説明

リパーゼ粉末組成物及びそれを用いたエステル化物の製造方法

【課題】 エステル化反応を効率的に行うことができる粉末リパーゼ組成物、及び該リパーゼ組成物を用いるエステル化物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 (a)リゾムコール属(Rhizomucor sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼ又はペニシリウム属(Penicillum sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼと(b)アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼ、リゾプス属(Rhizopus sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼ及びサーモマイセス属(Thermomyces sp.) 由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼからなる群から選ばれる粉末状のリパーゼとを含有するリパーゼ組成物、及びアルコール性水酸基を分子内に少なくとも1つ有する化合物を、該パーゼ組成物の存在下、カルボン酸でエステル化することを含むエステル化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンなどのアルコール性水酸基を有する化合物と各種脂肪酸などとのエステル化に好適に使用できる粉末状リパーゼ組成物、及びこれを用いるトリグリセリドなどのエステル化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リパーゼは、脂肪酸などの各種カルボン酸とモノアルコールや多価アルコールなどのアルコール類とのエステル化反応、複数のカルボン酸エステル間のエステル交換反応などに幅広く使用されている。このうち、脱水を伴うエステル化反応では、リパーゼ粉末をそのまま用いても活性が十分に発現しないばかりか、反応系に均一に分散させることは困難であり、その回収も困難である。このため、リパーゼを何らかの担体、たとえば陰イオン交換樹脂(特許文献1)、フェノール吸着樹脂(特許文献2)、疎水性担体(特許文献3)、陽イオン交換樹脂(特許文献4)、キレート樹脂(特許文献5)等に固定化してエステル化反応に用いるのが一般的である。
【0003】
このように、従来はリパーゼを固定化してエステル化反応に用いていたが、かかる固定化リパーゼは固定化処理による本来のリパーゼ活性の損失を伴うだけでなく、多孔性担体を用いた場合は細孔に原料や生成物が詰まり、結果としてエステル化率の低下を招いていた。
このような状況に鑑み、リパーゼ粉末を用いる各種技術が開発されている。例えば、不活性有機溶媒の存在下または非存在下、エステル交換反応時に分散リパーゼ粉末粒子の90%以上を1〜100μmの範囲の粒径に保つように、エステルを含有する原料にリパーゼ粉末を分散させてエステル交換反応を行う方法が提案されている(特許文献6)。又、リン脂質および脂溶性ビタミンを含む酵素溶液を乾燥して得た酵素粉末を用いることが提案されている(特許文献7)。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−98984号公報
【特許文献2】特開昭61−202688号公報
【特許文献3】特開平2−138986号公報
【特許文献4】特開平3−61485号公報
【特許文献5】特開平1−262795号公報
【特許文献6】特許第2668187号公報
【特許文献7】特開2000−106873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エステル化反応を効率的に行うことができる粉末リパーゼ組成物を提供することを目的とする。
本発明は、又、上記リパーゼ組成物を用いるエステル化物の製造方法を提供することを目的とする。
本発明のこれらの目的及び他の目的は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、固定化リパーゼではなくて、特定の2種の粉末リパーゼを組み合わせて用いると、極めて高いエステル化率を達成でき、これにより上記課題を解決できるとの知見に基づいてなされたのである。
すなわち、本発明は、(a)リゾムコール属(Rhizomucor sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼ又はペニシリウム属(Penicillum sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼと(b)アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼ、リゾプス属(Rhizopus sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼ及びサーモマイセス属(Thermomyces sp.) 由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼからなる群から選ばれる粉末状のリパーゼとを含有することを特徴とするリパーゼ組成物を提供する。
