説明

ルテニウム(III)錯体および複素環を含む組成物

【課題】ルテニウム(III)錯体および複素環を含む組成物、およびそれらの癌疾患治療用の薬剤(medicament)の提供。
【解決手段】一般式(I)M3-n-p-2pr[RuX6-n-p-q-2rBn(H2O)p(OH)q(O)r]2r+1の化合物を一般式(II)B'(HX')sの化合物と反応させることにより得ることができる組成物(A)。さらに、一般式(III)(B'H)3-n-p-2pr[RuX6-n-p-q-2rBn(H2O)p(OH)q(O)r]2r+1の化合物を一般式(IV)MX'の化合物と混合することにより得られる組成物(B)で表されるルテニウム(III)錯体および複素環を含む組成物、その製造方法、その組成物を含む薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はルテニウム(III)錯体および複素環を含む組成物、およびそれらの癌疾患治療用の薬剤(medicament)としての適用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌疾患治療におけるルテニウム錯体の適用可能性についてはM.J.Clarke, ACS Symp. Ser. 140(1980)157-180(非特許文献1)により記述されている。
【0003】
ピラゾールおよびイミダゾールとの三価のルテニウムの錯化合物は、F.Kralikら, Collection Czechoslov. Chem. Commun. 26 (1961)1298(非特許文献2)により、およびB.K.Kepperら、Inorg.Chem.,26(1987)4366-4370(非特許文献3)により説明されている。
【0004】
さらに、インダゾールおよびジメチルスルホキシドとのルテニウム(III)錯体はB. K. Kepplerら、Anticancer Res.,9(1989)761-766(非特許文献4)、G.,Mestroniら、J.Am.Chem.Soc.111(1989) 7068-7071(非特許文献5)およびG.Mestoroniら、Inorg.Chem.,34(1995)4722-4734(非特許文献6)により調べられている。
【0005】
インダゾールなどの塩基性複素環とのルテニウム(III)錯体の腫瘍抑制特性もまた、Eur.J.Inorg.Chem.1999,9,pp.1551-1555(非特許文献7)、Met.-Based Drugs 1994,1(2-3),pp.145-150(非特許文献8)およびJ.Cancer Res.Clin.Oncol.1992,118(3),pp.195-200(非特許文献9)において説明されている。
【0006】
米国特許第4,843,069号(特許文献1)では、単環式または多環式塩基性複素環とのルテニウム(III)錯体を含む薬剤が説明されている。これらの錯体は癌治療に適しているが、水中に溶解させることが困難で、そのため凍結乾燥できない。
【0007】
この欠点を回避するために、国際公開公報第97/36595号(特許文献2)では、水中に容易に溶解し、癌疾患治療にも有効な、アルカリ金属カチオンまたはアンモニアとのルテニウム(III)錯体が開示されている。しかしながら、これらの化合物は米国特許第4,843,069号(特許文献1)のルテニウム錯体に比べ効力が低いという欠点を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,843,069号
【特許文献2】国際公開公報第97/36595号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M.J.Clarke, ACS Symp. Ser. 140(1980)157-180
【非特許文献2】F.Kralikら, Collection Czechoslov. Chem. Commun. 26 (1961)1298
【非特許文献3】B.K.Kepperら、Inorg.Chem.,26(1987)4366-4370
【非特許文献4】B. K. Kepplerら、Anticancer Res.,9(1989)761-766
【非特許文献5】G.,Mestroniら、J.Am.Chem.Soc.111(1989) 7068-7071
【非特許文献6】G.Mestoroniら、Inorg.Chem.,34(1995)4722-4734
【非特許文献7】Eur.J.Inorg.Chem.1999,9,pp.1551-1555
【非特許文献8】Met.-Based Drugs 1994,1(2-3),pp.145-150
【非特許文献9】J.Cancer Res.Clin.Oncol.1992,118(3),pp.195-200
【発明の概要】
【0010】
そのため、本発明の目的は、上記欠点を避け、容易に水に溶解できると共に癌疾患治療において高い効果を示す組成物を提供することである。
【0011】
