説明

リンパ水腫を治療又はリンパ水腫から保護する方法

外科的処置又は放射線治療に付随するリンパ水腫(特に二次リンパ水腫)の発症を治療、緩和、予防又は好転するための方法を開示する。本発明の方法は、本明細書に記載される式(II)にしたがう有効量の特定の硫黄含有薬剤を、リンパ水腫を発症する危険性を有するか又はリンパ水腫を発症した患者に投与する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2004年9月21日に提出された米国特許出願番号第10/945,754号の一部継続出願であり、この文献の開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、リンパ水腫を治療又はリンパ水腫から保護する方法に関する。この方法は、特に、末梢リンパ節が除去されなければならない癌又は他の疾患の手術又は放射線治療を受ける患者のためのリンパ水腫の予防法として有用である。
【0003】
(発明の背景)
リンパ水腫とは、リンパの流れの閉塞又は妨害によるリンパの蓄積から生じる水腫又は浮腫をさす一種の病気である。リンパ水腫は、患部における汎発性の腫脹(generalized swelling)によって特徴付けられ、この腫脹は、痛み及び変色を伴うようになり得る。
【0004】
最も一般的な型の一次リンパ水腫は単純な先天性のリンパ水腫であり、これは家族性ではなく、生まれたとき存在している。ミルロイ病(Milroy’s Disease)及びヌーナン症候群(Noonan’s Syndrome)は、一次リンパ水腫の遺伝性常染色体優性形態であり、症例の約15%において見られる。一次リンパ水腫は、最も一般的には脚に存在するが、体の任意の部位において現れ得る。
【0005】
一次リンパ水腫は、最も一般的には、女性にみられる。ほとんどの場合が生まれたとき現れるか、又は40歳までに現れるようになる。この状態の二次的影響としては、爪の黄色化及び再発性胸水が挙げられる。再発性の肝内胆汁鬱滞(recurrent intrahepatic cholestasis)及びリンパ水腫からなる家族性の症候群は、四肢に位置する管と同じく肝リンパ管の欠陥によって生じると考えられる。病理学的に、一次リンパ水腫は、患部においてリンパ管が存在しないか又はその形成不全(hypoplasia)によって生じる。
【0006】
二次リンパ水腫は、最も一般的には、外傷、照射又は外科処置後に生じる。ランペクトミー(腫瘍摘除)又は乳房切除(任意の組合せにおいて、腋窩リンパ節切開又はセンチネルリンパ節バイオプシーを行うか又は行わない定型的又は非定形的摘除又は切除、あるいは術後の胸部及び腋窩への放射線治療を含む)によって生じる二次リンパ水腫は、処置と同側の(ipsilateral)腕に現れる。最も一般的には、乳癌又はリンパ腫のための手術及び/又は放射線治療を受けている患者は、切除/治療されたリンパ系の部位に隣接する同側の肢に、二次リンパ水腫を発症する。二次リンパ水腫は、種々の感染によっても発症する可能性がある。病理的に、二次リンパ腫においては、蛇行性の(tortuous)、そしてときには非常に肥大した静脈瘤性(varicose)リンパ管とともに、多数の小さなリンパ管又はリンパ腫がしばしば見られる。照射又は外科的処置後のその領域における二次リンパ水腫は、患者にとって永続的であるといってもよい程度にまで慢性かつ進行性である傾向があり、この傾向は患者の生活の質に悪影響(腫脹、感染、血栓症、不快かつ美容上よくない外観)を及ぼす可能性があり、そして深刻な、ある場合には致命的となり得る蜂巣炎(cellulitis)の形をとって、局所的な感染の危険性を増大させる。
【0007】
リンパ水腫は、典型的には、しばしば他の症状を生じないことなく、疾患した肢を増大させながら徐々に発症する。発症過程の初期において、肥大した肢は、ほとんどの場合柔らかくて窪んでおり、腫脹は通常、罹患した肢の隆起を伴い部分的に又は完全に陥没する。しばらくすると、皮膚が厚くなり、そして曲げることができなくなる。そして、水腫は、より難治(又は難病)的になり、そして肥厚(又は肥大)するか又はスポンジ状になり、この水腫は次第に悪化し、罹患した肢の皮膚は通常変色していく。併発したリンパ管炎及び蜂巣炎が発症する可能性があり、長期にわたる場合、患者はリンパ管肉腫を発症する可能性がある。
