説明

リンケイ酸ガラスセラミック

【課題】非常に低いCaO含有量にもかかわらず、アパタイト結晶を有し、これらのアパタイト結晶がさらに、非常に小さく、特に、ナノスケールの範囲内であり、従って、光学特性の観点で自然の歯の材料と非常に類似している、リンケイ酸ガラスセラミックを提供すること。
【解決手段】フルオロアパタイトおよび白榴石結晶を有し、そしてその特性に起因して、歯科用合金上にプレスして歯科用修復物を製造するために特に適切である、本発明のリンケイ酸ガラスセラミックにより上記課題は達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロアパタイト結晶および白榴石結晶を含有し、化学的に安定でありかつ美的に非常に魅力的であり、従って、歯科用修復物の調製のため、特に、歯科用合金上にプレスするために適切な、リンケイ酸ガラスセラミックに関する。
【背景技術】
【0002】
リンケイ酸ガラスセラミックは、先行技術から公知である。いくつかの場合において、これらは、フルオロアパタイトおよび/または白榴石を、主要結晶相または二次結晶相として含有する。
【0003】
特許文献1は、白榴石の主要結晶相に加えて、少なくとも1つのさらなる結晶相および1つ以上のガラス相を含有する、リンケイ酸ガラスセラミックを記載する。その二次結晶相は、棒状または針状のアパタイト結晶(とりわけ、フルオロアパタイト)を含有し得、これらは、2μmより大きい長さを有する。しかし、高いCaO含有量が、針様のフルオロアパタイト結晶を沈殿させるために必要である。さらに、このガラスセラミックの高い白榴石含有量は、所望の歯科用骨格にプレスすることによりこのガラスセラミックを成型するため(すなわち、このガラスセラミックの粘性流を達成するため)に、1200℃までの比較的高い加工温度を必要にする。さらに、この高い白榴石含有量は、約15×10−6−1〜約20×10−6−1の範囲の高い線膨張係数を生じる。従って、このガラスセラミックは、低い膨張係数を有する材料(例えば、特定の金属合金)のコーティングのために適切ではない。
【0004】
特許文献2は、半透明なガラスセラミックを記載し、その主要結晶相は、フルオロアパタイト結晶からなる。さらに、使用される出発ガラスの組成に依存して、さらなる結晶相が形成され得るが、白榴石相ではない。このガラスセラミックは、6.0×10−6−1〜12.0×10−6−1の熱膨張係数を有する。これは、このガラスセラミックの用途を制限する。なぜなら、このガラスセラミックは、非常に低い膨張係数を有する材料(例えば、二ケイ酸リチウムガラスセラミックまたはチタン)から作製される歯科用骨格をコーティングまたは積層するためにのみ使用され得るからである。さらに、1200℃までの非常に高い加工温度がまた、所望の歯科構造体にプレスすることによりこのガラスセラミックを成型するために必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許第44 23 793号明細書
【特許文献2】独国特許第197 25 555号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、非常に低いCaO含有量にもかかわらず、アパタイト結晶を有し、これらのアパタイト結晶がさらに、非常に小さく、特に、ナノスケールの範囲内であり、従って、光学特性の観点で自然の歯の材料と非常に類似している、リンケイ酸ガラスセラミックを提供することである。さらに、このガラスセラミックは、低い線熱膨張係数および低いプレス温度を有し、従って、金属合金上にプレスするために特に適切である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、驚くべきことに、本発明によるリンケイ酸ガラスセラミックにより達成される。
【0008】
本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
以下の成分:
SiO 57.6〜62.0重量%
Al 12.0〜16.0重量%
0.0〜1.5重量%
O 9.0〜13.0重量%
NaO 5.0〜8.0重量%
LiO 0.0〜1.5重量%
BaO 0.0〜2.5重量%
CaO 0.6〜2.4重量%
ZnO 0.0〜3.0重量%
TiO 0.0〜1.5重量%
ZrO 0.0〜3.5重量%
CeO 0.0〜1.0重量%
0.4〜2.5重量%
F 0.3〜1.5重量%