この目的は、一般式(I)の錯化合物を、化学式(II)の化合物と反応させることにより得られる組成物(A)により解決される:
M3-n-p-2pr[RuX6-n-p-q-2rBn(H2O)p(OH)q(O)r]2r+1 (I)
(式中、
Mはアルカリ金属カチオンまたはアンモニアであり、
Bは1つまたは複数の窒素原子を有する単環式または多環式塩基性複素環であり、
Xはハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-またはRCOO-であり、ここでRは置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、または置換もしくは未置換アリールであり、
nは1または2であり、
p、qは0もしくは1または(rが0.5である場合)0もしくは0.5であり、および
rは0または0.5である)
B'(HX')s (II)
(式中、
B'は1つまたは複数の窒素原子を有する単環式または多環式塩基性複素環であり、
X'はハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-またはRCOO-であり、ここでRは水素、置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、置換もしくは未置換アリール、リン酸塩、硫酸塩、および/または酢酸塩であり、および
sは1またはそれ以上の整数である)
【0012】
この目的は、一般式(III)の錯化合物を
(B'H)3-n-p-2pr[RuX6-n-p-q-2rBn(H2O)p(OH)q(O)r]2r+1 (III)
(式中、
B、B'は1つまたは複数の窒素原子を有する単環式または多環式塩基性複素環であり、
Xはハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-、またはRCOO-であり、ここでRは置換もしくは未置換C1〜C6-もしくはC2〜C6-アルケニル、または置換もしくは未置換アリールであり、
nは1または2であり、
p、qは0もしくは1または(rが0.5である場合)0もしくは0.5であり、および
rは0または0.5である)
化学式(IV)の化合物と反応させることにより得られる組成物(B)によっても解決される。
MX' (IV)
(式中、
Mはアルカリ金属カチオンまたはアンモニアであり、
X'はハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-またはRCOO-であり、ここでRは水素、置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、置換もしくは未置換アリール、リン酸塩、硫酸塩、または酢酸塩である)
【0013】
化学式(I)、(II)または(III)中のBおよび/またはB'はプリン、アデニン、グアニン、シトシン、インダゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピロール、テトラゾールおよび/またはトリアジンとすることができ、これらは、以下の群から選択される1つまたは複数の置換基により置換することができる:ヒドロキシル、アミノ、ハロゲン、C1〜C4-アルキル、C2〜C4-アルケニル、C1〜C4-アルキルメルカプト、ホルミル-、C1〜C4-アルコキシカルボニル、C1〜C4-アルコキシカルボニル-C1〜C4-アルキレン、ジ-C1〜C4-アルキル-アミノ、ジ-C1〜C4-アルキル-アミノ-C1〜C4-アルキレン、ジ-C1〜C4-アルキル-アミノ-カルボニル、ジ-C1〜C4-アルキル-アミノ-カルボニル-C1〜C4-アルキレン、ヒドロキシイミノメチン、フェニル、ベンジル、ベンゾイル、ピロリジノ、ピペリジノ、ピロール-1-イルおよびピロール-1-イル-C1-C4-アルキレン
または環

(式中、
R1'は水素、ナトリウム、C1〜C4-アルキルまたはフェニルであり、
R2'は水素、C1〜C4-アルキル、アミノもしくはフェニル、またはR1'およびR2'が共に官能基-(CH2)s-(式中、sは4から8の整数である)を表し、
Wは窒素またはCR3'(式中R3'は水素、C1〜C4-アルキル、アミノまたはフェニルであり、好ましくは水素またはメチル)であり、
Yは窒素またはCR4'(式中R4'は水素、C1〜C4-アルキル、アミノまたはフェニルであり、好ましくは水素またはメチル)であり、
Zは窒素またはCR5'(式中R5'水素、C1〜C4-アルキル、アミノまたはフェニルであり、好ましくは水素またはメチルである。このため、環は置換基R1'およびR2'の少なくとも1つにより塩基性複素環BまたはB'に結合される))。
【0014】
好ましくは官能基R3',R4'またはR5'の少なくとも1つは水素である。
【0015】
好ましくは少なくとも1つの置換基は、塩素、ジエチルアミノ、ジメチルアミノおよびピロール-1-イル-メチルからなる群から選択される。
【0016】
