説明

リビング(コ)ポリマーの製造方法およびその(コ)ポリマーの用途

【解決手段】有機オキシ塩化合物を触媒として、極性不飽和化合物を(共)重合させてポリマーを製造するに際し、同一分子内に少なくともアルコール性水酸基とカルボニル基を併せ持つヒドロキシカルボニル化合物の存在下に、重合させることにより得られたリビングポリマーである極性不飽和化合物の(コ)ポリマー(A)と該(コ)ポリマーを硬化できる硬化剤組成物成分(B)を含有する熱硬化性粉体塗料組成物。
【効果】有機オキシ塩化合物を触媒として極性不飽和化合物を重合させることにより、生成するポリマーの数平均分子量や生成分子数が精密に制御されたポリマーを極めて効率的に製造することができる。また、従来技術では達成されなかった、貯蔵安定性、外観特性、物理特性、化学特性を有した、熱硬化性粉体塗料組成物(例えば、アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物)を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機オキシ塩化合物を触媒として、極性不飽和化合物を重合させてリビング(コ)ポリマーを製造する方法に関する。これらのポリマーおよびコポリマーは、高分子材料または機能性高分子の原料等として極めて重要な重合体である。
さらに本発明は、上記方法で得れた(コ)ポリマーを用いた熱硬化性粉体塗料組成物に関し、さらに詳細には、本発明は、優れた貯蔵安定性(ブロッキング性等)、外観特性(平滑性、鮮映性、透明性等)、物理特性(硬度、耐擦傷性等,リコート性)、化学特性(耐候性、耐酸性、耐溶剤性等)を有し、特に車両塗装用途に好適な焼付塗膜を与えることのできる熱硬化性粉体塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
極性不飽和化合物の重合に関しては、古くから膨大な数の研究が行われている。中でも、近年、得られるポリマーの分子量を任意且つ厳密に制御し、より狭い分子量分布をもつポリマーを生成させようとするリビング重合触媒に関する研究が盛んに行われ、これまでにリビングラジカル重合、リビングアニオンもしくはリビング配位アニオン重合等の特性を持つ様々な重合触媒系が開発されている(例えば、リビングラジカル重合触媒に関しては、高分子、48巻、7月号、498〜501頁(1999年)、リビングアニオン及びリビング配位アニオン重合触媒に関しては、新高分子実験学第2巻、”新高分子の合成・反応(1)−付加系高分子の合成−”、165頁〜196頁、共立出版株式会社(1995年)など)。
これまでに数多くの有効なリビング重合触媒系が開発されてはいるが、これらを「使用する重合触媒の分子数に対する生成ポリマーの分子数」という観点から眺めると、そのほとんどが重合触媒1分子からポリマー1分子しか得られない即ち化学量論的重合反応である。この化学量論的リビング重合反応は、ポリマー1分子を生成させるのに1分子の重合触媒が必要であり、工業的実用性という観点から効率的でかつ有効な手法とは言い難い。これに対して重合触媒1分子から複数個のポリマー分子を与える即ち触媒的リビング重合反応は、生成ポリマー中の触媒成分の濃度を大幅に低減可能であるために、触媒除去といった煩雑な工程を省略または簡略化することができたりあるいは触媒成分によるポリマー物性への悪影響を最小限に抑えることができる。またこの手法は環境負荷の低減化や触媒コストの低減化という観点においても真に実用的な手法と言える。事実、現在実用化されている極性不飽和化合物の重合触媒系は、極少量のラジカル発生剤(ここで言う触媒を指す。)と多量の連鎖移動剤から成るものであり、その重合反応はリビング的には進行しないが、一分子のラジカル分子から連鎖移動剤の分子数に匹敵する数のポリマー分子を生成させる極めて効率的なものである。
【0003】
これまで極性不飽和化合物の触媒的リビング重合反応としては、(1)アルカリ金属アルコキシドを触媒、アルコールを連鎖移動剤とするメタアクリル酸エステルの重合(S.N.Lewis et al.,Progress in Organic Coating,12,1−26(1984)及び(2)四級アンモニウム塩またはルイス酸を触媒とし、シリルケテンケタールを連鎖移動剤とするメタクリルおよびアクリル酸エステル等の重合(O.W.Webster et al.,J.Am.Chem.Soc.,105,5703(1983)または新高分子実験学第2巻、”新高分子の合成・反応(1)−付加系高分子の合成−”、365頁〜386頁、共立出版株式会社(1995年))が知られているのみである。しかしながら、(a)の手法は、平均分子量が500〜3000のオリゴーを製造するにはよい重合方法であるが、平均分子量が3000以上のオリゴマーや(コ)ポリマーをその分子量や分子量分布を精密に制御し製造することができない。さらに、この手法は連鎖移動剤兼重合溶媒としてアルコールを使用するために重合反応と共にエステル交換反応が進行する。そのため、エステル交換反応が問題となるモノマーには適用できないなどの欠点を有する。(b)の手法は、使用するシリルケテンケタールが高価且つ不安定であり、またその製造法等にも問題があり、実用化には至っていない。
【0004】
さらに、本発明の方法で得られる(コ)ポリマーの性質を利用した、重要な用途として粉体塗料が挙げられるがそれに関する従来の技術について説明する。
従来、物の塗装は溶剤型の塗料が使用され、自動車用などの厳しい品質を要求される分野に使用するために、種々の要求が満足された塗料が開発され、使用されてきた。
近年、塗料の技術分野において、ローカル又はグローバルな環境保全、労働安全衛生環境改善、火災や爆発の予防、省資源等、の観点から、溶剤型塗料にかわって、粉体型塗料(以下、「粉体塗料」という。)への変更が期待されてきた。そして、歴史的又は社会的要請により、粉体塗料の高機能化・多様化への期待が大きくなるに従い、粉体塗料にも、溶剤型塗料に匹敵する高度な塗膜性能(例えば、耐候性、耐酸性雨性、耐擦傷性等)が要求されるようになってきた。しかし、粉体塗料に要求される塗膜性能が厳しくなってきたにもかかわらず、必ずしも、このような要求を完全に満足する粉体塗料が上市されてきたとはいえない。従来型の粉体塗料の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂及びポリエステル樹脂粉体塗料が挙げられる。しかし、これらは耐候性に問題があるばかりでなく、最近特に問題となってきた酸性雨に対する耐性にも問題があり、自動車車体塗装等の分野においては、問題があった。
【0005】
その欠点を改良すべく、特許文献1により、アクリル系粉体塗料が提案され、顕著な耐候性の改善が実現した。その後、アクリル系粉体塗料に関して多くの研究がなされている。しかしながら、これらアクリル系粉体塗料は、外観特性、物理特性、化学特性、貯蔵安定性、特に平滑性とブロッキング性を同時に十分満足するものではなかった。平滑性を向上させるためには、溶融粘度を低下させることが最も効果的である。しかし、溶融粘度を低下させるためには、ガラス転移温度を低下させなければならず、この方法では、平滑性とブロッキング性の両性能を満足することは不可能であった。
そこで、平滑性とブロッキング性の両性能を両立させるために、分子量分布を縮小させたアクリル(コ)ポリマーを使用する熱硬化性粉体塗料組成物(特許文献2)が提案されている。たしかに分子量分布を縮小させることにより、平滑性とブロッキング性の両立は可能になる。しかし、ここで使用されているアクリル(コ)ポリマーの製造方法の例として示されているリビング重合法では、使用されている重合触媒に由来するリコート性(再塗装、補修を行う際の上塗塗料との密着性)不足のため、粉体塗料、特に上塗り塗料として、その効力を十分に発揮するものではなかった。また、別の製造例としてラジカル重合法にて得られたアクリル(コ)ポリマーを分別して所定の分子量分布の(コ)ポリマーを得ることが例示されている。しかし、この方法も得られる(コ)ポリマーの比率が低く、また、分別するための工程を必要とするためのコスト高等、実用的とは言いがたい方法であった。アクリル(コ)ポリマーの分子量分布を縮小する方法として色々なリビング重合法が研究されている。しかし、それらも(コ)ポリマーの着色、異臭、コスト高等何れも粉体塗料、特に、自動車等の車輌の車体、及び、自動車等の車輌の部品の塗装−特に、上塗り塗装−に好適に適用されるアクリル(コ)ポリマーを提供する製造方法、及び、熱硬化性粉体塗料は存在しなかった。
【特許文献1】特公昭48−38617号
【特許文献2】WO96/03464
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、極性不飽和化合物を重合させて(コ)ポリマーを製造するに際し、極性不飽和化合物を触媒的にリビング重合させてリビング(コ)ポリマーを効果的且つ効率的に製造する方法を提供することである。さらに本発明の他の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、貯蔵安定性、外観特性、物理特性、化学特性を有した、熱硬化性粉体塗料組成物(例えば、アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物)を提供する。特に、自動車等の車輌の車体、及び、自動車等の車輌の部品(アルミホイール、ワイパー、ピラー、ドアハンドル、フェンダー、ボンネット、エアスポイラー、スタビライザー、フロントグリル等)の塗装−特に、上塗り塗装−に好適に適用される、熱硬化性粉体塗料組成物(例えば、アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を続けた結果、同一分子内に少なくともアルコール性水酸基とカルボニル基を併せ持つヒドロキシカルボニル化合物の存在下に、有機オキシ塩化合物を触媒とする極性不飽和化合物の重合反応を実施することにより、その重合反応は化学量論的もしくは触媒的リビング重合性を有し、得られる(コ)ポリマーの平均分子量のみならず生成する(コ)ポリマーの分子数を精密に制御できる(コ)ポリマーの製造方法を見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、有機オキシ塩化合物を触媒として、極性不飽和化合物を(共)重合させて(コ)ポリマーを製造するに際し、同一分子内に少なくともアルコール性水酸基とカルボニル基を併せ持つヒドロキシカルボニル化合物の存在下に、重合させることを特徴とするリビング(コ)ポリマーの製造方法である。
