説明

リン酸カルシウム系化合物、リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体及びリン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法及び定量方法

【課題】リン酸カルシウム系化合物、リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体及びリン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンを、高い回収率で抽出する方法及び高い精度で定量する方法を提供する。
【解決手段】リン酸カルシウム系化合物、リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体及びリン酸カルシウム系細胞培養担体のそれぞれを、キレート剤の溶液に溶解又は分散させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウム系化合物、リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体及びリン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンを、高い回収率で抽出する方法及び高い精度で定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンは、グラム陰性菌の細胞壁に存在するリポ多糖であり、体内に入ると発熱を引き起こすので、人工骨等の医療機器に付着又は吸着したエンドトキシン量の検査が不可欠である。従来、医療機器に付着又は吸着したエンドトキシンを定量する方法として、カブトガニの血球成分抽出物を含有するリムルス試薬を用いるリムルステスト法が利用されている。リムルステストを行う場合、血清アルブミンを含有する抽出液、水又は生理食塩水に検体を浸漬し、抽出したエンドトキシンを定量している。しかしハイドロキシアパタイトを始めとするリン酸カルシウム系化合物を用いた医療機器に付着又は吸着したエンドトキシンを定量する場合、血清アルブミン含有抽出液、水又は生理食塩水では十分にエンドトキシンを抽出できなかった。
【0003】
そこで特開2003-279580号(特許文献1)は、ハイドロキシアパタイト多孔体等のセラミックス多孔体のエンドトキシンを十分に抽出する方法として、セラミックス多孔体の試料を血清アルブミン含有抽出液に浸漬し、超音波照射した後、遠心分離する方法を提案している。しかし特許文献1の方法では、超音波照射によりエンドトキシンが失活し、エンドトキシンを高い精度で定量することができなくなる恐れがある。
【0004】
【特許文献1】特開2003-279580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、リン酸カルシウム系化合物、リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体及びリン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンを、高い回収率で抽出する方法及び高い精度で定量する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、(1) リン酸カルシウム系化合物をキレート剤の溶液に溶解又は分散させると、リン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着したエンドトキシンを高い回収率で抽出することができること、(2) リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体をキレート剤の溶液に溶解又は分散させると、リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンを高い回収率で抽出することができること、及び(3) 少なくともリン酸カルシウム系細胞培養担体が含むリン酸カルシウム系化合物をキレート剤の溶液に溶解又は分散させると、リン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンを高い回収率で抽出することができることを発見した。本発明はかかる発見に基づき完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明のリン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着したエンドトキシンを抽出する方法は、前記リン酸カルシウム系化合物をキレート剤の溶液に溶解又は分散させることを特徴とする。
【0008】
本発明のリン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンを抽出する方法は、前記リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体をキレート剤の溶液に溶解又は分散させることを特徴とする。
【0009】
本発明のリン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンを抽出する方法は、少なくとも前記リン酸カルシウム系細胞培養担体が含むリン酸カルシウム系化合物を前記キレート剤溶液に溶解又は分散させることを特徴とする。
【0010】
前記キレート剤としてエチレンジアミンテトラ酢酸を用いるのが好ましい。前記キレート剤溶液の濃度を5〜150 mMとするのが好ましい。
【0011】
