説明

ルテニウム−ロジウム合金電極触媒及びこれを含む燃料電池

【課題】本発明は、燃料電池用電極触媒、この電極触媒を含む電極膜接合体(MEA)及びこの電極膜接合体を備える燃料電池に関する。
【解決手段】ルテニウム(Ru)及びロジウム(Rh)合金を含む燃料電池用電極触媒、この電極触媒を含む電極膜接合体(MEA)及びこの電極膜接合体を備える燃料電池を提供する。本発明に係るルテニウム−ロジウム合金触媒は優れた酸素還元活性を有するだけではなく、既存の白金、白金系の合金触媒に比べて抜群なメタノール耐性を有することから、高性能及び高効率の燃料電池用電極触媒として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた酸素還元活性だけではなく、抜群なメタノール耐性を有することから、触媒の利用率及び安全性を高めるルテニウム及びロジウム合金を含む燃料電池用電極触媒、この触媒を含む電極膜接合体(MEA)及びこの電極膜接合体を含む高性能及び高効率の燃料電池、好ましくは、直接液体燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用電子機器及びワイヤレス通信機器の補給には目を見張るものがある。これに伴い、携帯用電源供給源となるバッテリとしての燃料電池の開発、無公害自動車用の燃料電池及び清浄エネルギー源としての発電用燃料電池の開発に多くの関心が寄せられ、これらに関する研究が進んできている。
【0003】
燃料電池(fuel cell)は、燃料ガス(水素、メタノールまたはその他の有機物)と酸化剤(酸素または空気)が有する化学エネルギーを電気化学反応を通じて直接的に電気エネルギーに変える発電システムであって、作動条件に応じて固体酸化物電解質型燃料電池、溶融炭酸塩電解質型燃料電池、リン酸塩電解質型燃料電池及び高分子電解質型燃料電池などに分類される。
【0004】
前記高分子電解質型燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)は、水素ガスを燃料として用いる水素イオン交換膜燃料電池(Proton Exchange Membrane Fuel Cell:PEMFC)及び液状のメタノールを直接的に燃料として供給して用いる直接メタノール燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)などに大別される。これらのうち直接メタノール燃料電池は、100℃以下の低温において動作可能な無公害エネルギー源であって、技術的な競争対象となるバッテリ及び内燃機関に比べてエネルギー密度が高い。特に、充電の面倒さがなく、燃料が供給される場合には5万時間以上使用可能なエネルギー切換えシステムである。
【0005】
図1は、燃料電池の構造図である。これを参照すれば、燃料電池は、負極と正極との間に水素イオン交換膜11が挟まれているような構造を有している。水素イオン交換膜は高分子電解質よりなり、厚さが30ないし300μmである。また、負極と正極はそれぞれ、反応物の供給のための支持層14,15と、反応物の酸化/還元反応が起こる触媒層12,13よりなるガス拡散電極(正極と負極を統称してガス拡散電極とも言う。)及び集電体16,17よりなる。
【0006】
直接メタノール燃料電池の負極においてはメタノール酸化反応が起こり、生成された水素イオンと電子は正極側に移動する。正極側に移動した水素イオンは酸素と結合して水に変わり、酸素の還元反応による起電力が燃料電池のエネルギー発生源となる。このとき、負極と正極における反応式は、下記の通りである。
負極:CHOH+HO→CO+6H+6e=0.05V
正極:3/2O+6H+6e→3HO E=1.23V
全体反応:CHOH+3/2O→CO+2HO Ecell=1.18V
【0007】
これらの反応式において、正極の酸素還元反応及び負極のメタノール酸化反応が燃料電池の性能に大きな影響を及ぼす。実際に、燃料電池の性能を高めるために、優れた酸素還元活性を有する白金を主として正極触媒として用いていた。さらに、白金の高コストのために、ニッケル、クロムまたは鉄などの白金合金を用いた正極材料の開発が試みられているが(例えば、下記の非特許文献1参照)、満足のいく結果を得るには至っていないのが現状である。
【0008】
