説明

リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法

【課題】炭化水素燃料や含酸素炭化水素燃料の火炎を熱源としたガス焼成炉を使用した場合においても、品質が安定したリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】リチウム化合物と、遷移金属元素を含む化合物とを混合して得られた原料混合物を、炭化水素および/または含酸素炭化水素燃料と支燃性ガスとを燃焼させた火炎を噴出する複数のバーナを備えたガス焼成炉で焼成するリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法であって、
複数の前記バーナとして、前記ガス焼成炉の側壁から当該ガス焼成炉内に向かって水平方向の火炎を噴出する壁面バーナと、前記ガス焼成炉の天井から当該ガス焼成炉内に向かって垂直方向の火炎を噴出する天井バーナとを備えたリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の正極活物質に用いられるリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム二次電池などの非水電解質二次電池における正極中における正極活物質として用いられている。リチウム二次電池は、既に携帯電話やノートパソコン等の電源として実用化されており、更に自動車用途や電力貯蔵用途などの中・大型用途においても、適用が試みられている。
【0003】
リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム化合物と遷移金属化合物等の原料を混合し、焼成することによって得ることができる。例えば、特許文献1にはニッケル化合物とリチウム化合物とを混合し、空気雰囲気下、600℃で加熱処理するリチウム−ニッケル複合酸化物の製造方法が開示されている。
【0004】
リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法においては、焼成時の雰囲気中に二酸化炭素が存在することにより、正極の活性が低下することが問題となっていた。従来のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法においては、電気炉など、必要に応じて空気を流通させ、または雰囲気を制御できる加熱炉本体を用い、できるだけ二酸化炭素を含まない条件での焼成が行われている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
一方、非水電解質二次電池用正極活物質として需要が急増しているリチウム遷移金属複合酸化物を多量に生産するにあたり、リチウム遷移金属複合酸化物の量産性向上やコスト削減という観点から、リチウム遷移金属複合酸化物を得るための焼成炉として、プロパン等の炭化水素や含酸素炭化水素燃料の火炎を熱源とした汎用性のあるガス焼成炉を使用することが望まれており、検討されている。
【0006】
しかしながら、火炎を熱源とする行うガス焼成炉では、一般的に電気炉と比較して炉内の温度制御が困難であり、炉内の温度が不均一になりやすい。結果として、ガス焼成炉で焼成を行うと、リチウム遷移金属複合酸化物の焼成ムラが起こりやすいという問題があった。
その結果、合成されたリチウム遷移金属複合酸化物の品質にバラツキが生じ、該リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いて非水電解質二次電池を作製した場合、安定した電池性能を得ることが出来なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−290851号公報
【特許文献2】特開2000−58053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる状況下、本発明の目的は、炭化水素や含酸素炭化水素燃料の火炎を熱源としたガス焼成炉を使用した場合においても、品質が安定したリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> リチウム化合物と、遷移金属元素を含む化合物とを混合して得られた原料混合物を、炭化水素および/または含酸素炭化水素燃料と支燃性ガスとを燃焼させた火炎を噴出する複数のバーナを備えたガス焼成炉で焼成するリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法であって、
複数のバーナとして、ガス焼成炉の側壁から当該ガス焼成炉内に向かって水平方向の火炎を噴出する壁面バーナと、ガス焼成炉の天井から当該ガス焼成炉内に向かって垂直方向の火炎を噴出する天井バーナとを備えたリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
<2> 壁面バーナの火炎が供給する熱量Q1と、天井バーナの火炎が供給する熱量Q2の比、Q1/Q2が、0.01〜100である前記<1>記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
<3> 天井バーナから噴出する火炎を形成するときの支燃性ガスの供給速度が、25℃で同量の支燃性ガスを供給した場合に毎秒1メートル以上である前記<1>または<2>記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
