説明

リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池

【課題】リチウム二次電池のサイクル特性と低温負荷特性の両方を良好にする。
【解決手段】本発明のリチウム二次電池用負極は、表面粗さRzjisが0.25μmを超える負極集電体と、該負極集電体に積層され密度が4.65g/cm3以上の非晶質ゲルマニウムを主成分とする第1層と、第1層に積層され密度が2.1g/cm3以上の非晶質シリコンを主成分とする第2層と、第2層に積層され密度が2.0g/cm3以上2.1g/cm3未満の非晶質シリコンを主成分とする第3層と、を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種のリチウム二次電池用負極が開発されている。例えば、特許文献1では、シリコンを主成分とする薄膜を負極活物質として備えたエネルギーデバイスの大容量化とサイクル特性向上の両立を目指し、集電体上に2以上のシリコン薄膜を積層した負極が開示されている。この負極を採用すると、シリコン薄膜の層数を増やすことにより1層あたりのシリコン薄膜の厚みが分厚くなるのを防止でき、各シリコン薄膜内でシリコン粒子が粗大化しにくくなり、その結果、エネルギーデバイスの大容量化とサイクル特性向上の両立が可能になる。
【0003】
また、特許文献2では、充放電容量を大きくすると共にサイクル寿命を長くすることを目指し、Siの非晶質相からなる負極が開示されている。こうした負極を採用すると、Siの結晶相からなる負極と比べて、非晶質のため空隙が多くなる。このため、リチウムイオンを吸蔵する容量が大きくなる。また、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化も小さくなるため、サイクル寿命が改善される。
【特許文献1】特開2005−183364号公報
【特許文献2】特開2002−93411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された負極では、2以上のシリコン薄膜を積層する構造を採用しているものの、それだけでは低温(例えば0℃)で比較的大きな電流(例えば1.3mA)で充電したときの充電容量つまり低温負荷特性を十分改善することができないという問題があった。
【0005】
また、特許文献2に記載された負極では、Siの非晶質相を含むことによりサイクル寿命は改善されるものの、Siの非晶質相を単独で用いるだけでは低温負荷特性を十分改善することができないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、リチウム二次電池のサイクル特性と低温負荷特性の両方を良好にすることができるリチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、表面粗さRzjisが7μmの粗面化銅を集電体とし、該集電体の表面に密度が4.78g/cm3の非晶質ゲルマニウムを主成分とする第1層を積層し、この第1層に密度が2.1g/cm3の非晶質シリコンを主成分とする第2層を積層し、更に第2層に密度が2.0g/cm3の非晶質シリコンを主成分とする第3層を積層した負極を作製し、この負極を用いてリチウム二次電池を組み立てたところ、サイクル特性と低温負荷特性の両方を良好にすることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のリチウム二次電池用負極は、表面粗さRzjisが0.25μmを超える負極集電体と、該負極集電体に積層され密度が4.65g/cm3以上の非晶質ゲルマニウムを主成分とする第1層と、前記第1層に積層され密度が2.1g/cm3以上の非晶質シリコンを主成分とする第2層と、前記第2層に積層され密度が2.0g/cm3以上2.1g/cm3未満の非晶質シリコンを主成分とする第3層と、を備えたものである。
【0009】
また、本発明のリチウム二次電池は、正極活物質を含む正極と、上述したリチウム二次電池用負極と、前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
このリチウム二次電池用負極では、この負極を用いて組み立てたリチウム二次電池において、充放電サイクルを繰り返し行ったあとでも容量を高く維持することができるためサイクル特性が良好であり、加えて、低温(例えば0℃)で比較的大きな電流(例えば1.3mA)で充電したときの充電容量も従来に比べて高いため低温負荷特性も良好といえる。したがって、サイクル特性と低温負荷特性の両方を良好にすることができる。このような効果が得られる理由は定かではないが、第3層つまり最表面に形成された非晶質シリコンの密度が2.0g/cm3以上2.1g/cm3未満と低いため、リチウム二次電池の電解液を保持する能力が向上し、低温負荷特性が向上したと考えられる。一方、このように密度の低い非晶質シリコンは、充放電サイクルを繰り返した場合に容量損失が大きいため良好なサイクル特性が得られないという問題がある。しかし、負極集電体上に非晶質ゲルマニウムを主成分とする第1層を形成したため、良好なサイクル特性が得られたと考えられる。すなわち、非晶質ゲルマニウムは、充放電サイクルに伴う体積変化が230%であり、非晶質シリコンの400%よりも小さい。また、ゲルマニウムの導電率は1.45×106/mΩであり、シリコンの導電率は2.5×10-4/mΩよりもかなり高い。このような非晶質ゲルマニウムを主成分とする第1層を形成したことにより、充放電サイクルに伴う体積変化を抑制すると共に導電率が高くなりサイクル特性が向上したと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のリチウム二次電池用負極(以下、単に負極という)は、表面粗さRzjisが0.25μmを超える負極集電体と、該負極集電体に積層され密度が4.65g/cm3以上の非晶質ゲルマニウムを主成分とする第1層と、前記第1層に積層され密度が2.1g/cm3以上の非晶質シリコンを主成分とする第2層と、前記第2層に積層され密度が2.0g/cm3以上2.1g/cm3未満の非晶質シリコンを主成分とする第3層と、を備えたものである。
