説明

リチウム電池

【課題】100℃以上の高温下における保存特性を向上させるとともに、大電流放電特性、大電流パルス放電特性、低温放電特性などに優れ、コスト面での優位性のあるリチウム電池を提供する。
【解決手段】正極活物質として二酸化マンガンを含む正極10、負極活物質として金属リチウムまたはリチウム合金を含む負極11および有機電解液を含むリチウム電池1において、二酸化マンガンは、ホウ素とマグネシウムとを含むγ−β型二酸化マンガンであり、有機電解液は芳香族スルホン化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池に関する。さらに詳しくは、本発明は主に、リチウム電池に用いられる正極活物質および有機電解液の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池は、支持塩の水溶液を電解液として用いる従来の水溶液系電池に比べて、電圧およびエネルギー密度が高いため、小型化および軽量化が容易である。さらに、リチウム電池は、水溶液系電池に比べて、自己放電などによる劣化が少なく、長期信頼性が非常に高い。そのため、リチウム電池は、小型電子機器の主電源、バックアップ用電源など、さまざまな用途に使用されている。
【0003】
代表的なリチウム電池は、金属リチウムまたはその合金を負極活物質に用い、二酸化マンガンなどの金属酸化物を正極活物質に用い、さらに有機電解液を含んでいる。有機電解液は、一般に、非水溶媒および溶質を含有する。非水溶媒には、たとえば、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(GBL)などの高誘電率溶媒、1,2−ジメトキシエタン(DME)、3−メチルテトラハイドロフラン(Me−THF)などの低沸点かつ低粘度の溶媒などが使用される。支持塩には、たとえば、過塩素酸リチウム(LiClO4)、4フッ化硼酸リチウム(LiBF4)などが使用される。
【0004】
しかしながら、二酸化マンガンを正極活物質に用いるリチウム電池には、高温保存後に長時間の間欠的なパルス放電を行うと、電池の内部抵抗が急激に増大し、放電が出来なくなるという問題がある。また、小型電子機器などの主電源として用いられる電池には、間欠的な大電流パルス放電を行い得ることが要求される。したがって、二酸化マンガンを含むリチウム電池を、高温に晒される頻度が比較的高い小型電子機器の主電源に用いる場合には、さらに改良の余地が残されている。
【0005】
また、二酸化マンガンを正極活物質に用いるリチウム電池をコイン型電池に成形すると、100℃以上の高温で保存した場合のガス発生が問題になる。電池内部の発生ガスは、90%以上が二酸化炭素であるため、主に正極活物質の二酸化マンガンにより有機電解液に含まれる非水溶媒が酸化分解され、二酸化炭素が発生していると考えられる。
【0006】
コイン型リチウム電池では、正極合剤と正極集電体または正極ケースとの間の電気的接続、および正極とセパレータと負極との間のイオン伝導は、封口圧力による圧接により保持されている。このため、電池内部でのガス発生により封口圧力以上の電池内圧が生じると、電気的接続およびイオン伝導が円滑に行えなくなり、電池容量が残存していても円滑な放電ができなくなる。よって、高温保存時のガス発生を抑制する技術が望まれている。
【0007】
リチウム電池の正極活物質については、種々の提案がなされている。たとえば、二酸化マンガンと有機電解液との反応を抑制するために、マンガンの一部を他の元素で置換したλ(ラムダ)−β型二酸化マンガンが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1において、マンガンと置換される他の元素は、13〜15族の非金属元素、13〜15族の半金属元素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびマンガン以外の金属元素よりなる群から選ばれる1または2以上である。
【0008】
特許文献1の実施例では、ホウ素含有量が0.05〜0.2質量%であり、マグネシウム含有量が0.005〜6質量%であるλ−β型二酸化マンガンが製造されている。しかしながら、特許文献1には、芳香族スルホン化合物を含む有機電解液についての記載はない。さらに、ホウ素およびマグネシウムを含む二酸化マンガンと、芳香族スルホン化合物を含む有機電解液との併用についても一切記載がない。
【0009】
また、特許文献1は、前記二酸化マンガンを含むリチウム一次電池において、120℃で5日間保存後の低温(−40℃)パルス特性が向上することを記載している。しかしながら、高温保存後の放電最低電圧(CCV)の低下および電池の膨れを抑制する効果は記載していない。また、リチウム一次電池において、正極活物質として特許文献1の二酸化マンガンを用いるだけでは、100℃以上での高温保存後における放電電圧の低下および電池の膨れを防止することはできない。
【0010】
また、特許文献1の二酸化マンガンを得るためには、原料を高温焼成し、得られる焼成物を酸洗浄し、さらに再焼成を行う多段階の複雑な工程が必要になり、生産コストが上昇するという欠点がある。
【0011】
また、マンガンの有機電解液への溶解を抑制するために、ホウ素およびリンを含有する二酸化マンガンが提案されている(たとえば、特許文献2参照)。この二酸化マンガンにおけるホウ素含有量は0.1〜2重量%であり、リン含有量は0.02〜2重量%である。特許文献2の技術は、電池を70℃で保存する場合には、マンガンの有機電解液への溶出を抑制することに有効である。しかしながら、電池を100℃以上で保存する場合には、有機電解液の分解によるガス発生を十分に抑制することはできない。
【0012】
また、充放電サイクル特性を改良するために、リチウムとマンガンとホウ素とを含む複合酸化物が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。但し、この複合酸化物は二次電池用の正極活物質である。この複合酸化物は、二次電池における充放電サイクル特性の改良や自己放電率の低減化には有効である。しかしながら、100℃以上の高温で保存する場合におけるガス発生を十分に抑制できない。また、この複合酸化物は、ホウ素含有量が多くなると、電池の放電容量や放電電圧を低下させる作用を示す。
【0013】
