説明

リチウムニッケル複合酸化物及びそれを用いたリチウムイオン二次電池並びにリチウムニッケル複合酸化物の製造方法

【課題】充放電サイクルを繰り返したあとも、良好な電池特性を有するものとする。
【解決手段】リチウムイオン二次電池の正極活物質に含まれるリチウムニッケル複合酸化物は、基本組成がLiNiO2であり、Mg及びSrを含有している。このリチウムニッケル複合酸化物は、NiサイトをCoやAlにより置換していることが好ましい。また、Srは、基本組成をLiAOn(nは正の数、AはNi及びMgを含み且つSrを含まず)としAサイトの元素の全体のモル数を1としたときに、0.0005以上0.1以下となるモル数で含有されていることが好ましい。また、平均粒径が1μm以上の一次粒子が凝集して二次粒子を形成していることが好ましい。Srが外表面を保護すると考えられる。この正極活物質は、Niを含む第1原料溶液から第1水酸化物を生成し、この第1水酸化物とSrとを含む水溶液から第2水酸化物を生成して作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムニッケル複合酸化物及びそれを用いたリチウムイオン二次電池並びにリチウムニッケル複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムの吸蔵・放出現象を利用したリチウム二次電池は、高電圧・高エネルギ密度が得られ小型軽量化が図れるので、パソコンや携帯電話等の情報通信機器の関連分野では既に実用化されている。また資源問題や環境問題から電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される電源への展開が期待されている。この電池では、一般に正極活物質としてリチウム金属複合酸化物、負極活物質として炭素材料を用い、有機溶媒にリチウム塩を溶かした非水系電解液と組み合わせて電池を構成している。リチウム二次電池では、充電放電を繰り返した際に、電池容量の低下が少なければより長寿命となるし、電池抵抗の上昇が少なければより短時間で電力を入出力することが可能となるので、このような電池特性のより高いものが求められている。
【0003】
このような観点から、従来、リチウム二次電池に用いられるリチウムニッケル複合酸化物として、基本組成がLiNiO2であり、六方晶系の層状岩塩構造を有し、リチウムサイトの一部およびニッケルサイトの一部をマグネシウムで置換したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載された酸化物は、リチウムの吸蔵・放出現象を利用したリチウム二次電池に用いると、一部置換されたマグネシウムによって、リチウムサイトへのニッケルの移動を抑制することができ、充電率の高い状態で長期間保存しても、容量劣化および電池抵抗の上昇が少ないものとすることができる。
【特許文献1】特開2003−208895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、この特許文献1に記載された酸化物では、電池特性を高めることができるものであるが、それでもまだ十分でなく、例えば充放電を繰り返した際に、電池抵抗の上昇をより抑えるものなど、更なる電池特性を向上したものが望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、充放電サイクルを繰り返したあとも、良好な電池特性を有するものとすることができるリチウムニッケル複合酸化物及びリチウムイオン二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、基本組成がLiNiO2であるものに、Mgを添加し、更にSrを添加したものとすると、充放電サイクルを繰り返したあとも、より良好な電池特性を有するものが得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のリチウムニッケル複合酸化物は、
リチウム二次電池の活物質として用いられるリチウムニッケル複合酸化物であって、
基本組成がLiNiO2であり、Mg及びSrを含有している、
ものである。
【0008】
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、
上述したリチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0009】
また、本発明のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法は、
リチウム二次電池の活物質として用いられるリチウムニッケル複合酸化物の製造方法であって、
少なくともNiを陽イオンとする塩を含む第1原料溶液とアルカリ溶液とを混合しNiを含む第1水酸化物を生成する第1水酸化物生成工程と、
前記生成した第1水酸化物と、少なくともSrを含む第2原料溶液と、アルカリ溶液とを混合しNiとMgとSrとを含む第2水酸化物を生成する第2水酸化物生成工程と、
前記第2水酸化物とリチウム化合物とを混合し酸素雰囲気下で焼成する焼成工程と、
を含むものである
【発明の効果】
【0010】