【0008】
さらに本発明は、上記従来技術の問題点を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、
前記の(コ)ポリマー(A)を使用することにより、優れた貯蔵安定性、外観特性、物理特性、化学特性を有した熱硬化性粉体塗料組成物(例えば、アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物)を提供するこができる知見を見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の[1]〜[5]に記載した事項により特定される。
【0009】
[1]有機オキシ塩化合物を触媒として、極性不飽和化合物を(共)重合させてポリマーを製造するに際し、同一分子内に少なくともアルコール性水酸基とカルボニル基を併せ持つヒドロキシカルボニル化合物の存在下に、重合させることにより得られたリビングポリマーである極性不飽和化合物の(コ)ポリマー(A)と該(コ)ポリマーを硬化できる硬化剤組成物成分(B)を含有する熱硬化性粉体塗料組成物。
[2]前記(コ)ポリマー(A)が、エポキシ基を含んでなる熱硬化性粉体塗料組成物。
[3](コ)ポリマー(A)が、10℃〜100℃のガラス転移温度を有するものである熱硬化性粉体塗料組成物。
[4]前記(コ)ポリマーを硬化できる硬化剤組成物成分(B)が、(b−1)多価カルボン酸、及び/又は、(b−2) 多価カルボン酸無水物を含んでなる硬化剤組成物成分である熱硬化性粉体塗料組成物。
[5]自動車の上塗り用の[1ないし[4]のいずれかに記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、ヒドロキシカルボニル化合物を、製造上や取り扱い上に特に問題がなく、安価な有機オキシ塩化合物と共に用いることによって、該有機オキシ塩化合物の極性不飽和化合物に対する重合性能を飛躍的に向上させることができ、また同一分子内に少なくともアルコール性水酸基とカルボニル基を併せ持つヒドロキシカルボニル化合物の存在下に、有機オキシ塩化合物を触媒として極性不飽和化合物を重合させることにより、生成するポリマーの数平均分子量や生成分子数が精密に制御されたポリマーを極めて効率的に製造することができる。また、従来技術では達成されなかった、貯蔵安定性、外観特性、物理特性、化学特性を有した、熱硬化性粉体塗料組成物(例えば、アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物)を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、同一分子内に少なくともアルコール性水酸基とカルボニル基を併せ持つヒドロキシカルボニル化合物の存在下に、有機オキシ塩化合物を触媒として極性不飽和化合物を(共)重合させてリビング(コ)ポリマーを製造する方法に関する。
本発明の方法における有機オキシ塩化合物とは、酸素原子に有機基が結合して形成される形で表される1価の有機オキシアニオン構造を、全構造とするまたは部分構造として有するアニオン部と、そのアニオンを電荷的に中和しうる金属カチオンまたは有機カチオンで構成されるカチオン部とから形成される塩化合物である。
このような有機オキシ塩化合物を形成するカチオンのうち金属カチオンとしては、本発明の目的を阻害しない限り如何なる金属カチオンでも構わないが、具体的には、例えばアルカリ金属のカチオンまたはアルカリ土類金属のカチオン等が挙げられ、有機カチオンとしては、本発明の目的を阻害しない限り如何なる有機カチオンでも構わないが、具体的に例示すれば四級アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、四級ホスホニウムカチオン、ホスホラニリデンアンモニウムカチオンまたはホスホラニリデンアミノホスホニウムカチオン等が挙げられる。
【0012】
これらの有機カチオンのうち四級アンモニウムカチオンとしては、例えばテトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、トリシクロヘキシルメチルアンモニウムイオン、N,N−ジメチルピペリジニウムイオンまたはトリメチルフェニルアンモニウムイオン等のように窒素原子に4個の炭化水素基が結合したアンモニウムイオンまたは、例えばN−メチルピリジニウムイオン、N−tert−ブチルピリジニウムイオン、N−メチルピロリジニウムイオン、N,N’−ジメチルイミダゾリニウムイオンまたはN,N’−ジイソプロピルイミダゾリニウムイオン等の窒素系複素環式アンモニウムイオン等が挙げられる。
次に三級スルホニウムカチオンとしては、例えばトリメチルスルホニウムカチオン、トリエチルスルホニウムカチオン、トリイソプロピルスルホニウムカチオン、トリブチルスルホニウムカチオンまたはフェニルジメチルスルホニウムカチオン等が挙げられる。
四級ホスホニウムカチオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムカチオン、テトラエチルホスホニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、テトラヘキシルホスホニウムカチオン、テトラシクロヘキシルホスホニウムカチオン、テトラフェニルホスホニウムカチオン、テトラメトキシフェニルホスホニウムカチオンまたはテトラナフチルホスホニウムカチオン等が挙げられる。
ホスホラニリデンアンモニウムカチオンとしては、例えばヘキサメチルホスホラニリデンアンモニウムカチオン、ヘキサエチルホスホラニリデンアンモニウムカチオン、ヘキサプロピルホスホラニリデンアンモニウムカチオン、ヘキサブチルホスホラニリデンアンモニウムカチオン、ヘキサフェニルホスホラニリデンアンモニウムカチオンまたはヘキサナフチルホスホラニリデンアンモニウムカチオン等が挙げられる。
ホスホラニリデンアミノホスホニウムカチオンとしては、トリス(ジメチルアミノ){トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ}ホスホニウムカチオン、トリス(ジエチルアミノ){トリス(ジエチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ}ホスホニウムカチオン、ビス(ジメチルアミノ)ビス{トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ}ホスホニウムカチオン、ジメチルアミノトリス{トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ}ホスホニウムカチオン、テトラキス{トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ}ホスホニウムカチオン、テトラキス{トリス(モルホリノ)ホスホラニリデンアミノ}ホスホニウムカチオンまたはテトラキス{トリス(ピペラジノ)ホスホラニリデンアミノ}ホスホニウムカチオン等が挙げられる。
このような有機オキシ塩化合物を形成するカチオンのうち、好ましくは例えば、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、セシウムカチオンまたはルビジウムカチオン等のアルカリ金属カチオンであり、例えばテトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンまたはテトラヘキシルアンモニウムイオン等のテトラアルキルアンモニウムイオンであり、例えばトリメチルスルホニウムカチオン、トリエチルスルホニウムカチオン、トリイソプロピルスルホニウムカチオンまたはトリブチルスルホニウムカチオン等のトリアルキルスルホニウムカチオンであり、例えばテトラフェニルホスホニウムカチオン、テトラメトキシフェニルホスホニウムカチオンまたはテトラナフチルホスホニウムカチオン等のテトラアリールホスホニウムカチオンであり、例えばヘキサフェニルホスホラニリデンアンモニウムカチオンまたはヘキサナフチルホスホラニリデンアンモニウムカチオン等のヘキサアリールホスホラニリデンアンモニウムカチオンであり、または例えばテトラキス{トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ}ホスホニウムカチオン、テトラキス{トリス(モルホリノ)ホスホラニリデンアミノ}ホスホニウムカチオンまたはテトラキス{トリス(ピペラジノ)ホスホラニリデンアミノ}ホスホニウムカチオン等のテトラキス{トリス(ジアルキルアミノ)ホスホラニリデンアミノ}ホスホニウムカチオンである。より好ましくは、上記の、テトラアルキルアンモニウムカチオン、テトラアリールホスホニウムカチオンまたはヘキサアリールホスホラニリデンアンモニウムカチオンである。
【0013】