有機電解液についても、種々の提案がなされている。たとえば、正極活物質として二酸化マンガンを含有するリチウム電池において、メチルスルホン、メチルスルホキシド、スルホランなどの、SO基またはSO2基を含む有機化合物を有機電解液に添加することが提案されている(たとえば、特許文献4参照)。特許文献4では、前記有機化合物を添加することにより、有機電解液の高温保存特性を向上させている。しかしながら、特許文献4の有機電解液を含むリチウム電池においても、100℃以上の高温保存に伴うガス発生を十分に抑制できない。
【0014】
また、正極活物質として二酸化マンガンを含有するリチウム電池において、非水溶媒として炭酸エステルとエーテルとの混合溶媒を含有する有機電解液に、1,3−プロパンスルトンなどのスルトン誘導体を添加することが提案されている(たとえば、特許文献5参照)。スルトン誘導体は、電池を100℃以上の高温で保存した場合に、電池の膨れを抑制するのに有効である。特許文献5では、スルトン誘導体の添加量を有機電解液全量の0.5〜5質量%と規定している。しかしながら、前記範囲のスルトン誘導体を有機電解液に添加すると、電池の大電流放電特性が低下するという課題がある。
【0015】
また、正極活物質として二酸化マンガンを含有する正極の表面を、R−SO3-(式中、Rは炭化水素基を示す)で被覆することが提案されている(たとえば、特許文献6参照)。この被覆は、たとえば、前記正極と、アルキルスルホン酸や環状スルトンとを接触させた状態で、加熱加圧することにより実施される。しかしながら、この方法では加熱条件および加圧条件を狭い範囲に管理することが必要になり、工程管理が煩雑になる。さらに、得られる正極の特性のばらつきが大きくなり、ほぼ一定の特性を有する正極を量産できない。
【0016】
このように、特許文献2〜6のリチウム電池は、放電特性が十分満足できる水準にはない。特に、100℃以上での高温保存後の放電電圧が低下しやすい。また、100℃以上での高温保存により膨れが生じ易いという課題もある。さらに、量産性の点で問題のあるものもある。
【0017】
一方、ニトリル化合物とS=O基含有化合物とを有機電解液に添加することが提案されている(たとえば、特許文献7参照)。S=O基含有化合物としては、芳香族スルホン化合物の1つであるベンゼンスルホン酸メチルが例示されている。また、特許文献7にはリチウム一次電池が記載され、リチウム一次電池の正極活物質として、二酸化マンガンが例示されている。しかしながら、S=O基含有化合物はニトリル化合物と併用されるのみであり、S=O基含有化合物を単独で有機電解液に添加する構成は記載されていない。
【0018】
また、特許文献7の実施例Bでは、正極活物質として二酸化マンガンを用いるリチウム一次電池を作製している。しかしながら、有機電解液にはニトリル化合物が添加されるのみである。特許文献7には、二酸化マンガンとベンゼンスルホン酸メチルとの組み合わせは、一切記載されていない。また、S=O基含有化合物は、電池缶や電極の金属部分の腐蝕を防止するためだけに用いられている。また、ベンゼンスルホン酸メチルの効果を具体的に示す実施例はない。
【0019】
ところで、実施例Bのリチウム一次電池は、高温保存後の自己放電率が低くなるという効果を有している。しかしながら、ここでの高温保存条件は60℃で20日間保存であり、これは100℃以上での高温保存に比べて、電池に対する過酷さが顕著に低い。換言すれば、60℃で保存試験を実施しているので、電池の膨れが大きな問題になっていないものと考えられる。
【0020】
さらに、特許文献7に一般的な二酸化マンガンとベンゼンスルホン酸メチルとの組み合わせが示唆されているとしても、その組み合わせでは、100℃以上での高温保存後におけるリチウム一次電池の放電電圧の低下および電池の膨れを防止できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2005−100944号公報
【特許文献2】特開2003−217579号公報
【特許文献3】特開平9−115515号公報
【特許文献4】特開2000−285928号公報
【特許文献5】特開2005−216867号公報
【特許文献6】特開2006−228439号公報
【特許文献7】特開2004−179146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、実用上十分な放電容量を有し、高温保存後でも放電電圧が高くかつ電池の膨れが顕著に抑制され、大電流放電および大電流パルス放電が可能であり、効率良く量産でき、コスト面でも優位性のあるリチウム電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、上記課題を解決するため研究過程で、特許文献1の正極活物質に着目した。特許文献1において代表的な正極活物質としては、ホウ素およびマグネシウムを含有するλ−β型二酸化マンガンが記載されている。特許文献1には、該二酸化マンガンを正極活物質として含むリチウム一次電池を120℃で5日間保存した後に、該電池の−40℃におけるパルス特性が顕著に向上することが記載されている。
【0024】
本発明者らは、特許文献1のλ−β型二酸化マンガンを正極活物質として含むリチウム一次電池について、さらに研究を進めた。そして、単に特許文献1のλ−β型二酸化マンガンを用いるだけでは、電池の高温保存後の低温パルス特性は確かに向上するものの、100℃以上の高温保存による電池の膨れおよび放電電圧の低下を十分に抑制できないことを見出した。特に、コイン型電池に成形した場合における電池の膨れが顕著であることを見出した。
【0025】
また、本発明者らは、特許文献7についても検討を行った。その結果、ベンゼンスルホン酸メチルを有機電解液に添加しても、正極活物質として一般的な二酸化マンガンを用いるだけでは、100℃以上の高温保存による電池の膨れおよび放電電圧の低下を十分に抑制できないことを見出した。
【0026】
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた。その結果、ホウ素およびマグネシウムを含有するγ−β型二酸化マンガンと、ベンゼンスルホン酸メチルなどの芳香族スルホン化合物を含有する有機電解液とを併用する構成を想到するに至った。この構成によれば、予想外にも、100℃以上の高温環境下でのγ−β型二酸化マンガンと有機電解液との反応、ひいてはガスの発生による電池内圧の上昇を抑制できることを見出した。その結果、100℃以上で高温保存しても、電池の膨れおよび放電電圧の低下が顕著に少なくなることを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成されたものである。