上記リン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記リン酸カルシウム系化合物と前記キレート剤溶液との質量比を1/1,000〜1/100とするのが好ましい。かかる方法の好ましい実施例では、前記リン酸カルシウム系化合物はハイドロキシアパタイト又はリン酸三カルシウムである。
【0012】
上記リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体と前記キレート剤溶液との質量比を1/1,000〜1/100とするのが好ましい。かかる方法の好ましい実施例では、前記リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体はアパタイト/コラーゲン複合体である。
【0013】
上記リン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記リン酸カルシウム系細胞培養担体と前記キレート剤溶液との質量比を1/1,000〜1/100とするのが好ましい。かかる方法の好ましい実施例では、前記リン酸カルシウム系細胞培養担体は、合成樹脂粒子の表面をリン酸カルシウム系化合物で被覆した複合粒子、ハイドロキシアパタイト又はリン酸三カルシウムからなる。
【0014】
本発明のリン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着したエンドトキシンを定量する方法は、上記リン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法により得られた抽出液を試験液とし、その中のエンドトキシンを、カブトガニの血球成分抽出物を含有するリムルス試薬と反応させることにより定量することを特徴とする。
【0015】
本発明のリン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンを定量する方法は、上記リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法により得られた抽出液を試験液とし、その中のエンドトキシンを、カブトガニの血球成分抽出物を含有するリムルス試薬と反応させることにより定量することを特徴とする。
【0016】
本発明のリン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンを定量する方法は、上記リン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法により得られた抽出液を試験液とし、その中のエンドトキシンを、カブトガニの血球成分抽出物を含有するリムルス試薬と反応させることにより定量することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、リン酸カルシウム系化合物、リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体及びリン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンを高い回収率で抽出することができるので、これらに付着又は吸着したエンドトキシンを高い精度で定量することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[1] リン酸カルシウム系化合物
リン酸カルシウム系化合物としては、アパタイト(ハイドロキシアパタイト、炭酸アパタイト、フッ素アパタイト等)、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム等が挙げられる。リン酸カルシウム系化合物は多孔体及び緻密体のいずれを形成していてもよい。
【0019】
[2] リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体
リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体は、上記リン酸カルシウム系化合物にコラーゲン及び必要に応じてその他のバインダーが結合した複合体である。コラーゲンとしては動物等から抽出したものが好ましいが、由来する動物の種、組織部位、年齢等は特に限定されない。一般に哺乳動物(例えばウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ネズミ等)や鳥類(例えばニワトリ等)の皮膚、骨、軟骨、腱、臓器等から得られるコラーゲンを使用できる。コラーゲンとしては、魚類(例えばタラ、ヒラメ、カレイ、サケ、マス、マグロ、サバ、タイ、イワシ、サメ等)の皮、骨、軟骨、ひれ、うろこ、臓器等から得られるコラーゲン様蛋白であってもよい。またコラーゲンとしては、遺伝子組み替え技術により得られたコラーゲンであってもよい。リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体の製造方法は、例えばWO2004/041320に記載されている。
【0020】
[3] リン酸カルシウム系細胞培養担体
リン酸カルシウム系細胞培養担体は上記リン酸カルシウム系化合物を含む成形体である。リン酸カルシウム系細胞培養担体として、上記リン酸カルシウム系化合物、上記リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体、あるいはリン酸カルシウム系化合物又はリン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体と合成樹脂及び/又は金属との複合体を主材料とする成形体が挙げられる。リン酸カルシウム系細胞培養担体は、リン酸カルシウム系化合物以外のセラミックス(例えばアルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア等)や、その他のバインダー等を含んでもよい。
