説明

リーマによる穴加工方法

【課題】第1、第2のリーマを用いた第1、第2の穴加工工程によって被削材に形成された下穴の穴加工を行う場合に、第1の穴加工工程において仕上げられた口元部分の加工穴が傷付けられて加工精度や加工品位が損なわれるのを防ぐ。
【解決手段】被加工物Wに形成された下穴Hに、リーマ本体1の先端部に切刃3が設けられるとともに外周部にガイドパッド5が設けられたリーマを挿入して、切刃3により下穴Hを仕上げ加工する穴加工方法にあって、下穴Hへのリーマ挿入方向後方側の下穴Hの口元部分を、リーマ本体1の突き出し長さの短い第1のリーマによって加工する第1の穴加工工程と、リーマ挿入方向側の下穴Hの穴先部分を、リーマ本体1の突き出し長さの長い第2のリーマBによって加工する第2の穴加工工程とを備え、第1のリーマのガイドパッドの外径よりも第2のリーマBのガイドパッド5の外径を小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば4サイクルエンジンのシリンダーヘッドにおいてカムシャフトが取り付けられるカム穴部などの下穴をリーマによって仕上げ加工する、リーマによる穴加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被加工物に予め形成された下穴を所望の精度の内径に仕上げ加工するには、一般的にリーマが用いられる。このようなリーマとしては、例えば特許文献1に記載されているように、軸線回りに回転される軸状のリーマ本体の先端部に切削インサートが着脱可能に取り付けられて切刃が設けられるとともに、リーマ本体の外周部には、下穴が上記切刃によって仕上げられた加工穴に摺接してリーマ本体をガイドするガイドパッドが上記軸線方向に延びるように設けられたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−119796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなリーマによって、例えば上述の4サイクルエンジンのシリンダーヘッドのカム穴部など、リーマの挿入方向に間隔をあけた複数の壁部に形成された下穴を加工するときに、挿入方向後方側(手前側)の下穴の口元部分から挿入方向側(穴奥側)の穴先部分までの間隔が大きい場合には、これを1つのリーマで加工しようとすると、リーマ本体の突き出し長さの長いリーマを用いることになる。
【0005】
ところが、そのようなリーマでは、上記口元部分の下穴を加工するときには、リーマ本体がガイドされないことと、突き出し長さが長いためにリーマ本体先端部の切刃に振れが生じ易いことにより、穴加工精度も損なわれてしまう。従って、そうして加工された口元部分の加工穴にリーマ本体が案内されて、複数の壁部に形成された下穴が順次加工されることになるために、結果的に複数の壁部の加工穴間での同軸度や直進度が低下することが避けられない。
【0006】
このため、そのような場合には、リーマ本体の突き出し長さの異なる複数のリーマを用いて、第1の穴加工工程において、リーマ挿入方向後方側の口元部分の下穴は、リーマ本体の突き出し長さが短くて振れが生じ難い第1のリーマによって精度良く加工し、その後に第2の穴加工工程において、リーマ挿入方向側の穴先部分の下穴を、リーマ本体の突き出し長さの長い第2のリーマによって、第1の穴加工工程により仕上げられた口元部分の加工穴でガイドしながら加工するといった、複数の穴加工工程を経て仕上げ加工を行うようにしている。
【0007】
しかしながら、このような場合に、上記第1、第2のリーマとして上記ガイドパッドの外径が等しくされたものを用いたときには、第1の穴加工工程において加工された下穴の口元部分の加工穴に、この第1の穴加工工程において生成された微細な切粉が残っていると、これを第2の穴加工工程において第2のリーマのガイドパッドが噛み込んでしまい、仕上げられた口元部分の加工穴を傷付けて加工精度や加工穴の品位が損なわれるおそれがある。
