説明

レイシによる金属の取り込みと除去

【課題】キノコ菌体により金属を吸収・除去するための新規な方法の提供。
【解決手段】金属含有物にレイシ(Ganoderma lucidum)の菌体を作用させることを特徴とする、金属の除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコの一種であるレイシ(Ganoderma lucidum)を用いての金属の取り込みと除去手段に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業の発展に伴って発生する廃棄物の焼却等により、さまざまな金属類が土壌中に排出されるようになってきている。それらは、農作物や魚介類等を経由して、最終的に人間の生体を汚染する。金属の人や動物に与える影響として、発癌性、催奇形性、アレルギー性や環境ホルモン毒性などがあり、これらの健康リスクをもたらす可能性を減少させるために、土壌中の金属除去による浄化が重要視されている。現在までに、酸を用いた処理や、土壌用電極を用いた処理、また、熱処理などが行われてきた。しかし、これらは2次汚染が考がえられたり、コストがかかってしまうという問題があった。そこで、2次汚染が少なく、安価な方法である、植物等を利用したバイオレメディエーションが注目されるようになってきた。
【0003】
金属を吸収する植物として有名なものに、シダ植物や、ナズナ、ブタクサ、マリーゴールドなどがある。しかし、これらの植物と比較して、キノコは、一桁から二桁程高い金属を吸収する能力を持っていると言われている(U.Thomet (1999), Eur Food Res Technol209:317-324;J.Gabriel (1993), Folia Microbiol.39:115-118;J. Vetter (1997), Mycologia 89:481-483;K.Seki (1992), Adsorption of Heavy Metal Ions by Coniferous Barks;キノコとカビの基礎科学とバイオ技術 (2002) 宍戸和夫:253-260;土壌中の金属と植生 平成16年度 理科教育に関する研究III;Le Xuan Tham (1999), Mycoscience 40:209-213)。しかしながら、レイシの金属イオン吸着については知られていない。
【0004】
これまでに、金属を吸収するタンパク質として知られているものに、メタロチオネイン、ファイトキレチン、ラクトフェリン(トランスフェリンファミリータンパク質)、トランスポーターなどがある(Christine Gruber (2000), Eur.J.Biochem 267:573-582;Y.Hishiyama (1990), Appied and Enviromental Microbiobiology Sept :556-560)。しかしながら、レイシなどのキノコ類由来の金属吸収性タンパク質は知られていない。
【0005】
【非特許文献1】U.Thomet (1999), Eur Food Res Technol209:317-324
【非特許文献2】J.Gabriel (1993), Folia Microbiol.39:115-118
【非特許文献3】J. Vetter (1997), Mycologia 89:481-483
【非特許文献4】K.Seki (1992), Adsorption of Heavy Metal Ions by Coniferous Barks
【非特許文献5】キノコとカビの基礎科学とバイオ技術 (2002) 宍戸和夫:253-260
【非特許文献6】土壌中の金属と植生 平成16年度 理科教育に関する研究III
【非特許文献7】Le Xuan Tham (1999), Mycoscience 40:209-213
【非特許文献8】Christine Gruber (2000), Eur.J.Biochem 267
【非特許文献9】573-582;Y.Hishiyama (1990), Appied and Enviromental Microbiobiology Sept :556-560
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、キノコ類を用いての、金属類の新規な除去手段を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく種々検討を行った結果、キノコの一種であるレイシ(Ganoderma lucidum)が、その他のキノコは増殖しにくい亜鉛含有培地によく増殖することが出来、且つ亜鉛などを効率よく吸収・除去する能力を有することを見出し本発明を完成した。