【0008】
一次リンパ水腫は、通常、ゆっくりとした進行性の疾患であり、治療に対して影響を受けにくい。二次リンパ水腫の治療は、根本的な原因に依存する。現在、二次リンパ水腫が感染によって発症する場合、この水腫は抗生物質を用いる治療によって処置できる。
【0009】
一次リンパ水腫の治療は、一般に、肢の隆起などの経験的措置(empirical measure)、弾性ストッキングの使用、利尿薬の投与、及びさらに進行した場合にはワルファリンなどのベンゾピロン抗凝固剤の投与を含む。重篤な場合には、皮下組織を除去して新たなリンパ管形成を誘導するための手術が、ある適度首尾よく試みられている。たとえ成功しても、従来の治療は全て危険性を有し、特に薬剤の投与では、全ての薬剤が副作用の深刻な危険性を有している。現在、難治的な又は慢性の一次又は二次リンパ水腫の発症を予防又は緩和する効果的な治療はない。リンパ水腫の安全かつ効果的な治療がないことは、まだ処置されていない多くの患者がいることを示している。
【0010】
メスナ(Mesna、2−メルカプトエテンスルホン酸ナトリウム(sodium 2-mercaptoethene sulfonate))及びジメスナ(dimesna、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウム(disodium 2,2’-dithiobis ethane sulfonate))は、公知の治療用化合物であり、これまでに、広範な種類の治療的使用が明らかにされてきた。メスナ及びジメスナは共に、様々な型の癌患者を治療するために使用される細胞傷害性(細胞毒性(cytotoxic))薬物の投与に付随する、ある特定の型の毒性に対する保護効果が示されている。
【0011】
特に、メスナは、1980年9月2日に発行された米国特許第4,220,660号明細書に開示されているようなイフォスファミド(ifosfamide)、オキサザホスホリン(oxazaphosphorine)、メルファラン(melphalane)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、トロホスファミド(trofosfamide)、スルホスファミド(sulfosfamide)、クロランブシル(chlorambucil)、ブスルファン(busulfan)、トリエチレンチオホスファミド(triethylene thiophosphamide)、トリアジクォン(triaziquone)などの細胞傷害性薬剤の毒作用の緩和に際し、ある程度首尾よく使用されている。
【0012】
ジメスナの改善された毒性プロファイル(toxicity profile)は、さらに、この化合物の有用性を際立たせる。
【0013】
さらに、各化合物の薬理学的データ(pharmacological profile)によると、適切な条件が維持される場合、メスナ及びジメスナは、主要な治療用薬物を著しい程度に時期を早めて不活性化させないことが示される。
【0014】
メスナ及びジメスナの分子構造を、それぞれ、下記構造式A及び構造式Bに示す。
【0015】
(A) HS−CH−CH−SONa
(B) NaSO−CH−CH−S−S−CH−CH−SONa
示されるように、ジメスナは、メスナの二量体であり、その酸化のための最適条件は、血漿中で見られるように、わずかに塩基性(pH〜7.3)で酸素の豊富な環境において現れる。グルタチオンレダクターゼなどの還元剤の存在下、穏やかな酸性で低酸素の条件、例えば、腎臓における一般的な条件において、主な成分はメスナである。
【0016】
メスナは、毒性のヒドロキシ(又はアコ)基に無毒なスルフヒドリル部分(又は基(moiety))が置換することによって、多くの細胞傷害性薬剤に対する保護剤として作用する。この作用は、メスナ及びオキサザホスホリンの併用投与において、並びにジメスナを特定の白金系薬剤及び/又はタキサンとともに投与する場合において、特に明白である。
【0017】
ジメスナ、及びいくつかの類似体は、哺乳類種において有利な毒性プロファイルを有する。ジメスナは、一般的な食卓塩の許容経口LD50(3750mg/kg)よりも高い投与量で、マウス及びイヌに静脈内投与されており、このような投与量では副作用を生じない。第I相臨床試験において、ジメスナは、40g/mを超える投与量で安全にヒトに投与されている。
