説明

リチウムケイ素窒化物とその製造方法

【課題】リチウム,ケイ素、窒素からなるリチウムケイ素窒化物には、Li:Si:N比が異なる数種の化合物が報告されており、そのうちLi:Si:N比が1:2:3の化合物はイオン伝導性があり、かつ大気中でも安定である。しかし、リチウムケイ素窒化物は窒化物であるため、共有結合性が強く、LiSi組成の混合粉末を固めて加熱する場合、高温が必要であるが、あまり温度が高いとリチウムが蒸発してしまい、目的とする組成のものができない。
【解決手段】LiNとSiを1:3の重量割合に秤量した原料粉末に、焼結助剤としてB1.0〜5.0重量%を加え、混合する。混合は、LiNが大気と反応しないよう、高純度窒素雰囲気のグローブボックス中で行うか、混合容器を用いる場合は容器中を高純度窒素雰囲気とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素を含んだリチウムケイ素窒化物素焼結体に関し、リチウム二次電池の全固体化に有効な固体電解質として利用しうるリチウムケイ素窒化物素焼結体およびその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、高いエネルギー密度を持つことから携帯電話からハイブリッドカーのバッテリーまで広く用いられているが、取扱い性の向上などのために固体の電解質を使用することが試みられ、リチウムイオン伝導性の高い化合物の提案がなされている。
リチウム(Li),ケイ素(Si)、窒素(N)からなるリチウムケイ素窒化物には、Li:Si:N比が異なる数種の化合物が報告されており、そのうちLi:Si:N比が1:2:3の化合物はイオン伝導性があり、かつ大気中でも安定である[非特許文献1]。しかし、リチウムケイ素窒化物は窒化物であるため、共有結合性が強く、LiSi組成の混合粉末を固めて加熱する場合、高温が必要であるが、あまり温度が高いとリチウムが蒸発してしまい、目的とする組成のものができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、高密度でイオン伝導性を有するLiSi焼結体と、これを低温で得ることができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1のリチウムケイ素窒化物焼結体は、主相がLiSiの組成を持つ化合物であり、ホウ素を含むことを特徴とする。
【0005】
発明2のリチウムケイ素窒化物焼結体は、発明1のリチウムケイ素窒化物焼結体において、焼結助剤としてB粉末を添加して焼結したことを特徴とする
【発明の効果】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するためBを焼結助剤として添加してLiSi焼結体の焼結を精査した結果、Bを1.1重量%添加し、ホットプレス法により焼結したところ、1600℃で、理論密度に対し99%以上の焼結体が得られることを発見した。この焼結体は7.0×10−4Sm−1の伝導度を持っていた。
以上から、Bを添加して低温で焼結したリチウムケイ素窒化物焼結体、およびその焼結技術を完成した。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のインピーダンスプロット。
【図2】比較例1、2のインピーダンスプロット。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、LiNとSiを1:3の重量割合に秤量した原料粉末に、焼結助剤としてB1.0〜5.0重量%を加え、混合する。混合は、LiNが大気と反応しないよう、高純度の窒素雰囲気のグローブボックス中で行う。この混合は乳鉢と乳棒を用いて乾式で行う。ボールミル、遊星ミル等を用いることも可能であるが、この場合でも、混合容器中を高純度の窒素雰囲気とするか、ミル一式高純度窒素雰囲気で行う必要がある。
【0009】
混合した粉末をカーボンダイスに入れ、ホットプレス焼結(Hot−press,以下HPと記す。)する。カーボンダイスとパンチの原料粉末と接する面には、窒化ホウ素粉末塗布する、あるいは薄い窒化ホウ素板をはさむなど、原料粉末とカーボンの反応を極力抑える。原料粉末を導入したダイスを真空チャンバーにセットし、7.0×10-3Paよりも高い真空度まで拡散ポンプ等を用いて脱気した後、純度99.99%以上の高純度の窒素を導入する。焼結温度は1550〜1700℃で、負荷圧力は15MPa以上が望ましい。

