説明

リミッタ回路

【課題】制限モード時に安定した高い挿入損失特性を与え、かつ耐電力を高くすることを可能にする。
【解決手段】送信ラインと基準電位の間にシャント接続されたPINダイオードと、送信ラインの入力側に設けた結合回路と、当該結合回路から取り出されるRF信号を前記PINダイオードの駆動電流に変換するドライバ回路とを備えたリミッタ回路において、ドライバ回路は、シリーズ接続された検波ダイオードおよびシャント接続された検波ダイオードを持ち、入力RF信号を倍圧検波してPINダイオードに与えるバイアス電圧を生成する検波回路と、結合回路から取り出される特定の周波数のRF信号を倍圧検波回路に与える整合回路を有したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばレーダに適用されるPINダイオードを用いたリミッタ回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、レーダシステムは、典型的には、アンテナと、送信機と、受信機とを含む。レーダシステムの送信機は、一般に発振器を含み、この発振器は、オン、オフされてパルス繰り返し周期を持つ一連のパルスを発生する。このパルスはアンテナに供給され、空間に向かって電波として送信される。目標からの反射波はアンテナで受信され、受信信号に変換され目標検出、測角処理に用いられる。このようなレーダシステムにおいて、RF受信機の低雑音増幅器で使用している回路素子には高電力のRF信号で破壊する可能性のあるものが含まれることが一般に知られている。RF受信機の脅威となる高電力のRF信号としては、例えばレーダの送信機側からの漏れや妨害機からの受信入力がある。そのため、破壊の可能性のある回路を有するRF受信機を、高電力レベルを有する入力信号から保護する必要がある。
【0003】
ところで、レーダシステムに用いられる送信機の増幅器用素子の開発が進み、送信機の出力電力レベルは今後更に高出力化が進む傾向にある。一方、レーダシステムに用いられる受信機の低雑音増幅器は低雑音化に重点が置かれた開発が進み、耐電力が低下する傾向にある。これらの相反する動向に対応して受信機を高電力のRF信号から保護するアプローチの一つとして、PINダイオードを用いたリミッタ回路がある。
一般的に知られたリミッタ回路は、少なくとも1つ好ましくは2つ以上のPINダイオードと、そのドライバ回路で構成され、PINダイオードは、送信ラインと基準電位の間にシャント状態で取り付けられている。リミッタ回路は、例えばアンテナなどの入力信号源とRF受信機など保護を必要とする回路との間に挿入される。リミッタ回路は、通常の非制限モードで動作するときは、PINダイオードを非導通状態にし、入力される信号に比較的低い挿入損失特性を与えることが要求される。一方、制限モードで動作するときは、PINダイオードを順方向バイアスのかかった導通状態にし、高電力のRF信号がRF受信機に入力されたときに非常に高い挿入損失特性を与えることが要求される。
【0004】
また、リミッタ回路として、受信状態において高電力のRF信号が入力された場合にRF受信機を十分に保護できるようにするため、PINダイオードの前段に結合器を取付け、結合器より取り出されたRF信号を検波ダイオードにて検波し、その検波電力にてPINダイオードを駆動することで、非制限モードおよび制限モードの切り替えを行うようにした回路がある(例えば特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−40173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記検波電力を用いる自己バイアス型のリミッタ回路の場合、制限モード時に高い挿入損失特性を得るためには、結合器の結合量を大きくする必要がある。一方、リミッタの耐電力を向上させるためには、検波ダイオードの耐電圧の制約により結合回路の結合量を小さくする必要がある。すなわち、制限モード時の高い挿入損失特性を得ることと、リミッタ回路の耐電力を高くすることとは相反するものとなる。また、結合器を具備したリミッタ回路は、レイアウトによりハイインピーダンス線路が長くなるとともに、RF入力電力によりPINダイオードのインピーダンスが変化するため、安定した性能を保持するドライバ回路を得ることが困難であった。
【0007】
この発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、制限モード時に安定した高い挿入損失特性を与え、かつ耐電力を高くすることが可能なリミッタ回路を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るリミッタ回路は、送信ラインと基準電位の間にシャント接続されたPINダイオードと、送信ラインの入力側に設けた結合回路と、当該結合回路から取り出されるRF信号を前記PINダイオードの駆動電流に変換するドライバ回路とを備えたリミッタ回路において、ドライバ回路は、シリーズ接続された検波ダイオードおよびシャント接続された検波ダイオードを持ち、入力RF信号を倍圧検波してPINダイオードに与えるバイアス電圧を生成する検波回路と、結合回路から取り出される特定の周波数のRF信号を倍圧検波回路に与える整合回路を有したものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、シリーズ接続されたRF電力の検波ダイオードの入力側に、当該シリーズ接続された検波ダイオードとで倍圧検波回路を構成するように、シャント接続された検波ダイオードを設けているので、制限モード時の挿入損失特性を低下させることなく、かつダイオード1個当りの耐電圧を低減して、リミッタ回路全体の高耐電力化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるPINダイオード・リミッタ回路の基本構成を示す回路図である。
