リチウム硫黄電池
【課題】電解液系のものにおいて、新規なリチウム硫黄電池を提供する。
【解決手段】この評価セル10は、硫黄を含む正極活物質を有する正極20と、負極活物質を有する負極16と、正極20と負極16との間に配置されたセパレータ19と、少なくとも正極20とセパレータ19との間に介在する電解液とを備えている。本発明において、セパレータ19は絶縁性の無機多孔体を有するものである。もしくは、本発明において、セパレータ19は孔部が形成されている構造部を有し、該構造部に金属硫化物を添加したものである。特に、セパレータ19が絶縁性の無機多孔体を有し、かつ、金属硫化物を添加したものである場合には、何らかの相乗効果によって、より電池容量が向上する。
【解決手段】この評価セル10は、硫黄を含む正極活物質を有する正極20と、負極活物質を有する負極16と、正極20と負極16との間に配置されたセパレータ19と、少なくとも正極20とセパレータ19との間に介在する電解液とを備えている。本発明において、セパレータ19は絶縁性の無機多孔体を有するものである。もしくは、本発明において、セパレータ19は孔部が形成されている構造部を有し、該構造部に金属硫化物を添加したものである。特に、セパレータ19が絶縁性の無機多孔体を有し、かつ、金属硫化物を添加したものである場合には、何らかの相乗効果によって、より電池容量が向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硫黄を正極活物質として使用する硫黄電池が知られている。硫黄は1675mAh/gという極めて高い理論容量密度を有するものであり、高容量電池として期待されている。しかし、電解液系の硫黄電池では、充放電時等に硫黄分子やポリ硫化物イオンなどが電解液中へ溶解して拡散し、これが負極金属と反応して自己放電を生じたり負極を劣化させることで、電池の容量や保存特性、充放電効率(クーロン効率)を劣化させることがあった。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1では、リチウム硫黄電池において、電解質としてエーテル系のものを用い、正極に少なくともZnOとAl2O3と、又は、ZnOとSb2O5とを添加したものとして、正極からの硫黄の溶出を抑制するものが提案されている。また、例えば特許文献2ではリチウムを負極とする非水電解質リチウム硫黄電池において、正極としてポリマー電解質で被覆された硫黄を含むものを使用し、正極とセパレータとの間または負極とセパレータとの間にポリマー電解質を配置することで、正極で生成したリチウム多硫化物等が負極へ拡散して生じる自己放電を抑制するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−251469号公報
【特許文献2】特開2003−242964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のリチウム硫黄電池では、正極からの硫黄の溶出を抑制するものの、硫化物等の負極側への拡散を抑制するものではないため、負極上での自己放電を十分に抑制することができないことがあった。また、特許文献2のリチウム硫黄電池では硫化物等の負極側への拡散を抑制するが、十分ではなく、また、リチウムイオンの輸率が低下することがあった。このような観点から、新規なリチウム硫黄電池の開発が望まれていた。また、電池容量のより大きいリチウム硫黄電池の開発が望まれていた。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、電解液系のものにおいて、新規なリチウム硫黄電池を提供することを主目的とする。また、電解液系のものにおいて電池容量のより大きいリチウム硫黄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、電解液系のものにおいて孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体を有するセパレータを備えたリチウム硫黄二次電池を作製したところ、有用な性能を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のリチウム硫黄電池は、
硫黄を含む正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体を有するセパレータと、
少なくとも前記正極と前記セパレータとの間に介在する電解液と、
を備えたものである。
【0009】
このリチウム硫黄電池では、孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体を有するセパレータを備えているため、電解液系のものにおいて、有用な性能を有するものを提供することができる。このような効果が得られる理由は定かではないが、孔部が形成されている無機多孔体を有するセパレータが、硫黄分子や硫化物イオンなどをトラップして負極側への拡散を抑制するためであると考えられる。
【0010】
また、本発明のリチウム硫黄電池は、
硫黄を含む正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、孔部が形成されている構造部を有し、該構造部に金属硫化物を添加したものであるセパレータと、
少なくとも前記正極と前記セパレータとの間に介在する電解液と、
を備えたものとしてもよい。
【0011】
このリチウム硫黄電池では、孔部が形成されている構造部を有し、該構造部に金属硫化物を添加したものであるセパレータを備えており、電解液系のものにおいて電池容量のより大きいものを提供することができる。このような効果が得られる理由は定かではないが、孔部に金属多硫化物を添加することにより、充放電に伴う正極活物質の溶出等による活物質量の減少を抑制することができるためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】FSM−16粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図2】FSM−16粉末の細孔分布曲線を示すグラフである。
【図3】FSM−22粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図4】FSM−22粉末の細孔分布曲線を示すグラフである。
【図5】メソポーラスアルミナ粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図6】メソポーラスアルミナ粉末の細孔分布曲線を示すグラフである。
【図7】評価セル10の説明図である。
【図8】実験例1,2,9の放電容量とクーロン効率を示すグラフである。
【図9】実験例1,2,9の放置後のクーロン効率を示すグラフである。
【図10】金属硫化物を添加したときの容量増加率を示すグラフである。
【図11】実験例1,2,7の放電容量とクーロン効率を示すグラフである。
【図12】実験例3〜6、9〜12の放電容量を示すグラフである。
【図13】実験例3〜6、9〜12のクーロン効率を示すグラフである。
【図14】実験例2,8の放電容量とクーロン効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明を具現化した一実施形態について説明する。本発明のリチウム硫黄電池は、硫黄を含む正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在し、絶縁性の無機多孔体を有するセパレータと、少なくとも正極とセパレータとの間に介在する電解液と、を備えている。
【0014】
本発明のリチウム硫黄電池において、正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質は、硫黄を含むものである。硫黄はどのような形態で含まれていてもよいが、単体硫黄及び金属硫化物の両方又は一方であることが好ましい。なお、本発明において、金属硫化物とは金属多硫化物をも含むものとする。即ち、金属をMeとすると金属硫化物はMexSy(x≧0,y≧0)で表すことのできるものとする。
【0015】
本発明のリチウム硫黄電池において、負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質は、金属または金属イオンを含むものであることが好ましい。負極活物質は、リチウムを吸蔵放出する材料を含むものとしてもよい。ここで、リチウムを吸蔵放出する材料としては、例えば金属リチウムやリチウム合金のほか、金属酸化物、金属硫化物、リチウムを吸蔵放出する炭素質物質などが挙げられる。リチウム合金としては、例えば、アルミニウムやシリコン、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウムなどとリチウムとの合金が挙げられる。金属酸化物としては、例えばスズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物などが挙げられる。金属硫化物としては、例えばスズ硫化物やチタン硫化物などが挙げられる。リチウムを吸蔵放出する炭素質物質としては、例えば黒鉛、コークス、メソフェーズピッチ系炭素繊維、球状炭素、樹脂焼成炭素などが挙げられる。この負極は、正極と同様に適宜、集電体や導電材、結着材を用いることができる。
【0016】
本発明のリチウム硫黄電池において、正極及び負極に用いられる導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック、ケッチェンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばエタノール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0017】
本発明のリチウム硫黄電池において、セパレータは孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体を有するものである。セパレータは、孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体粒子を、バインダー等と混ぜてシート化したものであってもよいし、樹脂等に分散させてシート化したものであってもよいし、ゾルゲル法により製膜したものであってもよいし、電極表面に薄膜として形成したものであってもよい。孔部が形成されている無機多孔体を有するものであれば、孔形状や孔径を適切に制御することでリチウムを選択的に通過させ、硫黄分子や硫化物イオンなどをトラップすることができると考えられる。特に、無機多孔体であれば、孔形状や孔径の制御がより容易であるため、リチウムの選択的通過及び硫黄分子や硫化物イオンなどのトラップに適するものとすることができると考えられる。なお、絶縁性のものであれば、電池の短絡を防ぐセパレータとしての役割を果たすことができる。
【0018】