<4> 前記遷移金属元素が、NiおよびMnから選ばれる1以上の元素を含む前記<1>から<3>のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
<5> 前記遷移金属元素が、NiおよびMnから選ばれる1以上の元素に加え、CoおよびFeから選ばれる1以上の元素を含む前記<1>から<4>のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、炭化水素や含酸素炭化水素燃料の火炎を熱源としたガス焼成炉を使用した場合においても、品質のバラツキが小さなリチウム遷移金属複合酸化物を再現性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法の実施形態に係るガス焼成炉を示す斜視図である。
【図2】図1に示すガス焼成炉を扉解放状態で示す正面図である。
【図3】図2のX−X線における断面図である。
【図4】焼成工程において原料混合物を収容する焼成容器を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態のガス焼成炉における中心の焼成容器(サヤ)と、他の焼成容器(サヤ)の昇温過程を示す図である(破線が中心のサヤ、実線は他のサヤを示す。)。
【図6】通常のガス焼成炉における中心の焼成容器(サヤ)と、他の焼成容器(サヤ)の昇温過程を示す図である(破線が中心のサヤ、実線は他のサヤを示す。)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、リチウム化合物と、遷移金属元素を含む化合物とを混合して得られた原料混合物を、炭化水素および/または含酸素炭化水素燃料と支燃性ガスとを燃焼させた火炎を噴出する複数のバーナを備えたガス焼成炉で焼成するリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法であって、
複数のバーナとして、ガス焼成炉の側壁から当該ガス焼成炉内に向かって水平方向の火炎を噴出する壁面バーナと、ガス焼成炉の天井から当該ガス焼成炉内に向かって垂直方向の火炎を噴出する天井バーナとを備えたリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法に係るものである。
【0014】
まず、原料混合物の製造方法について説明する。
上記リチウム化合物としては、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウムおよび炭酸リチウムからなる群より選ばれる1種以上の無水物および/または該1種以上の水和物を挙げることができる。
この中でも、低コストであり、加熱の際に腐食性ガスが発生しない水酸化リチウムまたは炭酸リチウムが好適に使用される。
【0015】
上記遷移金属元素としては、その化合物がリチウム化合物と混合され、焼成されることにより二次電池の正極活物質となりうる遷移金属元素であれば制限がない。このような遷移金属元素として、具体的には、Ni、Mn、Co、Fe、Cr、Ti等を挙げることができ、これらの元素を1種あるいは2種以上含んでいてもよい。
この中でも、高容量の二次電池用正極を得るという観点からは、上記遷移金属元素が、NiおよびMnから選ばれる1以上の元素を含有することが好ましい。さらに、より高容量の二次電池用正極を得るという観点からは、上記遷移金属元素が、NiおよびMnから選ばれる1以上の元素に加えて、さらにCoおよびFeから選ばれる1以上の元素を含有することが好ましい。
【0016】
原料として使用される遷移金属元素の形態としては、それぞれの金属単体、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、アルコキシドなどが挙げられる。
【0017】
リチウム化合物と遷移金属元素を含む化合物とを混合して得られる原料混合物(以下、単に「原料混合物」と呼ぶ場合がある。)は、乾式混合、湿式混合、液相混合、あるいはこれらの組み合わせのいずれの混合方法で得られてもよく、その混合順序も特に制限されない。
また、原料であるリチウム化合物、遷移金属化合物を単に物理的に混合するのみならず、これらの原料のうち一部を、混合したのちに反応させて得られた反応生成物と、残りの原料とを混合してもよい。
特に2種類以上の遷移金属元素を原料として含む場合には、焼成の際における反応性を高め、より均一なリチウム遷移金属複合酸化物を合成できるという観点から、複合遷移金属化合物を合成した後にリチウム化合物と混合することが好ましい。
なお、この複合遷移金属化合物の合成方法は特に限定されないが、それぞれの元素を含有する水溶液とアルカリとを接触(液相混合)させて得た共沈物スラリーを固液分離したのちに、乾燥することにより製造された複合金属水酸化物であることが好ましい。
【0018】
以下、上記複合遷移金属化合物の代表的な製造方法として、遷移金属元素を含む溶液とアルカリとを接触させて、複合遷移金属水酸化物を製造する場合を例として具体的に説明する。
【0019】
遷移金属元素を含む溶液は、原料となる遷移金属元素それぞれの金属単体、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、アルコキシドなどを、水やこれらを溶解することが可能なアルコール等の有機溶剤などの溶媒に溶解して作製することができ、溶媒としては通常、水が用いられ、好ましくは純水、イオン交換水などが用いられる。
