説明

リン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料並びにその製法及びハイブリッド材料を用いたインプラント

【課題】
新生骨の生成には6ヶ月必要であることを考えると、酵素重合法により作製されるリン酸カルシウム/ポリ乳酸ハイブリッド材料は、生体擬似体液環境下における溶解性試験において、28日間という短期間に、導入されたポリ乳酸が溶解し、三点曲げ強度が低下すること、及び前記の酵素重合法のリン酸カルシウム/ポリ乳酸ハイブリッド材料の作製期間が長いという問題点がある。
【解決手段】
リン酸カルシウム多孔体を、生分解性ポリマーを含む溶液に浸漬して超音波処理又は吸引処理を施し、アニーリング処理することにより作製されたリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料は、強度が増強され、その作製期間も短縮できて公知の酵素重合法の問題点を解消できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料、その製法及びそれによるインプラントに関するものであり、さらに詳しくは、骨の硬組織の修復又は置換のために好適なハイブリッド材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
骨折のような硬組織に対する損傷では、前記の硬組織の損傷を修復するために使用される材料が必要となる。前記材料は、しばしば損傷を受けた硬組織の機能を維持するために十分な機械的強度を具備することが必要とされる。これらの材料は、前記の硬組織自身が修復する間に一時的に使用されるか又は永久的な置換として使用される。前記の硬組織の修復に使用される材料としてはセラミックスが挙げられる。
【0003】
最近になり、前記の目的に三つのタイプのセラミックスが臨床的に使用されている。第一のタイプのセラミックスは、患者の骨に直接結合する生物学的に活性なセラミックスである。このタイプのセラミックスの例としては、ヒドロキシアパタイト(HAp :Ca10(PO4)6(OH)2)などが挙げられる。第二のタイプのセラミックスは、徐々に体に吸収される生体吸収性セラミックスである。このタイプのセラミックスの例としては、β-リン酸三カルシウム(β-TCP: Ca3(PO4)2)などが挙げられる。第三のタイプのセラミックスは、生体内で不活性であり、かつ高い機械的強度を有するセラミックスである。このタイプのセラミックスの例としては、α-アルミナ(α-Al2O3)及び正方晶系ジルコニア(t-ZrO2)などが挙げられる。
【0004】
ヒドロキシアパタイトは、ヒトの体内の歯及び骨に存在する天然の構成成分と類似した化学組成をもつ。それゆえ、ヒドロキシアパタイトは優れた生体適合性を有することから、損傷した硬組織の置換又は修復のための好適な材料の候補である。確かに、それは損傷を受けた骨を置換若しくは修復するための材料として、又はインプラント上に骨の成長を促すコーティング材として使用されている。医療用インプラント、例えば人工股関節又は歯科用インプラントは、ヒドロキシアパタイトによりコーティングされ、そしてヒドロキシアパタイトが、これらの人工的なインプラント周囲での骨形成を促進することが確認されている。
【0005】
骨への結合及びその他の性質を改善する様々な方法が開発されている。例えば、骨形成タンパク質をコーティングするという方法は、細胞の付着を改善し、そして続いて起こる組織への結合を改善することができることが開示されている(例えば、非特許文献1参照)。さらに、他の改善方法は、窒化物を被覆形成することにより、ヒドロキシアパタイトの硬さが改善され、そして生物学的な環境に対する安定性が改善されることが開示されている(例えば、非特許文献2及び非特許文献3参照)。
【0006】
また、特許文献1には、窒化物被覆形成、骨形成タンパク質又はそのアナログをコードするDNAによるコーティングの組み合わせも開示されている。
【0007】
さらにまた、ヒドロキシアパタイト多孔体の気孔中に、L−ラクチドとリパーゼを酵素重合法により低分子量のポリL-乳酸を導入させてヒドロキシアパタイト材料の機械的な強度を向上させることが報告されている(例えば、非特許文献4及び非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,211,271号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Zeng, H., et al., Biomaterials20 (1999): 377 384
【非特許文献2】Habelitz, S., et al., J.European Ceramic Society 19 (1999): 2685 2694,
【非特許文献3】Torrisi, L., MetallurgicalScience and Technology 17(1) (1999): 2732
【非特許文献4】第20回日本アパタイト研究会要旨集28頁−29頁(2007年12月17日開催)
