説明

リポソームを含むMRI造影剤

【課題】動脈硬化やPTCA後の再狭窄等の血管平滑筋の異常増殖に起因する血管疾患部位に対して選択的にMRI造影剤を集積させるための手段の提供。
【解決手段】ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの組み合わせを膜構成成分として含むリポソームであって、該ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンのモル比がホスファチジルコリン:ホスファチジルセリン=3:1から1:2の間であるリポソーム、並びにさらに平均粒径が1 nm以上50 nm以下である超常磁性粒子を含む該リポソーム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの組み合わせを膜構成成分として含むリポソームに関し、より詳しくは、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの組み合わせを膜構成成分として含み、かつ超常磁性粒子を含むリポソームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の病変部を画像として捉えるNMRイメージング法(MRI)が、非侵襲的・非破壊的な臨床診断法の一つとして注目されている。通常のMRI測定では病変部と正常部組織との間のコントラストを高める目的で、MRI造影剤の使用を必要とする場合が多い。そのため、現在までに、MRI造影剤についての研究が、数多くなされている。
【0003】
MRI造影剤によって操作することができるMRIの主たる造影パラメーターは、スピン-格子緩和時間(T1)とスピン-スピン緩和時間(T2 )である。例えば、マンガン(2+)、ガドリニウム(3+)及び鉄(3+)を基剤とした常磁性キレートをMRI造影剤として用いると、スピン-格子緩和時間(T1 )が減少し、それによってシグナル強度を増加させることができる。一方、磁性/超常磁性粒子を基剤としたMRI造影剤はスピン-スピン緩和時間(T2 )を減少させ、シグナル強度の減少を引き起こす。ジスプロシウムを基材とした常磁性キレートや常磁性化合物をMRI造影剤として大量投与する場合にもまたMRシグナル強度が減少する。これらのMRI造影剤については、例えば非特許文献1に総説として記載されている。
【0004】
GdDTP[ジエチレントリアミン‐N,N,N',N",N"‐ペンタアセタトガドリニウム (III)錯体]、GdDOTA[1,4,7,10‐テトラアザシクロドデカン‐1,4,7,10‐テトラアセタトガドリニウム (III)錯体]、GdHPDO3A[10‐(2‐ヒドロキシプロピル)‐1,4,7,10‐テトラアザシクロ-ドデカン‐1,4,7‐トリアセタトガドリニウム(III)錯体]及びGdDTPA-BMA{[N,N‐ビス[2‐[(カルボキシメチル)(メチルカルバモイル)メチル]アミノ]エチル]グリシナトガドリニウム(III)錯体}などの親水性キレート化合物もMRI造影剤としての報告例が近年多く見られる。これらの親水性キレート化合物は細胞外に分布され腎で排出される。そのような化合物は、例えば、中枢神経系の病変を視覚化するのに有用である。また、特に臓器又は組織特異的な造影剤としては、MnDPDP[N,N‐ジピリドキシルエチレンジアミン‐N,N'‐二酢酸5,5'−ビスリン酸マンガン(II)錯体]及び、常磁性ポルフィリンなどが挙げられる。
【0005】
さらに、様々な常磁性金属イオンやキレートを封入したリポソームをMRI造影剤として用いる例が報告されている。例えば、多様な脂質組成、表面電荷及び大きさを有する小さな一枚膜リポソーム(SUV)、大きな一枚膜リポソーム(LUV)及び多重層リポソーム(MLV)が疾患部位特異的に集積するMRI造影剤として提案されている(特許文献1及び非特許文献2から10参照)。しかし、リポソームMRI造影剤は、細網内皮系にトラップされやすく肝臓への集積性は高いがその他の病巣(血管疾患、、腫瘍など)への集積性が低いこと、及び血中滞留時間が短いことなどから、豊富な報告にもかかわらず、今日市販されているものはなく、また後期臨床開発段階にあるものもない。
【0006】
一方、現代社会、特に先進国社会においては、高カロリー・高脂肪の食事を取る機会が増大し、動脈硬化症が原因となる虚血性疾患(心筋梗塞・狭心症等の心疾患、脳梗塞・脳出血等の脳血管疾患)の死亡者数が増加している。従って、血管疾患の診断へのMRIの適用にも期待が集まっており、血管病巣特異的に集積するMRI造影剤が求められている。
【0007】
