説明

リポタンパク質アッセイ

本発明は、試料中の全リポタンパク質の濃度を決定する方法に関する。本方法は以下の工程:(i)試料中のリポタンパク質に結合し、かつそのように結合したとき、適切な励起下で蛍光を発する脂肪親和性染料を試料のアリコートに添加する工程;及び(ii)蛍光分析を用いて試料中の全リポタンパク質濃度を決定する工程を含む。異なる型のリポタンパク質を識別する染料を用いて試料溶液のリポタンパク質含量を分析する方法をも開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血漿又は血清などの試料中のリポタンパク質の濃度を決定するためのアッセイシステムに関する。本発明の一局面では、アッセイシステムは、試料混合物中の異なるクラスの脂質分子を識別するために使用しうる追加工程を含むことができる。
【背景技術】
【0002】
脂質は、生体内に存在する多種多様な群の有機化合物である。脂質は水に溶けないが、有機溶媒に溶ける。脂質は広く二つのカテゴリー:(i)複合脂質;及び(ii)単純脂質に分類される。複合脂質は長鎖脂肪酸のエステルであり、グリセリド、糖脂質、リン脂質、コレステロールエステル及び蝋を包含する。単純脂質は脂肪酸を含有せず、ステロイド(例えば、コレステロール)及びテルペンを包含する。
脂質はタンパク質と化合してリポタンパク質を形成しうる。リポタンパク質は、コレステロール及びトリグリセリド等の脂質が血中及びリンパ液中に輸送される形態である。血漿中で見られるリポタンパク質は三つの主分類:(i)高密度リポタンパク質(HDL);(ii)低密度リポタンパク質(LDL);並びに(iii)極低密度リポタンパク質(VLDL)、及び中密度リポタンパク質(IDL)に区分される。
血漿中の種々のリポタンパク質とアテローム性動脈硬化症、すなわち心臓発作をもたらしうる、血管壁上の有害プラークの発生の危険との間に強い関係があることは十分に立証されている。アテローム性動脈硬化症では、異なるクラスのリポタンパク質(HDL、LDL及びVLDL)がそれぞれ異なる役割を果たすことも知られている。例えば、HDLは抗-アテローム生成的であるとみなされているが、LDLは非常にアテローム生成的(アテローム性動脈硬化症の発症と密接に関係づけるコレステロール)であることが分かっている。
従って、全リポタンパク質含量を知ること及び血液中の種々の各脂質成分(すなわち、リポタンパク質)の相対濃度をも知ることは、これらの脂質の血中濃度が不適切な患者の治療において臨床医を援助するので、有利だろう。患者のリポタンパク質プロフィールの知識を有することは、臨床医にとって最も有利であることが分かるだろう。
【0003】
血中のいくつかの脂質成分の濃度を決定するためのアッセイが開発されている。該アッセイは、一般的に、最初に患者から血液試料を取り出してから分析のための臨床検査室に送る工程を含む。該アッセイは、高価な設備を用いて行われ、かつ必然的理由のため結果を作成するのにかなり長い時間がかかる。これが治療を遅らせる。さらに、試験が関与するので高価である。さらに、検査室で使用される設備は容易には持ち運べないので、一般開業医(GP)、又は看護師が使用できず、往診を行えず、又は家庭用途の試験キットとしてさえ使用できない。最近「ポイント・オブ・ケア」にて検査室アッセイを再現することを試みる装置も開発されたが、これらの装置は高価であり、かつ専門の使用者が操作する必要があることが判っている。従って、血清中のリポタンパク質プロフィールを分析するための改良された方法を提供する必要がある。
【0004】
血清は種々のタンパク質の複雑な混合物であり、異なるクラスのリポタンパク質を分離してその濃度を直接測定するための方法は知られているが、そのような方法は複雑かつ高価である。血清のリポタンパク質濃度を決定するためのアッセイの例はWO 01/53829A1に開示されている。この文書は特定の有機発光団、4-ジメチルアミノ-4'-ジフルオロメチル-スルホニル-ベンジリデン-アセトフェノン(DMSBA)を蛍光プローブとして使用することに関する。K-37として同定された該プローブの式は以下のとおりである。
【0005】
【化1】

【0006】
プローブK-37は水中では発光性でないが、血清などの水性リポタンパク質溶液中では非常に発光性である。特に、蛍光の強度は、血清のリポタンパク質含量に非常に依存性なので、K-37を蛍光プローブとして用いて、存在しうるリポタンパク質の濃度を測定することができる。すなわち、K-37は、リポタンパク質の脂質に結合すると蛍光を発し、適切な放射線の波長で励起される。従って、リポタンパク質混合物の時間分解蛍光崩壊の測定を用いて、当該混合物中に存在する異なるリポタンパク質(LDL、及びVLDL)の相対濃度に関する直接の情報を与えることができる。
しかし、K-37の時間分解蛍光崩壊を使用することの問題は、その測定が複雑であり、かつ高価な設備を必要とすることである。さらに、生成されたデータの高度な技術的コンピューター解析を含み、正確に解釈するために時間がかかりうる。従って、血中の脂質成分の濃度を決定するためのK-37の時間分解蛍光崩壊の使用は、時間分解蛍光崩壊を用いてリポタンパク質分析を与えるために時間をかけるのではなく、治療のクールを迅速に決定したい場合に臨床医に深刻な制限となる。
従って、プローブK-37で時間分解蛍光分析を使用することによって、試料中の特異的リポタンパク質の濃度を決定するために利用できる方法があるとしても、この方法には多くの制限があることが分かるだろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、先行技術の問題を除去又は軽減すること、及び試料中のリポタンパク質の濃度を決定するための改良された方法を提供することが本発明の実施形態の目的である。
発明者らは、生体試料中のリポタンパク質を測定するため、蛍光染料の使用を基礎とする簡易アッセイを開発できるか否かを研究することを決めた。この決定は、この種のアッセイを研究することに対する技術的な偏見に照らして成された。生体試料、特に血液試料は、相対的に広い波長にわたって自己蛍光を発する分子を含むので、簡単な蛍光ベースアッセイを開発できないだろうと予想された。
血液試料中の全リポタンパク質(すなわち、HDL、LDL、及びVLDL)の濃度を決定するため、発明者らは、種々クラスのリポタンパク質に結合した染料からの蛍光応答は所定の全リポタンパク質濃度、すなわちその組成(すなわち、試料中のHDL:LDL:IDL:VLDLの比)と関係なく、全リポタンパク質濃度では実質的に同一でなければならないことが好ましいだろうと認めた。従って、発明者らは、染料物質からの蛍光強度の応答も臨床試験で遭遇するであろう試料から予想されるリポタンパク質分子の濃度範囲にわたって実質的に線形であるべきであることが好ましいだろうと考えた。
発明者らは如何なる仮説によっても拘泥されたくないが、発明者らは、染料物質からの蛍光の強度は、試料中の特定のリポタンパク質分子(HDL、LDL、IDL又はVLDL)に対する染料物質の親和性、当該リポタンパク質分子の複合体内の環境に依存する蛍光の量子収率、及び密接に詰まった染料分子間のエネルギー移動によって引き起こされる蛍光消光の度合によって決まるだろうと考える。よって、発明者らは、簡単な蛍光測定によって全リポタンパク質の正確な測定を行うために使用しうる適切な染料物質を選択できるだろうと推論した。
そこで、発明者らは、一連の実験(実施例1〜3で論じる)を行って、いくつかの染料の蛍光と、実際の血清試料で遭遇するであろ一連のリポタンパク質濃度にわたって、各リポタンパク質粒子型(HDL、LDL、IDL又はVLDL)のリポタンパク質濃度との間に線形かつ均等な関係を得ることができるかを調べた。驚くべきことに、発明者らは、特定クラスの染料では、蛍光とリポタンパク質濃度との間に線形関係があることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明の第一局面により、試料中の全リポタンパク質の濃度を決定する方法であって、以下の工程:
(i)前記試料中のリポタンパク質に結合し、かつそのように結合したとき、適切な励起下で蛍光を発する脂肪親和性染料を前記試料のアリコートに添加する工程;及び
(ii)蛍光分析を用いて前記試料中の全リポタンパク質濃度を決定する工程
を含んでなる方法が提供される。
用語「全リポタンパク質」とは、試料中のVLDL、HDL、LDL、IDL及びカイロミクロンの全体的濃度を意味する。
【0009】