従って本発明は、金属含有物にレイシ(Ganoderma lucidum)の菌体を作用させることを特徴とする、金属の取り込みと除去方法を提供する。
【0008】
上記の方法の具体的な態様としては、金属含有物を含む培地においてレイシ(Ganoderma lucidum)を培養する方法、レイシ(Ganoderma lucidum)の培養菌体と金属含有物とを接触せしめる方法、などが挙げられる。前記金属含有物は、例えば、金属に汚染された土壌又は金属を含む廃液である。除去の対象となる金属としては、例えば、亜鉛、アルミニウム、マンガン、コバルト、鉛などが上げられる。
本発明はまた、レイシ(Ganoderma lucidum)の培養菌体を含んで成る金属除去剤を提供する。この場合の前記金属は、例えば、亜鉛、アルミニウム、マンガン、コバルト又は鉛である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
キノコ
本発明で使用するキノコはレイシ(Ganoderma lucidum)であり、これは、
(入手が容易であることの説明)

から容易に入手することが出来る。
【0010】
培養
本発明のキノコであるレイシ(Ganoderma lucidum)は、担子菌の培養に一般に用いられる培地で培養することが出来、例えばポテト・デキストロース培地などが用いられる。培養は、菌株の保存のためには、一般に固体培地が用いられるが、実用上の培養においては、液体培養が用いられる。培養は好気的であることが望ましく、液体培地の表面に静置培養することもでき、また通気や撹拌などの手段により好気的条件を確保しながら液体培地中で培養することも出来る。培養温度は、およそ25℃〜35℃である。
【0011】
浄化対象物
金属イオンを含む工場排水、金属イオンで汚染された土壌などが挙げられるが、金属イオンを含む全てのものが対象になる。
本願発明のレイシにより吸収、除去されうる金属としては、亜鉛、アルミニウム、マンガン、コバルト、鉛、などが挙げられる。
【0012】
金属除去/浄化方法
本発明による金属の吸収・除去方法においては、レイシの培養菌体と金属イオン含有物とを接触させればよい。このための具体的な方法としては、レイシが増殖する培地に金属汚染物を加えて、この培地上で又は培地中でレイシを培養すればよい。これにより、増殖した菌糸が培地に加えた金属イオン吸収除去する。
【0013】
あるいは、培養菌体を培地から取り出した後、金属を含む液体を当該菌体と接触させることが出来る。この菌体を固定化菌体として使用することもできる。菌体の固定化は常用技術により行うことが出来る。
金属で汚染された土壌の浄化のためには、汚染された土壌に本発明の菌体を添加すればよい。
【実施例】
【0014】
次に、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
実施例1. 重金属を吸着するキノコのスクリーニング
(1)一次スクリーニング
ポテト・デキストロース液体培地(1L当り、ジャガイモ200g、グルコース20g、pH約6.0〜6.5)を調製し、これにアルミニウム(AlCl3・6H2O)又は亜鉛(ZnCl2)を0.05%又は0.1%加えて培地とし、これにレイシ、カワラタケ、マスタケ、ヒマラヤヒラタケ、ヌメリツバタケモドキ、スエヒロタケ、ザラミノヒトヨタケ、ツキヨタケ、クロアワビタケ、キクラゲ、オオヒラタケ、シイタケ、バイリング、オウギタケ、ナラタケ、カメムシタケ、エリンギ、アガリクス又はクモタケを接種し、24℃にた、菌糸が液体培地の表面一面に広がるまで培養した。
【0015】
キノコの菌糸を培地一面に広がるまで生育させた後、アスピレーターを用いて、菌体と培養液を分離した。培養液は、そのままICP発光分析装置を用いて、金属量を測定した。何も植菌していない培地の金属量をコントロールとし、金属減少率を求めた。
菌体中に取り込まれた亜鉛及びアルミニウムの測定は次のようにして行った。培養液と分離した菌体を、凍結乾燥し、破砕した。その菌体10mgをパイレックス(登録商標)製試験管にとり、硝酸2.5mlと過塩素酸1.0mlを加えて、ヒートブロックを用いて約200℃で30分間熱し、菌体を全て溶かした(湿式灰化法)。その後、ICP発光分析装置を用いてその溶液中に含まれる金属の定量を行い、金属を含む培地中で生育させた菌体中に含まれる金属量を明らかにした。
【0016】