【0018】
メスナ、及び遊離チオール部分を有する他の類似体は、本明細書に記載される2種類の化合物の、生理学的により活性な型となる。これらの化合物は、それらの活性を、適当な構造の末端脱離基(通常、ヒドロキシ、アコ又は超過酸化物)の位置する場所で、末端基に対して遊離チオール部分を置換するために与えられることにより、明白に示される。メスナはまた、遊離チオール部分を含む天然に存在する生化学物質(システイン、グルタチオン、ホモシステインなど)と、共役物(conjugate)を形成する傾向もある。
【0019】
ジメスナ及び他のジスルフィド類は、普遍的な酵素であるグルタチオンレダクターゼによって細胞内で活性化され、それにより、細胞内において遊離のチオール類を高い濃度で産生できる。これらの遊離のチオール類は、しばしば細胞の損傷を引き起こすフリーラジカル(遊離基)及び他の求核化合物を除去するように作用する。
【0020】
このプロファイルは、ジメスナが白金錯体系抗腫瘍薬物の毒作用を首尾よく制御及び緩和することを証明する際に特に重要である。シスプラチン(cis−ジアンミンジクロロ白金)での作用機構は、米国特許第5,789,000号明細書に説明されており、この文献の開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる。
【0021】
メスナ、ジメスナ、及びこれらの化合物の類似体は、米国及び世界中の文献及び先行の特許に記載されているいくつかの従来の薬学的用途の対象とされている。細胞傷害性薬剤からの保護用途に加えて、1又はそれ以上のこれらの化合物は、インビトロ又はインビボにおいて、生物学的標的の多様性に対して、また鎌状赤血球疾患(sickle cell disease)、放射線被爆、化学薬剤被爆などの治療又は他の用途において有効であることが証明されている。
【0022】
メスナ、ジメスナ、及びこれらの類似体は、一般に入手可能な出発原料から、この分野において許容可能な周知の経路を用いて合成される。このような方法の1つは、下記式(I)で表されるジメスナなどの化合物を生成するための二工程(又は二段階)の単一容器(シングルポット)合成プロセスを含む。
【0023】
−S−R (I)
(式中、Rは、水素、−X−低級アルキル、又は−X−低級アルキル−Rであり;
は、−低級アルキル−Rであり;
及びRは、各々個々に−SOM又は−POであり;
Xは存在しないか、又はXは硫黄であり;及び
Mは、アルカリ金属である)
本明細書において用いられる「低級アルキル」とは、炭素数1〜8のアルキル基を意味する。本明細書において用いられる「低級アルキレン」とは、炭素数1〜8のアルキレン基を意味する。
【0024】
この方法は、二工程(又は二段階)の単一容器合成プロセスを本質的に含み、これによりアルキルスルホン酸(又は塩)、又はアルケニルスルホン酸(又は塩)を、所望の式(I)の化合物に変換する。メスナの場合、この方法は一工程(又は一段階)で行われる方法であり、この一工程(又は一段階)の方法では、硫化アルカリ金属又硫化水素との反応によって、アルキルもしくはアルケニルスルホン酸(又は塩)を、メスナ又はメスナ誘導体に変換する。
【0025】
所望の最終生成物がジメスナ又はジメスナ誘導体である場合、二工程(又は二段階)の単一容器での方法を必要とする。工程(又は段階)1は、上記のとおりである。この方法の工程(又は段階)2は、工程(又は段階)1と同じ反応容器内で行われ、この工程(又は段階)の間に形成されるメスナを精製又は単離する必要はない。工程(又は段階)2は、周辺値(環境値)(ambient value)を超える圧力及び温度(1平方インチあたり少なくとも20ポンド(psi)及び少なくとも60℃)の上昇に加え、容器内への酸素ガスの導入を含む。ジメスナ又はその誘導体は、本質的に定量的な収量(quantitative yield)で形成される。
【0026】
メスナ又はジメスナ、あるいはそれらの誘導体及び類似体の製造には、従来技術において周知及び立証された他の方法を用いてもよい。
【0027】
(発明の要約)
本発明の方法は、有効量の式(II)の化合物:
−S−R−R (II)
(式中、Rは、水素、低級アルキル又は−S−R−Rであり;