発明者らは、蛍光性の脂肪親和性染料を都合良く使用して試料の全リポタンパク質含量を決定しうることを立証した。発明者らは、驚くべきことに、このような染料は先行技術の欠点を克服すること、及び現場で(例えば、店、GPの手術室内で又は往診時に)使用でき、かつ操作するために専門知識を必要としない単純な蛍光光度計で行える正確、迅速かつ簡単な蛍光ベースアッセイで該染料を使用できることを見出した。
種々多様なリポタンパク質染料を使用しうる。しかし、発明者らは、本発明ではビフェノール染料(すなわち2つのフェノール基を含む染料)が特に有用であることを立証した。本発明の第一局面のビフェノール染料は、少なくとも3個の炭素原子を含む炭素鎖によって隔てられた2つのフェノール基を含みうる。炭素鎖は、好ましくは少なくとも1個の不飽和結合をも含む。このような染料はフェノール基及び炭素鎖上で置換がありうることが分かるだろう。
本発明の好ましい実施形態では、染料物質がカルコン又はベンザリデンアセトフェノンとして知られる蛍光単位(すなわち蛍光性化学的部分)を含むことが好ましい。この単位は下記一般式を有する。
【0010】
【化2】

【0011】
カルコン又はベンザリデンアセトフェノン染料は、カルコン基のフェノール環上に置換された官能基を有する。これらの官能基の性質は染料の特性に及ぼすいくつかの作用を有しうる。その作用としては以下のものが挙げられる。
(a)励起及び発光波長をより長い波長にシフトすること;
(b)染料を励起させるために用いられる波長が、血漿の多くの紫外(波長<400nm)励起性成分由来のバックグラウンド蛍光をほとんど生じさせないという利点を与える;
(c)溶媒(環境)の極性に対する感受性
(d)スペクトル変化をもたらす電荷移動作用;及び
(e)三重項状態への項間交差による無極性溶媒における消光。
【0012】
K-37は置換カルコン染料の一例であることが分かるだろう。我々の同時係属の未公開出願PCT/GB2005/004794は、K-37を基礎とする改良されたアッセイに関する。従って、カルコンベース染料に関する本発明の第一局面のいくつかの実施形態では、本発明の第一局面については、K-37を除外するつもりである。しかし、本発明の第一局面でK-37を利用するとき、後述するように、また本発明の第二局面とからめて論じるようにK-37を使用することが好ましい。
4-ジメチルアミノメチルカルコンを本発明の第一局面のこの実施形態で使用することもできる。この染料は下記式を有する。
【0013】
【化3】

【0014】
4-ジメチルアミノメチルカルコンは、ジメチルアミノ基とメチル基のパラ付加のあるカルコン単位を含む。
4-ジメチルアミノメチルカルコンの励起最大は420nmであり、発光最大は490nmである。従って、これらの波長が血清又は血漿試料のアッセイに特に適した染料を生じさせることが分かるだろう。
本発明の第一局面の別の好ましい実施形態では、脂肪親和性染料は化学構造:Ph-[C-C=C]n-C-Ph(nは好ましくは2〜6でよい)を有する蛍光単位(すなわち蛍光性化学的部分)を含んでなる染料物質である。
該蛍光単位を含んでなる好ましい染料はジフェニルヘキサトリエン(DPH)及びジフェニルオクタテトラエン(DPO)である。
DPHは下記一般式を有する。
【0015】
【化4】

【0016】
DPOは下記一般式を有する。
【0017】
【化5】

【0018】
Ph-[C-C=C]n-C-Ph染料はフェノール環上に置換を有しうる。カルコンベース染料の場合のように、これらの置換は該染料物質の蛍光特性を調節しうる。
本発明のPh-[C-C=C]n-C-Ph染料は炭素鎖上で置換されていてもよい。
他の好ましいPh-[C-C=C]n-C-Ph染料として、当技術分野で知られている誘導体が挙げられ(例えば、コレステロール、リン脂質、トリグリセリド、スフィンゴミエリン等)、それら誘導体に共有結合している膜成分を利用できる。
DPHは約380nmで励起最大を有し、440nmで発光最大を有するが、DPHは約400nmに励起性である。従って、DPHベース染料は、約400nmで励起させて440nmで解読することによって、血液ベース試料(血清又は血漿)と付随した蛍光バックグラウンドが混入するのをほとんど回避できることから、本発明の用途に適切であることが分かるだろう。
DPOはDPHと同様の特性を有するが、DPOは約430nmで励起最大を有するので、なおさらに好ましい。
本発明の第一局面のさらなる好ましい実施形態では、脂肪親和性染料がクマリン染料又はその誘導体である。このような染料は当技術分野で周知である。
好ましいクマリン染料は、下記構造を有するクマリン30である。
【0019】
【化6】

【0020】
クマリン30は有利なことに以下の特徴を有する。
1. PBS(リン酸緩衝食塩水)中での低い蛍光性
2. 脱脂血漿、ひいてはタンパク質中での低い蛍光性
3. 脂質中での非常に高い蛍光性
好適には、試料に添加される脂肪親和性染料の濃度は、約0.01〜20.0mM、さらに好適には約0.05〜10mM、なおさらに好適には約0.1〜1.6mMでよい。最も好ましい染料濃度は使用する染料にユニークであることが分かるだろう。
染料がカルコン染料である場合の例として、試料に添加されるK-37染料の濃度は約0.2〜1.0mM、さらに好適には約0.3〜0.9mM、なおさらに好適には約0.5〜0.8mMでよい。好ましくは、試料に添加されるK-37の濃度は、約0.65〜0.75mMである。0.65mMのK-37が特に好ましい濃度である。
染料がPh-[C-C=C]n-C-Phベース染料である場合のさらなる例として、試料に添加される染料の濃度は、約0.01〜20mM(使用する特有の染料によって決まる)でよい。例えば、染料が無置換DPHの場合、0.05〜5mMが好ましい濃度であり、特に好ましい濃度は約0.4mMのDPHである。或いは、染料がDPOの場合、試料に添加される染料の濃度は約0.1〜5.0mM、さらに好適には約0.2〜1.0mM、なおさらに好適には約0.3〜0.7mMでよい。好ましくは、試料に添加されるDPOの濃度は約0.4〜0.5mMである。
【0021】
本発明の第一局面の方法は、試料を励起波長で励起させてから別の発光波長で蛍光を観察する工程を含むことが分かるだろう。励起波長と発光波長の選択は、選択した染料の特性によって決まるだろう。
本発明の目的のため、いくつかの従来の蛍光定量装置を使用しうる。当業者は、試料中の全リポタンパク質の濃度を決定するための装置は、リポタンパク質アッセイを行うための反応レザバー;本発明の第一局面の方法に必要な試薬を含有するのに適合した格納手段;試料が蛍光を発するように試料を励起させるために使用できる励起手段(例えば、いずれかの必要なフィルターと共に、所望波長で発光するダイオード等の光源)、及び試料によって発光された蛍光を検出するために使用できる検出手段(例えば、好ましくは黄色-赤色感受性の光ダイオード又は光電子増倍管)を含みうることが分かるだろう。
好ましい染料の励起及び発光波長は、血液試料の成分(約300nm未満で干渉しうる)によって引き起こされる自己蛍光を避ける。
一般的に染料の励起波長は約350nm〜500nm、さらに好ましくは約400nm〜470nmであるだろう。
本発明の第一局面の方法は、約400nm以上、さらに好ましくは440nm以上(例えば440nm、490nm又は550nm)の発光波長で蛍光を観察する工程を含みうる。
好ましい実施形態では、K-37を利用する場合、本方法は、試料を約400nm〜500nm、さらに好ましくは約420nm〜480nm、なおさらに好ましくは約440nm〜470nmの励起波長で励起させる工程を含む。約450nmという特に好ましい励起波長を使用しうるが、約450〜470nmのいずれの波長での励起も特に好ましい。好ましくは、本方法は、約500〜650nm、さらに好ましくは約520nm〜600nmの発光波長で蛍光を観察する工程を含む。約540nm(又は540nm超え)という特に好ましい発光波長を使用しうる。この波長では、全リポタンパク質濃度(すなわちHDL、IDL、LDL及びVLDLの濃度のみならず、存在する場合はカイロミクロンの濃度も)決定するために最も正確な示度を観察できる。
別の好ましい実施形態では、4-ジメチルアミノメチルカルコンを利用する場合、励起波長が約420nmであり、発光波長が約490nmでよい。
別の好ましい実施形態では、DPHを利用する場合、励起波長が約350〜400nm(好ましくは約400nm)であり、発光波長が約440nmでよい。
【0022】
用語「蛍光分析」は、まず試料が蛍光を発するように試料を励起させてから蛍光を観察することによって、リポタンパク質アッセイの生成物の蛍光を測定することを意味する。
