リン酸塩結合物質およびそれらの使用
カルボン酸リガンドで修飾されたオキソ−水酸化第二鉄またはそのイオン化形に基づく固体リガンド修飾ポリオキソヒドロキシ金属イオン物質であるリン酸塩結合物質、およびそれらを含む組成物を開示する。本出願に示される実施例においてこれらの物質を製造および試験し、それらがインビトロおよびインビボ試験でリン酸塩を結合できることを実証する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸塩結合物質、ならびに高リン酸塩血症の治療における、およびインビトロおよびインビボ用途のための物質からリン酸塩を除去するためのそれらの使用に関する。より詳細には、本発明は、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ鉄物質であるリン酸塩結合物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸塩レベルは、主に腎臓によって調節され、健康な人においては排尿によってリン酸塩恒常性が維持される。血清におけるリン酸塩濃度は、慢性腎不全の患者において劇的に増大し、二次的な甲状腺機能亢進および軟組織石灰化を招き得る。この石灰化は、冠状動脈のアテローム硬化症、および末期腎臓病(ESRD)の主たる死因である早発性心臓病を招く。食餌性(dietary)リン酸塩の制限だけでは、通常、血液透析患者における高リン酸塩血症を制御するのに不十分であり、腸吸収を低減するためにリン酸塩結合剤の経口摂取が必要である。
【0003】
食餌性リン酸塩を結合するために、アルミニウムおよびカルシウム化合物が広く使用されてきたが、それらの長期的安全性に関する懸念がある。アルミニウム系リン酸塩結合剤の使用は、この元素を組織に蓄積させ、全身毒性をもたらし得る。大量のカルシウム系リン酸塩結合剤の投与は、高カルシウム血症をもたらし、続いて組織石灰化を悪化させ得る。
【0004】
レナジェルの名称で市販されている合成ポリマーであるセベラマー(ポリ塩酸アリルアミン)は、食餌性リン酸塩を結合するのに使用される陰イオン交換樹脂である。しかし、この樹脂の結合作用は、リン酸塩に対して特異的でなく、ESRD患者における血清リン酸塩を制御するために投与量を多くしなければならないため、患者コンプライアンスが低下し得る。
【0005】
炭酸ランタンは、ホスレノールの名称で市販されている承認済みのリン酸塩結合剤である。しかし、組織におけるランタンの長期的蓄積および毒性に関する懸念がある。
【0006】
米国特許第6,903,235号明細書には、食餌性リン酸塩を結合させるための可溶性鉄化合物であるクエン酸鉄(ferric citrate)の使用が記載されている。しかし、可溶性鉄化合物の長期的使用は、腸管内腔における遊離鉄の酸化還元活性による胃腸副作用を招く可能性が高いため、後にコンプライアンスが低下し得る。
【0007】
国際公開第2007/088343号パンフレットには、恐らくはヒドロタルサイト構造を有する鉄マグネシウムヒドロキシ炭酸塩をもたらす、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの存在下での硫酸マグネシウム水溶液と硫酸鉄水溶液の反応から形成されたリン酸塩結合剤が記載されている。このリン酸塩結合剤は、「アルファレン(Alpharen)」として知られるが、比較的少量のリン酸塩を結合し、さらには胃の中でMg2+を放出して、高頻度の副作用を招くという欠点がある。
【0008】
オキソ水酸化鉄によるリン酸塩を結合する能力は、当該技術分野で既知である。例えば、米国特許第6,174,442号明細書には、炭水化物および/またはフミン酸によって安定化された水酸化β鉄を使用したリン酸塩の吸着剤が記載されている。しかし、その結合能力は、限界があり、製造方法は、大量の物質の調製に不適切である。国際公開第2008/071747号パンフレットには、不溶性および可溶性炭水化物によって安定化されたリン酸塩含有酸化−水酸化γ鉄の吸着剤が記載されている。しかし、それに記載されている物質のリン酸塩結合活性は、非常に低いpHに限定されるため、リン酸塩結合剤としてのその効果が制限される。
【0009】
要約すると、現行の使用において理想的なリン酸塩結合剤が存在せず、既存の物質には、1つまたは複数の欠点、最も一般的には、毒性もしくは蓄積、コスト、リン酸塩除去効果、アシドーシスおよび/または患者不耐性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって、当該技術分野には、既存の治療薬の欠点のいくつかを克服または改善するさらなるリン酸塩結合剤を開発する継続的な必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
広くは、本発明は、固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質であるリン酸塩結合物質およびそれらを含む組成物に関する。本明細書に開示されている組成物は、カルボン酸リガンドで修飾されたオキソ−水酸化第二鉄(ferric iron oxo-hydroxides)、またはアジピン酸塩などのそのイオン化形に基づく。本出願に示される実施例においてこれらの物質を製造および試験し、それらがインビトロおよびインビボ試験でリン酸塩を結合できることを実証する。
【0012】
よって、第1の態様において、本発明は、高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物(ferric iron composition)であって、該第二鉄組成物は、式(MxLy(OH)n)[Mは、Fe3+イオンを含む1つまたは複数の金属イオンを表し、Lは、カルボン酸リガンドを含む1つまたは複数のリガンド、またはそのイオン化形を表し、OHは、オキソまたはヒドロキシ基を表す]によって表される固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質であり、該物質は、リガンドLがオキソまたはヒドロキシ基に実質的にランダムに置換されているポリマー構造を有する第二鉄組成物を提供する。固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質は、1つまたは複数の再現可能な物理化学特性、例えば、溶解プロファイルおよび/またはリン酸塩結合特性、を有することが好適である。以下にさらに説明するように、本発明の第二鉄物質は、好ましくは、リガンド修飾フェリハイドライトと一致する構造を有する。また、本発明の第二鉄物質は、赤外分光法などの物理的分析を使用して実証可能なM−L結合を有することが好適である。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、高リン酸塩血症の治療のための医薬品の調製のための本発明の第二鉄組成物の使用を提供する。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、高リン酸塩血症を治療する方法であって、治療を必要とする患者に対して、本発明の第二鉄組成物の治療有効量を投与する工程を含む方法を提供する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、媒体からリン酸塩を除去するための方法であって、(a)リン酸塩を含む媒体と、本発明の第二鉄組成物とを、リン酸塩が第二鉄組成物に結合することが可能な条件下で接触させる工程と、(b)結合したリン酸塩を該組成物から分離する工程とを含む方法を提供する。この方法をインビトロまたはインビボで使用することができる。よって、本明細書に記載の物質は、この陰イオンを含む溶液または懸濁液からリン酸塩を選択的に除去することが可能である。その除去は、例えば、本明細書に記載の物質が、経口投与後に胃腸管の液体またはスラッジ様内容物からリン酸塩を除去することが可能であるインビボで起こり得る。しかし、本発明の物質は、例えば、該物質が、食物から消費前に(from food-stuffs prior to consumption)リン酸塩を除去することが可能であり、または透析液、血漿および/または全血からリン酸塩を選択的に除去することが可能である他の用途に使用され得る。本発明のリン酸塩結合剤の1つの特定の用途は、それらを、血液透析過程を通じての透析液からのリン酸塩の体外除去に使用できる透析にある。この態様において、本発明は、本発明のリン酸塩結合物質を含む食物または透析液などの組成物を提供する。
【0016】
よって、本発明は、血液透析を必要とする状態を含む、高血漿リン値、任意のレベルの腎不全から生じる高リン酸塩血症、急性腎不全、慢性腎不全および/または末期腎臓病を治療するための方法を提供する。本発明を使用するこれらの状態の臨床管理は、これらの状態に伴う合併症、例えば、二次性甲状腺機能亢進症、軟組織石灰化、骨形成異常症、高カルシウム血症、副甲状腺機能亢進 減退(hyperparathyroidism reduction)、心血管疾患罹患または死亡(cardiovascular morbidity or mortality)、腎性骨形成異常および/またはカルシフィラキシー(calciphylaxis)、を改善するのに役立つことができる。
【0017】
一態様において、本発明は、第二鉄物質を製造する工程と、それを試験して、リン酸塩を結合することが可能であるかどうか、またはどの程度可能であるかを決定する工程とを含む方法を提供する。例として、該方法は、
(a)Fe3+およびカルボン酸リガンド(例えばアジピン酸)を含む溶液と、任意のさらなるリガンドまたは他の成分とを、成分が可溶になる第1のpH(A)で反応媒体中にて混合する工程と、
(b)pH(A)を第2のpH(B)に変化させて、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の固体沈殿物またはコロイドを形成させる工程と、
(c)工程(b)で製造された固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質を分離し、場合により乾燥および/または配合する工程と
を含むことができる。
【0018】
次に、添付の図面および実施例を参照しながら、例として、限定することなく本発明の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】出発溶液における全鉄の百分率として表される、pHの増加によるFeOH Ad100沈殿の発生。完全沈殿および凝集相(agglomerate phase)がpH4.5で達成される。
【図2】(a)インビトロのリン酸塩結合。水酸化鉄が記載のようにリガンド修飾(例えば、FeOH Ad100)されると、明らかにリン酸塩結合が非修飾フェリハイドライト(Fe(OH)3)またはレナジェル(ポリ塩酸アリルアミン(polyallylamine hydrochloride))より優れ、効果的であるが、潜在的に有毒の炭酸ランタンと少なくとも同等である。さらに、選択されたリガンドは、他の物質、例えば、アジピン酸塩と異なり、リン酸塩結合の顕著な向上をもたらさないヒスチジンと比較して有利である(すなわちFeOH His100対Fe(OH)3)。白色棒はpH3であり、灰色棒はpH5である。(b)インビトロのリン酸塩結合の第2の例:pH3(白色)、pH(灰色)およびpH7(黒色)。FeOH Ad100 SiO2(珪酸塩修飾FeOH Ad100)の効果も示される。いずれの図(aおよびb)においても、溶液は10mMリン酸塩であり、使用された結合剤の量は、20mlの全量中53.6mgであった。これらの実験において、いずれも順次に結合剤を最初に60分間にわたってより低いpHに曝し、次いで60分間にわたってより高いpHに曝した。
【図3】炭酸ランタンは、FeOHAd100およびFeOH Ad100 SiO2と異なり、低pH「事前調整(pre-conditioning)」が行われる場合にのみ効果的であると思われる。実験条件は、リン酸塩結合剤をpH5において、非順次的にリン酸塩溶液のみに曝露し、より高いpHにおいて結合剤の酸(胃(gastric))事前調整を行わなかった点を除いては、図2a/bの通りであった。
【図4】pH1.2におけるFeOH Ad100(菱形)、FeOHAd100 SiO2(三角形)および非修飾2ラインフェリハイドライト(2-line ferrihydrite)(正方形)の溶解プロファイル。手法の詳細な説明については、材料および方法を参照されたい。
【図5】新たに調製した(a);乾燥時の(b);およびベーシックミリング(basic milling)後の(c)FeOHAd100の粒径。
【図6】FeOH Ad100の赤外分析。
【図7】FeOH Ad100 SiO2の赤外分析。
【図8】参照のための非修飾フェリハイドライト(Fe(OH)3)の赤外分析。
【図9】参照のための非修飾アジピン酸の赤外分析。
【図10】a)FeOH Ad100の一次粒子(結晶)は、粉末の高解像度TEM画像において2〜3nmの暗い斑粒子で示され、非修飾フェリハイドライト(記載せず)より結晶性が低いと思われる。b)下部のフェリハイドライト様構造は、平面間隔が2.5および1.5Åの電子回折から明らかである。c)EDXスペクトルは、FeOH Ad100の主な元素がC、OおよびFeであり、Cl(約1.4%)、K(約1.2%)および恐らくはNaの割合が小さいことを示す。Cuのシグナルは、支持グリッドによるものである。
【図11】食餌(Meal)+FeOH Ad100または(プラセボ)摂取後の13人のボランティアからの平均(SEM)尿中リン排泄(mg、8時間以内)。
【図12】リガンド修飾水酸化鉄のインビトロリン酸塩結合。溶液は10mMリン酸塩であり、結合剤の使用量は80mlの全容量中214mgであった。いずれも順次的に、結合剤を最初に60分間にわたってより低いpHに曝し、次いで60分間にわたってより高いpHに曝した。
【図13】様々なリガンド修飾オキソ−水酸化鉄のインビトロリン酸塩結合。異なる量の結合剤を10mMリン酸塩溶液に添加して、リン酸塩と鉄のモル比を1:1、1:3および1:10とした。37℃で120分間にわたってリン酸塩結合が行われた。
【図14】異なる製造方法を使用して回収したFeOH Ad100のインビトロリン酸塩結合。溶液は10mMリン酸塩であり、結合剤の使用量は80mlの全容量中214mgであった。いずれも順次的に、結合剤を最初に60分間にわたってより低いpHに曝し、次いで60分間にわたってより高いpHに曝した(ND=測定せず)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
金属イオン(M)
固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の製造および特徴付けが、2008年2月6日に出願された我々の先の出願PCT/GB2008/000408(国際公開第2008/096130号パンフレット)に開示されている。第二鉄(Fe3+)を含み、本明細書に開示されているリン酸塩結合物質を形成するために使用される物質を含むこれらの物質を、Mが1つまたは複数の金属イオンを表す式(MxLy(OH)n)によって表すことができる。通常、金属イオンは、元々、塩の形で存在することになる。それらは、物質の調製に際して溶解させ、次いでリガンド(L)とのポリオキソ−ヒドロキシ共錯体を形成するように誘導することができる。いくつかの実施形態において、金属イオンは、金属イオンの組合せが存在するか、または金属イオンがFe2+などの他の酸化状態の鉄を含むのでなく、第二鉄(Fe3+)を実質的に含む。好ましくは、使用するリガンドの一部が、式M−L結合を介して固相に統合されるため、リガンド(L)のすべてがバルク物質に単にトラップまたは吸着されるわけではない。それらの物質における金属イオンの結合を、スペクトルが金属イオンとリガンド(L)の結合に特異的なピーク、ならびに物質に存在する他の結合、例えばM−O、O−Hおよびリガンド種(L)における結合、に特異的なピークを有する赤外分光法などの物理的分析技術を使用して測定することができる。本明細書に開示されているリン酸塩結合剤は、例えば、全身毒性である傾向があり、またはリン酸塩に対して特異的でない結合特性を有する先行技術のリン酸塩結合組成物の欠点のいくつかを改善するために、それらの物質を使用する条件の下で生体適合性を有する組成物を提供するために第二鉄(Fe3+)を使用する。
【0021】
背景として、当該技術分野において、酸化鉄、水酸化鉄およびオキソ−水酸化鉄は、Oおよび/またはOHとともにFeで構成されることが周知であり、この特許においてオキソ−水酸化鉄と総称され、当該技術分野においてオキソ−水酸化鉄として知られる。異なるオキソ−水酸化鉄は、異なる構造および元素組成を有し、それがそれらの物理化学特性を決定づけることになる(Cornell&Schwertmann、The Iron Oxides Structure,Properties,Reactions,Occurrence and Uses.第2版、1996年、VCH Publishers、New York参照)。例えば、赤金鉱(akageneite)(βまたはベータオキソ−水酸化鉄)は、その固有の構造に塩化物またはフッ化物を含み、紡錘状または棒状の結晶を形成する。磁赤鉄鉱(γまたはガンマ酸化鉄)は、陽イオン欠乏部位を含み、典型的には強磁性を示す。この物質は、立方体の結晶を生成する傾向がある。フェリハイドライトは、赤金鉱および磁赤鉄鉱より低レベルの構造秩序を示し、球状結晶を生成する、オキソ水酸化鉄物質のさらなる例である。本明細書に開示されている実験は、本明細書に開示されているリン酸塩結合剤、例えば、FeOH Ad100、が好ましくはフェリハイドライト様構造を有し、好ましくは2ラインフェリハイドライトと一致する構造を有することを実証する。例として、当業者は、回折技術、好ましくは、電子顕微鏡におけるサンプルをボンバードする電子が、物質の一次粒子の内部秩序を反映し、オキソ−水酸化鉄の他の形と異なる2ラインフェリハイドライトのものと類似するスペクトルを生成するように散乱される技術である電子回折を使用して、物質が2ラインフェリハイドライト構造を有するかどうかを判定することができる。代替的または追加的に、本発明のリン酸塩結合剤の粒子の粒径および形態は、電子顕微鏡で観察すると、2ラインフェリハイドライトと類似している。しかし、電子試験から、一次粒子の粒径、形態および原子秩序は、2ラインフェリハイドライトと類似しているように思われるが、その物質は、2ラインフェリハイドライトでなく、そのリガンド修飾形であることに留意されたい。これは、第1に、本明細書に主張されている物質が、非修飾2ラインフェリハイドライトと比較して、リン酸塩結合能力の向上を一貫的および有意に示すインビトロリン酸塩結合試験から明らかである。第2に、溶解試験は、典型的にはpH1.2以下の酸性pHにおいて、本発明の物質が、2ラインフェリハイドライトでは観察されない物理化学パラメータである迅速な溶解性を有することを示す。
【0022】
同様に、本発明の物質は、胃腸管において食事後に経験され得るpHの範囲、例えばpH3〜7、で2ラインフェリハイドライトより有意に高度なリン酸塩結合能力を有することが好適である。リン酸塩結合を測定するための例示的なアッセイが、等質量のフェリハイドライト(例えば53.6mg)または実際に比較として使用される任意の他の結合剤および本発明のリン酸塩結合剤をアッセイして、生理的条件下でそれらが結合することが可能なリン酸塩の百分率を測定した実施例2.1に報告されている。概して、アッセイに使用する物質の質量は、20mLアッセイにおいて包括的に10mgから80mgまでであり得る。これらの結果は、フェリハイドライトが10mMのリン酸塩溶液からリン酸塩の約30%を結合することを示している。対照的に、本発明のリン酸塩結合剤は、リン酸塩の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、最も好ましくはリン酸塩の80%から85%以上を結合することが好適であり、それは、本発明のリン酸塩結合剤の特性が非修飾フェリハイドライトと比較して有意に向上していることを示すものである。