セパレータに含まれる孔部が形成されている無機多孔体は、孔部として、マイクロ孔や、メソ孔等の細孔を有するものであることが好ましい。細孔の形態としては、一次元的にトンネル状に延びたものや、三次元的に箱状あるいは球状の細孔が結合したものなどを挙げることができる。また、細孔構造としては、二次元ヘキサゴナル構造、三次元ヘキサゴナル構造(P6mm,P63/mmc)、キュービック(Ia3d,Pm3n)、ラメラ等の規則構造や、不規則構造などが挙げられる。細孔径は、N2の吸着等温線を用いたBJH法で計算される中心細孔径が0.3nm以上100nm以下であることが好ましく、0.5nm以上50nm以下であることがより好ましく、0.7nm以上20nm以下であることがさらに好ましい。中心細孔径が0.3nm以上であればリチウムイオンの通過に十分であるし、100nm以下であれば硫化物などをトラップするのに十分であると考えられる。ここで、中心細孔径とは細孔分布曲線における最大のピークを示す細孔直径をいう。細孔は、細孔分布曲線における最大のピークを示す細孔直径の±40%の直径範囲に全細孔容積の60%以上が含まれていることが好ましい。細孔分布曲線における最大のピークを示す細孔直径の±40%の細孔径範囲が全細孔径容積の60%以上であれば、細孔径が均一であり、細孔径を有効に利用することができるため好ましい。なお、無機多孔体であれば結晶質であるか、非晶質であるかを問わない。また、無機多孔体はリチウム伝導性を有していてもよいし、有していなくてもよいが、リチウム伝導性を有している方がより好ましい。また、細孔は規則性を有するものであってもよいし、規則性を有しないものであってもよい。
【0019】
セパレータに含まれる無機多孔体は、酸化物系のものであることが好ましく、例えば、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、スズ、ハフニウム、マグネシウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、鉛、バナジウムなどの1種以上を含んでなる酸化物が挙げられる。これらの酸化物は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。このうち、アルミニウム、シリコン、マグネシウム、ジルコニウムの1種以上を含んでなる酸化物であることが好ましい。例えば、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、マグネシア(MgO)、ジルコニア(ZrO2)などであることが好ましい。また、シリカアルミナやシリカマグネシアのような多成分系のものであってもよい。アルミナやシリカ、マグネシア、ジルコニアは高い吸着性を有し、好適なものを選択することで、硫化物イオンや多硫化物イオンをより適切にトラップして負極側への拡散を抑制することができると考えられる。例えば、シリカ系の無機多孔体としてはMCM(MCM−41など)や、FSM(FSM−16など)のメソポーラスシリカが挙げられる。また、一般的にメソポーラスシリカより細孔径が小さいゼオライトなどであってもよい。ゼオライトは天然ゼオライトでも合成ゼオライトでもよいが、成分が均一で結晶性の高い合成ゼオライトが好ましい。合成ゼオライトとしては、A型、B型、D型、X型、Y型、Z型、β型、HY型などが挙げられる。なお、無機多孔体は各種金属原子や有機官能基、無機官能基で表面修飾されていてもよく、例えばチオール基、カルボキシル基、メチル基やエチル基などの低級アルキル基、フェニル基、アミノ基、ビニル基などで表面修飾されていてもよい。
【0020】
セパレータに含まれる無機多孔体は、特に製法で限定されるものでなく、例えば、ゾルゲル法を用いたものであってもよいし、テンプレート法や、噴霧法、マイクロモールディング法、異相界面合成法などを用いたものであってもよい。また、セパレータに含まれる無機多孔体の形態としては、粉末、顆粒、支持膜、自立膜、透明膜、配向膜、球状、繊維状、基板上のバーニング、μmサイズの明瞭な形態を持つ粒子などを挙げることができる。また、必要に応じて成型したものであってもよい。成型手段は特に限定されないが、押出成型、打錠成型、転動造粒圧縮成型、CIP等が好ましい。
【0021】
無機多孔体のシート化に用いるバインダーや樹脂は、特に限定されるものでないが、柔軟性があり、電解液に溶解せず安定なものであることがより好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。これらのバインダーや樹脂は、セパレータ全体に対して20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることがさらに好ましい。バインダーや樹脂を用いてシート化したセパレータを形成する場合、無機多孔体はより分散性の高いものであることが好ましく、粒子径も均一であることが好ましい。粒子径としては例えば0.01μm以上30μm以下の範囲であることが好ましく、0.01μm以上10μm以下の範囲であることがより好ましい。
【0022】
また、セパレータは、金属硫化物を添加したものであることが好ましい。即ち、無機多孔体の孔部である細孔内に金属硫化物をあらかじめ添加したものであることが好ましい。リチウム硫黄電池では、溶液中への活物質(硫黄分子や硫化物イオンなど)の溶解により有効に使える活物質量が低下することがあるが、孔部に金属硫化物を添加することによりこれを抑制することができると考えられるからである。また、金属硫化物をあらかじめ添加したものとすると、理由は明らかではないが、硫黄分子や硫化物イオンの負極への拡散をより抑制するなどして、電池容量をより向上することができるからである。ここで、金属硫化物は金属多硫化物を含むものとする。即ち、金属をMeとすると金属硫化物はMexSy(x≧0,y≧0)で表すことのできるものとする。金属硫化物を形成する金属Meは特に限定されないが、ナトリウムや、カリウム、リチウムなどが好ましく、このうちリチウムであることが好ましい。また、金属硫化物は金属多硫化物であることが好ましく、リチウム多硫化物であることがより好ましく、Li2S3またはLi2S4であることがより好ましい。セパレータについて、金属硫化物を添加する方法は特に限定されるものではない。例えば、金属硫化物を溶媒に溶解した溶液をセパレータに滴下する方法であってもよいし、この溶液にセパレータを浸漬する方法であってもよい。また、製膜の際に原料として金属硫化物を加える方法であってもよい。このとき、金属硫化物は孔部の容積以下で含まれるものとすることが好ましい。セパレータは、絶縁性の無機多孔体を含むものでなくても、金属硫化物を添加したものであれば電池容量をより向上することができるが、無機多孔体を有するセパレータをさらに金属硫化物を添加したものとすることでより電池容量が向上する。この理由は定かではないが、無機多孔体と金属硫化物とが何らかの好適な相乗効果を生じるためであると考えられる。
【0023】
また、セパレータは、ネットワークを形成可能な材料を含んでいるものであることが好ましい。特に、孔部の内部にネットワークが形成されていることがより好ましい。ここで、ネットワークを形成可能な材料は、有機材料であってもよいし、無機材料であってもよい。ネットワークを形成可能な有機材料としては、モノマーや重合度の低いポリマーなどが挙げられる。これらのネットワークを形成可能な有機材料は、重合反応や架橋反応などが生じるネットワーク形成処理によって、例えばポリマーとしてネットワークを形成する。なお、ネットワークを形成する方法は、例えば、上述したネットワークを形成可能な材料を含む溶液にセパレータを浸漬し、上述したネットワーク形成処理を施すことでセパレータにネットワークを形成してもよい。ネットワークを形成可能な材料を含んでいるものについて所定の処理をすることで、ネットワークを形成すると考えられるが、セパレータにネットワークを形成可能な材料を含むものとすれば、ネットワークの形成は十分になされていなくてもよい。ネットワークを形成可能な無機材料としては、溶媒に溶解されたイオンや無機化合物、錯体などが挙げられる。これらは、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、スズ、ハフニウム、マグネシウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、鉛、バナジウムの1種以上を含んでいるものであることが好ましい。このうち、アルミニウム、シリコン、マグネシウム、ジルコニウムの1種以上を含んでいることがより好ましい。これらのネットワークを形成可能な無機材料は、例えば、加水分解、脱水縮合などを生じるネットワーク形成処理によってネットワークを形成するものであってもよい。このような処理によって、上記元素のいずれかを適宜含むネットワークが形成される。ネットワークは三次元的に形成されるものであることが好ましく、また、酸化物系のネットワークであることが好ましい。なお、ネットワークを形成する方法は、例えば、上述したネットワークを形成可能な材料を含む溶液にセパレータを浸漬し、ネットワーク形成処理を施すことでセパレータにネットワークを形成するものであってもよい。ネットワークを形成可能な材料を含んでいるものについて所定の処理をすることで、ネットワークを形成すると考えられるが、セパレータにネットワークを形成可能な材料を含むものとすれば、ネットワークの形成が十分になされていなくてもよい。ここで、例えば、シリコンを含むネットワークを形成可能な材料としては、テトラオキシシランなどが挙げられ、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランなどのテトラアルコキシシラン、メチルトリメトキシシランなどが挙げられる。このうち、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)とエタノールとを含む溶液中にセパレータを浸漬してTEOSの加水分解を進行させ、さらに乾燥した場合、粒子間隙にはシリカ(SiO2)が形成されるものと考えられる。また、ネットワークを形成可能な材料は、上記有機材料と上記無機材料とを複合して用いてもよい。
【0024】
なお、セパレータは、上述したものを単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよいし、通常用いられる有機系のセパレータと組み合わせて用いてもよい。例えば、還元力の強い金属リチウムを負極に用いる場合には、無機多孔体が還元されてしまうことがあるが、還元されにくいポリエチレンなどを負極側に用いることでこれを抑制することができる。有機系のセパレータとしては、リチウム硫黄電池の使用範囲に耐え得る組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0025】
