説明

リチウム箔積層体の製造方法およびその製造装置

【課題】フレア等の不具合の生じないリチウム箔積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】圧延装置Aにおいて、一次箔10aを、3つの圧延ロール11a〜11cにより、順次薄くして、厚み100nm〜30μm程度のリチウム箔10を形成する。その際、潤滑剤供給装置50により、潤滑剤13を圧延ロール11a〜11c表面またはリチウム箔10表面の少なくとも一方に供給する。その後、積層装置Bにおいて、圧延されたリチウム箔10を基材フィルム30に積層する。その際、潤滑剤除去装置40により、潤滑剤13のほぼ全てを、リチウム箔10が圧延されてから、積層されるまでの領域Rcにおいて除去する。よって、リチウム箔10と基材フィルム30との間には、潤滑剤13がほとんど介在していない。基材フィルム30の材種の選択に際し、リチウム箔10との反応だけを避ければよいので、基材フィルム30の選択の幅が拡大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池等に用いられる、リチウムまたはリチウム合金からなるリチウム箔を基材フィルムに積層してなるリチウム箔積層体の製造方法およびその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム箔を用いた各種機器,特に蓄電デバイスの高機能化,小型化の要請に応じ、リチウム箔のさらなる薄膜化が要求され、最近では、100μm以下の厚みを有するリチウム箔の製造が要求されている。
このような極めて薄いリチウム箔がロール間で冷間圧延される製造工程においては、ロール表面に炭素数8以上の鎖式飽和炭化水素を潤滑剤として供給することが生産性の向上や品質の維持に極めて有効であることが明らかにされ(例えば、特許文献1参照)実施されている。
【0003】
一方、このような極薄のリチウム箔は、機械的強度が極めて弱いため、製造ライン等においてリチウム箔を単体で輸送,保管することは難しい。そこで、特許文献2に開示されるごとく、プラスチックフィルムなどの基材フィルムにリチウム箔を積層してなるリチウム箔積層体を形成する方法が考案されている。これにより、製造ライン等におけるリチウム箔の輸送、保管の際に、化学的、機械的な安定性や取り扱い上の利便性の向上が期待される。また、蓄電デバイスの製造時には、この基材フィルムを剥がしながら電池部材への装着をすることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−58007号公報
【特許文献2】特開2006−134785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記リチウム箔積層体の保管期間が長くなるにつれて、プラスチックフィルム等の基材フィルムに、フレア(波打ち状の形状)がしばしば発生するという不具合があった。このフレアは、基材フィルムを剥がした後のリチウム箔に転写されて、リチウム箔にもフレアが形成される。その結果、リチウム箔を用いた蓄電デバイス等の歩留まりを悪化させるおそれがあった。
【0006】
本発明者達が、その原因を詳しく調べたところ、フレアは、プラスチックフィルムとリチウム箔または潤滑剤との反応によって発生することがわかってきた。
【0007】
本発明の目的は、フレアが発生する原因の究明に基づき、フレア等の不具合の生じないリチウム箔積層体の製造方法およびその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のリチウム箔積層体の製造方法は、リチウムまたはリチウム合金からなるリチウム箔を、ロール表面およびリチウム箔表面の少なくとも一方に潤滑剤を供給しつつ圧延する工程と、圧延されたリチウム箔から潤滑剤を実質的に除去する工程と、潤滑剤が除去されたリチウム箔を基材フィルムに積層してリチウム箔積層体を形成する工程とを含んでいる。
除去する方法として、具体的には、加熱,送風,吸引,拭き取り,洗浄のいずれか1つの操作、またはこれらを併せて行うことができる。潤滑剤の除去は、リチウム箔を送りながら連続的に行うことが好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。
「実質的に除去する」とは、リチウム箔の表面から完全に潤滑剤が除去されていなくてもよく、微量の潤滑剤と基材フィルムとが反応しても、フレアを生じさせない程度の微量の潤滑剤であれば、許容する意味である。
リチウム箔には、純リチウムからなるものだけでなく、リチウム−アルミニウム合金のようなリチウム合金からなるものも含まれる。リチウム合金としては、リチウムリッチな合金であれば特に限定されないが、リチウムを90重量パーセント以上含有する合金を用いるのが好ましい。