好ましい態様では、化学式(I)、(II)または(III)のBおよび/またはB'は1-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、4-メチルピラゾール、1-ナトリウムピラゾール、1-フェニルテトラゾールまたは5-フェニルテトラゾールとすることができ、これらは上記で規定したように、1つまたは複数の置換基により、好ましくは4-位で置換することができる。
【0017】
他の好ましい態様では、化学式(I)、(II)または(III)のBおよび/またはB'はイミダゾール、ピラゾール、トリアゾールまたはインダゾールであり、イミダゾール、トリアゾールまたはインダゾールが特に好ましいが、より好ましくはトリアゾールまたはインダゾールであり、特にインダゾールである。
【0018】
B'およびBは同じとすることができる。すなわち、これらは同じ複素環を表すことができる。
【0019】
さらに、化学式(I)および(IV)のMは好ましくはリチウム、ナトリウムまたはカリウムであり、特にナトリウムである。
【0020】
好ましい態様では、化学式(I)、(II)、(III)または(IV)のXおよび/またはX'は塩素または臭素であり、特に塩素である。他の好ましい態様では組成物(A)または(B)中のX'はXに対応する。
【0021】
本発明による組成物(A)中の化学式(I)の化合物の化学式(II)の化合物に対するモル比は好ましくは<1であり、1:1.1と1:10の間の比が特に好ましく、とりわけ1:2と1:5の間の比が好ましい。
【0022】
本発明による組成物(B)中の化学式(III)の化合物の化学式(IV)の化合物に対するモル比は好ましくは1:2と1:30との間の比であり、1:5および1.15が特に好ましく、1:10がとりわけ好ましい。
【0023】
好ましい態様では、化学式(I)の化合物はtrans-テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム(III)酸ナトリウムである。
【0024】
化学式(II)の化合物は好ましくは塩酸インダゾリウムである。
【0025】
化学式(III)の化合物は好ましくはtrans-[テトラクロロビス-(インダゾール)ルテニウム(III)酸]インダゾリウムである。
【0026】
化学式(IV)の化合物は好ましくは塩化ナトリウムである。
【0027】
本発明による組成物(A)または(B)は水溶液の形態で存在することができる。
【0028】
組成物(B)は、空気ストリームまたはボールミルなど、粉砕機またはミル中で化学式(III)の化合物を化学式(IV)の化合物と摩耗することにより得ることができる。
【0029】
驚くべきことに、水溶液中の一般式(III)の化合物の有用性は、一般式(IV)の化合物と混合して組成物(B)を得ることにより改善することができることが見出された。
【0030】
また、わずかに水に溶け凍結乾燥可能な一般式(I)の化合物が、一般式(II)の化合物と反応し癌疾患の治療に適した本発明による組成物(A)を形成することにより適した製剤化方法を提供することを見出したことも驚くべきことであった(実施例1〜3および図1〜4を参照のこと)。
【0031】
さらに、本発明の目的は本発明による組成物(A)および/または(B)を含む薬剤により解決される。
【0032】
組成物(A)および/または(B)はさらに、癌疾患の予防および/または治療のための薬剤の製造において使用することができる。
【0033】
本発明による薬剤について以下により詳細に説明する。
【0034】
本発明による薬剤は主に静脈注射により投与されるが、筋内注射、腹膜内注射、皮下注射または経口投与によっても投与される。外用もまた可能である。静脈注射または静脈点滴による投与が好ましい。
【0035】
薬学的調製物は周知の方法により製造される。この方法では、本発明による組成物は単独で、または必要であれば適切な薬学的担体物質と共に使用される。薬学的調製物が活性物質と共に薬学的担体物質を含む場合、これらの混合物中の活性物質の量は総混合物の0.1重量%〜99.5重量%、好ましくは0.5重量%〜95重量%である。
【0036】
活性物質は、十分なレベルの活性物質が確実に形成され、維持されるという要求を満たす任意の適切な製剤中で適用することができる。このことは例えば、適切な用量を経口投与または非経口投与することによって達成できる。好都合なことに、所望の投与に適合されている、標準用量の形態の活性物質の薬学的調製物が存在する。標準用量は例えば、1錠剤、糖衣錠、カプセル、坐薬またはある測定量の粉末、顆粒、溶液、エマルジョンもしくは懸濁液としてもよい。
【0037】
本発明の意味では「標準用量」という用語は、それぞれの量の活性成分を薬学的担体物質と共に含み、その活性物質の量は治療のための1回の用量の数分の1または倍数量に対応する、物理的に決められた単位を意味すると考えられる。1回の用量は好ましくは、適用中に投与され、通常一日量の全体、半分、3分の1または4分の1に対応する活性物質の量を含む。1回の治療で投与される用量で標準用量の半分または4分の1など数分の1のみが必要とされる場合、標準用量は、分割溝を有する錠剤形態など、分割できると好都合である。