【非特許文献5】日本セラミックス協会第21回秋季シンポジウム講演予稿集8頁(2008年9月17-19日開催)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、新生骨の生成には6カ月必要であることを考えると、非特許文献5に開示されたβ−リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料は、生体擬似体液環境下におけるin
vitro溶解性試験において、28日間という短期間にβ−リン酸三カルシウム多孔体中に導入されたポリL-乳酸が溶解し、三点曲げ強度が低下するという問題点がある。
さらに、酵素重合法の場合、ヒドロキシアパタイト多孔体中に、L-ラクチドとリパーゼを導入して、130℃で168時間(7日間)加熱しなければならず、作製期間が不当に長くなるという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記の問題点を解消すべく鋭意研究した結果、リン酸カルシウム多孔体と、分子量50,000乃至500,000の生分解性ポリマーとを複合化したリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料を採用することによって、従来技術の問題点を解消するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の〔a〕乃至〔n〕に関するものである。
〔a〕
リン酸カルシウム多孔体と、分子量50,000乃至500,000の生分解性ポリマーとを複合化したことを特徴とする、リン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料。
〔b〕
前記リン酸カルシウム多孔体が、ヒドロキシアパタイト多孔体であることを特徴とする〔a〕に記載のリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料。
〔c〕
前記リン酸カルシウム多孔体が、β-リン酸三カルシウム多孔体であることを特徴とする〔a〕に記載のリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料。
〔d〕
前記生分解性ポリマーの分子量が50,000乃至300,000であることを特徴とする〔a〕に記載のリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料。
〔e〕
前記生分解性ポリマーが、ポリL-乳酸、ポリグリコール酸、ポリクエン酸、L-乳酸/グリコール酸共重合体、ポリε-カプロラクトン、ポリβ−ヒドロキシ酪酸、及びキトサンからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする〔a〕に記載のリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料。
〔f〕
リン酸カルシウム多孔体と生分解性ポリマーとを複合化したリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料の製法であって、
リン酸カルシウム多孔体を、分子量50,000乃至500,000の生分解性ポリマーを含む溶液中に浸漬し、超音波処理又は吸引処理を施すことを特徴とする、製法。
〔g〕
前記処理が、超音波処理であることを特徴とする、〔f〕に記載の製法。
〔h〕
前記生分解性ポリマーを含む溶液中に浸漬処理、及び
前記浸漬処理により得られた浸漬液に超音波処理を1回乃至10回繰り返すことを特徴とする、〔f〕又は〔g〕に記載の製法。
〔i〕
前記吸引処理が、分子量50,000乃至500,000の生分解性ポリマーを含む溶液を、リン酸カルシウム多孔体を介して吸引することを特徴とする、〔f〕に記載の製法。
〔j〕
前記リン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料を、さらに溶融処理及びアニーリング処理、又はアニーリング処理を行うことを特徴とする、〔f〕乃至〔i〕のいずれか一つに記載の製法。
〔k〕
前記リン酸カルシウム多孔体が、ヒドロキシアパタイト多孔体又はβ-リン酸三カルシウム多孔体であることを特徴とする、〔f〕乃至〔j〕のいずれか一つに記載の製法。
〔l〕
前記生分解性ポリマーが、ポリL-乳酸、ポリグリコール酸、ポリクエン酸、L-乳酸/グリコール酸共重合体、ポリε-カプロラクトン、ポリβ−ヒドロキシ酪酸、及びキトサンからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、〔f〕乃至〔k〕のいずれか一つに記載の製法。
〔m〕
前記生分解性ポリマーを含む溶液の溶媒がクロロホルムであることを特徴とする、〔f〕乃至〔l〕のいずれか一つに記載の製法。
〔n〕
〔a〕〜〔e〕のいずれか一つに記載のリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料を含むことを特徴とする、インプラント。
【発明の効果】
【0013】
