説明

リチウム二次電池用負極材料及びその製造方法、並びにそれを用いたリチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池

【課題】 平易な工程で製造できるとともに、極板強度が高く、浸液性が良好で、初期不可逆容量が小さく、高電流密度充放電特性に優れ、サイクル維持率が高い、即ち各種の電池特性に優れたリチウム二次電池を実現できる負極材料を提供する。
【解決手段】 炭素材料粒子、金属粒子、及び金属酸化物粒子からなる群より選ばれる粒子(A)に、2種類以上の異なる高分子材料がそれぞれ粒子の異なる位置に添着された材料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池用負極材料及びその製造方法に関し、更には、それを用いたリチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い二次電池の高容化が望まれている。そのためニッケル・カドミウム電池、ニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度の高いリチウム二次電池が注目されている。
【0003】
その負極活物質としては、最初はリチウム金属を用いることが試みられたが、充放電を繰り返すうちにデンドライト状のリチウムが析出してセパレータを貫通し、正極にまで達し、短絡を起こす可能性があることが判明した。そのため、現在では、充放電過程において、リチウムイオンを層間に出入りさせ、リチウム金属の析出を防止できる炭素材料を負極活物質として使用することが注目されている。
【0004】
この炭素材料として、例えば特許文献1には、黒鉛を使用することが記載されている。特に、黒鉛化度の大きい黒鉛をリチウム二次電池用の負極活物質として用いると、黒鉛のリチウム吸蔵の理論容量である372mAh/gに近い容量が得られ、活物質として好ましいことが知られている。
【0005】
一方、非水系電解液の溶媒としては、高誘電率溶媒であるエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどで代表される環状カーボネート類や、低粘度溶媒であるジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチロラクトンなどの環状エステル類、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランなどの環状エーテル類、1,2−ジメトキシエタンなどの鎖状エーテル類が、単独又は混合して用いられている。特に高誘電率溶媒と低粘度溶媒とを混合して用いることが多い。電解質として、例えばLiPF6、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2CF32などが単独で、又は2種以上組合せて用いられる。
【0006】
しかしながら、上記の電解液は、炭素材料(負極活物質材料)からなる負極と組み合わせて二次電池に用いた場合、充電時に炭素材料と電解液とが反応し、炭素材料表面にリチウムを含む不動態膜が生成する。その結果、不可逆容量の増大、充電あるいは放電時における負極活物質材料と電解液との反応による電解液の分解、充放電の繰り返し中に負極活物質材料と電解液が反応することによる容量維持率(サイクル特性)の悪化などの課題があった。これらの要因としては、負極活物質材料の比表面積が大きいこと、及び表面官能基が多いことが関与していると考えられる。
【0007】
こうした中で、不可逆容量の低減を目的として、各種の負極活物質材料を高分子などで被覆する技術も知られている。例えば、テトラフルオロエチレン・パーフルオロビニルエーテル共重合体(商品名NafionR)などの固体高分子電解質の懸濁状分散液中にメソカーボンマイクロビーズの黒鉛化粉末を添加し、該粉末に固体高分子を被覆する方法(特許文献2)、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン又はスチレンブタジエンラバーなどの溶液中にピッチコークス粒子などの炭素材料を分散させ、分散液をスプレードライする方法(特許文献1)などが挙げられる。
【0008】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の技術に代表される従来の高分子材料のうち、電解液に溶解しやすい高分子を炭素材料に被覆した場合には、実際の電池として使用している際に、電解液に徐々に溶解、膨潤するため、遅発的に反応面が増加し、不可逆容量が増大する。また、電解液に溶解しにくい高分子を直接炭素材料に被覆してしまうと、Liが出入りできる活性面が減少して、抵抗が増加し、高電流容量での充放電容量やサイクル性能が著しく低下してしまう。
【0009】
また、これらの課題を解決する技術として、特許文献3には、塗膜を作製する際にバインダとして、有機電解液に対して不溶なポリマーと、有機電解液に対して溶解又はゲル状化するポリマーを用いる方法が記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開平9−219188号公報
【特許文献2】特開平7−235328号公報
【特許文献3】特開平10−214629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献3に記載の技術では、有機電解液に対して不溶なポリマーと、有機電解液に対して溶解又はゲル状化するポリマーの位置選択性はなく、活物質表面全体に均質に存在してしまう。その結果として、有機電解液に対して不溶なポリマーが、Liが出入りできる活性面(細孔)をも被覆してしまうため、高電流容量での充放電容量の向上は小さい。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みて創案されたものである。その目的は、平易な工程で製造できるリチウム二次電池用負極材料であって、極板強度が高く、浸液性が良好で、初期不可逆容量が小さく、高電流密度充放電特性に優れ、サイクル維持率が高い、即ち各種の電池特性にバランスよく優れたリチウム二次電池を実現できるリチウム二次電池用負極材料及びその製造方法を提供するとともに、それを用いたリチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池を提供することに存する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、炭素材料粒子、金属粒子、金属酸化物粒子等の負極活物質粒子の多くに高分子材料を接触、陥入させられる多孔質部位があることに着目し、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、負極活物質粒子に対して2種類以上の異なる高分子材料がそれぞれ粒子の異なる位置に添着された材料、具体的には、負極活物質粒子の内部(細孔部)には電解液に対して溶解しやすい高分子材料が、また、負極活物質粒子の外面(外周部)には電解液に対して溶解しにくい高分子材料が、それぞれ個別に添着された材料を用いることにより、極板強度が高く、浸液性が良好で、初期不可逆容量が小さく、高電流密度充放電特性に優れ、サイクル維持率が高い、即ち各種の電池特性に優れたリチウム二次電池が達成可能であることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明の趣旨は、炭素材料粒子、金属粒子、及び金属酸化物粒子からなる群より選ばれる粒子(A)に、2種類以上の異なる高分子材料がそれぞれ粒子の異なる位置に添着されたことを特徴とする、リチウム二次電池用負極材料に存する。
また、本発明の別の趣旨は、エチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとを3:7の体積比で混合した溶媒に1MのLiPF6を溶解させた基準電解液(B)に対して溶解しやすい1種類以上の高分子材料(C−1)を、炭素材料粒子、金属粒子、及び金属酸化物粒子からなる群より選ばれる粒子(A)に添着する工程と、上記基準電解液(B)に対して溶解しにくい1種類以上の高分子材料(C−2)を、該粒子(A)に添着する工程とを少なくとも備えることを特徴とする、リチウム二次電池用負極材料の製造方法に存する。
また、本発明の別の趣旨は、集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備えると共に、該活物質層が、バインダと、上述のリチウム二次電池用負極材料とを含有することを特徴とする、リチウム二次電池用負極に存する。
