説明

リチウム二次電池用電極材、その製造方法、およびそれを備えるリチウム二次電池

【課題】リチウム二次電池用電極材としての利用率が高く、リチウム二次電池の出力特性を向上させることが可能な電極材を提供すること。
【解決手段】リチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中にリチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの他方の無機成分が三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を有しているナノヘテロ構造体からなることを特徴とするリチウム二次電池用電極材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノヘテロ構造を有するリチウム二次電池用電極材、その製造方法、およびそれを備えるリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、エネルギー密度の高い二次電池として知られており、様々な電子機器の電源として従来から使用されている。しかしながら、従来のリチウム二次電池は、出力特性、例えば、放電容量が必ずしも十分なものではなく、より高い出力特性を有するリチウム二次電池が求められていた。
【0003】
J.Power Source、2009年、第189巻、485頁〜489頁(非特許文献1)には、単分散ポリスチレンビーズを鋳型として逆オパール構造を有するリチウムイオン伝導体(Li0.35La0.55TiO(LLT))をゾル−ゲル法により形成し、このLLT多孔体の細孔内に電極材(LiMn)をゾル−ゲル法により充填した複合体を正極とするリチウム二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Haraら、J.Power Sources、2009年、第189巻、485頁〜489頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載のLLT−LiMn複合体は、LLT多孔体の細孔径が約2μmであるため、LLT多孔体とLiMnとの反応界面の面積が小さく、界面での電荷移動がスムーズに起こらないため、非特許文献1に記載のリチウム二次電池は、必ずしも十分な出力特性を発揮するものではなかった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ナノ構造を有し、リチウム二次電池用電極材としての利用率が高く、リチウム二次電池の出力特性を向上させることが可能な電極材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ブロックコポリマーを構成する第一ポリマーブロック成分とリチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの一方の無機前駆体と、第二ポリマーブロック成分とリチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの他方の無機前駆体とをそれぞれ組み合わせて用いることにより、ブロックコポリマーの自己組織化を利用してナノ相分離構造体を形成せしめ且つ前記無機前駆体をそれぞれリチウムイオン伝導体および電極活物質に変換せしめると共にブロックコポリマーを除去することによって、リチウムイオン伝導体および電極活物質うちの一方の無機成分からなるマトリックス中に他方の無機成分が三次元的にナノスケールの周期性をもって配置したナノヘテロ構造体が得られ、さらに、このナノヘテロ構造体がリチウム二次電池用電極材として高い利用率を有するものあることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のリチウム二次電池用電極材の製造方法は、
互いに混和しない少なくとも第一ポリマーブロック成分と第二ポリマーブロック成分とが結合してなるブロックコポリマーと、リチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、リチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの他方である第二無機前駆体と、を溶媒に溶解して原料溶液を調製する第一の工程と、
少なくとも、前記第一無機前駆体が導入された前記第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と、前記第二無機前駆体が導入された前記第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相と、が自己組織化により規則的に配置したナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理と、前記リチウムイオン伝導体前駆体および前記電極活物質前駆体をそれぞれリチウムイオン伝導体および電極活物質に変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とを含み、前記リチウムイオン伝導体と前記電極活物質とからなるナノヘテロ構造を有する電極材を得る第二の工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0009】
本発明に用いる前記第一無機前駆体と前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差は2(cal/cm1/2以下であることが好ましく、前記第二無機前駆体と前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差は2(cal/cm1/2以下であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明に用いる前記第一ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第一ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことが好ましい。また、前記第二ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第二ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことが好ましい。
【0011】
本発明に用いる前記ブロックコポリマーが、ポリスチレン成分、ポリイソプレン成分およびポリブタジエン成分からなる群から選択される少なくとも1種の第一ポリマーブロック成分と、ポリメチルメタクリレート成分、ポリエチレンオキシド成分、ポリビニルピリジン成分およびポリアクリル酸成分からなる群から選択される少なくとも1種の第二ポリマーブロック成分とが結合してなるものである場合、
前記第一無機前駆体としては、フェニル基、炭素数5以上の長鎖炭化水素鎖、シクロオクタテトラエン環、シクロペンタジエニル環、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも1つの構造を備える、有機金属化合物および有機半金属化合物のうちの少なくとも1種が好ましく、
前記第二無機前駆体としては、金属または半金属の塩、金属または半金属を含む炭素数1〜4のアルコキシド、および金属または半金属のアセチルアセトナート錯体からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0012】
