説明

リラキシンの調節による胎仔の発育の制御のための方法および組成物

本発明は胎仔の発育及び胎盤不全に関連する疾患の処置、診断及び予防のための方法に関し、そして、リラキシン合成、リラキシンレセプター合成、リラキシンレセプターへのリラキシンの結合、及びリラキシンレセプター活性を抑制又は増大させることを包含する方法を含む。本発明はまたリラキシン及び/又はリラキシンレセプター活性を調節する化合物を同定するためのスクリーニング試験に関する。本発明は更に、胎仔の発育及び胎盤不全に関連する疾患の処置及び予防のためにリラキシン及びリラキシン関連の配列を利用する遺伝子療法の方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2004年4月30日に出願された米国仮特許出願第60/567,353号の利益を主張し、この開示は、全ての目的のためにその全体が本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
子宮内発育遅延(IUGR)は胎仔の在胎齢に対して胎仔の大きさ又は発育速度が通常とは異なるほど小さくなるような症候群である。その在胎齢に対する10パーセンタイルよりも低値の体重を有する胎仔はIUGRに罹患していると定義される。IUGRは広範な種類の原因から生じ、その全ては胎仔が正常な発育速度を呈することを不可能とする。超低出生体重(SGA)の新生仔は在胎齢に対する平均より少なくとも2標準偏差低値である出生時の体重及び/または身長により定義される(非特許文献1)。超低出生体重である胎仔の一部は単に構成的に小型であってその他の点では非健康であるわけではないが、他の原因、例えば胎盤不全、感染及び遺伝的障害が周産期の罹患率及び死亡率に大きく影響する場合がある。これに該当する個体は異常な体格、機能及び疾患を後に発症する可能性も高くなる。即ちIUGRを退行又は軽減するいかなる方法もこれらの新生仔に対する大きな利点を与えることができる。
【0003】
胎仔がIUGRを呈する危険性を増大させるものとして多くの状態が発見されている。頻繁には、これらの状態の一時的作用は胎盤不全を誘発することである(非特許文献2)。これらの状態は妊娠前の母親体重及び伸長及び妊娠中の低体重増加;死産、新生児死亡及び出生時低体重の以前の新生仔の母親病歴;妊娠中の母親の活動、例えば喫煙、アルコール及び薬物の使用及び貧栄養;早期の子宮内感染症;母親の医学的疾患;経産婦妊娠;及び妊娠中に生じる種々の合併症を包含する。
【0004】
母親の内分泌系は例えば胎盤栄養供給を調節することにより胎仔の発育速度の制御において役割を有すると考えられる。インスリン及びインスリン様成長因子Iがこの過程に関与していることがわかっている(非特許文献3;特許文献1)。
【0005】
最近の研究によれば、正常な胎盤の発達にVEGF活性が重要であることが示唆されている(非特許文献4)。VEGFファミリー(VEGF−A及び胎盤成長因子(PIGF)を含む)の発現とその可溶性及び細胞関連のレセプター(それぞれs−flt及びflt)の間の不均衡は胎盤不全に関連する状態において役割を果たしている。現在はVEGF及びPIGF活性を拮抗することができるs−fltのアップレギュレーションは抗血管形成活性に向けてこのファミリーの均衡をシフトさせ、これにより胎盤の正常な血管形成に干渉すると考えられている。更に又、不適切な胎盤の灌流は子癇前症(非特許文献5)、HELLP(非特許文献6)並びに異常または不十分な胎仔の発育(非特許文献7)のような母親障害の原因とも考えられている。妊娠を延長させることができる治療は短期の胎仔の発育及び長期の発達障害の予防の両方を可能にする場合に有利であると考えられる。
【特許文献1】米国特許第5,420,111号明細書
【非特許文献1】Leeら、Pediatrics、2003年、第111巻、p.1253〜1261
【非特許文献2】LepercqおよびMahieu−Caputo、Horm.Res.、1998年、第49巻(補遺2)、p.14〜19
【非特許文献3】Gluckmanら、Acta Paediatr.Scand.、1990年、第367巻(補遺)、p.105−110
【非特許文献4】Tsatsarisら、J Clin Endocrinol Metab、2003年、第88巻、p.5555−5563
【非特許文献5】Bdolahら、Semin Nephrol、2004年、第24巻、p.548−556
【非特許文献6】Choら、J Korean Med Sci、2003年、第18巻、p.402−428
【非特許文献7】AhmedおよびPerkins、Baillieres Best Pract Res Clin Obstet Gynecol、2000年、第14巻、p.981−998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
IUGR又は胎盤不全の有効な治療法が現在ないため、この状態に対する新しい治療方法の開発が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の簡単な要旨)
本発明は例えば子宮内発育遅延(IUGR)及び胎盤不全を包含する胎仔の発育に関わる状態、障害又は疾患の治療、診断及び予防のための組成物及び方法を提供する。本発明はポリペプチドホルモンであるリラキシンに関わるシグナリング経路をモジュレートするための方法を提供する。より詳しくは、本発明はリラキシンの合成、リラキシンレセプターの合成、リラキシンのそのレセプターへの結合及びリラキシンのシグナリングのモジュレーションに関わる方法を提供する。
【0008】
本発明はまた例えば子宮内発育遅延(IUGR)及び胎盤不全を包含する胎仔の発育に関わる状態、障害又は疾患の発見及びその治療、診断において予防又は治療における化合物の使用のための方法を提供する。更に又、胎仔の発育が関与する状態又は障害の治療のため臨床評価を受けている患者の診断モニタリングのため、臨床治験における化合物の薬効をモニタリングするため、及び、胎仔の発育が関与するこのような状態、障害又は疾患の素因のある被験体を発見するための方法が提供される。
【0009】
特に1つの実施形態において本発明は、胎仔の発育速度を増大させるために十分な時間リラキシンの治療有効量を妊娠哺乳動物に投与する工程を含む子宮内胎仔の発育速度を増大させる方法を提供する。関連する実施形態において、リラキシンは妊娠の第1、2及び/又は3のトリメスターの間に投与する。別の関連する実施形態においては、リラキシンは排卵時に開始して少なくとも2週間投与する。更に別の実施形態においては、リラキシンは排卵の前後に投与する。更に別の実施形態においては、リラキシンは排卵の約1週間前及び約4週間後に投与する。
【0010】
別の実施形態において、本発明は、少なくとも概ね正常な出生時体重の出生をもたらすのに十分な量のリラキシンを投与する子宮内胎仔の発育速度を増大させる方法を提供する。関連する実施形態においては、少なくとも概ね1ng/mlの妊娠哺乳動物の血清中濃度を維持するのに十分な量のリラキシンを投与する。更に別の関連する実施形態においては、リラキシンは非経口、連続皮下注入又は膣内投与により投与する。更に別の実施形態においては、リラキシンは10μg/kg/日〜200μg/kg/日の用量で投与する。
【0011】
別の実施形態において、胎仔発育速度を増大させるために十分な時間リラキシンの治療有効量を妊娠哺乳動物に投与することを含む子宮内胎仔の発育速度を増大させる方法であって、胎仔の発育速度の増大を画像化技術により評価する方法を提供する。関連する実施形態において、画像化技術は超音波画像化及び磁気共鳴画像化よりなる群から選択される。更に別の実施形態において、妊娠哺乳動物は子宮内発育遅延を有する胎仔を妊娠しているものとして診断される。1つの実施形態において子宮内発育遅延の診断は画像化技術、例えば超音波画像化又は磁気共鳴画像化の使用を介して子宮内発育遅延の診断を行う。
【0012】
別の実施形態においては、本発明は妊娠哺乳動物にリラキシン治療有効量を投与する工程を含む子宮内胎仔の発育速度を増大させる方法を提供し、ここで哺乳動物は胎仔子宮内発育遅延又は出生時低体重の危険性を増大させる状態を有している。関連する実施形態において胎仔子宮内発育遅延の危険性を増大させる状態は狼瘡、甲状腺機能亢進症、高血圧、子癇前症、マラリア感染、血清中抗リン脂質抗体、再発性の自然流産の病歴、子宮内発育遅延の病歴、出生時低体重の小児を有する病歴、多胎妊娠、及び、生体外受精及び胎芽移植による妊娠よりなる群から選択される。
【0013】
一部の実施形態においては、本発明の方法は妊娠ヒトを治療するために使用してよい。他の実施形態においては、方法は他の妊娠哺乳動物、例えばウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、シカ、イヌ、ネコ、ラット又はマウスを治療するために使用してよい。
【0014】
本発明はまた、1つの実施形態において、妊娠哺乳動物における自然流産の危険性又は発生率を低下させる方法であって、該方法が自然流産の危険性又は発生率を低下させるために有効なリラキシンの量を妊娠哺乳動物に投与することを含む方法を提供する。リラキシンは妊娠の第1のトリメスターの間に投与する。関連する実施形態においては、リラキシンは妊娠の第1、2及び/又は3のトリメスターの間に投与する。別の関連する実施形態においては、リラキシンが排卵時に開始して少なくとも2週間投与する。更に別の実施形態においては、リラキシンを排卵の前後に投与する。更に別の実施形態においては、リラキシンを排卵の約1週間前及び約4週間後に投与する。更に別の実施形態においては、少なくとも概ね1ng/mlの血清中濃度を維持するのに十分な量のリラキシンを投与する。
【0015】
別の実施形態においては、本発明は、被験体におけるリラキシン発現のレベルを測定し、該測定されたリラキシンのレベルを適切な対照被験体における正常な胎盤発達に関連したリラキシンのレベルと比較するという工程を含み、ここで低値のリラキシン測定レベルは該状態を発症する増大した危険性を有していることに相関するような、被験体が胎盤不全に関連する状態を発症する増大した危険性を有しているかどうかを調べるための方法を提供する。関連する実施形態において、被験体は妊娠している。関連する実施形態において、胎盤不全はIUGR、SGR及び子癇前症よりなる群から選択される。更に別の実施形態において、リラキシン発現は血清中又は組織中で測定される。更に別の実施形態において、リラキシン発現のレベルはリラキシンをコードする遺伝子の転写のレベルを調べることにより測定される。更に別の関連する実施形態において、被験体は過去に子宮内発育遅延、胎盤不全又は子癇前症と診断されている。更に別の関連する実施形態において、方法は更にリラキシン治療量で該被験体を治療することを含む。更に別の実施形態において、リラキシンはヒトH2リラキシンである。更に別の実施形態において、リラキシンはH1、H2又はH3リラキシンよりなる群から選択される。更に別の実施形態において、方法はHIF−1α又はHGFのレベルが増大しているかどうかを調べるために被験体を試験することを含む。
【0016】
更に別の実施形態においては、本発明は、被験体におけるリラキシンをコードする遺伝子の少なくとも部分のヌクレオチド配列を調べることを含み、ここでリラキシンペプチドの低下した発現又は活性に関連するヌクレオチド配列の発見が被験体が該状態を発症する増大した危険性を有していることを示す、被験体が胎盤不全に関連する状態を発症する増大した危険性を有しているかどうかを調べるための方法を提供する。関連する実施形態においては、被験体は妊娠している。関連する実施形態において、状態はIUGR、SGR及び子癇前症よりなる群から選択される。更に別の実施形態において、被験体は過去に子宮内発育遅延、胎盤不全又は子癇前症と診断されている。更に別の関連する実施形態において、方法は更にリラキシン治療量で該被験体を治療することを含む。更に別の実施形態において、リラキシンはヒトH2リラキシンである。更に別の実施形態において、リラキシンはH1、H2又はH3リラキシンよりなる群から選択される。更に別の実施形態において、方法はHIF−1α又はHGFのレベルが増大しているかどうかを調べるために被験体を試験することを含む。
【0017】
別の実施形態においては、本発明は、リラキシンの翻訳後プロセシングに関与する酵素をコードする遺伝子の少なくとも部分のヌクレオチド配列を決定することを含み、ここでリラキシンの低減した活性に関連するヌクレオチド配列の発見は該状態を発症する増大した危険性を被験体が有することを示す、胎盤不全に関連する状態を発症する増大した危険性を被験体が有するかどうかを調べるための方法を提供する。関連する実施形態において、状態はIUGR、SGR及び子癇前症よりなる群から選択される。関連する実施形態において被験体は妊娠している。更に別の実施形態において、被験体は過去に子宮内発育遅延、胎盤不全又は子癇前症と診断されている。更に別の関連する実施形態において、方法は更にリラキシン治療量で該被験体を治療することを含む。更に別の実施形態において、リラキシンはヒトH2リラキシンである。更に別の実施形態において、リラキシンはH1、H2又はH3リラキシンよりなる群から選択される。更に別の実施形態において、方法はHIF−1α又はHGFのレベルが増大しているかどうかを調べるために被験体を試験することを含む。
【0018】
別の実施形態において、本発明は、被験体における胎盤不全を診断すること、及び、胎盤不全を治療するためにリラキシンの治療有効量を投与することを含む、被験体における胎盤不全を治療するための方法を提供する。更に別の実施形態において、被験体は過去に子宮内発育遅延、胎盤不全又は子癇前症と診断されている。更に別の関連する実施形態において、方法は更にリラキシン治療量で該被験体を治療することを含む。更に別の実施形態において、リラキシンはヒトH2リラキシンである。更に別の実施形態において、リラキシンはH1、H2又はH3リラキシンよりなる群から選択される。更に別の実施形態において、方法はHIF−1α又はHGFのレベルが増大しているかどうかを調べるために被験体を試験することを含む。
【0019】
(発明の詳細な説明)
(定義)
本明細書において使用する以下の用語は指定の意味を有するものとする。
【0020】
リラキシンレセプターアンタゴニストは本明細書においては、リラキシンレセプターの作用又は効果を中和又は遅延又は他の態様により低減する因子を指す。このようなアンタゴニストはリラキシンに結合するか、又は、リラキシンレセプターに結合する化合物を包含することができる。このようなアンタゴニストはリラキシンレセプターの産出、即ち、リラキシンレセプターへのリラキシンの結合の後のリラキシンのシグナリング経路における細胞内工程、即ち、レセプター/リガンド相互作用のレベルでは起こらないリラキシン/リラキシンレセプターシグナリングに影響する下流の事象を中和又は遅延又は他の態様により低減する化合物も包含することができる。リラキシンレセプターアゴニストは例えばタンパク質、オリゴヌクレオチド、炭水化物及び有機低分子を包含する。
【0021】
リラキシンレセプターアゴニストは本明細書においては、リラキシンレセプターの作用又は効果を活性化、誘導又は他の態様により増大させる因子を指す。このようなアゴニストはリラキシンに結合するか、又は、リラキシンレセプターに結合する化合物を包含することができる。このようなアンタゴニストはリラキシンレセプターの産出、即ち、リラキシンレセプターへのリラキシンの結合の後のリラキシンのシグナリング経路における細胞内工程、即ち、レセプター/リガンド相互作用のレベルでは起こらないリラキシン/リラキシンレセプターシグナリングに影響する下流の事象を活性化、誘導又は他の態様により増大させる化合物も包含することができる。リラキシンレセプターアゴニストは例えばタンパク質、オリゴヌクレオチド、炭水化物及び有機低分子を包含する。
【0022】
治療有効量とは、レシピエント哺乳動物に投与した場合に哺乳動物の生理学的状態の所望の変化をもたらす、例えば薬剤を投与されていない相当する対照動物に相対比較して胎仔又は胎盤の発育の増大又は低減をもたらす、薬剤の量である。
【0023】
妊娠哺乳動物とは、本発明の目的のためには、その身体内に発生中の新生仔1体以上を担持している哺乳動物である。妊娠哺乳動物は自然受胎しているか、又は、生体外受精及び胎芽移植のような人工的技術を介して妊娠していてよい。発生中の新生仔は受精後どの程度の時間が経過しているかに応じて、胚または胎仔の段階のいずれかであってよい。ヒトにおいては、この移行は胚の着床後約8週で起こる。
【0024】
哺乳動物は哺乳綱クラスの種々の温血脊椎動物のいずれかとして本発明の目的のためには定義される。
【0025】
在胎とは、本明細書においては、受胎時から出生までの子宮内の発生の期間を指し、在胎齢とはこの期間の長さを指す。
【0026】
受胎とは精子と卵子の結合を介した生存接合子1つ以上の形成をさす。
【0027】
出生とは自然又は支援された手段により母体から新生仔が出現及び分離されることを指す。
【0028】
胎仔の発育異常の幾つかの危険因子が知られており、一部の場合においては発育異常に罹患した胎仔が診断されるが、これらの状態のスクリーニング、予後及び診断のための現在の方法は理想より劣っている。更に、状態を治療するための効果的な子宮内療法は現在存在しない。むしろ、胎仔の状態は超音波診断の技術により子宮内で慎重に観察されており、そして胎仔は生存可能性があれば即座に出産される。在胎の早期の段階において、例えばIUGRのような胎仔の発育異常と診断されている胎仔に関しては、胎仔を子宮内に残存させておく危険性と早産を誘発させる危険性との間の適切なバランスを決定することは極めて困難である。胎仔の発育異常のスクリーニング、予後、診断及び治療のための有効な方法が現在は存在しないため、このような目的のための新しい方策を開発することが強く求められている。
【0029】
本明細書に記載した本発明の根拠の1つは、妊娠哺乳動物における胎盤の大きさ及び胎仔の発育をリラキシンがモジュレートすることを意外にも発見した点である。実際の作業実施例として、霊長類モデルを用いた前臨床試験の結果を実施例のセクションに記載する。リラキシンの霊長類への投与は、動物の平均子宮内膜厚みの増大、胚着床率の増大、胎盤の表面積及び大きさの見かけの増大、及び、顕著な点は新生仔の平均出生時体重の増大をもたらした。特定の機序に限定されないが、リラキシンは霊長類の子宮の子宮内膜の内側に対して、前血管形成及び分化の作用を有しており、そして、これらの作用が胎盤の健全性及び出生時体重に影響してくると考えられている。リラキシンのヒト被験体への投与は通常より重い、又は延長された月経性出血を伴っている(Unemori et al.,1999, Hum.Reprod.14:800−6)。インビボの所見と合致して、放射標識リラキシンはインビトロの子宮内膜間質細胞に特異的に、そして、高親和性で結合する。更に又、リラキシンはそれらの細胞において、特定の血管形成因子、血管内皮成長因子(VEGF)の発現を刺激する。
【0030】
(リラキシンタンパク質ポリペプチド及び核酸)
リラキシンタンパク質及び核酸(センス及びアンチセンス)は本発明の治療、診断、予後及びスクリーニングの方法の部分として利用できる。例えば、リラキシンのタンパク質、ポリペプチド及びペプチドフラグメント、突然変異、トランケーション又は欠失した形態のリラキシン、及びリラキシンの融合タンパク質及び他の誘導体を利用できる。
【0031】
本明細書においては、「リラキシン」という用語は胎仔の発育を効果的にモジュレートすることができる機能的リラキシンタンパク質を指す。リラキシンタンパク質の基本的構造はネイティブのリラキシン配列に相当するか、又は、約3個までの保存的アミノ酸置換によりネイティブのリラキシン配列とは異なっている配列に相当することができる。あるいは、構造は、N末端から約6個までのアミノ酸、及び/又は、C末端から約6個までのアミノ酸によりトランケーションされていてよいA鎖を含有し、そして、N末端から約6個までのアミノ酸、及び/又は、C末端から約6個までのアミノ酸によりトランケーションされていてよいB鎖を含有する配列に相当することができる。小規模の挿入及び/又は伸長を含有する機能的リラキシンタンパク質もまた、化学修飾されているリラキシン分子と同様、本発明の範囲に包含される。本発明において使用できる化学修飾の例は、Dアミノ酸のLアミノ酸に対する置換、アミノ酸側鎖のグリコシル化、アミノ酸側鎖またはN末端のアルキル化、アミノ酸側鎖又はN末端のアシル化、アミノ酸側鎖またはC末端のエステル化、アミノ酸側鎖のホスホリル化、アミノ酸側鎖の硫酸化、及び、アミノ酸側鎖のヒドロキシル化を包含する。機能的リラキシン類縁体及び修飾されたリラキシンの例は報告されている(米国特許5,023,321;米国特許5,811,395参照)。単純化のために、配列の変更又は化学修飾のいずれかによりネイティブのリラキシンとは異なるリラキシンを「リラキシン変異体」と称するものとする。
【0032】
本発明の目的のためには、リラキシンは、その活性が、ネイティブのリラキシンの活性から大きく減衰していない場合に、機能的であると見なす。リラキシンの活性は妊娠哺乳動物における胎仔の発育に対するリラキシン変異体とネイティブのリラキシンの作用の比較により、機能的に評価することができる。ネイティブリラキシンの作用の10%超を有するリラキシン変異体は機能的であると見なす。リラキシン変異体が活性を保持しているかどうかは、リラキシン活性を検出するための当該分野で知られた試験を用いて測定することもできる。例えば、妊娠及び非妊娠の期間に活性リラキシンの測定のために使用されるバイオアッセイは文献に記載されている(Steinetz et al.,1960, Endocrinology 67:102−115;Sarosi et al.,1983, Am.J.Obstet.Gynecol,145:402−5;Erikson and Liu, 2001, Proceedings from the Relaxin Congress)。リラキシン及びリラキシン変異体の培養子宮内膜細胞におけるVEGF発現の刺激に対する作用は変異体の活性を測定するためのもう1つの根拠となる(Unemori et al.,1999, Hum. Reprod.14:800−806)。これらの試験においてネイティブのリラキシンの活性の10%超を有するリラキシン変異体は機能的であると見なす。
【0033】
本発明において使用するネイティブのリラキシンは例えばウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、シカ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、そして好ましくはヒトを包含するいずれかの種に由来するリラキシンに相当する。ヒトにおける胎仔の発育をモジュレートする場合に使用するためには、リラキシンは好ましくは組み換えヒトリラキシンH2(rhRLX)である。このポリペプチドをコードする遺伝子のクローニング及びリラキシンの2つの他の形態が報告されている(Hudson et al.,1983,Nature 301:628−631;Hudson et al.,1984,Bathgate et al.,2002,J.Biol Chem 277:1148−1157;EMBO J.3:2333−2339;米国特許4,758,516;米国特許4,871,670)。3種の遺伝子によりコードされるリラキシンの予測される配列は実質的に異なっている。今日まで、リラキシンペプチドのH2型のみが血液及び卵巣を含む組織中において検出されている。リラキシンの他の類縁体及び誘導体が最近合成されており、大きな生物学的活性を有することがわかっている(例えば米国特許5,811,395参照)。
【0034】
リラキシンの細胞レセプターもまたクローニングされており(Hsu et al.,Science 295:671−674,2002)、そして種々の組織及び培養細胞系統中のリラキシンレセプター(LGR7)の存在がLHG7転写産物の検出(Shirota et al.,2004,J Clin Endocrinol Metab 90:516−521 Ivell, 2003;Reprod Biol Endocrinol 1:114;2003;Luna et al.,2004 Mol Hum Reprod 10:85−90;Ivell et al.,2003, Reprod Biol Endocrinol 1:114)並びに放射標識リラキシンプローブを用いた結合試験(Osheroff et al.,1990,J,Biol,Chem.265:9396−9401; Osheroff and King, 1995, Endocrinol.,136:4377−4381;Parsell et al.,1996, J Biol.Chem.,271:27936−27941)を通して証明されている。rhRLXの生物活性の根拠となる分子機序の解明は完了していないが、リラキシンレセプターを介したシグナリングにはMAPK又はERK1/2(Zhang et al.,2003, J Cell Biochem,85:536−544;Dschietzig et al.,2003, Circ Res.,92:32−40)並びにPI3K、PKA及びチロシンのホスホリル化(Bartsch et al.,2001,Mol Hum Reprod.,7:799−809;Palejwala et al.,1998 Endocrinology,139:1208−1247)経路の活性化が関与することがわかっている。
【0035】
インスリンとの構造的類似性のため、リラキシンはホルモンのインスリン関連ファミリーに帰属している(Blundell and Humbel, 1980, Nature, 287:781−787;Schwabe and Bullesbach,1990,Comp.Biochem.Physiol,96:15−21;Schwabe and Bullesbach,1994,FASEB J.81:1152−1160)。このファミリーの別のメンバーは当初はライディヒ細胞から単離され、そして、そのCペプチドがリラキシンよりもインスリンに長さにおいて類似性がより高かったため、当初はライディヒインスリン様ペプチドと称されていた(Adham et al.,1993, J.Biol.Chem.,268:26668−26672)。このペプチドは近年インスリン様ペプチド3(ISNL3)と命名され、LGR8と称されるLGR7に相同なレセプターに結合する(Kumagai et al.,2002,J Biol Chem,277:31283−31286)。
【0036】
リラキシンは天然原料から精製するか、組み換えDNA発現系中で発現させてこれより精製するか、化学合成するか、又は、これらの方法の組み合わせにより調製することができる。例えばネイティブリラキシン又はリラキシン変異体のA及びB鎖に相当するポリペプチドを化学合成により、及び/又は、組み換えDNA系における発現により作成することができる(米国特許5,023,321;米国特許5,320,953;米国特許5,326,694)。所望のジスルフィド結合は適切な条件下水性媒体中A及びB鎖の還元型を組み合わせることにより得ることができる(米国特許4,835,251;米国特許5,464,756)。ポリペプチドの化学修飾は所望により合成の間のいずれかの時点において実施することができる。治療用途のためのネイティブリラキシン及び変異体の適切な製剤は報告されている(米国特許5,451,572;米国特許5,945,402)。
【0037】