なお、前記遷移金属元素の単体または化合物が前記溶媒に溶解し難い場合には、それらを塩酸、硫酸、硝酸、酢酸などを含有する溶液に溶解させて作製してもよい。
この中でも遷移金属元素の硫酸塩、例えば、Niの硫酸塩、Mnの硫酸塩、Coの硫酸塩およびFeの硫酸塩を水に溶解して得られる水溶液であることが好ましい。Feの硫酸塩としては、2価のFeの硫酸塩であることが好ましい。
【0020】
アルカリとしては、例えば、LiOH(水酸化リチウム)、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、Li2CO3(炭酸リチウム)、Na2CO3(炭酸ナトリウム)、K2CO3(炭酸カリウム)および(NH42CO3(炭酸アンモニウム)からなる群より選ばれる1種以上の無水物並びに該1種以上の水和物を挙げることができる。
アルカリとして、アンモニアを挙げることもできる。
アルカリは通常水溶液として用いられる。このアルカリ水溶液におけるアルカリの濃度は、通常0.5〜10モル/L程度、好ましくは1〜8モル/L程度である。また、製造コストの面から、用いるアルカリとして好ましくはNaOHまたはKOHの、無水物または水和物を用いることが好ましい。また、上述のアルカリは2つ以上併用してもよい。
【0021】
これらの溶媒として使用されるアルカリ水溶液に使用される水は、好ましくは純水および/またはイオン交換水である。また、本発明の効果をそこなわない範囲で、アルコールなど水以外の有機溶媒や、pH調整剤などを含んでいてもよい。
【0022】
遷移金属元素を含む溶液と、アルカリとを接触(液相混合)させることで、遷移金属水酸化物を含有する共沈物スラリーを得る。なお、「共沈物スラリー」とは、大部分が、遷移金属水酸化物からなる共沈物と水とからなるスラリーであり、共沈物作製の過程で残った原料、副生塩(例えば、KCl、K2SO4等)添加剤、あるいは有機溶剤等を含んでいてもよいが、純水や有機溶媒等で洗浄し、除去しても良い。
接触(液相混合)の方法としては、遷移金属元素を含む溶液にアルカリ水溶液を添加して混合する方法、アルカリ水溶液に遷移金属元素を含む溶液を添加して混合する方法、並びに遷移金属元素を含む溶液およびアルカリ水溶液を混合する方法を挙げることができる。これらの混合時には、攪拌を伴うことが好ましい。また、上記の接触(液相混合)の方法の中では、アルカリ水溶液に遷移金属元素を含む溶液を添加して混合する方法が、pHを一定範囲に保ちやすい点で好ましく用いることができる。この場合、アルカリ水溶液に、遷移金属元素を含む溶液を添加混合していくに従い、混合された液のpHが低下していく傾向にあるが、このpHが9以上、好ましくは10以上となるように調節しながら、遷移金属元素を含む溶液を添加するのがよい。また、遷移金属元素を含む溶液およびアルカリ水溶液のうち、いずれか一方または両方の水溶液を40〜80℃の温度に保持しながら接触(液相混合)させると、より均一な組成の共沈物を得ることができる傾向にあるため好ましい。
【0023】
次いで、上記共沈物スラリーを固液分離して乾燥することにより、遷移金属水酸化物の乾燥物(以下、単に「乾燥物」と記載する場合がある。)を得る。
乾燥は、通常、熱処理によって行うが、送風乾燥、真空乾燥等によってもよい。また、乾燥の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはそれらの混合ガス等を用いることができるが、大気雰囲気が好ましい。乾燥を熱処理によって行う場合には、通常50〜300℃で行い、好ましくは100〜200℃程度である。
【0024】
乾燥物のBET比表面積は、通常、10m2/g以上150m2/g以下程度である。乾燥物のBET比表面積は、後述の焼成時の反応性を促進させる意味で、20m2/g以上であることが好ましい。また、操作性の観点では、乾燥物のBET比表面積は、130m2/g以下であることが好ましい。
【0025】
次いで、原料混合物を製造するために、上記乾燥物とリチウム化合物とは混合される。
乾燥物と、リチウム化合物との混合は、乾式混合、湿式混合のいずれによってもよいが、簡便性の観点では、乾式混合が好ましい。混合装置としては、攪拌混合、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、ボールミル等を挙げることができる。
【0026】
次に、本発明の製造方法における焼成工程について説明する。
本発明の製造方法における焼成工程(以下、単に「焼成工程」と称す場合がある。)は、炭化水素および/または含酸素炭化水素燃料と支燃性ガスとを燃焼させた火炎を噴出する複数のバーナを備えたガス焼成炉を使用し、かつ、複数のバーナとして、ガス焼成炉の側壁から当該ガス焼成炉内に向かって水平方向の火炎を噴出する壁面バーナと、ガス焼成炉の天井から当該ガス焼成炉内に向かって垂直方向の火炎を噴出する天井バーナとを備えたことを特徴とする。
炭化水素燃料としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン等や、これらのガスの混合物が挙げられる。また、ブタン及びプロパン等の炭化水素を主成分とし、圧縮することで容易に液化し、可搬性に優れた液化石油ガス(LPG)を用いることもできる。
