説明

レジオネラ属菌の繁殖抑制方法

【課題】 循環水におけるレジオネラ属菌の繁殖を効果的に抑制する。
【解決手段】 冷却水循環システム1において、冷却塔2と冷却負荷装置4との間に循環経路5が設けられており、循環経路5において冷却負荷装置4を冷却するための冷却水が循環している。この冷却水は、原水供給路30からの原水を軟水器31により軟水化したものであり、ファン24の駆動によりルーバ22から冷却塔2内へ流入する外気と共に一部が開口部21から外部に飛散する。このような冷却水の飛散量は、ファン24の回転速度をインバータ25により制御すると抑制されるため、冷却水は、Mアルカリ成分濃度が上昇する。そして、このようなMアルカリ成分濃度の上昇に伴い、冷却水はアルカリ性を呈し、pHが9.0以上に維持される。この結果、循環中の冷却水において、レジオネラ属菌の繁殖が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジオネラ属菌の繁殖抑制方法、特に、循環水においてレジオネラ属菌が繁殖するのを抑制するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レジオネラ属菌は、土壌や淡水から普通に検出される菌類であり、微量であれば人体に感染する可能性は低いものと認識されている。ところが、商業ビルにおいて冷却塔(クーリングタワー)により冷却される冷却水や、いわゆる24時間風呂において浴槽とヒータとの間を循環する浴槽水などの循環水においては、配管等に付着した藻類の代謝産物等を栄養源とし、また、アメーバ等の原生動物に寄生して、レジオネラ属菌が繁殖する。冷却水中で繁殖したレジオネラ属菌は、冷却塔において冷却水がエアロゾルとなって大気中に飛散するため、結果的に冷却水と共に大気中に飛散し、呼吸を通じて人に感染するおそれがある。また、浴槽水において繁殖したレジオネラ属菌は、湯気の吸引や浴槽水の誤飲により、人に感染するおそれがある。人に感染したレジオネラ属菌は、致死率の高いレジオネラ症を発症させる可能性がある。
【0003】
このため、非特許文献1は、人がエアロゾルを直接吸引する可能性が低い冷却水のような循環水について、レジオネラ属菌が10CFU/100ミリリットル以上検出された場合において、その循環系の清掃、消毒を推奨している。一方、浴槽水のような人がエアロゾルを直接吸引する可能性が高い循環水について、レジオネラ属菌が10CFU/100ミリリットル以上検出された場合において、その循環系の清掃、消毒を推奨している。また、いずれの場合においても、清掃、消毒等の対策実施後は、循環水におけるレジオネラ属菌の検出数が10CFU/100ミリリットル未満に維持されるよう推奨している。
【0004】
ところで、循環水においてレジオネラ属菌が繁殖するのを抑制するための方法として、一般に、循環水に次亜塩素酸等の塩素剤を添加する方法が知られている(非特許文献1)。この方法は、大腸菌群等の細菌類に対しては顕著な殺菌効果を発揮するが、レジオネラ属菌に対しては効果が小さい。これは、塩素剤の浸透しにくい生物皮膜やアメーバ中にレジオネラ属菌が存在し、レジオネラ属菌が塩素剤の影響を受けにくいためと理解されている。特に、シスト化状態のアメーバ中に存在するレジオネラ属菌は、塩素濃度が50mg/リットルの環境においても耐性を示し、容易に死滅しないと言われている。
【0005】
【非特許文献1】厚生省生活衛生局企画課監修;財団法人ビル管理教育センター発行「新版 レジオネラ症防止指針(平成15年5月 5刷発行)」
【0006】
本発明の目的は、循環水におけるレジオネラ属菌の繁殖を効果的に抑制することにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るレジオネラ属菌の繁殖抑制方法は、循環水においてレジオネラ属菌が繁殖するのを抑制するための方法であり、循環水として軟水を用い、当該軟水の濃縮により循環水のpHを9.0以上に維持する工程を含んでいる。
【0008】