【0027】
すなわち本発明は、電極群、有機電解液ならびに電極群および有機電解液を収容する電池ケースを含み、電極群は正極、負極および正極と負極との間に介在するように配置される多孔質絶縁体を含み、正極は正極活物質を含み、正極活物質は、ホウ素およびマグネシウムを含有するγ−β型二酸化マンガンを含み、負極は負極活物質を含み、かつ有機電解液は芳香族スルホン化合物を含有するリチウム電池に係る。
【0028】
芳香族スルホン化合物は、好ましくは、芳香族スルホン酸のアルキルエステルである。
芳香族スルホン酸のアルキルエステルは、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖状アルキル基であることが好ましい。
芳香族スルホン酸は、好ましくは、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0029】
有機電解液における芳香族スルホン化合物の含有量は、有機電解液全量の0.1〜10重量%であることが好ましい。
有機電解液は、芳香族スルホン化合物とともに非水溶媒および溶質を含有し、非水溶媒は、高誘電率溶媒と低融点溶媒との混合溶媒であることが好ましい。
【0030】
正極活物質におけるホウ素の含有量が正極活物質全量の0.1〜3重量%であり、かつ正極活物質におけるマグネシウムの含有量が正極活物質全量の0.1〜5重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明のリチウム電池は、実用上十分な放電容量を有し、高温保存特性および放電特性に優れ、大電流放電および大電流パルス放電が可能である。たとえば、100℃以上の高温環境下で保存しても、正極活物質であるγ−β型二酸化マンガンによる有機電解液の分解反応が抑制され、ガスの発生および電池内圧の上昇が起こらない。このため、100℃以上の高温保存後でも、電池の膨れなどの異常変形が生じることがなく、放電可能な状態が維持される。また、高温保存後でも、比較的高い電圧でパルス放電することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態であるリチウム電池の構成を概略的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明の実施形態の1つであるリチウム電池1の構成を概略的に示す縦断面図である。
リチウム電池1は、正極10、負極11、セパレータ12、正極ケース13、負極ケース14、絶縁パッキング15および図示しない有機電解液を含むコイン型電池である。
正極10は、正極合剤16および正極集電リング17を含む。なお、本実施の形態では、正極集電体である正極集電リング17を使用するが、これに限定されず、正極集電体を使用せず、正極合剤16を正極10として正極ケース13の内面に直接載置しても良い。
【0034】
正極合剤16は、正極活物質および必要に応じて、結着材、導電材などを含有する。
正極活物質には、ホウ素とマグネシムとを含有するγ−β型二酸化マンガン(以下特に断らない限り単に「γ−β型二酸化マンガン」とする)を用いる。
本発明で使用するγ−β型二酸化マンガンは、ホウ素およびマグネシウムを含有することを特徴とする。ホウ素およびマグネシウムは二酸化マンガン粒子内部までほぼ均一に拡散および浸透した状態が好ましいが、添加量が多い場合には、表面近傍に偏在していてもかまわない。
【0035】
本発明で使用するγ−β型二酸化マンガンが、電池1の高温保存特性の改良に寄与する機構は現時点では十分明らかではない。本発明者らは、次のように推測している。γ−β型二酸化マンガンの比表面積、マンガン酸化数、化学的活性度などは、一般的な二酸化マンガンよりも低くなっている。また、γ−β二酸化マンガンとともに、芳香族スルホン化合物を使用している。これらのことが相乗的に作用して、前記のような顕著な効果が得られるものと推測している。
【0036】
γ−β型二酸化マンガンにおけるホウ素含有量は、好ましくはγ−β型二酸化マンガン全量の0.1重量〜3重量%、さらに好ましくは0.8重量%〜1.4重量%である。ホウ素の含有量が0.1重量%未満では、100℃以上の高温保存時に、ガス発生を十分に抑制できないおそれがある。一方、ホウ素の含有量が3重量%を超えると、γ−β型二酸化マンガンの比表面積が小さくなり過ぎ、結晶性も大きく低下する。このため、高温保存時のガス発生は抑制されるものの、電池放電時の放電分極も大きくなり、高温保存後の放電電圧の低下や放電容量の減少が大きくなるおそれがある。ホウ素含有量は、たとえば、元素分析などにより測定できる。
【0037】
また、γ−β型二酸化マンガンがマグネシウムを含有することにより、高温保存時のガス発生が一層抑制される。γ−β型二酸化マンガンにおけるマグネシウム含有量は、好ましくはγ−β型二酸化マンガン全量の0.1〜5重量%である。マグネシウム含有量が0.1重量%未満では、100℃以上の高温保存時に、ガス発生を十分に抑制できないおそれがある。マグネシウム含有量が5重量%を超えると、マグネシウムによるγ−β型二酸化マンガンの還元作用が大きくなり、電池1の放電容量や放電特性が低下するおそれがある。マグネシウム含有量は、たとえば、元素分析などにより測定できる。
【0038】
γ−β型二酸化マンガンは、たとえば、一般的な二酸化マンガン(以後「原料二酸化マンガン」とする)とホウ素化合物とマグネシウム化合物とを混合し、得られる混合物を焼成することにより製造できる。原料二酸化マンガンには、たとえば、電解二酸化マンガン、化学合成二酸化マンガンなどがある。これらの中でも、比表面積が8m2/g〜30m2/g、より好ましくは8m2/g〜28m2/g、さらに好ましくは10m2/g〜28m2/gであるγ−β型二酸化マンガンを得るためには、化学合成二酸化マンガンよりも比表面積が小さい電解二酸化マンガンを用いることが好ましい。電解二酸化マンガンの平均粒子径(体積基準のメジアン径)は、好ましくは20〜60μmである。
【0039】