を含有し、そしてフルオロアパタイト結晶および白榴石結晶を含有する、リンケイ酸ガラスセラミック。
【0009】
(項目2)
以下の成分を、互いに独立して、
SiO 58.0〜61.5重量%、好ましくは58.0〜61.0重量%
Al 12.0〜15.0重量%、好ましくは13.0〜14.5重量%
0.1〜1.2重量%、好ましくは0.1〜0.8重量%
O 9.0〜12.5重量%、好ましくは9.0〜12.0重量%
NaO 5.5〜8.0重量%、好ましくは6.0〜8.0重量%
LiO 0.0〜1.0重量%、好ましくは0.1〜0.8重量%
BaO 0.0〜2.0重量%、好ましくは0.0〜1.5重量%
CaO 1.0〜2.4重量%、好ましくは1.2〜2.2重量%
ZnO 0.0〜2.7重量%、好ましくは0.1〜2.5重量%
TiO 0.2〜1.5重量%、好ましくは0.2〜1.3重量%
ZrO 0.8〜3.5重量%、好ましくは0.8〜3.0重量%
CeO 0.2〜1.0重量%、好ましくは0.3〜0.9重量%
0.4〜2.2重量%、好ましくは0.4〜2.0重量%
F 0.5〜1.5重量%、好ましくは0.6〜1.5重量%
の量で含有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0010】
(項目3)
前記フルオロアパタイト結晶が針状である、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0011】
(項目4)
前記フルオロアパタイト結晶が、500nm未満、好ましくは、250nm未満、そして特に好ましくは、100nm未満の最大寸法を有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0012】
(項目5)
100℃〜400℃の範囲の温度で測定される、11.0×10−6−1〜15.0×10−6−1、好ましくは、11.5×10−6−1〜14.0×10−6−1の線熱膨張係数を有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0013】
(項目6)
1000℃未満、好ましくは、850℃〜950℃のプレス温度を有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0014】
(項目7)
a)項目1による成分を含有するガラスを、1500℃〜1550℃の温度で融解する工程;
b)該ガラス融解物を水に注いで、ガラス顆粒を形成する工程;
c)必要に応じて、該ガラス顆粒を、90μm未満、好ましくは10μm〜40μmの平均粒径を有するガラス粉末に細かく砕く工程;および
d)該ガラス顆粒または該ガラス粉末を、500℃〜1000℃の範囲の温度で、30分間〜6時間にわたる熱処理に供して、ガラスセラミックを形成する工程、
を包含する、上記項目のいずれか1項に記載のリンケイ酸ガラスセラミックの調製のためのプロセス。
【0015】
(項目8)
前記熱処理が、約950℃の温度で、約1時間にわたって実施される、上記項目のいずれか1項に記載のプロセス。
【0016】
(項目9)
a)前記ガラスセラミックから形成された歯科材料もしくは歯科製品;または
b)前記ガラスセラミックから形成された歯科材料もしくは歯科製品の構築物
としての、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミックの使用。
【0017】
(項目10)
前記ガラスセラミックが歯科用骨格上にプレスされる、上記項目のいずれか1項に記載の使用。
【0018】
(項目11)
前記プレスが、1000℃未満、特に、850℃〜950℃の温度で行われる、上記項目のいずれか1項に記載の使用。
【0019】
(項目12)
前記歯科用骨格が歯科用合金ベースである、上記項目のいずれか1項に記載の使用。
【0020】
(項目13)
前記歯科用合金が、100℃〜400℃の範囲の温度で測定される、13.5×10−6−1〜15.5×10−6−1の線膨張係数を有する、上記項目のいずれか1項に記載の使用。
【0021】
(摘要)
