説明

リパーゼの安定的な変異体

本発明は、耐熱性、耐有機溶媒性、かつ耐pH性を有する新規のリパーゼ遺伝子変異体の生成および生産に関する。さらに、本発明は、高温用のリパーゼ変異体を選択する方法および精製する方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐有機溶媒、かつ耐pH性を持つ新規のリパーゼ遺伝子変異体の生成および生産に関する。さらに、本発明は、高温用のリパーゼ変異体を選択する方法および精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素は、生物特有の生物学的プロセスのほぼ全てに影響を与える細胞の働き者である。酵素は、極めて特定の化学反応に対して、反応速度を高める触媒として作用する。酵素の驚くべき触媒能力と作用の幅広さは以前から認識されており、酵素は、生体系の外でも極めて有用であることが判明している。今日、酵素は、産業において幅広い用途を持つ。また、酵素反応では要求される条件が穏やかであり、副産物および廃棄物の生成量が少なく一般にクリーンであるため、酵素は、化学試薬に代わる環境にやさしい代替物だと考えられている。酵素は、食品産業、飼料産業、農業、製紙産業、皮革産業、繊維産業において、数多くの新しい用途で使用されており、その結果、コストが大幅に低減し、生産工程が環境にやさしくなっている。
【0003】
酵素は、親(parent)である生物の生理的条件下で最適に機能するように進化してきている。生体外の用途では、酵素は、非生理学的条件下で機能するように求められたり、それまで進化させてきた機能以外の機能を求められたりすることがしばしばある。例えば、酵素は、新たな基質が関与する反応の触媒として作用しなければならなかったり、塩濃度、温度、pHなどが極端な条件下や、潜在的に阻害作用または変成作用を有する化学物質の存在下で作用しなければならなかったりすることがある。このような用途を通じて、工業触媒として機能するうえでの酵素の重大な制約が明らかになった。試験管および反応装置において酵素から最適な能力を引き出すためには、特定の用途に適合するようにこれらの生体触媒を調整する必要がある。
【0004】
これらの酵素が商業的に広く利用されている理由は、使いやすいためである。耐熱性の酵素は、高温で機能することに加えて、一般的に貯蔵寿命が長く、取扱い条件が著しく向上している。化学製品の大規模な製造工程において酵素が重大な役割を果たすためには、それらの工程における厳しい条件に耐えられなければならない。耐熱性の酵素は、取扱いが容易であり、寿命が長く、適切な固定化担体(immobilization support)が与えられれば、何度も利用できるはずである。
【0005】
耐熱性の酵素を得る場合、従来の手法は、極端な環境から集められる一連の微生物をスクリーニングすることである(非特許文献1)。有力候補である酵素については、特定の工程に対する適合性をさらに調査する。例えば、耐熱性あるいは耐塩性の酵素が要求される用途の場合、それぞれ好熱性あるいは好塩性の生物由来の酵素を使用していた。しかしながら、あらゆる用途に対する酵素を自然界から見つけることは不可能であるので、このような探索手法では酵素を使用できる用途が大幅に制限されてしまう。天然の酵素には多くの変異バリエーションがあるとは限らない。さらに、生産物阻害や低い安定性などの酵素の望ましくない特性のため、酵素の使用はしばしば制限されてしまう。また、酵素は、天然酵素に見られないような、いくつかの特性を組合せて有することをしばしば要求される。
【0006】
耐熱性の酵素を得るための別の手法は、中温性生物および好熱性生物由来の相同な酵素のタンパク質構造(結晶構造)に関する現在の知識を踏まえて行う方法である(非特許文献2および非特許文献3)。そのような比較をすることによって、耐熱性を向上させる可能性のある相互作用に関する情報が得られる。そのような情報を使用して、耐熱性を向上させようとそのような変異を中温性の酵素に組み込む努力がなされた。このような手法は、大きな成果は収めていない。なぜなら、タンパク質の耐熱性を向上させる相互作用は数多くあり、各タンパク質は、進化の長い時間の中で、それぞれの配列とそれぞれが機能する環境とに最適な相互作用を獲得しているためである。タンパク質の安定性を決める構造的な要因については、モデルタンパク質によって膨大な研究が行われてきたが、普遍的な安定化のメカニズムはいまだに判明していない(非特許文献4)。文献から引き出すことのできる最も明白な結論は、タンパク質は、多種多様な進化的工夫によって独自に熱的環境に適合してきた、ということである。タンパク質の耐熱性につながる構造的な特徴が判明していない理由の一つは、好冷性、中温性、および好熱性の生物における相同タンパク質を比較する実験的研究が数種類のタンパク質に限られていることによるデータ不足である。さらに、タンパク質の耐熱性を向上させる明確な規則を確立できない理由として、寄与する可能性のある要因が多数存在することと、それらの要因が複雑であることが挙げられる(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6および非特許文献7)。中温性と好熱性との間の比較に基づき、耐熱性の増大に関与する主なメカニズムは、水素結合および塩橋の数の増大、中心部の高い疎水性、良好なパッキング効率、αへリックスおよびループの安定化、ならびに共有結合の破壊(covalent destruction)に対する抵抗、であることがわかった。耐熱性に寄与するタンパク質内の相互作用を、塩やpHなどの他の選択圧と明確に区別することはしばしば困難である。耐熱性を高める目的で考え出された別の方法は、酵素を固定化するとある程度の耐熱性を獲得するという観察に基づいたものであった(非特許文献8)。したがって、タンパク質を固定化するための固体担体がいくつか試された。また、有機溶媒中の酵素に関する最近の観察では、有機溶媒中では酵素が耐熱性を獲得することが示されている(非特許文献9)。組換えDNA技術が出現し、突然変異誘発およびタンパク質の生産を容易に行うことができるようになったことで、タンパク質工学が大幅に促進された。
【0007】
タンパク質の耐熱性という用語は、極端な温度条件下でもポリペプチド鎖の固有の化学的構造および空間的構造が維持されることをいう(非特許文献4)。一般的には、酵素がさらされる温度が高いほど酵素の半減期が短い(すなわち酵素がその活性を維持する時間が短い)。同様に、酵素がさらされる有機溶媒の濃度が高いほど、酵素の半減期は短い。「触媒活性」または単に「活性」という表現は、ある基質に対するkcatの増大またはKの減少を意味し、割合kcat/Kの増大に反映される。タンパク質の耐熱性の構造的な基礎は、少なくとも20年間にわたり活発に研究が行われた領域である(非特許文献10)。しかしながら、生物の体外に持ち出された酵素は、その元の環境において機能するのと同じようには必ずしも機能しない。例えば、酵素は、生物の生理的温度において最適な活性を持ち、高い温度においては変性して活性が低下する傾向にある。耐熱性の酵素は、工業用途において要求される高温および厳しい条件において使用することができるため重要である。また、耐熱性酵素は、一般的に、貯蔵安定性が高く、低温で貯蔵する必要性がないことと、貯蔵時および取扱い時の変性による損失量が減少することにより、コストが低減する。さらに、高温で起こる反応は、一般的には高速で進行し、工程時間がさらに短縮される。
【0008】
環境に対する安全性の視点では、産業界には環境を汚染する工程を減らすように常に圧力がかかっている。皮革、食品、および製薬産業では、化学的工程に代わって酵素が使用されることが増えている。極端な環境を好む生物由来のタンパク質構造の比較によって、これらのタンパク質は、構造的な可塑性が非常に高いことと、その可塑性が一次構造に備わっていることとが示されている。このことは、タンパク質の一次構造を遺伝子レベルで変化させ、耐熱性など特定の特性を持つ変異体をスクリーニングするという方法の有効性を支持している。遺伝子操作技術が飛躍的に進歩したことと、遺伝子を意のままに変えるための手法の確立が進んだことによって、特殊な機能を持つタンパク質を生み出すことができるようになっている。この方法は、分子生物学的手法によって遺伝子配列に変異を生成するステップと、変異体を発現させて突然変異体の集団をスクリーニングすることによって変異体をスクリーニングするステップとを有する(非特許文献11、非特許文献12および非特許文献13)。スクリーニングの手法は、目的とする特性、例えば、高温における活性や有機溶媒の存在下における活性、に基づいて行われる。本発明は、遺伝子配列に変異を導入する方法と、高い耐熱性を持つ酵素をスクリーニングするための手法と、配列決定および遺伝子発現の手法とを含む。
【0009】