ホウ素化合物としては、たとえば、酸化ホウ素、ホウ酸、メタホウ酸などが好ましい。ホウ素化合物は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。ホウ素化合物の使用量は、焼成後に得られるγ−β型二酸化マンガンにおけるホウ素含有量が、好ましくはγ−β型二酸化マンガン全量の0.1重量%〜3重量%になるように適宜選択される。通常は、原料二酸化マンガンとホウ素化合物とマグネシウム化合物との混合物全量の1〜3重量%程度の割合で、ホウ素化合物を使用すればよい。
【0040】
マグネシウム化合物としては、たとえば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどが好ましい。マグネシウム化合物は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。マグネシウム化合物の使用量は、焼成後に得られるγ−β型二酸化マンガンにおけるマグネシウム化合物が、好ましくはγ−β型二酸化マンガン全量の0.1〜5重量%になるように適宜選択される。通常は、原料二酸化マンガンとホウ素化合物とマグネシウム化合物との混合物全量の1〜10重量%程度の割合で、マグネシウム化合物を使用すればよい。
【0041】
なお、原料二酸化マンガンとホウ素化合物との配合比および/または原料二酸化マンガンとマグネシウム化合物との配合比を適宜選択することにより、得られるγ−β型二酸化マンガンの比表面積を調整することが可能である。
【0042】
原料二酸化マンガンとホウ素化合物とマグネシウム化合物との混合物の焼成は、好ましくは350℃〜440℃の加熱下に行われ、4時間以上、好ましくは4〜24時間で終了する。本発明では、前記した比較的低い温度でかつ比較的短い時間で一度だけ焼成を行うことにより、高温保存特性に優れたγ−β型二酸化マンガンが得られる。したがって、正極活物質の製造に多工程および長時間を必要とせず、製造コスト面でも有利である。
【0043】
焼成温度が350℃未満では、γ−β型二酸化マンガンの結合水の除去が不十分になるおそれがある。この場合、電池1内に水分が溶出し、前記水分が負極11に含まれるリチウムと反応し、水素ガスが発生することにより、電池の膨れまたは変形が生じることがある。一方、焼成温度が440℃を超えると、β型結晶化が進行し、比表面積が顕著に小さい二酸化マンガンが生成するおそれがある。この二酸化マンガンを正極活物質として使用すると、電池1の放電容量が著しく低減することがある。
【0044】
このようにして得られるγ−β型二酸化マンガンは、CuKα線を用いた粉末X線回折において、そのX線回折パターンが、熱処理電解二酸化マンガン(γ−β型MnO2、「電池便覧 第3版」 松田・竹原編、丸善、2001年、p120)のX線回折パターンに類似している。しかし、γ−β型二酸化マンガンの回折ピークは、熱処理電解二酸化マンガンの回折ピークに比べて、ピーク強度(ピークの高さ)が小さく、ブロードである。つまり、本発明のγ−β型二酸化マンガンは、熱処理電解二酸化マンガンよりも低結晶性である。
【0045】
なお、本発明で使用するγ−β型二酸化マンガンの比表面積は特に制限はないが、好ましくは8m2/g〜30m2/g、より好ましくは8m2/g〜28m2、さらに好ましくは10m2/g〜28m2/gである。比表面積を前記範囲に調整することにより、高温保存後において、電池1の電池容量、放電容量などの電池性能を向上させる効果と、電池の膨れを抑制する効果とがバランス良く発揮される。その結果、実用上十分な電池性能を有し、かつ100℃以上の高温保存でも膨れなどの変形が生じない電池1が得られる。なお、本明細書において、比表面積は実施例に示す窒素吸着法により測定される。
【0046】
γ−β型二酸化マンガンの比表面積が8m2/g未満では、電池反応における電流密度も大きくなるため、反応分極が増大し、電池電圧の低下、放電容量の減少などが起こるおそれがある。一方、γ−β型二酸化マンガンの比表面積が30m2/gを超えると、二酸化マンガンと有機電解液との反応面積が増大し、高温保存時の有機電解液の酸化分解反応が顕著に促進される。その結果、ガス発生量や反応抵抗成分の生成量が多くなるため好ましくない。
【0047】
正極合剤16に含有される結着材としては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびその変性体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体などのフッ素系樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、変性アクリロニトリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体などが挙げられる。結着材は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0048】
正極合剤16に含有される導電材としては、たとえば、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、人造黒鉛などの黒鉛などが挙げられる。導電材は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
正極合剤16は、γ−β型二酸化マンガンを成型することにより作製できる。この時、二酸化マンガンと結着材および導電材とを混合し、得られる混合物を成型して正極合剤16にしてもよい。
【0049】
正極集電リング17は、断面がL字形状であり、中空円形の正極集電体である。これ以外にも、従来から常用される各種正極集電体を使用できる。正極集電体は、たとえば、アルミニウム、ステンレス鋼などから作製される。正極集電リング17は、成型された正極合剤16に装着してもよいし、また、正極合剤16を成型する際に、一体形成してもよい。また、正極合剤16をそのまま正極ケース13の所定位置に配置し、正極10として用いてもよい。
【0050】