また、含酸素炭化水素燃料としては、エタノール等のアルコール類や、ジエチルエーテル等のエーテル類、が挙げられる。
炭化水素や含酸素炭化水素は、2種以上を任意の割合で混合して使用することもできる。また、灯油などの炭化水素や含酸素炭化水素を含む各種燃料油も用いることもできる。
これら燃料の中でも、液化石油ガス(LPG)は、燃焼時の熱量が大きく、かつ、比較的安価であるため好適である。
なお、「支燃性ガス」は、物質が燃焼するのを助ける性質を有するガスであり、具体的には、空気、酸素、またはこれらと不活性ガスとの混合ガス等が挙げられる。焼成工程における支燃性ガスとして好適であるのは、酸素18体積%以上を含むガスであり、通常、空気が用いられる。
【0027】
壁面バーナは、炉内を水平方向に噴出した火炎で加熱し、炉内ガスの炉内全体における対流に適したものであるが、水平方向に噴出した火炎は複数列に積まれたサヤのうち、中心側のサヤまでは対流効果を大きく及ぼすことができないため、特に加熱炉の容積が大きくなると、炉内に温度分布が生じやすい。
ここで、リチウム遷移金属複合酸化物の焼成工程において、焼成温度は、通常、600〜1000℃程度であるが、上述の水平方向に噴出した火炎に起因する温度分布は、加熱炉の設定温度が高いほど顕著になる。
一方、天井バーナは、サヤの列同士の間等の狭い範囲に対流効果を大きく及ぼし、中心側のサヤを加熱できるという利点がある。
本発明の製造方法では、壁面バーナと天井バーナの2種類を併用したガス焼成炉を用いることにより、上記の壁面バーナのサヤ列間の対流の不十分に起因する熱分布の不均一性を、補助バーナとして、天井バーナによって補うことができるため、炉内の均熱性が高まる結果、原料混合物の炉内の設置位置によらず、品質にバラツキのない焼成物(リチウム遷移金属複合酸化物)を得ることができる。
【0028】
ここで、加熱炉内の壁面バーナの火炎が供給する熱量Q1と、天井バーナの火炎が供給する熱量Q2の比、Q1/Q2が、0.01〜100であることが好ましく、1〜50であることがより好ましい。
熱量比Q1/Q2をこのような範囲とすることにより、炉内温度が600℃以上であっても、より品質にバラツキのない焼成物(リチウム遷移金属複合酸化物)を得ることができる。
【0029】
また、天井バーナから噴出する火炎を形成するときの支燃性ガスの供給速度が、25℃で同量の支燃性ガスを供給した場合に毎秒1メートル以上であることが好ましく、毎秒5メートル以上であることがより好ましい。
支燃性ガスの供給速度をこのような範囲とすることで、炉内ガスの大きな対流効果を得、炉内の温度分布をより小さくすることができる。燃料ガスの流量は、支燃性ガスの流量に比べて非常に小さく、炉内温度を目標値にするため支燃性ガスの流量と連動するものであるから、炉内ガスの対流効果は支燃性ガスの流量に供給速度によって支配されると言える。
【0030】
以下、図面を参照して、本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法における焼成工程に好適なガス焼成炉の一実施形態を具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明するガス焼成炉に係る実施形態に示したものに限定されず、発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施できるものである。
【0031】
図1は本発明のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法の実施形態に係るガス焼成炉を示す斜視図であり、図2は図1に示すガス焼成炉を扉解放状態で示す正面図であり、図3は図2のX−X線における断面図である。
図1〜図3に示すように、ガス焼成炉10は、焼成炉本体11の左右側壁11L,11Rからそれぞれ当該焼成炉本体11内に向かって水平方向の火炎HFを噴出する合計6基の壁面バーナ12a,12b,12c,13a,13b,13cと、焼成炉本体11の天井11Cから当該焼成炉本体11内に向かって垂直方向の火炎VFを噴出する合計2基の天井バーナ14a,14bとを備えている。
【0032】
3基の側面バーナ12a,12b,12cは、焼成炉本体11の左側壁11Lの床面11F近くの領域に、焼成炉本体11の奥行き方向(扉11Aと背壁11Bとを結ぶ水平方向)に沿って所定距離を隔てて配置されている。
3基の側面バーナ13a,13b,13cは、焼成炉本体11の右側壁11Rの天井11c近くの領域に、焼成炉本体11の奥行き方向に沿って所定距離を隔てて配置されている。
2基の天井バーナ14a,14bは、天井11Cの奥行き方向の中央付近の領域に左右幅方向(左右側壁11L,11Rを結ぶ方向)に所定距離を隔てて配置されている。
また、壁面バーナ12a,12b,12c,13a,13b,13c及び天井バーナ14a,14bに対し、炭化水素燃料、支燃性ガスを供給する炭化水素ガス供給設備(図示せず)及び支燃性ガス供給設備(図示せず)が設けられている。
【0033】
燃料としては、上述の炭化水素や含酸素炭化水素を用いることができる。好適な燃料としてはLPGが挙げられる。LPGは、通常LPGとして使用されるガスであればよく、例えば、主成分の体積比ブタン:プロパン=7:3のLPGが挙げられる。