は、必要に応じて1又はそれ以上のヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、ニトロ又はアミノ部分によって、対応する水素原子が置換されている低級アルキレンであり;及び
は、スルホネート又はホスホネートである)又は
その薬学的に許容可能な塩を、リンパ水腫に罹患しているか又はリンパ水腫を発症する危険性を有する患者に投与することを含む。
【0028】
式(II)の化合物は、リンパ水腫に罹患しているか又はリンパ水腫を発症する危険性を有する患者に投与される場合、リンパ水腫の症状を伴う症状及び徴候を治療又は緩和、予防又は好転(又は逆転(reverse))するのに役立つ。
【0029】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
本明細書に記載する好ましい実施形態は、完全であることを意図するものではなく、開示された正確な形態に本発明を限定することを意図するものでもない。これらの好ましい実施形態は、本発明の原理並びにその適用及び実用的使用を説明することにより、当業者がその教示を最善に理解できるように選択及び記載される。
【0030】
本発明の方法は、医療分野、特にリンパ水腫の治療及び/又は予防に適用される。上記のように、本発明の方法は、有効量の(II)の化合物を、リンパ水腫に罹患している患者又は来るべき外科的処置又は放射線治療に起因してリンパ水腫を発症する危険性を有する患者に投与することを含む。
【0031】
好ましい式(II)の化合物は、式中、
が、低級アルキル又は−S−R−Rであり;
が、必要に応じて1又はそれ以上のヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、ニトロ又はアミノ部分によって、対応する水素原子が置換されている低級アルキレンであり;及び
が、スルホネート又はホスホネートである化合物;又は
その薬学的に許容可能な塩である。
【0032】
さらに好ましい式(II)の化合物は、式中、
が、−S−R−Rであり;
が、必要に応じて1又はそれ以上のヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、ニトロ又はアミノ部分によって、対応する水素原子が置換されている、少なくとも2個の炭素原子を有する低級アルキレンであり;及び
が、スルホネートである化合物;又は
その薬学的に許容可能な塩である。
【0033】
式(II)の化合物はジスルフィド類であることが好ましい。このことは、対応するチオール類及びチオエーテル類とを比較した場合に、ジスルフィド化合物は、より多量に、安全にかつ効果的に与えられ得ることによる。最も好ましい化合物は、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウム(ジメスナ又はTavocept(商標))である。
【0034】
式(II)の化合物の投与は、いくつかの認められた経路(例えば、経口、局所又は非経口)の1つによって行われる。経口投与において、式(II)の化合物は、飲み込み又は嚥下可能な(swallowable)形態(錠剤、カプセル剤、キャプレット(caplet)、ロゼンジ(lozenge)、溶解性散剤(soluble powder)、又は経口投与に適切な他の形態など)において含まれている。局所的投与に関して、式(II)の化合物は、適切な薬学的に許容可能な賦形剤と混合して、ローション剤又はクリーム又は他の局所適用形態を形成する。静脈内又は皮下投与に関して、式(II)の化合物は、投与のために薬学的に許容可能な溶媒に溶解又は懸濁される。
【0035】
二次リンパ水腫の危険性は、領域リンパ節(regional lymph nodes)の除去又は照射を必要とする手術(すなわち、乳癌又はリンパ腫の手術)を受ける患者、及び放射線治療を受ける患者において最も高い。
【0036】
式(II)の化合物の投与の時期(タイミング)は、式(II)の化合物の投与量、好ましい投与経路、式(II)の化合物が予防(prophylaxis)又は治療のいずれの目的で使用されるか、及び各々個々の状況に共通するか又はおそらくは特有である他の因子に依存する。予防目的に使用される場合、式(II)の化合物は、好ましくは、リンパ水腫の発症の危険性が増大する外科的処置又は放射線治療に先だって投与される。
