説明

リハビリ用膝装具

【課題】全体としての剛性が高いものでありながら、膝関節の幅に適合できる調節が可能な膝装具を提供すること。
【解決手段】大腿部に装着する大腿部取り付け部材と、下腿部に装着する下腿取り付け部材と、前記大腿部取り付け部材と下腿取り付け部材とを、膝の内側と外側とで連結する一対の可動部材とから成る膝装具。前記可動部材が、夫々幅調節機によって膝の幅方向に移動調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の膝関節の保護を目的とした膝装具で、特にリハビリ(訓練用)に好適のリハビリ用膝装具に関する。
【背景技術】
【0002】
膝、その他の部位の装具として、種々の形態のものが提案されているが、その使用目的から見て、例えば、膝を例題としてみると、次のように大別できる。
▲1▼ 保持、安静目的(治療用)
▲2▼ 矯正目的(生活用)
▲3▼ リハビリ目的(訓練用)
【0003】
上記保持、安静目的とは、膝関節の脱臼、膝近辺の骨折、膝部位の手術直後など、組織や筋の再生を待つために医師の指定した姿勢で膝乃至膝近辺を固定することを言う。脱臼、骨折すればその部位が腫れ、回復に応じた装具のサイズ調整はその都度必要であるが、その部位を固定することが目的であるところから、こうした装具は、その患部を動かすための機能を備えるものではない。
【0004】
上記矯正目的とは、変形性膝関節症などの膝の変形で歩行時に痛みが生じる場合に、痛みの少ない姿勢に誘導、維持することで疼痛を緩和することを言う。また、筋力低下などで自力歩行が出来難いとき、歩行に必要な筋力を補足する場合を言う。従って、膝の屈曲を許容する機能は備えているものである。
こうした矯正目的の場合には、患部の腫れを伴わないので、装具は、患部のサイズに一旦合致させれば、その後のフォローは少ないのが普通である。
【0005】
上記リハビリ目的とは、膝の手術後や受傷後の低下した筋力回復や、神経網の促通をなすことを言う。例えば、ACL(前十字靭帯)の損傷の場合、手術後、数日から1週間程度で膝装具をつけてリハビリを開始するため、術後の腫れの度合いに応じた膝装具の適合調整が求められる。
この場合も、膝の屈曲を許容する機能は備えなければならない。
加えて、ACL損傷用装具を装着することにより、脛骨の不安定性(膝が抜ける感覚)による不安を緩和、装着することにより安心感が生まれ、リハビリへの参加を促す効果があることが知られている。
【0006】
また、膝関節の障害として、その他の靱帯損傷、関節炎、半月板損傷など、種々の原因があり、これらの治癒乃至保護を行うための補助具として、種々の膝装具が開発され、提案されている。
【0007】
リハビリを行う膝装具は、十分な強度を有する必要性もあり、これまでの膝装具として、柔らかい布などで構成されたものは、膝、大腿部及び下腿部に対する適合性、特に布の伸縮性により屈伸などの機能に優れているが、剛性に乏しいことで膝関節のリハビリには不向きであり、それ故、膝装具の要所に金属製の部材を用いることが行われている。
【0008】
こうした従来技術として、膝の屈曲を可能にする装具としては、例えば、次の文献が挙げられる。
【特許文献1】特開2009−5247
また、膝の変形に対処する膝装具として、例えば、次の文献が挙げられる。
【特許文献2】特開平9−135855
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特に、上述したリハビリを目的とした膝装具を対象としている。
中でも、リハビリを目的とした膝装具は、膝患部の腫れに対するサイズ適合性と、腫れが暫時引いて行くことによる度々のサイズ変更(特に前から見た膝幅方向の変更)を行い得るものでありながら、リハビリを行うために、膝装具そのものに運動機能(可動機能)を備える必要がある。
【0010】
上述した従来技術の金属製の部材を膝装具の要所に用いる技術は、それまでの布製などの柔らかい素材の膝装具に比べて膝装具の剛性を向上させることができた点において優れたものである が、次の問題点があった。
【0011】