試料は、その中の全リポタンパク質濃度の知識が必要な食品でよい。好ましくは、試料は被験対象から得られる生体試料である。試料は、いずれの生体液、例えば、血漿若しくは血清、又はリンパ液をも含みうる。試料が血清又は血漿を含むことが特に好ましい。
試料中の全リポタンパク質の予測濃度が約0.1〜50.0mM、さらに好適には約0.5〜20mM、なおさらに好適には約1〜10mMの範囲内になるように試料を希釈することができる。当業者は、アッセイの目的はリポタンパク質含量を測定することであるが、経験も選択試料中で見られると期待される濃度範囲を該当業者が予測できるであろうことを左右することを認めるだろう。従って、被験試料の起源によっては、アッセイを行う前に、アッセイを行う人が選択して試料を希釈してよい(例えば、リン酸緩衝食塩水又は同様の緩衝液で)。しかし、本発明の好ましい実施形態では、いずれの希釈をも行う必要なく、直接、アッセイに試料(例えば血清)を導入することができる。これは、アッセイ手順を簡易に保ち、かつ当技術分野で容易に使用しうるという利点を有する。
【0023】
発明者らは、本発明の第一局面の方法を用いて作成しうるリポタンパク質プロフィールは、被験試料中の種々のリポタンパク質間で識別できれば、さらに改善され、さらに詳述されることを認めた。そこで、発明者らは、上述した脂肪親和性染料以外のプローブ物質の使用を検討して、種々のリポタンパク質分子間を区別できるかどうか調べてみた。発明者らは、驚くべきことに、識別用染料(discriminating dye)として本明細書で定義されるいくつかの染料を利用できることを見出した。該染料は、リポタンパク質に結合して、結合した特定のリポタンパク質によって左右される異なる蛍光応答を示す。これらの染料による蛍光測定は、試料中に存在するリポタンパク質の型間を区別できるようにする。これは、リポタンパク質混合物中の1つの特異型のリポタンパク質によって引き起こされた蛍光の増強又は低減を、本発明の第一局面のアッセイで与えられた全リポタンパク質含量の検量線及び既知値から決定されるような他のリポタンパク質(前記1つの特異型のリポタンパク質の非存在下で)から予測される蛍光と比較することによって行われる。例えば、発明者らはLDL及びVLDL等の他のリポタンパク質におけるよりHDLにおいて有意に高い蛍光を示す蛍光染料、ナイルレッド(Nile Red)をどうやって見つけたかについて後述する。従って、発明者らは、識別用染料を用いて、試料中のリポタンパク質のクラス又はサブクラス間で識別できることを実証した。これは、本発明の第一局面に従って全脂質濃度を決定した後に可能である。
【0024】
従って、本発明の第二局面により、試料溶液のリポタンパク質含量を分析する方法であって、以下の工程:
(a)前記試料中のリポタンパク質に結合し、かつそのように結合したとき、適切な励起下で蛍光を発する脂肪親和性染料を前記試料の第1アリコートに添加する工程;
(b)蛍光分析を用いて前記第1アリコート中の全リポタンパク質濃度を決定する工程;
(c)前記試料中の特異的リポタンパク質に結合し、かつそのように結合したとき、適切な励起下で蛍光を発する、識別用染料を前記試料の第2アリコートに添加する工程;
(d)蛍光分析を用いて前記第2アリコート中の前記リポタンパク質の濃度を決定する工程;及び
(e)前記工程(b)及び(d)で決定された濃度を比較することによって、前記リポタンパク質含量を計算する工程
を含んでなる方法が提供される。
本発明の第二局面の方法の工程(c)及び(d)を用いて、特定のリポタンパク質に特異的な染料の蛍光応答のシフトによって、特定のクラス、又はサブクラスのリポタンパク質の濃度を決定することができる。
本発明の第二局面の方法の工程(a)及び(b)は、本発明の第一局面の方法の工程(i)及び(ii)に相当しうる。従って、本発明の第一局面のいずれの脂肪親和性染料をも本発明の第二局面で利用することができる。
本発明の一実施形態では、識別用染料は、工程(a)が脂肪親和性染料K-37を利用する場合、当該ナイルレッド以外の染料である。
本発明の第二局面の好ましい実施形態では、脂肪親和性染料がK-37である。工程(a)でK-37をいくつかの濃度で使用しうる。しかし、発明者らは、0.1〜1.0mMのK-37の濃度で該染料を使用することが有利であることを見出した。これらの濃度は、全リポタンパク質の濃度のより正確な決定のために最適である。驚くべきことに、これらの濃度で工程(b)の蛍光測定の分析から得られるシグナル歪みはかなり少ない。試料に添加されるK-37の濃度が約0.2〜1.0mM、さらに好適には約0.3〜0.9mM、なおさらに好適には約0.5〜0.8mMであることが好ましい。好ましくは、試料に添加されるK-37の濃度は約0.65〜0.75mMである。0.65mMのK-37が特に好ましい濃度である。
従って、好ましい実施形態では、本発明の第二局面の方法の工程(b)を行うため、本方法の工程(a)で約0.65mM又は0.7mMのプローブ物質、K-37を試料に添加する。
K-37を使用する場合、第二局面の方法の工程(a)は、約400nm〜500nm、さらに好ましくは約420nm〜480nm、なおさらに好ましくは約440nm〜470nmの励起波長で前記試料を励起させる工程を含む。約450nmという特に好ましい励起波長を使用しうるが、約450〜470nmのいずれの波長での励起も特に好ましい。好ましくは、本方法は、約500〜650nm、さらに好ましくは約520nm〜600nmの発光波長で蛍光を観察する工程を含む。約540nm(又は540nm超え)という特に好ましい発光波長を使用しうる。この波長では、全リポタンパク質濃度(すなわち、HDL、IDL、LDL及びVLDLの濃度のみならず、存在する場合はカイロミクロンの濃度も)を決定するために最も正確な示度を観測できる。
発明者らは、本発明の第二局面の工程(c)でいくつかの識別用染料を使用できることを立証した。
発明者らは、驚くべきことに、リポタンパク質間を識別できる、識別用染料が存在することを見出した。染料濃度、励起波長及び発光波長を個々の染料について最適化することが最も好ましい。しかし、最適化の程度は、必要だとしても、本発明の用途で選択される染料によって左右されるだろう。
好ましい識別用染料は、選択的にHDLに結合できる。選択的にHDLに結合するための好ましい染料は、芳香族構造に結合し、かつアルキル基にも結合している窒素原子を含んでなる蛍光単位(すなわち(アルキル)2N(芳香族基))を含む。アルキル基はメチル又はエチルでよい。芳香族基は、好ましくは少なくとも2個の芳香環構造を含む。
一実施形態では、工程(c)は、染料ナイルレッド、又はその機能類似体を試料のアリコートに添加して、試料中のHDLをアッセイする工程を含む。ナイルレッドの式は、以下のとおりである。
【0025】
【化7】

【0026】
好ましくは、ナイルレッドを用いて試料中のHDL濃度を決定するため、HDLの存在に起因するナイルレッドからの過剰な蛍光で計算を行わなければならない。第一に、脂肪親和性染料の蛍光とリポタンパク質濃度(工程(b)で決定された)との線形相関関係によって、全リポタンパク質濃度(測定値「A」)を測定する。
第二に、種々の濃度にてLDL(及び/又はVLDL(濃度応答に対する蛍光は本質的に同一にちがいので))でナイルレッド蛍光を較正して、傾き「X」及び切片「Y」の検量線を得る。当業者は、一連の濃度のLDL(及び/又はVLDL)をどうやって調製するか、また各濃度についてそれぞれの蛍光をどうやって決定するかが分かるだろう。
第三に、一連の濃度のHDLと一定濃度のLDLについて追加の検量線を作成して、傾き「Z」を得る。
第四に、脂肪親和性染料測定値「A」と未知試料の過剰のナイルレッド蛍光「B」から全リポタンパク質濃度が分かれば、下記方程式から未知試料中のHDLの濃度「C」を決定できる。
C=(B-(AX-Y))/Z
本発明の第二局面の実施では、予め調製したか又は標準的な検量線を使用できることが分かるだろう。従って、オペレーターは該較正を繰返す必要がない(明瞭さの目的のため、本明細書には含まれる)。さらに、脂質プロフィールを作成するために開発された装置は内部標準を有し、及び/又はユーザーの介入なしでHDLレベルの自動計算を可能にする処理手段を有しうる。
従って、本発明の第二局面の方法は、さらに、蛍光分析を用いて試料中のHDLの濃度を決定する工程を含みうる。本方法は、試料の第2アリコートにナイルレッド等の識別用染料を添加する工程(c)及び(d)を含む。この染料は、HDLと他のリポタンパク質に結合するが、適切な励起下では、試料中のHDLの濃度に比例してナイルレッドがますます強く蛍光を発する。この追加工程を行うと、全リポタンパク質濃度と、臨床医にとって非常に有用であろうHDL濃度とから成る、試料のなおさらに詳細なリポタンパク質プロフィールを作成することができる。