このリチウムニッケル複合酸化物及びそれを用いたリチウムイオン二次電池並びにリチウムニッケル複合酸化物の製造方法では、充放電サイクルを繰り返したあとも、より良好な電池特性を有するものとすることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。LiNiO2にMgを添加すると、MgはNiとLiのサイトの一部と置換しLiサイトへのNiの移動を抑制することにより充放電サイクルを繰り返す際の耐久性が向上する。また、Srは、イオン半径がMgなどに対して大きいことから、Mgに加えてSrを添加すると、NiやLiのサイトを置換するよりもその多くは表面に析出してその表面を被覆し、充放電時に劣化しやすい活物質の表面を保護する。このように、Srにより更に耐久性が向上するため、充放電サイクルを繰り返したあとも、より良好な電池特性を得ることができるものと推測される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムニッケル複合酸化物を正極活物質とする正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、ニードルコークスなどの無定形炭素などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂等を用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴムの水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。集電体としては、アルミニウム、スレンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの箔を用いることができる。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極において、正極活物質に含まれるリチウムニッケル複合酸化物は、基本組成がLiNiO2であり、Mg及びSrを含有しているものである。ここで、「基本組成」とは、その組成式で表される組成のものだけでなく、結晶構造におけるLi、Ni、Oの各サイトの一部を、マグネシウムやそれ以外の元素で置換したものを含むことを意味する。さらに、化学量論組成のものだけでなく、一部の元素が欠損または過剰となる非化学量論組成のものをも含むことを意味する。本発明のリチウムニッケル複合酸化物は、Li(1-x)Ni(1-y-z)Mg(x+y)zSrsn(nは正の数)で表されるものを採用することができる。この組成式に示すように、リチウムサイトにおけるマグネシウムの置換割合をx、ニッケルサイトにおけるマグネシウムの置換割合をyとすると、0<x、0<yであり、0<x+y≦0.2とすることが好ましく、0.01≦x+y≦0.1とすることがより好ましく、0.08≦x+yとすることが更に好ましい。このリチウムニッケル複合酸化物に含まれるマグネシウムの量の指標となるマグネシウムによる両サイトの総置換割合(x+y)は、0.2以下では放電容量の低下を抑制することができ、0.01以上では充電時におけるニッケルの移動をより抑制し電池の内部抵抗の上昇をより抑制可能である。リチウムサイトおよびニッケルサイトのマグネシウムによる置換割合は、リチウムニッケル複合酸化物の構造をRietveld法により解析することで求める。Rietveld法は、X線回折図形の各回折角2θにおける観測強度と、モデル構造からの計算強度が一致するように、最小二乗法によって格子定数、原子座標、温度因子を決定するものである。組成式Li(1-x)Ni(1-y-z)Mg(x+y)zSrsnにおけるMは、遷移金属およびAlから選ばれる一種以上であり、これらの一種以上で置換された態様を採用してもよく、またMが含まれない態様(z=0)を採用してもよい。ニッケルサイトの一部をMで置換すると、リチウムニッケル複合酸化物の結晶構造の安定化、熱安定性の向上等を図ることができ、好ましい。このとき、Mによる置換割合は、特に限定されるものではないが、0<z≦0.35とすることが好ましく、0.15≦z≦0.2とするとより好ましく、0.2≦zとすると更に好ましい。Mによる置換割合は、0.35以下では放電容量の低下を抑制することができ、0.15以上ではリチウムニッケル複合酸化物の結晶構造の安定化や熱安定性の向上等の効果を十分に得ることができる。遷移金属などの「M」としては、Co、Mn、Fe、Alから選択したものを用いるのが好ましく、Co及びAlを用いることがより好ましい。こうすれば、より熱安定性を向上させつつ、より容量低下を抑制することができる。Coの置換割合(zc)は0.1≦zc≦0.25とすることが好ましい。この範囲では、結晶構造をより安定化し耐久性をより良好とすることができる。また、Alの置換割合(za)は0.001≦za≦0.15とすることが好ましい。この範囲では、安全性を高めると共に、容量低下を抑制可能である。