本発明のリチウム硫黄電池において、電解液は、少なくとも正極とセパレータとの間に介在している。このようにすることで、正極で生成されたポリ硫化物イオンや硫化物イオン、硫黄分子が電解液中に溶解するため、電解液が存在しない場合と比較して活物質供給の効率がより良好になると考えられる。このような構成として、例えば、正極や負極に電解液を含浸した状態でセパレータと接触する構成としてもよい。また、セパレータに電解液を含浸した状態で正極と接触する構成としてもよい。なお、負極とセパレータとの間には電解液が介在しなくてもよいが、固体同士の接触状態が良好でない場合などには、電解液によってイオン伝導を良好にすることができるため負極とセパレータとの間には電解液が介在していることが好ましい。電解液は、溶媒に支持塩を溶解した溶液であってもよい。支持塩としては、通常のリチウム二次電池に用いられるリチウム塩であれば特に限定されるものではなく、例えば、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6,LiClO4,LiBF4,などの公知の支持塩を用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。電解液の溶媒としては、非プロトン供与性で通常のリチウム二次電池に用いられるものであれば特に限定されないが、ジメトキシエタン(DME)、トリグライム、テトラグライムなどのエーテル類、ジオキソラン(DOL)、テトラヒドロフランなどの環状エーテル及び、それらの混合物が好適である。また、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどのイオン液体を用いることもできる。電解液は、少なくとも正極とセパレータとの間に介在していればよく、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子類又はアミノ酸誘導体やソルビトール誘導体などの糖類に、支持塩を含む電解液を含ませてゲル化されていてもよい。また、硫黄電池では溶液中への活物質(硫黄やポリ硫化物イオンなど)の溶解により、有効に使える活物質量が低下することがあるため、あらかじめ電解液中にポリ硫化物イオンなどを添加しておいてもよい。
【0026】
本発明の硫黄電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0027】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0028】
例えば、上述した実施形態では、セパレータは孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体を有するものとしたが、特に無機多孔体に限定されずに、孔部が形成されている構造部を有し、構造部に金属硫化物を添加したものとすることができる。ここで、構造部とは、絶縁性の無機多孔体に限定されない趣旨であり、何らかの孔部を有しているものをいう。例えば、化学的な結合体で間隙として孔部を有しているものであっても、物理的な集合体で固体同士の接触の間隙として孔部を有しているものであってもよい。また、機械的に形成された孔部を有しているものであってもよい。孔部が形成されている構造部を有しているものであれば、金属硫化物をセパレータ内に保持することができ、充放電に伴う正極活物質の溶出等による活物質量の減少を抑制することができると考えられるからである。ここで、孔部が形成されている構造部は、有機物であっても無機物であってもよい。孔部が形成されている構造部が無機物である場合、上述した無機多孔体の細孔のような孔部を有するものであってもよいし、また、無機粒子が凝集したり、無機粒子をバインダ等で結着したことによって形成される空隙を孔部として有するものであってもよい。また、無機粒子の表面に凹凸があるものであれば、凝集や結着によってより多くの孔部が形成される点で好ましい。このような無機化合物としてはシリコン、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、スズ、ハフニウム、マグネシウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、鉛、バナジウムの1種以上を含んでいるものであることが好ましく、アルミニウム、シリコン、ジルコニウム、マグネシウムの1種以上を含んでいるものであることがより好ましい。このうち酸化物系のものであることがより好ましい。孔部が形成されている構造部が有機物である場合、孔部は、網状に発達したポリマーの空隙であってもよいし、テンプレートなどを用いて形成したものであってもよい。例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムなどが挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下には、本発明のリチウム硫黄電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0030】
[シリカ系多孔体(FSM−16)の合成]
シリカ系多孔体は特開H9−310282号公報及び特開H9−309970号公報に準じて、以下のように合成した。水1Lにヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド36.5g、及び、ジケイ酸ナトリウム50gを添加した。この混合分散溶液を70℃に昇温後、3時間攪拌した。次に、その混合溶液を2規定塩酸約250mLで中和し、再び3時間攪拌した。その後、ろ過と洗浄とを5回繰り返して得た固体成分を熱風乾燥機で3日間乾燥することにより、ケイ酸塩中に界面活性剤イオンが導入された多孔体前駆体としての白色粉末を得た。次いで、この白色粉末を550℃で焼成することにより、界面活性剤イオンを分解除去してシリカ系多孔体(FSM−16)粉末を得た。このシリカ系多孔体の構造解析を行った。まず、合成したシリカ系多孔体の粉末X線回折パターンを測定した。X線回折は理学電機製X線回折装置(リガク製,RINT2100)を用い、CuKαを線源として2°(2θ)/分でスキャンした。スリット幅は、1/2°−0.15mm−1/2°である。図1にFSM−16粉末のX線回折パターンを示す。図1より、回折角度(2θ)が10°以下に数本のピークが観察され、繰返し周期(d100)が3.9nmに相当する、規則的な周期構造の細孔を持っていることが分かった。次にFSM−16粉末の窒素吸着等温線をユアサアイオニクス製全自動ガス吸着量測定装置1AG−Sを用いて測定した。測定したシリカ系多孔体の窒素吸着等温線から、BJH法により、細孔分布曲線を求めた。図2には、FSM−16粉末の細孔分布曲線を示す。図2より、細孔分布曲線における最大のピークを示す細孔直径(中心細孔直径と称する)は2.79nmであることが分かった。また、BET法により測定した比表面積は971m2/gであった。
【0031】
[シリカ系多孔体(FSM−22)の合成]
シリカ系多孔体(FSM−22)は、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド36.5gに代えて、ドコシルトリメチルアンモニウムクロライド40.5gを用いたこと以外は、FSM−16と同様に合成した。このシリカ系多孔体(FSM−22)の構造解析をFSM−16の場合と同様に行った。図3にFSM−22粉末のX線回折パターンを示す。図3より、回折角度(2θ)が10°以下に数本のピークが観察され、繰返し周期(d100)が4.9nmに相当する、規則的な周期構造の細孔を持っていることが分かった。次にFSM−22粉末の細孔分布曲線をFSM−16の場合と同様に求めた。図4には、FSM−22粉末の細孔分布曲線を示す。図4より、細孔分布曲線における最大のピークを示す細孔直径(中心細孔直径と称する)は3.92nmであることが分かった。また、BET法により測定した比表面積は1040m2/gであった。
【0032】
[メソポーラスアルミナの合成]
メソポーラスアルミナはWO2005/092794に準じて以下のように合成した。まず、シクロヘキサン45.4gにSorbitane trioleate(アルドリッチ製 Span85)38.4gを溶解し、塩化ランタン7水和物0.556gを溶解させた水溶液7.6gを加えて、30分間攪拌した。次に、上記溶液にアルミニウムsec−ブトキシド14.8gを加えて20分間攪拌し混合液とした。この混合液を、蓋つきのビンに移して45℃で16時間攪拌して、沈殿物を得た。得られた沈殿を遠心分離し、100℃で乾燥したのち、500℃(昇温速度:1℃/分)で6時間焼成して、多孔質アルミナ粉末を合成した。この多孔質アルミナ粉末の構造解析を行った。まず、合成した多孔質アルミナ粉末の粉末X線回折パターンを測定した。X線回折はリガク製X線回折装RINT−TTRを用い、CuKαを線源として2°(2θ)/分でスキャンした。スリット幅は、1/6°−0.15mm−1/6°である。図5にはメソポーラスアルミナ粉末のX線回折パターンを示す。図5より、回折角度(2θ)が10°以下に1本のピークが観察され、繰返し周期(d100)が7.1nmに相当する規則的な周期構造の細孔を持っていることが分かった。次に多孔質アルミナ粉末の窒素吸着等温線をユアサアイオニクス製全自動ガス吸着量測定装置1AG−Sを用いて測定した。測定したシリカ系多孔体の窒素脱着等温線から、BJH法により、細孔分布曲線を求めた。図6には、メソポーラスアルミナ粉末の細孔分布曲線を示す。図6より、細孔分布曲線における最大のピークを示す細孔直径(中心細孔直径と呼ぶ)は3.5nmを示した。また、BET法により測定した比表面積は337m2/gであった。
【0033】
[実験例1]
正極は以下のように作製した。まず、正極活物質としての硫黄(高純度化学製、99.99%、powder75μmメッシュパス)50mgと導電材としてのケッチェンブラック(ECP)40mgとを少量のエタノールを加えて乳鉢で混練したものに、結着材としてのPTFE粉末(ダイキン工業製 ポリフロンF−104 )10mgを加えてよく混練した後、シート状にロール整形し、φ12mmに切り出した。次に、60℃、2〜3Torrで2時間真空乾燥して正極とした。負極はφ18mmのリチウム金属板を用いた。電解液としては、1,3ジオキソランと1,2−ジメトキシエタンとを10:90の体積比で混合した電解液に、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を1mol/Lとなるように溶解したものを用いた。セパレータは以下のように作製した。まず、上述のように作製したFSM−16とPTFE(ダイキン工業製,ポリフロンF−104)とを重量比9:1で秤量し、乳鉢で混練しシート状に成形後、φ18mmで切断した。次に60℃、2〜3Torrで2時間、真空乾燥し、実験例1のセパレータとした。
【0034】
このようにして得られた正極、負極、セパレータ及び、電解液を使用してアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で評価セルを作製した。図7は評価セル10の説明図であり、図7(a)は評価セル10の組立前の断面図、図7(b)は評価セル10の組立後の断面図である。評価セル10を組み立てるにあたり、まず、外周面にねじ溝が刻まれたステンレス製の円筒基体12の上面中央に設けられたキャビティ14に、負極16と、ポリエチレン製セパレータ18(微多孔性ポリエチレン膜、東燃化学(株)製)と、上述したFSM−16を含むセパレータ19と、正極20とを、この順に、適量の非水系電解液をキャビティ14に注入しながら積層した。さらに、ポリプロピレン製の絶縁リング29を入れ、次いで絶縁性のリング22の穴に液密に固定された導電性の円柱24を正極20の上に配置し、導電性のコップ状の蓋26を円筒基体12にねじ込んだ。さらに、円柱24の上に絶縁用樹脂リング27を配置し、蓋26の上面中央に設けられた開口26aの内周面に刻まれたねじ溝に貫通孔25aを持つ加圧ボルト25をねじ込み、負極16とセパレータ18と固体電解質膜18と正極20とを加圧密着させた。このようにして、評価セル10を作製した。なお、円柱24は、リング22の上面より下に位置し絶縁用樹脂リング27を介して蓋26と接しているため、蓋26と円柱24とは非接触な状態となっている。また、キャビティ14の周辺にはパッキン28が配置されているため、キャビティ14内に注入された電解液が外部に漏れることはない。この評価セル10では、蓋26と加圧ボルト25と円筒基体12とが負極16と一体化されて全体が負極側となり、円柱24が正極20と一体化されると共に負極16と絶縁されているため正極側となる。このようにして得られた評価セルを実験例1とした。