【0023】
赤外分析は、2ラインフェリハイドライトと異なり、本明細書に主張されている物質が、添加リガンド、すなわちこの特定の例ではアジピン酸塩の存在と一致する結合を示すことを示している。
【0024】
要約すると、本発明のリン酸塩結合物質の構造は、好ましくは、2ラインフェリハイドライトに基づいているが、有意に異なる新規の特性を有するように化学的に修飾されている。よって、本発明の物質は、TEM画像法および/または電子回折を使用して測定すると、2ラインフェリハイドライトと一致する構造を有するものと記述され得る(実施例参照)。
【0025】
さらに、本明細書に開示されている第二鉄組成物との比較として、形式的な結合(formal bonding)の存在は、本発明の物質を、微粒子結晶オキソ水酸化β鉄(赤金鉱)が、マルトースから形成された糖殻に囲まれており、単にナノレベルのオキソ−水酸化鉄と糖の混合物である「鉄ポリマルトース」(Maltofer)などの他の製品から区別するのに役立つ一態様である(Heinrich(1975年);Geisser and Muller(1987年);Nielsenら(1994年;米国特許第3,076,798号明細書);米国特許出願第20060205691号明細書)。加えて、本発明の物質は、非化学量論量のリガンドの組み込みによって修飾された金属ポリオキソ−ヒドロキシ種であるため、当該技術分野でかなりの報告がされている多くの金属―リガンド錯体と混同されるべきでない(例えば、国際公開第2003/092674号パンフレット、国際公開第2006/037449号パンフレット参照)。全体的に可溶であるが、当該錯体を過飽和点において溶液から沈殿させることができ(例えば、トリマルトール鉄、Harveyら(1998年)、国際公開第2003/097627号パンフレット;クエン酸鉄、国際公開第2004/074444号パンフレット、および酒石酸鉄、Bobtelsky and Jordan(1974年))、場合によっては、ヒドロキシル基の化学量論的結合をさらに含むことができる(例えば、水酸化鉄糖、米国特許第3,821,192号明細書)。金属−リガンド錯体の電荷と幾何学構造を均衡化するためのヒドロキシル基の使用は、勿論、当該技術分野で十分に報告されており(例えば、鉄−ヒドロキシ−リンゴ酸塩、国際公開第2004/050031号パンフレット)、本明細書に報告されている固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質と無関係である。
【0026】
同様に、国際公開第2008/071747には、不溶性および可溶性炭水化物によって安定化された酸化−水酸化ガンマ鉄(磁赤鉄鉱)を含むリン酸塩の吸着剤が記載されている。該文献に記載の物質の製造は、物質に対する物理的支持体としてのみ作用し、オキソ−水酸化鉄と有意に相互作用しないデンプンなどの不溶性炭水化物の存在を必要とする。該文献に記載の物質の製造は、また、製造の最終段階においてスクロースなどの可溶性炭水化物を場合により添加することを含むこともできる。該文献に記載の可溶性炭水化物の添加の唯一の目的は、物質のエージングによる相変化を防止することである。対照的に、本発明の第二鉄組成物は、好ましくは、2ラインフェリハイドライト様構造を有するとともに、支持体として不溶性炭水化物を採用せず、かつ/または可溶性炭水化物を使用して出発材料の特性を改質しない。
【0027】
無修飾では、本明細書に使用される物質の一次粒子は、金属酸化物のコアおよび金属水酸化物の表面を有し、異なる専門分野内で、金属酸化物または金属水酸化物と称され得る。「オキソ−ヒドロキシ」または「オキソ−水酸化物」という用語の使用は、オキソまたはヒドロキシ基の比率(proportion)を参照することなくこれらの事実を認識することを意図する。したがって、ヒドロキシ−酸化物も同様に使用することが可能である。上記のように、本発明の物質は、リガンドLの少なくとも一部を一次粒子の構造に導入すること、すなわちリガンドLによる一次粒子のドープまたは汚染をもたらすことにより、金属オキソ−水酸化物の一次粒子のレベルで改変される。これを金属オキソ−水酸化物と有機分子とのナノ混合物、例えば、一次粒子の構造がそのように改変されない鉄糖錯体、の形成と対照することができる。
【0028】
本明細書に記載のリガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の一次粒子は、沈殿と称する方法によって製造される。沈殿という用語の使用は、しばしば沈降または遠心によって溶液から分離する物質の凝集体の形成を指す。ここで、「沈殿」という用語は、上記の凝集体、およびそれらが微粒子であってもナノ粒子であっても(コロイダルであってもサブコロイダルであっても)、凝集せずに不溶性部分として懸濁液に残留する固体物質を含むすべての固相物質の形成を示すことを意図する。これらの後者の固体物質は、水性微粒固体と称することもできる。
【0029】
本発明において、一般には、臨界沈殿pHより高いpHで形成するポリマー構造を有する修飾金属オキソ−水酸化物を参照することができる。本明細書に使用されているように、これは、既に記載したように、リガンドの組み込みが偶然の一致を除いては非化学量論的であるため、それらの物質の構造が、規則的な反復モノマーを有するという厳密な意味でポリマーであるということを示すものと捉えられるべきでない。リガンド種(species)は、固相秩序(solid phase order)を変化させるオキソまたはヒドロキシ基に対する置換によって固相構造に導入される。いくつかの場合、例えば、本明細書に例示されている第二鉄物質の製造において、固相物質における全体的な秩序を低下させるようにリガンド分子によってオキソまたはヒドロキシ基を置換することによって、リガンド種Lを固相構造に導入することができる。これは、総体的な形で(gross form)、1つまたは複数の再現可能な物理化学特性を有する固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質を依然としてもたらすが、それらの物質は、例えば対応する金属オキソ−水酸化物の構造と比較して、より非晶質の性質を有する。当業者は、当該技術分野で周知の技術を使用して、より無秩序または非晶質の構造の存在を確認することができる。1つの例示的な技術は、透過型電子顕微鏡法(TEM)である。高解像度の透過型電子顕微鏡は、物質の結晶パターンを視覚的に評価することを可能にする。それは、一次粒子の粒径および構造(d間隔など)を示し、非晶質物質と結晶性物質の間の分布に関する何らかの情報を与え、その物質が、2ラインフェリハイドロライト様構造と一致した構造を保有することを示すことができる。この技術を使用すると、上記化学は、リガンドが組み込まれていない対応する物質と比較して、我々が記載する物質の非晶質相を増大させる。これは、解像度を維持しながら高いコントラストを達成することで、物質の一次粒子の表面ならびにバルクを視覚化することを可能にするため、高角環状暗視野収差補正走査透過型電子顕微鏡法を使用すると特に顕著であり得る。
【0030】
本発明の物質の再現可能な物理化学特性または特徴は、その物質が意図する用途に左右されることになる。本発明を使用して便利に調節できる特性の例としては、溶解性(速度、pH依存性およびpM依存性)、離解性、吸着および吸収特性、反応性−不活性、融点、温度抵抗性、粒径、磁性、電気特性、密度、光吸収/反射特性、硬度−軟度、色および封入特性が挙げられる。サプリメント、栄養強化剤および無機治療薬の分野に特に関連する特性の例は、溶解プロファイル、吸着プロファイルまたは再現可能な元素比の一種または複数種から選択される物理化学特性である。この文脈において、特性または特徴は、繰り返される実験が好ましくは±10%、より好ましくは±5%、さらに好ましくは±2%の範囲内の標準偏差内で再現可能であれば、再現可能であり得る。本発明において、リン酸塩結合物質は、好ましくは、再現可能なリン酸塩結合特性および/または溶解プロファイルを有する。以上に記載され、セクション2.1に例示されている生理的リン酸塩結合アッセイに加えて、リン酸塩結合親和性または能力、または溶解プロファイルなどの本発明の物質のさらなる特性を、本明細書に開示されている技術を使用して測定することができる(例えば実施例セクション2.2および3参照)。好適な実施形態において、本発明のリン酸塩結合剤の能力(K2)は、少なくとも1.5mmolP/g結合剤、より好ましくは少なくとも2.0mmolP/g結合剤、最も好ましくは少なくとも2.5mmolP/g結合剤である。
【0031】
固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の溶解プロファイルを、プロセスの異なる段階、すなわち離解(disaggregation)および溶解(dissolution)によって表すことができる。溶解という用語は、固体から可溶相への物質の移行を示すために使用される。より具体的には、離解は、固体凝集相から、可溶相と水性微粒子相の和(すなわち溶液(solution)+懸濁相(suspension phase))である水相(aquated phase)への物質の移行を示すことを意図する。したがって、離解と反対の溶解という用語は、より具体的には、任意の固相(凝集(aggregated)または水性(aquated))から可溶相(soluble phase)への移行を表す。
【0032】
リガンド(L)
式(MxLy(OH)n)によって表される固相リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン種において、Lは、最初は、固相リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質に組み込むことができるそのプロトン化またはアルカリ金属形などの1つまたは複数のリガンドまたは陰イオンを表す。本明細書に記載の物質において、リガンドの少なくとも1つは、カルボン酸リガンドまたはそのイオン化形(すなわちカルボン酸塩リガンド)、例えばアジピン酸またはアジピン酸塩である。好ましくは、リガンドはジカルボン酸リガンドであり、式HOOC−R1−COOH(またはそのイオン化形)(R1は、場合により置換されたC1−10アルキル、C1−10アルケニルまたはC1−10アルキニル基である)によって表され得る。概して、R1がC1−10アルキルであり、より好ましくはC2−6アルキル基であるリガンドの使用が好適である。R1基の好適な任意の置換基は、例えばリンゴ酸に存在する、1つまたは複数のヒドロキシル基を含む。好適な実施形態において、R1基は、直鎖アルキル基である。カルボン酸リガンドのより好適な基は、アジピン酸(またはアジピン酸塩)、グルタル酸(またはグルタル酸塩)、ピメル酸(またはピメル酸塩)、コハク酸(またはコハク酸塩)およびリンゴ酸(またはリンゴ酸塩)を含む。カルボン酸リガンドが酸として存在するか、または部分的または完全にイオン化され、カルボン酸陰イオンの形で存在するかは、物質が製造および/または回収されるpH、製造後の処理または配合工程の使用、ならびにリガンドがどのようにしてポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質に組み込まれるかなどの一連の要因に左右されることになる。いくつかの実施形態において、その物質は、典型的にはpH>4で回収され、リガンドと正に帯電した鉄との相互作用は、負に帯電したカルボン酸イオンの存在によって大いに強化されるため、リガンドの少なくとも一部は、カルボン酸塩の形で存在することになる。疑問を回避するために、本発明によるカルボン酸リガンドの使用は、これらの可能性、すなわちカルボン酸として、非イオン化形の形で、部分的にイオン化された形で(例えば、リガンドがジカルボン酸である場合)存在するリガンド、またはカルボン酸イオンとして完全にイオン化されたリガンド、およびそれらの混合物のすべてを包含する。
【0033】
典型的には、リガンドは、例えば、リガンドが存在しないポリオキソ−ヒドロキシル化金属イオン種と比較して、固体物質の物理化学特性の調節を支援するために固相ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質に組み込まれる。本発明のいくつかの実施形態において、リガンドLは、ある程度の緩衝能力を有することもできる。本発明に採用することができるリガンドの例としては、アジピン酸、グルタル酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アスパラギン酸、ピメル酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸または安息香酸などのカルボン酸;マルトール、エチルマルトールまたはバニリンなどの食品添加物;重炭酸塩、硫酸塩およびリン酸塩などのリガンド特性を有する「古典的陰イオン」;珪酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩およびセレン酸塩などの無機リガンド;トリプトファン、グルタミン、プロリン、バリンまたはヒスチジンなどのアミノ酸;および葉酸塩、アスコルビン酸塩、ピリドキシンまたはナイアシンもしくはニコチンアミドなどの栄養物形リガンドが挙げられるが、それらに限定されない。典型的には、リガンドは、溶液中の特定の金属イオンに対して高い親和性を有するものとして、または低親和性しか有さないものとして当該技術分野で十分に認識され得るか、あるいは典型的には所定の金属イオンに対するリガンドとして全く認識されていない。しかし、ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質において、リガンドは、溶液での活性が明らかに欠如しているにもかかわらず役割を有することができることを見いだした。典型的には、これらの物質の製造には、金属イオンに対する親和性が異なる2つのリガンドが使用されるが、1つ、2つ、3つまたは4つ以上のリガンドを特定に用途に使用できる。
【0034】
多くの用途では、リガンドは、使用条件下で生体適合性を有する必要があり、一般には反応点に非共有電子対(lone pair of electrons)を含む1つまたは複数の原子を有する。リガンドは、陰イオン、弱リガンドおよび強リガンドを含む。リガンドは、反応時にある程度の固有の緩衝能力を有することができる。特定の説明に縛られることを望まないが、本発明者らは、リガンドが2つの形態の相互作用、すなわち(a)オキソまたはヒドロキシ基の置換による物質内の主として共有結合性(covalent character)の導入、および(b)非特異的吸着(イオン対の形成)を有することができると考える。これらの2つの形態は、異なる金属−リガンド親和性(すなわち前者に対する強リガンドおよび後者に対する弱リガンド/陰イオン)に関係する可能性が高い。我々の現行の研究において、2つのタイプのリガンドが、物質の分解特性を調整し、恐らくはそれにより物質の他の特性を決定づける上で相乗効果を有するいくつかの証拠がある。この場合、2つのリガンドタイプが使用され、少なくとも1つ(タイプ(a))は、物質内で金属結合を示すことが証明可能である。恐らくは特にタイプ(b)リガンドのリガンド効果は、系の他の成分、特に電解質によって影響され得る。
【0035】
金属イオンとリガンド(L)との比も、物質の特性を変えるための本明細書に開示されている方法に従って変化させることができる固相リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属鉄物質のパラメータである。一般に、M:Lの有用な比は、10:1、5:1、4:1、3:1、2:1および1:1から1:2、1:3、1:4、1:5または1:10である。
【0036】
リン酸塩結合剤の製造および処理
一般に、本発明のリン酸塩結合剤を、
(a)Fe3+を含む溶液と、カルボン酸リガンド、および場合により任意のさらなるリガンドまたは他の成分とを、成分が可溶である第1のpH(A)において、反応媒体中にて混合する工程と、
(b)pH(A)を第2のpH(B)に変化させて、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の固体沈殿物またはコロイドを形成させる工程と、
(c)工程(b)で製造した固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質を分離し、場合により乾燥および/または配合する工程と
を含む方法によって製造することができる。
【0037】
採用できる条件の例は、2.0未満である第1のpH(A)、および3.0から12.0、好ましくは3.5から8.0、より好ましくは4.0から6.0である第2のpH(B)を使用すること、ならびに室温(20〜25℃)で反応を実施することを含む。概して、工程(a)において、溶液は、20から100mMのFe3+および50から250mMの好適なカルボン酸リガンド、より好ましくは40mMのFe3+および約100mMのリガンドを含むことが好ましい。好適なリガンドはアジピン酸である。
【0038】
次いで、候補物質の分離の後に、物質の特徴付けまたは試験を行う1つまたは複数の工程を続けることができる。例として、リン酸塩結合物質の試験をインビトロまたはインビボで実施して、物質の1つまたは複数の特性、最も注目すべきはその溶解プロファイルおよび/または1つまたは複数のリン酸塩結合特性を決定することができる。代替的または追加的に、該方法は、化学的に、例えば滴定法を介して、または物理的に、例えばマイクロナイジングプロセス(micronizing process)を介して、第二鉄組成物の最終的な粒径を変え、かつ/または例えば被験体への投与のために、最終組成物を製造する過程で第二鉄リン酸塩結合剤に1つまたは複数のさらなる処理工程を施すことを含むことができる。さらなる工程の例としては、洗浄、遠心、濾過、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、オーブン乾燥、透析、粉砕、造粒、カプセル化、錠剤化、混合、圧縮、ナノサイズ化およびマイクロナイズ化が挙げられるが、それらに限定されない。
【0039】
いくつかの実施形態において、さらなる工程を、物質の初期製造とそれを医薬品として製剤化する任意の後続の工程との間で実施することができる。これらのさらなる製造後調節工程は、例えば、水、ならびに発明人が、不純物を除去し、または組み込まれたリガンドを他のリガンドに置き換えることによって、物質のFe3+含有量およびそのリン酸塩結合能力を向上させ、かつ/またはさらなるリガンドの存在により物質に1つまたは複数のさらなる特性を付与することを見いだしたニコチンアミドなどのさらなるリガンドを含む溶液で、物質を洗浄する工程を含むことができる。これの効果は、実施例で実証され、以下のセクションでさらに記載される。
【0040】
ヒドロキシ基およびオキソ基
本発明は、これらのポリオキソ−ヒドロキシ物質の形成に際してヒドロキシ表面基およびオキソ架橋を提供できる濃度で水酸化物イオンを形成する任意の方法を採用することができる。例としては、ML混合物における[OH]を増加させるために添加される水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび重炭酸ナトリウムなどのアルカリ溶液、またはML混合物における[OH]を減少させるために添加される無機酸もしくは有機酸などの酸溶液が挙げられるが、それらに限定されない。
