説明

リンパ球の活性・増殖に係る培養方法

【課題】特定のリンパ球を効率よく活性化させ、かつ増殖させた特定リンパ球強化型血液製剤とその製造方法を提供することを目的とする。
【解決方法】採取した血液に対して、その血液中の特定のリンパ球を増殖させるための増殖刺激因子を添加し、また採取された血液を38℃以上40℃以下の温度で10時間以上30時間以下保持してリンパ球を活性化させた後に、当該血液を生理的細胞温度で培養することにより特定リンパ球強化型血液製剤を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定のリンパ球を活性及び増殖させた血液製剤と、その製造方法、並びにその血液製剤を用いた細胞免疫療法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫療法は、体内の免疫力を強化することでがんやウイルス感染症等の治療を行う方法である。特に、がんに対しては、外科療法、化学療法、放射線療法と並ぶ新たな治療法として注目され、これまでに様々な方法が開発されている。例えば、サイトカイン療法、ワクチン療法、BRM療法、細胞免疫療法等が、その例として挙げられる。
【0003】
サイトカイン療法とは、T細胞やNK細胞等のリンパ球を増殖若しくは活性化させるサイトカインを生体内に直接投与することにより、がん細胞やウイルス感染細胞を殺傷する治療法である。例えば、インターロイキン2(以下「IL−2」とする。)の投与によるサイトカイン療法等が該当する。しかし、この療法は、臨床結果において期待ほどの効果が得られず、また、臓器機能不全や体液貯留(IL−2投与の場合)、感冒症状や精神障害(インターフェロン:INF投与の場合)等の重篤な副作用を生じると言う問題を有していた。
【0004】
ワクチン療法とは、がん細胞等に特異的な抗原等を直接接種し、その抗原に対する免疫系を活性化させる治療法である。がん治療において当該治療法は有効例がいくつか報告されているが、HLAクラスIを発現していない腫瘍等に対しては効果がない等の問題があった。
【0005】
BRM(生物応答調整剤)療法とは、腫瘍細胞等に対する患者の生物学的応答性を修飾する物質による治療法である。BRMとしては、PSKやベスタチン、OK−432等が知られている。この治療方法は、一部のがん等では有効性が認められているが、本来外科療法や化学療法等の免疫能が低下する他の治療法と併用して用いることで効果が得られる補助的療法という側面が強い。また、必ずしも免疫力が強化されるとは限らず、単独での抗がん効果等は弱いという問題があった。
【0006】
細胞免疫療法は、患者から採取した免疫細胞を生体外で活性化、増殖等の処理を行った後に再びその患者の体内に戻すことで当該患者の免疫力を高める治療法であり、「養子免疫療法(広義の養子免疫療法)」とも呼ばれている。細胞免疫療法は、生体外で処理する免疫細胞の種類によって活性化リンパ球療法や樹状細胞療法に分類される。このうち樹状細胞療法については、臨床試験が開始されたばかりであるため、有効性を判断するに十分な結果がまだ得られていない。
【0007】
活性化リンパ球療法は、生体外でT細胞に対して活性・増殖処理を行う狭義の活性化リンパ球療法(活性化Tリンパ球療法、又は狭義の養子免疫療法)とNK細胞に対して活性・増殖処理を行う活性化NK細胞療法とに、さらに分類される。
【0008】
狭義の活性化リンパ球療法は、例えば、LAK(リンフォカイン活性化キラー細胞)療法や、TIL(腫瘍組織浸潤リンパ球)療法、CTL(細胞傷害性リンパ球)療法等が該当する。LAK療法は、患者から採取したリンパ球に大量のIL−2を添加して培養し、T細胞やNK細胞を活性化若しくは増殖させた後に体内に戻す方法である。この方法は、投与したLAKを生体内で維持させるために大量のIL−2を生体内に投与する必要があり、前記IL−2によるサイトカイン療法と同様の副作用を伴うという問題があった。TIL療法は、腫瘍細胞等に浸潤したリンパ球を採取し、それをLAK療法と同様に体外で培養した後に体内に戻す方法である。リンパ球を手術時にしか採取できないことや、期待ほどの効果が見られないという問題があった。CTL療法は、手術で採取したがん細胞等をリンパ球と共に培養してリンパ球を刺激することで、当該がん細胞等に特異的なリンパ球を誘導させる方法である。有効例の報告もあるが手術によりがん細胞を採取しなければならず、患者に対して与える身体的負荷が大きく、また、がん細胞を採取できない場合は治療が難しい等の問題があった。
【0009】
活性化NK細胞療法は、NK細胞が末梢血からでも採取が可能であり、TIL療法やCTL療法のように手術で採取する必要がないことから患者に対する身体的な負担は少なくて済む。しかし、末梢血から得られるNK細胞は僅かであるため、培養によって大量に増殖させる必要がある。NK細胞はIL−2と共に培養することで増殖が誘導されることが知られているものの、その増殖には限界があると言う問題があった。また、NK細胞は、これまで生体外で確立された効率的な増殖方法が知られていなかった。
【0010】
以上のように免疫療法は、いずれの方法も期待ほどの治療効果が得られないことや、重篤な副作用を伴うこと、あるいはその他の改善すべき問題を抱えていた。
【非特許文献1】有賀淳:ここまで進んだガン免疫療法(2004)講談社,東京,pp.1−98.
【非特許文献2】阿部博幸:驚異の免疫革命−NK細胞療法でガンを抑える−(2004)青山書籍,pp.1−221.
【非特許文献3】大沼鉄郎:なぜ免疫ががんを治す主役なのか(2005)河出書房新社,東京,pp.1−163.
【非特許文献4】Basse PH,Whiteside TL,Chambers W,Herberman RB(2001)Intern Rev Immunol 20:439−501.
【非特許文献5】Herberman RB(2002)Seminars in Oncology 29:27−30.
【非特許文献6】Farag SS,VanDeusen JB,Fehniger TA,Caligiuri MA(2003)International Journal of Hematology 78:7−17.
【非特許文献7】Hallett WH,Murphy WJ(2004)Cell Mol Immunol 1:12−21.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記問題点に鑑み、ドナーに与える身体的負荷を最小限に留める方法で血液を採取し、採取した血液から特定のリンパ球を効率よく活性化させ、かつ増殖させた特定リンパ球強化型血液製剤とその製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は当該血液製剤を単独で生体内に投与することにより、がん等の疾患を高い有効率で治療し、かつ副作用の認められない細胞免疫療法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定のリンパ球を効率的に活性化させることのできる温度とその温度での保持時間を見出した。また、これまで体外において増殖が困難とされてきたNK細胞の増殖を増強する増殖刺激因子を発見した。それらの発見を基本とした製造方法によって得られる血液製剤は、特定のリンパ球がNK細胞の場合には、単位体積あたり健常人血液の約100倍以上のNK細胞数を含み、また、それらの90%以上が細胞傷害活性(キラー活性)を有していた。また、動物実験や臨床実験の結果、当該特定リンパ球強化型血液製剤は、生体内で腫瘍細胞の増殖と浸潤を抑制できた。動物実験では、約90%の有効率で腫瘍細胞を減少することが確認できた。臨床実験においても、当該血液製剤は進行がんに対しても有効であることが立証された。さらに、当該血液製剤は、その主な成分が強化されたリンパ球であることから、副作用の心配もほとんどなく、臨床実験においても現在まで副作用は認められていない。以下の(1)から(15)に示す発明は、本発明者らの係る発見に基づいて完成されたものであり、上記課題を解決するための手段として提供をするものである。
【0014】
(1)本発明は、生体から血液を採取する血液採取工程と、採取された血液に対して、その血液中の特定のリンパ球を増殖させるための増殖刺激因子を添加する増殖刺激因子添加工程と、採取された血液を38℃以上40℃以下の温度で10時間以上30時間以下保持してリンパ球を活性化させる活性化工程と、増殖刺激因子添加工程及び活性化工程の後に、該血液を生理的細胞温度で培養する培養工程と、を含む特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法の提供である。
(2)本発明は、前記培養工程が7日以上25日以下であることを特徴とする特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法の提供である。
(3)本発明は、増殖刺激因子添加工程が特定のリンパ球であるNK細胞を増殖させるためのNK細胞増殖刺激因子を添加する工程であることを特徴とする特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法の提供である。
(4)本発明は、増殖刺激因子添加工程が前記NK細胞増殖刺激因子として、抗CD16抗体を添加する工程であることを特徴とする特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法の提供である。
