説明

リチウムポリマー電池用電解質

電池用固体高分子電解質について開示する。固体高分子電解質は、リチウム塩を溶媒和することが可能な第1高分子と、リチウム塩と、第1高分子と少なくとも部分的に混和性を有するかまたは第1高分子と少なくとも部分的に混和された第2高分子とを含み、第2高分子の少なくとも一部は電池の内部作動温度で結晶またはガラス状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池用固体高分子電解質に関し、特に、増加した機械抵抗を有する高分子電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
負極としてリチウム金属を使用したリチウム電池は、優れたエネルギー密度を有する。しかしながら、サイクルを繰り返すと、このような電池は、電池を再充電する場合にリチウムイオンがリチウム金属電極の表面上に不規則に再めっきされるため、リチウム金属電極の表面上のデンドライト成長の影響を受け得る。デンドライト成長を含むリチウム金属アノード表面の形態学的進化の影響を最小化するために、リチウム金属電池は典型的に、参照により全体がここに組み込まれる特許文献1に開示されるような固体高分子電解質を使用する。複数のサイクルにわたって、リチウム金属アノード表面上のデンドライトが成長し、電解質が固体であったとしても電解質を貫通して、負極と正極との間で“ソフト”ショートを引き起こす場合があり、結果として電池の性能が低下または不足する。従って、デンドライトの成長は、電池のサイクル特性を劣化させ、金属リチウムアノードを備えたリチウム電池の性能の最適化を制限し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6007935号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、金属リチウムアノードの表面上のデンドライト成長の影響の低減または抑制に適した機械強度が増加した固体電解質が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1側面は、リチウム塩を溶媒和することが可能な第1高分子と、リチウム塩と、第1高分子と少なくとも部分的に混和性を有するかまたは第1高分子と少なくとも部分的に混和された第2高分子とを含み、第2高分子の少なくとも一部が電池の内部作動温度で結晶またはガラス状である電池用固体高分子電解質を提供することである。
【0006】
本発明の1側面では、第2高分子は、相溶化剤を介して第1高分子と混和される。
【0007】
本発明の別の側面は、各電気化学セルが、金属リチウムアノードと、カソードと、アノード及びカソードの間に位置する固体高分子電解質とを備え、固体高分子電解質が、リチウム塩を溶媒和することが可能な第1高分子と、リチウム塩と、第1高分子と少なくとも部分的に混和性を有するかまたは第1高分子と少なくとも部分的に混和された第2高分子とを含み、第2高分子の少なくとも一部が電池の内部作動温度で結晶またはガラス状であり、第2高分子が固体高分子電解質中で結晶またはガラス状を維持することによって金属リチウムアノードの表面上のデンドライト成長に抵抗するために固体高分子電解質の機械強度が増加した複数の電気化学セルを備えた電池を提供することである、
【0008】
本発明の実施形態の各々は、上記目的及び/または側面の少なくとも1つを有するが、必ずしもそれらの全てを有する必要はない。上記目的を達成する試みから得られた本発明のいくつかの側面は、これらの目的を満たさない且つ/またはここに特に記載されていないその他の目的を満たし得る。
【0009】
本発明の実施形態の追加及び/または別の特徴、側面及び利点は、以下の発明の説明な説明、添付の図面及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明、その他の側面及びさらなる特徴をより深く理解するために、添付の図面と併せて使用される以下の説明を参照する。
【0011】
【図1】リチウム金属ポリマー電池を形成する複数の電気化学セルの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、金属リチウムシートからなるアノードまたは負極14と、固体電解質16と、電流コレクタ20上に積層されたカソードまたは正極膜18とをそれぞれが備えた複数の電気化学セル12を有するリチウム金属ポリマー電池10を概略的に示す。固体電解質16は典型的に、アノード14とカソード18との間にイオン伝導を提供するためのリチウム塩を含む。リチウム金属シートは典型的に20ミクロンから100ミクロンの範囲の厚さを有し、固体電解質16は10ミクロンから50ミクロンの範囲の厚さを有し、正極膜18は典型的に20ミクロンから100ミクロンの範囲の厚さを有する。
