説明

リチウム二次電池用正極活物質材料及びその製造方法と、それを用いたリチウム二次電池用正極並びにリチウム二次電池

【課題】高容量化、レート・出力特性といった負荷特性の向上、低コスト化、耐高電圧化及び高安全性化との両立が可能なリチウム二次電池用正極活物質材料を提供する。
【解決手段】炭酸ガス含有雰囲気下で熱処理したLi過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物よりなり、イオンクロマトグラフィーにより測定した炭酸イオン濃度をc[重量%]、BET法により測定した比表面積をS[m/g]とした時、c/S値が0.055以上、0.30以下であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質材料及びその製造方法と、この正極活物質材料を用いたリチウム二次電池用正極、並びにこのリチウム二次電池用正極を備えるリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、エネルギー密度及び出力密度等に優れ、小型、軽量化に有効であるため、ノート型パソコン、携帯電話及びハンディビデオカメラ等の携帯機器の電源としてその需要は急激な伸びを示している。リチウム二次電池はまた、電気自動車や電力のロードレベリング等の電源としても注目されており、近年ではハイブリッド電気自動車用電源としての需要が急速に拡大しつつある。特に電気自動車用途においては、低コスト、安全性、寿命(特に高温下)、負荷特性に優れることが必要であり、材料面での改良が望まれている。
【0003】
リチウム二次電池を構成する材料のうち、正極活物質材料としては、リチウムイオンを脱離・挿入可能な機能を有する物質が使用可能である。これら正極活物質材料は種々あり、それぞれ特徴を持っている。また、性能改善に向けた共通の課題として負荷特性向上が挙げられ、材料面での改良が強く望まれている。
さらに、低コスト、安全性、寿命(特に高温下)にも優れた、性能バランスの良い材料が求められている。
【0004】
現在、リチウム二次電池用の正極活物質材料としては、スピネル構造を有するリチウムマンガン系複合酸化物、層状リチウムニッケル系複合酸化物、層状リチウムコバルト系複合酸化物などが実用化されている。これらのリチウム含有複合酸化物を用いたリチウム二次電池は、いずれも特性面で利点と欠点を有する。即ち、スピネル構造を有するリチウムマンガン系複合酸化物は、安価で合成が比較的容易であり、電池とした時の安全性に優れる反面、容量が低く、高温特性(サイクル、保存)が劣る。層状リチウムニッケル系複合酸化物は、容量が高く、高温特性に優れる反面、合成が難しく、電池とした時の安全性に劣り、保管にも注意を要する等の欠点を抱えている。層状リチウムコバルト系複合酸化物は、合成が容易かつ電池性能バランスが優れているため、携帯機器用の電源として広く用いられているが、安全性が不十分な点や高コストである点が大きな欠点となっている。
【0005】
こうした現状において、これらの正極活物質材料が抱えている欠点が克服ないしは極力低減され、かつ電池性能バランスに優れる活物質材料の有力候補として、層状構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物が提案されている。特に近年における低コスト化要求、高電圧化要求、安全化要求の高まりの中で、いずれの要求にも応え得る正極活物質材料として有望視されている。
【0006】
ただし、その低コスト化、高電圧化、及び安全性の程度は、組成比によって変化するため、更なる低コスト化、より高い上限電圧を設定しての使用、より高い安全性の要求に対しては、マンガン/ニッケル原子比を概ね1以上としたり、コバルト比率を低減させたりするなど、限られた組成範囲のものを選択して使用する必要がある。しかしながら、このような組成範囲のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を正極材料として使用したリチウム二次電池は、レートや出力特性等の負荷特性が低下するため、実用化に際しては、更なる改良が必要であった。
【0007】
そこで、本発明者は、レート・出力特性といった負荷特性向上という課題を解決するためには、活物質を焼成する段階において、より高温で焼成して十分に結晶性の高いものとしながらも低比表面積化しにくいモルフォロジー粒子を得ること、さらに望ましくは、粒成長及び焼結を抑えて微細な粒子を得ることが重要と考え、鋭意検討した結果、W等の特定の元素を含有する化合物を添加後、一定以上の高温条件で焼成することにより、高結晶かつ粒成長及び焼結の抑えられた微細な粒子(高比表面積、高細孔容量)からなる層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体が得られることを見出し、リチウム二次電池用正極材料として、低コスト化、耐高電圧化、高安全化に加え、レートや出力特性といった負荷特性の向上との両立が可能なものとした。しかしながら、前記特性メリットを活かしつつ一層の高出力化、高容量化を図るためには更なる改良が必要であった。
【0008】
なお、本発明は、Liを化学量論比より多く含有する層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を炭酸ガス含有雰囲気下で熱処理し、これをリチウム二次電池用の正極活物質材料として使用することにより、高出力化、高容量化を図るものであるが、従来、リチウム二次電池用正極活物質を炭酸ガス雰囲気下で熱処理した公知の文献として、以下の特許文献1〜3が開示されている。
【0009】
特許文献1には、Li/Ni比が化学量論組成(1/1)のLiNiOを、炭酸ガス雰囲気中、150℃で2〜3分、もしくは、空気中、200℃で10分放置することが記載されている。しかしながら、このような化学量論組成の正極活物質は極めて炭酸化されやすく、本発明が規定するc/S値をはるかに上回るため、充放電容量やレート特性、出力特性の著しい低下を引き起こす虞がある。
【0010】
特許文献2には、ニッケル酸リチウム又は複合ニッケル酸リチウムを、二酸化炭素ガスを含む雰囲気中で処理することが記載されている。しかしながら、本文献記載の技術では、その処理温度が低いため、本発明が規定するような炭酸化し難い組成物に対しては、所望の状態まで炭酸化を行うことは極めて困難である。
【0011】
一方、特許文献3には、本発明に係るLi過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を炭酸ガス含有雰囲気下で熱処理することが開示されている。しかしながらこの特許文献中の実施例によれば、単位比表面積あたりの炭酸イオン濃度、つまりc/S値は0.5〜6.2となっており、本発明の範囲外である。
【特許文献1】特開平7−245105号公報
【特許文献2】特開平9−153360号公報
【特許文献3】特開2004−335345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述の如く、本発明者は、先に、W等の特定の元素を含有する化合物を添加後、一定以上の高温条件で焼成することにより、高結晶かつ粒成長及び焼結の抑えられた微細な粒子(高比表面積、高細孔容量)からなる層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体が得られることを見出し、リチウム二次電池用正極材料の低コスト化、耐高電圧化、高安全化に加え、レートや出力特性といった負荷特性の向上を可能としたが、なお、更なる高出力化、高容量化を図るべく改良が望まれている。
【0013】
本発明の目的は、リチウム二次電池用正極活物質材料としての使用において、レート・出力特性といった負荷特性の一層の向上を図りつつ高容量化を図り、さらに好ましくは良好な高温サイクル性能、低コスト化、耐高電圧化及び高安全性化の両立が可能なリチウム二次電池用正極活物質材料と、この正極活物質材料を用いたリチウム二次電池用正極、並びにこのリチウム二次電池用正極を備えるリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、より一層の高出力化、高容量化を図るべく鋭意検討を重ねた結果、Liを化学量論比より多く含有する層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を炭酸ガス含有雰囲気下で熱処理し、これをリチウム二次電池用の正極活物質材料として使用することにより、一層の高出力化、高容量化が図られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料は、炭酸ガス含有雰囲気下で熱処理したLi過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物よりなり、イオンクロマトグラフィーにより測定した炭酸イオン濃度をc[重量%]、BET法により測定した比表面積をS[m/g]とした時、c/S値が0.055以上、0.30以下であることを特徴とする(請求項1)。
【0016】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料は、BET比表面積が1.5m/g以上、5m/g以下であることが好ましい(請求項2)。
【0017】
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料は、イオンクロマトグラフィーにより測定した炭酸イオン濃度が0.15重量%以上、0.50重量%以下であることが好ましい(請求項3)。
【0018】
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料は、組成が、下記式(I)で示されるものが好ましい(請求項4)。