また、本発明の更に別の趣旨は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備えると共に、該負極が、上述のリチウム二次電池用負極であることを特徴とする、リチウム二次電池に存する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウム二次電池用負極材料によれば、極板強度が高く、浸液性が良好で、初期不可逆容量が小さく、高電流密度充放電特性に優れ、サイクル維持率が高い、即ち各種の電池特性に優れたリチウム二次電池が実現される。
また、本発明のリチウム二次電池用負極材料の製造方法によれば、上述の利点を有する負極材料を平易な工程で製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0017】
[1.負極材料]
本発明のリチウム二次電池用負極材料(以下適宜「本発明の負極材料」という。)は、主にリチウム二次電池の負極活物質として利用される材料であって、炭素材料粒子、金属粒子、及び金属酸化物粒子からなる群より選ばれる粒子(A)に、2種類以上の異なる高分子材料(C−1)及び(C−2)がそれぞれ粒子の異なる位置に添着されたものである。
【0018】
〔粒子(A)〕
・粒子(A)の材料:
粒子(A)は、炭素材料粒子、金属粒子、及び金属酸化物粒子からなる群より選ばれる1種又は2種以上の粒子である。通常は、負極活物質として知られている各種の材料からなる粒子が用いられる。
【0019】
負極活物質の例としては、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料;酸化錫、酸化アンチモン錫、一酸化珪素、酸化バナジウム等のリチウムを吸蔵・放出可能な金属酸化物;リチウム金属;アルミニウム、珪素、錫、アンチモン、鉛、ヒ素、亜鉛、ビスマス、銅、カドミウム、銀、金、白金、パラジウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム等のリチウムと合金化可能な金属;前記金属を含む合金(金属間化合物を含む);リチウムと合金化可能な金属及び該金属を含む合金とリチウムとの複合合金化合物;窒化コバルトリチウム等の窒化金属リチウムなどを挙げることができる。これらは単独で用いても、複数を併用しても良い。中でも好ましいのは炭素材料である。炭素材料の例としては、黒鉛から非晶質のものにいたるまで種々の黒鉛化度の炭素材料が挙げられる。
【0020】
また、粒子(A)としては、その粒子内に高分子材料を添着させることができる空隙構造を持つものが好ましい。これらの条件を満足し、商業的にも容易に入手可能であるという点で、黒鉛又は黒鉛化度の小さい炭素材料からなる粒子が特に好ましい。なお、黒鉛粒子を粒子(A)として用いると、他の負極活物質を用いた場合よりも、高電流密度での充放電特性の改善効果が著しく大きいことが確認されている。
【0021】
黒鉛は、天然黒鉛、人造黒鉛の何れを用いてもよい。黒鉛としては、不純物の少ないものが好ましく、必要に応じて種々の精製処理を施して用いる。また、黒鉛化度の大きいものが好ましく、具体的には、X線広角回折法による(002)面の面間隔(d002)が、3.37Å(0.337nm)未満のものが好ましい。
【0022】
人造黒鉛の具体例としては、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサイルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂などの有機物を、通常2500℃以上、通常3200℃以下の範囲の温度で焼成し、黒鉛化したものが挙げられる。
【0023】
また、黒鉛化度の小さい炭素材料としては、有機物を通常2500℃以下の温度で焼成したものが用いられる。有機物の具体例としては、コールタールピッチ、乾留液化油などの石炭系重質油;常圧残油、減圧残油などの直留系重質油;原油、ナフサなどの熱分解時に副生するエチレンタール等の分解系重質油などの石油系重質油;アセナフチレン、デカシクレン、アントラセンなどの芳香族炭化水素;フェナジンやアクリジンなどの窒素含有環状化合物;チオフェンなどの硫黄含有環状化合物;アダマンタンなどの脂肪族環状化合物;ビフェニル、テルフェニルなどのポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラールなどのポリビニルエステル類、ポリビニルアルコールなどの熱可塑性高分子などが挙げられる。
【0024】
黒鉛化度の小さい炭素材料を得る場合、有機物の焼成温度は通常600℃以上、好ましくは900℃以上、より好ましくは950℃以上である。その上限は、炭素材料に付与する所望の黒鉛化度等により異なるが、通常2500℃以下、好ましくは2000℃以下、より好ましくは1400℃以下の範囲である。焼成する際には、有機物に燐酸、ホウ酸、塩酸などの酸類、水酸化ナトリウム等のアルカリ類を混合してもよい。
【0025】
粒子(A)としては、上記の炭素材料粒子(黒鉛、黒鉛化度の小さい炭素材料)、金属粒子、及び金属酸化物粒子からなる群より選ばれる粒子であれば、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせで適宜混合して用いても良い。また、個々の粒子中に複数の材料が混在するものであってもよい。例えば、黒鉛の表面を黒鉛化度の小さい炭素材料で被覆した構造の炭素質粒子や、黒鉛粒子を適当な有機物で集合させ再黒鉛化した粒子でも良い。更に、前記複合粒子中にSn、Si、Al、BiなどLiと合金化可能な金属を含んでいても良い。以下の記載では、炭素材料粒子を例に挙げて説明するが、粒子(A)は炭素材料粒子に何ら限定されるものではない。
【0026】
・粒子(A)の物性:
粒子(A)の平均粒径は、通常5μm以上、また、通常50μm以下、好ましくは25μm以下、最も好ましくは18μm以下の範囲である。なお、粒子(A)が炭素材料である場合は、複数の粒子が凝集している二次粒子であってもよい。この場合は、二次粒子の平均粒径が前述の範囲内であることが好ましく、一次粒子の平均粒径は、通常15μm以下の範囲であることが好ましい。粒径が小さ過ぎると、比表面積が大きくなり、電解液との反応面が増加して不可逆容量が大きくなりやすい。逆に、粒径が大き過ぎると、活物質とバインダをスラリー化したものを集電体に塗布するに際し、大塊によるいわゆる筋引きなどが起こり、均一な膜厚の活物質層の形成が困難となる。
【0027】
粒子(A)の形状は特に限定されないが、球形化処理を施して球形にしたものが、電極体にしたときの粒子間空隙の形状が整うので好ましい。球形化処理の例としては、機械的・物理的処理や、酸化処理、プラズマ処理等の化学的処理などが挙げられる。球形の程度としては、その粒径が10〜40μmの範囲にある粒子の円形度が通常0.80以上、中でも0.90以上、更には0.93以上の範囲とすることが望まれる。
【0028】
円形度は以下の式で定義され、円形度が1のときに理論的真球となる。
円形度=(相当円の周囲長)/(粒子投影面積を持つ円の周囲長)
円形度の値としては、例えば、フロー式粒子像分析装置(例えば、シスメックスインダストリアル社製FPIA)を用い、測定対象(ここでは負極材料)0.2gを、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2体積%水溶液(約50ml)に混合し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、検出範囲を0.6〜400μmに指定し、粒径が10〜40μmの範囲の粒子について測定した値を用いることができる。
【0029】
また、Hgポロシオメトリー(水銀圧入法)により求められる、直径1μm以下に相当する粒子内の空隙、粒子表面のステップによる凹凸の量が、好ましくは0.05ml/g以上、更に好ましくは0.1ml/g以上あるものは、粒子内空隙への高分子材料の接触による添着効果が得られやすいので好ましい。また、全細孔容積が、好ましくは0.1ml/g以上、更に好ましくは0.25ml/g以上あると、添着し易くなるので好ましい。また、平均細孔径が、好ましくは0.05μm以上、更に好ましくは0.1μm以上あると、有効部位に添着しやすく、添着効果が得られやすいので好ましい。また、平均細孔径が、好ましくは80μm以下、更に好ましくは50μm以下であると、添着が有効に行なわれることから好ましい。Hgポロシオメトリーの装置及び手順の具体例としては、実施例の欄において後述する装置及び手順が挙げられる。
【0030】
〔高分子材料(C−1)及び(C−2)〕
・高分子材料の溶解性の測定法と選定:
本発明では、2種類以上の異なる高分子材料を用いる。高分子材料の種類は特に制限されないが、エチルカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:7の体積比で混合した溶媒に1MのLiPF6を溶解させた電解液(以下適宜「基準電解液(B)」という。)に対して溶解しやすい1種以上の高分子材料(C−1)と、この基準電解液(B)に対して溶解しにくい1種以上の高分子材料(C−2)とからなることが好ましい。