培養の結果、アルミニウムを含む培地では、全てのキノコの菌糸が増殖し、培地中のアルミニウム濃度が減少し、菌糸中にアルミニウムがとり込まれた。これに対し、亜鉛を含む培地ではキノコ菌糸の増殖が抑制される傾向があり、亜鉛を0.1%含む培地では、増殖しないキノコも存在した。この結果、金属を含む環境でよく増殖し、金属を吸収・除去する能力の高いキノコを探すには亜鉛含有培地が適当であることが明らかになった。
【0017】
(2)二次スクリーニング
そこで、亜鉛含有培地中で比較的よく増殖し、亜鉛吸収力の高いキノコとして、レイシ、カメムシタケ、クロアワビタケ、シイタケ、ナラタケ及びスエヒロタケを選択し、亜鉛を0.1%または0.05%添加の培地中で生育させた。その結果が次のとおりであった。培地中の亜鉛の減少を表1に示し、亜鉛の菌体への吸収を表2に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
上の表から明らかなとおり、亜鉛を0.05%含む培地では、6種類すべてのキノコが生育した。しかし、亜鉛を0.1%添加した場合では、レイシ及びカメムシタケのみが生育を示し、菌糸中に亜鉛を取り込んだ。この結果から、亜鉛など金属の存在下でよく増殖し、金属を吸収・除去する高い能力を有するキノコとして、レイシを選択した。
【0021】
実施例2. 各種金属の吸収除去
レイシが、実際AlやZn以外の金属の取り込みを行うかどうかを調べるために、ニッケル(NiCl2・6H2O)、コバルト(CoCl2・6H2O)、マンガン(MnSO4)、鉛(Pb(CH3COO)2・3H2O)、銅(CuCl2・2H2O)をそれぞれ0.05%になるようにポテトデキストロース液体培地に添加した。そこにレイシを植菌し、生育させ、6日後・16日後の培地中からのそれぞれの金属の減少量を調べた。
【0022】
0日目のそれぞれの金属量を100とし、培養日数が経過したときの量を求めた。その結果を図1に示す。この結果、マンガン、コバルト及び鉛の培地中の濃度が低下しており、これらの金属はレイシの菌糸に取り込まれたと思われる。従って、本発明のレイシは、実施例1の一次スクリーニングで確認されたアルミニウム、実施例1の一次スクリーニング及び二次スクリーニングで確認された亜鉛に加えて、少なくとも、コバルト、マンガン及び鉛も吸収・除去する能力を有する。
【0023】
実施例3. Znの取り込みに関与するタンパク質について
(1)実験概要
キノコのスクリーニングを行った結果、レイシにおいてZnの取り込みが多く見られたことから、実際にそのZnの取り込みに関与しているタンパク質の精製を行うことができれば、環境浄化の一助として利用することができるのではないかと考えられるため、精製を行った。
【0024】
(2)方法
2-1 Zn添加・無添加培地で生育された菌体のSuperdex 200 を用いたゲル濾過クロマトグラフィー
Znを添加した培地で生育させたレイシ(Ganoderma lucidum)の菌体と、無添加の培地で生育させた菌体をそれぞれ凍結乾燥した後、乳鉢で破砕した。そのうち20 mgを、20 mM Tris-HCl buffer (pH 7.0) 0.5 ml 中で懸濁し、遠心分離(15000 rpm、20 min、4℃)後、その上清を回収した。このようにして得られた菌体破砕液を、Superdex 200 に供した。試料は0.5 M NaClを含む20 mM Tris-HCl bufferによって溶出を行った。
【0025】
2-2 Znを取り込むタンパク質の精製
Znを添加した培地中で生育させた菌体8gを、凍結乾燥後、乳鉢で破砕し、20 mM Tris-HCl buffer (pH 7.0)中で懸濁した。それを遠心分離(15000 rpm、30 min、4℃)し、その上清を回収した。そこにプロテアーゼ阻害剤(ナカライテクス プロテアーゼ阻害剤カクテル(動物細胞抽出用))を、2%(v/v)になるように添加し、菌体破砕液として得た。次にこの得られた菌体破砕液を、陰イオン交換クロマトグラフィー(DEAE-TOYOPEARL 650M)、ゲル濾過クロマトグラフィー(Sephacryl S-200)の順で精製を行った。
【0026】
陰イオン交換クロマトグラフィー
試料を20 mM Tris-HCl buffer(pH 8.0)で平衡化したDEAE-TOYOPEARL 650M(2.5×18cm、88ml)に負荷し、同緩衝液で洗浄後、0から1.0M の濃度勾配をつけたNaClを含む同緩衝液で溶出を行った。
【0027】
ゲル濾過クロマトグラフィー