負極11は、負極活物質のみから構成されてもよいし、負極集電体と、負極集電体上に担持されかつ負極活物質を含む負極活物質層とから構成されてもよい。負極活物質としては、たとえば、金属リチウム、リチウム合金などを使用できる。リチウム合金としては、リチウムと、アルミニウム、スズ、マグネシウム、インジウムおよびカルシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素との合金が挙げられる。リチウム合金におけるリチウム以外の金属元素の含有量は、好ましくはリチウム合金全量の0.1〜3重量%である。負極活物質は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。負極集電体は、たとえば、銅、ステンレス鋼などから作製される。本実施形態では、負極ケース14が負極集電体を兼ねている。
【0051】
セパレータ12は、リチウム電池1の使用環境に耐えることができ、かつ耐有機溶媒性を有する材料から構成されれば、その材料の種類は、特に限定されない。セパレータ12の具体例としては、たとえば、ポリプロピレン製不織布、ポリフェニレンスルフィド製不織布、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムなどが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。セパレータ12を構成する材料としては、100℃以上の耐高温性を有するポリフェニレンスルフィドが特に好ましい。
【0052】
正極ケース13および負極ケース14には、リチウム電池の分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ステンレス鋼製のものが挙げられる。本実施形態では、正極ケース13および負極ケース14が、それぞれ、正極端子および負極端子を兼ねている。
絶縁パッキング15は、主に、正極ケース13と負極ケース14とを絶縁する。絶縁パッキング15には、たとえば、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの耐熱性合成樹脂製のものを使用できる。特にPPSは耐高温性、耐溶剤性に優れ、成形性も良好であるため好ましい。
【0053】
有機電解液は、芳香族スルホン化合物、非水溶媒および溶質(支持塩)を含有する。
正極活物質として二酸化マンガンを含有する従来のリチウム電池において、100℃以上の高温保存時のガス発生は、二酸化マンガンと有機電解液(特に非水溶媒)との反応が主因になっている。これに対し、本発明者の研究によれば、芳香族スルホン化合物が、電池1の100℃以上での高温保存時における、正極活物質と有機電解液との反応を抑制することを見出した。
【0054】
芳香族スルホン化合物は、好ましくは、芳香族スルホン酸のアルキルエステルである。芳香族スルホン酸のアルキルエステルにおける芳香族スルホン酸としては、たとえば、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などが挙げられる。また、芳香族スルホン酸のアルキルエステルにおけるアルキル部分は、炭素数1〜4の直鎖状アルキル基であることが好ましい。芳香族スルホン酸のアルキルエステルの好ましい具体例としては、たとえば、ベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、トルエンスルホン酸メチル、ナフタレンスルホン酸メチルなどが挙げられる。芳香族スルホン化合物は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0055】
有機電解液における芳香族スルホン化合物の含有量は、好ましくは有機電解液全量の0.1〜10重量%である。芳香族スルホン化合物の含有量が0.1重量%未満では、電池1の100℃以上での高温保存時に、正極10側でのガス発生反応を十分に抑制できないおそれがある。一方、芳香族スルホン化合物の含有量が10重量%を超えると、電池1を100℃以上の高温で保存した後に、負極11側での放電分極が大きくなり、電池1の放電特性が低下するおそれがある。
【0056】
非水溶媒としては、リチウム電池の分野で常用されるものを使用できるが、たとえば、高誘電率溶媒、低融点溶媒、鎖状カーボネートなどを好ましく使用できる。これらの中でも、溶質(支持塩)の溶解性を考慮すると、高誘電率溶媒が好ましい。高誘電率溶媒には、たとえば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)などがある。高誘電率溶媒は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0057】
また、非水溶媒として、高誘電率溶媒と低融点溶媒との混合溶媒(以下「混合溶媒A」とする)を用いるのが好ましい。特に、ECは融点が約40℃と高く、低温でのイオン伝導度が低いため、低融点溶媒と併用するのが好ましい。なお、本発明において、高誘電率溶媒と低融点溶媒とを併用すると、単に低温でのイオン伝導度が向上するだけでなく、電池1の高温保存後の膨れおよび放電電圧の低下を一層抑制できる。低融点溶媒としては、たとえば、1,2−ジメトキエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)などが挙げられ、高温保存後の電池1の膨れおよび放電電圧の低下を抑制するという観点からは、DMEが好ましい。混合溶媒Aの中でも、PCとDMEとを含むものが特に好ましい。
【0058】
混合溶媒Aにおける高誘電率溶媒の含有量は、好ましくは、混合溶媒A全量の30重量%〜80重量%であり、残部が低融点溶媒である。高誘電率溶媒の含有量が30重量%未満では、溶質が十分に溶解および解離しないおそれがある。一方、高誘電率溶媒の含有量が80重量%を超えると、低温におけるイオン伝導度が低下し、セパレータ12や正極合剤16内への有機電解液の含浸が悪くなり、放電分極が増大するおそれがある。
さらに、鎖状カーボネートには、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などがある。
【0059】
非水溶媒に溶解される溶質(支持塩)としては、たとえば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、トリフルオロメチルスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、リチウム・ビストリフルオロメチルスルホン酸イミド(LiN(SO2CF32)、リチウム・ビスペンタフルオロエチルスルホン酸イミド(LiN(SO2252)などが挙げられる。溶質は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。有機電解液に含まれる溶質の濃度は、好ましくは0.3〜1.5モル/L、さらに好ましくは0.5〜1モル/Lである。