また、ここで「異なる高分子材料」とは、同種の高分子材料ではあるが、明らかに分子量が異なる場合も含む。
【0031】
高分子材料の溶解性は、以下の手法により判断する。まず、対象となる高分子材料を良溶媒に溶解させた後に、剥離可能な基盤上に乾燥後の厚さが約100μmとなるようキャストし、不活性ガス下で乾燥した後、直径12.5mmに打ち抜いて、評価用のサンプルを作製する。得られたサンプルを基準電解液(B)に浸して常温・常圧条件下、Arガス雰囲気下の密閉容器中で静置し、1日後及び90日後のサンプルの面積をそれぞれ測定して、これらの比の値(1日後に対する90日後の面積減少率)を求める。この面積減少率が3%以上であれば、基準電解液(B)に対して溶解しやすい高分子材料(C−1)であると判断し、この面積減少率が3%未満(面積が増加している場合も含む。)であれば、基準電解液(B)に対して溶解しにくい高分子材料(C−2)であると判断する。本発明において、基準電解液(B)に溶解しやすい高分子材料(C−1)としては、上記の面積減少率が4%以上のものが好ましく、電解液に溶解しにくい高分子材料(C−2)としては、上記の面積減少率が2.5%以下のものが好ましい。
【0032】
上述の手法を用いて、代表的な高分子材料である、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)について、基準電解液(B)に対する溶解度を測定した。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
基準電解液(B)に溶解しやすい高分子材料(C−1)としては、表1に挙げたカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)の他に、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル酸エステルポリマー、ポリプロピレンオキサイド等、及びこれらの架橋体などを用いることができる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチルが、安価で入手が容易であるため好ましい。
【0035】
基準電解液(B)に溶解しにくい高分子材料(C−2)としては、表1に挙げたポリビニルアルコール(PVA)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)の他に、スチレン・イソプレン・スチレンゴム、アクリルニトリル・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、イソブチレン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類、ナイロン、及びこれらの架橋体などを用いることができる。中でも、ポリビニルアルコールが、可撓性が高く、熱水溶性を示し、取扱いが容易であるので好ましい。
【0036】
・高分子材料の物性:
基準電解液(B)に対して溶解しやすい高分子材料(C−1)及び溶解しにくい高分子材料(C−2)の分子量は、高分子連鎖の結合方法、分岐の割合、分子内官能基、立体コンフォメーションにより異なり、一意には決定できないが、一般的には、分子量の小さい高分子材料ほど、基準電解液(B)に対する溶解性が高くなり、逆に、分子量の大きい高分子材料ほど、基準電解液(B)に対する溶解性が低くなる傾向にある。
【0037】
・高分子材料の粒径:
高分子材料(C−1)及び(C−2)の好ましい粒径は、これらを粒子(A)に添着させる手法によって異なる。溶媒を用いて高分子材料を溶解してから添着させる、いわゆる湿式添着法を用いる場合には、高分子材料(C−1)及び(C−2)の粒径は特に制限されない。しかし、溶媒を介さない、もしくは溶媒に対して完全に溶解させないミクロ結晶ドメインが残留する状態で添着させる、いわゆる乾式添着法を用いる場合には、高分子材料(C−1)及び(C−2)の粒子の大きさが重要となる。具体的に、乾式添着法を用いる場合の高分子材料(C−1)及び(C−2)の粒径は、通常5μm以下、好ましくは0.5μm以下の範囲とする。粒経が大き過ぎると、粒子(A)に対する添着性が劣化してしまう。なお、上記の好ましい粒径の範囲は、基準電解液(B)に対して溶解しやすい高分子材料(C−1)についても、溶解しにくい高分子材料(C−2)についても同様である。
【0038】
・高分子材料の添着の態様:
本発明の負極材料は、負極活物質粒子である粒子(A)に、2種類以上の異なる高分子材料(C−1)及び(C−2)がそれぞれ粒子の異なる位置に添着された構造をとる。ここで、「それぞれ粒子の異なる位置に添着された」とは、これらの高分子材料(C−1)及び(C−2)が、それぞれ粒子(A)の異なる位置に、位置選択的に添着されていることを表わす。高分子材料(C−1)及び(C−2)が粒子(A)に対して「位置選択的に」添着されていることは、後述する直径1μm以下の細孔容積の減少量によって判断することができる。
【0039】
具体的な添着の態様は特に制限されないが、粒子(A)の細孔の内部(細孔部)に、基準電解液(B)に対して溶解しやすい高分子材料(C−1)が添着されるとともに、粒子(A)(負極活物質粒子)の外面(外周部)に、基準電解液(B)に対して溶解しにくい高分子材料(C−2)が添着された態様が好ましい。
【0040】
・高分子材料の添着の手法(負極材料の製造方法):
本発明の負極材料を製造する方法は特に制限されず、粒子(A)に高分子材料(C−1)及び高分子材料(C−2)をそれぞれ個別に添着させることができれば良い。但し、上述した構造を有する負極材料を少ない工程で効率よく確実に製造するためには、粒子(A)に対して、まず基準電解液(B)に溶解しやすい1種類以上の高分子材料(C−1)を先に添着させ(第1添着工程)、その後で、基準電解液(B)に溶解しにくい高分子材料(C−2)を添着させる(第2添着工程)という、少なくとも二段階の工程からなる方法(以下適宜「本発明の製造方法」という。)が好ましい。なお、第1添着工程と第2添着工程とは明確に分かれた工程である必要はなく、連続的に実施される工程であっても構わない。
【0041】
粒子(A)に高分子材料(C−1)を添着させる工程(第1添着工程)、及び、高分子材料(C−2)を添着する工程(第2添着工程)ともに、具体的な添着の手法は特に制限されないが、代表的な例としては以下の3つが挙げられる。
(i)粒子(A)と高分子材料(C−1)又は(C−2)とを粒子状態で単に混合する手法。
(ii)粒子(A)と高分子材料(C−1)又は(C−2)とを混合するとともに、機械的な衝撃によって添着又は融着させる手法。
(iii)高分子材料(C−1)又は(C−2)を溶媒に膨潤,分散,溶解し、これを粒子(A)に添着させた後、乾燥させる手法。
これら(i)〜(iii)の手法は、何れか一種を単独で実施しても良く、二種以上を適宜組み合わせて実施しても良い。
【0042】
(i)又は(ii)の手法の場合、具体的な混合の手法は、本発明の主旨を外れない限り特に制限されない。例えば、乾式混合、湿式混合の何れを用いてもよい。混合に用いる混合機も特に制限されないが、例としては、メカノヒュージョン、ハイブリダイザー、オングミル、メカノマイクロス、マイクロス、ジェットミル、ハイブリッドミキサー、混錬機、流動層式造粒装置、レーディゲミキサー、スプレードライヤー、ディスパーザー等が挙げられる。これらの混合機は何れか一種を単独で用いても良く、二種以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0043】
これらの具体的な混合の手法は、使用する粒子(A)(負極活物質粒子)や高分子材料(C−1)及び(C−2)の種類に応じて適宜選択すれば良い。一般的には、メカノヒュージョン、ハイブリダイザーなどの機械的な乾式混合を用いた場合、負極活物質粒子の表面のステップ部に高分子材料が添着し易く、湿式混合を用いた場合、負極活物質粒子の内部の空隙に高分子材料が入り込みやすく、また、流動層、ペイントシェーカーなどの粒子間に弱いシェアしか掛からない粉体混合機を用いた場合、負極活物質粒子の表面に高分子材料が付着しているものが得られると考えられる。
【0044】