発明者らは、一連の実験を行って、試料に添加すべきナイルレッドの最適濃度を決定して、試料中のHDLの定量の精度を改善した。これはかなり発明的努力を要した。従って、試料に添加されるプローブ物質ナイルレッドの濃度は約0.1〜1mMでよい。有利なことに、ナイルレッドのこの濃度で、HDL濃度のさらに正確な濃度決定が可能である。
好適には、試料に添加されるナイルレッドの濃度は、約0.1〜0.9mM、さらに好適には約0.2〜0.8mM(例えば0.2〜0.7mM)、なおさらに好適には約0.3〜0.7mM(例えば0.3〜0.6mM)でよい。4mMのナイルレッドを使用しうるが、約0.6mMの最終濃度まで試料にナイルレッドを加えることが特に好ましい。
ナイルレッドの蛍光は、好ましくは試料を約400nm〜650nmの励起波長で励起させることによって誘導される。
励起波長が400nm〜650nm;好ましくは約420nm〜620nm、さらに好ましくは約500nm〜610nm、なおさらに好ましくは約590nm〜610nmであることが好ましい。約600nmという励起波長をナイルレッドに関して使用しうる。この波長は、他のリポタンパク質と比較した場合、HDL中のナイルレッド由来の蛍光応答間で最大の識別(>5倍)を与える。これらの励起波長を採用する場合、さらに詳細に後述するように、ヒト血清アルブミン(HSA)上の「脂肪酸及び薬物結合ドメイン」を遮断する薬剤を使用することが好ましい。
【0027】
次に、ナイルレッドから生じた蛍光を、約540〜700nm、さらに好ましくは約570〜650nmの発光波長で観察かつ測定することができる。約620nmという好ましい発光波長を使用しうる。この波長では、HDLの濃度を決定するための最も正確な示度を観察しうる。
発明者らは、本発明の第一又は第二局面の方法で使用される個々のアッセイの精度をさらに改良できるかどうかを検討して、約30〜50mg/mlの濃度を有する、血清の主成分であるヒト血清アルブミン(HSA)に注意を転じた。
HSAは、種々のリガンドと結合できる少なくとも2つの型の結合部位を有することが分かっている。第1の型を本明細書では「疎水性ドメイン」と称し、第2の型のドメインを本明細書では「薬物結合ドメイン」と称する。これらのドメインは当業者に周知であり、Nature Structural Biology (V5 p827 (1998))の論文で相互に識別されている。この論文は、脂肪酸が結合しうるドメインとして疎水性ドメインを同定し、薬物結合ドメインはHSAと関連しうるいくつかの薬物と結合できると同定している。
発明者らは、自分たちの実験から、驚くべきことにリポタンパク質の存在下で蛍光を発しうる染料は、HSAの疎水性結合部位/ドメインにも結合できることを立証した。従って、本発明で使用される染料はHSAのリガンドでよい。さらに、驚くべきことに、発明者らは、染料(例えばK-37及びナイルレッド)がHSAに結合したときに蛍光を発することを見出した。従って、発明者らは如何なる仮説にも拘泥されたくないが、発明者らは、このHSAに結合したときの追加の蛍光が実質的なバックグラウンドシグナルを生じさせ、本発明の第一又は第二局面のリポタンパク質の濃度の決定をゆがめ、有意な誤差をもたらしうると考える。
結果として、発明者らは、染料(例えばK-37、及びナイルレッド)とHSAの結合を阻害するという作用について検討した。特に、プローブK-37及びナイルレッドが結合して蛍光を発する、HSAの疎水性結合部位を遮断することを試みた。この研究は実施例4及び5に記載されている。発明者らは如何なる仮説にも拘泥されたくないが、驚くべきことに、染料と疎水性結合部位との結合を遮断すると、リガンド結合インヒビターを添加しない場合より試料中の全リポタンパク質の濃度のより正確な測定である、リポタンパク質分子(HDL、LDL、VLDL)に結合したときのプローブ物質の蛍光をもたらすことを見出した。発明者らは、リガンドナイルレッドのHSAへの結合を阻害すると、HDL定量の精度を改善することをも見出した。
従って、本発明の方法は、HSA、好ましくはその疎水性結合部位への染料物質の結合を実質的に阻害するのに適合したリガンド結合インヒビターを試料に添加する工程を含む。本発明の第一局面の工程(i)或いは本発明の第二局面の工程(a)及び/又は(c)の前、或いは前記工程と同時にも試料にリガンド結合インヒビターを添加することが特に好ましい。
リガンド結合インヒビターは疎水性でよい。インヒビターは両親媒性でよい。リガンド結合インヒビターは、脂肪酸又はその機能性誘導体、並びに他の疎水性分子を含みうる。HSAの疎水性結合部位を遮断しうる、脂肪酸の適切な誘導体の例は、脂肪酸、そのエステル、アシルハライド、無水カルボン酸、又はアミド等を含みうる。好ましい脂肪酸誘導体は脂肪酸エステルである。
脂肪酸又はその誘導体は、C1-C20脂肪酸又はその誘導体を含みうる。脂肪酸又はその誘導体がC3-C18脂肪酸又はその誘導体、さらに好ましくはC5-C14脂肪酸又はその誘導体、なおさらに好ましくはC7-C9脂肪酸又はその誘導体を含むことが好ましい。
リガンド結合インヒビターは、オクタン酸(C8)又はその誘導体、例えば、オクタノエートを含むことが特に好ましい。好ましくは、リガンド結合インヒビターをアルカリ金属のオクタノエートとして、好ましくはI群のアルカリ金属のオクタノエート、例えば、オクタン酸ナトリウム又はオクタン酸カリウムとして添加する。
好ましくは、本発明の第一又は第二局面のアッセイを行う前に約10〜400mMのリガンド結合インヒビターを試料に添加する。さらに好ましくは約20〜200mM、なおさらに好ましくは約50〜150mMのリガンド結合インヒビターを加える。約100mMのインヒビターを添加することが特に好ましい。従って、本方法の好ましい実施形態では、本発明の第一局面の工程(i)又は本発明の第二局面の工程(a)及び(c)を行う前に、或いは前記工程を行うと同時に約100mMのオクタン酸ナトリウムを試料に添加する。
本発明の第一局面の好ましい実施形態では、本方法の工程(i)で全リポタンパク質濃度の蛍光測定を行う前に、前記試料から取ったアリコートにまずリガンド結合インヒビター、例えば約100mMのオクタン酸ナトリウムを約0.4mMのDPH又は0.5mMのDPOと共に加える。
本発明の第二局面の好ましい実施形態では、まずリガンド結合インヒビター、例えば、約10OmMのオクタン酸ナトリウムを前記試料の第1アリコートに、約0.4mMのDPHと共に加え(工程(a))、かつ本発明でHDL濃度の蛍光測定を行う前に、約100mMのオクタン酸ナトリウムをも第2アリコートに、約0.4mM、さらに好ましくは0.6mMのナイルレッドプローブと共に添加する(工程(c))。
本発明の第二局面の別の好ましい実施形態では、まずリガンド結合インヒビター、例えば、約100mMのオクタン酸ナトリウムを前記試料の第1アリコートに、約0.5mMのDPOと共に加え(工程(a))、かつ本発明でHDL濃度の蛍光測定を行う前に、約100mMのオクタン酸ナトリウムをも第2アリコートに、約0.1mMのナイルレッドと共に添加する(工程(c))。
【0028】
発明者らは、さらにナイルレッドも上述したHSA上の薬物結合ドメインと相互作用することを見出した。この薬物結合ドメインのリガンドとして以下のような薬物分子が挙げられる:チロキシン、イブプロフェン、ジアゼパム、ステロイドホルモンとその誘導体(薬物)、ヘム、ビリルビン、脂肪親和性プロドラッグ、ワルファリン、クマリンベース薬物、麻酔薬、ジアゼパム、イブプロフェン及び抗うつ薬(例えばチオキサンチン)。発明者らは、薬剤を用いてこの薬物結合ドメインを遮断することができ、これがナイルレッドによるアッセイ結果のさらなる改善をもたらすことを見出した。上記薬物、又はこのドメインに親和性のいずれの他の分子をHSAの薬物結合ドメインの遮断用薬剤として用いてもよい。しかし、安息香酸又はその誘導体(例えばトリクロロ安息香酸又はトリヨード安息香酸)を用いて薬物結合ドメインを遮断することが最も好ましい。
本明細書(いずれの添付の特許請求の範囲、要約及び図面をも含む)で述べる全ての特徴、及び/又はそのように開示されるいずれの方法又はプロセスの全ての工程を、そのような特徴及び/又は工程の少なくとも一部が相互に排他的である組合せを除き、いずれの上記局面といずれの組合せで併用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