【実施例】
【0010】
窒化ケイ素10.558g、酸化ホウ素0.131gを秤量し、十分に混合した。次に高純度窒素雰囲気のグローブボックス中で、この混合結果の粉末8.907g、窒化リチウム1.092gを秤量し、混合した。このようにして最終的に得られた混合粉を直径26mmの金型で予備成形した後、カーボンのダイスに入れた。カーボンダイス内壁とパンチが混合粉と接する部分は、窒化ホウ素の粉末でコーティングを施しておいた。このダイスを真空チャンバーに設置した後、ダイス内部の混合粉に18.4MPaの応力が負荷されるように、パンチの上下に荷重を加え、0.1MPaの窒素雰囲気中、1.60×10℃で1.0時間加熱し、その後炉冷した。その結果、密度2.97g/cm(相対密度99.4%)と緻密な焼結体が得られた。生成した結晶相をX線回折法により測定したところ、主相はLiSiであった。リチウムが蒸発すると窒化ケイ素が結晶相として生成するが、焼結温度が低いため、リチウムの蒸発が抑制され、窒化ケイ素の生成も抑えられたものと考えられる。
【0011】
窒素雰囲気中の373Kから673Kまでの交流インピーダンス測定により、この焼結体の伝導度を測定した。573Kで測定したときのインピーダンスプロットを図1に示す。アレニウスプロットから活性化エネルギーを計算すると69kJmol−1となった。この値を用いて600Kでの伝導度σを計算すると7.0×10−4Sm−1であった。
【比較例1】
【0012】
高純度窒素雰囲気のグローブボックス中で、窒化ケイ素8.896g、窒化リチウム1.104gを秤量し、混合した。このようにして得られた混合粉を直径26mmの金型で予備成形した後、カーボンのダイスに入れた。カーボンダイス内壁とパンチが混合粉と接する部分は、窒化ホウ素の粉末でコーティングを施しておいた。このダイスを真空チャンバーに設置した後、ダイス内部の粉末に18.4MPaの応力が負荷されるように、パンチの上下に荷重を加え、0.1MPaの窒素雰囲気中、1.60×10℃で1.0時間加熱し、その後炉冷した。その結果、密度2.03g/cm(相対密度67.7%)と緻密な焼結体は得られなかった。
【0013】
窒素雰囲気中の373Kから673Kまでの交流インピーダンス測定により、この焼結体の伝導度を測定した。573Kで測定したときのインピーダンスプロット(「無添加」のプロット)を図2に示す。図1に記した実施例1のインピーダンスプロットを図2に記すと、横軸0、縦軸0近傍の黒点となる(「B添加系」のプロット)ことから、実施例1の伝導度と比較すると、比較例1の伝導度は低い値であることがわかる。アレニウスプロットから活性化エネルギーを計算すると78kJmol−1となった。この値を用いて600Kでの伝導度σを計算すると、1.1×10−4Sm−1と酸化ホウ素を添加した場合と比較して低い値にとどまった。これは、焼結体密度が低いためであると考察される。
【比較例2】
【0014】
窒化ケイ素10.306g、酸化イットリウム0.415gを秤量し、十分に混合した。次に高純度窒素雰囲気のグローブボックス中で、この混合結果の粉末8.934g、窒化リチウム1.066gを秤量し、混合した。このようにして最終的に得られた混合粉を直径26mmの金型で予備成形した後、カーボンのダイスに入れた。カーボンダイス内壁とパンチが粉末と接する部分は、窒化ホウ素の粉末でコーティングを施しておいた。このダイスを真空チャンバーに設置した後、ダイス内部の粉末に18.4MPaの応力が負荷されるように、パンチの上下に荷重を加え、0.1MPaの窒素雰囲気中、1.60×10℃で1.0時間加熱し、その後炉冷した。その結果、密度3.02g/cm(相対密度98.3%)と緻密な焼結体が得られた。X線回折により結晶相を確認したところLiSiが主相であった。
【0015】
窒素雰囲気中の373Kから673Kまでの交流インピーダンス測定により、この焼結体の伝導度を測定した。573Kで測定したときのインピーダンスプロット(「Y添加系」のプロット)を図2に示す。図1に記した実施例1のインピーダンスプロットを図2に記すと、横軸0、縦軸0近傍の黒点となることから、実施例1の伝導度と比較すると、比較例1の伝導度は低い値であることがわかる。アレニウスプロットから活性化エネルギーを計算すると87kJmol−1となった。伝導度σを計算すると1.9×10−5Sm−1と、酸化ホウ素を添加した場合と比較して低い値にとどまった。これは、酸化イットリウムを焼結助剤とした場合、相対密度は同程度であるが、伝導を阻害する相が形成されたものと考察される。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明はリチウム二次電池の固体電解質に最適であるので、このホウ素含有リチウムケイ素窒化物は広く応用されることが期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Solid State Ionics 25号 183−191ページ 1987年

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムケイ素窒化物焼結体は、主相がLiSiの組成を持つ化合物であり、ホウ素を含むことを特徴とするリチウムケイ素窒化物焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムケイ素窒化物焼結体において、焼結助剤としてB粉末を添加して焼結したことを特徴とするリチウムケイ素窒化物焼結体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−195385(P2011−195385A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64401(P2010−64401)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】