説明

ルテニウム並びに銀及び/又はカルシウムを含む塩化水素の酸化用触媒

塩化水素を酸素によって触媒的酸化して塩素を生成するための、担体に担持されたルテニウムを含む触媒であって、当該触媒は、0.01〜10質量%の銀及び/又はカルシウムをドーパントとして含むことを特徴とする触媒。担体は、実質的にα−酸化アルミニウムから構成されることが好ましい。触媒は、触媒の全質量に対して、a)0.1〜10質量%のルテニウム、b)0.01〜5質量%の銀及び/又は0.01〜5質量%のカルシウム、c)0〜5質量%の1種以上のアルカリ土類金属、d)0〜5質量%の1種以上のアルカリ金属、e)0〜5質量%の1種以上の希土類金属、f)0〜5質量%の、ニッケル、パラジウム、白金、イリジウム及びレニウムからなる群から選択される1種以上の更なる金属、を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を用いて塩化水素を触媒的酸化して塩素を生成するための触媒及びこの触媒を用いた塩化水素の触媒的酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1868年にDeaconによって開発された塩化水素を触媒的酸化する方法では、塩化水素は発熱平衡反応で酸素によって塩素に酸化される。塩化水素を塩素に転化することにより、塩素アルカリの電気分解による水酸化ナトリウムの製造から塩素の製造を切り離すことが可能となる。世界では塩素の需要が水酸化ナトリウムの需要より急速に伸びているのでこのような切り離しは魅力的である。また、塩化水素は、例えばイソシアネートの製造において、例えばホスゲン化反応において副産物として大量に得られる。
【0003】
特許文献1(EP−A0743277)は、ルテニウムを含む担持触媒を使用する、塩化水素の触媒的酸化による塩素の製造方法が開示されている。ここで、ルテニウムは、塩化ルテニウム、オキシ塩化ルテニウム、クロロルテネート錯体、水酸化ルテニウム、ルテニウム−アミン錯体又は更なるルテニウム錯体の状態で担体に施される。触媒は、パラジウム、銅、クロム、バナジウム、マンガン、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属を更なる金属として含んでもよい。
【0004】
特許文献2(GB1046313)によれば、塩化水素の触媒的酸化方法において、酸化アルミニウムに担持された塩化ルテニウム(III)を触媒として使用している。
【0005】
特許文献3(DE102005040286A1)は、
担体としてのα−酸化アルミニウム上に
a)0.001〜10質量%のルテニウム、銅及び/又は金、
b)0〜5質量%の1種以上のアルカリ土類金属、
c)0〜5質量%の1種以上のアルカリ金属、
d)0〜10質量%の1種以上の希土類金属、
e)0〜10質量%の、パラジウム、白金、オスミウム、イリジウム、銀及びレニウムからなる群から選択される1種以上の更なる金属、
を含む、塩化水素の酸化用の機械的に安定な触媒が開示されている。
【0006】
ドープに好適な促進剤として、リチウム、ナトリウム、カリウム及びルビジウム及びセシウム等のアルカリ金属、好ましくはリチウム、ナトリウム及びカリウム、特に好ましくはカリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム等のアルカリ土類金属、好ましくはマグネシウム及びカルシウム、特に好ましくはマグネシウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム及びネオジム等の希土類金属、好ましくはスカンジウム、イットリウム、ランタン及びセリウム、特に好ましくはランタン及びセリウム、又はこれらの混合物、更にチタン、マンガン、モリブテン及びスズが挙げられる。
【0007】
従来の触媒は、その触媒活性及び長期間の安定性に関してまだ改善の余地がある。特に、数100時間の比較的長期間の使用後は、公知の触媒の活性は著しく低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP−A0743277
【特許文献2】GB1046313
【特許文献3】DE102005040286A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、触媒活性及び長期安定性が向上した、塩化水素の触媒的酸化用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、塩化水素を酸素によって触媒的酸化して塩素を生成するための、担体に担持されたルテニウムを含む触媒であって、当該触媒は、0.01〜5質量%の銀及び/又は0.01〜5質量%のカルシウムを含むことを特徴とする触媒により達成される。