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極において、正極活物質に含まれるSrは、基本組成をLiAOn(nは正の数、AはNi及びMgを含み且つSrを含まず)としAサイトの元素の全体のモル数を1としたときに、0.0005以上0.1以下となるモル数で含有されていることが好ましく、0.001以上0.01以下となるモル数で含有されていることがより好ましい。例えば、組成式がLi(1-x)Ni(1-y-z)Mg(x+y)zSrsn(MはCo及びAlを含み、0<x、0<y、0<x+y≦0.2、0<z≦0.35、0<n)であるときに、0.0005≦s≦0.1であることが好ましく、0.001≦s≦0.01であることがより好ましい。Srが、0.0005以上0.1以下含まれていると充放電を繰り返したあとの電池抵抗の増加を抑制することができ、0.001以上ではより抵抗の増加を抑制することができ、0.01以下ではSrの添加による初期放電容量の低下を抑制することができる。また、Srは、リチウムニッケル複合酸化物の外表面近傍に存在することが好ましい。こうすれば、Sr(例えばSr酸化物)によりリチウムニッケル複合酸化物の表面を保護することができ、充放電サイクルを行ったあとの電池特性を維持しやすい。基本組成であるLiNiO2の原料の外側にSrを含む原料がコートされるような状態でリチウムニッケル複合酸化物を製造するなどにより、Srをリチウムニッケル複合酸化物の外表面近傍に存在させることができる。
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極において、正極活物質に含まれるリチウムニッケル複合酸化物は粉末状のものであり、粉末を構成する粒子は、微細な一次粒子が多数凝集して二次粒子を形成するという粒子構造を有している。ここで、リチウム二次電池が充放電することにより、その一次粒子は膨張・収縮し、一次粒子の粒界にはストレスが発生して、二次粒子が崩壊することがある。つまり、一次粒子がその凝集を解かれることにより、二次粒子が微細化するのである。この結果、充放電の繰り返しによる電池抵抗の低下が発生する。このため、一次粒子は、その平均粒径を1μm以上とすることが好ましい。即ち、平均粒径が1μm以上の一次粒子が凝集して二次粒子を形成した粒子構造をもつものとすることが好ましい。一次粒子の平均粒径が1μm以上では、電池抵抗の低下をより抑制することができる。これは、充放電により二次粒子が崩壊した場合であっても、一次粒子の大きさが比較的大きく各一次粒子の接触が保たれやすく、電気的導通の低下が抑制されるためであると推測される。この一次粒子の平均粒径は、10μm以下であることが好ましい。10μm以下では、リチウムイオンの移動がよりしやすい。ここで、平均粒径は、球換算粒径であり、具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、対象とする粒子の長径と短径とを測定し、それらの平均値を1つの粒子の粒径とし、SEMにより観察される各粒子の粒径を平均した値を採用するものとする。
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池の負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、導電性ポリマーなどが挙げられるが、このうち炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。この炭素質材料は、特に限定されるものではないが、黒鉛、石油系コークス、石炭系コークス、石油系ピッチの炭化物、石炭系ピッチの炭化物、フェノール樹脂,結晶セルロースなど樹脂の炭化物、及びこれらを一部炭化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維などが挙げられる。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの箔を用いることができる。
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池において、イオン伝導媒体は、例えば液体状の有機溶媒電解液やイオン性液体、固体状のポリマー固体電解質や無機固体電解質、ゲル電解質などを用いることができる。このうち、液体状のもの、特に、支持塩を含む非水系電解液などを用いることが好ましい。支持塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、LiPF6,LiClO4,LiAsF6,LiBF4,Li(CF3SO22N,Li(CF3SO3),LiN(C25SO2)などの公知の支持塩を用いることができる。これらの支持塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであることが好ましく、0.8〜1.2Mであることがより好ましい。電解液としては、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニルカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルカーボネートとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。これらのうち、エチルカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを混合して用いることが好ましい。このとき、20体積%以上40体積%以下のエチルカーボネートと、30体積%以上40体積%以下のジメチルカーボネートと、30体積%以上40体積%以下のエチルメチルカーボネートと、を混合して用いることが好ましい。こうすれば、より好適な出力特性及びサイクル特性を得ることができる。