(5)本発明は、増殖刺激因子添加工程が前記抗CD16抗体の添加に際して、抗CD16抗体を支持体に固相化して添加を行うことを特徴とする特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法の提供である。
(6)本発明は、増殖刺激因子添加工程が前記NK細胞増殖刺激因子としてOK432をさらに含んで添加する工程であることを特徴とする特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法の提供である。
(7)本発明は、増殖刺激因子添加工程が特定のリンパ球であるT細胞を増殖させるためのT細胞増殖刺激因子を添加する工程であることを特徴とする特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法の提供である。
(8)本発明は、増殖刺激因子添加工程が前記T細胞増殖刺激因子として、抗CD3抗体を添加する工程であることを特徴とする特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法の提供である。
(9)本発明は、増殖刺激因子添加工程が前記抗CD3抗体の添加に際して、抗CD3抗体を支持体に固相化して添加を行うことを特徴とする特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法の提供である。
(10)本発明は、血液採取工程で採取する血液が末梢血単核球であることを特徴とする特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法の提供である。
(11)本発明は、(1)から(10)のいずれか一の製造方法で得られる特定リンパ球強化型血液製剤の提供である。
(12)本発明は、(1)から(10)のいずれか一の製造方法で得られる特定リンパ球強化型血液製剤を投与することで免疫力を高め疾患を治療する細胞免疫療法の提供である。
(13)本発明は、前記投与される特定リンパ球強化型血液製剤が、特定のリンパ球としてがんに対する免疫力を有するリンパ球が単位体積あたりの通常血液平均値よりも多く含まれている血液製剤であることを特徴とする細胞免疫療法の提供である。
(14)本発明は、前記投与される特定リンパ球強化型血液製剤は、特定のリンパ球としてウイルス感染症に対する免疫力を有するリンパ球が単位体積あたりの通常血液平均値よりも多く含まれている血液製剤であることを特徴とする細胞免疫療法の提供である。
(15)本発明は、前記投与される特定リンパ球強化型血液製剤は、特定のリンパ球として真菌感染症に対する免疫力を有するリンパ球が単位体積あたりの通常血液平均値よりも多く含まれている血液製剤であることを特徴とする細胞免疫療法の提供である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法によれば、生体より採取した血液中に含まれる特定のリンパ球を、従来技術よりも高い効率で活性化させ、かつ大量に増殖させた血液製剤を得ることができる。当該製造方法によれば、末梢血から製造が可能であり、血液の採取に際してドナーに与える身体的負荷も最小限で済む。
【0016】
また、本発明の特定リンパ球強化型血液製剤は、生体外で活性化され、かつ増殖させられた特定のリンパ球から構成されており、原則としてサイトカインや抗生物質を含有していない。したがって、その投与により従来のサイトカイン療法のような副作用を生じさせることがない安全な血液製剤を提供することができる。
【0017】
さらに、本発明の細胞免疫療法によれば、従来の養子免疫療法等で用いられる血液製剤と比較して、進行がんやウイルス感染症等の疾患に対して高い治療効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、前記各発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれらの実施の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施しうる。なお、実施形態1は主に請求項1から11に関する。また、実施形態2は主に請求項12から15に関する。
【0019】
<<実施形態1>>
<実施形態1:概要>
実施形態1は特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法と、その方法で得られる特定リンパ球強化型血液製剤に関する。当該製造方法は、生体より採取した血液に対して、体外で特定のリンパ球を増殖させるための増殖刺激因子を添加し、また所定の温度に所定の時間保持することでリンパ球を活性化させ、さらにそれらの処理を行った血液を所定の時間培養する工程を含むことを特徴とする。当該製造方法によって、NK細胞やT細胞等の特定のリンパ球が強化された血液製剤を得ることができる。
【0020】
<実施形態1:構成>
図1は実施形態1の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法を構成する各工程の流れを示した図である。この図で示すように、本実施形態の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法は、血液採取工程(S0101)、増殖刺激因子添加工程(S0102)、活性化工程(S0103)、そして培養工程(S0104)とを含むことを基本としている。以下で本実施形態の構成要素及び各工程について具体的に説明をする。
【0021】
本発明の「特定リンパ球強化型血液製剤」とは、本実施形態の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法によって得られるものであって、多数の活性化された特定のリンパ球から構成されている。当該血液製剤を生体内に投与することで十分な効果を得るためには、当該血液製剤に含まれる特定のリンパ球細胞数の70%以上が活性化された状態にあることが望ましい。リンパ球の活性化の判断については後述する。
【0022】
本発明でいう「強化」とは、増やし、かつ活性化すること、あるいは増やし、かつ活性化したことを意味する。
【0023】
(血液採取工程)
「血液採取工程」(S0101)とは、生体から血液を採取する工程である。ここでいう「血液」とは、リンパ球を含む血液成分を意味する。例えば、全血や単核球等が該当する。本発明の血液製剤を効率的に製造する上で、赤血球や顆粒球等の他の血液細胞や血液成分が阻害要因となる可能性がある場合には、当該血液採取工程で採取する血液は単核球であることが好ましい。また、この場合であれば、末梢血から得られる末梢血単核球(Peripheral Blood Mononuclear Cells: PBMCs)が、特に好ましい。これは、末梢血であれば臍帯血のように時期を選ばずに生体からいつでも容易に採取できることや、TIL療法やCTL療法のように手術を必要とすることもなく、また骨髄液採取の場合に比べれば採取に際してドナーに与える身体的負担が最小限で済む等の理由による。
【0024】
「生体から」とは、生体由来であることを意味する。したがって、生体から採取された血液とは、生体から直接採取された血液、あるいは間接的に採取された血液のいずれも含む。直接採取された血液とは、例えば、末梢血や骨髄液のように注射針等を生体に直接刺して採取したものや、臍帯血のように分娩後の臍帯から直接採取したもの等が該当する。また、間接的に採取された血液とは、前記直接採取された血液にヘパリン等を添加して抗凝固処理を施した後、一旦冷蔵若しくは冷凍で保存したものから採取することを言う。
【0025】
(増殖刺激因子添加工程)
「増殖刺激因子添加工程」(S0102)とは、採取された血液に対して、その血液中の特定のリンパ球を増殖させるための増殖刺激因子を添加する工程である。
【0026】
「特定のリンパ球」とは、リンパ球を構成する一若しくは二以上の血液細胞の種類を意味する。例えば、NK細胞、T細胞(キラーT細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞を含む。)、NKT細胞、B細胞が該当する。このうちNK細胞とT細胞は、がん、ウイルス感染症等の治療を目的とする本発明の特定リンパ球強化型血液製剤の目的に適合することから特に好ましい。
【0027】
本発明でいう「増殖刺激因子」とは、前記特定のリンパ球の増殖を直接的に、若しくは間接的に誘導する因子をいう。直接的に増殖を誘導する因子とは、増殖させるリンパ球の細胞表面に存在する受容体と特異的に結合することで、そのリンパ球の細胞内に増殖シグナルを伝達させる機能を有する。例えば、後述するNK細胞増殖におけるIL−2等が該当する。また、間接的に増殖を誘導する因子とは、例えば、特定のリンパ球の細胞表面には受容体は存在しないが、単球等の細胞表面の受容体に結合してサイトカイン等の液性因子の産生を誘導し、当該産生された液性因子によって特定のリンパ球の増殖を誘導する場合等が該当する。増殖刺激因子添加工程で添加する増殖刺激因子は、いずれの特定のリンパ球を増殖させるかによって定まる。例えば、NK細胞を増殖させる場合には、NK細胞増殖刺激因子を添加し、また、T細胞を増殖させる場合には、T細胞増殖刺激因子を添加する。
【0028】
