説明

リチウム二次電池の容量回復方法

【課題】充放電の繰り返しや長期放置により低下した充放電可能な容量を適切に回復し得るリチウム二次電池の容量回復方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る容量回復方法は、正極の通常使用上限電位V1より高い電位にプラトー領域Pの電位V2を有する正極活物質を備えたリチウム二次電池の容量回復方法である。この容量回復方法は、リチウム二次電池の充放電可能な容量が初期容量から低下した場合に、該電池を正極の通常使用上限電位V1より高いプラトー領域Pの電位V2まで充電する。そして、該プラトー領域Pにおいて容量低下分ΔC1を上回らないレベルの電気量C2を充電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラトー領域の電位を有する正極活物質を備えたリチウム二次電池の容量回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池、ニッケル水素電池その他の二次電池(蓄電池)は、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられている。リチウム二次電池では、正負極間をLiイオンが行き来することによって充電および放電が行われる。この種のリチウム二次電池の一つの典型的な構成では、Liイオンを可逆的に吸蔵および放出し得る材料(電極活物質)が導電性部材(電極集電体)に保持された構成の電極を備える。例えば特許文献1には、正極に用いられる電極活物質(正極活物質)として、プラトー電位が4.4V〜4.8Vである固溶体化合物を用いたリチウム二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−505367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のリチウム二次電池では、充放電の繰り返しや長期放置により、正負極間で授受されるLiイオンが負極表面で反応し、負極活物質に不可逆的に取り込まれることがある。負極活物質に不可逆的に取り込まれたLiイオンは、それ以降の充放電反応に関与しないため、該不可逆的に取り込まれたLiイオンの容量分だけ電池容量(充放電可能な容量)が低下する事象が生じ得る。本発明はかかる事案に鑑み、充放電の繰り返しや長期放置により低下した充放電可能な容量を適切に回復し得るリチウム二次電池の容量回復方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によって提供される容量回復方法は、正極の通常使用上限電位より高い電位にプラトー領域の電位を有する正極活物質を備えたリチウム二次電池の容量回復方法である。この方法は、上記リチウム二次電池の充放電可能な容量が初期容量よりも低下した場合に、該電池を正極の通常使用上限電位より高いプラトー領域の電位まで充電することを包含する。さらに、上記プラトー領域において上記容量低下分を上回らないレベルの電気量を充電することを包含する。
【0006】
本明細書において「正極電位」とは、リチウムを基準とした電位(vs Li/Li+)をいい、例えばリチウムを参照極とした模擬電池を用いて測定することができる。また、「正極の通常使用上限電位」とは、電池を通常の使用形態で充電する場合に充電を終止するものとして設定された正極の作動電位範囲における上限の電位をいう。また、「プラトー領域」とは、充電により正極活物質からリチウムを引き抜いても正極の電位が変化しない領域をいい、典型的には該電池を充電したときの充電曲線において正極電位が略一定になる領域をいう。
【0007】
本発明の容量回復方法によると、充放電の繰り返しや長期放置によりリチウム二次電池の充放電可能な容量が初期容量よりも低下した場合に、該電池を正極の通常使用上限電位より高いプラトー領域の電位まで充電し、かつ、該プラトー領域において上記容量低下分を上回らないレベルの電気量を充電する。このことによって、電池電圧を過度に上昇させることなく、正極活物質の内部に吸蔵されたままのLiイオンが適切に引き抜かれ、充放電の繰り返しや長期放置により負極活物質に不可逆的に取り込まれたLiイオンの損失分を補填し得る。この結果、電池電圧の急激な上昇による電池劣化を防ぎつつ、不可逆的なLiイオンの取り込みにより低下した電池容量を適切に回復し得、リチウム二次電池の長寿命化を実現することができる。
【0008】