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、例えば高分子化合物の微多孔フィルムなど、2次電池の使用範囲に耐えうる材質であれば特に限定されずに用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンオキシドなどのポリエーテル類、カルボキシルメチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース類、ポリ(メタ)アクリル酸及びその他のエステル類を主体とする高分子化合物やその誘導体、これらの共重合体や混合物からなるフィルムなどが挙げられる。また、これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。また、これらのフィルムには、例えばイオンの伝導性を高める添加剤や強度・耐食性を高めるような種々の添加剤を添加してもよい。この微多孔フィルムのうち、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホンなどが好ましく用いられる。このセパレータは、非水電解液が浸透してイオンが透過しやすいように、微多孔化を施すのが好ましい。
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。例えば、本発明のリチウムイオン二次電池は、集電体に正極活物質を形成した正極シートと、集電体の表面に負極活物質を形成した負極シートと、正極シートと負極シートとの間に設けられたセパレータと、正極シートと負極シートとの間にセパレータを挟みこれらを捲回して円筒ケースに挿入しこの正極シートと負極シートとの間を満たす非水電解液と、を備え、正極シートに接続された正極端子と負極シートに接続された負極端子とを配設して作製してもよい。
【0020】
次に、正極活物質としての、組成式Li(1-x)Ni(1-y-z)Mg(x+y)zSrsn(MはCo及びAlを含み、nは正の数)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の製造方法の一例について説明する。この製造方法は、(1)原料水溶液調製工程、(2)第1水酸化物生成工程、(3)第2水酸化物生成工程、(4)焼成工程などを含んでいる。なお、本発明のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法は以下に示したものに限られない。
【0021】
(1)原料水溶液調製工程
この工程では、ニッケルを陽イオンとする塩を含む第1原料を水に溶解させた第1原料水溶液と、ストロンチウムを水に溶解させた第2原料水溶液とをそれぞれ調製する工程である。ニッケルを陽イオンとする塩としては、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケルなどを用いることができる。マグネシウムを陽イオンとする塩としては、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウムなどを用いることができる。ストロンチウムを陽イオンとする塩としては、硝酸ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、塩化ストロンチウムなどを用いることができる。また、ニッケルサイトの一部を他の元素(例えば遷移金属やアルミニウム)で置換する場合には、その置換する元素を陽イオンとする塩を含めて第1原料又は第2原料とすればよい。この場合、各塩の水溶液の性質や反応性等を考慮して第1原料とするか第2原料とするかを選択すればよい。例えば、ニッケルサイトの一部をマグネシウムで置換する場合は、第1原料としてもよいし、第2原料としてもよいが、第1原料とすることが好ましい。また、ニッケルサイトの一部をコバルトで置換する場合は、コバルトはニッケルに固溶し、コバルトの水溶液がニッケルの水溶液と性質が似ているため、第1原料とすることができる。あるいは、ニッケルサイトの一部をアルミニウムで置換する場合は、第1原料としても第2原料としてもよいが、第2原料とすることが好ましい。なお、ストロンチウムは、ニッケルを含む水酸化物の外面に付着すると活物質としての機能が高まるから、ニッケルとは異なる水溶液とする必要がある。コバルトを陽イオンとする塩としては、例えば硝酸コバルト、炭酸コバルト、硫酸コバルトなどを用いることができる。アルミニウムを陽イオンとする塩としては、例えば硝酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどを用いることができる。第1原料水溶液、第2原料水溶液は、それぞれに含まれる塩を混合したものを水に溶解してもよいし、それぞれの塩を水に溶解させた水溶液を混合して調製してもよい。各塩は、それに含まれる元素が目的のリチウムニッケル複合酸化物の組成となるよう、その量を適宜調製すればよい。また各原料水溶液は、反応性及び収率を確保する観点から、その塩の濃度を0.1〜2Mとなるように調製するのが好ましい。