上述した膝装具(膝の屈曲を許容する回動機能付き)は、通常大腿部と下腿部に装着することになるのであるが、大腿部及び下腿部は、人によって周囲の寸法が異なるために、長さ調節ができるように、通常、ベルト等の柔らかな素材で、長さ調節自在の構成とされている。
こうした大腿部と下腿部への装着に伴う身体的特徴への適合性は、ベベルト等の長さ調節で容易に行い得ると共に患者のサイズに一旦合わせることができれば済むことなので、大きな問題ではない。
【0012】
しかし、要所に、例えば、大腿部と下腿部の要部及びこれらを繋ぐ上下に伸びるフレーム等を金属製とした場合、全体としての剛性は改善できるが、個々の体型にフレームを厳密に沿わせることが難しくなる。
フレームが体に沿わないと装具が本来の装着位置からずれて、落ちるため、所望の効果が得られない。そのため、スポンジ材で構成された等の充填物で隙間を埋めるか、フレームを後加工で曲げることになる。仮に、フレームを後加工で曲げたとしても、フレーム自体は伸長しないため、膝生理軸とフレームの回転軸との相対位置が一致しない場合には、ベルト等の長さを調節して周径が非常に大きくなる大腿部に合わせると、フレームの(上下端側部)大腿近位部および下腿遠位部が(外側)内側および外側に向けて反り返る事態を招き、結果としてフレームの膝関節側端部の回動がスムースに行かなくなる虞が生じる。
【0013】
こうした事態は、前記フレームの取り付け位置について、周径が異なる大腿部に対応させることを配慮していないことが原因である。
特に、膝関節の場合、ACL(前十字靭帯)損傷など、膝を手術することで治療を行う場合が多々あり、この際、手術後に膝及びその周辺部位が腫れて、膝装具の装着に際して幅を調節する必要が生じるが、大腿部及び下腿部の周径に合わせた調節はベルト等で容易に行い得るものの、膝関節の内外側部に位置するフレームの幅(前から見た膝の幅)は、腫れ及び腫れの引きを考慮すべきものであるが、これまで、暫時変動する膝部位(患部)の膝径に適合させる調節手段は講じられてこなかった。
【0014】
本発明は、かかる問題点に鑑み、全体としての剛性が高いものでありながら、膝関節の幅に適合できる調節を容易に行い得るリハビリ用膝装具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかる膝装具は、上記目的を達成するために、大腿部に装着する大腿部取り付け部材(1)と、下腿部に装着する下腿取り付け部材(2)と、前記大腿部取り付け部材(1)と下腿取り付け部材(2)とを、膝の内側と外側とで連結する一対の可動部材(3,4)とから成るリハビリ用膝装具であって、
前記大腿部取り付け部材(1)の大腿前面側部が剛性部材(1A)で構成され、該剛性部材(1A)に取り付けられる大腿後面側部が長さ調節可能なベルト部材(1B)で構成され、
前記下腿取り付け部材(2)の下腿前面側部が剛性部材(2A)で構成され、該剛性部材(2A)に取り付けられる下腿後面側部が長さ調節可能なベルト部材(2B)で構成され、
前記可動部材(3,4)は、膝の内側と外側とで上下方向に伸び、剛性材により構成された上側フレーム(3A,4A)と下側フレーム(3B,4B)を備え、且つ、該フレーム(3A,4A,3B,4B)の膝関節側端部(3a,4a,3b,4b)は、回動軸(5,5,6,6)によって回動可能に設けられており、
前記上フレーム(3A,4A)の大腿内側部および大腿外側部(3c,4c)と前記大腿部取り付け部材(1)の剛性部材(1A)及び前記下フレーム(3B,4B)の下腿内側部および下腿外側部(3d,4d)と前記下腿取り付け部材(2)の剛性部材(2A)とを、夫々、膝の前面側に配置された幅調節機構(7,8)を介して連結し、膝の幅に適合できるように構成されている、
という解決手段を講じたものである。
【0016】
本発明において、前記剛性部材とは、アルミ合金、マグネシウム合金、スチールなどの金属素材、硬質プラスチック、FRP、CFRPなど、剛性の高い素材から構成されたものを言う。