一方、燃料電池の負極酸化材料となるメタノールは、高分子電解質を介して正極側に越えるメタノールのクロスオーバー現象を引き起こし、その結果、正極材料の触媒毒として働いて触媒の利用率が低下してしまう。さらには、この利用率の低下により全体としての燃料電池の性能が格段に落とされるという不具合を生じる。これらの理由から、負極酸化材料となるメタノールの濃度に制約を受けるという不具合も生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Takako Toda,Hiroshi Igarashi,Hiroyuki Uchida and Mashahiro Watanabe,J.Electrochem.Soc.,146,p3750,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した不具合を考慮し、優れた酸素還元活性を有するものの、メタノール酸化反応に対する活性により燃料電池の性能の低下を招くと共に、高コストがかかる白金または白金系の合金触媒に代えて、ルテニウム−ロジウムよりなる非白金系の合金触媒を用いれば、メタノールのクロスオーバーによる正極触媒の被毒及び酸化材料の濃度制約などの不具合を解決することができるだけではなく、優れた酸素還元活性により高性能及び高効率が示すということを知見した。
【0011】
そこで、本発明は、抜群なメタノール耐性及び優れた酸素還元活性を合わせ持つ高性能及び高効率のルテニウム−ロジウム合金触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、上記のルテニウム−ロジウム合金触媒を含む電極膜接合体及びこの電極膜接合体を備える燃料電池を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ルテニウム(Ru)及びロジウム(Rh)合金を含む燃料電池用電極触媒、この触媒を含む電極膜接合体(MEA)及びこの電極膜接合体を含む燃料電池、好ましくは、直接液体燃料電池(Direct Liquid Fuel Cell:DLFC)を提供する。
【0013】
また、本発明は、i)ルテニウム塩及びロジウム塩をそれぞれ溶解させて溶液を製造する段階と、ii)前記段階i)における各溶液を混合及び攪拌して混合溶液を製造した後、還元剤を加えて還元された塩の沈殿物を得る段階と、iii)前記段階ii)において得られた沈殿物を乾燥する段階と、を含む燃料電池用電極触媒の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るルテニウム−ロジウム合金触媒は、優れた酸素還元活性を有するだけではなく、既存の白金、白金系の合金触媒に比べて抜群なメタノール耐性を有することから、メタノールのクロスオーバーによる正極触媒の被毒現象を防ぎ、酸化材料の濃度制約を克服することができる。その結果、触媒の利用率及び安定性が増大された高性能及び高効率の電極触媒として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】燃料電池を概略的に示す模式図である。
【図2】実施例1に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金触媒のX線回折分析図である。
【図3】実施例1に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金触媒と、対照群としての白金単独、ルテニウム単独及びロジウム単独の酸素還元活性を示す循環電流電圧曲線(Cyclic Voltammogram、CV)である。
【図4】実施例1に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金触媒のメタノール存在下で酸素還元活性を示す循環電流電圧曲線(CV)である。
【図5】実施例1に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金触媒を正極触媒として用いた直接メタノール燃料電池の性能分析図である。
【図6】実施例1に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金触媒及び比較例1に従い製造された純白金触媒のメタノールの存在下での酸素還元活性を示す循環電流電圧曲線(CV)である。
