説明

リヨセル繊維およびリヨセル繊維を含有する製品の使用

本発明は、特に乾燥創傷治療用の製品としての、非修飾リヨセル繊維、非修飾リヨセル繊維を含有する糸、非修飾リヨセル繊維を含有する織物、または非修飾リヨセル繊維を含有する織物製品の使用に関する。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リヨセル繊維、リヨセル繊維を含有する糸、リヨセル繊維を含有する織物、またはリヨセル繊維を含有する織物製品に関する。
【0002】
一般名「リヨセル」は、BISFA(The International Bureau for the Standardisation of Man Made Fibres)により発表されたものであり、有機溶媒を用いたセルロース溶液から調製されたセルロース繊維を表す。溶媒としては三級アミンオキシド、特にN−メチル−モルホリン−N−オキシド(NMMO)を用いるのが好ましい。リヨセル繊維の製造方法は、例えばUS−A4,246,221に記載されている。
【0003】
本発明は、特に、リヨセル繊維の、創傷治療用製品における使用に関する。
【背景技術】
【0004】
一般に、専門家は、生理的な創傷治療の3つのフェーズを区別する。
【0005】
1)凝固および炎症:
このフェーズでは、治療の主要目的は、細胞残屑および微生物の除去、ならびに一時的なマトリックスの形成である。
【0006】
2)増殖
ここでは、主要目的は、一時的なバリアを形成するための、肉芽組織の形成および再上皮化である。
【0007】
3)瘢痕(修復)
ここでは、可能な限り完全な皮膚機能性の再構築が試みられる(完全なバリア、引裂強度、および感度)。
【0008】
創傷治療の分野では、専門家は、従来の乾燥創傷治療と湿潤創傷治療を区別する。湿潤創傷治療法は、慢性的な傷の治療において、湿った創傷環境を保全することを目指す。急性の傷の乾燥創傷治療は、感染から保護し、傷からの分泌物を吸収することを目指す。本発明は、現在は主として綿が使用されている、乾燥創傷治療用の製品に関する。
【0009】
創傷治療製品用の支持体(substrates)として、一方で、創傷治癒に対してできるだけ小さな減速影響しか有さないような、基本的に未処理の製品(例えば漂白綿)が使用される。理論的には、傷は、包袋などを適用せずに(無菌で湿っている環境において)最も早く治る。
【0010】
もう一方で、さまざまな種類の製品、具体的には、特別な性質によって創傷治癒を促進する製品がある。これらのうち、もちろん治療的に活性な物質だけでなく、例えばアルギン酸塩、キトサン、またはカルボキシメチル基等のような創傷治癒促進剤で修飾された繊維も言及されるべきである。
【0011】
WO94/16746およびDE10009248は、創傷治癒製品における、カルボキシメチル基(CMC基)で修飾されたリヨセル繊維の使用について、記載している。
【0012】
WO2005/026424A1は、リヨセル繊維の、織物接触過敏症または皮膚疾患、特に乾皮症、アトピー性湿疹、または乾癬の治療のための使用について、記載している。
【0013】
オーストリア特許出願A1471/2008において、キトサンで修飾されたセルロース繊維、および創傷治癒製品としてのその使用が記載されている。比較試験において、未処理のリヨセル繊維および綿を用いた再生表皮中よりも、キトサンで修飾されたリヨセル繊維を用いた再生表皮中に、創傷端に明らかにより増殖性の細胞が発見され、細胞がより多い傾向が発見された。
【0014】
DE10007794A1、DE10037983A1およびEP1354914は、それぞれ、生体分解性ポリマーと様々な修飾剤(例えば藻類、アルカロイド、およびハーブ等)を含むポリマー組成物について記載する。ポリマー組成物は、例えば修飾剤と3級アミンオキシド中セルロース溶液の混合物から紡糸された繊維の形態で提供されてもよい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
驚くべきことに、非修飾リヨセル繊維(これは、キトサン、藻類、アルカロイド、またはハーブのような修飾活性物質を含有せず、誘導体の形(例えばカルボキシメチル化された形)で提供されないリヨセル繊維である)が、創傷治癒と創傷端の形態に対してよい影響を及ぼすことが発見された。
【0016】
したがって、本発明は、第一の態様において、創傷治療製品としての特定用途、特に乾燥創傷治療のための、非修飾リヨセル繊維、非修飾リヨセル繊維を含有する糸、非修飾リヨセル繊維を含有する織物、または非修飾リヨセル繊維を含有する織物製品に関する。
【0017】