「リチウム箔積層体」は少なくとも基材フィルムの片面にリチウム箔が積層されていればよい。したがって、基材フィルムの両面にリチウム箔が積層されていてもよい。また、基材フィルムの片面側で、リチウム箔が複数層積層されていてもよい。
また、圧延されたリチウム箔をいったん巻き取ってから、基材フィルムと積層してもよいし、リチウム箔を巻き取ることなく圧延と積層とを連続して行なってもよい。
一般的には、リチウム箔積層体は、リールで巻き取られるが、巻き取らずに、例えば、1辺15cm以上の薄板として加工する場合は、厚み1mm程度以上の基材フィルムを用い、その表面にリチウム箔を積層することもできる。
【0009】
この方法により、以下の作用効果が得られる。
リチウム箔を圧延する際には、潤滑剤をロール表面およびリチウム箔表面の少なくとも一方に供給することで、圧延を円滑に行うことができる。しかも、リチウム箔と基材フィルムとを積層する際には、リチウム箔の表面から潤滑剤がほぼ除去されているので、潤滑剤と基材フィルムとの反応によるフレアの発生を抑制することができる。よって、特許文献2における基材フィルム上の表面材は不要となり、製造の手間や製造コストを削減することができる。
また、基材フィルムの材種の選択に際しては、潤滑剤との反応性を考慮する必要がなく、リチウム箔との反応だけを避ければよい。したがって、基材フィルムの材質の選択の幅が拡大する。
また、基材フィルムとして金属フィルムを用い、金属フィルムを蓄電デバイス等の一部として利用する場合には、金属フィルムとリチウム箔との間に潤滑剤がほとんど残存しないので、リチウム箔と金属フィルムとの導通性が確保される。
【0010】
基材フィルムとして、リチウム箔と実質的に反応しないプラスチックフィルムを用いた場合には、主として、リチウム箔を基材フィルムから剥がして、他の部材に取り付ける処理を行うことになる。このとき、リチウム箔積層体として、輸送,保管などすることで、リチウム箔の品質を維持することができる。リチウム箔と「実質的に反応しない」とは、ごく一部で反応が生じたとしても、製品が不良となるような反応が生じないことを意味する。
プラスチックフィルムとしては、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンーポリプロピレン共重合体等の汎用樹脂のフィルム他、エンジニアリングプラスチック等のフィルムがある。
そのうち、分子式がCnH2n+2-2mで表されるポリオレフィン,PET,ポリ塩化ビニリデンおよび塩化ビニリデンを主成分とするポリマーは、リチウム箔や潤滑剤との反応が生じにくいので、基材フィルムの材料として用いることにより、基材フィルムやリチウム箔のフレアの発生を抑制することができる。
ポリオレフィンの中でも、ポリエチレン及びポリプロピレンは、リチウム箔との反応性がほとんどなく、安価で入手も容易であることから、実用的に最適な材料である。
なお、プラスチックフィルムとリチウム箔との間に粘着材が介在していてもよい。その場合にも、潤滑剤が残存していないことで、潤滑剤と粘着材との反応を考慮する必要がなくなる。また、潤滑剤が残存していないので、基材フィルムとリチウム箔とが確実に貼り合わされることになる。
【0011】
基材フィルムとして、実質的にリチウムと反応しない金属フィルムを用いた場合、金属フィルムとリチウム箔とが潤滑剤を介することなく、相導通するので、金属フィルムをそのまま蓄電デバイスの一部として用いることができる。具体的には、リチウムとの反応性がほとんどない、たとえば、Cu,Ni,Fe,Ta,Wなどが好ましい。
【0012】
炭素数8以上の鎖式飽和炭化水素を潤滑剤として使用すれば、圧延ロールと固着せずに原料箔を冷間圧延加工することができ、極めて薄いリチウム金属箔又はリチウム合金箔が得られることがわかっている。炭素数8以上の鎖式飽和炭化水素には、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサンなどがある。
たとえば、圧延されたリチウム箔をいったん巻き取る場合には、巻き取るまでに潤滑剤を全て除去することが好ましいが、多少潤滑剤が残存していても、巻き取られたリチウム箔が基材フィルムと積層されるまでに、潤滑剤をほぼ除去すればよい。
特に、潤滑剤が揮発性を有する物質からなるものであることにより、潤滑剤の除去がより容易となる。鎖式飽和炭化水素の中では、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカンは、揮発性が高く、積層体を形成する時点でリチウム箔に残存しないように、工程を調整することが容易である。