一方、(iii)の手法を用いる場合、その手法の詳細は、本発明の主旨を外れない限り特に制限されない。溶媒としては、高分子材料(C−1)又は(C−2)を分散又は膨潤、溶解できるものであれば種類を問わないが、溶解できるものであればより容易に製造できるので、好適である。具体的には、水やエタノール等のアルコール類や、その他のベンゼン、トルエン、キシレン等の有機溶媒であっても問題ないが、水によって分散、膨潤、溶解できるものが、環境面への負荷が小さく、工程が安価であることから好適である。高分子材料(C−1)又は(C−2)の溶解、分散、膨潤手法は、ディスパーザー、混練機等の混合分散器を用い、高分子材料と溶媒を接触させて行なう。混合に際しては、粒子に対して液体を加えても、液体に対して粒子を加えても問題なく、含浸方法としては、ディスパーザー、混練機等の液体と粉体を混合できる装置であれば、特に制限を受けない。混合時は低固形分濃度から高固形分濃度まで自在に選ぶことができる。また、これ以外にも、スプレードライ等の噴霧法によっても含浸することが可能である。これらの材料を乾燥する手法としては、スプレードライ等による噴霧乾燥や静止状態で加熱する棚乾燥、混合撹拌を行ないながら熱エネルギーを導入して乾燥する方法、減圧乾燥等が挙げられるが、溶媒の含有量を減少させることのできる手法であれば特に問題はない。
【0045】
・高分子材料(C−1)及び(C−2)の添着量:
粒子(A)に対する高分子材料(C−1)の重量割合(高分子材料(C−1)の重量:粒子(A)の重量)は、通常0.01:99.99以上、好ましくは0.05:99.95以上、また、通常10:90以下、中でも2:98以下の範囲である。高分子材料(C−1)の比率が少な過ぎると、細孔内に十分な高分子材料(C−1)が添着されず、高密度放電特性の向上が得られないという理由で好ましくなく、また、高分子材料(C−1)の比率が多過ぎると、可逆容量が減少するという理由でやはり好ましくない。
【0046】
粒子(A)に対する高分子材料(C−2)の重量割合(高分子材料(C−2)の重量:粒子(A)の重量)は、通常0.005:99.995以上、好ましくは0.01:99.99以上、また、通常5:95以下、中でも1:99以下の範囲である。高分子材料(C−2)の比率が少な過ぎると、初期不可逆容量の低減効果が得難い傾向がある。また、高分子材料(C−2)の比率が多過ぎると、高電流密度放電特性が低下する傾向がある。
【0047】
電解液に溶解しやすい高分子材料(C−1)と溶解しにくい高分子材料(C−2)との重量割合(高分子材料(C−1)の重量:高分子材料(C−2)の重量)は、通常1:1以上、また、通常1000:1以下、好ましくは100:1以下の範囲である。高分子材料(C−1)の比率が少な過ぎると、高電流密度放電特性が低下する傾向がある。一方、高分子材料(C−2)の比率が少な過ぎると、初期充放電効率が低下する傾向がある。
【0048】
〔架橋材等〕
本発明の負極材料には、上述の粒子(A)、高分子材料(C−1)及び(C−2)の他に、架橋材を使用しても良い。架橋材により、基準電解液(B)に溶解しにくい高分子材料(C−2)の側鎖及び主鎖の一部の官能基を結合させることで、高分子材料(C−2)のネットワーク構造を発達させ、添着後に分子量を変化させることが可能となる。この効果によって耐電解液性を向上させる作用を発現し、初回充放電効率を向上させるはたらきがある。架橋材の種類は特に制限されず、併用する高分子材料(C−2)の種類に応じて適切なものを選択すれば良い。具体的に、高分子材料(C−2)としてポリビニルアルコールを用いる場合、好ましい架橋材の例としては、グリオキサザール、Ti,Zrなどの有機金属錯体及びこの誘導体が挙げられる。但し、使用できる架橋材の種類はこれに限定されるものではなく、例えば、高分子材料(C−2)の有する官能基の種類によっては、更に他の架橋材の使用も可能となる。なお、架橋材は何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0049】
〔その他〕
本発明の効果が得られる理由は、定かではないが、次のように推定される。
負極活物質においては、表面の凹部(炭素材料の場合のステップ面)や空孔部(炭素材料の場合のエッヂ面)がLiの出入りする活性面であると考えられるが、負極を作製する際に用いられる溶媒に溶解しにくいバインダを最初に添着する従来の方法では、負極を作製する際に用いられる溶媒に溶解しにくいバインダがこの凹部や空孔部に入り込み、Liのスムーズな挿入・脱離を妨げていた。
【0050】
これに対して、本発明の好ましい添着の態様では、前述の基準電解液(B)に溶解しやすい高分子材料(C−1)が、負極活物質粒子である粒子(A)の凹部や空孔部に入り込み、更に基準電解液(B)に溶解しにくい高分子材料(C−2)が粒子(A)の表面を覆っているので、電極作製時にバインダが負極活物質と直接接触してこれを被覆することがない。また、電池を作製した際に、電解液に溶解しやすい高分子材料(C−1)を介して、Liの出入りする活性面が電解液と接触することが可能となる。この結果として、高電流密度充放電特性の向上が可能になるものと推測される。更に、初期効率を低下させる原因となり、Liの出入りに関与しないベーサル面に、電解液に溶解しにくい高分子材料(C−2)を位置選択的に添着させることによって、初期充放電効率の向上も同時に図ることが可能になるものと推測される。
【0051】
また、従来は負極活物質粒子の凹部や空孔部に浸入していたバインダが、負極活物質粒子の外に存在し、本来の目的である活物質間の結着のために用いられることで、負極の強度を向上させたものと推測される。
【0052】
このように、負極活物質粒子である粒子(A)に添着させた2層の高分子材料(C−1)及び(C−2)のそれぞれが異なった機能を有し、また作用部位も限定されていることから、これらの高分子材料(C−1)及び(C−2)の添着部位の限定が重要な課題となる。添着部位を推定する手法の例としては、Hgポロシオメトリーを用いた手法が挙げられる。
【0053】
具体的には、粒子(A)に第1層(電解液に溶解しやすい層)の高分子材料(C−1)を添着した段階で、直径1μm以下の細孔容積が、粒子(A)単体の細孔容積の値と比較して、通常5%以上、中でも15%以上減少することが好ましい。これは言い換えれば、粒子(A)が有する径1μm以下の細孔のうち、減少した細孔容積分の細孔に対して、高分子材料(C−1)が接するように添着されたことを表わす。細孔容積の減少率がこの範囲内であれば、電解液に溶解しやすい高分子材料(C−1)が、粒子(A)の凹部や空孔部に有効に入り込んだと考えることができる。なお、高分子材料(C−1)の添着前における粒子(A)の1μm以下の細孔容積としては、通常0.01mL/g以上、好ましくは0.04mL/g以上、また、通常10mL/g以下、好ましくは0.5mL/g以下の範囲である。
【0054】
同時に、BET法にて測定した比表面積の減少が見られることが好ましい。具体的には、高分子材料(C−1)の添着前における粒子(A)のBET比表面積と比較して、高分子材料(C−1)の添着後におけるBET比表面積が、通常10%以上、中でも25%以上減少することが好ましい。なお、高分子材料(C−1)の添着前における粒子(A)のBET法による比表面積の絶対値は、通常1m2/g以上、好ましくは2m2/g以上、また、通常20m2/g以下、好ましくは10m2/g以下の範囲である。
【0055】
また、第2層(電解液に溶解しにくい層)の高分子材料(C−2)を添着した段階では、第1層(電解液に溶解しやすい層)の高分子材料(C−1)を添着した状態と比較して、細孔分布の変化が2%以下であることが好ましく、また、BET比表面積の増減が10%未満であることが好ましい。
【0056】
[他の炭素材料との混合]
上述した本発明の負極材料は、何れか一種を単独で、又は二種以上を任意の組成及び組み合わせで併用して、リチウム二次電池の負極材料として好適に使用することができるが、上述した本発明の負極材料(これを以下、適宜「負極材料(D)」という。)一種又は二種以上を、他の一種又は二種以上の炭素材料(E)と混合し、これをリチウム二次電池の負極材料として用いても良い。
【0057】
上述の負極材料(D)に炭素材料(E)を混合する場合、負極材料(D)と炭素材料(E)の総量に対する炭素材料(D)の混合割合は、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、また、通常90重量%以下、好ましくは80重量%以下の範囲である。炭素材料(E)の混合割合が、前記範囲を下回ると、添加した効果が現れ難い傾向がある。一方、前記範囲を上回ると、負極材料(D)の特性が現れ難い傾向がある。
【0058】
炭素材料(E)としては、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質被覆黒鉛、非晶質炭素の中から選ばれる材料を用いる。これらの材料は、何れかを一種を単独で用いても良く、二種以上を任意の組み合わせ及び組成で併用しても良い。
【0059】
天然黒鉛としては、例えば、高純度化した鱗片状黒鉛や球形化した黒鉛を用いることができる。天然黒鉛の体積基準平均粒径は、通常8μm以上、好ましくは12μm以上、また、通常60μm以下、好ましくは40μm以下の範囲である。天然黒鉛のBET比表面積は、通常3.5m2/g以上、好ましくは、4.5m2/g以上、また、通常8m2/g以下、好ましくは6m2/g以下の範囲である。
【0060】