LiMO2 …(I)
〔ただし、上記式(I)中、
Mは、Li、Ni及びMn、或いは、Li、Ni、Mn及びCoから構成される元素であり
Mn/Niモル比は0.8以上、5以下
Co/(Mn+Ni+Co)モル比は0以上、0.35以下、
M中のLiモル比は0.001以上、0.2以下
である。〕
【0019】
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料は、前記組成式(I)中のMが、下記式(II)式で表されるものが好ましい(請求項5)。
M=Liz/(2+z){(Ni(1+y)/2Mn(1-y)/21-xCox2/(2+z) …(II)
〔ただし、上記式(II)中、
0≦x≦0.1
−0.1≦y≦0.1
(1−x)(0.05−0.98y)≦z≦(1−x)(0.20−0.88y)
である。〕
【0020】
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料は、Mo、W、Nb、Ta、及びReよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することが好ましい(請求項6)。
【0021】
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって、屈折率を1.24に設定し、粒子径基準を体積基準として、5分間の超音波分散(出力30W、周波数22.5kHz)後に測定されたメジアン径が0.5μm以上、10μm以下であることが好ましい(請求項7)。
【0022】
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料は、嵩密度が0.5g/cm以上、2.5g/cm以下であることが好ましい(請求項8)。
【0023】
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料は、40MPaの圧力で圧密した時の体積抵抗率が1×10Ω・cm以上、1×10Ω・cm以下であることが好ましい(請求項9)。
【0024】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料の製造方法は、炭酸ガス濃度が1体積%以上、100体積%以下の雰囲気ガス中、200℃以上、800℃以下の温度条件で、Li過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を0.5時間以上48時間以下保持して熱処理することを特徴とする(請求項10)。
【0025】
本発明のリチウム二次電池用正極は、前記のリチウム二次電池用正極活物質材料と結着剤とを少なくとも含有する正極活物質層を集電体上に有することを特徴とする(請求項11)。
【0026】
本発明のリチウム二次電池は、リチウムを吸蔵・放出可能な負極、リチウム塩を含有する非水電解質、及びリチウムを吸蔵・放出可能な正極を備えたリチウム二次電池であって、正極としてこのような本発明のリチウム二次電池用正極を用いたことを特徴とする(請求項12)。
【発明の効果】
【0027】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料は、リチウム二次電池正極材料として用いた場合、低コスト化及び高安全性化、高サイクル特性化、負荷特性の向上と高容量化の両立を図ることができる。このため、本発明によれば、安価で安全性が高く、しかも性能の優れたリチウム二次電池が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
【0029】
[リチウム二次電池用正極活物質材料]
本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料(以下「正極活物質」と称す場合がある。)は、炭酸ガス含有雰囲気下で熱処理したLi過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物よりなる。
【0030】
本発明の正極活物質として用いられるリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物(以下、適宜「本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物」と略称する。)は、Li/(Ni+Mn+Co)モル比が1より大きな、即ちLiを過剰に含有する、層状の、即ち層状構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の粉体である。
【0031】
そして、本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物は、炭酸ガスを含有する雰囲気中で熱処理を施され、これによって所定の程度に炭酸化されていることを特徴とする。
具体的には、本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物について、イオンクロマトグラフィーにより測定した炭酸イオン濃度をc[重量%]、BET法により測定した比表面積をS[m/g]とした時、c/S値が0.055以上、0.30以下の範囲にあることを特徴とする。なお、本発明において、「炭酸イオン濃度」とは「重炭酸イオン濃度」を含む広義の炭酸イオン濃度をさす。
【0032】
c/S値の下限は、通常0.055以上であるが、好ましくは0.057以上、より好ましくは0.060以上、特に好ましくは0.062以上であり、上限は通常0.30以下であるが、好ましくは0.25以下、さらに好ましくは0.20以下、特に好ましくは0.15以下である。この下限値を下回ると、本発明の改善効果が得られなくなる虞があり、上限値を上回ると、却って電池性能が低下する虞がある。
【0033】
本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物のBET比表面積は任意であるが、通常1.5m/g以上、好ましくは1.7m/g以上、より好ましくは2.0m/g以上、特に好ましくは2.5m/g以上であり、また、通常5m/g以下、好ましくは4.5m/g以下、より好ましくは4m/g以下、特に好ましくは3.5m/g以下である。BET比表面積が小さすぎると、電池のレート特性や出力特性、電池容量の低下を招く一方で、大きすぎると、材料としての取り扱いが困難になったり、正極において電解液と好ましくない反応を引き起こして寿命特性が低下したりする虞がある。
【0034】
なお、BET比表面積は、公知のBET式粉体比表面積測定装置によって測定できる。本発明では、大倉理研製:AMS8000型全自動粉体比表面積測定装置を用い、吸着ガスに窒素、キャリアガスにヘリウムを使用し、連続流動法によるBET1点式法測定を行った。具体的には粉体試料を混合ガスにより150℃の温度で加熱脱気し、次いで液体窒素温度まで冷却して混合ガスを吸着させた後、これを水により室温まで加温して吸着された窒素ガスを脱着させ、その量を熱伝導検出器によって検出し、これから試料の比表面積を算出した。
【0035】
本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の炭酸イオン濃度cの範囲は、通常0.15重量%以上、好ましくは0.16重量%以上、より好ましくは0.17重量%以上、特に好ましくは0.18重量%以上であり、通常0.50重量%以下、好ましくは0.40重量%以下、より好ましくは0.35重量%以下、さらに好ましくは0.31重量%以下、特に好ましくは0.30重量%未満である。炭酸イオン濃度が低すぎると、本発明の改善効果が得られなくなる虞があり、高すぎると、電池とした時にガス発生による膨れを引き起こす虞がある。
【0036】
なお、炭酸イオン濃度cは、イオンクロマトグラフィーによって測定することができる。イオンクロマトグラフィーの具体的手法に制限はないが、例えば、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物30〜100mgに調製直後の脱塩水5mlを加え、30分超音波分散して炭酸イオンを抽出し、この抽出水相をイオンクロマトグラフ装置で分析することにより求めることができる。
【0037】
本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の組成は、本発明の趣旨を逸脱するものでない限り、特に限定されないが、下記式(I)で示されるものが好ましい。
【0038】
LiMO2 …(I)
〔ただし、上記式(I)中、
Mは、Li、Ni及びMn、或いは、Li、Ni、Mn及びCoから構成される元素であり
Mn/Niモル比は0.8以上、5以下
Co/(Mn+Ni+Co)モル比は0以上、0.35以下、
M中のLiモル比は0.001以上、0.2以下
である。〕
【0039】
上記式(I)中、Mは、Li、Ni及びMn、或いは、Li、Ni、Mn及びCoから構成される元素であり、Mn/Niモル比通常は0.8以上、好ましくは0.82以上、より好ましくは0.85以上、更に好ましくは0.88以上、最も好ましくは0.9以上、通常5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2.5以下、最も好ましくは1.5以下である。
Co/(Mn+Ni+Co)モル比は通常0以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.03以上、最も好ましくは0.05以上、通常0.30以下、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.15以下、更に好ましくは0.10以下、最も好ましくは0.099以下である。