血管病巣特異的に集積するMRI造影剤の報告としては、マンガン(III)-α,β,γ,δ-テトラキス(4-スルホフェニル)ポルフィンキレート(以下、Mn-TSPP と略)が提案され、動脈硬化症、特にその早期病変部のMRI画像を測定するための造影剤として適しているとされている。しかし、Mn-TSPPは動脈硬化症の主原因であるコレステロール巣への集積率が低く、そのために実用上満足できる画像が得られなかった。
【0008】
上述のるMRI造影剤に関する報告とは別に、リポソームの膜構成成分に注目し、疎水性ヨード造影剤をリン脂質よりなるリポソーム製剤として、目的とする疾患部位に選択的に集積させ、X線造影剤として用いる試みが報告されている(特許文献2、非特許文献11から13参照)。しかしこれらの報告では、MRIの造影剤として適したリポソームは具体的に開示されていない。
【特許文献1】特開平7-316079号公報
【特許文献2】特開2003-55196号公報
【非特許文献1】Magnetic Resonance Imaging, Mosby, Chapter 14, 1992
【非特許文献2】Radiology,171, p.19, 1989
【非特許文献3】Invest. Radiol., 23, p.131, 1988
【非特許文献4】Radiology, 171, p.77, 1989
【非特許文献5】Biochim Biophys.Acta, 10222, p.181, 1990
【非特許文献6】Invest. Radiol., 25, p.638, 1990
【非特許文献7】Magn.Reson.Imaging, 7, p.417, 1989
【非特許文献8】J.Pharmacol.Exp.Ther., 250, p.1113, 1989
【非特許文献9】Invest.Radiol.,23, p.928, 1988
【非特許文献10】Radiology,171, p.81, 1989
【非特許文献11】Pharm. Res., 16(3), p.420, 1999
【非特許文献12】J. Pharm. Sci., 72(8), p.898, 1983
【非特許文献13】Invest. Radiol., 18(3), p.275, 1983
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、動脈硬化やPTCA後の再狭窄等の血管平滑筋の異常増殖に起因する血管疾患部位に対して選択的にMRI造影剤を集積させるための手段を提供することにある。その手段を用いることにより、血管疾患などの生体内環境をMRI造影により画像化することも本発明の別の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ホスファチジルコリン(以下、PCと略す)とフォスファチジルセリン(以下、PSと略す)を膜構成成分とするリポソームが病巣選択的に集積することを見出し、また、このリポソームにプロトンの横緩和時間(T2)を短縮するT2強調型造影剤である超常磁性粒子を内包させて、病巣選択的に集積するMRI造影剤を提供することができることを見出した。本発明者らはこの知見を基に本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの組み合わせを膜構成成分として含むリポソームであって、該ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンのモル比がホスファチジルコリン:ホスファチジルセリン=3:1から1:2の間であるリポソームを提供するものである。本発明の好ましい態様によれば、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンのモル比が1:1である上記のリポソームが提供される。
【0012】
本発明の別の好ましい態様によれば、さらに、平均粒径が1 nm以上50 nm以下である超常磁性粒子を含む上記いずれかのリポソーム;超常磁性粒子が酸化鉄およびフェライト(Fe,M)34からなる群から選択される該リポソーム;超常磁性粒子がマグネタイト、マグヘマイト、またはそれらの混合物である上記のリポソームが提供される。
【0013】
本発明の別の観点からは、上記いずれかのリポソームを含むMRI造影剤が提供される。本発明の好ましい態様によれば、血管疾患の造影に用いるための該MRI造影剤;泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる上記のMRI造影剤;マクロファージが局在化する組織又は疾患部位を造影することを特徴とする上記のMRI造影剤;マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる該MRI造影剤;マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる上記のMRI造影剤が提供される。