また、このような本発明の製造方法によって得ることができるようになった本発明のリチウム二次電池用電極材は、リチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中にリチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの他方の無機成分が三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を有しているナノヘテロ構造体からなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明のリチウム二次電池用電極材において、前記マトリックス中に三次元的且つ周期的に配置している無機成分の形状としては、柱状、層状およびジャイロイド状からなる群から選択される形状が好ましい。
【0014】
また、前記リチウムイオン伝導体としては、硫化物系リチウムイオン伝導体、ガーネット型リチウムイオン伝導体、LISICON型リチウムイオン伝導体、NASICON型リチウムイオン伝導体およびペロブスカイト型リチウムイオン伝導体からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0015】
さらに、前記電極活物質としては、酸化物系正極活物質およびオリビン型正極活物質からなる群から選択される少なくとも1種の正極活物質、あるいは、酸化物系負極活物質、炭素系負極活物質および金属系負極活物質からなる群から選択される少なくとも1種の負極活物質が好ましい。
【0016】
本発明のリチウム二次電池は、このような電極材を正極材および負極材の少なくとも一方として備えるものであり、正極材と負極材の両方が本発明の電極材であるリチウム二次電池が特に好ましい。
【0017】
なお、前記本発明の方法によってナノヘテロ構造を有する前記本発明のリチウム二次電池用電極材が得られるようになる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、互いに混和しないAおよびBの2種類のポリマーブロック成分が結合してなるブロックコポリマーは、ガラス転移点以上の温度で熱処理することでA相とB相とが空間的に分離したナノ相分離構造を構成する(自己組織化)。その際、ポリマーブロック成分の分子量比によって一般的に相分離構造は変化する。具体的には、A:Bの分子量比が1:1の場合には一般的に層状の層状構造をとり、分子量比が1:1からずれるにしたがい、二つの連続相が絡み合ったようなジャイロイド状構造から柱状構造、さらに球状構造へと変化してゆく。なお、図1は、ブロックコポリマーから生成されるナノ相分離構造を示す模式図であり、左から、層状構造(a)、ジャイロイド状構造(b)、柱状構造(c)、球状構造(d)をそれぞれ示しており、右側の構造ほど一般的にAの割合が高い。
【0018】
本発明のリチウム二次電池用電極材の製造方法においては、先ず、上記のブロックコポリマーの自己組織化を利用して、複数の無機前駆体を三次元的にナノスケールの周期性をもって配置させる。すなわち、互いに混和しない複数のポリマーブロック成分からなるブロックコポリマーは、前述のように自己組織化によりナノスケールで相分離する。その際、本発明においては、ブロックコポリマーを構成する第一ポリマーブロック成分とリチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、第二ポリマーブロック成分とリチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの他方である第二無機前駆体とをそれぞれ組み合わせて用い、さらには、前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第二無機前駆体とを組み合わせて用いることが好ましい。これにより、第一無機前駆体および第二無機前駆体はそれぞれ第一ポリマーブロック成分中および第二ポリマーブロック成分中に十分に導入された状態でブロックコポリマーの自己組織化と共にナノ相分離構造を構成し、ナノ相分離構造を所定の構造とすることによって前記無機前駆体は三次元的にナノスケールの周期性をもって配置される。
【0019】
さらに、本発明においては、前記リチウムイオン伝導体前駆体および前記電極活物質前駆体をそれぞれリチウムイオン伝導体および電極活物質に変換せしめると共にブロックコポリマーを除去することによって、ナノ相分離構造の形状に応じてリチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に他方の無機成分が三次元的に特定のナノスケールの周期性をもって配置されたナノヘテロ構造を有する電極材が得られる。なお、本発明においては、前記第一無機前駆体および前記第二無機前駆体と第一ポリマーブロック成分および第二ポリマーブロック成分とをそれぞれ組み合わせて用いており、さらには、これらの溶解度パラメータの差がそれぞれ2(cal/cm1/2以下であることが好ましい。これにより、各ポリマーブロック成分に対する各無機前駆体の導入量が十分に多くなり、そのため前記リチウムイオン伝導体前駆体および前記電極活物質前駆体をそれぞれリチウムイオン伝導体および電極活物質に変換せしめると共にブロックコポリマーを除去してもナノスケールの三次元的周期構造が十分に維持されると本発明者らは推察する。
【0020】
なお、本発明における「溶解度パラメータ」とは、ヒルデブラントによって導入された正則溶液論により定義されたいわゆる「SP値」であり、以下の式:
溶解度パラメータδ[(cal/cm1/2]=(ΔE/V)1/2
(式中、ΔEはモル蒸発エネルギー[cal]、Vはモル体積[cm]を示す。)
に基づいて求められる値である。
【0021】
また、本発明における「繰り返し構造の一単位の長さの平均値」とは、一方の無機成分からなるマトリックス中に配置されている他方の無機成分の隣接するもの同士の中心間の距離の平均値であり、いわゆる周期構造の間隔(d)に相当する。係る周期構造の間隔(d)は、以下のように小角X線回折により求められる。また、本発明に係る球状、柱状、ジャイロイド状または層状といった構造についても、以下のように小角X線回折により測定される特徴的な回折パターンにより規定することができる。
【0022】
すなわち、小角X線回折により、球状、柱状、ジャイロイド状、層状などの形状の構造体がマトリックス中に周期的に配置した擬似結晶格子の特徴的な格子面からのBragg反射が観察される。その際、周期構造が形成されていると回折ピークが観察され、それら回折スペクトルの大きさ(q=2π/d)の比から、球状、柱状、ジャイロイド状、層状などの構造を特定することができる。また、係る回折ピークのピーク位置から、Braggの式(nλ=2dsinθ;λはX線波長、θは回折角を示す。)により、周期構造の間隔(d)を求めることができる。以下の表1に、各構造とピーク位置の回折スペクトルの大きさ(q)の比の関係を示す。なお、表1に示すようなピークが全て確認される必要はなく、観察されたピークから構造が特定できればよい。
【0023】
【表1】

【0024】
