説明

リング状ボンド磁石

【課題】可撓性、柔軟性、及び加工性を低下させる事無く、磁気センサやリードスイッチを作動させるための十分な磁力性能を確保する事が出来るリング状ボンド磁石を安価に提供する。
【解決手段】硬磁性材料をゴムまたは樹脂材料に練り込んだリング状硬磁性ボンド磁石の一部に、軟磁性材料をゴムまたは樹脂材料に練り込んだリング状軟磁性体を一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング状ボンド磁石に関するものであり、更に詳しくは、磁気センサにより動作するリードスイッチ(近接スイッチ、位置検出)の磁力源として好適に用いられるリング状ボンド磁石に関するものである。
更に詳しくは、エアシリンダーや油圧シリンダーに用いるリードスイッチ等の磁力源として最適なリング状ボンド磁石に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気異方性を有する磁性材料、たとえばフェライト系や希土類系等を、ゴムや樹脂等のポリマーに混錬、分散させた後、圧縮成形や射出成形により所定の形状に成形させ、この成形過程あるいは成形後に強磁界を印加させる磁性材料の磁化容易軸の配向、磁気異方性処理を行なうことで、可僥性、柔軟性、加工性を有しつつ、磁性材料の持つ磁力により磁石としての機能をもたせたリング状ボンド磁石が提案された。
【0003】
この種ボンド磁石は、たとえばリードスイッチ等の磁力源に使用されている。
リードスイッチは、磁力源からの磁力により磁性を有する強磁性体のリードが、接触の動作によりスイッチ動作するものである。
また、同様に磁気センサと併用する形で、位置検出を行なう為の位置センサの磁力源としても使用されている。
【0004】
一般的に、この種ボンド磁石は、磁性材料自身を焼結させた磁石に比べ、一般に磁力性能は低いが、可僥性、柔軟性、加工性が高いことにより、磁性材料の焼結体よりも形状自由度、寸法自由度が高く、変形が容易であると共に、腐食、変質に強い等の利点がある。
一方で、この種ボンド磁石は、磁力性能が低い為、リードや磁気センサとの相対的な距離を短くせざるを得ず、レイアウト自由度が減少する欠点が有った。
この様な観点から、磁性材料を焼結した磁石でも同様であるが、特にボンド磁石において、磁力性能の向上が望まれていた。
【0005】
ボンド磁石の中でも、図2に示す様に、特にリング状の形状を有し、厚み方向に磁化方向を持つリング状ボンド磁石100は、軸等の円柱に装着され、外局部の磁気センサ、リードスイッチが動作する磁力源として使用されている。
具体的には、直動シリング一等であり、外周部に設置された磁気センサによりシリンダーの位置検出を行なう構造のものである。
この種リング状ボンド磁石は、リング状ボンド磁石の一部を切断、変形させることが容易で有る為、軸に容易に装着可能なこと、及びシリンダーの動作油、外部の水等による腐食耐性に優れる等の特徴を有している。
【0006】
しかし、外周部の磁気センサやリードスイッチを作動させるための磁力性能を確保するためには、多量の磁性材料の配合量が必要であるが、多量の磁性材料を配合したボンド磁石は、ボンド磁石の特徴である可僥性、柔軟性、加工性を低下させる。
また通常、厚み方向に磁化方向を有するリング状ボンド磁石は、外側と内側に磁力分布を持っている。
【0007】
しかし、一般的に軸等に装着されたリング状のボンド磁石は、外周部にある磁気センサ、リードスイッチが動作するための磁力源であるため、内側の磁力はまったく機
【0008】
能に関与しない。
すなわち、リードスイッチや磁気センサが感知する外周側の位置での磁力性能が確保されれば良い事になる。
【0009】
この様な観点から、リング状ボンド磁石の全体の磁力性能を向上させるのではなく、磁性粉末の配向方向を厚み方向にしながら実質的に外側に湾曲した配向とした提案がなされている。(特許文献1)
しかし、この提案では、成型時に磁性材を配向させるための磁石やコイルが、製品ごとに必要になる。
この結果、製品の設計変更や他品目への対応は高額な金型がその都度必要となる為、製造コストが嵩む問題を惹起した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−127508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ボンド磁石の特徴である可僥性、柔軟性、加工性を低下させる事無く、磁気センサやリードスイッチを作動させるための十分な磁力性能を確保する事が出来るリング状ボンド磁石を安価に提供できることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明にあっては、硬磁性材料をゴムまたは樹脂材料に練り込んだリング状硬磁性ボンド磁石において、