【0014】
本発明のさらに別の観点からは、血管疾患の造影方法であって、上記いずれかのリポソームをヒトを含む哺乳類動物に投与してMRI造影を行う工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリポソームは、動脈硬化やPTCA後の再狭窄等の血管平滑筋の異常増殖に起因する血管疾患部位に対して選択的に集積するため、本発明のリポソームを用いて、血管疾患などの生体内環境をMRI造影により画像化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のリポソームは、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの組み合わせを膜構成成分として含む。膜構成成分の総質量に対する該組み合わせの含有率は、例えば、5質量%から100量%の間であればよく、20質量%から100質量%の間であるのが好ましく、80質量%から100質量%の間であるのがさらに好ましい。
ホスファチジルコリンとしては、特に限定されないが、好ましい例として、eggPC、ジミリストリルPC(DMPC)、ジパルミトイルPC(DPPC)、ジステアロイルPC(DSPC)、ジオレイルPC(DOPC)等が挙げられる。ホスファチジルセリンとしては、特に限定されないが、ホスファチジルコリンの好ましい例として挙げたリン脂質と同様の脂質部位を有するホスファチジルセリン等が好ましい例として挙げられる。PCとPSの好ましい使用モル比はPC:PS=3:1から1:2の間であり、最も好ましくは、1:1である。
【0017】
本発明のリポソームとしては、膜構成成分としてホスファチジルコリンとホスファチジルセリンのほか、さらにリン酸ジアルキルエステルを含むリポソームも好ましい。リン酸ジアルキルエステルのジアルキルエステルを構成する2個のアルキル基は同一であることが好ましく、それぞれのアルキル基の炭素数は、6以上であればよく、10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。また、アルキル基の炭素数は、一般的には24個以下であればよいが、特に限定されない。リン酸ジアルキルエステルの例としては、ジラウリルフォスフェート、ジミリスチルフォスフェート、ジセチルフォスフェート等が挙げられるが、これらに限定されることはない。この態様において、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの合計質量に対するリン酸ジアルキルエステルの好ましい含量は1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは1質量%以上30質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
【0018】
本発明のリポソームにおける膜構成成分は上述の成分に限定されず、他の成分を加えることができる。他の成分の例としては、コレステロール、コレステロールエステル、スフィンゴミエリン、モノシアルガングリオシドGM1誘導体[FEBS Lett. 223, 42 (1987)及びProc. Natl. Acad.Sci., USA, 85, 6949 (1988)を参照できる]、グルクロン酸誘導体[Chem. Lett., 2145 (1989)及びBiochim. Biophys. Acta, 1148, 77 (1992)を参照できる]、非特許文献18,19に記載のポリエチレングリコール誘導体[Biochim. Biophys. Acta, 1029, 91 (1990)及びFEBS Lett., 268, 235(1990)を参照できる]が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0019】
本発明のリポソームの作製方法としては、当該分野で公知のいかなる方法を用いてもよい。作製方法の例としては、Ann. Rev. Biophys. Bioeng., 9, 467 (1980)又は"Liopsomes"(M.J. Ostro編,MARCELL DEKKER, INC.)に記載の方法が挙げられる。具体例としては、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法等が挙げられるが、これに限られるものではない。リポソームの粒径は、特に限定されず、用いた作製方法に従って得られるいずれの粒径であってもよいが、通常は平均400 nm以下であればよく、好ましくは200 nm以下であればよい。リポソームの構造は特に限定されず、ユニラメラ又はマルチラメラなどのいずれでもよい。