一方、本発明の方法における有機オキシ塩化合物を形成するアニオンとしては、本発明の目的を阻害しない限り如何なる有機オキシアニオンでも構わないが、具体的に例示すれば、例えばメタノール、エタノール、ノルマル−プロパノール、イソプロパノール、ノルマル−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、ノルマル−オクチルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、アリルアルコール、クロチルアルコール、メチルビニルカルビノール、ベンジルアルコール、1−フェニルエチルアルコール、トリフェニルカルビノール、シンナミルアルコールまたはパーフロロ−tert−ブチルアルコール等のアルコール性水酸基上の活性水素原子がプロトンとして離脱して導かれる1価のアルコールの有機オキシアニオンが挙げられ、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトール等のアルコール性水酸基上の活性水素原子がプロトンとして離脱して導かれる多価アルコールの有機オキシアニオンが挙げられ、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸シクロヘキシル、酪酸イソプロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸ターシャリーブチル、カプロン酸ヘキシル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸エチル、フェニル酢酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸メチル、1,2−ビス(2−プロピルカルボニルオキシ)エタンまたは1,2,3−トリス(2−プロピルカルボニルオキシ)プロパン等のα−炭素上に存在する活性水素原子がプロトンとして離脱して導かれる1価のカルボン酸エステルの有機オキシアニオンが挙げられ、例えばマロン酸ジメチル、メチルマロン酸ジメチル、こはく酸ジエチル、2,3−ジメチルこはく酸ブチル、アジピン酸メチル、スベリン酸エチル、ブタンテトラカルボン酸メチル、1,2−ビス(2−メトキシカルボニルエトキシ)エタン、1,2−ビス(2−エトキシカルボニルプロポキシ)エタン、1,2−ビス(2−エトキシカルボニルプロピルメルカプト)エタン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ブトキシカルボニルプロピル)エチレンジアミンまたは数平均分子量が200ないし100万のオリゴもしくはポリ(メタクリル酸メチル)等のα−炭素上に存在する活性水素原子がプロトンとして離脱して導かれる多価カルボン酸エステルの有機オキシアニオンが挙げられ、または例えばアセト酢酸エチル、アセト酢酸シクロペンチル、カルバモイル酢酸メチル、2−シクロヘキシルカルボニル酢酸エチルまたはベンゾイル酢酸ブチル等のカルボニル基のα−炭素上に存在する活性水素原子がプロトンとして離脱して導かれるケトカルボン酸エステルの有機オキシアニオン等が挙げられる。
【0014】
これらのアニオンのうち、好ましくは上記の、1価のアルコールから導かれる有機オキシアニオン、1価のカルボン酸エステルから導かれる有機オキシアニオンまたは多価カルボン酸エステルから導かれる有機オキシアニオンである。より好ましくは1価のアルコールから導かれる有機オキシアニオンである。
本発明の方法における有機オキシ塩化合物とは、これらの有機オキシアニオンと前述の金属カチオンまたは有機カチオンの組み合わせにより形成されるものであるが、2種以上の有機オキシ塩化合物を併用しても構わない。
【0015】
有機オキシ塩化合物の使用量は目標とする(コ)ポリマーの分子量により任意に設定でき、後述する計算式(1)または(2)に基づいて使用量を決定することができる。
本発明の方法におけるヒドロキシカルボニル化合物とは、同一分子内に少なくともアルコール性水酸基とカルボニル基を併せ持つ化合物であり、これらを具体的に例示すれば、例えば1−ヒドロキシ−1,1−ジメチル−2−プロパノン、1−ヒドロキシ−1,1−ジメチル−3,3,3−トリメチル−2−プロパノン、α−ヒドロキシ−α−メチルエチルシクロヘキシルケトン、α−ヒドロキシ−α−メチルエチル−α’−メチルシクロヘキシルケトン、α−ヒドロキシジシクロヘキシルケトン、α−ヒドロキシ−α’−メチルジシクロヘキシルケトン、α−ヒドロキシ−α−メチルエチルフェニルケトン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイン、α−ヒドロキシ−α,α−ジフェニルアセトフェノン等のα−ヒドロキシケトン類が挙げられ、例えばα−ヒドロキシ酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸シクロヘキシル、α−ヒドロキシ酪酸エチル、α−ヒドロキシイソ酪酸ブチル、α−ヒドロキシ−α−フェニル酢酸メチル、α−ヒドロキシ−α,α−ジフェニル酢酸エチル等のα−ヒドロキシカルボン酸エステル類が挙げられ、例えばα−ヒドロキシ−N,N−ジメチルアセトアミド、α−ヒドロキシ−α,α−ジメチル−N,N−ジメチルアセトアミド、α−ヒドロキシ−α,α−ジフェニル−N,N−ジメチルアセトアミド、α−ヒドロキシ−N,N−ジエチルプロピオンアミドまたはα−ヒドロキシ−α−メチル−N,N−ジエチルプロピオンアミド等のα−ヒドロキシ−N,N−二置換アミド類が挙げられる。その他、本発明の目的を阻害しなければ、如何なるヒドロキシケトン化合物であっても構わないし、上記のヒドロキシケトン化合物を2種以上併用しても構わない。
【0016】
これらのうち好ましくは、例えば1−ヒドロキシ−1,1−ジメチル−2−プロパノン、1−ヒドロキシ−1,1−ジメチル−3,3,3−トリメチル−2−プロパノン、α−ヒドロキシ−α−メチルエチルシクロヘキシルケトン、α−ヒドロキシ−α−メチルエチル−α’−メチルシクロヘキシルケトン、α−ヒドロキシジシクロヘキシルケトン、α−ヒドロキシ−α’−メチルジシクロヘキシルケトン、α−ヒドロキシ−α−メチルエチルフェニルケトン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイン、α−ヒドロキシ−α,α−ジフェニルアセトフェノン等のα−ヒドロキシケトン類であり、例えばα−ヒドロキシ酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸シクロヘキシル、α−ヒドロキシ酪酸エチル、α−ヒドロキシイソ酪酸ブチル、α−ヒドロキシ−α−フェニル酢酸メチル、α−ヒドロキシ−α,α−ジフェニル酢酸エチル等のα−ヒドロキシカルボン酸エステル類であり、より好ましくは例えばα−ヒドロキシアセトン、1−ヒドロキシ−1,1−ジメチル−2−プロパノン、1−ヒドロキシ−1,1−ジメチル−3,3,3−トリメチル−2−プロパノン、α−ヒドロキシ−α−メチルエチルシクロヘキシルケトン、α−ヒドロキシ−α−メチルエチル−α’−メチルシクロヘキシルケトン、α−ヒドロキシジシクロヘキシルケトン、α−ヒドロキシ−α’−メチルジシクロヘキシルケトン、α−ヒドロキシ−α−メチルエチルフェニルケトン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイン、α−ヒドロキシ−α,α−ジフェニルアセトフェノン等のα−ヒドロキシケトン類である。
ヒドロキシケトン化合物の使用量は、通常、有機オキシ塩化合物1モルに対して0.05倍モル以上であり、好ましくは0.80ないし1.20倍モルであり、0.95ないし1.05倍モルがより好ましい。有機オキシ塩化合物に対して過剰分のヒドロキシケトンは連鎖移動剤として作用する。
【0017】
本発明の方法では、同一分子内に少なくともアルコール性水酸基とカルボニル基を併せ持つヒドロキシカルボニル化合物の存在下に、有機オキシ塩化合物を触媒として用いることにより極性不飽和化合物を化学量論的にもまた触媒的にもリビング重合させることができる。即ち(a)化学量論的リビング重合は、同一分子内に少なくともアルコール性水酸基とカルボニル基を併せ持つヒドロキシカルボニル化合物の存在下に、有機オキシ塩化合物と極性不飽和化合物とを接触させ重合させることによって実施でき、(b)触媒的リビング重合は、さらに連鎖移動剤として活性水素化合物を用いて実施できる。いずれの場合もリビング的に重合が進行するために、生成する(コ)ポリマーの数平均分子量や生成する(コ)ポリマーの分子数を計算式(1)または(2)によって算出し概ね予測することができる。
但し、式中のMWaは有機オキシ塩化合物中の有機オキシアニオンの分子量、Mbは極性不飽和化合物のモル数、Maは該有機オキシアニオンのモル数、MWbは極性不飽和化合物の分子量、MWcは連鎖移動剤の分子量、Mcは連鎖移動剤のモル数を表す。
(a)化学量論的リビング重合で得られる(コ)ポリマー:
<数平均分子量>≒MWa+(Mb/Ma)×MWb (1)
<生成(コ)ポリマーの分子数>≒(該有機オキシ塩化合物の分子数)
(b)触媒的リビング重合で得られる(コ)ポリマー:
<数平均分子量>≒(MWa×Ma+MWc×Mc+Mb×MWb)/(Ma
+Mc) (2)
<生成(コ)ポリマーの分子数>≒(該有機オキシ塩化合物の分子数+連鎖移動剤の分子数)
上式から明らかなように、本発明の方法によれば、使用する有機オキシ塩化合物、極性不飽和化合物または連鎖移動剤即ち活性水素化合物の分子量やこれらの使用モル数を適切に調節することによって、任意に数平均分子量や生成(コ)ポリマーの分子数を制御した(コ)ポリマーを製造することができる。
【0018】
ここで本発明の方法における、不飽和基とはアルケンから誘導される1価から4価の不飽和基であり、また極性不飽和化合物とは、カルボニル基、シアノ基およびピリジル基から成る群から選ばれる極性官能基と不飽和基とを同一分子内に併せ持つ化合物であり、且つ両者が直接的もしくは間接的に共役系を形成している化合物である。
これらの化合物としては、例えば、(1)(メタ)アクリル酸エステル類、(2)(メタ)アクリロニトリル類、(3)(メタ)アクリルアミド類、(4)ビニルピリジン類、(5)N−置換マレイミド類、(6)ビニルケトン類または(7)スチレン誘導体類等が挙げらる。この他、本発明の方法でアニオン重合できる極性不飽和化合物であれば如何なるものでも構わない。
【0019】
具体的に例示すれば、(1)(メタ)アクリル酸エステル類とは、アクリル酸もしくはメタクリル酸のエステル類である。それらは、例えば(1)−(a)1価のアルコール類とアクリル酸もしくはメタクリル酸とのモノエステル類、例えばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、1H、1H、2H、2H−ヘプタデカフルオロデシルアクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、シクロヘキシルメタアクリレート、イソホニルアクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレートまたはβ−フェニルエチルメタクリレート等が例示される。