フルオロアパタイトおよび白榴石結晶を有し、そしてその特性に起因して、歯科用合金上にプレスして歯科用修復物を製造するために特に適切である、リンケイ酸ガラスセラミックが記載される。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、非常に低いCaO含有量にもかかわらず、アパタイト結晶を有し、これらのアパタイト結晶がさらに、非常に小さく、特に、ナノスケールの範囲内であり、従って、光学特性の観点で自然の歯の材料と非常に類似している、リンケイ酸ガラスセラミックが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明によるリンケイ酸ガラスセラミックは、以下の成分:
SiO 57.6〜62.0重量%
Al 12.0〜16.0重量%
0.0〜1.5重量%
O 9.0〜13.0重量%
NaO 5.0〜8.0重量%
LiO 0.0〜1.5重量%
BaO 0.0〜2.5重量%
CaO 0.6〜2.4重量%
ZnO 0.0〜3.0重量%
TiO 0.0〜1.5重量%
ZrO 0.0〜3.5重量%
CeO 0.0〜1.0重量%
0.4〜2.5重量%
F 0.3〜1.5重量%
を含有し、そしてフルオロアパタイト結晶および白榴石結晶を含有することを特徴とする。
【0024】
本発明によるガラスセラミックは、ガラス相にフルオロアパタイト結晶を驚くべきことに含有し、それにもかかわらず、従来のガラスセラミックと比較して非常に少量のCaOを有することを、特に特徴とする。他方で、従来のガラスセラミックにおいては、少なくとも2.5重量%の量のCaOが、棒様または針様のリン酸含有結晶の形成をもたらすために必要である。
【0025】
さらに、本発明によるガラスセラミックは、公知のガラスセラミックと比較して、非常に少量のフルオロアパタイト結晶および白榴石結晶を有し、このことは、特性の顕著に有利な組み合わせをもたらす。優れた光学特性に加えて、本発明によるガラスセラミックは、このガラスセラミックを多数の加工様式のために適切にする熱膨張係数を有し、そして低いプレス温度を有する。
【0026】
好ましい実施形態において、本発明によるリンケイ酸ガラスセラミックは、以下の成分を、互いに独立して、以下の量で含有することを特徴とする:
SiO 58.0〜61.5重量%、好ましくは58.0〜61.0重量%
Al 12.0〜15.0重量%、好ましくは13.0〜14.5重量%
0.1〜1.2重量%、好ましくは0.1〜0.8重量%
O 9.0〜12.5重量%、好ましくは9.0〜12.0重量%
NaO 5.5〜8.0重量%、好ましくは6.0〜8.0重量%
LiO 0.0〜1.0重量%、好ましくは0.1〜0.8重量%
BaO 0.0〜2.0重量%、好ましくは0.0〜1.5重量%
CaO 1.0〜2.4重量%、好ましくは1.2〜2.2重量%
ZnO 0.0〜2.7重量%、好ましくは0.1〜2.5重量%
TiO 0.2〜1.5重量%、好ましくは0.2〜1.3重量%
ZrO 0.8〜3.5重量%、好ましくは0.8〜3.0重量%
CeO 0.2〜1.0重量%、好ましくは0.3〜0.9重量%
0.4〜2.2重量%、好ましくは0.4〜2.0重量%
F 0.5〜1.5重量%、好ましくは0.6〜1.5重量%。
【0027】
「互いに独立して」とは、成分のうちの少なくとも1つが、所定の好ましい量で存在することを意味する。例えば、SiOのみが、58.0重量%〜61.5重量%という好ましい実施形態に対応する量で存在することが可能である。
【0028】
さらに、このガラスセラミックは、針状のフルオロアパタイト結晶、好ましくは、非常に小さいフルオロアパタイト結晶を有することが好ましい。500nm未満、好ましくは250nm未満、そして特に好ましくは100nm未満の最大寸法を有する結晶が好ましい。結晶の最大寸法を決定する目的で、これらの結晶のc軸方向の長さを、走査型電子写真を使用して測定した。特に好ましくは、これらのフルオロアパタイト結晶は、100nm未満の長さおよび60nm以下の幅を有する。本発明によるガラスセラミック中のフルオロアパタイト結晶は、オストワルド熟成を起こさないことが、驚くべきことに見出された。オストワルド熟成を起こす場合、より小さい結晶の数を犠牲にして、より大きい結晶の形成をもたらす。
【0029】
特に、小さいフルオロアパタイト結晶は、ガラスセラミックの所望の光学特性を生じる。すなわち、自然の歯の材料に対する顕著な光学類似性をもたらす。
【0030】
さらに、本発明によるガラスセラミックの半透明性は、驚くべきことに、含有される白榴石結晶により実質的に損なわれない。このことはおそらく、本発明による特別な組成が、小さい程度のみの白榴石結晶化をもたらすという事実により引き起こされる。
【0031】