M中のLiモル比は通常0.001以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、さらに好ましくは0.03以上、最も好ましくは0.05以上、通常0.2以下、好ましくは0.19以下、より好ましくは0.18以下、さらに好ましくは0.17以下、最も好ましくは0.15以下である。
【0040】
なお、上記組成式(I)においては、酸素量の原子比は便宜上2と記載しているが、多少の不定比性があってもよい。不定比性がある場合、酸素の原子比は通常2±0.2の範囲、好ましくは2±0.15の範囲、より好ましくは2±0.12の範囲、さらに好ましくは2±0.10の範囲、特に好ましくは2±0.05の範囲である。
【0041】
本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物は、前記組成式(I)におけるMサイト中の原子構成が下記式(II)で表されるものが特に好ましい。
【0042】
M=Liz/(2+z){(Ni(1+y)/2Mn(1-y)/21-xCox2/(2+z) …(II)
〔ただし、上記式(II)中、
0≦x≦0.1
−0.1≦y≦0.1
(1−x)(0.05−0.98y)≦z≦(1−x)(0.20−0.88y)
である。〕
【0043】
上記式(II)において、xの値は通常0以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.03以上、最も好ましくは0.04以上、通常0.1以下、好ましくは0.099以下、最も好ましくは0.098以下である。
yの値は通常−0.1以上、好ましくは−0.05以上、より好ましくは−0.03以上、最も好ましくは−0.02以上、通常0.1以下、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.03以下、最も好ましくは0.02以下である。
zの値は通常(1−x)(0.05−0.98y)以上、好ましくは(1−x)(0.06−0.98y)以上、より好ましくは(1−x)(0.07−0.98y)以上、さらに好ましくは(1−x)(0.08−0.98y)以上、最も好ましくは(1−x)(0.10−0.98y)以上、通常(1−x)(0.20−0.88y)以下、好ましくは(1−x)(0.18−0.88y)以下、より好ましくは(1−x)(0.17−0.88y)、最も好ましくは(1−x)(0.16−0.88y)以下である。
【0044】
……がこの下限を下回ると導電性が低下し、上限を超えると遷移金属サイトに置換する量が多くなり過ぎて電池容量が低くなる等、これを使用したリチウム二次電池の性能低下を招く可能性がある。また、zが大きすぎると、活物質粉体の炭酸ガス吸収性が増大するため、大気中の炭酸ガスを吸収しやすくなる。その結果、含有炭素濃度が大きくなると推定される。
【0045】
ここで、x値が0≦x≦0.1と、Co量が少ない範囲にあると、コストが低減されることに加え、高い充電電位で充電するように設計されたリチウム二次電池として使用した場合において、充放電容量やサイクル特性、安全性が向上する。
【0046】
なお、上記(II)式の組成範囲において、z値が定比である下限に近い程、電池とした時のレート特性や出力特性が低くなる傾向が見られ、逆にz値が上限に近い程、電池とした時のレート特性や出力特性が高くなるが、一方で容量が低下するという傾向が見られる。また、y値が下限、つまりマンガン/ニッケル原子比が小さい程、低い充電電圧で容量が出るが、高い充電電圧を設定した電池のサイクル特性や安全性が低下する傾向が見られ、逆にy値が上限に近い程、高い充電電圧で設定した電池のサイクル特性や安全性が向上する一方で、放電容量やレート特性、出力特性が低下する傾向が見られる。また、x値が下限に近い程、電池とした時のレート特性や出力特性といった負荷特性が低くなるという傾向が見られ、逆に、x値が上限に近い程、電池とした時のレート特性や出力特性が高くなるが、この上限を超えると、高い充電電圧で設定した場合のサイクル特性や安全性が低下し、また原料コストが高くなる。前記組成パラメータx、y、zを規定範囲とすることは、本発明の重要な構成要素である。
【0047】
ここで本発明の構成要素であるリチウムリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物におけるLi組成(zおよびx)の化学的な意味について、以下により詳細に説明する。
【0048】
本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物は、層状構造に帰属する結晶構造を有するものである。
ここで、層状構造に関してさらに詳しく述べる。層状構造を有するものの代表的な結晶系としては、LiCoO、LiNiOのようなα−NaFeO型に属するものがあり、これらは六方晶系であり、その対称性から空間群
【数1】

(以下「層状R(−3)m構造」と表記することがある。)に帰属される。
【0049】
ただし、層状LiMeOとは、層状R(−3)m構造に限るものではない。これ以外にもいわゆる層状Mnと呼ばれるLiMnOは斜方晶系で空間群Pm2mの層状化合物であり、また、いわゆる213相と呼ばれるLiMnOは、Li[Li1/3Mn2/3]Oとも表記でき、単斜晶系の空間群C2/m構造であるが、やはりLi層と[Li1/3Mn2/3]層および酸素層が積層した層状化合物である。
このように層状構造は必ずしもR(−3)m構造に限られるものではないが、R(−3)m構造に帰属しうるものであることが電気化学的な性能面から好ましい。
【0050】
上記リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の組成式のx、y、z、を求めるには、各遷移金属とLiを誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)で分析して、Li/Ni/Mn/Coの比を求める事で計算される。
【0051】
構造的視点では、zに係るLiは、同じ遷移金属サイトに置換されて入っていると考えられる。ここで、zに係るLiによって、電荷中性の原理によりNiの平均価数が2価より大きくなる(3価のNiが生成する)。zはNi平均価数を上昇させるため、Ni価数(Ni(III)の割合)の指標となる。
【0052】
なお、上記組成式から、zの変化に伴うNi価数(m)を計算すると、Co価数は3価、Mn価数は4価であるとの前提で、
【数2】

となる。この計算結果は、Ni価数はzのみで決まるのではなく、x及びyの関数となっていることを意味している。z=0かつy=0であれば、xの値に関係なくNi価数は2価のままである。zが負の値になる場合は、活物質中に含まれるLi量が化学量論量より不足していることを意味し、あまり大きな負の値を有するものは本発明の効果が出ない可能性がある。一方、同じz値であっても、Niリッチ(y値が大きい)及び/又はCoリッチ(x値が大きい)な組成ほどNi価数は高くなるということを意味し、電池に用いた場合、レート特性や出力特性が高くなるが、反面、容量低下しやすくなる結果となる。このことから、z値の上限と下限はx及びyの関数として規定するのがより好ましいと言える。
【0053】
また、本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物は、Mo、W、Nb、Ta、及びReよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(以下、これらの元素を「添加元素」と称す場合がある。)を含有してなることが好ましい。これらの添加元素は、本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を製造するに当たり、これらの添加元素を含む化合物を添加剤として、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を構成するための原料化合物の焼成前駆体に対して添加した後、焼成することにより、本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物に含まれていることが好ましい。その理由として、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の高温焼成時において、これらの添加剤が焼結を抑制する作用を示すためであり、それにより、高結晶かつ高比表面積で、高細孔容量を有する粉体が得られるためである。
【0054】
前記添加剤の化合物種としては、このような焼結抑制効果を発現するものであればその種類に格別の制限はないが、通常は酸化物材料が用いられる。
【0055】
添加剤としての例示化合物としては、MoO、MoO、MoO、MoOx、Mo2O、Mo、LiMoO、WO、WO、WO、WO、W、W、W1849、W2058、W2470,W2573、W40118、LiWO、NbO、NbO、NbO、Nb、NbO、NbO、LiNbO、TaO、TaO、Ta、LiTaO、ReO、ReO、Reなどが挙げられ、好ましくはMoO、LiMoO、WO、LiWO、LiNbO、Ta、LiTaO、ReOが挙げられ、より好ましくはWO、LiWO、ReOが挙げられ、最も好ましくはWOが挙げられる。
これらの添加剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0056】