【0035】
[実験例2]
セパレータ19として実験例1のセパレータ(FSM−16)に10重量%のLi2S3−DME溶液を80μl滴下し、乾燥させたものを用いたこと以外は実験例1と同様に評価セルを作製し、実験例2とした。
【0036】
[実験例3,4]
FSM−16粉末のかわりに上述のように合成したメソポーラスアルミナ粉末(細孔直径:3.5nm、比表面積:366m2/g)を用いて実験例1と同様に実験例3のセパレータを作製した。得られたセパレータをセパレータ19として用いた以外は実験例1と同様にして評価セルを作製し、実験例3とした。また、実験例3で用いたセパレータ(メソポーラスアルミナ)を用いたこと以外は、実験例2と同様に評価セルを作製し、実験例4とした。
【0037】
[実験例5,6]
FSM−16のかわりにHY型ゼオライト(東ソー製ハイシリカゼオライトHSZ−390HUA、S/A比:400、細孔径0.74nm)を用いて実験例1と同様に実験例5のセパレータを作製した。得られたセパレータをセパレータ19として用いた以外は実験例1と同様に評価セルを作製し、実験例5とした。また、実験例5で用いたセパレータ(HY型ゼオライト)を用いたこと以外は実験例2と同様に評価セルを作製し、実験例6とした。
【0038】
[実験例7]
実験例1で用いたセパレータ(FSM−16)について、以下に示すTEOS処理を行い、ネットワークを形成可能な材料を含むものとした。まず、テトラエトキシシラン(TEOS)1mlをエタノール28mlに溶解させた。この溶液7mlと実験例1のセパレータ1枚とをポリ容器に加えて蓋をして、70℃の恒温槽中で21時間静置した。その後、セパレータを取り出し、室温で乾燥させた後、160℃の恒温槽で2時間熱処理して脱水縮合反応させて実験例7のセパレータを作製した。このセパレータを用いたこと以外は実験例2と同様にして評価セルを作製した。
【0039】
[実験例8]
FSM−16のかわりにFSM−22を用いたこと以外は実験例2と同様に評価セルを作製し、実験例8とした。
【0040】
[実験例9,10]
実験例1のセパレータのかわりに30μmのポリエチレン多孔膜(微多孔性ポリエチレン膜、東燃化学(株)製)を使用したこと以外は実験例1と同様に評価セルを作製し、実験例9とした。また、実験例9で用いたポリエチレン多孔膜を用いたこと以外は実験例2と同様に評価セルを作製し、実験例10とした。
【0041】
[実験例11,12]
FSM−16のかわりにヒュームドシリカ(日本アエロジル製アエロジル300CF、比表面積:300m2/g)を用いて実験例1と同様に実験例11のセパレータを作製した。得られたセパレータをセパレータ19として用いた以外は実験例1と同様に評価セルを作製し、実験例11とした。また、実験例11で用いたセパレータ(ヒュームドシリカ)を用いたこと以外は実験例2と同様に評価セルを作製し、実験例12とした。
【0042】
[評価]
作製した実験例1〜12の評価セルを用いて、電気化学特性の評価を行った。まず、評価セルを25℃の恒温槽内に設置し、放電電流0.5mAで、放電終止電位1.5V(vs.Li/Li+)までCC放電を行う放電と、充電電流0.5mAで、充電終止電位2.8V(vs.Li/Li+)までCC充電を行う充電とを1サイクルとし、これを30サイクル実施後、CC放電充電電流を1mAに上げて、10サイクル実施し、さらにCC放電充電電流を0.5mAに下げて10サイクル行った。このとき、各サイクルにおいて正極(合材)あたりの充電容量と放電容量を測定し、50サイクル目の放電容量4サイクル目の放電容量で除したものに100を乗じて放電容量維持率を求めた。また、n回目の放電容量をn−1回目の充電容量で除したものに100を乗じてnサイクル目のクーロン効率を算出した。さらに、上述した50サイクル目の0.5mA充電後、30秒、1時間、2時間、5時間、10時間、24時間放置し、0.5mAでCC放電を行い、放電容量を測定した。30秒放置後の放電容量を50サイクル目の充電容量で除したものに100を乗じて30秒放置後のクーロン効率を求めた。1時間、2時間、5時間、10時間、24時間放置後のクーロン効率も同様に求めた。
【0043】
(実験結果)
表1には、実験例1〜12について、初期(4サイクル目)の放電容量、50サイクル目の放電容量、放電容量維持率、初期(4サイクル目)のクーロン効率、50サイクル目のクーロン効率、24時間放置後のクーロン効率を示した。なお、1〜50サイクル目までの各サイクルにおける放電容量及びクーロン効率は、図8及び図11〜14に示す通りである。図8は、実験例1,2,9の放電容量とクーロン効率を示すグラフである。無機多孔体であるFSM−16を用いた実験例1、2ではポリエチレンを用いた実験例9と比較して、初期(〜5サイクル目)を除いてクーロン効率が良好であり、サイクルの繰返し数の増加に伴ってクーロン効率がより良好となった。一方で、放電容量は実験例2、実験例9、実験例1の順に良好となった。この点について、FSM−16は初期の充放電時に電解液に溶出した硫化物イオンを吸着して放出しないために、有効活物質量を低下させるものと推察された。しかし、あらかじめ金属硫化物(Li2S3)を添加することで、有効活物質量の低下を抑制することができたものと推察された。このことから、セパレータとして無機多孔体を有するもの用いるとクーロン効率が向上し、このとき、有効活物質量の低下を抑制すれば放電容量の低下も抑制できるものと推察された。ここで、有効活物質量の低下を抑制する方法は、正極中の硫黄の量を増やすものであってもよいし、電解液中に硫化物イオンなどを添加するものであってもよいと推察された。一方で、セパレータに金属硫化物を添加した実験例2では実験例1の2倍以上の放電容量を示したことから、無機多孔体と金属硫化物とを含むセパレータとしたことで、有効活物質量低下の抑制以外の何らかの相乗効果が得られたものと推察された。図9は、実験例1,2,9の所定時間放置後のクーロン効率を示すグラフである。無機多孔体であるFSM−16を用いた実験例1,2においていずれも24時間後のクーロン効率が58%であったのに対し、ポリエチレンを用いた実験例9は37%であった。このことから、無機多孔体を有するセパレータを用いると、電池内での自己放電を抑制して保存特性の良好なものとすることができることが分かった。図10は金属硫化物を添加したときの容量増加率を示すグラフである。金属硫化物を添加したときの容量増加率は、金属硫化物を添加したものの放電容量を金属硫化物を添加しないものの放電容量で除したものに100を乗じて得た値である。このグラフから、孔部を有する構造部を有するものであれば、いずれのセパレータを用いたものにおいても、金属硫化物を添加することで放電容量が大きくなることが分かった。また、表1から分かるように初期の放電容量が特に大きいことから、充放電の初期に生じやすい正極活物質の溶出などによる活物質量低下を、抑制することができたものと推察された。さらに、有機系セパレータを用いたもの(実験例9,10)や、中実の無機材質を用いたもの(実験例11,12)と比較すると、無機多孔体を有するセパレータを用いたものでは、より放電容量が大きくなることが分かった。なかでも、ゼオライトやメソポーラスアルミナを無機多孔体として含むセパレータを用いたものでは、より放電容量が大きくなることが分かった。このことからも、無機多孔体と金属硫化物との相乗効果によって、より大きな放電容量が得られたものと推察された。図11は実験例1,2,7の放電容量とクーロン効率を示すグラフである。FSM−16を用いたセパレータにTEOS処理を施してさらに金属多硫化物を添加すると、放電容量がより向上し、クーロン効率の低下も抑制できることが分かった。特に、繰返し充放電における放電容量の低下を抑制するだけでなく、放電容量が向上するという効果が得られることが分かった。このような効果が得られたのは、TEOS処理によって、セパレータに生じたクラック等をネットワークを形成可能な材料で埋めることができたためであると推察された。このことから、FSM−16を用いたセパレータでなくても、セパレータをネットワークを含んでなるものとすることで、放電容量の低下やクーロン効率の低下をより抑制することができるものと推察された。図14は実験例2,8の放電容量とクーロン効率とを示すグラフである。FSM−16を用いたセパレータに金属硫化物を添加したもの(実験例2)はFSM−22を用いたセパレータに金属硫化物を添加したもの(実験例8)と比較して、放電容量、クーロン効率ともに良好となることが分かった。FSM−16はFSM−22と比較して繰返し周期(d100)、細孔径及びBET比表面積が小さい点で異なることから、これらを好適なものとすることで、より放電容量やクーロン効率を向上させることができると推察された。
【0044】
【表1】
【符号の説明】
【0045】
10 評価セル、12 円筒基体、14 キャビティ、16 負極、18 セパレータ、19 セパレータ、20 正極、22 リング、24 円柱、25 加圧ボルト、25a 貫通孔、26 蓋、26a 開口、27 絶縁用樹脂リング、28 パッキン、29 絶縁リング。
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硫黄を正極活物質として使用する硫黄電池が知られている。硫黄は1675mAh/gという極めて高い理論容量密度を有するものであり、高容量電池として期待されている。しかし、電解液系の硫黄電池では、充放電時等に硫黄分子やポリ硫化物イオンなどが電解液中へ溶解して拡散し、これが負極金属と反応して自己放電を生じたり負極を劣化させることで、電池の容量や保存特性、充放電効率(クーロン効率)を劣化させることがあった。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1では、リチウム硫黄電池において、電解質としてエーテル系のものを用い、正極に少なくともZnOとAl2O3と、又は、ZnOとSb2O5とを添加したものとして、正極からの硫黄の溶出を抑制するものが提案されている。また、例えば特許文献2ではリチウムを負極とする非水電解質リチウム硫黄電池において、正極としてポリマー電解質で被覆された硫黄を含むものを使用し、正極とセパレータとの間または負極とセパレータとの間にポリマー電解質を配置することで、正極で生成したリチウム多硫化物等が負極へ拡散して生じる自己放電を抑制するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−251469号公報