「NK細胞増殖刺激因子」としては、例えば、IL−2、IL−12、IL−15、IL−18等のサイトカイン、抗CD16抗体(抗FcγRIII抗体)等の抗体、そして溶連菌から製造されるOK432(ピシバニール:Picibanil)やシイタケより抽出されるレンチナン(Lentinan)等のBRM等が挙げられる。
【0029】
これらの増殖因子のうち抗CD16抗体によるNK細胞の増殖誘導については、本発明者らが知る限りこれまでに報告はない。故に、抗CD16抗体は本発明者らが見出した新規のNK細胞増殖刺激因子である。CD16はNK細胞や顆粒球のマーカーであり、休止期における全NK細胞の細胞表面上に存在するFcレセプターの構成タンパク質である。このCD16を認識する抗CD16抗体がどのようにしてNK細胞を増殖誘導するのか、そのメカニズムについてはまだ明らかにされていない。しかしながら、実施例6及び8で示すようにIL−2等のサイトカイン添加のみの場合と比較して、抗CD16抗体を共添加することで、さらにそれにOK432を添加することにより、これまで体外において増殖が困難とされてきたNK細胞の増殖誘導を効率的に増強することができる。
【0030】
抗CD16抗体をNK細胞増殖刺激因子として添加する場合には、抗CD16抗体を支持体に固相化した状態で添加を行うことが好ましい。これは、抗体を固相化することで当該抗体と特定のリンパ球との接触頻度が高まり、抗体を遊離状態で添加するよりも特定のリンパ球に効率よく増殖刺激を与えることができるからである。ここでいう「支持体」とは、抗体を固定する足場である。支持体の材質は、抗体を安定した状態で固定できる材質であれば、特に限定はしない。例えば、プラスチック等の合成樹脂、ガラス、金属等が利用できる。支持体の形状も特に限定はしないが、当該支持体に固相化された抗体と特定のリンパ球との接触頻度がより高くなるように培養液との接触表面積が大きな形状のものが好ましい。例えば、球状ビーズやリンパ球大の孔を有する多孔質キューブ等が該当する。
【0031】
ところで、抗CD16抗体は、単独添加ではNK細胞を必要量増殖させるには不十分である。つまり、抗CD16抗体は、IL−2等の前記サイトカインと併用することで当該サイトカインによるNK細胞の増殖活性を増強させる作用を有すると考えられる。したがって、抗CD16抗体の添加に際しては、前記サイトカインと併用して用いることが望ましい。
【0032】
なお、前記増殖刺激因子の添加によって、NK細胞の増殖が誘導されると同時に、その細胞傷害活性も活性化される場合がある。このようなNK細胞の活性化はむしろ好ましい効果であり、本実施形態の血液製剤の製造方法において特段の問題とはならない。
【0033】
「T細胞増殖刺激因子」としては、例えば、IL−2等のサイトカイン、抗CD3抗体等の抗体が挙げられる。抗CD3抗体をT細胞増殖刺激因子として添加する場合には、前記NK細胞の抗CD16抗体の場合と同様の理由から、支持体に固相化した状態で添加を行うことが好ましい。
【0034】
(活性化工程)
「活性化工程」(S0103)とは、採取された血液を38℃以上40℃以下の温度で10時間以上30時間以下保持してリンパ球を活性化させる工程である。すなわち、リンパ球に熱刺激を加えることで活性化を誘導させる工程である。
【0035】
ここでいう「リンパ球を活性化」とは、そのリンパ球が有する機能を亢進、若しくは増強することをいう。例えば、NK細胞やNKT細胞、キラーT細胞であれば、細胞傷害に対する機能が増強されたり、活性・増殖に関わるリンパ球表面レセプター発現が増強されることが該当する。当該リンパ球の活性化は、例えば、NK細胞であれば、実施例2で示すようなK562白血病細胞系を用いた細胞傷害活性によって測定することで判断できる。あるいは、実施例5で示すように活性化マーカーの発現によっても判断できる。なお、活性化マーカーは、特定リンパ球がNK細胞やT細胞等のリンパ球であればCD69やCD56等を利用すればよい。また、それらの検出には、それぞれのマーカーに対する抗体を用いればよい。
【0036】
(培養工程)
「培養工程」(S0104)とは、増殖刺激因子添加工程及び活性化工程の後の血液を生理的細胞温度条件下で培養する工程である。「生理的細胞温度」とは、血液を培養する上で至適な温度をいう。通常は37℃であるが、当該温度を中心に0.5℃未満の範囲内で前後しても構わない。通常、恒温器内の温度は前記温度範囲内で前後する可能性があるからである。当該培養工程で、特定のリンパ球が強化された血液製剤が得られる。
【0037】
<実施形態1:方法>
図1で示した本実施形態を構成する各工程の方法について、以下で説明をする。ただし、以下の方法は例示に過ぎず、本願出願時における当業者の技術常識の範囲内で同等の効果を得ることができる他の方法は、当然に本実施形態の方法に含まれるものとする。また、以下で説明する特定のリンパ球を含めた血液細胞の培養は、原則として滅菌処理済の試薬、培地、器具等を使用し、培養操作はクリーンルーム内のクリーンベンチ等の無菌的環境下で行うことを前提とする。これは、血液、及び本実施形態で製造する特定リンパ球強化型血液製剤への雑菌等のコンタミネーションを防止するためである。
【0038】
なお、図1では増殖刺激因子添加工程(S0102)後に活性化工程(S0103)を行う流れとなっているが、これら二つの工程の順序については特に問わない。これは、当該二つの工程の順序を変えても結果に大きな差異が見られないためである。したがって、図2で示すように増殖刺激因子添加工程(S0202)を活性化工程(S0203)の先に行う事もできるし、図示していないが増殖刺激因子添加工程と活性化工程を同時に行うこともできる。以下では断りのない限り、図1に従って増殖刺激因子添加工程、活性化工程の順序で、末梢血単核球を対象とした特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法について具体的に説明をする。
【0039】
(血液採取工程)(S0101)
血液採取工程で生体から直接血液を採取する方法に関しては、既知の採取方法に従って行えばよい。例えば、骨髄液であれば骨髄穿刺(マルク)によって採取すればよく、また、臍帯血であれば分娩後胎盤の娩出前の臍帯に針を刺して採取すればよい。さらに、末梢血であれば、末梢部の静脈等に注射をして採取すればよい。
【0040】
ここでは、末梢血単核球を対象とした特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法について以下具体的に説明をする。
【0041】
(a)末梢全血の採取
まず、生体の末梢部血管に注射針を刺して末梢全血を採取する。採取する末梢全血は、静脈血、動脈血を問わない。採取する血液の容量は、製造する特定リンパ球強化型血液製剤の量によって変動するが、例えば、ヒトの大人一人に対して1回投与する当該血液製剤を製造する場合には、通常であれば30ml以上60ml以下で足りる。ただし、血中の末梢血単核球数が極端に低下しているような場合には、成分採血(アフェレーシス)により、白血球だけを必要量選択的に採取するようにする。血液採取工程では採取した末梢全血が凝固しない手段を講じておく必要がある。例えば、血液採取に用いるシリンジ内部等をヘパリン等の血液凝固阻止剤、又は血液凝固阻害剤で予めコーティングしておくとよい。また、採取した血液にはヘパリン等を全血1mlに対して50ユニット程度添加しておくとよい。全血を対象とした特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法の場合には、この段階から次の増殖刺激因子添加工程に進めばよい。
【0042】
末梢全血を採取する対象生物は、ヒト又はヒト以外の哺乳動物とすることができる。ただし、本発明の特定リンパ球強化型血液製剤の使用にあたっては、原則としてその製造に用いた動物種と同一の動物種のものを用いる。例えば、ヒト由来の血液から製造された特定リンパ球強化型血液製剤はヒトに対して使用するという具合である。本実施形態で製造する特定リンパ球強化型血液製剤を製造するための血液は、それを投与する生体自身から採取すること、つまり、養子免疫療法を前提とした血液採取を行うことが好ましい。これは、自己の血液由来の血液製剤であれば、投与後の拒絶反応の可能性を限りなく排除することができるからである。養子免疫療法を前提とする場合には、採取する生体が健常個体である必要はない。つまり、がんやウイルス感染症に罹患した患者から採取した血液であってもよい。なお、本発明で養子免疫療法とは、以下、断りのない限り前述した広義の養子免疫療法を意味する。
【0043】
(b)単核球の分離
次に、末梢全血から赤血球や顆粒球を除去し、単核球を分離する。単核球は、フィコール・ハイパック(Ficoll−Hypaque)やフィコール・コンレイ(Ficoll−Conray)を比重液とした密度勾配遠心法を用いて分離することができる。これらの比重液は、市販の分離液等を利用すると便利である。例えば、Ficoll−Paque PLUS(Amersham社)やLYMPHOPREP(AXIS−SHIELD社)等が利用できる。単核球の分離方法については、キット添付されたプロトコルに従えばよい。分離後の末梢血単核球は、比重液を除去するためにPBS(−)や培養細胞用の培地で数回洗浄する。ここで培養細胞用の培地としては、例えば、血清を含まないRPMI−1640培地やAIM−V(Invitrogen社)等が利用できる。前記PBS(−)、若しくは培地で洗浄後、回収した末梢血単核球の数を血球計算板を用いてカウントする。30ml以上60ml以下の末梢全血から末梢血単核球が2×10個以上回収されていることが好ましい。以上の方法によって、末梢血単核球を採取することができる。なお、T細胞やNK細胞の分離が必要な場合には、抗CD3抗体(T細胞の場合)や抗CD16抗体(NK細胞の場合)でコーティングしたフラスコへの付着性等を利用して、前記採取した末梢血単核球からさらに分離すればよい。