リパーゼ(トリアシルグリセロールアシルヒドロラーゼ(triacylglycerol acylhydrolases)E.C.3.1.1.3)は、トリアシルグリセロールにおけるエステル結合の加水分解に触媒として作用する水溶性の酵素であり、しばしばホスホリパーゼ活性、クチナーゼ活性、アミダーゼ活性も示す(非特許文献14)。リパーゼは、洗剤、医薬品、香水、調味料、化粧品のテクスチャーライジング剤(texturizing agent)の製造に使用されている。リパーゼは、幅広い食品の製造、特に牛乳、脂肪、油由来の製品に欠かすことができない。リパーゼは、生理学的重要性および産業上の潜在能力を有する、普遍的な酵素である。リパーゼは、トリアシルグリセロールをグリセロールおよび遊離脂肪酸にする加水分解を触媒する。エステラーゼとは対照的に、リパーゼは、油と水の界面に吸着しているときにのみ作用し、バルク液体(bulk fluid)に溶解している基質は加水分解しない。典型的なリパーゼは、トリオレインやトリパルミチンなどの長鎖脂肪酸とグリセリンとのエステルが乳化されたものを分解する。リパーゼは、セリン加水分解酵素である。商業的に有用なリパーゼは、通常、様々な細胞外リパーゼを生成する微生物から得られる(非特許文献15)。多くのリパーゼは、有機溶媒中でも活性を有しており、有機溶媒中で、エステル化/エステル交換、グリコールおよびメントールの位置選択的アシル化、ペプチドおよびその他の化学物質の合成など、数多くの有用な反応の触媒として作用する。様々な目的に適合する特性を持つリパーゼが次々と開発されており、リパーゼを利用したバイオトランスフォーメーション(biotransformation)や合成を商業化する努力がなされている(非特許文献16)。粉末洗剤で使用する酵素の売上げは、産業用酵素の単一市場として依然として最大である。加水分解リパーゼの主要な商業用途は、洗濯洗剤における使用である。洗剤用酵素は、リパーゼの全売上げのほぼ32%を占めている。洗剤で使用するリパーゼは、耐熱性であり、かつ、典型的な洗濯機による洗濯のアルカリ性の環境においても活性状態を維持できること、が求められる。毎年製造されている約130億トンの洗剤に、推定で1000トンのリパーゼが添加されている。リパーゼは、脂肪を加水分解する能力を有しているので、主に業務用洗濯洗剤および家庭用洗剤における添加物として用いられている。洗剤用リパーゼは、特に、(1)基質の選択性が低い、すなわち、様々な組成の脂肪を加水分解できること、(2)比較的厳しい洗濯時条件(pH10〜11、〜60℃)に耐えられること、(3)多くの洗剤において重要な成分である、悪影響のある界面活性剤および酵素(例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、プロテアーゼ)に耐えられること、という要件を満たすように選択されている。望ましい特性を持つリパーゼは、連続的なスクリーニング(非特許文献17、非特許文献18および非特許文献19)と、タンパク質工学(非特許文献20)を組合せることで得られる。1994年、ノボ・ノボルディスク社は、商業的に初めての遺伝子組換えリパーゼ「リポラーゼ」を発表した。これは、菌類のThermomyces lanuginosusから採られたもので、麹菌(Aspergillus oryzae)で発現させたものである。1995年には、ジェネンコア・インターナショナル社から、2種類の細菌リパーゼとして、シュードモナス・メンドシナ(Pseudomonas mendocina)由来の「ルマファスト」と、シュードモナス・アルカリゲネス(P. alcaligenes)由来の「リポマックス」が発表された(非特許文献15)。報告によると、シュードモナス・アルカリゲネスM−1から生成されるアルカリ性リパーゼは、近年の洗濯機による洗濯条件下で脂肪の汚れを取り除くのに非常に適していた。文献には、洗剤での使用に適しているとされる数多くの微生物リパーゼの例が記載されている(非特許文献21)。
【0010】
リパーゼを生成する微生物としては、細菌、菌類、酵母菌、放線菌が挙げられる。枯草菌のバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)は、グラム陽性かつ好気性の芽胞形成性細菌であり、そのタンパク質分泌システムの効率が高いため商業的な注目を集めた。枯草菌の細胞外脂肪分解活性は、すでに1979年に観察されていたが(特許文献1)、分子レベルの研究は、1992年にリパーゼ遺伝子lipAのクローニングおよびシーケンシングが行われたのが最初である(非特許文献23)。その後、リパーゼの過剰発現、精製、機能解析が行われた(非特許文献24)。その後、核酸レベルではlipAと68%相同である第2の遺伝子lipBが発見された(非特許文献25)。この遺伝子について、クローニング、タンパク質過剰発現、精製、機能解析が行われた。
【0011】
分子量19,348Daの枯草菌リパーゼは、知られているリパーゼのうち最小のリパーゼの1つである。このリパーゼは、油と水の界面の存在下でも界面活性を示さないリパーゼの1つである。LipAは、塩基性pHに極めて高い耐性があり、pH10において最適な活性を示す。LipAは、短鎖脂肪酸および長鎖脂肪酸とのsn−1およびsn−3位のグリセロールエステルを加水分解し、C8脂肪酸鎖に対して最適な活性を示す。
【0012】
細菌リパーゼは、その配列の類似性、保存されている配列モチーフおよび生物学的特性に従って、8つのファミリーに分類される(非特許文献26)。典型的なリパーゼは、6つのサブファミリーを含むファミリーIに分類される。枯草菌リパーゼは、サブファミリー4および5に分類されている。これら2つのサブファミリーにおいては、活性部位であるセリン残基の付近の保存されたG−X−S−X−Gペンタペプチドにおける第1のグリシン残基がアラニンに置き換わっている。サブファミリー4は、わずかに3つのメンバー、すなわち、枯草菌からのLipAおよびLipBと、バチルス・プミリス(Bacillus pumilis)由来のリパーゼで構成され、これらは74〜77%の配列同一性を共有している。これらは、知られているリパーゼのうち最小のリパーゼであり、サブファミリー5に属す、別の大きなバチルス属のリパーゼとの配列類似性は極めて小さい(15%以下)。
【0013】
枯草菌リパーゼであるLipAの結晶構造から、寸法35×36×42の球状タンパク質であることが明らかになった(非特許文献27)。この構造は、αへリックスによって囲まれている平行βシートを構成する6本のβストランドから成るコンパクトなドメインを示している。βシートの片側に2本のαへリックスがあり、反対側に3本のαへリックスがある。枯草菌リパーゼの折りたたみ方は、α/β加水分解酵素の中心部の折りたたみ方と似ている。枯草菌リパーゼには、標準的なα/β加水分解酵素の折りたたみ方の最初の2本のストランドが存在せず、αDが小さな310へリックスに置き換わっている。へリックスαEは、例外的に小さく、螺旋回転はわずかに1周であり、何本かのαへリックスは、310螺旋回転で開始または終了している。枯草菌リパーゼは、これらの構造的な特徴と、サイズが小さいこと、および蓋ドメイン(lid domain)が存在しないことから、最小のα/βフォールディング加水分解酵素と考えられている。
【特許文献1】Bycroft, A. L. and Byng, G. S. (1992) European patent application 0468102A1
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【非特許文献32】Hoch, J. A. , Sonenshein, A. L. and Losick, R. (1993) Bacillus subtislis and other gram positive bacteria, ASM.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の主たる目的は、耐熱性、耐有機溶媒性、かつ耐pH性を有する新規のリパーゼ遺伝子変異体に関する。
【0015】
本発明の別の目的は、耐熱性であり、耐有機溶媒性、かつ耐pH性を有する新規のリパーゼ遺伝子変異体を有する発現系に関する。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、耐熱性、耐有機溶媒性、かつ耐pH性を有する新規のリパーゼ遺伝子変異体を有する発現系を組む方法に関する。
【0017】
本発明のさらなる目的は、10〜11の範囲の高いpHに耐える内在的能力、ならびに、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のグループ、プロテアーゼ、およびそれらの化合物を含む悪影響のある界面活性剤および酵素に耐える能力、を遺伝子が有する、遺伝子変異体に関する。
【0018】