本発明によるガラスセラミックは、100℃〜400℃の範囲の温度で測定して、好ましくは、11.0×10−6−1〜15.0×10−6−1、そして特に、11.5×10−6−1〜14.0×10−6−1の線熱膨張係数を有する。
【0032】
本発明によるガラスセラミックは、通常は1000℃未満、特に850℃〜950℃の、低いプレス温度を有することが、さらに特に有利である。従って、歯科用合金の実質的な変形を発生させることなく、歯科用合金上にプレスされ得る。このような変形は、正確に取り付ける修復物の調製において、非常に不利である。
【0033】
膨張係数およびプレス温度は、本発明によるガラスセラミックの、歯科用修復物の調製のための好ましい使用に関する重要な特性である。本発明によるガラスセラミックは、骨格材料として働く金属合金のためのコーティング材料として、特に適切である。ガラスセラミックの膨張係数は、安定な歯科用修復物を得るために、通常、骨格材料の膨張係数より約10%低いべきである。これによって、欠けおよび亀裂をもたらし得る高い応力が回避される。
【0034】
本発明はさらに、本発明によるリンケイ酸ガラスセラミックを調製するプロセスに関し、このプロセスにおいて、
a)本発明による成分を含有するガラスが、1500℃〜1550℃の温度で融解され;
b)得られたガラス融解物が水に注がれて、ガラス顆粒を形成し;
c)必要に応じて、このガラス顆粒が、90μm未満、好ましくは、10μm〜40μmの平均粒径を有するガラス粉末に細かく砕かれ;そして
d)このガラス顆粒またはこのガラス粉末が、500℃〜1000℃の温度で、30分間〜6時間にわたる熱処理に供されて、ガラスセラミックを形成する。
【0035】
段階a)において、出発ガラスは、適切な材料(例えば、炭酸塩、酸化物およびフッ化物)を互いによく混合し、そしてこれらを所定の温度まで加熱することによって、最初に融解される。
【0036】
次いで、段階b)において、得られたガラス融解物は、水に注ぐことにより急冷され、これによって、ガラス顆粒に変換される。この手順は通常、フリッティングともまた呼ばれる。
【0037】
必要に応じて、このガラス顆粒は、次いで、段階c)において細かく砕かれ、特に、慣習的なミルを用いて所望の粒径まで粉砕される。
【0038】
段階d)において、ガラス顆粒、または必要に応じてガラス粉末は、500℃〜1000℃の範囲、好ましくは約950℃の温度で、30分間〜6時間、好ましくは約1時間にわたって熱処理に供され、これにより、ガラスセラミックが形成される。
【0039】
最後に、本発明はまた、本発明によるガラスセラミックの、
a)このガラスセラミックから形成された歯科材料もしくは歯科製品;または
b)このガラスセラミックから形成された歯科材料もしくは歯科製品の構築物
としての使用に関する。
【0040】
所望のように形成されたブランクに加えて、歯科用修復物(例えば、インレー、アンレー、ブリッジ、橋脚歯、被覆、外皮、前装、咬合局面、充填材、連結子、歯冠または部分歯冠)は、本発明によるリンケイ酸ガラスセラミックを含有する、本発明による形成された歯科製品として特に考慮される。これらのブランクは通常、従来のプレスデバイス(例えば、プレス炉)内で使用されるような形状(例えば、小さい円板、ブロックまたは円柱)を有する。
【0041】
好ましい実施形態において、本発明によるリンケイ酸ガラスセラミックは、歯科用骨格上にプレスされて、形成された歯科製品を製造し、この歯科用骨格は、好ましくは、歯科用合金ベースである。
【0042】
このプレスは、好ましくは、1000℃未満、特に、850℃〜950℃の温度で行われる。
【0043】
特に有利なものは、本発明によるガラスセラミックの線熱膨張係数を約10%超える線熱膨張係数を有する歯科用合金である。本発明によるリンケイ酸ガラスセラミックは、100℃〜400℃の範囲の温度で測定される、13.5×10−6−1〜15.5×10−6−1の線熱膨張係数を有する歯科用合金上にプレスされるために、特に適切である。
【0044】
従って、本発明はまた、歯科製品(特に、歯科用修復物)を調製するプロセスに関し、このプロセスにおいて、
a)歯科用骨格(特に、歯科用合金ベースのもの)が提供され、そして
b)この歯科用骨格が、本発明によるガラスセラミックで、特に、このガラスセラミックをこの歯科用骨格上にプレスすることによりコーティングされる。
【0045】
本発明は、実施例により、以下でさらに詳細に説明される。