【0041】
本発明のリン酸塩結合組成物を製造するために使用する条件を調整して、沈殿物の物理化学的性質を制御し、あるいは収集、回収、または1つまたは複数の賦形剤との配合を支援することができる。これは、凝集の意図的な抑制、または後に物質特性に影響を与える乾燥もしくは粉砕の使用を含むことができる。しかし、これらは、溶液相からの固体の抽出のための任意の当該系に対する一般的な可変要素である。沈殿した物質の分離後に、それを使用またはさらなる配合の前に場合により乾燥させることができる。しかし、乾燥物は、いくらかの水を保持し、水和固相リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の形であってよい。固相の回収のための本明細書に記載の段階のいずれかにおいて、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質と混合するが、一次粒子を改質せず、物質の意図する機能について配合を最適化するという観点で使用される賦形剤を添加することができることが当業者に明らかになるであろう。これらの例は、糖脂質、リン脂質(例えばホスファチジルコリン)、糖および多糖、糖アルコール(例えばグリセロール)、ポリマー(例えばポリエチレングリコール(PEG))およびタウロコール酸であり得るが、それらに限定されない。
【0042】
他の実施形態において、さらなるリガンドを、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質を製造するための反応に含めることで、これらのリガンドをその物質に組み込むことができる。このようにして含めることができるリガンドの例としては、リン酸塩取り込み阻害剤、および/または例えばリン酸塩結合物質を被験体に投与すると発生し得る潜在的な胃副作用を改善するために、腸粘膜の保護などのさらなる治療または生理特性を付与することが可能な物質が挙げられる。代替的または追加的に、リン酸塩取り込み阻害剤および/または胃副作用を改善することが可能な物質を組成物において固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質と配合することができる。すなわち、以下のセクションに記載される物質と混合することができる。
【0043】
例示として、リン酸塩取り込み阻害剤は、当該技術分野で周知であり、ニコチンアミド、ナイアシン、または米国特許出願第2004/0019113号明細書、米国特許出願第2004/0019020号明細書および国際公開第2004/085448号パンフレットに記載されている阻害薬を含む。胃副作用を改善することが可能な物質の例としては、レチノールおよび/またはリボフラビンが挙げられる(Maら、J.Nutr.Sci.、138(10):1946〜50、2008年参照)。
【0044】
配合および使用
本発明の固相物質をリン酸塩結合物質としての使用のために配合することができ、高リン酸塩血症を治療するためにインビトロおよび/またはインビボで使用することができる。よって、本発明の組成物は、本発明の固相物質の1種または複数種に加えて、医薬として許容し得る賦形剤、担体、緩衝剤、安定剤または当業者に周知の他の物質を含むことができる。当該物質は、無毒性であるべきであり、対象の用途のための固相物質の効果に有意に干渉すべきでない。
【0045】
担体または他の成分の詳細な性質を組成物の投与の方法または経路に関連させることができる。これらの組成物を、胃腸送達、特に経口および経鼻胃(nosogastric)送達;注射を含む非経口送達;この目的、または主として別の目的に使用できるが、この利点を有することができる補綴(prosthetics)を含む特定部位への移植を含むが、それらに限定されない一連の送達経路によって送達することができる。リン酸塩を食物から消費前に除去し、またはリン酸塩を透析液、血漿および全血から選択的に除去するために、本明細書に記載の組成物を採用することもできる。特に、該組成物を透析液に使用して、血液透析の過程でのリン酸塩除去を増強することができる。経口投与のための医薬組成物は、錠剤、カプセル、粉末、ゲル、液体、スプリンクル(sprincle)または好適な食物であり得る。錠剤は、ゼラチンまたは補助剤などの固体担体を含むことができる。カプセルは、腸溶コーティングなどの特殊化された特性を有することができる。液体医薬組成物は、一般には、水、石油、動物もしくは植物油、鉱油もしくは合成油などの液体担体を含む。生理食塩水、デキストロースもしくは他の糖溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグリコールを含めることができる。例えば物質の成分の送達を制御するために、本発明の固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ第二鉄を固体に維持する必要がある場合は、例えば物質の液体配合物を製造する場合に、それに応じて配合物の成分を選択する必要があり得る。物質が食物とともに投与される場合は、リン酸塩結合剤物質との相溶性を有するとともに、好適な物理化学および感覚受容特性を与える配合物成分が選択されることになる。
【0046】
静脈内、皮膚もしくは皮下注射または患部注射では、活性成分は、パイロジェンフリーであり、好適なpH、等張性および安定性を有する非経口投与に許容し得る水溶液または懸濁液の形になる。当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、乳酸加リンゲル注射液などの等張性媒体を使用して好適な溶液を調製することが十分に可能である。防腐剤、安定剤、緩衝剤、抗酸化剤および/または他の添加剤を必要に応じて含めることができる。
【0047】
個体に投与される、本発明に従って使用される物質および組成物は、好ましくは、「予防有効量」または「治療有効量」(予防を治療と見なすことができるが、場合に応じて)で投与され、これは、個々の臨床状態にとって有益であることを十分に証明する。実際の投与量、ならびに投与速度および時間経過は、治療対象の性質および重度に左右されることになる。例として、本発明のリン酸塩結合剤を患者1人当たり約1から20g/日、より好ましくは患者1人当たり約2から10g/日、最も好ましくは患者1人当たり3から7g/日の投与量で投与することができる。治療の処方、例えば投与量に関する判断等は、一般的な実践者および他の医師の責任の範囲内であり、治療すべき障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法および実践者に既知の他の要因が考慮される。上記技術およびプロトコルの例をRemington’s Pharmaceutical Sciences、第20版、2000年、Lippincott、Williams&Wilkinsに見いだすことができる。組成物を治療すべき状態に応じて単独で、または他の治療薬と組み合わせて同時または順次に投与することができる。
【0048】
本明細書に開示されている結合剤を高リン酸塩血症の治療に採用することができる。この状態は、特に、血液透析を受けている患者および/または慢性もしくは末期腎臓病の患者における、腎臓病にしばしば生じる。序文において言及したように、高リン酸塩血症に対する現行の治療薬には、最も重大なこととして、先行技術の組成物が、リン酸塩に限定されない非特異的な作用形態を有し、または副作用を引き起こし、または長期的な安全性の問題を有するという、いくつかの深刻な欠点がある。
【0049】
本発明の組成物で治療できる状態としては、血液透析を必要とする状態を含む、高血漿リン値、任意のレベルの腎不全から生じる高リン酸塩血症、急性腎不全、慢性腎不全および/または末期腎臓病が挙げられる。本発明を使用するこれらの状態の臨床管理は、これらの状態に伴う合併症、例えば、二次性甲状腺機能亢進症、軟組織石灰化、骨形成異常症、高カルシウム血症、副甲状腺機能亢進 減退、心血管疾患罹患または死亡、腎性骨形成異常および/またはカルシフィラキシーを改善するのに役立つことができる。
【実施例】
【0050】
材料および方法
インビトロリン酸塩結合アッセイ
a)生理的濃度におけるリン酸塩結合
10mMリン酸塩、生理的に関連する濃縮物および0.9%NaClを含む溶液をpH3、pH5および最終的にpH7に調整した。結合剤の質量を一定に維持した。リン酸塩結合率を以下の式に従って計算した。
リン酸塩結合率=(1−([P]t0−[P]ti)/[P]ti)×100
式中、[P]t0は、初期溶液におけるリンの濃度であり、[P]tiは、異なる時点における濾液中のリンの濃度である。
【0051】
b)ラングミュア等温式
アッセイに生理的条件をより良好にシミュレートさせるためにインビトロ溶液が0.9%NaClを含むことを除いては、Autissierら、(2007年)と同じ手法を使用してラングミュア等温式を得た。これらのラングミュア等温式は、pH5で作成され、実験条件は、結合剤の質量を13.4〜80.4mgで変動させたことを除いては、「生理的濃度におけるリン酸塩の結合」における条件と同様であった。
【0052】
インビトロ胃腸消化アッセイ
60mgの鉄元素に相当する量の固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ第二鉄物質または非修飾オキソ−水酸化鉄を合成胃液(50mLの2g/LのNaCl、0.15MのHClおよび0.3mg/mLのブタペプシン)に添加し、放射状に振盪しながら37℃で30分間インキュベートした。次いで、得られた胃混合物の5mLを30mLの合成十二指腸液(10g/Lのパンクレアチンおよび2g/LのNaClをpH9.5の50mL重炭酸緩衝液に含む)に添加した。最終容量は35mLであり、最終pHは7.0であった。該混合物を放射状に振盪しながら37℃で60分間インキュベートした。均一なアリコット(1mL)をその過程の異なる時点で収集し、13000rpmで10分間遠心して、凝集体と水性非凝集相を分離した。ICPOESによって上澄みを鉄含有量について分析した。実験の最後に、残留する溶液を4500rpmで15分間遠心し、上澄みをICPOESによってFe含有量について分析した。残留物質(すなわち湿性ペレット)の質量を記録した。濃縮HNO3をこの湿性ペレットに添加し、新たな質量を記録した。すべてのペレットが溶解するまで管を室温で放置し、離解/溶解しない鉄の量を測定するためのICPOES分析のためにアリコットを収集した。鉄の初期量を湿性ペレットにおける鉄+上澄みにおける鉄から計算した。
【0053】
上澄みにおける可溶性の鉄と水性微粒子鉄とを区別するために、各時点において、このフラクションをさらに限外濾過し(Vivaspin 3000Da分子量カットオフポリエーテルスルホンメンブレン、Cat.VS0192、Sartorius Stedium Biotech GmbH、Goettingen、ドイツ)、ICPOESによって再び分析した。
【0054】
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICPOES)
溶液および固体(湿性固体を含む)の鉄およびリン含有量を、259.940nmの鉄特有波長ならびに177.440および/または214.914nmのリン波長でJY2000−2 ICPOES(Horiba Jobin Yvon Ltd.、Stanmore、英国)を使用して測定した。溶液を分析前に1〜7.5%硝酸で希釈し、固体を濃NHO3で消化させた。溶液または固相における鉄の割合を、初期鉄含有量と、アッセイに応じて溶液相における鉄または固相における鉄との差によって測定した。
【0055】
粒径の測定
ハイドロ−μP分散ユニットを備えたマスターサイザー2000(Malvern Instruments Ltd、Malvern、英国)を使用して、ミクロンサイズの粒子の粒径分布を測定し、ナノサイズの粒子の粒径分布を、ゼータサイザーNano ZS(Malvern Instruments Ltd、Malvern、英国)を用いて測定した。マスターサイザー測定ではサンプル前処理が必要でなかったのに対して、ゼータサイザー測定の前に大きな粒子を除去するために遠心が必要であった。
【0056】
赤外分析(IR)
4000〜650cm−1の波長範囲および4cm−1の解像度で、ニコレットアバタール360分光計を備えたデュラサンプルIRダイアモンドATRアクセサリを使用してIRスペクトルを収集した。分析は、英国ThamesにてITS Testing Services(英国)Ltd Sunburyによって実施された。
【0057】
透過型電子顕微鏡法およびエネルギー分散X線分析(EDX)
最初に粉末をメタノールに分散させ、次いで標準穴あき炭素TEM支持フィルム上で滴下成型することによって粉末サンプルを分析した。分析は、リーズ大学(英国)の材料研究所によって実施された。
【0058】
FeOH Ad100のリン酸塩結合を評価するための探索的ヒト試験
経口鉄補給後の酸化性損傷および抗酸化状態のマーカを評価する試験の一部として、食事(781.5mgのリン(P)を含む)とともに与えられた場合の本発明のリン酸塩結合剤(893mg)について食餌性リン酸塩(PO4)結合が確認できるかどうかを判断するための試験を実施した。手短に述べると、13人のボランティアが、それぞれ、プラセボまたはリン酸塩結合剤または硫酸鉄(これらは無作為の順序で与えられた)を含む高P含有朝食を3回にわたって摂取した。食事前(スポット尿)、食事の0〜3時間後(食事に由来する尿中リン酸塩がほとんどまたは全くないことが想定される)および食事の3〜8時間後(食事に由来する吸収されたリン酸塩の約45%が排泄されることが想定される)に尿を採取した。
【0059】
結果
1.リン酸塩結合剤の製造
広くは、本明細書に記載のリン酸塩結合剤を、完全または部分的に、少なくとも可溶性の鉄および1つまたは複数のリガンドを含む、典型的にはpH2.5未満の、酸性溶液を中和することによって製造した。続いて、好適なpH、典型的には3.5を超えるpHが達成されると、リガンド修飾オキソ−水酸化物物質を形成し、一連の手法(例えば遠心)を用いてそれを回収することが可能であった。以下に記載のリン酸塩結合剤の製造は、洗浄などの任意の製造後処理を含まないことに留意されたい。
【0060】
1.1 FeOH Ad100
400mLのddH2Oを含む500mLのビーカーに対して、4.5gのKClおよび7.3gのアジピン酸を添加した。該混合物を、成分のすべてが溶解するまで撹拌した。次いで、100mLの第二鉄溶液を添加した(100mLのddH2O中200mMのFeCl3・6H2O、1.7mLの濃HCl)。溶液における鉄の最終濃度は40mMであり、KClは0.9%w/vであった。第二鉄が添加された最終溶液のpHは、一般には2未満であり、通常は約1.5である。この混合物に対して、pH4.5±0.2まで絶えず撹拌しながらNaOHを(ddH2Oで調製した5MのNaOH溶液から)滴加した(図1参照)。その処理を室温(20〜25℃)で実施した。次いで、該溶液を遠心し、凝集体を45℃でオーブンにて空気乾燥させた。乾燥した物質を手で粉砕し、ボールミルで微粉化(micronized)した。
【0061】
1.2 FeOH Ad100 SiO2
FeOH Ad100 SiO2を製造するための手順は、pHを上昇させるためにNaOHの代わりに珪酸ナトリウム溶液(SiO2・NaOH)を使用したことを除いては、FeOH Ad100の場合と同じであった。この溶液は、27%のSiを含む。
【0062】
1.3 FeOHグルタリック100
FeOHグルタリック100を製造するための手順は、pH5.0±0.2に達するまでアジピン酸およびNaOHの代わりに6.6gのグルタル酸を加えたことを除いては、FeOH Ad100の場合と同じであった。
【0063】
1.3 FeOHピメリック100
FeOHピメリック100を製造するための手順は、pH4.2±0.2に達するまでアジピン酸およびNaOHの代わりに8.0gのピメリン酸を使用したことを除いては、FeOH Ad100の場合と同じであった。
【0064】
2.インビトロリン酸塩結合
2.1 生理的濃度におけるP結合
酸化鉄フェリハイドライトは、リン酸塩を結合することが周知である。例えば、pH3で60分間、次いでpH5で60分間インキュベートした後に、54mgのフェリハイドライトは、20mlの10mMリン酸塩溶液から約30%のリン酸塩結合する(図2a)。小スケールでは、これは、リン酸塩結合剤の使用における生理的条件に類似し得る。好適な結合量は、ポリ塩酸アリルアミンである市販のリン酸結合剤のレナジェルについて見られるのと同じ条件下で約50%である(図2a/b)。さらにより好適な量は、高親和性リン酸塩結合剤の炭酸ランタンに見られるのと同一の条件下で70〜85%である(図2a/b)。FeOHAd100およびFeOHAd100 SiO2は、これらの条件下で80〜85%のリン酸塩の結合を達成し(図2a/b)、それは、フェリハイドライト単独と比較して有意に有利な改良を示す。図2aおよび2bにおいて、白色棒は、pH3で実施された実験に関し、灰色棒はpH5であり、黒色棒はpH7であり(図2bのみ)、いずれの場合も、すべて順次的に、結合剤を最初に60分間にわたってより低いpHに曝し、次いで60分間にわたってより高いpHに曝した。
【0065】
興味深いことに、結合剤を1時間にわたってpH5で溶液に直接曝露し、しかしながら1時間にわたってpH3で「事前調整」しないようにアッセイ条件を変化させると、炭酸ランタンではリン酸結合が70〜85%(図2)から約30%(図3)に大きく低下した。対照的に、FeOHAd100およびFeOHAd100 SiO2によるリン酸塩結合は、80〜85%(図2)から65〜75%(図3)まで低下したにすぎず、生理学的に存在し得る条件下(例えば、食事後の胃のpH)で後者による結合の方が優れていることを示す。優越という文脈において、炭酸ランタンが毒性であり、レナジェルが非特異的結合剤であることも注目に値する。
【0066】
2.2 ラングミュアプロット−親和性および能力の測定
さらに、ラングミュア等温式を使用して、FeOH Ad100とFeOH Ad100 SiO2とランタンとのリン酸塩結合能力を比較した。ラングミュア式は、固体表面への分子の吸着を濃度に関連づけ、そして上記リン酸塩結合剤の親和性および能力の測定に適合するものである。
【0067】
【数1】
C = 未結合の吸着物の濃度(mM)
Cad/m = 結合剤1g当たりの結合吸着物のmmol
K1 = 親和性(affinity);K2=能力(capacity)
【0068】
その親和性が低いことにより、この実験で試験した生理的に妥当な濃度(10mM)より高濃度のリン酸塩が必要であったため、レナジェルについてのこれらの値を測定することが不可能であった。ラングミュア等温式をpH5で作成し、結合剤の質量を13.4〜80.4mgで変動させたことを除いては、実験条件を図2a/bと同様にした。それらの結果は、以下の表に示されており、3つの化合物の親和性が類似しているが、炭酸ランタンの能力が劣っていることを証明している。
【0069】
【表1】
【0070】
3.インビトロ胃腸溶解
リン酸塩結合能力は、その物理化学特性を変えるためにフェリハイドライトをどのように本明細書において修飾したかについての一例を示し、第2の例は、非常に強い酸性のpHにおける溶解プロファイルに関する。pH1.2において、FeOHAd100およびFeOH Ad100SiO2における鉄は迅速に溶解するが、非修飾フェリハイドライトの鉄は徐々に溶解する。有益な用途について、FeOHAd100およびFeOH Ad100SiO2は、食物とともに摂取され、食事後のpH(pH>2.5)において概ね微粒子の状態を維持するが、これらの実験溶解データは、主張されている物質が、フェリハイドライトと顕著に異なることを例証するために示されているにすぎない(図4)。