【特許文献2】特開2003−242964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のリチウム硫黄電池では、正極からの硫黄の溶出を抑制するものの、硫化物等の負極側への拡散を抑制するものではないため、負極上での自己放電を十分に抑制することができないことがあった。また、特許文献2のリチウム硫黄電池では硫化物等の負極側への拡散を抑制するが、十分ではなく、また、リチウムイオンの輸率が低下することがあった。このような観点から、新規なリチウム硫黄電池の開発が望まれていた。また、電池容量のより大きいリチウム硫黄電池の開発が望まれていた。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、電解液系のものにおいて、新規なリチウム硫黄電池を提供することを主目的とする。また、電解液系のものにおいて電池容量のより大きいリチウム硫黄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、電解液系のものにおいて孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体を有するセパレータを備えたリチウム硫黄二次電池を作製したところ、有用な性能を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のリチウム硫黄電池は、
硫黄を含む正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体を有するセパレータと、
少なくとも前記正極と前記セパレータとの間に介在する電解液と、
を備えたものである。
【0009】
このリチウム硫黄電池では、孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体を有するセパレータを備えているため、電解液系のものにおいて、有用な性能を有するものを提供することができる。このような効果が得られる理由は定かではないが、孔部が形成されている無機多孔体を有するセパレータが、硫黄分子や硫化物イオンなどをトラップして負極側への拡散を抑制するためであると考えられる。
【0010】
また、本発明のリチウム硫黄電池は、
硫黄を含む正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、孔部が形成されている構造部を有し、該構造部に金属硫化物を添加したものであるセパレータと、
少なくとも前記正極と前記セパレータとの間に介在する電解液と、
を備えたものとしてもよい。
【0011】
このリチウム硫黄電池では、孔部が形成されている構造部を有し、該構造部に金属硫化物を添加したものであるセパレータを備えており、電解液系のものにおいて電池容量のより大きいものを提供することができる。このような効果が得られる理由は定かではないが、孔部に金属多硫化物を添加することにより、充放電に伴う正極活物質の溶出等による活物質量の減少を抑制することができるためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】FSM−16粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図2】FSM−16粉末の細孔分布曲線を示すグラフである。
【図3】FSM−22粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図4】FSM−22粉末の細孔分布曲線を示すグラフである。
【図5】メソポーラスアルミナ粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図6】メソポーラスアルミナ粉末の細孔分布曲線を示すグラフである。
【図7】評価セル10の説明図である。
【図8】実験例1,2,9の放電容量とクーロン効率を示すグラフである。
【図9】実験例1,2,9の放置後のクーロン効率を示すグラフである。
【図10】金属硫化物を添加したときの容量増加率を示すグラフである。
【図11】実験例1,2,7の放電容量とクーロン効率を示すグラフである。
【図12】実験例3〜6、9〜12の放電容量を示すグラフである。
【図13】実験例3〜6、9〜12のクーロン効率を示すグラフである。
【図14】実験例2,8の放電容量とクーロン効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明を具現化した一実施形態について説明する。本発明のリチウム硫黄電池は、硫黄を含む正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在し、絶縁性の無機多孔体を有するセパレータと、少なくとも正極とセパレータとの間に介在する電解液と、を備えている。
【0014】
本発明のリチウム硫黄電池において、正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質は、硫黄を含むものである。硫黄はどのような形態で含まれていてもよいが、単体硫黄及び金属硫化物の両方又は一方であることが好ましい。なお、本発明において、金属硫化物とは金属多硫化物をも含むものとする。即ち、金属をMeとすると金属硫化物はMexSy(x≧0,y≧0)で表すことのできるものとする。
【0015】
本発明のリチウム硫黄電池において、負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質は、金属または金属イオンを含むものであることが好ましい。負極活物質は、リチウムを吸蔵放出する材料を含むものとしてもよい。ここで、リチウムを吸蔵放出する材料としては、例えば金属リチウムやリチウム合金のほか、金属酸化物、金属硫化物、リチウムを吸蔵放出する炭素質物質などが挙げられる。リチウム合金としては、例えば、アルミニウムやシリコン、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウムなどとリチウムとの合金が挙げられる。金属酸化物としては、例えばスズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物などが挙げられる。金属硫化物としては、例えばスズ硫化物やチタン硫化物などが挙げられる。リチウムを吸蔵放出する炭素質物質としては、例えば黒鉛、コークス、メソフェーズピッチ系炭素繊維、球状炭素、樹脂焼成炭素などが挙げられる。この負極は、正極と同様に適宜、集電体や導電材、結着材を用いることができる。
【0016】
本発明のリチウム硫黄電池において、正極及び負極に用いられる導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック、ケッチェンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばエタノール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0017】
本発明のリチウム硫黄電池において、セパレータは孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体を有するものである。セパレータは、孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体粒子を、バインダー等と混ぜてシート化したものであってもよいし、樹脂等に分散させてシート化したものであってもよいし、ゾルゲル法により製膜したものであってもよいし、電極表面に薄膜として形成したものであってもよい。孔部が形成されている無機多孔体を有するものであれば、孔形状や孔径を適切に制御することでリチウムを選択的に通過させ、硫黄分子や硫化物イオンなどをトラップすることができると考えられる。特に、無機多孔体であれば、孔形状や孔径の制御がより容易であるため、リチウムの選択的通過及び硫黄分子や硫化物イオンなどのトラップに適するものとすることができると考えられる。なお、絶縁性のものであれば、電池の短絡を防ぐセパレータとしての役割を果たすことができる。
【0018】
セパレータに含まれる孔部が形成されている無機多孔体は、孔部として、マイクロ孔や、メソ孔等の細孔を有するものであることが好ましい。細孔の形態としては、一次元的にトンネル状に延びたものや、三次元的に箱状あるいは球状の細孔が結合したものなどを挙げることができる。また、細孔構造としては、二次元ヘキサゴナル構造、三次元ヘキサゴナル構造(P6mm,P63/mmc)、キュービック(Ia3d,Pm3n)、ラメラ等の規則構造や、不規則構造などが挙げられる。細孔径は、N2の吸着等温線を用いたBJH法で計算される中心細孔径が0.3nm以上100nm以下であることが好ましく、0.5nm以上50nm以下であることがより好ましく、0.7nm以上20nm以下であることがさらに好ましい。中心細孔径が0.3nm以上であればリチウムイオンの通過に十分であるし、100nm以下であれば硫化物などをトラップするのに十分であると考えられる。ここで、中心細孔径とは細孔分布曲線における最大のピークを示す細孔直径をいう。細孔は、細孔分布曲線における最大のピークを示す細孔直径の±40%の直径範囲に全細孔容積の60%以上が含まれていることが好ましい。細孔分布曲線における最大のピークを示す細孔直径の±40%の細孔径範囲が全細孔径容積の60%以上であれば、細孔径が均一であり、細孔径を有効に利用することができるため好ましい。なお、無機多孔体であれば結晶質であるか、非晶質であるかを問わない。また、無機多孔体はリチウム伝導性を有していてもよいし、有していなくてもよいが、リチウム伝導性を有している方がより好ましい。また、細孔は規則性を有するものであってもよいし、規則性を有しないものであってもよい。
【0019】
セパレータに含まれる無機多孔体は、酸化物系のものであることが好ましく、例えば、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、スズ、ハフニウム、マグネシウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、鉛、バナジウムなどの1種以上を含んでなる酸化物が挙げられる。これらの酸化物は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。このうち、アルミニウム、シリコン、マグネシウム、ジルコニウムの1種以上を含んでなる酸化物であることが好ましい。例えば、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、マグネシア(MgO)、ジルコニア(ZrO2)などであることが好ましい。また、シリカアルミナやシリカマグネシアのような多成分系のものであってもよい。アルミナやシリカ、マグネシア、ジルコニアは高い吸着性を有し、好適なものを選択することで、硫化物イオンや多硫化物イオンをより適切にトラップして負極側への拡散を抑制することができると考えられる。例えば、シリカ系の無機多孔体としてはMCM(MCM−41など)や、FSM(FSM−16など)のメソポーラスシリカが挙げられる。また、一般的にメソポーラスシリカより細孔径が小さいゼオライトなどであってもよい。ゼオライトは天然ゼオライトでも合成ゼオライトでもよいが、成分が均一で結晶性の高い合成ゼオライトが好ましい。合成ゼオライトとしては、A型、B型、D型、X型、Y型、Z型、β型、HY型などが挙げられる。なお、無機多孔体は各種金属原子や有機官能基、無機官能基で表面修飾されていてもよく、例えばチオール基、カルボキシル基、メチル基やエチル基などの低級アルキル基、フェニル基、アミノ基、ビニル基などで表面修飾されていてもよい。