【0021】
リン酸カルシウム系化合物と合成樹脂との複合体として、例えば合成樹脂粒子の表面をリン酸カルシウム系化合物で被覆した複合粒子が挙げられる。その具体例として、例えばナイロン粒子の表面をハイドロキシアパタイトで被覆した複合粒子(例えば商品名「CELLYARD beads」、ペンタックス株式会社製)が挙げられる。
【0022】
[4] キレート剤溶液
(1) キレート剤
キレート剤としては水溶性キレート剤が好ましい。水溶性キレート剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤、(ポリ)オキシカルボン酸系キレート剤、(ポリ)リン酸系キレート剤、ホスホン酸系キレート剤等が挙げられる。
【0023】
アミノカルボン酸系キレート剤としては、エチレンジアミンテトラ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ニトリロトリ酢酸、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、エチレングリコールビス(2-アミノエチルエーテル)テトラ酢酸、DL-アラニン-N, N-ジ酢酸、アスパラギン酸-N, N-ジ酢酸、グルタミン酸-N, N-ジ酢酸、セリン-N, N-ジ酢酸、ヒドロキシベンジルイミノジ酢酸、イミノジ酢酸及びこれらの塩等が挙げられる。
【0024】
(ポリ)オキシカルボン酸系キレート剤としては、クエン酸、マレイン酸、ポリアクリル酸、イソアミレン−マレイン酸共重合体、アクリル酸−マレイン酸共重合体、アクリル酸−メタクリル酸共重合体、グルコン酸及びこれらの塩等が挙げられる。
【0025】
(ポリ)リン酸系キレート剤としては、メタリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ピロリン酸、オルソリン酸、ヘキサメタリン酸及びこれらの塩等が挙げられる。
【0026】
ホスホン酸系キレート剤としては、アミノトリメチレンホスホン酸,1-ヒドロキシエチリデン-1, 1-ジホスホン酸,エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸,アミノトリメチレンホスホン酸のN-オキサイド及びこれらの塩等が挙げられる。
【0027】
(2) 溶媒
溶媒としては緩衝液が好ましい。緩衝液は弱酸性〜弱アルカリ性で緩衝作用を示すものが好ましい。緩衝液として、例えばトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N'-(2-エタンスルホン酸)液、ピペラジン-N,N'-ビス(2-エタンスルホン酸)液、3-(シクロヘキシルアミノ)-1-プロパンスルホン酸液、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸液、N,N'-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸液、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸液、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸液、リン酸又はリン酸塩緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、バルビタール緩衝液、イミダゾール−塩酸緩衝液及びこれらの混合液等が挙げられる。
【0028】
(3) 濃度
キレート剤の濃度は5〜150 mMが好ましく、5〜120 mMがより好ましい。この濃度が5mM未満だと、リン酸カルシウム系化合物の溶解性又は分散性が不十分である恐れがある。一方150 mM超とすると、エンドトキシンが失活してしまう恐れがある。
【0029】
キレート剤溶液のpHは6〜8が好ましい。このpHが6未満又は8超だと、エンドトキシンに対するリムルス試薬の反応性やエンドトキシンの活性に悪影響を与えてしまう恐れがある。
【0030】
[5] リン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出・定量方法
(1) キレート剤溶液の調製
上記溶媒にキレート剤を溶解させてキレート剤溶液を調製する。
【0031】
(2) 抽出
リン酸カルシウム系化合物をキレート剤溶液に溶解又は分散させることにより、エンドトキシンを抽出する。リン酸カルシウム系化合物は、予め粉体にしておくのが好ましい。リン酸カルシウム系化合物粉体の動的光散乱式粒度分布測定におけるモード径を300μm以下とするのが好ましく、これによりリン酸カルシウム系化合物粉体をキレート剤溶液に良好に溶解させることができる。このモード径を250μm以下とするのがより好ましい。
【0032】
本発明では、固体状のリン酸カルシウム系化合物からエンドトキシンを脱離させるのではなく、キレート剤溶液でリン酸カルシウム系化合物を溶解又は分散させることにより、リン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着していたエンドトキシンの全量を溶解させることができるので、エンドトキシンを高い回収率で抽出することができる。
【0033】
リン酸カルシウム系化合物とキレート剤溶液との質量比は1/1,000〜1/100とするのが好ましい。この比を1/1,000未満とすると、試験液中のエンドトキシン濃度が低くなり過ぎ、測定誤差が大きくなる。一方1/100超とすると、リン酸カルシウム系化合物の溶解性又は分散性が不十分である。この比は1/600〜1/200とするのがより好ましい。