陰イオン交換クロマトグラフィーで高いZn取り込みが見られたフラクションを回収し、それをAmicon Ultraを用いて遠心分離(5500 rpm、20 min、4℃)を行い、内液(分子量5000以上)の液量が約3ml になるまで濃縮(20 mM Tris-HCl buffer( pH 7.0) )を用いて、buffer交換した。そのようにして得られた溶液を、0.2 M NaClを含む20 mM Tris-HCl buffer(pH 7.0)で平衡化したSephacryl S-200 (1.8×66cm、168ml)に負荷し、同緩衝液で溶出を行った。
【0028】
2-3 タンパク質の定量法
精製過程におけるタンパク質は、UV-VIS SPECTROPHOTOMETER を用い、280 nm の吸光度を測定した。また、ウシ血清アルブミンを標準タンパク質とし、Bradford法(10)により測定した。
【0029】
2-4 SDS-PAGE
Leammliの方法(11)に従い、分離ゲルを 15%、濃縮ゲルを5%で行った。泳動はゲル1枚あたり20mA で行った。
【0030】
2-5 エレクトロブロッティング法
まずPVDF膜(ゲルの大きさに切断したもの)をメタノールに浸した後ブロッティング溶液中で30分平衡化した。SDS−PAGEの時と同様にしてゲルを作り、サンプルの泳動終了後、濃縮ゲルを切り離した。ブロッティング溶液に浸した濾紙(6×9cm)を3枚ブロッティング装置の陽極板上に気胞が入らないように端からゆっくり置き,その上にPVDF膜,ゲルを同様に重ねた。
【0031】
ゲル上にさらに濾紙を3枚重ね,陰極板を静かに押え,ブロッティング装置に挿入し、通電を行った。ブロッティングは108mA(2 mA/cm2 )で、120分行った。ブロッティングされたPVDF膜を取り出し、CBB(コマジーブリリアントブルー R250)で3分間染色し、50 %メタノールで十分脱色した。脱色後のPVDF膜を乾燥させ、冷凍庫で保管した。その後、目的のバンドの部分だけ切り取り、N-末端アミノ酸配列の解析をプロテインシーケンサーにより行った。
【0032】
(3)結果
3-1 Znを添加あるいは無添加で生育させた菌体から調製したサンプルを用いてのゲルろ過クロマトグラフィー
Znを添加した培地と無添加の培地でそれぞれ生育させたレイシの菌体20 mg から得られた菌体破砕液を用いて、ゲル濾過クロマトグラフィー(Superdex 200)を行った結果、Znの添加・無添加どちらの場合も、40から60フラクションあたりにかけて、タンパク質のピークが見られた。
【0033】
また、添加・無添加どちらの場合も、タンパク質のピークが見られるそれぞれのフラクションをICP発光分析装置によってZnの定量を行ったところ、Znを添加した培地で生育させた菌体の方では、タンパク質のピークの部分にZnのピークも見られた。このことから、Znを取り込むタンパク質の存在を確認した。図2に、Superdex 200によるゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す。
【0034】
3-2 Znの取り込みに関与するタンパク質の精製
上記3-1で、Znの取り込みに関与するタンパク質の存在を確認できたことから、Znを取り込むタンパク質の精製を行った。得られた菌体破砕液をDEAE-TOYOPEARL 650Mを用いて陰イオン交換クロマトグラフィーを行った結果、Znのピークが42から48のフラクションに見られた(図3)。そこで、そのフラクションを回収し、遠心分離後Sephacryl S-200によるゲル濾過クロマトグラフィーを行った結果、55から58のフラクションにZnのピークが見られた(図4)。それぞれの精製過程における、全タンパク質と全亜鉛を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
3-3 SDS-PAGE
DEAE-TOYOPEARL 650M 後、Znのピークが見られたフラクション44・45を、凍結乾燥し、濃縮してからSDS-PAGEを行った(図5)。凍結乾燥後、懸濁する際に、水を使って懸濁したものと、EDTAを用いて懸濁しZnをタンパク質から取り外した状態のものと用意し、それぞれを比較した。その結果、どちらも複数のバンドが見られ、それらは、68.3、60.0、41.0、31.8、26.1、12.9 kDa 付近であった。水を使って懸濁したものと、EDTAを用いて懸濁したものを比較すると、EDTAを用いたものの方がバンドは明確に見られた。
【0037】
また、Sephacryl S-200 を行った後、Znのピークが見られたフラクション55から58を200μl を凍結乾燥した後、20μl のEDTAで懸濁し、Sample bufferを加えて、SDS-PAGEを行った(図6)。その結果、かなり高分子のバンドと、67.2、60.9 kDa 付近のバンド、さらに、かなり低分子側に流れきったバンドが見られた。
