説明

リフレクトロン

飛行時間型質量分析計で試料からのイオンを偏向させるためのリフレクトロン(1)は、前面電極(2)および背面電極(3)を備える。前面および背面電極(2、3)の少なくとも一方は、湾曲電界を生成することができる。前面および背面電極は、時間集束を実行し、試料の像を分解するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間飛行型質量分析計用のリフレクトロンに関し、さらに詳しくは原子プローブ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
時間飛行型質量分析計は一般的に試料と、試料からイオンを発生かつ遊離させるための手段と、これらの遊離されたイオンを検出器に引き寄せる電界とを含む。初期イオン遊離とイオンの検出との間の時間を測定する手段は、輸送時間の測定を可能にする。輸送時間はイオンの質量対電荷比に比例し、したがって試料の原子組成に関する情報を決定することができる。
【0003】
これらの遊離イオンは同一開始時間も同一運動エネルギも持たない。開始時間の広がりは、初期イオン化パルス機構の幅の関数である。これらのイオンの運動エネルギの広がりは、イオン化中に存在する不均一な蒸発場のみならず、初期試料の形状からも生じる。
【0004】
時間飛行型質量分析計は、装置の質量分解能を改善するために、リフレクトロンを組み込むことができる。リフレクトロンは事実上静電「ミラー」として働き、質量分析計で分析されるイオンの飛行経路を変化させる。イオンはイオン源から検出器へのその初期方向から偏向される。
【0005】
従来のリフレクトロンは、中空円筒を画定する一連の主として平面状のリング電極から形成される。電極は各々電位を維持され、該電位はイオン源からのイオンの走行方向に増大する。電極はリフレクトロンの断面全体に均等な電界を生成する。実際、電界の平坦性は、従来のリフレクトロンの重要な設計基準である。回避することが難しい電界の残留曲率は、イオン軌道の逸脱および質量分解能の低下を導く。イオンはリフレクトロン内を放物線経路で走行する。運動エネルギの多いイオンはリフレクトロン内のより遠くまで走行し、したがってそれらの経路長は長くなり、かつ検出器までのそれらの輸送時間は長くなる。運動エネルギの少ないイオンは奥まで走行せず、より短い経路を移動し、より短い輸送時間を持つ。所与の質量対電荷比および変動する運動エネルギを持つイオンは、それらの輸送時間のばらつきが低く、したがって測定される質量分解能は改善されると推定することができる。リフレクトロンは、イオンが原子プローブ内を走行するのにかかる時間が実質的にイオンの初期エネルギと無関係になるように構成することができる。これは時間集束として知られる。
【0006】
質量対電荷比は同一であるがわずかに異なる運動エネルギで遊離されるイオンは、リフレクトロン内で異なる軌道を辿り、わずかに異なる位置で検出器に衝突する。衝突位置の広がりはシステムの色収差に比例する。加えて、色収差と同様に視野(FOV)が増大する。
【0007】
湾曲背面電極を持つリフレクトロンは、米国特許第6,740,872号で明白である。この実施形態では、湾曲電極はわずかに発散する点源を点捕集器に空間角度集束するのに役立ち、それは源と検出器との間の結合効率を改善する。源全体の強度の角度変化に関する情報を収集する、すなわち画像を分解する意図または目途は無い。他の実施形態(欧州特許第0208894号、米国特許第4,731,532号)は同様の効果を達成するが、運用上の柔軟性が低い。KellerおよびSramaらはデュアルシェイプ形グリッドを含むリフレクトロンを記載しているが、像は分解されない。
【特許文献1】米国特許第6,740,872号
【特許文献2】欧州特許第0208894号
【特許文献3】米国特許第4,731,532号
【0008】
リフレクトロンは、時間飛行型質量分析計における使用法と同様の方法で、原子プローブ顕微鏡の質量分解能を高めることができる。さらなる進展は、3次元原子プローブ、つまり分光情報を持つ原子画像を生じる顕微鏡におけるリフレクトロンの使用を可能にする。以下は特定の実施形態の説明である。
【0009】
原子プローブ顕微鏡におけるイオン源は、小さい寸法の湾曲表面を持つ検査対象の試料である。イオンは表面の小さい領域から発生し、少し離れた検出器に向かって進行する。位置感応検出器を利用すると、イオンは標本抽出領域の画像を非常に大きい倍率で形成することができる。小さいFOV構成による高い質量分解能が可能である一方、広いFOV配列による低い質量分解能が可能である。
【0010】