【0022】
(2)第1水酸化物生成工程
続いて、調製したNiを含む第1原料水溶液と、アルカリ水溶液とを混合して第1水酸化物を生成する工程を行う。第1原料水溶液と反応させるアルカリ水溶液としては、強アルカリである水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などを用いることができる。このうち、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。水酸化ナトリウム水溶液において、その濃度は、1〜5Mを用いるのが好ましい。また、反応液のpHを調製する場合には、pH調整剤としてアンモニア水などを用いることが好ましい。第1原料水溶液とアルカリ水溶液との反応方法は、特に限定されないが、各々の溶液をそれぞれ反応槽へ送液して行うものとしてもよいし、一方の溶液に他方の溶液を滴下するものとしてもよいが、原料溶液にアルカリ水溶液を滴下することにより行うことが好ましい。第1水酸化物の生成反応を均一に行うには原料水溶液とアルカリ水溶液との反応を撹拌して行うことが好ましい。撹拌速度、両水溶液による反応が進行している反応液のpH値、反応温度などの条件は、合成する第1水酸化物粒子の粒子径などに影響することから、適宜好適な条件を設定するものとする。例えば、反応液のpH値は、反応中、略一定値となるように調整することが好ましく、そのpH値は、10以上12未満の範囲が好ましく、10以上11以下とすることがより好ましい。pH値が10以上12未満の範囲であれば、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子を構成する一次粒子の粒子径を好適な範囲に制御することができる。また、反応温度は、20℃以上60℃以下とすることが好ましい。このようにアルカリ水溶液と第1原料水溶液とを反応させると、第1水酸化物は、沈殿物として得られる。得られた沈殿物を濾別し、洗浄等を行い次の工程に用いる。なお、硝酸ニッケル、硝酸コバルト及び硝酸マグネシウムを第1原料とした第1原料水溶液とアルカリ水溶液とを反応させた場合には、第1水酸化物は、ニッケルとコバルトとマグネシウムとの複合化合物(以下、Ni−Co−Mg複合化合物とも称する)となる。
【0023】
(3)第2水酸化物生成工程
この工程では、第1水酸化物生成工程で得られた第1水酸化物と、第2原料水溶液と、アルカリ水溶液とを反応させて、第1水酸化物と第2原料に含まれる塩の陽イオンの水酸化物とが複合した第2水酸化物を生成する処理を行う。アルカリ水溶液としては、上述の第1水酸化物生成工程と同様のものを用いることができるし、異なるものを用いてもよい。また、上記同様、第1水酸化物と第2原料水溶液とアルカリ水溶液との反応について、第1水酸化物と第2原料水溶液とアルカリ水溶液とを混合するものとすればその反応形態は特に限定されないが、第1水酸化物を分散させた分散液と第2原料水溶液とを混合し、これにアルカリ水溶液を滴下するのが好ましい。なお、第2水酸化物の生成反応を均一に行うために、第1水酸化物と原料水溶液と、アルカリ水溶液との反応は、撹拌しながら行うことが好ましい。撹拌速度や反応液のpH値、反応温度などの条件は、適宜好適な条件を設定するものとする。生成した第2水酸化物は、第1水酸化物に第2原料に含まれる塩の陽イオンの水酸化物とが複合化したものである。即ち、第1水酸化物の周りに第2原料に含まれる陽イオンの水酸化物が付着した形態となっている。なお、第1水酸化物としてNi−Co−Mg複合化合物を用い、第2原料水溶液としてアルミニウム、ストロンチウムの水溶液を用いた場合は、これらが複合化した複合化合物(以下Ni−Co−Mg−Al−Sr複合化合物とも称する)を得ることができる。この第2水酸化物は、沈殿物として得られるが、この得られた沈殿物を濾別し、洗浄等を行い次の工程に用いる。
【0024】
(4)焼成工程
次に、得られた第2水酸化物とリチウム化合物とを混合し、その混合物を酸素雰囲気中で焼成し、リチウムニッケル複合酸化物を得る工程を行う。リチウム化合物としては、水酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウムなどを用いることができる。このうち、反応性が高いことから、水酸化リチウムを用いることが好ましい。第2水酸化物とリチウム化合物とは、目的とするリチウムニッケル複合酸化物の組成になるように混合すればよい。例えば、組成式がLi(1-x)Ni(1-y-z)Mg(x+y)zSrsn(MはCo及びAlを含み且つSrを含まず)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を作製する場合には、Li:(Ni+Mg+M)がモル比で、1:1となるようにすればよい。焼成温度は特に限定されないが、700℃以上1000℃以下とすることが好ましい。700℃以上では反応を十分進行させることができるし、1000℃以下では焼成時のリチウムの揮発を抑制することができる。焼成時間は、焼成が完了するのに十分な時間とすればよく、例えば12時間以上120時間以内の範囲で適宜定めればよい。