【0013】
電気化学セル12における電池10の内部作動温度は典型的に、40℃から100℃である。好ましくは、リチウムポリマー電池は、電気化学セル12を最適作動温度に至らせる内部加熱システムを有する。電池10は、広い温度範囲(−40℃から+70℃)において屋内または屋外で使用され得る。
【0014】
本発明による固体高分子電解質16は、少なくとも2つの高分子とリチウム塩との混合物から構成される。アノード14とカソード18との間でリチウムイオンが移動するための伝導媒体を形成するリチウム塩を溶解する性能を有する第1高分子は、例えばポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリブチレンオキシド(PBO)などのポリエーテル系の高分子、及びこれらの高分子の1つを含む共重合体などである。好ましくは、第1高分子はポリエチレンオキシド(PEO)系高分子または共重合体である。第1高分子は、電解質中で固体またはゲル状態であることができる。2つの高分子が両者の高分子鎖が分子レベルで絡み合う相を電解質中で形成するように、第2高分子は、第1高分子と少なくとも部分的に混和性を有するかまたは相溶化剤を介して第1高分子と少なくとも部分的に混和される。第2高分子の役割は、リチウム金属シートの表面上のリチウムデンドライトの成長に対する固体電解質16の機械抵抗を増加させることである。第1高分子がリチウム塩を溶媒和するように構成されるため、第2高分子はリチウム塩を溶媒和しなくてもよい。
【0015】
固体高分子電解質16は、従来の固体高分子電解質よりも強いため、従来の高分子電解質よりも薄く形成することができる。上記で概説したように、固体高分子電解質16は10ミクロン程度の薄さであり得る。電池における電解質がより薄いことで、電池はより軽くなり、その結果電池はより高いエネルギー密度を有するようになる。強度が増加した高分子の混合物によって、プロセス中に固体高分子電解質16がより安定するようになる。固体高分子電解質16はより引裂抵抗が高く、製造工程においてしわになりにくい。固体高分子電解質の処理及び電池の製造を改良するために、混合物(第1及び第2高分子とリチウム塩)の構成比率によって固体高分子電解質16の接着特性を調整することができる。
【0016】
第2高分子は、結晶(または部分的に結晶)またはガラス状であってよい。第2高分子がポリビニリデンフルオライドコヘキサフルオロプロピレン(PVDF−HFP)などの結晶である場合、その融点は電池の内部作動温度よりも高くなければならない。PVDF−HFP共重合体は、約135℃の融点を有する。第1高分子と第2高分子との混合物において、第2高分子の分子の部分は電解質の混和相に分散される結晶を形成し、40℃から100℃の間の電池の内部作動温度でも結晶を維持することができる。これらの結晶は、固体電解質16に強度を与え、固体電解質16の機械抵抗を向上させる。金属リチウムアノードを備えた電池において、固体電解質16はリチウムデンドライトの成長に対してより高い抵抗を有し、より詳細には、固体電解質16の高分子混合物は、金属リチウムアノードの表面上のデンドライト成長による貫通または穿孔への固体電解質16の抵抗を向上させる。
【0017】
PVDF−HFP共重合体は、PEOなどのポリエーテル系の高分子と混和性を有さない。しかしながら、PVDF−HFP共重合体とポリエーテル高分子との間で相溶化剤として作用するリチウム塩の存在によって、固体高分子電解質においてPVDF−HFP共重合体はポリエーテル高分子と部分的に混和性を有するようになる。固体高分子電解質16の1好ましい実施形態では、PEO、PVDF−HFP及びリチウム塩は、30%/Wから70%/WのPEO、20%/Wから60%/WのPVDF−HFP、10%/Wから25%/Wのリチウム塩の比で混合される。例えば、固体高分子電解質16混合物は、55%/WのPEO、30%/WのPVDF−HFP、15%/Wのリチウム塩から構成され得る。PEO及びPVDF−HFPの混合物において、PVDF−HFPの分子クラスターは、電解質の混和相に分散されて電池の内部作動温度でも結晶を維持する結晶を形成する。
【0018】
PEO及びPVDF−HFPなどのポリエーテルを含む固体高分子電解質の製造工程の間に、ポリエーテル及びPVDF−HFPを混合した後にリチウム塩を導入することで、PVDF−HFPはより結晶性を維持し、固体高分子電解質16の機械強度を増加させるより大きな結晶を形成するようになることが認められた。
【0019】
相溶化剤は、両方の高分子を含有する少なくとも1つの均一な領域を形成するために、ポリエーテル及びPVDF−HFPなどの非混和性化合物の間を架橋することによって非混和性化合物を連結することができる化合物である。
【0020】
