説明

ルテニウムカルベン錯体を製造するための方法

ルテニウムカルベン錯体を製造するための方法、および前記方法に基づく新規のアリールアルキリデンルテニウム錯体であって、メタセシス反応において触媒として使用することができる錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルベン−ルテニウム錯体を製造するための方法と、この方法に基づいて製造することができ、例えばメタセシス反応における触媒として使用することができる新規のアリールアルキリデンルテニウム錯体とに関する。
【0002】
近年、熱的に安定であり、かつ水および空気に対して安定な、オレフィンメタセシスのための均一系触媒を製造する努力が盛んに行なわれている。特定のルテニウム−アルキリデン化合物は、特に注目されている。
【0003】
カルベン−ルテニウム錯体は、オレフィンメタセシスのための非常に有効な触媒である。その独自の特性、例えば、水、空気、および極性官能基に対する高い耐性が、これらの錯体が有機合成においてかつてないほどに使用されている理由である。これらの触媒の需要の著しい高まりと、多様な使用可能性とにより、必然的に、代替的な合成方法が探求されるようになった。
【0004】
オレフィンのメタセシス重合のための一般構造式RuX2(=CH−CH=CR2)L2のルテニウム金属−カルベン錯体は、例えば、国際公開第93/20111号の特許出願に記載されている。トリフェニルホスファンおよび置換トリフェニルホスファンが、配位子Lとして使用されている。この錯体は、RuCl2(PPh33と、カルベン前駆体としての適切な二置換シクロプロペンとを反応させて製造される。
【0005】
しかしながら、このシクロプロペンは、熱的に不安定であり、また市販もされていない。そのためこれらは、合成の直前に、複雑な方法で製造しなければならない。
【0006】
[Ru(p−シメン)Cl]2との同様の反応が、国際公開第96/04289号に記載されている。
【0007】
国際公開第97/06185号には、同様に、ルテニウム金属−カルベン錯体に基づくメタセシス触媒が記載されている。これらは、RuCl2(PPh33とジアゾアルカンとの反応により製造することができる。
【0008】
しかしながら、ジアゾアルカンの取扱いは、特に工業規模で工程を実施する場合に、安全性のリスクを伴う。
【0009】
Hill et al. Dalton 1999, 285−291には、RuCl2(PPh33とジフェニル−プロパルギルアルコールとからのRu−インデニリデン錯体の合成が記載されている。
【0010】
Hoffmann et al. Journal of Organometallic Chemistry 641 (2002) 220−226には、Wilkinsonヒドリド錯体RuHCl(PPh33からのRu−アリリデン錯体の合成が記載されている。
【0011】
両方法において、使用する式RuCl2(PPh33の有機金属出発物質は、大過剰のトリフェニルホスファン(PPh3)を用いて、RuCl3から製造しなければならない。しかしながら、触媒合成自体においては、PPh3配位子は、配位子交換後に再び失われる。
【0012】
Gruenwald et al. [Gruenwald, C., Gevert, O., Wolf, J., Gonzaelez−Herrero, P., Werner, H., Organometallics 15 (1996), 1969−1962]には、ルテニウム錯体を製造するための方法が記載されているが、この方法では、ポリマー[RuCl2(COD)]nとi−プロパノール中の水素とをホスファンの存在下で反応させる。
【0013】
これらの方法には、長い反応時間および2倍過剰のホスファンを要するという不利点がある。
【0014】
欧州特許第0839821号に記載されている方法によると、反応は水素を用いずに行なわれ、より少ないホスファンが必要とされる。しかしながら、この反応を実施する方法では、しばしばビニリデン錯体が形成される。これは例えば、Ozawa[H. Katayama, F. Ozawa Organometallics 17 (1998), 5190−6]に記載されている。
【0015】
国際公開第9821214号には、ルテニウムポリヒドリドRuHCl(H2)x(PCy32(式中、PCy3はトリシクロヘキシルホスファンである)から出発する、カルベン錯体の合成が記載されている。
【0016】
しかしながら、ルテニウムポリヒドリド錯体を入手することは困難である。さらに、長い反応時間が要求される。
【0017】
RuX2(=CH−R)(PR’32型のメタセシス触媒を製造するための既知の合成方法は、上述の理由から非経済的である。
【0018】
ドイツ特許第19854869号には、RuCl3、Mg、PCy3、水素、およびアセチレンからのカルベン−ルテニウム錯体RuX2(=CH−CH2R)(PCy32のワンポット合成が記載されている。
【0019】
しかしながら、アセチレンの取扱いは、特に工業規模で工程を実施する場合に、安全性のリスクを伴う。
【0020】
本発明の目的は、工業操作において安定であり、かつ経済上および環境上の観点で従来技術の既知の製造方法よりも優れたルテニウム−カルベン錯体を製造するための方法を提供することである。
【0021】
この目的は、一般式
RuX2(=CH−CH2R)L2(I)
[式中、
Xは、アニオン性配位子であり、
Rは、水素、あるいは(C1−C18)−アルキル基、(C3−C6)−シクロアルキル基、(C2−C7)−ヘテロシクロアルキル基、(C6−C14)−アリール基、または(C3−C14)−ヘテロアリール基であり、
Lは、非荷電の電子供与体配位子である]のルテニウム錯体を製造するための方法であって、
A)一般式:
RuXxy(II)
[式中、
xは、2以上の整数であり、
Xは、上記に定義したとおりであり、
yは、0以上の整数であり、
y≧1の場合、
前記配位子Nは、同一のまたは異なる配位性の非荷電配位子である]のRu金属塩を塩基および還元剤の存在下でLと反応させ、
B)続いて、一般式III
R−C≡CSiR’3(III)
[式中、
Rは、上記に定義したとおりであり、
基R’は、水素、(C1−C8)−アルキル、(C1−C8)−アルコキシ、(C6−C10)−アリールオキシ、(C6−C10)−アリールからなる群から選択することができる同一のまたは異なる基である]のシリルアルキンと反応させることを特徴とする方法によって達成される。
【0022】
好適な実施形態において、2つのアニオン性配位子Xは同一であり、同様に2つの非荷電の電子供与体配位子Lも同一である。
【0023】
Rは、好ましくは、水素、あるいは置換(C1−C12)−アルキル基または置換(C6−C10)−アリール基である。
【0024】
Rは、特に好ましくは水素である。
【0025】
本発明の目的は、一般式
RuX2(=CR12)L2
[式中、
XおよびLは、請求項1に示す意味を有し、
1は、水素、あるいは(C1−C18)−アルキル基、(C3−C8)−シクロアルキル基、(C2−C7)−ヘテロシクロアルキル基、(C6−C14)−アリール基、または(C3−C14)−ヘテロアリール基であり、R2は、(C6−C14)−アリール基または(C3−C14)−ヘテロアリール基であり、基R1およびR2は、5〜7員環を有してもよい]のルテニウム錯体を製造するための方法であって、
A)一般式:
RuXxy(II)
[式中、X、N、ならびに整数xおよびyは、請求項1に示す意味を有する]のRu金属塩を塩基および還元剤の存在下でLと反応させ、
B)続いて、一般式III
R−C≡CSiR’3(III)
[式中、RおよびR’請求項1に示す意味を有する]のシリルアルキンと反応させ、
C)続いて、一般式IV
2C=CR12(IV)
[式中、R1およびR2は、上記に示す意味を有する]のアルケンと反応させることを特徴とする方法によって同様に達成される。
【0026】
1が水素であり、R2が置換(C6−C10)−アリール基または置換(C3−C10)−ヘテロアリール基であることが好ましい。
【0027】
非荷電の電子供与体配位子Lは、ホスファン、ホスフィナイト、ホスホナイト、およびホスファイトからなる群から選択することができる。
【0028】
配位子Lは、有利には、トリフェニルホスファン、トリイソプロピルホスファン、トリシクロヘキシルホスファン、および9−シクロヘキシル−9−ホスファビシクロ[3.3.1]ノナンからなる群から選択することができる。
【0029】
配位子L2は、一般式
【化1】