【0060】
リチウム電池1は、たとえば、次のようにして製造される。まず、正極合剤16の周囲に正極集電リング17を装着し、これを正極ケース13内に収容し、その上にセパレータ12を載置する。さらに、有機電解液を注液し、正極合剤16およびセパレータ12に有機電解液を含浸させる。一方、負極ケース14のフラット部内面に負極11である金属リチウムまたはリチウム合金の成形体を圧着する。次いで、負極ケース14の周縁部に絶縁パッキング15を装着した状態で、正極ケース13と負極ケース14とを組み合わせる。さらに、正極ケース13の開口部を内側にかしめつけて封口することにより、リチウム電池1が得られる。さらに必要に応じて、リチウム電池1の表面には樹脂フィルムなどからなる外装体を装着しても良い。
【実施例】
【0061】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
[γ−β型二酸化マンガンの作製]
電解二酸化マンガン(体積基準のメジアン径30μm)と酸化ホウ素(B23)と水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)とを、100:3.5:5.5の重量比で混合した。得られた混合物を、420℃で8時間焼成して、γ−β型二酸化マンガンを得た。得られたγ−β型二酸化マンガンの平均粒子径(体積基準のメジアン径)は31μmであった。なお、以下の実施例および比較例においても、同じ電解二酸化マンガンを原料として用いた。
【0062】
得られたγ−β型二酸化マンガン粒子の平均粒子径(粒度分布)は、フロー式粒子像分析装置(商品名:FPIA−3000、Sysmex社製)を用いて測定した。具体的には、得られたγ−β型二酸化マンガンを含む試料を、界面活性剤を含有する水に分散させて試料を調製し、得られた試料をフロー式粒子像分析装置(FPIA−3000)により撮影した。個々の二酸化マンガン粒子について、得られた画像を画像解析に供することに、二酸化マンガン粒子の粒度分布を測定した。
【0063】
得られたγ−β型二酸化マンガンの比表面積は、BET一点法により、以下の条件で測定したところ、15.3m2/gであった。
測定装置:マウンテック社製、マックソーブHM−1201(商品名)
サンプル重量:0.4〜0.3g
測定前脱水条件:120℃で乾燥窒素ガスをフローしながら60分間保持
吸着量測定ガス:ヘリウムと窒素とを体積比7:3で含む混合ガス
吸着測定温度:20℃から−196℃まで冷却
脱離測定温度:−196℃から20℃まで昇温
【0064】
また、得られたγ−β型二酸化マンガンにおけるホウ素含有量およびマグネシウム含有量は、γ−β型二酸化マンガンに塩酸を加えて加熱溶解し、得られた溶液を適宜希釈し、IPC発光分析法により定量した。その結果、ホウ素含有量は1.0重量%であり、マグネシウム含有量は2.1重量%であった。
【0065】
(正極の作製)
上記で得られたγ−β型二酸化マンガン(正極活物質)、ケッチェンブラック(導電材)およびテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(結着材、商品名:ND−110、ダイキン工業(株)製)を、100:5:5の重量比で混合した。得られた混合物に、適量の水を加えて十分に混練して、ペースト状の正極合剤を調製した。この正極合剤を100℃で乾燥し、所定の成型金型を用いて油圧プレス機にて圧縮成型して、正極を作製した。
【0066】
(負極の作製)
負極としては、フープから所定の金型で打ち抜いた金属リチウムを用いた。
(電池の作製)
図1に示すコイン型リチウム電池を作製した。
負極は、ステンレス鋼製の負極ケースの内底面に圧着した。負極ケースの周縁部には、ポリフェニレンスルフィド製絶縁パッキングを装着した。
【0067】
上記で得られた正極を250℃で4時間乾燥した。乾燥後の正極をステンレス鋼製の断面L字型正極集電リングに挿入した。これをステンレス鋼製の正極ケースの内面に載置した。次に、正極の上に、円形に打ち抜いたポリフェニレンスルフィド製不織布からなるセパレータ(厚み100μm)を載置した。次いで、このセパレータに、有機電解液を含浸させた。有機電解液は、プロピレンカーボネート(PC)と1,2−ジメトキシエタン(DME)とを7:3の体積比で混合した混合溶媒に、LiClO4を0.6モル/Lの濃度で溶解し、さらにベンゼンスルホン酸エチルを有機電解液全量の2重量%の濃度で溶解することにより調製した。
【0068】
次に、負極がセパレータを介して正極と対向し、かつセパレータに負極が圧接するように、正極ケースに負極ケースをかぶせた。かしめ封口により、正極ケースの周縁部を、絶縁パッキングを介して負極ケースにかしめつけて、電池を密閉した。こうして、直径24mm、高さ5.0mmで、設計容量が500mAhのコイン型リチウム電池を作製した。なお、電池の作製は、露点−50℃以下のドライエア中で行った。以下の実施例および比較例においても同様である。この電池を6セル作製した。
【0069】
(実施例2)
電解二酸化マンガンとホウ酸(H3BO3)と酸化マグネシウムとを、100:1:9.5の重量比で混合し、得られた混合物を400℃で8時間焼成し、γ−β型二酸化マンガンを合成した。得られたγ−β型二酸化マンガンの比表面積は26m2/gであった。その平均粒子径(体積基準のメジアン径)は30μmであった。γ−β型二酸化マンガン中のホウ素含有量は0.1重量%、マグネシウム含有量は5重量%であった。これらの物性値は、実施例1と同様にして測定した。
【0070】
上記で得られたγ−β型二酸化マンガンを正極活物質として用い、かつ、PCとDMEとの体積比7:3の混合溶媒にLiClO4を1.0モル/Lの濃度で溶解し、さらにベンゼンスルホン酸メチルを有機電解液全量の10重量%の濃度で溶解した有機電解液を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例2のコイン型リチウム電池を得た。
【0071】
(実施例3)