本発明の他の観点に係るレジオネラ属菌の繁殖抑制方法は、同じく、循環水においてレジオネラ属菌が繁殖するのを抑制するための方法であり、循環水として軟水を用い、かつ、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の炭酸塩およびアルカリ金属の水酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一つのアルカリ金属化合物を循環水へ添加することにより循環水のpHを9.0以上に維持する工程を含んでいる。
【0009】
本発明のさらに他の観点に係るレジオネラ属菌の繁殖抑制方法は、同じく、循環水においてレジオネラ属菌が繁殖するのを抑制するための方法であり、循環水として軟水を用い、かつ、循環水を電解処理することにより循環水のpHを9.0以上に維持する工程を含んでいる。
【0010】
本発明の方法を適用可能な循環水は、例えば、冷却塔と冷却負荷装置との間を循環する冷却水である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るレジオネラ属菌の繁殖抑制方法は、循環水のpHを9.0以上に維持しているため、循環水におけるレジオネラ属菌の繁殖を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
第一の形態
図1を参照して、本発明に係るレジオネラ属菌の繁殖抑制方法の第一の形態を適用可能な冷却水循環システムを説明する。図1において、冷却水循環システム1は、冷却塔2、給水装置3、冷却負荷装置4および循環経路5を主に備えている。
【0013】
冷却塔2は、上部に開口部21を有する円筒型の本体20を備えている。本体20は、外気を導入するためのルーバ22が側面に設けられており、また、冷却水を貯留するための貯留部23を底部に有している。本体20の開口部21には、ファン24が水平に配置されている。ファン24は、ルーバ22から本体20内へ外気が流入するよう回転可能なものであり、モータ(図示せず)により回転駆動される。ファン24を回転駆動するモータは、インバータ25に接続されている。インバータ25は、モータへ供給する電源周波数を無段階的に変えてモータの回転速度を変速し、ファン24の回転速度を調節するためのものである。また、インバータ25は、その動作を制御するための制御装置26に接続されている。
【0014】
給水装置3は、冷却塔2に対し、冷却水として使用される水を供給するためのものであり、原水供給路30、軟水器31、給水経路32を主に備えている。原水供給路30は、一端が水道水や工業用水等の原水の供給源(図示せず)に接続されており、軟水器31に対して原水を供給するためのものである。この原水供給路30は、軟水器31に対する原水の供給量を制御するためのバルブ33を有している。軟水器31は、原水供給路30からの原水を軟水化するためのものである。具体的には、原水供給路30からの原水に含まれるカルシウムやマグネシウムなどの硬度分を除去し、原水を軟水へ変換するためのものである。給水経路32は、軟水器31からの軟水を冷却塔2の貯留部23へ供給するためのものである。
【0015】
冷却負荷装置4は、冷却水による冷却が必要な各種装置、例えば、各種の化学プラントのターボ冷凍機や吸収冷凍機、建築物の空調用冷凍機、食品工場の冷水製造機や真空冷却機などであり、所要の冷却水流路(図示せず)を有している。そして、冷却水流路は、冷却水導入部40と冷却水排出部41とを有している。
【0016】
循環経路5は、冷却負荷装置4に対して冷却水を供給するための供給経路50と、冷却負荷装置4に対して供給された冷却水を回収するための回収経路51とを主に備えている。供給経路50は、冷却塔2の貯留部23から延びており、冷却負荷装置4の冷却水導入部40に連絡している。また、供給経路50は、冷却塔2側から順にpHセンサ52と第一ポンプ53とを有している。pHセンサ52は、供給経路50を通じて冷却負荷装置4へ供給される冷却水のpHを測定するためのものであり、制御装置26に接続されている。また、第一ポンプ53は、冷却塔2の貯留部23に貯留された軟水を冷却負荷装置4へ連続的に送り出すためのものである。
【0017】
一方、回収経路51は、一端が冷却負荷装置4の冷却水排出部41に接続されており、他端側が冷却塔2の本体20内の上部であって、ファン24の下方に水平に延びるように配置されている。本体20内に配置された回収経路51の上記他端側には、本体20の底部へ向けて冷却負荷装置4からの冷却水を噴出するための多数のノズル(図示せず)を有している。