[式中、LおよびL’は、同一または異なり、−PR12、−P(OR1)(OR2)、−NR12、および複素環カルベンからなる群から選択され、Zは、これら2つの基を共有結合する架橋部である]の二座配位子からなる群から選択することができる。
【0030】
一般式RuXxyのRu金属塩の還元は、x=3でありy=0である場合、金属還元剤の存在下、水素を用いて実施することができる。この場合、例えばマグネシウムを還元剤として使用することが可能である。
【0031】
塩基としては、過剰の塩基性配位子を使用することができる。
【0032】
反応B)は、水の存在下で実施することができる。
【0033】
一般式RuXxyのRu金属塩の還元は、x≧2でありy>0である場合、アルコールまたはギ酸−トリエチルアミン錯体を用いて実施することができる。この場合、使用する還元剤は、好ましくは第2級アルコールである。
【0034】
塩基として、アミンを使用することができる。
【0035】
また、トリエチルアミンまたは1,8−ジアゾビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンを塩基として使用することも可能である。
【0036】
Xは、一価のアニオン性配位子であってもよく、あるいはX2は、単一の二価のアニオン性配位子、例えばハロゲン、擬ハロゲン、カルボキシレート、サルフェート、またはジケトナートであってもよい。Xは、好ましくはハロゲン、とりわけ臭素または塩素、特に塩素である。
【0037】
本発明は、一般式(VI)
【化2】