また、前記ベルト部材とは、織布、不織布、合成樹脂製などの素材を基にしたもので、その素材は限定されるものではなく、また、長さ調節の止め手段についても、公知の手段は全て含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の膝装具によれば、膝装具の主要部を剛性部材とすることで、リハビリ用膝装具として十分な強度を発揮できると共に幅調節機構を備えることで、剛性部材を用いるものでありながら手術等で肥大する膝の幅に応じて、また、暫時腫れが引くことによる幅変動に応じて、容易に幅調節が行い得る効果を奏するに至ったものである。
本発明にかかるその他の利点については、以下の実施例の説明から明らかとなろう。
【発明を実施するための好適形態】
【0018】
本発明の実施に際しては、前記幅調節機構(7,8)は、前記大腿部取り付け部材(1)の剛性部材(1A)については、その中央部から下方に向けて、前記下腿取り付け部材(2)の剛性部材(2A)については、その中央部から上方に向けて、正面視が全体としてT字形を呈するように一体的に突出、形成された取り付け部(16,17)に設けられているのが好ましい。
【0019】
このように、前記大腿部取り付け部材(1)の剛性部材(1A)を、正面視が全体としてT字形を呈するように構成することで、正面視で、間隔を持った上下二段の構造体として、強度を高めることができながら、同時に、極力上側フレーム(3A,4A)と下側フレーム(3B,4B)の長さを短くして強度を保持できる状態で、幅調節が可能となった。
【0020】
また、前記上下フレーム(3A,4A,3B,4B)の各膝関節側端部(3a,4a,3b,4b)には、部分歯車(9,9,10,10)が形成されており、両部分歯車(9,9,10,10)は、膝の屈曲伸展を調節できる所定の位置で噛み合っており、且つ、前記各膝関節側端部(3a,4a,3b,4b)の前側部分が、前記両部分歯車(9,9,10,10)が相互に噛み合った状態において、所定の間隙(L1)を有するように構成され、当該間隙には、夫々、回動規制部材(30)が設けられていることが好ましい。
【0021】
このように、前記両部分歯車(9,9,10,10)の噛み合いによって、膝関節の屈曲に合わせた回動がスムースに行い得ると同時に膝の前方への屈曲角度を、その規制部材(30)によって予め設定することができて、靱帯損傷等の回復に応じたトレーニングを安全に行い易いのである。
【0022】
更に、前記回動規制部材(30)が、夫々上下端に段部(30a,30b)を備え、前記各膝関節側端部(3a,4a,3b,4b)の前側部分に対して選択的に接当し、膝関節の回動角度を調節できるように構成されていることが好ましい。
【0023】
前記回動規制部材(30)に、夫々段部(30a,30b)を備える構造とすることで、一つの部材で、二つの屈曲角度規制を選択的に行い得る利点がある。
【0024】
更に、前記各幅調節機構(7,8)は、スライド操作で操作できるラチェット機構(12)により幅調節、固定可能に構成されていることが好ましい。
【0025】
このようなラチェット機構(12)の導入によって、幅調節の操作が極めて容易に行い得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかる膝装具を装着した状態の斜視図。
【図2】本発明にかかる膝装具を装着した状態の正面図。
【図3】本発明にかかる膝装具を装着した状態の内側から見た側面図。
【図4】本発明にかかる膝装具を装着した状態の外側から見た側面図。
【図5】本発明にかかる膝装具を装着した状態の要部の拡大正面図。
【図6】本発明にかかる膝装具の図5におけるA−A矢視断面図。
【図7】本発明にかかる膝装具の幅調節機構の一使用状態における要部を示す側面図。
【図8】本発明にかかる膝装具の幅調節機構の一使用状態における要部を示す正面図。
【図9】本発明にかかる膝装具の図8におけるB−B矢視断面図。
【図10】本発明にかかる膝装具の幅調節機構の一使用状態における要部を示す側面図。
【図11】本発明にかかる膝装具の幅調節機構の一使用状態における要部を示す正面図。
【図12】本発明にかかる膝装具の図11におけるC−C矢視断面図。