【0037】
二次リンパ水腫の予防における式(II)の化合物の好ましい投与時期は、外科的処置又は放射線治療の約5分〜約24時間前、好ましくは約5分〜約6時間前、及びさらに好ましくは約15分〜約1時間前である。式(II)の化合物は、その後、患者がリンパ水腫を発症する最大の危険に直面する期間(time frame)の間に、式(II)の化合物の濃度が最大限になるように投与されるのが好ましい。
【0038】
投与されるべき式(II)の化合物の有効量は、リンパ水腫を患いやすい患者において、その危険性を安全にかつ効果的に低減する量、又はリンパ水腫に罹患している患者を効果的に治療する量として規定される。厳密な量は患者に応じて異なり、結果として、投与の経路及び時期もまた、好ましい投与量に影響を及ぼす。効果的な経口及び非経口用量は、患者の体表面積につき約0.1g/m程度の少量〜約80.0g/m又はそれ以上までの範囲であってもよい。好ましい投与量は、約4.0g/m〜約42.0g/m、さらに好ましくは約20g/mである。一次又は二次リンパ水腫の治療のために、式(II)の化合物は、好ましくは、診断(diagnosis)後可能な限り早く投与され、見通しのある結果が得られるまでフォローアップ用量が投与される。
【0039】
式(II)の化合物は、外科的処置又は放射線治療の終了に続いて投与されてもよい。このような後の用量によって、外科的処置又は放射線治療後すぐには現れない、遅延して生じる症候又は症状の危険性を低減する。後の用量は、リンパ水腫の徴候を示す腫脹(swelling)が生じた場合に、必要に応じて患者自身によって自己投与されてもよい。これらの後の用量は、外科的処置又は放射線治療の後、定期的な間隔で(約2〜約12時間間隔で、最も好ましくは投与の間が約4時間〜約6時間で)行われてもよいし、繰り返されてもよい。
【0040】
局所投与の剤形は、典型的には、用量の処方及び措置又は計量(measurement)の両方において、より複雑である。用量は多くの因子によって影響され、このような因子には、有効成分の濃度に限定されず、血流に加えて周辺組織への皮膚から薬物の吸収速度;処方中の添加剤及び賦形剤の影響;などが含まれる。標的部位に対して直接的に薬物を塗布(適用)することができるので、薬物代謝及び分散又は分配(distribution)は他の剤形を用いるよりも重要ではなく、局所的投与量は、しばしば、同一の薬物の経口的又は非経口的投与量よりも少ない。
【0041】
式(II)の化合物は、米国特許第5,808,140号明細書に教示される方法などの一般的な公知の合成方法によって投与用に調製され、この文献の開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる。滅菌後、式(II)の化合物は、投与形態に応じて好ましい処方で、患者に投与するために処方される。
【0042】
静脈内、皮下(subcutaneous)、真皮下(subdermal)もしくは皮内(intradermal)投与、又は胸膜腔内投与、又は注腸(腸への注入)による投与を含む非経口的内部(intraparenteral)投与のために、式(II)の化合物は、適切な溶媒(好ましくは水)に溶解される。米国特許第5,789,000号明細書;同第5,919,816号明細書;及び同第5,866,169号明細書に記載されるように、適切な賦形剤をこの処方物に添加してもよい。これらの文献の開示は、言及することによりその全体が本明細書において組み入れられる。式(II)の化合物は、リンパ水腫の治療状況において必要であるか又は適切である限り、この形態で連続注入として投与されてもよい。
【0043】
経口投与のために、式(II)の化合物を薬学的に許容可能な充填剤(filler)と組み合わせて、錠剤、キャプレット(caplet)あるいは他の飲み込み又は嚥下可能な(swallowable)形態として投与してもよい。あるいは、式(II)の化合物を薬学的に許容可能な溶媒に溶解又は懸濁して、飲み込み又は嚥下可能な担体(カプセル、ゲルキャップ又は他の形態)中にカプセル化してもよく、式(II)の化合物を溶解して、溶液又は懸濁液として投与してもよい。
【0044】