【0038】
本発明による薬剤は、標準用量で適用でき、例えば個人に対し適用されるものであれば、約0.1mg〜500mg、好ましくは10mg〜200mg、特に好ましくは50mg〜150mgの活性物質を含む。
【0039】
一般に、ヒト薬剤では、活性物質は1日の用量が体重1kgあたり0.1mg〜5mg、好ましくは1から3mgで投与され、必要であれば所望の結果を達成するために、1回の摂取量を数回、好ましくは1回〜3回の形態とされる。1回の摂取量には、体重1kgあたり0.1mg〜5mg、好ましくは1mg〜3mgの量の活性物質が含まれる。経口治療でも、同様の用量を適用することができる。
【0040】
薬学的調製物の治療用投与は、決まった時間または変化する時間(例えば、各場合において食事前および/または夜)に、1日につき1回〜4回とすることができる。しかしながら、治療すべき各個人の体型、体重および年齢、疾患の種類および重篤度、調製物の種類、薬学的調製物の適用、および投与期間または間隔により、見積もり用量からはずれる必要があるかもしれない。その結果、上記活性物質の量よりも少ない量で十分である場合もあり、上記量の活性物質の量よりも多くしなければならない場合もある。薬学的調製物を1回のみ、または数日の間隔で投与することもまた実用的である。
【0041】
活性物質の必要な最適用量および適用の種類の特定は、任意の専門家が持っている知識に基づき行うことができる。
【0042】
薬学的調製物は通常、本発明による組成物、および例えば固体、半固体もしくは液体形態の混合剤または希釈剤として、または例えばカプセル、錠剤コーティング、袋もしくは治療用活性成分のための他の容器形態の封入手段として使用される非毒性の薬学的に相溶性のある薬剤担体とを含む。担体材料は、例えば、製剤化剤、甘味料、風味調整剤、着色剤として、または保存剤として、身体が薬剤を摂取するための作用物質として作用してもよい。
【0043】
経口適用では、例えば、錠剤、ドラジェ、ハードカプセル、ソフトカプセル(例えばゼラチン)、分散粉末、顆粒、水溶性懸濁液、油性懸濁液、エマルジョン、溶液およびシロップを使用することができる。
【0044】
錠剤は不活性結合剤(例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウムまたは乳糖);顆粒化および分散剤(例えばトウモロコシデンプンまたはアルギン酸塩);結合剤(例えばデンプン、ゼラチンまたはアラビン);および潤滑剤(例えばステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、タルカムまたはシリコーン油)を含むことができる。これらはまたコーティングと共に提供することができる。このコーティングは胃腸管内での薬学的調整物の放出および再吸収を遅らせ、例えば、相溶性、同化または遅延が改善されるように製造される。ゼラチンカプセルは、固体作用物質、例えば炭酸カルシウムもしくはカオリン、または油性作用物質、例えばオリーブ油、ピーナツ油もしくはパラフィン油希釈剤と共に薬学的物質を含んでもよい。
【0045】
水溶性懸濁液は懸濁剤(例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガンスゴムまたはアラビン);分散剤または湿潤剤(例えばステアリン酸ポリオキシエチレン、ヘプタデカ-エチレン-オキシカタノール、ポリエチレンソルビトール-モノオレアート、またはレシチン);保存剤(例えばメチル安息香酸またはプロピルヒドロキシ安息香酸);風味調節剤;甘味剤(例えばショ糖、乳糖、シクラメートナトリウム、ブドウ糖、転化糖シロップ)を含むことができる。
【0046】
油性懸濁液は例えば、ピーナッツ油、オリーブ油、ゴマ油、ココナッツ油またはパラフィン油および増粘剤、例えば蜜蝋、高融点ろうまたはセチルアルコール;さらに甘味剤、風味調節剤および抗酸化剤を含んでもよい。
【0047】
水中に分散可能な粉末および顆粒は、分散剤、湿潤剤および懸濁剤、例えば上述したものと共に、および甘味剤、風味調節剤および着色剤と共に混合物中に本発明による組成物を含んでもよい。
【0048】
エマルジョンは例えば、オリーブ油、ピーナッツ油またはパラフィン油、および乳化剤、例えばアラビン、トラガンスゴム、ホスファチド、ソルビタンモノオレアート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート、および甘味剤、ならびに風味調節剤を含むことができる。
【0049】
水溶液は保存剤(例えばメチル安息香酸またはプロピルヒドロキシ安息香酸;増粘剤;風味調節剤;甘味剤(例えば、ショ糖、乳糖、シクラメートナトリウム、ブドウ糖、転化糖シロップ)の他に風味調節剤および着色剤を含むことができる。
【0050】