【図13】本発明にかかる膝装具の可動部材で、回動及び回動規制構造を示す側面図。
【図14】本発明にかかる膝装具の可動部材で、回動及び回動規制構造を示す側面図。
【図15】本発明にかかる膝装具の回動規制部材の拡大側面図。
【図16】本発明にかかる膝装具の別形態を示す幅調節機構の要部を示す側面図。
【図17】本発明にかかる膝装具の別形態を示す幅調節機構の一使用状態における要部を示す正面図。
【図18】本発明にかかる膝装具の図17におけるD−D矢視断面図。
【図19】本発明にかかる膝装具の別形態を示す幅調節機構の要部を示す側面図。
【図20】本発明にかかる膝装具の別形態を示す幅調節機構の一使用状態における要部を示す正面図。
【図21】本発明にかかる膝装具の図20におけるE−E矢視断面図。
【図22】本発明にかかる膝装具の別形態を示す幅調節機構の要部を示す側面図。
【図23】本発明にかかる膝装具の別形態を示す幅調節機構の一使用状態における要部を示す正面図。
【図24】本発明にかかる膝装具の図23におけるF−F矢視断面図。
【図25】本発明にかかる膝装具の別形態を示す幅調節機構の要部を示す側面図。
【図26】本発明にかかる膝装具の別形態を示す幅調節機構の一使用状態における要部を示す正面図。
【図27】本発明にかかる膝装具の図26におけるG−G矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかる膝装具について、図面を参照して以下詳述する。
図1乃至図12に示すように、この膝装具は、人体の大腿部(ここでは便宜上、右足の大腿部とする)に装着する大腿部取り付け部材1と、下腿部に装着する下腿取り付け部材2と、前記大腿部取り付け部材1と下腿取り付け部材2とを、膝の内側と外側とで連結する一対の可動部材3,4とから成る。
【0021】
前記大腿部取り付け部材1の大腿前面側部が剛性部材1Aで構成され、該剛性部材1Aに取り付けられる大腿前面側部が長さ調節可能なベルト部材1Bで構成されている。
そして、同様に、前記下腿取り付け部材2の下腿前面側部が剛性部材2Aで構成され、該剛性部材2Aに取り付けられる下腿後面側部が長さ調節可能なベルト部材2Bで構成されている。
【0022】
前記剛性部材1A,2Aは、この実施例では、アルミ合金(A2017)を用いており、その主要部は、大腿部及び下腿部にフィットできるように、平面視で半円乃至円弧状の形状に構成されている。
また、前記剛性部材1Aは、その中央部から下方に向けて、前記剛性部材2Aは、その中央部から下方に向けて、後述する幅調節機構7,8を備えるための、正面視が全体としてT字形を呈する取り付け部16,17が一体的に突出、形成されている。
【0023】
また、前記ベルト部材1B,2Bは、夫々、前記剛性部材1A,2Aにリベット止された金具保持部材18,19と、この金具保持部材18,19の金具18a,19aに巻回されたベルト部材20,21とからなり、このベルト部材20,21は、ここでは、面ファスナーで構成されており、これによって、長さを自在に調節でき、且つ、調節された位置を固定できる構成とされている。
【0024】
前記可動部材3,4は、膝の内側と外側とで上下方向に伸び、剛性材により平板状に構成された上側フレーム3A,4Aと下側フレーム3B,4Bを備え、且つ、該フレーム3A,4A,3B,4Bの膝関節側端部3a,4a,3b,4bは、回動軸5,5,6,6によって回動可能に設けられている。
【0025】
これらのフレーム3A,4A,3B,4Bも、ここでは、同様にアルミ合金で構成され、各々は、図示するように、正面視では逆L字状を呈し、側面視では、後方から前方に向けて湾曲する形状とされている。
そして、前記上フレーム3A,4Aの大腿側端部3c,4cと前記大腿部取り付け部材1の剛性部材1A及び前記下フレーム3B,4Bの下腿側端部3d,4dと前記下腿取り付け部材2の剛性部材2Aとを、夫々幅調節機構7,8を介して連結し、膝の幅に適合できるように構成されている。
【0026】