【0034】
リン酸カルシウム系化合物のキレート剤溶液への溶解又は分散を促進するために、リン酸カルシウム系化合物を添加したキレート剤溶液を加熱するのが好ましい。加熱温度は40〜80℃が好ましく、45〜70℃がより好ましい。加熱温度を40℃未満とすると、リン酸カルシウム系化合物の溶解が遅い。一方80℃超とすると、エンドトキシンが失活する恐れがある。加熱時間は5〜30分が好ましく、5〜25分がより好ましい。加熱時間を5分未満とすると、リン酸カルシウム系化合物が十分に溶解しない恐れがある。一方30分超とすると、エンドトキシンの活性が低下する恐れがある。
【0035】
(3) 測定
得られた抽出液を試験液としてエンドトキシン量を測定する。エンドトキシン量の測定には、公知のリムルステストを用いることができる。リムルステストは、カブトガニの血球成分抽出物を含有するリムルス試薬にエンドトキシンを加えると凝固反応が生じる性質を利用した試験法であり、日本薬局方にエンドトキシン試験法として記載されている。
【0036】
リムルス試薬は、エンドトキシンと反応して凝固するものであれば特に制限されず、市販のものが使用できる。リムルステストの手法も特に制限されず、公知の比濁法(カイネティック比濁法)、比色法(合成基質法)、蛍光法、ゲル化転倒法等が利用できる。
【0037】
[6] リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出・定量方法
リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法及び定量方法は、リン酸カルシウム系化合物に代えてリン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体を対象とし、キレート剤の濃度を5〜150 mMとするのが好ましく、10〜120 mMとするのがより好ましく、10〜90 mMとするのが最も好ましい以外、上記と同じでよい。リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体を添加したキレート剤溶液を上記温度範囲に加熱することにより、コラーゲンが変性してキレート剤溶液に溶解するので、リン酸カルシウム系化合物を容易にキレート剤溶液に溶解又は分散させることができる。
【0038】
[7] リン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出・定量方法
リン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法及び定量方法は、リン酸カルシウム系化合物に代えてリン酸カルシウム系細胞培養担体を対象とする以外、上記と同じでよい。
【0039】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0040】
実施例1
(1) 試験液の調製
エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を、100 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(pH9)に溶解し、40 mMのEDTA溶液(pH7)を調製した。ハイドロキシアパタイト粉体(商品名「CHT」、ペンタックス株式会社製、モード径40μm)10 mgを試験管に入れ、EDTA溶液3mLを加え、攪拌した。得られた混合液を55℃で15分間加熱した後、再び攪拌してハイドロキシアパタイトを溶解させることにより、試験液を調製した。
【0041】
(2) 測定
リムルス試薬:品名「Endosafe-PTS カートリッジ」、日本チャールス・リバー株式会社製
エンドトキシン標準品:品名「USP Endotoxin 10,000」、和光純薬株式会社製
測定装置:品名「Endosafe-PTS」、日本チャールス・リバー株式会社製
【0042】
上記リムルス試薬、エンドトキシン標準品及び装置を用い、カイネティック比色法を用いて、(i) EDTA溶液のみ、(ii) 濃度が1E.U./mL(E.U.はエンドトキシン単位を表す。1E.U./mLは約0.1 ng/mLである)となるようにエンドトキシン標準品をEDTA溶液に添加した溶液、(iii) 濃度が1E.U./mLとなるようにエンドトキシン標準品を試験液に添加した溶液、及び(iv) 試験液のそれぞれについてエンドトキシン[LPS(Lipopolysaccharide)]濃度を測定した。エンドトキシン標準品を添加した溶液(ii)及び(iii)については回収率を求めた。回収率は、式:測定濃度(E.U./mL)/1(E.U./mL)×100により求めた。結果を表1に示す。
【0043】
実施例2
ハイドロキシアパタイト粉体に代えてリン酸三カルシウム粉体(和光純薬株式会社製、モード径40μm)を用いた以外実施例1と同様にして、試験液を調製し、(試験液+LPS)溶液及び試験液のLPS濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
実施例3
ハイドロキシアパタイト粉体に代えて、ナイロン粒子の表面をハイドロキシアパタイトで被覆した複合粒子からなる細胞培養担体(商品名「CELLYARD beads」、ペンタックス株式会社製、モード径200μm)を用いた以外実施例1と同様にして、試験液を調製し、(試験液+LPS)溶液及び試験液のLPS濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
注:(1) EDTA濃度40 mM(溶媒:100 mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液)。