また、支燃性ガスとしては、酸素を含むガスが好適であり、酸素18体積%以上を含むガスが好適であり、通常、空気が用いられる。また、雰囲気の酸化性を高めるために、酸素濃度を高めた空気を用いる場合もある。
【0034】
加熱炉本体1は、ステンレス等の耐熱性金属、耐熱性セラミック等によって形成され、1500℃程度まで加熱することができる。その炉内の寸法は、温度分布が不均一にならない限り特に制限はない。
【0035】
なお、本実施形態に係るガス焼成炉10は、いわゆるバッチ式であるが、これに限定されない。例えば、ベルト炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルン等の連続炉であってもよい。また、焼成容器を多段に積み重ねた台車を炉内で移動させて焼成する台車炉でもよい。
【0036】
図2,図3に示すように、原料混合物(図示せず)は「サヤ」と呼ばれる焼成容器20に収容された状態でガス焼成炉10の焼成炉本体11内において加熱、焼成される。焼成炉本体11内の床面11F上には、焼成容器20を側面バーナ12a,12b,12cの火炎HFの噴出領域よりも高い位置に保持可能な架台15が、奥行き方向に3組、幅方向に3組、配置されている。これら9組の架台15は互いに等間隔を置いて、床面11F全体に均等に配置されている。また、それぞれの架台15上に焼成容器20が7段積み重ねて配置されている。また、各架台20上にて最上部にある焼成容器20が、側面バーナ13a,13b,13cの火炎HF及び天井バーナ14a,14bの火炎VFの噴出領域より低位置となるように配置されている。さらに、焼成炉本体11の幅方向の中央に位置する架台15上の焼成容器20が、天井バーナ14a,14bの間に位置するように配置されている。
【0037】
ここで、図4を参照して、焼成容器20について説明する。図4に示すように、焼成容器20は、平面視形状が略四角形で上面が開口した箱体状の部材であり、材質:アルミナで形成されている。底部20bを囲むように立設された4つの周壁20aの上縁の直線部分の中央には、底部20bに向かって凹状をなす切欠部20dが設けられ、上縁の切欠部20d以外の部分には、その長手方向に沿って凸条部20eが設けられている。凸条部20eは、サヤを積み重ねる際に角が当たってサヤが破損することを防ぐためのものである。
【0038】
周壁20aには切欠部20dが設けられているため、図2に示すように複数の焼成容器20を積み重ねた状態としても各焼成容器20内の通気性を確保することができる。
【0039】
図2,図3に示すように、原料混合物(図示せず)を収容した複数の焼成容器20をガス焼成炉10の焼成炉本体11内に配置し、扉11Aを閉止した状態で、側面バーナ12a,12b,12c,13a,13b,13c及び天井バーナ14a,14aを稼動させると、側面バーナ12a,12b,12c,13a,13b,13cからそれぞれ焼成炉本体11内に向かって噴出する水平方向の火炎HF及び天井バーナ14a,14bからそれぞれ焼成炉本体11内に向かって噴出する垂直方向の火炎VFによって焼成炉本体11内が均等に加熱される。これにより、焼成炉本体11内に配置された複数の焼成容器20内の原料混合物(図示せず)は、焼成炉本体11内の配置位置に左右されることなく、均等加熱されるので、品質にバラツキのない焼成物(リチウム遷移金属複合酸化物)を得ることができる。
【0040】
以下、本発明の製造方法の焼成工程における他の条件について説明する。
【0041】
上述のように本願発明の製造方法において、原料の反応促進の観点より、焼成温度は、好ましくは650℃以上であり、より好ましくは750℃以上、さらに好ましくは830℃以上である。
【0042】
なお、加熱炉内の二酸化炭素濃度は、4体積%以下であることが好ましく、3体積%以下であることが特に好ましい。二酸化炭素濃度を3体積%以下(例えば、2〜3体積%)とすることにより、より活性の高いリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。
【0043】
焼成工程における原料混合物の保持時間は、通常0.1〜20時間であり、好ましくは0.5〜8時間である。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃〜400℃/時間であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃〜400℃/時間である。
【0044】
前記焼成の際に、混合物は、反応促進剤を含有していてもよい。
反応促進剤として、具体的には、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、CaCl2、MgCl2、SrCl2、BaCl2及びNH4Clなどの塩化物、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、CaCO3、MgCO3、SrCO3及びBaCO3などの炭酸塩、K2SO4、Na2SO4などの硫酸塩、NaF、KF、NH4Fなどのフッ化物、が挙げられる。この中でも、好ましくはNa、K、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr及びBaからなる群から選ばれる1種以上の元素の塩化物、炭酸塩または硫酸塩を挙げることができ、より好ましくはKCl、K2CO3、K2SO4である。また、反応促進剤を2種以上併用することもできる。