原子プローブに組み込まれた従来のリフレクトロンは測定質量分解能を高めることができるが、約8度より大きい角度広がりは結果的に、リフレクトロンおよび検出器を過度に大きくし、あるいは代替的に飛行経路を過度に短くし、したがってFOVが制限されるという不利点を有する。
【0011】
従来のリフレクトロンの別の不利点は、色収差の結果、検出器で位置決め誤差が生じ、角度がリフレクトロンの垂線から離れるにつれて、それが増大することである。色収差は、検出されるイオンの像位置の誤差であり、イオンのエネルギの関数である。したがって、質量分解能を増大するために従来のリフレクトロンを使用する原子プローブのFOVは通常、比較的小さい角度(約8度の挟角)に制限される。
【0012】
3次元原子プローブで使用されるリフレクトロンは、時間飛行型質量分析計のリフレクトロンよりかなり大きい角度範囲にわたってイオンを受け入れなければならない。従来の原子プローブまたは飛行時間型質量分析計用に設計されたリフレクトロンは、それらが小さい角度範囲で入射するイオンだけを受け入れて反射するのであれば、3次元原子プローブに使用するのに適さない。
【発明の開示】
【0013】
本発明は、先行技術に関係する問題の少なくとも幾つかに対処することを目的とする。したがって本発明は、原子プローブでイオン源からのイオンを反射するためのリフレクトロンであって、
前面電極と、
背面電極と、を備え、
該電極がイオンの時間集束を実行しかつ像を分解するように構成されて成る、リフレクトロンを提供する。
【0014】
前面電極および背面電極は、電極の少なくとも1つに電位が印加されたときに、点電荷によって生じる電界と略同等の電界が発生し、リフレクトロンに入射するイオンが反射されるように構成することができる。
【0015】
本発明に係るリフレクトロンは、広い角度範囲にわたってイオンの空間角度フォーカシングを改善した。本発明のリフレクトロンはまた、色収差を低減またはほとんど除去するように構成することもできる。
【0016】
多くの構成および形状が可能であるが、前面電極はイオン源に対向する凹面を有することが好ましい。前面電極の凹面は一定の曲率半径で湾曲するか、あるいはより複雑な曲率を持つことが好都合である。
【0017】
前面電極は任意の適切な形状を取ることができるが、一般的には集束を改善するためにメッシュを含む。
【0018】
前面電極は接地電位に維持することが好ましいが、接地に対して正または負にバイアスすることができる。
【0019】
前面電極は、反射されるイオンの平均エネルギの少なくとも約1.08倍の電位に維持することが好ましいが、他の電位も可能である。
【0020】
背面電極は、イオン源に対面する凹面を有することが好ましい。背面電極の凹面は好適には一定の曲率半径で湾曲することが好都合であるが、他の配向も可能である。
【0021】
背面電極は任意の適切な形状を取ることができるが、一般的には平板から構成される。
【0022】
一実施形態では、リフレクトロンが3次元原子プローブに組み込まれるときに、前面電極の曲率半径は、前面電極と3次元原子プローブでイオンを検出するための検出器との間の距離と略同等である。
【0023】
一実施形態では、背面電極の曲率半径は、背面電極と3次元原子プローブでイオンを検出するための検出器との間の距離と略同等であることが好ましい。
【0024】
一実施形態では、前面電極の曲率半径および背面電極の曲率半径は、2つの電極が同心となるようにする。
【0025】
リフレクトロンは一般的に、前面電極と背面電極との間に配置された複数の中間電極を含むことが好ましい。各々の中間電極は環状に形成されることが好ましい。
【0026】
各々の中間電極は、前面電極および背面電極によってシミュレートされた点電荷によって生成されるそれらの位置の電位と同等の電位に維持されることが好ましい。
【0027】
本発明はまた、本書に記載したリフレクトロンを組み込んだ3次元原子プローブをも提供する。一実施形態では、前面電極は一定の曲率半径を有する凹面を持つことが好ましく、前面電極の曲率半径は、前面電極と3次元原子プローブでイオンを検出するための検出器との間の距離と略同等である。背面電極は一定の曲率半径を有する凹面を持ち、背面電極の曲率半径は、背面電極と3次元原子プローブでイオンを検出するための検出器との間の距離と略同等であることが好都合である。
【0028】
以下、本発明の実施形態を、単なる例として、添付の図を参照しながら説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
リフレクトロンは、3次元原子プローブの一部として組み込むことができる。3次元原子プローブは、小さい先端半径を持つ針状試料の表面から個々の原子を取り出す。原子はイオンになり、できるだけ大きくかつ試料表面における原子の位置に対応するイオンの位置を検出する、検出板に向かって加速される。検出器エレクトロニクスは、イオンが検出板に衝突する位置を測定し、かつ試料から検出器へのイオンのTOFを測定することによって、結果的に生じるイオンの質量/電荷比(をも測定する。