別の態様において、本発明は、創傷上に適用することを意図している部分に、非修飾リヨセル繊維を含有することを特徴とする、乾燥創傷治療用の製品に関する。
【0018】
したがって、本発明は、一般に、創傷治療製品を製造するための非修飾リヨセル繊維の使用に関する。
【0019】
今まで乾燥創傷治療における支持体(substrates)として使用されてきた他の非修飾製品(すなわち、活性物質または創傷治癒促進剤を含有しない製品)、特に漂白綿に比べて、非修飾リヨセル繊維によって創傷治癒が顕著に早まることが発見された。
【0020】
特に、非修飾リヨセル繊維を含有する織物製品の試験中、WO2004/092726およびWO2004/092354の記載に従うブタ生体外創傷モデルにおいて、非修飾リヨセル繊維を含有する製品は、漂白綿およびポリエステルに比べて、創傷治癒の進展と創傷端の形態に対してよい影響を有することが発見された。
【0021】
非修飾リヨセル繊維の、さらなる高価な修飾製品(例えばCMC繊維またはキトサン修飾繊維)なしで、または該製品に加えての使用は、当然、非常に大きな金銭上の有利性を示す。
【0022】
好ましくは、本発明に従って使用される糸、織物、および織物製品は、実質的に完全に、非修飾リヨセル繊維からなる。
【0023】
もしくは、本発明に従って使用される糸、織物、および織物製品は、90%まで、好ましくは10〜50%の量で、異質な繊維を含有してよい。
【0024】
本発明の目的に関して、「異質な繊維」とは、非修飾リヨセル繊維とは異なる繊維、例えば綿、ポリエステル、ビスコース、およびモダール繊維、ならびに修飾リヨセル繊維のことである。好ましくは、異質な繊維として、非修飾繊維が使用され、これは、活性物質を用いた修飾や、誘導体化等がなされていない繊維である。
【0025】
本発明に従う使用のための織物は、特に、織物(woven fabric)、または編み布(knitted fabric)、または不織布の形態で提供されてもよい。
【0026】
既に述べた通り、本発明は、他の態様において、創傷上に適用することを意図している部分に、非修飾リヨセル繊維を含有することを特徴とする創傷治療製品、特に、乾燥創傷治療のための製品に関する。
【0027】
本発明に従う製品は、パッチ、傷パッド(wound padding)、包帯、包帯材料、ギプス用の詰め物布(padding fabrics)、下着、神経皮膚炎を患う人のためのナイトウェア、整形外科用支持包帯、支持包帯、創傷ガーゼ(wound gaze)、湿布(compresses)、医療用ガーゼ、圧迫包帯、圧迫ストッキング、チューブ包帯からなる群から選択されてもよい。
【0028】
本発明に従う創傷治療製品は、好ましくは、創傷上へ適用することを意図している部分中の非修飾リヨセル繊維の部分は、少なくとも10%、好ましくは50〜100%、特に好ましくは90〜100%である。
【0029】
創傷上へ適用することを意図している部分中のその他の繊維は、前述の通り、異質な繊維、特に非修飾の異質な繊維としてもよい。
【0030】
本発明に従って使用されるリヨセル繊維は、それぞれ、織物製品または不織布用の通常の繊度(titer)範囲に、および従来の切断長で提供されてもよい。繊維は通常、1.3dtexの繊度および38mmの切断長を有する。繊維は、漂白された形態で使用されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0031】
実施例
100%非修飾リヨセル繊維(繊度1.3dtex、切断長38mm)から作成された編み布の試験中、WO2004/092726およびWO2004/092354に従うブタ生体外創傷モデルにおいて、100%リヨセル繊維からなる編み布は、漂白綿およびポリエステルに比べて、創傷治癒および創傷端の形態に対してよい影響を有することが発見された。特に、漂白綿と比較して、非修飾リヨセル繊維は顕著によい効果を有する(それぞれ10個のモデルを、ペアードスチューデントt検定、pは0.5以下を用いて統計学的に評価)。
【0032】
皮膚器官培養モデル−創傷治癒モデル
洗浄し、滅菌したブタの耳の皺壁から、直径6mmのパンチ(punches)を取り出した。パンチの中央から、3mmのエリアで表皮および真皮上層を除去した。次に、モデルを、皮膚科診療所において、37℃、5%CO、および飽和湿度の気液界面でインキュベートした。産生(generation)したらすぐに、モデルをコントロール5μlPBS中に適用した。その他の試料には、直径4mmの編み布試料を、生検パンチプレートレットを用いて取り、創傷上に適用した。
【0033】
48時間後、モデルをショック凍結(shock-frozen)し、−80℃で保存した。
【0034】