【図7】実施例1に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金触媒及び商用の白金触媒を正極触媒として用いた直接メタノール燃料電池の性能分析図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳述する。
【0017】
本発明は、優れた酸素還元活性と抜群なメタノール耐性を合わせ持つ非白金系の電極触媒、例えば、ルテニウム−ロジウム合金を燃料電池用電極触媒として用いることを特徴とする。
【0018】
燃料電池、例えば、直接メタノール燃料電池などの直接液体燃料電池は、触媒、正極及び全体の燃料電池の性能に大きな影響を及ぼすメタノールのクロスオーバー現象を深刻に考慮する必要がある。
【0019】
1)従来、燃料電池の電極触媒としては、優れた酸素還元活性を有する白金または白金系の合金触媒を用いていたが、白金が有する根本的な欠点、すなわち、メタノールに対する活性により正極へのメタノールのクロスオーバーが生じる場合、白金の優れた酸素還元活性がほとんど失われてしまうという不都合があった。このような現象は、純白金触媒だけではなく、白金を含む合金触媒にも見られる。
【0020】
これに対し、本発明に係るルテニウム−ロジウム合金触媒は、優れた酸素還元活性とメタノールに対する耐性を合わせ持つ非白金系の触媒であるため、メタノールのクロスオーバーによる正極触媒の被毒現象を防いで、メタノールの存在下でもルテニウム−ロジウム合金触媒の元々の酸素還元活性をそのまま保持することができるというメリットがある。
【0021】
2)さらに、従来の電極触媒は、前記メタノールのクロスオーバー現象により負極酸化材料となるメタノールの使用濃度に制約を受けていたが、本発明に係るルテニウム−ロジウム合金触媒は優れたメタノール耐性を有することから、高濃度のメタノールを用いることができる。その結果、燃料電池を高性能及び高効率にて発揮させることができる。
【0022】
3)加えて、従来、燃料電池用触媒は、白金の高コストのために生産コストの節減などを図ることが困難であったが、本発明に係るルテニウム−ロジウム合金触媒は白金に比べて材料のコストが安価なため、コスト対比の燃料電池の性能効率を高めて経済性のアップを図ることができる。
【0023】
上述したように、本発明に係るルテニウム(Ru)及びロジウム(Rh)よりなる合金は、燃料電池用電極触媒、好ましくは、正極触媒として用いることができる。
【0024】
ここで、燃料電池としては、酸素還元反応を正極反応として採択している高分子電解質燃料電池と直接液体燃料電池を用いることができるが、必ずしもこれらに制限されることはない。特に、好ましくは、直接メタノール燃料電池、直接ギ酸燃料電池、直接エタノール燃料電池または直接ジメチルエーテル燃料電池などが用いられる。
【0025】
このとき、前記合金のうちルテニウム(Ru)の構成比(含量)は10ないし90モル%であり、好ましくは、50ないし75モル%である。
【0026】
本発明に係る電極触媒は、上述したルテニウム及びロジウムのほかに、当業界における周知の遷移金属、13族元素、14族元素及びランタン族元素よりなる群から選ばれた1種以上の元素を含む多成分系の電極触媒であってもよく、特に、3成分系の(RuRh−M1)が好ましい。このとき、電極触媒に含まれうる金属の具体例としては、Fe,Au,Co,Ni,Os,Pd,Ag,Ir,Ge,Ga,Zn,Cu,Al,Si,Sr,Y,Nb,Mo,W,Ti,B,In,Sn,Pb,Mn,Cr,Ce,V,Zrまたはランタン系の元素が挙げられる。
【0027】
さらに、前記電極触媒は、上述した金属成分のみ含んでもよく、当分野における公知の触媒担体に担持された形のものであっても良い。
【0028】
触媒担体は広い表面積を用いて貴金属触媒を広く分散させ、且つ、金属触媒だけでは得られ難い熱的及び機械的な安定性などの物理的な性質を高めるために用いるものであって、例えば、当分野における周知の微粒子の支持体にコートして用いるか、あるいは、他の方法を適用して用いる。
【0029】
使用可能な触媒担体としては、多孔性炭素、伝導性高分子または金属酸化物などが挙げられる。この触媒担体の含量は、触媒組成に対して1ないし95重量%、好ましくは、2ないし90重量%の範囲である。
【0030】
多孔性炭素としては、活性炭、炭素繊維、黒鉛繊維または炭素ナノチューブなどを用いることができ、伝導性高分子としては、ポリビニールカルバゾール(poly vinyl carbazole)、ポリアニリン(polyanilin)、ポリピロール(polypyrrole)またはこれらの誘導体を用いることができる。さらに、金属酸化物としては、タングステン、チタン、ニッケル、ルテニウム、タンタル及びコバルト酸化物よりなる群から選ばれた1種以上の金属酸化物を用いることができる。