電解二酸化マンガンと酸化ホウ素(B23)と酸化マグネシウムとを、100:11:0.2の重量比で混合し、得られた混合物を360℃で12時間焼成し、γ−β型二酸化マンガンを合成した。得られたγ−β型二酸化マンガンの比表面積は8m2/gであった。その平均粒子径(体積基準のメジアン径)は35μmであった。γ−β型二酸化マンガン中のホウ素含有量は3重量%、マグネシウム含有量は0.1重量%であった。これらの物性値は、実施例1と同様にして測定した。
【0072】
上記で得られたγ−β型二酸化マンガンを正極活物質として用い、かつ、PCとDMEとの体積比6:4の混合溶媒に、LiClO4を1.0モル/Lの濃度で溶解し、さらにp−トルエンスルホン酸メチルを有機電解液全量の0.1重量%の濃度で溶解した有機電解液を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例3のコイン型リチウム電池を得た。
【0073】
(実施例4)
電解二酸化マンガンと酸化ホウ素(B23)と酸化マグネシウムとを、100:3:1.5の重量比で混合し、得られた混合物を440℃で5時間焼成したところ、低結晶性のγ−β型二酸化マンガンが得られた。このγ−β型二酸化マンガンの比表面積は13.1m2/gであった。その平均粒子径(体積基準のメジアン径)は35μmであった。γ−β型二酸化マンガン中のホウ素含有量は0.8重量%、マグネシウムの含有量は0.8重量%であった。これらの物性値は、実施例1と同様にして測定した。
【0074】
上記で得られたγ−β型二酸化マンガンを正極活物質として用い、かつ、PCとDMEとの体積比6:4の混合溶媒に、LiClO4を0.8モル/Lの濃度で溶解し、さらにベンゼンスルホン酸メチルを有機電解液全量の4重量%の濃度で溶解した有機電解液を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例4のコイン型リチウム電池を得た。
【0075】
(比較例1)
電解二酸化マンガンを400℃で4時間焼成して、焼成二酸化マンガンを得た。得られた焼成二酸化マンガンのBET比表面積は24.7m2/gであった。その平均粒子径(体積基準のメジアン径)は30μmであった。これらの物性値は、実施例1と同様にして測定した。この焼成二酸化マンガンを正極活物質として用い、かつ、PCとDMEとの体積比6:4の混合溶媒に、LiClO4を1.0モル/Lの濃度で溶解した有機電解液を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例1のコイン型リチウム電池を得た。
【0076】
(比較例2)
電解二酸化マンガンと酸化ホウ素と水酸化マグネシウムを、100:2.5:4の重量比で混合し、得られた混合物を380℃で8時間焼成し、γ−β型二酸化マンガンを合成した。得られたγ−β型二酸化マンガンの比表面積は26.1m2/gであった。その平均粒子径(体積基準のメジアン径)は30μmであった。γ−β型二酸化マンガン中のホウ素含有量は0.7重量%、マグネシウム含有量は1.5重量%であった。このγ−β型二酸化マンガンを正極活物質として用いる以外は、比較例1と同様にして、比較例2のコイン型リチウム電池を得た。
【0077】
(比較例3)
PCとDMEとの体積比6:4の混合溶媒に、LiClO4を1.0モル/Lの濃度で溶解し、さらにベンゼンスルホン酸エチルを5重量%の濃度で添加混合した有機電解液を用いる以外は、比較例1と同様にして、比較例3のコイン型リチウム電池を得た。
【0078】
[評価]
以下の評価を行った。
(初期放電容量の測定)
実施例1〜4および比較例1〜3の各電池について、3mAの定電流で5.5時間の予備放電を行った後、60℃で3日のエージングを行った。エージング後の各電池について、目視での外観検査を行うとともに、開回路電圧(OCV)を測定し、異常が見られないことを確認した。
【0079】
実施例1〜4および比較例1〜3の電池各3セルを、25℃で、10kΩの定抵抗放電により、2Vまで放電し、初期放電容量を求めた。実施例と比較例の各電池について、3セルの初期放電容量の平均値を表1に示す。
【0080】
(保存前大電流放電特性)
実施例1〜4および比較例1〜3の電池各3セルを、−20℃の低温環境下において、5mAの電流値で1秒間の放電を行い、放電最低電圧(CCV)を測定し、保存前の大電流放電特性とした。保存前CCV(3セルの平均値)を表1に示す。
【0081】
(高温保存特性)
実施例1〜4および比較例1〜3の電池各3セルを、100℃の高温環境下で3日間保存した。高温保存後の電池を室温環境下に戻した後、電池総高(電池の厚み)を測定した。得られた高温保存後の電池総高と、高温保存前の電池総高との差を求め、100℃3日間保存による電池の保存後膨れ量(3セルの平均値)とした。また、100℃の高温環境下で3日間保存後の電池について、−20℃の低温環境下にて5mAの電流値で1秒間の放電を行い、放電最低電圧(CCV)を測定し、保存後CCV(3セルの平均値)とした。電池の保存後膨れ量および保存後CCVを表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
(初期放電容量について)
実施例1〜4の電池は、比較例1の電池よりも初期放電容量が少し低下していた。これは、正極活物質である二酸化マンガンにホウ素とマグネシウムとを添加することにより、マンガン価数が低下したことや結晶性がやや低下したことなどに起因していると考えられる。同様に、二酸化マンガンにホウ素とマグネシウムとを添加した比較例2の電池でも、初期放電容量は減少している。しかしながら、実施例1〜4の電池における初期放電容量の低下はわずかであり、実用上大きな問題とはならない。
【0084】
(保存前大電流放電特性について)
実施例1〜4の電池は、いずれも、−20℃での保存前CCV値が2.7〜2.9V程度であったのに対し、比較例1および2の電池は保存前CCV値が2.9V以上であった。これは、有機電解液に添加した芳香族スルホン化合物により、負極側の放電分極が大きくなったためと考えられる。同様に、芳香族スルホン化合物を有機電解液に添加した比較例3の電池でもCCV値は2.75V程度に低下し、芳香族スルホン化合物を添加した影響が認められた。しかしながら、実施例1〜4の電池における保存前CCV値の低下はわずかであり、実用上大きな問題とはならない。
【0085】
(高温保存特性[電池の膨れ]について)