上記プラトー領域において充電される電気量は、上記容量低下分(すなわち初期容量−劣化後容量)を上回らない電気量であればよい。通常は容量低下分の1/2(半分)以上の電気量が適当であり、好ましくは容量低下分の2/3以上の電気量であり、特に好ましくは容量低下分と等量の電気量である。プラトー領域で充電される電気量が少なすぎると、上述した容量回復効果が十分に得られない場合がある。その一方、容量低下分を上回る電気量を充電すると、負極活物質のLi許容吸蔵量を超えてしまい、負極表面でリチウムが析出する場合がある。
【0009】
ここに開示される容量回復方法の好ましい一態様では、上記プラトー領域の電位は、リチウム基準で4.4V(vs Li/Li+)以上である。プラトー領域の電位が低すぎると、上述した容量回復効果が十分に得られないことがある一方で、プラトー領域の電位が高すぎると、該プラトー領域の電位まで正極電位を上昇させたときに電解液が分解し電池の耐久性が低下する虞があるため好ましくない。電池の耐久性の観点からは、4.8V(vs Li/Li+)以下であることが好ましい。
【0010】
ここに開示される容量回復方法の好ましい一態様では、上記プラトー領域の電位は、上記正極の通常使用上限電位より0.2V以上高い電位である。正極の通常使用上限電位より0.2V以上高いプラトー領域の電位で充電することにより、正極活物質の内部に吸蔵されたままのLiイオンが効果的に引き抜かれ、上記低下した電池容量を回復し得る効果が高まる。また、ここに開示される容量回復方法の好ましい一態様では、上記正極の通常使用上限電位は、リチウム基準で3.8V〜4.2Vである。
【0011】
ここに開示される容量回復方法の好ましい一態様では、上記プラトー領域での充電時における電流レートが、0.002C〜0.1Cである。かかる充電処理を0.1C以下の低速で行うことによって、低下した電池容量を安定して回復させることができる。上記充電処理における電流値の下限値は特に限定されないが、概ね0.002C程度である。0.002Cよりも低すぎると、充電に多大な時間がかかるため、容量回復処理を迅速に行うことができない場合がある。
【0012】
好ましくは、上記正極活物質は、以下の一般式:
xLiM1O+(1−x)LiM2O
で示される固溶体化合物である。
ここで上記式中のM1は、平均酸化状態が4+である少なくとも一種の金属元素であり、例えば、Mn,Zr,TiおよびSnのうちの一種または二種以上の金属元素である。また、M2は、平均酸化状態が3+である少なくとも一種の遷移金属元素が好ましく採用され得る。例えば、Mn,Co,NiおよびFeのうちの一種または二種以上の遷移金属元素である。上記式中のxの値は、0<x<1である。特にxが0.3≦x≦0.7を満足する実数であることが好ましい。かかる固溶体化合物は、プラトー領域の電位が4.4V〜4.8Vと比較的高いことから、本発明の目的に適した正極活物質として好ましく採用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に用いられるリチウム二次電池を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に用いられる捲回電極体を模式的に示す図である。
【図3】充電容量と正極電位及び負極電位との関係を示すグラフである。
【図4】リチウム二次電池を搭載した車両を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、正極及び負極を備えた電極体の構成及び製法、セパレータや電解質の構成及び製法、リチウム二次電池その他の電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の容量回復方法について、対象となるリチウム二次電池の構成、容量回復方法の順に説明する。
【0016】
<リチウム二次電池>
本実施形態の容量回復方法が対象とするリチウム二次電池100(以下、適宜「電池」という。)は、例えば、図1に示すように、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20が長尺状のセパレータ40を介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、図示しない非水電解液とともに、該捲回電極体80を収容し得る形状(扁平な箱型)のケース50に収容された構成を有する。
【0017】