【0013】
圧延されたリチウム箔を、巻き取ることなく、基材フィルムに積層することも可能である。リチウム箔を送りながら、リチウム箔から潤滑剤を除去することにより、圧延から積層までを連続的に行うことが可能になり、製造コストの削減を図ることができる。
【0014】
積層時には、基材フィルムとして、少なくとも片面にポリ塩化ビニリデンフィルム又は塩化ビニリデンを主成分とするポリマーフィルムからなる表面材を積層してなる基材フィルムの表面材側を、リチウム箔の少なくとも片面に接触させることができる。これにより、リチウム箔の基材フィルムからの剥離性を向上させることができる。
【0015】
ここで、「塩化ビニリデンを主成分とするポリマー」とは、塩化ビニリデンの含有量が50重量パーセント以上のポリマーをいい、塩化ビニリデンの含有量が50重量パーセント以上であれば、塩化ビニリデンと他のモノマーとの交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体及びこれらの混合物、さらにはポリ塩化ビニリデンと他のポリマーとの混合物などを含む概念である。他のモノマーとしては、オレフィンやそのハロゲン化物が例示され、他のポリマーとしてはポリオレフィンやそのハロゲン置換体が例示される。他のモノマーとしては中でも、塩化ビニルや1,2−ジクロロエチレンを用いるのが好ましく、他のポリマーとしてはポリ塩化ビニルやポリ1,2−ジクロロエチレンを用いるのが好ましい。汎用性や安価な点を考慮すれば、塩化ビニリデンと塩化ビニルとの共重合体とするのが好ましい。
【0016】
「ポリ塩化ビニリデン又は塩化ビニリデンを主成分とするポリマーフィルム」は、この素材に極性があり、鎖状炭化水素を吸収しにくい。したがって、鎖状炭化水素を用いてリチウム箔を圧延し、その後、リチウム箔から潤滑剤を除去しても、微量の鎖状炭化水素が表面に残存することがあり、かかる場合にリチウム箔と接触させても、鎖状炭化水素を基材フィルム側に透過させない役割を果たす。つまり、リチウム箔に付着している鎖状炭化水素が基材フィルムに吸収されることを防止する役目を負う。ポリ塩化ビニリデン等の表面材フィルムの厚みは、いくら厚くても効果が減じることはないが、汎用性やコストを考慮すれば、上限の厚みとしては、100μm以下のものが望ましい。一方、還元力の強いリチウムに対するポリ塩化ビニリデンの劣化による損失が考慮されなければならないので、下限の厚みとしては10μm以上とするのが好ましい。
【0017】
本発明のリチウム箔積層体の製造装置は、圧延ロールを有し、上記リチウム箔を圧延する圧延装置と、圧延ロール表面およびリチウム箔表面の少なくとも一方に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置と、圧延されたリチウム箔から潤滑剤を除去する除去装置と、潤滑剤が除去されたリチウム箔を基材フィルムに積層してリチウム箔積層体を形成する積層装置とを備えている。
除去装置として、具体的には、具体的には、加熱,送風,吸引,拭き取り,洗浄のいずれか1つの操作、またはこれらを併せて行うものがある。
【0018】
この製造装置により、上述の作用効果が発揮されるので、フレアのほとんどない基材フィルムとリチウム箔との積層体が得られる。
特に、圧延から積層までを連続的に行う製造装置を設けることにより、製造コストの削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、フレアなどの不具合を解消しうるリチウム箔の製造方法およびその製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1に係る圧延装置の側面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る積層装置の側面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る連続圧延・積層装置の側面図である。
【図4】(a)〜(e)は、潤滑剤を除去する方法ないし装置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る圧延装置Aの側面図である。図2は、本発明の実施の形態1に係る積層装置Bの側面である。
図1に示すように、実施の形態1に係る圧延装置Aは、第1〜第3圧延ロール11a〜11cと、ガイドロール14と、巻き取りリール17と、圧延ロール表面11a〜11cおよびリチウム箔10表面の少なくとも一方に潤滑剤13を供給する潤滑剤供給装置50と、潤滑剤を除去するための除去装置40とを備えている。図1には、第1〜第3ロール11a〜11cしか表示されていないが、さらに多くの圧延ロールが設けられていてもよい。