また、本発明に係る球状、柱状、ジャイロイド状、層状といった構造を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて特定することも可能であり、それによってその形状や周期性を判別・評価することができる。さらに、様々な方向からの観察や三次元トモグラフィーを用いることによって、三次元性をより詳しく判別することも可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、リチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に他方の無機成分が三次元的にナノスケールの周期性をもって配置したナノヘテロ構造を有し、リチウム二次電池用電極材としての利用率が高い電極材を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】A−B型ブロックコポリマーから生成されるナノ相分離構造を示す模式図である。
【図2】本発明のリチウム二次電池の好適な実施態様の一例を示す模式図である。
【図3】実施例1で得られたリチウム二次電池用電極材(ナノヘテロ構造体)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例2で得られたリチウム二次電池用電極材(ナノヘテロ構造体)の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0028】
先ず、本発明のリチウム二次電池用電極材について説明する。本発明のリチウム二次電池用電極材は、リチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中にリチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの他方の無機成分が三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nm(より好ましくは1nm〜50nm、特に好ましくは1〜30nm)である三次元的周期構造を有しているナノヘテロ構造体からなるものである。
【0029】
このような本発明のリチウム二次電池用電極材は、従来の製造方法では実現することができなかった、球状構造、柱状構造、ジャイロイド状構造、層状構造(好ましくは、柱状構造、ジャイロイド状構造、層状構造)といったナノ構造を有するものであり、リチウムイオン伝導体と電極活物質酸素との組み合わせについて、それらの配置、組成、構造スケールなどを様々に制御したナノヘテロ構造を有するものとして得ることが可能である。そのため、本発明のリチウム二次電池用電極材によれば、界面増大効果、ナノサイズ効果、耐久性などの飛躍的な向上が発揮され、リチウム二次電池用電極材としての利用率を高めることができる。また、本発明のリチウム二次電池用電極材は、ナノ構造に起因して反応界面の面積が大きく、電荷移動がスムーズに起こるため、出力特性が向上する。その結果、このような電極材を備えるリチウム二次電池においては蓄電池特性の飛躍的な向上が発揮されるようになる。
【0030】
本発明のリチウム二次電池用電極材を構成するリチウムイオン伝導体としては、リチウムイオン伝導性を示す無機成分であれば特に制限はないが、例えば、硫化物系リチウムイオン伝導体(LiS−Pなど)、ガーネット型リチウムイオン伝導体(Li7−xLaZr2−xNb12など)、LISICON型リチウムイオン伝導体(Li14Zn(GeOなど)、NASICON型リチウムイオン伝導体(Li1.3Al0.3Ti1.7(POなど)、ペロブスカイト型リチウムイオン伝導体(Li0.51La0.34TiO2.94など)が好ましい。これらのリチウムイオン伝導体は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0031】
また、本発明のリチウム二次電池用電極材を構成する電極活物質としては、正極活物質および負極活物質が挙げられる。前記正極活物質としては特に制限はないが、例えば、酸化物系正極活物質(LiCoO、LiNiO、LiMn、およびこれらを構成するCo原子、Ni原子またはMn原子の一部が他の原子で置換された活物質など)、オリビン型正極活物質(LiFePOなど)が好ましい。また、前記負極活物質としては特に制限はないが、例えば、酸化物系負極活物質(LiTi12など)、炭素系負極活物質(黒鉛など)、金属系負極活物質(Liと合金を形成する金属(例えば、Sn、Al、Ge、Si、Pb)やこの金属とLiとの合金など)が好ましい。これらの正極活物質および負極活物質は、それぞれ1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明のリチウム二次電池用電極材においては、リチウム伝導体と電極活物質のいずれがナノヘテロ構造のマトリックスを形成していてもよいが、電極材の体積当りあるいは質量当りの充放電容量を最大にするという観点から、電極活物質がマトリックスを形成していることが好ましい。また、電極材の厚みとしては特に制限はないが、薄すぎると電池全体に占める電極の割合が減少し、容量が小さくなり、一方、厚すぎると電極抵抗が増大し、電極の強度が低下するという観点から、1〜100μmが好ましい。さらに、マトリックス中に三次元的且つ周期的に配置している無機成分の断面直径としては、小さすぎると導電パスが形成しにくくなり、大きすぎると界面が減少するという観点から、5〜90nmが好ましい。
【0033】
次に、このような本発明のリチウム二次電池用電極材の製造方法について説明する。本発明のリチウム二次電池用電極材の製造方法は、
互いに混和しない少なくとも第一ポリマーブロック成分と第二ポリマーブロック成分とが結合してなるブロックコポリマーと、リチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、リチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの他方である第二無機前駆体と、を溶媒に溶解して原料溶液を調製する第一の工程と、
少なくとも、前記第一無機前駆体が導入された前記第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と、前記第二無機前駆体が導入された前記第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相と、が自己組織化により規則的に配置したナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理と、前記リチウムイオン伝導体前駆体および前記電極活物質前駆体をそれぞれリチウムイオン伝導体および電極活物質に変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とを含み、前記リチウムイオン伝導体と前記電極活物質とからなるナノヘテロ構造を有する電極材を得る第二の工程と、
を含む方法である。以下に、それぞれの工程を説明する。
【0034】
[第一の工程:原料溶液調製工程]
係る工程は、以下に説明するブロックコポリマーと以下に説明する無機前駆体とを溶媒に溶解して原料溶液を調製する工程である。
【0035】
本発明で用いられるブロックコポリマーは、少なくとも第一ポリマーブロック成分と第二ポリマーブロック成分とが結合してなるものである。このようなブロックコポリマーの具体例として、繰り返し単位aを有するポリマーブロック成分A(第一ポリマーブロック成分)と、繰り返し単位bを有するポリマーブロック成分B(第二ポリマーブロック成分)と、が末端同士で結合した、−(aa…aa)−(bb…bb)−という構造をもつA−B型、A−B−A型のブロックコポリマーがある。また、1種類以上のポリマーブロック成分が中心から放射状に伸びたスター型や、ブロックコポリマーの主鎖に他のポリマー成分がぶらさがった形でもよい。