[式中、LおよびL’は、同一または異なり、それぞれ非荷電の電子供与体であり、Xは、アニオン性配位子であり、Arは、ナフチル基または(C3−C14)−ヘテロアリール基であり、Arは置換されていてもよい]のRu−カルベン錯体をさらに提供する。
【0038】
LおよびL’は、トリフェニルホスファン、トリイソプロピルホスファン、トリシクロヘキシルホスファン、および9−シクロヘキシル−9−ホスファビシクロ[3.3.1]ノナンからなる群から独立して選択することができる。
【0039】
Lは、複素環カルベンであってもよく、L’は、トリフェニルホスファン、トリイソプロピルホスファン、トリシクロヘキシルホスファン、および9−シクロヘキシル−9−ホスファビシクロ[3.3.1]ノナンからなる群から選択することができる。
【0040】
Arは、好ましくは、フリル基またはチエニル基である。
【0041】
これらのRu−カルベン錯体は、メタセシス反応において使用することができる。
【0042】
式I
RuX2(=CH−CH2R)L2(I)
[式中、Xは、アニオン性配位子であり、Rは、水素、あるいは置換もしくは非置換の(C1−C18)−アルキル基または(C3−C8)−シクロアルキル基または(C2−C7)−ヘテロシクロアルキル基、(C6−C14)−アリール基または(C3−C14)−ヘテロアリール基であり、配位子Lは、非荷電の電子供与体配位子である]の所望のルテニウム錯体は、本発明の方法において、まず式II
RuXxy(II)
[式中、Xは、上記に定義したとおりであり、xは、2以上の整数であり、yは、0以上の整数であり、y≧1の場合、配位子Nは同一のまたは異なる配位性の非荷電配位子である]の金属塩を塩基および還元剤の存在下、および水素の存在下または不在下でLと反応させ(反応A)、続いて中間体を単離せずに、一般式III
R−C≡CSiR’3(III)
[式中、Rは、上記に定義したとおりであり、基R’は、水素、(C1−C8)−アルキル、(C1−C8)−アルコキシ、(C6−C10)−アリールオキシ、(C6−C10)−アリールからなる群から選択される同一のまたは異なる基である]のシリルアルキンと、酸の存在下で反応させる(反応B)ことによって製造される。
【0043】
還元剤としては、任意の還元剤を使用することが可能であり、水素、ギ酸、アルコール、および金属還元剤が好ましい。水素、第2級アルコール、およびアルカリ土類金属が特に好ましい。
【0044】
RuX3(式II;x=3、y=0)の還元は、好ましくは、水素を用いて、金属還元剤の存在下、好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属、例えば亜鉛(金属の状態で存在する)の存在下で実施することができる。
【0045】
アルカリ土類金属、好ましくはマグネシウムは、好ましくは活性化された状態で使用する。このとき活性化は、例えばクロロアルカンまたはブロモアルカンと接触させることによって実施することができる。
【0046】
例えば、ワンポット反応において、不活性ガス雰囲気下で、希塩素を含有する有機溶媒、例えばジクロロエタン中にマグネシウムを加え、活性化反応後、水素雰囲気下で、溶媒、RuX3、および配位子Lと、好ましくは1分間〜1時間反応させることができる。
【0047】
本実施形態において、塩基の役割は、過剰の塩基性配位子Lによって果たされる。
【0048】
ここでは、使用する配位子Lとルテニウム塩とのモル比は、好ましくは3〜10:1、特に好ましくは3〜5:1である。
【0049】
RuX3またはその水和物と配位子Lとの反応は、まず還元剤および水素の存在下、不活性溶媒中で実施する。
【0050】
この反応工程における温度は、0〜100℃、好ましくは40〜80℃であってよい。
【0051】
圧力は、好ましくは0.01〜100バール、特に好ましくは0.01〜5バール、とりわけ0.01〜1バールであってよい。
【0052】
溶媒として、例えば、芳香族化合物、複素環式芳香族化合物、環状エーテルまたは非環状エーテルを使用することが可能である。
【0053】
好適な溶媒は、トルエン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン、ジアルキルエーテル、グリコールエーテル、およびジオキサンである。テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0054】
RuXxy(式II;x≧2、y≧l)の還元は、好ましくは、アルコール、好ましくは第2級もしくは第3級アルコール、例えばイソプロパノールまたはtert−ブチルアルコールを用いて、あるいはギ酸またはその誘導体、例えばギ酸−トリエチルアミン錯体を用いて実施することができる。
【0055】
本発明の方法は、有利には、式IIの金属塩(RuXxy)と、塩基と、配位子と、適切な場合には還元剤、好ましくはギ酸とをアルコールおよび/または不活性溶媒中に懸濁させることによって実施する。
【0056】
塩基としては、任意の無機および有機塩基、好ましくは窒素塩基、または塩基性配位子Lを使用することが可能である。この工程における温度は、好ましくは0〜150℃、特に好ましくは20〜100℃、とりわけ40〜80℃である。
【0057】
続いて、反応Bにおいて、好ましくは−80〜60℃、特に好ましくは−30〜20℃の範囲の温度で、反応混合物を一般式(II)のシリルアルキンと反応させる。このとき、最初に使用するルテニウム塩とシリルアルキンとのモル比は、好ましくは1:1〜1:4であってよい。
【0058】
反応は、好ましくは、酸の存在下で実施する。
【0059】
酸としては、ブレンステッド酸、例えば鉱酸、または水を使用することが可能である。水の場合、酸は、水と塩とから「in−situ」生成する。
【0060】
これに続き、一般式:
2C=CR12(IV)
[式中、R1は、水素、あるいは置換もしくは非置換の(C1−C18)−アルキルまたは(C3−C8)−シクロアルキル基、(C2−C7)−ヘテロシクロアルキル基、(C6−C14)−アリール基または(C3−C14)−ヘテロアリール基であり、R2は、(C6−C14)−アリール基または(C3−C14)−ヘテロアリール基であり、基R1およびR2は、5〜7員環を有してもよい]の化合物との反応(C)を実施して、ルテニウム−アルキリデン錯体(I)の単離を行なわずに、一般式:
RuX2(=CR12)L2(V)
[式中、X、L、R1、およびR2は、上記に定義した通りである]のより安定なRu−アリールアルキリデン錯体を得ることは有利である。
【0061】
本発明の方法において、シリルアルキンとの反応Bの直後に、得られた溶液にアルケン(V)を添加することは有利となりうる。この工程の反応温度は、有利には、−50℃〜40℃、好ましくは−20℃〜30℃、特に好ましくは−10℃〜20℃の範囲に維持する。
【0062】
反応は、好ましくは、10分〜48時間、特に好ましくは30分〜10時間にわたって実施することができる。
【0063】
アルケン(IV)と最初に使用するルテニウム塩とのモル比は、好ましくは1〜20:1、特に好ましくは2〜10:1であってよい。
【0064】
本発明は、本発明によって始めて得ることができるようになった一般式(VI)
【化3】

[式中、LおよびL’は、同一または異なり、それぞれ非荷電の電子供与体であり、Xは、アニオン性配位子であり、Arは、置換もしくは非置換のナフチル基、または(C3−C14)−ヘテロアリール基である]のRu−カルベン錯体をさらに提供する。
【0065】
LおよびL’は、好ましくは、トリフェニルホスファン、トリイソプロピルホスファン、トリシクロヘキシルホスファン、および9−シクロヘキシル−9−ホスファビシクロ[3.3.1]ノナンからなる群から独立して選択することができる。
【0066】
Lは、好ましくは複素環カルベンであってよく、L’は、トリフェニルホスファン、トリイソプロピルホスファン、トリシクロヘキシルホスファン、および9−シクロヘキシル−9−ホスファビシクロ[3.3.1]ノナンからなる群から選択される。
【0067】
式VIの新規のRu−カルベン錯体は、室温でのメタセシス反応における高い触媒活性を示すと同時に、著しい熱安定性を示す。
【0068】
配位子LおよびL’として2つのホスファンを有する本発明による式VIの錯化合物では、配位子としてN−複素環カルベンを有する式VIの錯化合物を製造する際に、有機溶媒中での高い安定性が特に有利である。
【0069】
本発明の方法によって製造された化合物は、環状オレフィンの重合、種々のオレフィンの交差メタセシス、およびジエンの閉環メタセシス(RCM)における触媒として非常に適している。
【0070】
Xは、一価のアニオン性配位子であってもよく、あるいはX2は、単一の二価アニオン性配位子、例えばハロゲン、擬ハロゲン、カルボキシレート、サルフェート、またはジケトナートであってもよい。Xは、好ましくはハロゲン、とりわけ臭素または塩素、特に塩素である。
【0071】
配位子Lは、非荷電の電子供与体配位子である。例には、複素環カルベン、アミン、ホスファン、ホスホナイト、ホスフィナイト、ホスファイト、およびアルサンがあり、好ましくはホスファンである。トリフェニルホスファン、トリイソプロピルホスファン、およびトリシクロヘキシルホスファンが特に好ましい。
【0072】
本発明の方法において、二座キレート配位子として配位子L2を使用することが有利となりうる。例には、ジホスファンおよびホスファイトがある。
【0073】
キレート配位子L2の場合、異なる配位基L−Z−L’を有する二座配位子を使用することも有利となりうる。例には、アミノホスファン(VII)、ホスファン−ホスファイト(VIII)、およびカルベン−ホスファン(IX):
【化4】