従来、リン酸カルシウム多孔体と分子量が50.000乃至500.000の生分解性ポリマーとを複合化する技術がなく、種々の検討がなされることがなかった。リン酸カルシウム多孔体と分子量が50.000乃至500.000の生分解性ポリマーを複合化した本発明のリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料は、強度が増強される。また、リン酸カルシウム多孔体としてヒドロキシアパタイト多孔体やβ-リン酸三カルシウム多孔体を用いることにより、さらに強度が増強され、骨の欠損部の補強に使用することができ、かつ連通性の高い微細な気孔を有し、良好な骨芽細胞様細胞の増殖性を示すとともに圧入補填に使用できる。リン酸カルシウム多孔体としてβ-リン酸三カルシウム多孔体を用いることにより、さらに、徐々に体内に吸収される生体吸収性があるという効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例1で作製されたβ-リン酸三カルシウム多孔体のX線回折スペクトルである。
【図2】図2は、実施例1で作製されたβ-リン酸三カルシウム多孔体の走査型電子顕微鏡写真(表面及び断面)である。
【図3】図3は、実施例1で作製された多孔質β−TCP、実施例2及び3で作製されたβ-リン酸三カルシウム/ポリL−乳酸ハイブリッド材料とポリL−乳酸(PLLA)のFT−IRスペクトルである。
【図4】図4は、実施例2、3及び4で作製されたβ-リン酸三カルシウム/ポリL−乳酸ハイブリッド材料の重量変化のグラフである。
【図5】図5は、実施例2、3及び4で作製されたβ-リン酸三カルシウム/ポリL−乳酸ハイブリッド材料、並びに実施例1で作製された多孔質β−TCPの気孔率の変化のグラフである。
【図6】図6は、実施例2及び3で作製されたβ-リン酸三カルシウム/ポリL−乳酸ハイブリッド材料のエネルギー分散型X線分光法による元素分析の結果である。
【図7】図7は、実施例2で作製されたβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料のエネルギー分散型X線分光法による元素分析(点分析)の結果である。
【図8】図8は、実施例3で作製されたβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料のエネルギー分散型X線分光法による元素分析(点分析)の結果である。
【図9】図9は、実施例5及び6で作製されたβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料の三点曲げ強度である。
【図10】図10は、実施例1で作製された多孔質β−TCPと、実施例3及び5で作製されたβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料上での骨芽細胞様細胞(MC3T3−E1)の増殖性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で使用されている用語の定義について、以下に説明する。
【0016】
本発明における「リン酸カルシウム多孔体」とは、例えば、M. Aizawa et al., “Fabrication of Porous Tricalcium Phosphate
Ceramics from Calcium-phosphate Fibers for a Matrix of Biodegradable
Ceramics/polymer Hybrids”, Phosphorus Res. Bull., 17, 209-210 (2004)、及びKawata
et al., “Development of porous ceramics with well-controlled porosities and
pore sizes from apatite fibers and their evaluations,” Journal of Materials
Sciences: Materials in medicine, Vol. 15, pp. 817-823 (2004)に開示された方法により作製される。具体的には、ヒドロキシアパタイト多孔体(HAp)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)多孔体及びα-リン酸三カルシウム(α-TCP)多孔体などの気孔を備えたリン酸カルシウム多孔体などを挙げることができる。
【0017】
本発明における「生分解性ポリマー」とは、分子量が50,000乃至500,000、好ましくは、50,000乃至300,000である、例えば、ポリL-乳酸、ポリグリコール酸、ポリクエン酸、L-乳酸/グリコール酸共重合体、ポリε-カプロラクトン、ポリβ−ヒドロキシ酪酸、及びキトサンのような生体内において分解されるポリマーなどである。分子量が50,000未満のときは本発明のハイブリッド材料としたときに、所要の強度が得られないし、500,000を超えると溶液として使用するときに粘度が高すぎて複合化処理が難しくなる。これらのポリマーは、1種用いてもよいし2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