【0018】
次に、上述の冷却水循環システム1の基本的動作を説明する。
冷却水循環システム1において、冷却塔2に対し、給水装置3から水が供給される。ここでは、原水供給路30から軟水器31に対して原水が供給され、この原水は軟水器31において硬度分が除去されて軟水になる。この軟水は、軟水器31から給水経路32を通じ、冷却塔2の貯留部23に貯留される。
【0019】
貯留部23に貯留された軟水は、冷却水として冷却負荷装置4に対して供給される。ここでは、第一ポンプ53の作動により貯留部23の軟水(以下、「冷却水」という)が供給経路50を通じて冷却負荷装置4の冷却水導入部40に対して連続的に供給される。冷却水導入部40に対して供給された冷却水は、冷却負荷装置4の冷却水流路を通過して冷却負荷装置4を冷却し、冷却水排出部41から回収経路51へ排出される。
【0020】
回収経路51へ排出された冷却水は、冷却塔2の本体20内においてノズルから噴出し、図に点線で示すように本体20内で落下して貯留部23へ戻る。この際、本体20内で落下する冷却水は、ファン24の回転により図に矢印で示すようにルーバ22を通じて本体20内へ外気が流入するため、この外気に触れて冷却される。このように冷却されて貯留部23へ戻った冷却水は、再び供給経路50を通じて冷却負荷装置4へ供給され、回収経路51を通じて貯留部23へ戻る。したがって、貯留部23に貯留された冷却水は、冷却水循環システム1の作動中、循環経路5を通じて冷却塔2と冷却負荷装置4との間を循環する循環水になる。
【0021】
次に、上述の冷却水循環システム1におけるレジオネラ属菌の繁殖抑制方法を説明する。
ここでは、先ず、バルブ33を操作し、原水供給路30から軟水器31への原水の供給を遮断する。これにより、貯留部23に対する軟水の供給が遮断され、冷却塔2と冷却負荷装置4との間では、冷却塔2の貯留部23に貯留された冷却水のみが循環することになる。
【0022】
貯留部23に貯留された冷却水は、上述のように循環経路5を循環するが、回収経路51のノズルから噴出されて貯留部23へ落下する際、ルーバ22から本体20内へ流入する外気と共に一部が開口部21から本体20外へ蒸発する。この結果、循環経路5を循環する冷却水は、徐々に濃縮され、そのMアルカリ成分濃度が上昇する。そして、このようなMアルカリ成分濃度の上昇に伴い、冷却水のpHはアルカリ側へ変化する。この実施の形態では、このような冷却水の濃縮に伴うpHの変化を利用し、冷却水のpHを9.0以上、好ましくは9.2以上に維持する。
【0023】
以上のようにして冷却水のpHを9.0以上若しくは9.2以上に維持すると、循環経路5を循環する冷却水において、レジオネラ属菌の繁殖が抑制され、冷却水中のレジオネラ属菌数は、厚生省生活衛生局企画課監修;財団法人ビル管理教育センター発行「新版 レジオネラ症防止指針(平成15年5月 5刷発行)」(上述の非特許文献1)において推奨されている10CFU/100ミリリットル未満に維持するのが容易になる。
【0024】
ところで、この実施の形態においては、ファン24の回転により流入する外気と共に、本体20の開口部21から蒸発する冷却水に随伴して微細水滴の冷却水が大気中へ飛散する。したがって、冷却水の飛散量は、ファン24の回転速度が高速になるほど多くなる。飛散した冷却水は、Mアルカリ成分を含むため、冷却水の飛散量が多いとMアルカリ成分が失われ、結果的に循環している冷却水のMアルカリ成分濃度が一定以上に上昇しにくくなり、冷却水のpHが9.0以上若しくは9.2以上に維持されにくくなる。そこで、この実施の形態では、循環中の冷却水のpHをpHセンサ52により常時測定し、その測定結果に基づいてファン24の回転速度を制御するのが好ましい。より具体的には、pHセンサ52での測定結果に基づいて制御装置26によりインバータ25を制御し、冷却水を冷却するのに十分な範囲でファン24の回転速度が低速になるよう調節するのが好ましい。このようにすると、冷却水の飛散が抑制され、Mアルカリ成分濃度を基準とする冷却水の濃縮倍率を高めやすくなるため、循環経路5を循環する冷却水のpHを9.0以上若しくは9.2以上に維持しやすくなる。