図において、RFラインにDCカットコンデンサ10,14が直列に接続されている。これらのDCカットコンデンサ10,14の間の線路にはPINダイオード11のアノードが接続され、基準電位にはそのカソードが接続されている。また、DCカットコンデンサ10,14の間でPINダイオード11より後段のRFラインと基準電位間には、1/4波長線路(略1/4波長線路を含む)12とRFショート用シャントコンデンサ13の直列回路が接続されている。なお、1/4波長線路12の代わりにチョークコイルを使用してもよい。リミッタ回路の入力側には結合器15が接続され、結合器15と、1/4波長線路12とRFショート用シャントコンデンサ13の接続点間にはドライバ回路22が接続されている。
【0011】
ドライバ回路22は、整合回路16、シャント接続された検波ダイオード17、シリーズ接続された検波ダイオード18、シャント接続されたコンデンサ19、ハイインピーダンス線路20およびシャント接続された抵抗器21により構成されており、結合器15より取り出されるRF信号をPINダイオードの駆動電流に変換する機能を有している。
このリミッタ回路は、入力端子より入射するRF電力のレベルに応じて、非制限モードおよび制限モードの状態間を移行する自己バイアス型リミッタ回路である。非制限モード時には、ドライバ回路22からバイアス電圧が印加されないため、PINダイオード11は開放状態となって低い挿入損失特性を与える。一方、制限モード時には、バイアス電圧が印加されるため、PINダイオード11は短絡状態となり、高い挿入損失特性を与える。PINダイオード11に印加されるバイアス電圧は、結合回路15により取り出したRF電力をドライバ回路22で検波整流することで得ることができる。
【0012】
ドライバ回路22の入力側に設けられた整合回路16は、結合回路15により取り出した特定の周波数を有するRF電力を効率よく検波ダイオード17,18へ伝播させるためのもので、少なくとも1つのシリーズCを含むLおよびCからなる回路で構成される。図2に整合回路16のRF電力に対する整合点を変化させた場合のドライバ回路22の入力反射損失を示す。図2に示されるように、整合回路16は、RF電力に対する整合点を決定する機能を有するため、RF電力に対する整合点を最適化することで高耐電力化を図るとともに、広ダイナミックレンジを実現する。すなわち、小さなRF電力を整合点とする設計を行うと、小さなRF電力点でシャント接続の検波ダイオード17とシリーズ接続の検波ダイオード18は動作を開始するので、PINダイオード11の駆動電流が得やすくなる。一方、大きなRF電力点では入力反射損失が大きくなるので、ドライバ回路22の入力電力比が小さくなり、過剰な電力がシャント接続の検波ダイオード17とシリーズ接続の検波ダイオード18に印加されるのを抑圧し、ダイオード17,18の耐電圧を超えるのを防止することができる。
【0013】
結合回路15および整合回路16から伝播されたRF信号が基準電位に対して負電位の時には、シャント接続の検波ダイオード17は短絡状態となり、シリーズ接続の検波ダイオード18は開放状態となる。また、結合回路15および整合回路16から伝播されたRF信号が基準電位に対して正電位の時には、検波ダイオード17は開放状態になり、検波ダイオード18は短絡状態となる。この場合、整合回路16は検波ダイオード18と直列なコンデンサが含まれているので、RF信号が基準電位に対して負電位の時に検波ダイオード17から流れる電流によりコンデンサが充電される。RF信号が基準電位に対して正電位の時には入力電圧に充電電圧が加算された電圧が検波ダイオード18に加わる。検波特性としては出力電圧が2倍圧の整流動作となる。すなわち、検波ダイオード17と検波ダイオード18は、整合回路16のコンデンサを含めて倍圧検波する検波回路を構成することになる。
【0014】
ところで、自己バイアス型リミッタに検波回路を用いている場合、基準電位にカソードが、RF主線路にアノードが接続されているPINダイオード11は検波回路の負荷となり、検波回路の出力電力はPINダイオード11の順方向電圧でクリップされる。よって、検波回路の出力電圧はPINダイオード11の順方向電圧で一定となり、出力電圧が2倍となる検波回路のメリットは望めない。しかし、先に説明したように、RF電力が正負いずれの場合でも、シャント接続の検波ダイオード17とシリーズ接続の検波ダイオード18に電圧が印加されることになるため、検波ダイオード17,18の個々の逆方向耐圧は軽減されるため、この検波回路を用いたことでリミッタ回路の高耐電力化を可能にする。
【0015】
次に、シャント接続されたコンデンサ19が装荷されていない場合を考えると、前述したようにシャント接続の検波ダイオード17とシリーズ接続の検波ダイオード18を使用して、整合回路16の最適化を行ったとしても、回路レイアウトに依存するハイインピーダンス線路20の電気長および入力電力の変化に伴うPINダイオード11のインピーダンス変化により、図3(a)に示すように、ハイインピーダンス線路20の入力側を見たインピーダンスが広がり、整合回路16が有効に機能しなくなる。一方、シャント接続されたコンデンサ19が装荷されている場合を考えると、図3(b)に示すように、ハイインピーダンス線路20の入力側を見たインピーダンスがショート点付近に集まるため、広い入力電力範囲において整合回路16を有効に機能させることができ、リミッタ回路を広ダイナミックレンジ化および高耐電力化することが可能となる。
【0016】
以上のように、実施の形態1によれば、シリーズ接続されたRF電力の検波ダイオード18の入力側に、この検波ダイオード18とで倍圧検波回路を構成するように、シャント接続された検波ダイオード17を設けているので、制限モード時の挿入損失特性を低下させることなく、かつ検波ダイオード1個当りの耐電圧を低減して、リミッタ回路全体の高耐電力化を図ることができる。また、整合回路16は、マッチング電力をRF入力電力範囲に応じて任意に設定できる構成としたので、検波回路に入力されるRF電力を抑制できるため、リミッタ回路全体の高電力化が可能になるとともに、広い入力電力範囲で動作可能なリミッタ回路を得ることができる。さらに、検波回路の出力側にシャント接続されたコンデンサ19を有しているので、レイアウトによりハイインピーダンス線路の引き回しおよびRF入力電力によりPINダイオード11のインピーダンス変化に伴うRF電力検波整流用ダイオードの出力側からみたインピーダンス変化量を低減できるため、広いRF入力電力範囲においてより安定した性能を保持するドライブ回路を得ることができる。
【0017】
実施の形態2.