さて、本発明のより良い理解のため、及び本発明の実施形態をどうやって実施するかを示すため、例として、添付図面を参照する。
【図1】実施例1で言及するとおりのHDL中3つの濃度(0.4mM、0.65mM及び0.9mM)のK-37について全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図2】実施例1で言及するとおりのLDL中3つの濃度(0.4mM、0.65mM及び0.9mM)のK-37について全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図3】実施例1で言及するとおりのVLDL中3つの濃度(0.4mM、0.65mM及び0.9mM)のK-37について全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図4】実施例1で言及するとおりのHDL、LDL、及びVLDL中0.4mMのK-37について全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図5】実施例1で言及するとおりのHDL、LDL、及びVLDL中0.65mMのK-37について全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図6】実施例1で言及するとおりのHDL、LDL、及びVLDL中0.9mMのK-37について全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図7】実施例1で言及するとおりの一連のHDL、LDL、及びVLDL混合物中0.65mMのK-37について全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図8】0.65mMのK-37について実施例2の6つの試料溶液に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図9】一連の濃度の4-ジメチルアミノメチルカルコンについて実施例2の6つの試料溶液に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図10】一連の濃度のジフェニルヘキサトリエン(DPH)について実施例2の6つの試料溶液に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図11a】実施例2で述べるとおりの混合リポタンパク質の一連の濃度にわたって0.5mMのDPHの蛍光強度を示すグラフである。
【図11b】実施例2で述べるとおりの混合リポタンパク質の一連の濃度にわたって0.1mM、1.0mM及び4.0mMのDPHの蛍光強度を示すグラフである。
【図12a】実施例2で述べるとおりの混合リポタンパク質の一連の濃度にわたって0.5mMのDPOの蛍光強度を示すグラフである。
【図12b】実施例2で述べるとおりの混合リポタンパク質の一連の濃度にわたって0.1mM及び1.0mMのDPOの蛍光強度を示すグラフである。
【図13】実施例2で述べるとおりの混合リポタンパク質の一連の濃度にわたってクマリン30の蛍光強度を示すグラフである。
【図14】0.4mMのナイルレッドについて実施例3の6つの試料溶液に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図15】実施例3で言及するとおりのHDL濃度に対するナイルレッド蛍光を示すグラフである。
【図16】実施例5で言及するとおりの蛍光強度に対するLDL濃度の検量線である。
【図17】実施例5で言及するとおりのHDL濃度に対する過剰な蛍光の検量線である。
【図18】実施例5で言及するとおりのHDL濃度に対する誤差を示すグラフである。
【図19】実施例5で言及するとおりのHDL濃度に対するナイルレッドの蛍光(励起460nm及び発光620nm)を示すグラフである。
【図20】実施例5で言及するとおりのHDL濃度に対するナイルレッドの蛍光(励起600nm及び発光620nm)を示すグラフである。
【図21】HDL(+オクタノエート)又はHSA(+オクタノエート)の存在下、460nm及び600nmの励起波長におけるナイルレッドの蛍光のスペクトル分析を示すグラフである。
【実施例1】
【0030】
発明者らは、蛍光染料を用いて本発明の第一局面の全リポタンパク質の濃度を決定できるか否かを調査するため一連の実験を行った。
発明者らは、WO 01/53829A1が、0.1mM近傍の濃度でK-37がリポタンパク質クラスに対して異なる蛍光強度応答を有することが分かることを開示していることに注目した。これは、染料-リポタンパク質複合体が異なる蛍光寿命、ひいては異なる量子収率を有するからである。
発明者らは、K-37を用いて簡易蛍光アッセイを利用して試料中の全リポタンパク質(全ての脂質はリポタンパク質に結合すると想定されるので、全トリグリセリド+コレステロール+コレステロールエステルと同一視する)の濃度を検出できることを意味するであろう、何らかのアッセイ条件が存在するか否かを調査することを決めた。
【0031】
1.1 方法
リン酸緩衝食塩水に溶かした一連の濃度のHDL、LDL、及びVLDLに、ジメチルホルムアミド(DMF)に溶かした染料、K-37を一連の異なる濃度で加えた。この実験の目的は、実際の血漿又は血清試料で遭遇するであろうリポタンパク質濃度の範囲にまたがって、各粒子型(HDL、LDL、及びVLDL)について蛍光とリポタンパク質濃度との間の線形かつ均等な関係を得ることである。Perkin-Elmer LS50蛍光光度計で、450nmの励起波長、及び540nmの発光波長にて蛍光強度を測定した。
1.2 結果
図1〜3は、リン酸緩衝食塩水中のHDL、LDL、及びVLDL中、3つの濃度、すなわち0.4mM、0.65mM及び0.9mMのK-37について蛍光強度対全リポタンパク質濃度を示す。各シリーズに対する線形フィットについてR2値が示される(上段が0.4mM、中段が0.65mM、及び下段が0.9mM)。同データを図4〜6でプロットし、K-37濃度で分類する。
【0032】
これらの実験の結論は以下のとおりである。
1)3つのリポタンパク質粒子型(HDL、LDL、及びVLDL)すべてについて、R2は全リポタンパク質濃度と0.65mMのK-37濃度の蛍光強度との間に良い線形の関係があることを示している。LDL及びVLDL中の0.9mMのK-37についても良い線形の関係が観察されたが、HDL中の0.9mMのK-37の線形性は少し不十分である。0.4mMのK-37では全てのリポタンパク質について線形性が不十分である。線形性が不十分な濃度でさえ線形性が働くが、あまり正確でないことに注意すべきである。しかし、多項フィッティングを用いて非線形性を処理しうる。
2)2つの因子が線形性に影響すると考えられる。低い染料濃度では、高い全リポタンパク質濃度における応答の平坦化がある。発明者らは如何なる仮説にも拘泥されたくないが、これはリポタンパク質粒子を完全に占有するために利用できる不十分な染料があるので起こると考えられる。高い染料濃度では、低い全リポタンパク質濃度による平坦な応答がある。これは、染料が粒子内に非常に密接に充填されている場合に蛍光の自己消光によって引き起こされる。
3)リン酸緩衝食塩水中で測定した場合、妥当な範囲にわたって全てのリポタンパク質粒子型について0.65mMというK-37濃度が線形かつ非常に類似した蛍光応答を与える。
【0033】
従って、0.65mMのK-37を一連のHDL/LDL/VLDL混合物に加え、上述したように蛍光強度を測定した。データを図7に示す。分かるように、全リポタンパク質濃度は蛍光強度と非常に相関関係があり(R2=0.9983)、K-37のこの濃度(0.65mM)が全リポタンパク質濃度の非常に正確な測定に適していることを確証する。これを患者由来の生体試料に適用したとき、発明者らは、高い脂質濃度で何らかの弯曲を観察した。その結果、血清又は血漿で使うための最適K-37濃度として0.7mMのK-37という濃度を選択した。従って、この濃度を本発明の方法で最も適した濃度として選択した。
【実施例2】
【0034】
実施例1で示したデータにより、発明者らは、K-37の特性と同様の特性を有する染料を本発明の第一局面のアッセイで使用しうると認識した。実施例2ではさらなる実験について述べ、全クラスのリポタンパク質染料(本発明の第一局面で定義したとおり)を試料の全リポタンパク質含量の蛍光測定で使用できることを実証する。
2.1 方法