組織化学:モデル切片の調製
モデルを、組織凍結培地(Leica社、Nussloch)に完全に包埋し、6μm幅のクライオスタット切片を作成した。配置の中央における各モデルの位置に特に注意を払った。切片は、スーパーフロストスライド上に置いて風乾し、−20℃の冷アセトン中で10分間固定し、−80℃で保存した。
【0035】
HE染色(一般的な形態):すべてのモデルをヘマトキシリン/エオシン(HE)で染色した(2切片ずつ)。染色は、ライカ光学顕微鏡DM LSおよびオリンパスCamediaデジタルカメラで評価した。
【0036】
評価パラメーター:創傷治癒の進展および形態−創傷端の良好な/不良な保全(解離)
【0037】
創傷治癒の進展は、以下のカテゴリーに区分される
0:創傷治癒の進展なし
1:小さな創傷組織
2:大きな創傷組織
3:閉じたシート(closed sheet)
4:多層の閉じたシート
【0038】
各ブタの創傷治癒潜在能力を考慮するため、創傷治癒進展の評価は、PBSコントロールに基づいて行われ、PBS(生理学的リン酸バッファー)を用いて得られた値により評価される。一般に、傷パッドを創傷に適用する場合、創傷治癒の減速が、いつも観察されうる。したがって、PBSのみを用いて得られた創傷治癒の進展は、皮膚器官培養モデルにおいて得られうる(100%または値1)最大値(理想的な創傷治癒)である。
【0039】
驚くべきことに、非修飾リヨセル繊維から作製された編み布に関して、PBSコントロールで標準化した創傷治癒の進展の平均値は0.8と評価され、一部においては得られた各値は>1であった。漂白綿から作製された編み布については、平均値0.3のみが得られ、ポリエステル繊維については0.6が得られうる。
【0040】
結果を以下の表にまとめる。
【0041】
【表1】

【0042】
試料1:ポリエステル繊維(ターガル(Tergal)PES)
試料2:非修飾リヨセル繊維
試料3:漂白綿
試料4:PBSコントロール
【0043】
理想的な傷パッドは、創傷治癒を促進するだけでなく、創傷端に影響を与えないべきである。そういうわけで、創傷端の良好な形態が保全されるように注意が払われる。
【0044】
非修飾リヨセル繊維を用いた場合、創傷端の良好な形態が観察された。その一方で、綿は、創傷端の不良な保全を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷治療用、特に乾燥創傷治療用の製品としての特定用途のための、非修飾リヨセル繊維、非修飾リヨセル繊維を含有する糸、非修飾リヨセル繊維を含有する織物、または非修飾リヨセル繊維を含有する織物製品。
【請求項2】
それぞれ本質的に完全に非修飾リヨセル繊維からなる、請求項1に記載の特定用途のための糸、織物、または織物製品。
【請求項3】
それぞれ90%まで、好ましくは10〜50%の量で、異質な繊維を含有している、請求項1に記載の特定用途のための糸、織物、または織物製品。
【請求項4】
織物、または編み布、または不織布の形態である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の特定用途のための織物。
【請求項5】
創傷上へ適用することを意図している部分に、非修飾リヨセル繊維を含有することを特徴とする、創傷治療、特に、乾燥創傷治療のための製品。
【請求項6】
パッチ、傷パッド、包帯、包帯材料、ギプス用の詰め物布、下着、神経皮膚炎を患う人のためのナイトウェア、整形外科用支持包帯、支持包帯、創傷ガーゼ、湿布、医療用ガーゼ、圧迫包帯、圧迫ストッキング、チューブ包帯からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の製品。
【請求項7】
創傷上へ適用することを意図している部分中の非修飾リヨセル繊維の部分は、少なくとも10%、好ましくは50〜100%、特に好ましくは90〜100%であることを特徴とする、請求項5または6に記載の製品。

【公表番号】特表2012−502710(P2012−502710A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527344(P2011−527344)
【出願日】平成21年9月21日(2009.9.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062177
【国際公開番号】WO2010/031862
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(500077889)レンツィング アクチェンゲゼルシャフト (20)
【Fターム(参考)】