(2) 実施例1の試験液はハイドロキシアパタイトを溶解させたEDTA溶液であり、実施例2の試験液はリン酸三カルシウムを溶解させたEDTA溶液であり、実施例3の試験液はナイロン粒子の表面をハイドロキシアパタイトで被覆した複合粒子からなる細胞培養担体のハイドロキシアパタイトを溶解させたEDTA溶液である。
【0047】
表1から、EDTA溶液(i)のLPS濃度は検出限界(0.1 E.U./mL)未満であり、EDTA溶液中のLPS量は無視できることが分かった。エンドトキシン標準品をEDTA溶液に添加した溶液(ii)の回収率は97%であったことから、EDTA溶液によりLPSの活性が低下しないことが分かった。エンドトキシン標準品を試験液に添加した溶液(iii)の回収率は137%(実施例1)、165%(実施例2)及び91%(実施例3)と高かった。実施例1及び2において回収率が100%を超えたが、日本薬局方に記載のように、添加LPSの回収率が50〜200%の範囲にあるとき、反応干渉因子は試験液に存在しないと判断してよい。よって実施例1及び2の回収率は許容できる範囲であり、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム及び上記細胞培養担体にLPSが吸着している場合、EDTA溶液を用いて抽出することによりエンドトキシン量を高い精度で測定することができるといえる。以上のことから、検出限界以下であった実施例1〜3の試験液(iv)のLPS濃度は信頼できる値であるといえる。
【0048】
実施例4
EDTA溶液の濃度を10 mM(pH7)とした以外実施例1と同様にして試験液を調製した。この試験液に、濃度が1E.U./mLとなるようにエンドトキシン標準品を添加した溶液について実施例1と同様にしてLPSの回収率を測定した。回収率は110%であり、濃度が10 MmのEDTA溶液を用いても、ハイドロキシアパタイトに付着又は吸着したエンドトキシン量を高い精度で測定することは可能であるといえる。
【0049】
実施例5
EDTA溶液の濃度を70 mM(pH7)とした以外実施例1と同様にして試験液を調製した。この試験液に、濃度が1E.U./mLとなるようにエンドトキシン標準品を添加した溶液について実施例1と同様にしてLPSの回収率を測定した。回収率は105%であり、濃度が70 MmのEDTA溶液を用いても、ハイドロキシアパタイトに付着又は吸着したエンドトキシン量を高い精度で測定することは可能であるといえる。
【0050】
実施例6
EDTA溶液の濃度を100 mM(pH7)とした以外実施例1と同様にして試験液を調製した。この試験液に、濃度が1E.U./mLとなるようにエンドトキシン標準品を添加した溶液について実施例1と同様にしてLPSの回収率を測定した。回収率は75%であり、濃度が100 MmのEDTA溶液を用いても、ハイドロキシアパタイトに付着又は吸着したエンドトキシン量を高い精度で測定することは可能であるといえる。
【0051】
比較例1
(1) 試験液の調製
上記ハイドロキシアパタイト粉体10 mgを試験管に入れ、生理食塩水3mLを加え、攪拌した。得られた混合液を55℃で15分間加熱し、試験液を調製した。
【0052】
(2) 測定
(i) 生理食塩水のみ、(ii) 濃度が1E.U./mLとなるようにエンドトキシン標準品を生理食塩水に添加した溶液、及び(iii) 濃度が1E.U./mLとなるようにエンドトキシン標準品を試験液に添加した溶液のそれぞれについてLPS濃度を測定した。溶液(ii)については回収率を求めた。結果を表2に示す。
【0053】
比較例2
ハイドロキシアパタイト粉体に代えて上記リン酸三カルシウム粉体を用いた以外比較例1と同様にして、試験液を調製し、(試験液+LPS)溶液のLPS濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0054】
比較例3
ハイドロキシアパタイト粉体に代えて上記複合粒子からなる細胞培養担体を用いた以外比較例1と同様にして、試験液を調製し、(試験液+LPS)溶液のLPS濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
注:(1) 比較例1の試験液はハイドロキシアパタイト粉体を添加した生理食塩水であり、比較例2の試験液はリン酸三カルシウム粉体を添加した生理食塩水であり、比較例3の試験液はナイロン粒子の表面をハイドロキシアパタイトで被覆した複合粒子からなる細胞培養担体を添加した生理食塩水である。
【0057】
表2から、生理食塩水(i)のLPS濃度は検出限界未満であり、生理食塩水中のLPS量は無視できることが分かった。エンドトキシン標準品を生理食塩水に添加した溶液(ii)の回収率は80%であったことから、生理食塩水によりLPSの活性が低下しないことが分かった。エンドトキシン標準品を試験液に添加した溶液(iii)の回収率は、検出限界未満(比較例1、2)及び39%(比較例3)であり、実施例1〜6に比較して低かった。このように、生理食塩水を用いた方法では、エンドトキシンを十分に抽出できず、エンドトキシン量を高い精度で測定することができないといえる。
【0058】
実施例7
(1) アパタイト/コラーゲン複合体繊維の作製
120 mMのリン酸水溶液400 mLに、コラーゲンのリン酸水溶液(コラーゲン濃度:0.97 wt%、リン酸濃度:20 mM)412 gを加えて撹拌し、希釈コラーゲン/リン酸水溶液を調製した。400 mM水酸化カルシウム懸濁液を400 mL調製した。反応容器に入れた200 mLの純水に、希釈コラーゲン/リン酸水溶液と水酸化カルシウム懸濁液とを同時に滴下した。得られた反応液を撹拌して、アパタイト/コラーゲン複合体繊維を含むスラリーを製造した。滴下中の反応溶液のpHは8.9〜9.1に保持した。生成したアパタイト/コラーゲン複合体の繊維長は概ね1〜2mmであった。アパタイト/コラーゲン複合体中のアパタイト/コラーゲンの配合比は、質量基準で8/2であった。
