説明

リン酸基含有アクリル系ポリマーとリン酸エステルからなる粘着剤

【課題】一つのアクリルエマルジョンから配合により、用途に応じて粘着特性を自由に変更できる、アクリル系樹脂を用いた粘着剤の提供。
【解決手段】リン酸基又はリン酸エステル基を有するアクリル系ポリマーが、(a)炭素数2〜14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル・・・60〜99.9重量%、(b)少なくとも一つ以上の官能基を有するエチレン性不飽和単量体・・・0.1〜40重量%、(c)その他の単量体・・・0〜39.9重量%(d)(a)+(b)+(c)=100重量部に対して、リン酸基又はリン酸エステル基を有するエチレン性不飽和単量体・・・0.1〜50重量部、を乳化重合して得られたポリマーであり、(a)+(b)+(c)+(d)=100重量部に対して、リン酸エステル系化合物1〜100重量部を配合してなる粘着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙、布、木材、プラスチック等の様々な材料に対して優れた粘着性を奏する、各種用途に使用可能な粘着剤及びそれが適用された粘着テープ又はシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、粘着テープや粘着シートに用いられる粘着剤として、有機溶剤溶液を用いたアクリル系粘着剤が汎用されてきた。また、最近では、有機溶剤の揮発などの環境問題の点が重視され、有機溶剤を用いない水性のアクリル系粘着剤組成物が注目されているが、十分な接着強度を得ることができないという問題がある。このような場合、粘着付与剤樹脂エマルジョンを添加することにより、粘着の三要素{粘着力、タック、凝集力(保持力)}を向上させることができることが知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平6−65551
【特許文献2】特開2007−2212
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、粘着付与剤樹脂エマルジョンの添加量は、アクリル系樹脂との相溶性に課題があり、また多量に配合するとタックを低下させるため、30重量部以上の配合は困難であった。即ち、粘着力を上げるために粘着付与樹脂エマルジョンを配合するとタックを犠牲にせざるを得なくなり、粘着特性調整の制約となって高タック・高粘着力を実現することが困難な状況となっていた。そのため、様々な用途に使用することの障壁となっていた。そこで、本発明は、リン酸エステルを配合することにより粘着特性が制御可能な粘着剤、また、リン酸エステルを配合することにより多量に粘着付与剤樹脂エマルジョンの添加が可能である、用途に応じて粘着特性を自由に変更できる、アクリル系樹脂を用いた粘着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明(1)は、リン酸基又はリン酸エステル基を有するアクリル系ポリマーが、
(a)炭素数2〜14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル・・・60〜99.9重量%
(b)少なくとも一つ以上の官能基を有するエチレン性不飽和単量体・・・0.1〜40重量%
(c)その他の単量体・・・0〜39.9重量%
(d)(a)+(b)+(c)=100重量部に対して、リン酸基又はリン酸エステル基を有するエチレン性不飽和単量体・・・0.1〜50重量部
を乳化重合して得られたポリマーであり、(a)+(b)+(c)+(d)=100重量部に対して、リン酸エステル系化合物1〜100重量部を配合してなる粘着剤組成物である。
【0005】
本発明(2)は、(a)+(b)+(c)+(d)=100重量部に対して、粘着付与樹脂エマルジョンを固形分換算で0〜100重量部配合してなる、前記発明(1)の粘着剤組成物である。
【0006】
本発明(3)は、リン酸エステル系化合物が、疎水性部位に芳香環を持つものであるか、又はリン酸エステル系化合物が、ポリオキシアルキレン鎖を有するものである、前記発明(1)又は(2)の粘着剤組成物である。
【0007】
本発明(4)は、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの粘着剤が少なくとも一面に適用された、粘着テープ又はシートである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粘着剤にリン酸基又はリン酸エステル基を有するモノマーとアクリル系モノマーの共重合体を用いると、リン酸エステル化合物の添加により粘着特性を高いものから低いものまで広範囲に制御できるようになる。リン酸基又はリン酸エステル基を有するエチレン性不飽和単量体を共重合していない共重合体は少量のリン酸エステルの添加で凝集力が低下し、汚染が発生するが、上記ポリマーはリン酸エステル化合物を多量に添加しても粘着剤の凝集力の低下が大きくなく、更には汚染の問題も発生しない。加えて、リン酸エステル化合物を添加することにより、相溶性が改善されると共に粘着付与樹脂添加によるタックの低下を特定のリン酸エステルにより補うことができるためと推定されるが、多量の粘着付与樹脂エマルジョンの添加が可能となる。粘着付与樹脂エマルジョンは、粘着特性の改善の為に添加されるが、従来技術では高々30重量部程度を添加することができるに過ぎなかったが、本発明では、100重量部も添加することができ、粘着剤の各種特性をコントロールしやすいものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る粘着剤は、リン酸基又はリン酸エステル基を有するアクリル系ポリマーとリン酸エステル系化合物とを必須的に含有し、場合によって粘着付与剤樹脂エマルジョン等を含有していてもよい組成物である。以下、各成分について詳述する。