本発明は、又、アルコール性水酸基を分子内に少なくとも1つ有する化合物を、上記リパーゼ組成物の存在下、カルボン酸でエステル化することを特徴とするエステル化物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、極めて高いエステル化率を達成でき、特に、グリセリンとカルボン酸とから直接、高収率でトリグリセリドを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の成分(a)として用いるリゾムコール属(Rhizomucor sp.)由来のリパーゼとしては、リゾムコール ミーヘイ(Rhizomucor miehei)由来のリパーゼ、つまり1,3特異性リパーゼを用いるのが好ましく、ノボザイムズジャパン株式会社製のリパーゼ含有水溶液、パラターゼ(Palatase)(20000L)を粉末化して粉末リパーゼに用いることができる。この粉末リパーゼとしては、形状が球状であって、水分含量が10質量%以下である粉末を用いるのが好ましい。水分含量は、6.5〜8.5質量%であるのがさらに好ましい。尚、従来、リゾムコール ミーヘイ(Rhizomucor miehei)は、ムコール属(Mucor sp.)として扱われていた場合もある。
このような粉末リパーゼは、例えば、リパーゼ含有水溶液を噴霧乾燥(スプレードライ)することによって容易に調製することができる。
ここで、リパーゼ含有水溶液としては、菌体を除去したリパーゼ培養液、精製培養液、これらから得たリパーゼ粉末を再度水に溶解・分散させたもの、市販のリパーゼ粉末を再度水に溶解・分散させたもの、市販の液状リパーゼ等が挙げられる。さらに、リパーゼ活性をより高めるために塩類等の低分子成分を除去したものがより好ましく、また、粉末性状をより高めるために糖等の低分子成分を除去したものがより好ましい。
【0009】
リパーゼ培養液としては、例えば、大豆粉、ペプトン、コーン・ステープ・リカー、K2HPO4、(NH42SO4、MgSO4・7H2O等含有する水溶液があげられる。これらの濃度としては、大豆粉0.1〜20質量%、好ましくは1.0〜10質量%、ペプトン0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%、コーン・ステープ・リカー0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%、K2HPO4 0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。又、(NH42SO4は0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%、MgSO4・7H2Oは0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%である。培養条件は、培養温度は10〜40℃、好ましくは20〜35℃、通気量は0.1〜2.0VVM、好ましくは0.1〜1.5VVM、攪拌回転数は100〜800rpm、好ましくは200〜400rpm、pHは3.0〜10.0、好ましくは4.0〜9.5に制御するのがよい。
【0010】
菌体の分離は、遠心分離、膜濾過などで行うのが好ましい。また、塩類や糖等の低分子成分の除去は、UF膜処理により行うことができる。具体的には、UF膜処理を行い、リパーゼを含有する水溶液を1/2量の体積に濃縮後、濃縮液と同量のリン酸バッファーを添加するという操作を1〜5回繰り返すことにより、低分子成分を除去したリパーゼ含有水溶液を得ることができる。
遠心分離は200〜20,000×g、膜濾過はMF膜、フィルタープレスなどで圧力を3.0kg/m2以下にコントロールするのが好ましい。菌体内酵素の場合は、ホモジナイザー、ワーリングブレンダー、超音波破砕、フレンチプレス、ボールミル等で細胞破砕し、遠心分離、膜濾過などで細胞残さを除去することが好ましい。ホモジナイザーの攪拌回転数は500〜30,000rpm、好ましくは1,000〜15,000rpm、ワーリングブレンダーの回転数は500〜10,000rpm、好ましくは1,000〜5,000rpmである。攪拌時間は0.5〜10分、好ましくは1〜5分がよい。超音波破砕は1〜50KHz、好ましくは10〜20KHzの条件で行うのが良い。ボールミルは直径0.1〜0.5mm程度のガラス製小球を用いるのがよい。
リパーゼ含有水溶液としては、固形分として5〜30質量%含むものを用いるのが好ましい。
ここで、リパーゼ含有水溶液中の固形分濃度は、例えば、糖度計((株)シー・アイ・エス社製 BRX-242)を用いてBrix.%として求めることができる。
【0011】