実施例1〜4および比較例1〜3の各電池の、100℃で3日間保存前の総高は、いずれも4.8から4.9mmの範囲内であった。実施例1〜4の電池では、100℃で3日間保存による電池膨れ量は0.12〜0.18mmであり、極めて小さい値であった。このことから、100℃での高温保存による電池内部のガス発生、すなわち正極上での非水溶媒の酸化分解反応を大きく抑制かつ低減できていることが分かる。
【0086】
これに対して、比較例1の電池では、100℃で3日間保存後に0.84mmの大きな膨れが生じていた。また、比較例1の電池について、1kHzでのインピーダンスを測定したところ、電池内部抵抗が100Ω以上に増大しており、放電が円滑に進行しない状態となっていた。また、比較例2および比較例3の電池では、比較例1の電池よりは小さいが、いずれも0.5mm以上の比較的大きな電池膨れが発生した。比較例2は、ホウ素とマグネシウムとを添加した二酸化マンガンを含む正極を用い、有機電解液に芳香族スルホン化合物を添加しなかった電池である。比較例3は、ホウ素とマグネシウムとを添加しなかった二酸化マンガンを含む正極を用い、有機電解液に芳香族スルホン化合物を添加した電池である。
【0087】
以上の結果から、ホウ素とマグネシウムとを添加したγ−β型二酸化マンガンと、芳香族スルホン化合物を含有する有機電解液とを組み合わせることにより、100℃以上の高温保存後の電池膨れが顕著に抑制されることがわかる。
【0088】
(高温保存特性[大電流放電特性]について)
実施例1〜4の電池は、100℃で3日間の保存後CCV値が2.2V以上であり、特に実施例1および4の電池は保存後CCV値が約2.7Vであった。これに対し、電池の膨れが大きかった比較例1の電池では放電電圧が0V以下となり、放電できなくなった。また、正極のみを改良した比較例2では1.725V、有機電解液のみを改良した比較例3では1.434Vとなり、いずれも2V以下に低下した。
【0089】
比較例1〜3において、100℃で3日間の保存後CCV値が大きく低下したのは、電池の膨れが顕著であったためと考えられる。すなわち、正極と有機電解液との反応が抑制されず、ガス発生量が多くなったため、電池内の電気的接続、イオン伝導などが悪化し、100℃で3日間の保存後CCV値が大きく低下したと考えられる。
しかしながら、芳香族スルホン化合物の添加量が多い実施例2、ホウ素やマグネシウムの添加量が多い実施例2、3では、電池膨れを抑制できるが、保存後の放電分極への影響も見られることから、ガス発生抑制と放電分極の特性がトレードオフの関係となることが分かる。
【0090】
リチウム電池において、正極活物質に用いられる二酸化マンガンは、有機溶媒に対する強い酸化活性能を有している。このため、従来のリチウム電池では、高温保存特性の低下が顕著である。これに対し、本発明では、正極活物質である二酸化マンガンに、ホウ素と、マグネシウムを添加してγ−β型二酸化マンガンとすることと、芳香族スルホン化合物を添加した有機電解液を用いることを特徴とする。これにより、二酸化マンガンの比表面積や有機溶媒に対する酸化活性能を制御することができ、リチウム電池の高温保存特性が向上するものと考えられる。
【0091】
なお、高温保存時におけるガス発生は、主に、二酸化マンガンと有機電解液との反応により生じる。このため、有機電解液に含まれる非水溶媒の種類、その組成、添加剤の有無などにより、ガス発生抑制効果は変動すると考えられる。本発明においては、上記実施例以外の組成を有する有機電解液を用いてもよいし、さらにガス発生を抑制する公知の添加剤を含む有機電解液を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のリチウム電池は、優れた高温保存特性を有し、コスト面にも優れている。このようなリチウム電池は、たとえば、携帯電子機器、車載用電子機器などの電源として有用である。
【符号の説明】
【0093】
1 電池
10 正極
11 負極
12 セパレータ
13 正極ケース
14 負極ケース
15 絶縁パッキング
16 正極合剤
17 正極集電リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極群、有機電解液ならびに前記電極群および前記有機電解液を収容する電池ケースを含み、
前記電極群は正極、負極および前記正極と前記負極との間に介在するように配置される多孔質絶縁体を含み、
前記正極は正極活物質を含み、前記正極活物質は、ホウ素およびマグネシウムを含有するγ−β型二酸化マンガンを含み、前記負極は負極活物質を含み、かつ
前記有機電解液は芳香族スルホン化合物を含有するリチウム電池。
【請求項2】
前記芳香族スルホン化合物は、芳香族スルホン酸のアルキルエステルである請求項1に記載のリチウム電池。
【請求項3】
前記芳香族スルホン酸のアルキルエステルは、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖状アルキル基である請求項2に記載のリチウム電池。
【請求項4】
前記芳香族スルホン酸が、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項2または3に記載のリチウム電池。
【請求項5】
前記有機電解液における前記芳香族スルホン化合物の含有量が、前記有機電解液全量の0.1〜10重量%である請求項1〜4のいずれか1つに記載のリチウム電池。
【請求項6】
前記有機電解液は、前記芳香族スルホン化合物とともに非水溶媒および溶質を含有し、前記非水溶媒は、高誘電率溶媒と低融点溶媒との混合溶媒である請求項1〜5のいずれか1つに記載のリチウム電池。
【請求項7】
前記γ−β型二酸化マンガンにおけるホウ素の含有量が前記γ−β型二酸化マンガン全量の0.1〜3重量%であり、かつ前記γ−β型二酸化マンガンにおけるマグネシウムの含有量が前記γ−β型二酸化マンガン全量の0.1〜5重量%である請求項1〜6のいずれか1つに記載のリチウム電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−250969(P2010−250969A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96219(P2009−96219)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】