【0025】
このような工程を経て得られたリチウムニッケル複合酸化物は、より外表面側にSrが存在していると推測される。このリチウムニッケル複合酸化物は、リチウム二次電池の活物質として用いることができ、このうち、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いることが好ましい。
【0026】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0027】
例えば、上述した実施形態では、マグネシウムを第1原料としたが、第2原料としてもよい。また、上述した実施形態では、アルミニウムを第2原料としたが、第1原料としてもよい。こうしても上述した実施形態と同様の効果が得られる。
【実施例】
【0028】
以下には、リチウムイオン二次電池を具体的に作製した例を、実験例として説明する。ここでは、種々のSr添加量のリチウムニッケル複合酸化物を作製し、これを正極活物質としたリチウムイオン二次電池を作製し、その評価を行った。
【0029】
[実験例1]
Ni:Mg:Co:Al:Srがモル比で0.75:0.05:0.15:0.05:0の割合で含まれるリチウムニッケル複合酸化物を作製した。まず第1原料として硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸マグネシウムを用い、Ni:Co:Mgがモル比で0.75:0.15:0.05となるように混合して1Mの第1原料水溶液を調製した。2Lの反応槽に、調整した第1原料水溶液とpH調整剤としての5Mのアンモニア水とをそれぞれ連続的に送液すると共に、反応液のpH値を10.7以上11.1以下(中間値10.9)の範囲に保ちながら、強アルカリ水溶液として5Mの水酸化ナトリウム水溶液を連続添加し、第1水酸化物であるNi−Co−Mg複合化合物を生成した。この反応温度は、60℃とした。この得られた第1水酸化物を濾別・洗浄し、それを水に分散させて第1水酸化物の分散液を調製した。次に、第2原料として硝酸アルミニウムを用い、水に溶解させて、1Mの硝酸アルミニウム水溶液(第2原料水溶液)を調製した。次に、上記第1水酸化物の分散液とこの第2原料水溶液とを、(Ni+Co+Mg):Alがモル比で0.95:0.05となるように混合した。この混合溶液へ、反応液のpH値を10.7以上11.1以下(中間値10.9)の範囲に保ちながら、強アルカリ水溶液として5Mの水酸化ナトリウム水溶液を連続添加し、第2水酸化物であるNi−Co−Mg−Al複合化合物を生成した。この反応温度は、60℃とした。この得られた第2水酸化物を濾別・洗浄し、乾燥した。続いて、第2水酸化物(Ni−Co−Mg−Al複合化合物)と、水酸化リチウムとを、Li:(Ni+Co+Mg+Al)がモル比で1:1となるように混合した。その混合物を酸素雰囲気中、850℃で24時間焼成し、実験例1のリチウムニッケル複合酸化物を得た。得られたリチウムニッケル複合酸化物をSEM(日立製S3600)を用いて観察したところ、二次粒子の平均粒径は、7μmであり、この二次粒子を形成する一次粒子の平均粒径は、1μmであった。なお、この実験例1をX線回折測定器(リガク社製RINT−2200)を用いて測定し、Rietveld法により構造解析したところ、リチウムサイトの一部及びニッケルサイトの一部にマグネシウムが存在することが確認された。
【0030】
[実験例2]
Ni:Mg:Co:Al:Srがモル比で0.75:0.05:0.15:0.05:0.0005の割合で含まれるリチウムニッケル複合酸化物を作製し、これを実験例2とした。なお、このモル比でSrが添加された実験例について、ここでは便宜的に「Sr添加量0.05mol%」と表現するものとする。この実験例の作製方法を以下に説明する。第2原料として硝酸ストロンチウムを更に用い、水に溶解させて、0.2Mの硝酸ストロンチウム水溶液を調製した。この水溶液と1Mの硝酸アルミニウム水溶液とが第2原料水溶液である。次に、実験例1と同様に作製した上記第1水酸化物の分散液とこの第2原料水溶液とを、(Ni+Co+Mg):Al:Srがモル比で0.95:0.05:0.0005となるように混合し、実験例1と同様の工程を経て第2水酸化物(Ni−Co−Mg−Al−Sr複合化合物)を生成した。得られた第2水酸化物と、水酸化リチウムとを、Li:(Ni+Co+Mg+Al+Sr)がモル比で1.05:1となるように混合し、これを実験例1と同様の焼成工程を行い実験例2のリチウムニッケル複合酸化物を得た。得られたリチウムニッケル複合酸化物をSEMを用いて観察したところ、二次粒子の平均粒径は、7μmであり、この二次粒子を形成する一次粒子の平均粒径は、1μmであった。
【0031】
[実験例3〜7]