【0071】
4.粒径測定
図5は、本出願で特許請求する薬剤が、中央値を約40μmとして10〜100μmの範囲の凝集粒子径を有し(a)、乾燥すると、その範囲が、特により大きい径の方(その結果中央値>100μm)に拡大される(b)が、ベーシックミリングにより例えば(c)に戻され、さらにマイクロナイズ化またはナノサイズ化によりさらに縮小され得る(記載せず)。
【0072】
5.化学的特徴づけ
5.1 IR特徴づけ
FeOH Ad100(図6)およびFeOH Ad100 SiO2(図7)の赤外スペクトルを得たところ、1583〜1585cm−1および1542〜1527cm−1に2つのバンドが存在することが示された。これらは、非修飾フェリハイドライト(図8)またはアジピン酸(図9)に存在せず、FeOH Ad100およびFeOH Ad100 SiO2物質に鉄を含むことができる、アジピン酸のカルボン酸塩基(carboxylate group)(1684cm−1における)と、陰イオンとの間の何らかの結合の存在を示す。
【0073】
5.2 TEM
FeOH Ad100
電子回折は、2つの拡散環(平面間隔がそれぞれ2.5および1.5オングストローム)を示した。これらは、フェリハイドライト様構造の存在に特徴的である(図10b)。赤金鉱(オキソ−水酸化β−もしくはベータ鉄)または磁赤鉄鉱(酸化γ−またはガンマ鉄)などのすべての他の形の酸化鉄は、全く異なる平面間隔を示す(Cornell&Schwertmann、The Iron Oxides Structure,Properties,Reactions,Occurrence and Uses.第2版、1996年、VCH Publisherts、New York参照)。
【0074】
EDXによる全般的組成は、少量のNa、ClおよびKとともに多量のFe、OおよびC(図10c)の存在を示す。Cの量は、炭素支持膜に帰することができるより多く、このさらなるCはアジピン酸に由来すると結論づけられる。高倍率画像は、2〜3nmのより暗いスポットが一次粒径(図10a)を示す斑構造を示す。この構造は、さらに2ラインフェリハイドライトと一致する(Janneyら、2000年)が、概して非修飾2ラインフェリハイドライトより無秩序である。したがって、本明細書に記載のリン酸塩結合物質は、2〜3nmの一次結晶サイズのフェリハイドライト様構造を有し、Fe、OおよびCならびに少量のCl、NaおよびKを含む凝集粒子である。したがって、それらは、顕著に異なる、そしてリン酸結合に関して、フェリハイドライト単独と比較して有益な特性をもたらす、リガンド修飾構造である。
【0075】
6.FeOH Ad100のリン酸塩結合を評価するための探索的ヒト試験
経口鉄補給後の酸化性損傷および抗酸化状態のマーカを評価する試験の一部として、食事(781.5mgのリン(P)を含む)とともに与えられた場合の本発明のリン酸塩結合剤(893mg)について食餌性リン酸塩(PO4)結合が確認できるかどうかを判断するための試験を実施した。この試験は、尿中リン酸塩排泄がリン酸塩結合剤期間(period)よりプラセボ期間に多いという仮説を検定するのに使用され、これは、片側2標本t検定を用いて検定した。
【0076】
最初に、朝食のみ(すなわちプラセボのみを含む朝食)の摂取後に、クレアチニン濃度が補正されたリンの尿排泄を使用して、排泄リン酸塩濃度が増加した期間を特定した。これは、予想された通り食事の摂取の3〜8時間後に見られた(データは示されず)。次に、3〜8時間目の時点で、朝食+プラセボの後のリン排泄と朝食+本発明の結合剤による処理の後のリン排泄とを比較し、排泄におけるリンの差が49.4mgであることを確認した(P=0.01;図11)。
【0077】
これらの図に関する何らかの意味を示すために、本発明の1つの物質のリン結合についてのインビボデータを既知の文献と比較した。尿データを8時間から24時間の排泄から外挿し、リンをリン酸塩に変換すると、本発明の結合剤は、これらの食餌条件下で結合剤1g当たり514mgのPO4を結合することが計算によって示唆される。この外挿には、残留する吸収リン酸塩がその後の16時間にわたって排泄されることが考慮されており、食事からのリン酸塩の腸吸収が70%であることが想定されている(Anderson,J.J.B、Watts M.L.、Garner,S.A.、Calvo,M.S.およびKlemmer,P.J.Phosphorus.In:Bowman,B.およびRussell,R.編、Present Knowledge in Nutrition、第9版、ILSI Press、2006年)。これは、結合剤1g当たり262mgのリン酸塩である塩酸セベラマーに匹敵する(Sherman RA:Seminars in dialysis−第20(1)巻、2007年、16〜18頁)。
【0078】
ここで使用された食事は、(尿中Pの移動が確認できるように)意図的にPが極端に多くなっているため、腎臓病患者による単一の食事からの典型的なP吸収量を表さないことも留意されたい。したがって、より典型的な条件下で、本発明のリン酸塩結合剤(または実際には結合剤のいずれか)によって結合されるPの比率が高くなる。
【0079】
7.異なるリガンドを用いたさらなる比較実験
一連の異なるカルボン酸リガンド(ピメル酸およびグルタル酸)を含む本発明のさらなるリン酸塩結合物質を製造し、他のタイプのリガンドを含む物質と比較した。これらの結果は、図12および13に要約されており、カルボン酸リガンドは出発材料のリン酸塩結合能力を向上させたが、他のタイプのリガンドはFeOHのリン酸塩結合能力に影響を与えないか、またはそれを低下させたことを示している(FeOH−MOPS50およびFeOHボリック50参照)。
【0080】
8.ピル負担のモデル化
リン酸塩を除去するための現行の治療薬の主たる欠点は、患者に対して課されるピル負担であり、大量のピルを摂取する必要性は副作用および患者コンプライアンスに悪影響を与える。よって、インビトロデータおよび典型的な胃腸条件、例えば、pH、臨床条件下での平均的な食餌リン濃度および競合陰イオンに基づく数学的モデルを使用して、例示された物質のいくつかについてのピル負担をレナジェルおよびホスレノールと比較した。それらの結果を以下の表に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
9.配合前の手法:鉄含有量の増大化
上記のように製造および特徴づけしたFeOH Ad100を試験して、洗浄などの配合前処理工程の効果を確認した。これらの実験において、物質の製造に使用した反応媒体である塩化カリウムを合成手順から除き(FeOH Ad100−KCl)、沈殿した物質の洗浄工程を追加した(FeOH Ad100−KCl+洗浄)。これらの工程のいずれもが、製造した物質の鉄含有量を増大させた。以下の表における結果を参照されたい。
【0083】
【表3】
【0084】
合成からKClを除外し、洗浄工程を追加しても、図14に示されるようにリン酸塩結合能力が向上した。
【0085】
FeOH Ad100−KClおよびFeOH Ad100−KCl+洗浄を試験し、一連のリン酸塩:結合剤比の下でのそれらのリン酸塩結合を比較したところ、それらの結果は、図14に示される結果と一致しており、洗浄工程によるリン酸塩結合の向上を裏づけるものであった。
【0086】
10.リガンド置換
FeOH Ad100のアジピン酸を異なるリガンドによって置換する研究も行った。これは、FeOH Ad100をニコチンアミド溶液で洗浄する(FeOH Ad100+ニコチンアミド洗浄)か、またはFeOH Ad100一次粒子の形成後に、沈殿過程を通じてニコチンアミドを添加することであった(FeOH Ad100+アジピン酸塩凝集の代わりにFeOH Ad100の製造+ニコチンアミド凝集)。いずれの手法もアジピン酸含有量を減少させ(以下)、リン酸塩結合が低下したが、これらの物質は、腸におけるリン酸塩の能動取り込みを低減することが知られるニコチンアミドの放出とリン酸塩結合とを組み合わせることによる高リン酸塩血症の治療に有用であり得る。
【0087】
【表4】
【0088】
参考文献:
情報開示記述の一部として提出された参照を含む、本明細書に引用され、または本出願とともに提出されたすべての文献、特許および特許出願は、その全体が参照により組み込まれている。
米国特許第6,903,235号
米国特許第6,174,442号
国際公開第2007/088343号
国際公開第2008/071747号
【表5】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸塩結合物質、ならびに高リン酸塩血症の治療における、およびインビトロおよびインビボ用途のための物質からリン酸塩を除去するためのそれらの使用に関する。より詳細には、本発明は、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ鉄物質であるリン酸塩結合物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸塩レベルは、主に腎臓によって調節され、健康な人においては排尿によってリン酸塩恒常性が維持される。血清におけるリン酸塩濃度は、慢性腎不全の患者において劇的に増大し、二次的な甲状腺機能亢進および軟組織石灰化を招き得る。この石灰化は、冠状動脈のアテローム硬化症、および末期腎臓病(ESRD)の主たる死因である早発性心臓病を招く。食餌性(dietary)リン酸塩の制限だけでは、通常、血液透析患者における高リン酸塩血症を制御するのに不十分であり、腸吸収を低減するためにリン酸塩結合剤の経口摂取が必要である。
【0003】
食餌性リン酸塩を結合するために、アルミニウムおよびカルシウム化合物が広く使用されてきたが、それらの長期的安全性に関する懸念がある。アルミニウム系リン酸塩結合剤の使用は、この元素を組織に蓄積させ、全身毒性をもたらし得る。大量のカルシウム系リン酸塩結合剤の投与は、高カルシウム血症をもたらし、続いて組織石灰化を悪化させ得る。
【0004】
レナジェルの名称で市販されている合成ポリマーであるセベラマー(ポリ塩酸アリルアミン)は、食餌性リン酸塩を結合するのに使用される陰イオン交換樹脂である。しかし、この樹脂の結合作用は、リン酸塩に対して特異的でなく、ESRD患者における血清リン酸塩を制御するために投与量を多くしなければならないため、患者コンプライアンスが低下し得る。
【0005】
炭酸ランタンは、ホスレノールの名称で市販されている承認済みのリン酸塩結合剤である。しかし、組織におけるランタンの長期的蓄積および毒性に関する懸念がある。
【0006】
米国特許第6,903,235号明細書には、食餌性リン酸塩を結合させるための可溶性鉄化合物であるクエン酸鉄(ferric citrate)の使用が記載されている。しかし、可溶性鉄化合物の長期的使用は、腸管内腔における遊離鉄の酸化還元活性による胃腸副作用を招く可能性が高いため、後にコンプライアンスが低下し得る。
【0007】
国際公開第2007/088343号パンフレットには、恐らくはヒドロタルサイト構造を有する鉄マグネシウムヒドロキシ炭酸塩をもたらす、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの存在下での硫酸マグネシウム水溶液と硫酸鉄水溶液の反応から形成されたリン酸塩結合剤が記載されている。このリン酸塩結合剤は、「アルファレン(Alpharen)」として知られるが、比較的少量のリン酸塩を結合し、さらには胃の中でMg2+を放出して、高頻度の副作用を招くという欠点がある。
【0008】
オキソ水酸化鉄によるリン酸塩を結合する能力は、当該技術分野で既知である。例えば、米国特許第6,174,442号明細書には、炭水化物および/またはフミン酸によって安定化された水酸化β鉄を使用したリン酸塩の吸着剤が記載されている。しかし、その結合能力は、限界があり、製造方法は、大量の物質の調製に不適切である。国際公開第2008/071747号パンフレットには、不溶性および可溶性炭水化物によって安定化されたリン酸塩含有酸化−水酸化γ鉄の吸着剤が記載されている。しかし、それに記載されている物質のリン酸塩結合活性は、非常に低いpHに限定されるため、リン酸塩結合剤としてのその効果が制限される。
【0009】
要約すると、現行の使用において理想的なリン酸塩結合剤が存在せず、既存の物質には、1つまたは複数の欠点、最も一般的には、毒性もしくは蓄積、コスト、リン酸塩除去効果、アシドーシスおよび/または患者不耐性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって、当該技術分野には、既存の治療薬の欠点のいくつかを克服または改善するさらなるリン酸塩結合剤を開発する継続的な必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
広くは、本発明は、固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質であるリン酸塩結合物質およびそれらを含む組成物に関する。本明細書に開示されている組成物は、カルボン酸リガンドで修飾されたオキソ−水酸化第二鉄(ferric iron oxo-hydroxides)、またはアジピン酸塩などのそのイオン化形に基づく。本出願に示される実施例においてこれらの物質を製造および試験し、それらがインビトロおよびインビボ試験でリン酸塩を結合できることを実証する。
【0012】
よって、第1の態様において、本発明は、高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物(ferric iron composition)であって、該第二鉄組成物は、式(MxLy(OH)n)[Mは、Fe3+イオンを含む1つまたは複数の金属イオンを表し、Lは、カルボン酸リガンドを含む1つまたは複数のリガンド、またはそのイオン化形を表し、OHは、オキソまたはヒドロキシ基を表す]によって表される固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質であり、該物質は、リガンドLがオキソまたはヒドロキシ基に実質的にランダムに置換されているポリマー構造を有する第二鉄組成物を提供する。固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質は、1つまたは複数の再現可能な物理化学特性、例えば、溶解プロファイルおよび/またはリン酸塩結合特性、を有することが好適である。以下にさらに説明するように、本発明の第二鉄物質は、好ましくは、リガンド修飾フェリハイドライトと一致する構造を有する。また、本発明の第二鉄物質は、赤外分光法などの物理的分析を使用して実証可能なM−L結合を有することが好適である。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、高リン酸塩血症の治療のための医薬品の調製のための本発明の第二鉄組成物の使用を提供する。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、高リン酸塩血症を治療する方法であって、治療を必要とする患者に対して、本発明の第二鉄組成物の治療有効量を投与する工程を含む方法を提供する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、媒体からリン酸塩を除去するための方法であって、(a)リン酸塩を含む媒体と、本発明の第二鉄組成物とを、リン酸塩が第二鉄組成物に結合することが可能な条件下で接触させる工程と、(b)結合したリン酸塩を該組成物から分離する工程とを含む方法を提供する。この方法をインビトロまたはインビボで使用することができる。よって、本明細書に記載の物質は、この陰イオンを含む溶液または懸濁液からリン酸塩を選択的に除去することが可能である。その除去は、例えば、本明細書に記載の物質が、経口投与後に胃腸管の液体またはスラッジ様内容物からリン酸塩を除去することが可能であるインビボで起こり得る。しかし、本発明の物質は、例えば、該物質が、食物から消費前に(from food-stuffs prior to consumption)リン酸塩を除去することが可能であり、または透析液、血漿および/または全血からリン酸塩を選択的に除去することが可能である他の用途に使用され得る。本発明のリン酸塩結合剤の1つの特定の用途は、それらを、血液透析過程を通じての透析液からのリン酸塩の体外除去に使用できる透析にある。この態様において、本発明は、本発明のリン酸塩結合物質を含む食物または透析液などの組成物を提供する。
【0016】
よって、本発明は、血液透析を必要とする状態を含む、高血漿リン値、任意のレベルの腎不全から生じる高リン酸塩血症、急性腎不全、慢性腎不全および/または末期腎臓病を治療するための方法を提供する。本発明を使用するこれらの状態の臨床管理は、これらの状態に伴う合併症、例えば、二次性甲状腺機能亢進症、軟組織石灰化、骨形成異常症、高カルシウム血症、副甲状腺機能亢進 減退(hyperparathyroidism reduction)、心血管疾患罹患または死亡(cardiovascular morbidity or mortality)、腎性骨形成異常および/またはカルシフィラキシー(calciphylaxis)、を改善するのに役立つことができる。
【0017】
一態様において、本発明は、第二鉄物質を製造する工程と、それを試験して、リン酸塩を結合することが可能であるかどうか、またはどの程度可能であるかを決定する工程とを含む方法を提供する。例として、該方法は、
(a)Fe3+およびカルボン酸リガンド(例えばアジピン酸)を含む溶液と、任意のさらなるリガンドまたは他の成分とを、成分が可溶になる第1のpH(A)で反応媒体中にて混合する工程と、
(b)pH(A)を第2のpH(B)に変化させて、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の固体沈殿物またはコロイドを形成させる工程と、
(c)工程(b)で製造された固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質を分離し、場合により乾燥および/または配合する工程と
を含むことができる。
【0018】
次に、添付の図面および実施例を参照しながら、例として、限定することなく本発明の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】出発溶液における全鉄の百分率として表される、pHの増加によるFeOH Ad100沈殿の発生。完全沈殿および凝集相(agglomerate phase)がpH4.5で達成される。
【図2】(a)インビトロのリン酸塩結合。水酸化鉄が記載のようにリガンド修飾(例えば、FeOH Ad100)されると、明らかにリン酸塩結合が非修飾フェリハイドライト(Fe(OH)3)またはレナジェル(ポリ塩酸アリルアミン(polyallylamine hydrochloride))より優れ、効果的であるが、潜在的に有毒の炭酸ランタンと少なくとも同等である。さらに、選択されたリガンドは、他の物質、例えば、アジピン酸塩と異なり、リン酸塩結合の顕著な向上をもたらさないヒスチジンと比較して有利である(すなわちFeOH His100対Fe(OH)3)。白色棒はpH3であり、灰色棒はpH5である。(b)インビトロのリン酸塩結合の第2の例:pH3(白色)、pH(灰色)およびpH7(黒色)。FeOH Ad100 SiO2(珪酸塩修飾FeOH Ad100)の効果も示される。いずれの図(aおよびb)においても、溶液は10mMリン酸塩であり、使用された結合剤の量は、20mlの全量中53.6mgであった。これらの実験において、いずれも順次に結合剤を最初に60分間にわたってより低いpHに曝し、次いで60分間にわたってより高いpHに曝した。