【0011】
銀及びカルシウムからなる群の金属のうち少なくとも1種をドープしたルテニウム含有触媒は、銀及びカルシウムを含まない触媒よりも高い活性を有することが見出された。この活性の向上は、第一に、塩化銀及び塩化カルシウムの促進性に起因し、更に、塩化銀及び塩化カルシウムによってもたらされる、触媒の表面に活性成分がより良好に分散することに起因すると考えられる。そのため、ルテニウムは、本発明の触媒に、結晶子サイズが7<nmのRuO2結晶子として、新たな(fresh)状態又は再生された状態で存在する。結晶子サイズはXRDパターンにおいてその種の反射の半分の高さにおける幅から測定される。銀及びカルシウムは焼結障壁(sintering barrier)として作用し、これによりRuO2の結晶子の成長が防止されるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
触媒には、銀、カルシウム又はその両方の金属をドープすることができる。好ましい実施の形態では、触媒は、0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜1.5質量%の銀を含んでいる。更に好ましい実施の形態では、触媒は、0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜2.0質量%のカルシウムを含んでいる。
【0014】
流動床触媒の場合には、AgClはブリッヂを形成する傾向にあり、流動床触媒の粒子が膠着する場合があるので、ドープされた流動床触媒の銀含有量は1.0質量%以下であることが好ましい。
【0015】
好適な担体材料は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムである。好ましい担体は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム及び二酸化チタン、特に好ましくは酸化アルミニウム及び二酸化チタンである。極めて特に好ましい担体はアルファ−酸化アルミニウム(α−酸化アルミニウム)である。
【0016】
一般に、本発明の触媒は、200℃を超える温度、好ましくは320℃を超える温度、特に好ましくは350℃を超える温度で気相反応を行うために使用される。しかしながら、反応温度は、通常、600℃以下、好ましくは500℃以下である。
【0017】
銀又はカルシウムに加えて、本発明の触媒は、促進剤として更なる金属を含んでいてもよい。これは通常、触媒の質量に対して10質量%以下の量で触媒に含まれる。
【0018】
塩化水素を触媒的酸化(catalytic oxidation:触媒作用による酸化)するための、ルテニウム並びに銀及び/又はカルシウムを含む本発明の触媒は、ニッケル、パラジウム、白金、イリジウム及びレニウムから選択される1種以上の他の遷移金属の化合物を付加的に含んでいてもよい。触媒はまた、1種以上の更なる金属がドープされていてもよい。ドープに好適な促進剤は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウム等のアルカリ金属、好ましくはリチウム、ナトリウム及びカリウム、特に好ましくはカリウム、また、マグネシウム、ストロンチウム及びバリウム等のアルカリ土類金属、好ましくはマグネシウム、また、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム及びネオジム等の希土類金属、好ましくはスカンジウム、イットリウム、ランタン及びセリウム、特に好ましくはランタン及びセリウム、又はこれらの混合物、更にチタン、マンガン、モリブテン及びスズである。
【0019】
塩化水素の酸化に好適な本発明の触媒は、
それぞれ触媒の全質量に対して
a) 0.1〜10質量%のルテニウム、
b) 0.01〜10質量%の銀及び/又はカルシウム、
c) 0〜5質量%の1種以上のアルカリ土類金属、
d) 0〜5質量%の1種以上のアルカリ金属、
e) 0〜5質量%の1種以上の希土類金属、
f) 0〜5質量%の、ニッケル、パラジウム、白金、イリジウム及びレニウムからなる群から選択される1種以上の更なる金属、
を含む。質量百分率は、金属が酸化状態又は塩化物の状態で担体上に存在する場合であっても金属の質量に基づく。
【0020】
一般に、ルテニウム、銀及び/又はカルシウムに加えて存在する更なる金属c)〜f)の全含有量は、5質量%以下である。
【0021】