噴霧乾燥(スプレードライ)などの乾燥工程の直前に、リパーゼ含有水溶液のpHを6〜7.5に調整するのが好ましい。特にpHを7.0以下に、さらにpHを6.5〜7.0の範囲となるように調整するのが好ましい。pH調整は、噴霧乾燥(スプレードライ)などの乾燥工程の前のいずれかの工程において行ってもよく、乾燥工程の直前のpHが上記範囲内となるように、予めリパーゼ含有水溶液のpHを調整しておいてもよい。pH調整には、各種アルカリ剤や酸を用いることができるが、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物を用いるのが好ましい。
【0012】
又、乾燥工程前の途中の工程において、リパーゼ含有水溶液を濃縮してもよい。濃縮方法は、特に限定されるものではないが、エバポレーター、フラッシュエバポレーター、UF膜濃縮、MF膜濃縮、無機塩類による塩析、溶剤による沈殿法、イオン交換セルロース等による吸着法、吸水性ゲルによる吸水法等があげられる。好ましくはUF膜濃縮、エバポレーターがよい。UF膜濃縮用モジュールとしては、分画分子量3,000〜100,000、好ましくは6,000〜50,000の平膜または中空糸膜、材質はポリアクリルニトリル系、ポリスルフォン系などが好ましい。
噴霧乾燥(スプレードライ)は、例えば、ノズル向流式、デイスク向流式、ノズル並流式、デイスク並流式等の噴霧乾燥機を用いて行うのがよい。好ましくはデイスク並流式が良く、アトマイザー回転数は4,000〜20,000rpm、加熱は入口温度100〜200℃、出口温度40〜100℃で制御して噴霧乾燥(スプレードライ)するのが好ましい。
【0013】
本発明で用いる成分(a)の別のリパーゼは、ペニシリウム属(Penicillum sp.)由来のリパーゼであり、ペニシリウムカマンベルティ(Penicillium camemberti)由来のリパーゼ、つまり1,3特異性リパーゼを用いるのが好ましい。この粉末リパーゼとしては、天野エンザイム株式会社から販売されているリパーゼG「アマノ」50などを用いることができる。このリパーゼの最適pHは5.0であり、特にpH4.5〜6.0で有効に作用し、最適温度は40℃である。この粉末リパーゼは、担体を有しない白色〜淡黄褐色の微粉末である。
尚、これ以外にペニシリウム属(Penicillum sp.)由来のリパーゼを、上記リゾムコール属(Rhizomucor sp.)由来のリパーゼについて説明したのと同様の方法により粉末状物として得、これを使用することができる。
【0014】
本発明で用いる成分(b)のリパーゼは、アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来のリパーゼである。このリパーゼの粉末状物としては、名糖産業株式会社製のリパーゼQLやリパーゼPLなどを用いることができる。
リパーゼQLは、ゲルろ過法により求めた分子量が18〜19万、等電点4.1、最適pH7〜8.5、最適温度60℃、pH安定性6〜10、温度安定性40℃以下の特性を有し、リパーゼPLは、ゲルろ過法により求めた分子量が35〜37万、等電点4.5、最適pH7〜8.5、最適温度37〜40℃、pH安定性7〜10、温度安定性40℃以下の特性を有する。両者は共に担体を有しない淡黄色の微粉末である。本発明では、リパーゼQLを用いるのが好ましい。
尚、これ以外にアルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来のリパーゼを、上記リゾムコール属(Mucor sp.)由来のリパーゼについて説明したのと同様の方法により粉末状物として得、これを使用することができる。
【0015】
本発明で用いる成分(b)の別のリパーゼは、リゾプス属(Rhizopus sp.)由来のリパーゼ及びサーモマイセス属(Thermomyces sp.) 由来のリパーゼである。リゾプス属(Rhizopus sp.)由来のリパーゼとしては、リゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)由来のリパーゼが好ましく、このリパーゼの粉末物としては、天野エンザイム株式会社製の粉末リパーゼF−AP15を用いることができる。
又、サーモマイセス属(Thermomyces sp.) 由来のリパーゼとしては、サーモマイセス ラヌゲノウス(Thermomyces lanugenousu) 由来のリパーゼが好ましく、このリパーゼの粉末物としては、ノボザイムズジャパン株式会社製のリポザイム(lipozyme)TL(100L)を膜処理し、次いでスプレードライにより粉末化したものを用いることができる。
【0016】
本発明で用いる成分(a)及び(b)の粉末リパーゼの粒径は任意とすることができるが、粉末リパーゼの90質量%以上が粒径1〜100μmであるのが好ましい。
粉末リパーゼの粒径は、例えば、HORIBA社の粒度分布測定装置(LA−500)を用いて測定することができる。
