説明

リンゴ鹿角霊芝抽出物およびその製造方法

【課題】 リンゴ鹿角霊芝から従来技術を超えた作用効果を有する有用物質を得ること。
【解決手段】 リンゴ栽培において発生する剪定枝をチップ状に形成したものを用いた培地により栽培した鹿角霊芝Ganoderma lucidum、すなわちリンゴ鹿角霊芝の乾燥粉末を用い、これを熱水抽出する。熱水抽出条件としては、たとえば70〜80℃、5〜15minであれば充分な効果が得られる。熱水抽出後、さらにこれをアセトンにより濃縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリンゴ鹿角霊芝抽出物およびその製造方法に係り、特に、腫瘍細胞に対する生育抑制効果と高い収量を併せ持った、リンゴ鹿角霊芝抽出物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
霊芝Ganoderma lucidumはマンネンタケ属サルノコシカケ科に属する木材腐朽菌であり、中国では古くから薬用として用いられている一種である。この霊芝が若芽のまま生育し、鹿の角のような形態となったものが鹿角霊芝である。鹿角霊芝の自然発生率は、一般の霊芝数万本〜数十万本に一本であり、古来珍重されてきたが、今日では人工培養方法も確立している。
【0003】
上述の通り、霊芝の主な有効成分はβ−グルカンを主鎖とした多糖類であり、免疫賦活化を介した抗腫瘍効果などがこれまで報告されている他、鹿角霊芝抽出物(特許文献1)、鹿角霊芝からのβ−グルカン抽出方法(特許文献2)など、鹿角霊芝に関わる特許等の出願も従来少なくない。
【0004】
【特許文献1】特開2001−131083
【特許文献2】特開2006−37016
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、リンゴ生産量の多い青森県においては、リンゴの収穫過程で剪定枝が廃材として大量に発生する。その有効利用および環境的配慮の観点から、リンゴ剪定枝の有効利用を図る目的で、リンゴ鹿角霊芝の生産が行われている。これは、剪定枝をチップ状に形成して鹿角霊芝栽培用培地に使用するというものである。
【0006】
上述のように鹿角霊芝におけるβ-グルカンによる免疫賦活化を介した抗腫瘍効果等は報告されているが、EBS(Evidence−based Science)によるデータは従来ない。もちろん、リンゴ鹿角霊芝における腫瘍生化学的性質の検討も、未だなされていない現状である。
【0007】
かかる状況を踏まえて本発明の課題は、リンゴ鹿角霊芝から従来技術を超えた作用効果を有する有用物質の抽出を試み、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は上記課題について鋭意検討した結果、本発明に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0009】
(1) リンゴ鹿角霊芝粉末を熱水抽出して得られる、リンゴ鹿角霊芝抽出物。
(2) リンゴ鹿角霊芝粉末を熱水抽出し、さらにこれを濃縮溶媒により濃縮して得られる、リンゴ鹿角霊芝抽出物。
(3) リンゴ鹿角霊芝粉末を熱水抽出し、さらにこれを濃縮溶媒により濃縮してリンゴ鹿角霊芝抽出物を得る、リンゴ鹿角霊芝抽出物製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリンゴ鹿角霊芝抽出物およびその製造方法によれば、以下に詳述する通り、正常細胞に対する細胞障害活性の低さ、従来技術と同程度に維持される腫瘍細胞に対する生育抑制効果、および収量の顕著な高さを、同時に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を、実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
本発明に用いるリンゴ鹿角霊芝は、上述の通り、リンゴ栽培において発生する剪定枝をチップ状に形成したものを用いた培地により栽培した鹿角霊芝Ganoderma lucidumである。その乾燥粉末を用い、これを熱水抽出することが、本発明のリンゴ鹿角霊芝抽出物を得るための要点である。熱水抽出条件としては、たとえば70〜80℃、5〜15minであれば充分な効果が得られることが確認されているが、本発明に係る熱水抽出条件がこれらに限定されるものではない。
【0012】
本発明リンゴ鹿角霊芝抽出物は、熱水抽出後、遠心分離により得られる上清を凍結乾燥して、リンゴ鹿角霊芝の水溶性画分(WS)としてもよいし、あるいはまた、アセトン糖の溶媒を用いた濃縮過程を経ることによって得てもよい。
図1は、本発明リンゴ鹿角霊芝抽出物を得る過程の一例を示した説明図である。
【実施例】
【0013】
リンゴ鹿角霊芝(A2R)の微粉末を熱水抽出し(条件.70℃、15min)、水溶性画分(WS)をアセトン沈殿により濃縮して、リンゴ鹿角霊芝抽出物を得た。また比較例として、国産の霊芝(R)および鹿角霊芝(2R)からも同様に水溶性画分を抽出した。これらを、繊維肉腫(HT−1080)および繊維芽細胞(SF−TY)の細胞株に添加し、細胞増殖についてWST−1の代謝活性およびBrdUの取り込みに伴うDNAの合成量より検討した。
図2は、細胞生育活性解析方法を示す説明図である。
【0014】
図3(Fig.1)は、リンゴ鹿角霊芝(A2R)の水溶性画分の電気泳動パターンである。リンゴ鹿角霊芝の水溶性画分として、3種類の糖ペプチドが同定された。
表1は、リンゴ鹿角霊芝(A2R)の水溶性画分および他の霊芝について、その細胞生育活性阻害効果試験の結果をまとめたものである(Table.1.)。表1に示すように、リンゴ鹿角霊芝(A2R)の水溶性画分は、繊維肉腫細胞株(HT−1080)に対して、穏やかではあるが、投与後96時間で他の2種の霊芝R、2Rと同程度の細胞生育抑制効果が認められた(約90%阻害)。
【0015】
【表1】