図13乃至図15は、上述の膝装具の可動部材3、4で、回動及び回動規制構造及び回動規制部材を示し、前記上下フレーム3A,4A,3B,4Bの膝関節側端部3a,4a,3b,4bには、部分歯車9,9,10,10、ここでは、3枚の歯が形成されており、両部分歯車9,9,10,10は、膝の屈曲伸展を調節できる所定の位置で噛み合っている。
【0026】
これらの部分歯車9,9,10,10の反対側には、回動を止めるストッパー部22,22,23,23が形成され、これらのストッパー部22,22,23,23は、対向面に所定の間隔が設けられ、ここに、回動規制部材30が設けられる(可動部材3、4のケーシングにより位置固定される)。即ち、前記両部分歯車9,9,10,10が相互に噛み合った状態において、所定の間隙L1(ここでは、一側方のみ図示するので、L1のみとする)を有するように構成され、当該間隙L1には、回動規制部材30が設けられている。
【0026】
前記回動規制部材30が、夫々上下端部に、段部30a,30bを備え(一段目30aは、部材の端部面が構成し、その端部面に続く二段目30bは階段状段部である)、前記各膝関節側端部(3a,4a,3b,4b)の前側部分のストッパー部22,22,23,23に対して選択的に接当し、膝関節の回動角度を調節できるように構成されている。
前記段部30a,30bの選択による屈曲角度の差異は、約0度から約10度とされている。しかし、この段部は、必要に応じて、段部を無くしたり、3段とすることも可能である。
前記2段目30bの選択は、治療の進行により伸展が許される状態の時に行われる。
このようにして、所定の回動範囲を超えて回動が進行しないように構成され、膝が所定角度の屈曲状態から、下腿部が更に前方に動くように曲がる(膝がより真っ直ぐに伸びる方向)ことがないようにしている(膝関節は本来、そのように機能するが、膝の異常、例えば靱帯損傷の治療中などで、完治していない場合に不測に曲がる虞もあるため)。
【0027】
このため、上下フレーム3A,4A,3B,4Bの部分歯車9,9,10,10は、膝の前後方向の後ろ側に位置され、ストッパー部22,22,23,23は、膝の前後方向の前側に位置されることになる。
これらの上下フレーム3A,4A,3B,4Bは、図示されている通り、三次元方向の湾曲形状を持つものである。
【0028】
前記可動部材3,4は、膝の側部に接当する接当部材3e,4eを備えている。これらの可動部材3,4の接当部材3e,4eは、略長円形状に構成され、膝接当位置にはパッドが設けられており、外側位置には、長円形状を呈するカバー体24,25が設けられ、前記上下フレーム3A,4A,3B,4Bの部分歯車9,9,10,10及びストッパー部22,22,23,23は、そのカバー体24,25により被覆された状態とされている。そして、前記回動軸5,5,6,6は、このカバー体24,25で軸受けされている。
【0029】
前記各幅調節機構7,8は、この実施例では、図7乃至図12に示すように、ラチェット機構12(ガンギ爪を供えたラチェット機構ではない変形タイプなので、略式の呼称とする)により幅調節可能に構成されている。
図7乃至図9は、最も幅を狭く調節した状態を示し、図10乃至図12は、中間幅を得る状態を示す。
【0030】
このラチェット機構12は、次のように構成されている。ここでは、前記大腿部取り付け部材1の側を例として説明すると、その剛性部材1Aに設けられた幅調節機構7の受け部材7aには、左右方向から挿入可能な間隙が形成されると共に該間隙の一側内面に複数の係合突起7bが形成され、そして、内外側の上フレーム3A,4Bの大腿部側端部3c,4cが、その受け部材7aの弾性変形を利用して、前記係合突起7bを押しのけて挿入され、所定位置で係合するように構成され、その係合位置は、前記受け部材7a、を間隙の方向に貫通する止めネジ7c(通常のラチェットにおけるガンギ爪に代え)によって固定できる構成とされている。尚、図7乃至図12では、便宜上、一方の上フレーム3Aのみを図示して調節作用を行う状態を示している。
【0031】
この実施例では、大腿部側補助ベルト26及び下腿部側補助ベルト27を備えている。これらは、図1乃至図4において、仮想線を用いて示している。勿論、仮想線で示すように、このような大腿部側補助ベルト26及び下腿部側補助ベルト27は、必要に応じて取り外した状態で使用してもよい。