人造黒鉛とは、炭素材料を黒鉛化した粒子等であり、例えば、単一の黒鉛前駆体粒子を粉状のまま焼成、黒鉛化した粒子などを用いることができる。
【0061】
非晶質被覆黒鉛としては、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛に非晶質前駆対を被覆、焼成した粒子や、天然黒鉛や人造黒鉛に非晶質をCVDにより被覆した粒子を用いることができる。
【0062】
非晶質炭素としては、例えば、バルクメソフェーズを焼成した粒子や、炭素前駆体を不融化処理し、焼成した粒子を用いることができる。
【0063】
負極材料(D)と炭素材料(E)との混合に用いる装置としては、特に制限はないが、例えば、回転型混合機の場合:円筒型混合機、双子円筒型混合機、二重円錐型混合機、正立方型混合機、鍬形混合機、固定型混合機の場合:螺旋型混合機、リボン型混合機、Muller型混合機、Helical Flight型混合機、Pugmill型混合機、流動化型混合機等を用いることができる。
【0064】
以上説明した本発明の負極材料(以下、特に断り書きをする場合を除き、「本発明の負極材料」という場合には、負極材料(D)を単独で用いる場合と、負極材料(D)と他の炭素材料(E)とを混合する場合の双方を指すものとする。)を用いてリチウム二次電池用負極を作製する場合、その手法や他の材料の選択については、特に制限されない。また、この負極を用いてリチウム二次電池を作製する場合も、リチウム二次電池を構成する正極、電解液等の電池構成上必要な部材の選択については特に制限されない。以下、本発明の負極材料を用いたリチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池の詳細を例示するが、使用し得る材料や作製の方法等は以下の具体例に限定されるものではない。
【0065】
[2.リチウム二次電池用負極]
本発明のリチウム二次電池用負極(以下適宜「本発明の負極」という。)は、集電体と、集電体上に形成された活物質層とを備えると共に、活物質層が、バインダと、本発明の負極材料とを含有することを特徴とする。
【0066】
バインダとしては、分子内にオレフィン性不飽和結合を有するものを用いる。その種類は特に制限されないが、具体例としては、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン・イソプレン・スチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体などが挙げられる。このようなオレフィン性不飽和結合を有するバインダを用いることにより、活物質層の電解液に対する膨潤性を低減することができる。中でも入手の容易性から、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。
【0067】
このようなオレフィン性不飽和結合を有するバインダと、前述の活物質とを組み合わせて用いることにより、負極板の強度を高くすることができる。負極の強度が高いと、充放電による負極の劣化が抑制され、サイクル寿命を長くすることができる。また、本発明に係る負極では、活物質層と集電体との接着強度が高いので、活物質層中のバインダの含有量を低減させても、負極を捲回して電池を製造する際に、集電体から活物質層が剥離するという課題も起こらないと推察される。
【0068】
分子内にオレフィン性不飽和結合を有するバインダとしては、その分子量が大きいものか、或いは、不飽和結合の割合が大きいものが望ましい。具体的に、分子量が大きいバインダの場合には、その分子量が通常1万以上、好ましくは5万以上、また、通常100万以下、好ましくは30万以下の範囲にあるものが望ましい。また、不飽和結合の割合が大きいバインダの場合には、全バインダの1g当たりのオレフィン性不飽和結合のモル数が、通常2.5×10-7以上、好ましくは8×10-7以上、また、通常1×10-4以下、好ましくは5×10-6以下の範囲にあるものが望ましい。バインダとしては、これらの分子量に関する規定と不飽和結合の割合に関する規定のうち、少なくとも何れか一方を満たしていればよいが、両方の規定を同時に満たすものがより好ましい。オレフィン性不飽和結合を有するバインダの分子量が小さ過ぎると機械的強度に劣り、大き過ぎると可撓性に劣る。また、バインダ中のオレフィン性不飽和結合の割合が小さ過ぎると強度向上効果が薄れ、大き過ぎると可撓性に劣る。
【0069】
また、オレフィン性不飽和結合を有するバインダは、その不飽和度が、通常15%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、また、通常90%以下、好ましくは80%以下の範囲にあるものが望ましい。なお、不飽和度とは、ポリマーの繰り返し単位に対する二重結合の割合(%)を表す。
【0070】
本発明においては、オレフィン性不飽和結合を有さないバインダも、本発明の効果が失われない範囲において、上述のオレフィン性不飽和結合を有するバインダと併用することができる。オレフィン性不飽和結合を有するバインダに対する、オレフィン性不飽和結合を有さないバインダの混合比率は、通常150重量%以下、好ましくは120重量%以下の範囲である。オレフィン性不飽和結合を有さないバインダを併用することにより、塗布性を向上することができるが、併用量が多すぎると活物質層の強度が低下する。
【0071】
オレフィン性不飽和結合を有さないバインダの例としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、澱粉、カラギナン、プルラン、グアーガム、ザンサンガム(キサンタンガム)等の増粘多糖類、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル類、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のビニルアルコール類、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のポリ酸、或いはこれらポリマーの金属塩、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのアルカン系ポリマー及びこれらの共重合体などが挙げられる。
【0072】
本発明においては、粒子(A)に2種類以上の高分子材料(C−1)及び(C−2)が添着された本発明の負極材料と、上述のオレフィン性不飽和結合を有するバインダとを組み合わせて用いた場合、活物質層に用いるバインダの比率を従来に比べて低減することができる。具体的に、本発明の負極材料と、バインダ(これは場合によっては、上述のように不飽和結合を有するバインダと、不飽和結合を有さないバインダとの混合物であってもよい。)との重量比率は、それぞれの乾燥重量比で、通常90/10以上、好ましくは95/5以上であり、通常99.9/0.1以下、好ましくは99.5/0.5以下、更に好ましくは99/1以下の範囲である。バインダの割合が高過ぎると容量の減少や、抵抗増大を招きやすく、バインダの割合が少な過ぎると極板強度が劣る。
【0073】
本発明の負極は、上述の本発明の負極材料とバインダとを分散媒に分散させてスラリーとし、これを集電体に塗布することにより形成される。分散媒としては、アルコールなどの有機溶媒や、水を用いることができる。このスラリーには更に、所望により導電剤を加えてもよい。導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック、平均粒径1μm以下のCu、Ni又はこれらの合金からなる微粉末などが挙げられる。導電剤の添加量は、本発明の負極材料に対して通常10重量%以下程度である。
【0074】
スラリーを塗布する集電体としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、圧延銅箔、電解銅箔、ステンレス箔等の金属薄膜が挙げられる。集電体の厚さは、通常5μm以上、好ましくは9μm以上であり、通常30μm以下、好ましくは20μm以下である。
【0075】
スラリーを集電体上に塗布した後、通常60℃以上、好ましくは80℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは195℃以下の温度で、乾燥空気又は不活性雰囲気下で乾燥し、活物性層を形成する。
【0076】
スラリーを塗布、乾燥して得られる活物質層の厚さは、通常5μm以上、好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上、また、通常200μm以下、好ましくは100μm以下、更に好ましくは75μm以下である。活物質層が薄すぎると、活物質の粒径との兼ね合いから負極としての実用性に欠け、厚すぎると、高密度の電流値に対する十分なLiの吸蔵・放出の機能が得られにくい。
【0077】