前記硬磁性ボンド磁石の一部に、軟磁性材料をゴムまたは樹脂材料に練り込んだリング状軟磁性体を一体化したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
請求項1記載の発明のリング状ボンド磁石によれば、ボンド磁石の特徴である可僥性、柔軟性、加工性を低下させる事無く、磁気センサやリードスイッチを作動させるための十分な磁力性能を確保する事が出来るリング状ボンド磁石を安価に提供出来る。
また、請求項2記載の発明のリング状ボンド磁石によれば、リング状ボンド磁石の外周側に配置された磁気センサやリードスイッチを作動させるのに好適である。
【0014】
更に、請求項3記載の発明のリング状ボンド磁石によれば、硬磁性ボンド磁石とゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体との一体化が容易である。
更に、請求項4記載の発明のリング状ボンド磁石によれば、耐熱性、耐油性が要求される箇所に好適に使用することが出来る。
【0015】
更に、請求項5記載の発明のリング状ボンド磁石によれば、特にピストンの位置センサーの磁力源として、好適に使用することが出来る。
更に、請求項6記載の発明のリング状ボンド磁石によれば、製造コストを低く抑える事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るリング状ボンド磁石の断面図。
【図2】従来技術に係るリング状ボンド磁石の断面図。
【図3】本発明に係るリング状ボンド磁石と従来技術に係るリング状ボンド磁石との外周側表面からの距離に対する磁束密度相対値を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明に係るリング状ボンド磁石は、図1に示す様に、硬磁性材料をゴムまたは樹脂材料に練り込んだ、断面矩形のリング状硬磁性ボンド磁石1であって、硬磁性ボンド磁石1の一部に、軟磁性材料をゴムまたは樹脂材料に練り込んだリング状軟磁性体2を一体化した構成としている。
【0018】
そして、硬磁性ボンド磁石1とゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体2とが同一のゴムまたは樹脂材料を使用して、圧縮成形により一体成形される。
また、ゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体2の径方向の幅は、硬磁性ボンド磁石1の径方向の幅の1/2以上としている。この事により、リング状ボンド磁石の外周側の磁束密度をより高める事が出来る。
具体的に使用した材料は、フッ素ゴムである。
このフッ素ゴムを使用する事により、リング状ボンド磁石が、ピストンの位置センサーの磁力源として好適に使用される。
【0019】
この様な構成とする事により、軟磁性材料による磁力の集束効果により、リング状のボンド磁石の内周側へ広がる磁力を外側に向けさせる事が可能となる。
この事により、リードスイッチや磁気センサが感知する位置での磁力性能を向上させることができるものである。
【0020】
この効果を概念的に表したものが図3である。
この図は、リング状ボンド磁石の外周側表面からの距離に対する磁束密度変化を示したものである。
縦軸は磁束密度相対値を表し、横軸は距離を表している。
実線は、図1に示した本発明に係るリング状ボンド磁石の磁束密度であり、破線は、図2に示した従来技術に係るリング状ボンド磁石の磁束密度である。
この図から明らかなように、軟磁性材料による磁力の集束効果により、ゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体2が存在しない従来のリング状ボンド磁石に比べ、明らかに磁力を外側に向けさせる効果が高まっている事が判る。
【0021】
更に、硬磁性ボンド磁石1とゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体2とが同一のゴムまたは樹脂材料を使用して、圧縮成形により一体成形している為、硬磁性ボンド磁石1とゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体2との間における剥離等の問題は生じない。
また、ボンド磁石の特徴である可僥性、柔軟性、加工性を低下させる事無く、磁気センサやリードスイッチを作動させるための十分な磁力性能を確保する事が出来る。
ただし、軟磁性材料は磁束を集束する効果が非常に大きいため、形状、寸法の設計が不十分であると、ゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体2自身に磁束が集束し、本来の目的であるリング状ボンド磁石の外側のリードスイッチや磁気センサが感知する位置での磁力の向上は見込めない可能性がある。
【0022】