【実施例】
【0046】
(実施例1〜9:本発明によるガラスセラミックの組成、調製および特性)
合計9種の異なる本発明によるガラスセラミックを調製した。これらは、表Iに与えられる組成を有した。
【0047】
表I:本発明によるガラスセラミックの組成(重量%での量)
【0048】
【表1】

:FAP=フルオロアパタイト。
【0049】
これらのガラスセラミックを調製するために、それぞれの組成物を、適切な酸化物、炭酸塩およびフッ化物から、白金−ロジウム坩堝内で、約1500℃〜1550℃の温度で、1時間の均質化時間にわたって融解した。このガラス融解物を水中で急冷し、そして形成された出発ガラスの顆粒を乾燥させ、そして90μm未満の平均粒径まで粉砕した。次いで、出発ガラスの顆粒または得られた粉末を、30分間〜6時間にわたって、500℃より高く1000℃までの、1段階または多段階の熱処理に供し、これにより、ガラスセラミックが形成された。
【0050】
表IIに、それぞれのガラスセラミックの試験片について決定された選択された特性が、これらのガラスセラミックのうちのいくつかについて与えられる。表IIはまた、出発ガラスの特別に選択された熱処理の詳細を、「熱処理」の欄に与える。これらの実施例は、異なる特性を有するガラスセラミックが、化学組成を変更することによりどのように得られ得るかを示す。
【0051】
表II:本発明によるガラスセラミックの選択された化学−物理特性
【0052】
【表2】

:以下に記載されるプロセスA)により調製された焼結ガラスセラミック;
**:以下に記載されるプロセスB)により調製されたプレスされたガラスセラミック。
【0053】
(膨張係数αの決定)
A)焼結ガラスセラミック
線熱膨張係数αを測定するために、棒様の未焼結コンパクトを、それぞれのガラスセラミックの粉末から調製し、そして60℃/分の加熱速度で、それぞれの焼成温度において1分間の保持時間を用いて、減圧炉内で焼結した。次いで、減圧なしでの艶出し焼成を、20℃高い最終温度で、1分間の保持時間を用いて実施した。
【0054】
B)プレスされたガラスセラミック
モノリシック焼結ブランクをまた、焼結プロセスを介して調製した。この目的で、出発粉末を、500バール〜1000バール(5×10Pa〜10×10Pa)の圧力での一軸プレス機により未焼結コンパクトに圧縮し、次いで、減圧下で完全に焼結した。これらの焼結ブランクを、850℃〜950℃で、19バール〜22バール(19×10Pa〜22×10Pa)の圧縮圧力で、熱プレス炉内で試験形状にプレスした。
【0055】
線熱膨張係数αを、100℃〜400℃の温度範囲で、実施例2、4、6および9において、A)に従う焼結ガラスセラミック試験片に対して決定し、そして実施例4および9においてはまた、B)に従う熱プレスしたガラスセラミック試験片に対して決定した。
【0056】
(酸抵抗性および唾液抵抗性の決定)
酸抵抗性は、特に、歯科学において使用されるガラスおよびガラスセラミックの化学的抵抗性の尺度である。なぜなら、これらの物質は、口腔内の酸性物質の影響に永続的に曝露されるからである。酸抵抗性を、ISO仕様6872:1995によって決定した。この目的で、12mmの直径および1mmの厚さを有する小さい試験円板を、90μm未満の平均粒径を有するガラスセラミック粉末を一緒に焼結することにより、最初に調製した。この粉末を、焼結温度に1分間維持した。次いで、これらの小さい試験円板を、16時間、ソックスレー抽出器で、4体積%の酢酸水溶液で80℃で処理した。唾液試験において、これらの試験片を、60℃で7日間、人工唾液中に保存した。最後に、発生する質量損失を、酸抵抗性の尺度として決定した。
【0057】
(二軸強度の決定)
二軸強度を、ISO 6872により決定した。この目的で、13mmの直径および1.2mmの厚さを有する小さい試験円板を、90μm未満の平均粒径を有するガラスセラミック粉末を一緒に焼結することにより調製した。この粉末を、焼結温度に1分間維持した。これらの小さい円板の表面を研磨し、そして仕様ISO 6872によって、二軸試験機で測定した。
【0058】
(実施例10:本発明によるガラスセラミックを不透明化合金骨格上にプレスすることによる、層状セラミックの調製)