本発明の別の目的は、家庭用洗剤および洗濯業界における染み抜き剤として有用である遺伝子変異体に関する。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、極めて高い比活性を有する遺伝子変異体に関する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、部位特異的突然変異誘発(site directed mutagenesis)を通じて開発されたリパーゼ酵素の新規の遺伝子変異体に関する。これらの遺伝子変異体は、耐熱性が高く、強い有機溶媒に対する耐性があり、高いpHに耐えることができる。開発された遺伝子変異体の耐熱性は、50〜90℃の温度範囲において200倍もの高さであった。開発された遺伝子変異体は、その高い耐熱性および比活性、ならびに耐高pH性によって、家庭用洗剤および洗濯業界における用途がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明においては、高い耐熱性特性を持つ、元の配列のタンパク質変異体を分離するために、定方向進化の方法をリパーゼ遺伝子(配列番号1)に適用した。この方法では、最初に、元の遺伝子配列にランダム変異を生成して、細菌、すなわち大腸菌に、対応するタンパク質を発現させる。元の配列から生成された変異体は、配列が変化しており、したがって特性が変化している。変異体は、タンパク質レベルにおいて耐熱性についてテストし、高い耐熱性を示す配列に対して、次の段階のランダム突然変異誘発およびスクリーニングを行う。このように、突然変異体を順次蓄積し、突然変異をプールすることによって、リパーゼの耐熱性が高温において200倍改善された。この場合、高温範囲には50〜90℃の温度範囲が含まれる。
【0022】
本発明による方法は、耐熱性のリパーゼを得るために、変異体リパーゼを生成して変異体リパーゼを機能解析する4つのステップを有する。この方法の最初のステップにおいては、変異PCR(error prone PCR)法によって、リパーゼ遺伝子の一次配列に変異を生成した。用いた手法は、公開されているいくつかの手法に類似している。さらに、ランダムプライミング(random priming)法やITCHYなど数多くの別の手法を、遺伝子配列への変異の生成に適用することもできる(非特許文献28および非特許文献29)。本発明の第2のステップにおいては、変異体配列を、発現ベクターにクローニングし、培養ライセートにタンパク質を発現させた。発現させたタンパク質を、高い温度に耐える能力についてスクリーニングし、ミディアムスループット法(medium-throughput methods)で大きな集団においてテストした。本発明の第3のステップにおいては、有望な変異体を、Stemmerの方法に従ってファミリーシャッフリング法によってプールし、耐熱性についてさらにテストした(非特許文献12)。シャッフリング法に加えて、標準的な分子生物学的手法によって、一次配列に選択的な変異も組み込んだ。本発明の第4のステップにおいては、有望候補の配列を大規模な培養で過剰発現させ、Dartoisらによる公開された手法によってタンパク質を精製した(非特許文献23)。精製したタンパク質を、耐熱性についてテストした。
【0023】
高い耐熱性を目的とするリパーゼ変異体のスクリーニング法では、p−ニトロフェニル基に基づく色原性基質エステル(chromogenicsubstrate esters)を加水分解する能力を利用する。リパーゼの天然の基質はトリグリセリドであり、このことは、細胞ライセート中に酵素源を過剰発現させる単純なミディアムスループット分析(非特許文献30)を設計するには都合がよくない。脂肪酸のp−ニトロフェニルエステルは都合がよく、リパーゼの活性は、トリグリセリドに対するリパーゼの活性を表す。p−ニトロフェニルの長鎖エステル、特にオレイン酸p−ニトロフェニル(p-nitrophenyl oleate)は、この目的に非常に適している。洗剤に溶けるようにしたPNPOでは、バックグラウンドの加水分解を無視できることと、細胞ライセート中に存在するリパーゼに非常に適していることが示された。加水分解産物であるp−ニトロフェニルの、吸光係数が非常に高い濃い黄色は、96ウェルプレートにおいて都合よく計測することができる。この目的には、p−ニトロフェニルエステル以外に、多数の別の脂肪酸の蛍光性エステル(fluorogenic ester)または色原性エステル(chromogenicester)を使用することができる。
【0024】
本明細書において使用している耐熱性という用語は、高温にさらした後にその活性を維持する酵素の特性をいう。酵素は、高温にさらされると、構造要素の運動が増すことによってタンパク質の機能構造が乱されるため、その三次構造を失う。一般的には、タンパク質は、高温においては時間とともにその活性を失う。この活性の消失の割合は、半減期、すなわち初期活性の半分を失うまでに要する時間に反映され、この半減期は、タンパク質の耐熱性を比較するのに都合のよいパラメータである(非特許文献4)。本明細書において定義される活性は、kcat/Kによって表される触媒活性に相当し、kcatは、生成物が生じる割合であり、Kは、酵素への基質の見かけ上の親和定数である。高温において機能構造を維持するためには、高温に耐える相互作用をタンパク質内に形成する能力が必要である。本発明に関与する温度の範囲は、35〜90℃である。
【0025】
枯草菌リパーゼから自然に生じるリパーゼは、配列番号1に示した1〜181のアミノ酸配列を持つ。リパーゼの耐熱性にとっては、位置68、71、114、120、132、144、147、および166におけるアミノ酸の置換が重要であることが判明した。本発明の研究によると、位置114、132、および166における置換は、タンパク質の安定性を高める目的に適していることがさらに判明した。これらの位置のそれぞれにおいて行いうる他の19種類のアミノ酸への置換の無数の組合せは、そのいずれも耐熱性にとって好ましいものとなるかもしれない。
【0026】
リパーゼにおける耐熱性に関与する置換を以下に示す。

置換前 置換後 位置
N V 166
A D 132
A V 68
L P 114
R S 147
V A 144
N D 120

したがって、本発明の主たる実施形態は、耐熱性、耐有機溶媒性、かつ耐高pH性を有し、かつ、分子量19443の配列番号2と、分子量19515の配列番号3と、分子量19456.9の配列番号4と、分子量19487の配列番号5と、分子量19470.9の配列番号6とを有する、新規のリパーゼ遺伝子変異体に関する。
【0027】
本発明の別の実施形態は、耐熱性、耐有機溶媒性、かつ耐高pH性を有する新規のリパーゼ遺伝子変異体の発現系であって、ベクターpJO290中に存在する分子量19443の配列番号2と、分子量19515の配列番号3と、分子量19456.9の配列番号4と、分子量19487の配列番号5と、分子量19470.9の配列番号6とを有するリパーゼ遺伝子変異体を有する、発現系に関する。
【0028】
本発明のさらに別の実施形態は、耐熱性、耐有機溶媒性、耐高pH性を有し、かつ、分子量19443の配列番号2と、分子量19515の配列番号3と、分子量19456.9の配列番号4と、分子量19487の配列番号5と、分子量19470.9の配列番号6とを有する、新規のリパーゼ遺伝子変異体、の発現系を組む方法であって、以下のステップ、すなわち、
(a)枯草菌からリパーゼ遺伝子を分離および精製するステップと、
(b)ステップ(a)において分離したリパーゼ遺伝子をベクターpJO290にクローニングするステップと、
(c)ステップ(a)において分離したリパーゼ遺伝子から、配列番号13を有するフォワードプライマーJOFと、配列番号14を有するリバースプライマーJORとを使用して、ランダム突然変異誘発および部位特異的突然変異誘発によって遺伝子変異体を生成するステップと、
(d)ステップ(c)において得た遺伝子変異体をプラスミドベクターpJO290にクローニングするステップと、
(e)ステップ(d)においてクローニングした遺伝子変異体を大腸菌JM109においてライゲーションを行うステップと、
を有する方法に関する。
【0029】
本発明の別の実施形態は、約45〜95℃の温度範囲において耐熱性である遺伝子変異体に関する。
【0030】
本発明のさらなる実施形態は、約55〜90℃の範囲の温度において高い耐熱性である遺伝子変異体に関する。
【0031】
本発明のさらに別の実施形態は、6〜685の範囲内である、新規の遺伝子変異体のT1/2値に関する。
【0032】
本発明のさらに別の実施形態は、7〜677の範囲内である、新規の遺伝子変異体のT1/2値に関する。
【0033】
本発明の別の実施形態は、0.50〜2.5mMの範囲内である、遺伝子変異体のK値に関する。
【0034】