[3.リチウム二次電池]
本発明のリチウム二次電池の基本的構成は、従来公知のリチウム二次電池と同様であり、通常、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備える。負極としては、上述した本発明の負極を用いる。
【0078】
正極は、正極活物質及びバインダを含有する正極活物質層を、集電体上に形成したものである。
正極活物質としては、リチウムイオンなどのアルカリ金属カチオンを充放電時に吸蔵、放出できる金属カルコゲン化合物などが挙げられる。金属カルコゲン化合物としては、バナジウムの酸化物、モリブデンの酸化物、マンガンの酸化物、クロムの酸化物、チタンの酸化物、タングステンの酸化物などの遷移金属酸化物、バナジウムの硫化物、モリブデンの硫化物、チタンの硫化物、CuSなどの遷移金属硫化物、NiPS3、FePS3等の遷移金属のリン−硫黄化合物、VSe2、NbSe3などの遷移金属のセレン化合物、Fe0.250.752、Na0.1CrS2などの遷移金属の複合酸化物、LiCoS2、LiNiS2などの遷移金属の複合硫化物等が挙げられる。
【0079】
これらの中でも、V25、V513、VO2、Cr25、MnO2、TiO、MoV28、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、TiS2、V25、Cr0.250.752、Cr0.50.52などが好ましく、特に好ましいのはLiCoO2、LiNiO2、LiMn24や、これらの遷移金属の一部を他の金属で置換したリチウム遷移金属複合酸化物である。これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0080】
正極活物質を結着するバインダとしては、公知のものを任意に選択して用いることができる。例としては、シリケート、水ガラス等の無機化合物や、テフロン(登録商標)、ポリフッ化ビニリデン等の不飽和結合を有さない樹脂などが挙げられる。これらの中でも好ましいのは、不飽和結合を有さない樹脂である。正極活物質を結着する樹脂として不飽和結合を有する樹脂を用いると酸化反応時に分解される恐れがある。これらの樹脂の重量平均分子量は通常1万以上、好ましくは10万以上、また、通常300万以下、好ましくは100万以下の範囲である。
【0081】
正極活物質層中には、電極の導電性を向上させるために、導電材を含有させてもよい。導電剤としては、活物質に適量混合して導電性を付与できるものであれば特に制限はないが、通常、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などの炭素粉末、各種の金属の繊維、粉末、箔などが挙げられる。
【0082】
正極板は、前記したような負極の製造と同様の手法で、正極活物質やバインダを溶剤でスラリー化し、集電体上に塗布、乾燥することにより形成する。正極の集電体としては、アルミニウム、ニッケル、SUSなどが用いられるが、何ら限定されない。
【0083】
電解質としては、非水系溶媒にリチウム塩を溶解させた非水系電解液や、この非水系電解液を有機高分子化合物等によりゲル状、ゴム状、固体シート状にしたものなどが用いられる。
【0084】
非水系電解液に使用される非水系溶媒は特に制限されず、従来から非水系電解液の溶媒として提案されている公知の非水系溶媒の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート類;1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、1,3−ジオキソラン等の環状エーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類などが挙げられる。これらの非水系溶媒は、何れか一種を単独で用いても良く、二種以上を混合して用いてもよいが、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む混合溶媒の組合せが好ましい。
【0085】
非水系電解液に使用されるリチウム塩も特に制限されず、この用途に用い得ることが知られている公知のリチウム塩の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、LiCl、LiBrなどのハロゲン化物、LiClO4、LiBrO4、LiClO4などの過ハロゲン酸塩、LiPF6、LiBF4、LiAsF6などの無機フッ化物塩などの無機リチウム塩、LiCF3SO3、LiC49SO3などのパーフルオロアルカンスルホン酸塩、Liトリフルオロスルフォンイミド((CF3SO22NLi)などのパーフルオロアルカンスルホン酸イミド塩などの含フッ素有機リチウム塩などが挙げられる。リチウム塩は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。非水系電解液中におけるリチウム塩の濃度は、通常0.5M以上、2.0M以下の範囲である。
【0086】
また、上述の非水系電解液に有機高分子化合物を含ませ、ゲル状、ゴム状、或いは固体シート状にして使用する場合、有機高分子化合物の具体例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物;ポリエーテル系高分子化合物の架橋体高分子;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどのビニルアルコール系高分子化合物;ビニルアルコール系高分子化合物の不溶化物;ポリエピクロルヒドリン;ポリフォスファゼン;ポリシロキサン;ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンカーボネート、ポリアクリロニトリルなどのビニル系高分子化合物;ポリ(ω−メトキシオリゴオキシエチレンメタクリレート)、ポリ(ω−メトキシオリゴオキシエチレンメタクリレート−co−メチルメタクリレート)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン)等のポリマー共重合体などが挙げられる。
【0087】
上述の非水系電解液は、更に被膜形成剤を含んでいても良い。被膜形成剤の具体例としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチルカーボネート、メチルフェニルカーボネートなどのカーボネート化合物、エチレンサルファイド、プロピレンサルファイドなどのアルケンサルファイド;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトンなどのスルトン化合物;マレイン酸無水物、コハク酸無水物などの酸無水物などが挙げられる。被膜形成剤を用いる場合、その含有量は通常10重量%以下、中でも8重量%以下、更には5重量%以下、特に2重量%以下の範囲が好ましい。被膜形成剤の含有量が多過ぎると、初期不可逆容量の増加や低温特性、レート特性の低下等、他の電池特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0088】
また、電解質として、リチウムイオン等のアルカリ金属カチオンの導電体である高分子固体電解質を用いることもできる。高分子固体電解質としては、前述のポリエーテル系高分子化合物にLiの塩を溶解させたものや、ポリエーテルの末端水酸基がアルコキシドに置換されているポリマーなどが挙げられる。
【0089】
正極と負極との間には通常、電極間の短絡を防止するために、多孔膜や不織布などの多孔性のセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、多孔性のセパレータに含浸させて用いる。セパレータの材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエーテルスルホンなどが用いられ、好ましくはポリオレフィンである。
【0090】
本発明のリチウム二次電池の形態は特に制限されない。例としては、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が挙げられる。また、これらの形態の電池を任意の外装ケースに収めることにより、コイン型、円筒型、角型等の任意の形状にして用いることができる。
【0091】
本発明のリチウム二次電池を組み立てる手順も特に制限されず、電池の構造に応じて適切な手順で組み立てればよいが、例を挙げると、外装ケース上に負極を乗せ、その上に電解液とセパレータを設け、更に負極と対向するように正極を乗せて、ガスケット、封口板と共にかしめて電池にすることができる。
【実施例】
【0092】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0093】
<実施例1>