上記実験例2と同様に、Ni:Mg:Co:Al:Srがモル比で0.75:0.05:0.15:0.05:0.001の割合で含まれるリチウムニッケル複合酸化物(Sr添加量0.1mol%)を作製し、これを実験例3とした。なお、第2水酸化物と、水酸化リチウムとを、Li:(Ni+Co+Mg+Al+Sr)がモル比で1.01:1となるように混合して焼成した。また、Ni:Mg:Co:Al:Srがモル比で0.75:0.05:0.15:0.05:0.005の割合で含まれるリチウムニッケル複合酸化物(Sr添加量0.5mol%)を作製し、これを実験例4とした。また、Ni:Mg:Co:Al:Srがモル比で0.75:0.05:0.15:0.05:0.01の割合で含まれるリチウムニッケル複合酸化物(Sr添加量1.0mol%)を作製し、これを実験例5とした。また、Ni:Mg:Co:Al:Srがモル比で0.75:0.05:0.15:0.05:0.05の割合で含まれるリチウムニッケル複合酸化物(Sr添加量5.0mol%)を作製し、これを実験例6とした。また、Ni:Mg:Co:Al:Srがモル比で0.75:0.05:0.15:0.05:0.1の割合で含まれるリチウムニッケル複合酸化物(Sr添加量10mol%)を作製し、これを実験例7とした。実験例3〜7の二次粒子の平均粒径は7μmであり、この二次粒子を形成する一次粒子の平均粒径は1μmであった。
【0032】
[実験例8]
第1水酸化物の生成及び第2水酸化物の生成を、pH値が11.9以上12.3以下(中間値12.1)に調製した以外は、実験例4と同様の工程を行い、これを実験例8のリチウムニッケル複合酸化物とした。実験例8のリチウムニッケル複合酸化物では、二次粒子の平均粒径は7μmであり、この二次粒子を形成する一次粒子の平均粒径は、0.2μmであった。
【0033】
[リチウムイオン二次電池の作製]
正極活物質として実験例1〜8のいずれか1つのリチウムニッケル複合酸化物を85重量%、導電材としてアセチレンブラックを10重量%、結着材としてポリフッ化ビニリデンを5重量%混合し、分散剤としてNメチル2ピロリドンを適量添加し、スラリー状の正極材とした。この正極材スラリーを20μm厚のアルミニウム箔集電体の両面に均一に塗布し、加熱乾燥して正極塗布シートを作製した。その後、この塗布シートをプレスし、所定サイズの矩形状に切り出し、電流取り出し用のリードタブ溶接部となる部分の正極材を剥ぎ取り、シート状の正極電極とした。負極活物質として炭素材料粉末を95重量%、結着材としてポリフッ化ビニリデンを5重量%混合し、正極と同様に負極スラリーを作製し、これを10μm厚の銅箔集電体の両面に均一に塗布し、加熱乾燥して負極塗布シートを作製した。その後、この塗布シートをプレスし、所定サイズの矩形状に切り出し、電流取り出し用のリードタブ溶接部となる部分の負極材を剥ぎ取り、シート状の負極電極とした。これらの正極電極と負極電極とを25μm厚の微多孔性ポリエチレン製フィルムからなるセパレータを挟んで捲回し、ロール状の電極体とし、このロール状の電極体を18650型円筒ケースに挿入し、ケース内に保持させた。このとき、正極及び負極のリードタブ溶接部に接続した集電リードをケースに設けられた正極端子及び負極端子にそれぞれを接合した。次に、非水電解液として、エチルカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積%で1:1:1となるように混合した混合溶媒に、6フッ化リン酸リチウムを1mol/Lの濃度で溶解したものを用意した。この非水電解液をケース内に注入し、密閉して円筒型リチウムイオン二次電池とした。正極活物質を変更することにより実験例1〜8のリチウムイオン二次電池とした。
【0034】
[初期放電容量]
作製した実験例1〜8のリチウムイオン二次電池を用い、0.2mA/cm2で4.1Vまで定電流充電したのち、0.2mA/cm2で3.0Vまで定電流放電を行った。続いて、0.2mA/cm2で4.1Vまで充電したのち、0.1mA/cm2で3.0Vまで定電流放電を行い、このときの放電容量を初期放電容量V0とした。なお、測定は20℃の雰囲気で行った。
【0035】
[高温サイクル試験、放電容量維持率]
実験例1〜8のリチウムイオン二次電池を雰囲気温度60℃の恒温槽に入れ、放電電流2.0mA/cm2で4.1Vまでの定電流充電し、放電電流2.0mA/cm2で3.0までの定電流放電を行う充放電を1サイクルとし、このサイクルを合計500サイクル行う高温サイクル試験を行った。この高温サイクル試験を行ったのち、雰囲気温度20℃とし、0.2mA/cm2で4.1Vまで定電流充電したのち、0.2mA/cm2で3.0Vまで定電流放電を行い、このときの放電容量を高温サイクル試験後の放電容量Vcとした。
【0036】
[電池抵抗増加率]
実験例1〜8のリチウムイオン二次電池を用い、充放電のサイクルを繰り返した際の電池抵抗増加率Rinを求めた。電池抵抗は、20℃で、充電電流0.2mA/cm2で3.7Vまで定電流定電圧充電したのち、放電電流10mA/cm2で定電流放電を行い、10秒後の電圧を測定し、電圧降下により求めた。20℃の電池抵抗増加率Rinは、20℃において、上記高温サイクル試験の前に測定した電池抵抗Rbと、上記高温サイクル試験の後に測定した電池抵抗Raとを用い、次式(1)により求めた。