【0032】
前記大腿部側補助ベルト26及び下腿部側補助ベルト27は、夫々、大腿部と下腿部に巻回されるもので、大腿部取り付け部材1及び下腿部取り付け部材2よりも膝関節側に位置されており、その一部が、前記上下フレーム3A,4A,3B,4Bの上下方向略中間位置でピン止されている。これらの大腿部側補助ベルト26及び下腿部側補助ベルト27は、先に説明したベルト部材20,21と実質的に同じ構成で、同様の方式で長さ調節を行い得るものである。
【0033】
ここで、本発明の膝装具の強度に関し、上下フレーム3A,4A,3B,4Bフレームが柔らかい素材で構成された場合と比べ、どのくらい有利なのかについて述べる。
理解を容易にするために、簡易モデルに置き換えて検証する。
作用について、次の概念図を用いる。
【0034】

【0035】
上記の左図は、バネ定数kを持つフレームが2本並び、その間はバネ定数k2を持つ素材で連結されている状況を表している。
今、上図左の状態から、上図右のように力Fによって1方向に荷重が

からの伸び)が発生する。全体のバネ定数をK,全体の変位量をXとすると、次の関係式が成り立つ。
F=KX
X=Δx+2Δx (1)
【0036】
ここで、k,kのうち、力Fと同一方向に作用する成分をk1x,k2xと定義する。ただし、上の状況では力Fと直交する方向(y方向)にも分力が作用するが考えない。
したがって(1)式は、次式に書き換えられる。

【0037】
ここで、
F=f=2f (3)
であるから、(2),(3)式より、

【0038】
故に、力Fの方向に対する装具全体の剛性Kは次のように解釈できる。
(A)k2xの剛性が十分高い、すなわちk2x→∞のとき、(4a)式よりK=2k1xとなり、剛性kのフレーム2本分の剛性が得られる。これは、金属フレームタイプでは、構造的にフレーム単体より強固な剛性が得られることを示唆している。
(B)k2xの剛性がk1xに比べ十分小さいとき、すなわち、k1x>>k2xのとき、(4b)式より、K=0.5k2xとなり、k2xの半分の剛性しか得られない。これは、軟性サポータータイプでは、金属支柱があったとしても、装具全体の剛性は生地の剛性に依存することを示唆する。
このように、フレームが柔らかい素材で構成された場合と比べ、本発明の剛性の高い素材(金属フレーム)の場合、高い剛性が得られることが分かる。
【0039】
(作用)
この膝装具を足に装着するに、大腿部側と下腿部側とに対して、上述のベルト部材20,21の面ファスナーを操作して、足に適合する長さ調節を行って、装着を行う。
この際、しかる後に、装着者の膝の幅(腫れ)に応じて、前記幅調節機構7(便宜上、大腿部側を対象として説明する)の止めネジ7cを操作し、例えば、前記上フレーム3Aの大腿部側端部3cを受け部材7aから引き抜き、幅を広げる。
【0040】
そして、適正な幅が得られたら、前記止めネジ7cを回動させて位置を固定することになる。
同様の操作は、下腿部側においても行われる。
これによって、前記可動部材3,4である上下フレーム3A,4A,3B,4Bが全体として左右方向に変位することになり、膝の幅に対応させて移動させても、全体として移動するものであるから、可動部材3,4の本来の可動に影響を及ぼす事態や、フレームの捩れ状態を生じる虞がなく、常にスムースな回動(膝の屈伸)状態を得ることができる。
【0041】
(変形例1)
前記幅調節機構の変形例について説明する。
図16乃至図18に示すように、ここでは、前記各幅調節機構7,8は、ネジ止機構13により幅調節可能に構成されている。
即ち、このネジ止機構13は、次のように構成されている。ここでも、前記大腿部取り付け部材1の側を例として説明すると、その剛性部材1Aに設けられた幅調節機構7の受け部材7aには、左右方向から挿入可能な間隙が形成される点は、先の実施例と同じであるが、外側の上フレーム3Aの大腿部側端部3cが、その受け部材7aに挿入され、その嵌合位置は、前記受け部材7a及び上フレーム3Aを間隙の方向に貫通する止めネジ7dによって固定できる構成とされている。