薬学的物質の非経口適用には、滅菌した注射可能な水溶液、等張塩溶液または他の溶液を使用することができる。
【0051】
注入用溶媒としては任意の適した溶液を使用することができる。水およびヘマセル(Haemaccel)(登録商標)が好ましい。
【0052】
組成物(A)を製造するための本発明による方法は、化学式(I)の錯化合物を化学式(II)の化合物と共に反応させる工程を含む。反応は好ましくは水溶液中で起こる。
【0053】
組成物(B)を製造するための本発明による方法は、化学式(III)の錯化合物を化学式(IV)の化合物と混合する工程を含む。ここで、化学式(III)の化合物は、例えば粉砕機またはボールミル内で、化学式(IV)の化合物と共に摩滅にかけられる。
【0054】
さらに、化学式(I)の化合物を有する容器および化学式(II)の化合物を有する容器を含むキット(A)を利用できる:
M3-n-p-2pr[RuX6-n-p-q-2rBn(H2O)p(OH)q(O)r]2r+1 (I)
(式中、
Mはアルカリ金属カチオンまたはアンモニアであり、
Bは1つまたは複数の窒素原子を有する単環式または多環式塩基性複素環であり、
Xはハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-またはRCOO-であり、ここでRは置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、または置換もしくは未置換アリールであり、
nは1または2であり、
p、qは0もしくは1または(rが0.5である場合)0もしくは0.5であり、および
rは0または0.5である)
B'(HX')s (II)
(式中、
B'は1つまたは複数の窒素原子を有する単環式または多環式塩基性複素環であり、
X'はハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-またはRCOO-であり、ここでRは水素、置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、置換もしくは未置換アリール、リン酸塩、硫酸塩、または酢酸塩であり、および
sは1またはそれ以上の整数である)。
【0055】
好ましい態様では、キット(A)におけるX'はXと同じラジカルであり、BはB'と同じラジカルである。
【0056】
また、化学式(III)の化合物を有する容器、
(B'H)3-n-p-2pr[RuX6-n-p-q-2rBn(H2O)p(OH)q(O)r]2r+1 (III)
(式中、
B、B'は1つまたは複数の窒素原子を有する単環式または多環式塩基性複素環であり、
Xはハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-、またはRCOO-であり、ここでRは置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6アルケニル、または置換もしくは未置換アリールであり、
nは1または2であり、
p、qは0もしくは1または(rが0.5である場合)0もしくは0.5であり、および
rは0または0.5である)
および化学式(IV)の化合物を有する容器を含むキット(B)を利用できる。
MX' (IV)
(式中、
Mはアルカリ金属カチオンまたはアンモニアであり、
X'はハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-またはRCOO-であり、ここでRは水素、置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、置換もしくは未置換アリール、リン酸塩、硫酸塩、または酢酸塩である)
【0057】
ラジカルX、X'、BおよびB'に対しては、上記キット(A)と同様のことが適用される。
【0058】
以下、本発明によるキット(A)についてより詳細に説明する。
【0059】
診療所では、本発明による組成物(A)の患者への適用は、化学式(I)の化合物を、好ましくはナトリウム塩として有するアンプル、および等モルのまたはより高濃度の化学式(II)の化合物を、好ましくは塩酸塩として含む別個の注入溶液を含有するキットを提供することにより行うことができる。患者に適用する前に、アンプルの中身を水に溶解し、注入瓶中に注入することができる。このように、本発明による組成物(A)を形成し、その後直ちに患者に対し使用することができる。
【0060】
以下、本発明によるキット(B)についてより詳細に説明する。
【0061】
診療所では、本発明による組成物(B)の患者への適用は、化学式(III)の化合物を、好ましくはインダゾリウム塩として有するアンプル(1)、および化学式(IV)の化合物、例えば塩化ナトリウムを有する別個のアンプル(2)、および注入用溶媒を含有するキットを提供することにより実施することができる。患者に適用する前に、アンプル(1)の中身を、アンプル(2)の中身と共に、例えば粉砕機中で摩滅にかけ、本発明による組成物(B)を保持する。その後、化合物(B)を注入用の溶媒に溶解し、注入瓶中に注入し、直ちに患者に対し使用することができる。