【0025】
上述のように、この形態に係るレジオネラ属菌の繁殖抑制方法は、循環する冷却水のpHを9.0以上若しくは9.2以上に維持しやすくなり、これによりレジオネラ属菌の繁殖を効果的に抑制することができるが、冷却水が軟水であるため、冷却塔2におけるスケールの生成を併せて効果的に抑制することができる。
【0026】
第二の形態
図2を参照して、本発明に係るレジオネラ属菌の繁殖抑制方法の第二の形態を適用可能な冷却水循環システムを説明する。図2において、冷却水循環システム100は、インバータ25に代えて薬剤供給装置110を備えている点を除き、上述の第一の形態に係る冷却水循環システム1と概ね同様に構成されている。したがって、図2において、図1と同じ部位には同じ符号を付している。
【0027】
薬剤供給装置110は、薬剤貯留部111と薬剤供給路112とを主に備えている。薬剤貯留部111は、循環経路5を循環する冷却水のpHをアルカリ性に調整するための薬剤を貯留するものである。薬剤貯留部111に貯留される薬剤は、通常、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の炭酸塩およびアルカリ金属の水酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一つのアルカリ金属化合物である。アルカリ金属の炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムを挙げることができる。また、アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムを挙げることができる。さらに、アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを挙げることができる。
【0028】
薬剤供給路112は、薬剤貯留部111に貯留された薬剤を冷却塔2の貯留部23内へ供給するためのものであり、薬剤を供給するための第二ポンプ113を有している。この第二ポンプ113は、制御装置26に接続されている。制御装置26は、pHセンサ52からの情報に基づいて、第二ポンプ113を制御する。
【0029】
この冷却水循環システム100は、上述の第一の形態を実施するための冷却水循環システム1と基本的動作は同じであるが、レジオネラ属菌の繁殖抑制方法を次のように実施する。
【0030】
先ず、バルブ33を操作し、原水供給路30から軟水器31への原水の供給を遮断する。これにより、貯留部23に対する軟水の供給が遮断され、冷却塔2と冷却負荷装置4との間では、冷却塔2の貯留部23に貯留された冷却水のみが循環する。この際、循環中の冷却水は、pHセンサ52によりpHが常時測定され、その情報が制御装置26へ伝達される。制御装置26は、pHセンサ52からの情報に基づいて、循環中の冷却水のpHが9.0以上、好ましくは9.2以上に維持されるよう第二ポンプ113を作動させ、薬剤供給路112を通じて薬剤貯留部111から本体20の貯留部23へ薬剤を適宜供給する。これにより、循環経路5を循環中の冷却水は、pHが9.0以上若しくは9.2以上に維持される。
【0031】
以上のようにして冷却水のpHを9.0以上若しくは9.2以上に維持すると、循環経路5を循環する冷却水において、レジオネラ属菌の繁殖が抑制され、冷却水中のレジオネラ属菌数は、上述の推奨値である10CFU/100ミリリットル未満に容易に維持され得る。
【0032】
上述のように、この形態に係るレジオネラ属菌の繁殖抑制方法は、循環する冷却水のpHを薬剤により9.0以上若しくは9.2以上に維持しているため、レジオネラ属菌の繁殖を効果的に抑制することができるが、冷却水が軟水であるため、冷却塔2におけるスケールの生成を併せて効果的に抑制することができる。
【0033】
上述の説明では軟水器31への原水の供給を遮断しているが、この実施の形態では、原水供給路30から軟水器31に対して連続的に原水を供給し、貯留部23に対して連続的に軟水を供給することもできる。但し、この場合、バルブ33の操作により貯留部23への軟水の供給量を制御し、循環経路5を循環中の冷却水のpHが上述の範囲に維持されるよう調節する必要がある。