【0008】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のように第1、第2のリーマを用いた第1、第2の穴加工工程によって被削材に形成された下穴の穴加工を行う場合に、第1の穴加工工程において仕上げられた口元部分の加工穴が傷付けられて加工精度や加工品位が損なわれるのを防ぐことが可能なリーマによる穴加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、被加工物に形成された下穴に、軸線回りに回転される軸状のリーマ本体の先端部に切刃が設けられるとともに外周部にガイドパッドが設けられたリーマを挿入して、上記切刃により上記下穴を仕上げ加工するリーマによる穴加工方法であって、上記下穴への上記リーマの挿入方向後方側の該下穴の口元部分を、上記リーマ本体の突き出し長さの短い第1のリーマによって加工する第1の穴加工工程と、上記リーマの挿入方向側の該下穴の穴先部分を、上記リーマ本体の突き出し長さの長い第2のリーマによって加工する第2の穴加工工程とを備え、上記第1のリーマの上記ガイドパッドの外径よりも上記第2のリーマの上記ガイドパッドの外径が小さくされていることを特徴とする。
【0010】
従って、このように第2のリーマのガイドパッド外径を第1のリーマよりも小さくすることにより、第1の穴加工工程において仕上げられた下穴の口元部分側の加工穴に、この第1の穴加工工程で生成された微細な切粉が残っていても、第2のリーマのガイドパッドに噛み込まれてこの加工穴を傷けてしまうのを防ぐことができる。
【0011】
ただし、これら第1のリーマと第2のリーマとのガイドパッドの外径の差が大きすぎると、第1の穴加工工程において仕上げられた口元部分側の加工穴によって第2のリーマを精度良くガイドすることができなくなるおそれが生じる。その一方で、これら第1、第2のリーマのガイドパッドの外径差が小さすぎると上述のような微細な切粉の噛み込みを防ぐことができなくなるおそれが生じるので、第1のリーマと第2のリーマとのガイドパッドの外径の差は、0.001mm〜0.007mmの範囲内とされるのが望ましい。
【0012】
また、このような穴加工方法は、上記第1、第2の穴加工工程を要することが多い、上述のような4サイクルエンジンのシリンダーヘッドにおけるカム穴部など、上記下穴が、上記挿入方向に間隔をあけた複数の壁部に形成されている場合に用いて、特に効果的である。勿論、第1、第2の2工程以上の穴加工工程を行う穴加工方法に本発明を適用することも可能である。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、第1の穴加工工程によって仕上げ加工されたリーマ挿入方向後方側の口元部分の加工穴が、第2の穴加工工程において傷付けられるのを防ぐことができ、高精度かつ高品位のリーマによる穴加工を促すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態における第1の穴加工工程を説明する図である。
【図2】本発明の一実施形態における第2の穴加工工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1および図2は、本発明のリーマによる穴加工方法の一実施形態を説明するものである。これらの図において符号Wで示すのは、例えばカムシャフトが取り付けられるカム穴部のような下穴Hが予め形成された4サイクルエンジンのシリンダーヘッドなどの被加工物であり、すなわち本実施形態ではこの被加工物Wに複数(本実施形態では5つ)の壁部(ジャーナル)Jが間隔をあけて形成されていて、これらの壁部Jに下穴Hが同軸に形成されている。
【0016】
本実施形態では、これらの壁部Jに形成された下穴Hに、図中右側から左側に向けてリーマを挿入して上記下穴Hを所定の加工公差の範囲の内径の加工穴に仕上げてゆく。従って、本実施形態では、この図中右側から左側に向かう方向がリーマの挿入方向となり、逆に図中左側から右側に向かう方向はリーマ挿入方向の後方側となり、またこのリーマ挿入方向後方側の壁部Jの下穴Hは口元部分であり、逆にリーマ挿入方向側の壁部Jの下穴Hは穴先部分となる。
【0017】
さらに、本実施形態では、これらの壁部Jに形成された下穴Hの穴加工を、該下穴Hの上記口元部分を、図1に示すようにリーマ本体1の突き出し長さの短い第1のリーマAによって加工する第1の穴加工工程と、図2に示すように下穴Hの上記穴先部分を、リーマ本体1の突き出し長さの長い第2のリーマBによって加工する第2の穴加工工程との、2段階の穴加工工程によって順に行う。
【0018】