【0059】
(2) アパタイト/コラーゲン複合体繊維を含む多孔体の作製
アパタイト/コラーゲン複合体を含むスラリーを凍結し、次いで凍結乾燥機を用いて乾燥させた。凍結乾燥したアパタイト/コラーゲン複合体1gに、6.26gの生理食塩水及び0.053 mLの1N NaOHを混合した後、1.76gのコラーゲン水溶液[コラーゲン濃度:0.55質量%(20mMリン酸水溶液)]を混合した。得られた分散物の液体含有量は、95体積%(アパタイト/コラーゲン複合体中の水を含む)であった。分散物を成形型に入れ、37.5℃で2時間保持してゲル化させることにより成形体を得た。この成形体を−60℃で凍結し、次いで凍結乾燥機を用いて乾燥させ、アパタイト/コラーゲン多孔体を得た。得られたアパタイト/コラーゲン多孔体を粉砕し、モード径が100μmの粉体とした。
【0060】
(3) 試験液の調製
実施例1と同様にして40 mMのEDTA溶液を調製した。上記(1)及び(2)で調製したアパタイト/コラーゲン多孔体の粉体10 mgを試験管に入れ、EDTA溶液3mLを加え、攪拌した。得られた混合液を55℃で15分間加熱した後、再び攪拌し、アパタイト/コラーゲン多孔体を溶解させることにより、試験液を調製した。
【0061】
(4) 測定
リムルス試薬:品名「Limulus シングルテスト」、和光純薬株式会社製
エンドトキシン標準品:品名「CSE:1000EU/mL」、和光純薬株式会社製
測定装置:品名「トキシノメーター」、和光純薬株式会社製
【0062】
上記リムルス試薬、エンドトキシン標準品及び装置を用い、カイネティック比濁法を用いて、(i) EDTA溶液のみ、(ii) 濃度が0.25E.U./mLとなるようにエンドトキシン標準品をEDTA溶液に添加した溶液、(iii) 濃度が0.25E.U./mLとなるようにエンドトキシン標準品を試験液に添加した溶液、及び(iv) 試験液のそれぞれについてLPS濃度を測定した。エンドトキシン標準品を添加した溶液(ii)及び(iii)については回収率を求めた。回収率は、式:測定濃度(E.U./mL)/0.25(E.U./mL)×100により求めた。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
表3から、EDTA溶液(i)のLPS濃度は検出限界(0.01 E.U./mL)以下であり、EDTA溶液中のLPS量は無視できることが分かった。エンドトキシン標準品をEDTA溶液に添加した溶液(ii)の平均回収率は95%であったことから、EDTA溶液によりLPSの活性が低下しないことが分かった。エンドトキシン標準品を試験液に添加した溶液(iii)の平均回収率は87%と高かったことから、アパタイト/コラーゲン多孔体にLPSが吸着している場合、EDTA溶液を用いることによりエンドトキシン量を高い精度で測定することができるといえる。以上のことから、検出限界以下であった試験液(iv)のLPS濃度は信頼できる値であるといえる。
【0065】
実施例8
EDTA溶液の濃度を10 mM(pH7)とした以外実施例7と同様にして試験液を調製した。この試験液に、濃度が0.25E.U./mLとなるようにエンドトキシン標準品を添加した溶液について実施例7と同様にしてLPSの回収率を3回測定した。平均回収率は61%であり、濃度が10 MmのEDTA溶液を用いても、アパタイト/コラーゲン多孔体中のエンドトキシン量を高い精度で測定することは可能であるといえる。
【0066】
実施例9
EDTA溶液の濃度を70 mM(pH7)とした以外実施例7と同様にして試験液を調製した。この試験液に、濃度が0.25E.U./mLとなるようにエンドトキシン標準品を添加した溶液について実施例7と同様にしてLPSの回収率を3回測定した。平均回収率は50%であり、濃度が70 MmのEDTA溶液を用いても、アパタイト/コラーゲン多孔体中のエンドトキシン量を高い精度で測定することは可能であるといえる。
【0067】
実施例10
EDTA溶液の濃度を100 mM(pH7)とした以外実施例7と同様にして試験液を調製した。この試験液に、濃度が0.25E.U./mLとなるようにエンドトキシン標準品を添加した溶液について実施例7と同様にしてLPSの回収率を3回測定した。平均回収率は18%と実施例7〜9に比較して低かったが、濃度が100 MmのEDTA溶液を用いても、アパタイト/コラーゲン多孔体中のエンドトキシン量を測定することは可能であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着したエンドトキシンを抽出する方法であって、前記リン酸カルシウム系化合物をキレート剤の溶液に溶解又は分散させることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記キレート剤としてエチレンジアミンテトラ酢酸を用いることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記キレート剤溶液の濃度を5〜150 mMとすることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のリン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記リン酸カルシウム系化合物と前記キレート剤溶液との質量比を1/1,000〜1/100とすることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のリン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記リン酸カルシウム系化合物はハイドロキシアパタイト又はリン酸三カルシウムであることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のリン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法により得られた抽出液を試験液とし、その中のエンドトキシンを、カブトガニの血球成分抽出物を含有するリムルス試薬と反応させることにより定量することを特徴とするリン酸カルシウム系化合物に付着又は吸着したエンドトキシンを定量する方法。