ヌクレオチド配列を発現するための当該分野でよく知られた技術を用いた組み換えDNA技術によりリラキシンを好都合に調製してよい。本発明の目的のためには、「リラキシンヌクレオチド配列」という用語はオープンリーディングフレームをコードする配列のみではなく、リラキシン遺伝子内の上流および下流の配列も指すものとする。同様の方法はまたリラキシンヌクレオチド配列を含有する発現ベクターを構築するために使用することもできる。これらの方法は例えばインビトロの組み換えDNA技術、合成技術及びインビボの遺伝子組み換えを包含する。Sambrook et al.,1989,Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Press, N.Y.,およびAusabel et al.,1989,Current Protocols in Molecular Biology, Green Publishing Associates and Wiley Interscience, N.Y.,を参照でき、これらの各々は参照により全体が本明細書に組み込まれる。あるいは、リラキシンヌクレオチド配列をコードすることができるRNAを例えば合成装置を用いて化学合成してよい。例えばOligonucleotide Synthesis, 1984, Gait, M.J.ed.,IRL Press, Oxfordに記載されている技術を参照でき、これは参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0038】
種々の宿主発現ベクター系を本発明のリラキシンヌクレオチド配列を発現するために使用してよい。リラキシンペプチド又はポリペプチドが可溶性の誘導体である場合は、ペプチド又はポリペプチドは培養物から、即ちリラキシンペプチド又はポリペプチドが分泌されない場合は宿主細胞から、そして、リラキシンペプチド又はポリペプチドが細胞から分泌される場合は培地から、回収することができる。しかしながら、発現系はまた、リラキシン又は機能的等価物をインサイチュで、即ち、細胞膜にアンカリングされた状態で発現するような操作された宿主細胞も包含する。このような発現系からのリラキシンの精製又は富化は適切な洗剤及び脂質ミセル及び当該分野でよく知られた方法を用いて達成することができる。しかしながら、このように操作された宿主細胞自体は、リラキシンの構造的及び機能的特性を保持することのみならず、例えば薬剤スクリーニング試験において生物活性を評価することが重要である状況において、使用してよい。
【0039】
本発明の目的のために使用してよい発現系は、例えば微生物、例えばリラキシンヌクレオチド配列を含有する組み換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA又はコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌(例えばE.coli、B.subtilis);ヌクレオチド配列を含有する組み換え酵母発現ベクターで形質転換された酵母(例えばサッカロマイセス、ピチア);配列を含有する組み換えウィルス発現ベクター(例えばバキュロウィルス)を感染させた昆虫細胞系;組み換えウィルスベクター(例えばカリフラワーモザイクウィルス、CaWV;タバコモザイクウィルス、TMV)を感染させた、又は、ヌクレオチド配列を含有する組み換えプラスミド発現ベクター(例えばTiプラスミド)で形質転換した植物細胞系;又は、哺乳動物細胞のゲノムから(例えばメタロチオネインプロモーター)又は哺乳動物ウィルスから(例えばアデノウィルス後期プロモーター;ワクシニアウィルス7.5Kプロモーター)誘導されたプロモーターを含有する組み換え発現コンストラクトを保有する哺乳動物細胞系(例えばCOS、CHO、BHK、293、3T3)を包含する。
【0040】
細菌系においては、多くの発現ベクターが、発現されるべきリラキシン遺伝子産物を意図した用途に応じて好都合に選択してよい。例えば、リラキシンタンパク質の医薬組成物の形成のため、又は、リラキシンタンパク質に対する抗体を作成するために、このようなタンパク質大量を調製する場合は、例えば容易に精製される融合タンパク質産物の高レベルの発現を指向するベクターが望ましい。このようなベクターには、例えば、融合タンパク質が生産されるようにlacZコーディング領域とフレームのベクター内にリラキシンコーディング配列をライゲーションしてよいE.coli発現ベクターpUR276(Ruther et al.,1983,EMBO J.2:1791);pINベクター(Inouye and Inouye, 1985,Nucleic Acids Res. 13:3101−3109;Van Heeke and Schuster,1989,J.Biol.Chem.264:5503−5509)等を包含する。pGEXベクターもまたグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として外来性のポリペプチドを発現するために使用してよい。一般的に、このような融合タンパク質は可溶性であり、グルタチオン−アガロースビーズへの吸着とその後の遊離グルタチオン存在下の溶離により溶解細胞から容易に精製することができる。PGEXベクターは、クローニングされた標的遺伝子産物がGST部分から放出できるようにトロンビン又は第Xa因子プロテアーゼの切断部位を含むように設計されている。
【0041】
昆虫系においては、Autographa californicaの核多角体病ウィルス(AcNPV)を外来性遺伝子を発現するためのベクターとして使用する。ウィルスはSpodoptera frugiperda細胞内で発育する。リラキシン遺伝子コーティング配列はウィルスの非必須領域(例えばポリヘドリン遺伝子)内にクローニングし、そして、AcNPVプロモーター(例えばポリヘドリンプロモーター)の制御下においてよい。リラキシンヌクレオチド配列の良好な挿入はポリヘドリン遺伝子の不活性化及び未閉塞の組み換えウィルス(即ちポリヘドリン遺伝子によるコーディングの被験体となるタンパク質様被覆を保有しないウィルス)の生産をもたらす。次にこのような組み換えウィルスを用いて、挿入遺伝子が発現されるSpodoptera frugiperda細胞を感染に用いる(例えばSmith et al.,1983,J.Virol.46:584;Smith,米国特許4,215,051参照)。
【0042】
哺乳動物宿主細胞においては、多くのウィルス系発現系を利用してよい。アデノウィルスを発現ベクターとして使用する場合は、目的のリラキシンヌクレオチド配列をアデノウィルス転写/翻訳制御複合体、例えば後期プロモーター及び3要素リーダー配列にライゲーションしてよい。このキメラ遺伝子を次にインビトロ又はインビボの組み換えによりアデノウィルスゲノム内に挿入してよい。ウィルスゲノムの非必須領域(例えば領域E1又はE3)内の挿入は、生存性であり、感染宿主内でリラキシン遺伝子産物を発現することができる組み換えウィルスをもたらす(例えばLogan and Shenk, 1984,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:3655−3659)。特定の開始シグナルもまた挿入されたリラキシンヌクレオチド配列の効率的な翻訳のために必要となる場合がある。これらのシグナルはATG開始コドン及び隣接配列を包含する。自身の開始コドン及び隣接配列も含めて全リラキシン遺伝子又はcDNAが適切な発現ベクター内に挿入される場合は、別の翻訳制御シグナルは必要でない場合がある。しかしながら、コーディング配列の一部分のみを挿入する場合は、外因性翻訳制御シグナル、例えばATG開始コドンを提供しなければならない。更に又、全挿入の翻訳を確保するためには開始コドンは所望のコーディング配列のリーディングフレームと協調しなければならない。これらの外因性翻訳制御シグナル及び開始コドンは種々の起源のものであることができ、天然及び合成の両方であってよい。発現の効率は適切な転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーター等を含めることにより増強してよい(例えばBittner et al.,1987,Meth. Enzymol.153:516−544)。
【0043】
更に又、挿入された配列の発現をモジュレートするか、所望の特定の態様において遺伝子産物を修飾及びプロセシングするような宿主細胞系統を選択してよい。タンパク質産物のこのような修飾(例えばグリコシル化)およびプロセシング(例えば切断)はタンパク質の機能のために重要である場合がある。異なる宿主細胞はタンパク質及び遺伝子産物の翻訳後プロセシング及び修飾に関する特徴的で特異的な機序を有している。適切な細胞系統又は宿主系を選択することにより発現された外来性のタンパク質の正しい修飾及びプロセシングを確保することができる。この目的のためには、一次転写産物の適切なプロセシング、グリコシル化、及び遺伝子産物のホスホリル化のための細胞機構を保有する真核生物の宿主細胞を使用してよい。このような哺乳動物宿主細胞は例えばCHO、VERO、BHK、Hela、COS、MDCK、239,3T3及びW138細胞系統を包含する。
【0044】
組み換えタンパク質の長期の高収率の生産のためには、安定な発現が好ましい。例えばリラキシンヌクレオチド配列を安定して発現する細胞系統を操作してよい。ウィルス複製起源を含有する発現ベクターを使用するよりはむしろ、宿主細胞を適切な発現制御エレメント(例えばプロモーター、エンハンサー配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位等)により制御されたDNA及び選択可能なマーカーで形質転換することができる。外来性DNAの導入の後、操作された細胞を富化培地中1〜2日間発育させ、そして次に選択培地に切り替える。組み換えプラスミド中の選択可能なマーカーは選択に対する耐性を付与し、そして細胞がその染色体内にプラスミドを安定に組み込むことができるようにし、そして発育させることにより集落を形成し、そしてそれを次にクローニングして細胞系統にまで増殖させることを可能とする。この方法はリラキシン遺伝子産物を発現する細胞系統を操作するために好都合に使用してよい。このように操作された細胞系統はリラキシンの内因性活性に影響する化合物のスクリーニング及び評価において特に有用である。
【0045】
多くの選択系を使用してよく、例えば単純疱疹ウィルスチミジンキナーゼ(Wigler, et al.,1977, Cell 11:223)、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalska and Szybalski,1962,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 48:2026)及びアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy, et al.,1980,Cell 22:817)遺伝子をそれぞれtk、hgprt又はaprt細胞において使用することができる。更に又、代謝アンタゴニスト耐性もまた、以下の遺伝子、即ち、メトトレキセートに対する耐性を付与するdhfr(Wigler et al.,1980,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:3567;O’Hare, et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:1527);マイコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt(Mulligan and Berg,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:2072);アミノグリコシドG−418に対する耐性を付与するneo(Colberre−Garapin, et al.,1981, J.Mol.Biol.150:1);およびハイグロマイシンに対する耐性を付与するハイグロ(Santerre,et al.,1984,Gene 30:147)に関する選択の基準として使用することができる。
【0046】
リラキシン遺伝子産物はまたトランスジェニック動物において発現することもできる。いずれかの種の動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ブタ、マイクロブタ、ヤギ及び非ヒト霊長類、例えばヒヒ、サル及びチンパンジーを使用してトランスジェニック動物を作成してよい。
【0047】
当該分野で知られたいずれかの技術を用いて動物にリラキシントランスジーンを導入するか、又は、内因性リラキシンを「ノックアウト」するか、又は不活性化することにより、トランスジェニック動物の始祖系統を作成してよい。このような動物は本発明のスクリーニング方法の一部として利用でき、そしてこのような動物に由来する細胞及び/又は組織を、やはり本発明のスクリーニング法の一部として利用できる別の複合物(例えば細胞系統、組織培養系)の作成のために得ることができる。
【0048】
このような動物を作成するための技術は当該分野で知られており、例えば前核マイクロインジェクション(Hoppe, P.C.and Wagner,T.E.,1989,米国特許4,873,191);生殖細胞系統へのレトロウィルス媒介遺伝子転移(Van der Putten et al.,1985,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:6148−6152);胚性幹細胞内の遺伝子ターゲティング(Thompson et al.,1989,Cell 56:313−321);胚のエレクトロポレーション(Lo,1983,Mol.Cell.Biol.3:1803−1814);および精子媒介遺伝子転移(Lavitrano et al.,1989, Cell 57:717−723)等を包含する。このような技術の検討はGordon,1989,Transgenic Animals, Intl.Rev.Cytol.115:171−229を参照でき、これは参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0049】
トランスジェニックリラキシンを含有するトランスジェニック動物に関しては、このような動物はその全細胞においてリラキシンのトランスジーンを保有することができる。あるいは、このような動物は全てのその細胞ではなく一部にトランスジーンを担持することができ、即ち、モザイク動物であることができる。トランスジーンは単一のトランスジーンとして、又はコンカタマー、例えばhead−to−headの縦列型又はhead−to−tailの縦列型において組み込んでよい。トランスジーンは又例えばLasko et al.,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6232−6236の記載に従って、特定の細胞型に選択的に導入し、そこで活性化されてもよい。このような細胞型特異的活性化のために必要な調節配列は目的の特定の細胞型により異なり、そして当業者のよく知るとおりである。トランスジーンが内因性遺伝子の染色体部位に組み込まれることが望まれる場合は、遺伝子ターゲティングが好ましい。慨すれば、このような技術を利用しようとする場合、内因性リラキシン遺伝子に相同性を有するいくつかのヌクレオチド配列を含有するベクターは、内因性リラキシン遺伝子のヌクレオチド配列に染色体配列との相同組み換えを介して組み込むこと、及び、その機能を破壊するという目的のために、設計する。トランスジーンは又例えばGu et al.,1994,Science 265:103−106の教示に従って、特定の細胞型内に選択的に導入し、これによりその細胞型のみにおいて内因性リラキシン遺伝子を不活性化してよい。このような細胞型特異的不活性化に必要な調節配列は目的の特定の細胞型により異なり、当業者のよく知るとおりである。
【0050】
トランスジーン動物を作成した後、組み換え遺伝子の発現は標準的な技術を利用して試験してよい。初回のスクリーニングはトランスジーンの組み込みが起こったかどうかを試験するために動物の組織を分析するサザンブロット分析、又は、PCR法により行ってよい。トランスジェニック動物の組織におけるトランスジーンのmRNAの発現のレベルはまた、例えば動物から得た組織サンプルのノーザンブロット分析、インサイチュハイブリダイゼーション分析及びRT−PCRを包含する技術を用いて試験してもよい。リラキシン遺伝子を発現する組織の資料もまたトランスジーン産物に特異的な抗体を用いて免疫細胞化学的に評価してよい。
【0051】
(リラキシンに対する抗体)
リラキシンのエピトープもしくはリラキシンの保存された変異体のエピトープ1つ以上を特異的に認識してこれに結合する抗体を本発明の方法の部分として利用することができる。このような抗体には、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、ヒト、ヒト化又はキメラ抗体、1本鎖抗体、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fab発現ライブラリにより作成されたフラグメント、抗イディオタイプ(抗−Id)抗体及び上記いずれかのエピトープ結合フラグメントが包含される。
【0052】
このような抗体は例えば、妊娠哺乳動物におけるリラキシンのレベル、例えば哺乳動物の血清中のリラキシンのレベルを測定することにより、妊娠哺乳動物における胎仔の発育異常を診断するための本発明の診断又は予後の方法の部分として、使用してよい。このような抗体はまたリラキシン遺伝子産物の発現及び/又は活性に対する被験化合物の作用を評価するために、後述する通り、例えば化合物スクリーニングスキームと組み合わせて利用してもよい。更に、このような抗体は本発明の治療及び予防の方法において使用することができる。例えば、このような抗体はリラキシンレセプターアゴニスト又はアンタゴニストに相当する場合がある。更に又、このような抗体は例えばリラキシンが循環系から排除される速度を増大させることにより、血清中のリラキシンレベルを低下させるために投与することができる。
【0053】
抗体の調製のためには、種々の宿主動物をリラキシン、トランケーションされたリラキシン、リラキシンの機能的等価物、又は、リラキシンの突然変異体を注射することにより免疫化してよい。このような宿主動物としては、例えば、ウサギ、マウス及びラットを包含する。宿主種に応じて種々のアジュバントを使用して免疫学的応答を増強してよく、例えばフロインド(完全及び不完全)、鉱物質ゲル、例えば水酸化アルミニウム、界面活性剤、例えばリソレシチン、プロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油脂エマルジョン、キーホルリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、及び、潜在的に有用なヒトアジュバント、例えばBCG(カルメット‐ゲラン杆菌)及びコリネバクテリウム・パルバムを包含される。ポリクローナル抗体は免疫化された動物の血清から誘導された抗体分子の不均質な集団である。
【0054】
特定の抗原に対する抗体の均質な集団であるモノクローナル抗体は培養物中の連続細胞系統による抗体分子の生産を提供するいずれかの技術により得てよい。これらには例えばKohler and Milsteinのハイブリドーマ法(Kohler and Milstein, 1975,Nature 256:495−497;及び米国特許4,376,110)、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kosbor et al.,1983,Immunology Today 4:72;Cole et al.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:2026−2030)、及び、EBV−ハイブリドーマ法(Cole et al.,1985,Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy, Alan R.Liss, Inc.,pp.77−96)が包含される。このような抗体はいずれかの免疫グロブリンクラス、例えばIgG、IgM、IgF、IgA、IgD及びこれらのいずれかのサブクラスであってよい。本発明のmAbを生産するハイブリドーマはインビトロ又はインビボで培養してよい。インビボのmAbの高力価の生産はこれを現時点で好ましい調製方法とする。
【0055】
更に、標準的な組み換えDNA技術を使用して作成することができるヒト及び非ヒトの部分を含むキメラ及びヒト化モノクローナル抗体のような組み換え抗体も本発明の範囲に包含される。キメラ抗体はマウスmAb及びヒト免疫グロブリンの定常領域から誘導される可変領域を有するもののような異なる動物種から異なる部分が誘導された分子である。例えば参照により全体が本明細書に組み込まれるGabilly et al.,の米国特許4,816,567;及びBoss et al.,の米国特許4,816,397を参照できる。ヒト化抗体は非ヒト種由来の相補性決定領域(CDR)1つ以上及びヒト免疫グロブリン分子由来のフレームワーク領域を有する非ヒト種由来の抗体分子である。例えば参照により全体が本明細書に組み込まれるQueenの米国特許5,585,098を参照できる。このようなキメラ及びヒト化モノクローナル抗体は例えば、PCT公開WO87/02671;欧州特許出願184,187;欧州特許出願171,497;欧州特許出願173,494;PCT公開WO86/01533;米国特許4,816,567;欧州特許出願125,023;Better et al.,1988,Science 240:1041−1043;Liu et al.,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:3439−3443;Liu et al.,1987,J.Immunol.39:3521−3526;Sun et al.,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:214−218;Nishimura et al.,1987,Canc.Res.47:999−1005;Wood et al.,1985,Nature 314:446−449;及びShaw et al.,1988,J.Natl.Cancer Inst.80:1553−1559);Morrison,1985,Science 229:1202−1207;Oi et al.,1986,Bio/Techniques 4:214;米国特許5,225,539;Jones et al.,1986,Nature 321:552−525;Verhoeyan et al.,1988,Science 239:1534;及びBeidler et al.,1988,J Immunol.141:4053−4060に記載された方法を用いながら、当該分野で知られた組み換えDNA技術により調製できる。
【0056】
完全ヒト抗体はヒト患者の治療処置のために特に望ましい。そのような抗体は、例えば、内因性の免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の遺伝子を発現することはできないが、ヒトの重鎖及び軽鎖の遺伝子を発現することができるトランスジェニックマウスを用いて調製できる。トランスジェニックマウスを選択された抗原、例えば本発明のポリペプチドの全体又は一部を用いて通常の方式で免疫化する。抗原に対して指向されたモノクローナル抗体を従来のハイブリドーマ技術を用いて得ることができる。トランスジェニックマウスにより保有されるヒト免疫グロブリントランスジーンはB細胞分化の間に再配列し、その後クラススイッチ及び体細胞突然変異を起こす。即ち、このような技術を用いることにより、治療上有用なIgG、IgA及びIgE抗体を調製することが可能となる。ヒト抗体の調製に関するこの技術の概要については、Lonberg and Huszar,1995,Int.Rev.Immunol.13:65−93を参照できる。ヒト抗体及びヒトモノクローナル抗体を調製するためのこの技術に関する詳細な考察及びこのような抗体を調製するためのプロトコルについては、例えば米国特許5,625,126;米国特許5,633,425;米国特許5,569,825;米国特許5,661,016;及び米国特許5,545,806を参照できる。更に、Abgenix,Inc.,(Fremont,CA)のような会社は上記したものと同様の技術を用いて選択された抗原に対して指向されたヒト抗体を提供する業務を行うことができる。
【0057】
選択されたエピトープを認識する完全ヒト抗体は「ガイドされた選択」と称される技術を用いて作成することができる。この方法においては選択された非ヒトモノクローナル抗体、例えばマウス抗体を用いて同じエピトープを認識する完全ヒト抗体の選択をガイドするのに用いる(Jespers et al.,1994, Bio/technology 12:899−903)。
【0058】
あるいは、1本鎖抗体の調製に関して記載された技術(米国特許4,946,778;Bird,1998,Science 242:423−426;Huston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:5879−5883;及びWard et al.,1989,Nature 334:544−546)をリラキシン遺伝子産物に対する1本鎖抗体を調製するために適合させることができる。1本鎖抗体はアミノ酸架橋を介してFv領域の重鎖及び軽鎖のフラグメントに連結することにより形成され、1本鎖ポリペプチドとなる。
【0059】
特定のエピトープを認識する抗体フラグメントは知られた技術で形成してよい。例えばこのようなフラグメントは抗体分子のペプシン消化により調製できるF(ab’)フラグメント及びF(ab’)フラグメントのジスルフィド架橋の還元により形成できるFabフラグメントを包含する。あるいは、Fab発現ライブラリを構築(Huse et al.,1989,Science,246:1275−1281)することにより、所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ容易な発見が可能となる。
【0060】
リラキシンに対する抗体は、次に当該分野でよく知られた技術を用いてリラキシンを「模倣する」抗イディオタイプ抗体を形成するために利用することもできる(例えばGreenspan and Bona,1993,FASEB J7:437−444;及びNissinoff,1991,J.Imunol.147:2429−2438参照)。例えばリラキシンレセプターと相互作用するリラキシンの部分に結合する抗体を用いてリラキシンのレセプター結合領域を模倣し、レセプターアゴニスト又はアンタゴニストとして機能する抗イディオタイプの抗体を形成することができる。これらの抗体は胎仔の発育のモジュレーションによるIUGR又は他の胎仔の発育異常の治療のために有用である。
【0061】
(胎仔の発育異常又は胎盤不全の診断及び予後)
胎仔の発育異常又は胎盤不全の診断及び予後的評価のため、及び、このような疾患又は状態になりやすい素因を有する被験体の発見のために、種々の方法を用いることができる。
【0062】
特に本発明により診断又は予後を行うことができる胎仔の発育異常は、その超低出生体重である胎仔により特徴付けられる状態、例えば子宮内発育遅延を包含する。
【0063】
即ち、本発明のこの態様によれば、以下の工程:
(a)妊娠哺乳動物、例えば胎仔の発育異常を呈しているか、その危険性を有することが疑われる妊娠哺乳動物の血清中リラキシンレベルを測定すること;及び、
(b)(a)において測定したレベルを対照血清中のリラキシンレベルと比較すること、
を包含し、これにより、(a)において得られたレベルが対照のものより低値であれば、哺乳動物は胎仔の発育異常を呈しているか、その危険性を有すると診断され、そしてここで、胎仔の発育異常はその超低出生体重である胎仔を特徴とする、妊娠ヒトのような妊娠哺乳動物における胎仔の発育異常の診断又は予後を行う方法である。
【0064】
更に又、本発明により診断又は予後を行える胎仔の発育異常は、その在胎齢に対して大型である胎仔により特徴付けられる状態、例えば糖尿病を包含する。
【0065】
即ち本発明のこの態様によれば、以下の工程:
(a)妊娠哺乳動物、例えば胎仔の発育異常を呈しているか、その危険性を有することが疑われる妊娠哺乳動物の血清中リラキシンレベルを測定すること;及び、
(b)(a)において測定したレベルを対照血清中のリラキシンレベルと比較すること、
を包含し、これにより、(a)において得られたレベルが対照のものより高値であれば、哺乳動物は胎仔の発育異常を呈しているか、その危険性を有すると診断され、そしてここで、胎仔の発育異常はその在胎齢に対して大型である胎仔を特徴とする、妊娠ヒトのような妊娠哺乳動物における胎仔の発育異常の診断又は予後を行う方法である。