【0044】
(増殖刺激因子添加工程)(S0102)
増殖刺激因子添加工程は、前記血液採取工程で採取された血液に対して、増殖刺激因子を添加する工程である。
【0045】
前記血液採取工程(S0101)で採取した末梢血単核球を1〜3×10個/ml培地となるように予備調製する。ここで用いる培地は、前述の細胞培養用の培地に非働化処理済みのヒト血清、若しくは血漿を容量比(V/V)で5〜10%程度添加したものを用いればよい。また、培地には必要に応じて、ストレプトマイシン、ペニシリン、カナマイシン、ゲンタマイシン等の抗生物質を添加することもできる。前記養子免疫療法での投与を前提とする場合には、前記培地はAIM−Vのような養子免疫療法用の培地に自己血漿を添加したものを用いることが望ましい。自己血漿は、血液採取工程後に得られる血液から調製すればよい。例えば、採取した末梢全血を室温(10℃〜30℃:以下同じ。)にて3000rpm、10分間遠心して得た上清を自己血漿とすることができる。
【0046】
以下、特定のリンパ球としてNK細胞、又はT細胞を対象とする場合について具体的に説明をする。
【0047】
(a)NK細胞を特定のリンパ球とする場合
NK細胞を特定のリンパ球とする場合は、前記予備調製した末梢血単核球を含む培養液にNK細胞増殖刺激因子を添加する。ここで添加する必須のNK細胞増殖刺激因子としては、前述のIL−2、IL−12、IL−15、IL−18等のサイトカインを用いる。これらは単独で添加してもよいし、複数種類を組み合わせて添加してもよい。コスト面等を勘案するとIL−2が好ましい。添加する量は、例えば、IL−2であれば終濃度で100ユニット/ml以上2000ユニット/ml以下の範囲とすることが好ましい。これは、100ユニット/mlよりも少ない場合は増殖刺激を誘導する上で不十分であり、また2000ユニット/mlよりも多い場合にはIL−2の濃度の増加に応じたNK細胞の増殖が認められないためである。
【0048】
ところで、IL−2のようにNK細胞と後述のT細胞に共通する増殖刺激因子を使用した場合には、両細胞が特定のリンパ球として共に増殖誘導されることとなる。目的とする特定のリンパ球が、NK細胞又はT細胞のいずれか一方である場合には、それぞれの細胞に特異的な増殖刺激因子をさらに添加することで、一方の細胞を選択的に増殖することがきる。例えば、NK細胞を増殖させたい場合には後述する抗CD16抗体を、またT細胞を増殖させたい場合には抗CD3抗体を添加することなどが挙げられる。ただし、そのような特異的増殖刺激因子を添加した場合であっても、最終産物には他方のリンパ球が少なからず混在する。しかし、これは、本実施形態の特定リンパ球強化型血液製剤にとっては、特段の問題とはならない。なぜなら、いずれのリンパ球細胞も本発明の特定リンパ球強化型血液製剤の目的に資するからである。
【0049】
NK細胞を増殖させるためには、前記サイトカインに加えて、抗CD16抗体をNK細胞増殖刺激因子として添加することが望ましい。これは、抗CD16抗体がIL−2等のサイトカインによるNK細胞の増殖を増強できるためである。
【0050】
抗CD16抗体を添加する場合には、例えば、終濃度100μg/mlとなるように培地に直接に添加してもよいが、前述の理由から抗体を支持体に固相化した状態で添加することが望ましい。抗体を固相化する場合、固相化する表面積等を勘案して添加する液量と抗体濃度を定めた抗体溶液を使用する。例えば、抗CD16抗体をプラスチックフラスコの内壁表面積175cmに固相化する場合であれば、例えば、濃度1μg/ml PBS(−)の抗CD16抗体溶液を10ml程度使用すればよい。
【0051】
抗体を支持体へ固相化する方法は、支持体の材質がプラスチック等のように抗体と親和性の高いものであれば、抗体溶液中に支持体を浸漬させることで固定できる。このとき支持体がフラスコ等の容器であれば、容器内に抗体溶液を直接入れればよい。抗体は、37℃で12〜24時間程度インキュベートすれば支持体に付着し固相化できる。固相化後は抗体溶液を除去し、新たなPBS(−)で支持体を数回洗浄する。また、抗体の固相化は市販の抗体固定化キット等を用いてもよい。例えば、CarboLink(PIERCE社)等が利用できる。このような固定化キットは、支持体の材質が抗体が付着しにくい時には便利である。
【0052】
さらに、前記サイトカイン及び抗CD16抗体に加えて、OK432をNK細胞増殖刺激因子として添加することが好ましい。これは、実施例8に示すように、前記抗CD16抗体の添加の場合と同様に、NK細胞の増殖をより増強できるためである。OK432は、前記調製した末梢血単核球を含む培養液に終濃度で1μl/ml程度加えれば足りる。
【0053】
(b)T細胞を特定のリンパ球とする場合
T細胞を特定のリンパ球とする場合は、前記調製した末梢血単核球を含む培養液にT細胞増殖刺激因子を添加する。ここで添加する必須のT細胞増殖刺激因子としては、IL−2の使用が好ましい。添加する量等は、終濃度で100ユニット/ml以上200ユニット/ml以下の範囲とすることが好ましい。
【0054】
T細胞を特定のリンパ球として特異的に増殖誘導させる場合には、前記サイトカインに加えて、抗CD3抗体をT細胞増殖刺激因子として添加することが望ましい。抗CD3抗体を添加する場合には、前記抗CD16抗体の場合と同様に支持体に固相化した状態で添加を行う方が好ましい。抗CD3抗体の添加方法や固相化方法については前記(a)のNK細胞の場合に準じて行えばよい。
【0055】
(活性化工程)(0103)
活性化工程は、採取された血液を所定の温度に所定の時間保持してリンパ球を活性化させる工程である。血液中のリンパ球の多くは当該活性化工程で活性化状態となる。
【0056】
活性化の温度は、38℃以上40℃以下で行う。これは、実施例2で示すように、37℃よりも低い温度ではリンパ球を活性化させるには不十分であり、また40℃よりも高い温度ではリンパ球が熱により変性や損傷を受ける可能性が高くなるからである。このように、本実施形態の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法において、当該活性化の温度の範囲は重要な要件である。
【0057】
前記温度に保持する時間は、10時間以上30時間以下で行う。これは、実施例3で示すように、前記保持温度下において10時間よりも短い時間ではリンパ球を活性化するには不十分であり、また30時間よりも長い時間では血液が変性や損傷を受ける可能性が高くなるからである。活性化を行う場合には、処理前の温度から前記保持するべき所定の温度に至るまでの時間(いわゆるタイムラグ)を勘案して行う。これらのタイムラグは短い方がよい。タイムラグが長いと高温に保持する時間の延長に繋がるため、リンパ球に損傷を与える可能性が高くなるからである。
【0058】
所定の温度に保持させる手段は、血液を一定温度に保持できれば、特に限定はしない。例えば、COインキュベーターを用いて、当該血液の入った容器ごと所定の温度にする手段が挙げられる。
【0059】
(培養工程)(0104)
培養工程は、増殖刺激因子添加工程及び活性化工程の後の血液を生理的細胞温度条件下で培養する工程である。
【0060】
増殖刺激因子添加工程及び活性化工程を経た血液を含む培養液は、そのまま当該培養工程で培養すればよい。当該培養液に添加された増殖刺激因子が、引き続き培養工程においても特定のリンパ球に対して増殖誘導刺激を与えることが可能だからである。ただし、特定のリンパ球がNK細胞であって増殖刺激因子として抗CD16抗体やOK432を添加した場合には、増殖刺激因子添加工程及び活性化工程後に一旦末梢血単核球を回収して、抗CD16抗体やOK432を含まない新たな培養液に移すことが好ましい。これは、抗CD16抗体やOK432の長期に渡るNK細胞への刺激が、NK細胞の強化に望ましくない影響を与える可能性があるからである。この場合、抗CD16抗体やOK432の除去と末梢血単核球の回収は、遠心によって上清を除くことで達成できる。具体な方法は、以下に述べる培地交換の方法に準じて行えばよい。
【0061】
培養は、5%CO濃度、かつ生理的細胞温度条件下にあるインキュベーター内において7日以上25日以下の期間で行う。これは、6日以下の培養では特定のリンパ球の増殖が不十分なためであり、また、26日以上では特定のリンパ球の増殖が静止状態に達してしまうことや、長期培養により細胞の劣化(老化)等の傷害が発生する可能性が高くなるからである。
【0062】