(1)−(b)一末端がエーテル結合で保護された2価アルコール類とアクリル酸もしくはメタクリル酸とのモノエステル類、例えば、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、2−ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、1−メトキシ−2−プロピルメタクリレート、3−メトキシプロピルアクリレート、4−エトキシブチルメタクリレート、6−メトキシヘキサメチルアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジプロピレングリコールメタクリレート、エトキシトリプロピレングリコールメタクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレートまたはメトキシポリプロピレングリコールメタクリレート等が例示される。
(1)−(c)2価以上の多価アルコール類の全てのヒドロキシ基とアクリル酸もしくはメタクリル酸がエステル化している多価エステル類、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレートまたはポリプロピレングリコールジメタクリレート、更には、グリセリントリアクリレート、グリセリントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリ(エチレンオキシド)トリオールトリアクリレート、ポリ(プロピレンオキシド)トリオールトリアクリレートまたはポリ(プロピレンオキシド)トリオールトリメタアクリレート等が例示される。
(1)−(d)エステル結合を含むアルコール類とアクリル酸もしくはメタクリル酸とのエステル類、例えば2−ベンゾイルオキシエチルアクリレート、2−ベンゾイルオキシエチルメタアクリレート、2−アセチルオキシアクリレート、5−テトラヒドロフルフリルオキシカルボニルペンチルアクリレート、5−テトラヒドロフルフリルオキシカルボニルペンチルメタアクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−オキシ−5−オキサ−ヘプタン−1,7−ジイル−ジアクリレート等が例示される。
(1)−(e) 環状アセタール結合を有するアルコール類とアクリル酸もしくはメタクリル酸とのエステル類、例えば、2−ターシャル−ブチル−1,3−ジオキシシクロペンタン−2’−イルメタアクリレートまたは2−ターシャル−ブチル−5−エチル−5−ビニルカルボニルオキシメチル−1,3−ジオキシシクロヘキサン−2’(2)−イルアクリレート等が例示される。
(1)−(f)オキシスクシンイミドとアクリル酸もしくはメタクリル酸とのエステル類、例えば、N−オキシスクシンイミドアクリレートまたはN−オキシスクシンイミドメタクリレートなどが例示される。
(1)−(g)2級アミノ基を有するアルコール類とアクリル酸もしくはメタクリル酸とのエステル類、例えば2−ジメチルアミノエチルアクリレートまたは2−エチルプロピルアミノエチルメタクリレート等が例示される。
(1)−(8)シアノ基を有するアルコール類とアクリル酸もしくはメタクリル酸とのエステル類、例えば2−シアノエチルアクリレートまたは2−シアノプロピルメタクリレートなどが例示される。
(2)(メタ)アクリロニトリル類としてはアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルが挙げられる。
(3)(メタ)アクリルアミド類とは、アクリルアミド、N−一置換もしくはN,N−二置換の(メタ)アクリルアミド類である。それらは、例えば、アクリルアミドが例示される。
(3)−(a)N−一置換の(メタ)アクリルアミド類、例えばN−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−グリシジルアクリルアミドまたはN,N’−エチレンビスアクリルアミド等が例示される。
(3)−(b)N,N−二置換のモノ(メタ)アクリルアミド類、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−エチル−N−メチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジ−ノルマル−プロピルアクリルアミド、N,N−ジオクチルアクリルアミド、N,N−ジフェニルアクリルアミド、N−エチル−N−グリシジルアクリルアミド、N,N−ジグリシジルアクリルアミド、N−メチル−N−(4−グリシジルオキシブチル)アクリルアミド、N−メチル−N−(5−グリシジルオキシペンチル)アクリルアミド、N−メチル−N−(6−グリシジルオキシヘキシル)アクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイル−L−プロリンメチルエステル、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリンまたは1−アクリロイルイミダゾール等が例示される。
(3)−(c)N,N’−二置換のビス(メタ)アクリルアミド類、例えばN,N’−ジエチル−N,N’−エチレンビスアクリルアミド、N,N’−ジメチル−N,N’−ヘキサメチレンビスアクリルアミドまたはジ(N,N’−エチレン)ビスアクリルアミド等が例示される。
(4)ビニルピリジン類としては、例えば2−ビニルピリジン、2−イソプロペニルピリジンまたは4−ビニルピリジン等のビニルもしくはイソプロペニル置換ピリジン類が例示される。
(5)N−置換マレイミド類としては、例えば
(5)−(a)N−脂肪族置換マレイミド類、例えばN−メチルマレイミドまたはN−エチルマレイミド等が例示される。
(5)−(b)N−芳香族置換マレイミド類、例えばN−フェニルマレイミドまたはN−(4−メチルフェニル)マレイミド等が例示される。
(6)ビニルケトン類としては、例えばメチルビニルケトン、イソプロペニルメチルケトン、エチルビニルケトン、エチルイソプロペニルケトン、ブチルビニルケトンまたはフェニルビニルケトン等が例示される。
(7)スチレン誘導体類としては、例えばp−メトキシカルボニルスチレン、p−ターシャリー−ブトキシカルボニルスチレンまたはp−シアノスチレン等が例示される。これらの極性不飽和化合物は、本発明の方法を阻害しなければ、上述以外のいかなる置換基を有していてもよい。
【0020】
これらの極性不飽和化合物のうち、好ましくは、
(1)−(a)例えばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、1H、1H、2H、2H−ヘプタデカフルオロデシルアクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、シクロヘキシルメタアクリレート、イソホニルアクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレートまたはβ−フェニルエチルメタクリレート等のような1価のアルコール類とアクリル酸もしくはメタクリル酸とのモノエステル類。
(1)−(b)例えば、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、2−ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、1−メトキシ−2−プロピルメタクリレート、3−メトキシプロピルアクリレート、4−エトキシブチルメタクリレート、6−メトキシヘキシルアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジプロピレングリコールメタクリレート、エトキシトリプロピレングリコールメタクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレートまたはメトキシポリプロピレングリコールメタクリレート等のような一末端がエーテル結合で保護された2価アルコール類とアクリル酸もしくはメタクリル酸とのモノエステル類。
(1)−(3)例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、更には、グリセリントリアクリレート、グリセリントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリ(エチレンオキシド)トリオールトリアクリレート、ポリ(プロピレンオキシド)トリオールトリアクリレートまたはポリ(プロピレンオキシド)トリオールトリメタアクリレート等のような2価以上の多価アルコール類の全てのヒドロキシ基とアクリル酸もしくはメタクリル酸がエステル化している多価エステル類である。
(2)アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルである。
(3)−(b)例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−エチル−N−メチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジ−ノルマル−プロピルアクリルアミド、N,N−ジオクチルアクリルアミド、N,N−ジフェニルアクリルアミド、N−エチル−N−グリシジルアクリルアミド、N,N−ジグリシジルアクリルアミド、N−メチル−N−(4−グリシジルオキシブチル)アクリルアミド、N−メチル−N−(5−グリシジルオキシペンチル)アクリルアミド、N−メチル−N−(6−グリシジルオキシヘキシル)アクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイル−L−プロリンメチルエステル、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリンまたは1−アクリロイルイミダゾール等のようなN,N−二置換のモノ(メタ)アクリルアミド類である。
(4)例えば2−ビニルピリジン、2−イソプロペニルピリジンまたは4−ビニルピリジン等のビニルもしくはイソプロペニル置換ピリジン類である。
(5)−(b)例えばN−フェニルマレイミドまたはN−(4−メチルフェニル)マレイミド等のN−芳香族置換マレイミド類であり、および(6)例えばメチルビニルケトン、イソプロペニルメチルケトン、エチルビニルケトン、エチルイソプロペニルケトン、ブチルビニルケトンまたはフェニルビニルケトン等のビニルケトン類である。