【0066】
更に、胎仔の発育異常の治療のため、及び、臨床治験における化合物の薬効をモニタリングするために臨床評価を受けている患者の診断モニタリングのための方法が提供される。
【0067】
即ち、本発明のこの態様において、以下の工程:
(a)妊娠哺乳動物に化合物を投与すること;
(b)哺乳動物の血清中のリラキシンレベルを測定すること;及び、
(c)(b)で測定されたレベルを化合物を投与する前の哺乳動物の血清中リラキシンレベルと比較すること;
を含み、これにより化合物の薬効をモニタリングし、そしてここで、胎仔の発育異常はその超低出生体重である胎仔を特徴とする、妊娠ヒトのような妊娠哺乳動物における胎仔の発育異常を治療するための化合物の薬効をモニタリングする方法である。好ましい化合物はリラキシンレベルを投与前に観察されたものと相対比較して上昇させるものである。
【0068】
本発明の別の態様によれば、以下の工程:
(a)妊娠哺乳動物に化合物を投与すること;
(b)哺乳動物の血清中のリラキシンレベルを測定すること;及び、
(c)(b)で測定されたレベルを化合物を投与する前の哺乳動物の血清中リラキシンレベルと比較すること;
を含み、これにより化合物の薬効をモニタリングし、そしてここで、胎仔の発育異常はその在胎齢に対して大型である胎仔を特徴とする、妊娠ヒトのような妊娠哺乳動物における胎仔の発育異常を治療するための化合物の薬効をモニタリングする方法である。好ましい化合物はリラキシンレベルを投与前に観察されたものと相対比較して低下させるものである。
【0069】
このような方法は胎仔の発育異常の治療のための臨床評価を受けている患者のモニタリングのためにも利用できる。一般的に、このような方法は更にその在胎齢に対して胎仔の大きさをモニタリングすることを包含する。
【0070】
本明細書に記載した方法は、例えば、上記した、そして当業者の知るリラキシンヌクレオチド配列(例えば米国特許4,758,516;米国特許4,871,670)及びセクション5.1.1に記載されるリラキシン抗体のような試薬を利用してよい。このような試薬は例えば(1)リラキシン遺伝子突然変異の存在の検出;(2)正常な胎仔の発育を示している対照と相対比較してリラキシンmRNAの過大又は過少な発現のいずれかの検出;(3)正常な胎仔の発育を示している対照と相対比較してリラキシン遺伝子産物の過大又は過少な存在量のいずれかの検出;及び(4)リラキシンにより媒介されるシグナル伝達経路における変動又は異常の検出、のために使用してよい。
【0071】
本明細書に記載した方法は、胎仔の大きさ及び発育を測定するための技術と組み合わせて、又は、その前後において、実施してよい。例えば、相当する対照哺乳動物と相対比較してリラキシンの高値又は低値のレベル(例えば血清中)を示す哺乳動物(例えばヒト)を発見した場合、哺乳動物により形成されている胎仔の1つ以上の大きさ及び発育を測定することによりその胎仔が異常な発育を呈しているかどうかを更に明確化することができる。異常な胎仔の発育が観察されない場合、哺乳動物はその状態を発症する危険性を有すると考えることができ、異常な胎仔の発育が観察された場合は、哺乳動物はその状態を呈する。
【0072】
本明細書に記載した方法は異常な胎仔の発育の症例を発見するための診断技術と組み合わせて使用してよい。診断は典型的には胎仔の大きさ及び在胎齢の両方を正確に測定することを包含する。早期の超音波撮影検査を用いて在胎齢を測定することができる(Benson and Doubilet, 1991, AJR Am.J.Roentgenol,157:1275−1277)。他の画像化技術、例えば磁気共鳴画像化もまた在胎齢を推定し、胎仔の発育並びに胎盤の発育を子宮内モニタリングするために使用することができる。在胎齢の正確な推定が行われない場合は、胎仔の大きさの連続的測定を用いて胎仔の大きさが適切であるか否かを評価することができる。形態測定及びドプラー超音波測定の使用による分析では、腹部周囲および頭部の大きさ、腹部の大きさ及び大腿部の長さに基づいた推定胎仔重量が、胎仔がその在胎齢に比して大きいか小さい可能性を示す最良の予測子となることが示される(Chang et al.,1992,Obstet. Gynecol.80:1030−8)。
【0073】
本明細書に記載した方法は例えば子癇前症を包含する胎盤不全の状態を発見するために使用してよい。
【0074】
本明細書に記載した方法は例えば、胎仔の発育異常を呈している患者を診断するために、例えば臨床セッティングにおいて好都合に使用してよい特定のリラキシンヌクレオチド配列又はリラキシン抗体試薬の少なくとも1つを含む予めパッケージされた診断キットを利用することにより実施してよい。
【0075】
リラキシン突然変異の検出のためには、いずれかの有核細胞をゲノム核酸のための原料として使用することができる。リラキシン遺伝子発現又は遺伝子産物の検出のためには、リラキシン遺伝子が発現されるいずれかの細胞型又は組織、例えば顆粒膜黄体細胞を使用してよい。
【0076】
核酸系の検出技術はセクション5.2.1において後述する。ペプチド検出法はセクション5.2.2において後述する。
【0077】
(リラキシン遺伝子及び転写産物の検出)
リラキシン遺伝子内の突然変異は多くの技術を利用することにより検出することができる。このような試験方法のためにはいずれかの有核細胞由来の核酸を出発点として使用することができ、そして、当該分野でよく知られた標準的な核酸調製方法に従って単離してよい。
【0078】
DNAはリラキシン遺伝子の構造の関与する異常、例えば点突然変異、挿入、欠失及び染色体再配列を検出するための生物学的サンプルのハイブリダイゼーション又は増幅試験において使用してよい。このような試験は例えばサザン分析、1本鎖高次構造多形分析(SSCP)及びPCR分析を包含してよい。
【0079】
リラキシン遺伝子特異的突然変異の検出のためのこのような診断方法は、例えばサンプルから得られた、例えば患者のサンプル又は他の適切な細胞原料から誘導された組み換えDNA分子、クローニングされた遺伝子又はその縮重変異体を包含する核酸を、組み換えDNA分子、クローニングされた遺伝子又はその縮重変異体を包含する標識された核酸試薬1つ以上と、これらの試薬のリラキシン遺伝子内のその相補配列へのそれぞれの特異的アニーリングに好都合な条件下で、接触させてインキュベートすることを包含する。好ましくは、これらの核酸試薬は少なくとも15〜30ヌクレオチドである。インキュベーション後、全ての非アニーリング核酸を核酸:リラキシン遺伝子ハイブリッドから除去する。ハイブリダイズした核酸の存在は、そのような分子が存在すれば、後に検出する。このような検出スキームを使用しながら、目的の細胞型又は組織に由来する核酸を例えば固体支持体、例えばメンブレン又はプラスチック表面、例えばマイクロタイタープレート又はポリスチレンビーズの表面に固定化することができる。この場合、インキュベーションの後、非アニーリング標識核酸試薬は容易に除去される。残存するアニーリング化標識リラキシン核酸試薬の検出は当該分野でよく知られた標準的な技術を用いて行う。核酸試薬がアニーリングしているリラキシン遺伝子配列を通常のリラキシン遺伝子配列から予測されるアニーリングパターンと比較することにより、リラキシン遺伝子突然変異が存在するかどうか調べることができる。
【0080】
患者サンプル又は他の適切な細胞原料中のリラキシン遺伝子特異的核酸分子の検出のための代替となる診断方法では、例えばPCR(Mullisの1987年の米国特許4,683,202に記載されている実験実施形態)によりその増幅を行い、その後、当該分野でよく知られた技術を用いて増幅された分子を検出する。得られた増幅配列を、リラキシン遺伝子の正常なコピーのみを増幅させた核酸が含有してる場合に予測されるものと比較することにより、リラキシン遺伝子の突然変異が存在するかどうか調べることができる。
【0081】
更に、よく知られた遺伝子タイピング技術を実施することによりリラキシン遺伝子突然変異を担持する個体を発見することができる。このような技術には、例えば使用する特定の制限酵素に関する認識部位の1つにおける配列変異が関わる制限酵素断片長多形(RFLP)が包含される。
【0082】
更に、リラキシン遺伝子突然変異の発見のために利用できるDNA多形を分析するための進歩した方法が報告されており、これは、制限酵素部位の間の短い縦列反復DNA配列の可変数の存在を利用している。例えばWeber(参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許5,075,217)は(dC−dA)n−(dG−dT)nの短い縦列リピートのブロックにおける長さの多形に基づいたDNAマーカーを記載している。(dC−dA)n−(dG−dT)nブロックの平均の分離は30,000〜60,000bpと推定される。このように緊密な間隔のマーカーは高い頻度の共通の遺伝形質を示し、そして遺伝子突然変異、例えばリラキシン遺伝子内の突然変異の発見、及び、リラキシン突然変異に関連する疾患及び障害の診断において、極めて有用である。
【0083】
更に又、Caskey et al.,(参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許5,364,759)は短いトリ及びテトラヌクレオチドリピート配列を検出するためのDNAプロファイリング試験を記載している。方法は目的のDNA、例えばリラキシン遺伝子を抽出すること、抽出されたDNAを増幅すること、及び、リピート配列を標識して個々のDNAの遺伝子タイピングマップを形成することを包含する。
【0084】
リラキシン遺伝子発現のレベルはリラキシン遺伝子転写産物を検出して測定することにより調べることもできる。例えばリラキシン遺伝子を発現することがわかっているか、それが疑われる細胞型又は組織、例えば顆粒膜黄体細胞に由来するRNAを単離し、上記したようなハイブリダイゼーション又はPCR法を用いて試験してよい。単離された細胞は細胞培養物又は患者から誘導することができる。培養物から採取した細胞の分析は細胞系の遺伝子療法の技術の部分として使用される、又は、あるいは、リラキシン遺伝子の発現に対する化合物の作用を試験するための、細胞試験における必要な工程であってよい。このような分析はリラキシン遺伝子発現の活性化又は不活性化を包含するリラキシン遺伝子の発現パターンの定量的及び定性的な側面の両方を明らかにすると考えられる。
【0085】
このような検出スキームの1つの実施形態において、cDNAは目的のRNAから合成される(例えばRNA分子からcDNAへの逆転写による)。次にcDNA内の配列を核酸増幅反応、例えばPCR増幅反応等のための鋳型として使用する。本方法の逆転写及び核酸増幅工程における合成開始試薬(例えばプライマー)として使用される核酸試薬は当該分野でよく知られるとおり、リラキシンヌクレオチド配列内から選択される。このような核酸試薬の好ましい長さは少なくとも9〜30ヌクレオチドである。増幅産物の検出のためには、核酸増幅は放射又は非放射標識のヌクレオチドを用いて実施してよい。あるいは、標準的な臭化エチジウム染色によるか、又は、いずれかの他の適当な核酸染色方法を用いるかにより生成物が可視化されるように、十分な増幅産物を調製してよい。
【0086】
更に、このようなリラキシン遺伝子発現試験は、核酸の精製を必要としないように、「インサイチュ」において、即ち、生検サンプル又は摘出物から得た患者組織の組織切片(固定及び/又は凍結)において直接実施することも可能である。当業者のよく知る核酸試薬をこのようなインサイチュの方法のためのプローブ及び/又はプライマーとして使用してよい(例えばNuovo,G.J.,1992,PCR In situ Hybridization: Protocols and Applications, Raven Press, NY)。
【0087】
あるいは、十分な量の適切な細胞を得ることができる場合は、標準的なノーザン分析を実施することによりリラキシン遺伝子のmRNA発現のレベルを測定することができる。
【0088】
(リラキシン遺伝子産物の検出)
セクション5.1.1において上記の通り考察した野生型又は突然変異体のリラキシン遺伝子産物またはその保存された変異体又はペプチドフラグメントに対して指向された抗体はまた、本明細書に記載する胎仔の発育異常の診断薬及び予後薬として使用してよい。このような診断方法はリラキシン遺伝子発現のレベルの異常、又は、リラキシンの構造及び/又は一時的な組織、細胞又は細胞下の位置における異常を検出するために使用してよく、そして、インビボ又はインビトロで、例えば生検組織に対して実施してよい。抗体は、X線、CATスキャン又はMRIのような方法を用いて身体内で発現されたリラキシンを可視化するために、例えば放射線不透性、又は、他の適切な化合物で標識することができる。
【0089】
更に、存在を検出することができるいずれかのリラキシン融合タンパク質又はコンジュゲートタンパク質を投与することもできる。例えば、放射線不透性、又は、他の適切な化合物で標識したリラキシン融合又はコンジュゲートタンパク質を投与し、上記の標識抗体に関する考察の通り、インビボで可視化することができる。更にこのような融合タンパク質をインビトロの診断の方法のために利用することができる。
【0090】
あるいは、上記した通り、イムノアッセイ又は融合タンパク質検出試験を生検サンプル又は剖検サンプルに対してインビトロで利用することにより、リラキシンの発現パターンの評価が可能となる。このような試験はリラキシンのいずれかの特定のエピトープを定義する抗体の使用に限定されない。これらの標識抗体の使用は細胞からのリラキシンの翻訳及び分泌に関する有用な情報を与えるものであり、そして、プロセシングにおける欠陥を発見することができる。
【0091】
分析すべき組織又は細胞型は一般的にリラキシン遺伝子を発現することが知られているか、それが疑われるもの、例えば卵巣を包含する。本明細書において使用されるタンパク質単離方法は例えば参照により全体が本明細書に組み込まれるHarlow and Lane (Harlow and Lane,1988,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY)に記載されているものであってよい。単離された細胞は細胞培養物又は患者から誘導することができる。培養物から採取した細胞の分析は細胞系の遺伝子療法の技術の部分として使用される、又は、あるいは、リラキシン遺伝子の発現に対する化合物の作用を試験するための、細胞試験における必要な工程であってよい。
【0092】
例えば、本発明において有用な抗体又は抗体のフラグメント、例えばセクション5.1.1において上記したものを用いてリラキシン遺伝子産物又はその保存された変異体又はペプチドフラグメントの存在を定量的又は定性的に検出するのに使用してよい。これは例えば、光学顕微鏡、フローサイトメトリー又は蛍光計検出と組み合わせた、蛍光標識された抗体(次のセクション参照)を使用する免疫蛍光法により行うことができる。
【0093】
本発明において有用な抗体(又はそのフラグメント)又はリラキシン融合又はコンジュゲートタンパク質は、更にリラキシン遺伝子産物又はその保存された変異体又はペプチドフラグメント又はリラキシン結合(標識リラキシン融合タンパク質の場合)のインサイチュの検出のために、免疫蛍光、免疫電子顕微鏡又は非免疫の試験の場合のように、組織学的に使用してよい。
【0094】
インサイチュの検出は患者から組織学的標本を採取すること、及び、それに本発明の標識抗体又は融合タンパク質を適用することにより行ってよい。抗体(又はフラグメント)又は融合タンパク質は好ましくは生物学的サンプルの上に標識された抗体(又はフラグメント)を重複させることにより適用する。このような方法を使用することにより、リラキシン遺伝子産物又はその保存された変異体又はペプチドフラグメントの存在又はラキシン結合のみならず、検査組織中のその分布を調べることが可能となる。本発明を用いれば、このようなインサイチュの検出を達成するために、種々の組織学的方法(例えば染色方法)のいずれかを改変することができることは、当業者は容易に想到するところである。
【0095】
リラキシン遺伝子産物又はその保存された変異体又はペプチドフラグメントに関するイムノアッセイ及び非イムノアッセイは典型的には、サンプル、例えば生物学的液体(例えば血清)、組織抽出液、新しく採取された細胞、又は、細胞培養物中でインキュベートされていた細胞の溶解物をリラキシン遺伝子産物又はその保存された変異体又はペプチドフラグメントを発見することができる検出可能に標識された抗体の存在下にインキュベートすること、及び、当該分野でよく知られた技術の多くのいずれかにより結合抗体を検出することを包含する。
【0096】
生物学的サンプルは細胞、細胞粒子又は可溶性タンパク質を固定化することができるニトロセルロース又は他の固体支持体のような固相の支持体又は担体に接触させてその上に固定化してよい。次に支持体を適当な緩衝液で洗浄し、その後、標識されたリラキシン抗体又は融合タンパク質で処理する。次に固相支持体を再度緩衝液で洗浄し、未結合の抗体又は融合タンパク質を除去する。次に固体支持体上の結合標識の量を従来の手段により検出してよい。
【0097】
「固相支持体又は担体」とは、抗原又は抗体に結合することができるいずれかの支持体を意図する。よく知られた支持体又は担体には、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然及び修飾されたセルロース、ポリアクリルアミド、斑レイ岩及び磁鉄鉱が包含される。担体の性質は本発明の目的のためには可溶性であるか、又はある程度不溶性であることができる。支持体材料は、結合した分子が抗原又は抗体に結合できる限り、実質的にはいかなる可能な構造的形状を有していてもよい。即ち、支持体の形状はビーズの場合のように球状、又は、試験管内面又はロッド外面のように円筒状であってよい。あるいは、表面はシート、試験片等のように平板であってよい。好ましい支持体はポリスチレンビーズを包含する。当業者であれば抗体又は抗原を結合するためのその他多数の適当な担体を知っており、あるいは、日常的実験により確認することができる。
【0098】
所定のロットのリラキシン抗体又は融合タンパク質の結合活性はよく知られた方法に従って測定してよい。当業者であれば、日常的実験を用いることにより各測定のための操作可能で最適な試験条件を決定できる。
【0099】
抗体に関しては、リラキシン抗体を検出可能に標識できる1つの方法は、これを酵素イムノアッセイ(EIA)において使用するための酵素に連結することによる(Voller, The Enzyme Linked Immunosorbent Assay(ELISA), 1978, Diagnostic Horizons 2:1−7,Microbiological Associates Quarterly Publication, Walkersville, Md);Voller et al.,1978, J.Clin.Pathol.31:507−520;Butler,1981,Meth.Enrymol.73:482−523;Maggio,E.(ed.),1980,Enzyme Immunoassay,CRC Press,Boca Raton,Fla.,Ishikawa,E.et al.,(eds.),1981,Enzyme Immunoassay,Kgaku,Shoin,Tokyo)。抗体に結合した酵素は、例えば分光光度的、蛍光定量的、又は、目視的手段により検出することができる化学部分を形成するような態様において、適切な基質、好ましくは発色性の基質と反応する。抗体を検出可能に標識するために使用できる酵素は、例えば、マレエートデヒドロゲナーゼ、スタフィロコッカスヌクレアーゼ、デルタ−5−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、アルファグリセロホスフェートデヒドロゲナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、セイヨウワサビパーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ及びアセチルコリンエステラーゼを包含する。検出は酵素に対する発色性基質を用いた熱量測定法により行うことができる。検出は又同様に調製された標準物質と対比させて基質の酵素反応の程度を目視により比較することにより行ってよい。
【0100】
検出は又、種々の他のイムノアッセイのいずれかを用いて行ってよい。例えば、抗体又は抗体フラグメントを放射標識することによりラジオイムノアッセイ(RIA)の使用を介してリラキシンを検出することが可能となる(例えば参照により全体が本明細書に組み込まれるWeintraub, B.,Principles of Radioimmunoassay, Seventh Training Course on Radioligand Assay Techniques, The Endocrine Society, March, 1986)。放射性同位体はガンマカウンター又はシンチレーションカウンターの使用のような手段により、又は、オートラジオグラフィーにより検出することができる。
【0101】
蛍光化合物で抗体を標識することも可能である。蛍光標識された抗体を適切な波長の光に曝露すれば、その存在を蛍光により検出できる。最も一般的に使用されている蛍光標識化合物に含まれるものは、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリスリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルアルデヒド及びフルオレスカミンである。
【0102】
抗体は又、152Eu又はランタニド系列の他のもののような蛍光発射金属を用いて検出可能に標識することもできる。これらの金属はジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)又はエチレンジアミン4酢酸(EDTA)のような金属キレート形成基を用いて抗体に結合できる。
【0103】
抗体は又それをケミルミネセント化合物とカップリングすることにより検出可能に標識することができる。次に化学反応の過程において生じるルミネセンスの存在を検出することによりケミルミネセントでタグ付けされた抗体の存在を検出する。特に有用なケミルミネセント標識化合物の例は、ルミノール、イソルミノール、セロマチックアクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩及びオキサレートエステルである。
【0104】
同様に、バイオルミネセント化合物は本発明の抗体を標識するために使用してよい。バイオルミネセント化合物は溶解タンパク質がケミルネセント反応の効率を増大させる生物学的な系において観察されるケミルミネセンスの種類である。バイオルミネセントタンパク質の存在はルミネセンスの存在を検出することにより測定される。標識目的のための重要なバイオルミネセント化合物はルシフェリン、ルシフェラー及びアイクオリンである。
【0105】
(胎仔の発育異常の治療、診断及び予防において有用な化合物のスクリーニング試験)
本発明は又、胎仔の発育をモジュレートする化合物を発見するためのスクリーニング法(例えば試験)を提供する。本発明は更にリラキシン及びリラキシンレセプターのアゴニスト及びアンタゴニスト、例えば、低分子、大分子及び抗体並びにリラキシン遺伝子発現を抑制するために使用できるヌクレオチド配列(例えばアンチセンス及びリボザイム分子)及びリラキシン遺伝子発現を増強するために設計された調節配列置き換えコンストラクト(例えば強力なプロモーター系の制御下にリラキシン遺伝子を位置づける発現コンストラクト)を包含する。このような化合物は胎仔の発育をモジュレートするために使用できる。
【0106】
特に、リラキシンおよびリラキシンレセプターと相互作用する、例えばリラキシン及びリラキシンレセプターの活性をモジュレートする、及び/又は、リラキシンレセプターに結合する化合物を発見するために使用することができる細胞及び非細胞の試験が記載されている。細胞系の試験は、リラキシンレセプターに結合するか、又は、リラキシンのシグナル伝達経路に関与する細胞内因子に対して作用するかのいずれかに関わらず、リラキシンおよびリラキシンレセプターのシグナル伝達活性に影響する化合物又は組成物を発見するために使用することができる。本発明のこのような細胞系の試験はリラキシン又はリラキシンレセプターを発現する細胞、細胞系統又は操作された細胞又は細胞系統を利用している。リラキシン及びリラキシンレセプターのシグナリング活性をモジュレートする化合物の発見において役立つ活性化されたリラキシンレセプターにより伝達されたシグナルに連結したレポーター分子を取り込むように細胞を更に操作することができる。
【0107】
本発明はまた、リラキシン遺伝子発現をモジュレートする化合物又は組成物をスクリーニングするための細胞系試験又は細胞溶解物試験(例えばインビトロ転写又は翻訳試験)の使用を包含する。この目的のためには、転写レベルにおけるレポーター遺伝子産物の発現をモジュレートする化合物をスクリーニングするために、操作された細胞において、又は、細胞溶解抽出液中において、リラキシン遺伝子の調節エレメントに連結したレポーター配列を含有するコンストラクトを使用することができる。例えば、このような試験はリラキシン遺伝子発現に関与する転写因子の発現又は活性をモジュレートする化合物を発見するため又は、3重螺旋ポリヌクレオチドの活性を試験するために使用できる。あるいは、リラキシンmRNA転写産物をモジュレートし、それゆえ、リラキシン遺伝子の発現に影響するような化合物(アンチセンス及びリボザイムコンストラクトを包含する)をスクリーニングするために操作された細胞又は翻訳抽出液を使用できる。
【0108】
以下の試験はリラキシンまたはリラキシンレセプターと相互作用する(例えば結合する)化合物、リラキシンまたはリラキシンレセプターと相互作用する細胞内タンパク質と相互作用する(例えば結合する)化合物、リラキシンレセプター媒介シグナル伝達に関与する膜貫通又は細胞内タンパク質とのリラキシンまたはリラキシンレセプターの相互作用を妨害する化合物、及び、リラキシン遺伝子発現の活性をモジュレートするか、又は、リラキシンまたはリラキシンレセプターのレベルをモジュレートする化合物を発見するために設計される。リラキシン遺伝子調節配列(例えばプロモーター配列)に結合し、そして、リラキシン遺伝子発現をモジュレートする可能性がある化合物を発見する試験も更に利用してよい。例えばPlatt, 1994, J.Biol.Chem.269:28558−28562を参照できる。発見後、化合物は更に、インビトロ又はインビボでリラキシンシグナリングをモジュレートする能力について試験することができ、そして、又更に、胎仔の発育をモジュレートおよび、在胎齢と比して小型又は大型である胎仔を特徴とする胎仔の発育異常を治療する能力について試験することができる。
【0109】
即ち、本発明のこの態様によれば、以下の工程:
(a)リラキシンに被験化合物を接触させること;および、
(b)被験化合物がリラキシンに結合すれば胎仔の発育をモジュレートする能力について試験すべき化合物が発見されるため、被験化合物がリラキシンに結合するかどうかを調べること;
を含む、妊娠哺乳動物における胎仔の発育をモジュレート(増大又は低減)する能力について試験すべき化合物を発見するための方法である。
【0110】
あるいは、以下の工程:
(a)リラキシンに被験化合物を接触させること;
(b)リラキシンに結合する被験化合物を発見すること;および、
(c)(b)の被験化合物を妊娠非ヒト哺乳動物に投与すること、及び、被験化合物が胎仔の発育をモジュレートすれば、妊娠哺乳動物において胎仔の発育をモジュレートする化合物が発見されるため、被験化合物が哺乳動物における胎仔の発育を未投与の対照妊娠非ヒト動物における胎仔の発育と相対比較してモジュレートしているかどうかを調べること、
を含む、妊娠哺乳動物における胎仔の発育をモジュレート(増大又は低減)する化合物を発見するための方法である。
【0111】
これによれば、そして、本発明の他の態様によれば、対照妊娠非ヒト哺乳動物とは、本明細書においては、被験化合物を投与されていない相当する妊娠哺乳動物を意味するものとする。