【0010】
まず、本粘着剤中の「リン酸基又はリン酸エステル基を有するアクリル系ポリマー」は、(a)炭素数2〜14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、(b)少なくとも一つ以上の官能基を有するエチレン性不飽和単量体と、(c)その他の単量体と、(d)リン酸基又はリン酸エステル基を有するエチレン性不飽和単量体と、を乳化重合して得られたポリマーである。以下、まず、成分(a)〜(d)について詳述し、次いでこれら成分の重合条件等を説明する。
【0011】
(a)成分の(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおける「アルキル基」は、炭素数が2〜14である限り特に限定されず、直鎖・分岐を問わない。当該(a)成分として、例えば、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、2−エチルヘキシル、イソノニルアクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの中でも、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが好適である。尚、本最良形態に係る発明において、(a)成分とは、前記(a)成分を構成する成分の中から選択された一種のモノマーのみならず、数種のモノマーの組合せであってもよい。
【0012】
(b)成分の少なくとも一つ以上の官能基を有するエチレン性不飽和モノマーは、分子内に反応性に富む部位と重合性二重結合を有する限り特に限定されない。ここで、「官能基」は、特に限定されず、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メチロール基、アミノ基、アミド基、グリシジル基、スルホン基、エチレンイミン基、イソシアナト基などが挙げられる。エチレン性不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、イタコン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレンアクリレート、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド及びその誘導体が挙げられる。尚、本最良形態に係る発明において、(b)成分とは、前記(b)成分を構成する成分の中から選択される一種のモノマーのみならず、数種のモノマーの組合せであってもよい。
【0013】
(c)成分のその他の単量体は、前述した成分(a)、成分(b)及び成分(d)以外の単量体を意味し、例えば、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン、メチルメタクリレート(MMA)を挙げることができる。尚、本最良形態に係る発明において、(c)成分とは、前記(c)成分を構成する成分の中から選択される一種のモノマーのみならず、数種のモノマーの組合せであってもよい。
【0014】
(d)成分のリン酸基又はリン酸エステル基を有するエチレン性不飽和単量体は、好適にはリン酸基又はリン酸エステル基を有する(メタ)アクリレート、アリル化合物であり、具体的には、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジフェニル(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、フェニル(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、アシッド・ホスホオキシエチルメタクリレート、メタクロイル・オキシエチルアシッドホスフェート・モノエタノールアミン塩、3−クロロ−2−アシッド・ホスホオキシプロピルメタクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシプロピレングリコールメタクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロピルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアシッドホスフェート、アリルアルコールアシッドホスフェート等が挙げられる。中でも、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート、2−メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、含リンメタクリル酸エステル{例えば、CH=C(CH)−COO(RO)−P(=O)(OH)}が好適である。このように、乳化重合した共重合体ポリマーの構成モノマーとしてリン酸基又はリン酸エステル基を有するエチレン性不飽和単量体を加えることにより、アクリル系樹脂と、リン酸エステルの相溶性が向上する。