上記培養期間内では、2日から5日の間隔で定期的に新しい培地を加えていくことが望ましい。これは、活性化された特定のリンパ球を状態よく維持し、また効率よく増殖させるためである。培地交換の具体例は、まず、滅菌済み遠心チューブに増殖刺激因子添加工程及び活性化工程後の末梢血単核球を含む培養液を移す。続いて、1200rpmにて8分間ほど室温で遠心した後に上清を除き、末梢血単核球、若しくは特定のリンパ球である沈殿物を回収する。沈殿物は必要に応じて培養液で数回洗浄してもよい。回収された末梢血単核球、若しくは特定のリンパ球は前述の血清等を添加した新たな培養液に移す。このとき、特定のリンパ球を増殖させるための増殖刺激因子を増殖刺激因子添加工程と同様に添加するとよい。ただし、前記理由により、NK細胞を特定のリンパ球とする場合には、交換する培地内に抗CD16抗体やOK423を添加しないことが好ましい。
【0063】
培養後は培養液中に細菌やエンドトキシンのコンタミネーションがないことを確認する。菌の有無はコロニー形成アッセイ法によって、またエンドトキシンの有無は市販のELISA等の比色法やリムルステスト等の懸濁法によって調べればよい。
【0064】
(特定リンパ球強化型血液製剤)
以上の製造工程をもって、特定のリンパ球を強化することができる。ところで、特定リンパ球強化型血液製剤において培養で用いた培地や当該培地に添加した増殖刺激因子は不要である。したがって、特定リンパ球強化型血液製剤として使用する場合には、培地や増殖刺激因子は除去する。これらの除去方法は、まず、当該特定のリンパ球を含む培養液を滅菌済み遠心チューブに移し、1200rpmにて8分間ほど室温にて遠心すればよい。続いて、増殖刺激因子を含む上清の培地を除去する。特定のリンパ球は、沈殿物として回収できる。回収された特定のリンパ球は、培地や増殖刺激因子を十分に除去するために、2回以上PBS(−)で洗浄することが望ましい。洗浄後の特定リンパ球は、血球計算板を用いて細胞数をカウントする。最後に、洗浄した細胞を10〜200mlの生理食塩水で調整する。こうして、本実施形態の特定リンパ球強化型血液製剤を得ることができる。必要に応じて当該血液製剤にサイトカイン等を添加することも可能である。
【0065】
本実施形態の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法によれば、前述の30ml以上60ml以下の末梢全血から5×10個以上、4×10個以下の活性化された特定リンパ球を含む特定リンパ球強化型血液製剤を50mlから100ml程得ることができる。これはまた、実施形態2の細胞免疫療法において、ヒトの大人1回当たりに投与する特定リンパ球強化型血液製剤の量に相当する。
【0066】
本実施形態の特定リンパ球強化型血液製剤における特定リンパ球の細胞数は、NK細胞であれば健常な大人の血液における濃度の100倍から8000倍、またT細胞であれば健常な大人における濃度の100倍から2000倍に相当する。また、本実施形態の特定リンパ球強化型血液製剤における特定リンパ球は、例えば、NK細胞の場合には約90%が活性化されている。これは、健常な大人の血液と比較して10倍以上に相当する。このように、本実施形態で得られる特定リンパ球強化型血液製剤は、特定のリンパ球が通常の血液と比較して強化されていると言える。
【0067】
本実施形態の特定リンパ球強化型血液製剤は、製造後直ちに使用することもできるし、4℃から6℃程度の低温下で所定の期間、又は保存液等を加えて超低温下(約−80℃)若しくは液体窒素中で数年に渡る長期間保存することも可能である。前記保存液としては、市販の活性化リンパ球保存液を用いると便利である。例えば、バンバンカー(日本ジェネティックス社)、ケーエムバンカーII(コスモバイオ社)等が利用できる。
【0068】
<実施形態1:効果>
本実施形態の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法によれば、生体から採取した血液から特定のリンパ球を強化した血液製剤を製造することができる。特に当該製造方法によれば、これまで体外での十分な増殖が困難であったNK細胞を活性化状態で、大量に増殖することができる。また、当該製造方法によれば、生体から採取する血液は、末梢血であってもよいことから、ドナーに対する身体的負荷を最小限に留めることができる。さらに、当該製造方法によれば、特段の専用機器等を必要とせず、細胞培養を行う一般的な検査施設や研究施設等に常備されている機器等がそのまま利用でき、必要とする試薬等はいずれも容易に入手ができる。したがって、クリーンルーム等の無菌で作業のできる研究施設であれば、初期設備投資等をほとんど必要とすることなく本実施形態の製造方法を実施できる利点がある。
【0069】
本実施形態の製造方法で得られる特定リンパ球強化型血液製剤によれば、実際の臨床実験において、癌の再発予防や進行がんの有効な治療をすることができる。また、当該血液製剤の投与では副作用が認められていない等、安全な血液製剤を提供できる。
【0070】
<<実施形態2>>
<実施形態2:概要>
実施形態2は実施形態1で製造された特定リンパ球強化型血液製剤を生体に投与して免疫力を高め、疾患を治療する細胞免疫療法に関する。
【0071】
<実施形態2:構成>
実施形態2は、実施形態1の製造方法で得られる特定リンパ球強化型血液製剤を生体に投与する細胞免疫療法である。本実施形態の構成について以下で具体的に説明をする。
【0072】
本実施形態でいう「細胞免疫療法」とは、前記実施形態1の製造方法で得られる特定リンパ球強化型血液製剤を生体に投与することで、その生体の免疫力を高めて疾患を治療する方法である。特に、本実施形態の細胞免疫療法は、養子免疫療法を前提としたものである事が好ましい。これは、前述のように養子免疫療法が拒絶反応の危険性がほとんどないからである。
【0073】
前記投与される特定リンパ球強化型血液製剤は、特定のリンパ球としてがん、ウイルス感染症、若しくは真菌感染症に対する免疫力を有するリンパ球が単位体積あたりの通常血液平均値よりも多く含まれている血液製剤である。ここでいう「がん」とは、悪性腫瘍全般を意味する。例えば、上皮性腫瘍や肉腫、白血病、骨髄腫等が該当する。「ウイルス感染症」は、ウイルス感染による疾患全般を指すが、特に治癒が難治の慢性ウイルス感染症や急性ウイルス感染症の予防が該当する。当該難治な慢性ウイルス感染症としては、例えば、AIDSを引き起こすHIV感染症、ウイルス性慢性肝炎、子宮頸癌を引き起こすヒトパピローマウイルス感染症が挙げられる。また、急性ウイルス感染症としてはインフルエンザ等のウイルス性呼吸器感染症や免疫不全状態での急性ウイルス感染症が挙げられる。「真菌感染症」とは、糸状菌や酵母等による感染症である。例えば、カンジダ感染症、ブラストミセス症、ヒストプラスマ症等が挙げられる。
【0074】
「免疫力を有するリンパ球」とは、免疫系における機能が強化されたリンパ球を意味する。例えば、細胞傷害活性が活性化された状態にあるキラーT細胞、NK細胞、NKT細胞が該当する。また、ここでいう「単位体積あたりの通常血液平均値」とは、健常な個体の血液で一般に観察されるがん、ウイルス感染症、若しくは真菌感染症に対する免疫力を有した血中細胞数の単位体積あたりの平均値を意味する。例えば、NK細胞であれば、健常人の大人の血液1mlあたり平均して約5×10個程度のNK細胞が存在している。本実施形態で用いる特定リンパ球強化型血液製剤は、がん、ウイルス感染症、若しくは真菌感染症に対する免疫力を有するリンパ球、例えば、NK細胞、T細胞、B細胞、NKT細胞のいずれか一、又は二以上が、単位体積あたりの通常の各血球数の平均値よりも100倍以上であることを特徴とする。
【0075】
<実施形態2:方法>
本実施形態の細胞免疫療法における特定リンパ球強化型血液製剤の投与方法について、養子免疫療法を行う場合を例として以下で説明をする。当該投与方法は、実施形態1の特定リンパ球強化型血液製剤を投与する点を除けば、従来の養子免疫療法で知られる方法と基本的に同様である。したがって、投与方法に関しては公知の養子免疫療法における投与方法に準じて行えばよい。例えば、患者から採取した血液から実施形態1の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法によって製造された当該血液製剤を、その患者の体内に約2週間後に点滴等を用いて投与する方法等が挙げられる。
【0076】
特定リンパ球強化型血液製剤の1回あたりの投与量は、ヒトの場合には細胞数にして5×10個から4×10個の範囲の特定リンパ球を含む容量であればよい。ただし、これは一般的な大人への投与量である。実際の投与では、当該血液製剤を投与する者の年齢、性別、体重、疾患の状態、体力等を勘案して適宜調節することが好ましい。
【0077】
本実施形態における細胞免疫療法の一例として、前記投与方法を1サイクルとして、約2週間間隔で1クール(6サイクル)以上投与を継続する方法が挙げられる。養子免疫療法でない場合も、自己でない生体から得られた特定リンパ球強化型血液製剤を投与する点を除いては、同様の方法で当該細胞免疫療法を行えばよい。本実施形態の細胞免疫療法の実験例とその有効性については、後述する実施例11、12で詳述する。
【0078】
<実施形態2:効果>
本実施形態の細胞免疫療法によれば、従来の多くの免疫療法、特に養子免疫療法と比較して、がん等の疾患に対する治癒に高い有効性を有する。また、従来の養子免疫療法と基本的な操作技術等は同様であることから、養子免疫療法の技術を有する者であれば特段の技術習得をすることなく実施できる。
【0079】
<<実施例>>