ここで、第1、第2のリーマA、Bは、いずれも軸線Oを中心とする円柱軸状の上記リーマ本体1を備え、このリーマ本体1の先端部には超硬合金等の硬質材料により形成された切削インサート2が、その切刃3を上記軸線Oに対する径方向外周側に突出させて、着脱可能に取り付けられている。このような第1、第2のリーマA、Bは、その後端部がホルダ4に例えば焼き嵌めされて取り付けられ、このホルダ4がマシニングセンタ等の工作機械に装着されることにより、軸線O回りに回転されつつ上記挿入方向に送り出されて、上記切刃3により第1、第2の穴加工工程を行う。
【0019】
第1のリーマAは、このホルダ4からの上記突き出し長さが、例えば図1に示すように複数の壁部Jのうち最もリーマ挿入方向後方側の第1の壁部J1のみを貫通可能な長さとされており、これに対して第2のリーマBは、そのホルダ4からの突き出し長さが、図2に示すように第1〜第5のすべての壁部J1〜J5を貫通可能な長さとされている。
【0020】
さらに、これら第1、第2のリーマA、Bのリーマ本体1の外周部には、やはり超硬合金等の硬質材料よりなるガイドパッド5が、リーマ本体1の外周部に軸線O方向に沿って形成された凹溝にろう付け等により接合されて取り付けられている。このガイドパッド5は、リーマ本体1の周方向に間隔をあけて複数備えられており、その外周面は軸線Oを中心とした円筒面上に位置するように形成されている。
【0021】
そして、これら第1、第2のリーマA、Bのガイドパッド5の外径、すなわちガイドパッド5の外周面が位置する上記円筒面の直径は、下穴Hの口元部分を穴加工する第1のリーマAのガイドパッド5の外径よりも、穴先部分まで穴加工する第2のリーマBのガイドパッド5の外径の方が小さくされている。なお、これら第1、第2のリーマA、Bのガイドパッド5の外径は、それぞれ第1、第2のリーマA、Bの切刃3の外径、すなわち切刃3が軸線O回りになす円の直径より小さくされている。
【0022】
ここで、これら第1のリーマAと第2のリーマBとのガイドパッド5の外径の差は、0.001mm〜0.007mmの範囲内とされている。詳しくは、第1のリーマAのガイドパッド5の外径は、下穴Hを仕上げ加工した上記加工穴の内径の許容される加工公差の下限値に対して、0.011mm〜0.014mmの範囲で大きくされている。これに対して、第2のリーマBのガイドパッド5の外径は、同じく上記加工穴の内径の加工公差の下限値に対して、0.007mm〜0.010mmの範囲で大きくされていて、第1のリーマAのガイドパッド5の外径よりは小さくされている。
【0023】
なお、本実施形態においては、これら第1、第2のリーマA、Bにおける上記切刃3の外径も、第1のリーマAよりも第2のリーマBの方が小さくされている。詳しくは、第1のリーマAの切刃3の外径は、上記加工穴の内径の加工公差の下限値に対して0.017mm〜0.020mmの範囲で大きくされているのに対して、第2のリーマBの切刃3の外径は、同じく上記加工穴の内径の加工公差の下限値に対して0.013mm〜0.016mmの範囲で大きくされていて、第1のリーマAの切刃3の外径よりは小さくされている。ただし、これら第1、第2のリーマA、Bの切刃3の外径も、加工穴の拡大代を見込んで上記加工公差の範囲内とされている。
【0024】
このような構成の第1、第2のリーマA、Bを用いた本実施形態の穴加工方法では、図1に示すように第1のリーマAにより、まず第1の穴加工工程において、最も挿入方向後方側の口元部分の下穴Hを穴加工して、その内径を上記加工公差の範囲内に仕上げる。なお、第2の穴加工工程とも併せて、第1、第2のリーマA、Bによる穴加工の際には、下穴Hに向けてクーラントが供給される。
【0025】
従って、この第1の穴加工工程では、リーマ本体1の突き出し長さの短い第1のリーマAによって加工が行われるので、リーマ本体1先端部の切刃3に振れが生じたりすることがなく、また切刃3によって仕上げられた加工穴にガイドパッド5が摺接してリーマ本体1をガイドすることにより、高精度の穴加工を行うことができる。なお、図1に示した第1のリーマAよりもリーマ本体1の突き出し長さの長いリーマを用いて、挿入方向後方側の複数の下穴(例えば、2つ目の壁部J2に形成された下穴)Hまでを第1の穴加工工程で加工するようにしてもよい。
【0026】
このようにして第1の穴加工工程において口元部分側の下穴Hを仕上げ加工した後に、この仕上げ加工した加工穴から第1のリーマAを後退させ、次いで第2の穴加工工程において第2のリーマBを上記挿入方向に挿入して、残った挿入方向側の穴先部分の壁部J(本実施形態では壁部J2〜J5)の下穴Hの仕上げ加工を行う。このとき、口元部分の下穴Hを加工する第1のリーマAの切刃3の外径と第2のリーマBのガイドパッド5の外径との差は僅かであるので、第2のリーマBは、仕上げ加工された口元部分の加工穴にリーマ本体1がガイドされるようにして次の壁部J2に形成された下穴Hを仕上げ加工し、さらにこうして仕上げ加工された壁部J2の加工穴にガイドされるようにして次の壁部J3の下穴Hを仕上げ加工するといった状態が繰り返されて、複数の下穴Hを高い同軸度や直進度で仕上げ加工することができる。