【0020】
セパレータに含まれる無機多孔体は、特に製法で限定されるものでなく、例えば、ゾルゲル法を用いたものであってもよいし、テンプレート法や、噴霧法、マイクロモールディング法、異相界面合成法などを用いたものであってもよい。また、セパレータに含まれる無機多孔体の形態としては、粉末、顆粒、支持膜、自立膜、透明膜、配向膜、球状、繊維状、基板上のバーニング、μmサイズの明瞭な形態を持つ粒子などを挙げることができる。また、必要に応じて成型したものであってもよい。成型手段は特に限定されないが、押出成型、打錠成型、転動造粒圧縮成型、CIP等が好ましい。
【0021】
無機多孔体のシート化に用いるバインダーや樹脂は、特に限定されるものでないが、柔軟性があり、電解液に溶解せず安定なものであることがより好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。これらのバインダーや樹脂は、セパレータ全体に対して20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることがさらに好ましい。バインダーや樹脂を用いてシート化したセパレータを形成する場合、無機多孔体はより分散性の高いものであることが好ましく、粒子径も均一であることが好ましい。粒子径としては例えば0.01μm以上30μm以下の範囲であることが好ましく、0.01μm以上10μm以下の範囲であることがより好ましい。
【0022】
また、セパレータは、金属硫化物を添加したものであることが好ましい。即ち、無機多孔体の孔部である細孔内に金属硫化物をあらかじめ添加したものであることが好ましい。リチウム硫黄電池では、溶液中への活物質(硫黄分子や硫化物イオンなど)の溶解により有効に使える活物質量が低下することがあるが、孔部に金属硫化物を添加することによりこれを抑制することができると考えられるからである。また、金属硫化物をあらかじめ添加したものとすると、理由は明らかではないが、硫黄分子や硫化物イオンの負極への拡散をより抑制するなどして、電池容量をより向上することができるからである。ここで、金属硫化物は金属多硫化物を含むものとする。即ち、金属をMeとすると金属硫化物はMexSy(x≧0,y≧0)で表すことのできるものとする。金属硫化物を形成する金属Meは特に限定されないが、ナトリウムや、カリウム、リチウムなどが好ましく、このうちリチウムであることが好ましい。また、金属硫化物は金属多硫化物であることが好ましく、リチウム多硫化物であることがより好ましく、Li2S3またはLi2S4であることがより好ましい。セパレータについて、金属硫化物を添加する方法は特に限定されるものではない。例えば、金属硫化物を溶媒に溶解した溶液をセパレータに滴下する方法であってもよいし、この溶液にセパレータを浸漬する方法であってもよい。また、製膜の際に原料として金属硫化物を加える方法であってもよい。このとき、金属硫化物は孔部の容積以下で含まれるものとすることが好ましい。セパレータは、絶縁性の無機多孔体を含むものでなくても、金属硫化物を添加したものであれば電池容量をより向上することができるが、無機多孔体を有するセパレータをさらに金属硫化物を添加したものとすることでより電池容量が向上する。この理由は定かではないが、無機多孔体と金属硫化物とが何らかの好適な相乗効果を生じるためであると考えられる。
【0023】
また、セパレータは、ネットワークを形成可能な材料を含んでいるものであることが好ましい。特に、孔部の内部にネットワークが形成されていることがより好ましい。ここで、ネットワークを形成可能な材料は、有機材料であってもよいし、無機材料であってもよい。ネットワークを形成可能な有機材料としては、モノマーや重合度の低いポリマーなどが挙げられる。これらのネットワークを形成可能な有機材料は、重合反応や架橋反応などが生じるネットワーク形成処理によって、例えばポリマーとしてネットワークを形成する。なお、ネットワークを形成する方法は、例えば、上述したネットワークを形成可能な材料を含む溶液にセパレータを浸漬し、上述したネットワーク形成処理を施すことでセパレータにネットワークを形成してもよい。ネットワークを形成可能な材料を含んでいるものについて所定の処理をすることで、ネットワークを形成すると考えられるが、セパレータにネットワークを形成可能な材料を含むものとすれば、ネットワークの形成は十分になされていなくてもよい。ネットワークを形成可能な無機材料としては、溶媒に溶解されたイオンや無機化合物、錯体などが挙げられる。これらは、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、スズ、ハフニウム、マグネシウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、鉛、バナジウムの1種以上を含んでいるものであることが好ましい。このうち、アルミニウム、シリコン、マグネシウム、ジルコニウムの1種以上を含んでいることがより好ましい。これらのネットワークを形成可能な無機材料は、例えば、加水分解、脱水縮合などを生じるネットワーク形成処理によってネットワークを形成するものであってもよい。このような処理によって、上記元素のいずれかを適宜含むネットワークが形成される。ネットワークは三次元的に形成されるものであることが好ましく、また、酸化物系のネットワークであることが好ましい。なお、ネットワークを形成する方法は、例えば、上述したネットワークを形成可能な材料を含む溶液にセパレータを浸漬し、ネットワーク形成処理を施すことでセパレータにネットワークを形成するものであってもよい。ネットワークを形成可能な材料を含んでいるものについて所定の処理をすることで、ネットワークを形成すると考えられるが、セパレータにネットワークを形成可能な材料を含むものとすれば、ネットワークの形成が十分になされていなくてもよい。ここで、例えば、シリコンを含むネットワークを形成可能な材料としては、テトラオキシシランなどが挙げられ、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランなどのテトラアルコキシシラン、メチルトリメトキシシランなどが挙げられる。このうち、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)とエタノールとを含む溶液中にセパレータを浸漬してTEOSの加水分解を進行させ、さらに乾燥した場合、粒子間隙にはシリカ(SiO2)が形成されるものと考えられる。また、ネットワークを形成可能な材料は、上記有機材料と上記無機材料とを複合して用いてもよい。
【0024】
なお、セパレータは、上述したものを単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよいし、通常用いられる有機系のセパレータと組み合わせて用いてもよい。例えば、還元力の強い金属リチウムを負極に用いる場合には、無機多孔体が還元されてしまうことがあるが、還元されにくいポリエチレンなどを負極側に用いることでこれを抑制することができる。有機系のセパレータとしては、リチウム硫黄電池の使用範囲に耐え得る組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0025】
本発明のリチウム硫黄電池において、電解液は、少なくとも正極とセパレータとの間に介在している。このようにすることで、正極で生成されたポリ硫化物イオンや硫化物イオン、硫黄分子が電解液中に溶解するため、電解液が存在しない場合と比較して活物質供給の効率がより良好になると考えられる。このような構成として、例えば、正極や負極に電解液を含浸した状態でセパレータと接触する構成としてもよい。また、セパレータに電解液を含浸した状態で正極と接触する構成としてもよい。なお、負極とセパレータとの間には電解液が介在しなくてもよいが、固体同士の接触状態が良好でない場合などには、電解液によってイオン伝導を良好にすることができるため負極とセパレータとの間には電解液が介在していることが好ましい。電解液は、溶媒に支持塩を溶解した溶液であってもよい。支持塩としては、通常のリチウム二次電池に用いられるリチウム塩であれば特に限定されるものではなく、例えば、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6,LiClO4,LiBF4,などの公知の支持塩を用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。電解液の溶媒としては、非プロトン供与性で通常のリチウム二次電池に用いられるものであれば特に限定されないが、ジメトキシエタン(DME)、トリグライム、テトラグライムなどのエーテル類、ジオキソラン(DOL)、テトラヒドロフランなどの環状エーテル及び、それらの混合物が好適である。また、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどのイオン液体を用いることもできる。電解液は、少なくとも正極とセパレータとの間に介在していればよく、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子類又はアミノ酸誘導体やソルビトール誘導体などの糖類に、支持塩を含む電解液を含ませてゲル化されていてもよい。また、硫黄電池では溶液中への活物質(硫黄やポリ硫化物イオンなど)の溶解により、有効に使える活物質量が低下することがあるため、あらかじめ電解液中にポリ硫化物イオンなどを添加しておいてもよい。
【0026】
本発明の硫黄電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0027】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0028】