本発明の触媒は、触媒の質量に対して0.5〜5質量%のルテニウム及び合計で0.1〜2.0質量%の銀及び/又はカルシウムを含むことが極めて特に好ましい。具体的な実施の形態では、本発明の触媒は、担体としてのα−酸化アルミニウム上に、約1.0〜2.0質量%のルテニウム及び0.2〜1.0質量%の銀を含み、更なる活性金属又は促進剤金属は含まず、ルテニウムはRuO2として存在している。更に具体的な実施の形態では、本発明の触媒は、担体としてのα−酸化アルミニウム上に、約1.0〜2.0質量%のルテニウム及び0.5〜1.0質量%のカルシウムを含み、更なる活性金属又は促進剤金属は含まず、ルテニウムはRuO2として存在している。
【0022】
本発明の触媒は、金属の塩の水溶液を担体材料に含浸することにより得られる。金属は、その塩化物、オキシ塩化物又は酸化物の水溶液として通常の方法で担体に施す。銀は好ましくは硝酸銀水溶液として施し、カルシウムは好ましくは塩化カルシウム水溶液として施す。触媒の成形(shaping)は、担体材料の含浸の後又は好ましくは前に行うことができる。本発明の触媒はまた、平均粒径が10〜200μmの粉末形態の流動床触媒としても使用される。固定床触媒としては、これら(触媒)は通常、成形した触媒体の形態で使用される。
【0023】
担持ルテニウム触媒は、例えば、RuCl3及びAgNO3又はCaCl2、及び適宜更なるドープ用促進剤(好ましくはその塩化物の状態)の水溶液を担体材料に含浸することにより得られる。触媒の成形は、担体材料の含浸の後又は好ましくは前に行うことができる。
【0024】
次いでその成形体又は粉末を乾燥させ、必要により、例えば窒素、アルゴン又は空気雰囲気下で100〜400℃、好ましくは100〜300℃で焼成する。まず成形体又は粉末を100〜150℃で乾燥させ、次いで200〜400℃で焼成することが好ましい。
【0025】
本発明はまた、活性金属及び任意に1種以上の促進剤金属を含む1種以上の金属塩溶液を担体材料に含浸し、含浸した担体を乾燥及び焼成することにより触媒を製造する方法も提供する。成形された触媒粒子を得るための成形は、含浸前又は後に行うことができる。本発明の触媒はまた粉末状で使用することもできる。
【0026】
好適な成形された触媒体はあらゆる形状、好ましくはペレット状、リング状、シリンダー状、星状、車の車輪状又は球状、特に好ましくはリング状、シリンダー状又は星状の押出成形物である。
【0027】
金属塩が堆積(deposition:析出、沈着、付着)する前の特に好ましいα−酸化アルミニウム担体の比表面積は、通常0.1〜10m2/gである。α−酸化アルミニウムは、γ−酸化アルミニウムを1000℃を超える温度に加熱することにより製造することができ、この方法で製造することが好ましい。通常、焼成は2〜24時間行う。
【0028】
本発明はまた、本発明の触媒で酸素によって塩化水素を触媒的酸化し、塩素を生成する方法も提供する。
【0029】
このため、塩化水素流及び酸素含有流を酸化領域(oxidation zone)に供給し、触媒の存在下で塩化水素を部分的に塩素に酸化し、塩素、未反応酸素、未反応塩化水素及び水蒸気を含む生成物ガス流を得る。イソシアネート製造用プラントに由来し得る塩化水素流は、ホスゲン及び一酸化炭素等の不純物を含んでいてよい。
【0030】
通常の反応温度は150〜500℃であり、通常の反応圧力は1〜25bar、例えば4barである。反応温度は>300℃が好ましく、350〜450℃が特に好ましい。更に、化学量論量を超える量で酸素を使用することが有利である。例えば、1.5〜4倍過剰の酸素を使用することが通常である。選択性の低下は懸念する必要がないので、比較的高圧で、またこれに応じて大気圧での滞留時間よりも長い滞留時間で稼働させることが経済的に有利であり得る。
【0031】
本発明に係る塩化水素の触媒的酸化を行う通常の反応装置は、固定床又は流動床反応器である。塩化水素の酸化は1つ以上のステージで行うことができる。
【0032】
触媒床又は流動触媒床は、本発明の触媒に加えて更なる好適な触媒又は追加的な不活性物質を含んでいてよい。
【0033】
塩化水素の触媒的酸化は、断熱的に又は好ましくは等温的に若しくは略(approximately)等温的に、流動床又は固定床方式として、好ましくは流動床方式として、バッチ式で又は好ましくは連続式で、特に好ましくはシェルアンドチューブ反応器内で、反応器温度200〜500℃、好ましくは300〜400℃で、1〜25bar、好ましくは1〜5barの圧力で行うことができる。
【0034】
等温的又は略等温的の形式の稼働においては、付加的な中間冷却体(intermediate cooling)と連続して連結された複数の反応器、例えば2〜10個、好ましくは2〜6個、特に好ましくは2〜5個、特に2又は3個の反応器を使用することもできる。酸素は、最初の反応器の上流に塩化水素と共に全て導入してもよいし、いくつかの反応器に分けて添加してもよい。この個々の反応器の連続的な配置は1つの装置内で組み合わせてもよい。
【0035】