これらの添加剤の添加量の範囲としては、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の主成分原料を構成する遷移金属元素の合計モル量に対して、添加元素の割合が通常0.01モル%以上、好ましくは0.03モル%以上、より好ましくは0.04モル%以上、特に好ましくは0.05モル%以上、通常2モル%未満、好ましくは1.8モル%以下、さらに好ましくは1.5モル%以下、特に好ましくは1.3モル%以下となるような量である。添加剤の添加量がこの下限を下回ると、前記効果が得られなくなる可能性があり、上限を超えると電池性能の低下を招く可能性がある。
【0057】
また、本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物は、異元素が導入されてもよい。異元素としては、B,Na,Mg,Al,Si,K,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sn,Sb,Te,Ba,Os,Ir,Pt,Au,Pb,Bi,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,N,F,P,S,Cl,Br,及びIの中から選択される何れか1種以上が挙げられる。これらの異元素は、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の結晶構造内に取り込まれていてもよく、或いは、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の結晶構造内に取り込まれず、その粒子表面や結晶粒界などに単体もしくは化合物として偏在していてもよい。
【0058】
<メジアン径及び90%積算径(D90)>
本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料のメジアン径は通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは1.3μm以上、更に好ましくは1.6μm以上、最も好ましくは2μm以上で、通常10μm以下、好ましくは9μm以下、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは7μm以下、最も好ましくは6μm以下である。メジアン径がこの下限を下回ると、正極活物質層形成時の塗布性に問題を生ずる可能性があり、上限を超えると電池性能の低下をきたす可能性がある。
【0059】
また、本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料の二次粒子の90%積算径(D90)は通常20μm以下、好ましくは18μm以下、より好ましくは13μm以下、最も好ましくは10μm以下で、通常1μm以上、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、最も好ましくは4μm以上である。90%積算径(D90)が上記上限を超えると電池性能の低下を来たす可能性があり、下限を下回ると正極活物質層形成時の塗布性に問題を生ずる可能性がある。
【0060】
なお、本発明において、平均粒子径としてのメジアン径及び90%積算径(D90)は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって、屈折率1.24を設定し、粒子径基準を体積基準として測定されたものである。本発明では、測定の際に用いる分散媒として、0.1重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散(出力30W、周波数22.5kHz)後に測定を行った。
【0061】
<嵩密度>
本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料の嵩密度は通常0.5g/cm以上、好ましくは0.7g/cm以上、より好ましくは0.9g/cm以上、最も好ましくは1.0g/cm以上で、通常2.5g/cm以下、好ましくは2.0g/cm以下、より好ましくは1.8g/cm以下、最も好ましくは1.5g/cm以下である。嵩密度がこの上限を上回ることは、粉体充填性や電極密度向上にとって好ましい一方、比表面積が低くなり過ぎる可能性があり、電池性能が低下する可能性がある。嵩密度がこの下限を下回ると粉体充填性や電極調製に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0062】
なお、本発明では、嵩密度は、正極活物質5〜10gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク約20mmで200回タップした時の粉体充填密度(タップ密度)g/cmとして求める。
【0063】
〈体積抵抗率〉
本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料を40MPaの圧力で圧密した時の体積抵抗率の値は、下限としては、1×10Ω・cm以上が好ましく、5×10Ω・cm以上がより好ましく、1×10Ω・cm以上がさらに好ましい。上限としては、1×10Ω・cm以下が好ましく、5×10Ω・cm以下がより好ましく、1×10Ω・cm以下がさらに好ましい。この体積抵抗率がこの上限を超えると電池とした時の負荷特性が低下する可能性がある。一方、体積抵抗率がこの下限を下回ると、電池とした時の安全性などが低下する可能性がある。
【0064】
なお、本発明において、リチウム二次電池用正極活物質材料の体積抵抗率は、四探針・リング電極、電極間隔5.0mm、電極半径1.0mm、試料半径12.5mmで、印加電圧リミッタを90Vとして、リチウム遷移金属系化合物粉体を40MPaの圧力で圧密した状態で測定した体積抵抗率である。体積抵抗率の測定は、例えば、粉体抵抗測定装置(例えば、ダイアインスツルメンツ社製、ロレスターGP粉体抵抗測定システム)を用い、粉体用プローブユニットにより、所定の加圧下の粉体に対して行うことができる。
【0065】
<平均一次粒子径>
本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料の一次粒子の平均径(平均一次粒子径)としては、特に限定されないが、下限としては、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.15μm以上、更に好ましくは0.2μm以上、最も好ましくは0.25μm以上、また、上限としては、好ましくは3μm以下、より好ましくは2.5μm以下、さらに好ましくは2μm以下、最も好ましくは1.5μm以下である。平均一次粒子径が、上記上限を超えると、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が低下したりするために、レート特性や出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなる可能性があり、上記下限を下回ると結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等の問題を生ずる可能性がある。
【0066】
なお、本発明における平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した平均径であり、30,000倍のSEM画像を用いて、10〜30個程度の一次粒子の粒子径の平均値として求めることができる。
【0067】
〈本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料が上述の効果をもたらす理由〉
本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料が、電池のレート特性の向上及び出力特性の向上をもたらす理由としては、次のように考えられる。
炭酸ガス含有雰囲気下で熱処理されたLi過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の粉体の表面には、吸着した炭酸ガスや、炭酸ガスと反応したことにより形成された炭酸塩の被膜層が形成されている。このような正極活物質を用いて電池を製造した場合、前記被膜層と、電解液中に含まれる支持塩である例えばLiPFと反応してLiPO(ヘキサフルオロリン酸リチウム)を生成するため、これが正極表面や負極表面に作用して、レート特性や出力特性が改善されたと考えられる。
【0068】
[リチウム二次電池用正極活物質材料の製造方法]
本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料は、Li過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を炭酸ガス含有雰囲気下で熱処理する方法、具体的には、炭酸ガスを含有する雰囲気ガス中に、原料となるLi過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物(以下、適宜「原料化合物」という。)を、加熱環境下で一定時間保持することにより製造することができる。
【0069】
原料化合物としては、炭酸ガス含有雰囲気下で熱処理されていないLi過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の粉末を用いることができる。構成元素の組成や粉体性状等の物性は、基本的に処理前後で大きく変化しないので、目的とする正極活物質の物性に合わせて、原料とするLi過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の物性を適宜選択すればよい。
【0070】
炭酸ガスによる処理を行う際には、原料化合物に対する水分子の吸着を防ぐために、乾燥雰囲気で行うことが好ましい。乾燥雰囲気の環境としては、露点が通常0℃以下、好ましくは−30℃以下、より好ましくは−40℃以下である環境下で処理を行う。