【0012】
本発明の負極は、リチウムイオン二次電池やリチウム金属二次電池などのリチウム二次電池の負極として利用することができる。このうち、リチウムイオン二次電池の負極に利用するのが好ましい。
【0013】
本発明の負極において、負極集電体としては、表面粗さRzjisが0.25μmを超えるものを用いる。負極集電体は、導電性材料で形成されたものであれば特に限定されないが、例えば、アルミニウムや銅、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの金属で形成されている箔を用いることができる。また、表面粗さRzjisは、十点平均粗さともいい、JIS−B0601:2001附属書1(参考)に基づいて求めた表面粗さをいう。この集電体は、例えば電解法などにより集電体の金属を析出させ、その表面を粗化処理することにより、表面粗さRzjisをコントロールすることができる。負極集電体の表面粗さRzjisは0.4μm以上7μm以下であることが好ましく、1.8μm以上7μm以下であることがより好ましい。表面粗さRzjisが0.4μm以上だと非晶質ゲルマニウム層の厚さを確保しやすい。また、集電体の表面に表面粗さRzjisの凹凸を形成するには、それに見合う負極集電体の厚さが必要となるが、表面粗さRzが7μm以下では、負極集電体の厚さを30μm程度に抑えることができるため、エネルギー密度の低下を抑制することができる。一般的に、非晶質ゲルマニウムは充放電に伴う体積変化が230%程度であるといわれており、平均的には1辺あたり1.32倍程度変化すると考えられる。非晶質ゲルマニウムの空隙率(密度)を勘案すると、負極集電体に積層される第1層の厚みtと負極集電体の表面粗さRzjisとの関係はt≦Rzjis/1.6であることが好ましく、t≦Rzjis/2であることがより好ましい。こうすれば、充放電サイクルの繰り返しにおいても、非晶質ゲルマニウム層の体積変化を負極集電体の表面粗さRzjisの範囲内つまり表面の凹凸の間に収まるようにすることができ、負極集電体と非晶質ゲルマニウムとの剥離を抑制することができると考えられる。
【0014】
本発明の負極において、第1層は、負極集電体に積層され、密度が4.65g/cm3以上の非晶質ゲルマニウムを主成分とするものである。第1層の非晶質ゲルマニウムの密度が4.65g/cm3以上であると、リチウム二次電池のサイクル特性と低温負荷特性の両方を良好にすることができる。なお、ゲルマニウムの密度は5.32g/cm3 であるため、非晶質ゲルマニウムの密度はこれ未満であることは明らかである。
【0015】
本発明の負極において、第2層は、密度が2.1g/cm3以上の非晶質シリコンを主成分とするものであり、第3層(最表層)は、密度が2.0g/cm3以上2.1g/cm3未満の非晶質シリコンを主成分とするものである。第2層及び第3層の非晶質シリコンの密度がこれらの数値範囲を満足すれば、リチウム二次電池のサイクル特性と低温負荷特性の両方を良好にすることができる。すなわち、2.1g/cm3以上の高密度の非晶質シリコンは、2.1g/cm3未満の低密度の非晶質シリコンと比べると低温負荷特性は劣るがサイクル特性が優れていることから、最表層である第3層に低温負荷特性の優れた低密度の非晶質シリコンを含ませ、最表層より内側の第2層にはサイクル特性の優れた高密度の非晶質シリコンを含ませているのである。なお、シリコンの密度は2.33g/cm3 であるため、非晶質シリコンの密度はこれ未満であることは明らかである。第2層の厚みは、第1層及び第3層より厚いことが好ましく、0.8μm以上5μm以下であることが好ましい。第2層の厚みが0.8μm以上であると電池のエネルギー密度を十分大きくすることができ、5μm以下であると第2層の非晶質シリコン層内で粒子径が大きくなり過ぎずサイクル特性が低下しない。また、第3層の厚みは、第1層の厚み以下であることが好ましく、特に第1層の厚みと略同じであることが低温負荷特性が一層良好になるため好ましい。第1層及び第3層の厚みは、0.1μm以上1μm以下であることが好ましいが、第1層の主成分である非晶質ゲルマニウムは、非晶質シリコンに比べて高価なため必要最小限の厚さにすることがより好ましい。このため、第1層及び第3層の厚みは、0.1μm以上0.3μm以下にすることがより好ましい。
【0016】
本発明のリチウム二次電池は、正極活物質を含む正極と、上述した負極と、前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。
【0017】