例えば、上述した実施形態では、セパレータは孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体を有するものとしたが、特に無機多孔体に限定されずに、孔部が形成されている構造部を有し、構造部に金属硫化物を添加したものとすることができる。ここで、構造部とは、絶縁性の無機多孔体に限定されない趣旨であり、何らかの孔部を有しているものをいう。例えば、化学的な結合体で間隙として孔部を有しているものであっても、物理的な集合体で固体同士の接触の間隙として孔部を有しているものであってもよい。また、機械的に形成された孔部を有しているものであってもよい。孔部が形成されている構造部を有しているものであれば、金属硫化物をセパレータ内に保持することができ、充放電に伴う正極活物質の溶出等による活物質量の減少を抑制することができると考えられるからである。ここで、孔部が形成されている構造部は、有機物であっても無機物であってもよい。孔部が形成されている構造部が無機物である場合、上述した無機多孔体の細孔のような孔部を有するものであってもよいし、また、無機粒子が凝集したり、無機粒子をバインダ等で結着したことによって形成される空隙を孔部として有するものであってもよい。また、無機粒子の表面に凹凸があるものであれば、凝集や結着によってより多くの孔部が形成される点で好ましい。このような無機化合物としてはシリコン、アルミニウム、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、スズ、ハフニウム、マグネシウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、鉛、バナジウムの1種以上を含んでいるものであることが好ましく、アルミニウム、シリコン、ジルコニウム、マグネシウムの1種以上を含んでいるものであることがより好ましい。このうち酸化物系のものであることがより好ましい。孔部が形成されている構造部が有機物である場合、孔部は、網状に発達したポリマーの空隙であってもよいし、テンプレートなどを用いて形成したものであってもよい。例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムなどが挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下には、本発明のリチウム硫黄電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0030】
[シリカ系多孔体(FSM−16)の合成]
シリカ系多孔体は特開H9−310282号公報及び特開H9−309970号公報に準じて、以下のように合成した。水1Lにヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド36.5g、及び、ジケイ酸ナトリウム50gを添加した。この混合分散溶液を70℃に昇温後、3時間攪拌した。次に、その混合溶液を2規定塩酸約250mLで中和し、再び3時間攪拌した。その後、ろ過と洗浄とを5回繰り返して得た固体成分を熱風乾燥機で3日間乾燥することにより、ケイ酸塩中に界面活性剤イオンが導入された多孔体前駆体としての白色粉末を得た。次いで、この白色粉末を550℃で焼成することにより、界面活性剤イオンを分解除去してシリカ系多孔体(FSM−16)粉末を得た。このシリカ系多孔体の構造解析を行った。まず、合成したシリカ系多孔体の粉末X線回折パターンを測定した。X線回折は理学電機製X線回折装置(リガク製,RINT2100)を用い、CuKαを線源として2°(2θ)/分でスキャンした。スリット幅は、1/2°−0.15mm−1/2°である。図1にFSM−16粉末のX線回折パターンを示す。図1より、回折角度(2θ)が10°以下に数本のピークが観察され、繰返し周期(d100)が3.9nmに相当する、規則的な周期構造の細孔を持っていることが分かった。次にFSM−16粉末の窒素吸着等温線をユアサアイオニクス製全自動ガス吸着量測定装置1AG−Sを用いて測定した。測定したシリカ系多孔体の窒素吸着等温線から、BJH法により、細孔分布曲線を求めた。図2には、FSM−16粉末の細孔分布曲線を示す。図2より、細孔分布曲線における最大のピークを示す細孔直径(中心細孔直径と称する)は2.79nmであることが分かった。また、BET法により測定した比表面積は971m2/gであった。
【0031】
[シリカ系多孔体(FSM−22)の合成]
シリカ系多孔体(FSM−22)は、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド36.5gに代えて、ドコシルトリメチルアンモニウムクロライド40.5gを用いたこと以外は、FSM−16と同様に合成した。このシリカ系多孔体(FSM−22)の構造解析をFSM−16の場合と同様に行った。図3にFSM−22粉末のX線回折パターンを示す。図3より、回折角度(2θ)が10°以下に数本のピークが観察され、繰返し周期(d100)が4.9nmに相当する、規則的な周期構造の細孔を持っていることが分かった。次にFSM−22粉末の細孔分布曲線をFSM−16の場合と同様に求めた。図4には、FSM−22粉末の細孔分布曲線を示す。図4より、細孔分布曲線における最大のピークを示す細孔直径(中心細孔直径と称する)は3.92nmであることが分かった。また、BET法により測定した比表面積は1040m2/gであった。
【0032】
[メソポーラスアルミナの合成]
メソポーラスアルミナはWO2005/092794に準じて以下のように合成した。まず、シクロヘキサン45.4gにSorbitane trioleate(アルドリッチ製 Span85)38.4gを溶解し、塩化ランタン7水和物0.556gを溶解させた水溶液7.6gを加えて、30分間攪拌した。次に、上記溶液にアルミニウムsec−ブトキシド14.8gを加えて20分間攪拌し混合液とした。この混合液を、蓋つきのビンに移して45℃で16時間攪拌して、沈殿物を得た。得られた沈殿を遠心分離し、100℃で乾燥したのち、500℃(昇温速度:1℃/分)で6時間焼成して、多孔質アルミナ粉末を合成した。この多孔質アルミナ粉末の構造解析を行った。まず、合成した多孔質アルミナ粉末の粉末X線回折パターンを測定した。X線回折はリガク製X線回折装RINT−TTRを用い、CuKαを線源として2°(2θ)/分でスキャンした。スリット幅は、1/6°−0.15mm−1/6°である。図5にはメソポーラスアルミナ粉末のX線回折パターンを示す。図5より、回折角度(2θ)が10°以下に1本のピークが観察され、繰返し周期(d100)が7.1nmに相当する規則的な周期構造の細孔を持っていることが分かった。次に多孔質アルミナ粉末の窒素吸着等温線をユアサアイオニクス製全自動ガス吸着量測定装置1AG−Sを用いて測定した。測定したシリカ系多孔体の窒素脱着等温線から、BJH法により、細孔分布曲線を求めた。図6には、メソポーラスアルミナ粉末の細孔分布曲線を示す。図6より、細孔分布曲線における最大のピークを示す細孔直径(中心細孔直径と呼ぶ)は3.5nmを示した。また、BET法により測定した比表面積は337m2/gであった。
【0033】
[実験例1]
正極は以下のように作製した。まず、正極活物質としての硫黄(高純度化学製、99.99%、powder75μmメッシュパス)50mgと導電材としてのケッチェンブラック(ECP)40mgとを少量のエタノールを加えて乳鉢で混練したものに、結着材としてのPTFE粉末(ダイキン工業製 ポリフロンF−104 )10mgを加えてよく混練した後、シート状にロール整形し、φ12mmに切り出した。次に、60℃、2〜3Torrで2時間真空乾燥して正極とした。負極はφ18mmのリチウム金属板を用いた。電解液としては、1,3ジオキソランと1,2−ジメトキシエタンとを10:90の体積比で混合した電解液に、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を1mol/Lとなるように溶解したものを用いた。セパレータは以下のように作製した。まず、上述のように作製したFSM−16とPTFE(ダイキン工業製,ポリフロンF−104)とを重量比9:1で秤量し、乳鉢で混練しシート状に成形後、φ18mmで切断した。次に60℃、2〜3Torrで2時間、真空乾燥し、実験例1のセパレータとした。
【0034】
このようにして得られた正極、負極、セパレータ及び、電解液を使用してアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で評価セルを作製した。図7は評価セル10の説明図であり、図7(a)は評価セル10の組立前の断面図、図7(b)は評価セル10の組立後の断面図である。評価セル10を組み立てるにあたり、まず、外周面にねじ溝が刻まれたステンレス製の円筒基体12の上面中央に設けられたキャビティ14に、負極16と、ポリエチレン製セパレータ18(微多孔性ポリエチレン膜、東燃化学(株)製)と、上述したFSM−16を含むセパレータ19と、正極20とを、この順に、適量の非水系電解液をキャビティ14に注入しながら積層した。さらに、ポリプロピレン製の絶縁リング29を入れ、次いで絶縁性のリング22の穴に液密に固定された導電性の円柱24を正極20の上に配置し、導電性のコップ状の蓋26を円筒基体12にねじ込んだ。さらに、円柱24の上に絶縁用樹脂リング27を配置し、蓋26の上面中央に設けられた開口26aの内周面に刻まれたねじ溝に貫通孔25aを持つ加圧ボルト25をねじ込み、負極16とセパレータ18と固体電解質膜18と正極20とを加圧密着させた。このようにして、評価セル10を作製した。なお、円柱24は、リング22の上面より下に位置し絶縁用樹脂リング27を介して蓋26と接しているため、蓋26と円柱24とは非接触な状態となっている。また、キャビティ14の周辺にはパッキン28が配置されているため、キャビティ14内に注入された電解液が外部に漏れることはない。この評価セル10では、蓋26と加圧ボルト25と円筒基体12とが負極16と一体化されて全体が負極側となり、円柱24が正極20と一体化されると共に負極16と絶縁されているため正極側となる。このようにして得られた評価セルを実験例1とした。
【0035】
[実験例2]
セパレータ19として実験例1のセパレータ(FSM−16)に10重量%のLi2S3−DME溶液を80μl滴下し、乾燥させたものを用いたこと以外は実験例1と同様に評価セルを作製し、実験例2とした。
【0036】
[実験例3,4]
FSM−16粉末のかわりに上述のように合成したメソポーラスアルミナ粉末(細孔直径:3.5nm、比表面積:366m2/g)を用いて実験例1と同様に実験例3のセパレータを作製した。得られたセパレータをセパレータ19として用いた以外は実験例1と同様にして評価セルを作製し、実験例3とした。また、実験例3で用いたセパレータ(メソポーラスアルミナ)を用いたこと以外は、実験例2と同様に評価セルを作製し、実験例4とした。
【0037】
[実験例5,6]
FSM−16のかわりにHY型ゼオライト(東ソー製ハイシリカゼオライトHSZ−390HUA、S/A比:400、細孔径0.74nm)を用いて実験例1と同様に実験例5のセパレータを作製した。得られたセパレータをセパレータ19として用いた以外は実験例1と同様に評価セルを作製し、実験例5とした。また、実験例5で用いたセパレータ(HY型ゼオライト)を用いたこと以外は実験例2と同様に評価セルを作製し、実験例6とした。
【0038】
[実験例7]
実験例1で用いたセパレータ(FSM−16)について、以下に示すTEOS処理を行い、ネットワークを形成可能な材料を含むものとした。まず、テトラエトキシシラン(TEOS)1mlをエタノール28mlに溶解させた。この溶液7mlと実験例1のセパレータ1枚とをポリ容器に加えて蓋をして、70℃の恒温槽中で21時間静置した。その後、セパレータを取り出し、室温で乾燥させた後、160℃の恒温槽で2時間熱処理して脱水縮合反応させて実験例7のセパレータを作製した。このセパレータを用いたこと以外は実験例2と同様にして評価セルを作製した。
