説明

リチウム一次電池の検査方法

【課題】セパレータにわずかな傷がつくことにより発生する微小短絡品と良品とを従来の検査方法と比較して、より短時間で確実に選別することが可能なリチウム一次電池の検査方法を提供する。
【解決手段】電池組立後、高温エージング(60℃程度)を実施した後、10℃以上の温度差を設けて2回の開回路電圧測定を実施し、その結果、測定温度の高い開回路電圧が、測定温度の低い開回路電圧よりも高い電池を不良と判断することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム一次電池の製造方法に関し、とくにその微小短絡による不良を迅速かつ的確に識別する検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムなどの消耗性アルカリ金属を負極活物質とし、酸化物などを正極活物質とするリチウム一次電池は、正負極の起電力差が大きいため、高電圧および高エネルギー密度を有する電源として広く用いられている。この電池系は、正極活物質が負極活物質であるアルカリ金属を受け入れることにより放電が進行する。またこの電池系は、放電特性と長期保存特性とに優れていることから、近年において急速に需要が拡大し、カメラ等の数多くの機器に使用されている。
【0003】
従来、リチウム一次電池の品質を検査する際には、特許文献1に示されているように、常温または高温(60℃程度)で2〜4週間エージングを行ってから電池の開回路電圧(OCV)と内部抵抗(IR)もしくは閉回路電圧(CCV)を測定し、その測定値を基準値と比較して良否判定を行う方法が広く採用されていた。
【特許文献1】特開平9−161817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法では、セパレータにわずかな傷がつくことにより発生する微小短絡による不良品(微小短絡品)を良品として判断しており、前記微小短絡による不良品を良品と区別して選別するためには、上記微小短絡による不良品が良品の開回路電圧分布から外れる必要がある。従って、良品と不良品の開回路電圧分布の差を大きくするために、エージング時間を長く設定する必要があった。
【0005】
本発明は、微小短絡品と良品とをより短時間で確実に選別することが可能なリチウム一次電池の品質検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、本発明のリチウム一次電池の検査方法は、電池組立後、エージングを行う工程と、所定温度T1で開回路電圧V1を測定する工程と、前記所定温度T1よりも10℃以上低い所定温度T2で開回路電圧V2を測定する工程を有し、前記開回路電圧V1が前記開回路電圧V2よりも高い電池を不良と判定するリチウム一次電池の検査方法である。
【0007】
上記のような検査方法が可能である理由として、リチウム一次電池の開回路電圧は正負極材料により決定し、その値は下記(数1)に示すネルンストの式に基づく。
【0008】
E=E0−RT/nFIn(ared/aox)・・・・・(数1)
【0009】
ここで、E0は電極反応の標準電位である。aredおよびaoxは、それぞれ還元状態の活物質および酸化状態の活物質の活量であり、R、T、nおよびFはそれぞれ気体定数、絶対温度、反応に関与する電子数およびファラデー定数である。従って、開回路電圧測定時の温度が低いほど、開回路電圧は高くなる。一方、微小短絡品は電池内部で微小に放電しているため、微小短絡が発生している電池の開回路電圧には温度依存性があり、開回路電
圧測定時の温度が低いほど、開回路電圧は低くなる。
【0010】
その結果、開回路電圧測定時に温度差を設けて2回測定することにより、良品と微小短絡品をより短時間で高精度に判別することが可能となる。
【0011】
また、本発明において、前記所定温度T2が前記所定温度T1よりも10℃以上高い温度で前記開回路電圧V1およびV2を測定してもよい。その場合には、前記開回路電圧V1が前記開回路電圧V2よりも低い電池を不良と判定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良品と、微小短絡による不良品を、より短時間で高精度に選別することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は上記のように、リチウム一次電池の検査方法であって、エージング終了後、所定温度T1で開回路電圧V1を測定する工程と、前記所定温度T1よりも10℃以上低い所定温度T2で開回路電圧V2を測定する工程を有し、前記開回路電圧V1が前記開回路電圧V2よりも高い電池を不良と判定することで、微小短絡による不良品と良品とをより短時間で確実に選別することを見出したものである。
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1(A)に本発明のリチウム一次電池の検査工程の流れを示し、(B)に従来のリチウム一次電池の検査工程の流れを示す。
【0015】
まず、電池組立後、高温(60℃程度)でエージングを実施する。その後、所定温度T1で開回路電圧V1を測定する。その後、前記所定温度T1よりも10℃以上低い所定温度T2で開回路電圧V2を測定する。前記開回路電圧V1が開回路電圧V2よりも高い電池を不良として排除する。
【0016】
その際、測定時の温度差が10℃以下では、2回の開回路電圧の値に明確な温度の影響が出なくなる。その結果、測定誤差を考慮すると良品と微小短絡品の判定が困難となる。
【0017】
また2回の開回路電圧測定は、リチウム電池が通常使用できる−40℃から70℃の温度範囲で実施するのが望ましい。
【0018】
また、前記所定温度T1とT2は、T2の温度がT1よりも10℃以上高い温度となってもよい。その際には、前記開回路電圧V1がV2よりも低い電池を不良と判断する。
【0019】
内部抵抗(もしくは閉回路電圧)検査は、2回の開回路電圧測定時のどちらかと同時期に実施する。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0021】
実施例は、正極に二酸化マンガン、負極にリチウムを用いたリチウム一次電池を例とした検査法について説明する。
【0022】
上記リチウム一次電池10万個を組立後、60℃で2日間の高温エージングを実施した。その後の検査方法を以下に示す。
【0023】
(実施例1)
上記高温エージングが終了したリチウム一次電池10万個のうち、無作為に1万個抽出し、25℃(所定温度T1)の恒温槽に12h保管することで、電池温度を25℃とし、その状態で開回路電圧V1と閉回路電圧を測定した。
【0024】
次に、全ての電池を10℃(所定温度T2)の恒温槽に12h保管し、電池温度を10℃とし、2回目の開回路電圧V2を測定した。
【0025】
上記のとおり測定した電池のうち、無作為に抽出した200個について開回路電圧V1とV2の関係を図2に示す。図2の縦軸に25℃(所定温度T1)で測定した開回路電圧V1、横軸に10℃(所定温度T2)で測定した開回路電圧V2を示す。図中の直線Aは、開回路電圧V1およびV2が同じ値であることを意味する直線である。従って、この直線Aよりも下に分布している点(図中B)は、開回路電圧V1よりも開回路電圧V2が低い電池である。この電池を不良として排除した。
【0026】
2回の開回路電圧を測定した電池1万個に対して、上記示す判断基準を用いて、良品と不良品の判定を行った。そのときの開回路電圧の不良率と高温エージングから検査終了までの時間を表1に示す。
【0027】
(比較例1)
上記高温エージングが終了したリチウム電池10万個のうち、無作為に1万個抽出し、常温で2週間エージングを行ったあと、開回路電圧と閉回路電圧を測定した。良品と不良の判定基準はAve.±3δとした。上記のとおり検査を実施したときの開回路電圧の不良率と高温エージングから検査終了までの時間を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すとおり、実施例1および比較例1の開回路電圧の不良率は、ほぼ近い値となった。従って、実施例1は比較例1と同レベルの不良検出能力があることがわかる。しかし、実施例1の高温エージングから検査終了までの時間は、比較例1の約5分の1となっており、より短時間で良品と不良の選別が可能であることがわかる。
【0030】
(実施例2)
上記高温エージングが終了したリチウム電池10万個のうち、無作為に1万個抽出し、20℃(所定温度T1)の恒温槽に12h保管することで、電池温度を20℃とし、その状態で開回路電圧V1と閉回路電圧を測定した。
【0031】
次に、全ての電池を10℃(所定温度T2)の恒温槽に12h保管し、電池温度を10℃とし、2回目の開回路電圧V2を測定した。開回路電圧V2が開回路電圧V1よりも低い電池を不良とした。そのときの不良率を表2に示す。また、本検査で良品とみなされた電池に再検査を実施した。すなわち室温で30日間保管した後、開回路電圧を測定し、Ave.±3δで選別し、そのときの不良率を下記表2に併記した。
【0032】
(実施例3〜5および比較例2)
開回路電圧V1測定時の温度T1および開回路電圧V2測定時の温度T2を表2に示す
温度条件で実施したこと以外は実施例2と同じ手順で不良率を求め、表2に併記した。
【0033】
【表2】