【0031】
本発明に係るルテニウム−ロジウム合金触媒は、当分野における周知の方法によって製造することができる。例えば、i)ルテニウム塩及びロジウム塩をそれぞれ溶解させて溶液を製造する段階と、ii)前記段階i)における各溶液を混合及び攪拌して混合溶液を製造した後、還元剤を加えて還元された塩の沈殿物を得る段階と、iii)前記段階ii)において得られた沈殿物を乾燥する段階と、を含む方法により製造することができる。
【0032】
まず、1)ルテニウム及びロジウムをそれぞれ含む金属塩をそれぞれの実施目標とするモル比になるように適正量をとって溶媒に入れ、常温において攪拌してルテニウムまたはロジウムをそれぞれ含む溶液を製造する。
【0033】
ルテニウム塩及びロジウム塩には特に制限がなく、ルテニウム及びロジウムを含む水化塩、例えば、ルテニウム及びロジウムを含む塩化物、窒化物、硫酸塩などを用いることができる。特に、ルテニウム塩化物(RuCl・xHO)及びロジウム塩化物(RhCl・xHO)が好ましい。さらに、本発明においては、アルドリッチ社の金属塩を用いているが、前記と同じ組成を有する他のメーカの金属塩を用いることもできる。
【0034】
このとき、ルテニウム塩及びロジウム塩は、上述したように、それぞれ10ないし90モル%よりなる。さらに、多成分系の合金触媒を得るためには、上述したルテニウム塩、ロジウム塩のほかに、当業界における周知の金属成分、例えば、Fe,Au,Co,Ni,Os,Pd,Ag,Ir,Ge,Ga,Zn,Cu,Al,Si,Sr,Y,Nb,Mo,W,Ti,B,In,Sn,Pb,Mn,Cr,Ce,V,Zr、ランタン系の元素またはこれらの金属成分を1種以上含む金属塩をさらに用いれば良い。これらの含量範囲には特に制限がなく、電極触媒として酸素還元活性とメタノール耐性が発揮可能な範囲内において調節することができる。
【0035】
溶媒としては、上述した金属を含む塩が溶解可能なあらゆる種類のものを用いることができるが、中でも蒸留水が好ましい。
【0036】
2)得られた各金属塩溶液を混合して攪拌した後、前記金属塩混合溶液に還元剤を一挙に加えて金属塩、例えば、ルテニウム及びロジウムを還元させることにより、沈殿物を得る。
【0037】
使用可能な還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、ヒドラジン(N)、チオ亜硫酸ナトリウム、ニトロヒドラジンまたはギ酸ナトリウム(HCOONa)などを用いることができるが、これらに限定されることはない。
【0038】
前記ルテニウム及びロジウムが溶解された混合溶液の酸度(pH)は、金属塩の還元力を高められる7ないし8、好ましくは、8に調節することが好ましい。しかしながら、前記pHの調節段階は選択的なものであって、必ず含める必要はない。
【0039】
3)得られた沈殿物は蒸留水により洗浄した後に乾燥することにより、最終的にルテニウム−ロジウム合金触媒を得る。
【0040】
上記において、乾燥は、当分野における周知の方法により行うことができ、例えば、−40〜0℃において1〜48時間凍結乾燥する方法が利用可能である。
【0041】
さらに、本発明においては、ルテニウム及びロジウム合金を触媒担体に担持された形に製造するために、前記金属混合溶液に上述した触媒担体を加えることができる。このようにルテニウム及びロジウム合金を多孔性カーボン、伝導性高分子または多孔性金属酸化物などの触媒担体に担持させる場合、触媒の活性はそのまま保持しながら、これらの触媒の使用量を減らせるというメリットがある。
【0042】
前記触媒担体に担持された形のルテニウム−ロジウム合金触媒の製造方法の一実施例を挙げると、下記の通りである。すなわち、金属イオン水溶液に還元剤を加えて得られた金属合金溶液に炭素支持体水溶液を1次的に加えて炭素にコートされた金属合金を製造した後、前記溶液を攪拌してスラリーを形成する。次いで、このスラリーを75ないし80において1日ないし3日間放置して乾燥粉末を得、蒸留水を用いて洗浄する。
【0043】
本発明は、前記触媒を含む燃料電池用電極、好ましくは、正極を提供する。
【0044】