本発明のリチウム二次電池の正極は、例えば正極活物質に導電材及びバインダを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、正極集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。正極集電体としては、導電性材料で形成されたものであれば特に限定されないが、例えば、アルミニウムや銅、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの金属で形成されている箔やメッシュを用いることができる。正極活物質としては、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物、又はポリアニオン系化合物を用いることができる。具体的には、例えばリチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム鉄複合リン酸化物などが挙げられる。導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類等の炭素物質粉末状体の1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。バインダは、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂等を用いることができる。正極活物質、導電材、バインダを分散させる溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0018】
本発明のリチウム二次電池において、イオン伝導媒体は、支持塩を有機溶媒に溶かした非水電解液やイオン性液体、ゲル電解質、固体電解質などを用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF6,LiClO4,LiAsF6,LiBF4,Li(CF3SO22N,Li(CF3SO3),LiN(C25SO2)などの公知の支持塩を用いることができる。支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであることが好ましく、0.8〜1.2Mであることがより好ましい。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)など従来の二次電池やキャパシタに使われる有機溶媒が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、イオン性液体としては、特に限定されるものではないが、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミドや1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどを用いることができる。ゲル電解質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子類またはアミノ酸誘導体やソルビトール誘導体などの糖類に、支持塩を含む電解液を含ませてなるゲル電解質が挙げられる。固体電解質としては、無機固体電解質や有機固体電解質などが挙げられる。無機固体電解質としては、例えば、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩などがよく知られている。なかでも、Li4SiO4、Li4SiO4−LiI−LiOH、xLi3PO4−(1−x)Li4SiO4、Li2SiS3、Li3PO4−Li2S−SiS2、硫化リン化合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリホスファゼン、ポリエチレンスルフィド、ポリヘキサフルオロプロピレンなどやこれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0019】
本発明のリチウム二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0020】
本発明のリチウム二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【実施例】
【0021】
[実験例1](実施例1)
負極を以下のようにして作製した。まず、負極集電体として、電解法により表面の銅を析出することにより表面粗さRzjisが7μmの粗面化銅からなる厚さ30μm、直径100mmの電解箔を用意した。この電解箔からなる負極集電体上に、スパッタリング装置(トッキ社製ロードロック式スパッタ成膜装置)を用いて、密度4.78g/cm3の非晶質ゲルマニウムからなる第1層を厚さ0.2μmとなるように堆積させた。このときの堆積条件を表1に示す(第1層堆積条件)。具体的には、スパッタリング装置のチャンバ内を5×10-5Paまで真空排気したあと、チャンバ内にアルゴンを導入し、チャンバ内のガス圧が0.5Paになるようにガス圧を安定させたあと、チャンバ内のガス圧が安定した状態で高周波電源によりゲルマニウムのスパッタ源に高周波電圧を所定時間印加し、非晶質ゲルマニウムを負極集電体上に堆積させた。このゲルマニウム密度の測定は、ガラス小片上(20mm×20mm)に上記条件でスパッタリング処理を行い、ゲルマニウムの厚さtを測定し、これとは別に、大きなアルミ箔上(100mmφ)に同様の条件でスパッタリング処理を行い、堆積したゲルマニウムの重量を測定し、この厚さと面積、重量を用いて算出した。なお、本明細書の密度はこの方法に準じて測定した。この第1層上に、密度2.1g/cm3の非晶質シリコン層からなる第2層を厚さ0.8μmとなるように堆積させた。このときの堆積条件を表1に示す(第2層堆積条件)。この第2層上に、更に密度2.0g/cm3の非晶質シリコン層からなる第3層を厚さ0.2μmとなるように堆積させた。このときの堆積条件を表1に示す(第3層堆積条件)。このようにして、負極集電体上に第1層、第2層及び第3層をこの順に積層することにより、実験例1の負極を得た。