【0112】
本発明の更に別の態様によれば、以下の工程:
(a)リラキシン/リラキシンレセプター複合体を形成するために十分な時間、リラキシンポリペプチド及び機能的リラキシンレセプター発現する細胞に被験化合物を接触させること;及び、
(b)測定されたリラキシン/リラキシンレセプター複合体のレベルが被験化合物非存在下に測定されたものと異なれば胎仔の発育をモジュレートする能力について試験すべき化合物が発見されるため、そのレベルを測定すること、
を含む、妊娠哺乳動物における胎仔の発育をモジュレート(増大又は低減)する能力について試験すべき化合物を発見するための方法である。
【0113】
これによれば、そして、本発明の他の態様によれば、リラキシン/リラキシンレセプター複合体の形成は、例えば、細胞を洗浄すること、及び、当該分野でよく知られた種々の試験法により複合体形成量を調べることにより測定することができる。
【0114】
本発明の他の態様によれば、以下の工程:
(a)機能的リラキシンレセプターを発現する細胞に被験化合物を接触させること;および、
(b)被験化合物がリラキシンレセプターを活性化させるかどうか調べること、ここで、化合物がリラキシンレセプターを活性化すれば妊娠哺乳動物において胎仔の発育を増大させる能力について試験すべき化合物が発見されること、
を含む、妊娠哺乳動物における胎仔の発育を増大させる能力について試験すべき化合物を発見するための方法である。
【0115】
これによれば、そして、本発明の他の態様によれば、機能的リラキシンレセプターはレセプターの活性部位へのリガンドの結合の後にシグナル伝達することができるリラキシンレセプターである。リラキシンレセプターの活性化とは、本明細書においては、リラキシンレセプターの活性(即ちシグナル伝達)のいずれかの増大である。
【0116】
本発明の別の態様によれば、以下の工程:
(a)機能的リラキシンレセプターを発現する細胞に被験化合物を接触させること、及び、被験化合物がリラキシンレセプターを活性化させるかどうか調べること;
(b)リラキシンレセプターを活性化するものとして(a)で発見された被験化合物を妊娠非ヒト動物に投与すること、及び、被験化合物が胎仔の発育を増大させれば哺乳動物における胎仔の発育を増大させる化合物が発見されるため、相当する対照妊娠非ヒト動物と相対比較して被験化合物が動物の胎仔の発育を増大させるかどうかを調べること;
を含む、妊娠哺乳動物における胎仔の発育を増大させる化合物を発見するための方法である。
【0117】
本発明の別の態様によれば、以下の工程:
(a)リラキシンポリペプチド及び被験化合物を機能的リラキシンレセプターを発現する細胞に接触させること;および、
(b)被被験化合物がリラキシンレセプターの活性化を、被験化合物の非存在下で観察されるものと相対比較して低下させるかどうかを調べること、ここで、リラキシンレセプターの活性化を低下させる被験化合物は妊娠哺乳動物において胎仔の発育を低減する能力について試験すべき化合物として発見されること;
を含む、妊娠哺乳動物における胎仔の発育を低減する能力について試験すべき化合物を発見するための方法である。
【0118】
本発明の別の態様によれば、以下の工程:
(a)リラキシンポリペプチド及び被験化合物を機能的リラキシンレセプターを発現する細胞に接触させること、及び、被験化合物がリラキシンレセプターの活性化を低下させるかどうか調べること;
(b)リラキシンレセプターの活性化を低下させるものとして(a)で発見された被験化合物を妊娠非ヒト動物に投与すること、及び、被験化合物が胎仔の発育を低減させれば妊娠哺乳動物における胎仔の発育を低減させる化合物が発見されるため、相当する対照妊娠非ヒト動物と相対比較して被験化合物が動物の胎仔の発育を低減させるかどうかを調べること;
を含む、妊娠哺乳動物における胎仔の発育を低減する化合物を発見するための方法である。
【0119】
本発明の更に別の態様によれば、高分子質量のタンパク質のホスホリル化のレベルを測定することによりリラキシンレセプターの活性化を調べる方法である。このタンパク質は、リラキシンレセプター又はリラキシンシグナリングに関与する別のタンパク質であってよく、リラキシンの存在下で子宮線維芽細胞中でホスホリル化される(Palejwala et al.,1998,Endocrinol.139:1208−1212)。
【0120】
本発明によりスクリーニングしてよい化合物は例えば、リラキシン及び/又はリラキシンレセプターに結合し、そして、天然リガンドによりトリガーされる活性を模倣する(即ちアゴニスト)か、又は、天然リガンドによりトリガーされる活性を抑制する(即ちアンタゴニスト)化のいずれかであるペプチド、抗体及びそのフラグメント及び他の有機化合物(例えばペプチド模倣物);並びに、リラキシンレセプターのリガンド結合ドメイン(又はその部分)を模倣し、そして天然のリガンドに結合して「中和する」ペプチド、抗体又はそのフラグメント及びその他の有機化合物を包含する。
【0121】
このような化合物は、例えばタンパク質、例えば可溶性ペプチド、例えばランダムペプチドライブラリ(例えばLam et al.,1991,Nature 354:82−84;Houghten et al.,1991,Nature 354:84−86)及びD及び/又はL配置のアミノ酸から作成されたコンビナトリアル化学誘導分子ライブラリのメンバー、ホスホペプチド(例えばランダム又は部分変性の指向型ホスホペプチドライブラリのメンバー;例えばSongyang et al.,1993,Cell 72:767−778)、抗体(例えばポリクローナル、モノクローナル、ヒト、ヒト化、抗イディオタイプ、キメラ又は1本鎖抗体、および、Fab、F(ab’)およびFab発現ライブラリフラグメント、及びそのエピトープ結合フラグメント)及び小型の有機又は無機分子を包含する。
【0122】
本発明によりスクリーニングできる他の化合物は、例えば、適切な細胞内に進入し、リラキシンまたはリラキシンレセプター又はリラキシンレセプターシグナル伝達経路に関与(例えば遺伝子発現に関与する調節領域又は転写因子と相互作用することによる)する何らかの他の遺伝子の発現に影響することができる小型の有機分子;又は、リラキシンレセプターの活性(例えばシグナリングドメインの活性を抑制又は増強することによる)又はリラキシンレセプターシグナル伝達経路に関与する何らかの他の細胞内因子の活性に影響するこのような化合物を包含する。
【0123】
コンピューターモデリング及び検索技術により、リラキシン又はリラキシンレセプターの発現又は活性をモジュレートできる化合物の発見、又は、既に発見された化合物の改良が可能となる。このような化合物又は組成物が発見された後、活性部位又は領域を発見する。このような活性部位は典型的にはリガンド結合部位、例えばリラキシンレセプターそのものとのリラキシンの相互作用ドメインである。活性部位は当該分野で知られた方法を用いて、例えばペプチドのアミノ酸配列から、核酸のヌクレオチド配列から、又は該当する化合物又は組成物のその天然のリガンドとの複合体の研究から、発見することができる。後者の場合においては、化学的又はX線結晶学的方法を用いて、因子上のどこに複合体化リガンドが存在しているかを発見することにより活性部位を発見することができる。次に活性部位の3次元の幾何学的構造を調べる。これは知られた方法、例えば完全な分子構造を調べることができるX線結晶学的分析を包含する。一方、固相又は液相のNMRを用いて特定の分子内距離を調べることができる。構造決定のためのいずれかの他の実験方法を用いて部分的又は完全な幾何学的構造を得ることができる。幾何学的構造は決定した活性部位構造の正確さを増大させる天然又は人工の複合体化リガンドを用いて測定してよい。
【0124】
不完全又は不十分な正確さの構造が決定された場合は、コンピューター系の数的モデリングを用いて構造を完成させるか、その正確さを向上させることができる。いずれかの認知されたモデリング方法、例えば特定のバイオポリマー、例えばタンパク質又は核酸に特異的なパラメーター化されたモデル、分子の運動を計算することに基づいた分子力学モデル、熱アンサンブルに基づいた統計力学モデル、又は複合モデルを用いてよい。大部分の型のモデルについて、構成原子と基の間の力を示す標準分子力場が必要であり、そして物理化学において知られている力場から選択することができる。不完全、又は、正確度が低い実験的構造は、これらのモデリング方法により計算される完全でより正確な構造への拘束力として機能することができる。
【0125】
最後に、実験的、モデリング、又は組み合わせのいずれかにより活性部位の構造が決定されれば、候補モジュレーティング化合物は、化合物をその分子構造に関する情報とともに含んでいるデータベースを検索することにより、発見することができる。このような検索は決定された活性部位の構造と合致し、そして、活性部位を定義する基と相互作用する構造を有する化合物を探索するものである。このような検索は手作業で行うことができるが、好ましくはコンピューター支援による。この検索から得られたこれらの化合物は潜在的なリラキシン又はリラキシンレセプターモジュレーテイング化合物である。
【0126】
あるいは、これらの方法を用いて既に知られているモジュレーティング化合物又はリガンドから進歩したモジュレーティング化合物を発見することができる。知られた化合物の組成物を修飾し、修飾の構造的作用を新しい組成物に適用させた実験的及び上記したコンピューターモデリング方法を用いて調べることができる。次に改変された構造を化合物の活性部位の構造と比較することにより、向上したフィット又は相互作用がもたらされるかどうかを調べる。この方法において、側鎖基を変えること等による組成物の系統的な変動を迅速に評価することにより、向上した特異性又は活性の修飾されたモジュレーティング化合物又はリガンドを得ることができる。
【0127】
リラキシン、リラキシンレセプター及び関連する伝達及び転写因子の活性部位の発見に基づいてモジュレーティング化合物を発見するために有用なその他の実験及びコンピューターモデリング方法は当業者のよく知るとおりである。
【0128】
分子モデリング系の例はCHARMmおよびQUANTAプログラム(Polygon Corporation,Waltham,Mass)である。CHARMmはエネルギーの最小限化及び分子力学関数を実行する。QUANTAは分子構造の構築、画像モデリング及び分析を実行する。QUANTAはインタラクティブな分子挙動の相互の間の構築、修飾、可視化及び分析を可能にする。
【0129】
多くの文献が特異的タンパク質と相互作用する薬剤のコンピューターモデリングを研究しており、例えばRotivinen et al.,1988, Acta Pharmaceutical Fennica 97:159−166;Ripka,New Scientist 54−57(Jun.16,1988);McKinaly and Rossmann, 1989, Annu.Rev.Pharmacol. Toxiciol.,29:111−122;Perry and Davies, OSAR;Quantitative Structure Activity Relationships in Drug Design, pp.189−193(Alan R.Liss,Inc.1989);Lewis and Dean,1989 Proc.R.Soc.Lond.236:125−140 and 141−162;及び、核酸成分に対するモデルレセプターに関してはAskew et al.,1989,J.Am.Chem.Soc.111:1082−1090が挙げられる。化学物質をスクリーニングし、画像的に示している他のコンピュータープログラムはBioDesign,Inc.(Pasadena,Calif), Allelix, Inc.(Mississauga,Ontario,Canada)及びHypercube,Inc.(Cambridge,Ontario)等より入手できる。これらは主に特定のタンパク質に特異的な薬剤に適用するように設計されているが、DNA又はRNAの領域が発見されればそのような領域に特異的な薬剤の設計に適合させることができる。
【0130】
結合を改変する化合物の設計及び形成に言及しながら上述したが、抑制剤又は活性化剤である化合物を求めて、既知化合物、例えば天然産物又は合成の化学物質及び生物学的に活性な物質、例えばタンパク質のライブラリをスクリーニングすることもできる。
【0131】
本明細書に記載したような試験を介して発見された化合物は、例えばリラキシン又はリラキシンレセプター遺伝子産物の生物学的機能の精巧化において、及び、胎仔の発育をモジュレートするために、有用である場合がある。例えばセクション5.3.1〜5.3.3に記載のもののような技術により発見された化合物の有効性を調べるための試験法は、セクション5.3.4において後述する。
【0132】
(リラキシン及びリラキシンレセプターに結合する化合物のインビトロスクリーニング試験)
インビトロ系はリラキシン及びリラキシンレセプターと相互作用する(例えば結合する)ことのできる化合物を発見するために設計してよい(例えばリラキシンレセプターの細胞外ドメイン又は細胞質ドメイン)。発見された化合物は、例えば、野生型及び/又は突然変異体のリラキシンまたはリラキシンレセプター遺伝子産物をモジュレートする場合に有用であってよく;リラキシン又はリラキシンレセプターの生物学的機能を精巧化する場合に有用であってよく;正常なリラキシン及びリラキシンレセプターの相互作用を混乱させる化合物を発見するためのスクリーニングにおいて利用してよく;又は、それ自体そのような相互作用を混乱させてよい。
【0133】
リラキシンまたはリラキシンレセプターに結合する化合物を発見するために使用される試験の原理は、リラキシンまたはリラキシンレセプター及び被験化合物の反応混合物を2成分が相互作用して結合するために十分な条件と時間において調製することにより反応混合物中で検出され得る複合体を形成することを包含する。スクリーニング試験は種々の方法で実施できる。例えば、そのような試験を実施する1つの方法は、リラキシンまたはリラキシンレセプター、ポリペプチド、ペプチド又は融合タンパク質又は被験物質を固相にアンカリングすること、及び、反応終了時に固相上にアンカリングされているリラキシンまたはリラキシンレセプター/被験化合物複合体を検出することを包含する。そのような方法の1つの実施形態において、リラキシンまたはリラキシンレセプターの反応体は、個体表面上にアンカリングしてよく、そして、アンカリングしない被験化合物は直接又は間接的に標識してよい。
【0134】
実際にはマイクロタイタープレートを固相として好都合に使用してよい。アンカリングされた成分は非共有結合又は共有結合により固定化してよい。非共有結合はタンパク質の溶液で固体表面を単にコーティングすること、及び、乾燥することにより達成してよい。あるいは、固定化抗体、好ましくは固定化すべきタンパク質に特異的なモノクローナル抗体を使用してタンパク質を固体表面にアンカリングしてよい。表面は予め調製して保存しておいてよい。
【0135】
試験を実施するためには、非固定化成分をアンカリングされた成分を含有するコーティングされた表面に添加する。反応が終了した後、形成された複合体は全て固体表面上に固定化されて残存するような条件下で未反応の成分を除去(例えば洗浄による)する。固体表面上にアンカリングされた複合体の検出は多くの方法で行うことができる。以前に非固定であった成分が予め標識されていれば、表面上に固定化された標識の検出が複合体の形成を示す。以前に非固定であった成分が予め標識されていなければ、間接的な標識を使用することにより表面上にアンカリングされた複合体を検出することができ;例えば以前に非固定であった成分に特異的な標識された抗体を使用する(ここで抗体を次に直接又は間接的に標識化された抗Ig抗体で標識してもよい)。
【0136】
あるいは、反応を液相で行い、反応産物を未反応成分から分離し、そして複合体を検出することができ;例えば、リラキシンまたはリラキシンレセプタータンパク質、ポリペプチド、ペプチド又は融合タンパク質に特異的な固定化された抗体、又は溶液中に形成されるいずれかの複合体をアンカリングするための被験化合物、及び、アンカリングされた複合体を検出するための可能な複合体の他の成分に特異的な標識された抗体を用いる。
【0137】
あるいは、リラキシンまたはリラキシンレセプターと相互作用する化合物を発見するために細胞系の試験を用いることができる。この目的のためにはリラキシンまたはリラキシンレセプターを発現する細胞系統、又はリラキシンまたはリラキシンレセプターを発現するように遺伝子操作(例えばリラキシンまたはリラキシンレセプターDNAのトランスフェクション又は形質導入)されている細胞系統(例えばCOS細胞、CHO細胞、線維芽細胞等)を使用できる。被験化合物と例えば宿主細胞により発現されたリラキシンレセプターの間の相互作用はネイティブのリラキシンとの比較又は競合により調べることができる。
【0138】
(リラキシン及びリラキシンレセプターと相互作用する細胞内タンパク質のアッセイ)
リラキシンまたはリラキシンレセプターと相互作用する膜貫通タンパク質または細胞内タンパク質を同定するために、タンパク質−タンパク質相互作用を検出するために適するいずれかの方法を使用してよい。使用してよい伝統的な方法としては、細胞溶解物又は細胞溶解物から得られたタンパク質及びリラキシンまたはリラキシンレセプターの同時免疫沈降、交差結合ならびに勾配又はクロマトグラフィーカラムによる同時精製によって、リラキシンまたはリラキシンレセプターと相互作用する溶解物中のタンパク質を同定することを包含する。これらのアッセイのためには、使用するリラキシンまたはリラキシンレセプターの成分は完全長であってもよく、膜アンカリング領域を欠いた可溶性の誘導体(例えば膜貫通セグメントが欠失することにより細胞質ドメインに融合した細胞外ドメインを含有するトランケーションされた分子が生じている、トランケーションされたリラキシンレセプター)、細胞質ドメインに相当するペプチド、あるいは、リラキシン又はリラキシンレセプターの細胞質ドメインを含有する融合タンパク質であってもよい。単離した後、このような細胞内タンパク質を同定し、次にこれを標準的技術と共に使用することによりそれが相互作用するタンパク質を同定することができる。例えばリラキシンまたはリラキシンレセプターと相互作用する細胞内タンパク質のアミノ酸配列の少なくとも部分をエドマン分解技術のような当該分野で周知の技術を用いて確認することができる。例えばCreigton,1983,Proteins:Structures and Molecular Principles,W.H.Freeman and Co.,N.Y.,pp.34−49を参照できる。得られたアミノ酸配列はそのような細胞内タンパク質をコードする遺伝子配列についてのスクリーニングにおいて使用できるオリゴヌクレオチド混合物の作製のための指針として使用してよい。スクリーニングは例えば標準的なハイブリダイゼーション又はPCRの技術により行ってよい。オリゴヌクレオチド混合物の作製およびスクリーニングのための技術は当該分野で周知である。例えばAusubel,前出及びPCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,1990,Innis,M.ら,編,Academic Press,Inc.,New Yorkを参照できる。
【0139】
更に、リラキシンレセプター又はリラキシンと相互作用する膜貫通又は細胞内タンパク質をコードする遺伝子の同時同定を可能にする方法も使用してよい。これらの方法は例えば、標識されたリラキシンもしくはリラキシンレセプターのタンパク質、またはリラキシンもしくはリラキシンレセプターのポリペプチド、ペプチド、あるいは融合タンパク質(例えばマーカー(例えば酵素、蛍光、化学発光タンパク質又は染料)又はIg−Fcドメインに融合した、リラキシンもしくはリラキシンレセプターのポリペプチド又はリラキシンもしくはリラキシンレセプターのドメイン)を用いたλgt11ライブラリの抗体プロービングの周知の技術と同様の様式において発現ライブラリをプロービングすることを包含する。
【0140】
インビボのタンパク質相互作用を検出する1つの方法であるツーハイブリッド系を、例示のみのために(しかし限定のためではなく)詳細に説明する。この系の1つの型が報告されており(Chienら,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:9578−9582)、そして、Clontech(Palo Alto,Calif.)から市販されている。
【0141】
慨すれば、このような系を用いて、2つのハイブリッドタンパク質をコードするプラスミド(即ち一方のプラスミドはリラキシンまたはリラキシンレセプターをコードするリラキシンまたはリラキシンレセプターのヌクレオチド配列に融合した転写活性化タンパク質のDNA結合ドメイン、リラキシンまたはリラキシンレセプターのポリペプチド、ペプチド又は融合タンパク質をコードする、ヌクレオチドより成り、そして他方のプラスミドはcDNAライブラリの部分としてこのプラスミド内に組換えられている未知のタンパク質をコードするcDNAに融合した転写アクチベータータンパク質の活性化ドメインをコードするヌクレオチドよりなるもの)を構築する。DNA結合ドメイン融合プラスミド及びcDNAライブラリを、転写アクチベーターの結合部位を自身の調節領域が含有しているレポーター遺伝子(例えばHBS又はlacZ)を含有する酵母Saccharomyces cerevisiaeの菌株内に形質転換する。何れのハイブリッドタンパク質も単独ではレポーター遺伝子の転写を活性化することが不可能であり;DNA結合ドメインハイブリッドはそれが活性化機能を与えないために不可能であり、そして活性化ドメインハイブリッドはそれがアクチベーターの結合部位に局在できないために不可能である。2つのハイブリッドタンパク質の相互作用により機能的アクチベータータンパク質が再構築され、そしてレポーター遺伝子産物に関するアッセイにより検出されるレポーター遺伝子の発現をもたらす。
【0142】
ツーハイブリッド系又は関連の方法を用いて「ベイト」遺伝子産物と相互作用するタンパク質について、活性化ドメインライブラリをスクリーニングしてよい。例示すれば、リラキシンまたはリラキシンレセプターをベイト遺伝子産物として使用してよいが、これに限定されない。活性化ドメインをコードするDNAに全ゲノム又はcDNA配列を融合させる。このライブラリとDNA結合ドメインに融合したベイトのリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子産物とのハイブリッドをコードするプラスミドを酵母のレポーター菌株内に同時形質転換し、そして得られた形質転換体をレポーター遺伝子を発現する形質転換体についてスクリーニングする。例えばベイトのリラキシンまたはリラキシンレセプターのレポーター遺伝子配列(例えばリラキシンまたはリラキシンレセプター(又はリラキシンレセプターのドメイン)のオープンリーディングフレーム)を、GAL4タンパク質のDNA結合ドメインをコードするDNAに翻訳的に融合したベクター内にクローニングすることができる。これらのコロニーを精製し、レポーター遺伝子発現に関与するライブラリプラスミドを単離する。次にDNA配列を用いてライブラリプラスミドによりコードされたタンパク質を同定する。
【0143】
ベイトのリラキシンまたはリラキシンレセプターのレポーター遺伝子産物と相互作用するタンパク質を検出する対象となる細胞系統のcDNAライブラリは当該分野で日常的に実施されている方法を用いて行うことができる。本明細書に記載した特定の系によれば、例えば、cDNAフラグメントを、それらがGAL4の転写活性化ドメインに翻訳的に融合するようにベクター内に挿入することができる。このライブラリを、ベイトのリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子−GAL4融合タンパク質プラスミドと共に、GAL4活性化配列を含有するプロモーターにより駆動されるlacZ遺伝子を含有する酵母菌株内に同時形質転換することができる。ベイトのリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子産物と相互作用するGAL4転写活性化ドメインに融合したcDNAコードタンパク質は活性GAL4タンパク質を再構築し、これによりHIS3遺伝子の発現を駆動する。HIS3を発現するコロニーは、ヒスチジン欠損半固体寒天基本培地の入ったペトリ皿上のその発育により検出できる。次にcDNAをこれらの菌株から精製し、当該分野で日常的に実施されている技術を用いてベイトのリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子相互作用タンパク質を作製して単離するために使用する。
【0144】
(リラキシン及びリラキシンレセプター/細胞内巨大分子又はリラキシンレセプター/膜貫通巨大分子の相互作用を妨害する化合物のアッセイ)
リラキシンまたはリラキシンレセプターと相互作用する巨大分子は本考察の目的のためには「結合相手」と称する。これらの結合相手はリラキシンレセプターのシグナル伝達経路に、つまりは、胎仔の発育の調節におけるリラキシンまたはリラキシンレセプターの役割に関与していると考えられる。従って、リラキシンレセプターの活性を調節する場合に有用であり得るリラキシンと結合相手との相互作用を妨害するか分裂させる化合物を同定し、これによりリラキシンレセプター活性に関わる胎仔の発育を制御することが望まれる。
【0145】
リラキシンまたはリラキシンレセプターとその結合相手との間の相互作用を妨害する化合物を同定するために使用されるアッセイ系の基本的原理は、上記したリラキシンまたはリラキシンレセプターのタンパク質、ポリペプチド、ペプチド又は融合タンパク質と結合相手とを含有する反応混合物を、二者が相互作用して結合し、複合体を形成するのに十分な条件と時間において調製することを包含する。化合物の阻害活性をアッセイするために、反応混合物を被験化合物の存在下及び非存在下において調製する。被験化合物は最初から反応混合物に含ませておくか、又は、リラキシンまたはリラキシンレセプター部分及びその結合相手の添加の後に一度に添加してよい。コントロールの反応混合物は被験化合物非存在下、又はプラセボと共にインキュベートする。次にリラキシンまたはリラキシンレセプター部分と結合相手との間の複合体の形成を検出する。コントロール反応において複合体が形成したが被験化合物を含有する反応混合物では形成されなかったことは、この化合物がリラキシンまたはリラキシンレセプターと相互作用結合相手との相互作用を妨害することを示している。更に又、被験化合物及び正常なリラキシンまたはリラキシンレセプターのタンパク質を含有する反応混合物内での複合体の形成を、被験化合物及び突然変異体のリラキシンまたはリラキシンレセプターを含有する反応混合物内での複合体の形成と比較してもよい。この比較は、突然変異体の相互作用は分裂させるが正常なリラキシンまたはリラキシンレセプターに対してはそうではない化合物を同定することが望ましい場合に重要となり得る。
【0146】
リラキシンまたはリラキシンレセプターと結合相手の相互作用を妨害する化合物についてのアッセイは不均質又は均質なフォーマットにおいて実施することができる。不均質なアッセイにおいては、固相上にリラキシンまたはリラキシンレセプター部分の産物又は結合相手をアンカリングすること、及び、反応終了時に固相上にアンカリングされた複合体を検出することを包含する。均質なアッセイにおいては、全反応を液相において実施する。何れの方法においても、反応体の添加の順序を変更することによりアッセイすべき化合物に関する種々の情報を得ることができる。例えば競合により相互作用を妨害する被験化合物は、反応を被験物質の存在下において実施することにより(即ち、リラキシンまたはリラキシンレセプター部分及び相互作用結合相手よりも前かそれらと同時に反応混合物に被験物質を添加することにより)同定することができる。あるいは、既に形成された複合体を分裂させる被験化合物(例えば複合体からの成分の1つを脱離させるような、より高値の結合定数を有する化合物)は、複合体が形成された後に反応混合物に被験化合物を添加することによりアッセイすることができる。種々のフォーマットを以下に概説する。