【0042】
この為、ここでは、受け部材7aに、幅方向に所定の間隔でネジ孔が複数個形成されており、同様に、上フレーム3Aの大腿部側端部3cにも、これに対応する複数の貫通孔(凹部でもよい)が形成されており、両者の相対移動によって、所定の位置合わせで長さを調節して、止めネジ7dで固定することになる。
【0043】
(変形例2)
更に、図19乃至図21に示すように、ここでは、前記各幅調節機構7,8は、摩擦機構14により幅調節可能に構成されている。
即ち、前記大腿部取り付け部材1の側を例として説明すると、その剛性部材1Aに設けられた幅調節機構7の受け部材7aには、左右方向から挿入可能な間隙が形成され、外側の上フレーム3Aの大腿部側端部3cが、その受け部材7aに挿入される点は先の実施例と同じであるが、その嵌合位置は、前記受け部材7aの内面及び上フレーム3Aの表面に摩擦係数の大きい摩擦材7eを備えることで、嵌め合い時の摩擦力によって、所定位置が保持される構成とされている。
【0044】
(変形例3)
更に、図22乃至図24に示すように、前記各幅調節機構7,8は、摩擦機構14により幅調節可能に構成されている点において、先の変形例2と同じであるが、ここでは、次の構造が異なる。
即ち、同様に、前記大腿部取り付け部材1の側を例として説明すると、その剛性部材1Aに設けられた幅調節機構7の受け部材7aには、左右方向の一方から挿入可能な間隙が形成され、外側の上フレーム3Aの大腿部側端部3cが、その受け部材7aに挿入される点は先の変形例と同じであるが、受け部材7aの一側が内側の大腿部側端部3dと一体構成とされている点が異なる。
尚、上記嵌合位置に、前記受け部材7aの内面及び上フレーム3Aの表面に摩擦係数の大きい摩擦材7eを備えることで、嵌め合い時の摩擦力によって、所定位置が保持される構成とされている点は同じである。
【0045】
(変形例4)
図25乃至図27に示すように、ここでは、前記各幅調節機構7,8は、ウォームギア機構15により幅調節可能に構成されている。
即ち、前記大腿部取り付け部材1の側を例として説明すると、その剛性部材1Aに設けられた幅調節機構7の受け部材7aには、左右方向から挿入可能な間隙が形成され、外側の上フレーム3Aの大腿部側端部3cが、その受け部材7aに挿入される点は先の実施例と同じであるが、ここでは、上フレーム3Aの大腿部側端部3cにラック7fが形成されており、受け部材7aの側には、ウォームギア7gが膝の幅方向に沿う軸心の周りに回転自在に軸支されている。
【0046】
このウォームギア7gの一部は、前記受け部材7aの開口部7hから操作可能とされており、このウォームギア7gを回転操作することで、上フレーム3Aを受け部材7aから抜き差しし、以って、幅調節を行い得るのである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明にかかる膝装具は、全体としての剛性が大きいにもかかわらず、幅調節が可能であるため、手術後の腫れのある膝の治療、リハビリに好適なもので、その応用範囲は広い。
【符号の説明】
【0042】
1:大腿部取り付け部材
1A:剛性部材(大腿部取り付け部材側)
1B:ベルト部材(大腿部取り付け部材側)
2:下腿取り付け部材
2A:剛性部材(下腿部取り付け部材側)
2B:ベルト部材(下腿部取り付け部材側)
3:可動部材(外側)
3A:上側フレーム(外側)
3B:下側フレーム(外側)
3a:膝関節側端部(外側、上側フレーム)
3b:膝関節側端部(外側、下側フレーム)
3c:大腿側端部(外側、上側フレーム)
3d:大腿側端部(内側、上側フレーム)
3e:接当部材(外側可動部材)
4:可動部材(内側)
4A:上側フレーム(内側)
4B:下側フレーム(内側)
4a:膝関節側端部(内側、上側フレーム)
4b:膝関節側端部(内側、下側フレーム)
4c:下腿部側端部(外側、下側フレーム)
4d:下腿部側端部(内側、下側フレーム)
4e:接当部材(内側可動部材)
5:回動軸(内外側、上側フレーム)
6:回動軸(内外側、下側フレーム)
7:幅調節機構(上側フレーム)