【0071】
また、処理温度や雰囲気中の炭酸ガス濃度、処理時間といったパラメータを各々所定の範囲内に設定して処理を行うことが好ましい。これらパラメータは独立して設定することが可能であり、原料化合物の種類に応じて、適切な条件を任意に決定すればよい。
【0072】
処理温度は、通常200℃以上、好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上、特に好ましくは350℃以上、また、通常800℃以下、好ましくは600℃以下、より好ましくは500℃以下、特に好ましくは450℃以下である。処理温度が上記範囲より低いと、処理に時間がかかり過ぎたりして好ましくない。一方、処理温度が上記範囲を超えると、炭酸化の進行が著しくなり、本発明で規定するc/S値の範囲内に制御することが困難になるので、やはり好ましくない。
【0073】
雰囲気ガスの炭酸ガス濃度としては、通常1体積%以上、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上であり、また、通常100体積%以下、好ましくは80体積%以下、より好ましくは60体積%以下、最も好ましくは30体積%以下である。なお、雰囲気ガスとして炭酸ガスとその他の混合ガスを用いる場合、炭酸ガスと混合するその他のガスの種類は、原料化合物に好ましくない影響を与えるものでなければ制限はないが、Li過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物相を安定に存在させ易くする点で、酸素ガスや空気ガスが好ましい。また、炭酸ガスと混合するその他のガスは、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0074】
処理時間は、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、また、通常48時間以下、好ましくは36時間以下、より好ましくは24時間以下の範囲である。一般に、処理時間は、処理温度及び/又は炭酸ガス濃度が高いほど短くすることができ、逆に処理温度及び/又は炭酸ガス濃度が低いほど長くする必要がある。
【0075】
処理後、得られた本発明のLi過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物に含有される炭酸ないし重炭酸イオン濃度が、前述のc/S値の規定範囲内に存在することは、上述したイオンクロマトグラフィーによる手法で確認することができる。
【0076】
[リチウム二次電池用正極]
本発明のリチウム二次電池用正極は、本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料及び結着剤を含有する正極活物質層を集電体上に形成してなるものである。
【0077】
正極活物質層は、通常、正極材料と結着剤と更に必要に応じて用いられる導電材及び増粘剤等を、乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、或いはこれらの材料を液体媒体中に溶解又は分散させてスラリー状にして、正極集電体に塗布、乾燥することにより作成される。
【0078】
正極集電体の材質としては、通常、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。中でも金属材料が好ましく、アルミニウムが特に好ましい。また、形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。中でも、金属薄膜が、現在工業化製品に使用されているため好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成しても良い。
【0079】
正極集電体として薄膜を使用する場合、その厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また通常100mm以下、好ましくは1mm以下、より好ましくは50μm以下の範囲が好適である。上記範囲よりも薄いと、集電体として必要な強度が不足する可能性がある一方で、上記範囲よりも厚いと、取り扱い性が損なわれる可能性がある。
【0080】
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、特に限定されず、塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して安定な材料であれば良いが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレンスチレンブロック共重合体及びその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子、アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0081】
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは5重量%以上であり、通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下、更に好ましくは40重量%以下、最も好ましくは10重量%以下である。結着剤の割合が低すぎると、正極活物質を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう可能性がある一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる可能性がある。
【0082】
正極活物質層には、通常、導電性を高めるために導電材を含有させる。その種類に特に制限はないが、具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料や、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料などを挙げることができる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。正極活物質層中の導電材の割合は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは1重量%以上であり、また、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。導電材の割合が低すぎると導電性が不十分になることがあり、逆に高すぎると電池容量が低下することがある。
【0083】
スラリーを形成するための液体媒体としては、正極材料であるリチウム遷移金属系化合物粉体、結着剤、並びに必要に応じて使用される導電材及び増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いても良い。水系溶媒の例としては水、アルコールなどが挙げられ、有機系溶媒の例としてはN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジメチルエーテル、ジメチルアセタミド、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等を挙げることができる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤に併せて分散剤を加え、SBR等のラテックスを用いてスラリー化する。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0084】
正極活物質層中の正極材料としての本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料の含有割合は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上であり、通常99.9重量%以下、好ましくは99重量%以下である。正極活物質層中の本発明のリチウム二次電池用正極活物質材料の割合が多すぎると正極の強度が不足する傾向にあり、少なすぎると容量の面で不十分となることがある。
【0085】
また、正極活物質層の厚さは、通常10〜200μm程度である。
【0086】
なお、塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。
かくして、本発明のリチウム二次電池用正極が調製される。
【0087】
[リチウム二次電池]
本発明のリチウム二次電池は、リチウムを吸蔵・放出可能な上記の本発明のリチウム二次電池用正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な負極と、リチウム塩を電解塩とする非水電
解質とを備える。更に、正極と負極との間に、非水電解質を保持するセパレータを備えていても良い。正極と負極との接触による短絡を効果的に防止するには、このようにセパレータを介在させるのが望ましい。
【0088】
〈負極〉
負極は通常、正極と同様に、負極集電体上に負極活物質層を形成して構成される。
負極集電体の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。中でも金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。中でも、金属薄膜が、現在工業化製品に使用されていることから好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成しても良い。負極集電体として金属薄膜を使用する場合、その好適な厚さの範囲は、正極集電体について上述した範囲と同様である。
【0089】