高分子材料(C−1)としてポリフッ化ビニリデン(呉羽化学社製W#1300)2gを、1−メチル−2−ピロリドン198gに加えて溶解させた。この溶液中に、粒子(A)(負極活物質粒子)として比表面積6.4m2/g、平均粒径16μmの球形化天然黒
鉛粒子200gを加え、容積0.75Lのステンレス容器中で、ホモディスパーザーを用いて2時間、攪拌・混合した。得られた混合物を、1.5cmの高さとなるようにステンレスバットに入れ、N2ガス中、110℃で10時間乾燥した。これを篩い、高分子材料1層添着負極活物質粒子とした。更に、高分子材料(C−2)としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製NM14)0.2gを、70℃に加熱した純水199.8gに加えて溶解させ、これを25℃になるまで空冷した。この溶液中に、上述の高分子材料1層添着負極活物質粒子200gを加え、ホモディスパーザーを用いて2時間、撹拌・混合した。得られた混合物を、1.5cmの高さとなるようにステンレスバットに入れ、N2ガス中、110℃で10時間乾燥した。これを篩い、高分子材料2層添着負極活物質粒子を得た。これを実施例1の負極材料とする。
【0094】
<実施例2>
高分子材料(C−1)としてカルボキシメチルセルロース(第一工業製薬社製BSH6)2gを、純水198gに加えて溶解させた。この溶液中に、粒子(A)(負極活物質粒子)として実施例1で使用した黒鉛粒子200gを加え、容量0.75LのSUS製容器中で、ホモディスパーザーを用いて2時間、攪拌・混合した。これ以外は実施例1と同様の手順により、高分子材料2層添着負極活物質粒子を得た。これを実施例2の負極材料とする。
【0095】
<実施例3>
高分子材料(C−1)としてポリメタクリル酸メチル(和光純薬社製メタクリル酸メチルポリマー)2gを、アセトン198gに加えて溶解させた。この溶液中に、粒子(A)(負極活物質粒子)として実施例1で使用した黒鉛粒子200gを加え、容量0.75LのSUS製容器中で、ホモディスパーザーを用いて2時間、攪拌・混合した。これ以外は実施例1と同様の手順により、高分子材料2層添着負極活物質粒子を得た。これを実施例3の負極材料とする。
【0096】
<実施例4>
高分子材料(C−1)としてポリエチレンオキサイド(和光純薬社製ポリエチレングリコール20000)2gを、純水198gに加えて溶解させた。この溶液中に、粒子(A)(負極活物質粒子)として実施例1で使用した黒鉛粒子200gを加え、容量0.75LのSUS製容器中で、ホモディスパーザーを用いて2時間、攪拌・混合した。これ以外は実施例1と同様の手順により、高分子材料2層添着負極活物質粒子を得た。これを実施例4の負極材料とする。
【0097】
<実施例5>
高分子材料(C−1)としてカルボキシメチルセルロース(第一工業製薬社製BSH6)2gを、純水198gに加えて溶解させた。この溶液中に、粒子(A)(負極活物質粒子)として実施例1で使用した黒鉛粒子200gを加え、更に架橋材としてセクアレッツ755(OMNOVA社製)0.02gを加えて、容量0.75LのSUS製容器中で、ホモディスパーザーを用いて2時間、攪拌・混合した。これ以外は実施例1と同様の手順により、高分子材料2層添着負極活物質粒子を得た。これを実施例5の負極材料とする。
【0098】
<比較例1>
実施例1において、高分子材料(C−2)を添着しなかったこと以外は、同様の手順により、高分子材料1層添着負極活物質粒子を得た。これを比較例1の負極材料とする。
【0099】
<比較例2>
実施例1に用いた黒鉛粒子(高分子材料未添着負極活物質粒子)をそのまま負極材料として用いた。これを比較例2の負極材料とする。
【0100】
<比較例3>
高分子材料(C−1)としてカルボキシメチルセルロース(第一工業製薬社製BSH6)2g、高分子材料(C−2)としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製NM14)0.2gを、70℃に加熱した純水197.8gに加えて溶解させ、これを25℃になるまで空冷した。この混合溶液中に、粒子(A)(負極活物質粒子)として実施例1で使用した黒鉛粒子200gを加え、容量0.75LのSUS製容器中で、ホモディスパーザーを用いて2時間、攪拌・混合した。すなわち、二つの高分子材料を同時に添着した。これ以外は実施例1と同様の手順により、高分子材料2種同時添着負極活物質粒子を得た。これを比較例3の負極材料とする。
【0101】
<負極活物質の物性評価>
実施例1〜5、比較例1〜3の負極材料について、以下の手順でHgポロシメトリーを行なうことにより、1μm以下の径の細孔の減少率を測定した。また、以下の手順により、BET法による比表面積を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0102】
<Hgポロシメトリー>
Hgポロシオメトリー用の装置として、水銀ポロシメータ(オートポア9520:マイクロメリテックス社製)を用いた。試料(負極材料)を、0.2g前後の値となるように秤量し、パウダー用セルに封入し、室温、真空下(50μmHg以下)にて10分間脱気、前処理を実施した。引き続き、4psia(約28kPa)に圧力を戻し水銀を導入、4psia(約28kPa)から40000psia(約280MPa)まで昇圧させた後、25psia(約170kPa)まで降圧させた。この間、10秒の平衡時間の後、水銀量を測定する、という測定操作を80点以上実施した。こうして得られた水銀圧入曲線からWashburnの方程式を用い、細孔分布を算出した。なお、水銀の表面張力(γ)は485dyne/cm、接触角(ψ)は140°として算出した。
【0103】
<BET法>
BET比表面積は、自動表面積測定装置(AMS8000:大倉理研社製)を用いて、BET1点法(窒素ガス吸着)にて測定した。試料(負極材料)を、0.8g前後の値となるよう正確に秤量し、専用セルに入れて装置に装着した。100℃に加熱、測定用ガス(窒素30%、ヘリウムバランス)をフローさせて30分間前処理を行った。前処理終了後、セルを液体窒素温度まで冷却し、上記ガスを飽和吸着させ、その後室温まで試料を加熱してTCDにて脱離したガス量を計測した。得られたガス量と測定後のサンプル重量から、BET1点法を用いて比表面積を算出した。
【0104】
<負極作製>
実施例1〜5、比較例1〜3の各負極材料と、バインダとして、カルボキシメチルセルロースの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースの濃度1重量%)10g、及び、不飽和度75%のスチレン−ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン−ブタジエンゴムの濃度50重量%、スチレン−ブタジエンゴムの分子量12万)0.2gとを、ハイスピードミキサーを用いて混合し、スラリーとした。このスラリーを銅箔(集電体)上にドクターブレード法で塗布し、乾燥した後、ロールプレスにより線密度20〜300kg/cmでプレスすることにより、活物質層を形成した。乾燥・プレス後の活物質層の重量は10mg/cm2、密度は1.6g/ml、平均電極厚みは68μmであった。以上の手順により作製された負極(リチウム二次電池用負極)を、それぞれ実施例1〜5、比較例1〜3の負極とする。
【0105】
実施例1〜5、比較例1〜3の負極について、極板強度、浸液速度、初期充放電効率、高電流密度充放電特性、及びサイクル維持率の測定を行なった(比較例3の負極については、初期充放電効率及び高電流密度充放電特性のみ測定した。)。結果を表2に示す。
【0106】
<極板強度の評価>
連続加重式引掻強度試験機(新東科学株式会社製)とダイアモンド製引掻針(先端角90度、先端R0.1mm)を用いて、負極の引っ掻き強度を測定した。電極削れの判断は、引掻針が活物質層に触れた点から集電体である銅箔が目視で確認できる点までの距離を精査し、このときに引掻針にかかっていた荷重(g)を測定した。測定は5回行ない、5回の測定値の平均により負極の強度を評価した。
【0107】
<浸液速度の評価>
上述の<負極の作製>で作製した負極を直径12.5mmの円盤状に打抜き、110℃で減圧乾燥して、測定用サンプルを作製した。このサンプルを水平になるように固定し、この上にマイクロシリンジにて1μlのプロピレンカーボネートを滴下した。滴下から液滴の消失までの時間を目視にて測定し、この時間の短さにより浸液性の良否を評価した。
【0108】
<初期電池特性及び高電流密度充放電特性の評価>