【0062】
一般的な製造指示
化学式(I)の化合物の製造は国際公開公報第97/36595号において説明されている指示に従い実施することができる。さらに、化学式(III)の化合物の製造はJ.Cancer Res. Clin. Oncol. 1992, 118(3), pp.195-200において示されているように行うことができる。化学式(II)および(IV)の化合物の製造は周知の方法に従い実施される。
【0063】
以下、いくつかの実施例に基づき本発明を説明する。
【0064】
実施例1
容易に水に溶け凍結乾燥可能な化合物trans-[RuCl4(ind)2]ナトリウム、KP1339を塩酸インダゾリウムと反応させ、trans-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム(III)酸]インダゾリウム(KP1019)および塩化ナトリウムを含む本発明による組成物(A)を形成した(図1を参照のこと)。

図1:KP1339および塩酸インダゾリウムの反応による、trans-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム(III)酸]インダゾリウム(KP1019)および塩化ナトリウムを含む本発明による組成物(A)の形成
【0065】
実施例2
細胞傷害性調査を実施例1により得られた組成物に対し実施した。組成物は、投与直前に、KP1019よりも30倍以上高い水溶性を示すナトリウム塩KP1339を、注入溶液中で塩酸インダゾリウムと反応させることにより得た。
【0066】
ヌードマウス異種移植片として育種したヒト充実性腫瘍の幹細胞、および連続ヒト腫瘍細胞株に対する実験により、KP1339がインビトロで示す増殖防止効果がKP1019よりも明らかに弱いことが示されたので、KP1339の溶液にインダゾールを添加することによりKP1019のより強い活性をどの程度回復させることができるか、さらに実験により明らかにした。
【0067】
KP1339およびインダゾールの等モル混合物の腫瘍抑制活性はオリジナルのKP1019の活性と等しいことが証明された(図1および図2を参照こと)。ここで、純粋なKP1339の効果はKP1019の3分1から4分の1であった。これは2つの腫瘍細胞株(SW480、CH1)で確認し、4度再現した。これらの実験では、KP1019に比べKP1339の効果低いことが確認された。
【0068】
実施例3
KP1339をモル比1:1で塩酸インダゾリウムと反応させることにより得た組成物を用いる第1の実験では、結果としてオリジナルのKP1019の細胞傷害活性が得られることを示すことができた。さらに実験して、過剰のインダゾールが細胞傷害性を与える様式を洞察した。
【0069】
KP1019および、異なるモル比のKP1339とインダゾールの組み合わせの細胞傷害効果(10%の胎児ウシ血清を添加し、有機溶媒または溶解剤を添加していない従来の細胞培地MEM中の溶液として投与)を、活性物質に96時間連続暴露するMTTアッセイ法においてヒト腫瘍細胞株SW480(結腸癌)およびCH1(卵巣癌)に対し比較調査した。
【0070】
驚くべきことに、腫瘍抑制活性はさらに、過剰のインダゾールを添加することにより増大させることができることが示されている。KP1339とインダゾールの1:5のモル比の混合物により、KP1019に比べ細胞傷害性が2から5倍増大した(図3および図4を参照のこと)。オリジナルのKP1019の効果を上回るには、1:2のモル比で十分である。インダゾール自体のみでは、より高い濃度(>1mM)でしか細胞傷害効果を示さない。そのため、過剰のインダゾールを含む溶液の腫瘍抑制効果の増加は成分の単なる添加効果では説明できず、むしろ錯体の安定性または未知の機構に対する遊離インダゾールの相乗効果、正の効果のいずれかに起因する。5つの独立した実験で厳密に再現できることが証明された細胞株SW480に対する投与/効果曲線の不連続な線は、KP1339とインダゾールとの間の複雑な相互作用を示す。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】活性物質に96時間連続して暴露するMTTアッセイ法における、ヒト腫瘍細胞株SW480(結腸癌)に対するKP1019、対応するナトリウム塩KP1339、インダゾールの他にKP1339およびインダゾールの等モル混合物(有機溶媒または溶解剤を添加せずに、10%胎児ウシ血清を添加した従来の細胞培地中に溶液として投与)の細胞傷害効果の比較を示した図である。
【図2】活性物質に96時間連続して暴露するMTTアッセイ法における、ヒト腫瘍細胞株CH1(卵巣癌)に対するKP1019、対応するナトリウム塩KP1339、インダゾールの他にKP1339およびインダゾールの等モル混合物(有機溶媒または溶解剤を添加せずに、10%胎児ウシ血清を添加した従来の細胞培地中に溶液として投与)の細胞傷害効果の比較を示した図である。