以下の実施例1から12をもって本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例は単に例示するのみであり、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。また、本実施例で使用された温度、量、時間等の数値に関して、実験上の多少の誤差及び偏差は斟酌される。さらに、以下の実施例において、その内容が臨床実験であるものに関しては、実験の対象となる患者に対して十分なインフォームドコンセントを行い、同意を得た上で行ったものである。
【実施例1】
【0080】
<特定リンパ球活性型血液製剤の製造方法の具体例>
実施形態1の特定リンパ球活性型血液製剤の製造方法について、養子免疫療法で用いる当該血液製剤の製造方法についての具体例を挙げる。
【0081】
(血液採取工程)
まず、抗凝固処理のために採血管にヘパリンを50ユニット/ml加えて、そこに大人のがん患者の静脈から50mlの末梢全血を採取した。次に、採取した末梢全血を滅菌済み遠心チューブに入れて、室温(10℃〜30℃)にて3000rpm、10分間遠心した後、遠心後チューブ内の上清を血漿として採取した。血漿を採取した残りの血球成分は、等分のPBS(−)を加えて血球成分溶液とした。続いて、末梢血単核球を得るために以下の処理を行った。
【0082】
(1)50mlの遠心チューブにFicoll−Paque PLUS(Amersham社)20ml予め入れておき、その溶液の上に前記血球成分溶液25mlを、二液が混ざることがないように気をつけながら静かに重層した。
【0083】
(2)前記重層液をスウィングローターにより1500rpmで30分間遠心した後、ピペットを用いて単核球層を回収し、新たな50ml遠心チューブに移した。
【0084】
(3)回収した単核球層(約10ml)に血清を含まないPBS(−)またはRPMI−1640を30ml加え、2度洗浄を行った。洗浄は前記培地を混合後、スウィングローターにより1200rpmで10分間遠心した後、上清を除き沈殿物を回収する方法で行った。
【0085】
以上の方法で末梢血単核球を得た。回収後の末梢血単核球は、AMI−V(Invitrogen社)+5%(V/V)自己血漿を加えた培地を細胞密度が1×10個/mlになるように加えて懸濁した。
【0086】
自己血漿の調製は、前記で取り分けた血漿を56℃、30分で非動化してすることによって得た。
【0087】
(増殖刺激因子添加工程)
ここでは、特定のリンパ球としてNK細胞を増殖誘導する場合について説明する。
【0088】
(1)予め抗CD16抗体10μgをPBS(−)10mlに加えたものを、175cmのプラスチックフラスコに入れ、37℃で12時間以上24時間以下静置した。その後、当該溶液を廃棄し、PBS(−)によって2度コーティングしたフラスコ内面を洗浄した。当該操作によって、フラスコ内壁に抗CD16抗体が固相化された。
【0089】
(2)前記血液採取工程で得られた末梢血単核球の懸濁液を、前記フラスコ内に移した。続いて、IL−2とOK432をそれぞれ終濃度700ユニット/ml、終濃度1μg/mlとなるように添加し、十分に撹拌した。
以上の操作によって、NK細胞の増殖刺激を行った。
【0090】
(活性化工程)
(1)上記NK細胞増殖刺激工程後、フラスコを予め39℃に設定したCOインキュベーターに静置し、24時間当該温度に保持した。
【0091】
(2)フラスコは、前記39℃での保持後、直ちに予め37℃に設定したCOインキュベーターに移して培養を継続した。
以上の操作によってNK細胞を活性化した。
【0092】
(培養工程)
(1)活性化工程で用いた培地からOK432を除くために、刺激後3日目にフラスコ内の末梢血単核球を50mlの遠心チューブに移し、1200rpm8分間遠心を行った後、上清を廃棄した。
【0093】
(2)回収後の末梢血単核球にAMI−V(Invitrogen社)+5%(V/V)自己血漿+終濃度700ユニット/ml IL−2の培地を1×10個/mlの細胞密度になるように加えた後、抗CD16抗体で固相化されていないフラスコに移した。
【0094】
(3)37℃でさらに11日間培養した。
【0095】
(4)本工程の前記(2)と同様の培地を、2〜4日ごと加えた。
以上が、特定リンパ球強化型血液製剤を製造するための基本操作である。実際に、特定リンパ球強化型血液製剤として使用する場合には、コンタミネーションテストや前処理を行う必要がある。以下、それらについて簡単に説明をする。
【0096】
(コンタミネーションテスト)
培養液中のエンドトキシンの有無についての検証は、Limulus ES−II(Wako社)を用いて、添付のプロトコルに従って確認した。また、細菌やカビの有無については寒天培地に培養液の一部を塗布し、コロニー形成アッセイ法によって確認した。
【0097】
(特定リンパ球強化型血液製剤前処理)
(1)培養後2週間の培養液を175mlの遠心チューブに移し、1200rpm10分間遠心を行った後、上清を廃棄した。
【0098】
(2)PBS(−)を50ml加えて沈殿を懸濁し、再度1200rpm10分間遠心を行った後、上清を廃棄した。この操作を3度繰り返して行い、培地成分を除去した。
【0099】
(3)生理食塩水70mlに懸濁した。
以上の操作をもって、NK細胞の特定リンパ球強化型血液製剤を得た。当該血液製剤にはNK細胞が総細胞数の約90%、そのうち約80%が活性化NK細胞であった。これについては、実施例5、7で詳述する。
【実施例2】
【0100】
<リンパ球の至適活性化温度の選択>
((方法))
ここでは、NK細胞における活性化の温度とその保持時間の方法について述べる。NK細胞は、株化されたKHYG−1株を用いた。
【0101】
(NK細胞の活性化条件)
KHYG−1株は、10%牛胎児血清を含むRPMI1640培地で、37℃、CO濃度5%のインキュベーターにて培養した。活性化は、ほぼ同数の細胞数を含む培養液を37、38、39、40、41、42、43℃で、それぞれ24時間保持して行った。
【0102】
(活性化NK細胞の測定:K562を用いた細胞傷害活性測定法)
NK細胞の活性化は、当該NK細胞の標的となる白血病細胞系の株化細胞であるK562に対する細胞傷害活性として測定した。当該方法では、
まず、NK細胞の標的として白血病細胞系の株化細胞であるK562を標識した。標識はK562細胞を培養しているRPMI−1640液体培地(ウシ胎児血清を10%含む)に、100分の1量の蛍光色素Calcein−AM溶液(同仁化学研究所)を加えて30分間37℃でインキュベートして行った。標識後、当該細胞をPBS(−)で洗浄し、標識K562として用いた。次に、NK細胞(エフェクター細胞)と標識K562(ターゲット細胞)との比(E/T比)が12倍となるように調製したエフェクター細胞を加え、それぞれの比率を96穴プレートに3穴ずつ作り、37℃、CO濃度5%で2時間から4時間反応させた。反応後は96穴プレートの各穴で生きて蛍光を保つターゲット細胞の量をTerascanVP(ミネルバテック)を用いてその蛍光強度によって検出した。K562の細胞傷害活性値は、エフェクター細胞を加えないコントロールの蛍光強度との比較により算出した。
【0103】
((結果))
表1に本実施例の結果を示す。38℃から40℃では、NK細胞のK562に対する細胞傷害活性が90%を超えており、これらの温度で保持されたNK細胞は、その多数が活性化されていることを示唆している。一方、41℃以上では、細胞傷害活性が急激に低下しており、わずか1℃差でNK細胞の活性化が大きく変動することが判明した。以上の結果から、NK細胞を活性化する上で、最も至適な温度は、38℃以上40℃以下であることが明らかとなった。
【表1】

【実施例3】
【0104】
<リンパ球の至適活性化時間の選択>
((方法))
ここでは、NK細胞における活性化の温度とその保持時間の方法について述べる。
【0105】
(特定リンパ球強化型血液製剤の製造)
NK細胞は、前記実施例1の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法で得たものを使用した。ただし、末梢全血は健常人の大人から採取したものを用い、また、活性化工程において、NK細胞を活性化するための温度は、実施例2の結果から39℃に設定した。当該温度での保持時間は、0時間(37℃連続培養)、2時間、6時間、24時間、48時間、14日間(39℃連続培養)で行った。さらに、特定リンパ球の増殖刺激因子としてIL−2を培養液に700ユニット/ml添加した。培養工程の期間は14日間で行い、培養後の細胞数もカウントした。
【0106】
(活性化NK細胞の測定)
活性化NK細胞の測定の測定は前記実施例2の方法と同様の方法で行った。ただし、E/T比は3倍となるように調整した。
【0107】
((結果))
表2に本実施例の結果を示す。39℃でNK細胞を効率よく活性化し、かつ細胞数が高い値で維持されている時間は6時間以上48時間以内であった。この結果から、至適保持時間は、10時間以上30時間以下とした。
【表2】

【実施例4】
【0108】
<リンパ球の至適培養期間の選択>
((方法))
特定リンパ球強化型血液製剤の基本的な製造方法は、前記実施例1と同様の方法で調製した。ただし、末梢全血は健常人の大人から採取したものを用いた。また、培養工程において培養液から培養期間中数回0.5mlを採取し、培養液中の総細胞数を血球計算板を用いて約3週間カウントした。なお、カウントはAとBの独立した2サンプルにて行なった。