【0147】
非均質なアッセイ系においては、リラキシンまたはリラキシンレセプター部分又は相互作用結合相手のいずれかを固体表面上にアンカリングし、非アンカリング物質種を直接又は間接的に標識する。実際にはマイクロタイタープレートを好都合に利用する。アンカリングされた物質種は非共有結合又は共有結合により固定化してよい。非共有結合は、単にリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子産物又は結合相手の溶液で固体表面をコーティングして乾燥することにより行ってよい。あるいは、アンカリングすべき物質種に特異的な固定化された抗体を使用して固体表面にこの物質種をアンカリングしてよい。表面は予め調製して保存しておいてよい。
【0148】
アッセイを実施するためには、固定化された物質種の相手を、被験化合物の存在下又は非存在下にコーティングされた表面に曝露する。反応終了後、未反応の成分を除去(例えば洗浄による)し、そして形成した複合体を固体表面上に固定化させたままとする。固体表面上にアンカリングされた複合体の検出は多くの方法で行うことができる。非固定であった物質種が予め標識されていれば、表面上に固定化された標識の検出が複合体の形成を示す。非固定であった物質種が予め標識されていなければ、間接的な標識を使用することにより表面上にアンカリングされた複合体を検出することができる。例えば、当初に非固定であった物質種に特異的な標識された抗体を使用してよい(ここで次に、抗体を標識された抗Ig抗体で直接又は間接的に標識してもよい)。反応成分の添加の順序に応じて、複合体形成を阻害するか、又は、既に形成された複合体を分裂させる被験化合物を検出できる。
【0149】
あるいは、反応は被験物質の存在下又は非存在下に液相で行うこともでき、反応産物を未反応成分から分離し、そして複合体は、例えば、溶液中に形成されたいずれかの複合体をアンカリングするための結合成分の1つに対して特異的な固定化抗体、及び、アンカリングされた複合体を検出するための他の相手に対して特異的な標識された抗体を用いて検出する。ここでも又、液相への反応体の添加の順序に応じて、複合体を阻害するか、又は既に形成された複合体を分裂させる被験化合物を同定することができる。
【0150】
本発明の別の実施形態においては、均質なアッセイを使用することができる。この方法においては、リラキシンまたはリラキシンレセプター部分と相互作用結合相手の既に形成された複合体を、リラキシンまたはリラキシンレセプター又はその結合相手のいずれかが標識されているが、標識により生成されるシグナルは複合体の形成に起因してクエンチングされるように調製する(例えばイムノアッセイのためにこの方法を利用しているRubensteinの米国特許4,109,496)。既に形成された複合体の物質種1つと競合してこれを排除する被験化合物の添加により、バックグラウンドより高値となるシグナルが発生する。このようにして、リラキシンまたはリラキシンレセプター/細胞内結合相手の相互作用を分裂させる被験物質を同定できる。
【0151】
特定の実施形態においては、リラキシンまたはリラキシンレセプター融合物を固定化のために調製できる。例えばリラキシンまたはリラキシンレセプター又は例えばリラキシンレセプター細胞質ドメインに相当するペプチドフラグメントを、融合ベクター(例えばpGEX−5X−1)を用いて、その結合活性が形成後の融合タンパク質において維持されているように、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)遺伝子に融合することができる。相互作用結合相手は当該分野において日常的に実施されている方法を用いて精製することができ、そしてモノクローナル抗体を形成するために使用することができる。この抗体は当該分野において日常的に実施されている方法を用いて、例えば放射性同位体125Iで標識できる。不均質なアッセイにおいては、例えばGST−リラキシンレセプター融合タンパク質をグルタチオン−アガロースビーズにアンカリングすることができる。その後、相互作用結合相手を、相互作用及び結合が起こり得るような様式において被験化合物の存在下又は非存在下に添加することができる。反応時間終了時において、未結合の物質を洗浄除去し、そして標識されたモノクローナル抗体を系に添加して、複合体化した成分に結合させることができる。リラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子産物と相互作用結合相手との間の相互作用は、グルタチオン−アガロースビーズと会合して残存している放射能の量を測定することにより検出できる。被験化合物による相互作用の良好な阻害は、測定された放射能の低減をもたらすことになる。
【0152】
あるいは、GST−リラキシン/リラキシンレセプターの融合タンパク質及び相互作用結合相手を固体グルタチオン−アガロースビーズの非存在下、液体中で混合することができる。被験化合物は物質種が相互作用を起こしている間、又はその後のいずれかに添加することができる。次にこの混合物をグルタチオン−アガロースビーズに添加することができ、そして、未結合の物質を洗浄除去する。ここでも又、標識抗体を添加し、そしてビーズに会合した放射能を測定することによりリラキシンまたはリラキシンレセプター/結合相手の相互作用の阻害の程度を検出できる。
【0153】
本発明の別の実施形態においては、一方又は両方の完全長のタンパク質の代わりに、リラキシンまたはリラキシンレセプター及び/又は相互作用又は結合相手(結合相手がタンパク質である場合)の結合ドメインに相当するペプチドフラグメントを用いながら、同様の技術を使用することができる。当該分野において日常的に実施されているかなり多数の方法を用いて結合部位を同定し、単離することができる。これらの方法としては、タンパク質の1つをコードする遺伝子の突然変異誘発、及び、同時免疫沈降アッセイにおける結合の分裂に関するスクリーニングが挙げられるが、これらに限定されない。次に複合体中の第2の物質種をコードする遺伝子における補償型の突然変異を選択する。それぞれのタンパク質をコードする遺伝子の配列分析により、相互作用結合に関与するタンパク質の領域に相当する突然変異が明らかになる。あるいは、1つのタンパク質を上記方法により固体表面にアンカリングさせ、トリプシンのようなタンパク質分解酵素で処理されているその標識結合相手と相互作用させて結合させることができる。洗浄後、結合ドメインを含む短い標識されたペプチドは固体物質に会合して残存し得、これを単離してアミノ酸配列決定により同定することができる。又、細胞内結合相手についてコーディングしている遺伝子が得られた後、短い遺伝子セグメントを操作してタンパク質のペプチドフラグメントを発現できるようにし、次にその結合活性を試験し、精製または合成することができる。
【0154】
例えば、限定しないが、リラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子産物は、GST−リラキシン又はGST−リラキシンレセプターの融合タンパク質を作製し、そしてこれをグルタチオンアガロースビーズに結合させることにより、上記した固体物質にアンカリングすることができる。相互作用結合相手を放射性同位体(例えば35S)で標識し、トリプシンのようなタンパク質分解酵素で切断することができる。次に切断産物をアンカリングされたGST−リラキシン又はGST−リラキシンレセプターの融合タンパク質に添加し、結合させることができる。未結合のペプチドを洗浄除去した後、細胞内結合相手結合ドメインを示す標識した結合物質を溶出し、精製し、そして周知の方法によりアミノ酸配列を分析することができる。このようにして同定されたペプチドは、合成で製造するか、又は、組換えDNA技術を用いて適切な促進用タンパク質に融合することができる。
【0155】
(胎仔の発育をモジュレートする化合物の同定のためのアッセイ)
化合物(例えばセクション5.3.1〜5.3.3において上記したもののようなアッセイ技術を介して同定された化合物であるが、これらに限定されない)は、胎仔の発育をモジュレートする能力、胎仔の発育異常を治療する能力、および、胎盤不全の状態を治療する能力について、試験することができる。上記したアッセイはリラキシンまたはリラキシンレセプターの活性に影響する化合物(例えばリラキシンレセプターアゴニスト又はアンタゴニスト)又はリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子活性に影響する化合物(例えば、リラキシンまたはリラキシンレセプターの完全長形態又はトランケーションされた形態の発現がモジュレートできるようにスプライシング事象に影響するか、これを妨害する、タンパク質又は有機低分子のような分子を包含するリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子発現に影響することによって影響する化合物)を同定することができる。しかしながら、記載したアッセイはまたリラキシンまたはリラキシンレセプターのシグナル伝達をモジュレートする化合物も同定できる(例えばリラキシンレセプターへのリラキシンの結合により活性化されるシグナルの伝達に関与するチロシンキナーゼ又はホスファターゼの活性のインヒビター又はエンハンサーのような下流のシグナリング事象に影響する化合物)。リラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子及び/又は遺伝子産物が関与しているリラキシンまたはリラキシンレセプターのシグナル伝達経路の別の工程に影響し、そしてこの同じ経路に影響することにより胎仔の発育異常の発生に対するリラキシンまたはリラキシンレセプターの作用をモジュレートするこのような化合物の同定及び使用も、本発明の範囲に包含される。このような化合物は、胎仔の発育をモジュレートするための治療方法の部分として使用できる。
【0156】
細胞に基づく系は胎仔発育をモジュレートするように作用し得る化合物を同定するために使用できる。このような細胞系は、例えばリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子を発現する組換え又は非組換えの細胞を包含し得る。例えば子宮細胞系統、原発性ラット心房心筋細胞及び単球細胞系統は全て、リラキシンレセプターを発現する。これらの細胞は、リラキシンシグナリング系の内因性成分(例えばNHE細胞からのVEGFのリラキシン誘導分泌)をモニタリングすべき場合に、改変なくして使用することができる。あるいは、モニタリングするための好都合なレポーター系を提供するために当該分野で公知の遺伝子操作技術により細胞を改変することができる。更に又、機能的なリラキシンまたはリラキシンレセプターを発現し、そして、例えば化学的変化又は表現型の変化により測定される天然のリラキシンリガンドによる活性化、他の宿主細胞遺伝子の誘導、イオンフラックス(例えばCa++)の変化、宿主細胞タンパク質のチロシンホスホリル化等に応答するように遺伝子操作された発現宿主細胞(例えばCOS細胞、CHO細胞、線維芽細胞)をアッセイの評価項目として使用することができる。
【0157】
このような細胞系を利用する場合、細胞は、曝露細胞において胎仔発育のこのようなモジュレーションが起こるのに十分な濃度及び時間において、胎仔の発育をモジュレートする能力を示すことが予測される化合物に細胞を曝露してよい。曝露の後、例えば、リラキシンまたはリラキシンレセプターのmRNA転写産物に関して(例えばノーザン分析による)、又は細胞内で発現されたリラキシンまたはリラキシンレセプターのタンパク質に関して、細胞溶解物をアッセイすることにより、リラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子の発現の改変を測定するために細胞をアッセイすることができ;リラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子の発現を調節又はモジュレートする化合物は治療薬の良好な候補となる。更に又、リラキシンレセプターが一部となっているシグナル伝達経路の成分の発現および/または活性、又は、リラキシンレセプターシグナル伝達経路そのものの活性をアッセイすることができる。
【0158】
例えば、曝露の後、未曝露コントロール細胞に由来する溶解物と比較した場合の宿主細胞タンパク質のチロシンホスホリル化の存在に関して細胞溶解物をアッセイすることができる。これらのアッセイ系における宿主細胞タンパク質のチロシンホスホリル化を阻害する被験化合物の能力は、被験化合物がリラキシンレセプター活性化により開始されるシグナル伝達を阻害することを示している。細胞溶解物はウエスタンブロットのフォーマットを用いて容易にアッセイすることができ;即ち、宿主細胞タンパク質をゲル電気泳動で分離し、トランスファーし、そして抗ホスホチロシン検出抗体(例えばシグナル発生化合物(例えば放射標識、蛍光、酵素等)で標識した抗ホスホチロシン抗体)を用いてプローブする(例えばGlenneyら,1988,J.Immunol.Methods 109:277−285;Frackeltonら,1983,Mal.Cell.Biol.3:1343−1352)。あるいは、リラキシンレセプターシグナル伝達経路に関与している特定の宿主細胞タンパク質が標的宿主細胞タンパク質に特異的なアンカリング抗体を用いて固定化されており、そして固定化された宿主細胞タンパク質上のホスホチロシンの存在又は非存在が標識された抗ホスホチロシン抗体を用いて検出されるELISAフォーマットを使用することができる(例えばKingら,1993,Life Sciences 53:1465−1472参照)。更に別の方法においては、カルシウムイオンフラックスのようなイオンフラックスをリラキシンレセプターで刺激されたシグナル伝達の評価項目として測定することができる。
【0159】
更に又、動物に基づくモデル系(例えばリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子を欠失したトランスジェニックマウスが挙げられる)を使用して、マウスにおける胎仔の発育をモジュレートすることができる化合物を同定し得る。このような動物モデルを、胎仔発育障害を治療する場合に有効であると考えられる薬剤、医薬品、治療薬及び介入を同定するための被験基質として使用してよい。例えば曝露動物においてこのような効果を誘発するために十分な濃度及び時間において、胎仔の発育をモジュレートする能力を示すことが予測される化合物に動物モデルを曝露してよい。曝露に対する動物の応答は処置した妊娠動物における胎仔の発育及び/又は出生時体重を評価することによりモニタリングしてよい。胎仔の発育のいずれかの態様に影響するいかなる治療も、ヒト胎仔の発育のモジュレーションのための候補であると考えられる。アッセイ薬剤の用量は後述する通り用量応答曲線を求めることにより決定してよい。
【0160】
(リラキシンまたはリラキシンレセプターの発現又は活性をモジュレートする化合物)
リラキシンまたはリラキシンレセプター(リラキシンレセプターの細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞質ドメインが挙げられるが、これらに限定されない)と相互作用する(例えば結合する)化合物、リラキシンまたはリラキシンレセプター(リラキシンレセプターの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインが挙げられるが、これらに限定されない)と相互作用する細胞内タンパク質と相互作用する(例えば結合する)化合物、リラキシンレセプター媒介シグナル伝達に関与する膜貫通タンパク質又は細胞内タンパク質とのリラキシンまたはリラキシンレセプターの相互作用を妨害する化合物、及びリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子発現の活性をモジュレートするか、リラキシンまたはリラキシンレセプターのレベルをモジュレートする化合物は、胎仔の発育をモジュレートすることができる。より詳しくは、リラキシンまたはリラキシンレセプターのレベルを増大させるか、リラキシンのリラキシンレセプターへの結合を刺激する化合物は、胎仔の発育の増大をもたらす場合がある。
【0161】
このような化合物の例は、リラキシン及びリラキシンレセプターのアゴニスト及びアンタゴニストである。リラキシンレセプターアンタゴニストは本明細書においては、リラキシンレセプターの作用又は効果を中和又は遅延又は他の態様により低減する因子を指す。このようなアンタゴニストはリラキシンに結合するか、又は、リラキシンレセプターに結合する化合物を包含することができる。このようなアンタゴニストはまた、リラキシンレセプターの出力、即ち、リラキシンレセプターへのリラキシンの結合の後のリラキシンのシグナリング経路における細胞内工程(即ち、レセプター/リガンド相互作用のレベルでは起こらないリラキシン/リラキシンレセプターシグナリングに影響する下流の事象)を中和又は遅延又は他の態様により低減する化合物も包含することができる。リラキシンレセプターアンタゴニストとしては、タンパク質、抗体、有機低分子又は炭水化物、リラキシンに特異的に結合する抗体、リラキシンレセプターに特異的に結合する抗体、及び、可溶性リラキシンレセプターポリペプチド配列を含む化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0162】
例えばリラキシンアンタゴニストは又、リラキシンのそのレセプター又はその細胞外ドメインへの結合を低減、阻害、遮断、排除又は妨害する薬剤又は薬品;リラキシンの生産又は活性化を低減、阻害、遮断、排除又は妨害する薬剤;リラキシンの生産又は合成を駆動するシグナルのアンタゴニストである薬剤、及び、リラキシンがそのレセプターに到達するのを防止する薬剤を包含する。
【0163】
リラキシンレセプターアゴニストは本明細書においては、リラキシンレセプターの作用又は効果を活性化、誘導又は他の態様により増大させる因子を指す。このようなアゴニストはリラキシンに結合するか、又は、リラキシンレセプターに結合する化合物を包含することができる。このようなアンタゴニストはリラキシンレセプターの出力、即ち、リラキシンレセプターへのリラキシンの結合の後のリラキシンのシグナリング経路における細胞内工程(即ち、レセプター/リガンド相互作用のレベルでは起こらないリラキシン/リラキシンレセプターシグナリングに影響する下流の事象)を活性化、誘導又は他の態様により増大させる化合物も包含することができる。リラキシンレセプターアゴニストとしては、タンパク質、抗体及び抗体フラグメント、有機低分子又は炭水化物、リラキシン、リラキシンアナログ、及び、リラキシンに特異的に結合して活性化する抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0164】
リラキシンは又他のホルモンと組み合わせて胎仔の発育異常の治療に使用することもできる。上記した通り、RLFはリラキシンと組み合わせて使用した場合に相乗的活性を有している(米国特許5,911,997)。RLFはマウス子宮及び脳の粗製の膜調製物に特異的に結合し、リラキシンレセプターと交差反応性を示すが、インスリンレセプターとは交差反応性を示さない。RLFと優先的に相互作用する独特のレセプターも存在する(Buellesbach and Schwabe,1999,J.Biol.Chem.274:22354−22358)。特定の機序に制約されないが、RLFからこれらのレセプターへの結合は種々のアッセイにおけるRLFの独立した相乗作用を説明するものであり、そして、リラキシン、RLF及び/又は他のホルモンを用いた複合療法による胎仔の発育のモジュレーションのための別の経路を与えるものである。
【0165】
(胎仔の発育異常の治療又は予防のための方法)
本発明により治療及び/又は予防することができる胎仔の発育異常は、その在胎齢(子宮内発育遅延及び胎盤不全を含むが、これらに限定されない)と比して小型である胎仔により特徴付けられる状態を包含する。本発明により治療及び/又は予防することができる胎仔の発育異常はまた、糖尿病の場合のようにその在胎齢と比して大型である胎仔により特徴付けられる状態を包含する。
【0166】
本発明の治療及び予防の方法の部分として利用できる特定の技術及び方法は以下に詳述する通りである。
【0167】
(胎仔の発育を増大させるためのリラキシンまたはリラキシンレセプターの発現もしくは活性の回復又は増大)
リラキシンまたはリラキシンレセプターの発現(転写又は翻訳のいずれか)、レベル又は活性を増大又は活性化するいかなる方法も、胎仔の発育又は胎盤の大きさ、灌流性又は効率の向上を実現することにより、在胎齢と比して小型である胎仔又は胎盤不全を特徴とする状態を治療又は予防するために使用することができる。このような方法は例えば子宮内発育遅延を治療または予防するために使用できる。
【0168】
正常なリラキシンまたはリラキシンレセプターのの遺伝子発現及び/又は遺伝子産物活性のレベルにおける増大に関しては、リラキシンまたはリラキシンレセプターの核酸配列を利用して胎仔の発育を増大させることができる。障害の原因が欠損したリラキシンまたはリラキシンレセプターである場合、治療は例えば、遺伝子置き換え治療の形態で投与することができる。特記すれば、正常な機能を示すリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子産物の生産を指向する正常なリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子又はリラキシンまたはリラキシンレセプター遺伝子の部分を、ベクター(アデノウィルス、アデノ関連ウィルス、レトロウィルス及びヘルペスウィルスのベクターが挙げられるが、これらに限定されない)並びにリポソームのようなDNAを細胞に導入する他の粒子を用いて、患者又は動物被験体の内部の適切な細胞に挿入してよい。
【0169】
あるいは、ターゲティングされた相同組換えを利用して適切な組織中の欠損性の内因性のリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子を補正することができる。動物においては、ターゲティングされた相同組換えは補正された形質を有する新生仔を作製するために胚性幹細胞において欠損を補正するために使用することができる。
【0170】
リラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子発現及び/又は活性の全体的レベルを増大させるために利用してよい別の方法は胎仔の発育を増大させるために十分な位置及び数量での、患者内への適切なリラキシンまたはリラキシンレセプターを発現する細胞(好ましくは自家細胞)の導入を包含する。このような細胞は組換え又は非組換えのいずれかであってよい。細胞は子宮又は卵巣内の解剖学的部位に、又は、身体内の異なる部位に位置する組織移植片の一部として投与することができる。このような細胞ベースの遺伝子療法の技術は当該分野で周知であり、例えばAndersonら,の米国特許5,399,349;MulliganとWilsonの米国特許5,460,959に記載されている。
【0171】
最後に、例えば、リラキシンレセプターカスケードの下流のシグナリングタンパク質を活性化することにより、そしてこれにより欠損性のリラキシンレセプターをバイパスすることにより、活性化されたリラキシンレセプターにより伝達されたシグナルを刺激するか又は増強する、上記したアッセイにおいて同定された化合物を用いて、胎仔の発育を増大させることができる。製剤及び投与様式は化合物の物理化学的性質に応じて変動する。
【0172】
(胎仔の発育を低減するためのリラキシンまたはリラキシンレセプターの発現、レベル又は活性の阻害)
リラキシンまたはリラキシンレセプターの発現(転写又は翻訳のいずれか)、レベル又は活性を中和、緩徐化又は阻害するいずれかの方法を用いて、胎仔の発育の低減を起こすことによりその在胎齢に比して大型である胎仔により特徴付けられる状態を治療又は予防することができる。
【0173】
例えば循環しているリラキシンに結合して「中和」する可溶性ペプチド、タンパク質、融合タンパク質又は抗体(抗イディオタイプ抗体を包含する)、リラキシンレセプターに対する天然のリガンドのような化合物の投与を用いて胎仔の発育の低減を起こすことができる。この目的のためには、リラキシンレセプターの細胞外ドメインに相当するペプチド、リラキシンレセプターの可溶性欠失突然変異体、又は別のポリペプチド(例えばIgFcポリペプチド)に融合したこれらのリラキシンレセプターのドメイン又は突然変異体を利用することができる。あるいは、リラキシンレセプター細胞外ドメインを模倣しリラキシンを中和する抗イディオタイプ抗体又は抗イディオタイプ抗体のFabフラグメントを使用できる。治療のためには、このようなリラキシンレセプターペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗イディオタイプ抗体又はFabを、治療有効レベルにおいて投与を必要とする被験体に投与する。予防のためには、このようなリラキシンレセプターペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗イディオタイプ抗体又はFabを、高い胎仔の発育速度を防止するために十分な時間及び濃度において、高い胎仔の発育速度の危険性を有する被験体に投与する。
【0174】
循環しているリラキシンを中和するための別の実施形態においては、循環しているリラキシンに結合して「中和」する可溶性ペプチド、タンパク質、融合タンパク質又は抗体(抗イディオタイプ抗体を包含する)を発現するように遺伝子操作された細胞を患者に投与することができ、これにより、それらはリラキシン中和タンパク質の持続的供給をもたらすインビボの「バイオリアクター」として機能することになる。このような細胞は患者又はMHC適合ドナーから得てよく、そして、線維芽細胞、血球(例えばリンパ球)、脂肪細胞、筋肉細胞、内皮細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞は例えば形質導入(ウィルスベクター、好ましくは細胞ゲノム内にトランスジーンを組み込むベクター)又はトランスフェクションの方法(プラスミド、コスミド、YAC、エレクトロポレーション、リポソーム等が挙げられるが、これらに限定されない)の使用により、細胞内に所望のリラキシン中和タンパク質に関するコーディング配列を導入するための組換えDNA技術を用いてインビトロで遺伝子操作される。リラキシン中和タンパク質コーディング配列は、ペプチド又はタンパク質の発現及び分泌を達成するために、強力な構成性または誘導性のプロモーター又はプロモーター/エンハンサーの制御下におくことができる。所望の遺伝子産物を発現して分泌する操作された細胞は、全身、例えば循環系中、腹腔内、脈絡叢又は視床下部において、患者内に導入することができる。あるいは、細胞はマトリックス内に組み込んで、身体内に移植することができる。例えば遺伝子操作された線維芽細胞を皮膚移植片の部分として移植することができ;遺伝子操作された内皮細胞を血管移植片の部分として移植することができる。例えばAndersonら,の米国特許5,399,349;及びMulliganとWilsonの米国特許5,460,959を参照でき、これらの各々は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0175】
投与すべき細胞が非自家細胞である場合は、それらは導入された細胞に対する宿主の免疫応答の発生を防止する周知の技術を用いて投与することができる。例えば、近接した細胞外の環境との成分の交換は可能にするが、導入された細胞が宿主の免疫系により認識されることは可能としないカプセル化形態の中に細胞を導入してよい。
【0176】
別の実施形態においては、胎仔の発育をモジュレートする治療は、例えばリラキシンまたはリラキシンレセプターのmRNAの転写産物の翻訳を阻害又は防止するためのアンチセンス又はリボザイムの方法;リラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子の転写を阻害する3重螺旋の方法;又はリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子又はその内因性プロモーターを不活性化又は「ノックアウト」するためのターゲティングされた相同組換えを用いて、内因性リラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子発現のレベルを低下させるように設計することができる。本明細書に記載したアンチセンス、リボザイム又はDNAのコンストラクトは、全身投与するか、又は、標的遺伝子を発現する細胞を含有する部位に直接投与される。