ケース50は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。ケース50を構成する材質としては、アルミニウム、スチール等の金属材料が好ましく用いられる(本実施形態ではアルミニウム)。あるいは、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形してなるケース50であってもよい。ケース50の上面(すなわち蓋体54)には、捲回電極体80の正極と電気的に接続する正極端子70及び該電極体80の負極20と電気的に接続する負極端子72が設けられている。ケース50の内部には、扁平形状の捲回電極体80が図示しない非水電解液とともに収容される。
【0018】
本実施形態に係る捲回電極体80は、通常のリチウム二次電池の捲回電極体と同様であり、図2に示すように、捲回電極体80を組み立てる前段階において長尺状(帯状)のシート構造を有している。
【0019】
<正極シート>
正極シート10は、正長尺シート状の箔状の正極集電体12の両面に正極活物質を含む正極活物質層14が保持された構造を有している。ただし、正極活物質層14は正極シート10の幅方向の端辺に沿う一方の側縁(図では左側の側縁部分)には付着されず、正極集電体12を一定の幅にて露出させた正極活物質層非形成部16が形成されている。正極集電体12にはアルミニウム箔その他の正極に適する金属箔が好適に使用される。
【0020】
本実施形態で用いられる正極活物質は、リチウム二次電池の正極活物質として用いることができる物質の一種または二種以上であって、かつ充電によりリチウムを放出しても電位が変化しないプラトー領域を有する物質を使用することができる。例えば、リチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)が挙げられる。該酸化物は、層状岩塩型構造、スピネル構造、およびオリビン構造の何れであってもよい。ここで開示される技術の好ましい適用対象として、下記式(I):
xLiM1O+(1−x)LiM2O (I);
で示される固溶体化合物が挙げられる。
上記式(I)中のLiM1OのM1は、平均酸化状態が4+である少なくとも一種の金属元素であり、例えば、Mn,Zr,TiおよびSnのうちの一種または二種以上の金属元素である。このうち、MnあるいはMnとNiとの2種の組み合わせが好ましく、かかる元素の含有率の高い組成のものが好適である。特に、M1がMnであるか、あるいはMnの含有率が高いこと(例えば、M1中においてMnが75モル%以上含まれていること)が好適である。また、上記式(I)中のLiM2OのM2としては、平均酸化状態が3+である少なくとも一種の遷移金属元素が好ましく採用され得る。例えば、Mn,Co,NiおよびFeのうちの一種または二種以上の遷移金属元素である。このうち、Ni,MnおよびCoの組み合わせが好ましく、特にM2がNi1/3Mn1/3Co1/3であることが好適である。また、上記式中のxの取り得る範囲は、固溶体化合物の構造を崩すことなく該構造を維持し得る限りにおいて0<x<1の範囲内であればいずれの実数をとってもよい。好ましくは0.3≦x≦0.7であり、特に好ましくは0.4≦x≦0.6である。かかる固溶体化合物の具体例としては、0.5LiMnO+0.5LiNi1/3Mn1/3Co1/3等が挙げられる。
【0021】
これら固溶体化合物としては、例えば、従来公知の方法で製造または提供されるものを使用することができる。例えば、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の平均粒径(D50)が0.1μm〜100μm程度の粉末状に調製されたものを好ましく使用することができる。
【0022】
正極活物質層14は、正極活物質のほか、一般的なリチウム二次電池において正極活物質層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、導電材が挙げられる。該導電材としては、カーボン粉末(例えば、アセチレンブラック(AB))やカーボンファイバー等のカーボン材料が好ましく用いられる。あるいは、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いてもよい。その他、正極活物質層の成分として使用され得る材料としては、正極活物質の結着材(バインダ)として機能し得る各種のポリマー材料(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF))が挙げられる。
【0023】
<負極シート>