燃料電池用電極は、例えば、気体拡散層と触媒層よりなるが、触媒層のみよりなっても構わなく、気体拡散層の上に触媒層が形成された組合形のものであっても良い。
【0045】
気体拡散層は、通常、導電性及び80%以上の多孔度を有する炭素紙または炭素繊維ファブリックに疎水性高分子となるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはフルオロエチレン共重合体を含浸させた後、約340ないし370℃において焼成することにより得ることができる。前記正極の気体拡散層が正極の触媒層における生成水によって溢れることを防ぐために、前記正極の気体拡散層は疎水性を有する必要がある。このために、疎水性高分子の含浸量を約10ないし約30重量%ほどとして含めることができる。
【0046】
両電極のうち正極の触媒層に用いられる触媒としては、本発明に係るルテニウム−ロジウム合金触媒粉末を伝導性炭素粉末の表面に均一に担持させたものを用い、触媒の比表面積を増やして反応効率を高めるために、カーボンブラック、炭素ナノチューブ、炭素ナノホルンなどの極微細炭素粉末を用いることができる。さらに、負極の触媒層に用いられる触媒としては、通常、白金またはPt/Ruなどの白金系合金の粉末を用いることができ、必要に応じて本発明に係るルテニウム−ロジウム合金触媒を用いることもできる。
【0047】
本発明に係る燃料電池用電極は、当分野における周知の方法により製造することができる。その一実施例を挙げると、前記ルテニウム−ロジウム合金触媒、ナフィオンなどの水素イオン伝導性物質及び触媒分散を促す混合溶媒を含む触媒インクをプリント、吹き付け、巻き上げまたは塗り付けなどの方法により気体拡散層の上に塗布及び乾燥することにより触媒層を形成し、このような方法により電極が製造可能になる。
【0048】
さらに、本発明は、(a)第1触媒層を有する第1電極と、(b)第2触媒層を有する第2電極と、(c)第1電極と第2電極との間に挟まれた電解質膜と、を含む燃料電池用電極膜接合体であって、第1触媒層、第2触媒層または第1触媒層及び第2触媒層がルテニウム−ロジウム合金触媒を含むことを特徴とする燃料電池用電極膜接合体(membrane electrode assembly:MEA)を提供する。
【0049】
このとき、第1電極及び第2電極のうちどちらか一方は正極であり、もう一方は負極である。
【0050】
電極膜接合体(MEA)は、燃料と空気との間で電気化学的な触媒反応が起こる電極と、水素イオンの伝達が起こる高分子膜間の接合体を意味するものであって、触媒電極と電解質膜が接着された一体形の単体ユニットである。
【0051】
前記燃料電池用電極膜接合体は、負極の触媒層と正極の触媒層を電解質膜に接触させるものであって、当分野における周知の方法により製造することができる。例えば、負極と正極との間に電解質膜を位置させた後、約140℃の温度を保持しながら油圧により動作する2枚の熱板の間に挟み込み、その後、圧力を加えて加熱圧着することにより製造することができる。
【0052】
電解質膜としては、例えば、水素イオン伝導性、フィルムが形成可能な機械的な強度及び高い電気化学的な安定性を有する物質であれば制限無しに用いることができる。この電解質膜の非制限的な例としては、テトラフルオロエチレンとフルオロビニールエーテルとの共重合体が挙げられ、フルオロビニールエーテル基は水素イオンを伝導する機能を有する。
【0053】
加えて、本発明は、前記電極膜接合体(MEA)を含む燃料電池を提供する。
【0054】
燃料電池は、当分野における通常の方法により製造された上記の電極膜接合体(MEA)と双極子プレートにより構成して製造することができる。
【0055】
前記燃料電池としては、上述したように、酸素還元反応を正極反応として採択している高分子電解質燃料電池と直接液体燃料電池が使用可能であるが、これに制限されることはない。特に、直接メタノール燃料電池、直接ギ酸燃料電池、直接エタノール燃料電池または直接ジメチルエーテル燃料電池などが好ましい。
【0056】
以下、本発明への理解を助けるために本発明の好適な実施例を挙げるが、後述する実施例は単に本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲が後述する実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0057】
[実施例1−3]ルテニウム−ロジウム合金触媒及びこれを用いた燃料電池の製造