【0022】
まず、受け入れたリチウムインゴットに前処理を施して異物、不純物を除去し、周知慣用の押し出し加工により、所定寸法の一次箔10aを原料箔として成形して巻き取っている(図示せず)。一次箔10aは、リチウム金属又はリチウム合金を希望する厚みの箔に圧延加工するのに最適な厚み、例えば厚さ0.1−0.2mmを有している。
【0023】
次に、この巻き取った一次箔10aを巻き戻しながら、連続的に第1〜第3圧延ロール11a〜11c間に導いて冷間圧延を行う。このとき、潤滑剤供給装置50により、潤滑剤13を各圧延ロール11a〜11cまたは一次箔10aのうち少なくとも一方の表面に供給しながら、各圧延ロール11a〜11cを経るたびに、厚みを減じていき、最終的に厚み100nm〜30μm程度のリチウム箔10(二次箔)を形成する。
各圧延ロール11a〜11cのクリアランスは、リチウム箔10のユーザー仕様にあった厚さを得るために所定のクリアランスに調整されている。
所定の厚みまで圧延されたリチウム箔10は、ガイドロール14を経て、リール17に巻き取られる。
【0024】
ここで、潤滑剤13の供給方法としては、図1に示すように、潤滑剤供給装置50である容器から一次箔(リチウム箔)に滴下してもよいし、各圧延ロール11a〜11c表面に供給してもよい。圧延ロール11a〜11cに供給する場合には、ロール表面が常時均一な湿潤状態となるように潤滑剤を供給する。
また、潤滑剤供給装置50としてスポンジ等の塗布材を設け、塗布材に潤滑剤を保持させ、これをロール表面に接触させて塗布する方法がある。このとき、塗布材には定時定量的に潤滑剤を補充すればよい。
【0025】
炭素数8以上の鎖式飽和炭化水素としては、例えば、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサンなどがある。
中でも、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカンは、揮発性が高く、積層体を形成する時点でリチウム箔に残存しないように、工程を調整することが容易である。
ただし、潤滑剤13は、圧延を円滑に行わせるための潤滑機能を有するものであればよく、必ずしも炭素数8以上の鎖式飽和炭化水素である必要はない。
潤滑剤除去装置40は、リチウム箔10がリール17に巻き取られるまでの領域Raに設けられていればよい。潤滑剤としては、炭素数8以上の鎖式飽和炭化水素を用いると、圧延ロール11a〜11cと固着せずに一次箔10aを冷間圧延加工することができ、極めて薄いリチウム箔10a(リチウム金属箔又はリチウム合金箔)が得られることがわかっている。
【0026】
図4(a)〜(e)は、潤滑剤除去装置40の例を示す図である。
図4(a)に示す潤滑剤除去装置40は、リチウム箔10を上下から加熱するヒータであり、リチウム箔10を加熱して潤滑剤13を蒸発させることにより、潤滑剤13を除去する。
図4(b)に示す潤滑剤除去装置40は、リチウム箔40に送風するファンであり、送風によって潤滑剤13の蒸発,乾燥を促進して、潤滑剤13を除去する。なお、例えば、空調機を用いて高温の風を送ることにより、より潤滑剤13の蒸発,乾燥を早めることができる。
図4(c)に示す潤滑剤除去装置40は、リチウム箔10の表面から潤滑剤13を吸引する吸引ノズルであり、真空ポンプ(Vc)によって吸引することで、潤滑剤13を除去する。
図4(d)に示す潤滑剤除去装置40は、リチウム箔10の表面を拭き取るスポンジであり、リチウム箔10の表面から潤滑剤13を拭き取ることで、潤滑剤13を除去する。
図4(e)に示す潤滑剤除去装置40は、リチウム箔10を洗浄ノズルから溶剤などの洗浄液を吹き付ける洗浄装置であり、潤滑剤13を揮発性の有機溶剤(アセトンなどのケトン類、エーテル類,メチルアルコールなどのアルコール類など)で洗い落とすことことで、潤滑剤13を除去している。
ただし、洗浄方法としては、図4(e)に示す方法,装置に限定されるものではない。たとえば、洗浄液を貯留した洗浄槽にリチウム箔10を通して、潤滑剤を洗浄・除去し、その後、洗浄液を拭き取り・加熱・送風などにより乾燥させてもよい。洗浄液としては、有機溶剤が適しており、揮発性の有機溶剤に限られない。具体的には、ベンゼン,トルエン,キシレン,ヘキサンなどがあり、その他、エチレン系,エーテル系,アセテート系,炭化水素系の有機物を用いることができる。
図4(a)〜(e)に示す潤滑剤除去装置40の2つ以上を併せ持つことで、より確実に潤滑剤13を除去することができる。