これらの結果から、おそらく約68 kDa,60 kDa 付近のバンドが、Znの取り込みに、何らかの関与をしていると考えられる。
【0038】
3-4 Znの取り込みに関与していると考えられるタンパク質のN-末端アミノ酸配列
DEAE TOYOPEARL 650Mを行った結果(図5)より、約41.0 kDa付近と26.1 kDa付近に見られるバンドのエレクトロブロッティングを行い、そのN-末端アミノ酸配列の解析を行った。その結果を表4に示した。41.0 kDa付近のN末端アミノ酸配列は、SNTLAIGXTであり、そのうちのSNTLAIの部分が、アルコールデヒドロゲナーゼと相同を示した。しかし、このアルコールデヒドロゲナーゼ(Burkholderia cenocepacia AU 1054)はN末端アミノ酸配列ではないので、必ずしも類似するとは限らない。また、26.1 kDa付近に関しては特に相同を示すものは無かった。
【0039】
【表4】

(4)考察
Zn添加・無添加それぞれの培地において生育させた菌体をSuperdex 200によるゲル濾過を行った結果より、レイシ中にZnが取り込まれていることが確認された。また、DEAE-TOYOPEARL 650M・Sephacryl S-200という精製過程を通しても、A280のピークの部分にZn濃度のピークが見られることから、何らかのタンパク質がZnの取り込みに関与しているということが考えられる。
【0040】
また、それぞれの精製過程で行ったSDS-PAGEの結果より、67.2 kDa付近または、60.9 kDa付近のタンパク質が関与している可能性が高いと考えられる。これまでに金属を取り込むことでよく知られているメタロチオネインやファイトケラチンは、それぞれ約7kDa位であると言われている。今回の電気泳動の結果より、67.2 kDa付近のバンドと、60.9 kDa付近のバンド、両方ともが既知の金属を取り込むことで知られているタンパク質とは異なるタンパク質と考えられる。
【0041】
実施例4. レイシにおけるZn取り込み機構について
(1)実験概要
これまで述べてきたように、レイシはZnの高い取り込み能を示すことが分かっている。そこで、実際どのようにZnが取り込まれるかということを解明するために、Znを添加した培地中でレイシを生育した際の性質を調べることを目的にした。
【0042】
(2)方法
2-1 Zn添加培地におけるZn濃度の変化
ZnCl2を0.1%添加した培地中にレイシを植菌し、植菌後0、5、9、11及び19日目の培地中のZn量をICP発光分析装置によって測定し、0日目を100として、相対量を求めた。
2-2 Zn添加培地におけるpHの変化
上記2-1で、Znの量を測定した日に、pHの測定を同時に行った。
【0043】
2-3 培養液中に含まれる有機酸の確認
培地中のpHは、培養日数が経つにつれて低下していくことから、培地中に何らかの酸の蓄積があると考えられるため、その確認を行った。これまでに、木材腐朽菌を生育させたときに培地中に蓄積が見られることが報告されている、ギ酸・酢酸・シュウ酸・コハク酸・フマル酸・リンゴ酸・クエン酸・イソクエン酸をそれぞれ作り、HPLC(Shodex(RS pac KC 811)、1 mM 過塩素酸、1ml/min、電気伝導度計)によって比較を行った。
また、ディテンションタイムから、その酸を推定し、F-kit シュウ酸((株)J.K.インターナショナル)を用いて、シュウ酸であることの断定、またその濃度の測定を行った。
【0044】
(3)結果
3-1 Zn添加培地中における培養液中のZn濃度の変化とpHの変化
Znを添加した培地中でのZn濃度とpHの変化について表10に示した。培養日数が経つにつれて、Znの濃度は低下していき、19日後では、約90%以上のZnが培地中から減少した。また、このとき培地中のpHも低下しており、0日目から19日目で、6.18から4.25になった。結果を、下記の表5に示す。
【0045】
【表5】

【0046】
3-2 培養液中に蓄積した酸
上記3-1より、培地中には何らかの酸が蓄積されていることが分かった。そこで、木材腐朽菌を生育させたときに培地中に蓄積したと言われているギ酸・酢酸・シュウ酸・コハク酸・フマル酸・リンゴ酸・クエン酸・イソクエン酸と培地中の酸とを、HPLCによって比較した。その結果、培地中の酸のディテンションタイムが約5.56分であり、シュウ酸が5.65分付近と一番近かった。そこで、次に本当にこれがシュウ酸であるかどうかを確かめるために、F-kit シュウ酸((株)J.K.インターナショナル)を用いて実験を行った。このキットの仕組みは、下記の表6のとおりである。