負極シート20も正極シート10と同様に、長尺シート状の箔状の負極集電体22の両面に負極活物質を含む負極活物質層24が保持された構造を有している。ただし、負極活物質層24は負極シート20の幅方向の端辺に沿う一方の側縁(図では右側の側縁部分)には付着されず、負極集電体22を一定の幅にて露出させた負極活物質層非形成部26が形成されている。負極集電体22には銅箔その他の負極に適する金属箔が好適に使用される。負極活物質は従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料が例示される。
【0024】
負極活物質層24は、負極活物質のほか、一般的なリチウム二次電池において負極活物質層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、負極活物質の結着材(バインダ)として機能し得るポリマー材料(例えばPVDF、スチレンブタジエンゴム(SBR))、負極活物質層形成用ペーストの増粘剤として機能し得るポリマー材料(例えばカルボキシメチルセルロース(CMC))等が挙げられる。
【0025】
<セパレータ>
正負極シート10、20間に配置されるセパレータ40としては、捲回電極体を備える一般的なリチウム二次電池のセパレータと同様の各種多孔質シートを用いることができる。好適例として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複数構造(例えば、PP層の両面にPE層が積層された三層構造)であってもよい。
【0026】
<捲回電極体>
捲回電極体80を作製するに際しては、正極シート10と負極シート20とがセパレータ40を介して積層される。このとき、正極シート10の正極活物質層非形成部分と負極シート20の負極活物質層非形成部分とがセパレータ40の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート10と負極シート20とを幅方向にややずらして重ね合わせる。このように重ね合わせた積層体を捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平状の捲回電極体80が作製され得る。
【0027】
捲回電極体80の捲回軸方向における中央部分には、捲回コア部分82(即ち正極シート10の正極活物質層14と負極シート20の負極活物質層24とセパレータ40とが密に積層された部分)が形成される。また、捲回電極体80の捲回軸方向の両端部には、正極シート10及び負極シート20の電極活物質層非形成部分16,26がそれぞれ捲回コア部分82から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分(すなわち正極活物質層14の非形成部分)16及び負極側はみ出し部分(すなわち負極活物質層24の非形成部分)26には、正極リード端子74及び負極リード端子76がそれぞれ付設されており、上述の正極端子70及び負極端子72とそれぞれ電気的に接続される。
【0028】
<非水電解質>
そして、ケース本体52の上端開口部から該本体52内に捲回電極体80を収容するとともに、適当な非水電解質90をケース本体52内に配置(注液)する。かる非水電解質は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFSO等のリチウム塩を好ましく用いることができる。
【0029】
その後、上記開口部を蓋体54との溶接等により封止し、本実施形態に係るリチウム二次電池100の組み立てが完成する。ケース50の封止プロセスや電解質の配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様でよく、本発明を特徴付けるものではない。このようにして本実施形態に係るリチウム二次電池100の構築が完成する。該リチウム二次電池100のように、負極活物質に炭素系材料を用いたリチウム二次電池では、充放電の繰り返しや長期放置により、正負極間で授受されるLiイオンが負極活物質に不可逆的に取り込まれ、電池容量(充放電可能な容量)が低下する可能性がある。したがって、該低下した電池容量を回復できる本発明に係る容量回復方法は、上記のような構成のリチウム二次電池に対して、特に好適に適用され得る。
【0030】
<容量回復方法>