【0036】
本発明で用いられるブロックコポリマーを構成するポリマーブロック成分は、互いに混和しないものであれば、その種類に特に限定はない。したがって、本発明で用いられるブロックコポリマーは、極性がそれぞれ異なるポリマーブロック成分からなるものが好ましい。係るブロックコポリマーの具体例としては、ポリスチレン−ポリメチルメタクリレート(PS−b−PMMA)、ポリスチレン−ポリエチレンオキシド(PS−b−PEO)、ポリスチレン−ポリビニルピリジン(PS−b−PVP)、ポリスチレン−ポリフェロセニルジメチルシラン(PS−b−PFS)、ポリイソプレン−ポリエチレンオキシド(PI−b−PEO)、ポリブタジエン−ポリエチレンオキシド(PB−b−PEO)、ポリエチルエチレン−ポリエチレンオキシド(PEE−b−PEO)、ポリブタジエン−ポリビニルピリジン(PB−b−PVP)、ポリイソプレン−ポリメチルメタクリレート(PI−b−PMMA)、ポリスチレン−ポリアクリル酸(PS−b−PAA)、ポリブタジエン−ポリメチルメタクリレート(PB−b−PMMA)などが挙げられる。中でも、ポリマーブロック成分の極性の差が大きいほど導入する前駆体も極性の差が大きいものを用いることができるため、それぞれのポリマーブロック成分に前駆体を導入し易くなるという観点から、PS−b−PVP、PS−b−PEO、PS−b−PAAなどが好ましい。
【0037】
ブロックコポリマーおよびそれを構成する各ポリマーブロック成分の分子量は、製造するリチウム二次電池用電極材のナノ構造スケール(球や柱などのサイズや間隔)や配置に応じて適宜選択すればよい。例えば、数平均分子量が100〜1000万(より好ましくは1000〜100万)であるブロックコポリマーを用いることが好ましく、数平均分子量が小さいほどナノ構造スケールは小さくなる傾向にある。また、各ポリマーブロック成分の数平均分子量に関しては、各ポリマーブロック成分の分子量比などを調整することにより、後述するナノ相分離構造体の形成工程において自己組織化により得られるナノ相分離構造を所望の構造とすることができ、ひいては、無機成分を所望の形態で配列した構造をもつナノヘテロ構造を有するリチウム二次電池用電極材が得られるようになる。また、後述する熱処理(焼成)または光照射により容易に分解されるブロックコポリマーや、溶媒により容易に除去されるブロックコポリマーを用いることが好ましい。
【0038】
本発明で用いられるリチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体は、それぞれ前述したリチウムイオン伝導体および電極活物質を後述する変換処理によって形成できる無機前駆体であれば特に制限はない。具体的には、前記リチウムイオン伝導体および電極活物質を構成する金属または半金属の塩(例えば、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、有機酸塩(アクリル酸塩など))、前記金属または前記半金属を含む炭素数1〜4のアルコキシド(例えば、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド)、前記金属または前記半金属の錯体(例えば、アセチルアセトナート錯体)、前記金属または前記半金属を含む有機金属化合物または有機半金属化合物(例えば、フェニル基、炭素数5以上の長鎖炭化水素鎖、シクロオクタテトラエン環、シクロペンタジエニル環、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の構造を備えるもの)が好ましい。このようなリチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体は、目的とするナノヘテロ構造を有するリチウム二次電池用電極材を構成するリチウムイオン伝導体と電極活物質との組み合わせに応じて、且つ、それらが前述の諸条件を満たすように1種または2種以上を適宜選択して使用される。
【0039】
本発明で用いられる溶媒としては、用いるブロックコポリマーと第一および第二無機前駆体とを溶解できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、クロロホルム、ベンゼンなどが挙げられる。このような溶媒は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
なお、本明細書において、「溶解」とは、物質(溶質)が溶媒に溶けて均一混合物(溶液)となる現象であって、溶解後、溶質の少なくとも一部がイオンとなる場合、溶質がイオンに解離せず分子状で存在している場合、分子やイオンが会合して存在している場合、などが含まれる。
【0041】
本発明においては、前記第一ポリマーブロック成分と前記リチウムイオン伝導体前駆体および前記電極活物質前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分と前記前駆体のうちの他方である第二無機前駆体とをそれぞれ組み合わせて用い、さらには、前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第二無機前駆体とを組み合わせて用いることが好ましい。このような条件を満たす第一無機前駆体と第二無機前駆体とを組み合わせて用いることにより、後述するナノ相分離構造体を形成する工程において、第一ポリマーブロック成分中に第一無機前駆体が、第二ポリマーブロック成分中に第二無機前駆体がそれぞれ十分に導入された状態でブロックコポリマーの自己組織化と共にナノ相分離構造が構成され、前記無機前駆体は三次元的にナノスケールの周期性をもって配置される。
【0042】
本発明に用いる前記第一ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第一ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことが好ましい。また、前記第二ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第二ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことが好ましい。さらに、これらの両方の条件を満たすことがより好ましい。
【0043】
さらに、本発明において用いる前記第一無機前駆体は前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2超であることが好ましい。また、前記第二無機前駆体は前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2超であることが好ましい。さらに、これらの両方の条件を満たすことがより好ましい。
【0044】
このような条件を満たす第一無機前駆体と第二無機前駆体とを組み合わせて用いることにより、後述するナノ相分離構造体を形成する工程において、第一ポリマーブロック成分中に不純物として第二無機前駆体の一部が、また、第二ポリマーブロック成分中に不純物として第一無機前駆体の一部が導入されてしまうことがより確実に防止される傾向にあり、得られるナノヘテロ構造を有するリチウム二次電池用電極材におけるマトリックスを構成する無機成分の純度および/またはマトリックス中に配置される無機成分の純度がより向上する傾向にある。