圧延装置Aを密閉空間内に設置し、密閉空間を減圧雰囲気にすることによって、潤滑剤13の揮発を促進させることもできる。
図4(a)〜(e)に示すように、潤滑剤13の除去は、リチウム箔10を送っている領域Raで完了させることが好ましいが、巻き取った状態で残部を除去してもよい。また、巻き取った状態で、リール21を溶剤に浸漬して、潤滑剤13を洗い落としてもよい。
【0027】
図2に示すように、積層装置Bは、ピンチロール15と、ガイドロール16とを備えている。
図2に示すように、リール17からリチウム箔10を巻き出す一方、基材フィルム30が巻かれたリール31から基材フィルム30を巻き出して、ピンチロール15により、リチウム箔10を基材フィルム30に積層し、リチウム箔積層体20を形成する。リチウム箔積層体20は、リール21に巻き取られ、缶詰又は袋詰めされる。
その後、次工程またはユーザにおいて、リチウム箔10は基材フィルム30から蓄電デバイス等の電子部品の一部に転写され、蓄電デバイス等の部材として用いられる。
【0028】
また、積層装置Bに、補助的除去装置41を設け、圧延装置Aの潤滑剤除去装置40で除去しきれなかった潤滑剤13をより確実に除去することもできる。補助的除去装置41の構造は、図4(a)〜(d)に示される潤滑剤除去装置40のいずれかでよい。補助的除去装置41は、図1に示す潤滑剤除去装置40と同じ構造を有していてもよいし、異なる構造を有していてもよい。
すなわち、図1に示す圧延装置Aにおいて、領域Raで潤滑剤13を除去しきれなかった場合でも、積層装置Bにおいて、リチウム箔10が巻き出されてから基材フィルム30と積層されるまでの領域Rbにおいて、ほぼ全てを除去できればよい。
【0029】
本実施の形態にいては、基材フィルム30としてプラスチックフィルムを用いているが、金属フィルムを用いてもよい。
プラスチックからなる基材フィルム30としては、リチウム箔の保護フィルムとして機能する程度の機械的強度を有するフィルム(腰のあるフィルム)であれば、特に限定されないが、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンーポリプロピレン共重合体等の汎用樹脂のフィルム他、エンジニアリングプラスチック等のフィルムなどがある。
【0030】
これらの中でも、分子式がCnH2n+2-2mで表されるポリオレフィン,PET,ポリ塩化ビニリデンおよび塩化ビニリデンを主成分とするポリマーは、リチウム箔10や潤滑剤13との反応が生じにくいので、基材フィルム30の材料として用いることにより、基材フィルム30やリチウム箔10のフレアの発生を抑制することができる。
なお、本件では、潤滑剤13を揮発させるので、潤滑剤13と基材フィルム30との反応性はあまり重要ではないが、微量の潤滑剤13が残存しているケースもあり得るので、基材フィルム30としては,潤滑剤13との反応性も低いものを用いることが好ましい。
ポリオレフィンの中でも、ポリエチレン及びポリプロピレンは、リチウム箔10や潤滑剤13との反応性が低く、リチウム箔10を基材フィルム30から剥離させるのが容易である。しかも、安価で入手も容易であることから、実用的に最適な材料である。
【0031】
なお、基材フィルム30の厚みは、リチウム箔10の幅、厚み、リール21への巻き取り速度などの作業状況に合わせて適宜最適なものを選択して用いればよい。汎用樹脂を用いる場合、腰のある強度を保つためには最低でも5μm以上好ましくは10μm以上の厚さが必要であり、上限はいくらでも構わないが、好ましくは3mm以下、より好ましくは、リチウム箔積層体20をリール21に連続的に巻き取るために、100μm以下とするのがよい。
【0032】
なお、リチウム箔積層体20をリール21に巻き取るのではなく、例えば、1辺15cm以上の薄板として加工する場合は、厚み1mm程度以上の基材フィルム30を用い、その表面にリチウム箔10を積層することもできる。
【0033】
また、リチウム箔10と基材フィルム30との間に、接着剤または粘着剤が介在していてもよい。接着剤や粘着剤の存在により、基材フィルム30とリチウム箔10との間の密着性を高めたり、リチウム箔10との反応を避けるための基材フィルム30の選択の幅を広げることができる。例えば、エチレンエチルアクリレート樹脂等の接着剤を両者間に介在させることにより、ポリエチレン,ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂以外の樹脂をも、本発明の効果を減ずることなく基材フィルム30として用いることができ、基材フィルム13の材料選択の幅を広げることができる。
【0034】
本実施の形態によると、以下の効果を発揮することができる。