【0020】
本発明のリポソームの内部に又は膜構成成分として、MRI造影剤として公知の成分の1種又は2種以上を配合することができる。MRI造影剤として公知の成分として好ましい例としては、超常磁性粒子を挙げることができる。本発明のリポソームは平均粒径が1 nm以上50 nm以下である超常磁性粒子を含むことが好ましい。また、本発明のリポソームにおいて、超常磁性粒子がリポソーム内部の親水部に内包されているのが好ましい。平均粒径が1nm以上である超常磁性粒子は安定に作製が可能であり、また、平均粒径が50 nm以下である超常磁性粒子は例えば細胞内の物質を標的とした場合であっても細胞内まで侵入して標的物質を捉えることができる。超常磁性粒子の平均粒径は、結晶の安定性及び磁力応答性の観点から3 nm以上50nm以下が好ましく、5 nm以上40 nm以下がより好ましい。
【0021】
超常磁性粒子とは外磁場を与えたときに外磁場と同方向に強く磁化されるが、外磁場を取り除くと磁化が消失する粒子を意味する。超常磁性粒子の例としては、酸化鉄及びフェライト(Fe,M)34などの金属酸化物が挙げられ、特に酸化鉄が好ましい。ここで、酸化鉄との用語は、マグネタイト、マグヘマイト、及びマグネタイトとマグヘマイトとの混合物を含む意味である。超常磁性粒子は、表面と内部が異なるコアシェル型構造であってもよい。前記式中のMは、鉄イオンと共に用いて磁性金属酸化物を形成することのできる金属イオンであり、典型的には遷移金属の中から選択される。前記式中のMとして、好ましくはZn2+、Co2+、Mn2+、Cu2+、Ni2+及びMg2+などが挙げられ、M/Feのモル比は選択されるフェライトの化学量論的な組成に従って決定される。超常磁性粒子としては上記の金属酸化物の塩であってもよく、塩の種類は特に限定されないが、塩化物塩、臭化物塩、又は硫酸塩が好ましい。これらの塩は粉末又は分散液等の形態で用いることができる。
【0022】
本発明のリポソームにおける超常磁性粒子の製造方法は特に限定されないが、例えば特表2002−517085号公報に記載された方法に従って製造することができる。例えば、鉄(II)化合物、又は鉄(II)化合物と金属(II)化合物とを含有する水溶液を、磁性酸化物の形成のために必要な酸化状態下に置き、溶液のpHを7以上の範囲に維持して、酸化鉄又はフェライト超常磁性粒子を製造することができる。また、金属(II)化合物含有の水溶液と鉄(III)含有の水溶液をアルカリ性条件下で混合することによっても、本発明のリポソームにおける超常磁性粒子を得ることができる。さらに、バイオカタリシス(Biocatalysis)1991年、第5巻、61〜69頁に記載の方法を用いることもできる。
【0023】
例えばマグネタイトを形成するためには、溶液中に鉄が2種類の異なる酸化状態で存在する、すなわち溶液中にFe2+及びFe3+が存在することが好ましい。溶液中に2つの酸化状態を存在させる方法としては、例えば、鉄(II)塩及び鉄(III)塩の混合物を、好ましくは所望の磁性酸化物の組成に対してFe(II)塩をFe(III)塩より少し多いモル量で添加する方法、又は鉄(II)塩もしくは鉄(III)塩を添加して、必要に応じてFe2+又はFe3+の一部を他方の酸化状態に、好ましくは酸化によりあるいは場合によって還元によって変換する方法が挙げられる。
【0024】
得られた磁性金属酸化物は、30℃以上100℃以下の温度、好ましくは50℃以上90℃以下の温度で熟成させることが好ましい。
磁性金属酸化物の形成のため、各種の金属イオン間の相互作用を起こさせるには溶液のpHが7以上である必要がある。pHは、適切なバッファー溶液を最初の金属塩の添加時の水溶液として用いるか、又は必要な酸化状態にした後に溶液に塩基を添加することによって所望の範囲に維持させればよい。最終産物の粒径の分布を実質的に均一にさせるために、選択された7以上のpH値を超常磁性粒子の製造工程の全体にわたって維持することが好ましい。
【0025】
超常磁性粒子の製造方法においては、超常磁性粒子の粒径を制御する目的で、さらに追加の金属塩を溶液に添加する工程を設けてもよい。追加の金属塩の溶液への添加は、例えば、次の2つの異なる操作様式のいずれかによって行うことができる。1つの操作様式は、各成分(金属塩、酸化剤及び塩基)を数回に分けて、好ましくは毎回等量で、定めた順序で溶液に連続的に添加し、この工程を所望の超常磁性粒子の粒径が得られるまで必要な回数繰り返して粒径を段階的に増加させる様式(以後段階的様式の操作と呼ぶ)である。この様式においては、各回の各成分の添加量は溶液中(すなわち粒子の表面上以外)での金属イオンの重合を実質的に避けることのできる量とするのが好ましい。