【0030】
リフレクトロンは、イオンと同等のエネルギより大きい電位を生成することによって、イオンの方向を変化させる。イオンは一般的に、電極の半径線に対して斜めにリフレクトロンに入射し、イオンはリフレクトロン内を楕円状経路で走行する。検出器は源からリフレクトロンへのイオンの経路から偏位する。従来の平面状リフレクトロンの限定的な事例では、半径はリフレクトロンの長手軸になり、楕円は放物線になる。
【0031】
本発明のリフレクトロンは、リフレクトロン内で費やされる時間を含め、3次元原子プローブ内を走行するのに要する時間が、イオンの初期エネルギと無関係になるように構成されることが好ましい。これは時間集束として知られており、かなりの量の色収差を導入することなく、分光計の質量分解能を改善する。
【0032】
3次元原子プローブは、材料、特に金属および半導体の構造を原子スケールで調べるために使用される。3次元原子プローブは、イオンが3次元原子プローブ内で予め定められた距離を走行するのにかかる時間を測定するタイミング手段を組み込む。イオンは電界内を走行し、このTOFを使用してイオンの質量/電荷比を算出し、かつその化学的同一性を決定することができる。3次元原子プローブおよびそれらの原子プローブとの関係は一般的に、M.K.Miller、A.Cerezo、M.G.Hetherington、およびG.D.W.Smithによる刊行物「Atom Probe Field Ion Microscopy」OUP 1996に開示されており、それを本書に援用する。
【0033】
3次元原子プローブでは、試料標本からのイオンが、曲率に依存する先端の領域から放射される。それらは先端曲率に対して略放射状に放射される。検出器は通常、先端から80ないし600mm離して配置される。検出器は通常、方形または円形であり、40ないし100mm程度の幅を有する。
【0034】
試料の先端の領域から放射されたイオンは、検出器に衝突する。検出された像の線形寸法と試料の結像領域との比を倍率と言う。倍率は通常、試料の最適な解析には大きすぎるので、それを縮小する必要がある。倍率は、検出器の距離を低減することによって、先端半径を増大することによって、または検出器サイズを増大することによって、縮小することができる。実務上の理由から、検出器はサイズが制限される。先端半径は50から100nmの間に制限され、検出器の距離はできるだけ大きくする必要がある。したがって、倍率の低下を達成するための最善の方法は、先端からの放射イオンのかなり広い円錐角を受け入れることである。しかし、これは、リフレクトロンが広範囲の入力角度で機能しなければならないことを意味する。通常30度以上が望ましい。しかし、従来の平板状リフレクトロンの場合、円錐角が8度よりずっと大きい場合、質量分解能に関しても、色収差の観点からも、性能は低下する。これはまた、検出器の距離が望ましくないほど短くなることをも意味する。
【0035】
図1および2に関連して、本発明に係るリフレクトロン1は湾曲した前面電極2を含む。この特定の実施形態では、前面電極2は球形の一部分の形状に形成されるので、それは一定の曲率半径を持つ。前面電極2は凹面6および凸面7を有し、かつ約80mmないし200mmの直径を有する。前面電極2は、微細メッシュまたはグリッドから構成される。メッシュは入射イオンの約90〜95%を通過させる。
【0036】
複数の環状電極4が前面電極2の背後、前面電極2の凸面7側に配設される。環状電極4はメッシュを組み込まないが、中央円形アパーチャを持ちその中をイオンが自由に通過することのできるリング状である。これらの電極の個数、それらの間隔、およびそれらにかかる電圧は、特定の設計により変化させることができる。
【0037】
一実施形態では、背面電極3は、リフレクトロン1の前面電極2とは反対側の端に配置される。背面電極3は前面電極2から通常40ないし100mm離して配置される。この距離は、倍率および時間集束要件に従って多くの要因に依存する。したがって、環状電極4は前面電極2と背面電極3との中間にある。
【0038】
背面電極3は、リフレクトロン1の長手軸に沿って前面電極2および環状電極4と整列する。背面電極3は、球形の一部分の形状に湾曲した上面5を有する。背面電極3の上面5は、前面電極2と同心であることが好ましく、したがって前面電極2の曲率半径より大きい一定の曲率半径を有する。上面5は凹面であり、凹面5は前面電極2の方を向く。
【0039】