【0015】
次に、成分(a)〜(d)を乳化重合させて得られる、リン酸基又はリン酸エステル基を有するアクリル系ポリマーについて説明する。はじめに、乳化重合するに際しての各成分の配合量を説明すると、(a)成分の組成割合は、(a)成分〜(c)成分の合計量に対して、60〜99.9重量%であり、好適には70〜99重量%ある。次に、(b)成分の組成割合は、(a)成分〜(c)成分の合計量に対して、0.1〜40重量%であり、好適には0.1〜30重量%、より好適には1〜20重量%である。(c)成分の割合は、(a)成分〜(c)成分の合計量に対して、0〜39.9重量%であり、好適には0〜30重量部であり、より好適には0〜20重量%である。(d)成分の組成割合は、(a)成分〜(c)成分の合計量100重量部に対して、好適には0.1〜50重量部であり、より好適には0.5〜30重量部、より好適には1〜20重量部である。尚、乳化重合については後述する。
【0016】
次に、本粘着剤中の「リン酸エステル系化合物」は、酸性リン酸エステルであっても、リン酸エステル塩であっても、中性リン酸エステルであってもよく、例えば、炭素数12〜20のアルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸や、炭素数6〜12のアリール基を有するポリオキシエチレンアリールエーテルリン酸が好適である。具体的には、トリフェニルホスフェート、トリクレシルホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、メチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ビス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、イソデシルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)リン酸、クレシルジフェニルホスフェート、モノメチルホスフェート、ジメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、ジエチルホスフェート、モノイソプロピルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、モノn−ブチルホスフェート、ジn−ブチルホスフェート、モノブトキシエチルホスフェート、ジブトキシエチルホスフェート、モノ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、モノn−デシルホスフェート、ジn−デシルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、ジイソデシルホスフェート、モノオレイルホスフェート、ジオレイルホスフェート、モノイソステアリルホスフェート、ジイソステアリルホスフェート、モノフェニルホスフェート、ジフェニルホスフェート、ラウリルリン酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンフェニルエーテルリン酸等が挙げられる。ここで、リン酸エステル系化合物は、疎水性部位に芳香環を有する化合物、ポリオキシアルキレン鎖を有する化合物が好適であり、当該化合物としては、例えば、ポリオキシエチレンフェニルエーテルリン酸を挙げることができる。
【0017】
リン酸エステルの添加量は、(a)成分〜(d)成分の合計量100重量部に対して、2〜100重量部であり、好適には5〜45重量部、より好適には10〜40重量部である。
【0018】
次に、本粘着剤中の「粘着付与剤樹脂エマルジョン」とは、粘着付与剤樹脂、乳化剤又は分散剤及び水を含有するものである。粘着付与剤樹脂としては、各種公知のロジン類、ロジン誘導体、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール樹脂、又はケトン樹脂等の1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。前記ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の原料ロジン、又は、原料ロジンの不均化物、原料ロジンを水素添加処理した安定化ロジン、重合ロジン、原料ロジンをマレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸等で変性した不飽和酸変性ロジン等が挙げられ、これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。前記ロジン誘導体としては、ロジン類のエステル化物、フェノール変性化物、又はロジン類のフェノール変性化物をエステル化したもの等、各種公知のものを特に制限なく使用できる。ここでロジン類のエステル化物とは、前記ロジン類とエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの2価アルコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの3価アルコール、ペンタエリスリトール、ジグリセリンなどの4価アルコール、ジペンタエリスリトールなどの6価アルコール等の多価アルコール類をエステル化反応させたものをいう。