【図3】炭酸ランタンは、FeOHAd100およびFeOH Ad100 SiO2と異なり、低pH「事前調整(pre-conditioning)」が行われる場合にのみ効果的であると思われる。実験条件は、リン酸塩結合剤をpH5において、非順次的にリン酸塩溶液のみに曝露し、より高いpHにおいて結合剤の酸(胃(gastric))事前調整を行わなかった点を除いては、図2a/bの通りであった。
【図4】pH1.2におけるFeOH Ad100(菱形)、FeOHAd100 SiO2(三角形)および非修飾2ラインフェリハイドライト(2-line ferrihydrite)(正方形)の溶解プロファイル。手法の詳細な説明については、材料および方法を参照されたい。
【図5】新たに調製した(a);乾燥時の(b);およびベーシックミリング(basic milling)後の(c)FeOHAd100の粒径。
【図6】FeOH Ad100の赤外分析。
【図7】FeOH Ad100 SiO2の赤外分析。
【図8】参照のための非修飾フェリハイドライト(Fe(OH)3)の赤外分析。
【図9】参照のための非修飾アジピン酸の赤外分析。
【図10】a)FeOH Ad100の一次粒子(結晶)は、粉末の高解像度TEM画像において2〜3nmの暗い斑粒子で示され、非修飾フェリハイドライト(記載せず)より結晶性が低いと思われる。b)下部のフェリハイドライト様構造は、平面間隔が2.5および1.5Åの電子回折から明らかである。c)EDXスペクトルは、FeOH Ad100の主な元素がC、OおよびFeであり、Cl(約1.4%)、K(約1.2%)および恐らくはNaの割合が小さいことを示す。Cuのシグナルは、支持グリッドによるものである。
【図11】食餌(Meal)+FeOH Ad100または(プラセボ)摂取後の13人のボランティアからの平均(SEM)尿中リン排泄(mg、8時間以内)。
【図12】リガンド修飾水酸化鉄のインビトロリン酸塩結合。溶液は10mMリン酸塩であり、結合剤の使用量は80mlの全容量中214mgであった。いずれも順次的に、結合剤を最初に60分間にわたってより低いpHに曝し、次いで60分間にわたってより高いpHに曝した。
【図13】様々なリガンド修飾オキソ−水酸化鉄のインビトロリン酸塩結合。異なる量の結合剤を10mMリン酸塩溶液に添加して、リン酸塩と鉄のモル比を1:1、1:3および1:10とした。37℃で120分間にわたってリン酸塩結合が行われた。
【図14】異なる製造方法を使用して回収したFeOH Ad100のインビトロリン酸塩結合。溶液は10mMリン酸塩であり、結合剤の使用量は80mlの全容量中214mgであった。いずれも順次的に、結合剤を最初に60分間にわたってより低いpHに曝し、次いで60分間にわたってより高いpHに曝した(ND=測定せず)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
金属イオン(M)
固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の製造および特徴付けが、2008年2月6日に出願された我々の先の出願PCT/GB2008/000408(国際公開第2008/096130号パンフレット)に開示されている。第二鉄(Fe3+)を含み、本明細書に開示されているリン酸塩結合物質を形成するために使用される物質を含むこれらの物質を、Mが1つまたは複数の金属イオンを表す式(MxLy(OH)n)によって表すことができる。通常、金属イオンは、元々、塩の形で存在することになる。それらは、物質の調製に際して溶解させ、次いでリガンド(L)とのポリオキソ−ヒドロキシ共錯体を形成するように誘導することができる。いくつかの実施形態において、金属イオンは、金属イオンの組合せが存在するか、または金属イオンがFe2+などの他の酸化状態の鉄を含むのでなく、第二鉄(Fe3+)を実質的に含む。好ましくは、使用するリガンドの一部が、式M−L結合を介して固相に統合されるため、リガンド(L)のすべてがバルク物質に単にトラップまたは吸着されるわけではない。それらの物質における金属イオンの結合を、スペクトルが金属イオンとリガンド(L)の結合に特異的なピーク、ならびに物質に存在する他の結合、例えばM−O、O−Hおよびリガンド種(L)における結合、に特異的なピークを有する赤外分光法などの物理的分析技術を使用して測定することができる。本明細書に開示されているリン酸塩結合剤は、例えば、全身毒性である傾向があり、またはリン酸塩に対して特異的でない結合特性を有する先行技術のリン酸塩結合組成物の欠点のいくつかを改善するために、それらの物質を使用する条件の下で生体適合性を有する組成物を提供するために第二鉄(Fe3+)を使用する。
【0021】
背景として、当該技術分野において、酸化鉄、水酸化鉄およびオキソ−水酸化鉄は、Oおよび/またはOHとともにFeで構成されることが周知であり、この特許においてオキソ−水酸化鉄と総称され、当該技術分野においてオキソ−水酸化鉄として知られる。異なるオキソ−水酸化鉄は、異なる構造および元素組成を有し、それがそれらの物理化学特性を決定づけることになる(Cornell&Schwertmann、The Iron Oxides Structure,Properties,Reactions,Occurrence and Uses.第2版、1996年、VCH Publishers、New York参照)。例えば、赤金鉱(akageneite)(βまたはベータオキソ−水酸化鉄)は、その固有の構造に塩化物またはフッ化物を含み、紡錘状または棒状の結晶を形成する。磁赤鉄鉱(γまたはガンマ酸化鉄)は、陽イオン欠乏部位を含み、典型的には強磁性を示す。この物質は、立方体の結晶を生成する傾向がある。フェリハイドライトは、赤金鉱および磁赤鉄鉱より低レベルの構造秩序を示し、球状結晶を生成する、オキソ水酸化鉄物質のさらなる例である。本明細書に開示されている実験は、本明細書に開示されているリン酸塩結合剤、例えば、FeOH Ad100、が好ましくはフェリハイドライト様構造を有し、好ましくは2ラインフェリハイドライトと一致する構造を有することを実証する。例として、当業者は、回折技術、好ましくは、電子顕微鏡におけるサンプルをボンバードする電子が、物質の一次粒子の内部秩序を反映し、オキソ−水酸化鉄の他の形と異なる2ラインフェリハイドライトのものと類似するスペクトルを生成するように散乱される技術である電子回折を使用して、物質が2ラインフェリハイドライト構造を有するかどうかを判定することができる。代替的または追加的に、本発明のリン酸塩結合剤の粒子の粒径および形態は、電子顕微鏡で観察すると、2ラインフェリハイドライトと類似している。しかし、電子試験から、一次粒子の粒径、形態および原子秩序は、2ラインフェリハイドライトと類似しているように思われるが、その物質は、2ラインフェリハイドライトでなく、そのリガンド修飾形であることに留意されたい。これは、第1に、本明細書に主張されている物質が、非修飾2ラインフェリハイドライトと比較して、リン酸塩結合能力の向上を一貫的および有意に示すインビトロリン酸塩結合試験から明らかである。第2に、溶解試験は、典型的にはpH1.2以下の酸性pHにおいて、本発明の物質が、2ラインフェリハイドライトでは観察されない物理化学パラメータである迅速な溶解性を有することを示す。
【0022】
同様に、本発明の物質は、胃腸管において食事後に経験され得るpHの範囲、例えばpH3〜7、で2ラインフェリハイドライトより有意に高度なリン酸塩結合能力を有することが好適である。リン酸塩結合を測定するための例示的なアッセイが、等質量のフェリハイドライト(例えば53.6mg)または実際に比較として使用される任意の他の結合剤および本発明のリン酸塩結合剤をアッセイして、生理的条件下でそれらが結合することが可能なリン酸塩の百分率を測定した実施例2.1に報告されている。概して、アッセイに使用する物質の質量は、20mLアッセイにおいて包括的に10mgから80mgまでであり得る。これらの結果は、フェリハイドライトが10mMのリン酸塩溶液からリン酸塩の約30%を結合することを示している。対照的に、本発明のリン酸塩結合剤は、リン酸塩の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、最も好ましくはリン酸塩の80%から85%以上を結合することが好適であり、それは、本発明のリン酸塩結合剤の特性が非修飾フェリハイドライトと比較して有意に向上していることを示すものである。
【0023】
赤外分析は、2ラインフェリハイドライトと異なり、本明細書に主張されている物質が、添加リガンド、すなわちこの特定の例ではアジピン酸塩の存在と一致する結合を示すことを示している。
【0024】
要約すると、本発明のリン酸塩結合物質の構造は、好ましくは、2ラインフェリハイドライトに基づいているが、有意に異なる新規の特性を有するように化学的に修飾されている。よって、本発明の物質は、TEM画像法および/または電子回折を使用して測定すると、2ラインフェリハイドライトと一致する構造を有するものと記述され得る(実施例参照)。
【0025】
さらに、本明細書に開示されている第二鉄組成物との比較として、形式的な結合(formal bonding)の存在は、本発明の物質を、微粒子結晶オキソ水酸化β鉄(赤金鉱)が、マルトースから形成された糖殻に囲まれており、単にナノレベルのオキソ−水酸化鉄と糖の混合物である「鉄ポリマルトース」(Maltofer)などの他の製品から区別するのに役立つ一態様である(Heinrich(1975年);Geisser and Muller(1987年);Nielsenら(1994年;米国特許第3,076,798号明細書);米国特許出願第20060205691号明細書)。加えて、本発明の物質は、非化学量論量のリガンドの組み込みによって修飾された金属ポリオキソ−ヒドロキシ種であるため、当該技術分野でかなりの報告がされている多くの金属―リガンド錯体と混同されるべきでない(例えば、国際公開第2003/092674号パンフレット、国際公開第2006/037449号パンフレット参照)。全体的に可溶であるが、当該錯体を過飽和点において溶液から沈殿させることができ(例えば、トリマルトール鉄、Harveyら(1998年)、国際公開第2003/097627号パンフレット;クエン酸鉄、国際公開第2004/074444号パンフレット、および酒石酸鉄、Bobtelsky and Jordan(1974年))、場合によっては、ヒドロキシル基の化学量論的結合をさらに含むことができる(例えば、水酸化鉄糖、米国特許第3,821,192号明細書)。金属−リガンド錯体の電荷と幾何学構造を均衡化するためのヒドロキシル基の使用は、勿論、当該技術分野で十分に報告されており(例えば、鉄−ヒドロキシ−リンゴ酸塩、国際公開第2004/050031号パンフレット)、本明細書に報告されている固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質と無関係である。
【0026】
同様に、国際公開第2008/071747には、不溶性および可溶性炭水化物によって安定化された酸化−水酸化ガンマ鉄(磁赤鉄鉱)を含むリン酸塩の吸着剤が記載されている。該文献に記載の物質の製造は、物質に対する物理的支持体としてのみ作用し、オキソ−水酸化鉄と有意に相互作用しないデンプンなどの不溶性炭水化物の存在を必要とする。該文献に記載の物質の製造は、また、製造の最終段階においてスクロースなどの可溶性炭水化物を場合により添加することを含むこともできる。該文献に記載の可溶性炭水化物の添加の唯一の目的は、物質のエージングによる相変化を防止することである。対照的に、本発明の第二鉄組成物は、好ましくは、2ラインフェリハイドライト様構造を有するとともに、支持体として不溶性炭水化物を採用せず、かつ/または可溶性炭水化物を使用して出発材料の特性を改質しない。
【0027】
無修飾では、本明細書に使用される物質の一次粒子は、金属酸化物のコアおよび金属水酸化物の表面を有し、異なる専門分野内で、金属酸化物または金属水酸化物と称され得る。「オキソ−ヒドロキシ」または「オキソ−水酸化物」という用語の使用は、オキソまたはヒドロキシ基の比率(proportion)を参照することなくこれらの事実を認識することを意図する。したがって、ヒドロキシ−酸化物も同様に使用することが可能である。上記のように、本発明の物質は、リガンドLの少なくとも一部を一次粒子の構造に導入すること、すなわちリガンドLによる一次粒子のドープまたは汚染をもたらすことにより、金属オキソ−水酸化物の一次粒子のレベルで改変される。これを金属オキソ−水酸化物と有機分子とのナノ混合物、例えば、一次粒子の構造がそのように改変されない鉄糖錯体、の形成と対照することができる。
【0028】
本明細書に記載のリガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の一次粒子は、沈殿と称する方法によって製造される。沈殿という用語の使用は、しばしば沈降または遠心によって溶液から分離する物質の凝集体の形成を指す。ここで、「沈殿」という用語は、上記の凝集体、およびそれらが微粒子であってもナノ粒子であっても(コロイダルであってもサブコロイダルであっても)、凝集せずに不溶性部分として懸濁液に残留する固体物質を含むすべての固相物質の形成を示すことを意図する。これらの後者の固体物質は、水性微粒固体と称することもできる。
【0029】
本発明において、一般には、臨界沈殿pHより高いpHで形成するポリマー構造を有する修飾金属オキソ−水酸化物を参照することができる。本明細書に使用されているように、これは、既に記載したように、リガンドの組み込みが偶然の一致を除いては非化学量論的であるため、それらの物質の構造が、規則的な反復モノマーを有するという厳密な意味でポリマーであるということを示すものと捉えられるべきでない。リガンド種(species)は、固相秩序(solid phase order)を変化させるオキソまたはヒドロキシ基に対する置換によって固相構造に導入される。いくつかの場合、例えば、本明細書に例示されている第二鉄物質の製造において、固相物質における全体的な秩序を低下させるようにリガンド分子によってオキソまたはヒドロキシ基を置換することによって、リガンド種Lを固相構造に導入することができる。これは、総体的な形で(gross form)、1つまたは複数の再現可能な物理化学特性を有する固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質を依然としてもたらすが、それらの物質は、例えば対応する金属オキソ−水酸化物の構造と比較して、より非晶質の性質を有する。当業者は、当該技術分野で周知の技術を使用して、より無秩序または非晶質の構造の存在を確認することができる。1つの例示的な技術は、透過型電子顕微鏡法(TEM)である。高解像度の透過型電子顕微鏡は、物質の結晶パターンを視覚的に評価することを可能にする。それは、一次粒子の粒径および構造(d間隔など)を示し、非晶質物質と結晶性物質の間の分布に関する何らかの情報を与え、その物質が、2ラインフェリハイドロライト様構造と一致した構造を保有することを示すことができる。この技術を使用すると、上記化学は、リガンドが組み込まれていない対応する物質と比較して、我々が記載する物質の非晶質相を増大させる。これは、解像度を維持しながら高いコントラストを達成することで、物質の一次粒子の表面ならびにバルクを視覚化することを可能にするため、高角環状暗視野収差補正走査透過型電子顕微鏡法を使用すると特に顕著であり得る。
【0030】
本発明の物質の再現可能な物理化学特性または特徴は、その物質が意図する用途に左右されることになる。本発明を使用して便利に調節できる特性の例としては、溶解性(速度、pH依存性およびpM依存性)、離解性、吸着および吸収特性、反応性−不活性、融点、温度抵抗性、粒径、磁性、電気特性、密度、光吸収/反射特性、硬度−軟度、色および封入特性が挙げられる。サプリメント、栄養強化剤および無機治療薬の分野に特に関連する特性の例は、溶解プロファイル、吸着プロファイルまたは再現可能な元素比の一種または複数種から選択される物理化学特性である。この文脈において、特性または特徴は、繰り返される実験が好ましくは±10%、より好ましくは±5%、さらに好ましくは±2%の範囲内の標準偏差内で再現可能であれば、再現可能であり得る。本発明において、リン酸塩結合物質は、好ましくは、再現可能なリン酸塩結合特性および/または溶解プロファイルを有する。以上に記載され、セクション2.1に例示されている生理的リン酸塩結合アッセイに加えて、リン酸塩結合親和性または能力、または溶解プロファイルなどの本発明の物質のさらなる特性を、本明細書に開示されている技術を使用して測定することができる(例えば実施例セクション2.2および3参照)。好適な実施形態において、本発明のリン酸塩結合剤の能力(K2)は、少なくとも1.5mmolP/g結合剤、より好ましくは少なくとも2.0mmolP/g結合剤、最も好ましくは少なくとも2.5mmolP/g結合剤である。
【0031】
固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の溶解プロファイルを、プロセスの異なる段階、すなわち離解(disaggregation)および溶解(dissolution)によって表すことができる。溶解という用語は、固体から可溶相への物質の移行を示すために使用される。より具体的には、離解は、固体凝集相から、可溶相と水性微粒子相の和(すなわち溶液(solution)+懸濁相(suspension phase))である水相(aquated phase)への物質の移行を示すことを意図する。したがって、離解と反対の溶解という用語は、より具体的には、任意の固相(凝集(aggregated)または水性(aquated))から可溶相(soluble phase)への移行を表す。
【0032】
リガンド(L)
式(MxLy(OH)n)によって表される固相リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン種において、Lは、最初は、固相リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質に組み込むことができるそのプロトン化またはアルカリ金属形などの1つまたは複数のリガンドまたは陰イオンを表す。本明細書に記載の物質において、リガンドの少なくとも1つは、カルボン酸リガンドまたはそのイオン化形(すなわちカルボン酸塩リガンド)、例えばアジピン酸またはアジピン酸塩である。好ましくは、リガンドはジカルボン酸リガンドであり、式HOOC−R1−COOH(またはそのイオン化形)(R1は、場合により置換されたC1−10アルキル、C1−10アルケニルまたはC1−10アルキニル基である)によって表され得る。概して、R1がC1−10アルキルであり、より好ましくはC2−6アルキル基であるリガンドの使用が好適である。R1基の好適な任意の置換基は、例えばリンゴ酸に存在する、1つまたは複数のヒドロキシル基を含む。好適な実施形態において、R1基は、直鎖アルキル基である。カルボン酸リガンドのより好適な基は、アジピン酸(またはアジピン酸塩)、グルタル酸(またはグルタル酸塩)、ピメル酸(またはピメル酸塩)、コハク酸(またはコハク酸塩)およびリンゴ酸(またはリンゴ酸塩)を含む。カルボン酸リガンドが酸として存在するか、または部分的または完全にイオン化され、カルボン酸陰イオンの形で存在するかは、物質が製造および/または回収されるpH、製造後の処理または配合工程の使用、ならびにリガンドがどのようにしてポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質に組み込まれるかなどの一連の要因に左右されることになる。いくつかの実施形態において、その物質は、典型的にはpH>4で回収され、リガンドと正に帯電した鉄との相互作用は、負に帯電したカルボン酸イオンの存在によって大いに強化されるため、リガンドの少なくとも一部は、カルボン酸塩の形で存在することになる。疑問を回避するために、本発明によるカルボン酸リガンドの使用は、これらの可能性、すなわちカルボン酸として、非イオン化形の形で、部分的にイオン化された形で(例えば、リガンドがジカルボン酸である場合)存在するリガンド、またはカルボン酸イオンとして完全にイオン化されたリガンド、およびそれらの混合物のすべてを包含する。