【0045】
このような条件を満たす第一および第二ポリマーブロック成分と第一および第二無機前駆体との組み合わせとしては、第一ポリマーブロック成分がポリスチレン成分、ポリイソプレン成分およびポリブタジエン成分からなる群から選択される少なくとも1種の極性の小さいポリマーブロック成分であり、第二ポリマーブロック成分がポリメチルメタクリレート成分、ポリエチレンオキシド成分、ポリビニルピリジン成分およびポリアクリル酸成分からなる群から選択される少なくとも1種の極性の大きいポリマーブロック成分であり、第一無機前駆体が前記有機金属化合物および前記有機半金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種の極性の小さい無機前駆体であり、第二無機前駆体が前記金属または前記半金属の塩、前記金属または前記半金属を含む炭素数1〜4のアルコキシド、ならびに前記金属または前記半金属のアセチルアセトナート錯体からなる群から選択される少なくとも1種の極性の大きい無機前駆体である組み合わせが好ましい。
【0046】
また、前記第一無機前駆体および前記第二無機前駆体のうちの少なくとも一方(より好ましくは両方)は、用いる溶媒との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下であることが好ましい。このような条件を満たす第一無機前駆体および/または第二無機前駆体を用いることにより、溶媒に無機前駆体がより確実に溶解し、後述するナノ相分離構造体を形成する工程においてポリマーブロック成分中に無機前駆体がより確実に導入される傾向にある。
【0047】
さらに、得られる原料溶液における溶質(ブロックコポリマー、第一無機前駆体および第二無機前駆体)の割合は特に限定されないが、原料溶液の全量を100質量%としたときに、溶質の合計量を0.1〜30質量%程度とすることが好ましく、0.5〜10質量%とすることがより好ましい。また、ブロックコポリマーに対する第一および第二無機前駆体の使用量を調整することにより、各ポリマーブロック成分に導入される各無機前駆体の量が調整されるため、得られるナノヘテロ構造を有するリチウム二次電池用電極材におけるリチウムイオン伝導体と電極活物質との比率やこれらの構造スケール(球や柱などのサイズや間隔)などを所望の程度とすることができる。
【0048】
[第二の工程:電極材形成工程]
この工程は、以下に詳述する相分離処理と変換処理と除去処理とを含み、リチウムイオン伝導体と電極活物質とからなるナノヘテロ構造を有する電極材を調製する工程である。
【0049】
先ず、前記第一の工程において調製された原料溶液は、ブロックコポリマー、リチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体を含むものであるが、本発明においては、前記第一ポリマーブロック成分とリチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分と前記前駆体のうちの他方である第二無機前駆体とをそれぞれ組み合わせて用い、さらには、前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第二無機前駆体とを組み合わせて用いることが好ましい。これにより、第一無機前駆体および第二無機前駆体はそれぞれ第一ポリマーブロック成分中および第二ポリマーブロック成分中に十分に導入された状態で存在する。そのため、ブロックコポリマーの自己組織化によりナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理により、第一無機前駆体が導入された第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と第二無機前駆体が導入された第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相とが規則的に配置し、前記無機前駆体は三次元的にナノスケールの周期性をもって配置される。
【0050】
このような相分離処理としては、特に限定されないが、用いるブロックコポリマーのガラス転移点以上の温度で熱処理することにより、ブロックコポリマーは自己組織化され、相分離構造が得られる。
【0051】
次に、本発明においては、相分離処理により形成されたナノ相分離構造体に対して、前記リチウムイオン伝導体前駆体および前記電極活物質前駆体をそれぞれリチウムイオン伝導体および電極活物質に変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とが施される。係る変換処理により前記リチウムイオン伝導体前駆体および前記電極活物質前駆体をそれぞれリチウムイオン伝導体および電極活物質に変換せしめると共に、係る除去処理によりブロックコポリマーを除去することによって、ナノ相分離構造の種類(形状)に応じてリチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に他方の無機成分が球状、柱状、ジャイロイド状または層状(好ましくは、柱状、ジャイロイド状または層状)といった形状で三次元的に特定のナノスケールの周期性をもって配置されたナノヘテロ構造を有する本発明のリチウム二次電池用電極材が得られる。
【0052】
このような変換処理としては、前記無機前駆体が前記無機成分に変換される温度以上で加熱して無機成分に変換する工程であってもよいし、前記無機前駆体を加水分解するとともに脱水縮合させて無機成分に変換する工程であってもよい。
【0053】
また、除去処理としては、ブロックコポリマーが分解する温度以上で熱処理(焼成)することによってブロックコポリマーを分解する工程であってもよいが、溶媒によりブロックコポリマーを溶解して除去する工程や、紫外線などの光照射によりブロックコポリマーを分解する工程であってもよい。
【0054】
さらに、本発明における前記第二の工程においては、前記第一の工程において調製された原料溶液に対してブロックコポリマーが分解する温度以上で熱処理(焼成)を施すことによって、前記相分離処理、前記変換処理および前記除去処理を一度の熱処理で行うことができる。このように一度の熱処理により前記相分離処理、前記変換処理および前記除去処理を完結させるためには、用いるブロックコポリマーや無機前駆体の種類によっても異なるが、300〜1200℃(より好ましくは400〜900℃)で0.1〜50時間程度の熱処理を施すことが好ましい。
【0055】
このような熱処理は、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素ガスなど)中、酸化ガス雰囲気(例えば、空気など)中、あるいは還元ガス雰囲気(例えば、水素など)中で行なってもよい。不活性ガス雰囲気中で無機前駆体を無機成分に変換せしめると共にブロックコポリマーを除去することにより、ナノスケールの三次元的周期構造がより確実に維持される傾向にある。また、酸化ガス雰囲気中で無機前駆体を無機成分に変換せしめることにより、金属または半金属の酸化物からなるリチウムイオン伝導体および電極活物質を備える電極材を得ることができる。さらに、還元ガス雰囲気中で無機前駆体を無機成分に変換せしめることにより、金属または半金属からなるリチウムイオン伝導体および電極活物質を備える電極材を得ることができる。このような不活性ガス雰囲気中、酸化ガス雰囲気中、あるいは還元ガス雰囲気中での熱処理の条件は特に制限されないが、300〜1200℃(より好ましくは400〜900℃)で0.1〜50時間程度の処理が好ましい。