【0034】
第三の形態
図3を参照して、本発明に係るレジオネラ属菌の繁殖抑制方法の第三の形態を適用可能な冷却水循環システムを説明する。図3において、冷却水循環システム200は、インバータ25に代えて電気分解装置210を備えている点を除き、上述の第一の形態に係る冷却水循環システム1と概ね同様に構成されている。したがって、図3において、図1と同じ部位には同じ符号を付している。
【0035】
電気分解装置210は、電解槽211と電源212とを主に備えている。電解槽211内には、冷却水を電解するための一対の電極213が配置されており、この一対の電極213間に隔膜214が設けられることにより、陰極室211aと陽極室211bとが形成されている。電解槽211には、冷却塔2の貯留部23内から冷却水の一部を取り出すための冷却水採取路215が接続されており、陰極室211aおよび陽極室211bのそれぞれへ冷却水を供給できるようになっている。陰極室211aには、冷却水の電解により生成したアルカリ性電解水を冷却塔2の貯留部23内へ供給するための電解水供給路216が接続されており、陽極室211bには、同じく冷却水の電解により生成した酸性電解水を系外へ排出するための電解水排出路217が接続されている。また、電源212は、一対の電極213間に冷却水の電解に必要な電圧を印加するためのものであり、制御装置26に接続されている。制御装置26は、pHセンサ52からの情報に基づいて、電源212を制御する。
【0036】
この冷却水循環システム200は、上述の第一の形態を実施するための冷却水循環システム1と基本的動作は同じであるが、レジオネラ属菌の繁殖抑制方法を次のように実施する。
【0037】
先ず、バルブ33を操作し、原水供給路30から軟水器31への原水の供給を遮断する。これにより、貯留部23に対する軟水の供給が遮断され、冷却塔2と冷却負荷装置4との間では、冷却塔2の貯留部23に貯留された冷却水のみが循環する。同時に、冷却水採取路215を通じて、冷却塔2の貯留部23から冷却水の一部を電解槽211内へ供給する。この際、循環中の冷却水は、pHセンサ52によりpHが常時測定され、その情報が制御装置26へ伝達される。制御装置26は、pHセンサ52からの情報に基づいて電源212を作動させる。この結果、貯留部23の冷却水は、一対の電極211間に印加される電圧により適宜電解処理され、陰極室211aでアルカリ性電解水が生成されると共に、陽極室211bで酸性電解水が生成される。そして、アルカリ性電解水を電解水供給路216を通じて冷却塔2の貯留部23へ供給しながら、酸性電解水を電解水排出路217を通じて系外へ排出する。したがって、pHセンサ52からの情報に基づいて、循環中の冷却水のpHが9.0以上、好ましくは9.2以上になるよう制御装置26により電源212を作動させれば、循環経路5を循環中の冷却水は、pHが9.0以上若しくは9.2以上に維持される。
【0038】
以上のようにして冷却水のpHを9.0以上若しくは9.2以上に維持すると、循環経路5を循環する冷却水において、レジオネラ属菌の繁殖が抑制され、冷却水中のレジオネラ属菌数は、上述の推奨値である10CFU/100ミリリットル未満に容易に維持され得る。
【0039】
上述のように、この形態に係るレジオネラ属菌の繁殖抑制方法は、循環する冷却水のpHを電解処理により9.0以上若しくは9.2以上に維持しているため、レジオネラ属菌の繁殖を効果的に抑制することができるが、冷却水が軟水であるため、冷却塔2におけるスケールの生成を併せて効果的に抑制することができる。
【0040】
上述の説明では軟水器31への原水の供給を遮断したが、この実施の形態では、原水供給路30から軟水器31に対して連続的に原水を供給し、貯留部23に対して連続的に軟水を供給することもできる。但し、この場合、バルブ33の操作により貯留部23への軟水の供給量を制御し、循環経路5を循環中の冷却水のpHが上述の範囲に維持されるよう調節する必要がある。
【0041】
この実施の形態では、冷却水採取路215および電解水供給路216のそれぞれを冷却塔2の貯留部23と接続したが、これらを循環経路5と接続した場合も本実施の形態を同様に実施することができる。
【0042】