【0016】
一方、リンゴ鹿角霊芝(A2R)の水溶性画分の正常細胞に対する細胞傷害活性は、投与開始から96時間まで変化なく、他の2種の霊芝R、2Rに比較して約10%と極めて低いものであった。
【0017】
つまり本発明のリンゴ鹿角霊芝抽出物(A2R)は、正常細胞には影響せず、がん細胞に特異的に作用することが確認された。すなわち本発明のリンゴ鹿角霊芝抽出物(A2R)は、R、2Rよりも細胞傷害性が少なく、しかもがん細胞増殖抑制能が示唆された。したがって、リンゴ鹿角霊芝由来の水溶性画分には、霊芝や鹿角霊芝以上の抗腫瘍効果があるものと推定された。
【0018】
なお、表2(Table2)に示すとおり、リンゴ鹿角霊芝(A2R)の水溶性画分は他の霊芝R、2Rに比べて約4.5倍含まれており、収量が著しく高いものであった。
【0019】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明に係るリンゴ鹿角霊芝抽出物は、腫瘍細胞に対する生育抑制効果は従来技術と同程度に維持されつつも、正常細胞に対する細胞障害活性が低く、さらに収量が顕著に高いものである。さらに、リンゴ剪定枝廃材の有効利用の観点からも、特に食品・医薬分野において産業上利用価値が高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るリンゴ鹿角霊芝抽出物を得る過程の一例を示した説明図である。
【図2】細胞生育活性解析方法を示す説明図である。
【図3】リンゴ鹿角霊芝(A2R)の水溶性画分の電気泳動パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンゴ鹿角霊芝粉末を熱水抽出して得られる、リンゴ鹿角霊芝抽出物。
【請求項2】
リンゴ鹿角霊芝粉末を熱水抽出し、さらにこれを濃縮溶媒により濃縮して得られる、リンゴ鹿角霊芝抽出物。
【請求項3】
リンゴ鹿角霊芝粉末を熱水抽出し、さらにこれを濃縮溶媒により濃縮してリンゴ鹿角霊芝抽出物を得る、リンゴ鹿角霊芝抽出物製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−19007(P2009−19007A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182695(P2007−182695)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年1月12日 八戸工業高等専門学校、国立大学法人 弘前大学主催の「第6回八戸高専と弘前大学とのシーズ提案会」に文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月5日 社団法人 日本農芸化学会発行の「社団法人日本農芸化学会2007年度(平成19年度)大会 講演要旨集」に発表
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(505256504)協同組合機能性食品開発センター (2)
【Fターム(参考)】