【0056】
また、前記熱処理の後あるいは前記熱処理の際に、それぞれ公知の方法により、アルゴン雰囲気などを用いて無機成分を炭化せしめる処理、アンモニア雰囲気などを用いて無機成分を窒化せしめる処理、炭化ホウ素含有雰囲気などを用いて無機成分を硼化せしめる処理などを更に施すようにしてもよい。
【0057】
本発明のリチウム二次電池用電極材の製造方法においては、前記第一の工程の後に、前記原料溶液を熱処理容器に装入して前記第二の工程を施してもよいし、あるいは、前記原料溶液を基材の表面に塗布した後、前記第二の工程を施してもよい。後者の方法によれば、基材の表面に膜状のリチウム二次電池用電極材を直接形成することができる。用いる基材の種類に特に限定はなく、得られるリチウム二次電池用電極材の用途などに応じて適宜選択すればよい。また、原料溶液の塗布方法としては、ハケ塗り、スプレー法、ディッピング法、スピン法、カーテンフロー法などが用いられる。
【0058】
次に、本発明のリチウム二次電池について説明する。本発明のリチウム二次電池は、前記本発明の電極材を正極材および負極材の少なくとも一方として備えるものであり、高い出力特性を発揮するという観点から、正極材および負極材の両方が前記本発明の電極材であるリチウム二次電池が特に好ましい。具体的には、前記本発明の電極材と対極とによって電解質を挟持したリチウム二次電池である。
【0059】
本発明のリチウム二次電池においては、前記本発明の電極材を正極材として用いた場合には、公知のリチウム二次電池用負極材を対極として使用することができ、また、前記本発明の電極材を負極材として用いた場合には、公知のリチウム二次電池用正極材を対極として使用することができる。さらに、図2に示すように、正極材と負極材の両方に前記本発明の電極材を使用し、これらの電極材によって電解質を挟持することもできる。このようなリチウム二次電池は、電極材としての利用率が高い本発明の電極材を正極材と負極材の両方に使用しているため、高い出力特性を発揮する。なお、本発明の電極材は、電極活物質を適宜選択することによって、リチウム二次電池の正極材としても負極材としても使用することができる。また、前記電解質としては特に制限はなく、公知のリチウム二次電池用電解質を使用することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
ブロックコポリマーとしてポリスチレン−b−ポリ(4−ビニルピリジン)(PS−b−P4VP、PS成分の数平均分子量:400×10、P4VP成分の数平均分子量:180×10)0.1gと、リチウムイオン伝導体前駆体であるLi0.5La0.5TiO前駆体(Li前駆体、La前駆体およびTi前駆体)としてリチウムアクリレート(CH=CHCOOLi)0.037g、酢酸ランタン(La(CHCOO))0.150gおよびシクロペンタジエニルチタニウムクロリド(Ti(CPD)Cl)0.138gと、正極活物質前駆体であるLiCoO前駆体(Li前駆体およびCo前駆体)としてリチウムフェノキシド(PhOLi)0.048gおよびコバルトフタロシアニン(CoPC)0.274gとを10mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、原料溶液を得た。
【0062】
次に、得られた原料溶液を熱処理容器に入れ、空気気流下、650℃で3時間熱処理することによって無機構造体(1cmφ×10μm)を得た。
【0063】
得られた無機構造体を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したところ、図3に示すように、リチウムイオン伝導体であるLi0.5La0.5TiOマトリックス中に正極活物質である柱状のLiCoOが三次元的且つ周期的に配置しているナノヘテロ構造体であることが確認された。
【0064】
また、得られた無機構造体について小角X線回折測定装置(リガク社製、商品名:NANO−Viewer)を用いて小角X線回折パターンを測定したところ、周期構造の間隔(d)は24.4nmであり、柱状構造に特徴的な回折ピークパターン(ピーク位置の回折スペクトルの大きさ(q)の比)が確認された。
【0065】
このナノヘテロ構造体を正極材とし、リチウム金属箔(1cmφ×400μm)を負極材として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)ゲル電解質(1.4cmφ×2μm)をこれらの電極材で挟持し、電池セルを作製した。得られた電池セルの放電容量を定電流定電圧充電により3V〜4.2Vの範囲で測定し、放電容量の理論値と実測値から、前記ナノヘテロ構造体の正極材としての利用率を求めたところ、96%であった。
【0066】
(実施例2)
ブロックコポリマーとしてPS成分の数平均分子量が340×10であり、P4VP成分の数平均分子量が170×10であるPS−b−P4VPを0.1g使用し、正極活物質前駆体の代わりに負極活物質前駆体としてLiTi12前駆体(Li前駆体およびTi前駆体)であるリチウムフェノキシド(PhOLi)0.048gおよびチタニウムフタロシアニン(TiPC)0.284gを使用した以外は、実施例1と同様にして無機構造体(1cmφ×8μm)を作製した。
【0067】
得られた無機構造体を実施例1と同様に透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したところ、図4に示すように、リチウムイオン伝導体であるLi0.5La0.5TiOマトリックス中に負極活物質であるジャイロイド状のLiTi12が三次元的且つ周期的に配置しているナノヘテロ構造体であることが確認された。
【0068】
また、得られた無機構造体について実施例1と同様に小角X線回折パターンを測定したところ、周期構造の間隔(d)は21.7nmであり、ジャイロイド状構造に特徴的な回折ピークパターン(ピーク位置の回折スペクトルの大きさ(q)の比)が確認された。
【0069】
このナノヘテロ構造体と、対極としてリチウム金属箔(1cmφ×400μm)とを用いて、PMMAゲル電解質(1.4cmφ×2μm)を挟持し、電池セルを作製した。測定範囲を1V〜2.2Vに変更した以外は実施例1と同様に得られた電池セルの放電容量を測定し、放電容量の理論値と実測値から、前記ナノヘテロ構造体の利用率を求めたところ、94%であった。
【0070】
(実施例3)
ブロックコポリマーとしてPS成分の数平均分子量が180×10であり且つ溶解度パラメータが9.1(cal/cm1/2であり、P4VP成分の数平均分子量が400×10であり且つ溶解度パラメータが12.0(cal/cm1/2であるPS−b−P4VPを0.1g使用し、リチウムイオン伝導体前駆体であるLi0.5La0.5TiO前駆体(Li前駆体、La前駆体およびTi前駆体)としてビス(トリフルオロエチル)ジチオカルバミン酸リチウム(LiFDDC、溶解度パラメータ:8.8(cal/cm1/2)0.04g、ランタンアセチルアセトナート(La(acac)、溶解度パラメータ:9.0(cal/cm1/2)0.12gおよび四塩化チタン(TiCl、溶解度パラメータ:9.0(cal/cm1/2)0.25gを使用し、正極活物質前駆体であるLiCoO前駆体(Li前駆体およびCo前駆体)としてピロリジンジチオカルバミン酸リチウム(LiPDC、溶解度パラメータ:11.4(cal/cm1/2)0.052gおよびピロリジンジチオカルバミン酸コバルト(CoPDC、溶解度パラメータ:11.4(cal/cm1/2)0.251gを使用した以外は、実施例1と同様にして無機構造体(1cmφ×10μm)を作製した。なお、THFの溶解度パラメータは9.1(cal/cm1/2である。