その他の形態
(1)上述の各実施の形態は、開放式冷却塔を用いた冷却水循環システムにおいて本発明の繁殖抑制方法を適用した場合について説明したが、本発明の繁殖抑制方法は、密閉式冷却塔を用いた冷却水循環システムにおいても同様に実施することができる。
【0043】
(2)上述の第一の形態、第二の形態および第三の形態は、二つの形態を任意に組合せることができ、また、三つの形態の全てを組合せることもできる。例えば、第一の形態と第二の形態とを組合せた場合は冷却水の濃縮と冷却水に対する薬剤の供給との併用により、また、第一の形態と第三の形態とを組合せた場合は冷却水の濃縮と冷却水の電解との併用により、循環中の冷却水のpHを上述の範囲により安定に維持することができる。
【0044】
(3)上述の各実施の形態においては、本発明の繁殖抑制方法を冷却水循環システムの循環冷却水において適用した場合を例に説明したが、本発明の繁殖抑制方法は、24時間風呂の循環水、温泉の循環水などの各種の循環水に対しても同様に適用することができる。
【実施例】
【0045】
比較例
pHを7に調整した軟水にレジオネラ属菌を3,200個接種し、36℃で3日間放置した。そして、接種時、2日経過時および3日経過時の各時点において、この軟水0.1ミリリットルをシステイン含有BCYEα寒天培地に塗布して36℃で7日間培養し、レジオネラ属菌数を調べた。レジオネラ属菌数は、培地に形成された集落数に基づいて調べた。結果を表1に示す。
【0046】
実施例1
軟水のpHを9に調整した点を除いて比較例と同様に操作し、レジオネラ属菌数を調べた。結果を表1に示す。
【0047】
実施例2
軟水のpHを10に調整した点を除いて比較例と同様に操作し、レジオネラ属菌数を調べた。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1によると、比較例の場合はレジオネラ属菌数が接種時に比べて増加しているが、実施例1および実施例2の場合は接種時に比べてレジオネラ属菌数が減少していることがわかる。この結果より、軟水のpHを9.0以上に維持すれば、レジオネラ属菌の繁殖を効果的に抑制可能なことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第一の実施の形態を適用可能な冷却水循環システムの概略図。
【図2】本発明の第二の実施の形態を適用可能な冷却水循環システムの概略図。
【図3】本発明の第三の実施の形態を適用可能な冷却水循環システムの概略図。
【符号の説明】
【0051】
2 冷却塔
4 冷却負荷装置
5 循環経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環水においてレジオネラ属菌が繁殖するのを抑制するための方法であって、
前記循環水として軟水を用い、その濃縮により前記循環水のpHを9.0以上に維持する工程を含む、
レジオネラ属菌の繁殖抑制方法。
【請求項2】
循環水においてレジオネラ属菌が繁殖するのを抑制するための方法であって、
前記循環水として軟水を用い、かつ、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の炭酸塩およびアルカリ金属の水酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一つのアルカリ金属化合物を前記循環水へ添加することにより前記循環水のpHを9.0以上に維持する工程を含む、
レジオネラ属菌の繁殖抑制方法。
【請求項3】
循環水においてレジオネラ属菌が繁殖するのを抑制するための方法であって、
前記循環水として軟水を用い、かつ、前記循環水を電解処理することにより前記循環水のpHを9.0以上に維持する工程を含む、
レジオネラ属菌の繁殖抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−175298(P2006−175298A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368283(P2004−368283)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】