本発明では、成分(a)及び(b)の粉末リパーゼの併用割合としては、成分(a):成分(b)の質量比が1:99〜99:1であるのが好ましい。特に、(a)リゾムコール属(Rhizomucor sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼ:(b)アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼの質量比が60:40〜98:2であるのがより好ましく、さらに、70:30〜95:5であるのが最も好ましい。又、(a)ペニシリウム属(Penicillum sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼ:(b)アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼの質量比が10:90〜90:10であるのがより好ましく、さらに、70:30〜30:70であるのが最も好ましい。特に、このリパーゼの組合せの場合、効果をより発揮する2種の粉末リパーゼの併用割合の幅が、極めて広いことが特徴である。
(a)の粉末状のリパーゼ:(b)リゾプス属(Rhizopus sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼの質量比が10:90〜70:30であるのがより好ましく、さらに、20:80〜40:60であるのが最も好ましい。又、(a)の粉末状のリパーゼ:(b)サーモマイセス属(Thermomyces sp.) 由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼの質量比が10:90〜90:10であるのがより好ましく、さらに、30:70〜80:20であるのが最も好ましい。
【0017】
次に、本発明の粉末リパーゼ組成物を用いるエステル化方法について説明する。
エステル化で対象とするアルコール性水酸基を分子内に少なくとも1つ有する化合物としては、各種モノアルコール、多価アルコール、アミノアルコールなど種々の化合物があげられる。具体的には、短鎖、中鎖、長鎖の飽和、不飽和、直鎖、分岐アルコール、グリコール類、グリセリン、エリスリトール類といった多価アルコールがあげられる。これらのうち、グリセリンが好ましい。
一方、カルボン酸としては、短鎖、中鎖、長鎖の飽和、不飽和、直鎖、分岐カルボン酸があげられる。これらのうち、炭素数6〜30の脂肪酸、例えば、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸などがあげられる。これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。これらのうち、不飽和脂肪酸が好ましく、特に共役リノール酸を用いるのが好ましい。
【0018】
エステル化の条件は、例えば、特開平13−169795号公報や特開平15−113396号公報などに記載の条件に準じて行うことができる。一例をあげると、基質の合計質量、すなわちアルコール性水酸基を有する化合物とカルボン酸の合計質量に対して、本発明の粉末リパーゼ組成物を0.1〜2質量%添加し、30〜60℃で24〜72時間反応させるのがよい。この際、反応系を減圧にしてエステル化により生じる水を除去(脱水)しながら反応を行うのが良い。減圧度は、1〜100hPaであることが好ましく、1〜50hPaであることがより好ましく、1〜25hPaであることが最も好ましく、この範囲内において、段階的に減圧度を高めながら脱水していくのがより好ましい。さらに、脱水処理の際、窒素を吹き込みながら行うと、より脱水を効率良く行うことができる。
なお、(a)のペニシリウム属(Penicillum sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼを使用する場合には、基質の合計質量に対して0.1〜5質量%の水を予め添加して反応を開始させ、その後、エステル化により生じる水を除去しながら反応を行うのがよい。
次に本発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
製造例1
水溶液にリパーゼが溶解・分散した形態にあるノボザイムズジャパン株式会社製のRhizomucor miehei由来のリパーゼ、商品名パラターゼ(Palatase)(20000L)を、UFモジュール(旭化成工業(株)社製SIP-0013)を用いて低分子成分を除去してリパーゼ含有水溶液(固形分濃度10.6質量%)を得た。詳しくは、液状リパーゼ(パラターゼ)を氷冷下でUF膜処理を行い、1/2量の体積に濃縮後、濃縮液と同量のpH7の0.01Mリン酸バッファーを添加した。得られた溶液について、同じようにUF膜処理後リン酸バッファーを添加する操作を3回繰り返し、リパーゼ含有水溶液(リパーゼ濃縮液:バッファーの体積比は1:1)を得た。
このリパーゼ含有水溶液のpHを、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH6.8〜6.9に調整した。
この液を、スプレードライヤー(SD-1000型:東京理化器械(株)社製)を用い、入口温度130℃、乾燥空気量0.7〜1.1m3/min、噴霧圧力11〜12kpaの条件下噴霧し、リパーゼ粉末を得た。リパーゼ粉末粒子の形状は球状で、リパーゼ粉末の90質量%以上が粒径1〜100μmの範囲内にあり、平均粒径は8.2μmであった。粒径は、HORIBA社の粒度分布測定装置(LA−500)を用いて測定した。105℃、1時間の乾熱乾燥の方法により測定した水分含量は7.9質量%であった。