より好ましくは、上述の(1)−(a)1価のアルコール類とアクリル酸もしくはメタクリル酸とのモノエステル類、上述の(1)−(b)一末端がエーテル結合で保護された2価アルコール類とアクリル酸もしくはメタクリル酸とのモノエステル類または上述の(1)−(c)2価以上の多価アルコール類の全てのヒドロキシ基とアクリル酸もしくはメタクリル酸がエステル化している多価エステル類であり、(2)アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルであり、および上述の(3)−(2)N,N−二置換のモノ(メタ)アクリルアミド類である。
【0021】
本発明の方法において、これらの極性不飽和化合物は、単独でも、複数のものを併用しても構わない。
併用する場合には、複数の極性不飽和化合物を、同時に併用する方法、順次に使用する方法または順次を繰り返して行なう方法などがとり得る。複数のモノマーを同時に併用して重合させると、それらの化合物の反応性の差にもよるが、比較的ランダム性の高い共重合体が得られ、2種以上のモノマーを順次に重合させると、2種以上のブロックを含むブロック共重合体が得られる。そのような順次併用を繰り返せばさらに複雑な共重合体が得られる。本発明の方法においては、触媒的リビング重合を実施する際に連鎖移動剤として活性水素化合物を使用する。
このような活性水素化合物としては、炭素原子上に活性水素を有する活性水素化合物、酸素原子上に活性水素を有する活性水素化合物、窒素原子上に活性水素を有する活性水素化合物または硫黄原子上に活性水素を有する活性水素化合物等が挙げられる。この他、本発明の方法を阻害しない限り如何なる活性水素化合物でも構わない。
【0022】
炭素原子上に活性水素を有する活性水素化合物を、具体的に例示すれば、1価のカルボン酸エステル類、例えば酢酸エチル、プロピオン酸シクロヘキシル、酪酸イソプロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸ターシャリーブチル、カプロン酸ヘキシル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸エチル、フェニル酢酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸メチル、1,2−ビス(2−プロピルカルボニルオキシ)エタンまたは1,2,3−トリス(2−プロピルカルボニルオキシ)プロパン等;多価カルボン酸エステル類、例えばマロン酸ジメチル、メチルマロン酸ジメチル、こはく酸ジエチル、2,3−ジメチルこはく酸ブチル、アジピン酸メチル、スベリン酸エチル、ブタンテトラカルボン酸メチル、1,2−ビス(2−メトキシカルボニルエトキシ)エタン、1,2−ビス(2−エトキシカルボニルプロポキシ)エタン、1,2−ビス(2−エトキシカルボニルプロピルメルカプト)エタンまたはN,N,N’,N’−テトラキス(2−ブトキシカルボニルプロピル)エチレンジアミン等;ケトカルボン酸エステル類、例えばアセト酢酸エチル、アセト酢酸シクロペンチル、カルバモイル酢酸メチル、2−シクロヘキシルカルボニル酢酸エチルまたはベンゾイル酢酸ブチル等;ニトリル類、例えばアセトニトリル、2−シアノプロパン、マロノニトリル、メチルマロノニトリル、1,3−ジシアノプロパンまたはアジポニトリル等;ケトン類、例えばアセトン、メチルエチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジシクロヘキシルケトン、アセトフェノンまたはイソプロピルフェニルケトン等が挙げられる。
【0023】
酸素上に活性水素を有する活性水素化合物を、具体的に例示すれば、1価のアルコール類、例えばメタノール、エタノール、ノルマル−プロパノール、イソプロパノール、ノルマル−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、ノルマル−オクチルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、アリルアルコール、クロチルアルコール、メチルビニルカルビノール、ベンジルアルコール、1−フェニルエチルアルコール、トリフェニルカルビノール、シンナミルアルコール、パーフロロ−tert−ブチルアルコール、α−ヒドロキシイソプロピルフェニルケトン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンまたはα−ヒドロキシイソブタン酸メチル等;多価アルコール類、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトール等;芳香族ヒドロキシ化合物、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、2−ナフトール、2,6−ジヒドロキシナフタレンまたはビスフェノールA等の芳香族ヒドロキシ化合物類等が挙げられる。
窒素原子上に活性水素を有する活性水素化合物を、具体的に例示すれば、脂肪族または芳香族一級アミン類、例えばメチルアミン、エチルアミン、ノルマル−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマル−ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、β−フェニルエチルアミン、アニリン、o−トルイジン、m−トルイジンまたはp−トルイジン等;脂肪族または芳香族二級アミン類、例えばジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、ジ−ノルマル−プロピルアミン、エチル−ノルマル−ブチルアミン、メチル−sec−ブチルアミン、ジペンチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N−メチルアニリンまたはジフェニルアミン等;一級もしくは二級アミノ基を有する多価アミン類、例えばエチレンジアミン、ジ(2−アミノエチル)アミン、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、トリ(2−アミノエチル)アミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミンまたはジ(2−メチルアミノエチル)アミン等;飽和環状二級アミン類、例えばピロリジン、ピペリジン、モルホリンまたは1,2,3,4−テトラヒドロキノリン等:不飽和環状二級アミン類、例えば3−ピロリン、ピロール、インドール、カルバゾール、イミダゾール、ピラゾールまたはプリン等:ニ級アミノ基を含む環状の多価アミン類、例えばピペラジン、ピラジンまたは1,4,7−トリアザシクロノナン等:無置換またはN−一置換の酸アミド類、例えばアセトアミド、プロピオンアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチル安息香酸アミドまたはN−エチルステアリン酸アミド等;環状アミド類、例えばβ−プロピオラクタム、2−ピロリドン、δ−バレロラクタムまたはε−カプロラクタム等;ジカルボン酸のイミド類、例えばこはく酸イミド、マレイン酸イミドまたはフタルイミド等が挙げられる。
硫黄原子上に活性水素を有する活性水素化合物としては、1価のチオール類、例えばメタンチオール、エタンチオール、ノルマル−ブタンチオール、ターシャリー−ブタンチオール、ヘキサンチオール、デカンチオール、シクロペンチルメルカプタンまたはシクロヘキシルメルカプタン等;多価チオール類、例えば1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,2,3−プロパントリチオールまたは2,3−ジ(メルカプトメチル)−1,4−ブタンジチオール等;芳香族メルカプト化合物、例えばチオフェノール、o−チオクレゾール、チオナフトールまたは1,2−ベンゼンジチオール等の芳香族メルカプト化合物類が挙げられる。
【0024】
活性水素化合物としては、さらには、末端に活性水素を有するポリ(アルキレンオキシド)類例えばポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシド等;末端および/または主鎖中に活性水素を有するポリ{(メタ)アクリル酸エステル}類、ポリ{(メタ)アクリロニトリル}類、ポリ(アクリルアミド)類、ポリ(ビニルピリジン)類、ポリ(N−置換マレイミド)類、ポリ(ビニルケトン)類またはポリ(スチレン誘導体)類さらにポリエステル類、ポリアミド類、ポリラクチド類およびポリシロキサン類などのポリマー、またそれらのコポリマーが挙げられる。
上述の活性水素化合物は連鎖移動剤として作用するが、その作用機構は必ずしも明らかではないが、次のように解釈できる。有機オキシ塩化合物を構成する有機オキシアニオンが極性不飽和化合物へ付加して生じる新たなアニオンと活性水素を有する部位との平衡反応が、可逆的にしかも極めて早く起こるために、活性水素を有する部位から活性水素がプロトンとして離脱してこれらがアニオンに導かれ、その結果これらの部位からも重合が開始しているものと考えられる。該活性水素化合物には複数個の活性水素を有する化合物が含まれるが、重合が、活性水素を有する全ての部位から、またはその一部から開始するか否かは、該活性水素の解離度、導かれたアニオンの反応性や極性不飽和化合物の種類、あるいは使用する場合の溶媒の種類等に依存する。
【0025】
これらの活性水素化合物は単独で用いても複数個同時に用いても構わない。