8:幅調節機構(下側フレーム)
9:部分歯車(外側、上側フレーム)
10:(内側、下側フレーム)
12:ラチェット機構
13:ネジ止機構
14:摩擦機構
15:ウォームギア機構
30:回動規制部材
30a:段部
30b:段部(2段目)
L1:間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腿部に装着する大腿部取り付け部材(1)と、下腿部に装着する下腿取り付け部材(2)と、前記大腿部取り付け部材(1)と下腿取り付け部材(2)とを、膝の内側と外側とで連結する一対の可動部材(3,4)とから成るリハビリ用膝装具であって、
前記大腿部取り付け部材(1)の大腿前面側部が剛性部材(1A)で構成され、該剛性部材(1A)に取り付けられる大腿後面側部が長さ調節可能なベルト部材(1B)で構成され、
前記下腿取り付け部材(2)の下腿前面側部が剛性部材(2A)で構成され、該剛性部材(2A)に取り付けられる下腿後面側部が長さ調節可能なベルト部材(2B)で構成され、
前記可動部材(3,4)は、膝の内側と外側とで上下方向に伸び、剛性材により構成された上側フレーム(3A,4A)と下側フレーム(3B,4B)を備え、且つ、当該フレーム(3A,4A,3B,4B)の膝関節側端部(3a,4a,3b,4b)は、回動軸(5,5,6,6)によって回動可能に設けられており、
前記上フレーム(3A,4A)の大腿内側部および大腿外側部(3c,4c)と前記大腿部取り付け部材(1)の剛性部材(1A)及び前記下フレーム(3B,4B)の下腿内側部および下腿外側部(3d,4d)と前記下腿取り付け部材(2)の剛性部材(2A)とを、夫々、膝の前面側に配置された幅調節機構(7,8)を介して連結し、膝の幅に適合できるように構成されている、
ことを特徴とするリハビリ用膝装具。
【請求項2】
前記幅調節機構(7,8)は、前記大腿部取り付け部材(1)の剛性部材(1A)については、その中央部から下方に向けて、前記下腿取り付け部材(2)の剛性部材(2A)については、その中央部から上方に向けて、正面視が全体としてT字形を呈するように一体的に突出、形成された取り付け部(16,17)に設けられている請求項1に記載のリハビリ用膝装具。
【請求項3】
前記上下フレーム(3A,4A,3B,4B)の各膝関節側端部(3a,4a,3b,4b)には、部分歯車(9,9,10,10)が形成されており、両部分歯車(9,9,10,10)は、膝の屈曲伸展を調節できる所定の位置で噛み合っており、且つ、前記各膝関節側端部(3a,4a,3b,4b)の前側部分が、前記両部分歯車(9,9,10,10)が相互に噛み合った状態において、所定の間隙(L1)を有するように構成され、当該間隙には、夫々、回動規制部材(30)が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリハビリ用膝装具。
【請求項4】
前記回動規制部材(30)が、夫々上下端に段部(30a,30b)を備え、前記各膝関節側端部(3a,4a,3b,4b)の前側部分に対して選択的に接当し、膝関節の回動角度を調節できるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載のリハビリ用膝装具。
【請求項5】
前記各幅調節機構(7,8)は、スライド操作で操作できるラチェット機構(12)により幅調節、固定可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のリハビリ用膝装具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−183277(P2012−183277A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64943(P2011−64943)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(509278210)サカモト有限会社 (6)
【出願人】(398055439)株式会社洛北義肢 (10)
【Fターム(参考)】