この実施例において、実施例9による組成を有する、本発明によるガラスセラミックの調製が記載される。このガラスセラミックは、不透明な合金骨格上に有利にプレスされ得る。この目的で、歯科用合金を最初にガラスセラミック不透明化剤でコーティングして、金属性の暗色を覆った。次いで、表Iにおいて実施例9について与えられる化学組成を有する出発ガラスを調製した。この調製のために、適切な酸化物、炭酸塩およびフッ化物の対応する混合物を、白金−ロジウム坩堝内で、1500℃の温度で、1時間の均質化時間にわたって融解した。このガラス融解物を水中で急冷し、そして形成された出発物質の顆粒を乾燥させ、そして90μm未満の平均粒径、好ましくは10μm〜30μmの平均粒径まで粉砕した。次いで、得られたガラス粉末を950℃での熱処理に1時間供した。引き続いて、このガラスセラミックを、90μm未満の平均粒径、好ましくは、20μm〜40μmの平均粒径まで粉砕した。
【0059】
この粉末を、減圧炉内で、60℃/分の加熱速度で、900℃で1分間の保持時間を用いて焼結して、棒様の未焼結ブランクを形成した。100℃〜400℃の温度範囲で測定された、12.0×10−6−1の熱膨張係数が、この様式で得られたサンプルについて決定された。
【0060】
このガラスセラミック粉末を、810℃で15分間の保持時間で、減圧中で、焼結ブランクに焼成した。次いで、これらのブランクを、880℃での熱プレスプロセスにより、棒様の試験片にプレスした。100℃〜400℃の温度範囲で測定された、13.1×10−6−1の膨張係数が、この様式で得られたガラスセラミックサンプルについて決定された。
【0061】
従って、このガラスセラミックは、不透明化された歯科用合金上にプレスするために特によく適している。2つの歯科用合金を、この目的で試験した。14.5×10−6−1の膨張係数を有するd.SIGN 30(Ivoclar Vivadent AG)、および15.2×10−6−1の膨張係数を有するW1(Ivoclar Vivadent AG)。臼歯の骨格を、両方の合金から、合金製造業者の仕様に従って調製した。これらの骨格を、IPS InLine PoM不透明化剤(Ivoclar Vivadent AG)で、製造業者の指示に従って不透明化した。次いで、歯の解剖学的形状を有するように、金属骨格を蝋仕上げした。この様式で調製した金属骨格をPress Vest Speed包埋化合物に包埋し、そして蝋を燃焼させて除去した。ガラスセラミックの焼結ブランクを、900℃で、19バール〜22バール(19×10Pa〜22×10Pa)の圧力でダイ内にプレスした。不透明化した歯科用合金とガラスセラミックとの間の強い結合が、調整された膨張係数および調整された加工温度の観点で、この熱プレスプロセスにより達成された。冷却し、サンドブラストにより包埋物質を除去した後に、臼歯歯冠が完全にプレス形成され、亀裂を有さなかった。歯科操作を完了する目的で、これらの歯冠をそれぞれ、IPS InLine PoMうわぐすり(Ivoclar Vivadent AG)を用いて770℃での艶出し焼成に2回供した。このさらなる熱サイクル後にもまた、これらの歯冠は亀裂を有さなかった。
【0062】
(実施例11 ガラスセラミックの構造)
本発明によるガラスセラミックの構造を、走査型電子顕微鏡を使用して示す目的で、実施例3による組成を有するガラスセラミックを、950℃で1時間の熱処理後に最初に製造した。走査型電子顕微鏡写真を、3% HF水溶液で10秒間のエッチングによるサンプル調製後に作製した。このエッチング手順により、SiOに富むガラスマトリックスが薄層内に溶解し、その結果、特に、フルオロアパタイト結晶がこのサンプル面から出現し、従って、はっきりと目に見えた。これらの結晶は、互いに分離されて存在し、そして約100nmの長さを有した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分:
SiO 57.6〜62.0重量%
Al 12.0〜16.0重量%
0.0〜1.5重量%
O 9.0〜13.0重量%
NaO 5.0〜8.0重量%
LiO 0.0〜1.5重量%
BaO 0.0〜2.5重量%
CaO 0.6〜2.4重量%
ZnO 0.0〜3.0重量%
TiO 0.0〜1.5重量%
ZrO 0.0〜3.5重量%
CeO 0.0〜1.0重量%
0.4〜2.5重量%
F 0.3〜1.5重量%
を含有し、そしてフルオロアパタイト結晶および白榴石結晶を含有する、リンケイ酸ガラスセラミック。
【請求項2】
以下の成分を、互いに独立して、
SiO 58.0〜61.5重量%、好ましくは58.0〜61.0重量%