実施例1で使用した方法をいくつかの異なる染料を試験するために適合させた。
下表1に示すような異なる比率のリポタンパク質クラスを含有する6つの各溶液(すべて全リポタンパク質の最終濃度は6.0ミリモル/L)に一連の濃度の染料(0.1、0.2、0.4、0.8、1.6mMの最終濃度で)を適用することによって、染料を試験した。次に、以前に述べたとりに溶液の蛍光強度を測定した。
【0035】
【表1】

【0036】
本発明の第一局面で有用と考えられる染料を、所定染料濃度について異なるリポタンパク質比の6つの溶液にわたって染料の蛍光強度の変異係数(coefficient of variances)(CV)を計算することによって評価した。CVは、6つの蛍光強度の測定値を該測定値の平均で除して100を掛けてパーセンテージ値を得る標準偏差として定義される。従って、低値(<10%)は、該染料が溶液中の異なるクラスのリポタンパク質間を識別していないことを示唆すると考えられるので、本発明の第一局面で有用だった。3%以下の値を有する染料が本発明の第一局面で使うために最も好ましい染料に相当した。
2.2 結果
発明者らは、多くの染料が本発明の第一局面の方法で使うのに不適であることを立証した。多くの染料はリポタンパク質に結合して蛍光を発することができなかった。しかし、蛍光を発するであろう当該染料の多くは以下のどちらかだろう:
(a)試料1〜6の間に一貫した示度があり、かつ10%を超えるCV値を有するように蛍光を発しない;又は
(b)10%未満のCV値がもたらされる場合、血清又は血漿などの生体試料由来の蛍光によって与えられるであろう波長で励起又は発光する必要がある。
【0037】
従って、発明者らは本発明の第一局面で使うのに適しているいくつかの染料を退けた。例えば、染料ピレンで実験を行った。この染料は少なくとも一部のリポタンパク質に結合し、該リポタンパク質に結合したとき蛍光を発することができた(データ示さず)。しかし、この染料は320nmに励起最大を有するので、生体試料で使うのに不適だっただろう(試料をこの波長で励起すると、生体試料内では多くの分子、まったくリポタンパク質でない分子も蛍光を発するだろう)。
しかし、試験した染料の中で、発明者らは、驚くべきことに脂肪親和性染料、特に2個のフェノール基を有する脂肪親和性染料は、試料中のリポタンパク質の全含量を測定するためのその最適濃度でちょうどK-37と同じくらい優れることを見出した。
【0038】
本発明の第一局面の染料として以下のものが挙げられる。
2.2.1 カルコンベース染料
0.65mMのK-37は2.78%のCVをもたらした(図8参照)。これは、0.65mMという濃度で該染料はリポタンパク質粒子間を識別しないことを示しており、本発明の第一局面での該染料の有用性を確認する。
図9は、4-ジメチルアミノメチルカルコン(DMAMC)についての実験的知見を示す。この染料は10%よりかなり低いCVを有した。この染料の励起最大は420nmであり、かつ発光最大は490nmである。これらの波長は血漿アッセイに適し、この染料は本発明の第一局面で使うための好ましい脂肪親和性染料を代表する。
2.2.2 Ph-[C-C=C]n-C-Ph染料とその誘導体
図10は、DPHの実験結果を示す。DPHはリポタンパク質のクラス間を識別せず、0.4mMの染料という濃度で最良のCV(1.7%)を与えた。これは、DPHが本発明の第一局面で有用であることを示している。
DPHは350nmで励起最大、及び440nmで発光最大を有する。しかし、発明者らは、約400nmでDPHは励起可能であることを見出した。このことは、359nm近傍(及び359nm未満)で血漿に付随して混入する蛍光バックグラウンドの大部分を回避し、該染料を本発明の第一局面で有用にした。
DPHは、本発明の第一局面で使うための好ましい染料を代表する。当業者は、DPHがいくつかの脂肪親和性染料内で見られる塩基性の発蛍光基であることを認めるだろう。DPH分子に種々の環置換を生じさせて、この染料の蛍光特性を調整することができる。本発明の第一局面により、全リポタンパク質を測定するために該染料を使用することもできる。
図11(a)は、混合リポタンパク質の一連の濃度にわたる0.5mMのDPHの蛍光強度を示し;図11(b)は、混合リポタンパク質の一連の濃度にわたる0.lmM、1.0mM及び4.0mMのDPHの蛍光強度を示す。これらのグラフは、さらに蛍光強度とリポタンパク質濃度との間の線形関係を示し、これによって本発明の第一局面で使うためのDPHの適合性を実証している。
図12(a)及び(b)は、本発明の第一局面で使うための別の好ましい染料であるDPOについて同様のデータを提示し、この場合も本発明の第一局面で使うためのDPOの適合性を実証している。
2.2.3 クマリン染料
図13は、混合リポタンパク質の一連の濃度にわたるクマリン30の蛍光強度を示すグラフである。このグラフは、蛍光強度とリポタンパク質濃度との間の線形関係を示し、これによって本発明の第一局面で使うためのクマリン30の適合性を実証している。
2.3 結論
これらの結果をひとまとめにして考えると、脂肪親和性染料、特に上述したビフェノール系染料は、本発明の第一局面に従って試料の全リポタンパク質含量をアッセイするための有用な染料であることを示している。
【実施例3】
【0039】
実施例2のデータを作成するために行った一連の実験により、発明者らは、いくつかの染料がリポタンパク質クラス間を識別でき、ひいては本発明の第二局面の方法の工程(c)で使用しうることをも実現化した。
3.1 方法
実施例2で用いた方法を繰返した。
3.2 結果
(ナイルレッド)
460nmで励起して620nmで発光が検出されたとき、HDLはナイルレッドの蛍光増強を誘導した。この励起において、HDLの蛍光増強はVLDLとLDLの両方の蛍光増強の二倍である。しかし、最初の3つの試料のCVは2.78になり、かつ試料4〜6では1.0%になった。これは、この染料がLDLとVLDLとを区別しないことを示している。ナイルレッドを600nmで励起させたときの蛍光増強は、HDLでは、5倍超え強い。
図14は、どれだけ0.4mMのナイルレッドがリポタンパク質クラス間を識別したかを実証する。
図15は、ナイルレッドがPBS内で事実上非蛍光性でであり、血漿中ではタンパク質の結合のため単に穏やかに蛍光性であるだけであり、かつさらに6mmol/Lのリポタンパク質を添加すると蛍光強度が増すことを示す。HDLについてナイルレッドが識別することを実証する一定のリポタンパク質濃度でHDL含量が増加するので、ナイルレッドの蛍光強度の強い増加がある。発明者らは、この蛍光増強はHDL粒子のタンパク質脂質界面に染料が結合することに起因すると考える。HDLは、50%より多くがタンパク質、主にApoAであり、このタンパク質は、質量でずっと少ない粒子を構成し、かつタンパク質/脂質界面が少ない表面結合型タンパク質ApoBのコピーを有するVLDL、IDL及びLDLとは全く異なり、粒子をうねって進む。
これらの予備実験を拡張して(実施例5参照)、ナイルレッドが本発明の第二局面の方法で使用しうる有用な識別用染料であることを確証した。
【実施例4】
【0040】
発明者らは本発明の方法を最適化するためのさらなる研究を行った。この目的のため、発明者らは染料が結合して蛍光を発する疎水性結合部位をHSAが有することを認めた。HSAに結合したときのこの追加の蛍光が実質的なバックグラウンドシグナルを生じさせ、リポタンパク質分子、すなわちHDL、LDL及びVLDLの測定をゆがめ、ひいては有意な誤差を生じさせうる。そこで、発明者らは、オクタン酸ナトリウム等のリガンド結合インヒビターでHSA内の疎水性結合部位を遮断できるかを調べ、追加の蛍光を最小化できるかを確かめることを決めた。このように染料とHSAの結合を阻害すると、染料蛍光測定を用いて得られる結果の精度を向上させるであろうと予想した。
説明目的のため、K-37を用いて実験を行った。しかし、当業者は、この実施例で示したデータが本発明のいずれの脂肪親和性染料及び識別用染料にも適用できることを理解するだろう。
4.1 方法
50mg/mlのHSAの存在下及び非存在下、5mMの全脂質濃度のLDLに0.5mMの濃度で染料K-37を添加した。リガンド結合インヒビターとして作用する0.1Mのオクタン酸ナトリウムを添加する場合と添加しない場合で測定を行った。
4.2 結果
全試料について蛍光強度を測定し、表2に要約する。
【0041】
【表2】

【0042】