本発明のさらに別の実施形態は、0.63〜1.96mMの範囲内である、新規の遺伝子変異体のK値に関する。
【0035】
本発明のさらなる実施形態は、4.5×10−2〜8.5×10−2min−1の範囲内である、新規の遺伝子変異体のkcat値に関する。
【0036】
本発明のさらに別の実施形態は、5×10−2〜8.1×10−2min−1の範囲内である、新規の遺伝子変異体のkcat値に関する。
【0037】
本発明のさらに別の実施形態は、4×10−2〜10×10−2min−1の範囲内である、新規の遺伝子変異体のkcat/K値に関する。
【0038】
本発明の別の実施形態は、4.1×10−2〜9.7×10−2min−1の範囲内である、新規の遺伝子変異体のkcat/K値に関する。
【0039】
本発明のさらなる実施形態は、有機溶媒における新規の遺伝子の耐性であって、有機溶媒が、アセトニトリル、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、およびジメチルホルムアミドから成る群から選択される、新規の遺伝子の耐性に関する。
【0040】
本発明のさらに別の実施形態は、使用される有機溶媒がアセトニトリルである、使用される有機溶媒に関する。
【0041】
本発明のさらなる実施形態は、遺伝子変異体が、アセトニトリルの存在下で25〜100%の範囲の残留活性を有する、遺伝子変異体の残留活性に関する。
【0042】
本発明の別の実施形態は、遺伝子変異体が、アセトニトリルの存在下で28.7〜85.5%の範囲の残留活性を有する、遺伝子変異体の残留活性に関する。
【0043】
本発明のさらに別の実施形態は、9〜13の範囲の高いpHに耐える内在的能力、ならびに、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のグループ、プロテアーゼ、およびそれらの化合物を含む悪影響のある界面活性剤および酵素に耐える能力、を有する遺伝子変異体に関する。
【0044】
本発明のさらなる実施形態は、10〜11の範囲の高いpHに耐える内在的能力、ならびに、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のグループ、プロテアーゼ、およびそれらの化合物を含む悪影響のある界面活性剤および酵素に耐える能力、を有する遺伝子変異体に関する。
【0045】
以下の実施例は、本発明の説明を目的として示したものであり、したがって、本発明の範囲を制限するようには解釈されないものとする。
【実施例1】
【0046】
枯草菌バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)由来のリパーゼの精製:
適切なベクター中のリパーゼを発現している大腸菌細胞から、リパーゼを精製した。精製では、基本的に、フェニルセファロース(phenyl-sepharose)カラムに細胞ライセートを通過させた後、Mono−Sカラムに通過させる。リパーゼは、凝集しやすいタンパク質であり、タンパク質の凝集を避けるためタンパク質濃度を5mg/mL以下に維持することに特に注意した。リパーゼの精製は、小さな変更はあるが基本的に以前に記載されているように実行した(非特許文献31)。バチルス株(Bacillus strain)の培養濾液由来のリパーゼ、または大腸菌ライセート由来のリパーゼは、同じように処理した。野生型タンパク質および大腸菌からの変異タンパク質を精製する目的で、lipA遺伝子または突然変異遺伝子をpET21bにクローニングした。このためには、完全長の成熟タンパク質に対応する遺伝子を、プライマーPrNdeI(フォワードプライマー)(5’−CCATGATTACGCATATGGCTGAACACAA−3’)およびJOFによって増幅した。フォワードプライマーは、組換えNdeI部位(engineered NdeI site)を有している。さらに、このフォワードプライマーによって、リパーゼ遺伝子の先頭に、NdeI認識配列の一部であるATG配列の形で開始コドンが導入された。このことによって、枯草菌の培養上清から精製したタンパク質で見られるN末端のアラニンのすぐ前に、大腸菌に発現した成熟タンパク質ではメチオニンが導入された。野生型タンパク質と突然変異体とを増幅し、NdeIおよびBamHIで消化し、NdeIおよびBamHIで消化したpET−21bとライゲーションした。ライゲーションミックス(ligationmix)を大腸菌DH5αにトランスフォームし、プラスミドミニプレップ(plasmid miniprep)および制限消化によって導入されたクローンを選択した(図1および図2)。
【0047】
タンパク質は、大腸菌BL21(DE3)細胞から精製した。0.5mMのIPTGによる発現誘導の前に、適切なプラスミドを含む細胞をミッドログ段階(mid-log phase)まで成長させた。発現誘導から2.5時間後に、4℃、15,000rpmで20分間遠心分離し、細胞を回収した。ペレットをSTEで洗浄し、0.3mg/mLリゾチームを含む1×TEに再懸濁した。懸濁液を氷上で30分間インキュベートした後、超音波処理によって細胞を溶解させた。超音波処理は、細胞を氷上に維持しながら行った。持続時間30秒の短いパルスを与え、パルスの間には1分間の冷却時間を入れた。超音波処理した細胞を、4℃、20,000rpmで遠心分離した。上清をフェニルセファロースカラムに充填した。残りのステップは、第2章で記載されているように行った。精製したタンパク質は、使用するまで−70℃で保管した。
【0048】
それぞれ500mLの培養液が入っている2LのErlemneyerフラスコ中で、枯草菌BCL1051を、37℃にて16〜18時間、好気的に成長させた。培養液の組成は、以下のとおりである:2.4%酵母エキス、1.2%トリプトン、0.4%アラビアゴム、0.4%グリセロール、0.017MKHPO、0.072MKHPO、および50mg/mLの硫酸カナマイシン。10mLの前培養液から1%になるように培養液に植菌した。6000rpmで30分間遠心分離して細胞を回収した後、100mMのリン酸カリウム(pH8.0)によって平衡化されているPhenyl Sepharose Fast Flow High sub column(ファルマシア(Pharmacia))に、培養上清を流速30mL/時で送り込んだ(11の培養液あたりカラム容積20mL)。カラムを、最初に、10mMのリン酸カリウム(pH8.0)によって、次いで、10mMのリン酸カリウム(pH8.0)中で30%濃度のエチレングリコールによって、流速50mL/時にて洗浄した。10mMリン酸カリウム(pH8.0)中で80%濃度のエチレングリコールで流速50mL/時にて溶出した。2mLずつ画分を集め、タンパク質が含まれている画分(280nmにおける吸光度によって検出)の酵素活性を調べた。活性のある画分をプールし、2mMのグリシン−水酸化ナトリウム溶液(pH10.0)に対して透析した。透析したタンパク質を、50mMのビシン−水酸化ナトリウム溶液(pH8.5)(緩衝液A)で1:1に希釈し、FPLC(ファルマシア)システム用のスーパーループ(ファルマシア)を使用し、緩衝液Aによって事前に平衡化されているMonoSHR5/5(ファルマシア)カラムに充填した。タンパク質が結合したカラムを緩衝液Aによって完全に洗浄し、結合していないタンパク質を除去した。緩衝液Aから緩衝液B(50mMビシン−水酸化ナトリウム溶液(pH8.5)、1MのNaCl)までの直線濃度勾配を使用して、タンパク質を溶出させた。酵素は、単一ピークとして約300mMNaClの辺りで溶出した。MonoSカラムから溶出させた活性画分を、2mMグリシン(pH10.0)に対して一晩透析し、薄膜YM10(10kDカットオフ)を取り付けたアミコン社製の濃縮器を使用して濃縮した。5M尿素を含む12%SDS−PAGEゲルを用いてタンパク質の純度を調べた(非特許文献24)。クマシー染色ゲルにおいてタンパク質の純度は95%以上であった(図4参照)。
【実施例2】
【0049】
リパーゼの分析:
リパーゼは、界面活性酵素(interfacially active enzyme)として知られている種類の酵素に属している。これらの酵素は、基質モノマーに対する活性は非常にわずかであるが、乳化状態のトリグリセリドや単分子膜などの不溶性基質に対しては、活性が劇的に増加する。この特性は、可溶性基質モノマーに対して作用する他の酵素と、リパーゼとが異なる点である。リパーゼの天然基質であるトリグリセリドは、単純な色原性分析を行う目的には好都合ではない。純粋なリパーゼの活性は、場合によっては、pHに感応する色素を使用してpHの変化を検出することによってモニターすることができる。しかしながら、そのような分析では、酵素源がライセートであり、pHを変化させうる別のプロセスが存在するときには、結果が複雑なものとなる。活性をモニターする目的には、p−ニトロフェニルエステルが最も都合がよい。短鎖エステルである酢酸p−ニトロフェニル(p-nitrophenyl acetate)と、長鎖エステルであるオレイン酸p−ニトロフェニル(PNPO)とを、一般的な合成方法(後述する)によって合成した。本分析においては、TritonX−100を可溶化剤として用いて、不溶性エステルであるPNPOを使用した。TritonX−100およびPNPOの共ミセル(co-micelle)は、バックグラウンドの加水分解量は少なく、また、高温においても安定であった。リパーゼの変異体をスクリーニングするための96ウェルプレート分析は、多数のサンプルをスクリーニングする目的に非常に有用であるが、活性の定量化はおおよそのものとなる。96ウェルスクリーニングにおいて得られた有望候補すべてを、チューブ分析(tube assay)において確認した。チューブ分析では、サンプル数は少ないが、比活性をより正確に計算することができる。
【0050】
リパーゼ分析用の色原性基質の合成:
リパーゼ分析用に、以下の色原性基質を合成した。
1)オレイン酸p−ニトロフェニル
2)ステアリン酸p−ニトロフェニル(p-nitrophenylstearate)
3)カプリル酸p−ニトロフェニル(p-nitrophenylcaprylate)
脂肪酸、N,N’−メチルテトライルビスシクロヘキサミン(N,N'-methyltetrayl biscyclohexamine:ジシクロヘキシルカルボジイミド、DCC)、N,N’−ジメチルアミノピリジン(N,N'-dimethylamino pyridine:DMAP)、およびp−ニトロフェニルのモル比は、1:1:1:2であった。脂肪酸を、20mLの無水DCMと数mLのクロロホルムとが入った丸底フラスコに入れた。混合物を2分間攪拌した後、DCCを加えた。白い沈殿物が形成された。この後、DMAPを加えた。その後、p−ニトロフェニルを加えると、黄色の沈殿物が形成された。反応容器を窒素で満たし、5時間攪拌した。反応の進行を、薄膜クロマトグラフィーでモニターした。反応の完了後、無水状態までDCMを蒸発させ、カラムクロマトグラフィによってエステルを精製した(シリカゲルカラム、石油エーテル−アセトンによる溶出)。生成物の純度および特性を、H−NMR分光法によって確認した。
【実施例3】
【0051】
96ウェルマイクロタイタープレートにおけるリパーゼ分析:
変異PCRによって生成したPCR産物をクローニングしたものから得られたコロニーを、別の同様のプレートに植え継ぎ(patched on)、25μg/mLのクロラムフェニコールおよび0.2%グルコースを含む200μLの2XYTを含むマイクロタイタープレートの個別のウェル中で同時に植菌した。200rpmで継続的に振動させながら、マイクロタイタープレート中で24時間にわたり細胞を成長させた。24時間後、各ウェルからの5μLの培養液をとり、25μg/mLのクロラムフェニコールを含有する200μLの2XYTを入れた別のマイクロタイタープレートの対応するウェルに加えた。3時間成長させた後、培養物を1mMのIPTGで発現誘導した。さらに3時間後、各ウェルからの25μLの培養液をとり、25μLのリン酸緩衝液(pH7.0)を入れた2枚の新たなマイクロタイタープレートの対応するウェルに入れた。プレートのうちの1枚を、高温に20分間さらし、氷上で15分間冷やした後、室温にした。他方のプレートは、室温で保持した。上述したように調合した25μLのPNPO−TritonX−100基質溶液を、各ウェルに加えた。プレートを37℃でインキュベートし、ELISAリーダーで405nmにおける吸光度を所定の時間間隔で記録した。野生型タンパク質(または生成元の親)の活性の20%未満を示すクローンは、以降の検討から除外した。高温にさらした後の各クローンの残留活性を計算した。最高の残留活性を示したクローンを、次の段階のスクリーニング用として選択した。
【0052】
チューブにおけるリパーゼ分析:
マイクロタイタープレートレベルのスクリーニングにおいて最高の残留活性を示したコロニーを、25μg/mLのクロラムフェニコールおよび0.2%グルコースを含む5mLの2XYT培養液中で、12時間成長させた。この一晩成長させた培養液のうちの100μLを25μg/mLのクロラムフェニコールおよび0.2%グルコースを含む10mLの2XYTに植菌した。2.5時間成長させた後、1.5mMのIPTGによって培養している細菌の遺伝子発現を誘導し、さらに2.5時間後に回収した。細胞ペレットをSTEによって洗浄し、1mLの0.05Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.2)中で再懸濁した。ブランソン社製の超音波処理機で、細胞の懸濁液に対し、間にそれぞれ1分間の冷却時間を含む30秒の4回のパルスを与え、超音波処理を行った。サンプルの超音波処理および冷却中は、チューブを氷上に維持した。超音波処理したサンプルを、15,000rpmで45分間遠心分離し、得られた上清を分析に使用した。上清を250μLの4つのアリコート(試料)に分けた。3つのアリコートを高温にさらし、4番目のアリコートを氷上に保持した。チューブを高温に20分間さらし、氷上で冷却し、4℃、15,000rpmで遠心分離した。室温になるまで放置した後、酵素活性を分析した。p−ニトロフェニルを基質として使用し、細胞ライセート内のリパーゼの活性をリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)中で室温にて求めた。酵素の活性は、時間の経過に伴う405nmにおける吸光度の変化を追跡することによって測定した。リパーゼ遺伝子が含まれていない以外は上述したものと同じように処理した細胞ライセートを使用して、大腸菌細胞ライセート中のオレイン酸p−ニトロフェニルのバックグラウンドの加水分解量を求めた。酵素の活性値からバックグラウンドの加水分解量の値を減じた。Lowry法によって細胞ライセート内の総タンパク質量を求め、それを使用して活性を標準化した。
【実施例4】
【0053】
熱失活の半減期:
酵素を高温にさらした後、室温にて活性を分析することにより、通常は、酵素の耐熱性が分析される。高温では、タンパク質は変性し、不可逆的に折りたたみ構造が壊れる。耐熱性の酵素は、熱変性を起こりにくくするさらなる安定化相互作用を持つ。残っている活性を残留活性といい、残留活性は、温度の上昇にともなって減少し、また、特定の温度においては時間の経過にともなって減少する。プログラマブルなサーマルサイクラー(GeneAmp PCR system 9700)を用いて、サンプルの温度を正確に制御することができるように0.2mlの薄壁PCRチューブの中で、精製したタンパク質の熱処理を行った。0.05Mのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に0.05mg/mLの濃度になるようにタンパク質を用意した。各チューブに、25μLのタンパク質サンプルを入れた。タンパク質を必要な時間だけ加熱し、4℃で20分間冷却し、遠心分離し、室温にした後、酵素活性を分析した。加熱処理した20μLのタンパク質サンプルを、2mMの酢酸p−ニトロフェニルを含む1mLの0.05Mリン酸ナトリウム(pH7.2)に加えた。405nmにおける吸光度の増大の割合をモニターし、酵素の活性を25℃で測定した。一般的には、不活性化は、活性の80%以上が失われてしまうまで続く。時間に対する対数(残留活性)のプロットは線形であった。不活性化の速度定数(kinact)を傾きから取得し、半減期をt1/2=log2/kinactとして計算した。得られた様々な突然変異体の半減期は図面(図6および図7)に示してあり、この場合、PNPAを基質として使用して残留活性を求めた。酵素の突然変異体は、55℃にさらした。図8は、基質としてオリーブオイルを使用した場合の、3つの突然変異体の残留活性に関して得られたデータを示している。活性は、pHスタット機器を使用して測定した。このデータは、突然変異体に見られる耐熱性の向上が基質および分析の特性には依存しないことを示している。
【0054】
基質のストックの調整:
適切な量の不溶性のp−ニトロフェニルエステルとTritonX−100の重量をガラスバイアル中で計り、エステルがTritonX−100に完全に溶解するまで磁気攪拌子によって混合した。攪拌しながら緩衝液をゆっくり加えて、0.4mMのp−ニトロフェニルエステルと40mMのTritonX−100を含む2×ストック溶液を調合した。このようにして調合した基質溶液は、見た目は透明であった。水溶性の酢酸p−ニトロフェニルの100×基質原液をアセトン中で調整し、各反応には2mMの酢酸p−ニトロフェニルを使用した。TritonX−100が存在していない状態で反応を行い、動態パラメータを求めるための測定のすべては、この反応系によって行った。