【0045】
混合物が反応促進剤を含有することで、混合物の焼成時の反応性を向上させ、得られるリチウム遷移金属複合酸化物のBET比表面積を調整することが可能な場合がある。
反応促進剤を混合物に含有させるには、例えば遷移金属水酸化物をリチウム化合物と混合するときに反応促進剤を添加すればよい。
なお、混合物と反応促進剤との混合割合は、混合物100重量部中0.1重量部以上100重量部以下が好ましく、1.0重量部以上25重量部以下がより好ましい。
【0046】
また、前記焼成によりリチウム遷移金属複合酸化物を得るが、このリチウム遷移金属複合酸化物はボールミルやジェットミルなどを用いて粉砕してもよい。粉砕によって、リチウム遷移金属複合酸化物のBET比表面積を調整することが可能な場合がある。また、粉砕と焼成を2回以上繰り返してもよい。また、リチウム遷移金属複合酸化物は必要に応じて洗浄あるいは分級することもできる。
【0047】
上記の方法により得られるリチウム遷移金属複合酸化物は、通常、0.05μm以上1μm以下の平均粒径の一次粒子から構成され、一次粒子と、一次粒子が凝集して形成された0.1μm以上100μm以下の平均粒径の二次粒子との混合物からなる。一次粒子及び二次粒子の平均粒径は、それぞれSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することにより、測定することができる。
【0048】
上記の方法により得られるリチウム遷移金属複合酸化物は、その構造が通常α-NaFeO2型結晶構造、すなわちR−3mの空間群に帰属される結晶構造である。結晶構造は、リチウム遷移金属複合酸化物について、CuKαを線源とする粉末X線回折測定により得られる粉末X線回折図形から同定することができる。
【0049】
上記の方法により得られるリチウム遷移金属複合酸化物におけるLiの組成としては、Ni、Mn、Fe,Co等の遷移金属元素Mの合計量(モル)に対し、Liの量(モル)は、通常、0.5以上1.5以下であり、容量維持率をより高める意味で、0.95以上1.5以下であることが好ましく、より好ましくは1.0以上1.4以下である。以下の式(A)として表したときには、yは、通常、0.5以上1.5以下であり、好ましくは0.95以上1.5以下、より好ましくは1.0以上1.4以下である。
Liy(Ni1-xx)O2 (A)
(ここで、Mは、1種以上の遷移金属元素を表し、xは、0<x<1である。)
【0050】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記の方法により得られる本発明のリチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属元素の一部を、他元素で置換してもよい。ここで、他元素としては、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mg、Sc、Y、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Tc、Ru、Rh、Ir、Pd、Cu、Ag、Zn等の元素を挙げることができる。
【0051】
上記の方法により得られるリチウム遷移金属複合酸化物を構成する粒子の表面に、リチウム遷移金属複合酸化物とは異なる化合物を付着させてもよい。このような化合物としては、例えば、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mgおよび遷移金属元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、好ましくはB、Al、Mg、Ga、InおよびSnからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、より好ましくはAlの化合物を挙げることができ、化合物として具体的には、前記元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、有機酸塩を挙げることができ、好ましくは、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物である。また、これらの化合物を混合して用いてもよい。これら化合物の中でも、特に好ましい化合物はアルミナである。また、付着後に加熱を行ってもよい。
【0052】
上記の方法により得られるリチウム遷移金属複合酸化物は、正極活物質として有用であり、二次電池、特に非水電解質二次電池の正極に好適である。この二次電池に用いられる正極活物質は、上記の方法により得られるリチウム遷移金属複合酸化物が主成分であればよい。
【0053】
二次電池用の正極は、上記の方法により得られたリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として、公知の方法、例えば、国際公開第09/041722号パンフレットに記載の方法にて作製することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
<粉末X線回折測定>
粉末X線回折測定(XRD)は、株式会社リガク製 Ultima IVASC-10を用いて行った。測定は、粉末試料を専用の基板に充填し、CuKα線源を用いて、電圧40kV、電流40mAの条件で回折角2θ=10°〜90°の範囲にて行い、粉末X線回折図形を得た。