次に、本発明のリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料の製法について詳細に説明するが、これらによってなんら限定されるものではない。
〔製法1〕
(1)製法1は、リン酸カルシウム多孔体を、分子量が50,000乃至500,000の生分解性ポリマーを含む溶液に浸漬するステップ、及び(2)ステップ(1)で得られた浸漬液に超音波処理を施すステップから成る。リン酸カルシウム多孔体を、例えば、アセトン、クロロホルム又は塩化メチレンなどの溶媒に溶解した生分解性ポリマーを含む溶液を室温下で浸漬し、得られた浸漬液に対して、例えば、超音波洗浄器SUC−1L(アズワン社)を用い発振周波数38kHzで、室温下5分間乃至2時間、好ましくは10分間乃至1時間超音波処理し、この超音波処理物を前記の超音波洗浄器から取り出し、乾燥することによって、本発明のハイブリッド材料を得ることができる。
ここで、生分解性ポリマーを含む溶液の中には、界面活性能を有する化合物などを添加することもできる。添加することによって、生分解性ポリマーがリン酸カルシウム多孔体中に入り込むことを容易とする作用を呈する。したがって、上記溶媒にイソプロピルアルコールなどを係る添加剤として添加することもできる。
〔製法2〕
製法2は、前記〔製法1〕の浸漬液に超音波処理を施すステップをさらに1回乃至10回繰り返すこと以外は、〔製法1〕の処理と同様に行うことから成る。この製法によって、本発明のハイブリッド材料中の前記ポリマー含有率を調整することができる。
〔製法3〕
製法3は、分子量50,000乃至500,000の生分解性ポリマーを含む溶液を、リン酸カルシウム多孔体を介して吸引することから成る。具体的には、液体窒素などのコールドトラップを経由してアスピレータに接続された吸引漏斗に、板状のリン酸カルシウム多孔体を載置し、ついで室温で前記のアスピレータの吸引下、例えば、アセトン、クロロホルム又は塩化メチレンなどの溶媒に溶解した生分解性ポリマーを含む溶液を、いったん前記多孔体上面を覆うように注下する。ついで吸引処理された前記多孔体を上下反転させて再度吸引漏斗に載置し、同様に上面を、生分解性ポリマーを含む溶液で覆い吸引後、乾燥することによって、本発明のハイブリッド材料を得ることができる。
〔製法4〕
製法4は、リン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料に、溶融処理及びアニーリング処理を施すステップか又はアニーリング処理を施すステップから成る。〔製法1〕乃至〔製法3〕により得られたリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料を、アニーリング処理することによって生分解性ポリマーの結晶化度が向上し、強度が増すが、アニーリング処理の前に溶融処理することによって生分解性ポリマーの結晶化度がさらに向上して分解性が下がり、本発明のハイブリッド材料に適用したときに好適となる。
【0019】
次に、インプラント化について説明する。
〔インプラント化〕
リン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料を、インプラントとするには、〔製法1〕乃至〔製法4〕のいずれかにより得られたリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料のブロック体を研削機などで研削することによって、所望の形のインプラントを容易に作成することができる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、本実施例はあくまで本発明の実施態様の例示であって本発明をなんら限定するものではない。
【実施例1】
【0021】
Ca(NO・4HO 0.167mol・dm−3、(NHPO4 0.100mol・dm−3、(NHCO 0.500mol・dm−3及びHNO 0.100mol・dm−3からなる試料溶液(Ca/P=1.67)750mLを80℃で48時間加熱した。ついで得られた反応液の固形物を濾取し、洗浄ついで乾燥するとリン酸カルシウムファイバーが得られた。
得られたリン酸カルシウムファイバーのうち1gを一軸加圧成形(30MPa)し、ついで得られた成形体を箱型電気炉中で1000℃(昇温速度:10℃/min)、5時間焼成するとX線回折スペクトル(図1)に示す特性、及び表面と断面の走査型電子顕微鏡写真(図2)に示す形状を有するβ-リン酸三カルシウム多孔体(多孔質β-TCP、気孔率:約54%)が得られた。
【実施例2】
【0022】