結果は、LDLのみの中のK-37の蛍光強度は213500単位であることを示す。LDLにオクタノエートを添加するとK-37の蛍光強度は209700単位であり(すなわち、オクタノエートがない場合とほぼ同一)、オクタノエートの存在は、LDL単独に結合しているK-37の蛍光強度に寄与しないことを示唆している。HSAに結合しているK-37の蛍光強度は79300単位であり、HSAとオクタノエートの存在下のK-37の蛍光強度は3600である。これは、HSAがK-37の蛍光に寄与するので、干渉シグナルであることを示している。オクタノエートの添加は、この干渉を有意に低減し、これによってHSAの破壊的作用を未然に防ぐ。従って、結果は、オクタノエートの存在下でHSAによるK-37の蛍光強度の大きな抑制を示すが、LDL中ではK-37の蛍光にほとんど作用しないことを示している。これは、オクタノエートがHSA上のK-37結合部位の遮断で顕著に成功し、K-37の蛍光を全リポタンパク質濃度の真の測定にすることを示した。
4.3 結論
従って、発明者らは、脂肪親和性染料蛍光を測定する前に、HSAの疎水性結合部位に結合するオクタノエート等のリガンド結合インヒビターを血液試料に添加して、全リポタンパク質濃度の精度を高められると考える。さらに、発明者らは、この技法を用いてHSAの疎水性結合部位への他のリガンドの結合をも遮断することができ、また、既に該部位に結合して、かつ該オクタノエートよりHSAに対して親和性が低いリガンドを置換できることを示唆する。
【実施例5】
【0043】
発明者らは、実施例3で述べた実験を拡張して、識別用染料を用いて血液試料内に存在するリポタンパク質の異なる型間を識別できることを確認した。
説明目的のため、発明者らは、本発明の第二局面で使用しうる識別用染料の例としてナイルレッドを用いることを選択する。
5.1 方法
測定原理は、プローブナイルレッドがLDL、及びVLDL中におけるよりHDL中で蛍光性が高いことである。VLDLはLDLと同一でないが、濃度によって非常に類似した蛍光応答を有する。測定は、HDL中のナイルレッド由来の過剰の蛍光について計算しなければらならず、かつ全てのリポタンパク質の単なる全蛍光ではないので、全リポタンパク質の測定(本発明の第一局面に従う)より複雑である。
5.1.1 較正
ジメチルホルムアミドに溶かした0.5mMのナイルレッドを、通常4〜10mMの間で全リポタンパク質濃度を変えてLDLと混合した(典型的に50μlの染料を50μlのリポタンパク質及び1mlのリン酸緩衝食塩水と混合する)。試料を分光蛍光光度計に入れて蛍光強度を測定した(励起波長450nm、発光波長600nm)。蛍光強度をLDL全脂質濃度に対してプロットし、図16に示されるような傾き「X」及び切片「Y」の直線の検量線を得た。
次に、この手順をLDLとHDLの混合物について繰返した。HDLを0〜3.0mMの濃度で添加し、全試料について6mMの全リポタンパク質濃度を維持するようにLDLを加えた(しかし、3〜12mMが限界だろう)。次いでこれらの試料の蛍光強度を測定した。次に、HDLの存在に起因する過剰の蛍光についてプロットを行い、図17に示されるような傾き「Z」の直線の検量線を得た。
5.1.2 未知物の測定
ジメチルホルムアミドに溶かした0.5mMのナイルレッドを調査中の試料と混合した。試料を蛍光光度計に入れ、上記較正と同じ条件下で蛍光強度を測定した。
5.1.3 HDL濃度の計算
HDLの計算は、全リポタンパク質濃度「A」を知る必要があり、例えば、排他的でないが、本発明の第一局面の方法で用いた脂肪親和性染料の蛍光強度から測定することができる。個々の試料について、該試料がHDLを含まない場合に予測される蛍光強度を図17に示される検量線から得る。測定した蛍光強度マイナスこの計算した蛍光強度が、試料中に存在するHDLに起因する過剰の蛍光である。
そして、図17に示される検量線と下記方程式を用いて未知試料中のHDL濃度「C」を得ることができる。
C=(B-(AX-Y))/Z
実際の臨床試料で予想される範囲の濃度を包含することを意図した一連の濃度のHDL/LDL/VLDL混合物を調製した。上記較正データを用いて混合物からHDL濃度を計算した。図18は、実際のHDL濃度と、ナイルレッドの蛍光から決定したHDL濃度との間の誤差を図示し、約0.15mMだけの最大誤差を示す。発明者らはさらに、血清の試料で使うためナイルレッドの濃度を正確に0.4mMとした。
これらのデータの結果として、発明者らは、試料中に存在するリポタンパク質の型間を区別し、かつ染料ナイルレッドを用いてHDLの濃度を決定できることを示した。
5.1.4 ナイルレッドとHSAブロッカーの併用
実施例4で述べた発見に続き、HSAの疎水性結合部位を遮断するためのオクタノエートの添加について、発明者らはナイルレッドもHSAに結合して蛍光を発することを観察した。このHSAに結合したときのナイルレッドの追加の蛍光も実質的なバックグラウンドシグナルを生じさせ、HDLの測定をゆがめ、ひいては有意な誤差を生じさせる。そこで、発明者らはK-37の遮断と同じリガンド結合インヒビター、すなわちオクタン酸ナトリウムでHSA内の疎水性結合部位を遮断することを決めた。実施例4で述べた実験に基づき、ナイルレッドとHSAで実験を行い、すべて0.5mMのナイルレッドを用いた。
【0044】
【表3】

【0045】
表2に表される結果は、LDLだけの中におけるナイルレッドの蛍光強度が187.532単位であることを示している。オクタノエートをLDLに添加したときのナイルレッドの蛍光強度は183.786単位であり(すなわちオクタノエートが無い場合とほぼ同じ)、LDL単独に結合している染料の蛍光強度にはオクタノエートの存在が寄与しないことを示唆している。HSAに結合したナイルレッドの蛍光強度は58.905単位であり、HSAとオクタノエートの存在下のナイルレッドの蛍光強度は9.118である。これは、HSAはナイルレッドの蛍光に寄与するので、干渉シグナルであることを示している。オクタノエートの添加は、この干渉を有意に減じ、これによってHSAの破壊的作用を未然に防ぐ。従って、結果は、オクタノエートの存在下におけるHSAによるナイルレッドの蛍光強度の大きな抑制を示すが、LDL中のナイルレッドにはほとんど作用を及ぼさないことを示している。
これは、HSA上のナイルレッド結合部位の遮断においてオクタノエートが顕著に成功しており、ナイルレッドの蛍光をリポタンパク質濃度の真の測定にすることを示した。従って、発明者らは、ナイルレッドの蛍光を測定する前に、HSAの疎水性結合部位に適合できるオクタノエート等のリガンド結合インヒビターを添加して、リポタンパク質(HDL)濃度の精度を向上させうると考える。この研究に引き続き、発明者らは、0.4mMのナイルレッド及び5OmM、さらに好ましくは約100mMのオクタノエートが、血清試料の分析に最適であることを見出した。
5.1.5 ナイルレッドを利用するアッセイのさらなる最適化
ヒト血清試料についてさらに試験を行って、本発明の方法によるHDLレベルの蛍光指標を誘導するための最適な励起波長を調べた。
発明者らは、いくつかの波長を試験し、ナイルレッドを使用する場合、600nmの励起波長と620nmの発光波長が最適の結果を与えることを立証した(図19参照)。発明者らは、この励起波長はスペクトルの非常に長い波長縁になるので、最適であることに驚いた。
特定の試料について、発明者らは460nmの励起波長と620nmの発光波長では、よりノイズが大きいプロットを観測した(図20参照)。
発明者らは、ナイルレッドは、460nmで励起したときとは対照的に(この場合は、約2倍蛍光性が高いだけである)、600nmで励起したとき、VLDL及びLDL中におけるよりHDL中において約5倍蛍光性が高いと考える。これが、LDLプラスVLDLの標準曲線から減算したとき、より良いシグナル対ノイズ比を与える。
発明者らは、ナイルレッドの最適濃度が約0.6mMであることを見出した。
【0046】
発明者らは如何なる仮説によっても拘泥されたくないが、発明者らは、460nmで励起される血清試料で観察される「ノイズ」はシグナル対ノイズ比の作用であると考える。発明者らは、ナイルレッドが特に低い脂質濃度でHSAに結合することに注目した。そこで、発明者らは、HDL(+オクタノエート)又はHSA(+オクタノエート)の存在下、両方とも460nm及び600nmの励起波長におけるナイルレッドの蛍光のスペクトル分析を行った(図21参照)。これらの実験は予想外のスペクトル挙動をもたらし、発明者らは、ナイルレッドが厳密であるが極性の環境(HSA上の結合部位)内にあり、かつナイルレッドがねじれた分子内電荷移動(twisted intramolecular charge transfer)(TICT)(Journal of Photochem and Photobiol A:Chemistry 93 (1996) 57-64)を示し、これが励起及び発光をより長い波長にシフトさせるという事実によって説明できると考える。この励起状態の分子は異なる双極子モーメントを有するので、異なる種のように振舞う。600nmにおける励起では、他のリポタンパク質に比べてHDL中のナイルレッド間のシグナルの大きな差異のためのより良いシグナル対ノイズ比がTICT状態の励起を十二分に補償する。なぜなら、620nmの発光波長設定によってTICT蛍光が排除されるからである。他言すれば、HSA/ナイルレッドは、600nmでさらに最適に励起したが、その蛍光は装置によって拒絶される。