【0033】
典型的には、リガンドは、例えば、リガンドが存在しないポリオキソ−ヒドロキシル化金属イオン種と比較して、固体物質の物理化学特性の調節を支援するために固相ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質に組み込まれる。本発明のいくつかの実施形態において、リガンドLは、ある程度の緩衝能力を有することもできる。本発明に採用することができるリガンドの例としては、アジピン酸、グルタル酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アスパラギン酸、ピメル酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸または安息香酸などのカルボン酸;マルトール、エチルマルトールまたはバニリンなどの食品添加物;重炭酸塩、硫酸塩およびリン酸塩などのリガンド特性を有する「古典的陰イオン」;珪酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩およびセレン酸塩などの無機リガンド;トリプトファン、グルタミン、プロリン、バリンまたはヒスチジンなどのアミノ酸;および葉酸塩、アスコルビン酸塩、ピリドキシンまたはナイアシンもしくはニコチンアミドなどの栄養物形リガンドが挙げられるが、それらに限定されない。典型的には、リガンドは、溶液中の特定の金属イオンに対して高い親和性を有するものとして、または低親和性しか有さないものとして当該技術分野で十分に認識され得るか、あるいは典型的には所定の金属イオンに対するリガンドとして全く認識されていない。しかし、ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質において、リガンドは、溶液での活性が明らかに欠如しているにもかかわらず役割を有することができることを見いだした。典型的には、これらの物質の製造には、金属イオンに対する親和性が異なる2つのリガンドが使用されるが、1つ、2つ、3つまたは4つ以上のリガンドを特定に用途に使用できる。
【0034】
多くの用途では、リガンドは、使用条件下で生体適合性を有する必要があり、一般には反応点に非共有電子対(lone pair of electrons)を含む1つまたは複数の原子を有する。リガンドは、陰イオン、弱リガンドおよび強リガンドを含む。リガンドは、反応時にある程度の固有の緩衝能力を有することができる。特定の説明に縛られることを望まないが、本発明者らは、リガンドが2つの形態の相互作用、すなわち(a)オキソまたはヒドロキシ基の置換による物質内の主として共有結合性(covalent character)の導入、および(b)非特異的吸着(イオン対の形成)を有することができると考える。これらの2つの形態は、異なる金属−リガンド親和性(すなわち前者に対する強リガンドおよび後者に対する弱リガンド/陰イオン)に関係する可能性が高い。我々の現行の研究において、2つのタイプのリガンドが、物質の分解特性を調整し、恐らくはそれにより物質の他の特性を決定づける上で相乗効果を有するいくつかの証拠がある。この場合、2つのリガンドタイプが使用され、少なくとも1つ(タイプ(a))は、物質内で金属結合を示すことが証明可能である。恐らくは特にタイプ(b)リガンドのリガンド効果は、系の他の成分、特に電解質によって影響され得る。
【0035】
金属イオンとリガンド(L)との比も、物質の特性を変えるための本明細書に開示されている方法に従って変化させることができる固相リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属鉄物質のパラメータである。一般に、M:Lの有用な比は、10:1、5:1、4:1、3:1、2:1および1:1から1:2、1:3、1:4、1:5または1:10である。
【0036】
リン酸塩結合剤の製造および処理
一般に、本発明のリン酸塩結合剤を、
(a)Fe3+を含む溶液と、カルボン酸リガンド、および場合により任意のさらなるリガンドまたは他の成分とを、成分が可溶である第1のpH(A)において、反応媒体中にて混合する工程と、
(b)pH(A)を第2のpH(B)に変化させて、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の固体沈殿物またはコロイドを形成させる工程と、
(c)工程(b)で製造した固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質を分離し、場合により乾燥および/または配合する工程と
を含む方法によって製造することができる。
【0037】
採用できる条件の例は、2.0未満である第1のpH(A)、および3.0から12.0、好ましくは3.5から8.0、より好ましくは4.0から6.0である第2のpH(B)を使用すること、ならびに室温(20〜25℃)で反応を実施することを含む。概して、工程(a)において、溶液は、20から100mMのFe3+および50から250mMの好適なカルボン酸リガンド、より好ましくは40mMのFe3+および約100mMのリガンドを含むことが好ましい。好適なリガンドはアジピン酸である。
【0038】
次いで、候補物質の分離の後に、物質の特徴付けまたは試験を行う1つまたは複数の工程を続けることができる。例として、リン酸塩結合物質の試験をインビトロまたはインビボで実施して、物質の1つまたは複数の特性、最も注目すべきはその溶解プロファイルおよび/または1つまたは複数のリン酸塩結合特性を決定することができる。代替的または追加的に、該方法は、化学的に、例えば滴定法を介して、または物理的に、例えばマイクロナイジングプロセス(micronizing process)を介して、第二鉄組成物の最終的な粒径を変え、かつ/または例えば被験体への投与のために、最終組成物を製造する過程で第二鉄リン酸塩結合剤に1つまたは複数のさらなる処理工程を施すことを含むことができる。さらなる工程の例としては、洗浄、遠心、濾過、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、オーブン乾燥、透析、粉砕、造粒、カプセル化、錠剤化、混合、圧縮、ナノサイズ化およびマイクロナイズ化が挙げられるが、それらに限定されない。
【0039】
いくつかの実施形態において、さらなる工程を、物質の初期製造とそれを医薬品として製剤化する任意の後続の工程との間で実施することができる。これらのさらなる製造後調節工程は、例えば、水、ならびに発明人が、不純物を除去し、または組み込まれたリガンドを他のリガンドに置き換えることによって、物質のFe3+含有量およびそのリン酸塩結合能力を向上させ、かつ/またはさらなるリガンドの存在により物質に1つまたは複数のさらなる特性を付与することを見いだしたニコチンアミドなどのさらなるリガンドを含む溶液で、物質を洗浄する工程を含むことができる。これの効果は、実施例で実証され、以下のセクションでさらに記載される。
【0040】
ヒドロキシ基およびオキソ基
本発明は、これらのポリオキソ−ヒドロキシ物質の形成に際してヒドロキシ表面基およびオキソ架橋を提供できる濃度で水酸化物イオンを形成する任意の方法を採用することができる。例としては、ML混合物における[OH]を増加させるために添加される水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび重炭酸ナトリウムなどのアルカリ溶液、またはML混合物における[OH]を減少させるために添加される無機酸もしくは有機酸などの酸溶液が挙げられるが、それらに限定されない。
【0041】
本発明のリン酸塩結合組成物を製造するために使用する条件を調整して、沈殿物の物理化学的性質を制御し、あるいは収集、回収、または1つまたは複数の賦形剤との配合を支援することができる。これは、凝集の意図的な抑制、または後に物質特性に影響を与える乾燥もしくは粉砕の使用を含むことができる。しかし、これらは、溶液相からの固体の抽出のための任意の当該系に対する一般的な可変要素である。沈殿した物質の分離後に、それを使用またはさらなる配合の前に場合により乾燥させることができる。しかし、乾燥物は、いくらかの水を保持し、水和固相リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の形であってよい。固相の回収のための本明細書に記載の段階のいずれかにおいて、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質と混合するが、一次粒子を改質せず、物質の意図する機能について配合を最適化するという観点で使用される賦形剤を添加することができることが当業者に明らかになるであろう。これらの例は、糖脂質、リン脂質(例えばホスファチジルコリン)、糖および多糖、糖アルコール(例えばグリセロール)、ポリマー(例えばポリエチレングリコール(PEG))およびタウロコール酸であり得るが、それらに限定されない。
【0042】
他の実施形態において、さらなるリガンドを、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質を製造するための反応に含めることで、これらのリガンドをその物質に組み込むことができる。このようにして含めることができるリガンドの例としては、リン酸塩取り込み阻害剤、および/または例えばリン酸塩結合物質を被験体に投与すると発生し得る潜在的な胃副作用を改善するために、腸粘膜の保護などのさらなる治療または生理特性を付与することが可能な物質が挙げられる。代替的または追加的に、リン酸塩取り込み阻害剤および/または胃副作用を改善することが可能な物質を組成物において固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質と配合することができる。すなわち、以下のセクションに記載される物質と混合することができる。
【0043】
例示として、リン酸塩取り込み阻害剤は、当該技術分野で周知であり、ニコチンアミド、ナイアシン、または米国特許出願第2004/0019113号明細書、米国特許出願第2004/0019020号明細書および国際公開第2004/085448号パンフレットに記載されている阻害薬を含む。胃副作用を改善することが可能な物質の例としては、レチノールおよび/またはリボフラビンが挙げられる(Maら、J.Nutr.Sci.、138(10):1946〜50、2008年参照)。
【0044】
配合および使用
本発明の固相物質をリン酸塩結合物質としての使用のために配合することができ、高リン酸塩血症を治療するためにインビトロおよび/またはインビボで使用することができる。よって、本発明の組成物は、本発明の固相物質の1種または複数種に加えて、医薬として許容し得る賦形剤、担体、緩衝剤、安定剤または当業者に周知の他の物質を含むことができる。当該物質は、無毒性であるべきであり、対象の用途のための固相物質の効果に有意に干渉すべきでない。
【0045】
担体または他の成分の詳細な性質を組成物の投与の方法または経路に関連させることができる。これらの組成物を、胃腸送達、特に経口および経鼻胃(nosogastric)送達;注射を含む非経口送達;この目的、または主として別の目的に使用できるが、この利点を有することができる補綴(prosthetics)を含む特定部位への移植を含むが、それらに限定されない一連の送達経路によって送達することができる。リン酸塩を食物から消費前に除去し、またはリン酸塩を透析液、血漿および全血から選択的に除去するために、本明細書に記載の組成物を採用することもできる。特に、該組成物を透析液に使用して、血液透析の過程でのリン酸塩除去を増強することができる。経口投与のための医薬組成物は、錠剤、カプセル、粉末、ゲル、液体、スプリンクル(sprincle)または好適な食物であり得る。錠剤は、ゼラチンまたは補助剤などの固体担体を含むことができる。カプセルは、腸溶コーティングなどの特殊化された特性を有することができる。液体医薬組成物は、一般には、水、石油、動物もしくは植物油、鉱油もしくは合成油などの液体担体を含む。生理食塩水、デキストロースもしくは他の糖溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグリコールを含めることができる。例えば物質の成分の送達を制御するために、本発明の固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ第二鉄を固体に維持する必要がある場合は、例えば物質の液体配合物を製造する場合に、それに応じて配合物の成分を選択する必要があり得る。物質が食物とともに投与される場合は、リン酸塩結合剤物質との相溶性を有するとともに、好適な物理化学および感覚受容特性を与える配合物成分が選択されることになる。
【0046】
静脈内、皮膚もしくは皮下注射または患部注射では、活性成分は、パイロジェンフリーであり、好適なpH、等張性および安定性を有する非経口投与に許容し得る水溶液または懸濁液の形になる。当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、乳酸加リンゲル注射液などの等張性媒体を使用して好適な溶液を調製することが十分に可能である。防腐剤、安定剤、緩衝剤、抗酸化剤および/または他の添加剤を必要に応じて含めることができる。
【0047】
個体に投与される、本発明に従って使用される物質および組成物は、好ましくは、「予防有効量」または「治療有効量」(予防を治療と見なすことができるが、場合に応じて)で投与され、これは、個々の臨床状態にとって有益であることを十分に証明する。実際の投与量、ならびに投与速度および時間経過は、治療対象の性質および重度に左右されることになる。例として、本発明のリン酸塩結合剤を患者1人当たり約1から20g/日、より好ましくは患者1人当たり約2から10g/日、最も好ましくは患者1人当たり3から7g/日の投与量で投与することができる。治療の処方、例えば投与量に関する判断等は、一般的な実践者および他の医師の責任の範囲内であり、治療すべき障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法および実践者に既知の他の要因が考慮される。上記技術およびプロトコルの例をRemington’s Pharmaceutical Sciences、第20版、2000年、Lippincott、Williams&Wilkinsに見いだすことができる。組成物を治療すべき状態に応じて単独で、または他の治療薬と組み合わせて同時または順次に投与することができる。
【0048】
本明細書に開示されている結合剤を高リン酸塩血症の治療に採用することができる。この状態は、特に、血液透析を受けている患者および/または慢性もしくは末期腎臓病の患者における、腎臓病にしばしば生じる。序文において言及したように、高リン酸塩血症に対する現行の治療薬には、最も重大なこととして、先行技術の組成物が、リン酸塩に限定されない非特異的な作用形態を有し、または副作用を引き起こし、または長期的な安全性の問題を有するという、いくつかの深刻な欠点がある。
【0049】
本発明の組成物で治療できる状態としては、血液透析を必要とする状態を含む、高血漿リン値、任意のレベルの腎不全から生じる高リン酸塩血症、急性腎不全、慢性腎不全および/または末期腎臓病が挙げられる。本発明を使用するこれらの状態の臨床管理は、これらの状態に伴う合併症、例えば、二次性甲状腺機能亢進症、軟組織石灰化、骨形成異常症、高カルシウム血症、副甲状腺機能亢進 減退、心血管疾患罹患または死亡、腎性骨形成異常および/またはカルシフィラキシーを改善するのに役立つことができる。
【実施例】
【0050】
材料および方法
インビトロリン酸塩結合アッセイ
a)生理的濃度におけるリン酸塩結合
10mMリン酸塩、生理的に関連する濃縮物および0.9%NaClを含む溶液をpH3、pH5および最終的にpH7に調整した。結合剤の質量を一定に維持した。リン酸塩結合率を以下の式に従って計算した。
リン酸塩結合率=(1−([P]t0−[P]ti)/[P]ti)×100
式中、[P]t0は、初期溶液におけるリンの濃度であり、[P]tiは、異なる時点における濾液中のリンの濃度である。
【0051】
b)ラングミュア等温式
アッセイに生理的条件をより良好にシミュレートさせるためにインビトロ溶液が0.9%NaClを含むことを除いては、Autissierら、(2007年)と同じ手法を使用してラングミュア等温式を得た。これらのラングミュア等温式は、pH5で作成され、実験条件は、結合剤の質量を13.4〜80.4mgで変動させたことを除いては、「生理的濃度におけるリン酸塩の結合」における条件と同様であった。
【0052】
インビトロ胃腸消化アッセイ
60mgの鉄元素に相当する量の固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ第二鉄物質または非修飾オキソ−水酸化鉄を合成胃液(50mLの2g/LのNaCl、0.15MのHClおよび0.3mg/mLのブタペプシン)に添加し、放射状に振盪しながら37℃で30分間インキュベートした。次いで、得られた胃混合物の5mLを30mLの合成十二指腸液(10g/Lのパンクレアチンおよび2g/LのNaClをpH9.5の50mL重炭酸緩衝液に含む)に添加した。最終容量は35mLであり、最終pHは7.0であった。該混合物を放射状に振盪しながら37℃で60分間インキュベートした。均一なアリコット(1mL)をその過程の異なる時点で収集し、13000rpmで10分間遠心して、凝集体と水性非凝集相を分離した。ICPOESによって上澄みを鉄含有量について分析した。実験の最後に、残留する溶液を4500rpmで15分間遠心し、上澄みをICPOESによってFe含有量について分析した。残留物質(すなわち湿性ペレット)の質量を記録した。濃縮HNO3をこの湿性ペレットに添加し、新たな質量を記録した。すべてのペレットが溶解するまで管を室温で放置し、離解/溶解しない鉄の量を測定するためのICPOES分析のためにアリコットを収集した。鉄の初期量を湿性ペレットにおける鉄+上澄みにおける鉄から計算した。
【0053】
上澄みにおける可溶性の鉄と水性微粒子鉄とを区別するために、各時点において、このフラクションをさらに限外濾過し(Vivaspin 3000Da分子量カットオフポリエーテルスルホンメンブレン、Cat.VS0192、Sartorius Stedium Biotech GmbH、Goettingen、ドイツ)、ICPOESによって再び分析した。
【0054】
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICPOES)
溶液および固体(湿性固体を含む)の鉄およびリン含有量を、259.940nmの鉄特有波長ならびに177.440および/または214.914nmのリン波長でJY2000−2 ICPOES(Horiba Jobin Yvon Ltd.、Stanmore、英国)を使用して測定した。溶液を分析前に1〜7.5%硝酸で希釈し、固体を濃NHO3で消化させた。溶液または固相における鉄の割合を、初期鉄含有量と、アッセイに応じて溶液相における鉄または固相における鉄との差によって測定した。