実施例1
1−1.ルテニウム−ロジウム合金触媒(モル組成2:1)の製造
【0058】
ルテニウムの金属塩(RuCl・xHO、アルドリッチ社製)0.408g(1.966mmol)とロジウムの金属塩(RhCl・xHO、アルドリッチ社製)0.206g(0.983mmol)を秤量してそれぞれ蒸留水に加えた。常温(25℃)において3時間攪拌した後、それぞれの金属塩溶液を混合してさらに3時間攪拌した。前記金属塩混合溶液のpHを8に調整した後、この混合溶液に還元剤となる2モルの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)水溶液を過量(化学両論的な必要量の3倍)加えて金属塩が還元された沈殿物を得た後、この沈殿物を蒸留水により3回洗浄し、12時間凍結乾燥してルテニウム−ロジウム(2:1)合金を得た。
1−2.電極膜接合体(MEA)の製造
【0059】
正極触媒としては前記実施例1−1に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金5mg/cm2を用い、負極触媒は商用触媒であるPtRuブラック( ジョンソン・マッセイ社製)5mg/cm2をナフィオン117( ジョンソン・マッセイ社製)と接合してMEAを形成した。
1−3.燃料電池の製造
【0060】
試験した単位電池のサイズは2cmであり、黒鉛チャンネルを介して負極には2Mのメタノール溶液を0.2ないし2cc/分の流速にて、かつ、正極には酸素を300ないし1,000cc/分の流速にて供給した。
実施例2
【0061】
ルテニウム塩0.305g(1.471mmol)とロジウム塩0.308g(1.471mmol)を用いた以外は、前記実施例1の方法と同様にしてルテニウム−ロジウム合金(モル組成1:1)触媒、この触媒を含むMEA及びこのMEAを含む燃料電池を製造した。
実施例3.ルテニウム−ロジウム正極触媒(モル組成3:1)の製造
【0062】
ルテニウム塩0.460g(2.217mmol)とロジウム塩0.155g(0.739mmol)を用いた以外は、前記実施例1の方法と同様にしてルテニウム−ロジウム(モル組成3:1)合金触媒、この触媒を含むMEA及びこのMEAを含む燃料電池を製造した。
[比較例1〜2]
比較例1.白金触媒の製造
【0063】
白金金属塩(HPtCl・xHO、アルドリッチ社製)0.630g(1.538mmol)のみを用いた以外は、前記実施例1の方法と同様にして白金触媒、この触媒を含むMEA及びこのMEAを含む燃料電池を製造した。
比較例2.商用白金触媒を用いた燃料電池の製造
【0064】
正極触媒試料として商用化した白金触媒( ジョンソン・マッセイ社製)を用いた以外は、前記実施例1の方法と同様にして燃料電池を製造した。
実験例1.ルテニウム−ロジウム合金触媒の性能試験
[1−1.X線回折分析]
【0065】
本発明に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金のX線回折分析を下記のようにして行った。
【0066】
試料としては、前記実施例1に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金を用いた。対照群として、単独成分であるルテニウム及びロジウム金属をそれぞれ使用した。
【0067】
X線回折実験の結果、ルテニウム−ロジウム合金はロジウムに対する単独ピークは示さなかった。また、ルテニウムに対するピークも単独ルテニウムのみ存在する場合のピークよりも低い角度側に向かって僅かに移動していたことが確認できた。
【0068】
これにより、本発明に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金は、ルテニウム及びロジウムが適切に合成されていることが確認できた(図2参照)。
[1−2.酸素還元活性の評価]
【0069】
本発明に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金触媒の酸素還元活性を確かめるために、下記のように電気化学的な分析を行った。
【0070】
本発明における電気化学的な分析は、3系の電極セルに対して行われ、正極及び負極のうちどちらか一方の反応活性を評価することができる。この実験例においては、正極触媒活性に対して試験を行った。
【0071】