リチウム箔10の圧延工程においては、潤滑剤13を圧延ロール11a〜11c表面およびリチウム箔10表面の少なくとも一方に供給することで、圧延を円滑に行うことができる。しかも、圧延後に,リチウム箔10から潤滑剤13を実質的に除去することで、リチウム箔10と基材フィルム30とを積層する際には、リチウム箔10の表面にほとんど潤滑剤30が残存しないようにすることが可能となる。したがって、潤滑剤10と基材フィルム30との反応によるフレアの発生を抑制することができる。
また、基材フィルム30の材種の選択に際しては、潤滑剤13との反応性を考慮する必要がなく、リチウム箔10との反応だけを避ければよいので、基材フィルム30の材質の選択の幅が拡大する。
【0035】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2に係る連続圧延・積層装置Cの側面図である。図3において、図1及び図2に示す部材と構成が同じ部材については、同じ符号を付して,説明を省略する。
本実施の形態では、圧延装置Aで薄く圧延されたリチウム箔10を、リールに巻き取ることなく、積層装置Bで基材フィルム30に積層している点が特徴である。圧延装置Aおよび積層装置Bの機能については、実施の形態で説明した通りである。
本実施の形態では、潤滑剤除去装置40により、潤滑剤13のほぼ全てを、第3圧延ロール11cとピンチロール15との間の領域Rc、つまり、リチウム箔10が圧延されてから積層されるまでの領域Rcにおいて、除去するように構成されている。
【0036】
本実施の形態では、実施の形態1と同じ効果に加えて、圧延から積層までを連続的に行うことが可能になり、製造コストの削減を図ることができる。
すなわち、リチウム箔10を送りながら、リチウム箔10から潤滑剤13を実質的に除去することにより、圧延から積層までを連続的に行うことが可能になったといえる。
【0037】
上記各実施の形態では、基材フィルム30の片面に1層のリチウム箔10を積層したが、基材フィルム30の両面にリチウム箔10が積層されていてもよいし、基材フィルム30の片面側で、リチウム箔10が複数層積層されていてもよい。
【0038】
上記各実施の形態では、基材フィルム30として、プラスチックフィルム単体からなる者を用いたが、プラスチックフィルム上に、表面材として、ポリ塩化ビニリデン又は塩化ビニリデンを主成分とするポリマーフィルムなどが積層されたものを用い、表面材をプラスチックフィルムとリチウム箔10との間に介在させてもよい。これにより、リチウム箔10の基材フィルム30からの剥離性が向上するとともに、潤滑剤13がリチウム箔10に微量残存した場合でも、潤滑剤13がプラスチックフィルムに直接接触するのを防ぐことができる。
【0039】
「塩化ビニリデンを主成分とするポリマー」とは、塩化ビニリデンの含有量が50重量パーセント以上のポリマーをいい、塩化ビニリデンの含有量が50重量パーセント以上であれば、塩化ビニリデンと他のモノマーとの交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体及びこれらの混合物、さらにはポリ塩化ビニリデンと他のポリマーとの混合物などを含む概念である。他のモノマーとしては、オレフィンやそのハロゲン化物が例示され、他のポリマーとしてはポリオレフィンやそのハロゲン置換体が例示される。他のモノマーとしては中でも、塩化ビニルや1,2−ジクロロエチレンを用いるのが好ましく、他のポリマーとしてはポリ塩化ビニルやポリ1,2−ジクロロエチレンを用いるのが好ましい。汎用性や安価な点を考慮すれば、塩化ビニリデンと塩化ビニルとの共重合体とするのが好ましい。
【0040】
上記各実施の形態では、基材フィルム30としてプラスチックフィルムを用いたが、実質的にリチウムと反応しない金属フィルムを用いてもよい。基材フィルム30として金属フィルムを用いた場合、金属フィルムとリチウム箔13とが潤滑剤を介することなく、相導通するので、金属フィルムをそのまま蓄電デバイスの一部として用いることができる。金属としては、リチウムとの反応性がほとんどない、Cu,Ni,Fe,Ta,Wなどが好ましい。
【0041】
上記開示された本発明の実施の形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、携帯電話,ノートパソコン,ハイブリッド車,電気自動車等の電源装置や,無停電電源装置に内蔵されるリチウム箔の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
A 圧延装置
B 積層装置
C 連続圧延・積層装置
10 リチウム箔
10a 一次箔
11a 第1圧延ロール
11b 第2圧延ロール
11c 第3圧延ロール