固定床処理の実施形態では、流動する方向に触媒活性が増加する構造化された(structured)触媒床を使用する。このような触媒床の構造化は、触媒担体に活性組成物を別に含浸することにより、又は不活性物質で触媒床を別に希釈することにより行うことができる。不活性物質として、例えば、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム若しくはこれらの混合物、酸化アルミニウム、ステアタイト、セラミック、ガラス、グラファイト又はステンレス鋼の、リング状物、シリンダー状物又は球状物を使用することができる。不活性物質は好ましくは、成形された触媒体と同じような外部寸法を有することが好ましい。
【0036】
シングルパスにおける塩化水素の転化率は15〜90%、好ましくは40〜85%に制限されていてよい。分離が行われた後に未反応の塩化水素を、塩化水素の触媒的酸化に部分的又は全部再循環させてよい。反応器の入口における酸素に対する塩化水素の体積比は、通常1:1〜20:1、好ましくは1.5:1〜8:1、特に好ましくは1.5:1〜5:1である。
【0037】
次に、生成した塩素を、塩化水素の触媒的酸化で得られた生成物ガス流から、慣用の方法で分離してよい。分離は通常、複数の工程、すなわち塩化水素の触媒的酸化で生じた生成物ガス流の未反応の塩化水素を除去、及び必要により再循環させる工程、実質的に塩素と酸素から構成される得られた残留ガス流を乾燥する工程、及び乾燥流から塩素を分離する工程を含む。
【0038】
使用されたルテニウム含有塩化水素酸化触媒は、
a) 塩化水素及び任意に不活性ガスを含むガス流において300〜500℃で触媒を還元する工程、
b) 酸素を含むガス流において200〜450℃で触媒を再焼成する工程、
により再生することができる。
【0039】
RuO2は塩化水素によって還元することができることが見出された。還元は、RuCl3を経て起こり元素ルテニウム(金属ルテニウム)となるものと考えられる。そのため、酸化ルテニウムを含む部分的に不活性化された触媒を塩化水素で処理した場合、十分に長い時間処理を行った後、酸化ルテニウムは恐らく定量的にルテニウム及び/又は塩化ルテニウムに還元される。この還元はRuO2結晶子を破壊し、元素ルテニウムとして、塩化ルテニウムと元素ルテニウムの混合物として、又は塩化ルテニウムとして存在し得るルテニウムが担体上に再分散する。還元後、元素ルテニウムは、酸素含有ガス、例えば空気によって、触媒的に活性なRuO2に再酸化することができる。このようにして再度得られた触媒は、新たな(fresh)触媒と同じくらいの活性を有することが見出された。この方法の利点は、触媒を反応器内その場で再生することができ、反応器から取り除かなくてもよいことである。
【0040】
本発明を以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0041】
実施例1
ドープなしの比較触媒
回転ガラスフラスコ内で100gのα−Al23(粉末状、平均粒径d=50μm)に、36mlの塩化ルテニウム水溶液(ルテニウム濃度:4.2%)を含浸した。この湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させた。得られた乾燥固形物を380℃において空気中で2時間焼成した。
【0042】
実施例2
銀をドープした触媒
回転ガラスフラスコ内で700gのα−Al23(粉末状、平均粒径d=50μm)に、硝酸銀を含む水溶液252ml(Ag濃度:1.4質量%)を吹き付けた。得られた湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させ、次いで380℃において空気中で5時間焼成した。回転ガラスフラスコ内で、得られた固形物に252mlの塩化ルテニウム溶液(Ru含量:4.2質量%)を噴き付けた。得られた湿り気のある固形物をまず120℃で16時間乾燥させた後、380℃で2時間、空気中で焼成した。触媒をAgNO3でドープし、次いで焼成してAg2Oを生成した場合、AgClが、それに次ぐ塩化ルテニウムの含浸によりまた/あるいは反応条件下で形成し、触媒の安定化をもたらす。完成した触媒は1.5質量%のルテニウム及び0.5質量%の銀をドーパントとして含んでいた。
【0043】
実施例3
カルシウムをドープした触媒
回転ガラスフラスコ内で50gのα−Al23(粉末状、d=50μm)に、塩化ルテニウム(ルテニウム濃度:4.2%)と塩化カルシウム(カルシウム濃度:2.1%)の水溶液18mlを含浸した。この湿り気のある固形物を120℃で16時間乾燥させた。得られた乾燥固形物を380℃で空気中で2時間焼成した。この完成した触媒は1.5質量%のルテニウムと0.75質量%のカルシウムをドーパントとして含んでいた。
【0044】
実施例4