Al 12.0〜15.0重量%、好ましくは13.0〜14.5重量%
0.1〜1.2重量%、好ましくは0.1〜0.8重量%
O 9.0〜12.5重量%、好ましくは9.0〜12.0重量%
NaO 5.5〜8.0重量%、好ましくは6.0〜8.0重量%
LiO 0.0〜1.0重量%、好ましくは0.1〜0.8重量%
BaO 0.0〜2.0重量%、好ましくは0.0〜1.5重量%
CaO 1.0〜2.4重量%、好ましくは1.2〜2.2重量%
ZnO 0.0〜2.7重量%、好ましくは0.1〜2.5重量%
TiO 0.2〜1.5重量%、好ましくは0.2〜1.3重量%
ZrO 0.8〜3.5重量%、好ましくは0.8〜3.0重量%
CeO 0.2〜1.0重量%、好ましくは0.3〜0.9重量%
0.4〜2.2重量%、好ましくは0.4〜2.0重量%
F 0.5〜1.5重量%、好ましくは0.6〜1.5重量%
の量で含有する、請求項1に記載のガラスセラミック。
【請求項3】
前記フルオロアパタイト結晶が針状である、請求項1または2に記載のガラスセラミック。
【請求項4】
前記フルオロアパタイト結晶が、500nm未満、好ましくは、250nm未満、そして特に好ましくは、100nm未満の最大寸法を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項5】
100℃〜400℃の範囲の温度で測定される、11.0×10−6−1〜15.0×10−6−1、好ましくは、11.5×10−6−1〜14.0×10−6−1の線熱膨張係数を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項6】
1000℃未満、好ましくは、850℃〜950℃のプレス温度を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項7】
a)請求項1による成分を含有するガラスを、1500℃〜1550℃の温度で融解する工程;
b)該ガラス融解物を水に注いで、ガラス顆粒を形成する工程;
c)必要に応じて、該ガラス顆粒を、90μm未満、好ましくは10μm〜40μmの平均粒径を有するガラス粉末に細かく砕く工程;および
d)該ガラス顆粒または該ガラス粉末を、500℃〜1000℃の範囲の温度で、30分間〜6時間にわたる熱処理に供して、ガラスセラミックを形成する工程、
を包含する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリンケイ酸ガラスセラミックの調製のためのプロセス。
【請求項8】
前記熱処理が、約950℃の温度で、約1時間にわたって実施される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
a)前記ガラスセラミックから形成された歯科材料もしくは歯科製品;または
b)前記ガラスセラミックから形成された歯科材料もしくは歯科製品の構築物
としての、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラスセラミックの使用。
【請求項10】
前記ガラスセラミックが歯科用骨格上にプレスされる、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記プレスが、1000℃未満、特に、850℃〜950℃の温度で行われる、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記歯科用骨格が歯科用合金ベースである、請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
前記歯科用合金が、100℃〜400℃の範囲の温度で測定される、13.5×10−6−1〜15.5×10−6−1の線膨張係数を有する、請求項12に記載の使用。

【公開番号】特開2011−26190(P2011−26190A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159215(P2010−159215)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(501151539)イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL−9494 Schaan Liechtenstein
【Fターム(参考)】