13 潤滑剤
14 ガイドロール
15 ピンチロール
16 ガイドロール
17 リール
20 リチウム箔積層体
21 リール
30 基材フィルム
31 リール
40 潤滑剤除去装置
41 補助的除去装置
50 潤滑剤供給装置
Ra〜Rc 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムまたはリチウム合金からなるリチウム箔を、ロール表面およびリチウム箔表面の少なくとも一方に潤滑剤を供給しつつ圧延する工程(a)と、
上記工程(a)で圧延されたリチウム箔から潤滑剤を実質的に除去する工程(b)と、
上記工程(b)を経たリチウム箔を基材フィルムに積層してリチウム箔積層体を形成する工程(c)と、
を含むリチウム箔積層体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のリチウム箔積層体の製造方法において、
上記工程(b)では、加熱,送風,吸引,拭き取り,および洗浄のうち少なくとも1つの操作を行う。
【請求項3】
請求項1または2記載のリチウム箔積層体の製造方法において、
上記工程(a)では、上記基材フィルムとして、実質的にリチウムと反応しないプラスチックフィルムを用いる。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載のリチウム箔積層体の製造方法において、
上記工程(a)では、上記基材フィルムとして、ポリエチレン,ポリプロピレン,あるいは、ポリエチレン及びポリプロピレンを除くポリオレフィン,PET,ポリ塩化ビニリデンおよび塩化ビニリデンを主成分とするポリマーから選ばれる少なくとも1つの樹脂を用いる。
【請求項5】
請求項1または2記載のリチウム箔積層体の製造方法において、
上記工程(a)では、上記基材フィルムとして、実質的にリチウムと反応しない金属からなる金属フィルムを用いる。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1つに記載のリチウム箔積層体の製造方法において、
上記工程(a)では、上記潤滑剤として、炭素数8以上の鎖式飽和炭化水素を主成分とする物質からなるものを用いる。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか1つに記載のリチウム箔積層体の製造方法において、
上記工程(a)では、上記潤滑剤として、揮発性物質からなるものを用いる。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれか1つに記載のリチウム箔積層体の製造方法において、
上記工程(a)で圧延されたリチウム箔を巻き取ることなく、上記工程(c)で基材フィルムに積層する。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか1つに記載のリチウム箔積層体の製造方法において、
上記工程(c)では、基材フィルムとして、少なくとも片面にポリ塩化ビニリデンフィルム又は塩化ビニリデンを主成分とするポリマーフィルムからなる表面材を積層してなる基材フィルムの表面材側を、リチウム箔の少なくとも片面に接触させる。
【請求項10】
圧延ロールを有し、リチウムまたはリチウム合金からなるリチウム箔を圧延する圧延装置と、
上記圧延ロール表面およびリチウム箔表面の少なくとも一方に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置と、
上記圧延装置によって圧延されたリチウム箔から上記潤滑剤を除去する除去装置と、
潤滑剤が除去されたリチウム箔を基材フィルムに積層してリチウム箔積層体を形成する積層装置と、
を備えているリチウム箔積層体製造装置。
【請求項11】
請求項10記載のリチウム箔積層体製造装置において、
上記除去装置は、加熱,送風,吸引,拭き取り,および洗浄のうち少なくとも1つの操作を行うものである。
【請求項12】
請求項10または11記載のリチウム箔積層体製造装置において、
上記積層装置は、上記圧延装置で圧延されたリチウム箔を巻き取ることなく基材フィルムに積層するように、配置されている。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−11250(P2011−11250A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159492(P2009−159492)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(390000435)本城金属株式会社 (10)
【Fターム(参考)】