負極活物質層は、負極活物質を含んで構成される。負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば、その種類に他に制限はないが、通常は安全性の高さの面から、リチウムを吸蔵、放出できる炭素材料が用いられる。
【0090】
炭素材料としては、その種類に特に制限はないが、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛(グラファイト)や、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物が挙げられる。有機物の熱分解物としては、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチの炭化物、石油系ピッチの炭化物、或いはこれらピッチを酸化処理したものの炭化物、ニードルコークス、ピッチコークス、フェノール樹脂、結晶セルロース等の炭化物等及びこれらを一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。中でも黒鉛が好ましく、特に好適には、種々の原料から得た易黒鉛性ピッチに高温熱処理を施すことによって製造された、人造黒鉛、精製天然黒鉛、又はこれらの黒鉛にピッチを含む黒鉛材料等であって、種々の表面処理を施したものが主として使用される。これらの炭素材料は、それぞれ1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0091】
負極活物質として黒鉛材料を用いる場合、学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離:d002)が、通常0.335nm以上、また、通常0.34nm以下、好ましくは0.337nm以下であるものが好ましい。
【0092】
また、黒鉛材料の灰分が、黒鉛材料の重量に対して通常1重量%以下、中でも0.5重量%以下、特に0.1重量%以下であることが好ましい。
【0093】
更に、学振法によるX線回折で求めた黒鉛材料の結晶子サイズ(Lc)が、通常30nm以上、中でも50nm以上、特に100nm以上であることが好ましい。
【0094】
また、レーザー回折・散乱法により求めた黒鉛材料のメジアン径が、通常1μm以上、中でも3μm以上、更には5μm以上、特に7μm以上、また、通常100μm以下、中でも50μm以下、更には40μm以下、特に30μm以下であることが好ましい。
【0095】
また、黒鉛材料のBET法比表面積は、通常0.5m/g以上、好ましくは0.7m/g以上、より好ましくは1.0m/g以上、更に好ましくは1.5m/g以上、また、通常25.0m/g以下、好ましくは20.0m/g以下、より好ましくは15.0m/g以下、更に好ましくは10.0m/g以下である。
【0096】
更に、黒鉛材料についてアルゴンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析を行った場合に、1580〜1620cm−1の範囲で検出されるピークPの強度Iと、135
0〜1370cm−1の範囲で検出されるピークPの強度Iとの強度比I/Iが、0以上0.5以下であるものが好ましい。また、ピークPの半価幅は26cm−1以下が好ましく、25cm−1以下がより好ましい。
【0097】
なお、上述の各種の炭素材料の他に、リチウムの吸蔵及び放出が可能なその他の材料の負極活物質として用いることもできる。炭素材料以外の負極活物質の具体例としては、酸
化錫や酸化ケイ素などの金属酸化物、Li2.6Co0.4Nなどの窒化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金などが挙げられる。これらの炭素材料以外の材料は、それぞれ1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、上述の炭素材料と組み合わせて用いても良い。
【0098】
負極活物質層は、通常は正極活物質層の場合と同様に、上述の負極活物質と、結着剤と、必要に応じて導電材及び増粘剤とを液体媒体でスラリー化したものを負極集電体に塗布
し、乾燥することにより製造することができる。スラリーを形成する液体媒体や結着剤、増粘剤、導電材等としては、正極活物質層について上述したものと同様のものを使用することができる。
【0099】
〈非水電解質〉
非水電解質としては、例えば公知の有機電解液、高分子固体電解質、ゲル状電解質、無機固体電解質等を用いることができるが、中でも有機電解液が好ましい。有機電解液は、有機溶媒に溶質(電解質)を溶解させて構成される。
【0100】
ここで、有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えばカーボネート類、エーテル類、ケトン類、スルホラン系化合物、ラクトン類、ニトリル類、塩素化炭化水素類、エーテル類、アミン類、エステル類、アミド類、リン酸エステル化合物等を使用することができる。代表的なものを列挙すると、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、4−メチル−2−ペンタノン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、1,2−ジクロロエタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられ、これら化合物は、水素原子が一部ハロゲン原子で置換されていてもよい。また、これらの単独若しくは2種類以上の混合溶媒が使用できる。
【0101】
上述の有機溶媒には、電解塩を解離させるために、高誘電率溶媒を含めることが好ましい。ここで、高誘電率溶媒とは、25℃における比誘電率が20以上の化合物を意味する。高誘電率溶媒の中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及び、それらの水素原子をハロゲン等の他の元素又はアルキル基等で置換した化合物が、電解液中に含まれることが好ましい。高誘電率溶媒の電解液に占める割合は、好ましくは20重量%以上、更に好ましくは25重量%以上、最も好ましくは30重量%以上である。高誘電率溶媒の含有量が上記範囲よりも少ないと、所望の電池特性が得られない場合がある。
【0102】
また、有機電解液中には、CO、NO、CO、SO等のガスやビニレンカーボネート、ポリサルファイドS2−など、負極表面にリチウムイオンの効率良い充放電を可能にする良好な被膜を形成する添加剤を任意の割合で添加しても良い。このような添加剤としてはなかでもとりわけビニレンカーボネートが好ましい。
【0103】
さらに、有機電解液中には、ジフルオロリン酸リチウムなど、サイクル寿命や出力特性の向上に効果を発揮する添加剤を任意の割合で添加しても良い。
【0104】
電解塩の種類も特に限定されず、従来公知の任意の溶質を使用することができる。具体
例としては、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiB(C、LiBOB、LiCl、LiBr、CHSOLi、CFSOLi、LiN(SOCF、LiN(SO、LiC(SOCF、LiN(SOCF等が挙げられる。これらの電解塩は任意の1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0105】
電解塩のリチウム塩は電解液中に、通常0.5mol/L以上1.5mol/L以下となるように含有させる。電解液中のリチウム塩濃度が0.5mol/L未満でも1.5mol/Lを超えても、電気伝導度が低下し、電池特性に悪影響を与えることがある。この濃度の下限としては0.75mol/L以上、上限として1.25mol/L以下が好ましい。
【0106】
高分子固体電解質を使用する場合にも、その種類は特に限定されず、固体電解質として公知の任意の結晶質・非晶質の無機物を用いることができる。結晶質の無機固体電解質としては、例えば、LiI、LiN、Li1+xTi2−x(PO(J=Al、Sc、Y、La)、Li0.5−3xRE0.5+xTiO(RE=La、Pr、Nd、Sm)等が挙げられる。また、非晶質の無機固体電解質としては、例えば、4.9LiI−34.1LiO−61B、33.3LiO−66.7SiO等の酸化物ガラス等が挙げられる。これらは任意の1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いても良い。
【0107】
〈セパレータ〉
電解質として前述の有機電解液を用いる場合には、電極同士の短絡を防止するために、正極と負極との間にセパレータが介装される。セパレータの材質や形状は特に制限されないが、使用する有機電解液に対して安定で、保液性に優れ、且つ、電極同士の短絡を確実に防止できるものが好ましい。好ましい例としては、各種の高分子材料からなる微多孔性のフィルム、シート、不織布等が挙げられる。高分子材料の具体例としては、ナイロン、セルロースアセテート、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等のポリオレフィン高分子が用いられる。特に、セパレータの重要な因子である化学的及び電気化学的な安定性の観点からは、ポリオレフィン系高分子が好ましく、電池におけるセパレータの使用目的の一つである自己閉塞温度の点からは、ポリエチレンが特に望ましい。
【0108】
ポリエチレンからなるセパレータを用いる場合、高温形状維持性の点から、超高分子ポリエチレンを用いることが好ましく、その分子量の下限は好ましくは50万、更に好ましくは100万、最も好ましくは150万である。他方、分子量の上限は、好ましくは500万、更に好ましくは400万、最も好ましくは300万である。分子量が大きすぎると流動性が低くなりすぎてしまい、加熱された時にセパレータの孔が閉塞しない場合があるからである。