もう1つの操作様式は連続した操作様式であり、各成分(金属塩、酸化剤、及び塩基)を定められた順序で、粒子表面以外の部位での金属イオンの重合を避けるために各成分毎に実質的に均一な流速で、連続的に溶液中に添加する様式である。
上記の段階的又は連続的操作様式を用いることによって、粒径の分布が小さい粒子を形成することができる。
【0026】
本発明のリポソームに超常磁性粒子などのMRI造影のための有効成分を含有させる場合の含有量は、膜構成成分の総質量に対して10質量%以上90質量%以下程度、好ましくは10質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上80質量%以下であればよい。
【0027】
本発明のリポソームを用いると、泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞に対して、超常磁性粒子などのMRI造影のための有効成分を選択的に取りこませることができる。この結果、本発明のリポソ-ムを用いると、病巣と非疾患部位の血管平滑筋細胞との間でコントラストの高いMRI造影が可能である。従って、本発明のリポソームはMRI造影剤として特に血管疾患の造影に好適に使用でき、例えば、動脈硬化巣やPTCA後の再狭窄等の造影を行うことができる。
【0028】
いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、動脈硬化又はPTCA後の再狭窄等の血管疾患においては、血管の中膜を形成する血管平滑筋細胞が異常増殖をおこすと同時に内膜に遊走し、血流路を狭くすることが知られている。正常の血管平滑筋細胞が異常増殖を始めるトリガーはまだ完全に明らかにされていないが、マクロファージの内膜への遊走と泡沫化が重要な要因であることが知られており、その後に血管平滑細胞がフェノタイプ変換(収縮型から合成型)をおこすことが報告されている。
【0029】
また、例えばJ. Biol. Chem., 265, 5226 (1990)に記載されているように、リン脂質よりなるリポソーム、特にPCとPSから形成されるリポソームがスカベンジャーレセプターを介してマクロファージに集積しやすいことが知られている。従って本発明のリポソームを使用することにより、超常磁性粒子などのMRI造影のための有効成分をマクロファージが局在化している組織又は疾患部位に集積させることができると考えられる。
【0030】
マクロファージの局在化が認められ、本発明のリポソームを用いて好適に造影可能な組織としては、例えば、血管、肝臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、腎臓上皮を挙げることができる。また、ある種の疾患においては、疾患部位にはマクロファージが集積していることが知られている。こうした疾患としては、腫瘍、動脈硬化、炎症、感染等を挙げることができる。従って、本発明のリポソームを用いることにより、これらの疾患部位を特定することができる。特に、アテローム性動脈硬化病変の初期過程において、スカベンジャーレセプターを介して変性LDLを大量に取り込んだ泡沫化マクロファージが集積していることが知られており(Am. J. Pathol., 103, 181(1981)、Annu. Rev. Biochem., 52, 223(1983)参照)、このマクロファージに本発明のリポソームを集積化させてMRI造影をすることにより、他の手段では困難な動脈硬化初期病変の位置を特定することが可能である。
【0031】
本発明のリポソームを含むMRI造影剤は、好ましくは非経口的に投与することができ、より好ましくは静脈内投与することができる。例えば、注射剤や点滴剤などの形態の製剤を凍結乾燥形態の粉末状組成物として提供し、用時に水又は他の適当な媒体(例えば生理食塩水、ブドウ糖輸液、緩衝液など)に溶解あるいは再懸濁して用いることができる。
本発明のリポソームを含むMRI造影剤の投与量は、MRI造影のための有効成分の性質、投与経路、又は臨床上の指標などに従って適宜決定することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0033】
(実施例1)超常磁性粒子分散液の調製
塩化鉄(III)6水和物10.8 g及び塩化鉄(II)4水和物6.4 gをそれぞれ1N−塩酸水溶液80mlに溶解し混合した。この溶液を攪拌しながらこの中にアンモニア水(28重量%)96 mlを2 ml/分の速度で添加した。その後80℃で30分加熱した後室温に冷却した。得られた凝集物をデカンテーションにより水で精製した。結晶子サイズ約12 nmのマグネタイト(Fe34)の生成をX線回折法により確認した。