【0039】
[実験例8]
FSM−16のかわりにFSM−22を用いたこと以外は実験例2と同様に評価セルを作製し、実験例8とした。
【0040】
[実験例9,10]
実験例1のセパレータのかわりに30μmのポリエチレン多孔膜(微多孔性ポリエチレン膜、東燃化学(株)製)を使用したこと以外は実験例1と同様に評価セルを作製し、実験例9とした。また、実験例9で用いたポリエチレン多孔膜を用いたこと以外は実験例2と同様に評価セルを作製し、実験例10とした。
【0041】
[実験例11,12]
FSM−16のかわりにヒュームドシリカ(日本アエロジル製アエロジル300CF、比表面積:300m2/g)を用いて実験例1と同様に実験例11のセパレータを作製した。得られたセパレータをセパレータ19として用いた以外は実験例1と同様に評価セルを作製し、実験例11とした。また、実験例11で用いたセパレータ(ヒュームドシリカ)を用いたこと以外は実験例2と同様に評価セルを作製し、実験例12とした。
【0042】
[評価]
作製した実験例1〜12の評価セルを用いて、電気化学特性の評価を行った。まず、評価セルを25℃の恒温槽内に設置し、放電電流0.5mAで、放電終止電位1.5V(vs.Li/Li+)までCC放電を行う放電と、充電電流0.5mAで、充電終止電位2.8V(vs.Li/Li+)までCC充電を行う充電とを1サイクルとし、これを30サイクル実施後、CC放電充電電流を1mAに上げて、10サイクル実施し、さらにCC放電充電電流を0.5mAに下げて10サイクル行った。このとき、各サイクルにおいて正極(合材)あたりの充電容量と放電容量を測定し、50サイクル目の放電容量4サイクル目の放電容量で除したものに100を乗じて放電容量維持率を求めた。また、n回目の放電容量をn−1回目の充電容量で除したものに100を乗じてnサイクル目のクーロン効率を算出した。さらに、上述した50サイクル目の0.5mA充電後、30秒、1時間、2時間、5時間、10時間、24時間放置し、0.5mAでCC放電を行い、放電容量を測定した。30秒放置後の放電容量を50サイクル目の充電容量で除したものに100を乗じて30秒放置後のクーロン効率を求めた。1時間、2時間、5時間、10時間、24時間放置後のクーロン効率も同様に求めた。
【0043】
(実験結果)
表1には、実験例1〜12について、初期(4サイクル目)の放電容量、50サイクル目の放電容量、放電容量維持率、初期(4サイクル目)のクーロン効率、50サイクル目のクーロン効率、24時間放置後のクーロン効率を示した。なお、1〜50サイクル目までの各サイクルにおける放電容量及びクーロン効率は、図8及び図11〜14に示す通りである。図8は、実験例1,2,9の放電容量とクーロン効率を示すグラフである。無機多孔体であるFSM−16を用いた実験例1、2ではポリエチレンを用いた実験例9と比較して、初期(〜5サイクル目)を除いてクーロン効率が良好であり、サイクルの繰返し数の増加に伴ってクーロン効率がより良好となった。一方で、放電容量は実験例2、実験例9、実験例1の順に良好となった。この点について、FSM−16は初期の充放電時に電解液に溶出した硫化物イオンを吸着して放出しないために、有効活物質量を低下させるものと推察された。しかし、あらかじめ金属硫化物(Li2S3)を添加することで、有効活物質量の低下を抑制することができたものと推察された。このことから、セパレータとして無機多孔体を有するもの用いるとクーロン効率が向上し、このとき、有効活物質量の低下を抑制すれば放電容量の低下も抑制できるものと推察された。ここで、有効活物質量の低下を抑制する方法は、正極中の硫黄の量を増やすものであってもよいし、電解液中に硫化物イオンなどを添加するものであってもよいと推察された。一方で、セパレータに金属硫化物を添加した実験例2では実験例1の2倍以上の放電容量を示したことから、無機多孔体と金属硫化物とを含むセパレータとしたことで、有効活物質量低下の抑制以外の何らかの相乗効果が得られたものと推察された。図9は、実験例1,2,9の所定時間放置後のクーロン効率を示すグラフである。無機多孔体であるFSM−16を用いた実験例1,2においていずれも24時間後のクーロン効率が58%であったのに対し、ポリエチレンを用いた実験例9は37%であった。このことから、無機多孔体を有するセパレータを用いると、電池内での自己放電を抑制して保存特性の良好なものとすることができることが分かった。図10は金属硫化物を添加したときの容量増加率を示すグラフである。金属硫化物を添加したときの容量増加率は、金属硫化物を添加したものの放電容量を金属硫化物を添加しないものの放電容量で除したものに100を乗じて得た値である。このグラフから、孔部を有する構造部を有するものであれば、いずれのセパレータを用いたものにおいても、金属硫化物を添加することで放電容量が大きくなることが分かった。また、表1から分かるように初期の放電容量が特に大きいことから、充放電の初期に生じやすい正極活物質の溶出などによる活物質量低下を、抑制することができたものと推察された。さらに、有機系セパレータを用いたもの(実験例9,10)や、中実の無機材質を用いたもの(実験例11,12)と比較すると、無機多孔体を有するセパレータを用いたものでは、より放電容量が大きくなることが分かった。なかでも、ゼオライトやメソポーラスアルミナを無機多孔体として含むセパレータを用いたものでは、より放電容量が大きくなることが分かった。このことからも、無機多孔体と金属硫化物との相乗効果によって、より大きな放電容量が得られたものと推察された。図11は実験例1,2,7の放電容量とクーロン効率を示すグラフである。FSM−16を用いたセパレータにTEOS処理を施してさらに金属多硫化物を添加すると、放電容量がより向上し、クーロン効率の低下も抑制できることが分かった。特に、繰返し充放電における放電容量の低下を抑制するだけでなく、放電容量が向上するという効果が得られることが分かった。このような効果が得られたのは、TEOS処理によって、セパレータに生じたクラック等をネットワークを形成可能な材料で埋めることができたためであると推察された。このことから、FSM−16を用いたセパレータでなくても、セパレータをネットワークを含んでなるものとすることで、放電容量の低下やクーロン効率の低下をより抑制することができるものと推察された。図14は実験例2,8の放電容量とクーロン効率とを示すグラフである。FSM−16を用いたセパレータに金属硫化物を添加したもの(実験例2)はFSM−22を用いたセパレータに金属硫化物を添加したもの(実験例8)と比較して、放電容量、クーロン効率ともに良好となることが分かった。FSM−16はFSM−22と比較して繰返し周期(d100)、細孔径及びBET比表面積が小さい点で異なることから、これらを好適なものとすることで、より放電容量やクーロン効率を向上させることができると推察された。
【0044】
【表1】
【符号の説明】
【0045】
10 評価セル、12 円筒基体、14 キャビティ、16 負極、18 セパレータ、19 セパレータ、20 正極、22 リング、24 円柱、25 加圧ボルト、25a 貫通孔、26 蓋、26a 開口、27 絶縁用樹脂リング、28 パッキン、29 絶縁リング。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄を含む正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体を有するセパレータと、
少なくとも前記正極と前記セパレータとの間に介在する電解液と、
を備えたリチウム硫黄電池。
【請求項2】
前記セパレータは、金属硫化物を添加したものである、
請求項1に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項3】
硫黄を含む正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、孔部が形成されている構造部を有し、該構造部に金属硫化物を添加したものであるセパレータと、
少なくとも前記正極と前記セパレータとの間に介在する電解液と、
を備えたリチウム硫黄電池。
【請求項4】
前記セパレータは、前記構造部として絶縁性の無機多孔体を有するものである、
請求項3に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項5】
前記絶縁性無機多孔体は、アルミニウム、シリコン、マグネシウム、ジルコニウムのうちの1種以上を含んでなる酸化物である、請求項1、2、4のいずれか1項に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項6】
前記セパレータは、前記孔部にネットワークを形成可能な材料を含んでいる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項1】
硫黄を含む正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、孔部が形成されている絶縁性の無機多孔体を有するセパレータと、
少なくとも前記正極と前記セパレータとの間に介在する電解液と、
を備えたリチウム硫黄電池。
【請求項2】
前記セパレータは、金属硫化物を添加したものである、
請求項1に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項3】
硫黄を含む正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、孔部が形成されている構造部を有し、該構造部に金属硫化物を添加したものであるセパレータと、
少なくとも前記正極と前記セパレータとの間に介在する電解液と、
を備えたリチウム硫黄電池。
【請求項4】
前記セパレータは、前記構造部として絶縁性の無機多孔体を有するものである、
請求項3に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項5】
前記絶縁性無機多孔体は、アルミニウム、シリコン、マグネシウム、ジルコニウムのうちの1種以上を含んでなる酸化物である、請求項1、2、4のいずれか1項に記載のリチウム硫黄電池。
【請求項6】
前記セパレータは、前記孔部にネットワークを形成可能な材料を含んでいる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウム硫黄電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−257689(P2010−257689A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105040(P2009−105040)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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