【実施例5】
【0055】
オリーブオイルを用いての分析(リパーゼによる脂肪/洗剤の分解の概略:図5):
オリーブオイルを用いての分析は、pHスタット機器によって行った。リパーゼが作用すると、プロトンが放出されるために反応溶媒のpHが下がる。pHの低下は、既知の量のアルカリを加えることによって中和することができる。アルカリを加える割合は、リパーゼの活性を表す。リパーゼの基質は、アラビアゴム(0.5%)、オリーブオイル、およびCaClを混合することによって調整した。均一なエマルジョンが得られるまで、混合物に対して浴槽中で超音波処理を行った。各分析には10mLの基質を使用した。分析の開始時、アルカリを加えることによって基質のpHを8.4にした。1mg/mLの酵素溶液を10mL加えることによって反応を開始させた。反応速度は、時間に対するアルカリ量の曲線の傾きから計算した。アルカリとして1Nの水酸化ナトリウム溶液を使用した。
【実施例6】
【0056】
リパーゼ遺伝子における変異の生成方法:
枯草菌由来のLipAの配列(その生成物が本発明における対象のリパーゼ遺伝子である)は、公開されている。枯草菌では、LipAが細胞の外に放出されることを助けるシグナル配列が配列のN末端に存在するため、LipA遺伝子産物は培養液に分泌される。バチルス属の分子生物学は研究が進んでおり、それらはグラム陽性株である。形質転換、クローニング、遺伝子発現など分子生物学上の一般的な手法について、バチルス属での研究は、大腸菌と比較すると遅れている(非特許文献31、非特許文献32)。最も難しいのは、バチルス属の菌をプラスミドによって形質転換することである。効率は、大腸菌と比較すると桁違いに低い。さらに、観察される効率は、電気穿孔法によって検出できるのみであり、この方法は比較的厳しい(harsher)方法である。大腸菌では、形質転換効率が高く、再現性があり、そしてプラスミドの選択肢は広い。様々な遺伝子操作を行う目的で、大腸菌を使用した。
【0057】
pBR322プラスミド中に完全なlipA遺伝子を有するクローンpLipAは、Frens Pierce博士から譲り受けた(図1)。リパーゼ遺伝子と、シグナル配列をコードする領域を、プライマーFor1(フォワードプライマー)(5’−GGAGGATCATATGAAATTTGTAAAAA−3’)およびRev1(リバースプライマー)(5’−CCCGGGATCCATTGTCCGTTACC−3’)によって増幅した。これらのプライマーは、それぞれ、遺伝子処理を施したNdeI部位、BamHI部位を含んでいる。For1におけるNdeI部位のATGは、リパーゼの天然の開始コドンに一致しており、BamHI部位は、天然の終止コドンを超えていた。増幅した生成物をNdeIおよびBamHIで消化し、プラスミドpET−21bのNdeI−BamHI部位にクローニングし、プラスミドpET−lipwtを生成した(図2)。プライマーPREcoRI(フォワードプライマー)(5’−CGTCAGCGAATTCCGCTGAACACAT−3’)およびPRBamHI(リバースプライマー)(5’−GCGGGAAGGATCCGAATTCGAGCT−3’)を使用することによって、成熟タンパク質をコードするリパーゼ遺伝子をpET−lipwtから増幅した。これらのプライマーは、それぞれ、遺伝子処理を施したEcoRI部位、BamHI部位を有する。増幅した生成物を、EcoRIおよびBamHIによって切断し、プラスミドpJO290のEcoRI−BamHl部位にクローニングした。この構造(pJ0290lip)を使用して、耐熱性の突然変異体をスクリーニングした(図3)。特に記載しない限り、すべてのスクリーニングステップにおいて大腸菌株JM109を使用し、すべての培養液は0.2%のグルコースを含んでいた。この系を選択した理由は、大腸菌における遺伝子生成物を、少量かつ制御下で誘導的に発現させることが可能であるためである。このことは、報告されているような大腸菌へのタンパク質の毒性を防止するため、および、タンパク質が疎水性が高く生体内で不溶性で凝集しやすいために分析結果の解釈が難しくなることを防止するため、に必要である。
【0058】
ランダム変異導入法:
本発明における重要なステップは、遺伝子に変異を導入する能力にある。生成される変異は、機能的に有効な変異体を得るのに「十分である」必要がある。酵素は、数百万年の時間を経て進化してきたものであり、この過程の中で、有害な突然変異を試してそれを回避したり、有益な突然変異を試して組み込んだりしてきた。また、遺伝子の突然変異のほとんどは、サイレント、すなわち、突然変異によってアミノ酸配列が変化しない変異と考えられている。ランダム変異導入法においては、遺伝子配列中の変異として、非サイレントな突然変異につながる変異、および、遺伝子産物が機能しなかったり形成できなかったりする過度な変異を得ることが重要である。変異PCRに基づく変異導入法は、リパーゼの活性について十分な変異を得られるように最適化する必要がある。定方向進化法が有効なものとなるかどうかは、この変数を制御することに強く依存する。本発明の実施例において使用する手法は、公開されている手法を修正したものである。
【0059】
変異PCRによってリパーゼ遺伝子に突然変異を起こしたことは報告されている(CadwellおよびJoyce(1992年))。プライマーJOF(5’−CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC−3’)およびJOR(5’−TGACACAGGAAACAGCTATGAC−3’)は、プラスミド上に存在するEcoRI部位およびBamHI部位を超えて遺伝子の両サイドに結合(flank)する。20フェムトモルのプラスミドpJO290−lip、それぞれ50pmolのプライマーJOFおよびJOR、100mMTris−Cl(25℃でpH8.3)、500mMKCl、0.1%ゼラチン(w/v)、7mMMgCl、0.25mMMnCl、それぞれ1mMのdTTPおよびdCTP、それぞれ0.2mMのdATPおよびdCTP、5ユニットのTaqDNAポリメラーゼを含む100μLの反応体積(reaction volume)において、変異PCRを行った。94℃で3分間の最初の変性後、94℃を1分間、45℃を1分間、72℃を1分間、というステップを、サーマルサイクラーで30サイクル繰り返した。増幅した生成物をエタノールで沈殿させ、1%のアガロースゲルから溶出し、EcoRIおよびBamHIで消化した。消化した生成物を、再度1%のアガロースゲルから溶出し、EcoRIおよびBamHIによって消化したpJO290によってライゲーションした。ライゲーションミックスを大腸菌JM109にトランスフォームし、25μg/mLのクロラムフェニコールと0.2%のグルコースを添加したLB寒天培地において選択した。
【0060】
部位特異的突然変異誘発:
改良したPCR法によって、pET−21bにクローニングしたリパーゼ遺伝子に対して部位特異的突然変異誘発を行った(ChenおよびArnold(1991年))。それぞれの置換について、所望の突然変異を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用し(ミスマッチプライマー)、5’PCRプライマーと3’PCRプライマーとの間で鎖の伸長を開始させた。最初のPCRにおいては、ミスマッチプライマーと3’プライマーとを使用して、新しい塩基置換を含むDNA断片を生成した。この断片を、アガロースゲル電気泳動法によってテンプレートおよびプライマーから分離して精製し、それを、第2のPCRにおいて5’プライマーと一緒に新しい3’プライマーとして使用し、完全長の生成物を生成した。変異タンパク質を発現させる目的で、この生成物をpET−21bにクローニングした。
【実施例7】
【0061】
生成2で得られたクローンの組換え
リパーゼ遺伝子の位置910における固有の制限部位HaeIIを使用することによって、クローン2−8G10および野生型から突然変異遺伝子配列5を作成した。T7プロモータープライマーおよびT7ターミネータープライマーを使用して、2種類のタンパク質をコードする遺伝子をPCRによって増幅した。PCR産物をゲル抽出法によって精製し、HaeIIおよびNdeIで消化した。上のバンドと下のバンドは、それぞれ、タンパク質のC末端ドメインとN末端ドメインに対応する。クローン2−8G10由来の上のバンドと野生型タンパク質からの下のバンドとを溶出させた。分子量の大きい断片を、BamHIによって消化して精製した。NdeI−HaeII断片(野生型由来)と、HaeII−BamHI断片(2−8G10由来)と、NdeIおよびHaeIIによって切断されたpET−21bを含む3点でライゲーションを行った。ライゲーションミックスをDH5αにトランスフォームし、形質転換したものを選択した。DNAシーケンシングによって遺伝子の配列を確認した。