白金線(Pt線)を相手電極として、Ag/AgClを基準電極として、そして触媒試料がコートされたカーボン棒をワーク電極として用い、常温において実験を行った。このとき、触媒試料としては、前記実施例1に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金、対照群としての白金、ルテニウム、ロジウム金属をそれぞれ用い、液体電解質としては0.5Mの硫酸を用いた。触媒の酸素還元活性を測るために、ワーク電極を酸素により飽和された0.5モルの硫酸溶液に入れ、0.65ないし1.2Vの電圧を順次に加え、このときに生じる電流の変化値を測定した。このとき、電圧はワーク電極と基準電極との間にかかり、電流はワーク電極と相手電極との間の電流を測定した。
【0072】
酸素還元活性は、触媒物質により還元された溶存酸素の還元電流値に起因するものであって、電流の減少がなければ、触媒の酸素還元活性がない。
【0073】
実験の結果、本発明に係るルテニウム−ロジウム合金は、白金を含んでいないために対照群としての白金の活性よりは劣っているが、この実験において用いられた全ての試料、例えば、ルテニウム−ロジウム合金、ルテニウム及びロジウムの3系の電極セルの電流値は1.0V以下の電圧においては下がることが分かった。特に、本発明に係るルテニウム−ロジウム合金は、同じ電圧を加えたときの発生電流が純ルテニウム触媒や純ロジウム触媒に比べて顕著に大きな負の値を示した。
【0074】
これより、本発明に係るルテニウム−ロジウム合金触媒は優れた酸素還元活性を有するということを確認することができた(図3参照)。
[1−3.メタノールに対する耐性の評価]
【0075】
本発明に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金触媒のメタノールの存在下での酸素還元活性を確かめるために、前記実験例1−2の方法と同様にして評価を行った。
【0076】
液体電解質としては、酸素により飽和された2Mメタノール及び0.5M硫酸溶液の混合溶液を用いた。対照群としては、酸素により飽和された0.5Mの硫酸溶液のみを用いた。前記実験例1−2と同様に、ワーク電極は実施例1に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金触媒によりコートして用い、0.75ないし1.1Vの電圧を順次に加えた後に電流の変化値を測定した。
【0077】
実験の結果、本発明に係るルテニウム−ロジウム合金触媒は2Mメタノールの存在下でも酸素還元反応の活性減少がほとんどないことが分かった(図4参照)。このため、非白金系よりなるルテニウム−ロジウム合金触媒は、メタノールに対する抜群な耐性を有していることが確認できた。
実験例2.ルテニウム−ロジウム合金触媒を用いた燃料電池の性能分析
[2−1.電池性能の分析]
【0078】
前記実施例1に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金触媒を用い、単位電池の性能テストを下記のようにして行った。
【0079】
実施例1に従い製造された単位電池の負極には黒鉛チャンネルを介して2Mのメタノール溶液を0.2ないし2cc/分の流速にて供給し、正極には酸素を300ないし1,000cc/分の流速にて供給した。次いで、単位電池の電流密度と電力密度を測定した。
【0080】
実験の結果、本発明に係るルテニウム−ロジウム合金触媒は0.3Vにおいて98mA/cm2の電流密度と30mW/cm2の電力密度を示し、これより、本発明に係るルテニウム−ロジウム合金触媒は、優れた酸素還元活性を有することが確認できた(図5参照)。
[2−2.電気化学的な分析]
【0081】
本発明に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金触媒を用い、燃料電池の電気化学的な分析を下記のようにして行った。
【0082】
触媒試料としては、実施例1のルテニウム−ロジウム合金触媒を用いた。対照群としては、前記比較例1の純白金触媒を用いた。そして、液体電解質としては、2Mメタノール及び0.5M硫酸溶液の混合溶液及び0.5Mの硫酸溶液を用いた。0.75ないし1.1Vの範囲に電圧を順次に加えた後、単位電池の電流変化値を測定した。
【0083】