図4は、この発明の実施の形態2によるPINダイオード・リミッタ回路を示す回路図である。
この実施の形態2では、実施の形態1におけるシャント接続検波ダイオード17およびシリーズ接続検波ダイオード18として、それぞれ2個以上のダイオードの直列接続を使用している。このことにより、検波ダイオード1個当りの耐電圧をさらに下げることができるため、更なるリミッタ回路全体の高耐電力化を図ることが可能となる。
【0018】
実施の形態3.
図5は、この発明の実施の形態3によるPINダイオード・リミッタ回路を示す回路図である。
この実施の形態3では、実施の形態1および実施の形態2におけるシャント接続されたコンデンサ19を分布定数線路(オープンスタブ)23に置換えた構成としている。この場合も、シャント接続されたコンデンサ19と同様、レイアウトによりハイインピーダンス線路の引き回しおよびRF入力電力によりPINダイオード11のインピーダンス変化に伴うRF電力検波整流用ダイオードの出力側からみたインピーダンス変化量を低減できるため、広いRF入力電力範囲においてより安定した性能を保持するドライブ回路を得ることができる。また、集中定数で生じる時定数の増加を回避できるため、リミッタ回路のスパイクリーケージ特性を改善する効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1によるPINダイオード・リミッタ回路の基本構成を示す回路図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る整合回路のRF電力に対する整合点を変化させた場合のドライバ回路の入力反射損失を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係るPINダイオードのインピーダンス変化による検波ダイオードの出力側からハイインピーダンス線路を見た際のインピーダンス変化を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態2によるPINダイオード・リミッタ回路の基本構成を示す回路図である。
【図5】この発明の実施の形態3によるPINダイオード・リミッタ回路の基本構成を示す回路図である。
【符号の説明】
【0020】
1 アンテナ、2 送受切替器、3 リミッタ、4 受信機、5 送信機、10,14 DCカットコンデンサ、11 PINダイオード、12 略1/4波長線路(もしくはRFチョークコイル)、13 RFショートコンデンサ、15 結合回路、16 整合回路、17,18 検波ダイオード、19 コンデンサ、20 ハイインピーダンス線路、21 抵抗器、22 ドライバ回路、23 分布定数線路(オープンスタブ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信ラインと基準電位の間にシャント接続されたPINダイオードと、送信ラインの入力側に設けた結合回路と、当該結合回路から取り出されるRF信号を前記PINダイオードの駆動電流に変換するドライバ回路とを備えたリミッタ回路において、
前記ドライバ回路は、
シリーズ接続された検波ダイオードおよびシャント接続された検波ダイオードを持ち、入力RF信号を倍圧検波して前記PINダイオードに与えるバイアス電圧を生成する検波回路と、
前記結合回路から取り出される特定の周波数のRF信号を前記倍圧検波回路に与える整合回路を有したことを特徴とするリミッタ回路。
【請求項2】
倍圧検波回路は、シリーズ接続およびシャント接続された検波ダイオードとして、2個以上のダイオードの直列接続をそれぞれ使用したことを特徴とする請求項1記載のリミッタ回路。
【請求項3】
整合回路は、マッチング電力をRF入力電力範囲に応じて任意に設定可能な構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のリミッタ回路。
【請求項4】
ドライバ回路は、倍圧検波回路の出力側にシャント接続されたコンデンサを有したことを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載のリミッタ回路。
【請求項5】
ドライバ回路は、倍圧検波回路の出力側に1/4波長のオープンスタブを有したことを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載のリミッタ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−219497(P2008−219497A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54446(P2007−54446)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】