実施例1で得られたβ-リン酸三カルシウム多孔体をポリL-乳酸(Boehringer Ingelheim社製RESOMER(登録商標)L210S;分子量約300,000)の2質量%クロロホルム溶液に浸漬し、ついで得られた浸漬液を超音波洗浄器SUC−1L(アズワン社)(発振周波数:38kHz)中で10分間超音波処理した。得られた超音波処理液から固形物を取り出し、常圧常温下で7日間乾燥すると図3乃至図7に示すFT−IRスペクトル、重量変化、気孔率の変化、エネルギー分散型X線分光スペクトル、エネルギー分散型X線分光スペクトル(点分析)をそれぞれ有するβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料(以下、「hyb-1」と略)が得られた。
【実施例3】
【0023】
実施例2で得られたβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料を使用して、実施例2の超音波処理工程をさらに3回繰り返した。その結果、図3乃至図6及び図8に示すFT−IRスペクトル、重量変化、気孔率の変化、エネルギー分散型X線分光スペクトル、エネルギー分散型X線分光スペクトル(点分析)をそれぞれ有するリン酸三カルシウム/ポリL−乳酸ポリマーハイブリッド材料(以下、「hyb-3」と略)が得られた。
【実施例4】
【0024】
実施例2で得られたβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料を使用して、実施例2の超音波処理工程をさらに5回繰り返した。その結果、図4及び図5に示す重量変化及び気孔率の変化をそれぞれ有するリン酸三カルシウム/ポリL−乳酸ハイブリッド材料(以下、「hyb-5」と略)が得られた。
【実施例5】
【0025】
実施例2、実施例3及び実施例4で得られた3種のβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料(hyb-1、hyb-3及びhyb-5)のそれぞれを、200℃で30分間加熱した(溶融処理)。ついで、得られたβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料を冷却後140℃で24時間加熱(アニーリング処理)すると、図9に示すようにβ-リン酸三カルシウム多孔体(多孔質β−TCP)に比し、日本工業規格(JIS R 1601)に準拠して測定した三点曲げ強度が向上したβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料(hyb-1(+)、hyb-3(+)及びhyb-5(+))が得られた。
【実施例6】
【0026】
実施例2、実施例3及び実施例4で得られた3種のβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料(hyb-1、hyb-3及びhyb-5)のそれぞれを、140℃で24時間加熱(アニーリング処理)すると、図9に示すようにβ-リン酸三カルシウム多孔体(多孔質β−TCP)に比し、三点曲げ強度が向上したβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料(hyb-1(-)、hyb-3(-)及びhyb-5(-))が得られた。
【実施例7】
【0027】
本発明のβ−リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料の骨芽細胞様細胞の細胞増殖性について評価した。すなわち、10%牛胎児血清を含むα−MEM(Gibco社製)からなる培地中で骨芽細胞様細胞(MC3T3−E1)5×10個をペレット状の試験片(15mmΦ×2mm)上に播種し、上記の培地中で培養し、細胞数をカウントし、その結果を図10に示した。なお、試験片としては、実施例1で作製したβ-リン酸三カルシウム多孔体、並びに本発明のβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料であるhyb-3及びhyb-3(+)を使用した。
図10から明らかなように、本発明のβ-リン酸三カルシウム/ポリL-乳酸ハイブリッド材料(hyb-3及びhyb-3(+))は、β-リン酸三カルシウム多孔体(多孔質β−TCP)よりも優れた骨芽細胞様細胞の増殖性を示した。
【実施例8】
【0028】
Ca(NO・4HO 0.167mol・dm−3、(NHPO4 0.100mol・dm−3、(NHCO 0.500mol・dm−3及びHNO 0.100mol・dm−3からなる試料溶液(Ca/P=1.67)750mLを80℃で24時間加熱後、90℃で72時間加熱した。生成物を濾取し、洗浄ついで乾燥するとヒドロキシアパタイトファイバーが得られた。
得られたヒドロキシアパタイトファイバーのうち1gあたりカーボンビーズ1gを混合し、得られた混合物を一軸加圧成形(40MPa)し、ついで得られた成形体を管状炉中で水蒸気雰囲気下1300℃(昇温速度:5℃/min)で5時間焼成してヒドロキシアパタイト多孔体(気孔率:約70%)を得た。
【実施例9】
【0029】
実施例8で得られたヒドロキシアパタイト多孔体をポリL-乳酸(Boehringer
Ingelheim社製RESOMER(登録商標)L207S;分子量約100,000)の3質量%クロロホルム溶液に浸漬し、10分間超音波処理した。超音波処理後、固形物を取り出し、室温(25℃±3℃)で50分間乾燥するとヒドロキシアパタイト/ポリL−乳酸ハイブリッド材料が得られた。