【0109】
〈電池形状〉
本発明のリチウム二次電池は、上述した本発明のリチウム二次電池用正極と、負極と、電解質と、必要に応じて用いられるセパレータとを、適切な形状に組み立てることにより製造される。更に、必要に応じて外装ケース等の他の構成要素を用いることも可能である。
【0110】
本発明のリチウム二次電池の形状は特に制限されず、一般的に採用されている各種形状の中から、その用途に応じて適宜選択することができる。一般的に採用されている形状の例としては、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプなどが挙げられる。また、電池を組み立てる方法も特に制限されず、目的とする電池の形状に合わせて、通常用いられている各種方法の中から適宜選択することができる。
【0111】
以上、本発明のリチウム二次電池の一般的な実施形態について説明したが、本発明のリチウム二次電池は上記実施形態に制限されるものではなく、その要旨を超えない限りにおいて、各種の変形を加えて実施することが可能である。
【実施例】
【0112】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によってなんら制限されるものではない。
【0113】
[物性の測定方法]
後述の各実施例及び比較例において製造されたリチウム遷移金属系化合物粉体の物性等は、各々次のようにして測定した。
【0114】
<組成(Li/Ni/Mn/Co)>
ICP−AES分析により求めた。
【0115】
<添加元素(W)の定量>
ICP−AES分析により求めた。
【0116】
<二次粒子のメジアン径及び90%積算径(D90)>
公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、屈折率を1.24に設定し、粒子径基準を体積基準として測定した。分散媒としては0.1重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散(出力30W、周波数22.5kHz)後に測定を行った。
【0117】
<嵩密度>
試料粉体4〜10gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク約20mmで200回タップした時の粉体充填密度として求めた。
【0118】
<比表面積>
前述の如く、大倉理研製:AMS8000型全自動粉体比表面積測定装置を用い、吸着ガスに窒素、キャリアガスにヘリウムを使用し、連続流動法によるBET1点式法測定を行った。
【0119】
<体積抵抗率>
粉体抵抗率測定装置(ダイアインスツルメンツ社製:ロレスターGP粉体低効率測定システムPD−41)を用い、試料重量2〜3gとし、粉体用プローブユニット(四探針・リング電極、電極間隔5.0mm、電極半径1.0mm、試料半径12.5mm)により、印加電圧リミッタを90Vとして、種々加圧下の粉体の体積抵抗率[Ω・cm]を測定し、40MPaの圧力下における体積抵抗率の値について比較した。
【0120】
<スラリー中の粉砕粒子のメジアン径>
公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用い、屈折率を1.24に設定し、粒子径基準を体積基準として測定した。分散媒としては0.1重量%ヘキサメタリン
酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散(出力30W、周波数22.5kHz)後に測定を行った。
【0121】
[リチウム二次電池用正極活物質材料の製造(実施例及び比較例)]
(実施例1)
LiCO、Ni(OH)、Mn、CoOOH、WOを、Li:Ni:Mn:Co:W=1.12:0.45:0.45:0.10:0.01のモル比となるように秤量して混合した後、これに純水を加えてスラリーを調製した。このスラリーを攪拌しながら、循環式媒体攪拌型湿式粉砕機を用いて、スラリー中の固形分をメジアン径0.23μmに粉砕した。
【0122】
次に、このスラリー(固形分含有量16.5重量%、粘度1650cp)を、四流体ノズル型スプレードライヤー(藤崎電機(株)製:MDP−50型)を用いて噴霧乾燥した。この時の乾燥ガスとして空気を用い、乾燥ガス導入量Gは1600L/min、スラリー導入量Sは780mL/minとした(気液比G/S=2051)。また、乾燥入り口温度は200℃とした。スプレードライヤーにより噴霧乾燥して得られた粒子状粉末、約370gをアルミナ製角鉢に仕込み、空気雰囲気下、1000℃で2時間焼成(昇温速度:約1.7℃/min.、降温速度:約3.3℃/min.)した後、目通し45μmのパウシフター(ツカサ工業(株)製)を用いて分級し、Li過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体を得た。
【0123】
このLi過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体は、組成がLi(Li0.053Ni0.425Mn0.427Co0.095)Oの層状構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(前記組成式(I),(II)において、x=0.100、y=−0.002、z=0.111)であり、また、(Ni,Mn,Co)の合計モル量に対するWの含有モル比率は1.0モル%であった。
【0124】
次に、このLi過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体を400℃の条件下で、5体積%−CO/95体積%−O混合ガスの雰囲気(露点=−58℃)気流中に2時間保持することにより熱処理を施して正極活物質を得た。
得られた正極活物質30mgに、調製直後の脱塩水5mlを加え、30分超音波分散抽出した。この抽出水相を、イオンクロマトグラフ装置で分析し、炭酸イオン濃度cを求めた。イオンクロマトグラフ装置としてはDionex社製DX−120を用い、カラムとしてはDionex社製 IonPac ICE−AS1を使用し、溶離剤としては水を用いた。測定の結果、炭酸イオン濃度cは0.252重量%であった。また、BET比表面積は2.9m/gであった。これらより、c/S値は0.087と算出され、本発明の規定範囲内であった。
この正極活物質のその他の物性としては、体積抵抗率は7.0×10Ω・cm、メジアン径は2.7μm、90%積算径(D90)は5.1μm、嵩密度は0.9g/cmであった。
【0125】
(実施例2)
熱処理時間を6時間とした以外は実施例1と同様にして正極活物質の作製及び分析を行った。
この正極活物質の炭酸イオン濃度cは0.307重量%であった。また、BET比表面積は3.0m/gであった。これらより、c/S値は0.102と算出され、本発明の規定範囲内であった。
この正極活物質のその他の物性としては、体積抵抗率は7.7×10Ω・cm、メジアン径は2.1μm、90%積算径(D90)は3.9μm、嵩密度は1.0g/cmであった。
【0126】
(実施例3)
熱処理時間を12時間とした以外は実施例1と同様にして正極活物質の作製及び分析を行った。
この正極活物質の炭酸イオン濃度cは0.204重量%であった。また、BET比表面積は3.0m/gであった。これらより、c/S値は0.068と算出され、本発明の規定範囲内であった。
この正極活物質のその他の物性としては、体積抵抗率は6.4×10Ω・cm、メジアン径は2.7μm、90%積算径(D90)は4.9μm、嵩密度は0.9g/cmであった。
【0127】
(実施例4)
熱処理時間を24時間とした以外は実施例1と同様にして正極活物質の作製及び分析を行った。この正極活物質の炭酸イオン濃度cは0.186重量%であった。また、BET比表面積は2.9m/gであった。これらより、c/S値は0.064と算出され、本発明の規定範囲内であった。
この正極活物質のその他の物性としては、体積抵抗率は6.3×10Ω・cm、メジアン径は2.2μm、90%積算径(D90)は4.2μm、嵩密度は0.9g/cmであった。
【0128】
(比較例1)
実施例1と同様にして製造したLi過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を、炭酸ガス含有雰囲気中での熱処理を施さずに正極活物質とした。この正極活物質の炭酸イオン濃度cは0.146重量%であった。また、BET比表面積は2.8m/gであった。これらより、c/S値は0.052と算出され、本発明の規定範囲外であった。
この正極活物質のその他の物性としては、体積抵抗率は6.3×10Ω・cm、メジアン径は2.7μm、90%積算径(D90)は4.9μm、嵩密度は1.0g/cmであった。
【0129】
上記実施例1〜4及び比較例1で製造した正極活物質の物性値を、表1にまとめる。
【0130】
【表1】

【0131】
ところで上記実施例1〜4においては、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の熱処理時間が6時間の場合を最大として、それ以上長く熱処理するとc値が減少する傾向が観測されたが、この解釈として、例えば活物質表面では次式で示されるような反応が進行し、過渡的な状態としてLiOH・COのような状態となり、一時的なc値の極大値が現れたものと推察される。
【化1】

【0132】
[電池の作製及び評価]
上述の実施例1〜4及び比較例1で製造した正極活物質をそれぞれ用いて、以下の方法によりリチウム二次電池を作製して評価を行い、結果を表2に示した。
【0133】
(1)レート試験:
実施例1〜4及び比較例1で製造した正極活物質の各々75重量%と、アセチレンブラック20重量%、及びポリテトラフルオロエチレンパウダー5重量%の割合で秤量したものを乳鉢で十分混合し、薄くシート状にしたものを9mmφのポンチを用いて打ち抜いた。この際、全体重量は約8mgになるように調整した。これをアルミニウムエキスパンドメタルに圧着して、9mmφの正極とした。
【0134】
この9mmφの正極を試験極とし、リチウム金属板を対極とし、EC(エチレンカーボネート):DMC(ジメチルカーボネート):EMC(エチルメチルカーボネート)=3:3:4(容量比)の溶媒にLiPFを1mol/Lで溶解した電解液を用い、厚さ25μmの多孔性ポリエチレンフィルムをセパレータとしてコイン型セルを組み立てた。
【0135】
得られたコイン型セルについて、1サイクル目を、上限電圧4.2Vで0.2mA/cmの定電流定電圧充電、下限電圧3.0Vで0.2mA/cmの定電流放電試験を行い、2サイクル目を、上限電圧4.2Vで0.5mA/cmの定電流定電圧充電、下限電圧3.0Vで0.2mA/cmの定電流放電試験を行い、引き続いて、3サイクル目を、0.5mA/cmの定電流充電、11mA/cmの定電流放電試験を行った。
【0136】
なお、実施例の合格判定基準として、前記1サイクル目の初期放電容量が146mAh/g以上、3サイクル目の11mA/cmでのハイレート放電容量が110mAh/g以上を設定した。
【0137】
(2)低温負荷特性試験:
実施例1〜4及び比較例1で製造した正極活物質の各々75重量%と、アセチレンブラック20重量%、及びポリテトラフルオロエチレンパウダー5重量%の割合で秤量したものを乳鉢で十分混合し、薄くシート状にしたものを12mmφのポンチを用いて打ち抜いた。この際、全体重量は約18mgになるように調整した。これをアルミニウムエキスパンドメタルに圧着して、12mmφの正極とした。
【0138】
(1)のレート試験における1サイクル目の充放電の結果を用い、正極活物質単位重量当たりの初期充電容量をQs(C)[mAh/g]、初期放電容量をQs(D)[mAh/g]とした。
【0139】
負極活物質として平均粒子径8〜10μmの黒鉛粉末(d002=3.35Å)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンをそれぞれ用い、これらを重量比で92.5:7.5の割合で秤量し、これをN−メチルピロリドン溶液中で混合し、負極合剤スラリーとした。このスラリーを20μmの厚さの銅箔の片面に塗布し、乾燥して溶媒を蒸発させた後、12mmφに打ち抜き、0.5ton/cm(49MPa)でプレス処理をしたものを負極とした。この時、電極上の負極活物質の量は約5〜12mgになるように調節した。
【0140】
なお、この負極を試験極とし、リチウム金属を対極として電池セルを組み、0.2mA/cm−3mVの定電流−定電圧法(カット電流0.05mA)で負極にリチウムイオンを吸蔵させる試験を下限0Vで行った際の、負極活物質単位重量当たりの初期吸蔵容量をQf[mAh/g]とした。
【0141】
上記正極と負極を組み合わせ、コインセルを使用して試験用電池を組み立て、その電池性能を評価した。即ち、コインセルの正極缶の上に、作製した上述の正極を置き、その上にセパレータとして厚さ25μmの多孔性ポリエチレンフィルムを置き、ポリプロピレン製ガスケットで押さえた後、非水電解液として、EC(エチレンカーボネート):DMC(ジメチルカーボネート):EMC(エチルメチルカーボネート)=3:3:4(容量比)の溶媒にLiPFを1mol/Lで溶解した電解液を用い、これを缶内に加えてセパレータに十分染み込ませた後、上述の負極Bを置き、負極缶を載せて封口し、コイン型のリチウム二次電池を作製した。なお、この時、正極活物質の重量と負極活物質重量のバランスは、ほぼ以下の式を満たすように設定した。
正極活物質重量[g]/負極活物質重量[g]
=(Qf[mAh/g]/1.2)Qs(C)[mAh/g]
【0142】
こうして得られた電池の低温負荷特性を測定するため、電池の1時間率電流値、即ち1Cを下式の様に設定し、以下の試験を行った。
1C[mA] = Qs(D)×正極活物質重量[g]/時間[h]
【0143】
まず、室温で定電流0.2C充放電2サイクル及び定電流1C充放電1サイクルを行った。なお、充電上限は4.1V、下限電圧は3.0Vとした。次に、1/3C定電流充放電により、充電深度40%に調整したコインセルを−30℃の低温雰囲気に1時間以上保持した後、定電流0.5C[mA]で10秒間放電させた時の10秒後の電圧をV[mV]、放電前の電圧をV[mV]とした時、ΔV=V−Vとして下式より抵抗値R[Ω]を算出した。
R[Ω] = ΔV[mV]/0.5C[mA]
【0144】
低温抵抗値は小さい程、低温負荷特性が良好であることを表す。なお、実施例の合格判定基準として、低温抵抗値が350Ω以下であることを設定した。
【0145】
【表2】

【0146】
表2より、本発明のリチウム二次電池正極活物質材料によれば、高容量かつ、負荷特性に優れたリチウム二次電池を実現することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明のリチウム二次電池の用途は特に限定されず、公知の各種の用途に用いることが可能である。具体例としては、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラ、自動車用動力源等を挙げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガス含有雰囲気下で熱処理したLi過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物よりなり、イオンクロマトグラフィーにより測定した炭酸イオン濃度をc[重量%]、BET法により測定した比表面積をS[m/g]とした時、c/S値が0.055以上、0.30以下であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質材料。
【請求項2】
BET比表面積が1.5m/g以上、5m/g以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質材料。
【請求項3】
イオンクロマトグラフィーにより測定した炭酸イオン濃度が0.15重量%以上、0.50重量%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質材料。
【請求項4】
組成が、下記式(I)で表されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質材料。
LiMO2 …(I)
〔ただし、上記式(I)中、
Mは、Li、Ni及びMn、或いは、Li、Ni、Mn及びCoから構成される元素であり
Mn/Niモル比は0.8以上、5以下
Co/(Mn+Ni+Co)モル比は0以上、0.35以下、
M中のLiモル比は0.001以上、0.2以下
である。〕
【請求項5】
前記式(I)中のMが、下記式(II)で表されることを特徴とする請求項4に記載のリチウム二次電池用正極活物質材料。
M=Liz/(2+z){(Ni(1+y)/2Mn(1-y)/21-xCox2/(2+z) …(II)
〔ただし、上記式(II)中、
0≦x≦0.1
−0.1≦y≦0.1
(1−x)(0.05−0.98y)≦z≦(1−x)(0.20−0.88y)
である。〕
【請求項6】
Mo、W、Nb、Ta、及びReよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質材料。
【請求項7】
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって、屈折率を1.24に設定し、粒子径基準を体積基準として、5分間の超音波分散(出力30W、周波数22.5kHz)後に測定されたメジアン径が0.5μm以上、10μm以下であることを特徴とする請求項1乃至6に記載のリチウム二次電池用正極活物質材料。
【請求項8】
嵩密度が0.5g/cm以上、2.5g/cm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質材料。
【請求項9】
40MPaの圧力で圧密した時の体積抵抗率が1×10Ω・cm以上、1×10Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質材料。
【請求項10】
炭酸ガス濃度が1体積%以上、100体積%以下の雰囲気ガス中、200℃以上、800℃以下の温度条件で、Li過剰層状リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物を0.5時間以上、48時間以下保持して熱処理することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質材料と結着剤とを少なくとも含有する正極活物質層を集電体上に有することを特徴とするリチウム二次電池用正極。
【請求項12】
リチウムを吸蔵・放出可能な負極、リチウム塩を含有する非水電解質、及びリチウムを吸蔵・放出可能な正極を備えたリチウム二次電池であって、正極として請求項11に記載のリチウム二次電池用正極を用いたことを特徴とするリチウム二次電池。

【公開番号】特開2009−4311(P2009−4311A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166486(P2007−166486)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】