【0071】
得られた無機構造体を実施例1と同様に透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したところ、正極活物質であるLiCoOマトリックス中にリチウムイオン伝導体である柱状のLi0.5La0.5TiOが三次元的且つ周期的に配置しているナノヘテロ構造体であることが確認された。
【0072】
また、得られた無機構造体について実施例1と同様に小角X線回折パターンを測定したところ、周期構造の間隔(d)は20.9nmであり、柱状構造に特徴的な回折ピークパターン(ピーク位置の回折スペクトルの大きさ(q)の比)が確認された。
【0073】
このナノヘテロ構造体を正極材とし、リチウム金属箔(1cmφ×400μm)を負極材として、ポリエチレンオキシド(PEO)ゲル電解質(1.4cmφ×2μm)をこれらの電極材で挟持し、電池セルを作製した。得られた電池セルの放電容量を実施例1と同様に測定し、放電容量の理論値と実測値から、前記ナノヘテロ構造体の正極材としての利用率を求めたところ、94%であった。
【0074】
(実施例4)
ブロックコポリマーとしてPS成分の数平均分子量が170×10であり且つ溶解度パラメータが9.1(cal/cm1/2であり、P4VP成分の数平均分子量が340×10であり且つ溶解度パラメータが12.0(cal/cm1/2であるPS−b−P4VPを0.1g使用し、リチウムイオン伝導体前駆体としてLi1.5Al0.5Ge1.5(PO前駆体(Li前駆体、Al前駆体、Ge前駆体およびPO前駆体)であるビス(トリフルオロエチル)ジチオカルバミン酸リチウム(LiFDDC、溶解度パラメータ:8.8(cal/cm1/2)0.08g、アルミニウムアセチルアセトナート(Al(acac)、溶解度パラメータ:9.0(cal/cm1/2)0.20g、ゲルマニウムアセチルアセトナート(Ge(acac)、溶解度パラメータ:9.0(cal/cm1/2)0.16gおよび亜リン酸エチルエステル(溶解度パラメータ:8.9(cal/cm1/2)0.20gを使用し、正極活物質前駆体としてLiCoPO前駆体(Li前駆体、Co前駆体およびPO前駆体)であるピロリジンジチオカルバミン酸リチウム(LiPDC、溶解度パラメータ:11.4(cal/cm1/2)0.061g、ピロリジンジチオカルバミン酸コバルト(CoPDC、溶解度パラメータ:11.4(cal/cm1/2)0.23g、ポリ[(4−メトキシフェノキシ)(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)(2−アリルフェノキシ)ホスファゼン](溶解度パラメータ:11.0(cal/cm1/2)0.087gを使用した以外は、実施例1と同様にして無機構造体(1cmφ×10μm)を作製した。
【0075】
得られた無機構造体を実施例1と同様に透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したところ、正極活物質であるLiCoPOマトリックス中にリチウムイオン伝導体であるジャイロイド状のLi1.5Al0.5Ge1.5(POが三次元的且つ周期的に配置しているナノヘテロ構造体であることが確認された。
【0076】
また、得られた無機構造体について実施例1と同様に小角X線回折パターンを測定したところ、周期構造の間隔(d)は26.1nmであり、ジャイロイド状構造に特徴的な回折ピークパターン(ピーク位置の回折スペクトルの大きさ(q)の比)が確認された。
【0077】
このナノヘテロ構造体を正極材とし、リチウム金属箔(1cmφ×400μm)を負極材として、PEOゲル電解質(1.4cmφ×2μm)をこれらの電極材で挟持し、電池セルを作製した。測定範囲を3V〜5.5Vに変更した以外は実施例1と同様に得られた電池セルの放電容量を測定し、放電容量の理論値と実測値から、前記ナノヘテロ構造体の正極材としての利用率を求めたところ、96%であった。
【0078】
(実施例5)
ブロックコポリマーとしてPS成分の数平均分子量が170×10であり且つ溶解度パラメータが9.1(cal/cm1/2であり、P4VP成分の数平均分子量が340×10であり且つ溶解度パラメータが12.0(cal/cm1/2であるPS−b−P4VPを0.1g使用し、リチウムイオン伝導体前駆体であるLi0.5La0.5TiO前駆体(Li前駆体、La前駆体およびTi前駆体)としてビス(トリフルオロエチル)ジチオカルバミン酸リチウム(LiFDDC、溶解度パラメータ:8.8(cal/cm1/2)0.04g、ランタンアセチルアセトナート(La(acac)、溶解度パラメータ:9.0(cal/cm1/2)0.12gおよび四塩化チタン(TiCl、溶解度パラメータ:9.0(cal/cm1/2)0.25gを使用し、正極活物質前駆体の代わりに負極活物質前駆体としてLiTi12前駆体(Li前駆体およびTi前駆体)であるピロリジンジチオカルバミン酸リチウム(LiPDC、溶解度パラメータ:11.4(cal/cm1/2)0.032gおよびピロリジンジチオカルバミン酸チタン(TiPDC、溶解度パラメータ:11.4(cal/cm1/2)0.41gを使用した以外は、実施例1と同様にして無機構造体(1cmφ×10μm)を作製した。
【0079】
得られた無機構造体を実施例1と同様に透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したところ、負極活物質であるLiTi12マトリックス中にリチウムイオン伝導体であるジャイロイド状のLi0.5La0.5TiOが三次元的且つ周期的に配置しているナノヘテロ構造体であることが確認された。
【0080】
また、得られた無機構造体について実施例1と同様に小角X線回折パターンを測定したところ、周期構造の間隔(d)は22.1nmであり、ジャイロイド状構造に特徴的な回折ピークパターン(ピーク位置の回折スペクトルの大きさ(q)の比)が確認された。
【0081】
このナノヘテロ構造体と、対極としてリチウム金属箔(1cmφ×400μm)とを用いて、PEOゲル電解質(1.4cmφ×2μm)を挟持し、電池セルを作製した。測定範囲を1V〜2.2Vに変更した以外は実施例1と同様に得られた電池セルの放電容量を測定し、放電容量の理論値と実測値から、前記ナノヘテロ構造体の利用率を求めたところ、95%であった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、本発明によれば、リチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に他方の無機成分が三次元的に所定のナノスケールで周期的に配置しているナノヘテロ構造を有する電極材を得ることが可能となる。
【0083】