[式中、Zは、2つの配位基LおよびL’を共有結合する架橋部である]がある。
【0074】
本発明の目的で、任意の塩基(プロトン受容体)および任意の酸(プロトン供与体)が適している。好適な塩基は、水よりも強い塩基性を有するものである。例には、窒素塩基、金属水酸化物、金属アルコキシドおよびフェノキシドがある。好適な塩基は、ピリジン、トリエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン、KOH、NaOH、KO−t−ブチル、およびNaO−メチル、とりわけトリエチルアミンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)である。好適な酸は、ブレンステッド酸、特に好ましくはハロゲン化水素酸である。例には、HF、HCl、HBr、およびHIからなる群から選択されるものがあり、HClおよびHBrが特に好ましい。
【0075】
本発明の目的で、非荷電配位子Nは、(C2−C12)−アルケン、(C3−C12)−シクロアルケン、(C6−C14)−アレーン、(C3−C12)−ヘテロアレーン、エーテル、ホスファン、ホスファイト、アミン、イミン、ニトリル、イソニトリル、ジアルキルスルホキシド、または水である。
【0076】
シクロアルケンの例は、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロドデセン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン、ならびにシクロオクタジエンおよびシクロオクタテトラエンの異性体、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2,5−ジエンである。
【0077】
アレーンおよびヘテロアレーンは、例えば、ベンゼン、p−シメン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、アセナフテン、フルオレン、フェナントレン、フラン、チオフェン、クマロン、チオナフテン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、クロメン、またはチアントレンである。
【0078】
窒素塩基は、例えば、アミン、窒素芳香族化合物、またはグアニジンである。
【0079】
アミンの例は、アンモニア、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピペリジン、N−メチルピロリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2−2]オクタン、または1,8−ジアゾビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンである。
【0080】
窒素芳香族化合物は、例えば、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピロール、インドール、カルバゾール、イミダゾール、ピラゾール、ベンズイミダゾール、オキサゾール、チアゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナジン、フェノキサジン、フェノチアジン、またはトリアジンである。
【0081】
グアニジンの例は、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−イミンである。
【0082】
イミンは、アルデヒドまたはケトンの酸素原子が窒素原子に置き換えられた化合物群である。この窒素原子は、水素または別の有機基をさらに担持する。
【0083】
ニトリルの例は、アセトニトリルおよびベンゾニトリルである。
【0084】
イソニトリルの例は、n−ブチルイソニトリル、シクロヘキシルイソニトリル、およびベンジルイソニトリルである。
【0085】
エーテルの例は、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルもしくはジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルもしくはジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、およびトリエチレングリコールジメチルエーテルである。
【0086】
ジアルキルスルホキシドの例は、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、およびペンタメチレンスルホキシドである。
【0087】
本発明の目的で、ホスファンは、式
PR123
[式中、R1、R2、およびR3は、同一でもまたは異なってもよく、水素、(C1−C18)アルキル、(C3−C8)−シクロアルキル、(C2−C7)−ヘテロシクロアルキル、(C6−C14)−アリール、および(C3−C14)−ヘテロアリールからなる群から選択することができ、R1、R2、およびR3は、1つ以上の環状構造体を有してもよい]の化合物である。
【0088】
本発明の目的で、ホスフィナイトは、式
PR123
[式中、R1、R2は、同一でもまたは異なってもよく、(C1−C18)−アルキル、(C3−C8)−シクロアルキル、(C2−C7)−ヘテロシクロアルキル、(C6−C14)−アリール、および(C3−C14)−ヘテロアリールからなる群から選択することができ、R3は、−OH、(C1−C8)−アルコキシ、(C6−C14)−アリールオキシからなる群から選択することができ、基R1、R2、およびR3は、1つ以上の環状構造体を有してもよい]の化合物である。
【0089】
本発明の目的で、ホスホナイトは、式
PR123
[式中、R1、R2は、同一でもまたは異なってもよく、(C1−C8)−アルコキシ、(C6−C14)−アリールオキシからなる群から選択することができ、R3は、(C1−C18)−アルキル、(C3−C8)−シクロアルキル、(C2−C7)−ヘテロシクロアルキル、(C6−C14)−アリール、および(C3−C14)−ヘテロアリールからなる群から選択することができ、基R1、R2、およびR3は、1つ以上の環状構造体を有してもよい]の化合物である。
【0090】
本発明の目的で、ホスファイトは、式
PR123
[式中、R1、R2、およびR3は、同一でもまたは異なってもよく、−OH、(C1−C8)−アルコキシ、(C6−C14)−アリールオキシなる群から選択することができ、基R1、R2、およびR3は、1つ以上の環状構造体を有してもよい]の化合物である。
【0091】
(C1−C18)−アルキル基は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノナニル、デカニル、ドデカニル、およびオクタデカニル、ならびにこれらの全ての構造異性体である。(C1−C18)−アルコキシ基は、酸素原子を介して分子に結合しているという条件で、(C1−C18)−アルキル基と一致する。
【0092】
(C3−C8)−シクロアルキルという用語は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、およびシクロヘプチル基などを指す。これらは、1つ以上のハロゲンおよび/またはN−、O−、P−、S−、Si含有基で置換されていてもよく、および/または環中にN−、O−、P−、S原子を有してもよく、例えば、1−、2−、3−、4−ピペリジル、1−、2−、3−ピロリジニル、2−、3−テトラヒドロフリル、2−、3−、4−モルホリニルである。
【0093】
(C6−C14)−アリール基という用語は、6〜14個の炭素原子を有する芳香族基を指す。このような基には、とりわけフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基などの化合物、あるいは上述の様式で当該の分子に縮合した系、例えばインデニル系が含まれ、これらはハロゲン、(C1−C8)−アルキル、(C1−C8)−アルコキシ、NH2、−NO、−NO2、NH(C1−C8)−アルキル、−N((C1−C8)−アルキル)2、−OH、−CF3、−Cn2n+1、NH(C1−C8)−アシル、N((C1−C8)−アシル)2、(C1−C8)−アシル、(C1−C8)−アシルオキシ、−S(O)2((C1−C8)−アルコキシ)、−S(O)((C1−C8)−アルコキシ)、−P(O)((C1−C8)−アルコキシ)2、または−OP(O)((C1−C8)−アルコキシ)2で置換されていてもよい。
【0094】
本発明の目的で、(C3−C14)−ヘテロアリール基は、3〜14個の炭素原子を有し、環中に窒素、酸素、または硫黄などのヘテロ原子を有する、5−、6−、もしくは7員芳香環系である。このような複素環式芳香族化合物は、とりわけ1−、2−、3−フリル、1−、2−、3−ピロリル、1−、2−、3−チエニル、2−、3−、4−ピリジル、2−、3−、4−、5−、6−、7−インドリル、3−、4−、5−ピラゾリル、2−、4−、5−イミダゾリル、アクリジニル、キノリニル、フェナントリジニル、2−、4−、5−、6−ピリミジニルなどの基である。
【0095】
この基は、上述のアリール基と同様の基で置換されていてもよい。
【0096】
複素環カルベンは、一般式
【化5】