【0027】
そして、このように第2のリーマBのリーマ本体1をガイドしつつも、上記構成の穴加工方法によれば、この第2のリーマBのガイドパッド5の外径が第1のリーマAのガイドパッド5の外径よりも小さくされているので、第1の穴加工工程において仕上げられた口元部分側の下穴Hの加工穴に、第1の穴加工工程で生成された微細な切粉が残っていても、これが第2のリーマBのガイドパッド5に噛み込まれて仕上げられたこの加工穴を傷けてしまうのを防ぐことができる。
【0028】
すなわち、第1の穴加工工程において生成された切粉のうち比較的大きなものは、下穴Hに供給される上記クーラントと、そして第1のリーマAのガイドパッド5が加工穴に摺接する際に押し出されることとにより、除去される。従って、この第1のリーマAのガイドパッド5の外径よりも、第2のリーマBのガイドパッド5の外径が小さくされていることにより、第1のリーマAのガイドパッド5によって除去しきれなかった微細な切粉が残存していても、第2のリーマBのガイドパッド5と加工穴との間にこれより大きなクリアランスを確保することができて、この微細な切粉が第2のリーマBのガイドパッド5に噛み込まれるのを防ぐことができるのである。
【0029】
このため、特に上述のように下穴Hが上記挿入方向に間隔をあけた複数の壁部Jに形成されていて、リーマ本体1がガイドされ難く、従って第1、第2の複数の穴加工工程を要することが多い、上記4サイクルエンジンのシリンダーヘッドにおけるカム穴部などの穴加工においても、同軸度や直進度の向上を図りつつ、加工穴を高精度かつ高品位に仕上げることが可能となる。
【0030】
ただし、これら第1のリーマAのガイドパッド5の外径と第2のリーマBのガイドパッド5の外径の差が大きすぎると、第1の穴加工工程において仕上げられた口元部分側の加工穴によって第2のリーマBのリーマ本体1を精度良くガイドすることができなくなるおそれが生じる。その一方で、これら第1、第2のリーマA、Bのガイドパッド5の外径の差が小さすぎると、上述のような微細な切粉の噛み込みを防ぐことができなくなるおそれが生じるので、第1のリーマAと第2のリーマBとのガイドパッド5の外径の差は、0.001mm〜0.007mmの範囲内とされるのが望ましい。
【符号の説明】
【0031】
1 リーマ本体
3 切刃
5 ガイドパッド
O リーマ本体1の軸線
A 第1のリーマ
B 第2のリーマ
W 被加工物
H 下穴
J 壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に形成された下穴に、軸線回りに回転される軸状のリーマ本体の先端部に切刃が設けられるとともに外周部にガイドパッドが設けられたリーマを挿入して、上記切刃により上記下穴を仕上げ加工するリーマによる穴加工方法であって、上記下穴への上記リーマの挿入方向後方側の該下穴の口元部分を、上記リーマ本体の突き出し長さの短い第1のリーマによって加工する第1の穴加工工程と、上記リーマの挿入方向側の該下穴の穴先部分を、上記リーマ本体の突き出し長さの長い第2のリーマによって加工する第2の穴加工工程とを備え、上記第1のリーマの上記ガイドパッドの外径よりも上記第2のリーマの上記ガイドパッドの外径が小さくされていることを特徴とするリーマによる穴加工方法。
【請求項2】
上記第1のリーマと上記第2のリーマとの上記ガイドパッドの外径の差が、0.001mm〜0.007mmの範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載のリーマによる穴加工方法。
【請求項3】
上記下穴は、上記挿入方向に間隔をあけた複数の壁部に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリーマによる穴加工方法。

【図1】
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【図2】
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