<BET比表面積測定>
粉末1gを窒素雰囲気中150℃、15分間乾燥した後、マイクロメトリックス製フローソーブII2300を用いて測定した。
【0056】
(実施例1)
攪拌槽内で、水酸化カリウム100重量部を、蒸留水535重量部に添加して、攪拌により水酸化カリウムを完全に溶解させ、水酸化カリウム水溶液(アルカリ水溶液)を調整した。
また、別の攪拌槽内で、蒸留水255重量部に、硫酸ニッケル(II)六水和物98.4重量部、硫酸マンガン(II)一水和物64.6重量部および硫酸鉄(II)七水和物11.1重量部を添加して、攪拌により溶解し、ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を得た。
次いで、別の攪拌槽に、蒸留水936重量部と前記水酸化カリウム水溶液15.8重量部を仕込んだ後、液温度を30℃にて攪拌しながら、前記水酸化カリウム水溶液165重量部と前記ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液95.1重量部を滴下することにより、遷移金属水酸化物からなる沈殿物を生成させ、原液スラリーを得た。反応終点のpHを測定したところ、pHは13であった。
次いで、フィルタープレスにて得られたスラリーの固液分離を行った。フィルタープレスには、「ロールフィット フィルタープレス・ドライヤー」(販売元:株式会社 ユーロテック)を使用した。スラリー100重量部をフィルタープレスに供給し、室温下、ろ過圧力0.4MPaG、ろ過時間50分の条件にてろ過した。
次いで、蒸留水を室温下、洗浄圧力0.4〜0.6MPaGにて供給し、水洗を行った。水洗後、圧搾圧力0.7MPaGにて、15分間の圧搾脱水を行った。次いで、減圧フィルタープレスのろ過室内を圧力10kPaとし、フィルタープレスの各ろ過室の流体供給路に90℃温水を通水して、170分間、予備乾燥を行った。予備乾燥後、フィルタープレスから排出したウェットケーク4.62重量部を回収した。この時のウェットケークの含水量は湿潤基準で29.5重量%であった。
得られたウェットケークを、乾燥用バットに仕込み、棚段乾燥機(汎用乾燥装置AT−20(製造元:旭科学株式会社))を用いて120℃、8時間の条件で乾燥後、フェザーミル粉砕を行い、粉末状の乾燥物X1を得た。得られた乾燥物X1の含水率は、3重量%であった。
乾燥物P1100重量部に対し、炭酸リチウム52.2重量部と、硫酸カリウム18.0重量部とを、アルミナボールを入れたロッキングミルで4時間混合し、原料混合物M1を得た。
【0057】
次いで、該原料混合物(M1)を1.8kgずつ図4に示す焼成容器20に入れ、図1〜図3に示す、壁面のバーナと天井のバーナを備えたガス焼成炉10にて焼成を行った。焼成容器20は図2、図3に示すように3行3列にそれぞれ7段ずつ容器同士を積んで配置した。なお、加熱炉本体11の炉内の寸法は、縦1.8m×横1.8m×高さ1.6mである。
図2、図3の焼成容器20の配置において、中心の列の4段目の焼成容器20を中心の焼成容器と呼び、他の焼成容器を外側の焼成容器と呼ぶ。
壁面のバーナより、燃料ガスのLPG(主成分はブタン約70体積%、プロパン約30体積%)を合計5〜8.5m3/h供給し、支燃性ガスの空気を合計420m3/h供給し、天井のバーナより、燃料ガスのLPG(主成分はブタン約70体積%、プロパン約30体積%)を合計0.84m3/h供給し、支燃性ガスの空気を合計70m3/h供給して焼成を行った。焼成条件は、炉の設定温度880℃、保持時間6時間である。
【0058】
また、側面バーナ12a,12b,12c,13a,13b,13cの火炎HFが供給する熱量Q1と、天井バーナ14a,14bの火炎VFが供給する熱量Q2との比であるQ1/Q2を10.3とし、天井バーナ14a,14bから噴出する火炎VFを形成する支燃性ガスの供給速度を、25℃において測定した速度で毎秒8メートルとした。
【0059】
上記条件にて、ガス焼成炉10の昇温を行った際の中心の焼成容器(サヤ)と外側の焼成容器(サヤ)の昇温過程を図5に示す。
図5に示すように、中心の焼成容器に仕込まれた粉末は、外側の焼成容器に仕込まれた粉末に比べて、特に遅れることがなく昇温した。
【0060】
上記条件にて原料混合物を焼成後、室温まで自然冷却し、焼成品を得た。次いで、焼成品を解砕し、純水でヌッチェろ過による洗浄を行い、ろ過した後に、300℃で6時間乾燥して、粉末B1を得た。
粉末B1のBET比表面積は、中心のサヤで9.3m2/g、外側のサヤで9.3m2/gであった。また、粉末X線回折測定の結果、粉末B1の結晶構造は、R−3mの空間群に帰属される結晶構造であることがわかった。
【0061】
(比較例1)
実施例1にて作製した原料混合物(M1)を1.8kgずつ実施例1と同様にアルミナ製焼成容器に入れ、水平バーナのみを備えた通常のガス焼成炉(高砂工業株式会社製)にて焼成を行った。炉の構造は、図1〜図3における天井バーナ14aと14bを除去した状態である。焼成条件は、炉の設定温度880℃、保持時間6時間である。
【0062】
上記条件にて、通常のガス焼成炉の昇温を行った際の中心の焼成容器(サヤ)と外側の焼成容器(サヤ)の昇温過程を図6に示す。
図6に示すように、中心のサヤは外側のサヤに比べて特別に遅れて昇温した。
【0063】
次いで、焼成品を粉砕し、蒸留水でデカンテーションによる洗浄を行い、ろ過した後に、300℃で6時間乾燥して、粉末B2を得た。