リフレクトロン1は、前述の通り、3次元原子プローブに使用するのに適している。図2に関連して、前面電極2の凹面6および背面電極3の上部凹面はおおよそイオン源の方向に向けられる。
【0040】
前面電極2の曲率半径は、背面電極3の曲率半径と等しいか、それより小さいことが好ましい。
【0041】
この実施形態では、前面電極2の曲率半径は、検出器と前面電極2との間の距離にほぼ同一とすることができる。背面電極3の上面5の曲率半径は、検出器と背面電極3との間の距離に略同一とすることができる。前面電極2および上面5は各々、検出器の近傍に中心を有する球形の一部分として形作られる。この配列はリフレクトロン1がイオンを検出器に空間的に集束させることを可能にする。
【0042】
図3に関連して、リフレクトロン1は、入射角ψが約45度までの場合、イオンの検出器への空間集束を達成する。リフレクトロン1は、検出器上の像が試料のずっと大きい領域に対応するように、3次元原子プローブの倍率を低減することができる。点12は電極2、3の球形の中心であり、イオンが辿る楕円形路の焦点である。
【0043】
図4は、異なるイオン軌道形状を示す本発明のリフレクトロンの平面図である。リフレクトロン1内で、イオンは楕円形路を辿る。楕円の焦点は電極の曲率の中心にある。楕円の大径および小径、所与のリフレクトロンパラメータにために示される他の角度、ならびに入射イオン経路が試料先端と曲率の中心との間の基準線と形成する各角度のための解析式が存在する。図4は検出器11の位置を示す。
【0044】
リフレクトロン1は、広範囲の角度にわたってイオンのほぼ線形の空間角度集束を達成し、したがって、検出器上の像が試料のずっと大きい領域に対応するように、3次元原子プローブの倍率を低減することができる。イオンがイオン源10から放射される角度と、検出器11上の位置との間の関係は線形である。これは、検出器11によって生成される像が歪みなしに試料に対応することを意味する。
【0045】
全ての図の軌道は解析式から計算される。解析式は、イオンがリフレクトロン内で費やす時間、およびイオンエネルギによる時間の導関数(derivative of the time)に対しても利用可能である。後者は、上記軌道を計算するために用いられるリフレクトロンパラメータを決定するために使用される。
【0046】
図5は、ある範囲の初期エネルギで試料から同一角度で放射されるイオンの経路例を示す。図示するイオンは、+/−10%の範囲の誇張したエネルギ変化を有する。通常、+/−1%の範囲のエネルギ変化が予想される。
【0047】
リフレクトロン1が異なるエネルギのイオンを検出器の略同一位置に集束させる能力は、色収差を低減する。同心状構成の実施形態では、前面電極および背面電極によって画定される球の中心が検出器と同一平面内にあるときに、色収差は実質的に排除することができる。
【0048】
エネルギ変化によるイオンの出射位置の側方変位を、同じエネルギ変化によって生じる出射角の変化によって補償することができるので、色収差の軽減が可能である。これは、電極の曲率中心が検出器の位置に近いときに発生する。図3に関連して、入射角Φは出射角Φと同じであり、それは、検出器におけるイオンの位置がイオンのエネルギに実質的に依存しないことを示す。
【0049】
リフレクトロン1は、比較的広い角度に発散するイオンを受け入れることができる。リフレクトロン1が色収差を実質的に排除してイオンの時間集束および略線形空間集束を実行することのできる角度は、従来の均一電界リフレクトロンの場合より約6倍または7倍大きい。加えて、リフレクトロン1は、同一直径および同一外部飛行距離の従来の均一電界リフレクトロンより全体的に小さくすることができ、しかも時間集束を達成することができる。
【0050】
使用時に、前面電極2、背面電極3、および環状電極4に電位が印加される。背面プレート3に印加される電位は、測定されるイオンの等価エネルギより大きい。これは、イオンが背面電極3に到達する前にイオン源の方向に反射されることを確実にする。
【0051】
全ての電極に印加される電位は、リフレクトロン内部の電界が常に曲率中心から放射方向に向けられることを確実にするように計算される。環状電極は、前面および背面電極が部分的にしか球形でないという事実によって生じるエッジ効果を最小化するように、正しい電位を維持する。
【0052】
この実施形態では、中間の環状電極4はリフレクトロン内部の電界が、曲率中心に配置される適切な値の理論的点電荷によって発生するものに可能な限り近いことを確実にするように、間隔を置いて配置され、かつ適切な電圧に維持される。環状電極4は各々、リフレクトロン1がシミュレートすることを目標としている点電荷のため、それらの位置に存在する電位に維持される。
【0053】