【0062】
突然変異遺伝子配列番号6(3つの突然変異)は、アミノ酸配列におけるL114Pの変化につながるコドンの変化CTT→CCTを組み込むための変異誘発プライマーPROLF(5’−GGCAAGGCGCCTCCGGGAACAGAT−3’)を使用して、遺伝子配列番号5のテンプレートに対する部位特異的突然変異誘発によって作成した。すべての遺伝子の配列を、自動化されたDNA配列決定法によって確認した。
【実施例8】
【0063】
酵素の動態:
すべての動態測定は、水溶性の基質酢酸p−ニトロフェニルを用いて、サーモスタット式の分光光度計を使用して行った。様々な濃度における酢酸p−ニトロフェニルの25℃における加水分解の初期速度を、リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)中で求めた。Kおよびkcatの値を、対応するラインウィーバー・バーク・プロットから導いた。野生型および突然変異体によって得られた動態パラメータを図9に示す。
【実施例9】
【0064】
有機溶媒の存在下におけるリパーゼおよびその突然変異体の活性:
様々な溶媒の存在下におけるリパーゼおよびその突然変異体の活性を調べた。テストした有機溶媒は、アセトニトリル、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、およびジメチルホルムアミドであった。活性の分析は、基質としてPNPAを使用して行った。緩衝溶液(50mM、pH8.0)中に様々な割合(v/v)で有機溶媒を含む溶液に基質(2mM)を溶解させ、濃度0.246mg/mLになるようにリパーゼを加えることによって反応を開始させた。410nmにおける吸光度の増大として活性をモニターし、曲線の最初の傾きを使用して比活性を計算した。図10および図11は、アセトニトリルを用いた場合に得られたデータを示している。
【0065】
ここまで示した実施例は、有機溶媒中での高温における安定性および/またはエステル加水分解活性が天然酵素と比較して向上したリパーゼを生成、同定、および分離することにおける、本発明の有効性を実証している。
【実施例10】
【0066】
様々な洗剤の存在下におけるリパーゼまたは対照リパーゼの活性(図12)
ここまで、本発明の典型的な実施形態を説明してきたが、本明細書の開示内容は典型的なものに過ぎず、当業者は本発明の範囲内で様々な変更、適合化、および修正を行うことができることに留意されたい。したがって、本発明は、本明細書に説明した特定の実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】lipA遺伝子pBR322を示す図。リパーゼ遺伝子配列全体と、シグナル配列と、プロモーターと、リボゾーム結合配列を有するlipA遺伝子を示している。
【図2】シグナル配列を有するlipAのpET21bへのサブクローニングを示す図。For1プライマーおよびRev1プライマーを使用してlipA遺伝子およびシグナル配列を増幅した後、pET21bに挿入し、pEt−lipwtを得た。For1プライマーおよびRev1プライマーは、NdeI部位およびBamHI部位がlipA遺伝子に導入されるように設計した。
【図3】シグナル配列を持たないlipAのpJO290へのサブクローニングを示す図。増幅された生成物にEcoRI部位およびBamHI部位が導入されるように専用に設計したPrEcoRIプライマーおよびPRBamHIプライマーを使用して、pET−lipwtに存在するlipA遺伝子を増幅した。増幅した生成物をEcoRIおよびBamHIを使用して切断した後、同様に切断したpJO290ベクターに挿入した。
【図4】精製したタンパク質のSDS−PAGEプロファイルを示す写真。すべてのリパーゼは、実施例に示した手順によって精製した。低分子量マーカー(レーン1)、野生型リパーゼ(レーン2)、遺伝子配列番号2(レーン3)、遺伝子配列番号3(レーン4)、遺伝子配列番号4(レーン5)、遺伝子配列番号5(レーン6)、遺伝子配列番号6(レーン7)。
【図5】リパーゼを触媒とするトリグリセリドの加水分解を示す図。トリグリセリドに対するリパーゼの作用の概要を示している。リパーゼはエステル結合に作用し、自由脂肪酸とグリセロールとを生成する。
【図6】様々な時間55℃の温度にさらしたときにおける、様々な突然変異体と野生型の残留活性を示すグラフ。使用した基質はPNPAである。野生型酵素と突然変異体酵素を、55℃において様々な時間長だけインキュベートし、酵素を氷上で数分間冷却して活性を推定した。活性は室温にて推定した。活性は、PNPAの加水分解の割合として表してある。PNPAの加水分解は、分光計において410nmにおける吸光度の増大としてモニターした。
【図7】55℃にさらした野生型と突然変異体の残留活性を示す表。タンパク質を所定の時間だけインキュベートし、酵素を氷上で冷却した後に活性を推定した。その後、室温にて活性を分析した。
【図8】様々な時間50℃の温度にさらしたときの、様々な突然変異体と野生型における残留活性を示すグラフ。使用した基質はオリーブ油である。基質であるオリーブ油をアラビアゴムを使用して乳化した。オリーブ油の加水分解の速度は、0.1Mの水酸化ナトリウムを1分間に加える割合として、pHスタット(Metrohm718 pH Titrino)でモニターした。オリーブ油の加水分解によって、水酸化ナトリウムにより中和されたpHが減少する。
【図9】55℃における、野生型リパーゼと突然変異体リパーゼの動態パラメータおよび安定性の半減期を示す表。野生型と突然変異体の耐熱性は、時間に対する残留活性をプロットすることによって得られるプロットの傾きとして表される。傾きが小さいほど半減期が長いことを意味し、したがって耐熱性が高い。酵素の定数は、突然変異体のそれぞれについて基質濃度に対する活性を正確に導くことによって測定した。これらのプロットを使用して、見かけの平衡定数と、最大速度(Vmax)、すなわち基質濃度が無限大であるときの速度とを推定した。K/Vmaxは、酵素の潜在的な触媒能力を表し、これは、酵素間で潜在的な触媒能力を比較するのに有用なパラメータである。
【図10】水分中にアセトニトリルが様々な濃度で存在するときの、リパーゼおよびその突然変異体の活性を示すグラフ。野生型酵素と突然変異体酵素を、様々な量のアセトニトリルを含む溶媒中でインキュベートした。基質としてPNPAを使用し、一定時間(30分間)インキュベートしたときにおける残留活性を推定した。
【図11】20%のアセトニトリル中でタンパク質を30分間インキュベートした後の、野生型リパーゼおよび突然変異体の残留活性の分析結果を示す表。
【図12】様々な量の3種類の洗剤の存在下で野生型リパーゼを30分間インキュベートし、30分後に活性を分析した結果。3種類の洗剤とは、中性洗剤TritonX−100、陰イオン洗剤のドデシル硫酸ナトリウム、陽イオン洗剤の臭化セチルトリメチルアンモニウムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性、耐有機溶媒性があり、耐高pH性を有し、かつ、分子量19443の配列番号2と、分子量19515の配列番号3と、分子量19456.9の配列番号4と、分子量19487の配列番号5と、分子量19470.9の配列番号6とを有する、新規リパーゼ遺伝子変異体。
【請求項2】
前記遺伝子変異体は、約45〜95℃の温度範囲において耐熱性である、請求項1記載の新規遺伝子変異体。
【請求項3】
前記遺伝子変異体は、約55〜90℃の温度範囲において耐熱性が高い、請求項2記載の新規遺伝子変異体。
【請求項4】
1/2値は、6〜685の範囲にある、請求項1記載の新規遺伝子変異体。
【請求項5】
1/2値は、7〜677の範囲にある、請求項1記載の新規遺伝子変異体。
【請求項6】
値は、0.50〜2.5mMの範囲にある、請求項1記載の新規遺伝子変異体。
【請求項7】
値は、0.63〜1.96mMの範囲にある、請求項1記載の新規遺伝子変異体。
【請求項8】
cat値は、4.5×10−2〜8.5×10−2min−1の範囲にある、請求項1記載の新規遺伝子変異体。
【請求項9】
cat値は、5×10−2〜8.1×10−2min−1の範囲にある、請求項1記載の新規遺伝子変異体。
【請求項10】
cat/K値は、4×10−2〜10×10−2min−1の範囲にある、請求項1記載の新規遺伝子変異体。
【請求項11】
cat/K値は、4.1×10−2〜9.7×10−2min−1の範囲にある、請求項1記載の新規遺伝子変異体。
【請求項12】
前記遺伝子変異体は、アセトニトリル、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、およびジメチルホルムアミドから成る群から選択される有機溶媒に対する耐性がある、請求項1記載の新規遺伝子変異体。
【請求項13】