【表1】

【0022】
次に、二極セルを以下のようにして作製した。まず、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で30:70の割合で混合した非水溶媒に6フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように添加して非水電解液を調製した。そして、さきほど作製した負極を面積が2.05cm2となるように打ち抜いて作用極とし、これと略同じ面積のリチウム箔(厚さ300μm)を対極とし、この作用極と対極との間にセパレータ(東燃タピルス)を介し、調製した非水電解液を満たして二極セルを作製した。
【0023】
次に、充放電試験を以下のようにして実施した。まず、作製した二極セルを用い、0.4mAで0.01Vまで作用極を還元(充電)したのち、0.4mAで1.5Vまで作用極を酸化(放電)して初期充電容量及び初期放電容量を求めた。続いて、0.26mAで5サイクル充放電を行ったのちに、0℃において1.3mA、26μAの負荷特性を評価した。その後、20℃において0.26mAで20サイクル充放電を繰り返した。その結果を表2に示す。
【0024】
[実験例2](実施例2)
第1層として、密度4.65g/cm3、厚み0.2μmの非晶質ゲルマニウム層を表1の第1層堆積条件のスパッタ時のガス圧を1Pa、スパッタ時間を12分に変更して形成した以外は、実験例1と同様にして負極及び二極セルを作製し、その二極セルを用いて実験例1と同様の条件で充放電試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0025】
[実験例3](実施例3)
表面粗さRzjisが4.5μmの銅箔を負極集電体として使用した以外は、実験例1と同様にして負極及び二極セルを作製し、その二極セルを用いて実験例1と同様の条件で充放電試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0026】
[実験例4](実施例4)
表面粗さRzjisが1.8μmの銅箔を負極集電体として使用した以外は、実験例1と同様にして負極及び二極セルを作製し、その二極セルを用いて実験例1と同様の条件で充放電試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0027】
[実験例5](実施例5)
第3層として、密度2.0g/cm3、厚み0.1μmの非晶質シリコン層を表1の第3層堆積条件のスパッタ時間を16分に変更して形成した以外は、実験例1と同様にして負極及び二極セルを作製し、その二極セルを用いて実験例1と同様の条件で充放電試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0028】
[実験例6](実施例6)
第2層として、密度2.1g/cm3、厚み3μmの非晶質シリコン層を表1の第2層堆積条件のスパッタ時間を7時間8分に変更して形成した以外は、実験例1と同様にして負極及び二極セルを作製した。その二極セルを用いて、充放電試験を以下のようにして実施した。まず、作製した二極セルを用い、0.4mAで2.2mAhまで作用極を還元(充電)したのち、0.4mAで1.5Vまで作用極を酸化(放電)させて初期充電容量及び初期放電容量を求めた。続いて、0.26mAで2.2mAhまで充電しその後1.5Vまで放電する操作を5サイクル行ったのちに、0℃において1.3mA、26μAの負荷特性を評価した。その後、20℃において、0.26mAで2.2mAhまで充電しその後1.5Vまで放電する操作で20サイクル充放電を繰り返した。その結果を表2に示す。
【0029】
[実験例7](実施例7)
第2層として、密度2.1g/cm3、厚み5μmの非晶質シリコン層を表1の第2層堆積条件のスパッタ時間を11時間54分に変更して形成した以外は、実験例1と同様にして負極及び二極セルを作製し、その二極セルを用いて実験例6と同様の条件で充放電試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0030】
[実験例8](比較例1)
第1層として、密度2.1g/cm3、厚み1μmの非晶質シリコン層を表1の第2層堆積条件のスパッタ時間を2時間23分に変更して形成し、第2層及び第3層の形成を省略した以外は、実験例1と同様にして負極及び二極セルを作製し、その二極セルを用いて実験例1と同様の条件で充放電試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0031】
[実験例9](比較例2)
第1層として、密度2.0g/cm3、厚み1μmの非晶質シリコン層を表1の第3層堆積条件のスパッタ時間を2時間43分に変更して形成し、第2層及び第3層の形成を省略した以外は、実験例1と同様にして負極及び二極セルを作製し、その二極セルを用いて実験例1と同様の条件で充放電試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0032】
[実験例10](比較例3)