【0034】
表2から明らかなように、2回目の開回路電圧測定時の温度T2が1回目の開回路電圧測定時の温度T1よりも10℃以上低い実施例2〜5の場合、再検査での不良率が0%であることがわかる。また、実施例2〜5の本検査の不良率は、前記T2がT1よりも5℃低い比較例2よりも低く、良品が誤って不良とみなされる電池の数を低減できることがわかる。
【0035】
これに対して、前記T2がT1よりも5℃低い比較例2は、本検査での不良率が実施例2〜5と比較して高く、そのうえ、再検査でも不良品が見つかることがわかる。
【0036】
今回の発明における検査は、通常のリチウム電池の使用温度範囲である−40℃〜70℃の間で実施するのが望ましい。
【0037】
また、上記の実施例においては、1回目の開回路電圧測定時の温度の方が、2回目の開回路電圧測定時の温度よりも高いが、逆に2回目の開回路電圧測定時の温度が1回目の開回路電圧測定時の温度よりも高くすることも可能である。その場合には開回路電圧V1が開回路電圧V2よりも低い電池を不良と判定する。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のリチウム一次電池の検査方法を実施することにより、良品と、微小短絡による不良品とを短時間で正確に選別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(A)本発明のリチウム一次電池の検査工程を示す図、(B)比較例のリチウム一次電池の検査工程を示す図
【図2】所定温度T1とT2のそれぞれにおける電池の開回路電圧を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム一次電池の検査方法であって、電池組立後、エージングを行う工程と、所定温度T1で開回路電圧V1を測定する工程と、前記所定温度T1よりも10℃以上低い所定温度T2で開回路電圧V2を測定する工程を有し、前記開回路電圧V1が前記開回路電圧V2よりも高い電池を不良と判定するリチウム一次電池の検査方法。
【請求項2】
リチウム一次電池の検査方法であって、電池組立後、エージングを行う工程と、所定温度T1で開回路電圧V1を測定する工程と、前記所定温度T1よりも10℃以上高い所定温度T2で開回路電圧V2を測定する工程を有し、前記開回路電圧V1が前記開回路電圧V2よりも低い電池を不良と判定するリチウム一次電池の検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−177008(P2008−177008A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8818(P2007−8818)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】