これらの多価アルコールは1種を単独で又は2種以上を併用できる。また、ロジン類のフェノール変性物や、ロジン類のフェノール変性物のエステル化物としては、上記したロジン類にフェノール類を付加させたものや、ロジン類にフェノールを付加させた後に前記した多価アルコール類を用いてエステル化したもの、ロジン類にレゾール型フェノール樹脂を反応させた、いわゆるロジン変性フェノール樹脂及びそのエステル化物等が挙げられる。前記石油系樹脂としてはC5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5−C9共重合系石油樹脂、クマロン樹脂、クマロン−インデン系樹脂、ピュアモノマー樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂及びこれらの水素化物等が挙げられる。前記ピュアモノマー樹脂とは、たとえばスチレン系モノマーの単独重合体や、脂肪族系モノマーとの共重合系重合体のことをいい、「FTR−6000」、「FTR−7000」、「FTR−8000」、「FTR−9000」(三井化学株式会社製)や、「ピコラスチック」「クリスタレックス」「ピコテックス」(イーストマンケミカル製)等の市販品として入手できる。これら石油系樹脂は1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。前記テルペン系樹脂としては、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂や、α−ピネン、β−ピネン等のテルペン類とスチレン等の芳香族モノマーを共重合させた芳香族変性したテルペン系樹脂及びこれらの水素化物等が挙げられ、これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。前記フェノール樹脂とは、フェノール類とホルムアルデヒドの縮合物のことをいう。当該フェノール類としては、フェノール、m−クレゾール、3,5−キシレノール、p−アルキルフェノール、レゾルシン等が挙げられ、これらとホルムアルデヒドをアルカリ触媒の存在下で付加反応させたレゾールや、酸触媒の存在下で縮合反応させて得られるノボラック等を例示でき、例示したフェノール樹脂は1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。前記ケトン樹脂とは、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、又はメチルシクロヘキサノンとホルムアルデヒドの縮合物等のことをいい、これらは1種を単独で、また2種以上を併用することができる。
【0019】
粘着付与剤樹脂エマルジョンの添加量(固形分換算)は、(a)成分〜(d)成分の合計量100重量部に対して、0〜100重量部、好適には1〜100重量部、より好適には5〜100重量部、更に好適には、10〜50重量部である。
【0020】
本発明に係る粘着剤は、上記の成分の他に、架橋剤として、エポキシ基、イソシアナト基、ヒドラジド基等の架橋性官能基を二以上有している物質、例えば、ジグリシジルエーテル、アジピン酸ジヒドラジドを添加したものであってもよい。また、充填剤として、炭酸カルシウム、亜鉛華(酸化亜鉛)、シリカ、酸価チタン等を含有していてもよい。その他、軟化剤として、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、ひまし油、綿実油、あまに油、菜種油等を添加することができる。
【0021】
次に、本発明に係る粘着剤の製造方法を説明する。まず、(a)〜(d)成分を乳化重合させて、リン酸基又はリン酸エステル基を有するアクリル系ポリマーを製造する方法例(乳化重合法)を説明し、次いで粘着剤の調製方法例を説明する。
【0022】
乳化重合法
(a)成分〜(d)成分の乳化重合は、公知の手段によって行うことができるが、例えば水を溶媒とし、乳化剤としてアニオン系界面活性剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウムやアクアロンKH−10(反応性界面活性剤、スルホン酸系)の一種又は二種以上をモノマー成分に加えて加熱することにより実施することができる。
【0023】
粘着剤の調製方法
本発明に係る粘着剤は、公知の手法により製造可能であり、例えば、A成分、B成分、C成分の乳化重合体に所定量のリン酸エステル及び/又は粘着付与剤樹脂エマルジョン(必要に応じて、更に架橋剤)を添加、攪拌し製造することができる。
【0024】
最後に、本発明に係る粘着剤の用途を説明する。本発明の粘着剤を公知の手法により基材上に適用することにより、各種用途に適用可能な粘着テープ又はシートを得ることができる。例えば、紙用、布用、木材用、プラスチック用の粘着テープ又はシートを挙げることができる。具体的には、紙同士、布同士、木材同士、プラスチック同士だけではなく、布と紙、木とプラスチックといった異種材料同士の接合にも有用である。また、フック・ハンガーの取り付け等に有効な超強力接着力を奏する粘着テープ又はシートも得ることができる。
【0025】
例えば、実施例に示すような炭素数8の2−エチルヘキシルアクリレート99重量部と官能基を有するアクリル酸1重量部とアシッドホスホオキシエチルメタクリレートのようなリン酸基を有するエチレン性不飽和単量体を前記に対して3重量%を乳化重合しベースポリマーとする。該ベースポリマーに対して、以下のようなものを添加する。