【図3】活性物質に96時間連続して暴露するMTTアッセイ法における、ヒト腫瘍細胞株SW480(結腸癌)に対するKP1019、インダゾール、ならびにモル比がそれぞれ1:1および1:5のKP1339およびインダゾールの混合物(有機溶媒または溶解剤を添加せずに、10%胎児ウシ血清を添加した従来の細胞培地中に溶液として投与)の細胞傷害効果の比較を示した図である。
【図4】活性物質に96時間連続して暴露するMTTアッセイ法における、ヒト腫瘍細胞株CH1(卵巣癌)に対するKP1019、インダゾール、ならびにモル比がそれぞれ1:1および1:5のKP1339およびインダゾールの混合物(有機溶媒または溶解剤を添加せずに、10%胎児ウシ血清を添加した従来の細胞培地中に溶液として投与)の細胞傷害効果の比較を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)の錯化合物を、化学式(II)の化合物と反応させることにより得られる組成物(A):
M3-n-p-2pr[RuX6-n-p-q-2rBn(H2O)p(OH)q(O)r]2r+1 (I)
(式中、
Mはアルカリ金属カチオンまたはアンモニアであり、
Bは1つまたは複数の窒素原子を有する単環式または多環式塩基性複素環であり、
Xはハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-またはRCOO-であり、ここでRは置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、または置換もしくは未置換アリールであり、
nは1または2であり、
p、qは0もしくは1または(rが0.5である場合)0もしくは0.5であり、および
rは0または0.5である)
B'(HX')s (II)
(式中、
B'は1つまたは複数の窒素原子を有する単環式または多環式塩基性複素環であり、
X'はハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-またはRCOO-であり、ここでRは水素、置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、置換もしくは未置換アリール、リン酸塩、硫酸塩、酢酸塩であり、および
sは1またはそれ以上の整数である)。
【請求項2】
一般式(III)の錯化合物を化学式(IV)の化合物と反応させることにより得られる組成物(B):
(B'H)3-n-p-2pr[RuX6-n-p-q-2rBn(H2O)p(OH)q(O)r]2r+1 (III)
(式中、
B、B'は1つまたは複数の窒素原子を有する単環式または多環式塩基性複素環であり、
Xはハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-、またはRCOO-であり、ここでRは置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、または置換もしくは未置換アリールであり、
nは1または2であり、
p、qは0もしくは1または(rが0.5である場合)0もしくは0.5であり、および
rは0または0.5である)
MX' (IV)
(式中、
Mはアルカリ金属カチオンまたはアンモニアであり、
X'はハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-またはRCOO-であり、ここでRは水素、置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、置換もしくは未置換アリール、リン酸塩、硫酸塩、または酢酸塩である)。
【請求項3】
化学式(I)、(II)または(III)のBおよび/またはB'がイミダゾール、ピラゾール、トリアゾールまたはインダゾールである、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
化学式(I)または(IV)のMがリチウム、ナトリウムまたはカリウムである、請求項1〜3の少なくとも一項記載の組成物。
【請求項5】
化学式(I)、(II)、(III)または(IV)のXが塩素または臭素である、請求項1〜4の少なくとも一項記載の組成物。
【請求項6】
化学式(I)の化合物の化学式(II)の化合物に対するモル比が<1である、請求項1および3〜5の少なくとも一項記載の組成物。
【請求項7】
化学式(I)の化合物の化学式(II)の化合物に対するモル比が1:2と1:5の間にある、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
化学式(III)の化合物の化学式(IV)の化合物に対するモル比が1:2と1:30の間にある、2〜5の少なくとも一項記載の組成物。
【請求項9】
化学式(III)の化合物の化学式(IV)の化合物に対するモル比が1:5と1:15の間にある、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
