1】

【0068】
表1より、CoフタロシアニンとFeフタロシアニンとを比較すると、Coフタロシアニンの充放電容量が、Feフタロシアニンの充放電容量よりも大きかった。これに対し、焼成されたCoフタロシアニンと焼成されたFeフタロシアニンとを比較すると、焼成されたFeフタロシアニンの充放電容量が、焼成されたCoフタロシアニンの充放電容量よりも大きかった。また、焼成されたFeフタロシアニンの充放電容量は、比較材であるSPの充放電容量よりも大きかった。一方、表1より、フタロシアニン錯体に硫黄を添加した場合は、硫黄添加フタロと硫黄添加Coフタロと硫黄添加Feフタロとを比較すると、充放電容量は硫黄添加Coフタロが最も大きく硫黄添加フタロが最も小さかった。これに対し、硫黄添加焼成フタロと硫黄添加焼成Coフタロと硫黄添加焼成Feフタロとを比較すると、充放電容量は硫黄添加焼成Feフタロが最も大きく硫黄添加焼成フタロが最も小さかった。また、表1より、今回の結果では、焼成されていないFeフタロシアニンを含有する正極を備えた電池の初期クーロン効率が最も大きかった。そして、表1に記載されているCoフタロシアニン、焼成されたCoフタロシアニン、Feフタロシアニン、焼成されたFeフタロシアニン、硫黄添加フタロ、硫黄添加Coフタロ、硫黄添加焼成Coフタロ、及び、硫黄添加焼成Feフタロの初期クーロン効率は、比較材であるSPの初期クーロン効率よりも大きかった。
【0069】
また、表1に示すように、焼成されたFeフタロシアニンを含有する正極を備えた電池のクーロン効率は49.5%であったのに対し、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを含有する正極を備えた電池のクーロン効率は66.9%であった。表1より、焼成されたCoフタロシアニンと焼成されたFeフタロシアニンとを比較すると、本発明では、充放電容量が大きい焼成されたFeフタロシアニンを用いることが好ましい。また、表1より、焼成されたFeフタロシアニンと焼成された硫黄添加Feフタロシアニンとを比較すると、本発明では、クーロン効率が大きい焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを用いることが好ましい。
【0070】
3.窒素及び炭素のモル比N/Cの測定
SP、Feフタロシアニン、Coフタロシアニン、焼成されたFeフタロシアニン、焼成されたCoフタロシアニン、焼成された硫黄添加Feフタロシアニン、及び、焼成された硫黄添加Coフタロシアニンを構成する窒素及び炭素のモル比N/Cを、X線光電子分光装置(アルバックファイ株式会社製、PHI−5700)を用いて測定した。X線光電子分光装置の条件は、以下の通りとした。
X線源:AlKαモノクロ、φ800μm、出力350W
中和銃:使用
【0071】
X線光電子分光装置を用いて測定したモル比N/Cと放電容量との関係、及び、0≦N/C≦0.005、0.005<N/C<0.013、0.013≦N/Cのそれぞれの時における、炭素原子及び窒素原子の配置を、図14に示す。また、X線光電子分光装置を用いて測定したモル比N/Cと充電容量との関係、及び、0≦N/C≦0.005、0.005<N/C<0.013、0.013≦N/Cのそれぞれの時における、炭素原子及び窒素原子の配置を、図15に示す。図14及び図15では、Feフタロシアニンを「Feフタロ」、Coフタロシアニンを「Coフタロ」、焼成されたFeフタロシアニンを「焼成Feフタロ」、焼成されたCoフタロシアニンを「焼成Coフタロ」、焼成された硫黄添加Feフタロシアニンを「硫黄添加焼成Feフタロ」、焼成された硫黄添加Coフタロシアニンを「硫黄添加焼成Coフタロ」と記載した。図14に点線で示した曲線は、モル比N/Cを入力変数、放電容量を出力変数とした推定曲線であり、図15に点線で示した曲線は、モル比N/Cを入力変数、充電容量を出力変数とした推定曲線である。
【0072】
図14及び図15に示すように、焼成されたFeフタロシアニン及び焼成されたCoフタロシアニン、並びに、焼成された硫黄添加Feフタロシアニン及び焼成された硫黄添加Coフタロシアニンは、何れも、モル比N/Cが0.005<N/C<0.013の範囲に属していた。すなわち、0.005<N/C<0.013である、焼成された金属フタロシアニン錯体を用いることにより、リチウムガス電池の放電開始電圧を高めることが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のリチウムガス電池は、電気自動車やハイブリッド自動車用等に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1…負極
2…正極
3…電解質層
10…リチウムガス電池
40…セル
41…負極
42…正極
43…電解質層
44、46…導体
45…アノードライン
47…カソードライン
48、49、50…部材
51…容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を有する負極、酸化還元可能な気体を正極活物質として用いる正極、及び、前記負極と前記正極との間に配設された非水系のイオン伝導体を備え、
前記正極に、担体に担持させた金属フタロシアニン錯体を焼成することによって作製した酸化還元触媒が含有されていることを特徴とする、リチウムガス電池。
【請求項2】
前記金属フタロシアニン錯体の中心金属が、Fe又はCoであることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムガス電池。
【請求項3】
前記金属フタロシアニン錯体の中心金属がFeであり、且つ、該金属フタロシアニン錯体に硫黄が添加されていることを特徴とする、請求項2に記載のリチウムガス電池。
【請求項4】
前記焼成された金属フタロシアニン錯体を構成する窒素及び炭素のモル比N/Cが、0.005<N/C<0.013であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムガス電池。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−84490(P2012−84490A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232122(P2010−232122)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】