【0026】
布、木材のような粗面に接着させる場合には、例えば、分子中に芳香環を含むか、ポリオキシエチレン鎖を含み、物性として粘調なリン酸エステルを使用し、配合量を多くする。更に要すれば粘着付与剤樹脂エマルジョンを併用する。粘着付与樹脂の軟化点は高くないほうがよい。
【0027】
鏡面で粘着力を上げたい場合には、例えば、分子中に芳香環を含むか、ポリオキシエチレン鎖を含み、物性として固形もしくはペースト状のリン酸エステルを使用する。粘着付与剤樹脂エマルジョンを併用する場合には軟化点の高いものを使用することが好ましい。
【0028】
又は、粘着付与剤樹脂エマルジョンの使用量を通常よりもかなり多く設定し、相溶性改善及びタックの改善の為に、必要量の上記リン酸エステルやその他のリン酸エステルを添加する。
【0029】
このように、1種類の乳化重合ポリマーを製造し、これにリン酸エステルを添加又はリン酸エステルと粘着付与剤樹脂エマルジョンを添加することにより高タック・高粘着力から低タック・低粘着力(高タック・低粘着力を含む)の粘着剤を得ることが可能となり、用途に応じた多種類の粘着剤に対応でき生産性を向上できる効果も奏する。
【実施例】
【0030】
製造例1 乳化重合による(a)〜(d)成分の共重合体の製造方法
温度計、コンデンサー、窒素導入管、攪拌機を備えた温度調節可能な反応容器に蒸留水200部、反応型アニオン系界面活性剤(アクアロンKH−10:第一工業製薬(株)製)0.3部、2−エチルヘキシルアクリレート(以下、「2−EHA」とする。)14.85部、アクリル酸(以下、「AA」とする)0.15部、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(ユニケミカル社製、ホスマーM(登録商標)、以下、単に「ホスマーM」とする。)0.30部を仕込み窒素気流下で80℃まで昇温した後、過硫化カリウム0.6部を蒸留水10部に溶解させた液を滴下し、10分後から2−EHA282.15部、AA2.85部、ホスマーM3.0部からなるモノマー混合物を反応型アニオン系界面活性剤(アクアロンKH−10:第一工業(株)製)4.2部、蒸留水90部に乳化分散させたモノマー乳化物を2時間で連続的に添加し、さらに80℃で2時間反応を継続し、重合を完結させた後冷却した。完結させたエマルジョンをアンモニア水にてpHを7.5に調整後、金網等で濾過し、固形分50%のアクリル共重合体エマルジョンが得られた。尚、本実施例で用いた他の乳化重合体は、当該製造例1に従い製造して用いた。
【0031】
粘着剤の評価方法
本実施例において、粘着剤の物性を評価するために、基材(♯25のポリエチレンテレフタレートフィルム)上に本発明に係る粘着剤を乾燥後の厚さが30μmになるように適用して、得られたシートを巾18mmに裁断し、各種粘着特性を調査した。
【0032】
各種粘着特性の測定方法
粘着力、ボールタック、保持力の測定は、JIS Z 0237の方法に従い測定した。また、プローブタックは、ニチバンプローブタックテスターを用い、ASTM D 2979に準じて測定した。汚染については、目視で判断基準により判断した。
判断基準
○・・・粘着剤の残留、汚染無し
△・・・粘着剤が一部残留、又は粘着剤の残留は無いが、わずかに汚染がある
×・・・粘着剤の全面残留、又は全面に汚染がみられる
【0033】
以下に実施例において使用した物質を以下に示す。
モノマー
2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
INA:イソノニルアクリレート
n−BA:n−ブチルアクリレート
AA:アクリル酸
DAAM:ダイアセトンアクリルアミド
VAc:酢酸ビニル
MMA:メチルメタクリレート
ホスマーM:ユニケミカル社製、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート
ライトエステルP−1M:共栄社化学社製、2−メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート
ニューフロンティアS−510:第一工業製薬社製、含燐メタクリル酸エステル
SIPOMER PAM100:ローディア日華社製、リン酸エステル誘導体モノマー
【0034】
界面活性剤
アクアロンKH−10:第一工業製薬社製 アニオン系反応性界面活性剤(スルホン酸系界面活性剤)
【0035】
架橋剤
デナコール EX−521:長瀬化成工業社製 水溶性エポキシ化合物
ADH:アジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製)
【0036】
リン酸エステル(後添加リン酸エステル)
フォスファノール ML−220:東邦化学工業社製 ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸
フォスファノール LP−700:東邦化学工業社製 ポリオキシエチレンフェニルエーテルリン酸
フォスファノール 701:東邦化学工業社製 ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム
フォスファノール RL−310:東邦化学工業社製 ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸エステル
プライサーフ A−208F:第一工業製薬社製 ポリオキシエチレンアルキル(C=8)エーテルリン酸エステル
【0037】
粘着付与剤樹脂
スーパーエステル E−730−55:荒川化学工業社製 不均化ロジンエステル樹脂エマルジョン
【0038】
比較例1〜4
リン酸基含有モノマーが含まれていない乳化重合体を用いた場合、乳化重合体にリン酸エステルを加えると、添加量が増加するにつれて、粘着力、プローブタック、ボールタック、保持力などの特性の低下が現れ、リン酸エステルの添加量が2.0重量部を超えた量となると貼付面には汚染が発生するようになる。結果を以下の表1に示した。尚、表中、()内の数値は、バラツキの程度R{R=最大値−最小値(n=3)}を示す(他の表も同じ)。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例1〜3
リン酸基含有モノマーの共重合割合が少なく、リン酸エステルの配合量が多いときは、特性が悪く、汚染気味になる。このような場合は添加するリン酸エステルの量を調整して減らすことにより特性を調整できる。結果を表2に示した。
【0041】
【表2】

【0042】
実施例4〜8、比較例5
アクリレート系モノマーに3%のリン酸基含有モノマーを重合したポリマーにリン酸エステルを添加すると、添加量が増加するにつれて、粘着力、プローブタック、ボールタック、保持力等の粘着特性が低下する傾向は同じであるが、添加量は極めて多くなる(多く配合しても汚染は起こらない)。結果を表3に示した。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例9〜12
添加するリン酸エステルにLP-700を用いることにより、保持力を維持したまま他の特性を向上させることができる。尚、リン酸基含有モノマーの共重合割合が低い場合は添加するリン酸エステルの量が多くなると特性が低下するが、リン酸基含有モノマーの共重合割合を多くすると特性は改善される。結果を表4に示した。
【0045】
【表4】

【0046】
比較例6、実施例13〜15
リン酸エステルを添加しない場合には、樹脂エマルジョン配合系では、タックが低く経時で特性が低下した(比較例6)。特定のリン酸エステルが添加されていると、樹脂エマルジョンを配合しても安定性がよく、特性が向上する。しかも、リン酸エステルが添加されていると樹脂エマルジョンの配合量を多くすることができる(通常は30重量部までである)。結果を表5に示した。
【0047】
【表5】

【0048】
実施例16、17
実施例7では、リン酸エステルを添加することにより、特性が低下したが、実施例16、17において、粘着付与剤樹脂を加えることにより、特性が向上する様子が観測された。結果を表6に示す。
【0049】
【表6】

【0050】
実施例18〜20
ホスマー以外のリン酸基含有モノマーを用いても、同様の効果を得ることができた。結果を表7に示す。
【0051】
【表7】

【0052】
比較例7〜10、実施例21〜24
他のモノマー組成の例を示す。比較例7〜10はリン酸エステル未添加のデータであり、実施例21〜24は、比較例7〜10の粘着剤に対応してリン酸エステル(LP−700)を添加した例である。未添加に比べて粘着特性が高くなっている。
【0053】
【表8】



【0054】
実施例25〜28
LP−700以外のリン酸エステルを用いても、良好な結果を得ることが出来た。
【表9】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸基又はリン酸エステル基を有するアクリル系ポリマーが、
(a)炭素数2〜14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル・・・60〜99.9重量%
(b)少なくとも一つ以上の官能基を有するエチレン性不飽和単量体・・・0.1〜40重量%
(c)その他の単量体・・・0〜39.9重量%
(d)(a)+(b)+(c)=100重量部に対して、リン酸基又はリン酸エステル基を有するエチレン性不飽和単量体・・・0.1〜50重量部
を乳化重合して得られたポリマーであり、(a)+(b)+(c)+(d)=100重量部に対して、リン酸エステル系化合物1〜100重量部を配合してなる粘着剤組成物。
【請求項2】
(a)+(b)+(c)+(d)=100重量部に対して、粘着付与樹脂エマルジョンを固形分換算で0〜100重量部配合してなる、請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
リン酸エステル系化合物が、疎水性部位に芳香環を持つものであるか、又はリン酸エステル系化合物が、ポリオキシアルキレン鎖を有するものである、請求項1又は2記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載の粘着剤が少なくとも一面に適用された、粘着テープ又はシート。

【公開番号】特開2008−266506(P2008−266506A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113956(P2007−113956)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】