【0177】
アンチセンス法においてはリラキシンまたはリラキシンレセプターのmMAに相補であるオリゴヌクレオチド(DNA又はRNAのいずれか)の設計を行う。アンチセンスオリゴヌクレオチドは相補リラキシンまたはリラキシンレセプターmRNA転写産物に結合し、翻訳を防止する。絶対的な相補性が望ましいが必須ではない。本明細書においては、あるRNAの部分に「相補的な」配列とは、RNAにハイブリダイズできる十分な相補性を有し、安定な二重螺旋を形成する配列を意味し;2本鎖アンチセンス核酸の場合は、二重螺旋DNAの1本鎖をアッセイしてもよく、又は、3重螺旋の形成を調べてもよい。ハイブリダイズする能力はアンチセンス核酸の相補性の程度及び長さの両方に依存している。一般的にハイブリダイズする核酸が長いほど、RNAとの塩基ミスマッチが多くなるが、なお安定な2重螺旋(又は場合により3重螺旋)を形成する。当業者は、ハイブリダイズした複合体の融点を測定するための標準的な操作法を用いることにより、ミスマッチの耐容可能な程度を確認することができる。
【0178】
当業者の知るとおり、遺伝子発現の改変は、リラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子の制御領域、即ち、プロモーター、エンハンサー及びイントロン並びにこれらの遺伝子のコーディング領域に対してアンチセンス分子を設計することにより得ることができる。このような配列は本明細書においては、それぞれ、リラキシンをコードするポリヌクレオチド又はリラキシンレセプターをコードするポリヌクレオチドと称する。
【0179】
転写開始部位、例えばリーダー配列の−10〜+10の領域の間に由来するオリゴヌクレオチドが好ましい。メッセージの5’末端、例えばAUG開始コドンまで延びてこれを含む5’未翻訳配列に相補的なオリゴヌクレオチドは、一般的に、翻訳の阻害において最も効率的に機能する。しかしながら、mRNAの3’未翻訳配列に相補的な配列は同じくmRNAの翻訳の阻害において効果的であることが最近わかった。一般的にWagner,1994,Nature 372:333−335を参照できる。mRNAの5’未翻訳領域に相補的なオリゴヌクレオチドはAUG開始コドンの相補体を含む。mRNAコーディング領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは効率が低い翻訳インヒビターであるが、本発明において使用することができる。リラキシンまたはリラキシンレセプターのmRNAの5’−、3’−又はコーディング領域にハイブリダイズするように設計されたかどうかに関わらず、アンチセンス核酸は少なくとも6ヌクレオチド長、好ましくは6〜約50ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドである。特定の態様において、オリゴヌクレオチドは少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも25ヌクレオチド、又は、少なくとも50ヌクレオチドである。
【0180】
標的配列の選択に関わらず、インビトロの研究をまず実施してアンチセンスオリゴヌクレオチドが遺伝子発現を阻害する能力を定量することが好ましい。これらのアッセイはオリゴヌクレオチドのアンチセンス遺伝子阻害と非特異的な生物学的作用との間の区別を行うためにコントロールを利用することが好ましい。更にまた、これらの研究は標的RNA又はタンパク質のレベルを内部コントロールのRNA又はタンパク質のものと比較することが好ましい。更に、アンチセンスオリゴヌクレオチドを使用して得られた結果はコントロールオリゴヌクレオチドを用いて得られたものと比較することが想定される。コントロールオリゴヌクレオチドは被験オリゴヌクレオチドとほぼ同じ長さであり、そしてオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列は標的配列への特異的ハイブリダイゼーションを防止するために必要である水準を超えない程度にアンチセンス配列と異なることが好ましい。
【0181】
オリゴヌクレオチドはDNA又はRNA又はそれらのキメラ混合物又は誘導体又は改変された型であることができ、1本鎖又は2本鎖であってよい。オリゴヌクレオチドは塩基の部分、糖の部分、又はホスフェート骨格において改変することにより、例えば分子の安定性、ハイブリダイゼーション等を向上させることができる。オリゴヌクレオチドは他の付随する基、例えばペプチド(例えば宿主細胞レセプターをインビボでターゲティングするため)、又は細胞膜を横切る輸送を促進する薬剤(例えばLetsingerら,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:6553−6556;Lemaitreら,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:648−652;1988年12月15日公開のPCT公開WO88/09810に教示)又は血液脳関門を横切る輸送を促進する薬剤(例えば1988年4月25日公開のPCT公開WO89/10134)、ハイブリダイゼーショントリガー切断剤(例えばKrolら,1988,BioTechniques 6:958−976)又はインターカレーティング剤(例えばZon,1988,Pharm.Res.5:539−549)を含んでよい。この目的のためには、オリゴヌクレオチドは他の分子、例えばペプチド、ハイブリダイゼーショントリガー交差結合剤、輸送剤、ハイブリダイゼーショントリガー切断剤等に結合体化してよい。
【0182】
アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えば5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β−D−ガラクトシルキューオシン、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルキューオシン、5’−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン、プソイドウラシル、キューオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)及び2,6−ジアミノプリンが挙げられるが、これらに限定されない群から選択される改変された塩基部分少なくとも1つを含んでよい。
【0183】
また、アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えばアラビノース、2−フルオロアラビノース、キシルロース及びヘキソースが挙げられるが、これらに限定されない群から選択される改変された糖部分少なくとも1つを含んでよい。
【0184】
更に別の実施形態においては、アンチセンスオリゴヌクレオチドはホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロアミドチオエート、ホスホロアミデート、ホスホロジアミデート、メチルホスホネート、アルキルホスホトリエステル及びホルムアセタール又はこれらのアナログよりなる群から選択される改変されたホスフェート骨格少なくとも1つを含んでよい。
【0185】
更に別の実施形態においては、アンチセンスオリゴヌクレオチドはα−アノマーオリゴヌクレオチドである。α−アノマーオリゴヌクレオチドは、通常のβ−ユニットとは異なり、鎖が相互に平行に伸びている相補RNAとの特異的な2本鎖ハイブリッドを形成する(Gautierら,1987,Nucl.Acids Res.15:6625−6641)。オリゴヌクレオチドは2’−O−メチルリボヌクレオチド(Inoueら,1987,Nucl.Acid.Res.15:6131−6148)又はキメラRNA−DNAアナログ(Inoueら,1987,FEBS Lett.215:327−330)である。
【0186】
本発明のオリゴヌクレオチドは当該分野で公知の標準的な方法により、例えば自動DNA合成装置(例えばBiosearch,Applied Biosystems等により市販されているもの)を用いるなどして合成してよい。例えばホスホロチオエートオリゴヌクレオチドはSteinら,1988,Nucl.Acid Res.16:3209の方法により合成してよく、そして、メチルホスホネートオリゴヌクレオチドは制御された多孔質ガラス重合体支持体を用いて調製できる(Sarinら,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:7448−7451)。
【0187】
リラキシンまたはリラキシンレセプターコーディング領域配列に相補的なアンチセンスヌクレオチドが使用されるが、転写された未翻訳の領域に相補的なものが最も好ましい。
【0188】
アンチセンス分子はリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子をインビボで発現する細胞に送達しなければならない。アンチセンスDNA又はRNAを細胞に送達するための多くの方法が開発されている。例えばアンチセンス分子を組織の部位内に直接注入することができ、あるいは、所望の細胞をターゲティングするために設計された改変されたアンチセンス分子(例えば標的細胞表面に発現されるレセプター又は抗原に特異的に結合するペプチド又は抗体に連結されたアンチセンス)を全身投与してよい。
【0189】
内因性mRNAの翻訳を抑制するために十分なアンチセンスの細胞内濃度を達成するための好ましい方法は、アンチセンスオリゴヌクレオチドが強力なpolIII又はpolIIプロモーターの制御下にある組換えDNAコンストラクトを利用する。患者における標的細胞をトランスフェクトするためのこのようなコンストラクトの使用は、内因性のリラキシンまたはリラキシンレセプターの転写産物と相補塩基対を形成し、そしてこれによりそれぞれリラキシンまたはリラキシンレセプターのmRNAの翻訳を防止する1本鎖RNAの十分な量の転写をもたらす。例えば、ベクターをそれが細胞に取り込まれアンチセンスRNAの転写を指向するようにインビボで導入できる。このようなベクターはそれが転写されて所望のアンチセンスRNAを生産できる限り、エピソームとして残存してもよく、又は染色体に組み込まれてもよい。このようなベクターは当該分野で標準的な組換えDNA技術の方法により構築できる。ベクターは哺乳類細胞内での複製及び発現に使用される当該分野で公知のプラスミド、ウィルス又は他のベクターであることができる。アンチセンスRNAをコードする配列の発現は哺乳類、好ましくはヒトの細胞において作用することが当該分野において公知のいずれかのプロモーターによるものであり得る。このようなプロモーターは誘導性又は構成性のものであり得る。このようなプロモーターとしては、SV40早期プロモーター領域(Bernoist and Chambon,1981,Nature 290:304−310)、ラウス肉腫ウィルスの3’長末端リピート内に含有されるプロモーター(Yamamotoら,1980,Cell 22:787−797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagnerら,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:1441−1445)、メタロチオイネン遺伝子の調節配列(Brinsterら,1982,Nature 296:39−42)等が挙げられるが、これらに限定されない。組織の部位、例えば脈絡叢又は視床下部内に直接導入することができる組換えDNAコンストラクトを調製するためにプラスミド、コスミド、YAC又はウィルスベクターのいずれかの型を用いることができる。あるいは、所望の組織に選択的に感染するウィルスベクターを使用することができ(例えばヘルペスウィルスベクターは脳組織を感染させるために使用してよい)、そのような場合、投与は別の経路(例えば全身)により行ってよい。
【0190】
リラキシンまたはリラキシンレセプターのmRNA転写産物を触媒的に分解するように設計されたリボザイム分子もまた、リラキシンまたはリラキシンレセプターのmRNAの翻訳及びリラキシンまたはリラキシンレセプターの発現を防止するために使用できる。例えば1990年10月4日公開のPCT国際公開WO90/11364;Sarverら,1990,Science 247:1222−1225を参照できる。部位特異的認識配列においてmRNAを切断するリボザイムを用いてリラキシンまたはリラキシンレセプターのmRNAを破壊することができるが、ハンマーヘッドリボザイムの使用が好ましい。ハンマーヘッドリボザイムは標的mRNAと相補塩基対を形成するフランキング領域により指定される位置において、mRNAを切断する。標的mRNAが有する唯一の必要条件は以下の2塩基配列:5’−UG−3’である。ハンマーヘッドリボザイムの構築及び製造は当該分野で周知であり、HaseloffおよびGerlach,1988,Nature,334:585−591に詳述されている。典型的には、ある遺伝子配列内には潜在的なハンマーヘッドリボザイム切断部位が数百個存在する。例えば米国特許5,972,621を参照できる。好ましくは、効率を上昇させ、そして、非機能的mRAN転写産物の細胞内蓄積を最小限にするためには、切断認識部位がリラキシンまたはリラキシンレセプターのmRNAの5’末端近傍に位置するようにリボザイムを操作する。
【0191】
本発明のリボザイムはまたTeterahymena thermophila中に天然に存在(IVS又は、L19−IVS RNAとして公知である)し、そしてThomas Cechおよび共同研究者により広範に研究されているもののようなRNAエンドリボヌクレアーゼ(以下「Cech型リボザイム」と称する)も包含する(Zangら,1984,Science,224:574−578;ZaugおよびCech,1986,Science,231:470−475;Zaug,ら,1986,Nature,324:429−433;University Patents Inc.の公開国際特許出願WO88/04300;BeenおよびCech,1986,Cell,47:207−216)。Cech型のリボザイムは標的RNA配列にハイブリダイズする8塩基対の活性部位を有し、その後で標的RNAの切断が起こる。本発明はリラキシンおよびリラキシンレセプターのmRNA標的中に存在する8塩基対活性部位配列をターゲティングするこのようなCech型のリボザイムも包含する。
【0192】
アンチセンス法の場合と同様、リボザイムは改変されたオリゴヌクレオチド(例えば向上した安定性、ターゲティング等のため)を有することができ、そしてリラキシン及びリラキシンレセプターをインビボで発現する細胞に送達しなければならない。送達の好ましい方法では、強力な構成性のpolIII又はpolIIプロモーターの制御下にリボザイムを「コードしている」DNAコンストラクトを使用し、これにより、トランスフェクトされた細胞が内因性のリラキシン及びリラキシンレセプターのメッセージを破壊し、翻訳を阻害するために十分な量のリボザイムを生産するようにする。アンチセンス分子とは異なりリボザイムは触媒性であるため、効率のためにはより低い細胞内濃度が必要となる。
【0193】
同様に、リラキシンまたはリラキシンレセプターの阻害は「3重螺旋」塩基対形成法を用いて達成することができる。3重螺旋対形成はポリメラーゼ、転写因子または調節分子の結合のために十分開放する二重螺旋の能力を補償する。3重螺旋を使用する技術は当業者に周知である。一般的にHelene,1991,Anticancer Drug Des.6:569−84;Helene,1992,Ann.N,Y.Acad.Sci.660:27−36:Maher,1992,Bioassays 14:807−15を参照できる。
【0194】
内因性リラキシンまたはリラキシンレセプター遺伝子発現はまた、ターゲティングされた相同組換えを用いてリラキシン又はリラキシン遺伝子又はそのプロモーターを不活性化、又は「ノックアウト」することにより低下させることができる。例えばSmithiesら,1985,Nature 317:230−234;ThomasおよびCapecchi,1987,Cell 51:503−512;Thompsonら,1989,Cell 5:313−321を参照でき、これらの各々は参照により全体が本明細書に組み込まれる。例えば内因性リラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子(コーディング領域又は調節領域のいずれか)に相同であるDNAによりフランキングされた突然変異体の非機能的なリラキシンまたはリラキシンレセプター(または完全に無関係のDNA配列)を選択可能なマーカー及び/又は陰性の選択可能なマーカーの存在下又は非存在下で使用することによりインビボでリラキシンまたはリラキシンレセプターを発現する細胞をトランスフェクトすることができる。ターゲティングされた相同組換えを介したDNAコンストラクトの挿入によりリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子の不活性化が起こる。このような方法は、胚性幹細胞の改変を使用して不活性リラキシンレセプターを有する動物の新生仔を作製することができる獣医分野において特に適している(例えばThomasおよびCapecchi 1987,及びThompson;1989,前出)。しかしながらこの方法は、適切なウィルスベクターを用いてインビボで所望の部位に組換えDNAコンストラクトを直接投与又はターゲティングする限り、ヒトにおける使用にも適合できる。
【0195】
あるいは、内因性リラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子発現は、リラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子の調節領域(即ちプロモーター及び/又はエンハンサー)に相補的なデオキシリボヌクレオチド配列をターゲティングすることにより身体内での標的細胞におけるリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子の転写を防止する3重螺旋構造を形成することにより、低下させることができる。例えばHelene,1991,Anticancer Drug Res.6:569−84;Helene,ら,1992,Ann.N,Y.Acad.Sci.660:27−36:Maher,1992,Bioassays14:807−15を参照できる。
【0196】
本発明の更に別の実施形態においては、リラキシンまたはリラキシンレセプターの活性は「ドミナントネガティブ」の方法を用いて低下させることにより胎仔の発育を低減することができる。この目的のためには、欠損のリラキシンまたはリラキシンレセプターをコードするコンストラクトを遺伝子療法において使用することにより、適切な標的細胞においてリラキシンまたはリラキシンレセプターの活性を減衰させることができる。例えば、細胞質ドメイン又は細胞質ドメインの部分が欠失又は突然変異しているリラキシンレセプターの宿主細胞発現を指向するヌクレオチド配列を子宮組織の細胞内に導入することができる(上記したインビボ又はエクスビボの遺伝子療法のいずれかによる)。あるいは、ターゲティングされた相同組換えを利用してこのような欠失又は突然変異を被験体の子宮内の内因性リラキシンレセプター遺伝子に導入することができる。操作された細胞は非機能的レセプター(即ち自身の天然のリガンドには結合できるが、シグナル伝達ができないアンカリングされたレセプター)を発現することになる。このような操作された細胞が子宮内に存在すれば、内因性リラキシンリガンドへの減衰した応答を示し、低減した胎仔の発育をもたらすはずである。
【0197】
本発明の別の実施形態は、リラキシンタンパク質の分解を増大させることにより(即ち、リラキシンタンパク質が除去を目標にターゲティングされるような抗体の結合により)、リラキシンのレベルを低下させる方法である。本発明の別の実施形態は、リラキシンレセプタータンパク質の分解を増大させることにより(即ち、リラキシンレセプタータンパク質が除去を目標にターゲティングされるような抗体の結合により)、リラキシンレセプターのレベルを低下させる方法である。別の実施形態は遊離のリラキシンに結合するリラキシンレセプターの可溶性形態の合成を増大させることによりリラキシンのレベルを低下させることである。
【0198】
本発明の別の実施形態はリラキシンレセプターの構造又は機能に影響する化合物を投与する方法である。このような化合物としては、結合することによりリラキシンレセプターの構造又は機能を改変し、これによりレセプターが自身の活性に関して無効となるようにするような、タンパク質、核酸、炭水化物又は他の分子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0199】
(リラキシン及びリラキシンレセプターの活性を制御すること、及び、胎仔の発育異常を治療又は予防することへの遺伝子療法の方法)
リラキシン及びリラキシンレセプターの発現はリラキシン及びリラキシンレセプターの活性を調節し、胎仔の発育異常を治療する遺伝子療法の方法を用いてインビボで制御(例えば転写又は翻訳のレベルで)することができる。特定の方法を以下に記載する。
【0200】
正常なリラキシン及びリラキシンレセプターの遺伝子発現及び/又はリラキシン及びリラキシンレセプターの遺伝子産物活性のレベルの増大に関しては、リラキシン及びリラキシンレセプターの核酸配列を利用して胎仔の発育異常の治療を行うことができる。胎仔の発育異常の原因が欠損性のリラキシンまたはリラキシンレセプター遺伝子である場合は、治療は、例えば遺伝子置き換え療法の形態で投与することができる。詳細には、正常な機能を示す遺伝子産物の生産を指向する正常なリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子又は遺伝子の部分のコピー1つ以上をベクター(アデノウィルス、アデノ関連ウィルス、レトロウィルス及びヘルペスウィルスが挙げられるが、これらに限定されない)、並びに、リポソームのような細胞にDNAを導入する他の粒子を用いて患者又は動物被験体内の適切な細胞に挿入してよい。
【0201】
ターゲティングされた相同組換えは、適切な組織(例えばそれぞれ卵巣及び子宮の組織)において欠損性の内因性のリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子を補正するために利用できる。動物においては、ターゲティングされた相同組換えは補正された形質を有する新生仔を得るために胚性幹細胞における欠損を補正するために使用できる。
【0202】
リラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子発現及び/又は活性の全体的レベルを上昇させるために利用してよい別の方法としては、胎仔の発育異常(IUGRが挙げられるがこれに限定されない)の症状を軽減するために十分な位置および数量において、患者内に、適切なリラキシンまたはリラキシンレセプターを発現する細胞(好ましくは自家細胞)を導入することを包含する。このような細胞は組換え又は非組換えのいずれかであってよい。患者におけるリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子発現の全体的レベルを上昇させるために投与できる細胞としては、正常細胞又はそれぞれリラキシンまたはリラキシンレセプターの遺伝子を発現するそれぞれ卵巣又は子宮の細胞である。細胞は子宮又は卵巣の解剖学的部位において、又は、身体内の種々の部位に位置する組織移植片の部分として投与できる。このような細胞ベースの遺伝子療法の技術は当該分野で周知であり、例えばAndersonら,の米国特許5,399,349;MulliganおよびWilsonの米国特許5,460,959に記載されている。
【0203】
(医薬処方物及び胎仔の発育異常を治療する方法)
本発明の化合物は、哺乳類の身体内における薬剤の作用部位への活性成分の接触をもたらすいずれかの手段により、種々の胎仔の発育異常を阻害するために処方し、投与することができる。それらは個々の治療活性成分又は治療活性成分の組み合わせとして、医薬品との関連において使用することができるいずれかの従来の手段により投与できる。それらは単独で投与できるが、一般的に選択された投与経路及び標準的な薬学的慣行に基づいて選択される薬学的キャリアと共に投与される。
【0204】
投与される用量は胎仔の発育異常の症状の軽減をもたらすのに十分な化合物の治療有効量であり、そして、当然ながら、公知の因子(例えば特定の活性成分の薬力学的特性及びその投与の様式及び経路;レシピエントの年齢、健康状態及び体重;症状の性質及び程度;併用療法の種類、処置頻度及び所望の作用)に応じて変動する。
【0205】
(用量の決定)
このような化合物の毒性及び治療効果は、例えばLD50(集団の50%に対して致死的な用量)及びED10(集団の50%において治療効果のある用量)を求めるための、細胞培養物又は実験動物における標準的な薬学的方法により決定することができる。毒性及び治療効果の間の用量の比が治療指数であり、そしてこれは比LD50/ED50として表示できる。大きい治療指数を示す化合物が好ましい。毒性の副作用を示す化合物も使用してよいが、未感染の細胞への潜在的損傷を最小限にするために罹患組織の部位にそのような化合物をターゲティングする送達系を設計するように留意すべきであり、そして、これにより副作用を低減できる。
【0206】
細胞培養アッセイ及び動物研究から得られたデータはヒトにおける使用のための用量の範囲を処方するために使用できる。このような化合物の投与量は好ましくはED50を包含する循環系中濃度の範囲内にあり、毒性は殆ど又は全くないものである。用量は使用する剤型及び使用する投与経路に応じてこの範囲内で変動してよい。本発明の方法において使用するいずれの化合物についても、治療有効用量は最初は細胞培養アッセイから推定することができる。用量は動物モデルにおいて、細胞培養において測定したIC50(即ち症状の半最大阻害を達成する被験化合物の濃度)を包含する循環血漿中濃度範囲が達成されるように処方してよい。このような情報はヒトにおいて有用用量をより正確に決定するために使用できる。血漿中のレベルは例えば高速液体クロマトグラフィーにより測定してよい。
【0207】
特定の投与量は、抗体に関してもまた利用してよい。典型的には、好ましい投与量は0.1mg/kg〜100mg/kg体重(一般的に10mg/kg〜20mg/kg)であり、そして抗体が脳内で作用する場合は、50mg/kg〜100mg/kgの投与量が通常は適切である。抗体が部分的にヒトのものであるか又は完全にヒトのものである場合は、それは一般に他の抗体よりもヒト身体内でより長い半減期を有することになる。従って、部分的ヒト抗体又は完全ヒト抗体のより低投与量が可能となる場合が多い。抗体を更に安定化させるために別の改変を用いてよい。例えば、抗体を安定化させるため、及び、取り込みと組織浸透(例えば脳内への)を増強するために脂質化を用いることができる。抗体の脂質化の方法はCruikshankら,(1997),J.Acquired Immune Deficiency Syndromes and Human Retrovirology14:193に記載されている。
【0208】
タンパク質又はポリペプチドの治療有効量(即ち有効投与量)は約0.001〜30mg/kg体重、好ましくは約0.01〜25mg/kg体重、より好ましくは約0.1〜20mg/kg体重、そして更に好ましくは約1〜10mg/kg、2〜9mg/kg、3〜8mg/kg、4〜7mg/kg、又は5〜6mg/kg体重の範囲である。
【0209】