これが、発明者らに、さらに追加のブロッカーを使用することによって、HDL/ナイルレッドアッセイを改良できることを認識させた。発明者らは、HSAの薬物結合ドメインを遮断する薬剤を試した。驚くべきことに、発明者らは、安息香酸とそのトリクロロ及びトリヨード誘導体などの薬剤が、すべて約5mMでリポタンパク質蛍光に影響を与えることなく、HSAからナイルレッドを置き換えるために働くことを見出した。安息香酸は、溶液中のナイルレッドの残存蛍光を約20%まで消光するという追加ボーナスを有する。
【実施例6】
【0047】
実施例1及び2は、脂肪親和性染料の蛍光測定を用いて試料中の全リポタンパク質の濃度を決定する方法を示し、実施例3及び5は、識別用染料の蛍光測定を用いて試料中のHDLの濃度を決定する方法を示す。
これらの結果に照らして、発明者らは、患者の血液試料の脂質組成を分析するための単一平行方法をつくって、当該患者のリポタンパク質プロフィールを作成できることを実現した。この方法は、本発明の第二局面を表し、2つのアッセイから成り、両方とも非常に似た条件下で行えるので、非常に迅速に結果を生成することができる。本発明の第二局面の好ましい方法を以下に提供する。
【0048】
(方法)
最初に血液試料を患者から取り出してから、十分に確立した常法を用いて遠心分離機にかけて血清を分離する。次に、血清を2つの1mlのアリコート(a&b)に分け、それぞれ生化学分析に供して脂質成分の濃度を決定する。後述するように、アリコート(a)を用いて全リポタンパク質の濃度を決定し;かつアリコート(b)を用いてHDLの濃度を決定する。
アリコート(a)−上記実施例4で述べたように、HSAリガンド結合インヒビター、オクタン酸ナトリウムを1mlの血清に加えて100mMの濃度にした。ジメチルホルムアミド(DMF)に溶かしたジフェニルヘキサトリエン(DPH)を撹拌下でゆっくり試料に加えて最終濃度を0.4mMとした。次に、試料を約400nmで励起させて該染料に蛍光を生じさせた。約440nmの発光波長で蛍光を測定してから、この値から試料中の全リポタンパク質(HDL、LDL、及びVLDL)の濃度を決定することができた。
アリコート(b)−上記実施例4で述べたように、HSAリガンド結合インヒビター、オクタン酸ナトリウムを1mlの血清に加えて50mM又は100mMの濃度にした。さらに安息香酸を血清に加えて5mMの濃度にしてよい。次に、撹拌下でゆっくりプローブナイルレッドを血清に加えて最終濃度を0.4mMとした。そして試料を600nmで励起させて該プローブに蛍光を生じさせた。上記実施例5で述べたように、620nmの発光波長で蛍光を測定してから、この値から試料中のHDLの濃度を決定することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の全リポタンパク質の濃度を決定する方法であって、以下の工程:
(i)前記試料中のリポタンパク質に結合し、かつそのように結合したとき、適切な励起下で蛍光を発する脂肪親和性染料を前記試料のアリコートに添加する工程;及び
(ii)蛍光分析を用いて前記試料中の全リポタンパク質濃度を決定する工程
を含んでなる方法。
【請求項2】
前記脂肪親和性染料が、置換されている又は置換されてない2個のフェノール基を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脂肪親和性染料がカルコン染料である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記カルコン染料が4-メチルアミノメチルカルコン又はK-37である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記脂肪親和性染料が、蛍光単位:Ph-[C-C=C]n-C-Phを含んでなる染料である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記染料がジフェニルヘキサトリエン又はジフェニルオクタテトラエンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記染料がクマリン染料である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記染料がクマリン30である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、リポタンパク質濃度を決定する前に、前記染料の、ヒト血清アルブミン上の疎水性結合部位への結合を実質的に阻害するリガンド結合インヒビターを前記アリコートに添加する工程をさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記リガンド結合インヒビターが脂肪酸又はその機能性誘導体を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記リガンド結合インヒビターがオクタン酸(C8)又はその誘導体を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
試料溶液のリポタンパク質含量を分析する方法であって、以下の工程:
(a)前記試料中のリポタンパク質に結合し、かつそのように結合したとき、適切な励起下で蛍光を発する脂肪親和性染料を前記試料の第1アリコートに添加する工程;
(b)蛍光分析を用いて前記第1アリコート中の全リポタンパク質濃度を決定する工程;
(c)前記試料中の特異的リポタンパク質に結合し、かつそのように結合したとき、適切な励起下で蛍光を発する、識別用染料を前記試料の第2アリコートに添加する工程;
(d)蛍光分析を用いて前記第2アリコート中の前記リポタンパク質の濃度を決定する工程;及び
(e)前記工程(b)及び(d)で決定された濃度を比較することによって、前記リポタンパク質含量を計算する工程
を含んでなる方法。
【請求項13】
前記特異的リポタンパク質がHDLである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記識別用染料がナイルレッドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記試料に添加されるナイルレッドの濃度が約0.1〜0.9mMである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(a)及び(b)を請求項1〜11のいずれか1項に記載のとおりに行う、請求項12〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
請求項9〜11のいずれか1項に記載のリガンド結合インヒビターを前記第2アリコートに添加する、請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記試料が生体液である、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記試料が血漿若しくは血清、又はリンパ液を含む、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2009−540318(P2009−540318A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514889(P2009−514889)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002177
【国際公開番号】WO2007/144601
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(508368312)エル3 テクノロジー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】