電池抵抗増加率Rin(%)=(Ra−Rb)/Rb×100 …式(1)
【0037】
[測定結果]
実験例1〜8の測定結果を表1に示す。表1に示すように、Srを添加した実験例2〜7では、Srを添加しない実験例1に比して、充放電を繰り返したあとの電池抵抗増加率を小さく抑えることができることがわかった。また、一次粒子が0.2μmである実験例8では、充放電を繰り返した際あとでは電池抵抗が増加したが、一次粒子が1μmである実験例2〜7では、充放電を繰り返し行ったあとでも、放電容量が低下しにくく、電池抵抗が増加しにくいという、好適な電池特性を有することが明らかとなった。また、Sr添加率が0.05mol%以上5mol%以下の範囲では、より高い放電容量を有すると共により低い電池抵抗増加率を示し、より好適であり、Sr添加率が0.1mol%以上1mol%以下の範囲では更に好適であった。なお、Ni、Mg,Coと共にSrを水酸化物とした、即ち第1水酸化物生成工程のみで第2水酸化物を生成する方法によりリチウムニッケル複合酸化物を生成したものも検討したが、好適な電池特性を得ることができなかった。このため、リチウムニッケル複合酸化物の内部に拡散した状態でSrが存在するよりも、外表面側にSrが存在する方が充放電の繰り返したあとも良好な電池特性を有するという効果が大きいことが推察された。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の活物質として用いられるリチウムニッケル複合酸化物であって、
基本組成がLiNiO2であり、Mg及びSrを含有している、
リチウムニッケル複合酸化物。
【請求項2】
前記Srは、基本組成をLiAOn(nは正の数、AはNi及びMgを含み且つSrを含まず)としAサイトの元素の全体のモル数を1としたときに、0.0005以上0.1以下となるモル数で含有されている、請求項1に記載のリチウムニッケル複合酸化物。
【請求項3】
前記Srは、基本組成をLiAOn(nは正の数、AはNi及びMgを含み且つSrを含まず)としAサイトの元素の全体のモル数を1としたときに、0.001以上0.01以下となるモル数で含有されている、請求項2に記載のリチウムニッケル複合酸化物。
【請求項4】
組成式がLi(1-x)Ni(1-y-z)Mg(x+y)zSrsn(MはCo及びAlを含み、0<x、0<y、0<x+y≦0.2、0<z≦0.35、0<n、0.0005≦s≦0.1)である、請求項1に記載のリチウムニッケル複合酸化物。
【請求項5】
平均粒径が1μm以上の一次粒子が凝集して二次粒子を形成している、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムニッケル複合酸化物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムニッケル複合酸化物を含む正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
リチウム二次電池の活物質として用いられるリチウムニッケル複合酸化物の製造方法であって、
少なくともNiを陽イオンとする塩を含む第1原料溶液とアルカリ溶液とを混合しNiを含む第1水酸化物を生成する第1水酸化物生成工程と、
前記生成した第1水酸化物と、少なくともSrを含む第2原料溶液と、アルカリ溶液とを混合しNiとMgとSrとを含む第2水酸化物を生成する第2水酸化物生成工程と、
前記第2水酸化物とリチウム化合物とを混合し酸素雰囲気下で焼成する焼成工程と、
を含むリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記第2水酸化物生成工程では、基本組成をLiAOn(nは正の数、AはNi及びMgを含み且つSrを含まず)としAサイトの元素の全体のモル数を1としたときに、Srが0.0005以上0.1以下となるモル数で含有させた第2原料溶液を用いる、請求項7に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記第1及び第2水酸化物生成工程では、組成式がLi(1-x)Ni(1-y-z)Mg(x+y)zSrsn(MはCo及びAlを含み、0<x、0<y、0<x+y≦0.2、0<z≦0.35、0<n、0.0005≦s≦0.1)となるよう調整した前記第1原料溶液及び前記第2原料溶液を用いる、請求項7に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記第1水酸化物生成工程では、Mg及びCoを陽イオンとする塩を含む前記第1原料溶液を用い、
前記第2水酸化物生成工程では、Alを陽イオンとする塩を含む前記第2原料溶液を用いる、請求項9に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。

【公開番号】特開2009−129820(P2009−129820A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305895(P2007−305895)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】