負極活物質100重量部に、スチレン−ブタジエンゴムの50%水分散液2重量部、及びカルボキシメチルセルロースの1%水溶液100重量部を加えて混練し、スラリーとした。銅箔上にこのスラリーをドクターブレード法で塗布した。110℃で乾燥した後、ロールプレスにより、負極層の厚さが65μm、密度が1.63g/mlとなるように圧密化した。これを直径12.5mmの円盤状に打抜き、190℃で減圧乾燥して負極とした。この負極と、リチウム金属板(対極0.5mm厚14φ)とを、基準電解液(B)を含浸させたセパレータを介して重ねて、充放電試験用の半電池を作製した。この半電池に0.2mAの電流で0.01V(Li/Li+)まで充電(=負極へのリチウムイオンのインターカレーション)を行ない、更にこの電圧で負極層1g当りの電流容量が350mAhrとなるまで充電した。次いで、0.4mAの電流で1.5Vまで放電し、充電量と放電量の差を不可逆容量とした。引続いて0.2mAの電流で0.005Vまで充電し、更に0.005Vで電流が0.02mAとなるまで充電した後、0.4mAの電流で1.5Vまで放電するサイクル充放電を2回繰り返した。この2回目の放電量を放電容量とした。続いて、0.2mAの電流で0.005Vまで充電し、更に0.005Vで電流が0.02mAとなるまで充電した後、0.2Cに相当する電流で1.0Vまで放電した。この時の放電量を0.2C放電容量とした。引き続き0.2mAの電流で0.005Vまで充電し、更に0.005Vで電流が0.02mAとなるまで充電後、2Cに相当する電流で、1.0Vまで放電した。このときの放電量を2C放電容量とした。高電流密度放電特性は、次の式から算出した。
高電流密度放電特性(%)=2C放電容量/0.2C放電容量
【0109】
<サイクル特性の評価>
負極活物質100重量部に、ポリエチレンの50%水分散液2重量部、及びカルボキシメチルセルロースの1%水溶液140重量部を加えて混練し、スラリーとした。銅箔上にこのスラリーをドクターブレード法で塗布した。110℃で乾燥したのちロールプレスにより負極層の密度が1.6g/cm3となるように圧密化した。これから長さ42mm、幅32mの試験片を切り出し、140℃で乾燥して負極とした。
【0110】
また、LiCoO2100重量部にポリ四フッ化エチレンの50%水分散液10重量部、カルボキシメチルセルロースの1%水分散液40重量部、及びカーボンブラック3重量部を加えて混練し、スラリーとした。アルミニウム箔の両面にこのスラリーをドクターブレード法で塗布した。110℃で乾燥し、更に層の密度が3.5g/cm3となるようにロールプレスで圧密化した。これから長さ40mm、幅30mmの試験片を切り出し、140℃で乾燥して正極とした。
【0111】
正極の両面に基準電解液(B)を含浸させたポリエチレンセパレータを介して負極を重ねて、サイクル試験用の電池とした。この電池に、先ず0.2Cで4.2Vまで充電し、更に4.2Vで4mAとなるまで充電した後、0.2Cで3.0Vまで放電する予備充放電を行なった。次いで0.7Cで4.2Vまで充電し、更に4.2Vで4mAとなるまで充電した後、1Cで3.0Vまで放電するサイクル充放電を201回行なった。1回目の放電容量に対する201回目の放電容量の比を求め、これをサイクル維持率とした。
【0112】
【表2】

【0113】
表2から、2種類以上の異なる高分子材料(C−1)及び(C−2)を個別に粒子(A)(炭素材料粒子)に添着した実施例1〜5の負極材料を用いたリチウム二次電池は、電解液に溶解しやすい高分子材料(C−1)のみを粒子(A)(炭素材料粒子)に添着した比較例1の負極材料を用いたリチウム二次電池、及び、高分子材料を添着させていない粒子(A)(炭素材料粒子)のみからなる比較例2の負極材料を用いたリチウム二次電池、2種類の高分子を同時に粒子(A)(炭素材料粒子)に添着した比較例3の負極材料を用いたリチウム二次電池と比較して、極板強度が高く、浸液性が良好で、初期不可逆容量が小さく、高電流密度充放電特性に優れ、サイクル維持率が高い、即ち、各種の電池特性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のリチウム二次電池用負極材料は、極板強度が高く、浸液性が良好で、初期不可逆容量が小さく、高電流密度充放電特性に優れ、サイクル維持率が高い、即ち各種の電池特性に優れたリチウム二次電池が実現される。また、本発明のリチウム二次電池用負極材料の製造方法によれば、上述の利点を有する負極材料を平易な工程で製造することが可能となる。よって本発明は、リチウム二次電池が用いられる電子機器等の各種の分野において、好適に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料粒子、金属粒子、及び金属酸化物粒子からなる群より選ばれる粒子(A)に、2種類以上の異なる高分子材料がそれぞれ粒子の異なる位置に添着された
ことを特徴とする、リチウム二次電池用負極材料。
【請求項2】
該高分子材料が、エチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとを3:7の体積比で混合した溶媒に1MのLiPF6を溶解させた基準電解液(B)に対して溶解しやすい1種類以上の高分子材料(C−1)と、上記基準電解液(B)に対して溶解しにくい1種類以上の高分子材料(C−2)とからなる
ことを特徴とする、請求項1記載のリチウム二次電池用負極材料。
【請求項3】
該粒子(A)が有する径1μm以下の細孔のうち、その細孔容積の5%以上の細孔に対して、上記基準電解液(B)に溶解しやすい高分子材料(C−1)が接するように添着される
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のリチウム二次電池用負極材料。
【請求項4】
上記基準電解液(B)に溶解しやすい高分子材料(C−1)として、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド、及びポリメタクリル酸メチルからなる群より選ばれる1種以上の材料を含む
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のリチウム二次電池用負極材料。
【請求項5】
上記基準電解液(B)に溶解しにくい高分子材料(C−2)として、ポリビニルアルコール及び/又はその架橋体を少なくとも含む
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載のリチウム二次電池用負極材料。
【請求項6】
炭素材料粒子、金属粒子、及び金属酸化物粒子からなる群より選ばれる粒子(A)に、エチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとを3:7の体積比で混合した溶媒に1MのLiPF6を溶解させた基準電解液(B)に対して溶解しやすい1種類以上の高分子材料(C−1)を添着する工程と、
該粒子(A)に、上記基準電解液(B)に対して溶解しにくい1種類以上の高分子材料(C−2)を添着する工程とを少なくとも備える
ことを特徴とする、リチウム二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか一項に記載のリチウム二次電池用負極材料(以下、「負極材料(D)と呼ぶ。)と、天然黒鉛,人造黒鉛,非晶質被覆黒鉛,及び非晶質炭素からなる群より選ばれる一種類以上の炭素材料(E)とが混合されてなるリチウム二次電池用負極材料であって、
負極材料(D)及び炭素材料(E)の総量に対する炭素材料(E)の割合が、5重量%以上、95重量%以下である
ことを特徴とする、リチウム二次電池用負極材料。
【請求項8】
集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備えると共に、
該活物質層が、バインダと、請求項1〜5の何れか一項に記載のリチウム二次電池用負極材料とを含有する
ことを特徴とする、リチウム二次電池用負極。
【請求項9】
該活物質層が、バインダとして、スチレン−ブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロースのうち少なくとも一方を含有する
ことを特徴とする、請求項8記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項10】
該活物質層が、該粒子(A)に添着される上記高分子材料(C−1)及び(C−2)並びにバインダという3種類以上の異なるポリマーを含有する
ことを特徴とする、請求項8又は請求項9記載のリチウム二次電池用負極。
【請求項11】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備えると共に、
該負極が、請求項8〜10の何れか一項に記載のリチウム二次電池用負極である
ことを特徴とする、リチウム二次電池。

【公開番号】特開2007−42285(P2007−42285A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209706(P2005−209706)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】