この実施形態では、等電位線13は実質的に球形の一部分の形状に湾曲する。リフレクトロン1によって発生する電界は、前面および背面電極によって画定される球の中心に配置される点電荷によって発生する電界をほぼ模倣する。前面および背面電極によって画定される球の中心は、検出器に近接することが好ましい。前面および背面電極によって画定される球の中心は、電極2、3から、検出器とそれぞれの電極2、3との間の距離とほぼ同一距離にすることができる。検出器が電極2、3の軸からずれる場合、前面および背面電極によって画定される球の中心は、検出器と一致しないことが好ましい。リフレクトロン1は実質的に点電荷をシミュレートするので、リフレクトロン内のイオンは楕円状に移動する。
【0054】
イオン源10からのイオンは最初に前面電極2のメッシュを通過する。イオンの経路は、それが経験する不均等な電位によって変化する。イオンは少なくとも幾つかの環状電極4の中心アパーチャを通過する。イオンがリフレクトロン1内で経験し続ける電位は、イオンが背面プレート3に到達する前に、その楕円軌道の軸方向のその速度を零まで低下させる。背面プレート3、環状リング4、および前面電極2に印加される電位は、イオンを背面プレート3から離れて前面電極2の方向に加速させる。イオンは次いで環状電極4および前面電極2を通過し、それが検出器に衝突するまで続く。
【0055】
イオンがイオン源に隣接する点から検出器まで走行するのにかかる時間が測定され、イオンの質量/電荷比を算出するために使用される。イオンの同一性は、イオンの質量/電荷比の既知の値を参照することによって決定される。
【0056】
通常、メッシュは接地電位にあり、背面電極は通常、イオンの公称エネルギの約1.08倍に等しい電位に維持される。これは、イオンがリフレクトロンの背面プレートの奥深くに侵入しすぎてそれと衝突することがないことを確実にする。実際、必要な電位の量は、装置の特定の構成により変化し、一定とすることができない。環状電極は、前面電極2および背面電極3の電位の間の中間電位に維持される。環状電極4の電位は、背面電極4に向かって増加する。環状電極4の電位は、リフレクトロン1の縁部に略放射状電界が維持されるように計算される。かくして環状電極は、球形の一部分を形成するだけであって完全な球形でない前面および背面電極2、3を補償する。
【0057】
本発明のリフレクトロンは、飛行時間型質量分析計、原子プローブ、または3次元原子プローブに使用することができる。
【0058】
前面電極はメッシュまたはグリッドとして記載されている。代替的に、それは穴を持つ個体材料から形成することができ、あるいは、異なる電圧に維持されたさらなる環状電極から構成される静電レンズ装置に置換することができる。
【0059】
背面電極は球状に湾曲していると記載されているが、背面電極は異なる型の曲率を持つことができ、あるいは平面状とすることができる。前面電極の曲率は一定としなくてもよい。前面および/または背面電極は楕円状とすることができる。通常、前面電極の形状はイオン軌道に対して背面電極より大きい影響を有し、したがって平面状背面電極を利用することができる。代替的に、平面状の前面電極を湾曲した背面電極と共に使用することができる。したがって、前面電極および背面電極は必ずしも同心状ではない。
【0060】
前面電極および背面電極によって画定される球の中心は、検出器に隣接するかあるいはその近傍であると記載した。代替的に、前面電極および背面電極によって画定される球の中心は、検出器から遠くに配置することができる。したがって、前面電極および/または背面電極の曲率半径は必ずしも、その電極から検出器までの距離に略同一ではない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】等電位線を示す本発明のリフレクトロンの平面図である。
【図2】イオンの経路例を示す本発明のリフレクトロンの平面図である。
【図3】イオンの経路例を示す本発明のリフレクトロンの平面図である。
【図4】異なる初期イオン軌道を持ち、したがって位置感応検出器を利用した場合、像を分解するイオンの経路を示す、本発明のリフレクトロンの平面図である。
【図5】異なる初期エネルギを持つイオンの経路を示す、本発明のリフレクトロンの平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間飛行型質量分析計で試料からのイオンを偏向させるためのリフレクトロンであって、
前面電極と、
背面電極と、を備え、
前記前面および背面電極の少なくとも一方が湾曲電界を生成することができ、
前記前面および背面電極が時間集束を実行し、かつ試料の像を分解するように構成された、リフレクトロン。
【請求項2】
前記前面電極がイオン源に対面する凹面を有する、請求項1に記載のリフレクトロン。