[式中、RおよびR’は、同一でもまたは異なってもよく、水素、(C1−C18)−アルキル、(C3−C8)−シクロアルキル、(C2−C7)−ヘテロシクロアルキル、(C6−C14)−アリール、および(C3−C14)−ヘテロアリールからなる群から選択することができ、XおよびYは、それぞれ互いに独立して、窒素原子またはリン原子であってよく、Aは、C2−C4架橋(飽和または不飽和、置換または非置換、架橋炭素はヘテロ原子で置換することができる)の一部であってよい]のうちの1つのカルベンである。
【0097】
可能なハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素である。
【0098】
本文において言及する参考文献は、参考として本開示で援用される。
【0099】
基CnF2n+1において、nは、2〜5の整数である。
【0100】
オルガノシリル基は、R’、R’’、R’’’Si基であり、式中R’、R’’、およびR’’’は、水素、(C1−C8)−アルキル、(C6−C18)−アリール、(C1−C8)−アルコキシ、(C6−C18)−アリールオキシからなる群から独立して選択することができる。
【0101】
本発明の方法は、所望のルテニウム−アルキリデン錯体を、容易に入手できるRu塩と、シリルアルキンと、適切な場合にはアルケンとを用いて合成できるという利点を有する。
【0102】
本方法は、大気圧で、また工業用溶媒中で実施することができる。さらに、熱に対して不安定なシクロプロペン化合物またはジアゾアルカン化合物を使用しない。
【0103】
ドイツ特許第19854869号に記載の既知の方法と比較して、より少量のホスフィンが必要とされる。
【0104】
さらに、ドイツ特許第19854869号で使用するアセチレンは、より危険性が低く、より計量供給が容易なトリメチルシリルアセチレンに置き換えられる。さらに、全収率も高くなる。
【0105】
欧州特許第0839821号に記載の既知の方法とは対照的に、一般に、ビニリデン錯体形成は、ほとんどまたは全く認められない。ビニリデン錯体は、所望のアルキリデン錯体から分離するのが困難であり、また穏やかな反応条件下でカルベン単位を交換しない。したがってこれらは、非常に不活発なメタセシス触媒である。この方法におけるルテニウム錯体は、カルベン炭素上にいかなるヘテロ原子も含有しない。
【0106】
実施例
実施例1
エチリデン錯体の合成
Cl2[P(C6H11)3]2Ru=CH−CH3(1):
a)2.7gのMgを100mlのTHFに加えた懸濁液を2.8mlの1,2−ジクロロエタンと混合した。激しい反応の完了後、2.43gの塩化ルテニウム水和物と8.4gのトリシクロヘキシルホスファンとを添加し、10分間攪拌した後、保護ガスをゲージ圧0.01バールの水素に交換し、密閉したフラスコ内で反応混合物を60℃で4時間加熱した。得られた橙色の懸濁液を−40℃まで冷却し、1.4mlのトリメチルシリルアセチレンの添加後、30分間かけて5℃まで加温した。続いて0.6mlの水を添加し、混合物を0℃でさらに30分間攪拌した。混合物を濾過して過剰のマグネシウムを除去し、濾液を減圧下、0℃で蒸発させた。残留物を冷却したMeOHとともに攪拌した。得られた紫色の粉末を冷却したメタノールで洗浄し、減圧下で乾燥させた。収率:7.23g(95%)。
【0107】

【0108】
b)RuCl2(1,5−シクロオクタジエン)(560mg;2mmol)と、0.6mlの1,8−ジアゾビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)と、1.18gのトリシクロヘキシルホスフィンとを60mlのイソプロパノールに加えた茶色の懸濁液を80℃で2時間攪拌した。60mlのトルエンを得られた赤煉瓦色の懸濁液に添加し、混合物を80℃でさらに90分間攪拌し、−10℃まで冷却した。0.55mlのトリメチルシリルアセチレンの添加後、10mlの2M HCl溶液(ジエチルエーテル中)を添加し、続いて混合物を5分間攪拌した。混合物を攪拌しながら0℃まで加温し、45分間攪拌した。高真空中0℃で蒸発させた後、残留物を冷却したMeOHとともに攪拌した。得られた紫色の粉末を冷却したメタノールで洗浄し、減圧下で乾燥させた。収率:1.40g(92%)。
【0109】
実施例2
アルキリデン錯体(2)の合成:
【化6】

【0110】
Ru(cod)Cl2(660mg、2.35mmol)をAr雰囲気下でiPrOH(20ml)に懸濁させた。DBU(0.75ml)およびPCy3溶液(c=20%、トルエン中0.77M、7.7ml)を添加した。得られた茶色の懸濁液を80℃で1時間攪拌してから、トルエン(25ml)を添加した。混合物を80℃でさらに30分間攪拌した。次に反応混合物を0℃まで冷却し、1−トリメチルシリル−l−ヘキシン(2.1g)を添加した。10分間攪拌した後、HCl溶液(c=Et2O中2M、2.4ml)を0℃で反応混合物に添加した。1時間攪拌した後、反応混合物を蒸発させた。MeOH(約30ml)を残留物に添加した。濾過により、錯体2を得た。NMRにより、副生成物も示された。
【0111】