更に又、タンパク質、ポリペプチド又は抗体の治療有効量による被験体の治療は単回投与を包含し、好ましくは、連続投与を包含する。好ましい実施形態においては、被験体は抗体、タンパク質又はポリペプチドにより、約0.1〜20mg/kg体重の範囲で、週一回、約1〜10週間、好ましくは2〜8週間、より好ましくは約3〜7週間、更に好ましくは約4、5又は6週間、処置される。
【0210】
本発明は更に発現又は活性をモジュレートする薬剤を包含する。薬剤は例えば低分子であってよい。例えばこのような低分子としては、ペプチド、ペプチド模倣物、アミノ酸、アミノ酸アナログ、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドアナログ、ヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、分子量約10000グラム/モル未満の有機又は無機の化合物(即ちヘテロ有機及び有機金属化合物を含む)、分子量約5000グラム/モル未満の有機又は無機の化合物、分子量約1000グラム/モル未満の有機又は無機の化合物、分子量約500グラム/モル未満の有機又は無機の化合物、及びこれらの化合物の塩、エステル及び他の医薬上許容しうる形態が挙げられるが、これらに限定されない。低分子の薬剤の適切な用量は当業者、例えば医師に公知の多くの要因に応じて変化することが理解される。低分子の用量は、例えば処置される被験体又はサンプルの内容、大きさ及び状態に応じて、更には適宜、組成物を投与する経路、及び、本発明の核酸又はポリペプチドに対して低分子が有することを医師が望んでいる効果により変動する。例示される用量は被験体又はサンプルの重量のキログラム当たり低分子のミリグラム又はマイクログラム量を包含する(例えばキログラム当たり約1マイクログラム〜キログラム当たり約500ミリグラム、キログラム当たり約100マイクログラム〜キログラム当たり約5ミリグラム、又はキログラム当たり約1マイクログラム〜キログラム当たり約50マイクログラム)。
【0211】
(処方及び使用)
本発明による使用のための医薬組成物は生理学的に許容されるキャリア又は賦形剤1つ以上を使用して従来の様式において処方してよい。
【0212】
即ち、化合物及びその生理学的に許容される塩及び溶媒和物は吸入または通気(口腔又は鼻腔のいずれかを経由)又は経口、経頬、非経口又は直腸投与により投与するために処方してよい。
【0213】
経口投与のためには医薬組成物は、医薬上許容しうる賦形剤、例えば結合剤(例えばアルファ化コーンスターチ、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば乳糖、微結晶セルロース又はリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えばステリン酸マグネシウム、タルク又はシリカ);錠剤崩壊剤(例えばバレイショ澱粉又はナトリウム澱粉グリコレート);又は湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)を用いて従来の手段により調製した錠剤またはカプセルの形態であってよい。錠剤は当該分野で周知の方法によりコーティングしてよい。経口投与のための液体調製物は、例えば溶液、シロップまたは懸濁液の形態をとってよく、又は、それらは使用前に水又は他の適当なビヒクルで構成するための乾燥品として提供してよい。このような液体調製物は懸濁剤(例えばソルビトールシロップ、セルロース誘導体又は水添食用油脂);乳化剤(例えばレシチン又はアカシア);非水性ビヒクル(例えばアーモンド油、油性エステル、エチルアルコール又は分画植物油);及び保存料(例えばメチルp−ヒドロキシベンゾエート又はプロピルp−ヒドロキシベンゾエート又はソルビン酸)のような医薬上許容しうる添加剤を用いて従来の手段により調製してよい。また、調製物は、緩衝塩、香味添加剤、着色料及び甘味剤を適宜含有してよい。
【0214】
経口投与用の調製物は活性化合物の制御された放出を行うために適当に処方してよい。
【0215】
経頬投与のためには、組成物は従来の様式で製剤された錠剤又はトローチの形態をとってよい。
【0216】
吸入による投与のためには、本発明により使用する化合物は適当な高圧ガス(例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適当なガス)を使用しながら加圧パック又はネブライザーから供給されるエアロゾルスプレー状態の形態において好都合に送達される。加圧エアロゾルの場合は計量された量を送達する弁を配設することにより投与単位を決定してよい。吸入器又は通気装置中で使用するためのゼラチンのカプセル及びカートリッジは化合物及び適当な粉末基剤(例えば乳糖又は澱粉)の粉末混合物を含有するように処方してよい。
【0217】
化合物は注射、例えばボーラス注射又は連続注入による非経口投与のために処方してよい。注射のための製剤は保存料を添加した例えばアンプル又は多用量容器中の単位剤型として提供してよい。組成物は油性または水性のビヒクル中の懸濁液、溶液又は乳液のような形態をとってよく、処方用の物質、例えば懸濁剤、安定化剤及び/又は分散剤を含有してよい。あるいは、活性成分は使用前に適当なビヒクル(例えば滅菌発熱物質非含有水)で構成するための粉末形態であってよい。一般的に、水、適当な油脂、食塩水、水性デキストロース(グルコース)及び関連する糖溶液及びグリコール類(例えばプロピレングリコール又はポリエチレングリコール)が非経口溶液のための適当なキャリアである。非経口投与のための溶液は好ましくは活性成分の水溶性の塩、適当な安定化剤及び必要に応じて緩衝物質を含有する。抗酸化剤(例えば重硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム又はアスコルビン酸の単独又は組み合わせ)が適当な安定化剤である。同様に使用されるものはクエン酸及びその塩及びエチレンジアミン4酢酸ナトリウム(EDTA)である。更に、非経口溶液は保存料、例えば塩化ベンザルコニウム、メチルパラベン又はプロピルパラベン及びクロロブタノールを含有できる。適当な医薬品用キャリアはこの分野の標準的参考テキストであるRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。
【0218】
化合物は又、例えば従来の座剤基剤(例えばカカオ脂又は他のグリセリド)を含有する座剤又は保持式の浣腸のような直腸用組成物として処方してよい。
【0219】
前記した処方物のほかに、化合物はデポ製剤として処方してよい。このような長時間作用性の処方物は移植(例えば皮下又は筋肉内)により、または筋肉注射により投与してよい。即ち、例えば、化合物は適当な重合体又は疎水性の物質(例えば許容できる油脂中の乳液として)又はイオン交換樹脂を用いて、又は、溶解性が乏しい誘導体(例えば溶解性が乏しい塩)として、処方してよい。
【0220】
更に又、標準的な薬学的方法を用いて作用持続時間を制御することができる。これらは当該分野で周知であり、制御放出調製物を包含し、そして、適切な巨大分子(例えば重合体、ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、エチレンビニルアセテート、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はプロタミンスルフェート)を含むことができる。巨大分子の濃度並びに配合方法は放出を制御するために調節することができる。更に、薬剤はポリエステル、ポリアミノ酸、ヒドロゲル、ポリ(乳酸)又はエチレンビニルアセテート共重合体のような重合体物質の粒子内に配合することができる。配合する以外にも、これらの薬剤はマイクロカプセル中に化合物を捕獲するために使用することもできる。
【0221】
組成物は所望により、活性成分を含有する単位剤型1つ以上を含有してよいパック又はディスペンサー装置中で提供してよい。パックは例えばブリスタパックのような金属又はプラスチックホイルを含んでよい。パック又はディスペンサー装置は投与に関する説明書を添付してよい。
【0222】
本発明の化合物の投与のための有用な薬学的剤型を以下に説明する。
【0223】
カプセル:カプセルは粉末活性成分所要量、乳糖175ミリグラム、タルク24ミリグラム、及び、ステアリン酸マグネシウム6ミリグラムで標準的なツーピースのハードゼラチンカプセルを充填することにより調製する。
【0224】
ソフトゼラチンカプセル:大豆油中の活性成分の混合物を調製し、容積移送式ポンプを用いてゼラチン中に注入し、所要量の活性成分を含有するソフトゼラチンカプセルを形成する。次にカプセルを洗浄し、乾燥する。
【0225】
錠剤:錠剤は投与単位が活性成分所要量、コロイド状二酸化ケイ素0.2ミリグラム、ステアリン酸マグネシウム5ミリグラム、微結晶セルロース275ミリグラム、コーンスターチ11ミリグラム及び乳糖98.8ミリグラムとなるように従来の方法により調製する。適切なコーティングを適用して嗜好性を向上させたり、吸収を遅延させてよい。
【0226】
注射:注射による投与に適する非経口組成物は活性成分1.5重量%をポリエチレングリコール及び水10容量%中で攪拌することにより調製する。溶液は塩化ナトリウムで等張性とし、滅菌する。
【0227】
懸濁液:各5mlが微細分割活性成分100ミリグラム、カルボキシメチルセルロースナトリウム200ミリグラム、安息香酸ナトリウム5ミリグラム、USPソルビトール溶液1.0グラム及びバニリン0.025ミリメートルを含有するように経口投与用の水性懸濁液を調製する。
【0228】
遺伝子療法投与:適宜、遺伝子療法ベクターを投与の各該当経路のための通常の方法において、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、座剤、注射、吸入剤及びエアロゾルのような固体、半固体、液体又はガス状の調製物の形態に処方することができる。当該分野で耕地の手段を利用することにより、標的臓器に到達するまで組成物の放出及び吸収を防止したり、組成物の時限放出を確保することができる。本発明の組成物を無効化しない医薬上許容しうる形態を使用しなければならない。医薬品の投与形態において、組成物は単独又は他の薬学的活性化合物と適切な会合状態並びに組み合わせにおいて使用することができる。
【0229】
従って、本発明の医薬組成物は種々の経路で、そして動物身体内の種々の部位に送達することにより特定の作用を達成してよい(例えばRosenfeldら,1991,前出;Rosenfeldら,1991,Clin.Res.,39(2),311A,1991;Jaffeら;前出;Bernber,前出を参照できる)。当業者の知るとおり、投与には1つより多い経路を使用できるが、特定の経路は他の経路よりも迅速で効果的な反応をもたらす場合がある。局所又は全身送達は身体の体腔部への処方物の適用又は滴下、エアロゾルの吸入又は通気を含む投与により、又は、筋肉内、静脈内、腹腔内、皮下、皮内並びに局所投与を含む非経口導入により、達成することができる。
【0230】
本発明の組成物は各投与単位(例えば茶匙一杯、錠剤、溶液又は座剤)が所定量の組成物を単独又は他の活性剤との適切な組み合わせにおいて含有する単位剤型中に提供することができる。「単位剤型」という用語は本明細書においては、ヒト及び動物の被験体に対する単一の用量として適する物理的に個別の単位を指し、各単位は、適宜、医薬上許容しうる希釈剤、キャリア又はビヒクルと共に、所望の作用を得るために十分な量として計算された所定量の本発明の組成物を単独又は他の活性剤と組み合わせて含有する。本発明の単位剤型の仕様は、達成すべき特定の効果及び特定の宿主内の医薬組成物に関わる特定の薬力学に応じて異なる。
【0231】
従って、本発明はまた宿主に治療用遺伝子を転移させる方法を提供し、これは、本発明のベクターを、好ましくは組成物の一部として、上記した投与経路又は当業者の知る特定の用途に適する別の経路を用いて投与することを含む。組成物の「有効量」は当該分野で知られた幾つかの評価項目を用いてモニタリングすることができる宿主内の所望の作用をもたらすようなものである。本発明による宿主細胞へのベクターの効果的な遺伝子転移は治療効果の点において(例えば、治療すべき特定の疾患に関連するある症状の緩解)、又は更に宿主内の転移された遺伝子の顕在化又は遺伝子の発現(例えば配列決定、ノーザン又はサザンハイブリダイゼーションと組み合わせたポリメラーゼ連鎖反応、又は、宿主細胞内の核酸を検出するための転写アッセイを用いるか、又は、免疫ブロット分析、抗体媒介検出、mRNA又はタンパク質の半減期アッセイ、又は転移された核酸によりコードされる又はそのような転移のためにレベル又は機能において影響されているタンパク質又はポリペプチドを検出するための特殊化されたアッセイを用いる)によりモニタリングすることができる。
【0232】
本明細書に記載したこれらの方法が含まれるもの全てではなく、特定の用途に適する他の方法は当業者のよく知るとおりである。更に又、組成物の有効量は更に所望の作用を示すことがわかっている化合物からの類推を介して概算することができる。
【0233】
更に又、実際の用量及び日程は組成物を他の医薬組成物と組み合わせて投与するかどうかに応じて、あるいは、薬物動態、薬剤の性質及び代謝における個体間の相違に応じて変動する場合がある。同様に、量はインビトロの用途においては使用する特定の細胞系統に応じて変動する(例えば細胞表面に存在するアデノウィルスレセプターの数、又は、遺伝子転移に使用された特定のベクターがその細胞系統において複製する能力に基づく)。更に又、細胞あたりに添加すべきベクターの量はベクター内に挿入される治療用遺伝子の長さ及び安定性並びに配列の性質により変動する可能性があり、そして特に実験的に決定する必要があるパラメーターであり、そして、本発明の方法に固有ではない要因(例えば合成に関わるコスト)により変動する。特定の状況の緊急度に従っていかなる必要な調整も当業者が容易に行えるものである。
【0234】
以下の実施例は例示のために示すものであり、いかなる様式においても本発明の範囲を限定する意図はない。
【実施例】
【0235】
(実施例1:)
妊娠中にリラキシンによりターゲティングされると考えられる組織に対する、及び、リラキシンで処置された母親動物に係る新生仔の健康状態及び生存性に対するリラキシン投与の効果を雌性マーモセットサルにおいて試験した。リラキシンはサルの排卵、着床及び早期妊娠時にわたる期間に投与した。
【0236】
動物。雌性マーモセット(Callithrix jacchus)は係留育種群落内で若齢で健康な繁殖動物であり、制御された環境条件下に雄性動物と対にして生息させた。これらの条件下において、周期当たり受容雌性動物の90%で妊娠が生じる。動物の体重及び全身健康状態は研究開始直前に記録した。
【0237】
リラキシン。研究に使用した組換えヒトリラキシンはヒトリラキシンH2遺伝子の天然に存在する成熟産物と同一であり、そして、24残基のA鎖及び29残基のB鎖を含有している。これを1.5mg/ml又は5.0mg/mlのいずれかの濃度で使用し、ビヒクルとしてのpH5.0の20mM酢酸ナトリウム中に処方した。コントロール動物にはビヒクルのみ又はリンゲル生理食塩水溶液のいずれかを与えた。
【0238】
投与方法。黄体期第12日にPGF2α(0.8μg)を筋肉内注射することにより雌性マーモセットにおいて交配周期を制御するために黄体退行を誘導した(Summersら,1985,J Reprod.Fert,73:133−138)。PGF2α注射当日を34日間の研究の第1日とした。サル2匹に対し、移植28日浸透圧ポンプ(Alzet,model#2004;3.0cmx0.7cm;Alza Corp.,Palo Alto,CA)を介してリラキシン連続皮下注入(12μg/kg/日、0.25μL/時)により投与した。コントロールサル1匹には同一の様式でビヒクル/食塩水で処置した。処置は、研究第4日に開始し、28日間継続した。即ち投与は排卵直前から胚着床後10〜12日までに渡るものであった。用量はマーモセット(A.Einspanier,personal communication;Steinetzら,1995,Biol.Reprod.53:834−839)及びヒト(Stewartら,1990,J.Clin.Endocrin.Metab.70:1771−1773)において着床前後の期間及び妊娠早期に測定されるものの約2倍のレベルである2ng/mlのリラキシンの循環レベルが達成されるように選択した。ポンプはケタミン/アトロピン/ロムパン麻酔下に頚部後方に皮下移植した。被験体は雄性動物の接触から1〜2日間隔離し、治癒させた。更に2匹の追加のサルをリラキシンの1日2回筋肉内注射によって処置した(48ng/kg/日)。更に別のコントロールサルにはビヒクル/食塩水を1日2回筋肉内注射によって処置した。
【0239】
子宮内膜の厚みは投与期間中は3回、そして投与の後は2日に1回、超音波診断により測定した。授乳期は新生仔の正常な授乳の能力及び子宮の退縮を記録した。
【0240】
経腹超音波診断は非沈静化及び未剃毛の動物に対し、7.5及び10MHzのメカニカルプローブを装着したESAOTE超音波系を用いて実施した(Oerkeら,1995,Am.J.Primatol.36:1−13;Oerkeら,1996,Am.J.Primatol.39:99−113)。
【0241】
結果。全6匹の雌性マーモセットは全て投与中の交配周期の間に妊娠した。リラキシンで処置した動物はコントロール群よりも実質的に肥厚した子宮内膜組織を有していることがわかった(図1及び表I)。新生仔の出生はリラキシンを投与した4マーモセットのうち3匹及びビヒクルを投与した両方のマーモセットでは無事に行われた。母動物当たりの新生仔数は2〜3であり、これはこの群落のこの種では正常であった。リラキシン処置マーモセットはビヒクルのみで処置した動物よりも実質的に高値の出生時体重を有する新生仔を出産した(表II)。母動物の1匹の新生仔が子宮内において在胎期間終了時に死亡し、検査のために帝王切開して取り出したが、その死亡は、恐らくは第1子がその大型の体型のために産道を通過できなかったことに起因するものであった。この母動物は早朝に出産し、分娩中に観察者が不在であった。早期発見できれば新生仔は帝王切開により救済できたと考えられる。3匹の新生仔は目視による観察では、この種の通常よりも大型であった以外は正常であり、標準的な剖検では先天異常は無かった。母動物は完全に回復し、母乳分泌し、正常な子宮退縮が観察された。
【0242】
【表1】

子宮内膜厚みは超音波診断により測定した。
子宮内膜厚みは第6日には薄膜すぎるために超音波診断では定量できず、この時点はこの表には含めなかった。
【0243】
【表2】

*第34日における胎仔数/胎嚢数、
**品胎仔の死亡は推定第1子の産道通過不能による。
【0244】
(実施例2:)
リラキシン投与の(1)妊娠中にリラキシンによりターゲティングされると考えられる組織、及び、(2)リラキシンで処置された母親動物に生まれた新生仔の健康状態及び生存性に対する効果を雌性Old Worldカニクイザル、Macaca fascicularisにおいて試験した。これらのサルにおける内分泌シグナル及び着床時期はヒトで観察されるものと極めて類似している。周期の黄体期における卵巣ホルモンの生産はサルとヒトで同様であり、両方の周期は子宮内膜の脱落により終了する。黄体期及び着床前後の期間における循環系中のリラキシンのレベルはヒト及びサルにおいてそれぞれ約50pg/ml及び40pg/mlである。着床はサルでは受精の9日後に起こり、ヒトでは約2日早く起こるが、栄養膜による黄体の捕獲は着床後3日の増大した絨毛性ゴナドトロピンの生産を伴って両方の種において同様に起こる。黄体による増強されたリラキシン及びプロゲステロンの放出並びに卵巣による増大したエストロゲンの分泌はM.fascicularisとヒトの両方において受胎に応答して起こる。約1ng/mlのリラキシンレベルが両方の種の妊娠雌において報告されている。最後に、リラキシンレセプターLGR7はヒト及びカニクイザルの両方の子宮内膜において検出されている。
【0245】
着床及び妊娠早期の研究を困難にする可能性のあるサルにおける交配及び天然の受胎の予期せぬ変動は体外受精(IVF)及び胚転移(ET)の技術を用いることにより回避することができる。以前の研究によればM.fascicularisにおいて一部良好な結果が得られており、自然周期にレシピエント当たり移植した1〜4個の新鮮な胚又は凍結解凍胚を用いて8.3〜12.0%の着床率が達成されている。本研究はより最近開発された技術を使用している(例えばTrouson AOら,Med.J.Aust.,1993,158:853;Zelinski−Wooten MBら,Hum.Reprod.,1995,10:1658−1666;Shaw JMら,「Cryopreservation of oocytes and embryos」,Trounson AOおよびGardner DK(編),Handbook of In Vitro Fertilization,CRC Press,Boca Raton;2000:373−412;Trounson AOら,J Reprod Fertil.,1982,64:285−294を参照できる)。
【0246】
(材料及び方法)
特段の記載がない限り、薬品類はSigma Chemical Co.,(St.Louis,MO,USA)より入手した。全ての実験の方法はBogor Agricultural University,Bogor,IndonesiaのMonash Universityの胚生物学の施設において実施した。実験はInstitutional Animal Care and Use Committee, Bogor Agricultural Universityにより認可されている (National Institutes of Health 認可番号A5287−01)。雄性及び雌性の動物は術前及び術後の鎮痛剤;ケトプロフェン(7.5mg/kg、IM)及びブトルファノール(0.15mg/kg、IM)と組み合わせたケタミン(25mg/kg、IM)により麻酔した。
【0247】
(卵母細胞の収集及び調製)
性的に成熟したM.fascicularisの雌を卵母細胞採取の前の3周期の規則性に関してモニタリングした。卵母細胞のドナーは月経開始後2日に開始し、11〜13日継続して組換えヒト濾胞刺激ホルモン(rhFSH、60IU/日、IM;Serono Pty Ltd,Sydney,NSW,Australia)により卵巣過剰排卵とした。濾胞の成熟は最終FSH投与の翌日にヒト絨毛ゴナドトロピン(尿中hCG、1000IU、IM;Serono Pty Ltd,Sydney,Australia)の投与により終了させた。卵巣の発達は超音波でモニタリングした(5.0MHz経腹カーブドアレイプローブ;Sonosite,Bothell,WA,USA)。卵母細胞はhCG投与の28〜30時間後に開腹により麻酔動物から回収した。滅菌卵子吸引キット(Cook IVF,Brisbane,QLD,Australia)を用いて120〜125mmHgの陰圧で濾胞を吸引した。
【0248】
採取された卵母細胞をヒアルロニダーゼ(80IU/ml)で処理することにより拡張した卵丘細胞集団を除去し、核成熟状態に従って分類した(卵核胞、GV;中期I、MI;中期II、MII)。MII卵母細胞を3.0mg/mlのウシ血清アルブミン(HTF+BSA)を添加したヒト卵管液培養培地(HTF、Chemtec Pty Ltd,VIC,Australia)の微小液滴(50μl)内に入れ、鉱物油で被覆した。卵母細胞を収集後4〜6時間培地内に静置させ、その後IVFに付した。
【0249】
(精子の収集及び調製)
精巣上体の精子を穿刺生検により麻酔雄性動物16匹から収集し、3.0mg/mlのウシ血清アルブミンを添加したHEPES緩衝ヒト卵管液(mHTF、Chemtec Pty Ltd,Melbourne,VIC,Australia)(mHTF+BSA)中に移した。精子をmHTF+BSAで洗浄し、700gで10分間遠心分離した。上澄みを捨て、精子ペレットを新しいmHTF+BSAで重層した。運動性の精子富化の画分は、精子を15分間新しいmHTF+BSA内に遊走させることにより得た。運動性の精子を37℃空気中5%CO2の雰囲気のHTF+BSA中に移し、60分間ジブチリルcAMP(0.1mM)及びカフェイン(0.5〜1.0mM)による活性化に付した後に、IVFに使用した。
【0250】
(体外受精及び胚の凍結)
卵母細胞はMII卵母細胞に過剰活性化した精子のアリコート(最終濃度250,000運動性精子/ml)を添加することにより体外受精させた。卵母細胞を空気中5%CO2の雰囲気下12〜15時間精子の存在下インキュベートし、その後新しいHTF+BSAに移した。受精は2個の前核の存在及び第2の極体の排出として記録した。接合子を5%CO2、5%O2及び90%N2の雰囲気下37℃でHTF+BSA中でインビトロで培養した。発生の4及び8細胞期に到達した胚を前述の方法に従って凍結(Shaw JMら,Trounson AOおよびGardner DK(編),Handbook of In Vitro Fertilization,CRC Press,Boca Raton;2000:373−412)することにより、胚の転移がレシピエント雌の排卵の推定範囲内に時間限定されるようにした。慨すれば、胚をまず室温で10分間4mg/ml BSAを添加したリン酸塩緩衝食塩水(PBS+BSA)に入れた。次に胚を更に10分間PBS+BSA中1.5Mの1,2−プロパンジオール(PrOH)を含有する溶液に移した。次に胚をPBS+BSA中1.5MのPrOH及び0.1Mノスクロースを含有する溶液に移し、即座に予め洗浄した0.25ccの凍結ストロー(ストロー当たり胚2個)内に入れた。胚の入ったストローをヒートシールし、そして開始温度20℃の制御速度凍結器中に移した。胚を分当たり−2℃で−6℃まで冷却し、そして播種した。−6℃で10分間保持した後、胚を分当たり−0.3℃で−40℃まで冷却し、次に液体窒素内に直接浸積し、保存した。
【0251】
(胚レシピエント及び胚転移)
レシピエント雌は3周期の規則性についてモニタリングした後に胚転移に付し、2群に無作為に割り付けた後に浸透圧ポンプ移植に付した。ポンプ(モデル2004、Alza Corporation,Palo Alto,CA,USA)を用いて8μg/kg/日の用量でrhRLX(ロット番号63601、Connetics Corporation,Palo Alto,CA,USA)またはビヒクル単独(25mMアセテート、pH5.5)の21日間の送達のために使用した。rhRLXの用量は以前に実施されたヒトにおける臨床試験(Seibold JRら,J.Rheumatol.1998;25:302−307)並びにカニクイザルにおける小規模な薬物動態試験に基づいて選択し、これらはこの用量が1〜2ng/mlの定常状態の循環リラキシンレベルをもたらすことを確認するものであった(データ示さず)。これらのレベルは妊娠女性及びサルにおいて観察される濃度に近似しており、早期黄体期の0.03ng/ml〜妊娠早期の1.0ng/mlの範囲である。ポンプは製造元の説明書に従って負荷し、37℃でプライミングした。浸透圧ポンプの負荷量が適切であることは調製元の説明書に従って計量することにより確認した(平均充填効率98.9±0.8%が達成された)。
【0252】
ポンプは胚転移(第7日)の7日前に麻酔下でレシピエントサルの背部に皮下移植した(第0日)。雌11匹にリラキシンを投与し、11匹にビヒクルのみを与えた。IVFを通して生産された胚を確立された方法(Balmaceda JPら,Fertil.Steril.,1986;45:403−406)に従って解凍した後に培養培地において(HTF−BSA)胚転移に付した。4個の生存胚(解凍後卵割球生存>50%)を以前に記載(Dukelow WRら,J.Med.Primatol.1979;8:39−47)された自然周期における予測される排卵期間範囲(第13〜17日)の間に22匹のレシピエント雌の各々に転移させた。慨すれば、排卵日(DO)の周期長(CL)に対する比(DO/CL)を用いて排卵期間の予測中点を同定し、これに2日を加算して胚転移の日を決定した。胚は滅菌胚転移カテーテル(Cook IVF,Brisbane,QLD,Australia)を用いて各ファローピウス管(n=2/卵管)の膨大領域中央の内部に卵巣采を通過する開腹において転移させた。解凍した胚の一部はHTF−BSA中の培養の後にインビトロの発達について分析した。