ここで開示されるリチウム二次電池の容量回復方法は、正極の通常使用上限電位より高い電位にプラトー領域の電位を有する正極活物質を備えたリチウム二次電池の容量回復方法である。この容量回復方法は、リチウム二次電池の充放電可能な容量が初期容量よりも低下した場合に、該電池を正極の通常使用上限電位より高いプラトー領域の電位まで充電することを包含する。また、そのプラトー領域において上記容量低下分(すなわち初期容量−劣化後容量)を上回らないレベルの電気量を充電することを包含する。以下、本実施形態の容量回復方法における上記充電処理を容量回復充電処理という。
【0031】
上記容量回復充電処理は、充放電の繰り返しや長期放置によりリチウム二次電池の充放電可能な容量が初期容量(すなわち未使用新品状態の電池の充放電可能容量)よりも低下した場合に行われる。好ましくは、リチウム二次電池の充放電可能な容量が初期容量の3/4以下(好ましくは2/3以下、特に好ましくは1/2以下)になった時点で上記容量回復充電処理を行うとよい。
【0032】
プラトー領域は、上述したように、充電により正極活物質からリチウムを引き抜いても電位が変化しない領域であり、典型的には電池を充電させたときの充電曲線(容量の変化に対する電位の推移を示すグラフ)において正極電位が略一定になる領域である。かかるプラトー領域の電位は、正極活物質の種類によって異なり得る。例えば、正極活物質として上述した固溶体化合物を使用した場合、プラトー領域の電位は概ね4.4V〜4.8V(vs Li/Li+)程度となる。図3には、正極活物質として0.5LiMnO+0.5LiNi1/3Mn1/3Co1/3固溶体化合物を使用し、負極活物質としてグラファイトを使用したリチウム二次電池の充電時における正極電位(ラインL1)及び負極電位(ラインL2)の推移を示してある。図3のL1に示すように、上記リチウム二次電池における充電時の正極電位は、充電処理の進行に伴って次第に増大していく。そして、正極電位が4.4Vで略一定となり、プラトー領域Pに達する。
【0033】
正極の通常使用上限電位は、上述したように、電池を通常の使用形態で充電する場合に充電を終止するものとして設定された正極の作動電位範囲における上限の電位であり、例えば、電池特性を大きく損なわずに(例えば電解液の分解を防ぎながら)充放電することが可能な電位範囲における上限の電位である。かかる通常使用上限電位は、電池の構成によっても異なり得る。例えば、正極活物質として0.5LiMnO+0.5LiNi1/3Mn1/3Co1/3固溶体化合物を使用し、負極活物質としてグラファイトを使用した電池の場合、図3に示すように、正極の作動電位範囲Rは概ね3.0V〜4.2Vの範囲に設定され得る。この場合、正極の通常使用上限電位V1は4.2Vとなる。本実施形態の電池は、この通常使用上限電位V1より高い電位にプラトー領域Pの電位V2(ここでは4.4V)を有する。
【0034】
ここで開示されるリチウム二次電池の容量回復方法では、上記正極の通常使用上限電位V1およびプラトー領域Pの電位V2を有するリチウム二次電池において、該リチウム二次電池の充放電可能な容量が初期容量よりも低下した場合に、該電池を正極の通常使用上限電位V1より高いプラトー領域Pの電位V2まで充電する。そして、該プラトー領域Pにおいて上記容量低下分ΔC1(=初期容量−劣化後容量)を上回らないレベルの電気量C2を充電する(C2≦ΔC1)。ここで、図3中のラインL2は初期の負極電位を、ラインL3は容量劣化後の負極電位の推移を示している。
【0035】
このように、リチウム二次電池の充放電可能な容量が初期容量よりも低下した場合に、該電池を正極の通常使用上限電位V1より高いプラトー領域Pの電位V2まで充電し、かつ、該プラトー領域Pにおいて上記容量低下分ΔC1を上回らない電気量C2を充電することによって、電池電圧を過度に上昇させることなく、正極活物質の内部に吸蔵されたままのLiイオンが適切に引き抜かれ、負極活物質に不可逆的に取り込まれたLiイオンの損失分を補填することができる。この結果、電池電圧の急激な上昇による電池劣化を防ぎつつ、不可逆的なLiイオンの取り込みにより低下した電池容量を適切に回復し得、リチウム二次電池の長寿命化を実現することができる。
【0036】
上記プラトー領域Pにおいて充電される電気量C2は、上記容量低下分を上回らない電気量であればよい(C2≦ΔC1)。通常は容量低下分の1/2(半分)以上の電気量が適当であり、容量低下分の2/3以上の電気量であることが好ましく、容量低下分と等量の電気量であることが特に好ましい。プラトー領域Pで充電される電気量が少なすぎると、上述した容量回復効果が十分に得られない場合がある。その一方、容量低下分を上回る電気量を充電すると、負極活物質のLi許容吸蔵量を超えてしまい、負極表面でリチウムが析出する場合があり好ましくない。さらに、図3で規定される各容量について、Ca+Cb+C2≦Cc+Cd+ΔC1を満足することが好ましい。これにより、負極表面へのLi析出をより確実に防ぐことができる。なお、図3で規定される各容量は、例えばリチウムを参照極とした模擬電池を用いて測定することができる。