【0112】
実施例3
ベンジリデン錯体の合成
C12[P(C6H11)3]2Ru=CH−C6H5(3):
12gのMgを100mlのTHFに加えた懸濁液を8mlの1,2−ジクロロエタンと混合した。激しい反応の完了後、12.2gの塩化ルテニウム水和物と42gのトリシクロヘキシルホスファンとを400mlのTHFに加えた溶液を添加し、10分間攪拌した後、保護ガスをゲージ圧0.01バールの水素に交換し、密閉したフラスコ内で、反応混合物を60℃まで5時間加熱した。得られた橙色の懸濁液を−40℃まで冷却し、9.7mlのトリメチルシリルアセチレンの添加後、30分間かけて5℃まで加温した。続いて1.8mlの水を添加し、混合物を0℃でさらに30分間攪拌した。11.5mlのスチレンを得られた反応混合物に添加した。室温で1時間攪拌した後、混合物を濾過し、濾液を減圧下で蒸発させた。残留物を冷却したMeOHとともに攪拌した。得られた紫色の粉末を冷却したメタノールで洗浄し、減圧下で乾燥させた。収率:37.44g(91%)。
【0113】
実施例4
ジクロロビス(トリシクロヘキシルホスファン)(チエン−2−イルメチリデン)ルテニウム(II)(4)の製造
【化7】

【0114】
a)Ru(cod)Cl2(660mg、2.35mmol)をAr雰囲気下でiPrOH(20ml)に懸濁させた。DBU(0.75ml、5mmol)とPCy3溶液(c=20%、トルエン中0.77M、7.5ml)とを添加した。得られた茶色の懸濁液を80℃で1時間攪拌した。次にTHF(30ml)を添加し、混合物を80℃でさらに30分間攪拌した。その後反応混合物を20℃まで冷却し、HCl溶液(c=Et2O中2M、2.4ml)を添加した。5分間攪拌した後、トリメチルシリルアセチレン(1.4ml、20.4mmol)を約22℃で反応混合物に添加し、混合物を20分間攪拌した。続いて、2−ビニルチオフェンの溶液(c=THF中約50%、2.4g)を添加した。室温で70分間攪拌した後、反応混合物をロータリーエバポレータで蒸発させた。残留物をDCM(約5ml)に溶解させた。MeOH(40ml)を添加した後、得られた懸濁液をAr雰囲気下で約15分間攪拌した。濾過により、濃紫色の固体として、錯体4(1.15g、1.38mmol、59%)を得た。
【0115】

【0116】
b)2−ビニルチオフェンの溶液(c=THF中約50%、2.4g)を、Cl2[P(C61132Ru=CH−CH3(1)(225mg、0.296mmol)をトルエン(5ml)に加えた溶液に添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌し、続いて減圧下で溶媒を除去した。残留物をCH2Cl2(約1ml)中に取り出し、MeOH(約10ml)を用いて析出させた。濾過およびMeOH(約3ml)での洗浄によって、濃紫色の固体として、生成物4(170mg、0.21mmol、71%)を得た。
【0117】
実施例5
ジクロロビス(トリシクロヘキシルホスファン)(2−ナフトメチリデン)ルテニウム(II)(5)の製造
【化8】

【0118】
a)Ru(cod)Cl2(1.32g、4.71mmol)をAr雰囲気下で50mlのイソプロパノールに懸濁させた。DBU(1.5ml、10mmol)とPCy3溶液(c=20%、トルエン中0.77M、15ml、11.6mmol)とを添加した。得られた茶色の懸濁液を80℃で1時間攪拌した。60mlのトルエンを得られた赤煉瓦色の懸濁液に添加して、混合物を80℃でさらに90分間攪拌した。反応混合物を5℃まで冷却し、トリメチルシリルアセチレン(2.8ml、20.4mmol)を添加した。5分間攪拌した後、4.8mlの2M HCl溶液(9.6mmol、ジエチルエーテル中)を添加し、混合物を20分間攪拌した。2−ビニルナフタレン(1g、6.5mmol)をトルエン(4.5ml)に加えた溶液を続いて添加した。室温で120分間攪拌した後、反応混合物をロータリーエバポレータで蒸発させた。残留物をジクロロメタン(約7ml)中に取り出した。MeOH(120ml)を添加した後、得られた懸濁液を約15分間攪拌し、−78℃まで冷却した。濾過により、紫色の固体として、錯体(1.75g、43%)を得た。
【0119】

【0120】
b)2−ビニルナフタレン(154mg、1mmol)をトルエン(2ml)に加えた溶液を、Cl2[P(C61132Ru=CH−CH3(1)(340mg、0.45mmol)をトルエン(5ml)に加えた溶液に、アルゴン雰囲気下−45℃で添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌した。続いて、減圧下で溶媒を留去した。残留物をCH2Cl2(約1ml)中に取り出し、MeOH(約15ml)を用いて析出させた。生成物5(濃い紫色の固体)を濾別し、MeOH(約5ml)で洗浄した。収率:220mg(56%)。
【0121】
実施例6
ジクロロビス(2−ナフチルメチリデン)(1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−イル](トリシクロヘキシル−ホスファン)ルテニウム(II)(6)の製造
【化9】

【0122】
1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリン−2−イリデン溶液(トルエン4ml中、1.08mmol)を、錯体5(873mg、1mmol)をトルエン(20ml)に加えた溶液に、アルゴン雰囲気下で添加した。反応混合物を室温で2時間攪拌し、続いて水(2×10ml)で洗浄した。有機層を蒸発させた。残留物を1mlのCH2Cl2中に取り出し、10mlのMeOHで希釈し、−18℃で2時間冷却した。濾過により、暗褐色の結晶として、生成物6(300mg、0.33mmol、33%)を得た。
【0123】