局所的投与のために、式(II)の化合物を薬学的に許容可能な賦形剤と混合して、患部の組織部位に及び好ましくはその周辺にも式(II)の化合物を搬送するるために設計された的確な処方物を生成してもよい。式(II)の化合物は、好ましくは、賦形剤を添加する前に溶媒ビヒクル(最も好ましくは精製水)に溶解又は懸濁される。この処方物を生成するために使用される薬学的に許容可能な賦形剤としては、処方物の所望の粘度又は適用に応じて1又はそれ以上の可塑剤、乳化剤、緩和薬(皮膚軟化薬(emollient))、pH調整剤、皮膚浸透増進剤(skin penetration enhancer)、界面活性剤、増粘剤又は希釈剤、及び所望される他の成分が挙げられる。
【0045】
式(II)の化合物の投与は、好ましくは、以下の特定の仮想的な実施例の1つにしたがう。これらの実施例は、単に説明するための例に過ぎず、記載された内容に本発明を限定するとみなされるべきではない。
【0046】
実施例1−静脈内投与
非定型的乳房切除(modified radical mastectomy)及びリンパ節除去手術を受けようとしている患者に、静脈内用量20g/mの2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウム滅菌溶液を、15分間にわたるゆっくりとした点滴によって投与する。15分後、点滴が終了し、外科的処置を開始する。その後7日間の間、12時間毎に20g/mの2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムをさらなる点滴により患者に与え、リンパ水腫の徴候について患者の進行を監視する。
【0047】
実施例2−経口投与
放射線治療を受けようとしている患者に、飲み込み又は嚥下可能な担体に入った経口用量20g/mの2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウムを与える。投薬の15〜45分後、患者の放射線治療を開始する。その後、6時間毎にさらなる経口用量を与えるか又は自己投与により患者に与え、リンパ水腫の徴候について進行を監視しながら、さらなる用量の同一薬物を患者に与える期間を決定する。
【0048】
実施例3−局所的投与
患者に対して、乳房腫瘍摘除及び腋窩リンパ節除去の外科的処置を終了する。ジメスナ(2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウム)の濃度が200mg/mlである、薬学的に的確な局所処方物10mLを、除去したリンパ節及びその周辺組織に局所的に塗布する。主治医である医療専門家によって望まれるか又は必要であると判断された場合に、この局所処方物のさらなる塗布を行い、リンパ水腫の徴候について患者の進行を監視する。
【0049】
実施例4−直接注射投与
リンパ節除去のための外科的処置を受けようとしている患者に、所定用量(a dose)の、発熱物質を含まない(pyrogen free)1%〜75%(w/w)の2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸二ナトリウム滅菌溶液又は懸濁液を、直接組織注射(皮下(subcutaneous)、真皮下(subdermal)及び/又は皮内)によって、処置開始の約15〜約45分前に投与する。この投与は、複数回の治療に対して処置後に繰り返されてもよい。
【0050】
さらに、列挙された投与方法の組み合わせを本発明の教示にしたがって行い得ることにも留意すべきである。例えば、患者に、手術又は放射線治療の開始に先だって、治療前用量(認められた投与経路による)の式(II)の化合物を投与し、その後、手術又は放射線治療の後の用量を定期的な間隔で自己投与又は塗布するための指示書とともに、自宅に持ち帰るための経口投与量又は局所的処方を与えてもよい。患者に術後の用量を自己投与させることは、患者の利便性を高めて自活を援助し、自尊心(多くの場合、二次リンパ水腫を発症する危険性がある手術及び/又は放射線治療を必要とする患者にとって重要な心理的要因である)を高める。
【0051】
上記の記載は、当業者にその教示を理解させるために例示的な目的で示されているものであり、本明細書に列挙される厳密な内容に本発明の範囲を限定するとみなされるべきではなく、本発明の範囲は、上記の特許請求の範囲によって規定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者におけるリンパ水腫を治療、緩和、予防又は好転するための方法であって、前記患者に有効量の式(II)の化合物:
−S−R−R (II)
(式中、Rは、水素、低級アルキル又は−S−R−Rであり;
は、必要に応じて1又はそれ以上のヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、ニトロ又はアミノ部分によって、対応する水素原子が置換されている低級アルキレンであり;及び
は、スルホネート又はホスホネートである);又は
その薬学的に許容可能な塩を投与する方法。
【請求項2】
が、低級アルキル又は−S−R−Rであり;Rが、必要に応じて1又はそれ以上のヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、ニトロ又はアミノ部分によって、対応する水素原子が置換されている低級アルキレンであり;及びRが、スルホネート又はホスホネートであり;又はその薬学的に許容可能な塩である請求項1記載の方法。
【請求項3】
が、−S−R−Rであり;Rが、必要に応じて1又はそれ以上のヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、ニトロ又はアミノ部分によって、対応する水素原子が置換されている、少なくとも2個の炭素原子を有する低級アルキレンであり;及びRが、スルホネートであり;又はその薬学的に許容可能な塩である請求項1記載の方法。
【請求項4】
が−S−R−Rであり、Rがエチレンであり、及びRがスルホネートである請求項1記載の方法。
【請求項5】
式(II)の化合物の有効量が、患者の体表面積の約0.1g/m〜約80g/mである請求項1記載の方法。
【請求項6】
式(II)の化合物が、外科的処置又は放射線治療に先だって患者に投与される請求項1記載の方法。
【請求項7】
有効量の式(II)の化合物が、外科的処置又は放射線治療の開始の約5分〜約24時間前に投与される請求項6記載の方法。
【請求項8】
有効量が、患者の体表面積の約4.0g/m〜約42.0g/mである請求項7記載の方法。
【請求項9】
有効量が、手術又は放射線治療の開始の約15分〜約1時間前に投与される請求項7記載の方法。
【請求項10】
有効量が、外科的処置又は放射線治療の終了後に繰り返した間隔で患者に投与される請求項1記載の方法。
【請求項11】
間隔が、外科的処置又は放射線治療の終了後、2〜12時間毎である請求項10記載の方法。
【請求項12】
式(II)の化合物が、静脈内投与される請求項1記載の方法。
【請求項13】
式(II)の化合物が、皮下投与される請求項1記載の方法。
【請求項14】
式(II)の化合物が、局所的に投与される請求項1記載の方法。
【請求項15】
式(II)の化合物が、非経口的に内部(intraparenterally)投与される請求項1記載の方法。
【請求項16】
式(II)の化合物が、胸膜腔内投与される請求項1記載の方法。
【請求項17】
式(II)の化合物が、皮内投与される請求項1記載の方法。
【請求項18】
式(II)の化合物が、注腸によって投与される請求項1記載の方法。
【請求項19】
有効量の式(II)の化合物が、連続注入として投与される請求項1記載の方法。
【請求項20】
リンパ水腫が、一次リンパ水腫である請求項1記載の方法。
【請求項21】
リンパ水腫が、二次リンパ水腫である請求項1記載の方法。
【請求項22】
リンパ水腫が、難治性又は慢性である請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2008−513502(P2008−513502A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532634(P2007−532634)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/033771
【国際公開番号】WO2006/034325
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(500175967)バイオニューメリック・ファーマスーティカルズ・インコーポレイテッド (27)
【Fターム(参考)】