【0109】
((結果))
図3に本実施例の結果を示す。グラフ横軸は培養工程における培養日数を、また縦軸は1mlあたりの総細胞数を示している。この図で示すように、A、Bのいずれも倍養後6日までは総細胞数は僅かしか増加しなかった。しかし、7日以降は対数増殖期に入り、いずれも急速にその数を増加させて約21日後にはほぼMAXに達した。この図では示していないが、その後増殖速度は減少し、26日以降は長期培養による細胞の劣化から逆に細胞数が減少する場合が多かった。したがって、十分な数の特定のリンパ球を含み、かつ活性を維持した傷害のない血液製剤を得るためには、当該培養工程は7日以上25日以下がよいことが明らかとなった。
【実施例5】
【0110】
<培養工程後のリンパ球の活性化状態>
((方法))
本実施例では、特定のリンパ球がNK細胞である場合について説明する。
【0111】
(特定リンパ球強化型血液製剤の製造)
特定リンパ球強化型血液製剤の基本的な製造方法は、前記実施例1と同様の方法で調製した。すなわち、活性工程でリンパ球を活性化後、培養工程で2週間培養した血液製剤である。特定リンパ球強化型血液製剤は、製造後、直ちに次の測定を行った。
【0112】
(活性化NK細胞の測定:フローサイトメトリー解析法)
(1)免疫染色:実施例1で得られた血液製剤中のNK細胞を、蛍光物質で標識されたモノクローナル抗体(ECD標識またはPC5標識−抗CD3抗体、PC5標識またはPE標識−抗CD4抗体、PC7標識−抗CD8抗体、PC7標識−抗CD16抗体、PC5標識またはPE標識−抗CD56抗体、PE標識−抗CD69抗体:Immunotech社)を用いて、CD3,CD16,CD56,CD69の組み合わせと、CD3,CD4,CD8,CD69の組み合わせで免疫染色した。染色は細胞浮遊液にそれぞれの抗体の添付文書で推奨されている抗体量を加えて遮光室温にて15分間染色し、その後遠心して蛍光抗体を含む上清を洗い流すことで行った。
(2)フローサイトメトリー:NK細胞の動態をフローサイトメトリーにCytomic FC500(Beckman社)よって、上記の抗体の組み合わせで測定した。測定データはCXP解析ソフトウェア ver1.1によって解析した。
【0113】
((結果))
図4に上記フローサイトメトリーによる解析結果のサイトグラムを示す。この図において横軸がPC5標識−抗CD56抗体の、また縦軸がPE標識−抗CD69抗体の蛍光強度をそれぞれログスケールで示している。各サイトグラムにおける4つの分画AP1からAP4は、2種類の蛍光強度に基づいてAP1(CD56CD69)を活性化Tリンパ球のフラクション、AP2(CD56CD69)を活性化NK細胞のフラクション、AP3(CD56CD69)を非活性化Tリンパ球のフラクション、AP4(CD56CD69)を非活性化NK細胞のフラクションとしてそれぞれ区分けしている。また、各分画内の数値は測定した培養細胞における当該分画に含まれる細胞の割合(%)を表す。以上の解析をCD56CD3のNK細胞の割合が90%以上の培養細胞についておこなった。
【0114】
この図が示すように本発明で製造される特定リンパ球強化型血液製剤は、2週間の培養工程を経た後であっても、当該血液製剤に含まれるNK細胞の約86%が活性化NK細胞であることが明らかとなった。すなわち、本発明の血液製剤の製造法によれば培養工程後もリンパ球の活性が維持している。
【実施例6】
【0115】
<NK細胞増殖刺激因子としての抗CD16抗体(1)>
((方法))
NK細胞は、前記実施例1の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法で得たものを使用した。ただし、末梢全血は健常人の大人から採取したものを用い、増殖刺激因子添加工程では増殖刺激因子としては700ユニット/mlのIL−2のみを添加したものと、当該IL−2に抗CD16抗体を固相化して添加したものを用いた。さらに、活性化工程では、活性化処理を行わず37℃で連続培養したものと、39℃に24時間保持したものとを用いた。培養工程の期間は13日とした。
【0116】
((結果))
表3に本実施例の結果を示す。37℃で連続培養、39℃に24時間保持のいずれの場合も、IL−2に加えて抗CD16抗体を添加した方がIL−2のみの添加をしたときよりもNK細胞数増加が見られ、抗CD16抗体によるNK細胞の増強効果が確認された。
【表3】

【実施例7】
【0117】
<NK細胞増殖刺激因子としての抗CD16抗体(2)>
((方法))
(特定リンパ球強化型血液製剤の製造)
特定リンパ球強化型血液製剤の基本的な製造方法は、次の点を除いて前記実施例1に従って調製した。末梢全血は健常人の大人から採取したものを用いた。
【0118】
(特定リンパ球強化型血液製剤におけるNK細胞の測定)
NK細胞の測定は、フローサイトメトリー解析法によって行った。NK細胞の免疫染色の方法、及びフローサイトメトリーの方法については、前記実施例5のフローサイトメトリー解析法に準じた。ただし、当該実施例でNK細胞の検出には、ECD標識−抗CD3抗体及びPC5標識−抗CD56抗体を用いた。
【0119】
((結果))
図5に上記フローサイトメトリーによる解析結果のサイトグラムを示す。Aは培養前の、またBは2週間培養後のサイトグラムである。いずれの図も横軸がECD標識−抗CD3抗体の、また縦軸がPC5標識−抗CD56抗体の蛍光強度をそれぞれログスケールで示している。各サイトグラムにおける4つの分画X1からX4は、2種類の蛍光強度に基づいてX1(CD3CD56)をNK細胞のフラクション、X2(CD3CD56)とX4(CD3CD56)をT細胞のフラクション、X3(CD3CD56)をB細胞のフラクションとしてそれぞれ区分けしている。また、各分画内の数値は測定した全リンパ球における当該分画に含まれる細胞の割合(%)を表す。
【0120】
図5で示すように、培養前のAではリンパ球の約90%がT細胞とB細胞で、NK細胞は約10%に過ぎなかったのに対して、Bでは、逆にNK細胞が全リンパ球の90%以上を占めるまでに増殖した。
【0121】
以上の結果からIL−2の存在下で抗CD16抗体はNK細胞の増殖誘導を飛躍的に増強できることが明らかとなった。すなわち、抗CD16抗体は、NK細胞の有効な新規の増殖刺激因子である。
【実施例8】
【0122】
<NK細胞増殖刺激因子としてのOK432>
((方法))
NK細胞は、前記実施例1の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法で得たものを使用した。ただし、末梢全血は健常人の大人から採取したものを用い、増殖刺激因子添加工程では増殖刺激因子としては700ユニット/mlのIL−2のみを添加したもの、IL−2にOK432添加したもの、IL−2に固相化した抗CD16抗体を添加したもの、IL−2にOK432と固相化した抗CD16抗体を添加したものを用いた。培養工程の期間は16日とした。また、同時に実施例2と同様の方法で、16日培養後のNK細胞のK562の細胞傷害活性を測定した。なお、E/T比は3倍に調整した。
【0123】
((結果))
表4に本実施例の結果を示す。この表から、IL−2にOK432を添加した場合、IL−2の単独添加に比べて、NK細胞が強く活性化され、また細胞増殖の増強も確認された。さらに、抗CD16抗体を添加することで、NK細胞の活性化、増殖がともに強く増強されることが判明した。以上の結果からIL−2の存在下でOK432はNK細胞の増殖誘導を増強することができ、また抗CD16抗体とともに用いることでその効果がさらに増強されることも明らかとなった。すなわち、OK432も抗CD16抗体と同様に、NK細胞の有効な新規の増殖刺激因子である。
【表4】

【実施例9】
【0124】
<細胞免疫療法における生体内リンパ球数の動向>
【0125】
((方法))
本発明の特定リンパ球強化型血液製剤を製造するために血液を採取した同一のドナーに対して、当該血液製剤を点滴にて静脈投与した。ここで用いた血液製剤は特定リンパ球としてNK細胞を強化したものである。投与した血液製剤中の細胞数は5×10個である。投与直前、投与後30分、投与後2時間、投与後1日後、投与後2日後、投与後3日後に、当該ドナーから末梢全血を10ml採取して、遠心によって末梢血単核球を分離した。前記実施例7と同様の免疫染色法とフローサイトメトリーと自動血球計測器によって、当該末梢血単核球中に含まれるNK細胞、T細胞、B細胞の各リンパ球の細胞数を算出した。コントロールとして投与直前の末梢全血を10ml採取して、同様に血中のリンパ球数をカウントした。
【0126】
((結果))
図6に本実施例の結果を示す。この図では、横軸に本発明の特定リンパ球強化型血液製剤の投与前から投与後の時間を、縦軸に投与前のリンパ球数値を1としたときの変化率を示している。白棒はNK細胞、黒棒はB細胞、そして斜線棒はT細胞をそれぞれ示している。
【0127】
この図で示すように、本発明の特定リンパ球強化型血液製剤を体内に投与した場合、2時間後には、血液中のNK細胞だけでなくB細胞やT細胞までもが同時に増強された。このような顕著な増強は一過的であるが、投与後少なくとも3日後までは、投与前と比較して血中のリンパ球数はいずれも高い値を示した。このようにNK細胞を特定のリンパ球とする本発明の血液製剤は、その投与によって他のリンパ球の増強をも誘導できることが明らかとなった。