第1層として、密度2.1g/cm3、厚み0.8μmの非晶質シリコン層を表1の第2層堆積条件のスパッタ時間を1時間54分に変更して形成し、第2層として、密度2.0g/cm3、厚み0.2μmの非晶質シリコン層を表1の第3層堆積条件のスパッタ時間を33分に変更して形成し、第3層の形成を省略した以外は、実験例1と同様にして負極及び二極セルを作製し、その二極セルを用いて実験例1と同様の条件で充放電試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0033】
[実験例11](比較例4)
第1層として、密度4.59g/cm3、厚み0.2μmの非晶質ゲルマニウム層を表1の第1層堆積条件のスパッタ時のガス圧を10Pa、スパッタ時間を16分に変更して形成した以外は、実験例1と同様にして負極及び二極セルを作製し、その二極セルを用いて実験例1と同様の条件で充放電試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0034】
[実験例12](比較例5)
第3層として、密度1.95g/cm3、厚み0.2μmの非晶質シリコン層を表1の第3層堆積条件においてスパッタ時のガス圧を10Pa、スパッタ時間を44分に変更して形成した以外は、実験例1と同様にして負極及び二極セルを作製し、その二極セルを用いて実験例1と同様の条件で充放電試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0035】
[実験例13](比較例6)
表面粗さRzjisが0.25μmの銅箔を負極集電体として使用した以外は、実験例1と同様にして負極及び二極セルを作製し、その二極セルを用いて実験例1と同様の条件で充放電試験を実施した。その結果を表2に示す。
【表2】

【0036】
[試験結果]
比較例1のように、負極集電体に高密度(2.1g/cm3)の非晶質シリコン層のみを形成した負極を用いたリチウム二次電池では、サイクル特性は良好だが低温負荷特性は極めて良くなかった。その低温負荷特性を改善することを目指して、比較例2のように、負極集電体に低密度(2.0g/cm3)の非晶質シリコン層のみを形成した負極を用いたところ、低温負荷特性はいくぶん改善されたものの、今度はサイクル特性が不良になった。このため、サイクル特性を良好に維持したまま低温負荷特性を改善することを目指して、比較例3のように、負極集電体に高密度(2.1g/cm3)の非晶質シリコン層と低密度(2.0g/cm3)の非晶質シリコン層とを積層した負極を用いたが、サイクル特性は不良のままであった。そこで、実施例1〜7のように、負極集電体に密度4.65g/cm3以上の非晶質ゲルマニウム層を形成し、その上に比較例3のように高密度の非晶質シリコン層と低密度の非晶質シリコン層とを積層した負極を作製したところ、サイクル特性と低温負荷特性の両方を良好にすることができた。こうした効果が得られる理由は定かではないが、非晶質ゲルマニウムは非晶質シリコンに比べて充放電に伴う体積変化が小さく導電率が高いことが一因になっていると思われる。
【0037】
ここで、実施例1,2と比較例4との対比から、第1層の非晶質ゲルマニウム層は密度が4.65g/cm3以上にすべきことがわかる。また、実施例1と比較例5との対比から第3層の非晶質シリコン層は密度が2.0g/cm3以上にすべきことがわかる。但し、比較例1で密度2.1g/cm3の非晶質シリコン層が最表面に存在すると低温負荷特性が極めて不良になったことを考慮すると、第3層の非晶質シリコン層は密度が2.0g/cm3以上2.1g/cm3未満にすべきといえる。更に、実施例1,3と比較例6との対比から、負極集電体の表面粗さRzjisは0.25μmより大きくすべきであり、特に4.5μm以上であることが好ましいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗さRzjisが0.25μmを超える負極集電体と、
該負極集電体に積層され密度が4.65g/cm3以上の非晶質ゲルマニウムを主成分とする第1層と、
前記第1層に少なくとも1つ積層され密度が2.1g/cm3以上の非晶質シリコンを主成分とする第2層と、
前記第2層に積層され密度が2.0g/cm3以上2.1g/cm3未満の非晶質シリコンを主成分とする第3層と、
を備えたリチウム二次電池用負極。
【請求項2】
前記第3層の厚みは、前記第1層の厚み以下である、
請求項1に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項3】
前記第2層の厚みは、前記第1層及び前記第3層よりも厚い、
請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項4】
前記第2層の厚みは、0.8μm以上5.0μm以下である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項5】
正極活物質を含む正極と、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたリチウム二次電池。

【公開番号】特開2009−272206(P2009−272206A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123175(P2008−123175)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】