【0253】
(子宮内膜厚み及び胚移植)
着床、妊娠率、子宮内膜機能及び胎盤発育に対する着床前後の期間における外因性の高度に精製された組換えヒトリラキシンへの全身曝露の効果を測定した。子宮内膜の変数は処置群に関して盲検とした個人(E.H.)により評価及び分析した。子宮内膜厚みはポンプ移植の後の第0、7、21及び28日に横断面及び矢状面において超音波(5.0MHz経腹カーブドアレイプローブ;Sonosite,Bothell,WA,USA)によりモニタリングした。評価は各面について2測定が可能であった場合に信頼性ありと見なした。両方の面における測定を用いて統計学的分析を行い、平均値を結果において報告した。胎嚢および胎仔の数は第21及び28及び67日に記録した。胎盤の大きさ(周囲及び表面積)もまた第67日に超音波によりモニタリングした。第67日の胎盤の大きさの測定の後に妊娠を終了させた。
【0254】
処置群当たりの着床率は着床胚数/転移胚総数として報告し;この研究においては、処置群当たりの転移胚の総数は44であった。妊娠率は妊娠レシピエント/レシピエント総数のパーセントとして表示した。多胎妊娠率は多胎/妊娠レシピエント数のパーセントとして表示した。
【0255】
非ヒト霊長類における着床出血又は胎盤兆候、胚着床に関連する現象は、リラキシン処置及びビヒクル処置の妊娠における、出血兆候観察の初日(開始)及び胚転移後の目視可能な膣内出血の総日数(全体)をモニタリングすることにより定量した。胚転移が妊娠をもたらさなかった場合に起こる月経もまた目視可能な膣内出血の日数として計算した。
【0256】
血清中ホルモン分析
血清中のrhRLXレベルはDanielson Lら,J.Clin.Invest.,1999;103:525−533に詳細に報告されている通り、ヒトリラキシン(H2)に特異的な定量的ELISAにより測定した。サンプルをまず1:2希釈し、標準曲線と比較した(11.72〜750pg/ml、n=7、r=0.99、t=161.5、P<0.0001)。標準曲線より高値の値を示したサンプルは1:10希釈し、再試行した。濃度は希釈ファクターについて補正した。アッセイ間及びアッセイ内の変動係数はそれぞれ4.2%及び7.2%であった。血清中ホルモンの値は統計学的分析の前に対数変換した。この研究の前に実施した分析によれば、正常な妊娠の間に観察されるレベルにおけるカニクイザルリラキシンは(約1ng/ml)は本アッセイの検出限界未満であった(データ示さず)。
【0257】
データ分析
子宮内膜厚み、着床出血及び胎盤の大きさ(周囲及び表面積)に関するデータは平均±平均の標準誤差として表示した(SEM;n=4〜11匹)。子宮内膜の厚み又は血清中リラキシンレベルに対する処置の効果の有意性は1反復測定による二元配置ANOVAの後にスチューデントのt検定により評価した(Zar JH,Biostatistical analysis,Prentice Hall,New Jersey;1980)。二元配置ANOVAが厚み及び血清中リラキシンレベルに対して時間(日数)の効果を示した場合は、対応のあるt検定を用いて1元ANOVAの後に対比較を行った。着床出血および胎盤の大きさにおける有意差はスチューデントのt検定を用いて調べた(Zar JH,1980)。着床及び妊娠率における有意差は、フィッシャーの直接確率検定を使用した第67日における多胎妊娠率の分析を除き、カイ自乗検定により調べた(Zar JH,1980)。差はp<0.05の場合に有意と見なした。
【0258】
(結果)
(ドナーの特性及び胚の生産)
ドナー雌の周期の間隔(月経から月経)及びドナー周期の前の3周期における月経の持続時間は定期的であり、周期間隔は31.3±0.7日〜33.9±2.9日であり、月経持続時間は2.9±0.2日〜3.7±0.3日であった。合計413個の卵母細胞を10匹の雌性動物から取り出し、そして340個はMIIと分類され、IVF方法において使用するのに適するものであった。精子曝露したMII卵母細胞のうち222個は受精し(60+12%)、そして212個の受精胚は精子曝露の48時間以内に8細胞期まで卵割した(95+3%)。不良品質精子、薬品過剰活性化への精子の不良応答、及び/又は不良品質の卵母細胞(10過剰排卵周期のうちの2つ)による受精失敗について調節した受精及び卵割の比率は、それぞれ、80+8%及び95+4%であった。
【0259】
(レシピエントの処置及び胚の転移)
レシピエントの周期間隔及びポンプ移植前3周期における持続時間は定期的であり、周期間隔は29.4±0.8日〜32.6±1.6日であり、周期持続時間は3.6±0.2日〜3.6±0.3日であった。レシピエントの体重はポンプ移植時(ビヒクル処置群2.65+0.31kg;リラキシン処置群2.81+0.36kg)及び7日後の胚転移時(ビヒクル処置群2.67+0.35kg;リラキシン処置群2.77+0.32kg)で同様であった。
【0260】
リラキシン処置動物及びビヒクル処置動物への胚の転移はそれぞれ90%±3.3%及び89%±3.1%の解凍後細胞生存率を示した。リラキシン処置動物及びビヒクル処置動物の左及び右の卵管に転移させた第1及び第2の胚はその細胞生存率において有意差はなく、解凍後細胞生存率は86.3±6.2%及〜97.7%±2.3%であった。解凍後50%細胞生存を示した解凍胚の全て(転移に適さない)は培養物中で孵化胚盤胞まで発生した(4/4、100%)。50%未満の卵割球生存を示していた胚は解凍後8細胞期を超えて発生することはできなかった(0/3、0%)。
【0261】
(血清中ホルモン分析)
ビヒクル処置群又はリラキシン処置群の何れにおいてもポンプ移植前の第0日に検出可能なrhRLXレベルを有している動物はなかった。rhRLXは観察時点(第7、21、28又は67日)の何れにおいてもビヒクル処置動物においては検出されなかった。リラキシン処置群においては、10/11匹が第7日に循環系中のrhRLXのレベルを示した。これらの動物における平均の第7日の血清中濃度は1.2+0.37ng/ml(n=10)であった。第7日に検出可能なrhRLXのレベルを有していなかったサルは観察時点の何れにおいてもrhRLXのレベルを示すことができず;従って、この雌はリラキシン処置群及び以下に記載する全分析から除外した。第21日において、リラキシン群におけるrhRLXレベルは平均で3.7+1.3ng/ml(第7日と比較してNS)であった。第28及び67日までに、血清中rhRLX濃度はそれぞれ0.20+0.10ng/mL及び0.04+0.04ng/mLまで低下した(それぞれ第21日と比較して、p=0.035及び0.03)。
【0262】
(子宮内膜の厚み及び胚の着床)
ビヒクル処置群の雌7匹及びリラキシン処置群の雌9匹において4音波測定日(第0、7、21、28日目)の全てにおいて4回の子宮内膜厚み測定が技術的に可能であった。子宮内膜の厚みに対する処置及び時間の有意な効果が観察された(相互作用についてp<0.0001)。観察時点におけるビヒクル(n=7)及び投与(n=9)群における平均厚み測定の比較によれば、第7日におけるビヒクル及びリラキシン群の平均厚みは有意差があった(p=0.01)(表III)。ビヒクルコントロールに関しては有意な時間の効果は観察されなかった(p=0.10)が、リラキシン群に関しては有意な時間の効果が明らかであった(p<0.0001)。この群においては、第7日の子宮内膜厚みは0.32+0.02cmであり、第0日(0.23+0.01cm)からの有意な厚み増大であった(p=0.003)。リラキシン処置群の雌9匹全てが第0〜第7日に子宮内膜厚みの増大を示したが、ビヒクル処置群の7匹中5匹が増大を示し、1匹は不変、そして1匹は厚みの減少を示していた(図1)。厚みのリラキシン投与関連の増大は 一過性であり、即ち第21日までに差は有意でなくなり、そして第28日には差は第0日と比較して小さくなっていた(p=0.035)。
【0263】
11匹のビヒクル処置レシピエントに転移された44個の胚のうち、13個は第21日に着床し、ビヒクル群の着床率は29.5%であった(表IV)。これは第21日にリラキシン処置群で観察された42.5%(17/40胚)の着床率より低値であった。リラキシン処置群の着床率は第28及び67日においてもビヒクル処置群で観察されたものより高値であった。第21日における全体的妊娠率は両方の群において高値であり;即ち、ビヒクル処置群で91%(10/11)及びリラキシン処置群で80%(8/10)であった。第67日における持続妊娠率はビヒクル処置群で54.5%(6/11)及びリラキシン処置群で50.0%(5/10)であった。ビヒクル処置群では初期に3例の多胎妊娠(3例の双胎仔妊娠)があった(3/9、33%)が、第67日まで残存するものはなかった(0/6、0%)。リラキシン処置群における多胎妊娠数は(双胎仔3例、品胎仔3例)は当初6例(6/8、75%)であり、うち3例は第67日まで残存していた(3/5、60%;第67日のビヒクル処置群の妊娠と比較してp=0.06)。これらの残存する妊娠のうち、2例は双胎仔および1例は品胎仔であった。従ってリラキシンは、複数の胎仔の発育が持続されるように子宮内への血流を増大させた可能性がある。ビヒクル処置群の妊娠雌においては(n=6)、胎盤兆候関連出血は胚転移後19.7±2.3日に始まり、平均9.8±2.6日持続した。リラキシン処置妊娠例(n=5)において、着床出血は胚転移後12±0.8日に始まり(ビヒクル群と比較してp<0.02)、そして平均19.2±2.2日持続した(ビヒクル処置妊娠例と比較してp<0.05)。ビヒクル処置群の非妊娠雌(n=4)における月経は胚転移後20.0+3.8日に起こり、3.3+0.3日持続し、別の1匹は月経の兆候を示さなかった。非妊娠リラキシン処置雌においては胚転移後16.2+1.5日に月経が開始し、4.0+0.3日持続した(n=5)(ビヒクル処置群と比較してNS)。
【0264】
第67日においては、超音波による胎盤の表面積及び周囲の測定は、6匹のコントロール妊娠例中4匹及び5匹のリラキシン処置妊娠例中3匹において技術的に可能であった。他の雌では胎仔の運動により測定が妨害された。胎盤表面積はビヒクル処置群及びリラキシン処置群でそれぞれ0.59+0.17cm及び0.87+0.18cmであった。胎盤周囲はビヒクル処置群及びリラキシン処置群でそれぞれ2.73+0.68cm及び3.37+0.33cmであった。即ち胎盤表面積及び周囲の増大がリラキシン処置被験体において観察された。レシピエントのサルはおそらくは試験開始時に受精しており、内因性のサルリラキシンの正常なレベルを示していた可能性があるという事実は、着床、妊娠率、胎盤発育及び他の胎仔の発育関連要因に対する外因性に与えられたリラキシンのより顕著な作用が示されないように試験を偏向させたかもしれない要因であることは否定できない。
【0265】
子宮内膜厚みに対するリラキシンの注入の正の効果が本試験において観察された。ヒトにおいては、子宮内膜の厚みは、正常な月経周期の間、早期の増殖期の最低点から早期/中期の黄体期の間の最高点まで持続的に増大し、この最高点で月経1〜2日前まで維持される。この増大は組織で起こっている生理学的改変(子宮内膜血流及び腺分泌の増大及びホルモン環境の影響下に起こる間質前脱落膜の変化を含む)を反映していると考えられる。即ち厚みの測定は正常に発達している子宮内膜の一般的な記述的特徴として有用であり得、そして実際、異常に薄い子宮内膜(理由に関わらず、IVF後の高い着床失敗率を有している)を同定するために使用されている。本発明者等の結果はカニクイザルの子宮内膜の厚みに対する統計学的に有意な正の影響を外因性リラキシンの注入が有していたことを示している。厚みの増大は腺及び間質の要素の両方がリラキシンレセプターを保有しているため、子宮内膜内の複数の細胞型に対するリラキシンの調和した効果によるものと考えられる。
【0266】
カニクイザルへのリラキシンの投与は又増大した胎盤兆候又は着床出血を伴っていた。胎盤兆候は一部の非ヒト霊長類の種において妊娠雌で交配後数日に生じる自然の現象である。出血はサルにおける胚の着床に関連していると考えられ、そしてヒトの状況とは反対に妊娠の正の兆候である。リラキシン処置はビヒクル単独処置と比較してM.fascicularisにおける胎盤兆候の初回発生までの有意に短い時間及び着床出血の持続時間の有意な増大を伴っていた。従ってリラキシンは子宮内膜/胎盤への血流に対して正の影響を有すると考えられる。
【0267】
【表3】

a:各子宮内膜厚みの測定は2矢状及び2横断測定の平均であり、ビヒクル(n=7)およびリラキシン処置(n=9)群における平均±SEMとして表示する。
b:t検定によりビヒクル群における第7日と比較してp=0.01
c:対応のあるt検定においてリラキシン処置群における第0日と比較してp=0.003
d:対応のあるt検定においてリラキシン処置群における第0日と比較してp=0.035
【0268】
【表4】

n=着床率のカテゴリーにおける転移胚数、妊娠率および多胎妊娠率のカテゴリーにおける雌動物数
フィッシャーの直接確率検定(片側)によるビヒクル処置雌動物における第67日における多胎妊娠率と比較してp=0.06
実施例3:
胎盤肝細胞成長因子(HGF)発現の低下はSGA、IUGRおよび子癇前症を伴っている(Dokrasら,2001,Biol Reprod 65:1278−1288;Kaumaら,J Clin Endocrinol Metab 84:4092−4096)。HIF−1αはVEGF発現および他の血管形成性サイトカインの公知のアップレギュレーターであり、そして発達中の胎盤によるグルコースの取り込みに関与しているグルコーストランスポーター1の発現の増大にも関与している。HIF−1αタンパク質発現のリラキシンアップレギュレーションは低酸素条件下における活性化のために使用できるHIF−1αを生成すると考えられる。
【0269】
本実施例のデータはIUGR及び子癇前症において欠損している分子をリラキシンが誘導することを示す。特に、このデータは(1)リラキシンが定量的PCR及びELISAで検出されるとおり子宮内膜の間質細胞におけるHGFの発現を増大させ;そして(2)リラキシンが正常酸素条件下において子宮内膜間質細胞におけるHIF−1αの発現を増大させることを示している。
【0270】
NHE細胞におけるHIF−1α転写産物の存在量のリアルタイム定量的RT−PCR測定。NHE細胞に12時間及び24時間ビヒクル又はrhRLX(0.1〜100ng/ml)で処置した。全RNAを単離し、HIF1α転写産物の発現を定量し、18SRNAに対して標準化した。コントロール培養物におけるHIF−1α/18S発現のレベルは1.0と表示した。rhRLXは未処置コントロールと比較してHIF1α転写産物の用量依存的な有意なアップレギュレーションを誘発した(図2)。
【0271】
NHE細胞におけるHGF転写産物の存在量のリアルタイム定量的RT−PCR測定。NHE細胞に24時間及び48時間ビヒクル又はrhRLX(0.1〜100ng/ml)で処置した。全RNAを単離し、HGF転写産物の発現を定量し、ハウスキーピング遺伝子GAPDHに対して標準化した。コントロール培養物におけるHGF/GAPDH発現のレベルは1.0と表示した。rhRLXは24時間において未処置コントロールと比較してHGF転写産物の4倍の有意なアップレギュレーションを誘発した。転写産物の2〜3倍の誘導が48時間において観察された(図3)。
【0272】
rhRLXによるNHE細胞における分泌HGFの刺激。HGFタンパク質を市販のELISAキットを用いてrhRLX処置(0.1〜100ng/ml)の24時間後のコンディショニングされた培地中で定量した。rhRLXはHGFタンパク質の用量依存的なアップレギュレーションを誘導した(図4参照)。
【0273】
明細書中で言及した全ての特許及び刊行物は本発明の関わる分野の当業者の技術水準を示すものである。全ての特許及び刊行物は個々の観光物が特に個別に参照により組み込まれるべく示されているがごとく、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0274】
上記した明細書は当業者に本発明を実施可能とさせるために十分である。実際、分子生物学、医学または関連分野の当業者には自明である本発明を実施するための上記手段の種々の変更は以下の請求項の範囲内にあると意図される。
【図面の簡単な説明】
【0275】
【図1】図1はビヒクル及びリラキシン投与雌性カニクイザルにおける第0日〜第7日の子宮内膜厚みの変化を示す。2回の子宮内膜厚みの測定を各雌につき矢状面及び横断面の各々につき行い、平均して各雌の第0及び7日の1回の厚み測定とした。リラキシン群の全雌につき厚みは増大(p=0.003、対応のあるt検定)したのに対し、ビヒクル投与群では雌7匹中5匹において増大していた(NS)。
【図2】図2は投与後12時間及び24時間のNHE細胞におけるHIF−1α転写産物の存在量のリアルタイム定量的RT−PCR測定の結果を示す。HIF−1αmRNAのrhRLX用量依存的(0.1〜100ng/ml)増大が観察されている。呈示したデータは平均±SD;n=3の独立した組織培養実験;*Bonferroniのt検定により未投与対照と比較してP<0.05。
【図3】図3は投与後24及び48時間後のNHE細胞におけるHGF転写産物の存在量のリアルタイム定量的RT−PCR測定の結果を示す。HGFmRNAのrhRLX用量依存的(0.1〜100ng/ml)増大が観察されている。呈示したデータは平均±SD;n=3の独立した組織培養実験;*Bonferroniのt検定により未投与対照と比較してP<0.05。
【図4】図4はrhRLXによるNHE細胞における分泌HGFタンパク質のrhRLXによる刺激を示す。HGFタンパク質のrhRLX用量依存的(0.1〜100ng/ml)増大が観察されている。呈示したデータは平均±SD;n=3の独立した実験;*Bonferroniのt検定により未投与対照と比較してP<0.05。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
子宮内胎仔の発育速度を増大させる方法であって、該方法は、胎仔の発育速度を増大させるために十分な時間リラキシンの治療有効量を妊娠哺乳動物に投与する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記リラキシンを妊娠の第1のトリメスターの間に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リラキシンを妊娠の第2のトリメスターの間に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記リラキシンを妊娠の第3のトリメスターの間に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記リラキシンを排卵時に開始して少なくとも2週間投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記リラキシンを排卵の前後に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記リラキシンを排卵の約1週間前及び約4週間後に投与する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
少なくともほとんど正常な出生時体重の出生をもたらすのに十分な量の前記リラキシンを投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも約1ng/mLの血清中濃度を維持するのに十分な量の前記リラキシンを投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記リラキシンを非経口投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記リラキシンを連続皮下注入により投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記リラキシンを10μg/kg/日と200μg/kg/日との間の用量で投与する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記リラキシンを膣内投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記胎仔の発育速度の増大を画像化技術により評価する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記画像化技術が、超音波画像化及び磁気共鳴画像化よりなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記妊娠哺乳動物が、子宮内発育遅延を有する胎仔を妊娠していると診断される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記診断が、画像化技術による、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記画像化技術が超音波画像化及び磁気共鳴画像化よりなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記哺乳動物が、胎仔子宮内発育遅延又は出生時低体重の危険性を増大させる状態を有している、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記状態が、狼瘡、甲状腺機能亢進症、高血圧、子癇前症、マラリア感染、血清中抗リン脂質抗体、再発性の自然流産の病歴、子宮内発育遅延の病歴、出生時低体重の小児を有する病歴、多胎妊娠、及び、生体外受精及び胎芽移植による妊娠よりなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記哺乳動物が、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記哺乳動物が、非ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記哺乳動物が、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、シカ、イヌ、ネコ、ラット及びマウスよりなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
妊娠哺乳動物における自然流産の危険性又は発生率を低下させる方法であって、該方法は、自然流産の危険性又は発生率を低下させるために有効なリラキシンの量を該妊娠哺乳動物に投与する工程を包含する、方法。
【請求項25】
前記リラキシンを妊娠の第1のトリメスターの間に投与する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記リラキシンを妊娠の第2のトリメスターの間に投与する、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記リラキシンを排卵時に開始して少なくとも2週間投与する、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記リラキシンを排卵の前後に投与する、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記リラキシンを排卵の約1週間前及び約4週間後に投与する、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
少なくとも約1ng/mlの血清中濃度を維持するのに十分な量の前記リラキシンを投与する、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
被験体が胎盤不全に関連する状態を発症する増大した危険性を有しているか否かを決定するための方法であって、以下の工程:
該被験体におけるリラキシン発現のレベルを測定する工程;
該測定されたリラキシンのレベルを適切なコントロール被験体における正常な胎盤発達に関連したリラキシンのレベルと比較する工程、
を包含し、
ここで、低値のリラキシン測定レベルは、該状態を発症する増大した危険性を有していることに相関する、方法。
【請求項32】
胎盤不全に関連する前記状態が、IUGR、SGR及び子癇前症よりなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記リラキシン発現のレベルが、血清中で測定される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記リラキシン発現の測定レベルが、組織中で測定される、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記リラキシン発現のレベルが、リラキシンをコードする遺伝子の転写のレベルを決定する工程により測定される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
被験体が胎盤不全に関連する状態を発症する増大した危険性を有しているか否かを決定するための方法であって、以下の工程:
該被験体におけるリラキシンをコードする遺伝子の少なくとも一部のヌクレオチド配列を決定する工程、
を包含し、
ここで、該リラキシンの低下した発現又は活性に関連するヌクレオチド配列の同定が、該被験体が該状態を発症する増大した危険性を有していることを示す、方法。
【請求項37】
前記状態がIUGR、SGR及び子癇前症よりなる群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項38】
被験体が胎盤不全に関連する状態を発症する増大した危険性を有しているか否かを決定するための方法であって、以下の工程:
リラキシンの翻訳後のプロセシングに関する酵素をコードする遺伝子の少なくとも一部のヌクレオチド配列を決定する工程、
を包含し、
ここで、リラキシンの低下した活性に関連するヌクレオチド配列の同定が、該被験体が該状態を発症する増大した危険性を有していることを示す、方法。
【請求項39】
前記状態が、IUGR、SGR及び子癇前症よりなる群から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記リラキシンが、H1リラキシン、H2リラキシン又はH3リラキシンよりなる群から選択される、請求項36又は38に記載の方法。
【請求項41】
前記リラキシンが、H2リラキシンである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記被験体が、妊娠している、請求項31、36または38に記載の方法。
【請求項43】
前記被験体が、以前に子宮内発育遅延、胎盤不全又は子癇前症と診断されている、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記被験体をリラキシンの治療量で処置する工程を更に包含する、請求項31、36、38又は43に記載の方法。
【請求項45】
被験体における胎盤不全を処置するための方法であって、以下の工程:
該被験体における胎盤不全を診断する工程、及び、
該胎盤不全を処置するためにリラキシンの治療有効量を投与する工程、
を包含する、方法。
【請求項46】
前記被験体のHIF−1α又はHGFのレベルが増大したか否かを決定するために、該被験体を試験する工程をさらに包含する、請求項45に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−535574(P2007−535574A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511088(P2007−511088)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【国際出願番号】PCT/US2005/015248
【国際公開番号】WO2005/115435
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(506313888)バス メディカル, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】