そして、このような本発明の電極材は、従来の製造方法では実現することができなかった、球状構造、柱状構造、ジャイロイド状構造、層状構造といったナノ構造を有するものであり、リチウムイオン伝導体と電極活物質との組み合わせについて、それらの配置、組成、構造スケールなどを様々に制御したナノヘテロ構造体として得ることが可能である。
【0084】
このようなナノヘテロ構造を有する電極材は、界面増大効果、ナノサイズ効果、耐久性などの飛躍的な向上が発揮され、リチウム二次電池用電極材としての利用率を高めることができる。したがって、本発明の電極材は、リチウム二次電池の電極材として有用であり、特に、電解質が固体である全固体リチウム二次電池の電極材として有用である。
【符号の説明】
【0085】
1:正極材、2:負極材、3:電解質、4、5:集電体、6:外部電気機器、11、21:リチウムイオン伝導体、12:正極活物質、22:負極活物質。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中にリチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの他方の無機成分が三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を有しているナノヘテロ構造体からなることを特徴とするリチウム二次電池用電極材。
【請求項2】
前記マトリックス中に三次元的且つ周期的に配置している無機成分の形状が、柱状、層状およびジャイロイド状からなる群から選択される形状であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用電極材。
【請求項3】
前記リチウムイオン伝導体が、硫化物系リチウムイオン伝導体、ガーネット型リチウムイオン伝導体、LISICON型リチウムイオン伝導体、NASICON型リチウムイオン伝導体およびペロブスカイト型リチウムイオン伝導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池用電極材。
【請求項4】
前記電極活物質が、酸化物系正極活物質およびオリビン型正極活物質からなる群から選択される少なくとも1種の正極活物質であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のリチウム二次電池用電極材。
【請求項5】
前記電極活物質が、酸化物系負極活物質、炭素系負極活物質および金属系負極活物質からなる群から選択される少なくとも1種の負極活物質であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のリチウム二次電池用電極材。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の電極材を備えることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項7】
請求項4に記載の電極材を正極材として備えることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項8】
請求項5に記載の電極材を負極材として備えることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項9】
互いに混和しない少なくとも第一ポリマーブロック成分と第二ポリマーブロック成分とが結合してなるブロックコポリマーと、リチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、リチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの他方である第二無機前駆体と、を溶媒に溶解して原料溶液を調製する第一の工程と、
少なくとも、前記第一無機前駆体が導入された前記第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と、前記第二無機前駆体が導入された前記第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相と、が自己組織化により規則的に配置したナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理と、前記リチウムイオン伝導体前駆体および前記電極活物質前駆体をそれぞれリチウムイオン伝導体および電極活物質に変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とを含み、前記リチウムイオン伝導体と前記電極活物質とからなるナノヘテロ構造を有する電極材を得る第二の工程と、
を含むことを特徴とするリチウム二次電池用電極材の製造方法。
【請求項10】
前記第一無機前駆体と前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下であり、前記第二無機前駆体と前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下であることを特徴とする請求項9に記載のリチウム二次電池用電極材の製造方法。
【請求項11】
前記第一ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第一ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことを特徴とする請求項9または10に記載のリチウム二次電池用電極材の製造方法。
【請求項12】
前記第二ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第二ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことを特徴とする請求項9〜11のうちのいずれか一項に記載のリチウム二次電池用電極材の製造方法。
【請求項13】
前記ブロックコポリマーが、ポリスチレン成分、ポリイソプレン成分およびポリブタジエン成分からなる群から選択される少なくとも1種の第一ポリマーブロック成分と、ポリメチルメタクリレート成分、ポリエチレンオキシド成分、ポリビニルピリジン成分およびポリアクリル酸成分からなる群から選択される少なくとも1種の第二ポリマーブロック成分とが結合してなるものであり、
前記第一無機前駆体が、フェニル基、炭素数5以上の長鎖炭化水素鎖、シクロオクタテトラエン環、シクロペンタジエニル環、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも1つの構造を備える、有機金属化合物および有機半金属化合物のうちの少なくとも1種であり、
前記第二無機前駆体が、金属または半金属の塩、金属または半金属を含む炭素数1〜4のアルコキシド、および金属または半金属のアセチルアセトナート錯体からなる群から選択される少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項9〜12のうちのいずれか一項に記載のリチウム二次電池用電極材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−77563(P2013−77563A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−201932(P2012−201932)
【出願日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】