【請求項3】
前記背面電極がイオン源に対面する凹面を有する、請求項1または2に記載のリフレクトロン。
【請求項4】
前記前面電極の凹面が一定の曲率半径で湾曲している、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のリフレクトロン。
【請求項5】
前記背面電極の凹面が一定の曲率半径で湾曲している、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のリフレクトロン。
【請求項6】
使用時に、3次元原子プローブに組み込まれた場合に、前記前面電極の前記曲率半径が、前記前面電極と前記時間飛行型質量分析計でイオンを検出するための検出器との間の距離と略同等である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載のリフレクトロン。
【請求項7】
使用時に、時間飛行型質量分析計に組み込まれた場合に、前記背面電極の前記曲率半径が、前記背面電極と前記時間飛行型質量分析計でイオンを検出するための検出器との間の距離と略同等である、請求項1ないし6のいずれか一項に記載のリフレクトロン。
【請求項8】
前記前面電極の曲率半径および前記背面電極の曲率半径を、前記2つの電極が同心となるようにした、請求項1ないし7のいずれか一項に記載のリフレクトロン。
【請求項9】
前記前面電極および背面電極の少なくとも1つに電位が印加されたときに、点電荷によって発生する電界と略同等の電界が発生するように、前記前面電極および背面電極が構成された、請求項1ないし8のいずれか一項に記載のリフレクトロン。
【請求項10】
前記前面電極と前記背面電極との間に複数の中間電極が配置された、請求項1ないし9のいずれか一項に記載のリフレクトロン。
【請求項11】
前記中間電極の各々が、前記前面電極および背面電極によってシミュレートされる点電荷によって発生するそれらの位置の電位と同等の電位に維持される、請求項10に記載のリフレクトロン。
【請求項12】
前記中間電極の各々が環体として形成される、請求項10または11に記載のリフレクトロン。
【請求項13】
前記前面電極が接地電位に維持される、請求項1ないし12のいずれか一項に記載のリフレクトロン。
【請求項14】
前記背面電極が前面電極に対して、反射されるイオンの平均エネルギの約1.08倍の電位に維持される、請求項1ないし13のいずれか一項に記載のリフレクトロン。
【請求項15】
前記前面電極がメッシュを含む、請求項1ないし14のいずれか一項に記載のリフレクトロン。
【請求項16】
前記背面電極が平板を含む、請求項1ないし15のいずれか一項に記載のリフレクトロン。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれか一項に記載のリフレクトロンを含む飛行時間型質量分析計。
【請求項18】
前記前面電極が一定の曲率半径を有する凹面を有し、
前記前面電極の前記曲率半径が、前記前面電極と前記時間飛行型質量分析計でイオンを検出するための検出器との間の距離と略同等である、請求項1に記載のリフレクトロンを使用した飛行時間型質量分析計。
【請求項19】
前記背面電極が一定の曲率半径を有する凹面を有し、
前記背面電極の前記曲率半径が、前記背面電極と前記時間飛行型質量分析計でイオンを検出するための検出器との間の距離と略同等である、請求項18に記載の飛行時間型質量分析計。
【請求項20】
前記電極が色収差を最小化するように配置された、請求項1ないし19のいずれか一項に記載のリフレクトロン。
【請求項21】
前記飛行時間型質量分析計が原子プローブである、請求項1ないし20のいずれか一項に記載のリフレクトロン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−507328(P2009−507328A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510634(P2008−510634)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001694
【国際公開番号】WO2006/120428
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(507372291)イメイゴ サイエンティフィック インストゥルメンツ コーポレイション (1)
【氏名又は名称原語表記】Imago Scientific Instruments Corporation
【住所又は居所原語表記】5500 Nobel Drive, Madison, WI 53711, U. S. A.
【Fターム(参考)】