【0055】
粒径の測定
ハイドロ−μP分散ユニットを備えたマスターサイザー2000(Malvern Instruments Ltd、Malvern、英国)を使用して、ミクロンサイズの粒子の粒径分布を測定し、ナノサイズの粒子の粒径分布を、ゼータサイザーNano ZS(Malvern Instruments Ltd、Malvern、英国)を用いて測定した。マスターサイザー測定ではサンプル前処理が必要でなかったのに対して、ゼータサイザー測定の前に大きな粒子を除去するために遠心が必要であった。
【0056】
赤外分析(IR)
4000〜650cm−1の波長範囲および4cm−1の解像度で、ニコレットアバタール360分光計を備えたデュラサンプルIRダイアモンドATRアクセサリを使用してIRスペクトルを収集した。分析は、英国ThamesにてITS Testing Services(英国)Ltd Sunburyによって実施された。
【0057】
透過型電子顕微鏡法およびエネルギー分散X線分析(EDX)
最初に粉末をメタノールに分散させ、次いで標準穴あき炭素TEM支持フィルム上で滴下成型することによって粉末サンプルを分析した。分析は、リーズ大学(英国)の材料研究所によって実施された。
【0058】
FeOH Ad100のリン酸塩結合を評価するための探索的ヒト試験
経口鉄補給後の酸化性損傷および抗酸化状態のマーカを評価する試験の一部として、食事(781.5mgのリン(P)を含む)とともに与えられた場合の本発明のリン酸塩結合剤(893mg)について食餌性リン酸塩(PO4)結合が確認できるかどうかを判断するための試験を実施した。手短に述べると、13人のボランティアが、それぞれ、プラセボまたはリン酸塩結合剤または硫酸鉄(これらは無作為の順序で与えられた)を含む高P含有朝食を3回にわたって摂取した。食事前(スポット尿)、食事の0〜3時間後(食事に由来する尿中リン酸塩がほとんどまたは全くないことが想定される)および食事の3〜8時間後(食事に由来する吸収されたリン酸塩の約45%が排泄されることが想定される)に尿を採取した。
【0059】
結果
1.リン酸塩結合剤の製造
広くは、本明細書に記載のリン酸塩結合剤を、完全または部分的に、少なくとも可溶性の鉄および1つまたは複数のリガンドを含む、典型的にはpH2.5未満の、酸性溶液を中和することによって製造した。続いて、好適なpH、典型的には3.5を超えるpHが達成されると、リガンド修飾オキソ−水酸化物物質を形成し、一連の手法(例えば遠心)を用いてそれを回収することが可能であった。以下に記載のリン酸塩結合剤の製造は、洗浄などの任意の製造後処理を含まないことに留意されたい。
【0060】
1.1 FeOH Ad100
400mLのddH2Oを含む500mLのビーカーに対して、4.5gのKClおよび7.3gのアジピン酸を添加した。該混合物を、成分のすべてが溶解するまで撹拌した。次いで、100mLの第二鉄溶液を添加した(100mLのddH2O中200mMのFeCl3・6H2O、1.7mLの濃HCl)。溶液における鉄の最終濃度は40mMであり、KClは0.9%w/vであった。第二鉄が添加された最終溶液のpHは、一般には2未満であり、通常は約1.5である。この混合物に対して、pH4.5±0.2まで絶えず撹拌しながらNaOHを(ddH2Oで調製した5MのNaOH溶液から)滴加した(図1参照)。その処理を室温(20〜25℃)で実施した。次いで、該溶液を遠心し、凝集体を45℃でオーブンにて空気乾燥させた。乾燥した物質を手で粉砕し、ボールミルで微粉化(micronized)した。
【0061】
1.2 FeOH Ad100 SiO2
FeOH Ad100 SiO2を製造するための手順は、pHを上昇させるためにNaOHの代わりに珪酸ナトリウム溶液(SiO2・NaOH)を使用したことを除いては、FeOH Ad100の場合と同じであった。この溶液は、27%のSiを含む。
【0062】
1.3 FeOHグルタリック100
FeOHグルタリック100を製造するための手順は、pH5.0±0.2に達するまでアジピン酸およびNaOHの代わりに6.6gのグルタル酸を加えたことを除いては、FeOH Ad100の場合と同じであった。
【0063】
1.3 FeOHピメリック100
FeOHピメリック100を製造するための手順は、pH4.2±0.2に達するまでアジピン酸およびNaOHの代わりに8.0gのピメリン酸を使用したことを除いては、FeOH Ad100の場合と同じであった。
【0064】
2.インビトロリン酸塩結合
2.1 生理的濃度におけるP結合
酸化鉄フェリハイドライトは、リン酸塩を結合することが周知である。例えば、pH3で60分間、次いでpH5で60分間インキュベートした後に、54mgのフェリハイドライトは、20mlの10mMリン酸塩溶液から約30%のリン酸塩結合する(図2a)。小スケールでは、これは、リン酸塩結合剤の使用における生理的条件に類似し得る。好適な結合量は、ポリ塩酸アリルアミンである市販のリン酸結合剤のレナジェルについて見られるのと同じ条件下で約50%である(図2a/b)。さらにより好適な量は、高親和性リン酸塩結合剤の炭酸ランタンに見られるのと同一の条件下で70〜85%である(図2a/b)。FeOHAd100およびFeOHAd100 SiO2は、これらの条件下で80〜85%のリン酸塩の結合を達成し(図2a/b)、それは、フェリハイドライト単独と比較して有意に有利な改良を示す。図2aおよび2bにおいて、白色棒は、pH3で実施された実験に関し、灰色棒はpH5であり、黒色棒はpH7であり(図2bのみ)、いずれの場合も、すべて順次的に、結合剤を最初に60分間にわたってより低いpHに曝し、次いで60分間にわたってより高いpHに曝した。
【0065】
興味深いことに、結合剤を1時間にわたってpH5で溶液に直接曝露し、しかしながら1時間にわたってpH3で「事前調整」しないようにアッセイ条件を変化させると、炭酸ランタンではリン酸結合が70〜85%(図2)から約30%(図3)に大きく低下した。対照的に、FeOHAd100およびFeOHAd100 SiO2によるリン酸塩結合は、80〜85%(図2)から65〜75%(図3)まで低下したにすぎず、生理学的に存在し得る条件下(例えば、食事後の胃のpH)で後者による結合の方が優れていることを示す。優越という文脈において、炭酸ランタンが毒性であり、レナジェルが非特異的結合剤であることも注目に値する。
【0066】
2.2 ラングミュアプロット−親和性および能力の測定
さらに、ラングミュア等温式を使用して、FeOH Ad100とFeOH Ad100 SiO2とランタンとのリン酸塩結合能力を比較した。ラングミュア式は、固体表面への分子の吸着を濃度に関連づけ、そして上記リン酸塩結合剤の親和性および能力の測定に適合するものである。
【0067】
【数1】
C = 未結合の吸着物の濃度(mM)
Cad/m = 結合剤1g当たりの結合吸着物のmmol
K1 = 親和性(affinity);K2=能力(capacity)
【0068】
その親和性が低いことにより、この実験で試験した生理的に妥当な濃度(10mM)より高濃度のリン酸塩が必要であったため、レナジェルについてのこれらの値を測定することが不可能であった。ラングミュア等温式をpH5で作成し、結合剤の質量を13.4〜80.4mgで変動させたことを除いては、実験条件を図2a/bと同様にした。それらの結果は、以下の表に示されており、3つの化合物の親和性が類似しているが、炭酸ランタンの能力が劣っていることを証明している。
【0069】
【表1】
【0070】
3.インビトロ胃腸溶解
リン酸塩結合能力は、その物理化学特性を変えるためにフェリハイドライトをどのように本明細書において修飾したかについての一例を示し、第2の例は、非常に強い酸性のpHにおける溶解プロファイルに関する。pH1.2において、FeOHAd100およびFeOH Ad100SiO2における鉄は迅速に溶解するが、非修飾フェリハイドライトの鉄は徐々に溶解する。有益な用途について、FeOHAd100およびFeOH Ad100SiO2は、食物とともに摂取され、食事後のpH(pH>2.5)において概ね微粒子の状態を維持するが、これらの実験溶解データは、主張されている物質が、フェリハイドライトと顕著に異なることを例証するために示されているにすぎない(図4)。
【0071】
4.粒径測定
図5は、本出願で特許請求する薬剤が、中央値を約40μmとして10〜100μmの範囲の凝集粒子径を有し(a)、乾燥すると、その範囲が、特により大きい径の方(その結果中央値>100μm)に拡大される(b)が、ベーシックミリングにより例えば(c)に戻され、さらにマイクロナイズ化またはナノサイズ化によりさらに縮小され得る(記載せず)。
【0072】
5.化学的特徴づけ
5.1 IR特徴づけ
FeOH Ad100(図6)およびFeOH Ad100 SiO2(図7)の赤外スペクトルを得たところ、1583〜1585cm−1および1542〜1527cm−1に2つのバンドが存在することが示された。これらは、非修飾フェリハイドライト(図8)またはアジピン酸(図9)に存在せず、FeOH Ad100およびFeOH Ad100 SiO2物質に鉄を含むことができる、アジピン酸のカルボン酸塩基(carboxylate group)(1684cm−1における)と、陰イオンとの間の何らかの結合の存在を示す。
【0073】
5.2 TEM
FeOH Ad100
電子回折は、2つの拡散環(平面間隔がそれぞれ2.5および1.5オングストローム)を示した。これらは、フェリハイドライト様構造の存在に特徴的である(図10b)。赤金鉱(オキソ−水酸化β−もしくはベータ鉄)または磁赤鉄鉱(酸化γ−またはガンマ鉄)などのすべての他の形の酸化鉄は、全く異なる平面間隔を示す(Cornell&Schwertmann、The Iron Oxides Structure,Properties,Reactions,Occurrence and Uses.第2版、1996年、VCH Publisherts、New York参照)。
【0074】
EDXによる全般的組成は、少量のNa、ClおよびKとともに多量のFe、OおよびC(図10c)の存在を示す。Cの量は、炭素支持膜に帰することができるより多く、このさらなるCはアジピン酸に由来すると結論づけられる。高倍率画像は、2〜3nmのより暗いスポットが一次粒径(図10a)を示す斑構造を示す。この構造は、さらに2ラインフェリハイドライトと一致する(Janneyら、2000年)が、概して非修飾2ラインフェリハイドライトより無秩序である。したがって、本明細書に記載のリン酸塩結合物質は、2〜3nmの一次結晶サイズのフェリハイドライト様構造を有し、Fe、OおよびCならびに少量のCl、NaおよびKを含む凝集粒子である。したがって、それらは、顕著に異なる、そしてリン酸結合に関して、フェリハイドライト単独と比較して有益な特性をもたらす、リガンド修飾構造である。
【0075】
6.FeOH Ad100のリン酸塩結合を評価するための探索的ヒト試験
経口鉄補給後の酸化性損傷および抗酸化状態のマーカを評価する試験の一部として、食事(781.5mgのリン(P)を含む)とともに与えられた場合の本発明のリン酸塩結合剤(893mg)について食餌性リン酸塩(PO4)結合が確認できるかどうかを判断するための試験を実施した。この試験は、尿中リン酸塩排泄がリン酸塩結合剤期間(period)よりプラセボ期間に多いという仮説を検定するのに使用され、これは、片側2標本t検定を用いて検定した。
【0076】
最初に、朝食のみ(すなわちプラセボのみを含む朝食)の摂取後に、クレアチニン濃度が補正されたリンの尿排泄を使用して、排泄リン酸塩濃度が増加した期間を特定した。これは、予想された通り食事の摂取の3〜8時間後に見られた(データは示されず)。次に、3〜8時間目の時点で、朝食+プラセボの後のリン排泄と朝食+本発明の結合剤による処理の後のリン排泄とを比較し、排泄におけるリンの差が49.4mgであることを確認した(P=0.01;図11)。
【0077】
これらの図に関する何らかの意味を示すために、本発明の1つの物質のリン結合についてのインビボデータを既知の文献と比較した。尿データを8時間から24時間の排泄から外挿し、リンをリン酸塩に変換すると、本発明の結合剤は、これらの食餌条件下で結合剤1g当たり514mgのPO4を結合することが計算によって示唆される。この外挿には、残留する吸収リン酸塩がその後の16時間にわたって排泄されることが考慮されており、食事からのリン酸塩の腸吸収が70%であることが想定されている(Anderson,J.J.B、Watts M.L.、Garner,S.A.、Calvo,M.S.およびKlemmer,P.J.Phosphorus.In:Bowman,B.およびRussell,R.編、Present Knowledge in Nutrition、第9版、ILSI Press、2006年)。これは、結合剤1g当たり262mgのリン酸塩である塩酸セベラマーに匹敵する(Sherman RA:Seminars in dialysis−第20(1)巻、2007年、16〜18頁)。
【0078】
ここで使用された食事は、(尿中Pの移動が確認できるように)意図的にPが極端に多くなっているため、腎臓病患者による単一の食事からの典型的なP吸収量を表さないことも留意されたい。したがって、より典型的な条件下で、本発明のリン酸塩結合剤(または実際には結合剤のいずれか)によって結合されるPの比率が高くなる。
【0079】
7.異なるリガンドを用いたさらなる比較実験
一連の異なるカルボン酸リガンド(ピメル酸およびグルタル酸)を含む本発明のさらなるリン酸塩結合物質を製造し、他のタイプのリガンドを含む物質と比較した。これらの結果は、図12および13に要約されており、カルボン酸リガンドは出発材料のリン酸塩結合能力を向上させたが、他のタイプのリガンドはFeOHのリン酸塩結合能力に影響を与えないか、またはそれを低下させたことを示している(FeOH−MOPS50およびFeOHボリック50参照)。
【0080】
8.ピル負担のモデル化
リン酸塩を除去するための現行の治療薬の主たる欠点は、患者に対して課されるピル負担であり、大量のピルを摂取する必要性は副作用および患者コンプライアンスに悪影響を与える。よって、インビトロデータおよび典型的な胃腸条件、例えば、pH、臨床条件下での平均的な食餌リン濃度および競合陰イオンに基づく数学的モデルを使用して、例示された物質のいくつかについてのピル負担をレナジェルおよびホスレノールと比較した。それらの結果を以下の表に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
9.配合前の手法:鉄含有量の増大化
上記のように製造および特徴づけしたFeOH Ad100を試験して、洗浄などの配合前処理工程の効果を確認した。これらの実験において、物質の製造に使用した反応媒体である塩化カリウムを合成手順から除き(FeOH Ad100−KCl)、沈殿した物質の洗浄工程を追加した(FeOH Ad100−KCl+洗浄)。これらの工程のいずれもが、製造した物質の鉄含有量を増大させた。以下の表における結果を参照されたい。
【0083】
【表3】
【0084】
合成からKClを除外し、洗浄工程を追加しても、図14に示されるようにリン酸塩結合能力が向上した。
【0085】
FeOH Ad100−KClおよびFeOH Ad100−KCl+洗浄を試験し、一連のリン酸塩:結合剤比の下でのそれらのリン酸塩結合を比較したところ、それらの結果は、図14に示される結果と一致しており、洗浄工程によるリン酸塩結合の向上を裏づけるものであった。
【0086】
10.リガンド置換
FeOH Ad100のアジピン酸を異なるリガンドによって置換する研究も行った。これは、FeOH Ad100をニコチンアミド溶液で洗浄する(FeOH Ad100+ニコチンアミド洗浄)か、またはFeOH Ad100一次粒子の形成後に、沈殿過程を通じてニコチンアミドを添加することであった(FeOH Ad100+アジピン酸塩凝集の代わりにFeOH Ad100の製造+ニコチンアミド凝集)。いずれの手法もアジピン酸含有量を減少させ(以下)、リン酸塩結合が低下したが、これらの物質は、腸におけるリン酸塩の能動取り込みを低減することが知られるニコチンアミドの放出とリン酸塩結合とを組み合わせることによる高リン酸塩血症の治療に有用であり得る。
【0087】
【表4】
【0088】
参考文献:
情報開示記述の一部として提出された参照を含む、本明細書に引用され、または本出願とともに提出されたすべての文献、特許および特許出願は、その全体が参照により組み込まれている。
米国特許第6,903,235号
米国特許第6,174,442号
国際公開第2007/088343号
国際公開第2008/071747号
【表5】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物であって、該第二鉄組成物は、式(MxLy(OH)n)[Mは、Fe3+イオンを含む1つまたは複数の金属イオンを表し、Lは、カルボン酸リガンドを含む1つまたは複数のリガンド、またはそのイオン化形を表し、OHは、オキソまたはヒドロキシ基を表す]によって表される固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質であり、該物質は、リガンドLがオキソまたはヒドロキシ基に実質的にランダムに置換されているポリマー構造を有し、前記固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質は、1つまたは複数の再現可能な物理化学特性を有する第二鉄組成物。
【請求項2】
カルボン酸リガンドが直鎖ジカルボン酸リガンドである、請求項1に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項3】
カルボン酸リガンドが式HOOC−R1−COOH[R1は、場合により置換されたアルキル、アルケニルもしくはアルキニル基またはそのイオン化形である]によって表される、請求項1または請求項2に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項4】
R1はC1−10アルキル基であり、より好ましくはC2−6アルキル基であり、R1は、1つまたは複数のヒドロキシル基で場合により置換されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項5】
カルボン酸リガンドが、コハク酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルタル酸もしくはピメル酸またはそのイオン化形である、請求項1から4のいずれか一項に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項6】
前記物質が、フェリハイドライトと一致する構造を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項7】
1つまたは複数の再現可能な物理化学特性が、溶解プロファイルおよび/またはリン酸塩結合特性を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項8】
リン酸塩結合特性が、リン酸塩に対する特異性、リン酸塩に対する親和性および/またはリン酸塩に対する結合能力を含む、請求項7に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項9】
53.6mgの前記物質のリン酸塩結合能力が、20mlの容量にてpH3から7でサンプルにおける10mMのリン酸塩の少なくとも50%である、請求項7に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項10】