尚、リパーゼ含有水溶液中の固形分濃度は、糖度計((株)シー・アイ・エス社製 BRX-242)を用いてBrix.%として求めた。
【0020】
実施例1〔各種リパーゼ又はリパーゼ組成物を用いた窒素吹き込み条件下でのエステル化反応〕
攪拌機付き反応容器に、グリセリン10g及び共役リノール酸90gを加え、これに、撹拌下、下記のリパーゼ粉末酵素を加えた。水浴で45℃程度に温度を維持しながら30分放置後、直ちに減圧ポンプにて減圧にした。その際、窒素を吹き込んで水を出やすくしておいた。
最初は、40hPa程度に維持した。2〜3時間後に50℃程度まで徐々に加温し、さらに2〜3時間後に60℃程度まで加温し、その後はこの温度を維持した。一方、減圧を徐々に強めていき、最終的には10hPa程度までにした。
なお、G、又はG+QLを酵素として使用した場合には、反応前に、グリセリン及び共役リノール酸の合計質量に対して、水を2質量%添加した。
エステル化反応の進行は、随時サンプリングを行い、GLC分析により確認した。この際は、未反応グリセリン、MG、DG,TGの百分率を出し、そのうちのTGの生成率を下記表−1に示し、又図1にグラフとして示した。
【0021】
使用リパーゼ
RM(1%):製造例1で製造したリゾムコール属(Rhizomucor sp.)に属するRhizomucor miehei由来の粉末リパーゼの単独使用。()内の数値はリパーゼの使用量を示し、かかる数値が1%である場合、リパーゼの使用量が、グリセリンと共役リノール酸との合計量の1質量%であることを示す(以下、同じ)。
RM(1%)+QL(0.1%)(本発明):製造例1で製造したリゾムコール属(Rhizomucor sp.)に属するRhizomucor miehei由来の粉末リパーゼ及び名糖産業株式会社製のアルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来の粉末リパーゼQLの併用。使用量は()内に記載(以下同じ)。
G(1%):天野エンザイム株式会社製のペニシリウム属(Penicillum sp.)由来の粉末リパーゼG「アマノ」50の単独使用。
G(0.7%)+QL(0.3%)(本発明):天野エンザイム株式会社製のペニシリウム属(Penicillum sp.)由来の粉末リパーゼG「アマノ」50と名糖産業株式会社製のアルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来の粉末リパーゼQLの併用。
QL(1%):名糖産業株式会社製のアルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来の粉末リパーゼQLの単独使用。
【0022】
表−1

【0023】
表−1の結果から、リゾムコール属(Rhizomucor sp.)に属するRhizomucor miehei由来の粉末リパーゼの単独使用(RM(1%))に比べて、リゾムコール属(Rhizomucor sp.)に属するRhizomucor miehei由来の粉末リパーゼに、アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来の粉末リパーゼQLを併用すると(RM(1%)+QL(0.1%))、44時間後のトリグリセリドの収率が75%から91%に大きく上昇することがわかる。さらに、トリグリセリドの生成量に着目すると、トリグリセリドの生成量が75%に達する時間は、RM(1%)の場合には40時間強であるのに対し、RM(1%)+QL(0.1%)の場合には、その半分の20時間である。
また、アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来の粉末リパーゼQL単独に1%使用しても、トリグリセリドを殆ど製造できないことからみて当業者にとって驚くべきことである。
一方、ペニシリウム属(Penicillum sp.)由来の粉末リパーゼG「アマノ」50(G(1%))及びアルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来の粉末リパーゼQL(QL(1%))の単独使用では、トリグリセリドを殆ど製造できないのに、両者を併用すると(G(0.7%)+QL(0.3%))、44時間後のトリグリセリドの収率が87%と高くなることは、当業者にとって驚くべきことである。
【0024】
実施例2〔RM又は各種リパーゼ組成物を用いたエステル化反応〕
窒素ガスの吹き込みを行なわず、水の添加又は無添加とし、かつ最終減圧を表−2に示した状態とした以外は、実施例1と同様にしてエステル化反応を行なった。反応開始から47時間後に、サンプリングを行い、TGの生成率をGLC分析により確認した。この際、未反応グリセリン、MG、DG,TGの百分率を出した。TGの生成率を下記表−2に示す。表中、水の添加について記載がないものは、水無添加である。また、表中の酵素の項目中の%で示した数値はリパーゼの使用量を示し、かかる数値が1%である場合、リパーゼの使用量が、グリセリンと共役リノール酸との合計量の1質量%であることを示す。さらに、表中の酵素の項目の()内に記載した数値比は、各種リパーゼの組み合わせの質量比を示す。