【0034】
(実施例2)血管平滑筋細胞における超常磁性粒子の取り込み量
ジパルミトイル PC(フナコシ社製、No.1201-41-0225)0.73g、ジパルミトイル PS(フナコシ社製、No.1201-42-0237)0.75 gをJ. Med. Chem.,25(12), 1500 (1982)に記載の方法でナス型フラスコ内でクロロホルムに溶解して均一溶液とした後、溶媒を減圧で留去してフラスコ底面に薄膜を形成した。実施例1で調製した分散液を65℃に加熱し、加熱した分散液10 ml(10 mM)を前記薄膜と混合し、この混合物を65℃で15分間加熱攪拌した。超音波照射(Branson社製、No.3542プローブ型発振器、0.1 mW)を氷冷下5分実施することにより、均一なリポソーム分散液を得た。得られた分散液の粒径をWBCアナライザー(日本光電社製、A-1042)で測定した結果、粒子径は40から65 nmであった。この方法により調製した下記リポソーム製剤を国際公開WO 01/082977号公報に記載の血管平滑筋細胞とマクロファージとの混合培養系に添加し、37℃、5%CO2で24時間培養した。その結果、超常磁性粒子が血管平滑筋細胞に取り込まれたことを確認できた。このように本発明の化合物は効率よく血管平滑筋細胞に取り込まれ、MRI造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有することが明らかである。
【0035】
(比較例1)実施例2におけるリン脂質の添加量をジパルミトイル PC0.73 g、ジパルミトイル PS(フナコシ社製、No.1201-42-0237)0.075 gに変更した。これはモル比でPC:PS=10:1である。その他は実施例2と同様の条件で血管平滑筋細胞への取り込み量を評価した。この場合、超常磁性粒子は血管平滑筋細胞には痕跡量しか取り込まれなかった。
(比較例2)実施例2における超常磁性粒子を粒径100 nmの粒子に変えた以外は実施例2と同様の条件で血管平滑筋細胞への取り込み量を評価した。この場合、超常磁性粒子は血管平滑筋細胞には痕跡量しか取り込まれなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの組み合わせを膜構成成分として含むリポソームであって、該ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンのモル比がホスファチジルコリン:ホスファチジルセリン=3:1から1:2の間であるリポソーム。
【請求項2】
ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンのモル比が1:1である請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
さらに、平均粒径が1 nm以上50 nm以下である超常磁性粒子を含む請求項1又は2に記載のリポソーム。
【請求項4】
超常磁性粒子が酸化鉄およびフェライト(Fe,M)34からなる群から選択される請求項3に記載のリポソーム。
【請求項5】
超常磁性粒子がマグネタイト、マグヘマイト、またはそれらの混合物である請求項3に記載のリポソーム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のリポソームを含むMRI造影剤。
【請求項7】
血管疾患の造影に用いるための請求項6に記載のMRI造影剤。
【請求項8】
泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる請求項6に記載のMRI造影剤。
【請求項9】
マクロファージが局在化する組織又は疾患部位を造影することを特徴とする請求項6に記載のMRI造影剤。
【請求項10】
マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる請求項9に記載のMRI造影剤。
【請求項11】
マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる請求項9に記載のMRI造影剤。

【公開番号】特開2006−335745(P2006−335745A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165722(P2005−165722)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】