実施例1〜3に記載のように製造された触媒をその活性と長期安定性について試験を行った。
【0045】
直径44mm、高さ990mm、床高さ300〜350mmの流動床反応器内で360〜380℃の範囲の温度において、実施例1〜3に記載のように製造された触媒600gに200標準l・h-1のHCl及び100標準l・h-1のO2を供給した。
【0046】
所定の時間稼働させた後、触媒のサンプルを取り出した。これを転化率と活性について以下のように試験を行った。
【0047】
取り出された実施例1〜3に記載の触媒のサンプルそれぞれ5gを、不活性物質としての類似の担体材料115gと混合し、7.0標準l/hのHClと3.5標準l/hのO2を、流動床反応器(d=29mm;流動床の高さ20〜25cm)内で360℃においてガラスフリットを介して下方から流通させた。HCl転化率は、得られたガス流をヨウ化カリウム溶液に流通させ、次いで生成したヨウ素をチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定することにより測定した。α−Al23に担持された2.0質量%のRuO2を含む実施例1に記載の触媒を使用して達成されたHCl転化率は、675時間の稼働後において49.7%であり、比較するために活性を1.0として割り当てた。
【0048】
結果を図1に示す。図中、活性(任意単位)を、実施例1(非ドープ、菱形)、実施例2(Agドープ、三角形)及び実施例3(Caドープ、円形)に記載の触媒の作動時間(時間)に対してプロットした。銀をドープした場合、触媒の初期の活性(銀の促進作用による)及び長期安定性が向上していた(すなわち、活性は、ドープしていない触媒の場合と比べて、作動時間が増えても減少の程度は小さかった。)。カルシウムをドープした場合は、触媒の初期の活性は、ドープしていない触媒と比較して実質的に変わらなかったが、長期安定性は改善されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化水素を酸素によって触媒的酸化して塩素を生成するための、担体に担持されたルテニウムを含む触媒であって、当該触媒は、0.01〜10質量%の銀及び/又はカルシウムをドーパントとして含むことを特徴とする触媒。
【請求項2】
前記担体は、実質的にα−酸化アルミニウムから構成されることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
触媒の全質量に対して、
a)0.1〜10質量%のルテニウム、
b)0.01〜5質量%の銀及び/又は0.01〜5質量%のカルシウム、
c)0〜5質量%の1種以上のアルカリ土類金属、
d)0〜5質量%の1種以上のアルカリ金属、
e)0〜5質量%の1種以上の希土類金属、
f)0〜5質量%の、ニッケル、パラジウム、白金、イリジウム及びレニウムからなる群から選択される1種以上の更なる金属、
を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
0.01〜5質量%の銀を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の触媒。
【請求項5】
0.01〜5質量%のカルシウムを含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の触媒。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の触媒を製造する方法であって、
ルテニウム、銀及び/又はカルシウム並びに必要により1種以上の更なる促進剤金属を含む1種以上の金属塩溶液を担体に含浸し、含浸した担体を乾燥及び焼成する(但し、成形された触媒粒子を得るための成形は、必要により、含浸の前又は後において行うことができる。)ことにより製造する方法。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか1項に記載の触媒の触媒粒子を含む触媒床で塩化水素を酸素によって触媒的酸化して塩素を生成する方法。
【請求項8】
触媒床が固定床又は流動床であることを特徴とする請求項7に記載の方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2012−518535(P2012−518535A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551488(P2011−551488)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052378
【国際公開番号】WO2010/097424
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】