使用リパーゼ
RM:実施例1で用いたのと同じリゾムコール属(Rhizomucor sp.)に属するRhizomucor miehei由来の粉末リパーゼ。
QL:実施例1で用いたのと同じ名糖産業株式会社製のアルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来の粉末リパーゼQL。
G:実施例1で用いたのと同じ天野エンザイム株式会社製のペニシリウム属(Penicillum sp.)由来の粉末リパーゼG「アマノ」50。
PL:名糖産業株式会社製のアルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来の粉末リパーゼPL。
TL:ノボザイムズジャパン株式会社製のサーモマイセス ラヌゲノウス(Thermomyces lanugenousu) 由来のリポザイム(lipozyme)TL(100L)を膜処理し、次いでスプレードライにより粉末化したもの
F−AP:天野エンザイム株式会社製のリゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)由来の粉末リパーゼF−AP15。
【0025】
表−2
酵素 TG% 減圧hPa
RM単独1% 69 20
RM+QL(1%、8:2) 82 19
G+QL(1%、5:5)水添加2% 80 19
RM+PL(1%、8:2) 83 17
G+TL(1%、5:5)水添加1% 89 5
G+F−AP(1%、3:7)水添加2% 83 3
RM+TL(0.6%、8:2) 72 16
【0026】
表−2の結果から明らかなように、(a)と(b)の特定の粉末リパーゼを併用するとエステル化率が向上することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の2種の粉末リパーゼを併用したリパーゼ組成物(RM(1%)+QL(0.1%)、並びにG(0.7%)+QL(0.3%))を用いた場合のエステル化反応におけるトリグリセリドの生成状況を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リゾムコール属(Rhizomucor sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼ又はペニシリウム属(Penicillum sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼと(b)アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼ、リゾプス属(Rhizopus sp.)由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼ及びサーモマイセス属(Thermomyces sp.) 由来のリパーゼであって粉末状のリパーゼからなる群から選ばれる粉末状のリパーゼとを含有することを特徴とするリパーゼ組成物。
【請求項2】
(b)の粉末状のリパーゼが、アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)由来の粉末状のリパーゼである請求項1記載のリパーゼ組成物。
【請求項3】
(a)の粉末状のリパーゼが、Rhizomucor miehei由来のリパーゼである請求項1又は2記載のリパーゼ組成物。
【請求項4】
ペニシリウム属(Penicillum sp.)由来のリパーゼが、Penicillium camemberti由来のリパーゼである請求項1又は2記載のリパーゼ組成物。
【請求項5】
成分(a)と(b)の粉末リパーゼが、担体に担持されていないものである請求項1〜4のいずれか1項記載のリパーゼ組成物。
【請求項6】
成分(a)と(b)の粉末リパーゼの水分量が10質量%以下である請求項1〜5のいずれか1項記載のリパーゼ組成物
【請求項7】
粉末リパーゼの90質量%以上が粒径1〜100μmである請求項1〜6のいずれか1項記載のリパーゼ組成物。
【請求項8】
エステル化用である請求項1〜7のいずれか1項記載のリパーゼ組成物。
【請求項9】
アルコール性水酸基を分子内に少なくとも1つ有する化合物を、請求項1〜7のいずれか1項記載のリパーゼ組成物の存在下、カルボン酸でエステル化することを特徴とするエステル化物の製造方法。
【請求項10】
アルコール性水酸基を分子内に少なくとも1つ有する化合物がグリセリンである請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
カルボン酸が不飽和脂肪酸である請求項9又は10記載の製造方法。
【請求項12】
前記エステル化を、減圧下で行うことを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−87423(P2006−87423A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91881(P2005−91881)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】