【実施例10】
【0128】
<細胞免疫療法における生体内のリンパ球活性>
((方法))
基本的な方法は実施例9に準じて行った。用いた特定リンパ球強化型血液製剤は実施例7と同様に、NK細胞を特定リンパ球として強化したものである。本実施例では血液中の活性化NK細胞を測定するため、時間ごとに同一ドナーから採取された末梢全血より得られる血漿に実施例7の方法で免疫染色法及びフローサイトメトリーを行った。
【0129】
((結果))
図9に本実施例の結果を示す。この図では、横軸に本発明の特定リンパ球強化型血液製剤の投与前から投与後の時間を、左縦軸に同数の末梢血単核球あたりのNK活性値(%)を、また右縦軸に血液(血漿)1μl中の細胞数を示している。白棒は活性化NK細胞率、黒棒はNK細胞数をそれぞれ示している。
【0130】
図7からドナーに血液製剤を投与した後3日間で、血中のNK細胞数には大きな変化は見られないものの、NK活性値は投与前が約10%であったのに対して、投与後2日までに約35%と上昇することが明らかとなった。これは投与前には健常人の基準値より低値であったNK活性が投与により基準値内に戻ったことを示している。当該NK活性値は、投与後3日から10日まで維持され、徐々に減少していったのち、投与後14日には投与前に近い値に戻る。したがって、14日ごとに本発明の血液製剤を投与することを基本として血中のNK活性を測定しながらNK細胞の投与の間隔とその量を調整することで、血中のNK活性値を30%以上の高い値で維持することができる。
【実施例11】
【0131】
<細胞免疫療法によるがん治療有効性の検証:本発明の特定リンパ球強化型血液製剤を投与した乳癌術後肺転移癌患者の臨床実験例>
((方法))
検体例1は、乳癌切除後に肺転移と胸水で再発した女性患者である。当該患者から前記実施例1の製造方法に従って、末梢全血を採取し、それを基にNK細胞を特定のリンパ球とする特定リンパ球強化型血液製剤を製造した。細胞数5×10個を含む当該血液製剤70mlを当該患者に点滴で投与し、投与前に採取した末梢全血から新たに製造された特定リンパ球強化型血液製剤を2週間後に当該患者に再び同条件で投与した。このサイクルを1クール(6回)繰り返して行った。
【0132】
((結果))
図8に本実施例の結果を示す。この図は本発明の特定リンパ球強化型血液製剤投与による治療前(A)と1クール後(B)の当該患者の肺のCT画像である。この図で示すように、1クール後のBではAで認められた矢印で示す肺転移巣(1001)と胸水(1002)が消失していることがわかる。このように、実施形態1の特定リンパ球強化型血液製剤をがん患者に投与することで、臨床的にも有効な治療効果が得られることが明らかとなった。
【実施例12】
【0133】
<細胞免疫療法によるがん治療有効性の検証:本発明の特定リンパ球強化型血液製剤を投与した腎癌の多発転移性肺腫瘍の患者の臨床実験例>
((方法))
検体例2は、腎癌の多発転移性肺腫瘍の男性患者である。当該患者から前記実施例1の製造方法に従って、末梢全血を採取し、それを基にNK細胞を特定のリンパ球とする特定リンパ球強化型血液製剤を製造した。細胞数1×10個を含む当該血液製剤70mlを当該患者に点滴で投与し、投与前に採取した末梢全血から新たに製造された特定リンパ球強化型血液製剤を2週間後に当該患者に再び同条件で投与した。このサイクルを4回、繰り返して行った。
【0134】
((結果))
図9に本実施例の結果を示す。この図は本発明の特定リンパ球強化型血液製剤投与による治療前(A)と4回投与後(B)の当該患者の肺のCT画像である。この図で示すように、4回投与後のBでは治療前のAで認められた矢印で示す多発転移性肺腫瘍が消失していることがわかる。このように、実施形態1の特定リンパ球強化型血液製剤は、性別や、原がん細胞の種類を問わず、有効であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】実施形態1における工程の流れを説明する図
【図2】実施形態1における他の工程の流れを説明する図
【図3】実施例4の培養工程における培養期間とリンパ球の増殖の関係を示す図
【図4】実施例5の培養工程後におけるリンパ球の活性化状態を示す図
【図5】実施例7の抗CD16抗体によるNK細胞の増殖誘導を示す図
【図6】実施例9の細胞免疫療法における生体内リンパ球数の動向の変化を示す図
【図7】実施例10の細胞免疫療法における生体内のリンパ球活性の変化を示す図
【図8】実施例11の特定リンパ球強化型血液製剤を投与した乳癌術後肺転移癌患者の臨床実験結果
【図9】実施例12の特定リンパ球強化型血液製剤を投与した腎癌の多発転移性肺腫瘍の患者の臨床実験結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から血液を採取する血液採取工程と、
採取された血液に対して、その血液中の特定のリンパ球を増殖させるための増殖刺激因子を添加する増殖刺激因子添加工程と、
採取された血液を38℃以上40℃以下の温度で10時間以上30時間以下保持してリンパ球を活性化させる活性化工程と、
増殖刺激因子添加工程及び活性化工程の後に、当該血液を生理的細胞温度で培養する培養工程と、
を含む特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法。
【請求項2】
前記培養工程は、7日以上25日以下である請求項1に記載の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法。
【請求項3】
増殖刺激因子添加工程は、特定のリンパ球であるNK細胞を増殖させるためのNK細胞増殖刺激因子を添加する工程である請求項1又は2に記載の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法。
【請求項4】
増殖刺激因子添加工程は、前記NK細胞増殖刺激因子として、抗CD16抗体を添加する工程である請求項3に記載の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法。
【請求項5】
増殖刺激因子添加工程は、前記抗CD16抗体の添加に際して、抗CD16抗体を支持体に固相化して添加を行う請求項4に記載の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法。
【請求項6】
増殖刺激因子添加工程は、前記NK細胞増殖刺激因子としてOK432をさらに含んで添加する工程である請求項4又は5に記載の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法。
【請求項7】
増殖刺激因子添加工程は、特定のリンパ球であるT細胞を増殖させるためのT細胞増殖刺激因子を添加する工程である請求項1又は2に記載の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法。
【請求項8】
増殖刺激因子添加工程は、前記T細胞増殖刺激因子として、抗CD3抗体を添加する工程である請求項7に記載の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法。
【請求項9】
増殖刺激因子添加工程は、前記抗CD3抗体の添加に際して、抗CD3抗体を支持体に固相化して添加を行う請求項8に記載の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法。
【請求項10】
血液採取工程で採取する血液は、末梢血単核球である請求項1から9のいずれか一に記載の特定リンパ球強化型血液製剤の製造方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一の製造方法で得られる特定リンパ球強化型血液製剤。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一の製造方法で得られる特定リンパ球強化型血液製剤を投与することで免疫力を高め疾患を治療する細胞免疫療法。
【請求項13】
前記投与される特定リンパ球強化型血液製剤は、特定のリンパ球としてがんに対する免疫力を有するリンパ球が単位体積あたりの通常血液平均値よりも多く含まれている血液製剤である請求項12に記載の細胞免疫療法。
【請求項14】
前記投与される特定リンパ球強化型血液製剤は、特定のリンパ球としてウイルス感染症に対する免疫力を有するリンパ球が単位体積あたりの通常血液平均値よりも多く含まれている血液製剤である請求項13に記載の細胞免疫療法。
【請求項15】
前記投与される特定リンパ球強化型血液製剤は、特定のリンパ球として真菌感染症に対する免疫力を有するリンパ球が単位体積あたりの通常血液平均値よりも多く含まれている血液製剤である請求項14に記載の細胞免疫療法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−297291(P2007−297291A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124630(P2006−124630)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(506149184)
【出願人】(506147308)
【出願人】(506147571)
【Fターム(参考)】