前記物質が、赤外分光法を使用して測定された実証可能なM−L結合を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項11】
MがFe3+イオンである、請求項1から10のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物。
【請求項12】
リン酸塩取り込み阻害剤および/または胃の副作用を改善することが可能な物質をさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物。
【請求項13】
リン酸塩取り込み阻害剤および/または胃の副作用を改善することが可能な物質が、固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質に組み込まれるさらなるリガンドであるか、または固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質とともに組成物に配合される、請求項12に記載の治療方法における使用のための組成物。
【請求項14】
前記物質が、FeOH Ad100、FeOH Ad100 SiO2、FeOHグルタリック100またはFeOHピメリック100である、請求項1から13のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物。
【請求項15】
高リン酸塩血症の治療のための医薬品の調製のための請求項1から14のいずれか一項に記載の第二鉄リン酸塩結合組成物の使用。
【請求項16】
高リン酸塩血症を治療する方法であって、治療を必要とする患者に対して、請求項1から14のいずれか一項に記載の第二鉄リン酸塩結合組成物の治療有効量を投与する工程を含む方法。
【請求項17】
高リン酸塩血症の患者が腎臓病を有する、請求項1から16のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項18】
腎臓病が、慢性腎臓病、末期腎臓病、任意のレベルの腎不全から生じる高リン酸塩血症または急性腎不全である、請求項17に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項19】
高リン酸塩血症の患者が血液透析を受けている、請求項1から16のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項20】
高リン酸塩血症の患者が高血漿リン値を有する、請求項1から16のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項21】
前記物質の投与が、高リン酸塩血症に起因する患者の合併症または二次的状態を治療することを目的とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項22】
前記合併症または二次的状態が、二次性甲状腺機能亢進症、軟組織石灰化、骨形成異常症、高カルシウム血症、副甲状腺機能亢進減退、心血管疾患罹患または死亡、腎性骨形成異常および/またはカルシフィラキシーである、請求項21に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項23】
前記組成物が、経口または経鼻胃投与のために配合される、請求項1から22のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項24】
請求項1から16のいずれか一項に記載のリン酸塩結合物質を含む食物または透析液。
【請求項25】
媒体からリン酸塩を除去するための方法であって、(a)リン酸塩を含む媒体と、請求項1から9のいずれか一項に記載の第二鉄組成物とを、リン酸塩が第二鉄組成物に結合することが可能な条件下で接触させる工程と、(b)結合したリン酸塩を該組成物から分離する工程とを含む方法。
【請求項26】
前記媒体が溶液または懸濁液である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
リン酸塩を胃腸管の液体またはスラッジ様内容物からインビボで除去することを目的とする、請求項25または請求項26に記載の方法。
【請求項28】
リン酸塩を食物から消費前に除去するか、あるいはリン酸塩を透析液、血漿および/または全血から除去することを目的とする、請求項25または請求項26に記載の方法。
【請求項29】
透析液からのリン酸塩の除去が血液透析時の体外除去である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記物質が、
(a)Fe3+およびカルボン酸リガンドを含む溶液と、場合により1つまたは複数のさらなるリガンドまたは反応成分とを、成分が可溶になる第1のpH(A)で反応媒体中にて混合する工程と、
(b)pH(A)を第2のpH(B)に変化させて、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の固体沈殿物またはコロイドを形成させる工程と、
(c)工程(b)で製造された固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質を分離し、場合により乾燥および/または配合する工程と
を含む方法によって得られる、請求項1から29のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項31】
請求項1から14のいずれか一項に記載のリン酸塩結合物質を製造するための方法であって、
(a)Fe3+およびカルボン酸リガンドを含む溶液と、場合により1つまたは複数のさらなるリガンドまたは反応成分とを、成分が可溶になる第1のpH(A)で反応媒体中にて混合する工程と、
(b)pH(A)を第2のpH(B)に変化させて、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の固体沈殿物またはコロイドを形成させる工程と、
(c)工程(b)で製造された固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質を分離し、場合により乾燥および/または配合する工程と
を含む方法。
【請求項32】
リン酸塩結合物質をインビトロまたはインビボで試験して、該物質の1つまたは複数の特性を決定する工程をさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
1つまたは複数の特性が溶解プロファイルおよび/またはリン酸塩結合特性である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
第1のpH(A)が2.0未満であり、第2のpH(B)が3.0から12.0、好ましくは3.5から8.0、より好ましくは4.0から6.0である、請求項31から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記方法が室温(20〜25℃)で実施される、請求項31から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
工程(a)において、前記溶液が20から100mMのFe3+および50から250mMのアジピン酸、より好ましくは約40mMのFe3+および約100mMのアジピン酸を含む、請求項31から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
第二鉄組成物の最終的な粒径を化学的または物理的に変える工程をさらに含む、請求項31から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
第二鉄組成物を配合する工程をさらに含む、請求項31から37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物であって、該第二鉄組成物は、式(MxLy(OH)n)[Mは、Fe3+イオンを含む1つまたは複数の金属イオンを表し、Lは、カルボン酸リガンドを含む1つまたは複数のリガンド、またはそのイオン化形を表し、OHは、オキソまたはヒドロキシ基を表す]によって表される固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質であり、該物質は、リガンドLがオキソまたはヒドロキシ基に実質的にランダムに置換されているポリマー構造を有し、前記固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質は、1つまたは複数の再現可能な物理化学特性を有する第二鉄組成物。
【請求項2】
カルボン酸リガンドが直鎖ジカルボン酸リガンドである、請求項1に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項3】
カルボン酸リガンドが式HOOC−R1−COOH[R1は、場合により置換されたアルキル、アルケニルもしくはアルキニル基またはそのイオン化形である]によって表される、請求項1または請求項2に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項4】
R1はC1−10アルキル基であり、より好ましくはC2−6アルキル基であり、R1は、1つまたは複数のヒドロキシル基で場合により置換されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項5】
カルボン酸リガンドが、コハク酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルタル酸もしくはピメル酸またはそのイオン化形である、請求項1から4のいずれか一項に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項6】
前記物質が、フェリハイドライトと一致する構造を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項7】
1つまたは複数の再現可能な物理化学特性が、溶解プロファイルおよび/またはリン酸塩結合特性を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項8】
リン酸塩結合特性が、リン酸塩に対する特異性、リン酸塩に対する親和性および/またはリン酸塩に対する結合能力を含む、請求項7に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項9】
53.6mgの前記物質のリン酸塩結合能力が、20mlの容量にてpH3から7でサンプルにおける10mMのリン酸塩の少なくとも50%である、請求項7に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項10】
前記物質が、赤外分光法を使用して測定された実証可能なM−L結合を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の高リン酸塩血症を治療する方法における使用のための第二鉄組成物。
【請求項11】
MがFe3+イオンである、請求項1から10のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物。
【請求項12】
リン酸塩取り込み阻害剤および/または胃の副作用を改善することが可能な物質をさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物。
【請求項13】
リン酸塩取り込み阻害剤および/または胃の副作用を改善することが可能な物質が、固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質に組み込まれるさらなるリガンドであるか、または固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質とともに組成物に配合される、請求項12に記載の治療方法における使用のための組成物。
【請求項14】
前記物質が、FeOH Ad100、FeOH Ad100 SiO2、FeOHグルタリック100またはFeOHピメリック100である、請求項1から13のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物。
【請求項15】
高リン酸塩血症の治療のための医薬品の調製のための請求項1から14のいずれか一項に記載の第二鉄リン酸塩結合組成物の使用。
【請求項16】
高リン酸塩血症を治療する方法であって、治療を必要とする患者に対して、請求項1から14のいずれか一項に記載の第二鉄リン酸塩結合組成物の治療有効量を投与する工程を含む方法。
【請求項17】
高リン酸塩血症の患者が腎臓病を有する、請求項1から16のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項18】
腎臓病が、慢性腎臓病、末期腎臓病、任意のレベルの腎不全から生じる高リン酸塩血症または急性腎不全である、請求項17に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項19】
高リン酸塩血症の患者が血液透析を受けている、請求項1から16のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項20】
高リン酸塩血症の患者が高血漿リン値を有する、請求項1から16のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項21】
前記物質の投与が、高リン酸塩血症に起因する患者の合併症または二次的状態を治療することを目的とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項22】
前記合併症または二次的状態が、二次性甲状腺機能亢進症、軟組織石灰化、骨形成異常症、高カルシウム血症、副甲状腺機能亢進減退、心血管疾患罹患または死亡、腎性骨形成異常および/またはカルシフィラキシーである、請求項21に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項23】
前記組成物が、経口または経鼻胃投与のために配合される、請求項1から22のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項24】
請求項1から16のいずれか一項に記載のリン酸塩結合物質を含む食物または透析液。
【請求項25】
媒体からリン酸塩を除去するための方法であって、(a)リン酸塩を含む媒体と、請求項1から9のいずれか一項に記載の第二鉄組成物とを、リン酸塩が第二鉄組成物に結合することが可能な条件下で接触させる工程と、(b)結合したリン酸塩を該組成物から分離する工程とを含む方法。
【請求項26】
前記媒体が溶液または懸濁液である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
リン酸塩を胃腸管の液体またはスラッジ様内容物からインビボで除去することを目的とする、請求項25または請求項26に記載の方法。
【請求項28】
リン酸塩を食物から消費前に除去するか、あるいはリン酸塩を透析液、血漿および/または全血から除去することを目的とする、請求項25または請求項26に記載の方法。
【請求項29】
透析液からのリン酸塩の除去が血液透析時の体外除去である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記物質が、
(a)Fe3+およびカルボン酸リガンドを含む溶液と、場合により1つまたは複数のさらなるリガンドまたは反応成分とを、成分が可溶になる第1のpH(A)で反応媒体中にて混合する工程と、
(b)pH(A)を第2のpH(B)に変化させて、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の固体沈殿物またはコロイドを形成させる工程と、
(c)工程(b)で製造された固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質を分離し、場合により乾燥および/または配合する工程と
を含む方法によって得られる、請求項1から29のいずれか一項に記載の治療方法における使用のための組成物、その使用または方法。
【請求項31】
請求項1から14のいずれか一項に記載のリン酸塩結合物質を製造するための方法であって、
(a)Fe3+およびカルボン酸リガンドを含む溶液と、場合により1つまたは複数のさらなるリガンドまたは反応成分とを、成分が可溶になる第1のpH(A)で反応媒体中にて混合する工程と、
(b)pH(A)を第2のpH(B)に変化させて、リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質の固体沈殿物またはコロイドを形成させる工程と、
(c)工程(b)で製造された固体リガンド修飾ポリオキソ−ヒドロキシ金属イオン物質を分離し、場合により乾燥および/または配合する工程と
を含む方法。
【請求項32】
リン酸塩結合物質をインビトロまたはインビボで試験して、該物質の1つまたは複数の特性を決定する工程をさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
1つまたは複数の特性が溶解プロファイルおよび/またはリン酸塩結合特性である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
第1のpH(A)が2.0未満であり、第2のpH(B)が3.0から12.0、好ましくは3.5から8.0、より好ましくは4.0から6.0である、請求項31から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記方法が室温(20〜25℃)で実施される、請求項31から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
工程(a)において、前記溶液が20から100mMのFe3+および50から250mMのアジピン酸、より好ましくは約40mMのFe3+および約100mMのアジピン酸を含む、請求項31から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
第二鉄組成物の最終的な粒径を化学的または物理的に変える工程をさらに含む、請求項31から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
第二鉄組成物を配合する工程をさらに含む、請求項31から37のいずれか一項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2011−529954(P2011−529954A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521635(P2011−521635)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001931
【国際公開番号】WO2010/015827
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(503276997)メディカル リサーチ カウンシル (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001931
【国際公開番号】WO2010/015827
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(503276997)メディカル リサーチ カウンシル (10)
【Fターム(参考)】
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