また、ゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体2の寸法が大きいと、リング状硬磁性ボンド磁石1に配合された磁性材料の絶対量が低下することを招来する為、同様に磁力の向上は見込めない。
この様に、硬磁性ボンド磁石1とゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体2の寸法のバランスを用途に合わせ個々に設計する事が重要である。
また、本発明はゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体2の配置設計により、リング状ボンド磁石の外側の磁力を制御することができる。
このため、リ−ドスイッチや磁気センサが感知する位置が異なる等の仕様の異なる製品に対して寸法が同一であれば成形型を製品毎に製作する必要が無い為、低コストでの生産が可能である。
【0023】
本発明に使用さる硬磁性材料としては、鉄、ケイ素鋼、パーマロイ、センダスト、パーメンジュール、ソフトフェライト、アモルファス磁性合金、ナノクリスタル磁性合金等が挙げられ、各種用途に応じて適宜選択して用いられる。
本発明に使用さる軟磁性材料としては、アルニコ磁石、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジム鉄ボロン磁石、サマリウム鉄窒素磁石等が挙げられ、各種用途に応じて適宜選択して用いられる。

本発明に使用されるゴム材としては、ニトリルゴム、アクリルゴム、EPDM、CR、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム等が挙げられ、各種用途に応じて適宜選択して用いられるが、耐油性が要求される箇所に使用する場合はフッ素ゴムが好ましい。
【0024】
本発明に使用される樹脂材としては、ABS樹脂、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)、PMMA(アクリル)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PA(ナイロン/ポリアミド)、PC(ポリカーボネイト)、POM(ポリアセタール)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、LCP(液晶ポリマー)、フッ素樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられ、各種用途に応じて適宜選択して用いられる。
【0025】
また、硬磁性ボンド磁石1に磁力を付与する方法としては、圧縮成形や射出成形により所定の形状に成形させ、この成形過程あるいは成形後に強磁界を印加させることにより、磁性材料の磁化容易軸の配向、磁気異方性処理を行なう。
【0026】
また、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係るリング状ボンド磁石は、エアシリンダーや油圧シリンダーに用いるリードスイッチ等の磁力源として使用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 硬磁性ボンド磁石
2 ゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬磁性材料をゴムまたは樹脂材料に練り込んだリング状硬磁性ボンド磁石(1)において、
前記硬磁性ボンド磁石(1)の一部に、軟磁性材料をゴムまたは樹脂材料に練り込んだリング状軟磁性体(2)を一体化したことを特徴とするリング状ボンド磁石。
【請求項2】
前記ゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体(2)が、前記硬磁性ボンド磁石(1)の外周側の軸方向両端部に配置されていることを特徴とする請求項1記載のリング状ボンド磁石。
【請求項3】
前記硬磁性ボンド磁石(1)と前記ゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体(2)とが同一のゴムまたは樹脂材料を使用していることを特徴とする請求項1または2記載のリング状ボンド磁石。
【請求項4】
前記ゴム材料が、フッ素ゴムであることを特徴とする請求項3記載のリング状ボンド磁石。
【請求項5】
前記リング状ボンド磁石が、ピストンの位置センサーの磁力源として使用されていることを特徴とする請求項4記載のリング状ボンド磁石。
【請求項6】
前記硬磁性ボンド磁石(1)と前記ゴムまたは樹脂材料に練り込んだ軟磁性体(2)とが圧縮成形により一体成形されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のリング状ボンド磁石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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