実験の結果、本発明に係るルテニウム−ロジウム合金触媒は対照群としての純白金触媒に比べて酸素還元能にやや劣っていたが、2Mのメタノールの存在下では酸素還元活性の減少が全く見られなかった。これに対し、純白金触媒は2Mのメタノールの存在下で、メタノールの酸化電流密度により酸素の還元電流がすべて失われてしまうことが確認できた(図6参照)。
【0084】
これにより、本発明に係るルテニウム−ロジウム合金正極触媒は、純粋な酸素還元活性だけではなく、抜群なメタノール耐性を有することから、燃料電池、例えば、直接メタノール燃料電池の正極触媒として有用であることが確認できた。
[2−3.燃料電池の性能の比較実験]
【0085】
前記実施例1に従い製造されたルテニウム−ロジウム合金正極触媒と商用化した白金触媒を用い、各燃料電池の性能分析実験を下記のようにして行った。
【0086】
正極触媒試料として、ルテニウム−ロジウム合金正極触媒を含む実施例1の燃料電池を用いた。対照群としては、商用化した白金触媒(ジョンソン・マッセイ社製)を含む比較例2の燃料電池を用いた。各燃料電池(サイズ:2cm)の負極には黒鉛チャンネルを介して2M及び10Mのメタノール溶液をそれぞれ0.2ないし2cc/分の流速にて供給し、正極には酸素を300ないし1,000cc/分の流速にて供給した。
【0087】
実験の結果、商用化した白金触媒を含む比較例2の燃料電池は、2Mのメタノールを負極に供給したときに経時的に電位が下がり続けた。また、10Mのメタノールを負極に供給したときには約0.07Vの電位の減少が見られた(図7参照)。これは、負極に存在するメタノールが正極側に越えて(crossover)正極触媒としての白金を被毒することにより、酸素の還元が円滑に行われないということを意味する。
【0088】
これに対し、本発明に係るルテニウム−ロジウム合金正極触媒を含む燃料電池は、2M及び10Mのメタノールをそれぞれ負極に供給する場合にも安定した電池電位を示した(図7参照)。これより、酸化材料であるメタノールの濃度制約を克服した結果、高濃度のメタノールを負極酸化材料として使用可能であることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1触媒層を有する第1電極と、
(b)第2触媒層を有する第2電極と、及び
(c)第1電極と第2電極との間に挟まれた電解質膜と、
を含む燃料電池用電極膜接合体であって、
第1触媒層、第2触媒層または第1触媒層及び第2触媒層がルテニウム(Ru)及びロジウム(Rh)合金である電極触媒を含むことを特徴とする燃料電池用電極膜接合体(MEA)。
【請求項2】
前記合金は、それぞれ10ないし90モル%のルテニウム及びロジウムを含む請求項1に記載の燃料電池用電極膜接合体
【請求項3】
前記合金は、Fe,Au,Co,Ni,Os,Pd,Ag,Ir,Ge,Ga,Zn,Cu,Al,Si,Sr,Y,Nb,Mo,W,Ti,B,In,Sn,Pb,Mn,Cr,Ce,V,Zr及びランタン系の元素からなる群から選ばれた1種以上の元素をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極膜接合体
【請求項4】
前記触媒は、多孔性炭素、伝導性高分子及び金属酸化物からなる群から選ばれた1種以上の触媒担体に担持された前記合金である請求項1に記載の燃料電池用電極膜接合体
【請求項5】
前記触媒は、正極触媒であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極膜接合体
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電極膜接合体(MEA)を含む燃料電池。
【請求項7】
高分子電解質燃料電池、直接液体燃料電池、直接メタノール燃料電池、直接ギ酸燃料電池、直接エタノール燃料電池または直接ジメチルエーテル燃料電池である請求項に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−60771(P2011−60771A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232523(P2010−232523)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【分割の表示】特願2007−514897(P2007−514897)の分割
【原出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】