【請求項7】
リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンを抽出する方法であって、前記リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体をキレート剤の溶液に溶解又は分散させることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載のリン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記キレート剤としてエチレンジアミンテトラ酢酸を用いることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のリン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記キレート剤溶液の濃度を5〜150 mMとすることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載のリン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体と前記キレート剤溶液との質量比を1/1,000〜1/100とすることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載のリン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記リン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体はアパタイト/コラーゲン複合体であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれかに記載のリン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法により得られた抽出液を試験液とし、その中のエンドトキシンを、カブトガニの血球成分抽出物を含有するリムルス試薬と反応させることにより定量することを特徴とするリン酸カルシウム系化合物/コラーゲン複合体に付着又は吸着したエンドトキシンを定量する方法。
【請求項13】
リン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンを抽出する方法であって、少なくとも前記リン酸カルシウム系細胞培養担体が含むリン酸カルシウム系化合物を前記キレート剤溶液に溶解又は分散させることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載のリン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記キレート剤としてエチレンジアミンテトラ酢酸を用いることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項13又は14に記載のリン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記キレート剤溶液の濃度を5〜150 mMとすることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれかに記載のリン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記リン酸カルシウム系細胞培養担体と前記キレート剤溶液との質量比を1/1,000〜1/100とすることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれかに記載のリン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法において、前記リン酸カルシウム系細胞培養担体は、合成樹脂粒子の表面をリン酸カルシウム系化合物で被覆した複合粒子、ハイドロキシアパタイト又はリン酸三カルシウムからなることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項13〜17のいずれかに記載のリン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンの抽出方法により得られた抽出液を試験液とし、その中のエンドトキシンを、カブトガニの血球成分抽出物を含有するリムルス試薬と反応させることにより定量することを特徴とするリン酸カルシウム系細胞培養担体に付着又は吸着したエンドトキシンを定量する方法。

【公開番号】特開2009−133627(P2009−133627A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296055(P2007−296055)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】