【0037】
ここに開示される技術では、プラトー領域Pの電位V2は、正極の通常使用上限電位V1より0.2V以上高い電位であることが好ましく、0.3V以上高い電位であることが特に好ましい。例えば、プラトー領域Pの電位V2が4.4V以上であり、かつ、通常使用上限電位V1が4.2V以下であることが好適である。このように正極の通常使用上限電位より0.2V以上高いプラトー領域の電位で充電することにより、正極活物質の内部に吸蔵されたままのLiイオンが効果的に引き抜かれ、上記低下した容量を回復し得る効果が高まる。
【0038】
また、上記プラトー領域Pの電位V2は、リチウム基準で4.4V以上であることが好ましくは、4.5V以上であることが特に好ましい。プラトー領域の電位が低すぎると、上述した容量回復効果が十分に得られない場合がある一方で、プラトー領域の電位が高すぎると、該プラトー領域の電位まで正極電位を上昇させたときに電解液が分解し電池の耐久性が低下するため好ましくない。電池の耐久性の観点からは、4.8V以下であることが好ましい。例えば、上記プラトー領域の電位が4.4V〜4.8V(特に4.4V〜4.6V)であることが、容量回復効果と電池耐久性を両立させる観点から適当である。
【0039】
ここで開示される容量回復方法における容量回復充電処理は、適当な充電装置(例えば充電回路)を用いて行うことができる。上記容量回復充電処理に使用できる装置としては、従来のリチウム二次電池の充電を実施し得る充電装置であれば特に限定はなく、種々の回路構成をとることができる。かかる充電装置による容量回復充電処理は、例えば、定電流で所定の電圧となるまで充電する定電流充電(CC充電)方式であってもよく、定電流で所定の電圧となるまで充電した後、所定の電圧を維持して所定時間充電する定電流定電圧充電(CCCV充電)方式であってもよい。
【0040】
上記容量回復充電処理における電流値(レート)は特に制限されないが、通常は0.1C以下にすることが適当であり、例えば0.05C以下にすることが好ましい。かかる容量回復充電処理を0.1C以下の低速で行うことによって、低下した電池容量を安定して回復させることができる。上記容量回復充電処理における電流値の下限は特に限定されないが、概ね0.002C程度である。0.002Cよりも低すぎると、充電に多大な時間がかかるため、容量回復充電処理を迅速に行うことができない場合がある。なお、1Cとは、定格容量を1時間で放電できる電流量を意味する。
【0041】
上記容量回復充電処理の温度は特に制限されないが、通常は0℃〜40℃程度にすることが適当であり、例えば20℃〜30℃程度にすることが好ましい。また、上記容量回復充電処理を行う回数は1回に限らず、複数回(例えば2〜10回)繰り返してもよい。容量回復充電処理の処理回数を増やせば増やすほど、低下した容量を初期容量により近いレベルまで回復させることができる。
【0042】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0043】
<試験例1:リチウム二次電池の作製>
評価試験用のリチウム二次電池を以下のようにして作製した。
まず、正極活物質としての上述した固溶体化合物(0.5LiMnO+0.5LiNi1/3Mn1/3Co1/3)に、導電材としてのABを、結着材としてのPVDFとともに水と混合して正極ペーストを調製した。この正極ペーストに含まれる各材料の質量比は、正極活物質が85質量%、導電材が10質量%、結着材が5質量%である。この正極ペーストを、正極集電体としての長尺状のアルミニウム箔の両面に塗布して、正極集電体の両面に正極活物質層を備える正極シートを作製した。
【0044】
一方、負極活物質としての炭素材料(ここではグラファイト粉末を使用した。)を、結着材としてのPVDFとともに水と混合して、負極ペーストを調製した。この負極ペーストに含まれる各材料の質量比は、上記炭素材料が92.5質量%、結着材が7.5質量%である。この負極ペーストを、負極集電体としての長尺状の銅箔の片面に塗布して、負極集電体の片面に負極活物質層を備える負極シートを作製した。
【0045】