【0124】
実施例7
ジクロロビス(2−ナフチルメチリデン)[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジメチルイミダゾール−2−イル](トリシクロヘキシルホスファン)ルテニウム(II)(7)の製造
【化10】

【0125】
4,5−ジメチル−l,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリン−2−イリデン(400mg、1.2mmol)を錯体5(873mg、1mmol)を乾燥トルエン(30ml)に加えた溶液に添加し、混合物をアルゴン雰囲気下、室温で30分間攪拌した。反応混合物を減圧下で蒸発させ、MeOH(15ml)とともに攪拌した。析出した結晶を濾別し、出発錯体5として同定した。濾液をその容積の半分まで蒸発させ、冷蔵庫内で低温保存した。暗紫褐色の結晶である純生成物7を濾別し、減圧下で乾燥させた。
【0126】

【0127】
実施例8
ジクロロビス(トリシクロヘキシルホスファン)(2−フリルメチリデン)ルテニウム(II)(8)の製造
【化11】

【0128】
Ru(cod)Cl2(5.6g、20mmol)をAr雰囲気下でiPrOH(200ml)に懸濁させた。DBU(6.6ml、44mmol)とPCy3(12.34g、44mmol)とを添加した。得られた茶色の懸濁液を80℃で1時間攪拌した。次にTHF(100ml)を添加し、混合物を80℃でさらに30分間攪拌した。その後反応混合物を10℃まで冷却し、HCl溶液(c=Et2O中2M、24ml)を添加した。5分間攪拌した後、トリメチルシリルアセチレン(8.3ml、60mmol)を反応混合物に添加し、混合物を20分間攪拌した。2−ビニルフラン(9.4g、100mmol)を続いて添加した。氷浴中で3時間攪拌した後、暗紫色の固体として錯体8を単離し、冷却したメタノールで十分に洗浄し、減圧下で乾燥させた。収率:13.9g(85%)。
【0129】

【0130】
実施例9
ジクロロ(チエン−2−イルメチリデン)(1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−イリデン]−(トリシクロヘキシルホスファン)ルテニウム(II)(9)の製造
【化12】

【0131】
1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリン−2−イリデン溶液(トルエン52ml中、16mmol)を、錯体4(8.3g、10mmol)をトルエン(400ml)に加えた溶液に、アルゴン雰囲気下で添加した。反応混合物を室温で4時間攪拌し、続いて水(2×100ml)で洗浄した。有機層を50mlのヘプタンと混合し、蒸発させて濃縮した。濾過し、ヘキサンで洗浄し、続いてメタノールでの洗浄し、減圧下で乾燥させることにより、暗紫色の固体として、生成物9(6.14g、72%)を得た。
【0132】

【0133】
実施例10
ジクロロ(チエン−2−イルメチリデン)[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジメチルイミダゾール−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスファン)ルテニウム(II)(10)の製造
【化13】

【0134】
4,5−ジメチル−1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリン−2−イリデン溶液(トルエン52ml中、16mmol)を、錯体4(8.3g、10mmol)をトルエン(400ml)に加えた溶液に、アルゴン雰囲気下で添加した。反応混合物を室温で4時間攪拌し、続いて水(2×100ml)で洗浄した。有機層を50mlのヘプタンと混合し、蒸発させて濃縮した。濾過し、ヘキサンで洗浄し、続いてメタノールでの洗浄し、減圧下で乾燥させることにより、暗紫色の固体として、生成物10(4.74g、54%)を得た。
【0135】

【0136】
実施例11
ジクロロ(チエン−2−イルメチリデン)(1,3,4−トリフェニル−4,5−ジヒドロ−lH−l,2,4−トリアゾール−5−イリデン)(トリシクロヘキシルホスファン)ルテニウム(II)(11)の製造
【化14】

【0137】
1,3,4−トリフェニル−4,5−ジヒドロ−lH−l,2,4−トリアゾール−5−イリデン(450mg、1.5mmol)を、錯体4(829mg、1mmol)を乾燥トルエン(20ml)に加えた溶液に添加し、混合物をアルゴン雰囲気下、室温で一晩攪拌した。反応混合物を減圧下で蒸発させ、ヘキサン(15ml)と混合した。析出した固体を濾別し、冷却したヘキサンで十分に洗浄し、減圧下で乾燥させた。収率:662mg(78%)。
【0138】

【0139】
実施例12
ジクロロビス(トリシクロヘキシルホスファン)(1−シクロヘキセニルメチリデン)ルテニウム(II)(12)の製造
【化15】

【0140】
錯体1(761mg、1mmol)を、1−ビニルシクロヘキセン(648mg、6mmol)を乾燥THF(5ml)に加えた冷却した溶液に添加し、混合物をアルゴン雰囲気下、4℃で一晩攪拌した。反応混合物をMeOH(30ml)と混合した。析出した固体を濾別し、冷却したMeOHで十分に洗浄し、減圧下で乾燥させた。収率:410mg(50%)。
【0141】

【0142】
実施例13
ジクロロビス(トリシクロヘキシルホスファン)(1−シクロペンチルイルメチリデン)ルテニウム(II)(13)の製造
【化16】

【0143】
錯体1(761mg、1mmol)を、1−ビニルシクロペンテン(470mg、5mmol)を乾燥THF(5ml)に加えた冷却した溶液に添加し、混合物をアルゴン雰囲気下、4℃で一晩攪拌した。反応混合物をMeOH(30ml)と混合した。析出した固体を濾別し、冷却したMeOHで十分に洗浄し、減圧下で乾燥させた。収率:350mg(43%)。
【0144】

【0145】
実施例14
N,N−ジアリル−p−トルエンスルホンアミドの閉環メタセシス
N,N−ジアリル−p−トルエンスルホンアミド(0.350mmol、84mg)を17.5mlのトルエンに加えた溶液を、触媒としての本発明によるRu−カルベン錯体とアルゴン下で混合し、80℃で攪拌した。このときアルゴンは、毛細管を通して反応混合物中に直接導入した。200μlの一定分量の反応溶液を500μlの2M エチルビニルエーテル溶液(塩化メチレン中)に添加し、GCを用いて分析した。
【0146】
錯体4(0.1mol%)の存在下、15分後に93%の転化が認められた。
【0147】
錯体5(0.1mol%)の存在下、40分後に99%の転化が認められた。
【0148】
錯体6(0.05mol%)の存在下、40分後に98%の転化が認められた。
【0149】
実施例15
ジアリルマロン酸ジエチルの閉環メタセシス
【化17】