第2高分子が、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)などガラス状である場合、そのガラス転移温度は、電池の作動温度より高くなければならない。PMMA高分子は、約115℃のガラス転移温度を有し、PEOなどのポリエーテル系の高分子と完全に混和して均一に混合される。しかしながら、PMMAの分子は、電池の内部作動温度で、固体高分子電解質中でガラス状態を維持する。ガラス状態を維持するPMMAの分子鎖は、ポリエーテルPMMAの均一な混合物の混和相に分散され、固体高分子電解質16にさらなる強度を与え、その機械抵抗を向上させる。金属リチウムアノードを備えた電池において、固体高分子電解質16はリチウムデンドライトの成長、より詳細には、金属リチウムアノードの表面上のデンドライト成長による貫通または穿孔に対してより高い抵抗を有する。均一な混合物の混和相中に分散されたガラス状態を維持するPMMAの分子鎖は、従来のポリエーテル系電解質よりデンドライト成長に対してより強固なバリアを提供する。固体高分子電解質16の1好ましい実施形態では、PEO、PMMA及びリチウム塩は、45%/Wから80%/WのPEO、10%/Wから30%/WのPMMA、10%/Wから25%/Wのリチウム塩の比で混合される。例えば、固体高分子電解質16混合物は、70%/WのPEO、15%/WのPMMA、15%/Wのリチウム塩から構成され得る。
【0021】
第2高分子は、必ずしも第1高分子より機械的に高い強度を有するとは限らない。第2高分子は、場合に応じて電池の内部作動温度で結晶またはガラス状を維持することができるため、固体高分子電解質16の機械強度、より詳細にはデンドライト成長による貫通または穿孔に対する固体高分子電解質16の抵抗を向上させる。第1高分子は電池の内部作動温度で軟化するが、第2高分子は結晶またはガラス状を維持する。
【0022】
一般的に、固体高分子電解質中の第1高分子とリチウム塩との比率は、製造される電池の所望の電気化学性能に応じて調整される。
【0023】
固体高分子電解質16はまた、ポリエチレンオキシド(PEO)を含むポリエーテル系の高分子など、リチウム塩を溶解してアノード14とカソード18との間を移動するリチウムイオンのための伝導媒体を形成する性能を有する第1高分子と、少なくともその1つが場合に応じて電池の内部作動温度で結晶またはガラス状を維持する第2及び第3高分子と、から構成され得る。例えば、固体高分子電解質は、PVDF−HFPから構成される第2高分子及びPMMAから構成される第3高分子をポリエーテルと混合して調製され得る。この特定の場合、電池の内部作動温度で第2高分子は結晶を維持し、第3高分子はガラス状を維持するため、固体高分子電解質16の機械強度、より詳細にはデンドライト成長による貫通または穿孔に対する固体高分子電解質16の抵抗を向上させる。固体高分子電解質16の1実施形態では、PEO、PVDF−HFP、PMMA及びリチウム塩は、30%/Wから60%/WのPEO、15%/Wから40%/WのPVDF−HFP、5%/Wから20%/WのPMMA、10%/Wから25%/Wのリチウム塩の比で混合される。例えば、固体高分子電解質16混合物は、50%/WのPEO、20%/WのPVDF−HFP、15%/WのPMMA、15%/Wのリチウム塩から構成され得る。
【0024】
各実施形態において、固体高分子電解質16は、2MPa(290psi)から5MPa(725psi)の範囲のヤング率を有する。比較として、ポリエーテル系電解質は典型的に、0.5MPa(72.5psi)から1MPa(145psi)の範囲のヤング率を有する。
【0025】
固体電解質の機械特性を強化するために、シリカ及び/または金属酸化物、例えば酸化マグネシウムなどの無機装入材料(charge)を高分子電解質−リチウム塩混合物に添加することもできる。無機装入材料はさらに、固体電解質のイオン伝導度を向上させる。最大10容量%の無機装入材料を固体電解質−リチウム塩混合物に添加することができる。
【0026】
電解質は、2つまたはそれ以上の高分子及びリチウム塩を一般的な溶媒または溶媒の混合物に溶解させることで製造することができる。溶媒または溶媒の混合物はその後、固体高分子電解質を形成するために、電池10の電気化学セル12へと組立てられる前に電解質から除去される。電解質は、押出機またはニーダー及び同様のものなど任意の混合装置において、電解質の溶融状態の構成要素(高分子及び/または共重合体及びリチウム塩)を混合することによって製造することができる。
【0027】
上記で説明した本発明の実施形態の変形及び改良は当業者に明らかである。前述の説明は限定的でなく例示を目的とするものである。さらに、図面上のさまざまな部材の形状は、限定を意味するものではなく、その部材の寸法は図面に描かれた寸法と異なってもよい。従って、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0028】