正極シートと2枚の負極シートとを正極活物質層と負極活物質層とが互いに対向するように交互に積層し、両シートの間に2枚のセパレータ(PP層の両面にPE層が積層された三層構造の多孔質樹脂シートを用いた。)を挿入して電極体を作製した。この電極体を非水電解液とともにラミネート袋に挿入して評価試験用リチウム二次電池(ラミネートセル)を構築した。なお、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを5:5の体積比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させたものを用いた。その後、常法により初期充放電処理(コンディショニング)を行って、評価試験用リチウム二次電池を得た。
【0046】
なお、予備的実験により求めた上記リチウム二次電池の作動電圧範囲における上限電圧は4.1Vであった。このときの正極電位をLi参照極付電池を用いて測定したところ、4.2V(vs Li/Li)であった。図3には、かかるリチウム二次電池の充電時における正極電位及び負極電位の推移を示してある。図3に示すように、上記リチウム二次電池における充電時の正極電位は充電処理の進行に伴って増大した。そして、正極電位が4.4Vで略一定となり、プラトー領域に達した。
【0047】
以下に説明する実験例2及び3は、以下の実験方法I〜IIの条件で行われた。
I.容量測定
(1)電池電圧が4.1V(正極電位が通常使用上限電位の4.2V)になるまで、1/20Cの電流値で定電流充電を実施した。
(2)10分間(m)休止した。
(3)電池電圧が2.5V(正極電位が3.0V)になるまで、1/20Cの電流値で定電流放電を実施した。そのときの放電容量を電池容量(mAh)とした。
なお、上記操作(1)〜(3)は全て25℃の温度条件下で行われた。
II.サイクル試験
(1)電池電圧が4.1V(正極電位が通常使用上限電位の4.2V)になるまで、1/3Cの電流値で定電流充電を実施した。
(2)10分間(m)休止した。
(3)電池電圧が2.5V(正極電位が3.0V)になるまで、1/3Cの電流値で定電流放電を実施した。
(4)10分間(m)休止した。
(5)2サイクル目以降は、上記(1)〜(4)を繰り返し、合計50サイクルを実施した。
なお、上記操作(1)〜(5)は全て60℃の温度条件下で行われた。
【0048】
<試験例2:容量回復充電処理>
上記サイクル試験により低下した電位容量を、前述した容量回復充電処理により回復し得ることを確認するため、以下の試験を行った。
まず、実験対象のリチウム二次電池の「サイクル試験前の電池容量(初期容量)」を調べるために、上述した実験方法I(容量測定)を実施した。次に、上記実験方法II(サイクル試験)を行った。そして、再び上記実験方法I(容量測定)を実施した。これにより「サイクル試験後の電池容量」を得た。
その結果、上記サイクル試験前の電池容量(初期容量)は42mAhであり、上記サイクル試験後の電池容量は35mAhであった。したがって、上記サイクル試験前後における容量低下量は7mAhとなる。
【0049】
上記サイクル試験(実験方法II)を実施した後、上記リチウム二次電池に対して容量回復充電処理を行った。容量回復充電処理は、以下の手順で行った。
(1)電池電圧が4.3V(正極電位がプラトー領域の電位4.4V)になるまで、1/20Cの電流値で定電流充電を実施した。
(2)上記プラトー領域において上記容量低下量に相当する電気量7mAhを、1/20Cの電流値で定電流充電した。
(3)10分間(m)休止した。
(4)電池電圧が2.5V(正極電位が3.0V)になるまで、1/20Cの電流値で定電流放電を実施した。
なお、上記操作(1)〜(4)は全て25℃の温度条件下で行われた。
上記容量回復充電処理を実施した後、再び上記実験方法I(容量測定)を実施した。これにより「容量回復充電処理後の電池容量」を得た。
その結果、上記容量回復充電処理後の電池容量は41mAhとなり、上記サイクル試験後の電池容量35mAhから大幅に増大した。このことから、リチウム二次電池を通常使用上限電位より高いプラトー領域の電位まで充電し、かつ、該プラトー領域において容量低下分に相当する電気量を充電することで、電池容量を回復し得ることが確認された。
【0050】
<試験例3>
比較例として、以下の試験を行った。
すなわち、上記サイクル試験(実験方法II)を実施した後、下記の条件で充電処理を行った。
(1)電池電圧が4.3V(正極電位がプラトー領域の電位4.4V)になるまで、1/20Cの電流値で定電流充電を実施した。