【0150】
ジアリルマロン酸ジエチルをジクロロメタン(c=3M)に加えた溶液を0.1mol%の触媒5とアルゴン下で混合し、40℃で攪拌した。200μlの一定分量の反応溶液を500μlの2M エチルビニルエーテル溶液(塩化メチレン中)に添加し、GCを用いて分析した。錯体5の存在下、3時間後に99%の転化が認められた。
【0151】
実施例16
N,N−ジメタリル−p−トルエンスルホンアミドの閉環メタセシス
【化18】

【0152】
N,N−ジメタリル−p−トルエンスルホンアミド(2mmol、559mg)を100mlのトルエンに加えた溶液を、触媒としての本発明によるRu−カルベン錯体とアルゴン下で混合し、80℃で攪拌した。このときアルゴンは、毛細管を通して反応混合物中に直接導入した。200μlの一定分量の反応溶液を500μlの2M エチルビニルエーテル溶液(塩化メチレン中)に添加し、GCを用いて分析した。
【0153】
錯体7(0.5mol%)の存在下、10分後に70%の転化が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
RuX2(=CH−CH2R)L2(I)
[式中、
Xは、アニオン性配位子であり、
Rは、水素、あるいは(C1−C18)−アルキル基、(C3−C8)−シクロアルキル基、(C2−C7)−ヘテロシクロアルキル基、(C6−C14)−アリール基、または(C3−C14)−ヘテロアリール基であり、
Lは、非荷電の電子供与体配位子である]のルテニウム錯体を製造するための方法であって、
A)一般式:
RuXxy(II)
[式中、
xは、2以上の整数であり、
Xは、上記に定義したとおりであり、
yは、0以上の整数であり、
y≧1の場合、
前記配位子Nは、同一のまたは異なる配位性の非荷電配位子である]のRu金属塩を塩基および還元剤の存在下でLと反応させ、
B)続いて、一般式III
R−C≡CSiR’3(III)
[式中、
Rは、上記に定義したとおりであり、
基R’は、水素、(C1−C8)−アルキル、(C1−C8)−アルコキシ、(C6−C10)−アリールオキシ、(C6−C10)−アリールからなる群から選択される同一のまたは異なる基である]のシリルアルキンと反応させることを特徴とする方法。
【請求項2】
一般式
RuX2(=CR12)L2
[式中、
XおよびLは、請求項1に示す意味を有し、
1は、水素、あるいは(C1−C18)−アルキル基または(C3−C8)−シクロアルキル基または(C2−C7)−ヘテロシクロアルキル基、(C6−C14)−アリール基または(C3−C14)−ヘテロアリール基であり、R2は、(C6−C14)−アリール基または(C3−C14)−ヘテロアリール基であり、基R1およびR2は、5〜7員環を有してもよい]のルテニウム錯体を製造するための方法であって、
A)一般式:
RuXxy(II)
[式中、X、N、ならびに整数xおよびyは、請求項1に示す意味を有する]のRu金属塩を塩基および還元剤の存在下でLと反応させ、
B)続いて、一般式III
R−C≡CSiR’3(III)
[式中、RおよびR’は、請求項1に示す意味を有する]のシリルアルキンと反応させ、
C)続いて、一般式IV
2C=CR12(IV)
[式中、R1およびR2は、上記に示す意味を有する]のアルケンと反応させることを特徴とする方法。
【請求項3】
前記非荷電の電子供与体配位子Lが、ホスファン、ホスフィナイト、ホスホナイト、およびホスファイトからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
Lが、トリフェニルホスファン、トリイソプロピルホスファン、トリシクロヘキシルホスファン、および9−シクロヘキシル−9−ホスファビシクロ[3.3.1]ノナンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
2が、一般式
【化1】

[式中、LおよびL’は、同一でもまたは異なってもよく、−PR12、−P(OR1)(OR2)、−NR12、および複素環カルベンからなる群から選択され、Zは、前記2つの基を共有結合する架橋部である]の二座配位子からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
一般式RuXxyの前記Ru金属塩において、x=3およびy=0であり、また前記Ru金属塩の還元が、金属還元剤の存在下、水素を用いて実施されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
マグネシウムが還元剤として使用されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
過剰の塩基性配位子が塩基として使用されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
一般式RuXxyの前記Ru金属塩において、x≧2およびy>0であり、また前記Ru金属塩の還元が、アルコールまたはギ酸−トリエチルアミン錯体を用いて実施されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
第2級アルコールが還元剤として使用されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
アミンが塩基として使用されることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
トリエチルアミンまたは1,8−ジアゾビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンが塩基として使用されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
一般式(VI)
【化2】

[式中、LおよびL’は、同一のまたは異なり、それぞれ非荷電の電子供与体であり、Xは、アニオン性配位子であり、Arは、ナフチル基または(C3−C14)−ヘテロアリール基であり、Arは置換されていてもよい]のRu−カルベン錯体。
【請求項14】
LおよびL’が、トリフェニルホスファン、トリイソプロピルホスファン、トリシクロヘキシルホスファン、および9−シクロヘキシル−9−ホスファビシクロ[3.3.1]ノナンからなる群から独立して選択されることを特徴とする、請求項13に記載のRu−カルベン錯体。
【請求項15】
Lが、複素環カルベンであり、L’が、トリフェニルホスファン、トリイソプロピルホスファン、トリシクロヘキシルホスファン、および9−シクロヘキシル−9−ホスファビシクロ[3.3.1]ノナンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項13に記載のRu−カルベン錯体。
【請求項16】
Arが、フリル基またはチエニル基であることを特徴とする、請求項13に記載のRu−カルベン錯体。
【請求項17】
メタセシス反応における、請求項13から16までのいずれか1項に記載のRu−カルベン錯体の使用。

【公表番号】特表2011−516526(P2011−516526A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503439(P2011−503439)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054248
【国際公開番号】WO2009/124977
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】