粉末B2のBET比表面積は中心の焼成容器で9.0m2/g、外側の焼成容器で9.2m2/gであった。また、粉末X線回折測定の結果、粉末B2の結晶構造は、R−3mの空間群に帰属される結晶構造であることがわかった。
【0064】
<非水電解質二次電池の作製>
作製した粉末B1,B2を正極活物質として使用したコイン型の非水電解質二次電池を作製し、充放電試験を実施した。
正極活物質(粉末B1,B2)と導電材(アセチレンブラックと黒鉛を9:1で混合したもの)の混合物に、バインダーとしてPVdFのN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)溶液を、活物質:導電材:バインダー=87:10:3(重量比)の組成となるように加えて混練することによりペーストとし、集電体となる厚さ40μmのAl箔に該ペーストを塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、正極を得た。
得られた正極に、電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の30:35:35(体積比)混合液にLiPF6を1モル/リットルとなるように溶解したもの(LiPF6/EC+DMC+EMC)、セパレータとして積層フィルムを、また、負極として金属リチウムを組み合わせてコイン型電池(R2032)を作製した。
上記のコイン型電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で充放電試験を実施した。結果を表1に示す。
【0065】
<充放電試験>
充電最大電圧4.3V、充電時間8時間、充電電流0.176mA/cm2
放電時は放電最小電圧を2.5Vで一定とし、各サイクルにおける放電電流を下記のように変えて放電を行った。各サイクルおける放電による放電容量が高ければ高いほど、高出力を示すことを意味する。
1サイクル目の放電(0.2C):放電電流0.176mA/cm2
2サイクル目の放電(1C) :放電電流0.879mA/cm2
3サイクル目の放電(2C) :放電電流1.76mA/cm2
4サイクル目の放電(5C) :放電電流4.40mA/cm2
【0066】
【表1】

【0067】
表1からわかるように、本発明の実施形態に係るガス焼成炉10を使用した実施例1の方が、通常のガス焼成炉を使用した比較例1よりも焼成容器(サヤ)の位置による電池性能の分布が小さい結果となり、均一な製品が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、リチウム二次電池の正極活物質に用いられるリチウム遷移金属複合酸化物の製造技術として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
10 ガス焼成炉
11 焼成炉本体
11A 扉
11B 背壁
11C 天井
11F 床面
11L,11R 側壁
12a,12b,12c,13a,13b,13c 側面バーナ
14a,14b 天井バーナ
15 架台
20 焼成容器
20a 周壁
20b 底部
20d 切欠部
20e 凸条部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム化合物と、遷移金属元素を含む化合物とを混合して得られた原料混合物を、炭化水素および/または含酸素炭化水素燃料と支燃性ガスとを燃焼させた火炎を噴出する複数のバーナを備えたガス焼成炉で焼成するリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法であって、
複数の前記バーナとして、前記ガス焼成炉の側壁から当該ガス焼成炉内に向かって水平方向の火炎を噴出する壁面バーナと、前記ガス焼成炉の天井から当該ガス焼成炉内に向かって垂直方向の火炎を噴出する天井バーナとを備えたことを特徴とするリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
壁面バーナの火炎が供給する熱量Q1と、天井バーナの火炎が供給する熱量Q2との比であるQ1/Q2が、0.01〜100である請求項1記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
天井バーナから噴出する火炎を形成するときの支燃性ガスの供給速度が、25℃で同量の支燃性ガスを供給した場合に毎秒1メートル以上である請求項1または2記載のリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属元素が、NiおよびMnから選ばれる1以上の元素を含む請求項1から3のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記遷移金属元素が、NiおよびMnから選ばれる1以上の元素に加え、CoおよびFeから選ばれる1以上の元素を含む請求項1から4のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−201587(P2012−201587A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70912(P2011−70912)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】