(2)10分間(m)休止した。
(3)電池電圧が2.5V(正極電位が3.0V)になるまで、1/20Cの電流値で定電流放電を実施した。
なお、上記操作(1)において、通常使用上限電位からプラトー領域の電位に至るまでに充電された電気量は5mAhである。上記操作(1)〜(3)は全て25℃の温度条件下で行われた。
上記充電処理を実施した後、再び上記実験方法I(容量測定)を実施した。これにより「充電処理後の電池容量」を得た。
その結果、上記充電処理後の電池容量は34mAhとなり、上記サイクル試験後の電池容量35mAhとほとんど変わらなかった。この結果から、リチウム二次電池を通常使用上限電位より高いプラトー領域の電位まで充電するだけでは、電池容量を有効に回復し得ないことが確認された。
【0051】
以上、本発明を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0052】
なお、ここに開示されるいずれかのリチウム二次電池100は、車両に搭載される電池として適した性能を備えたものであり得る。したがって本発明によると、図15に示すように、ここに開示されるいずれかの電池100を備えた車両1が提供される。特に、該電池100を動力源(典型的には、ハイブリッド車両または電気車両の動力源)として備える車両(例えば自動車)1が提供される。
【符号の説明】
【0053】
1 車両
10 正極シート
12 正極集電体
14 正極活物質層
16 正極活物質層非形成部
20 負極シート
22 負極集電体
24 負極活物質層
26 負極活物質層非形成部
40 セパレータ
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
74 正極リード端子
76 負極リード端子
80 捲回電極体
82 捲回コア部分
90 非水電解質
100 リチウム二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極の通常使用上限電位より高い電位にプラトー領域の電位を有する正極活物質を備えたリチウム二次電池の容量回復方法であって、
前記リチウム二次電池の充放電可能な容量が初期容量よりも低下した場合に、該電池を正極の通常使用上限電位より高いプラトー領域の電位まで充電すること、および、
前記プラトー領域において前記容量低下分を上回らないレベルの電気量を充電すること
を包含する、リチウム二次電池の容量回復方法。
【請求項2】
前記プラトー領域において充電される電気量は、前記容量低下分の1/2以上の電気量である、請求項1に記載の容量回復方法。
【請求項3】
前記正極の通常使用上限電位は、リチウム基準で3.8V〜4.2Vである、請求項1または2に記載の容量回復方法。
【請求項4】
前記プラトー領域の電位は、前記正極の通常使用上限電位より0.2V以上高い電位である、請求項1〜3の何れか一つに記載の容量回復方法。
【請求項5】
前記プラトー領域の電位は、リチウム基準で4.4V〜4.8Vである、請求項1〜4の何れか一つに記載の容量回復方法。
【請求項6】
前記プラトー領域での充電時における電流レートが、0.002C〜0.1Cである、請求項1〜5の何れか一つに記載の容量回復方法。
【請求項7】
前記正極活物質は、以下の一般式:
xLiM1O+(1−x)LiM2O
(ここでM1は、平均酸化状態が4+である少なくとも一種の金属元素であり、M2は、少なくとも一種の遷移金属元素である:0<x<1)
で示される固溶体化合物である、請求項1〜6の何れか一つに記載の容量回復方法。
【請求項8】
前記式(1)中のM1は、Mn,Zr,TiおよびSnからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素である、請求項7に記載の容量回復方法。
【請求項9】
前記式(1)中のM2は、Mn,Co,NiおよびFeからなる群から選択される少なくとも一種の遷移金属元素である、請求項7または8に記載の容量回復方法。
















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−45658(P2013−45658A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183163(P2011−183163)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】