10 リチウム金属ポリマー電池
12 電気化学セル
14 アノード
16 固体電解質
18 カソード
20 電流コレクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩を溶媒和することが可能な第1高分子と、リチウム塩と、前記第1高分子と少なくとも部分的に混和性を有するかまたは前記第1高分子と少なくとも部分的に混和された第2高分子とを含み、前記第2高分子の少なくとも一部が電池の内部作動温度で結晶またはガラス状である電池用固体高分子電解質。
【請求項2】
前記第2高分子の少なくとも一部が、前記固体高分子電解質中で結晶またはガラス状を維持することによって前記固体高分子電解質の機械強度が増加したことを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質。
【請求項3】
前記固体高分子電解質中で結晶またはガラス状を維持する前記第2高分子の少なくとも一部が、前記固体高分子電解質の混和相に分散されていることを特徴とする請求項2に記載の固体高分子電解質。
【請求項4】
前記第2高分子が、ポリビニリデンフルオライドコヘキサフルオロプロピレン(PVDF−HFP)共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質。
【請求項5】
前記第2高分子が、ポリメチルメタクリレート(PMMA)高分子であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質。
【請求項6】
前記第1高分子が、ポリエーテルであることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質。
【請求項7】
前記第1高分子が、ポリエチレンオキシド(PEO)系高分子または共重合体であることを特徴とする請求項6に記載の固体高分子電解質。
【請求項8】
第3高分子または共重合体をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質。
【請求項9】
前記第3高分子が、PVDF−HFPとPMMAとからなる群から選択されることを特徴とする請求項8に記載の固体高分子電解質。
【請求項10】
無機装入材料をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質。
【請求項11】
前記無機装入材料が、シリカと金属酸化物とからなる群から選択されることを特徴とする請求項10に記載の固体高分子電解質。
【請求項12】
前記固体高分子電解質が、2MPaから5MPaの範囲のヤング率を有することを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質。
【請求項13】
前記第2高分子が、相溶化剤を介して前記第1高分子と混和されたことを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質。
【請求項14】
前記第3高分子が、相溶化剤を介して前記第1高分子と混和されたことを特徴とする請求項8に記載の固体高分子電解質。
【請求項15】
各電気化学セルが金属リチウムアノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードの間に位置する固体高分子電解質とを備え、前記固体高分子電解質が、リチウム塩を溶媒和することが可能な第1高分子と、リチウム塩と、前記第1高分子と少なくとも部分的に混和性を有するかまたは前記第1高分子と少なくとも部分的に混和された第2高分子とを含み、前記第2高分子の少なくとも一部が電池の内部作動温度で結晶またはガラス状であり、前記第2高分子が前記固体高分子電解質中で結晶またはガラス状を維持することによって前記金属リチウムアノードの表面上のデンドライト成長に抵抗するために前記固体高分子電解質の機械強度が増加した複数の電気化学セルを備えた電池。

【図1】
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【公表番号】特表2011−507197(P2011−507197A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538292(P2010−538292)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/CA2008/002195
【国際公開番号】WO2009/079757
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(309005766)バシウム・カナダ・インコーポレーテッド (8)
【Fターム(参考)】