以上の工程をさらに4回繰り返して、ヒドロキシアパタイト/ポリL−乳酸ハイブリッド材料を作製した。
【実施例10】
【0030】
ポリL−乳酸溶液として、Boehringer Ingelheim社製RESOMER(登録商標)L207S;分子量約100,000の5質量%クロロホルム溶液を使用した以外、実施例9と同様に処理してヒドロキシアパタイト/ポリL−乳酸ハイブリッド材料を得た。
【実施例11】
【0031】
ポリL−乳酸溶液として、Boehringer Ingelheim社製RESOMER(登録商標)L210S;分子量約300,000の3質量%クロロホルム溶液を使用した以外、実施例9と同様に処理してヒドロキシアパタイト/ポリL−乳酸ハイブリッド材料を得た。
【実施例12】
【0032】
実施例9、実施例10及び実施例11で得られたヒドロキシアパタイト/ポリL−乳酸ハイブリッド材料について日本工業規格(JIS R 1601)に準拠して三点曲げ強度を測定し、その結果を表−1に示した。
表―1から本発明の実施例9、実施例10及び実施例11で得られたヒドロキシアパタイト/ポリL−乳酸ハイブリッド材料は、実施例8で得られたヒドロキシアパタイト多孔体に比べて三点曲げ強度が増強されている。
表−1:

【実施例13】
【0033】
円盤状ヒドロキシアパタイト多孔体(直径約16mm×厚さ約2.3mm;気孔率:約70%)を、ポリL−乳酸(Boehringer Ingelheim社製RESOMER(登録商標)L207S;分子量約100,000)の2質量%クロロホルム溶液に浸漬し、これを超音波洗浄器SUC−1L(発振周波数:38kHz)中で10分間超音波処理後、室温(25℃±3℃)で50分間乾燥するとヒドロキシアパタイト/ポリL−乳酸ハイブリッド材料が得られた。
【実施例14】
【0034】
実施例13で得られたヒドロキシアパタイト/ポリL−乳酸ハイブリッド材料を使用して、さらに実施例13の超音波処理を2回繰り返して、ヒドロキシアパタイト/ポリL−乳酸ハイブリッド材料を得た。
【実施例15】
【0035】
実施例13で得られたヒドロキシアパタイト/ポリL−乳酸ハイブリッド材料を使用して、さらに実施例13の超音波処理を4回繰り返して、ヒドロキシアパタイト/ポリL−乳酸ハイブリッド材料を得た。
【実施例16】
【0036】
円盤状ヒドロキシアパタイト多孔体(気孔率70%)(以下、「試験片」と略記する。)の上下面を研磨し、ついで側面をポリL−乳酸(Boehringer Ingelheim社製RESOMER(登録商標)L210S;分子量約300,000)の3質量%クロロホルム溶液にて5回コーティングした(試験片[a])。液体窒素によるコールドトラップを配置したアスピレータに接続された吸引漏斗に、コーティングされた試験片を載置した。ついで前記のアスピレータの吸引(吸引力:3.3
L/min 〜 10.8 L/min)下、ポリL−乳酸(Boehringer Ingelheim社製RESOMER(登録商標)L207S;分子量約100,000)の2質量%クロロホルム溶液を前記の試験片の上面へ9回滴下して上面を前記溶液でいったん覆い、ついで得られた試験片を上下反転させて再度吸引漏斗に載置し、吸引下にポリL−乳酸(Boehringer
Ingelheim社製RESOMER(登録商標)L207S;分子量約100,000)の2質量%クロロホルム溶液を3回滴下した。続いて上下反転させ8回滴下さらに上下反転させ、2回滴下し、さらに上下反転させ、同様に8回滴下することを繰り返した(全滴下回数は30回であり、その所要時間は約1.5時間である。)。ついで得られたヒドロキシアパタイト多孔体を乾燥(室温(25℃±3℃)、50分)させるとヒドロキシアパタイトとポリL−乳酸が複合化されたハイブリッドが得られた(試験片[b])。係る処理を経て乾燥後の重量変化を表―2に示す。この表から、ポリL−乳酸が円盤状ヒドロキシアパタイト多孔体に複合化されていることが示された。
表―2

【実施例17】
【0037】
均一沈殿法を用いて合成したリン酸カルシウムファイバー5g(以下、CPFと略。)に蒸留水を加え、2質量%CPFスラリー250gを調製した。このCPFスラリーに対し、それぞれ100、75、50、25、0質量%となる所定量の平均粒径が150μmであるカーボンビーズ(以下、CBと略。)と、水:エタノールの体積比が7:3となる量のエタノール水溶液105gと、CPFスラリー全重量の0.1%に相当する量の寒天とを混ぜ、これを約90℃で加熱することにより寒天を溶解した。これを、アクリル樹脂製の型を用いて吸引濾過して予備成形体を作製し、予備成形体を40MPaで一軸加圧成形することにより成形体を作製した。この成形体を管状炉中で1000℃、5時間、空気気流中で焼成し、マクロ気孔とミクロ気孔を兼ね備えたβ−リン酸三カルシウム多孔体((多孔質β−TCP))を作製した。この例にあっては、多孔体の気孔率はCB量に応じて50%から85%の範囲で制御できた。