これらの活性水素化合物のうち、好ましくは、例えば酢酸エチル、プロピオン酸シクロヘキシル、酪酸イソプロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸ターシャリーブチル、カプロン酸ヘキシル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸エチル、フェニル酢酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸メチル、1,2−ビス(2−プロピルカルボニルオキシ)エタンまたは1,2,3−トリス(2−プロピルカルボニルオキシ)プロパン等の1価のカルボン酸エステル類であり、例えばマロン酸ジメチル、メチルマロン酸ジメチル、こはく酸ジエチル、2,3−ジメチルこはく酸ブチル、アジピン酸メチル、スベリン酸エチル、ブタンテトラカルボン酸メチル、1,2−ビス(2−メトキシカルボニルエトキシ)エタン、1,2−ビス(2−エトキシカルボニルプロポキシ)エタン、1,2−ビス(2−エトキシカルボニルプロピルメルカプト)エタンまたはN,N,N’,N’−テトラキス(2−ブトキシカルボニルプロピル)エチレンジアミン等の多価カルボン酸エステル類であり、例えばメタノール、エタノール、ノルマル−プロパノール、イソプロパノール、ノルマル−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、ノルマル−オクチルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、アリルアルコール、クロチルアルコール、メチルビニルカルビノール、ベンジルアルコール、1−フェニルエチルアルコール、トリフェニルカルビノールまたはシンナミルアルコール、パーフロロ−tert−ブチルアルコール、α−ヒドロキシイソプロピルフェニルケトン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンまたはα−ヒドロキシイソブタン酸メチル等の1価のアルコール類であり、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトール等の多価アルコール類であり、1価のチオール類、例えばメタンチオール、エタンチオール、ノルマル−ブタンチオール、ターシャリー−ブタンチオール、ヘキサンチオール、デカンチオール、シクロペンチルメルカプタンまたはシクロヘキシルメルカプタン等;末端および/または主鎖中に活性水素を有する、ポリ(アルキレンオキシド)類、ポリ{(メタ)アクリル酸エステル}類、ポリ{(メタ)アクリロニトリル}類、ポリ(アクリルアミド)類、ポリ(ビニルピリジン)類、ポリ(N−置換マレイミド)類、ポリ(ビニルケトン)類またはポリ(スチレン誘導体)類であり、またそれらのコポリマー等である。
【0026】
本発明の方法における重合反応の様式は特に制限されるものではない。通常、ヒドロキシケトン化合物と、または必要であればこれを適当な溶媒に溶解させた溶液と、有機オキシ塩化合物を接触させた後に、使用する場合に用いる連鎖移動剤を添加接触させ、次いで極性不飽和化合物を接触させて重合させる。必要に応じてそれらを一括して仕込む回分法でも、該極性不飽和化合物を間歇または連続的に供給する方法でも実施できる。また共重合体を得る場合には所望する形の共重合体に応じて、それらの複数の極性不飽和化合物を同時に一括、間歇または連続的に供給する方法や複数の極性不飽和化合物を順次に使用する方法がとり得る。有機オキシ塩化合物の使用量は特に制限はないが、通常、該極性不飽和化合物1モルに対して、1×10−7ないし1×10−1モルであり、好ましくは、1×10−4ないし3×10−1モルの範囲である。ヒドロキシケトン化合物の使用量は、通常、有機オキシ塩化合物1モルに対して0.05倍モル以上であり、好ましくは0.50ないし1.50倍モルであり、0.95ないし1.05倍モルがより好ましい。連鎖移動剤即ち活性水素化合物の使用量は、製造する(コ)ポリマーの分子量によって一様ではないが、通常、極性不飽和化合物1モルに対して1×10−6ないし5×10−1モルであり、好ましくは、1×10−4ないし2×10−1モルの範囲である。重合反応の温度は、用いる有機オキシ塩化合物、ヒドロキシケトン化合物、使用する場合の連鎖移動剤および該極性不飽和化合物の種類や量等によって一様ではないが、通常、−50℃ないし250℃であり、好ましくは−20℃ないし150℃の範囲である。重合反応の圧力は、用いる該極性不飽和化合物の種類や量および反応温度等により一様ではないが、通常、3.0MPa(メガパスカルで表す絶対圧、以降同様)以下であり、好ましくは0.01〜1.5MPa、より好ましくは0.1ないし1.0MPaである。
【0027】
重合反応の反応時間は、用いる有機オキシ塩化合物、ヒドロキシケトン化合物、使用する場合の連鎖移動剤および該極性不飽和化合物の種類や量等、反応温度等によって異なるが、通常、50時間以内であり、好ましくは0.1ないし24時間である。
該極性不飽和化合物には、通常その保存安定性を向上させるために重合禁止剤が極微量添加されているが、本発明の方法における重合反応は、場合によっては該禁止剤の存在下に実施することもできる。
本発明の方法における重合反応は極性不飽和化合物の溶融状態で実施することもできるが、必要ならば適宜な溶媒を用いることもできる。場合により液は均一でも懸濁でも構わない。それらの溶媒としては、例えばn−ヘキサン、n−ヘプタンまたはシクロヘキサン等の脂肪族または脂環族炭化水素類であり、例えばベンゼン、トルエンまたはキシレン等の芳香族炭化水素類であり、例えばクロロベンゼンまたはジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン化物類であり、例えばジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルまたはジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類であり、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホランまたはN、N’−ジメチルイミダゾリジノン等の非プロトン性極性溶媒類である。この他、本発明の方法を阻害しない限り、いかなる溶媒でも構わない。
重合後、生成した(コ)ポリマーの全てまたは一部の成長末端には有機オキシ塩化合物を構成するカチオンが対イオンとして残存している。安定に(コ)ポリマーを取り出すため、例えば塩酸、硫酸もしくはりん酸などの無機酸または例えば酢酸、プロピオン酸、ベンゼンスルホン酸、もしくはパラトルエンスルホン酸などの有機酸を加え、該カチオンをこれらの無機酸または有機酸の塩にすることによって反応を停止することもできる。生成した(コ)ポリマーは、そのまま次の目的のために使用される場合もあるし、また反応停止後、必要な場合に用いた溶媒を留去して乾固するだけで次の目的のために使用される場合もあるが、通常は、反応液そのものを、または乾固体を適宜な溶媒に溶解させた溶液を、貧溶媒に加えて沈殿化する方法などによって取り出すことができる。またその沈殿化方法を繰り返して精製することもできる。
【0028】
本発明の方法で得られる第三の発明である、本発明の方法で得られる(コ)ポリマー(A)を用いた熱硬化粉体塗料組成物について説明する。
(コ)ポリマー(A)としては、[1]に記載の方法を用いて得られる、1種またはそれ以上のエポキシ基含有極性不飽和化合物の(共)重合体、または該エポキシ基含有極性不飽和化合物と極性不飽和化合物との共重合体が用いられる。
エポキシ基含有極性不飽和化合物としてはエポキシ基を含有する不飽和化合物であれば特に制限無く使用できるが、代表例としてはグリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルアクリレート、アクリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有極性不飽和化合物が挙げられ、これらは、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
エポキシ基含有極性不飽和化合物と共重合しても良い、極性不飽和化合物としては、極性の不飽和化合物であれば特に制限ないが、その代表例としては、炭素原子数が1〜14のアルキル基又はシクロヘキシル基を有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル単量体、例えば、メチル−、エチル−、n−プロピル−、イソプロピル−、n−ブチル−、イソブチル−、n−アミル−、イソアミル−、n−ヘキシル−、シクロヘキシル−、2−エチルヘキシル−、オクチル−、2−エチルオクチル−、デシル−、ドデシル−、シクロヘキシル−等のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを含むアクリル酸誘導体又はメタクリル酸誘導体等を挙げることができ、これらを単独で又は2種以上を混合・組合せて使用することができる。
【0029】
極性不飽和化合物の他の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル類、マレイン酸やイタコン酸等のジカルボン酸のエステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ふっ化ビニル、モノクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロプレン等のハロゲン化エチレン系不飽和単量体類、アクリロニトリルやメタアクリロニトリル等のニトリル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、炭素原子数4ないし20のα−オレフィン等のα−オレフィン類、ラウリルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、ビニルピロリドン、4−ビニルピロリドン等の含窒素ビニル類等他のエチレン系不飽和単量体を挙げることができ、これらを単独で又は2種以上を混合・組合せて使用することができる。
本発明の方法で、(コ)ポリマー(A)中のエポキシ基含有極性不飽和化合物は全単量体中の15〜100モル%、好ましくは20〜60モル%である。
粉体塗料組成物の貯蔵安定性、粉体塗料焼付時に塗料組成物流動性低下に起因する塗膜平滑性等を考慮して、(コ)ポリマー(A)のガラス転移温度は10〜100℃が好ましく、さらに好ましくは20〜70℃である。ガラス転移温度が10℃以上では、貯蔵安定性が良好である。また、100℃未満では、好ましい溶融粘度が得られ、塗膜の外観特性が良好である。
【0030】
本発明において、ガラス転移温度はロボットDSC RDC220(セイコー電子工業製)にて、−20℃から120℃までを10℃/分にて測定した数値を採用することができる。ガラス転移温度の定義については、高分子辞典(高分子学会編集、朝倉書店発行、昭和46年初版)131頁に記載されている。