【0047】
【表6】

【0048】
である。培地中の酸がシュウ酸でなければ、(1)の反応が起こらないため、最終的に生成するNADHの量を340 nm の波長で測定しても、ブランクと変わらない結果となる。実際、レイシを生育させたときの培地を用いて反応させたところ、活性が見られたことから、培地中に蓄積された酸がシュウ酸であると断定した。また、このキットを用いて0、9、及び19日目のシュウ酸蓄積濃度を求めた。その結果を表7に示した。
【0049】
【表7】

【0050】
表7より、シュウ酸は培養日数が経つにつれて培地中に蓄積されていることが分かった。上記3-1と3-2の結果をまとめると図7に示すとおりである。
【0051】
(4)考察
Znを添加した培地中でレイシを生育させたとき、培養日数が経つにつれて、Znの量が減少することがわかった。またZnの減少に伴って、培地のpHも低下し、このとき培地中にはシュウ酸が蓄積していることが分かった。これらの結果より、シュウ酸がZnをキレートしシュウ酸亜鉛にすることで、Znが無毒化されていると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、レイシの菌体による各種金属の取り込みを示すグラフである。
【図2】図2は、金属を添加しない培地又は亜鉛を添加した培地で培養したレイシの菌体抽出物のSuperdex 200によるゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示すチャートである。
【図3】図3は、亜鉛を添加した培地で培養したレイシの菌体破砕物をDEAE-TOYOPEARL 650Mを用いる陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した結果を示すチャートである。
【0053】
【図4】図4は、図3におけるフラクション42〜48を、Sephacryl S-200お用いるゲル濾過クロマトグラフィーにより更に分画した結果を示すチャートである。
【図5】図5は、図3に示すDEAE-TOYOPEARL 650Mを用いる陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画したフラクション44〜45をSDS-PAGEで分析した結果を示す電気泳動図である。
【0054】
【図6】図6は、図4に示すSephacryl S-200お用いるゲル濾過クロマトグラフィーにより更に分画したフラクション55〜58をSDS-PAGEで分析した結果を示す電気泳動図である。
【図7】図7は、レイシによる亜鉛の取り込みの過程における、培地中の亜鉛及びシュウ酸の量並びに培地のpHの経時的変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有物にレイシ(Ganoderma lucidum)の菌体を作用させることを特徴とする、金属の除去方法。
【請求項2】
金属含有物を含む培地においてレイシ(Ganoderma lucidum)を培養することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
レイシ(Ganoderma lucidum)の培養菌体と金属含有物とを接触せしめることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属含有物が、金属に汚染された土壌又は金属を含む廃液である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記金属が、亜鉛、アルミニウム、マンガン、コバルト又は鉛である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
レイシ(Ganoderma lucidum)の培養菌体を含んで成る金属除去剤。
【請求項7】
前記金属が、亜鉛、アルミニウム、マンガン、コバルト又は鉛である、請求項6に記載の金属除去剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−183473(P2008−183473A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16745(P2007−16745)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】