このように、β−リン酸三カルシウム多孔体を作製するに際し、高温下に焼失可能な粒子を添加しておくと、所望の気孔率、比表面積、孔径を有する多孔体の形成調整を容易とすることができるので、CBなどを添加することは効果的である。

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料は、連通性の高い微細な気孔を有し、強度が増強され、骨の欠損部の補強に使用することができるとともに、良好な骨芽細胞様細胞の増殖性を示し、骨の欠損部に圧入補填が可能であるので、インプラント材として適用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウム多孔体と、分子量50,000乃至500,000の生分解性ポリマーとを複合化したことを特徴とする、リン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料。
【請求項2】
前記リン酸カルシウム多孔体が、ヒドロキシアパタイト多孔体であることを特徴とする、請求項1に記載のリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料。
【請求項3】
前記リン酸カルシウム多孔体が、β-リン酸三カルシウム多孔体であることを特徴とする、請求項1に記載のリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料。
【請求項4】
前記生分解性ポリマーの分子量が、50,000乃至300,000であることを特徴とする、請求項1に記載のリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料。
【請求項5】
前記生分解性ポリマーが、ポリL-乳酸、ポリグリコール酸、ポリクエン酸、L-乳酸/グリコール酸共重合体、ポリε-カプロラクトン、ポリβ−ヒドロキシ酪酸、及びキトサンからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載のリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料。
【請求項6】
リン酸カルシウム多孔体と生分解性ポリマーとを複合化したリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料の製法であって、
リン酸カルシウム多孔体を、分子量50,000乃至500,000の生分解性ポリマーを含む溶液中に浸漬し、超音波処理又は吸引処理を施すことを特徴とする、製法。
【請求項7】
前記処理が、超音波処理であることを特徴とする、請求項6に記載の製法。
【請求項8】
前記生分解性ポリマーを含む溶液中に浸漬処理、及び前記浸漬処理により得られた浸漬液に超音波処理を1回乃至10回繰り返すことを特徴とする、請求項6又は7に記載の製法。
【請求項9】
前記吸引処理が、分子量50,000乃至500,000の生分解性ポリマーを含む溶液を、リン酸カルシウム多孔体を介して吸引することを特徴とする、請求項6に記載の製法。
【請求項10】
前記リン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料を、さらに溶融処理及びアニーリング処理、又はアニーリング処理を行うことを特徴とする、請求項6乃至9のいずれか一つに記載の製法。
【請求項11】
前記リン酸カルシウム多孔体が、ヒドロキシアパタイト多孔体又はβ-リン酸三カルシウム多孔体であることを特徴とする、請求項6乃至10のいずれか一つに記載の製法。
【請求項12】
前記生分解性ポリマーが、ポリL-乳酸、ポリグリコール酸、ポリクエン酸、L−乳酸/グリコール酸共重合体、ポリε-カプロラクトン、ポリβ−ヒドロキシ酪酸、及びキトサンからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項6乃至11のいずれか一つに記載の製法。
【請求項13】
前記生分解性ポリマーを含む溶液の溶媒がクロロホルムであることを特徴とする、請求項6乃至12のいずれか一つに記載の製法。
【請求項14】
請求項1乃至5のいずれか一つに記載のリン酸カルシウム/生分解性ポリマーハイブリッド材料を含むことを特徴とする、インプラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−189052(P2011−189052A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59218(P2010−59218)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第22回秋季シンポジウム講演予稿集 Archives of BioCeramics Research
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【出願人】(599088438)昭和医科工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】