本発明の熱硬化性粉体塗料に使用する前記(コ)ポリマー(A)を硬化することのできる硬化剤組成物成分(B)としては、(コ)ポリマー(A)中の官能基と反応して硬化できるものが用いられるが、該官能基がエポキシ基の場合は、多価カルボン酸及び/又は多価カルボン酸無水物からなる群から選択された少なくとも1種類の化合物であることが好ましい。この化合物は本発明の粉体塗料用樹脂組成物の分子内に存在するエポキシ基と反応する硬化剤組成物成分である。
多価カルボン酸系化合物としては、脂肪族、芳香族、脂環族の何れの化合物も使用できる。芳香族多価カルボン酸の具体例としては、例えば、イソフタル酸、トリメリット酸等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて使用する事ができる。脂環式多価カルボン酸の具体例としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて使用する事ができる。また、カルボキシル基を有するポリエステル樹脂等も使用できる。
但し、本発明においては、脂肪族多価カルボン酸系化合物を用いることが、平滑性、耐候性等の塗膜特性の点で好ましい。
脂肪族多価カルボン酸(b−1)は、実質的に、分子内にカルボキシル基を、少なくとも2個有する脂肪族化合物であれば、特に制限されず、1種類又は2種類以上を用いることができる。
【0031】
脂肪族多価カルボン酸(b−1)の具体例としては、脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン2酸、ドデカン2酸、ブラシル酸、オクタデカン2酸、エイコサン2酸等炭素数4〜24程度のものが挙げられ、これらの中では、ドデカン2酸が好ましく、これらは単独で又は組み合わせて使用する事ができる。
本発明において多価カルボン酸無水物(b−2)は、実質的に、分子内にカルボキシル基を有するか又は有しない、線状の2量体以上のオリゴ又はポリの脂肪族の酸無水物を含み、分子内に実質的に存在するカルボキシル基及び/又は酸無水物基を、少なくとも2個有する化合物であれば、特に制限されず、1種類または2種類以上を用いることができる。例えば、多価カルボン酸(b−1)の脱水縮合物が挙げられる。これらの中ではドデカン2酸の脱水線状縮合物が好ましく、代表例としては、Additol XVL1381(ソルーシア製)等がある。多価カルボン酸無水物(b−2)は、融点が40〜150℃の範囲にあるように調製することが好ましい。
本発明の方法では、通常、塗料に添加される種々の添加剤が添加される。本発明の熱硬化性粉体塗料組成物には、目的に応じ、適宜、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミドなどを包含する合成樹脂組成物、繊維素又は繊維素誘導体などを包含する天然樹脂又は半合成樹脂組成物を配合して塗膜外観又は塗膜物性を向上させることもできる。
本発明の熱硬化性粉体塗料には、目的に応じ、適宜、硬化触媒、顔料、流動調整剤、チクソ剤(チクソトロピー調整剤)、帯電調整剤、表面調整剤、光沢付与剤、ブロッキング防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、ワキ防止剤、スリップ剤、酸化防止剤等の添加剤を配合してもよい。またクリアコートとして使用する場合に少量の顔料を配合し、完全に隠ぺい性の発現しない程度に着色していてもよい。
【0032】
(コ)ポリマー(A)及び(B)を含む組成物を機械的に混練する際の被混練物の温度は、実質的に均一な粉体塗料組成物を調製できれば特に制限されない。溶融混練装置としては、通常、加熱ロール機、加熱ニーダー機、押出機(エクストルーダー)等を使用する。
本発明の熱硬化性粉体塗料組成物を配合する方法の具体例としては、ロール機、ニーダー機、ミキサー(バンバリー型、トランスファー型等)、カレンダー設備、押出機(エクストルーダー)等の混練機や捏和機を、適宜、組み合わせ、各工程の条件(温度、溶融若しくは非溶融、回転数、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気等)を、適宜、設定して、充分に均一に混合し、その後、粉砕装置により、均一な微細粉末状態の粉体塗料組成物を得る方法を採用することができるが、これらに限定されるものではない。
混練により得られた塊状塗料は、冷却の後、平均粒径10〜90μm程度となるように粉砕される。使用される粉砕器としては、ハンマーミル等が挙げられる。
粉砕により得られた粉体塗料は、静電塗装法、流動浸漬法等の塗装方法によって、熱硬化性粉体塗料組成物の粉末を、塗装対象物に付着せしめ、加熱して熱硬化させ塗膜を形成させる。本発明の熱硬化性粉体塗料組成物の焼き付けは、通常、約100℃〜約180℃、より好ましくは、約120℃〜約160℃の温度において、通常、約10分間〜約60分間、行うことにより、(コ)ポリマー(A)と硬化剤組成物成分(B)との架橋反応を行うことができる。焼き付け後、室温までに冷却後、優れた特性を有する塗膜を得ることができる。
また、本発明の熱硬化性粉体塗料組成物を上塗り塗料として用いる場合、その下塗り塗料として、従来の溶剤型塗料のみならず、水性塗料を用いた場合においても、焼き付け後の塗膜は溶剤型塗料を用いた場合と同様に、本発明の塗料は優れた特性を有する。
即ち、水性下塗り塗料(顔料入り及び/又は金属粉入りを含む)を塗装し、所定の時間乾燥させた後、本発明の熱硬化性粉体塗料組成物を上記の方法によって下塗り塗料の上に付着せしめ、加熱して熱硬化させ塗膜を形成させる。
本発明に係る熱硬化性粉体塗料組成物の塗装方法は、自動車の車体又は自動車部品(アルミホイール、ワイパー、センターピラー等)へも用いられる。
本発明に係る熱硬化性粉体塗料組成物を、適当な又は公知・公用の塗装方法により形成した塗膜は、優れた貯蔵安定性(耐ブロッキング性等)、外観特性(平滑性、鮮映性、透明性等)、物理特性(硬度、耐擦傷性等、上塗り密着性)、化学特性(耐候性、耐酸性、耐溶剤性等)に関し、優れた性能を有する。
【実施例】
【0033】
次に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、これらは限定的でなく単に説明のためと解されるべきである。
実施例1
攪拌機、滴下ロート及び温度測定管を装備した300mlのフラスコを充分に乾燥後、これにヒドロキシケトン化合物である2−ヒドロキシ−2,4,4−トリメチル−3−ペンタノン169mg(1.17mmol)を精秤し、次に、窒素雰囲気下室温で、有機オキシ塩化合物であるテトラフェニルホスホニウムメトキシドの0.10Mのテトラヒドロフラン(THFと略す。以下同様)溶液11.7ml(1.17mmol)を加え撹拌して均一溶液を得た。この溶液に連鎖移動剤としてn−ブタノール87mg(1.17mmol)を加え、さらに2.00Mのメタクリル酸メチル(以下、MMAと略す)のTHF溶液176ml(35.1g:351mmolのMMAを含む)を、反応温度が50℃を超えない速度で滴下した。滴下に約30分を要した。滴下終了後、さらに3時間撹拌した後、1.0Mの酢酸のTHF溶液2.00ml(2.00mmol)を加えて反応を停止した。この反応混合物を微量採取して、1,3,5−トリクロロベンゼンを内部標準としたガスクロマトグラフィーによる定量分析を行ったところ、MMA及びn−ブタノールは完全に消費されていた。GPC分析に使用する約0.5ml以外の反応混合物を、約2Lのメタノールに注いだ。析出した固体を濾別し、この固体を40mlのメタノールで3回洗浄した。得られた固体を50℃、10mmHgで6時間乾燥し、無臭の固体を34.2g得た。この固体の、H−NMR及び13C−NMRスペクトルは、Aldrich社製のポリ(メタクリル酸メチル)のものとほぼ同等であった。残りの約0.5mlの反応混合物を、その中のポリ(メタクリル酸メチル)の濃度が約0.5重量%となるまでTHFで希釈した溶液を、THFを展開溶媒としたGPCカラム(昭和電工社製、shodex−KF−803Lとshodex−KF−804Lとの2本連結)を用い、ポリ(メタクリル酸メチル)を標準ポリマーとしたGPC分析で解析したところ、本発明の第二で述べた計算式(2)から算出される理論数平均分子量15,100に対して、得られたポリ(メタクリル酸メチル)の数平均分子量は14,800であり理論値とよく一致していた。さらに分子量分布指数(Mw/Mn)は1.11と極めて狭く、このポリマーが単分散性ポリマーであることが判った。またこの結果は、1分子の触媒成分に対して数平均分子量の揃ったポリマーが2分子生成したことを意味するものである。
【0034】
実施例2〜6
さらにMMAの触媒的リビング重合性を確認するために、実施例1に用いた連鎖移動剤であるn−ブタノールの量を表1に示すように変化させた以外は実施例1と全く同様に行った。いずれの場合もn−ブタノールとMMAは完全に消費されていた。得られたポリ(メタクリル酸メチル)のGPC分析結果を実施例1の結果とともに表1に示す。各実施例で得られたポリマーの数平均分子量は、理論数平均分子量とかなり良い一致を示している。理論平均分子量に対するズレは理論平均分子量の3%以内であった。更に得られたポリマーの分子量分布指数は1.06〜1.18であり、単分散性ポリマーであった。これら一連の結果は、同一分子内に少なくともアルコール性水酸基とカルボニル基を併せ持つヒドロキシカルボニル化合物の存在下に、有機オキシ塩化合物を触媒として用いるMMAの重合が触媒的にリビング重合で進行していることを強く示すものである。
【0035】
比較例1
実施例1に用いたヒドロキシケトン化合物である2−ヒドロキシ−2,4,4−トリメチル−3−ペンタノンを使用しなかった以外は全く実施例1と同様に行った。n−ブタノール及びMMAの消費率は各々78%及び100%であった。得られたポリマーは、数平均分子量が41,600と8,000であるポリマーの混合物であり、分子量分布指数は4.61であった。この結果と実施例1の結果は、ヒドロキシケトン化合物が重合反応を制御するために極めて重要な役割を果たしていることを示している。
【0036】
【表1】

【0037】
応用実施例
以下の例の説明中「部」及び「%」は、特に説明のない限り、質量による値である。
[塗装板の調製]