化学式(I)の化合物が、trans-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム(III)酸]ナトリウムである請求項1および3〜7の少なくとも一項記載の組成物。
【請求項11】
化学式(II)の化合物が、塩酸インダゾリウムである請求項1、3〜7および10の少なくとも一項記載の組成物。
【請求項12】
化学式(III)の化合物が、trans-[テトラクロロビス(1H-インダゾール)ルテニウム(III)酸]インダゾリウムである、請求項2〜5、8および9の少なくとも一項記載の組成物。
【請求項13】
化学式(IV)の化合物が、塩化ナトリウムである請求項2〜5、8、9および12の少なくとも一項記載の組成物。
【請求項14】
形態が水溶液である請求項1〜13の少なくとも一項記載の組成物。
【請求項15】
請求項1〜14の少なくとも一項記載の組成物を含む薬剤。
【請求項16】
癌疾患の予防および/または治療用の薬剤を製造するための請求項1〜14の少なくとも一項記載の組成物の使用。
【請求項17】
化学式(I)の錯化合物を化学式(II)の化合物と反応させる、請求項1、3〜7、10、11および14の少なくとも一項記載の組成物の製造方法。
【請求項18】
反応が水溶液中で起こる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
化学式(III)の錯化合物を化学式(IV)の化合物と混合する請求項2〜5、8、9および12〜14の少なくとも一項記載の組成物の製造方法。
【請求項20】
一般式(I)の化合物を有する容器と化学式(II)の化合物を有する容器を含むキット(A):
M3-n-p-2pr[RuX6-n-p-q-2rBn(H2O)p(OH)q(O)r]2r+1 (I)
(式中、
Mはアルカリ金属カチオンまたはアンモニアであり、
Bは1つまたは複数の窒素原子を有する単環式または多環式塩基性複素環であり、
Xはハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-またはRCOO-であり、ここでRは置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、または置換もしくは未置換アリールであり、
nは1または2であり、
p、qは0もしくは1または(rが0.5である場合)0もしくは0.5であり、および
rは0または0.5である)
B'(HX')s (II)
(式中、
B'は1つまたは複数の窒素原子を有する単環式または多環式塩基性複素環であり、
X'はハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-またはRCOO-であり、ここでRは水素、置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、置換もしくは未置換アリール、リン酸塩、硫酸塩、または酢酸塩であり、および
sは1またはそれ以上の整数である)。
【請求項21】
一般式(III)の錯化合物を有する容器と、化学式(IV)の化合物を有する容器と、を含むキット(B):
(B'H)3-n-p-2pr[RuX6-n-p-q-2rBn(H2O)p(OH)q(O)r]2r+1 (III)
(式中、
B、B'は1つまたは複数の窒素原子を有する単環式または多環式塩基性複素環であり、
Xはハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-、またはRCOO-であり、ここでRは置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、または置換もしくは未置換アリールであり、
nは1または2であり、
p、qは0もしくは1または(rが0.5である場合)0もしくは0.5であり、および
rは0または0.5である)
MX' (IV)
(式中、
Mはアルカリ金属カチオンまたはアンモニアであり、
X'はハロゲン、擬ハロゲン、HCO3-またはRCOO-であり、ここでRは水素、置換もしくは未置換C1〜C6-アルキル、置換もしくは未置換C2〜C6-アルケニル、置換もしくは未置換アリール、リン酸塩、硫酸塩、または酢酸塩である)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−138005(P2009−138005A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23251(P2009−23251)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【分割の表示】特願2002−559437(P2002−559437)の分割
【原出願日】平成14年1月28日(2002.1.28)
【出願人】(509023584)ニッキ ファーマ インク. (7)
【Fターム(参考)】