使用される有機溶媒は、アセトニトリルである、請求項4記載の新規遺伝子変異体。
【請求項14】
前記遺伝子変異体の残留活性は、アセトニトリルの存在下で25〜100%の範囲にある、請求項1記載の新規遺伝子変異体。
【請求項15】
前記遺伝子変異体の残留活性は、アセトニトリルの存在下で28.7〜85.5%の範囲にある、請求項1記載の新規遺伝子変異体。
【請求項16】
前記遺伝子変異体は、9〜13の範囲の高いpHに耐える内在的能力、ならびに、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のグループ、プロテアーゼ、およびそれらの化合物を含む悪影響のある界面活性剤および酵素に耐える能力、を有する、請求項1記載の新規遺伝子変異体。
【請求項17】
前記遺伝子変異体は、9〜13の範囲の高いpHに耐える内在的能力、ならびに、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のグループ、プロテアーゼ、およびそれらの化合物を含む悪影響のある界面活性剤および酵素に耐える能力、を有する、請求項16記載の新規遺伝子変異体。
【請求項18】
耐熱性であり、耐有機溶媒性、かつ耐高pH性を有する新規のリパーゼ遺伝子変異体の発現系であって、ベクターpJO290中に存在する、分子量19443の配列番号2と、分子量19515の配列番号3と、分子量19456.9の配列番号4と、分子量19487の配列番号5と、分子量19470.9の配列番号6とを有する前記リパーゼ遺伝子変異体を有する、発現系。
【請求項19】
前記遺伝子変異体は、約45〜95℃の温度範囲において耐熱性である、請求項18記載の発現系。
【請求項20】
前記遺伝子変異体は、約55〜90℃の温度範囲において耐熱性が高い、請求項19記載の発現系。
【請求項21】
1/2値は、6〜685の範囲にある、請求項18記載の発現系。
【請求項22】
1/2値は、7〜677の範囲にある、請求項21記載の発現系。
【請求項23】
値は、0.50〜2.5mMの範囲にある、請求項18記載の発現系。
【請求項24】
値は、0.63〜1.96mMの範囲にある、請求項23記載の発現系。
【請求項25】
cat値は、4.5×10−2〜8.5×10−2min−1の範囲にある、請求項18記載の発現系。
【請求項26】
cat値は、5×10−2〜8.1×10−2min−1の範囲にある、請求項25記載の発現系。
【請求項27】
cat/K値は、4×10−2〜10×10−2min−1の範囲にある、請求項18記載の発現系。
【請求項28】
cat/K値は、4.1×10−2〜9.7×10−2min−1の範囲にある、請求項27記載の発現系。
【請求項29】
前記遺伝子変異体は、アセトニトリル、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、およびジメチルホルムアミドから成る群から選択される有機溶媒に対する耐性がある、請求項18記載の発現系。
【請求項30】
使用される有機溶媒は、アセトニトリルである、請求項29記載の発現系。
【請求項31】
前記遺伝子変異体の残留活性は、アセトニトリルの存在下で25〜100%の範囲にある、請求項18記載の新規遺伝子変異体。
【請求項32】
前記遺伝子変異体の残留活性は、アセトニトリルの存在下で28.7〜85.5%の範囲にある、請求項31記載の新規遺伝子変異体。
【請求項33】
前記遺伝子変異体は、9〜13の範囲の高いpHに耐える内在的能力、ならびに、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のグループ、プロテアーゼ、およびそれらの化合物を含む悪影響のある界面活性剤および酵素に耐える能力、を有する、請求項18記載の新規遺伝子変異体。
【請求項34】
前記遺伝子変異体は、9〜13の範囲の高いpHに耐える内在的能力、ならびに、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のグループ、プロテアーゼ、およびそれらの化合物を含む悪影響のある界面活性剤および酵素に耐える能力、を有する、請求項33記載の新規遺伝子変異体。
【請求項35】
耐熱性、耐有機溶媒性、耐高pH性を有し、かつ、分子量19443の配列番号2と、分子量19515の配列番号3と、分子量19456.9の配列番号4と、分子量19487の配列番号5と、分子量19470.9の配列番号6とを有する、新規のリパーゼ遺伝子変異体、の発現系を組む方法であって、
(a)枯草菌バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)からのリパーゼ遺伝子を分離および精製するステップと、
(b)ステップ(a)において分離したリパーゼ遺伝子をベクターpJO290にクローニングするステップと、
(c)ステップ(a)において分離したリパーゼ遺伝子から、配列番号13を有するフォーワードプライマーJOFと、配列番号14を有するリバースプライマーJORとを使用して、ランダム突然変異誘発および部位特異的突然変異誘発によって遺伝子変異体を生成するステップと、
(d)ステップ(c)において得た前記遺伝子変異体をプラスミドベクターpJO290にクローニングするステップと、
(e)ステップ(d)においてクローニングした前記遺伝子変異体を大腸菌JM109においてライゲーションを行うステップと、
を含んでいる、方法。
【請求項36】
前記遺伝子変異体は、約45〜95℃の温度範囲において耐熱性である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記遺伝子変異体は、約55〜90℃の温度範囲において耐熱性が高い、請求項36記載の方法。
【請求項38】
1/2値は、6〜685の範囲にある、請求項35記載の方法。
【請求項39】
1/2値は、7〜677の範囲にある、請求項38記載の方法。
【請求項40】
値は、0.50〜2.5mMの範囲にある、請求項35記載の方法。
【請求項41】
値は、0.63〜1.96mMの範囲にある、請求項40記載の方法。
【請求項42】
cat値は、4.5×10−2〜8.5×10−2min−1の範囲にある、請求項35記載の方法。
【請求項43】
cat値は、5×10−2〜8.1×10−2min−1の範囲にある、請求項42記載の方法。
【請求項44】
cat/K値は、4×10−2〜10×10−2min−1の範囲にある、請求項35記載の方法。
【請求項45】
cat/K値は、4.1×10−2〜9.7×10−2min−1の範囲にある、請求項44記載の方法。
【請求項46】
前記遺伝子変異体は、アセトニトリル、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、およびジメチルホルムアミドから成る群から選択される有機溶媒に対する耐性がある、請求項35記載の方法。
【請求項47】
使用される有機溶媒は、アセトニトリルである、請求項46記載の方法。
【請求項48】
前記遺伝子変異体の残留活性は、アセトニトリルの存在下で25〜100%の範囲内である、請求項35に記載の方法。
【請求項49】
前記遺伝子変異体の残留活性は、アセトニトリルの存在下で28.7〜85.5%の範囲内である、請求項48記載の方法。
【請求項50】
前記遺伝子変異体は、9〜13の範囲の高いpHに耐える内在的能力、ならびに、耐える能力、を有する、請求項35記載の方法。
【請求項51】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のグループ、プロテアーゼ、およびそれらの化合物を含む悪影響のある界面活性剤および酵素。
【請求項52】
前記遺伝子変異体は、9〜13の範囲の高いpHに耐える固有の能力、すなわち、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のグループ、プロテアーゼ、およびそれらの化合物を含む悪影響のある界面活性剤および酵素に耐える能力、を有する、請求項50記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−528200(P2007−528200A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502648(P2006−502648)
【出願日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【国際出願番号】PCT/IN2004/000022
【国際公開番号】WO2004/067705
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(595023873)カウンシル・オブ・サイエンティフィック・アンド・インダストリアル・リサーチ (69)
【Fターム(参考)】