アクリル−メラミン架橋の白色塗料を、りん酸亜鉛処理を施した0.8mm厚のボンデライト鋼板に、20μm厚で塗装し、その後、140℃、30分間焼付けをして、下地処理鋼板を調製した。
[性能評価]
性能評価は次のようにして行なった。
(1)体塗料のブロッキング性試験
粉体塗料6.0gを内径20mmの円筒形容器に入れ、23℃で7日間貯蔵後粉体を取り出し粉体塗料のブロッキング状態を目視及び指触で観察し、◎〜×で評価した。
◎全く異常がない。
○やや劣る。
×劣る。
(2)目視外観(平滑性、鮮映性)
塗膜外観を目視判定して、◎〜×で評価した。
◎特に優れている。
○良好。
×劣る。
(3)ロングウエーブ(Lw)
ウエーブスキャンプラス(BYK社製)にて測定。塗膜の平滑性を表す指標であり、数値が小さいほど平滑となる。
(4)光沢
光沢計での測定(60°グロス)値で示した。
(5)透明性
下塗塗膜との色差(ΔE)をカラーガイド(BYK社製)にて測定。
◎ −0.5<ΔE<0.5
× ΔE≦−0.5 または 0.5≦ΔE
(6)塗膜硬度試験
鉛筆引っ掻き試験(日本工業規格 JIS K5400 6.14に準ずる。)により評価した。表示は鉛筆硬度記号で示した。
(7)擦傷性
塗膜表面を3%の研磨剤懸濁液を用いてブラシで摩擦する擦傷試験を行ない、摩擦の前後で光沢の(20°グロス)評価を行ない、光沢保持率を算出した。
光沢保持率=(試験後20°グロス)/(試験前20°グロス)×100
光沢保持率を◎、○、×で評価した。
◎60%以上
・ 40%以上60%未満
×40%未満
(8)リコード性
JIS K5400 8.5.2碁盤目テープ法に準じて試験を実施。未剥離部分の個数を◎、○、×で評価した。
◎100個
○80個以上99個未満
×80個未満
(9)耐酸性
10容積%の硫酸を塗膜表面に滴下し、室温にて1日放置した。その後、硫酸滴を拭き取り、外観を観察して、◎、○、×で評価した。
◎痕跡なし
○極若干の痕跡
×痕跡あり
(10)耐溶剤性
キシロールを含浸させたガーゼで塗膜表面を往復50回擦った後、その塗膜を観察して、◎、○、×で評価した。
◎痕跡がない。
○極若干の痕跡
×痕跡がある。
(11)耐候試験
QSWOMによる2000時間の促進テストを行い、促進テスト前後の塗膜の光沢度を測定し、光沢残存率(%)を求めた。光沢残存率は数式した。
光沢残存率=(促進後20°グロス)/(促進前20°グロス)×100。
【0038】
[ポリマー(A)製造例1]
本願発明の(コ)ポリマー(A)の塗料用樹脂としての評価を行った。
実施例7(製造例1)
攪拌機、滴下ロート及び温度測定管を装備した10Lのフラスコを充分に乾燥後、これに窒素雰囲気下室温で、ヒドロキシケトン化合物である1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン5.37g(26.3mmol)及びオキシ塩化合物であるメチルマロン酸ジエチルのカリウム塩5.33g(25.1mmol)を精秤した。これにTHF1400mlを加え撹拌して均一溶液を得た。この溶液に連鎖移動剤としてメチルイソブチレート12.8g(126mmol)を加えた。その後、溶液を氷冷下に冷却した。さらに1.00MのMMA、0.1Mのn−ブチルメタクリレート(以下、n−BMAと略す)、0.1Mのイソブチルメタクリレート(以下、i−BMAと略す)及び0.8Mのグリシジルメタクリレート(以下、GMAと略す)をそれぞれ含有するTHF溶液1256ml(126g:1.26molのMMA、17.9g:126mmolのn−BMA、17.9g:126mmolのi−BMA、143g:1.00mmolのGMA、を含む)を、反応温度が10℃を超えない速度で滴下した。滴下に約2時間を要した。滴下終了後、さらに室温で5時間撹拌した後、1.0Mの酢酸のTHF溶液46.5ml(46.5mmol)を加えて反応を停止した。全てのモノマーは完全に消費されていた。反応混合物にケイ酸アルミニウム25.6gを加え、室温で2時間撹拌し、これを濾過した。母液を濃縮乾固し、得られた固体を50℃、10mmHgで24時間乾燥した。無色無臭の固体を297g得た。このもののガラス転移温度は35℃であり、理論数平均分子量2,138に対して、得られた共重合体の数平均分子量は2,410で、分子量分布指数は1.34であった。
【0039】
[(コ)ポリマー(A)関連の比較製造例]
撹拌機、温度計、還流コンデンサー及び窒素導入管を備えた4ッ口フラスコにキシレン66.7部を仕込み、還流温度まで昇温した。ここに表1に示す極性不飽和化合物(部)と、重合開始剤としてターシャリーブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(PB−O 日本油脂製)を溶解し、その混合溶液を5時間に渡り滴下して、さらに、その後は100℃で5時間保持した。得られた重合溶液の溶剤を除去することによりポリマー(比較製造例1,2,3)を得た。表2に、得られた共重合体の特性値も併せて記載した。
【0040】
【表2】

【0041】
[応用実施例1,2]
ポリマー(A)(製造例1)と硬化剤組成物成分(B)を表2に示す割合(部)で配合し、(A)、(B)合計100重量部に対して、CGL1545(チバガイギー社製、紫外線吸収剤)を1.5部、チヌビン144(チバガイギー社製、光安定化剤)を1.5部、ベンゾイン(ワキ防止剤)を0.2部、エチレンビスステアロアミド(ワキ防止&スリップ剤)0.5部、レジミックスRL−4(流動調整剤)を1.0部添加し、上記混合物を押し出し混連機にて溶融混練して冷却後、粉砕機にて微粉砕し、粉体塗料を得た。得られた粉体塗料を下地処理鋼板上に静電スプレーにて40μmの膜厚になるように塗装後、150℃で30分間加熱しテスト板を得た。さらに、得られた塗装板上に粉体塗料を静電スプレーにて40μmの膜厚になるように塗装後、150℃で30分間加熱し、上塗り密着性テスト板を得た。
【0042】
[応用比較例1,2,3,4]
応用比較ポリマー((A)応用比較製造例1、2、3)と(B)を表3に示す割合(部)で配合した以外は、応用実施例1と全く同様な方法によりテスト板を得た。
[応用実施例、比較例評価結果]
応用実施例1,2で形成した粉体塗料及び塗膜の評価を行った結果を表3、4に示す。また、これに関連する応用比較例1,2,3,4で形成した粉体塗料及び塗膜の評価を行った結果を表3、4に示す。表4に示した実施例の粉体塗料組成物は本発明の範囲内であり、この結果は、本発明が従来粉体塗料と比較して貯蔵安定性(ブロッキング性等)を低下させることなく、外観特性(平滑性、鮮映性、透明性等)、物理特性(硬度、耐擦傷性、リコート性等)、化学特性(耐候性、耐酸性、耐溶剤性等)を有した塗膜を与えることのできる熱硬化性粉体塗料組成物であることを示している。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の方法によれば、ヒドロキシカルボニル化合物を、製造上や取り扱い上に特に問題がなく、安価な有機オキシ塩化合物と共に用いることによって、該有機オキシ塩化合物の極性不飽和化合物に対する重合性能を飛躍的に向上させることができ、また同一分子内に少なくともアルコール性水酸基とカルボニル基を併せ持つヒドロキシカルボニル化合物の存在下に、有機オキシ塩化合物を触媒として極性不飽和化合物を重合させることにより、生成するポリマーの数平均分子量や生成分子数が精密に制御されたポリマーを極めて効率的に製造することができる。
本発明は、従来技術では達成されなかった、貯蔵安定性、外観特性、物理特性、化学特性を有した、熱硬化性粉体塗料組成物(例えば、アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物)に関するものであり、特に、自動車等の車輌の車体、及び、自動車等の車輌の部品(アルミホイール、ワイパー、ピラー、ドアハンドル、フェンダー、ボンネット、エアスポイラー、スタビライザー、フロントグリル等)の塗装−特に、上塗り塗装−に好適に適用される、熱硬化性粉体塗料組成物(例えば、アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物)を提供するものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機オキシ塩化合物を触媒として、極性不飽和化合物を(共)重合させてポリマーを製造するに際し、同一分子内に少なくともアルコール性水酸基とカルボニル基を併せ持つヒドロキシカルボニル化合物の存在下に、重合させることにより得られたリビングポリマーである極性不飽和化合物の(コ)ポリマー(A)と該(コ)ポリマーを硬化できる硬化剤組成物成分(B)を含有する熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項2】
前記(コ)ポリマー(A)が、エポキシ基を含んでなる、請求の範囲1に記載した、熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項3】
(コ)ポリマー(A)が、10℃〜100℃のガラス転移温度を有するものである、請求の範囲1または2に記載した、熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項4】
前記(コ)ポリマーを硬化できる硬化剤組成物成分(B)が、(b−1)多価カルボン酸、及び/又は、(b−2) 多価カルボン酸無水物を含んでなる硬化剤組成物成分である、請求の範囲1ないし3の何れかに記載した熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項5】
自動車の上塗り用の請求の範囲1ないし4のいずれかに記載の熱硬化性粉体塗料組成物。

【公開番号】特開2006−183057(P2006−183057A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55130(P2006−55130)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【分割の表示】特願2002−534378(P2002−534378)の分割
【原出願日】平成13年10月12日(2001.10.12)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】